説明

透明繊維強化樹脂シート

【課題】高い透明性を維持しつつ、表面加工に耐えうる高いガラス転移温度を確保するとともに、複屈折を抑制した透明繊維強化樹脂シートを提供する。
【解決手段】透明強化繊維の基材4に硬化性透明樹脂の硬化物5が保持されている中心層とその両外側に積層された硬化性透明樹脂の硬化物6からなる外層とから形成される積層体で構成される透明繊維強化樹脂シート1であって、前記積層体における外層の硬化性透明樹脂の硬化物6のガラス転移温度が中心層の硬化性透明樹脂の硬化物5のガラス転移温度よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明繊維強化樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ等において、ガラス板に代替するものとしてガラス繊維等の透明強化繊維の基材に硬化性透明樹脂の硬化物が保持されている透明繊維強化樹脂シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような透明繊維強化樹脂シートを製造する際には、例えば、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂とを混合して屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように樹脂組成物を調製する。そしてガラス繊維の基材に樹脂組成物を含浸し、乾燥して半硬化することによりプリプレグを作製し、このプリプレグを加熱加圧成形することにより透明繊維強化樹脂シートが製造される。
【0004】
このようにガラス繊維と透明樹脂との屈折率を合わせることにより、透明繊維強化樹脂シート内での光の屈折を抑え、視認性に優れたディスプレイの透明フィルムとして用いることができる。
【0005】
透明繊維強化樹脂シートを製造するための樹脂組成物としては一般にエポキシ樹脂が用いられており、その屈折率をガラス繊維の屈折率に近似させるために、ガラス繊維よりも屈折率の大きいエポキシ樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さいエポキシ樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように樹脂組成物を調製している。
【0006】
しかしながら、高屈折率のエポキシ樹脂と低屈折率のエポキシ樹脂を混合した樹脂組成物を用いて作製した透明繊維強化樹脂シートにおいて、エポキシ樹脂とガラス繊維の基材との界面に微小なクラックや剥離が生じると、この微小なクラックや剥離によってヘイズが高くなって透明性が低下するおそれがある。このために、エポキシ樹脂としてガラス転移温度の低いものを用いることによってエポキシ樹脂とガラス繊維の基材との界面で生じる微小なクラックや剥離を抑制することが検討されている。
【0007】
しかし、ガラス転移温度の低いエポキシ樹脂を用いると、透明繊維強化樹脂シートの耐熱性が低下して使用環境温度において表面への加工に耐えられないという問題があり、耐熱性が要求される分野では高いガラス転移温度を有する透明繊維強化樹脂シートが要望されていた。そこで、特許文献2ではガラス転移温度の高い樹脂系を用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−307851号公報
【特許文献2】特開2009−190378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところがその後の検討により、ガラス転移温度の高い樹脂を用いると、成形硬化後の透明繊維強化樹脂シートにおいて、ガラス繊維近傍に複屈折が生じ、偏光板を必要とする液晶表示デバイス等に使用する際に光漏れ発生によってコントラストが低下するという改善すべき点が見出された。これは、成形硬化時の硬化収縮及び、硬化温度から室温まで冷却される間のガラス転移温度以下の温度域での樹脂とガラス繊維の熱膨張差によって生じる内部応力により、ガラス繊維表面で樹脂の配向が生じていることに起因すると考えられる。
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、高い透明性を維持しつつ、表面加工に耐えうる高いガラス転移温度を確保するとともに、複屈折を抑制した透明繊維強化樹脂シートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のことを特徴としている。
【0012】
第1に、透明強化繊維の基材に硬化性透明樹脂の硬化物が保持されている中心層とその両外側に積層された硬化性透明樹脂の硬化物からなる外層とから形成される積層体で構成される透明繊維強化樹脂シートであって、前記積層体における外層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度よりも高いことを特徴とする。
【0013】
第2に、上記第1の発明において、複数の積層体が積層されて形成されていることを特徴とする。
【0014】
第3に、上記第1または第2の発明において、積層体における外層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が200℃以上であり、中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が160℃以下であることを特徴とする。
【0015】
第4に、上記第1ないし第3の発明において、積層体における外層の硬化性透明樹脂は、芳香族環を有するジシアネート及び多官能脂肪族エポキシ樹脂を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記第1および第2の発明によれば、積層体における外層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度よりも高いことにより、高い透明性を維持するとともに、積層体の外層の硬化性透明樹脂が、本発明にかかる透明繊維強化樹脂シートを用いて液晶表示デバイス等への加工を施す際の耐熱性を発現し、積層体の中心層の硬化性透明樹脂が、透明強化繊維の基材表面との応力緩和機能を果たして複屈折を抑制する効果を発現する。
【0017】
上記第3の発明によれば、積層体における外層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が200℃以上であり、中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が160℃以下であることにより、一般的な硬化性透明樹脂の成形温度170℃〜190℃において表面剛性が確保されるので、成形後のシート表面を平滑に保つことができる。また、上記成形温度において積層体の中心層の硬化性透明樹脂と透明強化繊維の基材表面との間に生じる内部応力を低減でき、透明繊維強化樹脂シートの複屈折をさらに低減することができる。
【0018】
第4の発明によれば、積層体における外層の硬化性透明樹脂が、芳香族環を有するジシアネート及び多官能脂肪族エポキシ樹脂を含有することにより、芳香族環を有するジシアネートと多官能脂肪族エポキシ樹脂自身の透明性と、樹脂組成物の屈折率を透明強化繊維の屈折率に合わせる調製の容易さによって、さらに一層高い透明性を維持しつつ、高いガラス転移温度を確保することができる。しかも、芳香族環を有するジシアネートは常温で固形であるため、透明強化繊維の基材に樹脂組成物を含浸して乾燥するプリプレグの調製において、指触乾燥性が良好になり、取り扱い性が向上する利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる透明繊維強化樹脂シートの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明にかかる透明繊維強化樹脂シートの別の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明にかかる透明繊維強化樹脂シートの一実施形態を示す断面図である。透明繊維強化樹脂シート1は、中心層とその両外側の外層とから形成される3層構造の積層体で構成されている。積層体の中心層は、複数の経繊維束2と複数の緯繊維束3とからなるガラス繊維等の透明強化繊維の基材4に硬化性透明樹脂の硬化物5が保持されている。積層体の外層は硬化性透明樹脂の硬化物6から形成される樹脂層であるが、中心層の硬化性透明樹脂の硬化物5のガラス転移温度(Tg)よりも高いTgの硬化性透明樹脂で構成されている。本発明にかかる透明繊維強化樹脂シート1は、図1のように単一の積層体で構成されるものに限定されない。例えば、図2に示すように、図1に示した3層構造の積層体が厚み方向に2枚積層されて形成されているものであってもよいし、さらに、3枚以上積層して形成されているものであってもよい。
【0022】
本発明では、積層体の外層の硬化性透明樹脂が、中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のTgよりも高いTgを有する硬化性透明樹脂で構成されるが、このようにTgの高い硬化性透明樹脂とTgの低い硬化性透明樹脂を実現するには、硬化網目密度が変わる樹脂配合を採用すればよく、硬化に寄与する多官能の含有率が高いものほど高いTgに、低いものほど低いTgになる。
【0023】
高Tg化に寄与する硬化性透明樹脂を構成するエポキシ樹脂として、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、次式(1)で表されるビスフェノールA骨格を有する3官能エポキシ樹脂、多官能脂肪族エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、ラジカル硬化系樹脂としてのアクリル系やメタクリル系樹脂であって、各種の基本骨格を有する多官能樹脂であってもよい。
【0024】
【化1】

【0025】
多官能脂肪族エポキシ樹脂の具体例としては、1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサンを含むエポキシ樹脂(例えば、ダイセル化学(株)製の品番EHPE−3150)や、3官能脂肪族エポキシ樹脂(例えば、東都化成(株)製の品番YH300)等が挙げられる。
【0026】
低Tg化に寄与する硬化性透明樹脂を構成するエポキシ樹脂としては、例えば、様々な核体数のものが上市されているビスフェノールA型やF型のエポキシ樹脂、及びそれらの水素添加した脂肪族エポキシ樹脂、直鎖状骨格の両末端にエポキシ樹脂を有する、いわゆる柔軟性を発現できるエポキシ樹脂(例えば、ポリ・アルキレングリコールのジグリシジルエーテル型エポキシや環状エステルを開環重合したものの両末端にエポキシ基を有する骨格を設けたダイセル化学(株)製の品番セロキサイド2081等)、さらに1官能のエポキシ樹脂である反応性希釈剤等を挙げることができる。また、ラジカル硬化系樹脂においては、スチレン類、2官能の柔軟性を付与するタイプのアクリル類、1官能のアクリル類やメタクリル類等を挙げることができる。
【0027】
本発明においては、積層体の中心層の硬化性透明樹脂と外層の硬化性透明樹脂はそれぞれ、透明繊維強化樹脂シートの透明性を維持するためにも、その屈折率が透明強化繊維の屈折率に近似した値に調整されることが望ましい。例えば、透明強化繊維の屈折率をnとすると、各硬化性透明樹脂の屈折率がn−0.02〜n+0.02の範囲で近似するように調整されるのが望ましい。なお、本発明において、樹脂の屈折率は、いずれも硬化した樹脂の状態での屈折率を意味するものであり、ASTM D542で試験した値である。
【0028】
このように各硬化性透明樹脂の屈折率が透明強化繊維の屈折率に近似したものに調製するためには、高屈折率樹脂と低屈折率樹脂とを適切な配合比で混合することによって実現される。
【0029】
高屈折率樹脂とは、その屈折率が透明強化繊維よりも高い樹脂であり、上記した硬化性透明樹脂のなかからいくつか例示すると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、前記式(1)で表されるビスフェノールA骨格を有する3官能エポキシ樹脂、芳香族環を有するジシアネート等を挙げることができる。
【0030】
低屈折率樹脂とは、その屈折率が透明強化繊維よりも低い樹脂であり、上記した硬化性透明樹脂のなかからいくつか例示すると、1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサンを含むエポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
高屈折率樹脂と低屈折率樹脂の比率は、透明強化繊維として安価で供給品質が安定しているEガラスを用いる場合において、質量比で40:60〜55:45であることが好ましい。この比率を逸脱する比率では多くの樹脂においてEガラスの屈折率に樹脂の屈折率を合わせることが難しい。
【0031】
本発明において、積層体の中心層および外層の各硬化性透明樹脂は、熱により硬化が進むタイプあるいは活性エネルギー線(色々な波長の電磁波、光等)で硬化反応が開始する光硬化タイプのいずれかであってよい。光硬化タイプの場合は、光照射後の加熱によりさらに反応が進むことが多く、加熱処理を施すことが好ましい。
【0032】
また、各硬化性透明樹脂には、シリカをはじめとする金属酸化物の微粒子(1nm〜5μm程度)を配合することもできる。これにより透明繊維強化樹脂シートの熱膨張率を低減でき、光学特性も向上できる等、有用な効果を奏する。
【0033】
本発明においては、透明繊維強化樹脂シートの、表面平滑性の保持にかかる耐熱性と、複屈折性の抑制とをより効果的に両立させるために、積層体の外層の硬化性透明樹脂の硬化物のTgが200℃以上、中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のTgが160℃以下になるように各硬化性透明樹脂を調製することが望ましい。
【0034】
積層体の外層の硬化性透明樹脂の硬化物のTgが200℃以上であることが望ましい理由としては、熱で硬化反応が進む樹脂で、かつ、硬化後も透明性を維持できるようにするためには熱での変質着色を防ぐ必要があり、その熱処理温度が200℃程度以下であることが好ましいことが挙げられる。また、アモルファスシリコンのトランジスタ形成温度は高い方がそのトランジスタの特性が良くなることが既知であるが、有機シート上への高性能なトランジスタの形成ができるように開発が進み、近年ようやく200℃以下の温度域での形成が可能になりつつあることも理由として挙げられる。積層体の外層の硬化性透明樹脂の硬化物のTgが200℃未満の場合、透明繊維強化樹脂シートの使用環境温度で樹脂弾性率が低下して内部応力に抗しきれず、表面平滑性が悪化してしまう場合がある。積層体の外層の硬化性透明樹脂の硬化物のTgが200℃以上であれば、透明繊維強化樹脂シートの表面平滑性が使用環境温度でも維持される。この効果はTgが高いものほど優れるため、より好ましいTgは230℃以上である。硬化性透明樹脂の硬化物のTgは一般的には最高でも260℃程度までしか実現できないため、上限値は260℃程度である。
【0035】
積層体の中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のTgが160℃以下であることが望ましい理由としては、透明繊維強化樹脂シートの複屈折を大きく低減できるからである。Tgは120℃以下がさらに好ましい。下限値に特に制約はないが、室温でガラス状領域である方が透明繊維強化樹脂シートの室温での剛性を発現でき取り扱い性が向上するので好ましく、また、一般的に入手容易な樹脂を考慮すると、Tgが90℃程度以上であることが工業的に妥当な範囲ということができる。Tgが160℃を上回ると、硬化時の収縮に起因する応力と、硬化温度から室温までの冷却される過程におけるTgから室温までの樹脂と透明強化繊維の熱膨張差に起因する熱応力とにより、透明強化繊維近傍の樹脂が配向し、これにより透明繊維強化樹脂シートに複屈折が生じてしまう場合がある。
【0036】
なお、本発明においてガラス転移温度は、JIS C6481 TMA法に準拠して測定した値である。
【0037】
本発明において、積層体の外層の硬化性透明樹脂として、芳香族環を有するジシアネートを含有する樹脂組成物を用いることができる。
【0038】
芳香族環を有するジシアネートは、芳香族骨格を持つ1分子中に2個以上のシアネート基を有する化合物であり、例えば、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)エタン、これらの誘導体等の芳香族シアネートエステル化合物である。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。芳香族環を有するジシアネートは、剛直な分子骨格を有するものであり、重合反応過程で3量化してトリアジン環を生成するので、硬化物の透明性が極めて優れるとともに、高いガラス転移温度を実現できる。また、常温で固形であるため、透明強化繊維の基材に樹脂組成物を含浸して乾燥するプリプレグの調製にあたり、指触乾燥性が良好になり、取り扱い性が向上する利点を有する。
【0039】
さらに、本発明においては、積層体の外層の硬化性透明樹脂として、上記の芳香族環を有するジシアネートとともに上記した多官能脂肪族エポキシ樹脂をも含む樹脂組成物を用いることが好ましい。芳香族環を有するジシアネートと多官能脂肪族エポキシ樹脂自身の透明性と、樹脂組成物の屈折率を透明強化繊維の屈折率に合わせる調製の容易さによって、さらに一層高い透明性を維持しつつ、高いガラス転移温度を確保することができるからである。
【0040】
本発明において、積層体の中心層および外層の各硬化性透明樹脂は、硬化開始剤(硬化剤)を配合した樹脂組成物とすることができる。この硬化開始剤としては、有機金属塩を用いることができる。その具体例としては、オクタン酸、ステアリン酸、アセチルアセトネート、ナフテン酸、サリチル酸等の有機酸と、Zn、Cu、Fe等の金属との塩を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、オクタン酸亜鉛が好ましい。硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛を用いることにより、硬化性透明樹脂のTgを高めることができる。樹脂組成物中のオクタン酸亜鉛等の有機金属塩の含有量は、好ましくは0.01〜0.1PHRの範囲である。
【0041】
また硬化開始剤として、カチオン系硬化剤を用いることもできる。カチオン系硬化剤を用いることにより、樹脂組成物の硬化物の透明性を高めることができる。カチオン系硬化剤の具体例としては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、アンモニウム塩、アルミニウムキレート、三フッ化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。樹脂組成物中のカチオン系硬化剤の含有量は、好ましくは0.2〜3.0PHRの範囲である。
【0042】
さらに硬化開始剤として、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミン、2−エチル−4−イミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等の硬化触媒を用いることもできる。樹脂組成物中の硬化触媒の含有量は、好ましくは0.5〜5.0PHRの範囲である。
【0043】
本発明は、上述した複数の樹脂、および必要に応じて硬化開始剤等を配合することにより、その硬化物が高Tgとなる樹脂組成物と低Tgとなる樹脂組成物を調製することができる。これらの樹脂組成物は、必要に応じて溶剤に溶解ないし分散して樹脂ワニスとして調製することができる。この溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール、N,N’−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0044】
積層体の中心層における基材を構成する透明強化繊維としては、着色がなく、熱膨張率が硬化性透明樹脂よりも一桁以上低いものであればよい。例えば、ガラス繊維が好適であるが、透明な液晶性ポリマーの繊維であってもよい。ガラス繊維としては、透明繊維強化樹脂シートの耐衝撃性を高める点からEガラスやNEガラスの繊維が好ましく用いられる。Eガラスは無アルカリガラスとも称され、樹脂強化用ガラス繊維として汎用されるガラス繊維であり、NEガラスはNewEガラスのことである。
【0045】
また、ガラス繊維には、耐衝撃性を向上させる目的で、ガラス繊維処理剤として通常用いられているシランカップリング剤により表面処理しておくことが好ましい。ガラス繊維の屈折率は好ましくは1.55〜1.57、より好ましくは1.555〜1.565である。ガラス繊維の屈折率がこの範囲であれば、視認性に優れた透明繊維強化樹脂シートを得ることができる。本発明では、ガラス繊維の織布あるいは不織布を基材として用いることができる。
【0046】
そしてガラス繊維の基材に樹脂組成物を塗工あるいは含浸し、加熱して乾燥することにより、プリプレグを作製することができる。乾燥条件は、特に限定されないが、乾燥温度100〜160℃、乾燥時間1〜10分間の範囲が好ましい。
【0047】
本発明においては、プリプレグの作製は次の手順で行う。まず、透明強化繊維の基材の両面に、その硬化物が低Tgとなる樹脂組成物の樹脂ワニスを塗工し、次いでその塗工面の両外側に、その硬化物が高Tgとなる樹脂組成物の樹脂ワニスを塗工して乾燥する。または、透明強化繊維の基材の両面に、その硬化物が低Tgとなる樹脂組成物の樹脂ワニスを塗工して乾燥し、次いでその塗工面の両外側に、その硬化物が高Tgとなる樹脂組成物の樹脂ワニスを塗工して乾燥するようにしてもよい。樹脂ワニスの塗工を行うには、一般的な塗工装置を用いることができる。例えば、ディップコータ、リップコータ、コンマコータ、ダイコータ、グラビアコータ等、シート状物体の両面に塗工できるものであればよい。
【0048】
次にこのプリプレグを1枚、あるいは複数枚重ね、加熱加圧成形することにより、樹脂組成物を硬化させて透明繊維強化樹脂シートを得ることができる。プリプレグ1枚を加熱加圧成形して製造したものが、図1に示す透明繊維強化樹脂シートであり、プリプレグを2枚重ねて加熱加圧成形して製造したものが、図2に示す透明繊維強化樹脂シートである。
【0049】
加熱加圧成形の条件は、特に限定されないが、温度150〜200℃、圧力1〜4MPa、時間10〜120分間の範囲が好ましい。加熱加圧成形を施す装置としては、加熱可能な平板状プレスでもよいし、ループ状の2組みの金属板ベルトの間を、加熱加圧状態で通過させる形式のプレス装置であってもよい。
【0050】
上記のようにして得られる透明繊維強化樹脂シートにおいて、透明強化繊維の基材の含有率は25〜65質量%の範囲が好ましく、より好ましくは35〜60質量%の範囲である。この範囲であれば、透明強化繊維による補強効果で高い耐衝撃性を得ることができるとともに、十分な透明性を得ることができる。透明強化繊維が多過ぎると表面の凹凸が大きくなり、透明性も低下する。一方、透明強化繊維が少な過ぎると線膨張率が大きくなるという問題を生じる。
【0051】
なお、透明強化繊維の基材としては、透明性を高く得るために、厚みの薄いものを複数枚重ねたものを用いることができる。具体的には、透明強化繊維の基材として厚み50μm以下のものを用い、この50μm以下の厚みの透明強化繊維の基材を2枚以上重ねて用いることができる。透明強化繊維の基材の厚みの下限は、特に限定されないが、10μm程度が実用上の下限である。また、透明強化繊維の基材の枚数も特に限定されないが、20枚程度が実用上の上限である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1の配合量は質量部を示す。
<使用原材料>
1.高屈折率樹脂
・BADCy、Lonza社製、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン(芳香族環を有するジシアネート)、屈折率1.59
・VG3101、プリンテック社製、前記式(1)で表されるビスフェノールA骨格を有する固形の3官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
・エピコート1006、ジャパンエポキシレジン(株)製、固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂、屈折率1.60
・EPICLON N695、DIC(株)社製、固形のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、屈折率1.59
2.低屈折率樹脂
・EHPE3150、ダイセル化学工業(株)製、固形の1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサンを含むエポキシ樹脂、屈折率1.51
・YL7170、ジャパンエポキシレジン(株)製、固形の水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂(1分子中に平均して3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂)
3.硬化開始剤
・工業用試薬のオクタン酸亜鉛
・SI−150L、三新化学工業(株)製、カチオン系硬化剤(SbF6-系スルホニウム塩)
4.透明強化繊維の基材
・厚み25μmのガラス繊維クロス、旭化成エレクトロニクス(株)製、品番「1037」、Eガラス、屈折率1.562
<樹脂ワニスの調製方法>
上記の高屈折率樹脂、低屈折率樹脂、硬化開始剤を表1に示す量で配合(配合量は質量部)し、これにトルエン50質量部、メチルエチルケトン50質量部を添加して、温度70℃で攪拌溶解することによって、樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
<プリプレグ作製方法>
実施例1−7のプリプレグの作製方法
透明強化繊維の基材の両面に、その硬化物が低Tgとなる樹脂組成物の樹脂ワニスを塗工した後、130℃で3分間乾燥することで溶剤を除去する。次いで、その塗工面の両外側に、その硬化物が高Tgとなる樹脂組成物の樹脂ワニスを塗工し、150℃で5分間乾燥することで、溶剤を除去するとともに樹脂を半硬化させてプリプレグを作製した。なお、透明強化繊維の基材に2度塗布、乾燥した後の樹脂の全量に対し、1度目の塗布量を60〜80%に、2度目の塗布量を20〜40%になるように調整した。
比較例1−2のプリプレグの作製方法
透明強化繊維の基材の両面に樹脂ワニスを塗工し、150℃で5分間乾燥することで、溶剤を除去するとともに樹脂を半硬化させてプリプレグを作製した。なお、透明強化繊維の基材への樹脂の塗布、乾燥後の量は、実施例と同じ量になるように調整した。
<透明繊維強化樹脂シートの作製方法>
プリプレグを2枚重ねにしてプレス機にセットし、170℃、2MPa、30分の条件で加熱加圧成形することにより、樹脂の含有率が63質量%、厚み約80μmの透明繊維強化樹脂シートを得た。
<特性評価方法>
・ガラス転移温度(Tg)
作製したプリプレグから樹脂分を掻き落とし、透明繊維強化樹脂シートの成形条件と同じ条件で直圧成形して得た樹脂板を供試サンプルとして、JIS C6481 TMA法に準拠して測定した。
・屈折率
Tgの供試サンプル作製方法と同様の方法で得た樹脂板を研磨し、アタゴ社製屈折率測定装置にて測定した。
・ヘイズ
透明繊維強化樹脂シートを、日本電色工業(社)製のヘイズメーターNDH2000を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
・複屈折
偏光顕微鏡(ニコン社製、型番MM−40)にて、2枚の偏光板の光軸を直角に設定し、顕微鏡で暗視野を観測し、その状態で2枚の偏光板の間に、透明繊維強化樹脂シートを入れ、顕微鏡で観察しながら繊維周辺の視野が最も明るくなるように、透明繊維強化樹脂シートを水平面内で回転させる。繊維周辺の視野が最も明るくなった状態で暗視野との差を評価する。暗視野と差がない場合を「○」、暗視野に比べてわずかに繊維周辺が明るくなる場合を「△」、明瞭に明るくなる場合を「×」と評価した。
・表面粗度(平坦性)
表面凹凸(Ra値)を測定した。測定には、株式会社東京精密製の蝕針式表面粗さ計SURFCOM 130Aを用い、透明繊維強化樹脂シートの表面凹凸(Ra値)を縦、横、45°バイアス方向についてそれぞれ3点測定し、合計9点の測定値の平均値を透明繊維強化樹脂シートのRa値とした。
・熱処理後表面粗度
透明繊維強化樹脂シートを180℃で30分加熱し、上記と同様にして表面粗度を測定した。表面粗度が90nm以下の場合を「◎」、90nmを超えて100nm以下の場合を「○」、100nmを超えて200nm以下の場合を「△」、200nmを超える場合を「×」と評価した。なお、この評価は、透明繊維強化樹脂シートが様々なデバイスに加工される工程で受ける温度履歴によって表面平滑性が維持されるかを判定する指標となる。熱処理によっては、透明強化繊維により変形が防止されている樹脂層に内在する内部応力が緩和され、熱処理前に比べて表面粗度が悪化する場合があるからである。
・熱処理後変色
透明繊維強化樹脂シートを180℃で30分加熱し、その前後の色差をコニカミノルタホールディングス(株)製分光測色計CM−3600dで測定し、黄色味を表す表色値b*値の差(△b*)で、熱処理後変色を評価した。
<実施例1−7>
表2に示す構成で、プリプレグの中心層樹脂となる樹脂ワニスを透明強化繊維の基材に塗工、乾燥し、次いで、プリプレグの外層樹脂となる樹脂ワニスを塗工、乾燥して得たプリプレグを、重ね、成形して透明繊維強化樹脂シートを作製した。その透明繊維強化樹脂シートのヘイズ、複屈折、表面粗度、熱処理後の表面粗度と表色値△b*による変色を評価した。その結果を表2に併記する。
<比較例1−2>
表2に示す構成で、中心層樹脂と外層樹脂に同じ樹脂ワニスを用い、実施例と同様にして透明繊維強化樹脂シートの作製と評価を行った。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
実施例1−7の結果から、プリプレグの外層樹脂のTgが中心層樹脂のTgよりも高いことにより、外層樹脂と中心層樹脂のTgが同じである比較例1−2に比べて、複屈折が少なく、熱処理後の表面粗度悪化が少なく、しかも熱処理後の変色も少ないことが確認できた。
【0056】
また、実施例4−7では、プリプレグの外層樹脂のTgが200℃以上であり、中心層樹脂のTgが160℃以下であることにより、実施例1−3と比べて、複屈折または熱処理後の表面粗度の悪化がさらに抑制されることが確認できた。
【0057】
さらに、実施例6−7の結果から、プリプレグの外層樹脂が、芳香族環を有するジシアネート及び多官能脂肪族エポキシ樹脂を含有することにより、実施例1−5と比べて、熱処理後の表面粗度の悪化が極めて少なくなることが確認できた。また、熱処理後の変色も極めて少ないことも確認できた。
【符号の説明】
【0058】
1 透明繊維強化樹脂シート
4 透明強化繊維の基材
5 中心層の硬化性透明樹脂の硬化物
6 外層の硬化性透明樹脂の硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明強化繊維の基材に硬化性透明樹脂の硬化物が保持されている中心層とその両外側に積層された硬化性透明樹脂の硬化物からなる外層とから形成される積層体で構成される透明繊維強化樹脂シートであって、前記積層体における外層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度よりも高いことを特徴とする透明繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
複数の積層体が積層されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の透明繊維強化樹脂シート。
【請求項3】
積層体における外層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が200℃以上であり、中心層の硬化性透明樹脂の硬化物のガラス転移温度が160℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明繊維強化樹脂シート。
【請求項4】
積層体における外層の硬化性透明樹脂は、芳香族環を有するジシアネート及び多官能脂肪族エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の透明繊維強化樹脂シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−68019(P2011−68019A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220681(P2009−220681)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】