説明

透明導電性積層体

【課題】 透明なフィルム基材の一方の面に、前記フィルム基材の側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜がこの順に形成されている透明導電性積層体であって、透明性等の光学特性に優れた透明導電性積層体を提供すること。
【解決手段】 厚さが2〜200μmの透明なフィルム基材の一方の面に、前記フィルム基材の側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜がこの順に形成されている透明導電性積層体であって、第一透明誘電体薄膜は、真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーディング法により形成され、かつ第一透明誘電体薄膜は、酸化インジウム100重量部に対して、酸化錫を0〜20重量部、酸化セリウムを10〜40重量部含む複合酸化物からなり、第一透明誘電体薄膜の屈折率をn1、第二透明誘電体薄膜の屈折率をn2、透明導電性薄膜の屈折率をn3としたとき、n2<n3≦n1の関係を満たすことを特徴とする透明導電性積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線領域で透明であり、かつフィルム基材上に導電性薄膜を有する透明導電性積層体およびその製造方法に関する。本発明の透明導電性積層体は、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイなどの新しいディスプレイ方式やタッチパネルなどにおける透明電極のほか、透明物品の帯電防止や電磁波遮断等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電性薄膜としては、ガラス上に酸化インジウム薄膜を形成した、いわゆる導電性ガラスがよく知られているが、導電性ガラスは基材がガラスであるために可撓性、加工性に劣り、用途によっては好ましくない場合がある。そのため、近年では可撓性、加工性に加えて、耐衝撃性に優れ、軽量であるなどの利点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムをはじめとする各種のプラスチックフィルムを基材とした透明導電性薄膜が賞用されている。
【0003】
しかし、フィルム基材を用いた透明導電性薄膜は、薄膜表面の光線反射率が大きいために、透明性に劣るという問題があるほか、透明導電性薄膜が耐擦傷性に劣り、使用中に傷がついて電気抵抗が増大したり、断線を生じたりするといった問題があった。特に、タッチパネル用の透明導電性薄膜では、スペーサを介して対向させた一対の薄膜同士がその一方のパネル板側からの押圧打点で強く接触されるため、これに抗しうる良好な耐久特性、つまり打点特性を有していることが望まれるが、上記フィルム基材を用いた透明導電性薄膜では打点特性に劣るため、タッチパネルとしての寿命が短くなるという問題があった。
【0004】
前記問題に対して、フィルム基材として特定膜厚のものを用い、その一方の面に光の屈折率がフィルム基材の光の屈折率よりも小さい透明誘電体薄膜と、さらにその上に透明導電性薄膜とを順次形成するとともに、フィルム基材の他方の面に透明な粘着剤層を介して別の透明基体を貼り合わせてなる透明導電性積層体が提案されている(特許文献1)。かかる透明導電性積層体によれば、透明性および導電性薄膜の耐擦傷性を改良できるとともに、タッチパネル用としての打点特性の改良がなされている。
【0005】
また、透明なフィルム基材の一方の面に、前記基材フィルムの側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜がこの順に形成されている透明導電性積層体であって、前記フィルム基材、二層の透明誘電体薄膜、透明導電性薄膜のそれぞれの光の屈折率が、第二透明誘電体薄膜<フィルム基材≦第一透明誘電体薄膜<透明導電性薄膜、の関係のものが提案されている(特許文献2)。かかる透明導電性積層体によれば、タッチパネルを屈曲状態で用いる場合の打点特性の改良がなされている。しかし、特許文献2において、透明なフィルム基材に形成される第一透明誘電体薄膜には、有機物と無機物との混合体が用いられており、透明性等の光学的な調整が容易ではなかった。また、透明なフィルム基材の一方の面に、前記基材フィルムの側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜がこの順に形成されている透明導電性積層体であって、第二透明誘電体薄膜<透明導電性薄膜≦第一透明誘電体薄膜、の関係のものが提案されている(特許文献3)。かかる透明導電性積層体によれば、透過光の着色を抑制できることが記載されている。しかし、特許文献3では、透明なフィルム基材に形成される第一透明誘電体薄膜の形成には、各種の方法が記載されているが、いずれの方法によっても形成速度は十分ではなかった。
【特許文献1】特開平6−222352号公報
【特許文献2】特開2002−326301号公報
【特許文献3】特開2000−301648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明なフィルム基材の一方の面に、前記基材フィルムの側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜がこの順に形成されている透明導電性積層体であって、透過光の着色を抑え、かつ生産性の良好な透明導電性積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、当該透明導電性積層体を用いたタッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下に示す透明導電性積層体により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、厚さが2〜200μmの透明なフィルム基材の一方の面に、前記基材フィルムの側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜がこの順に形成されている透明導電性積層体であって、
第一透明誘電体薄膜は、真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーディング法により形成され、かつ第一透明誘電体薄膜は、酸化インジウム100重量部に対して、酸化錫を0〜20重量部、酸化セリウムを10〜40重量部含む複合酸化物からなり、
第一透明誘電体薄膜の屈折率をn1、第二透明誘電体薄膜の屈折率をn2、透明導電性薄膜の屈折率をn3としたとき、n2<n3≦n1の関係を満たすことを特徴とする透明導電性積層体、に関する。
【0009】
上記透明導電性積層体において、第一透明誘電体薄膜の厚さが10〜200nmであり、かつ表面抵抗値が1×106(Ω/□)以上であることが好ましい。
【0010】
上記透明導電性積層体としては、透明なフィルム基材の他方の面には、透明な粘着剤層を介して透明基体が貼り合わされているものを用いることができる。
【0011】
また本発明は、厚さが2〜200μmの透明なフィルム基材の一方の面に、前記基材フィルムの側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜をこの順に形成する透明導電性積層体の製造方法であって、
第一透明誘電体薄膜は、真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーディング法により形成し、かつ第一透明誘電体薄膜は、酸化インジウム100重量部に対して、酸化錫を0〜20重量部、酸化セリウムを10〜40重量部含む複合酸化物からなり、
第一透明誘電体薄膜の屈折率をn1、第二透明誘電体薄膜の屈折率をn2、透明導電性薄膜の屈折率をn3としたとき、n2<n3≦n1の関係を満たすことを特徴とする透明導電性積層体の製造方法、に関する。
【0012】
上記透明導電性積層体の製造方法において、第一透明誘電体薄膜の厚さが10〜200nmであり、かつ表面抵抗値が1×106(Ω/□)以上であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明は、透明導電性薄膜を有する一対のパネル板を、透明導電性薄膜同士が対向するように、スペーサを介して対向配置してなるタッチパネルにおいて、少なくとも一方のパネル板が前記透明導電性積層体を含むことを特徴とするタッチパネル、に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、第一透明誘電体薄膜を、酸化インジウムに対して、特定量の酸化錫、酸化セリウムを含む複合酸化物により形成している。当該複合酸化物は、透明導電性材料である、酸化インジウムと酸化錫の複合体に、さらに酸化セリウムを添加したものであり、これにより、透明導電性薄膜の屈折率以上の高屈折率の実現できる。その結果、第一透明誘電体薄膜と第二透明誘電体薄膜との屈折率の差が大きくなり、光学的な調整を容易に行うことができ、透明性等の光学特性が良好な透明導電性積層体が得られる。
【0015】
また、前記本発明の複合酸化物により形成された第一透明誘電体薄膜は、その表面抵抗値が高く、透明導電性薄膜の導電性に影響を及ぼさない程度の高抵抗値に制御することができる。第一透明誘電体薄膜の表面抵抗値は、透明導電性薄膜の導電性に影響を及ぼさないように、絶縁性(高抵抗値)であることが好ましく、1×106(Ω/□)以上であることが好ましく、さらには、1×108(Ω/□)以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記本発明の複合酸化物は、高屈折率を有し、しかも薄膜を形成する際に、通常、採用されるスパッタリング法での生産性(製膜におけるスパッタレート)が良好である。従来、高屈折率の材料としては、TiO2(2.35)、Nd23(2.15)、ZrO2(2.05)、Ta25(2.2)、ZnO(2.1)、In23(2.0)、SnO2(2.0)、等が用いられている〔上記各材料の( )内の数値は光の屈折率である〕。しかし、前記材料のなかで、TiO2、Nd23、ZrO2、Ta25、ZnO等は、薄膜を形成する際に、通常、採用されるスパッタリング法での生産性(製膜スパッタレート)が劣る。一方、In23、SnO2等は薄膜の生産性は良好であるものの、これらは表面抵抗値が低く、透明導電性薄膜の導電性に影響を及ぼすため、第一透明誘電体薄膜に適さない。
【0017】
本発明の透明導電性積層体は、透明導電薄膜とフィルム基材との間に、第一透明誘電体薄膜および第二透明誘電体薄膜の二層の透明誘電体薄膜を有することから、また耐擦傷性、屈曲性も良好であり、しかも、上記のように、第一透明誘電体薄膜に、特定成分を特定割合で含有する高屈折率で、高抵抗値を有する複合酸化物を用い、かつ第一透明誘電体薄膜をドライプロセスによって形成しているため、透過光の着色を抑えることができ、また生産性がよく、光学調整を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の透明導電性積層体を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の透明導電性積層体の一例を示したものであり、透明なフィルム基材Fの一方の面に、第一透明誘電体薄膜1および第二透明誘電体薄膜2と、さらに第二透明誘電体薄膜2の上に透明導電性薄膜3とが形成されている。
【0019】
図2は、図1に示す透明導電性積層体のフィルム基材Fの、他方の面に透明な粘着剤層Aを介して透明基体Tが貼り合わされている場合の例である。また、図示はしていないが、図2の透明基体Tの外表面には、ハードコート処理層等を設けることができる。
【0020】
本発明において使用するフィルム基材Fとしては、特に制限されないが、透明性を有する各種のプラスチックフィルムが用いられる。たとえば、その材料として、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等があげられる。これらのなかでも、コストの点からポリエステル系樹脂が好ましい。フィルム基材Fの光の屈折率は、通常1.4〜1.7程度となるものが好ましく用いられる。
【0021】
これらフィルム基材Fの厚みは、2〜200μmの範囲にある。特に、厚みが20〜150μmの範囲である。厚みが2μm未満では基材としての機械的強度が不足し、この基材をロール状にして、第一、第二透明誘電体薄膜や透明導電性薄膜、さらには粘着剤層を連続的に形成する操作が難しくなる。一方、200μmを超えると、軽量、薄型化等の市場の要求の点で好ましくない。
【0022】
前記フィルム基材Fは、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理、ハードコート層や下塗り処理を施して、この上に設けられる第一透明誘電体薄膜1の上記フィルム基材Fに対する密着性を向上させることができる。また、第一透明誘電体薄膜1を設ける前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより除塵、清浄化してもよい。
【0023】
前記フィルム基材Fには、第一透明誘電体薄膜1、第二透明誘電体薄膜2、透明導電性薄膜3がこの順で設けられている。第一透明誘電体薄膜1の光の屈折率n1、第二透明誘電体薄膜2の光の屈折率n2、透明導電性薄膜3の光の屈折率n3は、n2<n3≦n1、の関係を満足するものであり、通常、透明導電性薄膜3の光の屈折率n3は約2程度(通常1.9〜2.1)であるため、その場合には第一透明誘電体薄膜1の光の屈折率n1は、通常、1.9〜2.3程度、さらには2.0〜2.2であるのが好ましく、第二透明誘電体薄膜2の光の屈折率n2は、通常、1.3〜1.7程度、さらには1.4〜1.6であるのが好ましい。
【0024】
前記第一透明誘電体薄膜1は、酸化インジウム100重量部に対して、特定量の酸化錫および酸化セリウムを含む複合酸化物により形成されている。形成材料としては、各酸化物成分の混合物の焼結体を使用することが好ましい。前記複合酸化物において、酸化錫の割合は、光学特性の点から、酸化インジウム100重量部に対して、0〜20重量部である。さらには、3〜15重量部であるのが好ましい。酸化錫の割合が20重量部を超える場合には、形成材料として焼結体を用いる場合、その焼結密度が低下するため、膜形成時の放電を安定に保ち難い(放電安定性が悪い)。また酸化セリウムの割合は、高抵抗値(絶縁性)および光学特性の点から、酸化インジウム100重量部に対して、10〜40重量部である。さらには、15〜30重量部であるのが好ましい。酸化セリウムの割合が10重量部未満では、第一透明誘電体薄膜1の表面抵抗値が低くなって、導電性を有するようになり好ましくない。一方、酸化セリウムの割合が40重量部を超える場合には、生産性(製膜スパッタレート)が低下し好ましくない。
【0025】
前記第一透明誘電体薄膜1の厚さは、特に制限されないが、10〜200nmであるのが好ましい。さらには15〜60nmである好ましい。10nm未満では連続被膜とするのが困難である。一方、200nm以下とするのが、光学的な調整の点から好ましい。
【0026】
第二透明誘電体薄膜2の材料としては、たとえば、NaF(1.3)、Na3AlF6(1.35)、LiF(1.36)、MgF2(1.38)、CaF2(1.4)、BaF2(1.3)、SiO2(1.46)、LaF3(1.55)、CeF3(1.63)、Al23(1.63)などの無機物〔上記各材料の( )内の数値は光の屈折率である〕や、光の屈折率が1.4〜1.6程度のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シロキサン系ポリマー、アルキド樹脂、メラミン樹脂などの有機物があげられる。これらのなかから材料を適宜に選択し、または組み合わせて、前記屈折率n2を満足する第二透明誘電体薄膜2を形成する。
【0027】
第二透明誘電体薄膜2の厚さは、特に制限されるものではないが、連続被膜とし、透明性や耐殺傷性を向上させるためには10nm以上とするのが好ましく、より好ましくは10〜300nm、特に好ましくは20〜120nmである。なお、第一透明誘電体薄膜1の厚さと第二透明誘電体薄膜2の厚さを合わせた総厚が、厚くなりすぎると透明性の向上が期待できなくなり、またクラックを生じるおそれがあるため、前記総厚は、150nm以下、さらには100nm以下とするのが好ましい。
【0028】
透明導電性薄膜3の材料としては、特に制限されるものではなく、例えば、酸化錫を含有する酸化インジウム、アンチモンを含有する酸化錫などが好ましく用いられる。
【0029】
透明導電性薄膜3の厚さは特に制限されないが、その表面抵抗を1×103Ω/□以下の良好な導電性を有する連続被膜とするには、厚さ10nm以上とするのが好ましい。膜厚が、厚くなりすぎると透明性の低下などをきたすため、厚さは、10〜300nm程度とするのがよい。
【0030】
第一透明誘電体薄膜1、第二透明誘電体薄膜2および透明導電性薄膜3は、フィルム基材F上に、通常、この順で順次に形成される。第一透明誘電体薄膜1および透明導電性薄膜3の形成方法としては、例えば、真空蒸着気相蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等があげられ、材料の種類および必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用することができるが、これらのなかでもスパッタリング法が一般的である。また、第二透明誘電体薄膜2の形成方法としては、上記の方法の他に、塗工法などを採用することができる。
【0031】
上記のように第一透明誘電体薄膜1、第二透明誘電体薄膜2および透明導電性薄膜3が順次に形成されたフィルム基材Fの他方の面には、透明な粘着剤層Aを介して透明基体Tを貼り合わすことができる。透明基体Tの貼り合わせは、透明基体Tの方に粘着剤層Aを設けておき、これにフィルム基材Fを貼り合わせてもよいし、逆にフィルム基材Fの方に粘着剤層Aを設けておき、これに透明基体Tを貼り合わせてもよい。後者の方法では、粘着剤層Aの形成を、フィルム基材Fをロール状にして連続的に行うことができ、生産性の面でより有利である。
【0032】
粘着剤層Aとしては、透明性を有するものであればとくに制限なく使用でき、たとえば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤などが用いられる。この粘着剤層Aは、透明基体Tの接着後に、そのクッション効果により、フィルム基材Fの一方の面に設けられた透明導電性薄膜3の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性を向上させる機能を有する。この機能をより良く発揮させる観点から、その弾性係数を1〜100N/cm2の範囲、厚さを1μm以上、通常5〜100μmの範囲に設定するのが望ましい。
【0033】
粘着剤層Aを介して貼り合わされる透明基体Tは、フィルム基材Fに対して良好な機械的強度を付与し、特にカールなどの発生防止に寄与するものであり、これを貼り合わせたのちにおいても可撓性であることが要求される場合は、通常6〜300μm程度のプラスチックフィルムが用いられ、可撓性が特に要求されない場合は、通常0.05〜10mm程度のガラス板やフィルム状ないし板状のプラスチックが、それぞれ用いられる。プラスチックの材質としては、前記したフィルム基材と同様のものが挙げられる。
【0034】
また、必要に応じて、上記透明基体Tの外表面(粘着剤層とは反対側の面)に、視認性の向上を目的とした防眩処理層や反射防止処理層を設けたり、外表面の保護を目的としたハードコート処理層を設けるようにしてもよい。ハードコート処理層としては、たとえば、メラニン系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ樹脂などの硬化型樹脂からなる硬化被膜が好ましく用いられる。
【0035】
図3は、前記本発明の透明導電性積層体(図2)を用いたタッチパネルの例を示したものである。すなわち、透明導電性薄膜P1d,P2dを有する一対のパネル板P1,P2を、互いに直交する縞状に形成した透明導電性薄膜P1d,P2d同士が対向するように、スペーサSを介して対向配置してなるタッチパネルにおいて、一方のパネル板P1として、上記図2に示す透明導電性積層体を用いたものである。
【0036】
このタッチパネルは、パネル板P1側より、入力ペンMにてスペーサSの弾性力に抗して押圧打点したとき、導電性薄膜P1d,P2d同士が接触して、電気回路のON状態となり、上記押圧を解除すると、元のOFF状態に戻る、透明スイッチ構体として機能する。その際、パネル板P1が上記の透明導電性積層体からなるために、導電性薄膜の耐擦傷性や打点特性などにすぐれ、長期にわたつて上記機能を安定に維持させることができる。
【0037】
なお、図3において、パネル板P1は、図1に示す透明導電性積層体であってもよい。また、パネル板P2は、プラスチックフィルムやガラス板などからなる透明基体T´に導電性薄膜P2dを設けたものであるが、上記のパネル板P1と同様の図1または図2に示す透明導電性積層体を用いてもよい。
【実施例】
【0038】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。
【0039】
各層の屈折率と膜厚:透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜と屈折率が相違する適当な熱可塑性フィルム基板上に同様のコーティング条件で単層で積層し、該積層面の光反射スペクトル上に光干渉効果に基づいて発現する反射率の極大ピークもしくは極小ピークの波長とそのピーク反射率の値を用いて、光学シミュレーションにより算出した。またハードコート層の屈折率はアッベ屈折率計(測定波長590nm)を用いて測定し、厚みは前記透明誘電体薄膜と同様の光干渉法を用いた計算により求めた。第一透明誘電体薄膜の表面抵抗値(Ω/□)は、三菱化学社製のハイレスター抵抗測定機により測定した。膜厚は、日立製作所製の透過型電子顕微鏡H−7650により測定した。
【0040】
実施例1
(第一透明誘電体薄膜の形成)
厚さが125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)からなるフィルム基材(光の屈折率nf=1.66)の一方の面に、アルゴンガス95%と酸素ガス5%の混合ガスの雰囲気下、酸化インジウム100部、酸化錫10部および酸化セリウム25部の混合物の焼結体から、下記条件の反応スパッタリング法により、酸化インジウム100部に対して、酸化錫10部および酸化セリウム25部を有する複合酸化物(光の屈折率n1=2.1)の第一透明誘電体薄膜を形成した。第一透明誘電体薄膜の厚さは32nm、表面抵抗値(Ω/□)は、8.5×109であった。
【0041】
<スパッタリング条件>
ターゲットサイズ:200mm×500mm
出力:3.0kw
電圧値450V
放電時間:1min
真空度:0.5Pa
【0042】
(第二透明誘電体薄膜の形成)
次いで、第一透明誘電体薄膜上に、SiO2(光の屈折率n2=1.46)を電子ビーム加熱法により、1×10-2〜3×10-2Paの真空度で真空蒸着して、厚さ50nmの第二透明誘電体薄膜を形成した。
【0043】
(透明導電性薄膜の形成)
次いで、上記のSiO2薄膜上に、アルゴンガス95%と酸素ガス5%の混合ガスを用いて、0.5Paの雰囲気中で、酸化インジウム100部および酸化錫10部の混合物の焼結体から、反応スパッタリング法により、酸化インジウム100部に対して酸化錫10部を有する複合酸化物(光の屈折率n1=2.0)の第一透明誘電体薄膜を形成した
【0044】
実施例2
(第一透明誘電体薄膜の形成)
厚さが25μmのPETフィルム上に、紫外線硬化型樹脂(旭電化社製,KRX571‐76NL)100部に、シリコーン系レベリング剤0.5部を混合し、固形分が40%となるように溶媒で希釈した溶液を、#16番のワイヤーバーにて乾燥後の膜厚が7μmとなるように塗布し、溶媒を乾燥オーブンにより気化した後、高圧水銀灯により紫外線照射して硬化を行い、透明ハードコート層(光の屈折率1.54)を形成した。
【0045】
実施例1において、フィルム基材として、上記ハードコート層を形成したPETフィルムを用い、そのハードコート層上に、酸化インジウム100部、酸化錫5部および酸化セリウム10部の混合物の焼結体から、実施例1と同様の反応スパッタリング法により、酸化インジウム100部に対して、酸化錫5部および酸化セリウム10部を有する複合酸化物(光の屈折率n1=2.05)の第一透明誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例1と同様にして第一透明誘電体薄膜を形成した。第一透明誘電体薄膜の厚さは35nm、表面抵抗値(Ω/□)は、5.7×107であった。
【0046】
次いで、第一透明誘電体薄膜上に、実施例1と同様にして第二透明誘電体薄膜を形成し、さらに実施例1と同様にして透明導電性薄膜を形成して、透明導電性積層体を得た。
【0047】
(透明導電性積層フィルムの作成)
次いで、上記PETフィルムの他方の面に、弾性係数が10N/cm2に調整されたアクリル系の透明な粘着剤層(アクリル酸ブチルとアクリル酸と酢酸ビニルとの重量比100:2:5のアクリル系共重合体100部にイソシアネート系架橋剤を1部配合してなるもの)を約20μmの厚さに形成し、この上に厚さが125μmのPETフィルムからなる透明基体を貼り合わせて、図2に示す構造の透明導電性積層体を作製した。
【0048】
比較例1
(第一透明薄膜の形成)
実施例1において、酸化インジウム100部および酸化錫10部の混合物の焼結体から、実施例1と同様の反応スパッタリング法により、酸化インジウム100部に対して酸化錫10部を有する複合酸化物(光の屈折率n1=2.0)の第一透明誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例1と同様にして第一透明誘電体薄膜を形成した。第一透明薄膜の厚さは51nm、表面抵抗値(Ω/□)は、1.1×103であった。
【0049】
次いで、第一透明薄膜上に、実施例1と同様にして第二透明誘電体薄膜を形成し、さらに実施例1と同様にして透明導電性薄膜を形成して、透明導電性積層体を得た。
【0050】
比較例2
(第一透明誘電体薄膜の形成)
実施例1において、酸化インジウム100部、酸化錫10部、酸化セリウム50部の混合物の焼結体から、実施例1と同様の反応スパッタリング法により、酸化インジウム100部に対して酸化錫10部および酸化セリウム50部を有する複合酸化物(光の屈折率n1=2.2)の第一透明誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例1と同様にして第一透明誘電体薄膜を形成した。第一透明誘電体薄膜の厚さは25nm、表面抵抗値(Ω/□)は、3.6×1013であった。
【0051】
次いで、第一透明誘電体薄膜上に、実施例1と同様にして第二透明誘電体薄膜を形成し、さらに実施例1と同様にして透明導電性薄膜を形成して、透明導電性積層体を得た。
【0052】
比較例3
(第一透明誘電体薄膜の形成)
実施例1において、チタン金属から、実施例1と同様の反応スパッタリング法により、酸化チタン(光の屈折率n1=2.35)の第一透明誘電体薄膜を形成したこと以外は実施例1と同様にして第一透明誘電体薄膜を形成した。第一透明誘電体薄膜の厚さは20nm、表面抵抗値(Ω/□)は、1×1013超であった。
【0053】
次いで、第一透明誘電体薄膜上に、実施例1と同様にして第二透明誘電体薄膜を形成し、さらに実施例1と同様にして透明導電性薄膜を形成して、透明導電性積層体を得た。
【0054】
実施例および比較例で得られた透明導電性積層体について、下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
<透明導電性薄膜の表面抵抗値>
三菱化学社製のローレスター抵抗測定器を用いて、表面抵抗値(Ω/□)を測定した。透明導電性薄膜は、450(Ω/□)に設定されたものであり、450(Ω/□)から変動していないものが好ましい。
【0056】
<光学特性>
島津製作所製の分光光度計UV3150を用いて、色相b*を測定した。色相b*は、透過光の着色を表し、色相b*の値がマイナス側に大きくなると透過光は青味が増し、プラス側に大きくなると黄色味が増す。色相b*の値は、−2〜2の範囲にあることが、着色が抑制されており好ましい。
【0057】
<スパッタレート>
実施例1に記載のスパッタリング条件における第一透明誘電体薄膜のスパッタレートを記載した。実施例1に記載のスパッタリング条件において、均一なスパッタレートであることが好ましい。
【0058】
【表1】

表1に示すように、実施例の透明導電性積層体は、第一透明誘電性薄膜が高屈折率を有し、色相が良好であり、光学的調整が容易である。また、第一透明誘電性薄膜は、高抵抗値を有しており、透明導電性積層体の導電性が損なわれることはない。また、スパッタレートがよく生産性も良好である。一方、比較例1では、第一透明薄膜の表面抵抗値が低いため、透明導電性薄膜の表明抵抗値に影響を及ぼしている。また、比較例1では、第一透明薄膜の膜厚が厚いため、透明導電性積層体としての光学特性が低下している。比較例2では、実施例の第一透明誘電体薄膜と同様の材料を用いているが、比較例2では、実施例に比べて、酸化セリウムの配合量が多いため、スパッタレートが悪い。また、比較例3では、実施例の第一透明誘電体薄膜の材料が酸化チタンであり、スパッタレートが悪い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の透明導電性積層体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の透明導電性積層体の他の例を示す断面図である。
【図3】本発明のタッチパネルの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
F フィルム基材
1 第一透明誘電体薄膜
2 第二透明誘電体薄膜
3 透明導電性薄膜
A 粘着剤層
T 透明基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが2〜200μmの透明なフィルム基材の一方の面に、前記基材フィルムの側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜がこの順に形成されている透明導電性積層体であって、
第一透明誘電体薄膜は、真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーディング法により形成され、かつ第一透明誘電体薄膜は、酸化インジウム100重量部に対して、酸化錫を0〜20重量部、酸化セリウムを10〜40重量部含む複合酸化物からなり、
第一透明誘電体薄膜の屈折率をn1、第二透明誘電体薄膜の屈折率をn2、透明導電性薄膜の屈折率をn3としたとき、n2<n3≦n1の関係を満たすことを特徴とする透明導電性積層体。
【請求項2】
第一透明誘電体薄膜の厚さが10〜200nmであり、かつ表面抵抗値が1×106(Ω/□)以上であることを特徴とする請求項1記載の透明導電性積層体。
【請求項3】
透明なフィルム基材の他方の面には、透明な粘着剤層を介して透明基体が貼り合わされていることを特徴とする請求項1または2記載の透明導電性積層体。
【請求項4】
厚さが2〜200μmの透明なフィルム基材の一方の面に、前記基材フィルムの側から第一透明誘電体薄膜、第二透明誘電体薄膜および透明導電性薄膜をこの順に形成する透明導電性積層体の製造方法であって、
第一透明誘電体薄膜は、真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーディング法により形成し、かつ第一透明誘電体薄膜は、酸化インジウム100重量部に対して、酸化錫を0〜20重量部、酸化セリウムを10〜40重量部含む複合酸化物からなり、
第一透明誘電体薄膜の屈折率をn1、第二透明誘電体薄膜の屈折率をn2、透明導電性薄膜の屈折率をn3としたとき、n2<n3≦n1の関係を満たすことを特徴とする透明導電性積層体の製造方法。
【請求項5】
第一透明誘電体薄膜の厚さが10〜200nmであり、かつ表面抵抗値が1×106(Ω/□)以上であることを特徴とする請求項4記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項6】
透明導電性薄膜を有する一対のパネル板を、透明導電性薄膜同士が対向するように、スペーサを介して対向配置してなるタッチパネルにおいて、少なくとも一方のパネル板が請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電性積層体を含むことを特徴とするタッチパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−346878(P2006−346878A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172178(P2005−172178)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】