説明

透明導電膜積層体及びその製造方法、並びに薄膜太陽電池及びその製造方法

【課題】 低抵抗で高透過性の透明導電膜積層体及びその製造方法、並びに薄膜太陽電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 透明導電膜(I)上に、透明導電膜(II)が積層された透明導電膜積層体において、透明導電膜(I)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、添加元素の含有量が、−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10で示される範囲内である。透明導電膜(II)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、添加元素の含有量が、−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74で示される範囲内である。但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性基板上に成膜される透明導電膜積層体及びその製造方法、並びに、この透明導電膜積層体を用いた薄膜太陽電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い導電性と可視光領域での高い透過率とを有する透明導電膜は、太陽電池や液晶表示素子、その他各種受光素子の電極などに利用されており、その他、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケースなど各種の防曇用の透明発熱体としても利用されている。
【0003】
透明導電膜には、酸化錫(SnO)系、酸化亜鉛(ZnO)系、酸化インジウム(In)系の薄膜が利用されている。酸化錫系には、アンチモンをドーパントとして含むもの(ATO)やフッ素をドーパントとして含むもの(FTO)が利用されている。酸化亜鉛系には、アルミニウムをドーパントとして含むもの(AZO)やガリウムをドーパントとして含むもの(GZO)が利用されている。最も工業的に利用されている透明導電膜は、酸化インジウム系であって、中でも錫をドーパントとして含む酸化インジウムは、ITO(Indium−Tin−Oxide)膜と称され、特に低抵抗の膜が容易に得られることから、これまで幅広く利用されてきた。
【0004】
近年、二酸化炭素の増加などによる地球環境問題と化石燃料の価格高騰という問題がクローズアップされ、比較的低コストで製造しうる薄膜太陽電池が注目されている。薄膜太陽電池は、一般に、透光性基板上に順に積層された透明導電膜、1つ以上の半導体薄膜光電変換ユニット、及び裏面電極を含んでいる。シリコン材料は資源が豊富なことから、薄膜太陽電池の中でもシリコン系薄膜を光電変換ユニット(光吸収層)に用いたシリコン系薄膜太陽電池がいち早く実用化され、ますます活発に研究開発が展開されている。
【0005】
そして、シリコン系薄膜太陽電池の種類もさらに多様化し、従来の光吸収層にアモルファスシリコンなどの非晶質薄膜を用いた非晶質薄膜太陽電池の他に、アモルファスシリコンに微細な結晶シリコンが混在した微晶質薄膜を用いた微結晶質薄膜太陽電池や結晶シリコンからなる結晶質薄膜を用いた結晶質薄膜太陽電池も開発され、これらを積層したハイブリッド薄膜太陽電池も実用化されている。
【0006】
ここで、光電変換ユニット又は薄膜太陽電池は、それに含まれるp型とn型の導電型半導体層が非晶質か結晶質か微結晶にかかわらず、その主要部を占める光電変換層が非晶質のものは非晶質ユニット又は非晶質薄膜太陽電池と称され、光電変換層が結晶質のものは結晶質ユニット又は結晶質薄膜太陽電池と称され、光電変換層が微結晶質のものは微結晶質ユニット又は微結晶質薄膜太陽電池と称されている。
【0007】
ところで、透明導電膜は、薄膜太陽電池の表面透明電極用として用いられており、透光性基板側から入射された光を有効に光電変換ユニット内に閉じ込めるために、その表面には通常微細な凹凸が多数形成されている。
【0008】
この透明導電膜の凹凸の度合いを表す指標としてヘイズ率がある。これは特定の光源の光を透明導電膜が付いた透光性基板に入射した際に透過する光のうち、光路が曲げられた散乱成分を全成分で割ったものに相当し、通常可視光を含むC光源を用いて測定される。一般的には、凹凸の高低差を大きくするほど、又は凹凸の凸部と凸部の間隔が大きくなるほどヘイズ率が高くなり、光電変換ユニット内に入射された光は有効に閉じ込められ、いわゆる光閉じ込め効果が優れている。
【0009】
薄膜太陽電池が非晶質シリコン、結晶質シリコン、微結晶質シリコンを単層の光吸収層とする薄膜太陽電池であるか、前述のハイブリッド薄膜太陽電池であるかによらず、透明導電膜のヘイズ率を高くして十分な光閉じ込めを行うことができれば、高い短絡電流密度(Jsc)を実現することができ、高い変換効率の薄膜太陽電池を製造することができる。
【0010】
上記目的から、凹凸の度合いが高くてヘイズ率の高い透明導電膜として、熱CVD法によって製造される酸化錫を主成分とした金属酸化物材料が知られており、薄膜太陽電池の透明電極として一般に利用されている。
【0011】
透明導電膜の表面に形成される導電型半導体層は、一般に、プラズマCVD法で水素を含むガス雰囲気中で製造される。導電型半導体層に微結晶を含ませるために、形成温度を高くすると、存在する水素によって金属酸化物の還元を促進することになり、酸化錫を主成分とした透明導電膜の場合は、水素還元による透明性の損失が見られる。このような透明性の劣った透明導電膜を用いれば高い変換効率の薄膜太陽電池を実現することはできない。
【0012】
酸化錫を主成分とする透明導電膜の水素による還元を防止する方法として、非特許文献1では、熱CVD法で形成した凹凸の度合いの高い酸化錫からなる透明導電膜の上に、還元耐性の優れた酸化亜鉛膜をスパッタリング法で薄く形成する方法が提案されている。酸化亜鉛は、亜鉛と酸素との結合が強いため、耐水素還元性に優れているため、上記構造とすることにより、透明導電膜の透明性を高く保つことができることが開示されている。
【0013】
しかしながら、上記構造の透明導電膜を得るためには、2種類の手法を組合せて成膜しなければならないため、コスト高となり実用的ではない。また、酸化錫系透明導電膜と酸化亜鉛系透明導電膜の積層膜を全てスパッタリング法で製造する手法については、透明度の高い酸化錫系透明導電膜を、スパッタリング法で製造することができないなどの理由から実現不可能であるとされている。
【0014】
一方、非特許文献2には、酸化亜鉛を主成分として、表面凹凸を有し、高いヘイズ率の透明導電膜をスパッタリング法で得る方法が提案されている。この方法は、2wt%のAlを添加した酸化亜鉛の焼結体ターゲットを用いて、3〜12Paの高ガス圧にて、基板温度を200〜400℃としてスパッタリング成膜している。しかし、6inchφのターゲットへDC80Wの電力を投入して成膜しており、ターゲットへの投入電力密度が0.442W/cmと極めて低い。そのため、成膜速度は14〜35nm/minと極めて遅く工業的には実用性がない。
【0015】
また、非特許文献3では、酸化亜鉛を主成分として、従来のスパッタリング法で作製される、表面凹凸の小さな透明導電膜を得た後で、膜の表面を酸でエッチングして表面を凹凸化し、ヘイズ率の高い透明導電膜を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では、乾式工程で、真空プロセスであるスパッタリング法で膜を製造した後に、大気中で酸エッチングを行って乾燥し、再び乾式工程のCVD法で半導体層を形成しなければならず、工程が複雑となり製造コストが高くなるなどの課題があった。
【0016】
酸化亜鉛系透明導電膜材料のうち、アルミニウムをドーパントとして含むAZOに関するものでは、酸化亜鉛を主成分として酸化アルミニウムを混合したターゲットを用いて直流マグネトロンスパッタリング法でC軸配向したAZO透明導電膜を製造する方法が提案されている(特許文献1参照。)。この場合、高速で成膜を行うためにターゲットに投入する電力密度を高めて直流スパッタリング成膜を行うと、アーキング(異常放電)が多発してしまう。成膜ラインの生産工程においてアーキングが発生すると、膜の欠陥が生じたり、所定の膜厚の膜が得られなくなったりして、高品位の透明導電膜を安定に製造することが不可能になる。
【0017】
そのため、本出願人は、酸化亜鉛を主成分として酸化ガリウムを混合するとともに、第三元素(Ti、Ge、Al、Mg、In、Sn)の添加により異常放電を低減させたスパッタターゲットを提案した(特許文献2参照。)。ここで、ガリウムをドーパントとして含むGZO焼結体は、Ga、Ti、Ge、Al、Mg、In、Snからなる群より選ばれた少なくとも1種類を2重量%以上固溶したZnO相が組織の主な構成相であり、他の構成相には、上記少なくとも1種が固溶していないZnO相や、ZnGa(スピネル相)で表される中間化合物相である。このようなAlなどの第三元素を添加したGZOターゲットでは、特許文献1に記載されているような異常放電は低減できるが、完全に消失させることはできなかった。成膜の連続ラインにおいて、一度でも異常放電が生じれば、その成膜時の製品は欠陥品となってしまい、製造歩留まりに影響を及ぼす。
【0018】
本出願人は、この問題点を解決するために、酸化亜鉛を主成分とし、さらに添加元素のアルミニウムとガリウムを含有する酸化物焼結体において、アルミニウムとガリウムの含有量を最適化するとともに、焼成中に生成される結晶相の種類と組成、特にスピネル結晶相の組成を最適に制御することで、スパッタリング装置で連続長時間成膜を行ってもパーティクルが生じにくく、高い直流電力投入下でも異常放電が全く生じないターゲット用酸化物焼結体を提案した(特許文献3参照。)。このターゲット用酸化物焼結体を用いれば、従来よりも低抵抗で高透過性の高品質な透明導電膜を成膜できるので、高変換効率の太陽電池の製造に適用できる。
【0019】
しかしながら、近年では、より高変換効率の太陽電池が求められており、高品質な透明導電膜が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開昭62−122011号公報
【特許文献2】特開平10−306367号公報
【特許文献3】特開2008−110911号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】K.Sato et al., “Hydrogen Plasma Treatment of ZnO−Coated TCO Films”, Proc. of 23th IEEE Photovoltaic Specialists Conference, Louisville, 1993, pp.855−859.
【非特許文献2】T. Minami, et.al., “Large−Area Milkey Transparent Conducting Al−Doped ZnO Films Prepared by Magnetron Sputtering”, Japanese Journal of Applied Physics, [31](1992), pp.L1106−1109.
【非特許文献3】J. Muller, et.al., Thin Solid Films, 392(2001), p.327.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、低抵抗で高透過性の透明導電膜積層体及びその製造方法、並びに薄膜太陽電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る透明導電膜積層体は、酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(I)上に、該透明導電膜(I)とは組成が異なり酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(II)が積層された透明導電膜積層体において、上記透明導電膜(I)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(1)で示される範囲内であり、上記透明導電膜(II)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(2)で示される範囲内である。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(1)
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74(2)
(但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。)
【0024】
本発明に係る透明導電膜積層体の製造方法は、酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(I)上に、該透明導電膜(I)とは組成が異なり酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(II)が積層された透明導電膜積層体の製造方法において、酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(3)で示される範囲内である酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングガス圧が0.1〜0.8Pa、基板温度が室温〜400℃の条件下で、スパッタリング法により上記透明導電膜(I)を形成し、酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(4)で示される範囲内である酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングガス圧が2.0〜15.0Pa、基板温度が300〜600℃の条件下で、スパッタリング法により上記透明導電膜(II)を形成する。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(3)
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74 (4)
(但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。)
【0025】
本発明に係る薄膜太陽電池は、透光性基板上に、透明導電膜積層体と、光電変換層ユニットと、裏面電極層とが順に形成された薄膜太陽電池において、上記透明導電膜積層体は、酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(I)上に、該透明導電膜(I)とは組成が異なり酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(II)が積層されており、上記透明導電膜(I)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(5)で示される範囲内であり、上記透明導電膜(II)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(6)で示される範囲内である。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(5)
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74(6)
(但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。)
【0026】
本発明に係る薄膜太陽電池の製造方法は、透光性基板上に、透明導電膜積層体と、光電変換層ユニットと、裏面電極層とを順に形成する薄膜太陽電池の製造方法において、上記透明導電膜積層体は、酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(I)上に、該透明導電膜(I)とは組成が異なり酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(II)が積層されており、酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(7)で示される範囲内である酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングガス圧が0.1〜0.8Pa、基板温度が室温〜400℃の条件下で、スパッタリング法により上記透明導電膜(I)を形成し、酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(8)で示される範囲内である酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングガス圧が2.0〜15.0Pa、基板温度が300〜600℃の条件下で、スパッタリング法により、上記透明導電膜(II)を形成する。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(7)
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74 (8)
(但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。)
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、低抵抗で高透過性の透明導電膜積層体を得ることができる。また、本発明によれば、低抵抗で高透過性の透明導電膜積層体を成膜できるので、高効率の薄膜太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】透明導電膜積層体におけるアルミニウムとガリウムとの含有量の関係を示すグラフである。
【図2】光電変換ユニットとして非晶質シリコン薄膜を用いた薄膜太陽電池の構成例を示す断面図である。
【図3】光電変換ユニットとして非晶質シリコン薄膜と結晶質シリコン薄膜を積層したハイブリッド薄膜太陽電池の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」という)について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.透明導電膜積層体
2.透明導電膜積層体の製造方法
3.薄膜太陽電池及びその製造方法
【0030】
<1.透明導電膜積層体>
<透明導電膜(I)の組成>
本実施の形態に係る透明導電膜積層体は、第1の透明導電膜(以下、「透明導電膜(I)」という)上に、透明導電膜(I)とは組成の異なる第2の透明導電膜「以下、「透明導電膜(II)」という」が積層されたものである。
【0031】
透明導電膜積層体を構成する透明導電膜(I)は、導電性が非常に優れ、透明導電膜積層体全体の導電性に貢献する役割を担うものである。透明導電膜(I)は、酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、添加元素の含有量が下記の式(9)で示される範囲内であることが好ましい。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(9)
【0032】
式(9)において、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量である。また、式(9)において、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。図1は、透明導電膜積層体におけるアルミニウムとガリウムとの含有量の関係を示すグラフである。図1のX軸は、式(9)及び後述する式(10)におけるアルミニウム含有量[Al]を示す。また、図1のY軸は、式(9)及び後述する式(10)におけるガリウム含有量[Ga]を示す。透明導電膜(I)におけるアルミニウム及びガリウムの含有量は、図1に示す領域(A)の範囲内であることが好ましい。
【0033】
透明導電膜(I)において、[Ga]>−1.92×[Al]+6.10となると、導電性が不十分となり、成膜速度が低下してしまう。一方、透明導電膜(I)において、−2.18×[Al]+1.74>[Ga]となると、導電性が不十分となってしまう。これにより、例えば、最終的に得られる透明導電膜積層体を薄膜太陽電池の表面透明電極として利用することができなくなってしまう。
【0034】
また、透明導電膜(I)は、主成分である酸化亜鉛が、亜鉛と酸素との結合が強く耐水素還元性に優れているため、透明導電膜の透明性を高く保つことができる。
【0035】
<透明導電膜(II)の組成>
透明導電膜積層体を構成する透明導電膜(II)は、表面凹凸性に非常に優れ、透明導電膜積層体全体のヘイズ率増大に貢献する役割を担うものである。透明導電膜(II)は、酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、添加元素の含有量が下記の式(10)で示される範囲内であることが好ましい。すなわち、透明導電膜(II)におけるアルミニウム及びガリウムの含有量は、図1に示す領域(B)の範囲内であることが好ましい。
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74 (10)
【0036】
式(10)において、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。
【0037】
透明導電膜(II)において、[Ga]>−2.68×[Al]+1.74となると、例えば、透明導電膜(II)上に形成されるシリコン系薄膜にアルミニウムとガリウムとが拡散しやすくなり、特性の優れたシリコン系薄膜太陽電池を得ることができなくなってしまう。また、透明導電膜(II)において、[Ga]>−2.68×[Al]+1.74となると、表面凹凸が大きくてヘイズ率の高い透明導電膜を、スパッタリング法で高速に製造することができなくなってしまう。一方、透明導電膜(II)において、−[Al]+0.30>[Ga]となると、導電性が不十分となってしまう。これにより、例えば、最終的に得られる透明導電膜積層体を太陽電池の表面透明電極として利用することができなくなってしまう。
【0038】
また、透明導電膜(II)は、主成分である酸化亜鉛が、亜鉛と酸素との結合が強く耐水素還元性に優れているため、透明導電膜の透明性を高く保つことができる。
【0039】
<表面粗さ(Ra)>
本実施の形態に係る透明導電膜(II)の表面粗さ(Ra)は、35.0nm以上であることが好ましい。透明導電膜(II)の表面粗さ(Ra)が35.0nm未満であると、ヘイズ率が十分に高くならず、シリコン系薄膜太陽電池を作製したときに光閉じ込め効果が劣って、高い変換効率を実現することができない。十分な光閉じ込め効果を持たせるためには、透明導電膜(II)の表面粗さ(Ra)を35.0nm以上にすることが好ましい。但し、透明導電膜(II)の表面粗さ(Ra)が70nmを超えると、透明導電膜(II)上に形成されるシリコン系薄膜の成長に影響を及ぼすとともに、透明導電膜(II)とシリコン系薄膜との界面に隙間が生じて接触性が悪化し、太陽電池特性が悪化するので、好ましくない。
【0040】
<透明導電膜積層体の表面抵抗>
また、本実施の形態に係る透明導電膜積層体の表面抵抗は、25Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗が25Ω/□を超えると、太陽電池の表面電極に利用したときに、表面電極での電力損失が大きくなり、高効率の太陽電池を実現することができない。本実施の形態に係る透明導電膜積層体は、上述したような膜組成とすることにより、導電性を良好にして、表面抵抗を25Ω/□以下とすることができる。本実施の形態に係る透明導電膜積層体の表面抵抗は、好ましくは15Ω/□以下、より更に好ましくは10Ω/□以下である。
【0041】
本実施の形態に係る透明導電膜積層体は、表面抵抗が低いほど表面電極部での電力損失が小さいため、大きなセル面積でも高効率の太陽電池を実現することができる。例えば、酸化亜鉛系透明導電膜を結晶膜とすることにより、透明導電膜積層体の表面抵抗を低くすることができる。逆に、表面電極の表面抵抗が高いと、太陽電池のセルが大きい場合、表面電極での電力損失が無視できないレベルに大きくなるため、太陽電池のセル面積を小さくして、抵抗の低い金属配線で多くの小型セルを配線して面積を増加させる必要がある。表面電極の表面抵抗が65Ω/□以下であれば、少なくとも5cm□の太陽電池セル、表面電極の表面抵抗が20Ω/□以下であれば少なくとも8cm□の太陽電池セル、さらに表面電極の表面抵抗が15Ω/□以下であれば少なくとも12cm□のセルを、表面電極での電力損失の影響を考慮することなく実現することができる。
【0042】
小さなセル面積の太陽電池は、金属配線によって接続する必要があり、セルの間隔が多くなるなどの要因で、セルを接続して作製した1つのモジュールの単位面積当たり発電量が小さくなるだけでなく、セルの面積当たりの製造コストが増加するなどの問題があるため好ましくない。
【0043】
<透明導電膜の膜厚>
本実施の形態に係る透明導電膜積層体は、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)中の添加元素の含有量が、上述した式(9)及び式(10)の範囲内であるため、透明導電膜(I)の膜厚が200〜700nm、透明導電膜(II)の膜厚が300〜2200nmの範囲で、上記の特性を実現することができる。各透明導電膜の膜厚が薄いほど、材料コスト的に有利であるだけでなく、膜自体の光吸収量が少ないため透過率の高い膜を実現でき、太陽電池の特性を向上させることができる。
【0044】
<透明導電膜積層体のヘイズ率>
本実施の形態に係る透明導電膜積層体は、ヘイズ率が10%以上であることが好ましい。上述のように本実施の形態に係る透明導電膜積層体は、透明導電膜(II)の表面粗さ(Ra)を35.0nm以上とすることができるため、ヘイズ率を10%以上とすることができる。透明導電膜積層体のヘイズ率は、10%以上が好ましく、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。透明導電膜積層体のヘイズ率が大きいほど光閉じ込め効果に優れるため、高効率の太陽電池を実現することができる。例えば、後に詳述するスパッタリング条件で各透明導電膜を成膜することにより、透明導電膜積層体のヘイズ率を10%以上とすることができる。
【0045】
同じ構造の太陽電池で比較すると、ヘイズ率が0%に近い表面電極に対して、ヘイズ率が10%以上の表面電極において、光の閉じ込め効果による光電変換効率の増加の効果が見られるようになる。シングル構造の標準的な薄膜シリコン系太陽電池セルにおいて、光電変換効率8%以上を実現するためには、ヘイズ率10%以上が必要不可欠となる。また、同様の評価で、光電変換効率12%以上を実現するためには、ヘイズ率15%以上の表面電極を用いることが好ましい。さらに、光電変換効率15%以上を実現するためには、ヘイズ率20%以上の表面電極を用いることが好ましい。
【0046】
本実施の形態に係る透明導電膜積層体は、資源枯渇の心配のない安価な材料である酸化亜鉛を主成分として構成され、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)中の添加元素の含有量が、上述した式(9)及び式(10)の範囲内である。これにより、表面凹凸を有し、高いヘイズ率と高い導電性を兼ね備えることができる。これにより、低抵抗で高透過性の透明導電膜積層体を提供することができる。また、透明導電膜積層体は、スパッタリング法のみで製造することができるため、薄膜太陽電池の表面透明電極用として用いる透明導電膜として優れている。
【0047】
<2.透明導電膜積層体の製造方法>
本実施の形態に係る透明導電膜積層体の製造方法は、酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加金属元素を含む酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリング法によって、基板上に透明導電膜(I)と、透明導電膜(II)とを順次、積層して形成することができる。
【0048】
透明導電膜積層体を構成する透明導電膜(I)は、酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加金属元素を含む酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリング法によって製造することができる。透明導電膜(I)のスパッタリング条件は、スパッタリングガス圧が0.1〜0.8Pa、基板温度が室温〜400℃であることが好ましい。
【0049】
透明導電膜(I)を製造する際のスパッタリングガス圧が0.1Paより低いと、放電が不安定となり、安定したスパッタリング成膜ができない。一方、スパッタリングガス圧が0.8Paより高いと、緻密な膜が得られにくくなり、導電性に優れた透明導電膜を得ることができない。よって、スパッタリングガス圧は、0.1〜0.8Paとすることが好ましい。
【0050】
また、透明導電膜(I)を製造する際のスパッタガス種としては、基本的にアルゴンガスが好ましいが、これに水素ガスのような還元性ガスが混合されていてもかまわない。
【0051】
酸化亜鉛系の透明導電膜の導電性は、成膜時の基板を加熱する温度に大きく依存する。これは、基板を加熱する温度が高温になると、膜の結晶性が良くなり、キャリア電子の移動度が増大するからである。従って、基板温度が高いほど移動度が高くなり導電性が良好になるのだが、基板温度が室温より低いと、結晶性に優れた膜が得られにくいため導電性に優れた膜を得ることができない。また、基板温度が400℃より高いと、成膜中の膜へ取り込まれる酸素量が多くなりすぎてキャリア濃度の減少により導電性に劣ってしまう。導電性に優れた透明導電膜(I)を作製するための、より好ましい基板加熱温度は150〜300℃である。
【0052】
透明導電膜(I)を製造するための酸化物焼結体ターゲットは、アルミニウム含有量[Al]及びガリウム含有量[Ga]が、上記式(9)で示される範囲内であることが好ましい。酸化物焼結体ターゲット中のアルミニウム含有量[Al]及びガリウム含有量[Ga]が、式(9)で規定される範囲より多くなると、膜組成もターゲット組成が反映されて膜の導電性が不十分となり、成膜速度が低下するなどの問題が生じてしまう。一方、上記式(9)で規定される範囲よりも少なくなると、膜の導電性が不十分となり、最終的に得られる透明導電膜積層体を太陽電池の表面透明電極として利用することができなくなってしまう。
【0053】
透明導電膜積層体を構成する透明導電膜(II)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加金属元素を含む酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリング法で製造されることが好ましい。透明導電膜(II)のスパッタリング条件は、スパッタリングガス圧が2.0〜15.0Pa、基板温度が300〜600℃であることが好ましい。また、酸化物焼結体ターゲットのアルミニウムとガリウムの含有量が上記式(10)で示される範囲内であることが好ましい。
【0054】
透明導電膜(II)を製造する際のスパッタリングガス圧が2.0Paより低いと、スパッタ粒子のエネルギーが高くなり、マイグレーションが盛んとなって膜表面が平滑になりやすく、表面凹凸の大きな膜が得られにくくなる。すなわち、スパッタリングガス圧が2.0Paより低いと、表面粗さ(Ra)が35.0nm以上の透明導電膜(II)が得られなくなってしまう。一方、スパッタリングガス圧が15.0Paを超えると、膜の下地に対する付着力が低下してしまうため、実用上好ましくない。また、スパッタリングガス圧が15.0Paを超えると、成膜速度が顕著に低下してしまうため、生産性が悪くなってしまう。
【0055】
また、透明導電膜(II)を製造する際のスパッタガス種としては、基本的にアルゴンガスが好ましいが、これに水素ガスのような還元性ガスが混合されていてもかまわない。
【0056】
透明導電膜(II)を製造する際の基板温度を300℃より低くすると、膜の結晶粒成長が遅くなり、表面凹凸性に優れた膜が得られにくくなってしまう。一方、基板温度を600℃より高くすると、加熱するための電力増大によって生産コストが増大してしまったり、酸化亜鉛が真空槽内で揮発しやすくなって成膜速度が低下してしまう。
【0057】
透明導電膜(II)を製造するために用いる酸化物焼結体ターゲットは、アルミニウム含有量[Al]及びガリウム含有量[Ga]が、上記式(10)で規定される範囲より多くなると、膜組成はターゲット組成が反映されるため、透明導電膜(II)上に形成されるシリコン系薄膜にアルミニウムとガリウムが拡散しやすくなり、特性の優れたシリコン系薄膜太陽電池を実現できなくなってしまう。また、酸化物焼結体ターゲット中のアルミニウム含有量[Al]及びガリウム含有量[Ga]が、式(10)で規定される範囲より多くなると、表面凹凸が大きくてヘイズ率の高い透明導電膜をスパッタリング法で高速に製造することができなくなってしまう。一方、酸化物焼結体ターゲットは、アルミニウム含有量[Al]及びガリウム含有量[Ga]が、式(10)で規定される範囲よりも少なくなると、膜の導電性が不十分となり、最終的に得られる透明導電膜積層体を太陽電池の表面透明電極として利用することができなくなってしまう。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態に係る透明導電膜積層体の製造方法は、スパッタリング法のみを用いて透明導電膜積層体を製造することができるため、高い生産性を有する。また、本実施の形態に係る透明導電膜積層体の製造方法では、透明導電膜(II)よりも低抵抗の透明導電膜(I)上に透明導電膜(II)を積層することにより、より低抵抗の透明導電膜積層体を得ることができる。さらに、本実施の形態に係る透明導電膜積層体の製造方法では、従来の熱CVD法による透明導電膜と比べて安価に透明導電膜積層体を提供することができる。
【0059】
<3.薄膜太陽電池及びその製造方法>
本実施の形態に係る薄膜太陽電池は、例えば、透光性基板上に、透明導電膜積層体と、光電変換層ユニットと、裏面電極層とが順に形成されている。
【0060】
本発明における薄膜太陽電池は、上述した透明導電膜積層体を電極として用いていることを特徴とする光電変換素子である。太陽電池素子の構造は特に限定されず、p型半導体とn型半導体を積層したPN接合型、p型半導体とn型半導体の間に絶縁層(I層)を介在させたPIN接合型等が挙げられる。
【0061】
また、薄膜太陽電池は、半導体の種類によって大別され、微結晶シリコン又は/及びアモルファスシリコン等のシリコン系半導体薄膜を光電変換素子として用いたシリコン系太陽電池、CuInSe系やCu(In,Ga)Se系、Ag(In,Ga)Se系、CuInS系、Cu(In,Ga)S系、Ag(In,Ga)S系やこれらの固溶体、GaAs系、CdTe系等で代表される化合物半導体の薄膜を光電変換素子として用いた化合物薄膜系太陽電池、及び、有機色素を用いた色素増感型太陽電池(グレッツェルセル型太陽電池とも呼ばれる)に分類されるが、本発明に係る太陽電池は、何れの場合も含まれ、上述した透明導電膜積層体を電極として用いることで高効率を実現できる。特に、シリコン系太陽電池や化合物薄膜系太陽電池では、太陽光が入射する側(受光部側、表側)の電極には透明導電膜が必要不可欠であり、本発明の透明導電膜積層体を用いることで高い変換効率の特性を発揮することができる。
【0062】
光電変換ユニットにおけるp型やn型の導電型半導体層は、光電変換ユニット内に内部電界を生じさせる役目を果たしている。この内部電界の大きさによって、薄膜太陽電池の重要な特性の1つである開放電圧(Voc)の値が左右される。i型層は、実質的に真性の半導体層であって光電変換ユニットの厚さの大部分を占めている。光電変換作用は、主としてこのi型層内で生じる。そのため、i型層は、通常i型光電変換層又は単に光電変換層と呼ばれる。光電変換層は、真性半導体層に限らず、ドープされた不純物(ドーパント)によって吸収される光の損失が問題にならない範囲で、微量にp型又はn型にドープされた層であってもよい。
【0063】
図2は、シリコン系非晶質薄膜太陽電池の構造の一例を示す図である。シリコン系薄膜を光電変換ユニット(光吸収層)に用いたシリコン系薄膜太陽電池には、非晶質薄膜太陽電池の他に、微結晶質薄膜太陽電池や結晶質薄膜太陽電池のほか、これらを積層したハイブリッド薄膜太陽電池も実用化されている。なお、前記の通り、光電変換ユニット又は薄膜太陽電池において、その主要部を占める光電変換層が非晶質のものは、非晶質ユニット又は非晶質薄膜太陽電池と称されている。また、光電変換層が結晶質のものは、結晶質ユニット又は結晶質薄膜太陽電池と称されている。さらに、光電変換層が微結晶質のものは、微結晶質ユニット又は結晶質薄膜太陽電池と称されている。
【0064】
このような薄膜太陽電池の変換効率を向上させる方法として、2以上の光電変換ユニットを積層してタンデム型太陽電池にする方法がある。例えば、この方法においては、薄膜太陽電池の光入射側に大きなバンドギャップを有する光電変換層を含む前方ユニットを配置し、その後方に順に小さなバンドギャップを有する光電変換層を含む後方ユニットを配置する。これにより、入射光の広い波長範囲にわたって光電変換を可能にし、太陽電池全体としての変換効率の向上を図ることができる。このタンデム型太陽電池の中でも、特に非晶質光電変換ユニットと、結晶質或いは微結晶質光電変換ユニットを積層したものはハイブリッド薄膜太陽電池と称される。
【0065】
図3は、ハイブリッド薄膜太陽電池の構造の一例を示す図である。ハイブリッド薄膜太陽電池において、例えば、i型非晶質シリコンが光電変換し得る光の波長域は長波長側では800nm程度までであるが、i型結晶質或いは微結晶質シリコンは、それより長い約1150nm程度の波長までの光を光電変換することができる。
【0066】
次に、図2、3を用いて、薄膜太陽電池の構成について、より具体的に説明する。図2、3において、透光性基板1上に、上述した透明導電膜(I)である透明導電膜21と、透明導電膜(II)である透明導電膜22とからなる酸化亜鉛系の透明導電膜積層体2が形成されている。透光性基板1としては、ガラス、透明樹脂等から成る板状部材やシート状部材が用いられる。透明導電膜積層体2上には、非晶質光電変換ユニット3が形成されている。非晶質光電変換ユニット3は、非晶質p型シリコンカーバイド層31と、ノンドープ非晶質i型シリコン光電変換層32と、n型シリコン系界面層33とから構成されている。非晶質p型シリコンカーバイド層31は、透明導電膜積層体2の還元による透過率低下を防止するため、基板温度180℃以下で形成されている。
【0067】
図3に示すハイブリッド薄膜太陽電池おいては、非晶質光電変換ユニット3の上に結晶質光電変換ユニット4が形成されている。結晶質光電変換ユニット4は、結晶質p型シリコン層41と、結晶質i型シリコン光電変換層42と、結晶質n型シリコン層43とから構成されている。非晶質光電変換ユニット3及び結晶質光電変換ユニット4(以下、この両方のユニットをまとめて単に「光電変換ユニット」と称する)の形成には、高周波プラズマCVD法が適している。光電変換ユニットの形成条件としては、基板温度100〜250℃(ただし、非晶質p型シリコンカーバイド層31は、180℃以下)、圧力30〜1500Pa、高周波パワー密度0.01〜0.5W/cmが好ましく用いられる。光電変換ユニット形成に使用する原料ガスとしては、SiH、Si等のシリコン含有ガス、又は、それらのガスとHを混合したものが用いられる。光電変換ユニットにおけるp型又はn型層を形成するためのドーパントガスとしては、B又はPH等が好ましく用いられる。
【0068】
図2に示すn型シリコン系界面層33上又は図3に示すn型シリコン系界面層43上には、裏面電極5が形成される。裏面電極5は、透明反射層51と、裏面反射層52とから構成されている。透明反射層51には、ZnO、ITO等の金属酸化物を用いることが好ましい。裏面反射層52には、Ag、Al又はそれらの合金を用いることが好ましい。
【0069】
裏面電極5の形成においては、スパッタリング、蒸着等の方法が好ましく用いられる。裏面電極5は、通常、0.5〜5μm、好ましくは1〜3μmの厚さとされる。裏面電極5の形成後、非晶質p型シリコンカーバイド層31の形成温度以上の雰囲気温度で大気圧近傍下に加熱することにより、太陽電池が完成する。加熱雰囲気に用いられる気体としては、大気、窒素、窒素と酸素の混合物等が好ましく用いられる。また、大気圧近傍とは概ね0.5〜1.5気圧の範囲を示す。
【0070】
以上説明したように、本実施の形態に係る薄膜太陽電池の製造方法によれば、透明導電膜積層体2を電極としたシリコン系薄膜太陽電池を提供することができる。また、本実施の形態に係る薄膜太陽電池の製造方法では、透明導電膜(II)を透明導電膜(I)上に積層して透明導電膜積層体とすることにより、より低抵抗の、薄膜太陽電池の表面透明電極用の透明導電膜を得ることができる。さらに、透明導電膜積層体は、従来の熱CVD法による透明導電膜と比べて安価に提供することができる。本実施の形態に係る薄膜太陽電池の製造方法は、高効率のシリコン系薄膜太陽電池を簡単なプロセスで安価に提供することができるため、工業的に極めて有用である。
【0071】
なお、図3にはハイブリッド薄膜太陽電池の構造を示しているが、光電変換ユニットは必ずしも2つである必要はなく、非晶質又は結晶質のシングル構造、3層以上の積層型太陽電池構造であってもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0073】
(1)膜厚は、以下の手順で測定した。成膜前に基板の一部を予め油性マジックインクを塗布しておき、成膜後にエタノールでマジックをふき取り、膜の無い部分を形成し、膜のある部分とない部分との段差を、接触式表面形状測定器(KLA Tencor社製 Alpha−Step IQ)で測定して求めた。
【0074】
(2)得られた透明導電膜の組成は、ICP(Inductively coupled plasma)発光分光分析(セイコーインスツルメンツ社製、SPS4000)で定量分析した。
【0075】
(3)膜の結晶性、配向性は、CuKα線を利用したX線回折装置(マックサイエンス社製、M18XHF22)によるX線回折測定で調べた。
【0076】
(4)各透明導電膜の比抵抗は、抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製MCP−T360型)による四探針法で測定した。
【0077】
(5)基板を含めた全光線光透過率と平行線透過率、全光線反射率と平行光反射率を分光光度計(日立製作所社製、U−4000)で測定した。
【0078】
(6)透明導電膜積層体のヘイズ率は、JIS規格K7136に基づいてヘイズメーター(村上色彩技術研究所社製HM−150)で評価した。透明導電膜積層体の表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメンツ社製、NS−III、D5000システム)を用いて5μm×5μmの領域を測定した。
【0079】
(実施例1)
ガリウムのみが添加元素として含有した組成の異なる2種類の酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)を用いて、次のようにして透明導電膜(I)と透明導電膜(II)とを順次積層成膜して透明導電膜積層体を作製した。
【0080】
用いたターゲットの組成は、ICP発光分光分析(セイコーインスツルメンツ社製、SPS4000)で定量分析した。透明導電膜(I)を形成するためのターゲット組成は、Ga/(Zn+Ga)(原子数比)で1.74あった。透明導電膜(II)を形成するためのターゲット組成は、Ga/(Zn+Ga)(原子数比)で0.87あった。ターゲットの純度は、何れも99.999%であった。ターゲットの大きさは、何れも6インチ(Φ)×5mm(厚さ)であった。
【0081】
これら2組成のスパッタリングターゲットを、直流マグネトロンスパッタリング装置(トッキ社製、SPF503K)の強磁性体ターゲット用カソード(ターゲット表面上から1cm離れた位置での水平磁場強度が、最大で約80kA/m(1kG))に取り付け、スパッタリングターゲットの対向面に、厚み1.1mmのコーニング7059ガラス基板を取り付けた。また、スパッタリングターゲットと基板との距離を50mmとした。なお、コーニング7059ガラス基板自体の可視光波長領域での平均光透過率は、92%であった。
【0082】
<透明導電膜(I)の作製>
次に、チャンバ内を真空引きし、その真空度が、2×10−4Pa以下に達した時点で、純度99.9999質量%のArガスをチャンバ内に導入して、ガス圧0.5Paとした。基板温度は200℃とし、直流投入電力400W(ターゲットへの投入電力密度=直流投入電力÷ターゲット表面積=400W÷181cm=2.210W/cm)を、透明導電膜(I)用ターゲットと基板との間に投入し、直流プラズマを発生させた。ターゲット表面のクリーニングのため、10分間プリスパッタリングを行った後で、基板を透明導電膜(I)作製用ターゲットの中心の直上部に静止したままスパッタリング成膜を実施し、基板上に所定の膜厚の透明導電膜(I)を作製した。なお、合成石英基板上に、上記のスパッタ条件で作製した膜についてICP発光分光分析法で組成分析を行うことにより透明導電膜(I)の組成を評価すると、ターゲットと同組成の膜が得られることが確認された。また、透明導電膜(II)の膜厚についても、合成石英基板上に上記のスパッタ条件で作製した膜について評価を行い決定した。
【0083】
<透明導電膜(II)の作製>
次に、透明導電膜(I)の上に、次の手順で表面凹凸性の透明導電膜(II)を形成した。真空度が、2×10−4Pa以下に達した時点で、純度99.9999質量%のArガスをチャンバ内に導入して、ガス圧5.0Paとした。基板温度を450℃とし、直流投入電力400W(ターゲットへの投入電力密度=直流投入電力÷ターゲット表面積=400W÷181cm=2.210W/cm)を、透明導電膜(II)用ターゲットと基板の間に投入し、直流プラズマを発生させた。ターゲット表面のクリーニングのため、10分間プリスパッタリングを行った後で、基板を透明導電膜(II)作製用ターゲットの中心の直上部に静止して、スパッタリング成膜を実施し、基板上に所定の膜厚の透明導電膜(II)を作製した。なお、合成石英基板上に上記のスパッタ条件で作製した膜についてICP発光分光分析法で組成分析を行うことにより、透明導電膜(II)の組成を評価すると、ターゲットと同組成の膜が得られることが確認された。また、透明導電膜(II)の膜厚についても、合成石英基板上に上記のスパッタ条件で作製した膜について評価を行い決定した。
【0084】
<透明導電膜積層体の評価>
実施例1で得られた透明導電膜積層体の表面抵抗を上述した方法で測定し、さらに、基板を含めた全光線光透過率と平行線透過率、全光線反射率と平行光反射率、ヘイズ率を前記の方法で測定した。表1にその結果を示す。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例1で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が25Ω/□以下、原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この透明導電膜積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかる。よって、実施例1で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0087】
(実施例2〜4)
実施例2〜4では、透明導電膜(I)を作製する際に用いるターゲットをガリウムのみ下記の割合で含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変え、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)の各膜厚を変えた点以外は、実施例1と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、実施例2のターゲットではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で2.62、実施例3のターゲットではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で4.96、実施例4のターゲットではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で6.10とした。同様の方法で実施例2〜4の透明導電膜の組成を測定した結果、何れもターゲット組成と同じ透明導電膜が得られたことがわかった。
【0088】
実施例2〜4で得られた透明導電膜積層体は、何れも、表面抵抗が25Ω/□以下、原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。実施例2〜4で得られた透明導電膜積層体の表面のSEM観察を行った結果、膜が大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかった。よって、実施例2〜4で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0089】
(比較例1〜2)
比較例1〜2では、透明導電膜(I)を作製する際に用いるターゲットをガリウムのみ下記の割合で含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変えて、透明導電膜(I)と透明導電膜(II)の各膜厚を変えた点以外は、実施例1と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、比較例1のターゲットではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で1.31、比較例2のターゲットではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で6.96とした。同様の方法で比較例1〜2の透明導電膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0090】
比較例1〜2で得られた透明導電膜積層体は、ヘイズ率及び表面粗さ(Ra)が十分な値を示したが、表面抵抗が25Ω/□より大きかった。よって、比較例1〜2で得られた透明導電膜積層体は、導電性に劣るため、太陽電池用の表面電極として利用することができない。
【0091】
(実施例5)
実施例5では、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)を作製する際に用いるターゲットの組成を以下のように変え、同じ成膜装置にて透明導電膜積層体を作製した。すなわち、ターゲットは、何れもガリウムのみ添加元素として含有した酸化亜鉛系焼結体を用い、その含有量は、透明導電膜(I)ではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で3.48、透明導電膜(II)ではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で0.30とした。また、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)のその他の製造条件、組成、膜厚を表1に示す。
【0092】
実施例5で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が25Ω/□以下、原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかった。よって、実施例5で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0093】
(実施例6〜7)
実施例6〜7では、透明導電膜(II)を作製する際に用いるターゲットをガリウムのみ下記の割合で含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変え、更に透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)の各膜厚を変えた点以外は、実施例5と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、実施例6のターゲットではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で0.87、実施例7のターゲットでは、Ga/(Zn+Ga)(原子数比)で1.74とした。同様の方法で膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0094】
実施例6〜7で得られた透明導電膜積層体は、何れも、表面抵抗が25Ω/□以下、原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかる。よって、実施例6〜7で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0095】
(比較例3〜4)
比較例3〜4では、透明導電膜(II)を作製する際に用いるターゲットをガリウムのみ下記の割合で含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変えて、透明導電膜(I)と透明導電膜(II)の各膜厚を変えた点以外は、実施例5と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、比較例3のターゲットではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で0.21、比較例4のターゲットではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で2.18とした。同様の方法で膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0096】
比較例3で得られた透明導電膜積層体は、ヘイズ率及び表面粗さ(Ra)が十分な値を示したが、表面抵抗が25Ω/□より大きかった。よって、比較例3で得られた透明導電膜積層体は、導電性に劣るため、太陽電池用の表面電極として利用することができないことがわかった。
【0097】
また、比較例4で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が十分低い値を示したが、ヘイズ率及び表面粗さ(Ra)が十分な値でなかった。よって、比較例4で得られた透明導電膜積層体は、光閉じ込め効果に劣るため、太陽電池用の表面電極として利用することができないことがわかった。
【0098】
(実施例8)
実施例8では、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)を作製する際に用いるターゲットを、アルミニウムのみ下記の割合で含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変え、更に透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)の各膜厚を変えた点以外は、実施例1と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、透明導電膜(I)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で0.80、透明導電膜(II)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で0.43とした。同様の方法で膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0099】
実施例8で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかった。よって、実施例8で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0100】
(実施例9〜10)
実施例9〜10では、透明導電膜(I)を作製する際に用いるターゲットを、下記の割合でアルミニウムのみ含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変え、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)の各膜厚を変えた以外は、実施例8と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、実施例9における透明導電膜(I)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で2.39、実施例10における透明導電膜(I)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で3.18とした。同様の方法で膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0101】
実施例9〜10で得られた透明導電膜積層体は、何れも、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかる。よって、実施例9〜10で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0102】
(比較例5〜6)
比較例5〜6では、透明導電膜(I)を作製する際に用いるターゲットを、下記の割合でアルミニウムのみ含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変え、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)の各膜厚を変えた点以外は、実施例8と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、比較例5における透明導電膜(I)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で0.40、比較例6における透明導電膜(I)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で3.98とした。同様の方法で膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0103】
比較例5〜6で得られた透明導電膜積層体は、ヘイズ率及び表面粗さ(Ra)が十分な値を示したが、表面抵抗が25Ω/□より大きかった。よって、比較例5〜6で得られた透明導電膜積層体は、導電性に劣るため、太陽電池用の表面電極として利用することができないことがわかった。
【0104】
(実施例11)
実施例11では、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)を作製する際に用いるターゲットの組成を以下のように変えて、同じ成膜装置にて透明導電膜積層体を作製した。すなわち、ターゲットは、何れもアルミニウムのみ添加元素として含有した酸化亜鉛系焼結体を用い、その含有量は、透明導電膜(I)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で1.59、透明導電膜(II)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で0.31とした。
【0105】
実施例11で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかる。よって、実施例11で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0106】
(実施例12〜13)
実施例12〜13では、透明導電膜(II)を作製する際に用いるターゲットを、下記の割合でアルミニウムのみ含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変え、更に透明導電膜(I)と透明導電膜(II)の各膜厚を変えた以外は、実施例11と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、実施例12における透明導電膜(II)ではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で0.43、実施例13における透明導電膜(II)ではGa/(Zn+Ga)(原子数比)で0.65とした。同様の方法で膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0107】
実施例12〜13で得られた透明導電膜積層体は、何れも、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかる。よって、実施例12〜13で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0108】
(比較例7〜8)
比較例7〜8では、透明導電膜(II)を作製する際に用いるターゲットを、下記の割合でアルミニウムのみ含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変え、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)の各膜厚を変えた点以外は、実施例11と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、比較例7において透明導電膜(II)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で0.22とした。比較例8において透明導電膜(II)ではAl/(Zn+Al)(原子数比)で0.71とした。同様の方法で膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0109】
比較例7で得られた透明導電膜積層体は、ヘイズ率及び表面粗さ(Ra)が十分な値を示したが、表面抵抗が25Ω/□より大きかった。よって、比較例7で得られた透明導電膜積層体は、導電性に劣るため、太陽電池用の表面電極として利用することができないことがわかった。
【0110】
また、比較例8で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が十分低い値を示したが、ヘイズ率及び表面粗さ(Ra)が十分な値でなかった。よって、比較例8で得られた透明導電膜積層体は、光閉じ込め効果に劣るため、太陽電池用の表面電極として利用することができないことがわかった。
【0111】
(実施例14)
実施例14では、透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)を作製する際に用いるターゲットを、アルミニウムとガリウムのみ下記の割合で含有した酸化亜鉛系焼結体ターゲット(住友金属鉱山(株)製)に変え、更に透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)の各膜厚を変えた点以外は、実施例1と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。すなわち、透明導電膜(I)のターゲット組成がAl/(Zn+Al)(原子数比)で0.98、Ga/(Zn+Ga)(原子数比)で1.97とした。また、透明導電膜(II)のターゲット組成がAl/(Zn+Al)(原子数比)で0.28、Ga/(Zn+Ga)(原子数比)で.28とした。同様の方法で膜の組成を測定すると、何れもターゲット組成と同じ膜が得られることがわかった。
【0112】
実施例14で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかる。よって、実施例14で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0113】
(実施例15〜18)
実施例15〜18では、表1に示すアルミニウムとガリウムを含有した透明導電膜(I)及び透明導電膜(II)を積層し、透明導電膜積層体を製造した点以外は、実施例14と同様の手順で透明導電膜積層体を作製した。各膜の作製に使用したターゲット組成は、各膜と同じものを用いた。
【0114】
実施例15〜18で得られた透明導電膜積層体は、何れも、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。この積層体の表面SEM観察を行うと、膜は大きなグレインで構成され、表面凹凸性が大きいことがわかる。よって、実施例15〜18で得られた透明導電膜積層体は、導電性に優れ、光閉じ込め効果にも優れているため、太陽電池の表面電極として非常に有用であるといえる。
【0115】
以上のように、実施例1〜7では、透明導電膜(I)のターゲット組成が、図1に示す(A)の領域において、[Al]=0、かつ、1.74≦[Ga]≦6.10の範囲内である。また、実施例1〜7では、透明導電膜(II)のターゲット組成が、図1に示す(B)の領域において、[Al]=0、かつ、0.30≦[Ga]≦1.74である。すなわち、透明導電膜(I)のターゲット組成が上記式(9)を満たすとともに、透明導電膜(II)のターゲット組成が式(10)を満たす。そのため、実施例1〜7で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。
【0116】
また、実施例8〜13では、透明導電膜(I)のターゲット組成が、図1に示す(A)の領域において、0.80≦[Al]≦3.18、かつ、[Ga]=0である。また、実施例1〜7では、透明導電膜(II)のターゲット組成が、図1に示す(B)の領域において、0.30≦[Al]≦0.65、かつ、[Ga]=0である。すなわち、透明導電膜(I)のターゲット組成が上記式(9)を満たすとともに、透明導電膜(II)のターゲット組成が式(10)を満たす。そのため、実施例8〜13で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。
【0117】
さらに、実施例14〜18では、透明導電膜(I)のターゲット組成が、図1に示す(A)の領域において、0.80≦[Al]≦3.18、かつ、1.74≦[Ga]≦6.10である。また、実施例1〜7では、透明導電膜(II)のターゲット組成が、図1に示す(B)の領域において、0.30≦[Al]≦0.65、かつ、0.30≦[Ga]≦1.74である。すなわち、透明導電膜(I)のターゲット組成が上記式(9)を満たすとともに、透明導電膜(II)のターゲット組成が式(10)を満たす。そのため、実施例1〜7で得られた透明導電膜積層体は、表面抵抗が25Ω/□以下、表面粗さ(Ra)が35nm以上、ヘイズ率が10%以上であった。
【符号の説明】
【0118】
1 透光性基板、 2 透明導電膜積層体、 3 非晶質光電変換ユニット、 4 結晶質光電変換ユニット、 5 裏面電極、21 透明導電膜(I)、22 透明導電膜(II)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(I)上に、該透明導電膜(I)とは組成が異なり酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(II)が積層された透明導電膜積層体において、
上記透明導電膜(I)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(1)で示される範囲内であり、
上記透明導電膜(II)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(2)で示される範囲内であることを特徴とする透明導電膜積層体。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(1)
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74(2)
(但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。)
【請求項2】
上記透明導電膜(I)の膜厚が200〜700μmであり、上記透明導電膜(II)の膜厚が300〜2200μmであることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜積層体。
【請求項3】
上記透明導電膜(II)の表面粗さ(Ra)が35.0nm以上であり、表面抵抗が25Ω/□以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の透明導電膜積層体。
【請求項4】
ヘイズ率が10%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の透明導電膜積層体。
【請求項5】
酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(I)上に、該透明導電膜(I)とは組成が異なり酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(II)が積層された透明導電膜積層体の製造方法において、
酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(3)で示される範囲内である酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングガス圧が0.1〜0.8Pa、基板温度が室温〜400℃の条件下で、スパッタリング法により上記透明導電膜(I)を形成し、
酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(4)で示される範囲内である酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングガス圧が2.0〜15.0Pa、基板温度が300〜600℃の条件下で、スパッタリング法により上記透明導電膜(II)を形成することを特徴とする透明導電膜積層体の製造方法。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(3)
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74 (4)
(但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。)
【請求項6】
上記透明導電膜(I)及び上記透明導電膜(II)が形成された後に、真空中もしくは還元雰囲気中にてアニール処理することを特徴とする請求項5記載の透明導電膜積層体の製造方法。
【請求項7】
透光性基板上に、透明導電膜積層体と、光電変換層ユニットと、裏面電極層とが順に形成された薄膜太陽電池において、
上記透明導電膜積層体は、酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(I)上に、該透明導電膜(I)とは組成が異なり酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(II)が積層されており、
上記透明導電膜(I)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(5)で示される範囲内であり、
上記透明導電膜(II)は、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(6)で示される範囲内であることを特徴とする薄膜太陽電池。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(5)
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74(6)
(但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。)
【請求項8】
透光性基板上に、透明導電膜積層体と、光電変換層ユニットと、裏面電極層とを順に形成する薄膜太陽電池の製造方法において、
上記透明導電膜積層体は、酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(I)上に、該透明導電膜(I)とは組成が異なり酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜(II)が積層されており、
酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(7)で示される範囲内である酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングガス圧が0.1〜0.8Pa、基板温度が室温〜400℃の条件下で、スパッタリング法により上記透明導電膜(I)を形成し、
酸化亜鉛を主成分とし、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種以上の添加元素を含み、該添加元素の含有量が下記の式(8)で示される範囲内である酸化物焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングガス圧が2.0〜15.0Pa、基板温度が300〜600℃の条件下で、スパッタリング法により、上記透明導電膜(II)を形成することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
−2.18×[Al]+1.74≦[Ga]≦−1.92×[Al]+6.10(7)
−[Al]+0.30≦[Ga]≦−2.68×[Al]+1.74 (8)
(但し、[Al]は、Al/(Zn+Al)の原子数比(%)で表したアルミニウム含有量であり、一方、[Ga]は、Ga/(Zn+Ga)の原子数比(%)で表したガリウム含有量である。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−49084(P2012−49084A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192448(P2010−192448)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】