説明

軸受装置、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、および軸受装置の製造方法

【課題】流体動圧軸受装置において、シャフトとスラストプレートとを良好に調芯することができ、それにより、スラストプレートの偏摩耗を防止することができる技術を提供する。
【解決手段】流体動圧軸受装置5に使用されるスラストプレート342は、シャフト41の下端部41bを収容する凹部342aを有している。また、スラストプレート342は、潤滑オイル51中に浸漬され、軸受ハウジング344に固定されることなく、シャフト41の下端部41bと軸受ハウジング344の底部上面との間に挟持されている。このため、シャフト41の下端部41bとスラストプレート342の凹部342aとの当接位置に応じてスラストプレート342は径方向に移動し、その結果、シャフト41とスラストプレート342とが良好に調芯される。これにより、スラストプレート342の偏摩耗が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、および軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやカーナビゲーション等に使用されるハードディスク装置には、磁気ディスクをその中心軸を中心として回転させるスピンドルモータが搭載されている。スピンドルモータは、ステータ部とロータ部とを軸受装置を介して相対的に回転させる構成となっており、近年では、スピンドルモータ用の軸受装置として流体動圧軸受装置が多く使用されている。
【0003】
従来の流体動圧軸受装置は、シャフトを径方向に支持するラジアル軸受部と、シャフトを軸方向に支持するスラスト軸受部とを有している。ラジアル軸受部は、シャフトを挿通するスリーブを有しており、シャフトとスリーブとの間に介在する潤滑オイルの流体動圧を利用してシャフトを支持する。また、スラスト軸受部は、円板状のスラストプレートを有しており、スラストプレートの上面にシャフトの下端部を当接させることによりシャフトを軸方向に支持する。
【0004】
このような従来の流体軸受装置については、例えば、特許文献1に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−299763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の流体動圧軸受装置では、スラストプレートの上面に部分的あるいは全体的に凹形曲面が形成され、当該凹形曲面上においてシャフトを支持する場合があった。このようにすれば、シャフトの下端部とスラストプレートの上面との実接触面積が増えるためシャフトからスラストプレートへの圧力が分散され、シャフトとスラストプレートとの摺接に伴うスラストプレートの摩耗が抑制される。
【0007】
しかしながら、従来の流体動圧軸受装置では、軸受ハウジングやスリーブなどの固定軸受部材に対してスラストプレートが固定的に取り付けられていた。このため、スリーブに支持されたシャフトの中心軸上にスラストプレートの凹形曲面の中心を厳密に正確に配置すること(すなわち、シャフトとスラストプレートとを良好に「調芯」すること)は困難であった。凹形曲面の中心がシャフトの中心軸上に正確に配置されていなければ、シャフトとスラストプレートとの摺動によりスラストプレートの上面に偏摩耗が生じ、シャフトの回転精度を悪化させたり、回転振動を引き起こしたりする恐れがあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、流体動圧軸受装置において、シャフトとスラストプレートとを良好に調芯することができ、それにより、スラストプレートの偏摩耗を防止することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、流体動圧軸受装置であって、凸形曲面をなした先端部を有するシャフトと、前記シャフトの中心軸を中心として前記シャフトを相対回転可能に支持するスリーブと、前記シャフトと前記スリーブとの間に保持される潤滑オイルと、前記シャフトの前記先端部を収容する凹形曲面を含む凹部を有し、前記シャフトの前記先端部に当接しつつ前記シャフトの前記中心軸周りの回転を許容するスラストプレートと、前記スリーブおよび前記スラストプレートを内部に配置する有底筒状のハウジングと、を備え、前記スラストプレートは、前記潤滑オイル中に浸漬され、前記ハウジングに固定されることなく、前記シャフトの前記先端部と前記ハウジングの底面との間に挟持されることによりその位置が定められていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の軸受装置であって、前記スラストプレートの前記凹形曲面の曲率半径は、前記シャフトの前記凸形曲面の曲率半径以上であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の軸受装置であって、前記中心軸から前記凹部の外周端までの前記中心軸に直交する方向の距離は、前記スラストプレートの外周面と前記ハウジングの内周面との前記中心軸に直交する方向の間隙よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、流体動圧軸受装置であって、凸形曲面をなした先端部を有するシャフトと、前記シャフトの中心軸を中心として前記シャフトを相対回転可能に支持するスリーブと、前記シャフトと前記スリーブとの間に保持される潤滑オイルと、前記シャフトの前記先端部に当接しつつ前記シャフトの前記中心軸周りの回転を許容するスラストプレートと、前記スリーブおよび前記スラストプレートを内部に配置する有底筒状のハウジングと、を備え、前記スラストプレートは、前記ハウジングの底面側に向けて突き出した湾曲形状をなしており、且つ前記潤滑オイル中に浸漬され、前記ハウジングに固定されることなく、前記シャフトの前記先端部と前記ハウジングの前記底面との間に挟持されることによりその位置および姿勢が定められていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1,2,および4のいずれか記載の軸受装置であって、前記スラストプレートの前記中心軸に直交する方向の寸法は、前記ハウジングの内周面の前記中心軸に直交する方向の寸法の1/2倍以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか記載の軸受装置であって、前記スラストプレートは、前記ハウジングに形成された突出部に対して、前記中心軸についての周方向に対向する対向面を有することを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明は、スピンドルモータであって、ベース部材と、前記ベース部材に固定された磁束発生部と、請求項1乃至6のいずれか記載の軸受装置によって前記ベースに対して回転自在に支持されたロータ部と、前記磁束発生部に対向して前記ロータ部に取り付けられたロータマグネットと、を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項8に係る発明は、ディスクを回転させるディスク駆動装置であって、装置ハウジングと、前記装置ハウジングの内部に固定されるとともに、前記ロータ部に前記ディスクを装着した請求項7記載のスピンドルモータと、前記ディスクに対して情報の読み出しおよび/または書き込みを行うアクセス部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項9に係る発明は、軸受装置の製造方法であって、a)軸方向一方側の端部に凸形曲面をなした先端部を有するシャフトと、前記シャフトの中心軸を中心として前記シャフトを相対回転可能に支持し得るスリーブと、前記軸方向他方側の面に前記シャフトの前記先端部を収容する凹形曲面が形成されたスラストプレートと、前記軸方向一方側の端部が閉塞され前記軸方向他方側の端部が開口し前記スリーブおよび前記スラストプレートを内部に配置し得る有底筒状のハウジングと、を準備する準備工程と、b)前記ハウジング内に、前記スラストプレート、前記スリーブ、および、前記シャフトを収容し、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面、および、前記シャフトの前記先端部と前記スラストプレートの前記凹形曲面とをそれぞれ対向させる配置工程と、c)前記シャフトと前記スラストプレートとの間、及び前記スラストプレートと前記ハウジングの内底面との間に潤滑オイルを充填させる充填工程と、d)前記工程c)の後に、前記シャフトの前記先端部を前記スラストプレートの前記凹形曲面に接触させた状態で前記シャフトの中心軸を中心として前記スリーブと前記シャフトとを相対的に回転させることにより、前記シャフトの前記中心軸と前記スラストプレートの前記凹形曲面との相対位置を定める調芯を行う調芯工程と、を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項10に係る発明は、請求項9記載の軸受装置の製造方法であって、前記工程d)によって、前記スラストプレートの重心位置と、前記シャフトの前記中心軸とは、ほぼ一致することを特徴とする。
【0019】
請求項11に係る発明は、請求項9又は10記載の軸受装置の製造方法であって、前記工程d)において、前記相対回転に伴い、前記スラストプレートが前記シャフトの前記先端部に対し径方向に移動することにより前記調芯が行われること特徴とする。
【0020】
請求項12に係る発明は、軸受装置の製造方法であって、a)軸方向一方側の端部に凸形曲面をなした先端部を有するシャフトと、前記シャフトの中心軸を中心として前記シャフトを相対回転可能に支持し得るスリーブと、前記軸方向一方側へ向けて突き出した湾曲形状を有するスラストプレートと、前記軸方向一方側の端部が閉塞され前記軸方向他方側の端部が開口し前記スリーブおよび前記スラストプレートを内部に配置し得る有底筒状のハウジングと、を準備する準備工程と、b)前記ハウジング内に、前記スラストプレート、前記スリーブ、および、前記シャフトを収容し、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面、および、前記シャフトの前記先端部と前記スラストプレートの前記軸方向他方側の面とをそれぞれ対向させる配置工程と、c)前記シャフトと前記スラストプレートとの間、及び前記スラストプレートと前記ハウジングの内底面との間に潤滑オイルを充填させる充填工程と、d)前記工程c)の後に、前記シャフトの前記先端部を前記スラストプレートの前記軸方向他方側の面に接触させた状態で前記シャフトの前記中心軸を中心として前記スリーブと前記シャフトとを相対的に回転させることにより、前記シャフトの前記中心軸に対する前記スラストプレートの相対位置および姿勢を定める調芯を行う調芯工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
請求項13に係る発明は、請求項12記載の軸受装置の製造方法であって、前記工程d)において、前記相対回転に伴い、前記スラストプレートと前記シャフトの前記先端部との当接位置に応じて前記スラストプレートが傾斜することにより、前記調芯が行われることを特徴とする。
【0022】
請求項14に係る発明は、請求項9乃至13のいずれか記載の軸受装置の製造方法であって、前記工程d)の前に、前記軸受装置の前記ハウジングに磁束発生部を有するベース部材を取り付けるとともに、前記軸受装置の前記シャフトにロータマグネットを有するロータ部を取り付ける組立工程を更に備え、前記工程d)では、前記磁束発生部と前記ロータマグネットとの間にトルクを発生させることにより、前記シャフトを回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1およびその従属項に記載の発明によれば、スラストプレートは、シャフトの先端部を収容する凹形曲面を含む凹部を有している。また、スラストプレートは、潤滑オイル中に浸漬され、ハウジングに固定されることなく、シャフトの先端部とハウジングの底面との間に挟持されている。このため、シャフトの先端部とスラストプレートの凹部との当接位置に応じてスラストプレートが中心軸と直交する方向に移動し、シャフトとスラストプレートとが良好に調芯される。これにより、スラストプレートの偏摩耗を防止することができる。
【0024】
特に、請求項2に記載の発明によれば、スラストプレートの凹形曲面の曲率半径は、シャフトの凸形曲面の曲率半径以上である。このため、スラストプレートの凹部上においてシャフトを適切に支持することができる。
【0025】
特に、請求項3に記載の発明によれば、中心軸から凹部の外周端までの中心軸に直交する方向の距離は、スラストプレートの外周面とハウジングの内周面との中心軸に直交する方向の間隙よりも大きい。このため、ハウジング内においてスラストプレートが中心軸と直交する方向に移動したとしても、スラストプレートの凹部全体が中心軸から外れてしまうことはない。したがって、シャフトとスラストプレートとの間の調芯を常に有効に機能させることができる。
【0026】
また、請求項4およびその従属項に記載の発明によれば、スラストプレートは、ハウジングの底面側に向けて突き出した湾曲形状をなしている。また、スラストプレートは、潤滑オイル中に浸漬され、ハウジングに固定されることなく、シャフトの先端部とハウジングの底面との間に挟持されている。このため、シャフトの先端部とスラストプレートとの当接位置に応じてスラストプレートが移動又は傾斜し、シャフトとスラストプレートとが良好に調芯される。これにより、スラストプレートの偏摩耗を防止することができる。
【0027】
特に、請求項5に記載の発明によれば、スラストプレートの中心軸に直交する方向の寸法は、ハウジングの内周面の中心軸に直交する方向の寸法の1/2倍以上である。このため、ハウジング内においてスラストプレートが径方向に移動したとしても、スラストプレート全体が中心軸から外れてしまうことはない。したがって、シャフトとスラストプレートとの間の調芯を常に有効に機能させることができる。
【0028】
特に、請求項6に記載の発明によれば、スラストプレートは、ハウジングに形成された突出部に対して、中心軸についての周方向に対向する対向面を有する。このため、ハウジングの突出部とスラストプレートの対向面とを接触させることにより、ハウジングとスラストプレートとの相対回転を禁止することができる。
【0029】
また、請求項9およびその従属項に記載の発明によれば、凹形曲面が形成されたスラストプレートをハウジング内に配置し、シャフトの先端部をスラストプレートの凹形曲面に接触させた状態でスリーブとシャフトとを相対的に回転させることにより調芯を行う。これにより、シャフトとスラストプレートとを良好に調芯することができ、スラストプレートの偏摩耗を防止することができる。
【0030】
特に、請求項12およびその従属項に記載の発明によれば、湾曲形状を有するスラストプレートをハウジング内に配置し、シャフトの先端部をスラストプレートの凹形曲面に接触させた状態でスリーブとシャフトとを相対的に回転させることにより調芯を行う。これにより、シャフトとスラストプレートとを良好に調芯することができ、スラストプレートの偏摩耗を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図1〜図5、図8〜図11、および図15における上下方向に従って「上方」、「下方」、「上面」、「下面」等の語句を使用する。しかしながら、これにより本発明に係る軸受装置、スピンドルモータ、およびディスク駆動装置の設置姿勢が限定されるものではない。
【0032】
<1.第1実施形態>
<1−1.ディスク駆動装置の構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係るディスク駆動装置2の縦断面図である。ディスク駆動装置2は、磁気ディスク22を回転させつつ情報の読み出しおよび書き込みを行うハードディスク装置である。図1に示したように、ディスク駆動装置2は、主として、装置ハウジング21、ディスク22、アクセス部23、およびスピンドルモータ1を備えている。
【0033】
装置ハウジング21は、カップ状の第1ハウジング部材211と、板状の第2ハウジング部材212とを有している。第1ハウジング部材211は、上部に開口を有し、第1ハウジング部材211の内側の底面には、スピンドルモータ1とアクセス部23とが設置されている。第2ハウジング部材212は、第1ハウジング部材211の上部の開口を覆うように第1ハウジング部材211に接合され、第1ハウジング部材211と第2ハウジング部材212とに囲まれた装置ハウジング21の内部空間213に、ディスク22、スピンドルモータ1、およびアクセス部23が収容される。装置ハウジング21の内部空間213は、塵や埃が極度に少ない清浄な空間とされている。
【0034】
ディスク22は、中央部に孔を有する円板状の情報記録媒体である。ディスク22は、スピンドルモータ1のハブ部材42に装着され、スピンドルモータ1上に回転可能に支持されている。一方、アクセス部23は、ヘッド231、アーム232、およびヘッド移動機構233を有している。ヘッド231は、ディスク22の主面に近接し、ディスク22に対して情報の読み出しおよび書き込みを磁気的に行う。アーム232は、ヘッド231を支持しつつディスク22の主面に沿って揺動する。ヘッド移動機構233は、ディスク22の側方に設置されている。ヘッド移動機構233は、アーム232を揺動させることにより、ヘッド231をディスク22に対して相対的に移動させる。これにより、ヘッド231は、回転するディスク22の必要な位置にアクセスし、ディスク22に対して情報の読み出しおよび書き込みを行う。なお、ヘッド231は、ディスク22に対する情報の読み出しおよび書き込みのいずれか一方のみを行うものであってもよい。
【0035】
<1−2.スピンドルモータの構成>
続いて、上記のスピンドルモータ1の詳細な構成について説明する。図2は、スピンドルモータ1の縦断面図である。図2に示したように、スピンドルモータ1は、主として、ディスク駆動装置2の装置ハウジング21に固定されるステータ部3と、ディスク22を装着して所定の中心軸A周りに回転するロータ部4とを備えている。
【0036】
ステータ部3は、ベース部材31、ステータコア32、コイル33、および固定軸受ユニット34を有している。
【0037】
ベース部材31は、アルミニウム等の金属材料により形成され、ディスク駆動装置2の装置ハウジング21にねじ止め等により固定されている。ベース部材31には、中心軸Aの周りにおいて軸方向(中心軸Aに沿った方向。以下同じ。)に突出した略円筒形状のホルダ部311が形成されている。ホルダ部311の内周側(中心軸Aに対する内周側。以下同じ。)は、固定軸受ユニット34を保持するための貫通孔となっている。また、ホルダ部311の外周側(中心軸Aに対する外周側。以下同じ。)の面は、ステータコア32を嵌着させる取り付け面となっている。
【0038】
なお、本実施形態では、ベース部材31と第1ハウジング部材211とを別体としているが、ベース部材31と第1ハウジング部材211とが1つの部材から構成されていてもよい。この場合、ベース部材31および第1ハウジング部材211を構成する部材にホルダ部311が形成されることとなる。
【0039】
ステータコア32は、ホルダ部311の外周面に嵌着されるコアバック321と、コアバック321から径方向(中心軸Aに対する径方向。以下同じ。)の外側に向けて突出形成される複数本のティース部322とを有している。ステータコア32は、例えば、電磁鋼板を軸方向に積層させた積層鋼板により形成されている。
【0040】
コイル33は、ステータコア32の各ティース部322の周囲に巻回された導線により構成されている。コイル33は、所定の電源装置(図示省略)と接続されている。電源装置からコイル33に駆動電流を与えると、ティース部322には径方向の磁束が発生する。ティース部322に発生した磁束は、後述するロータマグネット43の磁束と互いに作用し、ロータ部4を中心軸Aの周りに回転させるためのトルクを発生させる。
【0041】
固定軸受ユニット34は、ロータ部4側のシャフト41を相対的に回転可能に支持するための機構である。固定軸受ユニット34は、シャフト41とともに流体動圧軸受装置5を構成する。図3は、流体動圧軸受装置5の構成を示した拡大縦断面図である。図3に示したように、固定軸受ユニット34は、スリーブ341、スラストプレート342、シール部材343、および軸受ハウジング344を有している。
【0042】
スリーブ341は、シャフト41が挿入される軸受穴341aを有する円筒形状の部材である。スリーブ341は、軸受ハウジング344の内周面に固定されている。スリーブ341は、軸受穴341aにシャフト41を挿通支持してシャフト41の径方向の移動を規制しつつ、シャフト41の中心軸A周りの回転を許容するラジアル軸受部を構成している。スリーブ341の内周面とシャフト41の外周面とは微小な(例えば、数μm程度の)隙間を隔てて互いに対向し、その隙間には、後述する潤滑オイル51が充填されている。スリーブ341は、金属粉末を加熱しつつ結合固化させることにより得られた焼結体により構成されている。このため、スリーブ341は、微視的に見れば、多数の微小な空洞を有する多孔質体となっており、その表面に潤滑オイルを含浸する。シャフト41は、潤滑オイルを含浸したスリーブ341に対して良好に摺動する。また、焼結体として構成されるスリーブ341は、比較的安価に得ることができる。
【0043】
スラストプレート342は、シャフト41の下方に配置された円板状の部材である。スラストプレート342は、その上面をシャフト41の下端部41bに当接させることによりシャフト41を軸方向に支持しつつ、シャフト41の中心軸A周りの回転を許容するスラスト軸受部を構成している。スラストプレート342は、例えば、ポリアセタールやナイロン等の熱可塑性樹脂を素材として構成することができる。
【0044】
図4は、スラストプレート342およびその周辺の構成を、更に拡大して示した縦断面図である。図4に示したように、スラストプレート342の上面の中央部分には、凹形曲面(部分球面形状)をなした凹部342aが形成されている。凹部342aの曲率半径SR1は、シャフト41の下端部41bの曲率半径SR2と同一又はそれより大きく設定されている。このため、凹部342aの上面はシャフト41の下端部41bと面または点で接触し、スラストプレート342とシャフト41との間には、いわゆるピボット軸受機構が構成されている。シャフト41は、このようなピボット軸受機構において微小な回転抵抗で中心軸A周りに回転することができる。また、スラストプレート342の上面に形成された凹部342aは、スラストプレート342とシャフト41との実接触面積を増加させ、シャフト41からスラストプレート342への圧力を分散させる役割を果たす。これにより、スラストプレート342の上面の摩耗が抑制される。
【0045】
図4に示したように、スラストプレート342は、軸受ハウジング344の内部において、軸受ハウジング344の底部上面とシャフト41の下端部41bとの間に介挿されている。但し、スラストプレート342は、軸受ハウジング344に対して固定されているわけではなく、軸受ハウジング344の底部上面とシャフト41の下端部41bとの間に挟持されることにより、最も安定な位置に移動してその位置が定まるようになっている。
【0046】
軸受ハウジング344の内部におけるスラストプレート342の位置決めの仕組みについて、図5を参照しつつ更に説明する。図5のように、軸受ハウジング344の内部において、スラストプレート342が若干ずれて配置されている場合、シャフト41の下端部41bは、スラストプレート342の凹部342aのうち中心軸aから外れた傾斜面に当接する。すると、シャフト41の下端部41bとスラストプレート342の凹部342aとの間には互いに抗力がはたらき、当該抗力の径方向の分力により、スラストプレート342は、図中矢印ARのように径方向に移動する。この結果、シャフト41の下端部41bが凹部342aの最も深い位置に当接する状態(図4の状態)となり、スラストプレート342の凹部342aの中心軸aは、シャフト41の中心軸Aに一致する。すなわち、シャフト41とスラストプレート342とが調芯される。
【0047】
このようなシャフト41とスラストプレート342との調芯は、後述するスピンドルモータ1の製造工程において適宜に行われる。また、製造後のスピンドルモータ1において、外部からの衝撃により軸受ハウジング344内のスラストプレート342の位置がずれた場合にも、上記のような調芯がされる。すなわち、本実施形態の流体動圧軸受装置5では、軸受ハウジング344の内部においてスラストプレート342の位置がずれた場合にも、シャフト41とスラストプレート342との当接位置に応じてスラストプレート342が径方向に移動することにより、シャフト41とスラストプレート342との調芯状態が自動的に回復する。これにより、スラストプレート342の凹部342aの偏摩耗が防止され、回転精度の悪化や回転振動の発生が防止される。
【0048】
図4に示したように、スラストプレート342の径方向の寸法D1は、軸受ハウジング344の内径D2の1/2倍よりも大きい。このため、軸受ハウジング344の内部においてスラストプレート342の位置が径方向にずれた場合にも、スラストプレート342の全体が中心軸Aから外れてしまうことはない。したがって、軸受ハウジング344の底部上面とシャフト41の下端部41bとの間からスラストプレート342が離脱してしまうことはない。
【0049】
また、図4に示したように、スラストプレート342の凹部342aの半径(中心軸Aから凹部342aの外周端までの径方向の距離)Rは、スラストプレート342の外周面と軸受ハウジング344の内周面との間隔(径方向の距離)Lよりも大きい。このため、軸受ハウジング344の内部においてスラストプレート342の位置が径方向にずれた場合にも、凹部342aの全体が中心軸Aから外れてしまうことはない。したがって、シャフト41の下端部41bがスラストプレート342の凹部342a以外の面に接触することはなく、シャフト41とスラストプレート342との間の調芯機構は、常に有効に機能する。
【0050】
図6は、スラストプレート342および軸受ハウジング344を図4のVI−VI面に沿って切断した水平断面図である。図6に示したように、軸受ハウジング344の底部上面には、上方へ向けて突出した突出部344aが形成されている。また、スラストプレート342の周縁部には、突出部344aと嵌合する切り欠き部342bが形成されている。このため、スラストプレート342が中心軸Aの周りに回転しようとすると、突出部344aと切り欠き部342bとが互いに周方向に接触し、スラストプレート342の回転を禁止する。突出部344aおよび切り欠き部342bは、このようにスラストプレート342の中心軸A周りの回転を禁止する「回転止め」として機能し、シャフト41とともにスラストプレート342が回転してしまうことを防止する役割を果たす。なお、スラストプレート342の径方向の移動を阻害しないように、突出部344aと切り欠き部342bとの間には、適当な隙間が形成されている。突出部344aと切り欠き部342bとの間に形成された隙間の大きさは、スラストプレート342上に形成された凹部342aの半径Rよりも小さいことが望ましい。このようにすれば、スラストプレート342の位置がずれた場合にも、凹部342aの全体が中心軸Aから外れてしまうことはない。
【0051】
図3に戻る。シール部材343は、スリーブ341の上部に配置された円環状の部材である。シール部材343の内周面343aは、上方に向かうに従って内径が増大する傾斜面となっている。このため、シール部材343の内周面343aとシャフト41の外周面との間隙343bの幅は、上方に向かうに従って増大する。間隙343bに形成される潤滑オイル51の界面は、表面張力によりメニスカス状となり、これにより潤滑オイル51が固定軸受ユニット34の外部へ漏れ出すことが防止される。すなわち、シール部材343とシャフト41との間隙343bにテーパシールが構成される。シール部材343は、例えば、ステンレスやアルミニウム等の金属あるいは樹脂により形成されたものを使用することができる。なお、シール部材343は、スリーブ341と一体に形成されていてもよい。
【0052】
軸受ハウジング344は、上記のスリーブ341、スラストプレート342、およびシール部材343を内部に収容する有底略円筒状の部材である。軸受ハウジング344は、ベース部材31のホルダ部311の内周側に形成された貫通孔の内部に、圧入又は焼きばめにより固定されている。スリーブ341およびシール部材343は、軸受ハウジング344の内周面に固定され、スラストプレート342は軸受ハウジング344の底面上に配置されている。軸受ハウジング344は、例えば、冷間圧延鋼板(SPCC,SPCD,SPCE)の表面に亜鉛鍍金を施した亜鉛鍍金鋼板(SECE)を、有底略円筒状にプレス成形することにより得られる。なお、軸受ハウジング344は、一体の鋼板により構成されていてもよいが、複数の別体の部材を組み合わせて構成されていてもよい。例えば、軸受ハウジング344の底部と筒部とが別体の部材として構成されていてもよい。
【0053】
軸受ハウジング344の内部には、エステルを主成分とする潤滑オイル51が充填されている。潤滑オイル51としては、例えば、ポリオールエステル系オイルやジエステル系オイル等のエステルを主成分とするオイルが使用される。エステルを主成分とするオイルは、耐摩耗性、熱安定性、および流動性に優れているため、流体動圧軸受装置5の潤滑オイル51として好適である。潤滑オイル51は、スリーブ341とシャフト41との間だけではなく、シャフト41とスラストプレート342との間や、スラストプレート342と軸受ハウジング344との間にも連続して充填されている。
【0054】
スラストプレート342は、軸受ハウジング344の内部に充填された潤滑オイル51中に浸漬されている。このため、スラストプレート342は、シャフト41の下端部41bおよび軸受ハウジング344の底部上面に対して滑らかに摺動する。シャフト41の下端部41bとスラストプレート342の凹部342aの上面とが当接すると、その当接位置に応じてスラストプレート342は径方向に滑らかに移動し、シャフト41とスラストプレート342とが良好に調芯される。
【0055】
また、潤滑オイル51中にスラストプレート342が浸漬された状態において、シャフト41の下端部41bと軸受ハウジング344の底部上面との間にスラストプレート342が狭持されると、スラストプレート342の周縁部は、潤滑オイルからの浮力を受けてごく僅かに浮上する。スラストプレート34は、シャフト41の下端部41bを包囲するように僅かに湾曲した状態となり、これにより、シャフト41とスラストプレート342との調芯状態がより安定して維持される。
【0056】
図2に戻る。ロータ部4は、シャフト41、ハブ部材42、およびロータマグネット43を有している。
【0057】
シャフト41は、中心軸Aに沿って設けられた略円柱形状の部材である。シャフト41は、スリーブ341の軸受穴341aに下部を挿入した状態で固定軸受ユニット34に支持されており、中心軸Aを中心として回転する。シャフト41の外周面には、シャフト41の外周面とスリーブ341の内周面との間に介在する潤滑オイル51に流体動圧を発生させるためのヘリングボーン形状のラジアル動圧溝列41aが刻設されている。シャフト41が回転するときには、ラジアル動圧溝列41aにより潤滑オイル51が加圧され、潤滑オイル51が作動流体として作用することによって、シャフト41が径方向に支持されつつ回転する。なお、ラジアル動圧溝列41aは、シャフト41の外周面とスリーブ341の内周面とのいずれか一方に刻設されていればよい。
【0058】
シャフト41の下端部付近には、固定軸受ユニット34からシャフト41が抜け出すことを防止するための鍔部材411が固定されている。鍔部材411は、シャフト41と一体化されてシャフト41の外周面から径方向に突出する突出部を形成する。鍔部材411の上面は、スリーブ341の下面と軸方向に対向する。ロータ部4に上方へ向かう力が作用したときには、スリーブ341の下面に鍔部材411の上面が当接し、これによりステータ部3とロータ部4とが分離することが防止される。なお、シャフト41および鍔部材411は、単一の部材により形成されていてもよい。
【0059】
シャフト41の下端部41bは、凸形曲面(部分球面形状)をなしており、鍔部材411よりも更に下方に突出している。シャフト41の下端部41bは、スラストプレート342の凹部342a(図3参照)に当接し、これにより、シャフト41は軸方向に支持される。鍔部材411の上面とスリーブ341の下面との間の軸方向の間隔H(図4参照)は、スラストプレート342の上面に形成された凹部342aの深さよりも小さくしておくことが望ましい。このようにすれば、シャフト41の上方への変位量はD以下に制限され、シャフト41の下端部41bからスラストプレート342が離脱してしまうことを防止することができる。
【0060】
ハブ部材42は、シャフト41に固定されてシャフト41とともに回転する部材である。ハブ部材42は、中心軸Aの周囲において径方向外側に広がる形状を有している。より詳細に説明すると、ハブ部材42は、シャフト41の上端部に圧入又は焼きばめにより接合される接合部421と、接合部421から径方向外側および下方へ向けて広がる胴部422と、胴部422の外周縁から垂下する垂下部423とを有している。ハブ部材42は、このような形状により、ステータコア32、コイル33、および固定軸受ユニット34の上方を覆う。
【0061】
ハブ部材42の胴部422には、ディスク22を支持するための第1支持面422aおよび第2支持面422bが形成されている。第1支持面422aは、中心軸Aに対して垂直に形成された平面であり、第2支持面422bは、第1支持面422aの内周側において中心軸Aに対して平行に形成された円筒面である。ハブ部材42上にディスク22が装着されたときには、第1支持面422aにディスク22の下面が接触するとともに第2支持面422bにディスク22の内周部(内周面又は内周縁)が接触し、これによりディスク22が水平姿勢で支持される。ハブ部材42は、例えば、アルミニウム、磁性SUS(ステンレス)、冷間圧延鋼板(SPCC,SPCD,SPCE)等の金属材料から形成される。
【0062】
ロータマグネット43は、ハブ部材42の垂下部423の内周面に固定されている。ロータマグネット43は、中心軸Aを取り囲むように円環状に配置されている。ロータマグネット43の内周面は磁極面となっており、ステータコア32の複数のティース部322の外周面に対向する。
【0063】
ロータマグネット43は、その磁気中心の高さがティース部322の磁気中心の高さよりもやや高くなるような位置に配置されている。すなわち、ロータマグネット43とティース部322とは、軸方向に関して磁気的なバイアスを有している。このため、ティース部322とロータマグネット43との間には軸方向の吸引力成分が発生し、これにより、ロータ部4とステータ部3との間には、互いに接近方向の力がはたらく。この結果、シャフト41の下端部41bとスラストプレート342の凹部342aとの間にも互いに接近方向の力が作用するため、シャフト41とスラストプレート342との間の調芯機能が有効に機能する。
【0064】
また、ベース部材31の上面のうちロータマグネット43と軸方向に対向する位置には、ステンレス等の磁性材料により形成されたスラストヨーク312が固定されている。このため、スラストヨーク312とロータマグネット43との間にも磁気的な吸引力が発生し、この吸引力がロータ部4とステータ部3との間にはたらく力を増大させる。なお、このようなスラストヨーク312を設けることなくロータマグネット43とティース部322との位置関係のみによって軸方向の吸引力を発生させてもよい。また、ロータマグネット43とティース部322との間に磁気的なバイアスを形成することなく、スラストヨーク312の作用のみによって軸方向の吸引力を発生させてもよい。
【0065】
以上の構成を有するスピンドルモータ1において、ステータ部3のコイル33に駆動電流を与えると、ステータコア32の複数のティース部322に径方向の磁束が発生する。そして、ティース部322とロータマグネット43との間の磁束の作用によりトルクが発生し、ステータ部3に対してロータ部4が中心軸Aを中心として回転する。ハブ部材42上に支持されたディスク22は、シャフト41およびハブ部材42とともに中心軸Aを中心として回転する。
【0066】
<1−3.スピンドルモータの製造手順>
続いて、上記のスピンドルモータ1の製造手順について、図7のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0067】
スピンドルモータ1を製造するときには、まず、上記のシャフト41、スリーブ341、スラストプレート342、シール部材343、および軸受ハウジング344を準備する。そして、軸受ハウジング344の内部にスラストプレート342を投入し、軸受ハウジング344の底部上面にスラストプレート342を配置する(ステップS1)。続いて、軸受ハウジング344の内部にシャフト41、スリーブ341、およびシール部材343を順次に投入し、これらの各部材をそれぞれ軸受ハウジング344の内部の所定の位置に配置する(ステップS2)。軸受ハウジング344の内部においては、シャフト41の外周面とスリーブ341の内周面とが対向し、また、シャフト41の下端部41bとスラストプレート342の上面に形成された凹部342aとが対向する。
【0068】
次に、シャフト41とシール部材343との間の隙間から潤滑オイル51を注入し、軸受ハウジング344の内部に潤滑オイル51を充填する(ステップS3)。軸受ハウジング344の内部に注入された潤滑オイル51は、シャフト41の下端部41bとスラストプレート342の凹部342aとの間や、スラストプレート342の下面と軸受ハウジング344の底部上面との間にも、連続的に充填される。これにより、シャフト41の下端部41bとスラストプレート342の凹部342aとの間の摺動性およびスラストプレート342の下面と軸受ハウジング344の底部上面との間の摺動性が向上し、シャフト41と軸受ハウジング344との間でスラストプレート342は径方向に良好に移動可能となる。
【0069】
続いて、シャフト41にハブ部材42を固定する(ステップS4)。ハブ部材42には、予めロータマグネット43が固定されている。したがって、シャフト41にハブ部材42を固定すると、シャフト41、ハブ部材42、およびロータマグネット43がロータ部4として一体化される。次に、一体化したロータ部4と固定軸受ユニット34とをベース部材31に接合する。ここでは、固定軸受ユニット34の軸受ハウジング344にベース部材31を固定する(ステップS5)。ベース部材31には、予めステータコア32およびコイル33が固定されている。したがって、軸受ハウジング344にベース部材31を固定すると、ベース部材31、ステータコア32、コイル33、および固定軸受ユニット34がステータ部3として一体化される。
【0070】
その後、コイル33に駆動電流を与え、ステータ部3に対してロータ部4を所定の回転速度で回転させる。シャフト41は、その下端部41bをスラストプレート342の凹部342aに当接させた状態で中心軸Aを中心として回転する(ステップS6)。このとき、スラストプレート342は、シャフト41から受ける力によって径方向に移動し、これにより、スラストプレート342の凹部342aの中心軸aがシャフト41の中心軸Aに一致する状態とされる。すなわち、シャフト41とスラストプレート342とが調芯される。
【0071】
以上のように、本実施形態の流体動圧軸受装置5に使用されるスラストプレート342は、シャフト41の下端部41bを収容する凹部342aを有している。また、スラストプレート342は、潤滑オイル51中に浸漬され、軸受ハウジング344に固定されることなく、シャフト41の下端部41bと軸受ハウジング344の底部上面との間に挟持されている。このため、シャフト41の下端部41bとスラストプレート342の凹部342aとの当接位置に応じてスラストプレート342は径方向に移動し、その結果、シャフト41とスラストプレート342とが良好に調芯される。これにより、スラストプレート342の偏摩耗が防止される。
【0072】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態のスラストプレート342とは異なる形状のスラストプレート345を使用する。ディスク駆動装置2、スピンドルモータ1、および流体動圧軸受装置5の構成のうち、スラストプレート345以外の部分については、上記の第1実施形態と同等である。このため、以下では、主としてスラストプレート345およびその周辺の構成について説明し、他の部分については重複説明を省略する。
【0073】
図8は、第2実施形態に係るスラストプレート345およびその周辺の構成を示した縦断面図である。図8に示したように、スラストプレート345は、その上面全体が凹形曲面をなしているとともに、下面全体が凸形曲面をなしており、全体として、軸受ハウジング344の底部に向けて突き出した湾曲形状となっている。
【0074】
スラストプレート345の上面の曲率半径SR3は、シャフト41の下端部41bの曲率半径と同一又はそれより大きく設定されている。このため、スラストプレート345の上面はシャフト41の下端部41bと面または点で接触し、スラストプレート342とシャフト41との間には、いわゆるピボット軸受機構が構成されている。シャフト41は、このようなピボット軸受機構において微小な回転抵抗で中心軸A周りに回転することができる。また、スラストプレート345が湾曲形状をなしていることにより、スラストプレート345とシャフト41との実接触面積が増加し、シャフト41からスラストプレート345への圧力が分散される。これにより、スラストプレート345の上面の摩耗が抑制される。
【0075】
図8に示したように、スラストプレート345は、軸受ハウジング344の内部において、軸受ハウジング344の底面とシャフト41の下端部41bとの間に介挿されている。但し、スラストプレート345は、軸受ハウジング344に対して固定されているわけではなく、軸受ハウジング344の底面とシャフト41の下端部41bとの間に挟持されることにより、安定的にその位置および姿勢が定まるようになっている。
【0076】
図9は、軸受ハウジング344の内部においてスラストプレート345の位置が若干ずれている場合のスラストプレート345およびその周辺の構成を示した縦断面図である。このようにスラストプレート342の位置がずれている場合、シャフト41の下端部41bは、スラストプレート345の上面のうち中央から外れた箇所に当接する。スラストプレート345は、シャフト41との当接箇所において下方向の押圧力を受け、これにより、シャフト41との当接箇所が最も低くなるような傾斜姿勢をとる。そして、そのままの姿勢で安定し、中心軸A上の当接箇所においてシャフト41を支持する。
【0077】
すなわち、本実施形態のスラストプレート345は湾曲形状をなしているため、スラストプレート345の上面の何処の箇所にシャフト41が当接したとしても、その当接箇所を中心としてシャフト41を支持することができる。したがって、シャフト41とスラストプレート345とを良好に調芯することができる。なお、本実施形態のスラストプレート345も、軸受ハウジング344に対して固定されていないため、軸受ハウジング344の内部において径方向に移動可能である。したがって、スラストプレート345の上面にシャフト41が当接したときに、シャフト41との間に発生する効力の径方向の分力によりスラストプレート345が径方向に若干移動することはあり、そのように移動したとしても差し支えはない。
【0078】
このようなシャフト41とスラストプレート345との調芯は、スピンドルモータ1の製造工程において適宜に行われる。また、製造後のスピンドルモータ1において、外部からの衝撃により軸受ハウジング344内のスラストプレート345の位置がずれた場合にも、スラストプレート345は、そのずれた状態におけるシャフト41との当接箇所に応じて傾斜し、その当接箇所を中心としてシャフト41を支持することができる。すなわち、本実施形態の流体動圧軸受装置5では、スラストプレート345が傾斜可能であることにより、シャフト41とスラストプレート345との調芯状態を常に維持することができる。これにより、スラストプレート345の上面の偏摩耗が防止され、回転精度の悪化や回転振動の発生が防止される。
【0079】
図8に示したように、スラストプレート345の径方向の寸法D1は、軸受ハウジング344の内径D2の1/2倍よりも大きい。このため、軸受ハウジング344の内部においてスラストプレート345の位置が径方向にずれた場合にも、スラストプレート345の全体が中心軸Aから外れてしまうことはない。したがって、軸受ハウジング344の底部上面とシャフト41の下端部41bとの間からスラストプレート342が離脱してしまうことはない。また、スラストプレート345の上面に形成された凹形曲面の深さを、鍔部材411の上面とスリーブ341の下面との間の軸方向の間隔Hよりも大きくしておけば、シャフト41の下端部41bと軸受ハウジング344の底部上面との間からスラストプレート342が離脱してしまうことを更に抑制することができる。
【0080】
第1実施形態のスラストプレート342と同じように、本実施形態のスラストプレート345にも、軸受ハウジング344の底面に形成された突出部344aと嵌合して回転止めの役割を果たす切り欠き部が形成されている。
【0081】
本実施形態におけるスピンドルモータ1の製造手順は、第1実施形態におけるスピンドルモータ1の製造手順と、ほぼ同等である。すなわち、図7のフローチャートと同等の手順に従ってスピンドルモータ1が製造される。但し、ステップS6においては、スラストプレート345の上面にシャフト41の下端部41bを当接させた状態でシャフト41を回転させ、その際にシャフト41から受ける力によってスラストプレート342が傾斜することにより、シャフト41とスラストプレート342とが調芯される。
【0082】
<3.変形例>
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、スラストプレートの形状は、上記の第1実施形態および第2実施形態で示した形状のほか、例えば、図10および図11に示したような形状であってもよい。図10および図11のスラストプレート346は、その上面の中央部分に凹形曲面をなした凹部346aを有しているとともに、その下面の中央部分に軸受ハウジング344の底部に向けて突出した凸部346bを有している。このため、スラストプレート346は、径方向に移動してシャフト41とスラストプレート346との間の調芯を行うこともでき、また、傾斜することによってシャフト41とスラストプレート346との間の調芯を行うこともできる。
【0083】
また、スラストプレート342の回転を禁止するための機構は、図6に示した機構のほか、図12〜図14に示したような機構であってもよい。図12の例では、軸受ハウジング344の底部上面に形成された突出部344aと、スラストプレート342に形成された貫通孔342cとを嵌合させ、突出部344aと貫通孔342cとを周方向に接触させることにより、スラストプレート342の回転を禁止する。また、図13の例では、軸受ハウジング344の底部上面に形成された一対の突出部344bの間に、スラストプレート342の周縁部に径方向外側へ向けて形成された突出部342dを配置し、これらの突出部344b,342dを周方向に接触させることにより、スラストプレート342の回転を禁止する。また、図14の例では、スラストプレート342に形成された突出部342eと、軸受ハウジング344に形成された貫通孔344cとを嵌合させ、突出部342eと貫通孔344cとを周方向に接触させることにより、スラストプレート342の回転を禁止する。すなわち、スラストプレート342の回転を禁止させるためには、軸受ハウジング342に形成された接触面に対して周方向に対向する対向面を、スラストプレート342側に形成しておけばよい。
【0084】
また、本発明の軸受装置は、図15に示したような流体動圧軸受装置6であってもよい。図15の流体動圧軸受装置6では、鍔部材411の代わりにシール部材343の内周側に凸部343cが形成されており、凸部343cとシャフト41の外周面に形成された段差部41cとで固定軸受ユニット34からシャフト41が抜け出すことを防止する。また、上記の各実施形態では、軸回転型のアウターロータモータについて説明したが、本発明のスピンドルモータは、軸固定型のモータや、インナーロータモータであってもよい。また、上記の各実施形態では、磁気ディスク22を回転させるためのスピンドルモータ1について説明したが、本発明のスピンドルモータは、光ディスク等の他の記録ディスクを回転させるためのモータであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1実施形態に係るディスク駆動装置の縦断面図である。
【図2】第1実施形態に係るスピンドルモータの縦断面図である。
【図3】第1実施形態に係る流体動圧軸受装置の縦断面図である。
【図4】第1実施形態に係るスラストプレートおよびその周辺の構成を示した拡大縦断面図である。
【図5】第1実施形態に係るスラストプレートおよびその周辺の構成を示した拡大縦断面図である。
【図6】第1実施形態に係るスラストプレートおよび軸受ハウジングの水平断面図である。
【図7】第1実施形態に係るスピンドルモータの製造手順を示したフローチャートである。
【図8】第2実施形態に係るスラストプレートおよびその周辺の構成を示した縦断面図である。
【図9】第2実施形態に係るスラストプレートおよびその周辺の構成を示した縦断面図である。
【図10】変形例に係るスラストプレートおよびその周辺の構成を示した縦断面図である。
【図11】変形例に係るスラストプレートおよびその周辺の構成を示した縦断面図である。
【図12】変形例に係るスラストプレートおよび軸受ハウジングの水平断面図である。
【図13】変形例に係るスラストプレートおよび軸受ハウジングの水平断面図である。
【図14】変形例に係るスラストプレートおよび軸受ハウジングの水平断面図である。
【図15】変形例に係る流体動圧軸受装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0086】
1 スピンドルモータ
2 ディスク駆動装置
3 ステータ部
4 ロータ部
5,6 流体動圧軸受装置
21 装置ハウジング
22 ディスク
23 アクセス部
31 ベース部材
32 ステータコア
33 コイル
34 固定軸受ユニット
41 シャフト
41b 下端部
42 ハブ部材
43 ロータマグネット
51 潤滑オイル
341 スリーブ
342,345,346 スラストプレート
342a,346a 凹部
342b 切り欠き部
343 シール部材
344 軸受ハウジング
344a 突出部
A 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体動圧軸受装置であって、
凸形曲面をなした先端部を有するシャフトと、
前記シャフトの中心軸を中心として前記シャフトを相対回転可能に支持するスリーブと、
前記シャフトと前記スリーブとの間に保持される潤滑オイルと、
前記シャフトの前記先端部を収容する凹形曲面を含む凹部を有し、前記シャフトの前記先端部に当接しつつ前記シャフトの前記中心軸周りの回転を許容するスラストプレートと、
前記スリーブおよび前記スラストプレートを内部に配置する有底筒状のハウジングと、
を備え、
前記スラストプレートは、前記潤滑オイル中に浸漬され、前記ハウジングに固定されることなく、前記シャフトの前記先端部と前記ハウジングの底面との間に挟持されることによりその位置が定められていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記スラストプレートの前記凹形曲面の曲率半径は、前記シャフトの前記凸形曲面の曲率半径以上であることを特徴とする請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
前記中心軸から前記凹部の外周端までの前記中心軸に直交する方向の距離は、前記スラストプレートの外周面と前記ハウジングの内周面との前記中心軸に直交する方向の間隙よりも大きいことを特徴とする請求項2記載の軸受装置。
【請求項4】
流体動圧軸受装置であって、
凸形曲面をなした先端部を有するシャフトと、
前記シャフトの中心軸を中心として前記シャフトを相対回転可能に支持するスリーブと、
前記シャフトと前記スリーブとの間に保持される潤滑オイルと、
前記シャフトの前記先端部に当接しつつ前記シャフトの前記中心軸周りの回転を許容するスラストプレートと、
前記スリーブおよび前記スラストプレートを内部に配置する有底筒状のハウジングと、
を備え、
前記スラストプレートは、前記ハウジングの底面側に向けて突き出した湾曲形状をなしており、且つ前記潤滑オイル中に浸漬され、前記ハウジングに固定されることなく、前記シャフトの前記先端部と前記ハウジングの前記底面との間に挟持されることによりその位置および姿勢が定められていることを特徴とする軸受装置。
【請求項5】
前記スラストプレートの前記中心軸に直交する方向の寸法は、前記ハウジングの内周面の前記中心軸に直交する方向の寸法の1/2倍以上であることを特徴とする請求項1,2,および4のいずれか記載の軸受装置。
【請求項6】
前記スラストプレートは、前記ハウジングに形成された突出部に対して、前記中心軸についての周方向に対向する対向面を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の軸受装置。
【請求項7】
ベース部材と、
前記ベース部材に固定された磁束発生部と、
請求項1乃至6のいずれか記載の軸受装置によって前記ベースに対して回転自在に支持されたロータ部と、
前記磁束発生部に対向して前記ロータ部に取り付けられたロータマグネットと、
を備えることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項8】
ディスクを回転させるディスク駆動装置であって、
装置ハウジングと、
前記装置ハウジングの内部に固定されるとともに、前記ロータ部に前記ディスクを装着した請求項7記載のスピンドルモータと、
前記ディスクに対して情報の読み出しおよび/または書き込みを行うアクセス部と、
を備えることを特徴とするディスク駆動装置。
【請求項9】
軸受装置の製造方法であって、
a)軸方向一方側の端部に凸形曲面をなした先端部を有するシャフトと、前記シャフトの中心軸を中心として前記シャフトを相対回転可能に支持し得るスリーブと、前記軸方向他方側の面に前記シャフトの前記先端部を収容する凹形曲面が形成されたスラストプレートと、前記軸方向一方側の端部が閉塞され前記軸方向他方側の端部が開口し前記スリーブおよび前記スラストプレートを内部に配置し得る有底筒状のハウジングと、を準備する準備工程と、
b)前記ハウジング内に、前記スラストプレート、前記スリーブ、および、前記シャフトを収容し、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面、および、前記シャフトの前記先端部と前記スラストプレートの前記凹形曲面とをそれぞれ対向させる配置工程と、
c)前記シャフトと前記スラストプレートとの間、及び前記スラストプレートと前記ハウジングの内底面との間に潤滑オイルを充填させる充填工程と、
d)前記工程c)の後に、前記シャフトの前記先端部を前記スラストプレートの前記凹形曲面に接触させた状態で前記シャフトの中心軸を中心として前記スリーブと前記シャフトとを相対的に回転させることにより、前記シャフトの前記中心軸と前記スラストプレートの前記凹形曲面との相対位置を定める調芯を行う調芯工程と、
を備えることを特徴とする軸受装置の製造方法。
【請求項10】
前記工程d)によって、前記スラストプレートの重心位置と、前記シャフトの前記中心軸とは、ほぼ一致することを特徴とする請求項9記載の軸受装置の製造方法。
【請求項11】
前記工程d)において、前記相対回転に伴い、前記スラストプレートが前記シャフトの前記先端部に対し径方向に移動することにより前記調芯が行われること特徴とする請求項9又は10記載の軸受装置の製造方法。
【請求項12】
軸受装置の製造方法であって、
a)軸方向一方側の端部に凸形曲面をなした先端部を有するシャフトと、前記シャフトの中心軸を中心として前記シャフトを相対回転可能に支持し得るスリーブと、前記軸方向一方側へ向けて突き出した湾曲形状を有するスラストプレートと、前記軸方向一方側の端部が閉塞され前記軸方向他方側の端部が開口し前記スリーブおよび前記スラストプレートを内部に配置し得る有底筒状のハウジングと、を準備する準備工程と、
b)前記ハウジング内に、前記スラストプレート、前記スリーブ、および、前記シャフトを収容し、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面、および、前記シャフトの前記先端部と前記スラストプレートの前記軸方向他方側の面とをそれぞれ対向させる配置工程と、
c)前記シャフトと前記スラストプレートとの間、及び前記スラストプレートと前記ハウジングの内底面との間に潤滑オイルを充填させる充填工程と、
d)前記工程c)の後に、前記シャフトの前記先端部を前記スラストプレートの前記軸方向他方側の面に接触させた状態で前記シャフトの前記中心軸を中心として前記スリーブと前記シャフトとを相対的に回転させることにより、前記シャフトの前記中心軸に対する前記スラストプレートの相対位置および姿勢を定める調芯を行う調芯工程と、
を備えることを特徴とする軸受装置の製造方法。
【請求項13】
前記工程d)において、前記相対回転に伴い、前記スラストプレートと前記シャフトの前記先端部との当接位置に応じて前記スラストプレートが傾斜することにより、前記調芯が行われることを特徴とする請求項12記載の軸受装置の製造方法。
【請求項14】
前記工程d)の前に、前記軸受装置の前記ハウジングに磁束発生部を有するベース部材を取り付けるとともに、前記軸受装置の前記シャフトにロータマグネットを有するロータ部を取り付ける組立工程を更に備え、
前記工程d)では、前記磁束発生部と前記ロータマグネットとの間にトルクを発生させることにより、前記シャフトを回転させることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか記載の軸受装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−79658(P2009−79658A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248723(P2007−248723)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】