説明

軸受構造

【課題】軸部に嵌合させた可動部材が軸部の軸線方向に前後動するように構成された軸受構造において、可動部材からケーシング等に振動が伝達されることを抑制し、NV特性を向上させるように構成された軸受構造を提供する。
【解決手段】軸部2,4の外周側に該軸部2,4に沿って移動可能でかつ軸部2,4に対して相対回転する可動部材8,10が設けられ、その軸部2,4の外周面と可動部材8,10の内周面との間に摺動部材12が設けられた軸受構造において、摺動部材12は、円筒状に形成されるとともに、その内周面と外周面との少なくともいずれか一方に、摺動部材12の半径方向の荷重を受けて弾性的に圧縮変形する凸部13が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸部に嵌合させた可動部材が軸部の軸線方向に前後動するように構成された軸受構造に関し、例えばプーリにベルトが巻き掛けられ、そのプーリとベルトとの間でトルクの伝達を行うベルト式無段変速機におけるプーリもしくはそのプーリを構成しているシーブ(ディスクと称されることもある)を軸部で支持する軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような軸受構造がベルト式無段変速機に用いられており、そのベルト式無段変速機の一般的な構造を説明すると、ベルトを巻き掛ける一対のプーリは、ベルトを挟み込むV字状のベルト溝を備えており、その伝動ベルトは、一般に、エレメントもしくはブロックなどと称される多数の金属製の板片をスチールバンド等により環状に結束して構成した金属製ベルトと、例えばゴムや樹脂などの弾性材料を主体に構成した非金属製ベルトとに分類することができる。
【0003】
上記の各種ベルトのうち金属製ベルトを用いる場合、通常、プーリは鋼や鋳鉄あるいはアルミ合金などの金属を材料として形成されるので、金属製ベルトとプーリとの間の金属同士の摩擦面における摩耗や焼き付き等を防止するために潤滑油が使用される。したがって、この場合の金属製ベルトは潤滑油の中で用いられるいわゆる湿式の伝動ベルトである。一方、非金属製、例えばゴム製ベルトを用いる場合は、上記の湿式の伝動ベルトのような潤滑油を使用しなくともよい。したがって、この場合のゴム製ベルトは、油による潤滑を行わずにベルトとプーリとの間の摩擦力を利用して動力伝達を行ういわゆる乾式の伝動ベルトである。
【0004】
この種の乾式の動力伝達装置には、ベルトとプーリとの間の摺動箇所以外に種々の摺動箇所があり、例えば回転軸を支持する軸受部分においても摩擦摺動が生じる。そのため、軸受部材として金属を使用せずに、合成樹脂製の部材を使用することもあり、例えば無給油の樹脂ブッシュあるいは自己潤滑性の樹脂ブッシュが使用されることがある。その一例として特許文献1には、ベルト式無段変速機におけるプーリ軸と、そのプーリ軸の軸線方向に移動可能な可動シーブとの間に樹脂ブッシュを介在させた構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−340234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような合成樹脂製の軸受部材(ブッシュ)は、潤滑機能があるものの、摩耗が進行しやすい。そのため、特許文献1に記載された発明では、その摩耗を検出する方法を提供している。一方、合成樹脂製の軸受部材は、摩耗が進行し易いといえども剛性が高いので、摺動する部材を確実に支持することができる。しかし、その半面、乾式であることにより、両者の間に流体が介在することがなく、両者の密着の程度が高いので、騒音や振動を伝達しやすく、この点での改善の余地がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、軸部に嵌合させた可動部材が軸部の軸線方向に前後動するように構成された軸受構造に関し、例えばベルト式無段変速機の運転時に生じる振動がケーシング等に伝達されることを抑制し、NV特性を向上させるように構成された軸受構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、軸部の外周側に該軸部に沿って移動可能でかつ軸部に対して相対回転する可動部材が設けられ、その軸部の外周面と可動部材の内周面との間に摺動部材が設けられた軸受構造において、前記摺動部材は、円筒状に形成されるとともに、その内周面と外周面との少なくともいずれか一方に、前記摺動部材の半径方向の荷重を受けて弾性的に圧縮変形する凸部が形成されていることを特徴とする軸受構造である。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記凸部は、前記円筒状をなす摺動部材の円周方向に連続して環状をなす突条を含むことを特徴とする軸受構造である。
【0010】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記凸部は、前記円筒状をなす摺動部材の螺旋方向に連続しかつ摺動部材の両端部に到る突条を含むことを特徴とする軸受構造である。
【0011】
さらに、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記軸部は、ベルト式無段変速機における固定シーブと一体のプーリ軸を含み、前記可動部材は、前記プーリ軸にその軸線方向に前後動するように嵌合されかつ前記固定シーブと共にベルト巻き掛け溝を形成する可動シーブを含むことを特徴とする軸受構造である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、軸部と可動部材との間に円筒状をなす摺動部材が設けられており、その摺動部材の内周面と外周面との少なくともいずれか一方に、摺動部材の半径方向の荷重を受けて弾性的に圧縮変形する凸部が形成されている。例えば、ベルト式無段変速機において、可動シーブと樹脂ブッシュの凸部とが接触する際、樹脂ブッシュの凸部は、その半径方向の荷重を受けて弾性的に圧縮変形するため、可動シーブから伝わる振動や接触する際の衝撃等を吸収し、その大きさを低減させることができる。そのため、NV性能(騒音・振動性能)を向上させることができる。
【0013】
さらに、請求項3によれば、円筒状をなす摺動部材の螺旋方向に連続しかつ摺動部材の両端部に到る突条を形成することによって、例えばベルト式無段変速機の運転時には、可動シーブの中空部に生じた熱を吸収した空気が滞留することがなく大気解放されるため、可動シーブの冷却作用がある。その結果、可動シーブと接触しているエレメントも冷却され、ベルトの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係るプーリの一例を示す模式図である。
【図2】ベルト式無段変速機の一例を示す模式図である。
【図3】この発明における樹脂ブッシュの一例を示す模式図である。
【図4】この発明における樹脂ブッシュの他の例を示す模式図である。
【図5】この発明における樹脂ブッシュの一例を示す半径方向に沿う断面図である。
【図6】この発明における樹脂ブッシュの更に他の形状として採用することのできる一例を示す模式図である。
【図7】この発明における樹脂ブッシュの他の例を示す半径方向に沿う断面図である。
【図8】この発明に係るプーリの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、この発明を具体例を参照して説明する。図2に、乾式ベルトの無段変速機構におけるプーリ軸と可動シーブとの間に介在された樹脂ブッシュに対して、この発明を適用した一例を模式的に示してある。まず構成について説明する。無段変速機1は、駆動軸2と同一軸線上に配置された駆動プーリ3と、従動軸4と同一軸線上に配置された従動プーリ5と、これらに巻き掛けられたベルト6とを有している。各プーリ3,5は、互いに接近・離隔する固定シーブ7,9と可動シーブ(可動部材)8,10とから構成され、これらのシーブの間に、ベルト11を巻き掛けるいわゆるV溝が形成されるようになっている。その固定シーブ7,9は軸部2,4に一体化され、これに対して可動シーブ8,10は軸部2,4と一体に回転するものの軸部の軸線に沿って前後動するように構成されている。固定シーブ7,9の軸部2,4は、ケーシング(図示せず)で固定されている軸受部(図示せず)の外周に嵌合されており、軸受部によって回転自在に支持されている。この軸受部は、ケーシングもしくはその一部を構成しているエンドカバー(図示せず)の内面に突出した軸状の部分であって、ケーシングもしくはエンドカバーの一部として一体に形成され、あるいは軸状の部材をケーシングもしくはエンドカバーの内面に取り付けることにより形成されている。そして、可動シーブ8,10の背面側には、可動シーブ8,10を前後動させるための油圧アクチュエータ(図示せず)が設けられている。
【0016】
この発明において、自己潤滑性の摺動部材(樹脂ブッシュ)12が、固定シーブ7,9の軸部2,4の外周面と可動シーブ8,10の内周面との間に介在されており、軸部2,4と可動シーブ8,10との摺動を円滑にするよう構成されている。図1に記載されたプーリの一例を用いてより具体的に説明すると、樹脂ブッシュ12は、円筒状に形成されるとともに、樹脂ブッシュの半径方向の荷重を受けて弾性的に圧縮変形する凸部13が形成されている。また、この発明に係る樹脂ブッシュの凸部13は、図3(a)や図4(a)に一例を示すように、円筒状をなす樹脂ブッシュの円周方向に連続して環状をなす突条を含んだ構成となっている。
【0017】
さらに、図6に示す樹脂ブッシュの一例として、この発明における樹脂ブッシュ12は、円筒状をなし、その螺旋方向に連続しかつ樹脂ブッシュの両端部に到る突条13を含むよう形成されており、可動プーリ2,4の中空部14にある熱を吸収した空気が、樹脂ブッシュ12の回転軸方向に移動し、その中空部14から大気開放部分15に放出されるように設けられてもよい。
【0018】
なお、樹脂ブッシュ12の凸部13の数および形状は、これに限定されるものではない。例えば図3(b)や図4(b)に一例を示すように、樹脂ブッシュ12の内周面16と外周面17との少なくともいずれか一方に形成されていればよく、また、その凸部13の数は任意でよい。さらに、樹脂ブッシュ12は、駆動プーリ3と従動プーリ5との少なくともいずれか一方に設けられていればよい。
【0019】
次に作用について説明する。上記のベルトを、図2に示すように駆動プーリ3および従動プーリ5に巻き掛けるとともに、動力源のトルクが駆動プーリ3に伝達されると、駆動プーリ3が軸部2を中心に回転し、その駆動プーリ2の動力が摩擦力によりエレメント6に伝達される。エレメント6はゴムベルト11に嵌合されているため、エレメント6からゴムベルト11に動力が伝達され、従動プーリ5に接触しているエレメント6から、従動プーリ5に摩擦力で動力が伝達され、従動プーリ5が軸部4を中心に回転する。
【0020】
図1に示すように、エレメント6がプーリ3,5に巻き掛かった状態では、固定シーブ7,9と可動シーブ8,10との挟圧力によりエレメント6に対してはこれをプーリ3,5の半径方向で外側に押す力が作用し、ゴムベルト11がこれに抵抗するように結束力を生じさせ、結局、ゴムベルト11の張力により、エレメント6はプーリ3,5の半径方向で内側に向けて押圧される。その押圧力により固定シーブ7,9と可動シーブ8,10とに対してはこれらをプーリの半径方向で内側に向かう荷重Fが作用し、その結果、固定シーブ7,9の軸部2,4の軸線上を摺動する可動シーブ8,10はその軸部2,4の半径方向で内側に向けて押圧された状態となる。つまり、エレメント6がプーリ3,5に巻き掛かった状態では、ゴムベルト11の張力により、可動シーブ8,10は固定プーリの軸部2,4の半径方向で内側に向けて押圧され、その結果、可動シーブ8,10の内周面と固定プーリの軸部2,4の外周面とが接触状態になる。
【0021】
固定シーブ7,9の軸部2,4の外周面には、円筒状をなし、かつその円周方向に連続して環状をなす突条を含んだ凸部13を構成した樹脂ブッシュ12が設けられている。このため、エレメント6がプーリ3,5に巻き掛かった状態では、可動シーブ8,10と樹脂ブッシュ12とが接触状態となる。可動シーブ8,10と樹脂ブッシュ12とが接触する状態において、図5を用いて具体的に説明すると、樹脂ブッシュの凸部13は、その半径方向の荷重Fを受けて弾性的に圧縮変形するため、可動シーブ8,10から伝わる振動や接触する際の衝撃等を吸収し、もしくは減衰させることができる。つまりダンパー作用が生じる。この作用により、伝動ベルトに生じた振動や音が可動プーリ8,10を経て固定シーブ7,9の軸部2,4に伝達されるのを抑制することができ、その軸部2,4を支持する軸受部(ケーシングもしくはその一部を構成しているエンドカバー等)に伝わる振動や音を減少させることができる。その結果、ベルト式無段変速機のNV性能を向上させることができる。
【0022】
さらに、図6や図8の例では、樹脂ブッシュ12は、円筒状をなし、その螺旋方向に連続しかつ樹脂ブッシュの両端部に到る突条13を含むよう形成されており、可動シーブ8,10の中空部14にある熱を吸収した空気が、樹脂ブッシュの回転軸方向に移動し、その中空部14から大気開放部15に放出されるように設けられている。エレメント6がプーリ3,5に巻き掛かった状態では、図7に示す例のように、可動シーブ8,10と樹脂ブッシュ12とが接触状態となる。可動シーブ8,10と樹脂ブッシュ12とが接触する際、樹脂ブッシュの凸部13は、その半径方向の荷重Fを受けて弾性的に圧縮変形するため、可動シーブ8,10から伝わる振動や接触する際の衝撃等を吸収し、もしくは減衰させることができる。そのため、NV性能を向上させることができる。また、可動シーブ8,10が固定シーブ7,9の軸部2,4の軸線上を摺動する際、凸部13は螺旋方向に連続しているため、可動シーブ8,10との摺動抵抗が少なく潤滑性が向上する。さらに、可動シーブの中空部14に生じた熱を空気が吸収し、その熱を吸収した空気が滞留することがなく大気解放されるため、可動シーブ8,10を冷却することができ、その結果、可動シーブ8,10と接触しているエレメント6も冷却され、ベルトの耐久性を向上させることができる。
【0023】
さらに、この発明は上述した具体例に限定されず、軸部の外周側に該軸部に沿って移動可能でかつ軸部に対して相対回転する可動部材が設けられ、その軸部の外周面と可動部材の内周面との間に摺動部材が設けられた軸受構造に適用することができる。この発明に係る軸受構造は、要は、車両や航空機、船舶、産業用機械など、回転することにより動力を伝達する機械・装置類に用いることができる。
【符号の説明】
【0024】
2…(駆動プーリの)軸部、 4…(従動プーリの)軸部、 7,9…固定シーブ、 8,10…可動シーブ(可動部材)、 12…摺動部材、 13…(摺動部材の)凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の外周側に該軸部に沿って移動可能でかつ軸部に対して相対回転する可動部材が設けられ、その軸部の外周面と可動部材の内周面との間に摺動部材が設けられた軸受構造において、
前記摺動部材は、円筒状に形成されるとともに、その内周面と外周面との少なくともいずれか一方に、前記摺動部材の半径方向の荷重を受けて弾性的に圧縮変形する凸部が形成されていることを特徴とする軸受構造。
【請求項2】
前記凸部は、前記円筒状をなす摺動部材の円周方向に連続して環状をなす突条を含むことを特徴とする請求項1に記載の軸受構造。
【請求項3】
前記凸部は、前記円筒状をなす摺動部材の螺旋方向に連続しかつ摺動部材の両端部に到る突条を含むことを特徴とする請求項1に記載の軸受構造。
【請求項4】
前記軸部は、ベルト式無段変速機における固定シーブと一体のプーリ軸を含み、前記可動部材は、前記プーリ軸にその軸線方向に前後動するように嵌合されかつ前記固定シーブと共にベルト巻き掛け溝を形成する可動シーブを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−117646(P2012−117646A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270503(P2010−270503)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】