説明

農業用または産業用の実用車のためのステアリングシステム、およびステアリングシステムを操作するための方法

本発明は、農業用または産業用の実用車のための、特にトラクタのためのステアリングシステムに関する。実用車(10)のアクスルの、好ましくは、フロントアクスル(20)の各半分に関して、電気的駆動装置(22、24)が備えられる。前記電気的駆動装置は、各アクスル半分に関連する少なくとも1つのホイール(26)を駆動することができる。電気的駆動装置(22、24)は、所定のトルクが、電気的駆動装置(22、24)から、駆動装置(22、24)が駆動するホイール(26)に伝達されることが可能であるような形で、制御されることが可能である。好ましくは、実用車(10)の機械的ドライブアクスルに関連する、特にリヤアクスル(12)に関連するホイール(26)が、実用車(10)の機械的駆動装置(16、18)によって駆動されることが可能である。また、本発明は、ステアリングシステムを操作するための方法にも関する。本発明の目的は、実用車(10)がカーブをうまく通り抜ける場合にも、牽引力が、電気的駆動装置(22、24)によって駆動されるホイール群(26)によって伝達されることを可能にし、それによって、特定のステアリング角において、前記ホイール群(26)の上で、特定の制動トルクが防止されるべきことである。実用車のステアリングをサポートするため、またはもたらすため、カーブの外側のホイールに伝達されるべきトルクは、カーブの内側のホイールに伝達されるべきトルクよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用または産業用の実用車のための、特にトラクタのためのステアリングシステムに関する。実用車のアクスル、好ましくは、フロントアクスルの各半分に関して電気駆動装置が備えられ、アクスルのそれぞれの半分に関連する少なくとも1つのホイールが、前記駆動装置によって駆動されることを可能にする。電気駆動装置は、所定のトルクが、電気駆動装置によって、その駆動装置によって駆動されるホイールに伝達されることが可能なように、制御されることが可能である。好ましくは、実用車の機械的ドライブアクスルに関連する、特にリヤアクスルに関連するホイールは、実用車の機械的駆動装置によって駆動されることが可能である。また、本発明は、ステアリングシステムを操作するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
通常、実用車における機械的駆動装置は、トランスミッションを有する内燃機関によって提供される。特に、農業用または産業用の実用車のケースでは、実用車のリヤアクスルに関連するホイールは、トランスミッション、ならびにトランスミッションから下流に配置されたディファレンシャルギヤを介して、機械的駆動装置によって駆動される。
【0003】
DE 196 23 738 A1が、ドライブアクスルのホイールを駆動することができる手段となる機械的駆動装置を、内燃機関の形態で含む実用車を開示している。このドライブアクスルの各ホイールは、サミングギヤに関連し、ドライブシャフトからの機械動力と、電気モータからの動力とのサミングギヤ内の結合によって駆動される。DE 196 23 738 A1で開示される実用車の一実施形態では、電気的な個別ホイール駆動装置を含むだけの、車両アクスルが提供される。それらの電気的な個別ホイール駆動装置は、内燃機関によって駆動される、発電機によって電力を供給される。別の実施形態では、電子コントローラが、ステアリングされるホイールのステアリング角を検知するためのステアリング角センサからの信号、ならびにホイール速度センサからの信号を処理する。次に、コントローラは、所定の所望される速度と検知された実際の回転速度、ならびに計算された所望されるステアリング角と検知された実際のステアリング角から、各ホイールに関する速度コマンドを計算し、そのコマンドに基づき、電気モータによって駆動されるホイールの速度のバランスをとることが、カーブを走行している際に行われるように、電気モータが制御されることが可能である。このようにして、車両の形状に従って、2つのホイールのステアリング角の関数として、等しい力が、電気的な個別ホイール駆動装置からホイールを介して地面に伝達される。このタイプの制御は、例えば、EP 0 533 670 B1の中で開示されるアッカーマン条件を満たす。
【0004】
特に、農業用または産業用の実用車に関して、最大牽引力に達するため、フロントアクスルが、アクスル荷重配分に従って、実用車によって地面に伝達される動力の負担分を引き受けることを原則として要する。しかし、車両の形状に起因して、特に、機械的ステアリングに起因して、フロントホイールは、コーナリング中、リヤホイールよりも大きいカーブ半径を走行するので、フロントホイールは、より高い周速を有さなければならない。というのは、さもなければ、対応するホイールのノンスリップ回転モーションが可能でないからである。現在の標準のトラクタ、すなわち、DE 196 23 738 A1で開示される実用車ではないトラクタでは、フロントアクスルとリヤアクスルの間におけるホイールの速度比は、既定である。このため、しっかりしたコーナリングと直進走行の間の折り合いが要求される。
【0005】
これは、フロントホイールが、リヤアクスルのホイールと比べて、約4%のリードを有することで達せられ、つまり、フロントアクスルのホイールが、リヤアクスルのホイールより速く回転する。直進走行している場合、これは、ドライブアクスル間でひずみ、およびアイドルな動力をもたらし、そのことは、シャーシ効率のために不利であり、トランスミッションにさらなるストレスをかけ、タイヤの摩耗の増大につながり、特に、トラクタを畑で使用している場合、地面および/または道に損傷を与える可能性がある。
【0006】
しかし、きついコーナを走行している際、特に、曲がりの外側のホイールのリードは、もはや十分ではなく、あるステアリング角を超えると、制動トルクさえ、フロントホイール上に生じ、これは、トラクタの走行動作に悪影響を与える。その結果、フロントアクスルは、もはや牽引力を伝達しない。これは、ほぼ理想的な動力学的条件が、対応するカーブ半径に対する特定のステアリング角においてだけ存在することを意味する。その結果、多くのトラクタ製造業者は、特定のステアリング角を超えると、フロントアクスル駆動装置を切り離す。しかし、その場合、フロントアクスルは、やはり、全く牽引力を伝達しない。
【0007】
以上の諸問題は、DE 196 23 738 A1で開示された実用車で解決されることが可能であったが、混成ドライブアクスルの構成は、設計が複雑であり、したがって、高価である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、前述した諸問題を解決する、ステアリングシステム、ならびに前述した種類のステアリングシステムを操作するための方法を提供し、さらに発展させることである。特に、コーナリング中でも、電気的駆動装置によって駆動されるホイールから牽引力が伝達されることを可能にし、特に、それらのホイール上の制動トルクが、あるステアリング角において回避されると考えられる、農業用または産業用の実用車のためのステアリングシステムが、提供されると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載の方法を介して、本発明で達せられる。本発明のさらなる有利な諸実施形態および発展形態は、従属請求項で開示される。
【0010】
本発明によれば、前述した種類のステアリングシステムは、実用車のステアリングをサポートするため、またはもたらすために、曲がりの外側のホイールに伝達されるトルクが、曲がりの内側のホイールに伝達されるトルクよりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、実用車のアクスルの、好ましくは、フロントアクスルの各半分に電気的駆動装置を設けることにより、アクスルのその半分に関連するホイールが、そのアクスルの他方の半分のホイールとは独立に、電気的駆動装置によって駆動されることが可能であることが、まず見出された。このため、実用車の機械的駆動装置によって、機械的トランスミッションを介して、そのアクスルのホイールを駆動することは必要ない。そのような問題解決法は、フロントアクスルのホイール上で様々な回転速度を調整するのに、複雑で、したがって、高価な機械的トランスミッションを要する。本発明のステアリングシステムの重要なコンポーネントは、電気的駆動装置によって駆動される、ホイールのトルク制御でもある。原則として、速度調整された制御は、実施するのが容易である。しかし、その場合、フロントアクスルが、すべてのステアリング条件の下で、実用車の定義された牽引力を引き受けると十分に保証することができない。したがって、電気的駆動装置によって駆動されるホイールのトルク調整された制御が、カーブを走行している際、コーナリング中、フロントアクスルも、牽引力を伝達することができるので、実用車のより良好なハンドリングをもたらす可能性がある。また、電気的駆動装置のトルク調整された制御は、容易に実施することもできる。というのは、電気的駆動装置の伝達されるトルクは、電気的駆動装置によって消費される電力、ならびに回転速度に基づいて算出されることが可能だからである。
【0012】
曲がりの外側のホイールと、曲がりの内側のホイールを異なるトルクで制御することにより、電気的駆動装置によって駆動されるホイールのステアリング角、および結果の形状が、アッカーマン条件を満たさない場合でさえ、実用車の能動的なステアリングが、特に有利に可能である。いずれにしても、この制御戦略は、個々のホイールの地面への最適な動力伝達を可能にし、このため、それぞれのステアリング状況に合わせられた、実用車の最適な動きを可能にする。
【0013】
原則として、電気的駆動装置を制御するためのコントローラが備えられ、このコントローラは、例えば、シングルボードコンピュータとして構成されることが可能である。好ましい実施形態では、定義されたトルクは、実用車の現在の操作状態から導出されることが可能である。現在の操作状態は、実用車の、例えば、直進走行、コーナリング、または前進走行もしくは後進走行であることが可能である。実用車の現在の操作状態を特徴付けるさらなるパラメータには、例えば、内燃機関の回転速度、ギヤボックスまたはパワーシフトトランスミッションの現在の状態、実用車の可能な牽引荷重、あるいは前方荷積み操作中に生じる可能性があるような、実用車の変化するアクスル荷重配分が含まれる。相応して、実用車の現在の操作状態を検知するセンサ群が備えられ、その情報をコントローラに供給する。
【0014】
また、定義されたトルクは、さらに、または代替として、操作者入力から導出されることも可能である。操作者入力には、例えば、操作者による実用車のステアリングホイールの操作が含まれることが可能である。伝達されるべき定義されたトルクは、好ましくは、実用車の現在の操作状態と、操作者入力の両方から導出され、そのため、実用車の現在の操作状態を考慮に入れて、これが、実用車のインテリジェントコーナリングを実質的に可能にしながら、ホイールの、操作者によって調整された制御を可能にする。
【0015】
実用車の現在の操作状態は、実用車の機械的ステアリング装置のステアリング角に特に関する。機械的ステアリング装置は、例えば、フロントアクスルステアリングを含むことが可能である。その場合、実用車は、電気的駆動装置によって駆動されるホイールのトルク調整された駆動と、機械的ステアリング装置の組み合わせによってステアリングされて、特定用途向けのステアリング戦略の実施を有利に可能にする。これには、例えば、低い車両速度において、可能な最も小さい方向転換旋回円で車両を方向転換させること、または実用車とトレーラから成る組み合わせで、平均車両速度においてカーブを走行することが含まれる。
【0016】
実用車の機械的ステアリング装置は、アクスルピボットステアリング、第5のホイール、または関節ステアリングの形態で構成されることが可能である。現在、利用できる機械的ステアリング角は、好ましくは、センサによって検知される。このようにして、センサは、実用車の現在の操作状態を検知することができ、この状態が、ステアリング中、コントローラによって相応する形で考慮に入れられることが可能である。
【0017】
トラクタとして構成され、フロントリーダを含む実用車は、下降中、機械的ステアリング角、および同時の制動に起因して、特にフロントローダの積載された状態において、危険な走行状況に容易にさらされる。というのは、その場合、ステアリングは、一部の状況下では、応答しない、または過度にステアリングされる可能性があるからである。垂直軸を中心とする車両の回転の1つの測度が、ヨーレートである。したがって、好ましい実施形態は、実用車のヨーレートが検知されることを可能にするヨーレートセンサを含み、検知されたヨーレートは、トルク計算に含められることが可能である。このため、ヨーレートセンサの助けを借りて、垂直軸を中心とする実用車の回転が検知されて、危険な走行状況を有利に回避することができるようになることが可能であり、ホイールブレーキの制御などの、実用車のさらなるアセンブリの対応する制御が要求される可能性がある。
【0018】
好ましくは、実用車の操作者によって操作されることが可能であり、実用車の方向の変化が、定義される、または影響されることを可能にする入力デバイスが備えられる。方向の変化は、ステアリング入力の結果である、実用車の走行モーションの横方向偏差として特に解釈されるべきである。入力デバイスは、例えば、ステアリングホイール、ジョイスティック、ペダル、または実用車のステアリングホイール上の配置された少なくとも1つのスイッチを含むことが可能である。入力デバイスが、スイッチが設けられたステアリングホイールを含む場合、例えば、スイッチが、極端なステアリング角においてだけ動かされることが可能であると、ステアリングホイールを使用する実用車のおおむね従来どおりの操作が可能である。これは、訓練されていない操作者に関して、本発明のステアリングシステムを含む実用車を操作するための短い学習段階を有利に可能にする。
【0019】
実用車は、所望の走行方向が定義されることを可能にするシステムを備えることが可能である。例えば、そのようなシステムは、特に、無線信号を介して、例えば、トラクタの形態の実用車に、最適な畑耕作のための所望の走行方向コマンドを送る、AMS、すなわち、農業管理ソリューション、システムであることが可能である。そのようなシステムは、例えば、GPS(グローバルポジショニングシステム)衛星ナビゲーションシステムを含むことが可能であり、したがって、理想的なケースでは、実用車は、自律的に、すなわち、操作者なしで操作されることも可能である。というのは、実用車は、GPSおよび/またはAMSによって制御されて、指定された経路を走行するからである。このタイプのシステムは、通常、ソフトウェア、センサ、および移動コントローラを含むコンピュータシステムを含む。別の特に好ましい実施形態では、定義されたトルクは、実用車の所望の走行方向からの実際の走行方向の偏差から導出されることが可能であり、実用車のステアリングが、相応する形で影響されることを可能にする。
【0020】
所望の走行方向は、例えば、定義された走行ルートに基づいて導出されることが可能である。定義された走行ルートは、実用車に関連するメモリユニットの中に適切に格納されることが可能であり、例えば、操作者による1回だけの入力によって入力され、格納されることが可能である。例えば、定義されたルートを走行している際に、実用車の現在の位置を特定するため、その位置は、例えば、ナビゲーションシステムの少なくとも1つの送信機によって実用車に遠隔から送信される、ナビゲーションシステムから受信された信号に基づいて導出されるようにすることもできる。この目的で、ナビゲーションシステムは、先行技術から、それ自体は既知である、GPSを含むことも可能である。
【0021】
一部の応用例では、少なくとも1つの送信機と、実用車上に配置された受信機とを含む遠隔制御ユニットを設けることが有利であることが分かる可能性がある。遠隔制御ユニットを使用して、実用車を遠隔から制御すること、ならびに、少なくともある程度、操作者が、実用車の方向の所望される変更を入力できるようにすることが可能である。例えば、遠隔制御ユニットは、模型自動車または模型飛行機を制御するために使用されるコントロールと同様のコントロールを含むことが可能である。
【0022】
電気的駆動装置は、好ましくは非同期モータとして構成される、少なくとも1つの電気モータを含む。非同期モータは、製造するのが安価であり、したがって、本発明による実用車は、比較的わずかな追加の費用で製造することができる。好ましくは、電気モータと、電気モータに関連するホイールの間で、少なくとも1つの減速ギヤが備えられ、このギヤは、電気モータの高い回転速度が、ホイールが最後に駆動される、より低い回転速度まで減速されることを可能にする。
【0023】
実用車の現在の操作状態を記録する目的で、好ましい実施形態では、各ホイールに関して、回転速度センサが備えられ、このセンサは、それぞれのホイールの現在の回転速度を検知する。
【0024】
フロントアクスルのホイールの回転速度を検知するための回転速度センサが、電気的駆動装置上で直接に、または間接的に備えられることも可能であり、このため、電気的駆動装置の回転速度が、直接に、または間接的に測定されることが可能になり、その測度が、次に、それぞれのホイールの回転速度を計算するのに使用されることが可能である。これは、そのような回転速度センサが、電気的駆動装置上により容易に配置することが可能であり、電線路が、いずれにしても、電気的駆動装置まで引かれているので、接続する線が備えられることが可能であるという点で、その限りで有利である。
【0025】
定義されたトルクが、個々のホイールの検知された回転速度の関数として計算されると、特に好ましい。これに関して、実用車の回転速度調整されたステアリングとトルク調整されたステアリングのある組み合わせが存在する。というのは、ホイールが、定義されたコーナリング中、曲がりの内側であまりにも速く回転する場合、そのホイールを駆動している電気的駆動装置が、ホイールの検知された回転速度に応答して、そのホイールにより小さいトルクを伝達するからである。
【0026】
リヤアクスルに関連する機械的に駆動されるホイールの周速が、フロントホイールの周速より大きい場合、フロントホイール上のトルクは、すべてのホイールの周速を互いに対して再び調整して、フロントホイール、したがってフロントアクスルの牽引力割り当てを増加させるために、増加されなければならない。フロントホイールが、リヤホイールよりも大きい周速で回転する場合、定義されたトルクは、フロントホイール上で低下させられなければならない。原則として、2つのドライブアクスル上のホイールの周速の間で、可能な最小の差を実現することが試みられる。
【0027】
コーナリング中、曲がりの外側のホイールは、曲がりの内側のホイールより高い周速を有さなければならない。というのは、アッカーマン条件によれば、フロントホイールは、より大きいカーブ半径を走行するからである。
【0028】
したがって、特に好ましい実施形態では、実用車のリヤアクスルに関連するホイールの周速の平均値と、電気的駆動装置によって駆動されるホイールの周速との間の差を、ホイールの電気的駆動装置によって伝達されるべきトルクの計算において考慮に入れるようにされる。このようにして、実用車の個々のドライブアクスルの向上した牽引力配分が、コーナリング中に、それぞれに調整されたステアリング角形状、および実用車のホイールのそれぞれの周速の関数として実現されることが可能である。というのは、その場合、ほぼ理想的な動力学的走行条件が存在し、したがって、ホイール群の1つのホイールの制動トルクまたはすべりが、全く生じないからである。
【0029】
その場合、実用車は、曲がりの外側のホイール上のトルクが、高くされ、曲がりの内側のホイール上のトルクが、下げられるという点で、ステアリング中、有利に支えられる。このようにして、フロントアクスルは、コーナリング中でも、相応する牽引力を伝達する。曲がりの外側のホイール上で定義されるトルクは、方向転換旋回円をさらに小さくすることを実現するために、きついカーブ半径の場合、不釣合いに増加させることができる。すると、トラクタは、カーブを能動的に回るように引かれる。
【0030】
ホイールの電気的駆動装置によって伝達されるべきトルクを計算する際、これは、1つまたは複数のルックアップテーブルの助けを借りて、具体的に考慮に入れられることが可能である。特に、例えば、電気的駆動装置が前進走行を実行するか、逆進走行を実行するかに依存して、特に、各操作モードに関して1つの、いくつかのテーブルが備えられることが可能である。その場合、このテーブルの中に、伝達されるべきトルクのデータが、フロントアクスルのそれぞれのホイールのステアリング角の関数として格納されることが可能である。実用車のリヤアクスルに関連するホイールの周速の平均値と、対応するホイールの周速の間の差も、そこに格納されることが可能である。
【0031】
別の実施形態では、ホイールに伝達されるべきトルクの限度が、電気的駆動装置によって駆動されるそのホイールが、定義された回転速度閾値を超えた場合、確立される。これにより、何よりも、電気的駆動装置が、その駆動装置が駆動するホイールに、そのホイールが、理由は何であれ、地面に全く接触していない、または地面に対して全く牽引力を有さず、したがって、さらに加速されるだけであるにも関わらず、定義されたトルクを伝達しようとすることが防止される。
【0032】
電気的駆動装置によって駆動されるホイール群は、実用車の現在の操作状態の定義された値を超えた後、かつ/または操作者入力の後に初めて、電気的駆動装置によって駆動されるホイールに関して、様々なトルク値が定義されるように、制御されることも可能である。
【0033】
本発明のステアリングシステムを使用して、電気的駆動装置を非線形の形で制御して、大きいカーブ半径の場合に、最適化されたタイヤ摩耗が実現され、かつ/または小さいカーブ半径の場合に、最小の方向転換旋回円直径が実現されるようにすることができる。
【0034】
さらに、ディファレンシャルロックを始動させることができ、これにより、電気的駆動装置によって駆動されるホイールの等しい周速が生じさせられることが可能になる。これは、直進走行している場合、特に役立つ。
【0035】
実用車の方向のわずかな変更が所望されるような場合、これは、単に、電気的駆動装置群の伝達されるトルクの定義された差によって実現することができる。その場合、実用車の、提供されている可能性がある機械的ステアリング装置のステアリング角をなしで済ませることができる。
【0036】
実用車に加えられる、おおむね一定の外的要因などの影響に応答して、実用車によるカウンタステアリングが要求される走行状況が存在する。そのような外的要因の一例は、実用車が、坂道に平行に走行する場合に生じる。そのようなケースでは、有利には、実用車によるカウンタステアリングが、単に、電気的駆動装置を起動することによって実現されることが可能であるようにする。
【0037】
さらに、本発明のステアリングシステムは、先行技術からそれ自体は知られている、実用車の安定化を実現することができるように、電気的駆動装置の起動を可能にする。このようにして、実用車の安全特性が、特に有利に向上させられることが可能である。
【0038】
前述した目的は、請求項24に記載の諸特徴により、本発明で達せられる。その請求項によれば、農業用または産業用の実用車のステアリングシステムを操作するための方法が、実用車のステアリングをサポートするため、またはもたらすため、曲がりの外側のホイールに伝達されるトルクが、曲がりの内側のホイールに伝達されるトルクよりも大きいことを特徴とする。
【0039】
請求項1から23のいずれか一項に記載のステアリングシステムを操作するための方法が、好ましく、したがって、ここでは、繰り返しを避けるために、本明細書の以上の部分だけについて述べる。
【0040】
本発明の方法を有利に構成するため、およびさらに発展させるために、様々な可能性が利用できる。これに関して、一方で、請求項1を再び参照して、特許請求の範囲について述べ、他方で、図面を参照して、以下により詳細に説明する本発明の好ましい実施形態について述べる。一般に、本方法の好ましい諸実施形態、およびさらなる発展形態は、図面を参照する本発明の好ましい実施形態の説明に関連しても説明される。図面の唯一の図は、本発明の一実施形態を概略図で示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
唯一の図は、農業用実用車10の個々のアセンブリの概略図を示す。農業用実用車10は、トラクタとして構成され、ホイール14に関連するリヤアクスル12を含む。実用車のリヤアクスル12は、内燃機関として構成された機械的駆動装置16によって、トランスミッションおよびディファレンシャルを介して駆動される。トランスミッションおよびディファレンシャルは、簡明にするために、1つのユニット18として図示されている。
【0042】
農業用実用車10は、フロントアクスル20を含み、実用車10のフロントアクスル20の各半分に関して、電気的駆動装置22、24が備えられる。電気的駆動装置22は、アクスルの左半分に関して備えられる、電気的駆動装置24は、フロントアクスル20の右半分に関して備えられる。電気的駆動装置22、24は、フロントアクスル20のホイール26を駆動するのにそれぞれ使用される。
【0043】
農業用実用車10は、特に、曲がりの外側のホイールに伝達されるトルクが、曲がりの内側のホイールに伝達されるトルクよりも大きいという点で、実用車のステアリングがサポートされる、またはもたらされることを可能にする、本発明によるステアリングシステムを含む。その目的で、制御線30、32を介して電気的駆動装置22、24が制御されることを可能にする、コントローラ28が備えられる。
【0044】
電気的駆動装置22または24からそれぞれの駆動されるホイール26に伝達されることが可能な定義されたトルクは、実用車の現在の操作状態から導出されることが可能である。実用車の現在の操作状態の検知のため、いくつかのセンサが備えられる。これには、リヤアクスル12に関連するホイール群14の回転速度を検知する2つのセンサ34が特に含まれる。さらに、電気的駆動装置22、24の上に配置され、フロントアクスル20に関連するホイール群26の回転速度が、間接的に検知されることを可能にする回転速度センサ群36が備えられる。さらに、実用車10のヨーレートを検知するヨーレートセンサ38が備えられ、ヨーレートは、ヨーレートセンサ38上の2重矢印で示されている。ステアリング角センサ群40が、アクスルピボットステアリングとして構成された機械的ステアリング装置42のそれぞれのステアリング角を検知する。センサ34、36、38、および40によって検知される信号は、対応する線を介して、電気ユニット44に伝送され、ユニット44は、接続線を介してコントローラ28に接続されている。また、電気ユニット44は、コントローラ28に組み込まれることも可能である。
【0045】
他方、概略で示されたステアリングホイール46で操作者入力が提供されることも可能である。ステアリングホイール46の動きは、ステアリング装置48に送られ、そのため、機械的アクスルピボットステアリング42のシリンダ群50を制御する。ステアリング装置48は、接続線52を介して、本発明のステアリングシステムのコントローラ28に接続される。ステアリングホイール46のすぐ近くに、スイッチ54が配置され、スイッチ54は、概略でだけ示され、実用車10の操作者が、本発明のステアリングシステムを直接に制御することを可能にする。このようにして、スイッチ54によって生成された信号は、ステアリング装置48を介してコントローラ28に伝送され、そのため、電気的駆動装置22、24に伝送される。
【0046】
コントローラ28上に受信アンテナ56が示されており、このアンテナは、唯一の図に示されていないナビゲーションシステムから、または遠隔制御デバイスから信号を受信することができる。
【0047】
2つの電気的駆動装置22、24は、非同期モータとして構成される。実用車10の図示する唯一の操作状態では、機械的ステアリング装置42は、ステアリング角を有さない。本発明のステアリングシステムなしでは、実用車は、直進するだけである。しかし、本発明のステアリングシステムをプロセスに組み込むことにより、機械的ステアリング装置42のステアリング角なしでも、わずかな方向変更が、実用車10によって実行されて、例えば、実用車に加えられた、おおむね一定の外的要因に応答する実用車の能動的なカウンタステアリングが、操作者によって要求されないようになることが可能である。
【0048】
最後に、実施形態の以上に説明した実施例は、請求する方法の説明に役立つだけであり、方法をそれらの実施例に限定するものではないことを特に指摘しておかなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】農業用実用車10の個々のアセンブリを示す概略図である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業用または産業用の実用車のための、特にトラクタのためのステアリングシステムであって、
アクスルの、好ましくは、フロントアクスル(20)の各半分に関して、電気的駆動装置(22、24)が備えられ、該駆動装置は、前記アクスルの前記それぞれの半分に関連する少なくとも1つのホイール(26)が、駆動されることを可能にし、該電気的駆動装置(22、24)は、定義されたトルクが、前記電気的駆動装置(22、24)から、該駆動装置(22、24)が駆動する前記ホイール(26)に伝達されることが可能であるように制御され、前記実用車(10)の機械的ドライブアクスルに関連する、特にリヤアクスル(12)に関連するホイール群(14)は、好ましくは、前記実用車(10)の機械的駆動装置(18、18)によって駆動され、前記実用車(10)の前記ステアリングをサポートするため、またはステアリングを行うため、曲がりの外側のホイールに伝達されるトルクは、曲がりの内側の前記ホイールに伝達されるトルクよりも大きいことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記定義されたトルクは、前記実用車(10)の現在の操作状態、および/または操作者入力から導出されることが可能であることを特徴とする請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
前記実用車(10)の前記現在の操作状態は、前記実用車(10)の機械的ステアリング装置(42)のステアリング角を含み、前記機械的ステアリング装置(42)は、好ましくは、フロントアクスルステアリングを含むことを特徴とする請求項2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記実用車(10)の前記機械的ステアリング装置(42)は、アクスルピボットステアリング、第5のホイール、または関節ステアリングとして構成され、前記現在の機械的ステアリング角は、好ましくは、センサ(40)によって検知されることを特徴とする請求項3に記載のステアリングシステム。
【請求項5】
前記実用車(10)のヨーレートが検知されることを可能にするヨーレートセンサ(38)が備えられ、前記検知されたヨーレートは、トルク計算に含められることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項6】
前記実用車(10)の方向の変化が定義される、または影響されることを可能にする、前記実用車(10)の操作者によって操作されることが可能な入力デバイスが備えられることを特徴とする請求項2に記載のステアリングシステム。
【請求項7】
前記入力デバイスは、ステアリングホイール(46)、ジョイスティック、ペダル、または前記実用車(10)のステアリングホイール(46)上に配置された少なくとも1つのスイッチ(54)を含むことを特徴とする請求項6に記載のステアリングシステム。
【請求項8】
前記定義されたトルクは、前記実用車(10)の所望される走行方向からの実際の走行方向の偏差から導出されることが可能であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項9】
前記実用車(10)の前記所望される走行方向は、前記実用車に関連するメモリユニットの中に格納された、定義された走行ルートに基づいて導出されることが可能であることを特徴とする請求項8に記載のステアリングシステム。
【請求項10】
前記所望される走行方向は、好ましくは、ナビゲーションシステムの少なくとも1つの送信機によって前記実用車に遠隔から送信される、該ナビゲーションシステムからの信号に基づいて導出されることが可能であることを特徴とする請求項8または9に記載のステアリングシステム。
【請求項11】
少なくとも1つの送信機と、前記実用車上に配置された1つの受信機(56)とを含む遠隔制御デバイスが備えられ、前記遠隔制御デバイスは、前記実用車(10)が、少なくともある程度、遠隔から制御されることを可能にし、前記実用車(10)の所望の方向変更の入力を可能にすることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項12】
電気的駆動装置(22、24)は、好ましくは非同期モータとして構成された、少なくとも1つの電気モータを含むこと、および好ましくは、少なくとも1つの減速ギヤが、前記電気モータと前記関連するホイール(26)との間で備えることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項13】
各ホイール(14、26)に関して、前記それぞれのホイール(14、26)の現在の回転速度を検出する回転速度センサ(34、36)が備えることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項14】
回転速度センサ(36)は、電気的駆動装置(22、24)上で直接に、または間接的に備えることを特徴とする請求項13に記載のステアリングシステム。
【請求項15】
前記定義されたトルクは、前記個々のホイール(14、26)の前記検知された回転速度の関数として計算されることが可能であることを特徴とする請求項13または14に記載のステアリングシステム。
【請求項16】
前記実用車(10)の前記機械的ドライブアクスル(12)に関連する前記ホイール群(14)の周速の平均値と、前記電気的駆動装置(22、24)によって駆動される前記ホイール(26)の周速の間の差が、ホイール(26)の電気的駆動装置(22、24)によって伝達されるべき前記トルクの計算において考慮に入れられることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項17】
電気的駆動装置(22、24)によって駆動されるホイール(14、26)の定義された回転速度閾値を超えると、前記ホイール(26)に伝達されるべき前記トルクの限度が提供されることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項18】
前記電気的駆動装置(22、24)によって駆動される前記ホイール群(26)に関する様々なトルク値は、前記実用車(10)の現在の操作状態の定義された値を超えるまで、かつ/または操作者入力の後まで、定義されないことを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項19】
前記電気的駆動装置(22、24)は、非線形の形で制御されて、大きいカーブ半径の場合に、最適化されたタイヤ摩耗が実現され、かつ/または小さいカーブ半径の場合に、最小の方向転換旋回円直径が実現されるようになることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項20】
ディファレンシャルロックが、作動されることが可能であり、前記電気的駆動装置群(22、24)によって駆動される前記ホイール群(26)の等しい周速が生じさせられることが可能になることを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項21】
前記実用車(10)のわずかな方向変更は、単に、前記電気的駆動装置群(22、24)の定義されたトルク差によって達せられることが可能であることを特徴とする請求項1から20のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項22】
前記実用車(10)に加えられる、おおむね一定の外的要因に、例えば、坂道に平行な走行に応答する前記実用車(10)のカウンタステアリングは、単に、前記電気的駆動装置群(22、24)を起動することによって達せられることが可能であることを特徴とする請求項1から21のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項23】
前記電気的駆動装置群(22、24)は、前記実用車が、安定化されることが可能であるように制御されることを特徴とする請求項1から22のいずれか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項24】
農業用または産業用の実用車のための、特にトラクタのためのステアリングシステムを操作するための方法であって、
アクスルの、好ましくは、フロントアクスル(20)の各半分に関して、電気的駆動装置(22、24)が備えられ、該駆動装置は、前記アクスルの前記それぞれの半分に関連する少なくとも1つのホイール(26)が、駆動されることを可能にし、該電気的駆動装置(22、24)は、定義されたトルクが、前記電気的駆動装置(22、24)から、該駆動装置(22、24)が駆動する前記ホイール(26)に伝達されることが可能であるように制御され、前記実用車(10)の機械的ドライブアクスルに関連する、特にリヤアクスル(12)に関連する前記ホイール群(14)は、前記実用車(10)の機械的駆動装置(16、18)によって駆動され、請求項1から23のいずれか一項に記載のステアリングシステムを操作するための方法が、好ましくは、使用され、前記実用車(10)の前記ステアリングをサポートするため、またはステアリングを行うため、曲がりの外側のホイールに伝達される前記トルクは、曲がりの内側の前記ホイールに伝達される前記トルクよりも大きいことを特徴とする方法。

【公表番号】特表2007−505782(P2007−505782A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526606(P2006−526606)
【出願日】平成16年9月20日(2004.9.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010542
【国際公開番号】WO2005/030520
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(591005165)ディーア・アンド・カンパニー (109)
【氏名又は名称原語表記】DEERE AND COMPANY
【Fターム(参考)】