説明

透明電極およびその製造方法

【課題】簡便な手法で製造可能であり、かつ、短波長領域の光も透過することが可能な透明電極およびその製造方法を提供する。また、作製された透明電極の光透過率が酸化によって低下することがない透明電極およびその製造方法を提供する。
【解決手段】真空蒸着法により複数種の金属を気化させて基板表面へ蒸着して、上記基板表面に透明電極として上記複数種の金属を含む合金薄膜を形成し、上記複数種の金属には少なくともアルミニウムおよび銀が主成分として含まれるようにしたものであり、上記合金薄膜全体に対する上記アルミニウムの割合が、組成比において上記合金薄膜全体の2割乃至8割であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極およびその製造方法に関し、さらに詳細には、簡便な方法で作製することが可能な透明電極およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、透明かつ電気をよく通す性質を備えた電極たる透明電極が知られており、ノートパソコンや携帯電話の表示素子用電極、太陽電池用電極あるいはプラズマディスプレイパネル用電極などとして用いられている。
【0003】
即ち、透明電極は、導電性に優れており、かつ、可視光を透過することが可能であるため、各種ディスプレイの表面やタッチパネルあるいは太陽電池などに利用されており、また、表面から光を出射する発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)などの発光デバイスのような各種デバイスの表面の電極としての利用が提唱されている。
【0004】

ところで、一般的に用いられている透明電極は、InSnO(ITO)やInZnO(IZO)やInWO(IWO)などよりなるものであり、インジウム(In)を用いて構成されている。
【0005】
そして、これらの多くは波長400nm〜800nm程度の可視光領域の光に対して透過性が高いものではあるが、その一方で、波長400nm以下の短波長領域の光を吸収してしまうということが指摘されていた。
【0006】
これは、透明電極の電気的性質であるバンドギャップを反映した特性であり、こうした短波長領域の光を吸収してしまうITOやIZOやIWOなどのインジウム(In)を用いて構成される透明電極は、近年開発されつつある紫外領域や深紫外領域の光を発光するLEDのような光学デバイスなどの電極としては利用することができないという問題点があった。
【0007】
また、現在インジウムの枯渇化が危惧されている一方で、インジウムに対する膨大な需要とその利用範囲の拡大が図られており、このためにインジウムの価格は上昇を続けているものであって、透明電極の材料としてインジウムを用いるとコストが高くなってしまうという問題点もあった。
【0008】

上記したような種々の問題点に鑑みて、現在、透明電極の材料としてインジウムに代わる他の材料が望まれており、そのための様々な研究が広くが進められている。
【0009】
こうした研究の成果として、例えば、インジウム系の材料に代えてGaOなどの酸化ガリウム系の材料を透明電極の材料として用いることが提案されている。
【0010】
ところが、GaOなどの多くの酸化ガリウム系の材料により透明電極を作製するにあたっては、透明電極となる薄膜を基板上に作製する際における基板温度を高温(例えば、800度程度である。)にする必要があったり、当該薄膜作製後に高温のアニールを必要としたりするなど、その製造工程が煩雑であるという新たな問題点があった。
【0011】
また、これまで提案されている透明電極となる薄膜の製造方法においては、薄膜の組成を制御するためにレーザー薄膜作製法などを用いている場合が多く、スループットの低さや広い領域における均一性などに懸念がもたれるという問題点もあった。
【0012】
なお、波長400nm以下の短波長領域の光を吸収しない透明電極としては、その特性上から金などの単層薄膜を用いることが可能な場合もあるが、金の単層薄膜はわずかに加熱すると金が凝集してしまうことがあるため安定性に欠け、また、単価が高いという問題点もあった。
【0013】

また、従来より提案されている透明電極は、酸化すると劣化する性質を有しているため、作製直後は比較的高い光透過率を示していても、作製後から時間が経過するに従って光透過率が低下するという問題点があった。
【0014】

なお、本願出願人が特許出願時に知っている先行技術は、上記において説明したようなものであって文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡便な手法で製造可能であり、かつ、短波長領域の光も透過することが可能な透明電極およびその製造方法を提供しようとするものである。
【0016】
また、本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、作製された透明電極の光透過率が酸化によって低下することがない透明電極およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、所定の混合比で準備したアルミニウム(Al)と銀(Ag)とを用いて、例えば、一般的な金属蒸着装置などにより、ガラス(石英ガラス、ナトリウムガラス、Si基板上に形成したSiOなどのようなあらゆるガラス)基板上に蒸着により少なくともアルミニウムと銀とから構成される合金薄膜を形成し、この合金薄膜を室温大気中に放置可能な透明電極とするようにしたものである。
【0018】
こうした本発明による透明電極は、特に、波長200〜400nmの短波長領域での光透過性が高いことから、深紫外光を発光するLEDに用いるための透明電極として利用することができる。
【0019】
また、こうした本発明による透明電極は、作製後時間が経過(例えば、作製後30日間経過。)してもその特性の変化が著しく小さく、酸化によって光透過率が低下することがない。
【0020】

即ち、本発明のうち請求項1に記載の透明電極は、複数種の金属を含む合金薄膜よりなり、上記複数種の金属には少なくともアルミニウムおよび銀が主成分として含まれるようにしたものである。
【0021】
また、本発明のうち請求項2に記載の透明電極は、本発明のうち請求項1に記載の透明電極において、上記複数種の金属がアルミニウムおよび銀よりなるようにしたものである。
【0022】
また、本発明のうち請求項3に記載の透明電極は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の透明電極において、上記合金薄膜全体に対する上記アルミニウムの割合が、組成比において上記合金薄膜全体の2割乃至8割であるようにしたものである。
【0023】
また、本発明のうち請求項4に記載の透明電極は、本発明のうち請求項1、2または3のいずれか1項に記載の透明電極において、上記合金薄膜の膜厚が10nm乃至30nmであるようにしたものである。
【0024】
また、本発明のうち請求項5に記載の透明電極の製造方法は、真空蒸着法により複数種の金属を気化させて基板表面へ蒸着して、上記基板表面に透明電極として上記複数種の金属を含む合金薄膜を形成し、上記複数種の金属には少なくともアルミニウムおよび銀が主成分として含まれるようにしたものである。
【0025】
また、本発明のうち請求項6に記載の透明電極の製造方法は、本発明のうち請求項5に記載の透明電極の製造方法において、上記基板表面に形成された上記合金薄膜に複数の孔を形成するようにしたものである。
【0026】
また、本発明のうち請求項7に記載の透明電極の製造方法は、本発明のうち請求項6に記載の透明電極の製造方法において、上記基板表面に形成された上記合金薄膜を空気中において所定時間放置し、金属を凝集させることにより上記孔を形成するようにしたものである。
【0027】
また、本発明のうち請求項8に記載の透明電極の製造方法は、本発明のうち請求項5、6または7のいずいれか1項に記載の透明電極の製造方法において、上記複数種の金属がアルミニウムおよび銀よりなるようにしたものである。
【0028】
また、本発明のうち請求項9に記載の透明電極の製造方法は、本発明のうち請求項5、6、7または8のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法において、上記合金薄膜全体に対する上記アルミニウムの割合が、組成比において上記合金薄膜全体の2割乃至8割であるようにしたものである。
【0029】
また、本発明のうち請求項10に記載の透明電極の製造方法は、本発明のうち請求項5、6、7、8または9のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法において、上記合金薄膜の膜厚を10nm乃至22nmに形成するようにしたものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、以上説明したように構成されているので、簡便な手法で製造可能であり、かつ、短波長領域の光も透過することが可能な透明電極およびその製造方法を提供することができるという優れた効果を奏する。
【0031】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、作製された透明電極の光透過率が酸化によって低下することがない透明電極およびその製造方法を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による透明電極およびその製造方法の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0033】

図1には、本発明による透明電極を製造するための真空蒸着装置の一例の概念構成説明図が示されており、この真空蒸着装置100においては、内部を真空に維持することが可能な真空チャンバー16内に抵抗加熱装置10が配設されている。
【0034】
ここで、この本実施の形態において用いた真空蒸着装置100は従来より一般的に用いられるものであり、同様に、真空チャンバー16や抵抗加熱装置10も従来より一般的に用いられるものであるので、これらの構成ならびに作用の詳細な説明は省略するものとするが、抵抗加熱装置10は、電圧をかけることによって電流を流せる導電線が接続された金属溶融板12と、当該導電線に電圧をかけるための電源と、上記した金属溶融板12の真上に配設された金属蒸着基板14とにより構成されている。
【0035】
なお、本実施の形態においては、金属溶融板12としてはタングステンボートを用い、また、金属蒸着基板14としてはガラス板を用いた。
【0036】
なお、このガラス板としては、石英ガラス、ナトリウムガラス、Si基板上に形成したSiOなどのようなあらゆるガラスよりなるものを用いることができる。
【0037】
また、本実施の形態においては、金属溶融板12と金属蒸着基板14との距離Hは、15〜20cm程度に設定した。
【0038】

以上の構成において、上記した真空蒸着装置100を用いて本発明による透明電極を製造するには、まず、金属溶融板12の凹部12aに所定の量のアルミニウム線材および所定の量の銀線材を載置し、その後に真空チャンバー16内を所定の真空度(例えば、1×10−4Pa程度である。)に維持し、その状態で凹部12aにアルミニウム線材および銀線材を載置した金属溶融板12を加熱する。
【0039】
この金属溶融板12の加熱に伴うアルミニウム線材および銀線材の加熱により、アルミニウムと銀とが溶融して気化され、気化されたアルミニウムおよび銀が金属蒸着基板14の面14aに真空蒸着されて、アルミニウムと銀とよりなる合金薄膜(AlAg合金薄膜)が形成されることになり、こうして形成された合金薄膜が本発明による透明電極となるものである。
【0040】
上記のようにして作製された本発明による透明電極は、本願発明者の測定によれば、図2に示すような光透過率を有するようになる。
【0041】
ここで、図2には、アルミニウムと銀とからなる膜厚10nmのAlAg合金薄膜よりなる本発明による透明電極(アルミニウムと銀とからなるAlAg合金薄膜の組成比が「アルミニウム(Al):銀(Ag)=6:4」であり、作製後に常温常圧で空気中に3日間放置したものである。)の光透過率と、アルミニウム(Al)のみからなる膜厚10nmの薄膜よりなる透明電極(作製後に3日間放置したものである。)の光透過率と、銀(Ag)のみからなる膜厚10nmの薄膜よりなる透明電極(作製後に3日間放置したものである。)の光透過率とが図示されている。
【0042】
図2に示すように、銀のみからなる薄膜よりなる透明電極は、波長300nm〜400nmの範囲の光透過率は高いが、波長400nm以上の長波長領域では光透過率が約50%程度に低下する。また、アルミニウムのみからなる薄膜よりなる透明電極は、波長200nm〜300nmの範囲の光透過率は60〜70%であるが、長波長領域になるにつれて徐々に低下し、平均して30%程度の光透過率である。
【0043】
一方、アルミニウムと銀とを混合させたAlAg合金薄膜よりなる本発明による透明電極は、上記した銀のみからなる薄膜よりなる透明電極やアルミニウムのみからなる薄膜よりなる透明電極と比べて、波長200nm〜900nmの広い波長領域において概ね80%以上の極めて高い光透過率を示すものである。
【0044】

次に、図3に示すフローチャートを参照しながら、本発明による透明電極の製造方法をより詳細に説明する。
【0045】
はじめに、計量したアルミニウム線材と計量した銀線材とを、金属溶融板12の凹部12a上に載置する(ステップS302)。
【0046】
なお、本実施の形態においては、本発明による透明電極として作製されるアルミニウムと銀とからなるAlAg合金薄膜の組成比がそれぞれ「アルミニウム(Al):銀(Ag)=8:2」、「Al:Ag=7:3」、「Al:Ag=6:4」、「Al:Ag=4:6」、「Al:Ag=2:8」となるように、金属溶融板12上に載置して溶融するアルミニウム線材と銀線材との割合を選択した。
【0047】
後述するように、上記組成比のアルミニウムと銀とよりなるAlAg合金薄膜はそれぞれ光を透過するものであるが、その光透過率や光透過率の波長依存性あるいは時間依存性などは、AlAg合金薄膜のアルミニウムと銀との組成比に依存するものである。
【0048】
次に、真空チャンバー16を稼働して真空チャンバー16内部を所定の真空度にした後に、アルミニウム線材および銀線材を載置した金属溶融板12を加熱する(ステップS304)。
【0049】
なお、本実施の形態においては、真空チャンバー16内の真空度を1×10−4Paとした。
【0050】
次に、金属溶融板12上でアルミニウムおよび銀が溶融後気化し、金属蒸着基板14への蒸着が完了したら、金属溶融板12の加熱を終了する(ステップS306)。
【0051】
なお、本実施の形態においては、上記したステップS306における真空蒸着の処理においては、金属蒸着基板14に対する加熱や冷却は行わなかった。
【0052】
また、本実施の形態においては、上記したステップS306における真空蒸着の処理において金属蒸着基板14への蒸着により形成されるAlAg合金薄膜の膜厚が、それぞれ10nm、12nm、15nm、22nmとなるように制御した。
【0053】
上記したステップS306の処理を終了すると、金属溶融板12および真空チャンバー16内部が適度の温度(例えば、室温程度である。)に低下するまで約1時間程度放置し、その後に真空チャンバー16を開放して金属が蒸着してAlAg合金薄膜が形成された金属蒸着基板14を取り出し、それを常温常圧の空気中に放置する(ステップS308)。
【0054】
上記のようにして金属蒸着基板14上に形成されたAlAg合金薄膜が、本発明による透明電極となるものである。
【0055】
なお、後述する本発明による透明電極の測定においては、AlAg合金薄膜が形成された金属蒸着基板14を真空チャンバー16から取り出した後に、常温常圧の空気中で最長30日間放置したものを含めて測定した。
【0056】

以下、上記のようにして作製された本発明による透明電極について、本願発明者が測定した測定結果について説明する。
【0057】
まず、図4には、波長200nmから900nm領域の各波長における本発明による透明電極の光透過率の組成依存性が示されている。
【0058】
この測定においては、本発明による透明電極たるアルミニウムと銀とからなるAlAg合金薄膜の組成比が、それぞれ「Al:Ag=8:2」、「Al:Ag=7:3」、「Al:Ag=6:4」、「Al:Ag=4:6」および「Al:Ag=2:8」のものを用いた。また、測定に用いた本発明による透明電極は、いずれも膜厚が10nmであり、ステップS308の処理において常温常圧の空気中に3日間放置したものである。
【0059】
この図4に示す測定結果によれば、いずれの本発明による透明電極も高い光透過率を示しているが、とりわけアルミニウムと銀とからなるAlAg合金薄膜の組成比が「Al:Ag=7:3」や「Al:Ag=6:4」であるものが、波長200nm乃至900nmの波長領域において平均して高い光透過率を示しており、特に、波長200nm乃至400nmの短波長領域において優れて高い光透過率を示している。
【0060】

次に、図5には、波長200nmから900nm領域の各波長における本発明による透明電極の光透過率の膜厚依存性が示されている。
【0061】
この測定においては、本発明による透明電極たるアルミニウムと銀とからなるAlAg合金薄膜の組成比が「Al:Ag=6:4」であり、その膜厚がそれぞれ10nm、12nm、15nm、22nmのものを用いた。また、測定に用いた本発明による透明電極は、いずれもステップS308の処理において常温常圧の空気中に3日間放置したものである。
【0062】
この図5に示す測定結果によれば、膜厚が10nmであるものが、波長200nm乃至900nmの波長領域において他のものより高い光透過率を示している。
【0063】
具体的には、膜厚が10nmであるものは、波長200nm〜400nmの短波長領域での光透過率が80%乃至90%程度であり、長波長領域にいくに従って徐々に光透過率が低下しているが、波長900nmでも概ね80%程度の光透過率が維持されている。
【0064】

次に、図6には、波長200nmから900nm領域の各波長における本発明による透明電極の光透過率の時間依存性が示されている。
【0065】
この測定においては、本発明による透明電極たるアルミニウムと銀とからなるAlAg合金薄膜の組成比が「Al:Ag=6:4」であり、その膜厚が10nmのものを用いた。また、測定に用いた本発明による透明電極のそれぞれは、ステップS308の処理において常温常圧の空気中に取り出した直後のもの(以下、「作製直後の本発明による透明電極」と称する。)と、ステップS308の処理において常温常圧の空気中に1日間放置したもの(以下、「1日後の本発明による透明電極」と称する。)と、ステップS308の処理において常温常圧の空気中に3日間放置したもの(以下、「3日後の本発明による透明電極」と称する。)と、ステップS308の処理において常温常圧の空気中に10日間放置したもの(以下、「10日後の本発明による透明電極」と称する。)と、ステップS308の処理において常温常圧の空気中に30日間放置したもの(以下、「30日後の本発明による透明電極」と称する。)とである。
【0066】
この図6に示す測定結果によれば、本発明による透明電極の光透過率は、空気中に放置された時間に依存して変化している。
【0067】
即ち、作製直後の本発明による透明電極は、波長200nm乃至400nm付近の領域においては80%程度の光透過率を示しているが、波長400nmよりも長波長領域においては概ね70%程度の光透過率を示している。
【0068】
一方、1日後の本発明による透明電極は、作製直後の本発明による透明電極と比較すると、短波長領域にはほぼ変化が見られないが、長波長領域である可視光領域では大きく変化しており、全体としては波長200nm〜900nmの範囲において概ね80%以上の光透過率を有する。
【0069】
さらに、3日後の本発明による透明電極は、1日後の本発明による透明電極よりもさらに高い光透過率を有するようになり、10日後の本発明による透明電極ならびに30日後の本発明による透明電極であっても、1日後の本発明による透明電極とほぼ同程度の光透過率を有するものであり、本発明による透明電極においては時間経過とともに光透過率が低下する様子は見られなかった。
【0070】
また、作製直後の本発明による透明電極と30日後の本発明による透明電極との抵抗値を測定したところ、作製直後の本発明による透明電極のシート抵抗が128Ω/□であり、一方、30日後の本発明による透明電極のシート抵抗が106Ω/□であった。
【0071】
これらの値は、本発明による透明電極が、電極として十分に実用可能であることを示している。
【0072】
ここで、図7(a)には、作製直後の本発明による透明電極の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した走査型電子顕微鏡写真が示されており、また、図7(b)には、3日後の本発明による透明電極の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した走査型電子顕微鏡写真が示されている。
【0073】
これら図7(a)(b)に示す走査型電子顕微鏡写真を比較すると、作製直後の本発明による透明電極の表面は滑らかで均一な平面であるが、一方、3日後の本発明による透明電極には複数の微細な孔が現出している。
【0074】
即ち、3日後の本発明による透明電極においては、金属が凝集することにより微細な孔ができるものであるが、透明電極を常温常圧で空気中に放置する日数が増加するにつれてその孔の数も増加するが、そうした増加はある程度のところで停止する。
【0075】
本発明による透明電極では、こうした孔が形成されることにより光が当該孔から通過することが可能となって光透過率が向上するようになり、また、孔以外の領域により電気伝導が確保されることになる。
【0076】
つまり、本発明による透明電極は、薄膜中に適度に孔が存在するため、孔以外の領域により電流を通すことができ、また、薄膜中に適度に存在する孔から光を出射することができるため、短波長領域の光であっても当該孔を通過して出射されるものである。
【0077】

上記のようにして、アルミニウムおよび銀の合金薄膜たるAlAg合金薄膜よりなる透明電極が作製可能であるが、こうした本発明による透明電極は、図2に示すようにITOでは極めて光を吸収してしまい光透過率が低い短波長領域200nm〜400nmにおいても80%以上の高い光透過率を有し、また、長波長領域400nm〜900nmにおいても概ね80%程度の光透過率を有しており、かつ、実用上十分な電気伝導性を備えている。
【0078】
従って、本発明による透明電極は、近年開発されつつある紫外領域や深紫外領域の光を発光するLEDのような光学デバイスなどの電極としては利用することが可能である。
【0079】

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(5)に示すように変形することができるものである。
【0080】
(1)上記した実施の形態においては、真空チャンバー16から透明電極を取り出した後に常温常圧で空気中に放置することにより、金属を凝集させて上記孔を形成したが、これに限られるものではないことは勿論であり、例えば、紫外光やオゾンまたは酸素プラズマなどを照射するなどして金属を凝集させ、これにより上記孔を形成するようにしてもよい。
【0081】
(2)上記した実施の形態においては、アルミニウムおよび銀のみにより本発明による透明電極を作製する場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、アルミニウムならびに銀を主成分とすればよく、微量の他の材料が含まれていてもよい。
【0082】
(3)上記した実施の形態においては、本発明による透明電極の測定結果について種々説明したが、以下に、ステップS308の処理において常温常圧の空気中に取り出した直後の本発明による透明電極の表面に有機材料であるポリメチルメタクリレート(PMMA)の薄膜(PMMA薄膜)をスピンコートしたもの(以下、「AlAg−PMMA薄膜」と称する。)を測定した測定結果について説明する。
【0083】
即ち、図8には、波長200nmから900nm領域の各波長におけるAlAg−PMMA薄膜の光透過率の時間依存性が示されている。
【0084】
この測定においては、AlAg−PMMA薄膜における本発明による透明電極のアルミニウムと銀との組成比が「Al:Ag=6:4」であり、その膜厚が10nmのものを用いた。
【0085】
また、測定に用いたAlAg−PMMA薄膜のそれぞれは、PMMA薄膜の成膜直後のも(以下、「成膜直後のAlAg−PMMA薄膜」と称する。)と、PMMA薄膜の成膜後に常温常圧の空気中に1日間放置したもの(以下、「1日後のAlAg−PMMA薄膜」と称する。)と、PMMA薄膜の成膜後に常温常圧の空気中に3日間放置したもの(以下、「3日後のAlAg−PMMA薄膜」と称する。)と、PMMA薄膜の成膜後に常温常圧の空気中に20日間放置したもの(以下、「20日後のAlAg−PMMA薄膜」と称する。)とである。
【0086】
この図8に示す測定結果と図6に示すPMMA薄膜を被覆していない本発明による透明電極の測定結果とを比較すると、波長200nm〜300nm付近にPMMA薄膜の干渉による波形が現れており、また、全体的に光透過率の多少の減少が見られるものの、依然として高い光透過率を維持している。
【0087】
即ち、光透過率については、PMMA薄膜により被覆して表面を保護した本発明による透明電極であったとしても、PMMA薄膜を被覆していない本発明による透明電極と同様の作用効果が得られる。
【0088】
ここで、図9(a)には、3日後のAlAg−PMMA薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した走査型電子顕微鏡写真が示されており、また、図9(b)には、3日後のAlAg−PMMA薄膜からPMMA薄膜を剥離した状態の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した走査型電子顕微鏡写真が示されている。
【0089】
これら図9(a)(b)に示す走査型電子顕微鏡写真を比較すると、3日後のAlAg−PMMA薄膜の表面は滑らかで均一な平面であるが、一方、3日後のAlAg−PMMA薄膜からPMMA薄膜を剥離した状態においては複数の孔が存在している。
【0090】
即ち、本発明による透明電極の表面にPMMA薄膜を成膜しても、金属が凝集することにより孔ができるものであり、AlAg−PMMA薄膜の光透過率の高さは、上記した孔を光が通過することにより達成されたものである。
【0091】
(4)上記した実施の形態においては、AlAg合金薄膜の膜厚が22nmまでの本発明による透明電極の測定結果を示したが、膜厚が30nmのAlAg合金薄膜である本発明による透明電極においても、AlAg合金薄膜の膜厚が22nmの本発明による透明電極と同様な測定結果が得られた。
【0092】
(5)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(4)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、ノートパソコンや携帯電話の表示素子用電極、太陽電池用電極、プラズマディスプレイパネル用電極、紫外LED用電極あるいは深紫外LED用電極などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、本発明による透明電極を製造するための真空蒸着装置の一例の概念構成説明図である。
【図2】図2は、アルミニウムと銀とからなる膜厚10nmの薄膜よりなる本発明による透明電極(アルミニウムと銀とからなる薄膜の組成比が「Al:Ag=6:4」であり、作製後に常温常圧で空気中に3日間放置したものである。)の光透過率と、Alのみからなる膜厚10nmの薄膜よりなる透明電極(作製後に3日間放置したものである。)の光透過率と、Agのみからなる膜厚10nmの薄膜よりなる透明電極(作製後に3日間放置したものである。)の光透過率と比較して示したグラフである。
【図3】図3は、本発明による透明電極の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、波長200nmから900nm領域の各波長における本発明による透明電極の光透過率の組成依存性を示すグラフである。
【図5】図5は、波長200nmから900nm領域の各波長における本発明による透明電極の光透過率の膜厚依存性を示すグラフである。
【図6】図6は、波長200nmから900nm領域の各波長における本発明による透明電極の光透過率の時間依存性を示すグラフである。
【図7】図7(a)は、作製直後の本発明による透明電極の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した走査型電子顕微鏡写真であり、また、図7(b)は、3日後の本発明による透明電極の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】図8は、波長200nmから900nm領域の各波長におけるAlAg−PMMA薄膜の光透過率の時間依存性を示すグラフである。
【図9】図9(a)は、3日後のAlAg−PMMA薄膜の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した走査型電子顕微鏡写真であり、また、図9(b)は、3日後のAlAg−PMMA薄膜からPMMA薄膜を剥離した状態の表面を走査型電子顕微鏡で撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0095】
10 抵抗加熱装置
12 金属溶融板
12a 凹部
14 金属蒸着基板
14a 面
16 真空チャンバー
100 真空蒸着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の金属を含む合金薄膜よりなり、
前記複数種の金属には少なくともアルミニウムおよび銀が主成分として含まれる
ことを特徴とする透明電極。
【請求項2】
請求項1に記載の透明電極において、
前記複数種の金属は、アルミニウムおよび銀よりなる
ことを特徴とする透明電極。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の透明電極において、
前記合金薄膜全体に対する前記アルミニウムの割合が、組成比において前記合金薄膜全体の2割乃至8割である
ことを特徴とする透明電極。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれか1項に記載の透明電極において、
前記合金薄膜の膜厚は、10nm乃至30nmである
ことを特徴とする透明電極。
【請求項5】
真空蒸着法により複数種の金属を気化させて基板表面へ蒸着して、前記基板表面に透明電極として前記複数種の金属を含む合金薄膜を形成し、
前記複数種の金属には少なくともアルミニウムおよび銀が主成分として含まれるようにした
ことを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の透明電極の製造方法において、
前記基板表面に形成された前記合金薄膜に複数の孔を形成する
ことを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の透明電極の製造方法において、
前記基板表面に形成された前記合金薄膜を空気中において所定時間放置し、金属を凝集させることにより前記孔を形成する
ことを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項8】
請求項5、6または7のいずいれか1項に記載の透明電極の製造方法において、
前記複数種の金属は、アルミニウムおよび銀よりなる
ことを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項9】
請求項5、6、7または8のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法において、
前記合金薄膜全体に対する前記アルミニウムの割合が、組成比において前記合金薄膜全体の2割乃至8割である
ことを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項10】
請求項5、6、7、8または9のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法において、
前記合金薄膜の膜厚を10nm乃至22nmに形成する
ことを特徴とする透明電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−151963(P2009−151963A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326768(P2007−326768)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】