説明

軸固定型動圧流体軸受モータ及び記録ディスク装置

【課題】
新規な潤滑流体封止構造を提案して,薄型化に適する両端軸固定型動圧流体軸受モータ及び記録ディスク装置を実現する。
【解決手段】
スリーブ外周下部に潤滑流体溜まり部を有する軸固定構造に於いて,回動するスリーブ内にスリーブ上端からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域を形成し,スリーブ上端面の静止部と回転部間に於いて潤滑流体を遠心力により連通領域内に振り切りスリーブ下端外径近傍にまで移送させ,固定軸とスリーブ間には潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送する動圧グルーブを有して動圧グルーブと遠心力により潤滑流体を循環させて潤滑流体を封止する。従来のテーパーシールとは異なり軸長方向にスペースを要しない封止構造を実現し,薄型の記録ディスク装置を実現可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,記録ディスク装置用の動圧流体軸受モータに拘わり,特に従来のテーパーシールに替わる新規の潤滑流体封止構造を用いた軸固定型動圧流体軸受モータ及び記録ディスク装置に拘わる。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気ディスク装置(HDD)用動圧流体軸受モータの軸受構造は潤滑流体と大気との境界を唯一つとして潤滑流体封止が容易な軸回転構造が主体であった。しかしながら,そのような動圧流体軸受はいくつかの弱点を有する。例えば,外部振動,アンバランス,衝撃等に弱い事である。
【0003】
この問題に対する望ましい解はディスク装置筐体のベースプレートとトップカバー双方に固定するスピンドルモータを採用する事である。両端を固定された軸受は軸回転型軸受に比して著しく剛性が高い。そして筐体のトップカバーを支持するシャフトの存在は超小型のディスク装置に於いても利点がある。
【0004】
しかしながら両端を固定する動圧流体軸受モータは実現が容易ではない。その理由は軸受部が両端で開口を有する事である。両端に開口を有する動圧流体軸受は軸受の潤滑流体流出の危険が増大する。この漏れはベアリングに於けるポンピング差に起因する僅かな流量差による。ベアリング中の流れが注意深くバランスされていないと実質的な圧力は一端或いは両端で上昇し,表面張力シールを通して潤滑流体漏れを起こす。さらにベアリング部製造時の不完全さにより,ベアリング間隙は長さ方向に一様でない可能性があり,それがベアリング中の圧力不平衡を引き起こし,両端に開口を持つ両端軸固定型動圧流体軸受で漏れを生じさせる。ベアリング中に於ける圧力不平衡による正味の流れは各ベアリング毎に解消させるべきでそうでなければ漏れを回避できない。動圧グルーブによる如何なる不平衡も境界面を新たな平衡位置に向けて移動させる。
【0005】
また,過去に実現された両端軸固定型動圧流体軸受モータの例は専ら多数の磁気ディスクを搭載して高速回転を前提にした大型の構造であり,小径の磁気ディスク2枚程度以下の小型用途には適合させ難い。すなわち,一以上のスラストプレートを有して軸長方向に部材が多いのでそのまま小型化しても上下ラジアルベアリング間のスパンを確保出来ずに回転部の姿勢を高精度に維持出来ない。また何よりも部材数が多く,低コスト化が困難である。
【0006】
薄型HDDに適用可能な軸固定型動圧流体軸受モータには特開平06−315242,特開2003−32961に提案された円錐軸受,特開2000−350408,特開2004−173377のシングルスラスト構造等の提案がある。
【0007】
しかしながら特開平06−315242,特開2003−32961に提案された円錐軸受は軸回転構造或いは片端軸固定構造であって直ちに両端軸固定型動圧流体軸受モータに適用は出来ない。
【0008】
特開2000−350408は固定軸にラジアル及びスラストベアリングをそれぞれ一つ有した構造である。ラジアル及びスラストベアリングをヘリングボーングルーブとした構造,ラジアル及びスラストベアリングをそれぞれ不平衡のヘリングボーングルーブ,スパイラルグルーブとした構造を挙げている。前者の構造は量産段階での加工バラツキを考えれば潤滑流体漏れの可能性が残る構造であり,後者の構造は潤滑流体漏れを生じ難いが,回転部の姿勢維持に必要な回転モーメント力を生成する事が出来ない。
【0009】
特開2004−173377は潤滑流体封止に成功しているように見えるが,気泡排除機能の無い構造で動圧グルーブが大気中に露出する構造で潤滑流体漏れは必至である。上下の不平衡ヘリングボーングルーブは互いに潤滑流体を押し合う方向で不平衡分が上下端にあり,実効的なラジアルベアリングスペースを縮めている。更にラジアルベアリング上端に無潤滑の領域が原理的に存在する点も懸念材料となる。
【0010】
動圧流体軸受モータの潤滑流体封止構造に広く用いられているテーパーシール構造もまた薄型HDDでは大きな制約条件である。テーパーシールは潤滑流体の表面張力を利用した封止方法で一般にテーパーシールの開角は10度以下が強度の点で望ましいとされる。さらにテーパーシールの最大間隙は0.3ミリメートル程度が妥当であるが,各部の寸法精度を上げて0.2ミリメートルに抑えてもテーパーシールの長さは開角を10度とすると1.1ミリメートル余となる。厚み3ミリメートル程度以下のHDD用動圧流体軸受モータを実現するには潤滑流体封止を含めて各処で不十分さを認識しながら妥協をせざるを得ない状態である。
【0011】
【特許文献1】特開平06−315242「スピンドルモータ」
【特許文献2】特開2000−350408「記録ディスク駆動用モータ」
【特許文献3】特開2003−32961「磁気吸引力と平衡させた単円錐動圧流体軸受を有するモータ」
【特許文献4】特開2004−173377「記録ディスク用駆動モータ及び記録ディスク駆動装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって,解決しようとする課題は,両端軸固定型に適する新規な潤滑流体封止構造を提案して,薄型に於いても回転部の姿勢を高精度に維持する軸固定型動圧流体軸受モータ,及び記録ディスク装置を創出提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明による軸固定型動圧流体軸受モータは,固定軸と,軸外周と微小隙間を有して回転自在に勘合するスリーブと,軸に固定されてスリーブ下端と間隙を持って対向する環状部材と,スリーブと軸及び環状部材との間隙に連続的に存在して大気との境界面をスリーブ内周面上端近傍とスリーブ下部外径近傍の少なくとも2カ所に持つ潤滑流体と,軸及びスリーブ間に軸方向の磁気吸引力を発生させる磁気的手段と,スリーブ及びスリーブと対向する軸或いは及び環状部材の何れかの面に動圧グルーブが形成され、局部的に潤滑流体圧力を高めて発生する軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡する位置で回転部を浮上支持し,スリーブ内にスリーブ内周面上端近傍の流入部からスリーブ下端外径近傍の排出部に連続して延びる連通領域を有し,スリーブ及びスリーブと対向する軸或いは及び環状部材の何れかの面に形成された動圧グルーブの少なくとも一つは不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとしてスリーブ内周面上端に潤滑流体を圧送し,スリーブ内周面上端近傍で潤滑流体を遠心力で流入部内に振り切り,遠心力で流入部内に振り切られた潤滑流体を遠心力及び或いは周方向に傾斜した連通領域により排出部方向に駆動して循環させる動圧流体軸受モータに於いて,蓮通領域排出部近傍での潤滑流体圧力を調整する潤滑流体圧力調整手段を前記連通領域排出部近傍及び或いは前記連通領域内にさらに有して,潤滑流体を封止することを特徴とする。
【0014】
図14には本発明による軸固定型動圧流体軸受モータの潤滑流体封止構造をモデル的に示してある。同図に於いて,番号141はスリーブ下部外径近傍の潤滑流体溜まり部を,番号142は蓮通領域内の潤滑流体溜まり部を,番号147は潤滑流体を,番号143はベアリング部の動圧グルーブをそれぞれ示し,動圧グルーブ143が前記141及び142で示す潤滑流体溜まり部から潤滑流体を引き込む構造をモデル的に示している。潤滑流体147の境界148及び149に於いては潤滑流体の表面張力により番号14a,14bで示すようにそれぞれの潤滑流体溜まり部で潤滑流体を上方に引く力が働き,動圧グルーブ143の下方に引く力と平衡して潤滑流体147は封止される。その間,動圧グルーブ143により引き込まれた潤滑流体は番号145で示したスリーブ内周面上端で遠心力により振り切られて潤滑流体溜まり部142に流入する。流入した潤滑流体は潤滑流体溜まり部142のメニスカスを広げ,上方に引く力14bを弱める事になるので潤滑流体は下方に移送され蓮通領域の排出部144で合流し,常に番号14a,14b,143は平衡条件を保ち,潤滑流体は封止される。
【0015】
この潤滑流体封止のモデルに於いて,不安定要因は蓮通領域内の潤滑流体に作用する遠心力であり,番号14cで遠心力による潤滑流体の圧力増分示している。遠心力による圧力増分14cが小さい場合には境界149が下方に移動して境界149の曲率を小として圧力増分14cを補償できるが,高速回転で遠心力による圧力増分14cが過大になると,番号14a,14bで示す潤滑流体の表面張力と動圧グルーブ143による力との平衡条件が成立し難くなり,潤滑流体が偏在し,漏れる結果となる。
【0016】
連通領域排出部近傍或いは蓮通領域内に配置する潤滑流体圧力調整手段は排出部近傍(図14で144)に於ける蓮通領域内(図14で潤滑流体溜まり部142)及びスリーブ下部外径(図14で潤滑流体溜まり部141)の潤滑流体圧力を調整平衡させる機能を有する。潤滑流体圧力調整手段としては,スリーブ外周下部の形状を下端から上に行くほどに縮径させて遠心力を利用する方法に加えて圧力調整範囲を大きく確保できる請求項2,3,4,5に規定する手段がある。
【0017】
番号146で示す点線は遠心力で振り切られ,潤滑流体溜まり部142に流入する潤滑流体の循環経路を示し,従来一般に用いられてきた潤滑流体の循環構造に比して潤滑流体が連続していない特徴がある。循環路内の潤滑流体を不連続にすることで圧力の連続性を考慮する必要が無く,潤滑流体封止の条件設定を容易としている。
【0018】
請求項2の発明は,請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として連通領域排出部とスリーブ下部外径近傍の潤滑流体境界面との間に潤滑流体を前記連通領域排出部方向に圧送する動圧グルーブを配置した事を特徴とする。
【0019】
請求項3の発明は,請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として回転力を利用して潤滑流体を連通領域排出部から流入部方向に押し込むよう連通領域排出部近傍の連通領域形状を周方向に傾斜させた事を特徴とする。
【0020】
請求項4の発明は,請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として連通領域排出部の回転方向後部と環状部材との間隙を局部的に小とし,回転力を利用して潤滑流体を連通領域排出部から流入部方向に押し込む事を特徴とする。請求項3の発明と組み合わせると効果的に潤滑流体を蓮通領域流入部方向に押し込む圧力を発生させる事が出来る。
【0021】
請求項5の発明は,請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として蓮通領域は排出部方向に徐々に間隙が小となる傾斜間隙領域を有する事を特徴とする。蓮通領域内の傾斜間隙を構成する部材は相対的に移動しないので傾斜間隙領域の最小間隙を10ミクロンメートル程度の微小間隙を実現でき,表面張力による潤滑流体保持力を大と出来る。
【0022】
請求項6の発明は,請求項5記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,蓮通領域内の上記傾斜間隙部を軸長方向と平行に配置した事を特徴とする。遠心力は径方向外方に作用するので蓮通領域内の潤滑領域滞留領域の径方向厚みを数十ミクロンメートル以下に設定して遠心力による潤滑流体圧力増分を抑制する。
【0023】
具体的な構造としてはスリーブを内筒,外筒の二重構成としてそれらの間隙に蓮通領域を形成するとし,内筒外周面の下半分を下方に徐々に径が大となる円錐形状に形成,或いは内筒外周面を平面状且つ傾斜させるよう加工して外筒と組み合わせる事により所望の傾斜間隙領域を形成する。
【0024】
請求項7の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内周面上端に連通領域の環状流入部を有する事を特徴とする。スリーブ内周面の上端を周回するよう流入部を環状に形成して潤滑流体が円滑に流入部内に振り切られる構造とする。
【0025】
請求項8の発明は,請求項7に於いて,固定軸は前記環状流入部を構成する空間で縮径し,前記環状流入部を構成する上端面はスリーブ内周面の口径より小の開口を有する事を特徴とする。
【0026】
スリーブ内周面上端近傍でベアリング部の開口空間は固定軸と環状流入部を構成する上下端面とで構成される。ベアリング部の潤滑流体はほぼ90度の角度の開口形状として回転時に潤滑流体を速やかに環状流入部内へ振り切る事が出来る。静止時にはこのほぼ90度の開口角を有する領域にメニスカスが形成される。潤滑流体封止としては大きすぎる角度であるが,前記ベアリング部の開口部は蓮通領域の流入部内に開口しているので外部へ漏れの懸念は無い。また,ラジアルベアリング面を構成するスリーブ内周面より小径とした前記環状流入部上端面開口は潤滑流体蒸気の外部への流路抵抗を大にする効果がある。
【0027】
請求項9の発明は,請求項1に於いて,固定軸は円筒状とし,スリーブは円筒状内周面を有して軸に回動可能に勘合し,且つ軸と直交するスリーブ下端面で環状部材と対向し,スリーブ下端面と対向する環状部材面との何れかに配置された動圧グルーブは内径方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとすることを特徴とする。
【0028】
請求項10の発明は,請求項9に於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面の何れかには一つのラジアルベアリングとしてヘリングボーングルーブを有し,環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかには潤滑流体を内径方向に圧送する能力を有する不平衡のヘリングボーングルーブを配置したことを特徴とする。スリーブ下端面のスラストベアリングで回転部の姿勢復元力を発生させ,薄型の動圧流体軸受モータを実現する。
【0029】
請求項11の発明は,請求項9に於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面の何れかには二つのヘリングボーングルーブを有して少なくとも一方のヘリングボーングルーブはスリーブ下端面方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブとし,環状部材とスリーブ下端面の対向面の何れかにはポンプインのスパイラルグルーブを有し,前記スパイラルグルーブの潤滑流体圧送能力は所定の回転速度に於いて遠心力及び前記不平衡ヘリングボーングルーブの潤滑流体圧送能力に抗してスリーブ上端方向に潤滑流体を圧送出来る程に大として潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送し,不平衡ヘリングボーングルーブとスパイラルグルーブとの協働でスリーブ下端面での潤滑流体圧力を高めて得られる軸方向負荷容量で回転部を非接触支持することを特徴とする。
【0030】
請求項12の発明は,請求項9に於いて,スリーブ下端面と対向する環状部材の一部をフランジとして円筒軸と一体構造のT字状軸とし,フランジ部の径方向面と軸方向面でベースプレートに固定する。フランジ部の径方向面でベースプレート面上の位置を規制し,フランジ部のスリーブ下端面と対向する面外周部とベースプレートとで軸方向位置及び直角度を規制する。フランジ部分の厚みを小としてもT字状軸のベースプレートに対する直角度及び固定強度を確保してラジアルベアリング領域を大に出来る事を特徴とする。
【0031】
請求項13の発明は,請求項1に於いて,固定軸は上端方向に先細となる円錐凸形状としてスリーブは前記軸に勘合する円錐凹形状とし,軸及びスリーブ間に一以上の動圧グルーブを有し,少なくともその一つの動圧グルーブはスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有することを特徴とする。動圧グルーブを軸方向に唯一つとした場合でも円錐頂点を支点とした姿勢復元力を発生出来,最も薄型の軸固定型の動圧流体軸受モータを実現できる。
【0032】
請求項14の発明による記録ディスク装置は,筐体と,記録ディスクと,記録ディスクを搭載回転させるモータと,記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを少なくとも有し,前記モータとして請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータを使用し,前記モータの固定軸を筐体中央部の支柱としたことを特徴とする。前記モータの固定軸を支柱とする事で筐体を補強できて,より薄型のHDDを実現可能とする。特に脆弱な筐体を使用せざるを得ない厚さ3ミリメートル程度以下のHDDが本発明で実用レベルとなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば,二つ以上の潤滑流体境界面を有する軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,回動するスリーブ内にスリーブ上端からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域を形成し,スリーブ内周面上端近傍の潤滑流体を遠心力により連通領域に振り切りスリーブ下端外径近傍にまで移送させ,固定軸とスリーブ間には潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送する動圧グルーブを有し,動圧グルーブと遠心力により潤滑流体を循環させて潤滑流体を封止する。
【0034】
両端軸固定型軸受でスリーブ上端近傍での潤滑流体漏れが最も懸念されるが,潤滑流体に作用する遠心力によりスリーブ中の連通領域に振り切る新規な潤滑流体封止概念で解決し,気泡排除機能も同時に実現する。この薄型の軸固定型動圧流体軸受モータを用いて回転部姿勢を高精度に維持しながら薄型の記録ディスク装置を実現出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明による軸固定型動圧流体軸受モータ及び記録ディスク装置について,その実施例及び原理作用等を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0036】
図1は,本発明の第一の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。図1(a)はモータ全体を,図1(b)は軸受け部の右半分を拡大して示している。固定軸は円筒軸及び環状部材のスリーブ下端面と対向する部分(以下,フランジ部14と称する)を一体化させたT字状軸11である。スリーブは内筒12及びハブ16の一部を外筒として分割構成し,スリーブ内筒12は軸11外周と微小隙間を有して回転自在に勘合され,その下端面はフランジ部14と微小隙間を有して対向する。番号15はスリーブ内周面上端近傍の環状流入部1hからスリーブ下部外周に至る連通領域で潤滑流体が循環するチャネルである。その蓮通領域15はスリーブ内筒12上端面及び外周表面に凹状溝を形成し,カバー13及びハブ16との隙間で構成される。軸11は内筒12上端面より上で縮径し,カバー13の開口径はスリーブ12の中心孔21よりも小さく設定されている。スリーブ内筒12上端面の形状,外周形状は図2,図3を参照して後に説明する。
【0037】
請求項1に規定する環状部材はフランジ部14と,ベースプレート1aの一部1jが対応する(以下,番号1jで示す部分を環状部材と称する)。潤滑流体はスリーブ内筒12と環状部材1j,軸11,フランジ部14との間隙及びスリーブ内筒12外周と環状部材1jとの間隙に連続して充填され,大気との境界面をスリーブ内筒12の上端面及び環状流入部1hを含む蓮通領域15内(番号1kで示す),スリーブ外周下部(番号1mで示す)に有する。
【0038】
動圧グルーブはスリーブ内筒12内周面に構成したヘリングボーングルーブ17,フランジ部14に形成した不平衡ヘリングボーングルーブ18,ポンプアウトのスパイラルグルーブ19とで構成されている。
【0039】
軸11のベースプレート1aへの固定はフランジ部14の径方向の面1eをベースプレート1aとの位置確定に用い,軸方向の面1fで直角度を確保し,二面でベースプレート1aに接着固定する。番号1bはローターマグネットを,番号16は磁気ディスクを搭載するハブを,番号1cはステータコアを,番号1dは回転駆動用のコイルをそれぞれ示し,回転部を磁気的に吸引する手段はロータマグネット1bとステータコア1cとを軸方向に偏倚させている。また番号1gは環状部材1jとスリーブ内筒12外周下部とで形成する契合部を示す。
【0040】
図2(a),(b)はスリーブ内筒12上端面の平面図,軸受部の縦断面図をそれぞれ示す。図2(a)に於いて,番号21は固定軸11を挿通するスリーブ内筒12の中心孔を,番号22はスリーブ内筒12上端部でのテーパー面を示す。テーパー面22はカバー13と組み合わせて排出部方向に間隙が徐々に小となる傾斜間隙部を持つ環状流入部1hを構成する。番号15はスリーブ内筒12外周に形成した凹状溝で環状流入部1h外周から外径方向に延び,ハブ16を装着して蓮通領域15を形成する。
【0041】
図2(b)は図1に於ける軸受部縦断面を示し,動作原理を説明する。図2(b)では判りやすいように左半分のみに連通領域15,ヘリングボーングルーブ17を示し,右半分には潤滑流体の移動方向23,24を点線で示す。フランジ部14には内径方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ18を,更にその内周側領域には溝深さの小さいポンプアウトのスパイラルグルーブ19を有する。スリーブ内筒12内周面にはヘリングボーングルーブ17を有する。ヘリングボーングルーブは互いの方向に潤滑流体を圧送する対のスパイラルグルーブで構成され,潤滑流体の圧送能力を等しく構成しない場合は不平衡のヘリングボーングルーブとして一方向に潤滑流体圧送能力を有する。不平衡ヘリングボーングルーブ18は内径方向に潤滑流体圧送能力を有する。
【0042】
ヘリングボーングルーブ17,不平衡ヘリングボーングルーブ18の溝深さはそれぞれ5,10ミクロンメートル程度に設定するが,スパイラルグルーブ19の溝深さは1ミクロンメートル程度と微小に設定してある。定常回転時にスリーブ内筒12はフランジ部14から5〜10ミクロンメートルほど浮上するのでスパイラルグルーブ19の寄与は小さく,専らヘリングボーングルーブ17,不平衡ヘリングボーングルーブ18の潤滑流体圧送能力が勝り,潤滑流体を常に軸11の上方側に圧送して循環させる。したがって,潤滑流体は点線23で示す方向に流動し,スリーブ内筒12内周面上端近傍に於いて潤滑流体は直接作用する遠心力に駆動されて環状流入部1hに振り切られる。潤滑流体は環状流入部1hにエアとの境界面を有し,表面張力により内径方向への力を受けるが,一方で遠心力による外径方向への力を受け,点線24の方向に移送されてスリーブ内筒12外周下部で環流する。
【0043】
従来はスリーブ内周面上部にテーパーシール構造を有して軸長方向に多大のスペースを費やしていたが,本実施例では潤滑流体に直接作用する遠心力により潤滑流体をスリーブ内筒12内周面上端から環状流入部1h,連通領域15内に流入させるので軸長方向にスペースを要しない封止構造を実現している。
【0044】
静止時には表面張力により静止した潤滑流体境界面がスリーブ内筒12内周面上端のベアリング部開口領域に存する。ベアリング部開口領域は環状流入部1hの下端面(スリーブ内筒12上端面)と固定軸11とで構成され,その角度はほぼ90度であるが,潤滑流体境界面は環状流入部1h内に面するので外部への漏れの危険性は小さい。さらに環状流入部1h及びそれに続く蓮通領域15の一部に繊維質或いは多孔性素材を配置して潤滑流体を吸収保持させる構成としても静止時に於ける潤滑流体漏れの完全を期するに効果がある。繊維質或いは多孔性素材に吸収保持された潤滑流体は回転に伴う遠心力で蓮通領域15を介して排出部からベアリング領域に環流して有効に活用されるので支障は無い。
【0045】
上記潤滑流体封止の構造は気泡排除の機能をも有する。すなわち,軸11とスリーブ12間に気泡が存在しても潤滑流体の点線23に示す流れによってスリーブ内筒12上端面にまで運ばれてスリーブ内筒12内周面上端では大気に接し振り切られ,潤滑流体のみが境界1kで環状流入部1h内の潤滑流体に合流する。
【0046】
ラジアルベアリングはスリーブ12内周面のヘリングボーングルーブ17のみであり,回転部を軸11に調芯させることは出来ても,回転部が傾いた場合に十分な姿勢復元モーメント力を発生させることは出来ない。本実施例ではスラストベアリングである不平衡ヘリングボーングルーブ18により回転部姿勢の復元モーメント力を発生させる。すなわち,回転部が傾くとスリーブ内筒12の下端面も傾き,フランジ14との間隙が変化する。間隙が大小に変化した領域近傍で不平衡ヘリングボーングルーブ18がその径方向中間で局部的に圧力を高める程度は間隙に反比例するので回転部の姿勢復元のモーメント力を発生し,回転部姿勢を復元する。ラジアルベアリングが一つのみであるので薄型HDDに適する。
【0047】
本実施例では動圧グルーブ17,18,19により番号23で示す正味の潤滑流体流れを作り,スリーブ内筒12内周面上端で潤滑流体を環状流入部1h,連通領域15内に遠心力で振り切る。ただ,起動直後或いは停止直前で回転速度が小さいので遠心力は微小となるが,スリーブ内筒12とフランジ部14との間隙は小で不平衡ヘリングボーングルーブ18は無視できない程度の潤滑流体圧送能力を持ち,番号23,24で示す潤滑流体流れに乱れを生じてスリーブ内筒12上端近傍から潤滑流体漏れを引き起こす可能性が残る。本実施例では不平衡ヘリングボーングルーブ18より内周領域に不平衡ヘリングボーングルーブ18より浅い溝で形成するポンプアウトのスパイラルグルーブ19を配置してスリーブ内筒12とフランジ14との間隙が小の場合に外径方向の潤滑流体圧送能力を生じさせて対処している。動圧グルーブの流体圧送能力は動圧グルーブの配置された間隙と溝深さの比で決まる最適条件があり,どちらにずれても流体圧送能力は減少する。前記ポンプアウトのスパイラルグルーブ19の溝深さとして1ミクロンメートル程度を選択したので,起動或いは停止時のスリーブ内筒12とフランジ14との間隙が小の場合にスパイラルグルーブ19は十分に大きな潤滑流体圧送能力を持って不平衡ヘリングボーングルーブ18の潤滑流体圧送能力を相殺し,また速やかにスリーブ下端領域での潤滑流体圧力を増大させてスリーブを浮上させる効果もある。スリーブ内筒12とフランジ部14との間隙が1ミクロンメートルの数倍程度に大となれば,前記ポンプアウトのスパイラルグルーブ19の影響は無視できるほどとなるので上記に説明した本実施例の動作を損なう事は無い。
【0048】
カバー13の開口径はスリーブ12の内周面の径より小に設定している。回転時にスリーブ12内周面に沿って流動する潤滑流体を堰き止める作用も期待できるが,潤滑流体はカバー13に至る前に環状流入部1h,連通領域15内に振り切られるので漏れ防止の完全を期す安全策である。むしろ静止時に潤滑流体境界面が環状流入部1hに面して存在するので潤滑流体境界をモータ外より内部に遠ざけ,漏れの可能性を小にする役割が大である。さらにカバー13の開口と軸11との間隙を小にする事で環状流入部1h内に於ける潤滑流体蒸気圧を高めて潤滑流体の蒸発を抑制する効果を期待できる。
【0049】
図3(a),(b)によりスリーブ構成を更に詳しく説明する。同図(a)はスリーブ内筒12の斜視図を示し,番号31はスリーブ内筒12下端の突出部で図1(b)に番号1gとして示した契合部を示す。番号32は蓮通領域15を構成する為にスリーブ内筒12外周面に形成した凹状溝で回転と共に潤滑流体が押し込まれるよう周方向に傾斜したスパイラル形状としている。
【0050】
同図(b)はスリーブ内筒12にハブ16のスリーブ外筒部分を組み合わせた斜視図を示し,番号36は回転方向を示している。番号35は蓮通領域15(凹状溝32)の排出部を示し,番号35の回転方向後部では番号33に示すようにハブ16の一部が垂下して環状部材1jとの間隙を小にする。番号34は番号33より相対的に上部にあるハブ16の下端を示している。
【0051】
回転時に蓮通領域15の排出部35より回転方向前方では環状部材1jとの間隙が大であり,回転方向後方では環状部材1jとの間隙が小となるので潤滑流体は排出部35から押し込まれて蓮通領域15内に遠心力に起因して発生する圧力への対抗力を発生する。
【0052】
図4(a),(b)を用いて連通領域排出部15近傍の潤滑流体圧力分布を説明する。本実施例で潤滑流体は大気との境界をスリーブ内筒12外周では番号1mで示す位置に,環状流入部1h内では番号1kで示す位置に有する構成としている。回転時に潤滑流体を動圧グルーブ17,18によりスリーブ内筒12下端面内周方向に引き込む力が作用し,潤滑流体の境界1m,1kの表面張力と平衡する状態で潤滑流体は封止される。環状流入部1hに振り切られた潤滑流体は境界1kを大にするが,常に平衡条件を満たすように潤滑流体は蓮通領域15を介してスリーブ内筒12下端面に移送されて平衡条件は保たれる。
【0053】
ただ,連通領域15内に於いて潤滑流体は遠心力により外径方向の移送圧力を受けて潤滑流体圧力を大にし,潤滑流体境界1mに内側から圧力を加えて潤滑流体漏れを引き起こす可能性が有る。潤滑流体圧力調整手段はその遠心力による潤滑流体圧力増分に抗して前記平衡条件を容易に成立させて潤滑流体封止を実現させる。本実施例での潤滑流体圧力調整手段は環状流入部1h内の傾斜間隙領域,周方向に傾斜した蓮通領域15(番号32)及び排出部35近傍の形状である。環状流入部1hにある傾斜間隙領域の最小間隙は潤滑流体移送に必要最小限度の10ないし20ミクロンメートル程度に設定して潤滑流体保持力の最大限度を大に設定すると共に,周方向に傾斜した蓮通領域15(番号32)及び排出部35近傍の形状により潤滑流体を蓮通領域15上端方向に押し込んで対抗力を発生させている。
【0054】
図4(a)の点線41に沿って潤滑流体圧力分布を図4(b)に示すが,横軸に点線41上の各点を,縦軸に大気圧P0を基準に潤滑流体圧力を示している。潤滑流体の境界1mより内側の点44では大気圧P0より低く,排出部35内側の蓮通領域15内の点43では若干圧力が高められ,環状流入部1h内の界面1kより内側の点42では大気圧P0より低い事が示されている。
【0055】
点42−43間の圧力上昇は潤滑流体に作用する遠心力により,点44−43間の圧力上昇は周方向に傾斜した蓮通領域15(番号32)及び排出部35近傍の形状による。点44−43間の圧力上昇分は固定であり,点42−43間の圧力上昇は環状流入部1h及び蓮通領域15内の潤滑流体の量にもよるので完全に等しくなる事はなく,それらの差は界面1k,1mがそれぞれ移動して図4(b)に示す圧力分布を平衡にさせ,潤滑流体を封止する。
【0056】
本発明による軸固定型動圧流体軸受モータは,連通領域の流入部から排出部間で潤滑流体は途切れているので潤滑流体の圧力バランスを容易に維持でき,安定な潤滑流体封止を実現している。連通領域内に潤滑流体を連続して有する場合,動圧グルーブ及び遠心力による移送圧力と境界近傍の圧力とのバランスを取る事が困難で漏れを生じやすくなる。
【0057】
図1に示すような軸固定構造で従来は軸をベースプレートに圧入して接着固定する。その場合に締結強度及び両者の直角度精度を考慮すると締結部の軸方向厚みとして1ミリメートル弱程度は確保したい。これをスリーブ12下端面と対向する部分をフランジ14として必要最小限の厚みを0.5ミリメートル程度として軸と一体化したT字状軸11とすると,0.5ミリメートル程度をラジアルベアリングスペースとして捻出できることになる。さらに,T字状軸11のフランジ14の径方向面1eでT字状軸11のベースプレート1aに対する位置を規制し,スラストベアリングを形成するフランジ面の外周面1fでベースプレート1aとの直角度を確保し,二面で接着固定強度を確保しているのでT字状軸11とベースプレート1aとの締結強度及び直角度は確保が容易で薄型モータ構造に適している。
【0058】
スラストベアリングである不平衡ヘリングボーングルーブ18の発生する軸方向負荷容量と平衡させる磁気吸引力はステータコア1cとローターマグネット1bの位置を軸方向に偏倚させて発生させる。モータを使用する姿勢条件,つまり正立,倒立,横置き等によって回転部重量のベアリング部に拘わる負荷は異なり,回転部の浮上量は異なる。磁気吸引力はスリーブ12,ハブ16,ローターマグネット1b,さらに搭載する磁気ディスク等を含む回転部総重量の3倍程度以上に設定してHDDの如何なる姿勢においても回転部を吸引する力には一定以上の値を確保し,回転部姿勢を精密に保持する。
【0059】
上記構成で磁気吸引力が不足する場合には,ロータマグネット1bと対向するベースプレート1a上に磁性体片を配置して補う事が出来る。磁性体片は珪素鋼板,フェライト,パーマロイ等の磁性体で構成する。ローターマグネット1bは回転駆動用に磁化が交互に反転するよう着磁されているので回転時に磁性体片に渦電流を生じさせるので珪素鋼板よりパーマロイ或いはフェライトが渦電流の影響を受け難いので高速回転用には適している。
【0060】
本実施例では回転部の軸長方向移動量規制の為には潤滑流体の接する部分に契合部分1gを有する。図1(b)に示すようにスリーブの外周下部(スリーブ外筒としたハブ16の一部)は下端から上方へ離れるに従って縮径し、環状部材1jとの間隙を徐々に大としてテーパーシール部を形成させる。さらに環状部材1jとスリーブ内筒12下部の突出部は段差部を設けて互いに契合する構造として契合部とする。過大な衝撃によりスリーブが上方に移動して契合部で接触摺動しても潤滑流体が存在するので損傷或いは摩耗扮発生等の重大な支障を回避できる。
【0061】
本実施例では磁気吸引力と唯一つのスラストベアリングが動圧により発生する軸方向の負荷容量とを平衡させてスリーブを浮上支持している。しかし,これは回転起動時及び停止時にスリーブ内筒12下端面をフランジ部14に磁気吸引力を加えて接触摺動させる結果となっている。本実施例では接触摺動による損傷を避ける為にスリーブ内筒12下端面には二硫化モリブデンを主とする固体潤滑剤を10ミクロンメートル程度塗布している。他に固体潤滑膜としてDLC膜を1ミクロンメートル程度形成しても効果がある。また更に回転時の摩擦力を減少させて起動を容易にする為にスリーブ内筒12下端面或いはフランジ部14の一部に数ミクロンメートルの高さの突起を円周状或いはスポット状に形成する方法も考えられるが,既にフライイングヘッド技術で公知であるので説明は省略する。
【実施例2】
【0062】
図5は第二の実施例を示し,第一の実施例と同じく円筒軸の例であるがラジアルベアリングとして二つの動圧グルーブを有する。図1に示した第一の実施例と異なる点を中心にして説明する。
【0063】
図6は図5に示した動圧流体軸受モータの軸受部分の右半分を拡大して示し,図5及び図6に於いて,T字状円筒軸11に回動可能に勘合するスリーブは内筒52,外筒51で形成し,外筒51と内筒52間の間隙に連通領域53を形成してある。T字状軸11と内筒52内周面との間にはラジアルベアリングとして二つのヘリングボーングルーブ54,55とを有し,下側のヘリングボーングルーブ55は下方に潤滑流体圧送能力を有するよう不平衡に形成する。さらに内筒52下端面と対向する軸11のフランジ部14にはポンプインのスパイラルグルーブ56を形成してある。回転時に不平衡ヘリングボーングルーブ55とスパイラルグルーブ56は潤滑流体を押し合うことで内筒52下端面の潤滑流体圧力を高め,得られた軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡に達した点で回転部を非接触で支持する。番号58はローターマグネットを,番号57は磁気ディスクを搭載するハブを,番号5aはステータコアを,番号5bは回転駆動用のコイルをそれぞれ示す。スリーブ内筒52,外筒51を軸方向下方に吸引する磁気吸引力はロータマグネット58及びそれに対向してベースプレート1aに固定した磁性体片59との間で発生させる。
【0064】
スリーブを構成する外筒51及び内筒52が回転すると,潤滑流体はヘリングボーングルーブ54,55及びスパイラルグルーブ56により局部的に圧力を高められスリーブを構成する外筒51,内筒52を非接触で支持する。ここでヘリングボーングルーブ55が下側に潤滑流体圧送能力を有するように構成され,所定の回転速度に於いて,ヘリングボーングルーブ55の潤滑流体圧送能力をスパイラルグルーブ56のそれよりも小に設定してあるので潤滑流体はヘリングボーングルーブ55,54を超えて内筒52の上端方向に流れ続け,外筒51及び内筒52の間隙に形成されている連通領域53に遠心力で振り切られ,さらに外筒51の内周近傍に移送され,結局は内筒52の下端外周近傍の排出部62に至る。番号61は圧力調整手段として外筒51外周に設けられたスパイラルグルーブを示す。番号63,64はさらに蓮通領域53内,及び外筒51外周下部に於ける潤滑流体のエアとの境界面をそれぞれ示す。
【0065】
図7は図5,図6に示したスリーブを構成する内筒52及び外筒51の斜視図で,図7(a)は内筒52を,図7(b)は内筒52と外筒51の組み合わせをそれぞれ示す。外筒51はアルミ板をプレス成形で形成し,内筒52はSUS材を切削加工して形成する。内筒52表面には外筒51と組み合わせて連通領域53を形成させるための凹状溝73を二カ所形成し,軸11を挿通させる中心孔71周囲には連通領域53の流入部を構成する周回溝72が設けられている。番号74は環状部材1jと契合部を構成する内筒52の突出部を示す。
【0066】
内筒52外周面を外筒51内周面に嵌合し,内筒52表面の凹状溝73以外の面で外筒51の内周面に接着固定する。外筒51の上端開口の径は内筒52中心孔71の径より小とする。凹状溝73の深さを例えば50ミクロンメートル程度とすることで、形成された連通領域53に表面張力により潤滑流体を保持できる能力を持たせる。
【0067】
連通領域53は内筒52表面に形成した凹状溝73で形成するので連通領域の間隙制御は容易であり,また凹状溝73は内筒52外周表面を平面状に研削加工して連通領域53断面を狭間隙部及び大間隙部を有する三日月状とすることも容易である。また,外筒51をプレス成形によって構成する際に外筒51の内周面に凹凸を同時に形成して連通領域53とすることも出来る。
【0068】
外筒51の外周下部にはスパイラル形状の動圧溝61を示し,番号75は回転方向を示す。動圧溝61は圧力調整手段として回転時に下方に潤滑流体を圧送する。
【0069】
図8はスリーブ外筒51外周下部の潤滑流体溜まり部と排出部62近傍に於ける潤滑流体の圧力分布を説明するための図で,図8(a)はスリーブ外周下部の潤滑流体溜まり部の断面と連通領域53の模式図を示し,図8(b)は潤滑流体の圧力分布を示す。図8(a)に於いて番号81は潤滑流体を,番号62は連通領域53の排出部を示す。点線82に沿って境界面64の内側の点85,排出部62近傍の点84,連通領域53内の潤滑流体の境界面63近傍の点83に於ける潤滑流体圧力を図8(b)に示す。図8(b)の横軸は点線82に沿った点83,84,85の位置を,縦軸は大気圧P0を基準にした圧力を示している。
【0070】
境界面63より内部の点83の圧力は大気圧より低く,排出部62近傍の点84では潤滑流体に働く遠心力により若干高くなり,境界面64より内部の点85の圧力は大気圧より低い。点85−84間の圧力差は圧力調整手段に用いた動圧グルーブ61による。動圧グルーブ61の潤滑流体圧送能力を量産時に正確に設定する事は難しいので,本実施例では動圧グルーブ61が潤滑流体81に作用して増大させる事が出来る圧力増分を外筒51,環状部材1j間の最小間隙に潤滑流体境界面64が有る場合の内外圧力差(大気圧P0−点85の圧力)より大に設定し,境界面64の位置で動圧グルーブ61の能力を自動調整する構成にしている。すなわち,動圧グルーブ61による圧力増分が外筒51,環状部材1j間の最小間隙で潤滑流体境界面64内外での圧力差より大であれば潤滑流体を蓮通領域53内に押し込み,潤滑流体境界64が下方に移動して動圧グルーブ61の能力を減少させて平衡させる。
【0071】
本実施例では動圧グルーブ54,55,56により正味の潤滑流体流れを作り,スリーブ内筒52内周面上端で潤滑流体を連通領域53内に遠心力で振り切る。ただ,起動直後或いは停止直前で回転速度が小さいので遠心力は微小となるが,スリーブ内筒52とフランジ14との間隙は小でスパイラルグルーブ56は無視できない程度の潤滑流体圧送能力を持ち,スリーブ上端近傍から潤滑流体漏れを引き起こす可能性が残る。図1に示したと同様に浅い溝で構成するポンプアウトのスパイラルグルーブをスパイラルグルーブ56の内周領域に配置して対処も出来るが,本実施例ではラジアルベアリング領域が長くて流路抵抗が高く,起動直後或いは停止直前の僅かな流体圧送能力では潤滑流体流れが起こりにくいとして配置していない。さらに起動或いは停止の時間を短縮するよう駆動回路側で対処する事も効果がある。
【0072】
内筒52は切削加工によって形成する他に焼結合金の型整形によっても形成でき,その場合には上記周回溝72及び凹状溝73,さらには動圧グルーブを型により形成できるので製造コストを低減できる。微小な空孔で蓮通領域を形成するとして凹状溝73を省略する構造も可能である。微小な空孔はヘリングボーングルーブ54,55,スパイラルグルーブ56の形成された領域表面にも存在し,潤滑流体はそれら表面の隙間からも内筒52内に浸透し,ラジアルベアリンググルーブ領域では潤滑流体不足を生じる可能性がある。この場合には内筒12のベアリンググルーブ領域表面にメッキ或いは蒸着或いは樹脂含浸により封孔処理を行って対処する。
【実施例3】
【0073】
図9は第三の実施例を示す。第二の実施例と同じくラジアルベアリングとして二つの動圧グルーブを有する円筒軸の例である。図5に示した第二の実施例と異なる点を中心にして説明する。
【0074】
第三の実施例と第二の実施例との主要な差は圧力調整手段であり,スリーブ内筒92,外筒91,カバー93等が異なっている。すなわち,回転時に蓮通領域内の潤滑流体に遠心力が作用し,潤滑流体圧力を増大させ,潤滑流体封止を不安定にさせるが,第三の実施例では蓮通領域内に滞留する潤滑流体の径方向厚みを小にする事で遠心力による潤滑流体圧力増分を小に抑え,表面張力のみでも封止するよう蓮通領域内の傾斜間隙部を軸長方向に配置している。
【0075】
図10は図9に示した軸受部の右半分を拡大して示し,この図により構造詳細を説明する。スリーブは内筒92,外筒91,さらにカバー93に分割し,内筒92と外筒91及びカバー93との間隙で蓮通領域94を形成する。蓮通領域94の傾斜間隙領域は内筒92及び外筒91間に配置し,スリーブ下端の排出部104方向に徐々に間隙が小となるよう構成する。カバー93と内筒92上端面間の間隙は50ミクロンメートル程度の間隙とし,スリーブ内筒92上端面には径方向の凹状溝101を形成してある。凹状溝101はベアリング部から振り切られて流出する潤滑流体をエアに露出する面積を小として蓮通領域94内の潤滑流体に導く。番号102は蓮通領域94内の,番号103はスリーブ外周下部の潤滑流体境界をそれぞれ示す。スリーブ内筒92,外筒91は固定して構成するので蓮通領域94の傾斜間隙領域の最小間隙は10ミクロンメートル或いはそれ以下の微小に設定でき,遠心力が作用する潤滑流体に対して十分大の保持力を持たせる事が出来る。また,境界102に於ける径方向スパンを50ミクロンメートル程度に設定する事で潤滑流体に作用する遠心力による圧力増分を微小に抑える事が出来る。
【0076】
図11は第三の実施例で採用した蓮通領域94を実現するスリーブ円筒92,外筒91の構造例を示す。図11(a)は内筒92の斜視図を,図11(b)は内筒92にカバー93,外筒91を組み合わせた構造の斜視図を示している。
【0077】
図11(a)に示した内筒92は上端面に径方向の凹状溝101を持ち,番号111は軸11を挿通させる中心孔を,番号113は内筒92外周面を斜めにカットした平坦面を,番号112は平坦面113以外の外周面をそれぞれ示す。図11(b)に於いて,内筒92の外周面112を外筒91内周面と密着固定させ,内筒92外周の平坦面113と外筒91内周面との間に断面を図10に示すように下方に徐々に間隙を小とする傾斜間隙部を形成する。ハッチされた番号115で示す領域は潤滑流体の存在領域を,番号114はエア部を,番号102は潤滑流体の境界をそれぞれ示す。
【0078】
図11では蓮通領域94の傾斜間隙部をスリーブ内筒92外周部を平坦面でカットして形成したが,スリーブ内筒92の下半分を徐々に径を大にする円錐形状として形成する事も出来る。
【0079】
本実施例に於ける潤滑流体圧力調整手段は内筒92及び外筒91間の間隙に構成した軸長方向に略平行な傾斜間隙部である。傾斜間隙部の最小間隙を10ミクロンメートル程度まで小として表面張力による潤滑流体保持力を大に出来る事,また潤滑流体の滞留部である傾斜間隙部を軸長方向に平行に構成して潤滑流体の径方向厚みを小として遠心力による潤滑流体圧力増分を微小に抑える事で高速回転でも安定な潤滑流体封止を実現している。
【0080】
本実施例では傾斜間隙部に於ける潤滑流体の表面張力で潤滑流体に作用する遠心力に対抗させているので傾斜間隙部に於ける潤滑流体境界のスパンは慎重に管理する必要がある。量産時に各部寸法,潤滑流体の注入量等のばらつきは避けられないので軸受部を組み立て後に前記傾斜間隙部に於ける潤滑流体境界の位置或いはスパンを確認する事が望ましい。本実施例に於いては潤滑流体注入,上記潤滑流体境界の位置或いはスパンを確認後にカバー93を装着固定できる構造で動作条件を厳密に設定でき,またカバー93を透明体として組み立て後にも上記潤滑流体境界の位置或いはスパンを確認出来る。
【実施例4】
【0081】
第一,第二,第三の実施例は固定軸を円筒軸とする構造であった。第四の実施例は図12に示すように固定軸を円錐形状とする円錐軸受である。図12に示す第四の実施例は第一,第二,第三の実施例に於けるラジアル軸受及びスリーブ下端のスラスト軸受を円錐軸受で代替している。図12に示す第四の実施例はかなりの部分を図1に示す実施例と同じくしているので共通の部分には同一の番号を付し,異なっている部分についてのみ説明する。
【0082】
スリーブは内筒122とハブ123の一部をスリーブ外筒として構成する。固定軸121は上部方向に縮径する凸状円錐面であり,スリーブ内筒122は凹状円錐面を有して固定軸121に勘合する。内筒122とハブ123間には第一の実施例と同様に蓮通領域15が形成されている。番号124はフランジ部でベースプレート1aに固定され,スリーブ内周面には不平衡ヘリングボーングルーブ125を有し,フランジ124にはポンプインのスパイラルグルーブ126を有して回転時に潤滑流体をスリーブ内筒122内周上端部に移送し,潤滑流体を遠心力で連通領域15内に振り切る。
【0083】
不平衡ヘリングボーングルーブ125が回転時に発生する負荷容量の軸方向成分とロータマグネット1b及びステータ1c間で発生する磁気吸引力の軸方向成分とが釣り合う位置でスリーブ内筒122,ハブ123を含む回転部は浮上支持され,不平衡ヘリングボーングルーブ125が回転時に発生する負荷容量の径方向成分によりスリーブ内筒122は軸121に調芯される。
【0084】
ヘリングボーングルーブ125を不平衡型に構成して潤滑流体をスリーブ内筒122上端方向に圧送する能力を持たせれば,スパイラルグルーブ126は不要であるが,高速回転でスリーブ外周領域に負圧を生じやすいのでスパイラルグルーブ126をフランジ124に配置してある。本実施例では潤滑流体圧力調整手段は傾斜間隙領域を有する環状流入領域である。低速回転,超小型モータの場合には潤滑流体に働く遠心力が小さいので傾斜間隙領域の最小間隙を十分に小として表面張力を利用して封止可能である。さらに遠心力の影響が無視できない場合は図1の例と同一構造を適用して対処する。
【0085】
本実施例によれば,固定軸121を型成型で構成でき,ベアリング部の間隙調整を不要とする利点がある他,第一,第二,第三の実施例に比して更に薄型に構成できる利点がある。
【実施例5】
【0086】
本発明の第五の実施例として薄型のHDDを構成する例を示す。図13には第一の実施例である図1の軸固定構造動圧流体軸受モータを用いて構成した薄型HDD構成の例を示す。
【0087】
図1(a)に示した薄型HDDはベースプレート1aとなる筐体131上に軸固定構造動圧流体軸受モータ136が形成され,磁気ディスク133が前記モータ136に装着され,磁気ディスク133上の所定位置に磁気ヘッド134を位置決めするアクチュエータ135が配置されている。筐体カバー132は筐体131に固定され,軸11は筐体カバー132に下側から当接して筐体カバー132を支持する構成である。電子回路或いはHDD内環境を制御するフィルター機構等は図示されてない。
【0088】
図13に於いて,軸固定構造動圧流体軸受モータ136には内部の軸受のみを示し,図13(b)に拡大図を示す。本実施例では磁気ディスクの径として25ミリメートル程度,薄型HDDの厚みとして2.0ミリメートル程度を想定している。
【0089】
HDDの厚みが制約されているので軸11を筐体カバー132に固定するボルトは略し,軸11は筐体カバー132に内部から当接して筐体カバー132の内側への変形防止の支柱として使用している。番号138は筐体カバー132とカバー13間の間隙を,番号139はカバー13の厚みを示す。番号13aは環状流入部1hの軸方向長さを,番号13bはスリーブ内筒12内周面の軸方向長さを,番号137はフランジ部14の厚みをそれぞれ示す。
【0090】
番号138,139で示す寸法は0.1ミリメートルに,番号13aで示す寸法を0.2ミリメートルに,また番号137で示す寸法は0.5ミリメートルに設定すると,HDDの全体の厚み2.0ミリメートルから前記寸法及び筐体カバー132の厚みとして0.2ミリメートルを差し引くと有効なラジアルベアリング部の長さ13bとして1.0ミリメートルが確保できる。ラジアルベアリング用ヘリングボーングルーブは一つであり,1ミリメートル程度あれば設定できるので2.0ミリメートル厚の薄型HDDが実現できることになる。
【0091】
以上,実施例を挙げて本発明の動作原理及び構造を説明した。上記実施例は本発明の動作原理を説明するために数例を挙げたのみであって本発明の趣旨を逸脱しない範囲で材料及び構造等の変形が可能なことはもちろんで上記の説明が本発明の範囲を限定しない。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明では従来のテーパーシールに替わる新規な潤滑流体封止構造を提案し,動作原理と共にその特徴を説明した。薄型でも潤滑流体漏れの無い軸固定型動圧流体軸受モータを実現したので回転部姿勢を高精度に維持する必要のある高速の記録ディスク装置用モータ及び筐体カバーの支柱が必要な薄型記録ディスク装置に特に適する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第一の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図2】図1に於ける軸受部の縦断面図及びスリーブの平面図を示す。
【図3】図1に於けるスリーブの内筒及び外筒の斜視図を示す。
【図4】図1の蓮通領域,スリーブ下端部の拡大図及び圧力分布を示す。
【図5】第二の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図6】図5に於ける軸受部右半面を拡大して示す。
【図7】図5に於けるスリーブの内筒及び外筒の斜視図を示す。
【図8】図5の蓮通領域,スリーブ下端部の拡大図及び圧力分布を示す。
【図9】第三の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図10】図9に於ける軸受部右半面を拡大して示す。
【図11】図9に於けるスリーブの内筒及び外筒の斜視図を示す。
【図12】第四の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図13】第五の実施例である薄型記録ディスク装置の縦断面図を示す。
【図14】本発明による潤滑流体封止の構造をモデル化して示す。11・・・T字状軸, 12・・・スリーブ,13・・・カバー, 14・・・フランジ部,15・・・連通領域, 16・・・ハブ,17・・・ヘリングボーングルーブ, 18・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,19・・・スパイラルグルーブ, 1a・・・ベースプレート,1b・・・ローターマグネット, 1c・・・ステータコア,1d・・・コイル, 1e・・・フランジ部の径方向面,1f・・・フランジ部の軸方向面, 1g・・・契合部,1h・・・環状流入部, 1j・・・環状部材,21・・・内筒12の中心孔, 22・・・テーパー面,23,24・・潤滑流体の移動方向,31・・・内筒12下端の突出部, 32・・・凹状溝,33,34・・外筒を構成するハブの下端部,35・・・排出部, 36・・・回転方向,41・・・点線, 42・・・境界1k内側の点,43・・・排出部35近傍の点, 44・・・境界1m内側の点,51・・・外筒, 52・・・内筒,53・・・連通領域, 54・・・ヘリングボーングルーブ,55・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,56・・・スパイラルグルーブ, 57・・・ハブ,58・・・ローターマグネット, 59・・・磁性体片,5a・・・ステータコア, 5b・・・コイル,61・・・スパイラルグルーブ, 62・・・排出部,63,64・・潤滑流体境界,71・・・スリーブ内筒52中心孔, 72・・・環状凹部,73・・・凹状溝, 74・・・内筒52の突出部,75・・・回転方向,81・・・潤滑流体, 82・・・点線,83・・・境界63内側の点, 84・・・排出部62近傍の点,85・・・境界64内側の点,91・・・外筒, 92・・・内筒,93・・・カバー, 94・・・蓮通領域,101・・・凹状溝, 102,103・・潤滑流体境界,104・・・排出部,111・・・スリーブ内筒92中心孔, 112・・・スリーブ内筒92外周面,113・・・平坦面, 114・・・エア領域,115・・・潤滑流体,121・・・円錐軸, 122・・・スリーブ内筒,123・・・ハブ, 124・・・フランジ部,125・・・ヘリングボーングルーブ, 126・・・スパイラルグルーブ,131・・・筐体, 132・・・筐体カバー,133・・・磁気ディスク, 134・・・磁気ヘッド,135・・・アクチュエータ, 136・・・軸固定構造動圧流体軸受モータ,137・・・フランジ部厚み,138・・・筐体カバー132下面からカバー13までの距離,139・・・カバー13の厚み, 13a・・・環状流入部1hの軸方向長さ,13b・・・スリーブの軸方向長さ,141・・・スリーブ下部近傍の潤滑流体溜まり部,142・・・蓮通領域内の潤滑流体溜まり部,143・・・動圧グルーブ, 144・・・排出部,145・・・スリーブ内周面上端,146・・・遠心力で振り切られた潤滑流体の循環経路,147・・・潤滑流体, 148,149・・潤滑流体境界,14a,14b・・潤滑流体溜まり部で潤滑流体を上方に引く力,14c・・・遠心力による圧力増分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸と,軸外周と微小隙間を有して回転自在に勘合するスリーブと,軸に固定されてスリーブ下端と間隙を持って対向する環状部材と,スリーブと軸及び環状部材との間隙に連続的に存在して大気との境界面をスリーブ内周面上端近傍とスリーブ下部外径近傍の少なくとも2カ所に持つ潤滑流体と,軸及びスリーブ間に軸方向の磁気吸引力を発生させる磁気的手段と,スリーブ及びスリーブと対向する軸或いは及び環状部材の何れかの面に動圧グルーブが形成され、局部的に潤滑流体圧力を高めて発生する軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡する位置で回転部を浮上支持し,スリーブ内にスリーブ内周面上端近傍の流入部からスリーブ下端外径近傍の排出部に連続して延びる連通領域を有し,スリーブ及びスリーブと対向する軸或いは及び環状部材の何れかの面に形成された動圧グルーブの少なくとも一つは不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとしてスリーブ内周面上端に潤滑流体を圧送し,スリーブ内周面上端近傍で潤滑流体を遠心力で流入部内に振り切り,遠心力で流入部内に振り切られた潤滑流体を遠心力及び或いは周方向に傾斜した連通領域により排出部方向に駆動して循環させる動圧流体軸受モータに於いて,蓮通領域排出部近傍での潤滑流体圧力を調整する潤滑流体圧力調整手段を前記連通領域排出部近傍及び或いは前記連通領域内にさらに有して,潤滑流体を封止することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項2】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として連通領域排出部とスリーブ下部外径近傍の潤滑流体境界面との間に潤滑流体を前記連通領域排出部方向に圧送する動圧グルーブを配置した事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項3】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として回転力を利用して潤滑流体を連通領域排出部から流入部方向に押し込むよう連通領域排出部近傍の連通領域形状を周方向に傾斜させた事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項4】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として連通領域排出部の回転方向後部と環状部材との間隙を局部的に小とし,回転力を利用して潤滑流体を連通領域排出部から流入部方向に押し込む事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項5】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記潤滑流体圧力調整手段として蓮通領域は排出部方向に徐々に間隙が小となる傾斜間隙領域を有する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項6】
請求項5記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,蓮通領域内の上記傾斜間隙領域を軸長方向と略平行に配置した事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項7】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,上記蓮通領域はスリーブ内周面上端に軸を周回する環状流入部を有する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項8】
請求項7記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は前記環状流入部を構成する空間で縮径し,前記環状流入部を構成する上端面はスリーブ内周面の口径より小の開口を有する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項9】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は円筒状とし,スリーブは円筒状内周面を有して軸に回動可能に勘合し,且つ軸と直交するスリーブ下端面で環状部材と対向し,スリーブ下端面と対向する環状部材面との何れかに配置された動圧グルーブは内径方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとすることを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項10】
請求項9記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面の何れかには一つのラジアルベアリングとしてヘリングボーングルーブを有し,環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかには潤滑流体を内径方向に圧送する能力を有する不平衡のヘリングボーングルーブを配置したことを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項11】
請求項9記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面の何れかには二つのヘリングボーングルーブを有して少なくとも一方のヘリングボーングルーブはスリーブ下端面方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブとし,環状部材とスリーブ下端面の対向面の何れかにはポンプインのスパイラルグルーブを有し,前記スパイラルグルーブの潤滑流体圧送能力は所定の回転速度に於いて遠心力及び前記不平衡ヘリングボーングルーブの潤滑流体圧送能力に抗してスリーブ上端方向に潤滑流体を圧送出来る程に大として潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送し,不平衡ヘリングボーングルーブとスパイラルグルーブとの協働でスリーブ下端面での潤滑流体圧力を高めて得られる軸方向負荷容量で回転部を非接触支持することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項12】
請求項9記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ下端面と対向する前記環状部材の一部をフランジとして円筒軸と一体構造のT字状軸とし,フランジの径方向面でベースプレート内位置を規制し,スリーブ下端面と対向するフランジ面外周とベースプレートの一部とが軸方向に対向し,前記二つのフランジ面でベースプレートに固定される構造とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項13】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は上端方向に先細となる円錐凸形状として,スリーブは前記軸に勘合する円錐凹形状とし,軸及びスリーブ間に一以上の動圧グルーブを有し,少なくとも前記動圧グルーブの一つはスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有し,軸及びスリーブ間の動圧グルーブが発生する軸方向負荷容量と前記磁気的手段とが平衡する位置でスリーブを浮上支持することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項14】
筐体と,記録ディスクと,記録ディスクを搭載回転させるモータと,記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを少なくとも有する記録ディスク装置であって,前記モータとして請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータを使用し,前記モータの固定軸を筐体中央部の支柱として薄板状の筐体で構成可能としたことを特徴とする記録ディスク装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−314186(P2006−314186A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166610(P2005−166610)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(302014011)有限会社クラ技術研究所 (29)
【Fターム(参考)】