説明

車輪用軸受装置

【課題】環境にやさしい加工が可能であって、しかも低コスト化を図ることが可能で、安定したトルク伝達機能を発揮することができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】対向するアウタレース26,27とインナレース28、29との間に配置された複数列の転動体を有する軸受2と、車輪に取付けられるハブ輪1と、等速自在継手3とを備え車輪用軸受装置である。少なくともアウタレース26,27が焼入れ後に総形工具54による切削を行う焼入鋼切削してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置には、第1世代と称される複列の転がり軸受を単独に使用する構造から、外方部材に車体取付フランジを一体に有する第2世代に進化し、さらに、車輪取付フランジを一体に有するハブ輪の外周に複列の転がり軸受の一方に内側転走面が一体に形成された第3世代、さらには、ハブ輪に等速自在継手が一体化され、この等速自在継手を構成する外側継手部材の外周に複列の転がり軸受の他方の内側転走面が一体に形成された第4世代のものまで開発されている。
【0003】
第3世代と呼ばれる車輪用軸受装置(例えば、特許文献1)は、図7に示すように、外径方向に延びるフランジ101を有するハブ輪102と、ハブ輪102の外周側に配設される軸受構造100とを備える。
【0004】
ハブ輪102は、その外周面にアウトボード側の軌道面(インナレース)103が形成され、フランジ101の円周方向等間隔に、ホイールを固定するためのハブボルト105が植設されている。また、ハブ輪102のインボード側に形成された小径段部106に軸受構造100の内輪107を嵌合させ、この内輪107の外周面にインボード側の軌道面(インナレース)108が形成されている。内輪107は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入され、脱落防止のため、ハブ輪102の小径段部106の端部を直径方向外側に加締めることによりハブ輪102に固定されている。
【0005】
このようにして、車両のアウトボード側に位置する軌道面103とインボード側に位置する軌道面108とで複列の軌道面を構成する。ここで、アウトボード側とは、車輪用軸受装置を車体に取付けた状態で、車体の外部になる側をいい、インボード側とは、車体の内部になる側をいう。
【0006】
軸受構造100の外輪110は、内周面にハブ輪102および内輪107の軌道面103,108と対向する複列の軌道面(アウタレース)111,112が形成され、車体に取付けるためのフランジ(図示省略)を備えている。ハブ輪102および内輪107の軌道面103,108と外輪110の複列の軌道面111,112との間に複列の転動体109が組み込まれている。
【0007】
この車輪用軸受装置では、転動疲労寿命や強度の向上を図るため、外輪110の軌道面111,112を高周波焼入れ焼戻しにより硬化させる。つまり、機械構造用炭素鋼(S40C〜S70C等)から鍛造により製作された外輪110を、その外側形状が最終形状となるように旋削加工により仕上げ、その後、最終仕上げ形状の外輪110を高周波焼入れ焼戻しすることにより、その軌道面111,112に硬化層115,116を形成する。そして、この外輪110は、前記した高周波焼入れ後にその軌道面111,112の研削仕上げが行われる。
【0008】
また、ハブ輪102のシール部材Sのシール面からアウトボード側の軌道面103および小径段部106に至る領域についても高周波焼入れにより硬化させてその領域に硬化層117を形成している。この硬化層117の形成により、車輪用軸受装置の転動疲労寿命や強度の向上を図るようにしている。このハブ輪102についても、高周波焼入れ後にその軌道面103等の研削仕上げが行われる。
【特許文献1】特開2005−325903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、研削加工においては、環境上好ましくない研削クーラントを使用する必要があった。研削加工には、加工単位が小さく、加工に時間が掛かって効率が悪いという欠点、温度上昇にムラがあり、残留応力による変形を予想しづらい等の欠点がある。
【0010】
また、研削加工によって、ツールマーク(削り痕)が形成される。軌道面にツールマークがあれば、転動体がなめらかに転動できず、安定したトルク伝達機能を発揮することができない。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、環境にやさしい加工が可能であって、しかも低コスト化を図ることが可能で、安定したトルク伝達機能を発揮することができる車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の車輪用軸受装置は、対向するアウタレースとインナレースとの間に配置された複数列の転動体を有する軸受と、車輪に取付けられるハブ輪とを備え車輪用軸受装置であって、少なくともアウタレースが焼入れ後に総形工具による切削を行う焼入鋼切削してなるものである。
【0013】
本発明の第2の車輪用軸受装置は、対向するアウタレースとインナレースとの間に配置された複数列の転動体を有する軸受と、車輪に取付けられるハブ輪とを備えた車輪用軸受装置であって、少なくともインナレースが焼入れ後に総形工具による切削を行う焼入鋼切削してなるものである。
【0014】
焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。また、総形工具とは、ある形状の輪郭をもった工具であって、工作物をその輪郭と同じ形状に切削加工(総形削り)することができる。このため、このような総形工具による焼入鋼切削を行えば、アウタレースやインナレースにツールマーク(削り跡)を生じさせない。
【0015】
前記第1及び第2の車輪用軸受装置において、ハブ輪の外径面の少なくともシールランド及びインナレースが焼入れ後に、総形工具による切削を行う焼入鋼切削してなるものであってもよい。このような総形工具による焼入鋼切削を行えば、シールランド及びインナレースにツールマーク(削り跡)を生じさせない。
【0016】
前記第1及び第2の車輪用軸受装置においては、軸受は、内径面に複列のアウタレースを有する外方部材と、外径面にインナレースを有する一対の内輪にて構成される内方部材とを備えたもの(第1世代や第2世代のもの)であっても、ハブ輪の外径面にアウトボード側のインナレースが形成されるとともに、ハブ輪の外径面のインボード側に嵌着された内輪にインボード側のインナレースが形成されたもの(第3世代のもの)であっても、ハブ輪の外径面にアウトボード側のインナレースが形成されるとともに、ハブ輪に連結される等速自在継手の外側継手部材の外径面にインボード側のインナレースが形成されたもの(第4世代のもの)であってもよい。
【0017】
第3の車輪用軸受装置は、内径面にアウタレースが形成されたハブ一体外輪と、外径面にインナレースが形成された内輪とを備えた車輪用軸受装置であって、少なくともアウタレースが焼入れ後に総形工具による切削を行う焼入鋼切削してなるものである。本発明の第3の車輪用軸受装置は、従動輪用であって、外輪回転タイプとなる。
【0018】
第3の車輪用軸受装置によれば、アウタレースにツールマーク(削り跡)を生じさせない。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1及び第2の車輪用軸受装置では、アウタレースやインナレースが焼入鋼切削されているので、これらの部位の仕上げに研削加工を行う必要がなくなる。このため、環境上好ましくない研削クーラントの使用を控えることができ、環境にやさしい加工が可能であって、しかも低コスト化を図ることができる。
【0020】
特に、アウタレースやインナレースにツールマーク(削り跡)を生じさせない。このため、アウタレースやインナレースが滑らかな表面に加工され、トルク伝達性に優れるとともに、高寿命化を図ることができる。
【0021】
シールランドに対して総形工具による焼入鋼切削を行えば、シールランドにツールマーク(削り跡)を生じさせない。このため、シール機能の低下を防止できる。すなわち、シールランドにツールマークがあれば、このツールマークによってシールもれが生じるからである。
【0022】
従動輪用であって、外輪回転タイプとなる第3の車輪用軸受装置であっても、アウタレースにツールマーク(削り跡)を生じさせない。このため、このタイプの車輪用軸受装置であっても、トルク伝達性に優れるとともに、高寿命化を図ることができる。
【0023】
第1世代から第4世代までの種々の車輪用軸受装置に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1に第1実施形態の車輪用軸受装置を示し、この車輪用軸受装置は、駆動輪用の第3世代であって、ハブ輪1と、複列の転がり軸受2とを備える。
【0025】
ハブ輪1は、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ(車輪取付用フランジ)21とを有する。ハブ輪1のアウトボード側の端面に図示省略のホイールおよびブレーキロータが装着される短筒状のパイロット部45が突設されている。なお、パイロット部45は、大径の第1部45aと小径の第2部45bとからなり、第2部45bにホイールが外嵌され、第1部45aにブレーキロータが外嵌される。ハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がボルト装着孔32に装着される。車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄りをインボード側(図面右側)と呼ぶ。
【0026】
また、ハブ輪1の筒部20の孔部22に、図示省略の等速自在継手の外側継手部材としての外輪の軸部が挿入される。この軸部には雄セレーションが形成され、また、ハブ輪1の筒部20の内周面(内径面)に雌セレーション42が形成されている。このため、軸部がハブ輪1の筒部20に挿入された際には、軸部側の雄セレーションとハブ輪1側の雌セレーション42とが係合する。なお、ハブ輪1は、例えば、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中炭素鋼からなる。
【0027】
転がり軸受2は、ハブ輪1の筒部20の継手側に設けられた小径段部23に嵌合する内輪24と、ハブ輪1の筒部20に外嵌される外方部材としての外輪25とを備える。外輪25は、その内周に2列の外側転走面(アウタレース)26、27が設けられ、第1外側転走面26とハブ輪1の軸部外周に設けられる第1内側転走面(インナレース)28とが対向し、第2外側転走面27と、内輪24の外周面に設けられる第2内側転走面(インナレース)29とが対向し、これらの間に転動体30としてのボールが介装される。すなわち、ハブ輪1の一部(筒部20の外径面)と、ハブ輪1のインボード側の端部の外周に圧入される内輪24とで、インナレース28,29を有する転がり軸受2の内方部材を構成している。なお、転動体30は、アウタレース26、27とインナレース28、29との間に介在される保持器34に回転自在に保持されている。また、外輪25の両開口部にはシール部材S、Sが装着されている。
【0028】
外輪25の外径面にはねじ孔35を有する車体取付用フランジ36が形成されている。この車体取付用フランジ36よりもインボード側の外径面が、図示省略のナックルに嵌入される嵌合面37とされる。
【0029】
この場合、ハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31を内輪24の端面24aに押圧することによって、内方部材(内輪)24に予圧を付与するものである。これによって、内輪24をハブ輪1に締結することができる。この際、切欠部(小径段部)23の切欠端面23aに内輪24の端面24aが当接している。
【0030】
ところで、ハブ輪1には図2に示すように、硬化層H(H2)が設けられている。シールランド51(アウトボード側のシール部材Sが装着されるシール装着部位)から転走面28を経て小径段部(切欠部)23に及ぶ領域に硬化層H2が形成されている。
【0031】
硬化層H2は小径段部23のインボード側端部まで形成されない。これは、この車輪用軸受装置では、ハブ輪1のインボード側の端部が外径側へ加締られるので、この加締による割れを防止するためである。
【0032】
フランジ(車輪取付フランジ)21のアウトボード側付け根部50、つまり、ブレーキロータ取付面21aから円筒状のパイロット部45の第1部45aに延びる隅部に硬化層を形成してもよい。また、ハブ輪1の孔部22の内径面に形成された雌セレーション42の表面に硬化層を形成してもよい。なお、ハブ輪1の孔部22は、インボード側の開口部に、軸部の付け根部に対応した大径部22aが形成され、この大径部22a以外に雌セレーション42が形成されている。
【0033】
外輪25及び内輪24は、例えば、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中炭素鋼からなる。また、外輪25の転走面26、27の表面に硬化層H4、H5が形成されている。各硬化層H(H2、H4、H5)の硬度をHRCで50〜65程度としている。
【0034】
硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等にて行われる。高周波加熱による焼き入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。浸炭焼入れとは、活性化した炭素を多く含むガス、液体、固体などの浸炭剤中で鋼を長時間加熱することにより、表面層から炭素を含浸させる処理(浸炭処理)を行い、この浸炭した鋼に対して、焼入れ焼もどしを行う方法である。
【0035】
ハブ輪1のシールランド51及びインナレース28の硬化層は焼入れ後に切削を行う焼入鋼切削されてなる。焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼き入れ後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。焼入れを行うと、引張残留応力が残り易く、そのままでは疲労強度が低下する。このため、表面を切削すれば、最表面部に圧縮残留応力を付与させることができ、これにより疲労強度が向上する。
【0036】
切削工具54として、このような切削が可能なバイト54A、54B(図2参照)を使用する。焼入鋼切削の可能なバイト54A、54Bとして、例えばCBN(立方晶窒化硼素)に特殊セラミックス結合材を加えた焼結体工具等を使用することができる。この場合、バイト54A、54Bは、丸こまタイプのチップであり、総形工具である。ここで、総形工具とは、ある形状の輪郭をもった工具であって、工作物(ハブ輪1)をその輪郭と同じ形状に切削加工(総形削り)することができる。
【0037】
バイト54Aはシールランド51の切削用であり、バイト54Bはインナレース28の切削用である。切削工具54として2種類有することになる。しかしながら、1種類でも、シールランド51及びインナレース28を総形削りが可能であれば、1つのバイトで兼用できる。
【0038】
外輪25の転走面(アウタレース)26、27においても焼入鋼切削を行うことになる。すなわち、例えば前記焼結体工具等からなる総形工具54を使用して、転走面26、27を切削する。
【0039】
ところで、内輪24は例えばズブ焼入れによる熱処理が施される。ここで、ズブ焼入れは品物全体(深部まで)を加熱炉などで必要な温度まで高め,急冷して堅い組織にする方法である。そして、この焼入れ後に図3に示すような総形工具54(バイト54C)にて転走面(インナレース)29が切削(焼入鋼切削)される。
【0040】
本発明では、アウタレース26、27やインナレース28,29が焼入鋼切削されているので、これらの部位の仕上げに研削加工を行う必要がなくなる。このため、環境上好ましくない研削クーラントの使用を控えることができ、環境にやさしい加工が可能であって、しかも低コスト化を図ることができる。
【0041】
特に、アウタレース26、27やインナレース28,29にツールマーク(削り跡)を生じさせない。このため、アウタレース26、27やインナレース28,29が滑らかな表面に加工され、トルク伝達性に優れるとともに、高寿命化を図ることができる。
【0042】
シールランド51に対して総形工具による焼入鋼切削を行えば、シールランド51にツールマーク(削り跡)を生じさせない。このため、シール機能の低下を防止できる。すなわち、シールランドにツールマークがあれば、このツールマークによってシールもれが生じるからである。
【0043】
しかも、硬化層Hが形成された部位が耐摩耗性、耐寿命性等に優れ、高品質の車輪用軸受装置となる。特に、硬化層H2を形成することによって、シール部材Sのシールリップが摺接するシールランド51の耐摩耗性の向上を図ることができ、耐クリープ性、耐フレッティング性の向上を達成できる。シールランド51に対して総形工具による焼入鋼切削を行えば、シールランド51にツールマーク(削り跡)を生じさせない。このため、シール機能の低下を防止できる。すなわち、シールランドにツールマークがあれば、このツールマークによってシールもれが生じるからである。なお、アウトボード側付け根部に硬化層をもうければ、回転曲げ疲労の最弱部であるこのアウトボード側付け根部を高強度化することができる。
【0044】
次に図4は第2実施形態を示し、この場合、等速自在継手3の外側継手部材として外輪5の外径面にインボード側のインナレース29が形成された4世代の車輪用軸受装置である。
【0045】
ハブ輪1の内径面のアウトボード側において高周波焼入れ等にて形成された硬化層H3が設けられ、この硬化層H3に凹凸部56が形成されている。この凹凸部56はアヤメローレット状に形成され、旋削等により独立して形成された複数の環状溝と、ブローチ加工等により形成された複数の軸方向溝とを略直交させて構成した交叉溝、あるいは互いに傾斜した螺旋溝で構成した交叉溝からなる。また、凹凸部56の凸部は良好な食い込み性を確保するために、その先端部が三角形状等の尖塔形状に形成されている。
【0046】
等速自在継手3は、外側継手部材としての外輪5と、この外輪5のマウス部11内に配設される内側継手部材としての内輪(図示省略)と、この内輪と外輪5との間に配設されるボール(図示省略)と、このボールを保持する保持器(図示省略)とを備える。外輪5は前記マウス部11と、マウス部11の底部をなす肩部13と、軸部12とからなる。肩部13の外径面に、インボード側のシール部材Sが装着されるシールランド64と、インナレース29とが形成される。
【0047】
また、軸部12には、ハブ輪1のインボード側の端部に所定の締代を介して嵌合するインロウ部60aと、ハブ輪1の凹凸部56に嵌合するアウトボード側の嵌合部60bとが形成される。そして、軸部12がハブ輪1に嵌入されて、外輪5とハブ輪1とが一体化された状態で、肩部13の端面13aと、ハブ輪1のインボード側の端面62とが当接する。
【0048】
この場合もハブ輪1の外径面には、シールランド51(アウトボード側のシール部材Sが装着されるシール装着部位)から転走面28を経てインボート側の端縁に及ぶ領域に硬化層H2が形成されている。なお、図示省略しているが、ブレーキロータ取付面21aから円筒状のパイロット部45の第1部45aに延びる付け根部(隅部)50に硬化層を形成するのが好ましい。
【0049】
等速自在継手3の外輪5の外径面には、肩部13の外径面から軸部12の外径面のインボード側にわたって硬化層H(H6)が形成されている。すなわち、肩部13のシールランド64、インナレース29、及びインロウ部60aに至る範囲に硬化層H6が形成されている。なお、外輪5の内径面のボール溝59の底面に硬化層H(H3)が形成されている。また、軸受2の外輪25は、図1に示す外輪25と同様であるので、その説明を省略する。
【0050】
この車輪用軸受装置においても、ハブ輪1のシールランド51及びインナレース28、外輪25のアウタレース26,27、等速自在継手3の外輪5のインナレース29及びツーラランド64が、総形工具54によって切削(焼入鋼切削)される。このため、この車輪用軸受装置においても図1に示す車輪用軸受装置と同様の作用効果を奏する。
【0051】
次に図5は第2世代の外輪回転タイプであり、内径面にアウタレース66、67が形成されたハブ一体外輪65と、外径面にインナレース70,71が形成された一対の内輪72A、72Bとを備えている。アウタレース66、67とインナレース70,71との間に保持器93にて保持された転動体92が介装される。
【0052】
すなわち、内輪72(72A,72B)は、大径部73と、小径部74と、大径部73と小径部74との間のテーパ状部75とからなる。この場合、大径部73の外径面がシール装着面77となり、テーパ状部75の外径面が転走面(インナレース)70、71となる。
【0053】
また、ハブ一体外輪65は、円筒状の本体部80と、円筒状の本体部80のアウトボード側の外径面から外径方向へ突設されるフランジ(車輪取付用フランジ)81とを備え、本体部80のアウトボード側の端面からパイロット部82が突設される。フランジ81にはハブボルト33を嵌入される孔部83が形成されている。そして、外輪65の内径面のアウトボード側端部の肩部87(図5参照)がシール装着部88とされ、インボード側端部がシール装着部89とされる。このため、内輪72A,72Bのシール装着面77、77と、ハブ一体外輪65のシール装着部88、89との間にそれぞれシール部材Sが装着される。
【0054】
図5に示す車輪用軸受装置では、外輪25の転走面(アウタレース)66、67の表面に硬化層H8、H9が形成される。この場合もアウタレース66、67は焼入れ後に総形工具54(バイト54D、54E)の切削を行う焼入鋼切削されてなる。
【0055】
図5に示す車輪用軸受装置であっても、環境上好ましくない研削クーラントの使用を控えることができ、環境にやさしい加工が可能であって、しかも低コスト化を図ることができる。また、アウタレース66、67は総形工具54による焼入鋼切削が施されているので、アウタレース66、67にはツールマークが現れず、このタイプの車輪用軸受装置であっても、トルク伝達性に優れるとともに、高寿命化を図ることができる。
【0056】
本発明にかかる車輪用軸受装置としては、種々のタイプのものに適用できる。すなわち駆動輪用であっても、従動輪用(ハブ輪1が中実の軸部材を有するもの)であってもよく、さらには、内輪回転タイプ(軸受2の内方部材側が回転するタイプ)であっても、外輪回転タイプ(軸受2の外方部材側が回転するタイプ)であってもよい。なお、ハブ輪1が図1に示すように、筒部20を有する駆動輪用である場合、等速自在継手3の外輪5の軸部を固着する手段として、軸部の先端に設けられるねじ部にナット部材を螺着するものであっても、外輪5の軸部の先端部を加締てハブ輪1に係合させるものであってもよい。さらには、外輪5の軸部の外径面に雄スプラインを設け、この外輪5の軸部を、内径面に雌スプラインを設けない状態のハブ輪1の筒部20に圧入するものでああってもよい。また、等速自在継手3の外輪5が筒状軸部を有し、この筒状軸部にハブ輪1のボス部が嵌入されるものであってもよい。
【0057】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、硬化層を形成する場合、前記実施形態では、高周波熱処理であったが、レーザ熱処理で行ってもよい。レーザ焼入れは、高エネルギー密度のレーザビームを鋼部品の表面に照射して加熱し、自己冷却作用によって焼入硬化させる方法である。レーザ発振装置には炭酸ガスレーザ、YGレーザ、プラズマレーザ、エキシマレーザなど種々あるが、この場合、例えば、炭酸ガスレーザを用いることができる。レーザビームによる加熱は超急速であり、また、焼入れも冷却剤は用いず自己冷却である。このため、レーザ焼入れは、短時間に小さい面積で局所焼入れができ、ひずみの発生も少ない利点がある。また、焼入れ後は焼戻しを行う必要がない。
【0058】
ところで、図1に示す実施形態において、ハブ輪1の内径面側に設けられる硬化層を設けてもよい。硬化層としては、雌セレーション42の略全長にわたって形成しても、インボード側のみにこのような硬化層を設けてもよい。硬化層を雌セレーション42の略全長にわたって設けた場合、安定したセレーション嵌合を形成することができ、高品質の製品を提供できる。過大トルクが発生した場合、ハブ輪の孔部に形成されるセレーションにおいてインボード側に大きな荷重がかかる。このため、セレーションにおいて少なくともインボード側に硬化層が設けていれば、このような過大トルク発生時においてこれに十分対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態を示す車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】前記図1の車輪用軸受装置のハブ輪の断面図である。
【図3】前記図1の車輪用軸受装置の内輪の断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示す車輪用軸受装置の断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態を示す車輪用軸受装置の断面図である。
【図6】前記図5の車輪用軸受装置の外輪の断面図である。
【図7】従来の車輪用軸受装置の断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 ハブ輪
2 軸受
3 等速自在継手
24 内輪
26,27 アウタレース
28,29 インナレース
30 転動体
51 シールランド
54 総形工具
65 ハブ一体外輪
66、67 アウタレース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向するアウタレースとインナレースとの間に配置された複数列の転動体を有する軸受と、車輪に取付けられるハブ輪とを備え車輪用軸受装置であって、
少なくともアウタレースが焼入れ後に総形工具による切削を行う焼入鋼切削してなることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
対向するアウタレースとインナレースとの間に配置された複数列の転動体を有する軸受と、車輪に取付けられるハブ輪とを備えた車輪用軸受装置であって、
少なくともインナレースが焼入れ後に総形工具による切削を行う焼入鋼切削してなることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項3】
ハブ輪の外径面の少なくともシールランド及びインナレースが焼入れ後に総形工具による切削を行う焼入鋼切削してなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
軸受は、内径面に複列のアウタレースを有する外方部材と、外径面にインナレースを有する一対の内輪にて構成される内方部材とを備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
ハブ輪の外径面にアウトボード側のインナレースが形成されるとともに、ハブ輪の外径面のインボード側に嵌着された内輪にインボード側のインナレースが形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に車輪用軸受装置。
【請求項6】
ハブ輪の外径面にアウトボード側のインナレースが形成されるとともに、ハブ輪に連結される等速自在継手の外側継手部材の外径面にインボード側のインナレースが形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に車輪用軸受装置。
【請求項7】
内径面にアウタレースが形成されたハブ一体外輪と、外径面にインナレースが形成された内輪とを備えた車輪用軸受装置であって、
少なくともアウタレースが焼入れ後に総形工具による切削を行う焼入鋼切削してなることを特徴とする車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−191910(P2009−191910A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31785(P2008−31785)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】