説明

軸受装置

【課題】定格荷重を増大でき、かつ、転動体の錆びを効果的に防止できる軸受装置を提供すること。
【解決手段】ロールの軸首部10aを支持する軸受装置は、軸受箱5内に、内輪1と、外周面2aが球状に形成された外輪2と、内輪1と外輪2の間に配置された複数の円筒ころ3とを収容し、軸受箱5の内側面に形成した球面座6に、外輪の外周面2aを嵌合する。従来の調心輪を削除することにより、内輪1と外輪2と円筒ころ3の寸法を大きくできるので、定格荷重を増大できる。また、外輪の外周面の軸方向の端部2dを、軸受箱5の側部の蓋の内側面7aに接する球面座の端部6aよりも、径方向外側かつ軸方向内側に配置する。これにより、ロール10上のスラブを冷却する水が軸受箱5内に浸入しても、円筒ころ3に水が伝わることを防止できて、円筒ころ3の錆びを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば連続鋳造装置のロールの支持に好適な軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続鋳造装置のロールを支持する軸受装置としては、ロールの端面から突出した軸首部の周面に設けられた内輪と、この内輪の外周面に内周面を対向させて配置されていると共に外周面が球状に形成された外輪と、上記内輪の外周面と外輪の内周面との間に配置された複数の円筒ころと、上記外輪の外周面に嵌合する球状の内周面を有する調心輪とを備えたものがある。上記内輪と、外輪と、円筒ころと、調心輪とを軸受箱内に収容し、この軸受箱の側部の開口を蓋で閉じている。この蓋の内側面は、調心輪の端面に当接している。
【0003】
上記軸受箱は、冷却水が供給される冷却ジャケットが上部に形成されて、ロール上のスラブの熱で軸受箱内が異常高温になるのを防止している。また、上記軸受箱の上面をロールの上端よりも下方に形成して、ロール上のスラブが軸受箱に接触するのを防止している。このため、上記従来の軸受装置は、ロールの軸首部の外周面と軸受箱の上面との間の比較的小さい距離に、上記内輪、円筒ころ、外輪、調心輪及び冷却ジャケットを配置する必要がある。したがって、円筒ころの径を増大し難く、軸受装置の定格荷重を増大し難いという問題がある。
【0004】
また、上記従来の軸受装置は、連続鋳造工程においてロール上のスラブに散布される冷却用の水が、軸受箱蓋の内側面に沿って軸受箱内に浸入する。この軸受箱内に浸入した水が、軸受箱蓋の内側面に接する調心輪の端面に沿って、この調心輪と軸方向において略同じ寸法の外輪の端面に流れ、この外輪の端面に沿って円筒ころに付着する。その結果、円筒ころが錆びて、軸受装置のメンテナンスの手間と費用が増大するという問題がある。
【0005】
ここで、従来、連続鋳造装置用の軸受装置について、軸受箱の内側面に球面座を形成し、この球面座に外輪の外周面を嵌合することによって調心輪を削除し、円筒ころの径を増大して、定格荷重を増大することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この軸受装置は、軸方向に連なる2つのロールを連結する連結軸を支持するものであり、ロールの撓みに伴う上記連結軸の傾斜が比較的少ないことから、外輪の上半分の軸方向寸法を円筒ころの軸方向寸法よりも小さく形成している。
【特許文献1】実開平5−71438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記球面座に外輪の外周面を嵌合した軸受装置は、外輪の上半分部分の軸方向寸法を、円筒ころの軸方向寸法よりも小さく形成しているので、定格荷重を大幅に増大するのは困難である。また、露出した円筒ころの周面に水が付着し易く、錆びが生じる場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、定格荷重を増大でき、かつ、転動体の錆びを効果的に防止できる軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の軸受装置は、内輪と、
外周面が球状に形成された外輪と、
上記内輪の外周面と外輪の内周面との間に配置された複数の転動体と、
上記内輪、外輪及び転動体を収容すると共に、上記外輪の外周面に嵌合する球面座が内側面に形成された軸受箱と、
上記軸受箱の側部に設けられた蓋とを備え、
上記外輪の外周面の軸方向の端部は、上記蓋の内側面に接する上記軸受箱の球面座の端部よりも、径方向外側かつ軸方向内側に位置していることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、上記内輪が設けられる被支持軸が撓んだ場合、上記外輪の外周面が軸受箱の球面座に対して摺動することにより、上記内輪と転動体と外輪が、上記球面座の中心周りに回動して調心が行われる。調心輪を用いることなく調心を行うことができるので、上記被支持軸の外周面と軸受箱の内側面との間の距離が比較的小さく制限されても、転動体の径を大きくでき、転動体のPCD(Pitch Circle Diameter)を大きくでき、転動体の数を増大でき、また、内輪及び外輪の径方向の寸法を増大できる。その結果、軸受装置の定格荷重を増大できる。
【0010】
また、上記外輪の外周面の軸方向の端部が、上記蓋の内側面に接する上記軸受箱の球面座の端部よりも、径方向外側かつ軸方向内側に位置するので、蓋と軸受箱との隙間から軸受箱内に水が浸入しても、この水が球面座に沿って転動体に流れることが防止される。したがって、この軸受装置は、例えば連続鋳造装置のロールの支持に用いられてスラブの冷却水を受けても、転動体の錆びを効果的に防止できる。したがって、軸受装置のメンテナンスの手間と費用を削減できる。
【0011】
なお、上記軸受装置の定格荷重を有効に増大し、かつ、錆びを効果的に防止するには、上記外輪の軸方向の寸法を、上記転動体の軸方向の寸法よりも大きく形成するのが好ましい。
【0012】
一実施形態の軸受装置は、上記外輪の軸方向の略中央に、この外輪の外周面と内周面との間を連通する給油孔が形成されている。
【0013】
上記実施形態によれば、上記外輪の給油孔を通して外周面側から内周面側に給油を行うことにより、上記転動体の周面に、軸方向の中央から両端に向かう油の流れを形成できる。したがって、万一、転動体の端部に水が付着しても、この水が転動体の周面を軸方向中央に向かって流れることを防止できて、転動体の錆びを効果的に防止できる。
【0014】
また、上記給油孔は、外輪の軸方向の両端よりも厚みが大きくて強度が大きい軸方向の中央に形成するから、外輪の例えば割れや欠け等の不都合を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の軸受装置を図示の実施形態により詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態としての軸受装置を示す断面図である。この軸受装置は、連続鋳造装置のロールを回転自在に支持する円筒ころ軸受である。
【0017】
この軸受装置は、内輪1と、外周面2aが球状に形成された外輪2と、内輪の外周面1aと外輪の内周面2bの間に配置された複数の転動体としての円筒ころ3と、上記内輪1、外輪2及び円筒ころ3を収容する軸受箱5を備える。
【0018】
上記内輪1は、ロール10の端面から突出した軸首部10aの外周面に固定されている。ロール10は、図示しないモールドから排出されたスラブを上端に載置して搬送するものである。このロール10上のスラブに軸受装置が接触しないように、軸受箱5の上面が、ロール10の上端よりも径方向内側に位置するように形成されている。
【0019】
上記軸受箱5の内側面には、上記外輪の球状の外周面2aと略同じ球面を有する球面座6が形成され、この球面座6に外輪の外周面2aが嵌合している。また、軸受箱5の側面5dに開口部が形成され、この開口部に、ロールの軸首部10aの先端部を取り囲むように蓋7が嵌め込まれている。この蓋の内側面7aは、上記球面座の軸方向の端部6aに接している。この蓋の内側面7aに接する球面座の軸方向の端部6aよりも、上記外輪の外周面の軸方向の端部2dが、径方向の外側かつ軸方向の内側に位置している。蓋7の径方向内側の縁にオイルシール8が設けられており、このオイルシール8は軸首部10aの外周面の先端部に接している。軸受箱5の上部には、冷却水が供給される中空部5cが設けられて、軸受箱5と一体に水冷ジャケットが形成されている。上記軸受箱5の球面座6には、外輪2を外部から球面座6に挿入するための2つの入れ溝6c,6cが形成されている。上記入れ溝6cは、球面座6の球面とほぼ同じであって少し大きい半径を有する円筒面の一部から形成されている。上記入れ溝6cを形成する上記円筒面の軸中心は、球面座6の上記球面の中心を通り、軸受箱5の側面5dに対して垂直に延在している。上記入れ溝6cは、上記開口部の形成された軸受箱5の側面5dに対して垂直に延在している。上記入れ溝6cは、上記開口部から、入れ溝6cの延在方向に垂直な仮想平面を仮定したときに、その仮想平面における球面座6の球面の接する円の半径が最も大きくなる部分を少し超えた位置まで形成されている。上記入れ溝6cの幅6dは、外輪2の幅2dよりも少し大きく形成されている。上記2つの入れ溝6cは、2つの入れ溝6cの延在方向と軸受箱5の鉛直方向と球面座6の上記球面の中心とを含む平面に対して面対称に形成されている。
【0020】
外輪2には、軸方向の中央に、径方向に延びて外周面2aと内周面2bを連通する給油穴2cが形成されている。上記給油孔2cは、外輪2の周方向に略等間隔をおいて4つ設けられている。軸受箱の球面座6には、上記給油孔2cに連通する給油溝6bが形成され、図示しない給油装置から上記給油溝6bを通して給油孔2cに潤滑油が供給されるようになっている。外輪の内側面2bには、円筒ころ3を案内する案内溝が形成されており、この案内溝の底に、給油孔2cが開口している。上記外輪2は、軸方向の寸法が全周で単一に形成されている。また、外輪2の軸方向の寸法は、円筒ころ3の軸方向の寸法よりも大きく形成されている。
【0021】
上記軸受箱5のロール10側の側面に形成された開口部には、ロール側蓋12が嵌め込まれている。このロール側蓋12の軸首部10a側の縁に、オイルシール13が設けられている。軸首部10aのロール10の付け根にシールリング14が設けられており、このシールリング14の外周面に上記オイルシール13が接している。
【0022】
上記構成の軸受装置は、以下のように動作する。
【0023】
連続鋳造工程において、モールドで所定の断面形状に成形されたスラブは、複数の上記ロール10上に載置されて搬送され、この搬送の過程で冷却されて、切断機で所定の長さに切断される。上記ロール10がスラブを支持する際、スラブの重量によってロール10が撓んでロールの軸首部10aが傾斜する。これに伴い、外輪の外周面2aが軸受箱5の球面座6に対して摺動することにより、内輪1と円筒ころ3と外輪2が球面座6の中心周りに回動して調心が行われる。このように、従来の調心輪を用いることなく調心を行うことができるので、軸受箱5の上面がロール10の上端よりも下方に位置して軸首部10aの外周面と軸受箱5の内側面との間の距離が比較的小さく制限されるにもかかわらず、従来よりも大径の円筒ころ3を用いることができる。また、円筒ころ3のPCD(Pitch Circle Diameter)を大きくでき、円筒ころ3の数を増大できる。さらに、内輪1及び外輪2の厚みを増大できる。その結果、軸受装置の定格荷重を効果的に増大できる。
【0024】
ロール10上をスラブが搬送されるとき、スラブに冷却用の水が散布され、この水が軸受装置に流れる。ここで、軸受箱5の側面の蓋の内側面7aが、軸受箱の球面座の軸方向の端部6aに接していて、この蓋の内側面7aに接する球面座の軸方向の端部6aよりも、上記外輪の外周面の軸方向の端部2dが、径方向の外側かつ軸方向の内側に位置している。したがって、蓋7と軸受箱5との隙間から軸受箱5内に水が浸入しても、この水が球面座6に沿って円筒ころ3に達すること防止できる。したがって、この軸受装置は円筒ころ3の錆びを効果的に防止できるので、軸受装置のメンテナンスの手間と費用を効果的に削減できる。
【0025】
また、上記内輪1と外輪2の軸方向寸法を、円筒ころ3の軸方向寸法よりも大きく形成しているので、円筒ころ3の周面の露出面積が少なくて錆びが生じ難い。また、軸受装置の定格荷重を効果的に増大できる。
【0026】
上記円筒ころ3には、図示しない給油装置から供給された潤滑油が、軸受箱の球面座の給油溝6bと外輪の給油孔2cを通して供給される。この供給孔2cから外輪の内側面2bと円筒ころ3の周面との間に供給された潤滑油は、円筒ころ3の周面を軸方向の両側に向かって流れる。したがって、万一、円筒ころ3の端部に水が付着しても、この水が円筒ころ3の周面を軸方向の中央に向かって流れることを防止できて、円筒ころ3の錆びを効果的に防止できる。
【0027】
また、上記給油孔2cを、外輪2の軸方向の両端よりも厚みが大きい軸方向の中央に形成するので、外輪2の割れや欠け等の不都合を防止できる。
【0028】
上記実施形態において、軸受装置は、ロール10を鉛直下方から支持したが、上方からロール10を支持してもよい。これは、外輪2が周方向において単一の厚みと軸方向寸法を有するように形成されているので、鉛直下向きと上向きのいずれの方向の荷重に対しても調心を行うことができ、また、略同程度の定格荷重を設定することができるからである。
【0029】
また、この軸受装置は、単一のロールの軸首部10aを支持してもよく、あるいは、軸方向に連なる2つのロールを連結する連結軸を支持してもよい。
【0030】
また、上記実施形態において、内輪1と円筒ころ3とはスラスト荷重によって、軸方向の相対的な位置を移動可能なように、鍔や鍔輪を有さないものであったが、内輪1に鍔を設けたり、鍔輪を組み合わせることで、内輪1と円筒ころ3との間でスラスト荷重を受ける構成にしてもよい。
【0031】
さらに、上記実施形態において、給油孔2cは4つ設けていたが、給油孔2cの数は限定されるものではない。また、給油孔2cの一つは鉛直上方に設けることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態としての軸受装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 内輪
1a 内輪の外周面
2 外輪
2a 外輪の外周面
2b 外輪の内周面
2c 外輪の給油穴
2d 外輪の外周面の軸方向端部
3 円筒ころ
5 軸受箱
6 球面座
6a 球面座の端部
7 蓋
7a 蓋の内側面
10 ロール
10a ロールの軸首部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
外周面が球状に形成された外輪と、
上記内輪の外周面と外輪の内周面との間に配置された複数の転動体と、
上記内輪、外輪及び転動体を収容すると共に、上記外輪の外周面に嵌合する球面座が内側面に形成された軸受箱と、
上記軸受箱の側部に設けられた蓋とを備え、
上記外輪の外周面の軸方向の端部は、上記蓋の内側面に接する上記軸受箱の球面座の端部よりも、径方向外側かつ軸方向内側に位置していることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受装置において、
上記外輪の軸方向の略中央に、この外輪の外周面と内周面との間を連通する給油孔が形成されていることを特徴とする軸受装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−90927(P2010−90927A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259217(P2008−259217)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】