説明

連続無段変速機搭載車両

連続無段変速機と、この連続無段変速機の変速切換制御を行う制御手段とを有し、変速操作手段により前記変速機の変速比を切換可能な連続無段変速機搭載車両は、変速操作手段による変速比切換のモードを、予め設定された複数段の変速比において変速比を段階的に切換える第1モード、又は、変速比を連続的又は略連続的に切換える第2モードに切換えるシフトモード切換手段を有し、制御手段は、少なくとも、前記変速操作手段の操作により検出される変速操作信号と、前記シフトモード切換手段の切換により検出されるモード信号とに基づいて、目標車速の設定を行う車速設定部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続無段変速機搭載車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静油圧駆動機構(以下「HST」と称する。)により走行可能とする作業車両があり、エンジンで駆動する可変容量ポンプと可変容量油圧ポンプの圧油を受けて回転する可変容量油圧モータとを備え、可変容量油圧ポンプまたは可変容量油圧モータの斜板角度を変化させることにより作業車両の車速を無段階で変速できる連続無段変速機搭載車両となっている。
【0003】
また、HST搭載車両ではないが、作業車両であるブルドーザの変速装置の一例として、モノレバーの操作グリップ部に、トランスミッションの速度段をシフトアップ又はシフトダウンさせる速度段切換スイッチが取付されているものがある。この速度段切換スイッチから出力されるシフトアップ又はシフトダウンの操作信号はコントローラに入力されており、速度段切換スイッチをシフトアップ操作して2速又は3速にすることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上記モノレバー式の変速操作装置を、HSTを搭載したブルドーザに適用することも考えられる。すなわち、ブルドーザをHSTにより走行可能とし、変速用のコントローラを備え、速度段切換スイッチを操作することにより、可変容量ポンプ又は可変容量モータの斜板の傾斜角度を連続的に変化させることが考えられる。
この場合、モノレバーの操作グリップ部に設けた速度段切換スイッチを一回押すと斜板の角度が所定の角度だけ変化して小刻みに1段階ずつほぼ連続的に変化するようにすることができる。操縦者は、所望の車速での変速比になるまで速度段切換スイッチを何回か押せば良い。また所望の車速になるまで速度段切換スイッチを押し続けると変速比が小刻みに1段階ずつほぼ連続的に変化するようにすることもでき、HSTの特徴を生かしたほぼ無段階の変速が実現できる。
【0005】
【特許文献1】特許第3352041号公報(第4〜5頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような、速度段切換スイッチによりほぼ無段階に変速するものでは、木目細かな変速比の選択が可能である反面、変速比を大きく変えたい場合には、速度段切換スイッチを何回も数多く押したり、速度段切換スイッチを押し続ける必要があるため、変速に時間がかかってしまう。
特に、ギヤの切換による変速を行う変速機(すなわち有段の変速機)を搭載した車両に乗りなれた操縦者にとっては、無段階の木目細かな変速よりも、有段タイプの変速機のような迅速な変速を重視したいという要求も多い。
【0007】
本発明は上記の問題点に着目してなされたもので、HSTの特徴を生かした木目細かな無段階の変速が実現できるとともに、迅速な変速も可能な連続無段変速機搭載車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る連続無段変速機搭載車両は、連続無段変速機と、この連続無段変速機の変速切換制御を行う制御手段とを有し、変速操作手段により前記変速機の変速比を切換可能な連続無段変速機搭載車両であって、
前記変速操作手段による変速比切換のモードを、
予め設定された複数段の変速比において変速比を段階的に切換える第1モードと、変速比を連続的又は略連続的に切換える第2モードに切換えるシフトモード切換手段を有し、
前記制御手段は、少なくとも、前記変速操作手段の操作により検出される変速操作信号と、前記シフトモード切換手段の切換により検出されるモード信号とに基づいて、目標車速の設定を行う車速設定部を備えていることを特徴とする。
【0009】
第2発明に係る連続無段変速機搭載車両は、第1発明において、
前記連続無段変速機は、HSTであることを特徴とする。
ここで、HSTは、開回路タイプ、閉回路タイプいずれのタイプであっても本発明を採用することができる。
【0010】
第3発明に係る連続無段変速機搭載車両は、第1発明又は第2発明において、
第1モードにおける変速操作手段と、第2モードにおける変速操作手段とが同一のものである構成としている。
第4発明に係る連続無段変速機搭載車両は、第1発明〜第3発明において、
前記車両は建設機械であり、前記変速操作手段は前記建設機械の走行レバーに設けた押ボタンスイッチである構成としている。
【発明の効果】
【0011】
第1発明又は第2発明によれば、シフトモード切換手段により、オペレータは段階的、連続的な変速モードを自由に設定することができ、制御手段のシフトモード判定部の判定結果に応じて、制御信号生成部及び出力部が連続無段変速機への変速制御信号を生成、出力するため、操縦者の好みに応じて迅速な変速が可能であるとともに木目細かな変速比の調節が可能である。
【0012】
第3発明によれば、シフトモードを切換えても、同一の変速操作手段により変速できるため、変速操作に戸惑うことがない。
第4発明によれば、走行レバーから手を離すことがなく変速操作でき、比較的衝撃、振動の多い建設機械においても、操縦者の疲労が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
[図1]図1は、本発明の実施形態に係る建設機械を表す概要斜視図。
[図2]図2は、前記実施形態における建設機械の操縦室内部を表す概要斜視図。
[図3]図3は、前記実施形態における速度段表示部の構造を表す模式図。
[図4]図4は、前記実施形態におけるシフトモード切換スイッチの構造を表す模式図。
[図5]図5は、前記実施形態におけるHST装置の構造を表す油圧回路模式図。
[図6]図6は、前記実施形態におけるコントローラの構造を表すブロック図。
[図7]図7は、前記実施形態における走行速度記憶部の構造を表す模式図。
[図8]図8は、前記実施形態における作用を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0014】
7…HST装置(連続無段変速機)、67…シフトモード切換スイッチ(シフトモード切換手段)、74…コントローラ(制御手段)、641…シフトアップスイッチ(変速操作手段)、642…シフトダウンスイッチ(変速操作手段)、742…車速設定部
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る連続無段変速機搭載車両の実施形態について図面を参照して説明する。
〔1〕全体構成
図1には、本発明の実施形態に係るブルドーザ1が示されている。このブルドーザ1は、車両本体2と、土工板3と、履帯装置4とを備えて構成されている。
土工板3は、ブルドーザ1の前端部に配置され、盛土、整地作業を行う部分である。この土工板3は、フレーム31を介して車両本体2と接続されており、シリンダ32の伸縮によって上下する。
履帯装置4は、車両本体2の下方両側に配置され、走行装置として機能する部分であり、トラックフレーム41、駆動輪42、アイドラ43、及びクローラ44を備えている。
【0016】
トラックフレーム41は、車両本体2にそって延びる鋼製体として構成され、車両本体2のメインフレームに突設されるピボットシャフトに対して揺動自在に軸支されている。
駆動輪42は、後述する駆動源としての油圧モータによって駆動する部分であり、スプロケット状に構成されており、クローラ44はこのスプロケット部分で噛合した状態で巻装されている。
アイドラ43は、クローラ44が巻装される他端の車輪であり、駆動輪42の駆動によりクローラ44が移動すると、このクローラ44の移動に伴って、アイドラ43も回転する。尚、図1では図示を略したが、トラックフレーム41の下部には、複数の下転輪が配置され、これら下転輪は、クローラ44が地面から受けた荷重を支持するとともに、駆動輪42の駆動時の案内ローラとしても機能する。
【0017】
車両本体2は、図示を略したメインフレーム上に搭載され、走行方向前方側に配置されるエンジン5と、走行方向後方側に配置される操縦室6とを備えて構成される。エンジン5は、エンジンフード51内に収納されるエンジン本体を備え、車両本体2の下方に配置されるHST装置7を構成するHSTポンプを駆動するための動力源である。
操縦室6は、操縦者が乗車してブルドーザ1を操縦する部分であり、運転席61と、操作レバー62、63を備えて構成され、その上部は、キャノピ8によって覆われている。
【0018】
この操縦室6は、図2に示されるように、運転席61の左側に走行レバー62が配置され、右側に土工板3を操作するための土工板操作レバー63が配置されている。走行レバー62のグリップ64の上部には変速操作手段としてのシフトアップスイッチ641とシフトダウンスイッチ642が設けられている。
走行レバー62は、ジョイスティック様のレバーとして構成され、この走行レバー62を操作すると、後述するコントローラ74に操作信号が出力され、コントローラ74は、これに基づいて制御信号を生成し、HST装置7の各部位を動作させて、ブルドーザ1を走行させる。具体的には、走行レバー62を前方に倒すと前進させ、後方に倒すと後進させ、左方向に倒すと左に操向させ、右方に倒すと右に操向させる操作信号を出力する。
【0019】
運転席61の前方には計器やスイッチなどを配置したモニタパネル65が設けられている。モニタパネル65の中央寄りの左側には速度段表示部66が設けられ、右側はシフトモード切換スイッチ67が設けられている。
速度段表示部66は、液晶表示ディスプレイを用いており、図3に示されるように、円弧状に配置された多数のセグメントで構成された連続速度段表示部661と、速度段(つまり変速比)を文字で表示するシフトインジケータ部662を備えている。また、連続速度段表示部661の外周には、各モードにおける速度段どうしの関連がわかるように円弧状で末広がりの形状の表示とクイックシフトモード時における速度段を示す数字を組み合わせたマーキング663が設けられている。
【0020】
シフトモード切換スイッチ67は、図4に示されるように、第1シフトモードとしてのクイックシフトモード、及び、第2シフトモードとしての連続可変シフトモードを切換えるスイッチであり、モニタパネル65のシフトモード切換スイッチ67の回りには、連続可変シフトモード位置を表す連続可変マーク671と、クイックシフトモード位置を表す階段形状の段階マーク672が形成されている。
また、シフトモード切換スイッチ67は、連続可変シフトモード位置では連続可変シフトモード信号を、クイックシフトモード位置ではクイックシフトモード信号をそれぞれ制御手段としてのコントローラ74に送っている。尚、本実施形態では、シフトモード切換スイッチ67はロータリー式スイッチを用いているが、シーソー式の切換スイッチでも、押しボタン式の切換スイッチでも良い
【0021】
図2に戻って、シフトアップスイッチ641が操作されるとシフトアップ信号を、シフトダウンスイッチ642が操作されるとシフトダウン信号をそれぞれ後述するHST装置7の制御手段としてのコントローラ74に送るようになっている。
シフトアップスイッチ641及びシフトダウンスイッチ642は、例えば押しボタンスイッチであり、指で押されると入りになり信号を後述するコントローラ74に送り、指を離して切りになると倍号をコントローラ74に送らなくなる。
シフトアップスイッチ641とシフトダウンスイッチ642は、1個のシーソー式のスイッチを用いて同様の機能としても良い。
【0022】
〔2〕HST装置7の構造
次に、図5を参照しながら、HST装置7の構造を説明する。
HST装置7は、HSTポンプ71と、履帯装置4の右左の走行装置に応じて設けられる2つの走行駆動部72と、4連のソレノイドバルブを含む切換操作部73と、コントローラ74と、作動油タンク75とを備えて構成される。
(2−1)HSTポンプ71の構成
HSTポンプ71は、2つの可変容量ポンプ711と、ポンプアクチュエータ712と、ポンプサーボバルブ713と、EPCバルブ714とを備えて構成され、それぞれの可変容量ポンプ711は、対応する走行駆動部72と閉回路を構成し、各走行駆動部72に圧油を供給している。
可変容量ポンプ711は、斜板の傾斜角度を連続的に変化させることにより、容量を変化させることが可能となっており、この可変容量ポンプ711の吐出量を増加することにより、ブルドーザ1の走行速度を増加させることができる。
【0023】
ポンプアクチュエータ712は、可変容量ポンプ711の吐出量の制御を行う部分であり、具体的には、油圧により駆動するサーボピストンを可変容量ポンプ711の斜板端部に結合しておき、パイロットラインからポンプアクチュエータ712に圧油を供給することにより、斜板の傾斜角度を変化させることにより、吐出量を変化させる。
【0024】
ポンプサーボバルブ713は、4ポート3ポジションのバルブとして構成され、ポンプアクチュエータ712への送油量の制御を行う部分であり、ポジションを切換えることにより、パイロットラインを経由して供給される作動油の量を調整し、ポンプアクチュエータ712に供給している。
EPCバルブ714は、ポンプサーボバルブ713のポジション制御を行う部分であり、ポンプサーボバルブ713に対して、2つ設けられている。このEPCバルブ714は、コントローラ74と電気的に接続され、コントローラ74から電気信号が出力されると、ソレノイドが励磁され、EPCバルブ714の流路切換が行われ、これにより、ポンプサーボバルブ713のポジションを切換えている。
【0025】
(2−2)走行駆動部72の構成
走行駆動部72は、左右それぞれの履帯装置4に応じて設けられている。各走行駆動部72は、クラッチ721、可変容量モータ722、第1アクチュエータ723、第2アクチュエータ724、シャトルバルブ725、リリーフバルブ726、及び変速切換バルブ727を備えている。
クラッチ721は、可変容量モータ722の回転軸と履帯装置4の駆動輪42の駆動軸421の間に介在配置されている。このクラッチ721は、可変容量モータ722の回転力を駆動軸421に伝達するために設けられ、付設されるアクチュエータ721Aによって、可変容量モータ722の回転軸と駆動軸421とを連結したり、連結を解除したりすることができる。
【0026】
可変容量モータ722は、出力軸となる回転軸がクラッチ721と連結され、油圧供給源が配管ラインA0を介して前記の可変容量ポンプ711と接続され、この可変容量ポンプ711からの圧油によって駆動し、履帯装置4の駆動輪42の駆動源として機能する。この可変容量モータ722は、斜板の傾斜角度を3段階に変化させることにより、回転軸から出力される回転速度、トルク等を変化させることができるようになっている。
【0027】
第1アクチュエータ723及び第2アクチュエータ724は、可変容量モータ722の出力制御を行う。第1アクチュエータ723の出力軸は、可変容量モータ722の斜板端部に結合される。第2アクチュエータ724の出力軸は、第1アクチュエータ723の出力軸の後退量を制限するために、第1アクチュエータ723の出力軸の突出部に当接している。
第1アクチュエータ723の出力軸が最も突出した状態で可変容量モータ722の斜板角度は最大となり、第1アクチュエータ723の出力軸が最も後退した状態で可変容量モータ722の斜板角度は最小角度となる。第2アクチュエータ724の出力軸が突出した状態では、第1アクチュエータ723の出力軸の後退量は制限され、この状態で可変容量モータ722の斜板角度は中間角度となる。
【0028】
シャトルバルブ725は、可変容量ポンプ711及び可変容量モータ722の配管ラインA0の途中から分岐し、可変容量モータ722の上流側及び下流側を挟むように設けられた配管ラインA1の途中に設けられ、第1アクチュエータ723及び第2アクチュエータ724に圧油を供給するために設けられている。このシャトルバルブ725は、5ポート3ポジションのバルブであり、入力側の2ポートが可変容量モータ722の上流側及び下流側に接続され、出力側の3ポートのうち、2つのポートは変速切換バルブ727の入力側に接続され、1つのポートはリリーフバルブ726を介して、ドレン配管に接続されている。
【0029】
また、シャトルバルブ725は、自己圧によってポジションを変化するように構成され、可変容量モータ722の上流側及び下流側の圧油のバランスとれている場合は、中央のポジションでどちらの入力もドレン配管から遮断される。一方、上流側及び下流側のバランスが変化すると、シャトルバルブ725は、上流側、下流側の圧力によってポジションを変化させ、圧力の高い方の流れを変速切換バルブ727に出力し、圧力の低い方の流れを、リリーフバルブ726を介してドレン配管に排出する。
【0030】
変速切換バルブ727は、後述するコントローラ74の変速制御信号に応じて、ポジションを切り換える5ポート3ポジションのバルブである。変速切換バルブ727の入力側2ポートの一方は、前記のシャトルバルブ725の出力側と接続され、他方は、ドレン配管に接続され、出力側3ポートの1つは、第2アクチュエータ724のピストンを出力軸の進行方向に動かす入出力ポートと接続され、他の2つは、第1アクチュエータ723のピストンを進退方向それぞれに動かす入出力ポートと接続されている。
尚、第1アクチュエータ723の出力軸を後退方向に動かすポートと、第2アクチュエータ724の出力軸を後退方向に動かすポートとは連通している。
この変速切換バルブ727の内部には、流量調整バルブ728が設けられており、この流量調整バルブ728により第1アクチュエータ723、第2アクチュエータ724の動作時間、すなわち可変容量モータ722の斜板角度切換時間が調整される。
【0031】
また、変速切換バルブ727は、MIN、MID、MAXの3ポジションが設定されており、コントローラ74からの変速制御信号が入力しない場合は、中央のMAXのポジションに設定されている。具体的には、各ポジションでは次のような圧油供給状態に設定される。
まず、MAXポジションは、入力した圧油を第1アクチュエータ723、第2アクチュエータ724の全てのポートに供給する設定である。このポジションでは各アクチュエータ723、724内のピストンの受圧面積の差によって各アクチュエータ723、724の出力軸はどちらも突出し、可変容量モータ722の斜板角度は最大角度となる。
MIDポジションは、第1アクチュエータ723の出力軸の進行方向のポートをドレン配管に接続し、その他のポートへは入力した圧油を供給する設定である。このポジションでは、第2アクチュエータ724の出力軸が突出し、第1アクチュエータ723の出力軸は中間位置までしか後退できず、可変容量モータ722の斜板角度は中間角度となる。
MINポジションは、第1アクチュエータ723の出力軸の進行方向のポートと第2アクチュエータ724の出力軸の進行方向のポートとをドレン配管に接続し、その他のポートへは入力した圧油を供給する設定である。このポジションでは、各アクチュエータ723、724の出力軸はどちらも後退し、可変容量モータ722の斜板角度は最小角度となる。
【0032】
(2−3)切換操作部73の構成
切換操作部73は、固定容量ポンプ73Aと、4つのソレノイドバルブ731、732、733、734を備えて構成され、走行駆動部72を構成するバルブの切換を行う部分である。
固定容量ポンプ7は、図5における破線で示されるパイロットラインのパイロット圧を生成するポンプであり、作動油タンク75内の作動油を、パイロットラインに圧油として供給する。
ソレノイドバルブ731は、コントローラ74からの変速制御信号に基づいて、可変容量モータ722の斜板の中間角度への切換を行う部分であり、ソレノイドバルブ731に設けられたソレノイドが励磁されると、パイロット圧がパイロットラインP1を介して変速切換バルブ727に供給され、この変速切換バルブ727のポジションをMIDポジションに切換える。
【0033】
ソレノイドバルブ732は、コントローラ74からの変速制御信号に基づいて、可変容量モータ722の斜板の最小角度への切換を行う部分であり、ソレノイドバルブ732に設けられたソレノイドが励磁されると、パイロット圧がパイロットラインP2を介して変速切換バルブ727に供給され、この変速切換バルブ727のポジションをMINポジションに切換る。
ソレノイドバルブ733は、図示を略したが、スローブレーキ用の機構にパイロット圧を供給する部分であり、ソレノイドバルブ734は、駐車ブレーキにパイロット圧を供給し、クラッチ721に付設されたアクチュエータ721Aをパイロット圧によって駆動させ、クラッチ721の連結を解除する。
【0034】
(2−4)コントローラ74の構成
制御手段としてのコントローラ74は、前述した操縦室6に設けられる走行レバー62、シフトアップスイッチ641、シフトダウンスイッチ642、及びシフトモード切換スイッチ67の操作状態を検出して、制御信号を生成して、HST装置7に出力してHST装置7を駆動制御する。
このコントローラ74は、切換信号検出部741、車速設定部742、シフト操作信号検出部743、走行レバー操作信号検出部744、表示出力部745、走行速度記憶部746、制御信号生成部747、及び制御信号出力部748を備えて構成される。
【0035】
切換信号検出部741は、シフトモード切換スイッチ67からのモード信号を検出する部分であり、Low/High又はオン/オフ等の2水準信号がどのような状態にあるかを検出している。シフトモード切換スイッチ67の切換信号は、例えば、クイックシフトモードの場合Low、連続可変シフトモードの場合Highのように設定することができる。切換信号検出部741で検出されたシフトモード切換スイッチ67のモード信号は、車速設定部742に出力される。
【0036】
シフト操作信号検出部743は、走行レバー62上のシフトアップスイッチ641、シフトダウンスイッチ642がスイッチ操作状態を検出する部分である。このシフト操作信号検出部743によるシフト操作信号の検出は、シフトモードに応じて次のような検出を行う。
シフト操作信号検出部743で検出されたシフト操作信号は、車速設定部742に出力される。
【0037】
走行レバー操作信号検出部744は、走行レバー62のレバー操作信号を検出する部分であり、走行レバー62が前進、後進、左操向、及び右操向のいずれの状態にあるかを検出する。そして、この走行レバー操作信号検出部744で検出されたレバー操作信号は、車速設定部742に出力される。
【0038】
車速設定部742は、前述した切換信号検出部741、シフト操作信号検出部743、及び走行レバー操作信号検出部744で検出された各種操作信号に基づいて、ブルドーザ1の目標車速を設定する部分であり、具体的には、車速設定部742は、入力した各種操作信号に基づいて、走行速度記憶部746に記憶された速度段と、設定走行速度を対応させたテーブルを参照して、車速設定を行う。
ここで、車速設定部742では、切換信号検出部741で検出されたモード信号に応じて、シフト操作信号検出部743で検出されたシフト操作信号を次のように判定している。
(1)クイックシフトモードの場合
クイックシフトモードでは、車速設定部742は、スイッチを押すたびに速度段の切換があったものとして判定している。例えば、シフトアップスイッチ641が0.1秒以上押されると、車速設定部742は、現在の速度段を1段上げる操作信号が入力したものと検出する。同様に、シフトダウンスイッチ642が0.1秒以上押されると、車速設定部742は、現在の速度段を1段下げる操作信号が入力したものと検出する。
【0039】
(2)連続可変シフトモードの場合
連続可変シフトモードでは、車速設定部742は、スイッチの押された時間から速度段の切換があったものと判定している。例えば、シフトアップスイッチ641が0.5秒以上連続して押されると、車速設定部742は、その時間分の速度段を上げる操作信号が入力したものと判定する。同様にシフトダウンスイッチ642が0.5秒以上連続して押されると、車速設定部742は、その時間分の速度段を下げる操作信号が入力したものと検出する。尚、本実施形態では、連続可変シフトモードは、コントローラ74からの制御信号に基づいて、変速を実現しているため、デジタル的な20段程度の細かな多段切換モードとして設定されているが、アナログ的に連続可変シフトを実現してもよい。
【0040】
走行速度記憶部746には、図7に示すように、クイックシフトモード及び連続可変シフトモードのそれぞれにおける速度段と、設定走行速度とを対応させたテーブルT1が記憶されている。尚、本実施形態では、クイックシフトモードの場合は、速度段が3段階に設定されており、連続可変シフトモードの場合にはクイックシフトモードの変速幅内で速度段が20段階に設定されている。また、本実施形態では、ブルドーザ1の走行速度がA、B、C…と複数設定されており、図2では図示を略したモニタパネル65上に設けられる後進速度設定スイッチにより、速度段に応じた後進時の設定走行速度を変更することができるようになっている。
この車速設定部742で設定された目標車速は、制御信号生成部747に出力される。
【0041】
表示出力部745は、車速設定部742に入力した各種操作信号に基づいて、速度段表示部66にシフト状態を表示させる制御信号を出力する部分であり、シフトアップスイッチ641及びシフトダウンスイッチ642の操作に応じた速度段を速度段表示部66に表示させる。
具体的には、クイックシフトモードの場合、表示出力部745は、シフトインジケータ部662に速度段に応じた記号を表示させる制御信号を出力し、例えば、前進1速ならばF1、前進2速ならばF2、後進1速ならばR1、後進2速ならばR2のようにシフトインジケータ部662に表示させる。
一方、連続可変シフトモードの場合、表示出力部745は、連続速度段表示部661にシフトアップスイッチ641及びシフトダウンスイッチ642の押操作時間に応じた数のセグメントを表示させる制御信号を出力する。
【0042】
制御信号生成部747は、車速設定部742で設定された目標車速に基づいて、変速制御信号を生成する部分である。
この制御信号生成部747においては、前記目標車速の他に、走行負荷や減速操作の有無などの諸条件に基づいて変速制御信号が生成されるが、この部分については、既存の技術であり当業者が適宜設計すべき事項であるので、説明を省略する。
制御信号出力部748は、制御信号生成部747で生成された変速制御信号を、制御対象に出力する部分であり、本例では、可変容量モータ722の変速を行うソレノイドバルブ731、732、及び、可変容量ポンプ711のEPCバルブ714に変速制御信号を出力し、これらが変速制御信号により駆動して、可変容量ポンプ711及び可変容量モータ722の斜板の傾斜角度が変化して、変速が行われる。
【0043】
〔3〕HST装置7の作用
次に、前述したHST装置7の作用を図8に示されるフローチャートに基づいて説明する。尚、前述したように、制御信号生成部747は、車速設定部742で設定された目標車速と、負荷から求められる指令速度とのいずれかを選択して変速制御信号を生成しているが、ここでは、操縦者の設定により速度設定されたものとして説明する。
(1)ブルドーザ1の操縦中、操縦者がシフトアップスイッチ641又はシフトダウンスイッチ642を操作してオンとすると(処理S1)、コントローラ74のシフト操作信号検出部743は、図5では図示を略したが内蔵されたタイマ回路によってオン状態の経過時間tの計時を開始する(処理S2)。尚、オン状態検出後、シフトモード切換スイッチ67による変速モードの切換があり、これが切換信号検出部741で検出された場合、コントローラ74は、以後の処理を中止する。
【0044】
(2)シフト操作信号検出部743は、オン状態の経過時間tが0.1秒よりも長いか否かを判定し(処理S3)、オン状態の経過時間tが0.1秒未満の場合には、操縦者が誤って触れたものと判定して、処理を終了する。
(3)オン状態の経過時間tが0.1秒以上ある場合には、車速設定部742は、連続可変シフトモードであるか否かの判定を行う(処理S4)。連続可変シフトモードではない、すなわちクイックシフトモードであると判定された場合、この車速設定部742は、走行速度記憶部746(図7参照)のクイックシフトモード用速度段テーブルT11を参照する(処理S5)。
【0045】
(4)ここで、車速設定部742は、シフトアップの場合、現在の速度段が上限値であるか、又は、シフトダウンの場合、現在の速度段が下限値であるか否かの判定を行う(処理S6)。現在の速度段が上限値又は下限値である場合、これ以上のシフトアップ又はシフトダウンは行えないので、処理を終了する。一方、上限値又は下限値ではない場合、車速設定部742は、クイックシフトモード用速度段テーブルT11における速度段を1つ上又は下の値に書換え(処理S7)を行う。
(5)制御信号生成部747は、車速設定部742で設定された速度段に応じた目標車速の他、走行負荷や減速操作の有無等の諸条件に基づいて変速制御信号を生成する。生成された変速制御信号は、ソレノイドバルブ731、732及びEPCバルブ714に出力され、可変容量ポンプ711及び可変容量モータ722の斜板の傾斜角度が変更される。
【0046】
(6)処理S4において、連続可変シフトモードであると判定された場合、車速設定部742は、連続可変シフトモード用速度段テーブルT12(図7参照)を参照する(処理S8)。この間、シフト操作信号検出部749は、前記のタイマ回路による計時を続け、オン状態の経過時間tが0.5秒未満であるかを判定する(処理S9)。
(7)オン状態の経過時間tが0.5秒未満の場合、車速設定部742は、クイックシフトモードの場合と同様に、現在の速度段が上限値又は下限値であるか否かを判定し(処理S10)、シフトアップの場合上限値であると判定され、シフトダウンの場合下限値であると判定されたら、処理を終了する。上限値でない場合、車速設定部742は、図7における連続可変シフトモード用速度段テーブルT12を参照して、速度段を1つ上又は下の値に書換える(処理S11)。制御信号生成部747では、書換えられ目標車速に基づいて、クイックシフトモードの場合と同様に、変速制御信号を生成して、制御信号出力部748を介して、ソレノイドバルブ731、EPCバルブ714に出力し、可変容量ポンプ711及び可変容量モータ722の駆動制御を行う。
【0047】
(8)オン状態の経過時間tが0.5秒以上の場合、車速設定部742は、現在の速度段が上限値又は下限値であるか否かを判定し(処理S12)、シフトアップの場合上限値であると判定され、シフトダウンの場合下限値であると判定されたら、処理を終了する。
(9)一方、現在の速度段が上限値又は下限値でないと判定されたら、連続可変シフトモード用速度段テーブルT12を参照して、所定時間毎に速度段をシフトアップであれば、1つ上の値に書換え、シフトダウンであれば1つ下の値に書換える(処理S13)。そして、シフトアップ、シフトダウン信号がオフとなるか、シフトアップの場合速度段が上限値となるか、シフトダウンの場合速度段が下限値となるかまで、繰り返す(処理S14)。尚、車速設定部742は、速度段の書換毎に、目標車速を制御信号生成部747に出力し、制御信号生成部747では、更新される目標車速に応じて変速制御信号を生成し、制御信号出力部748を介して、ソレノイドバルブ731、732、EPCバルブ714に出力して可変容量ポンプ711及び可変容量モータ722の変速制御が行われる。
【0048】
〔4〕実施形態の変形
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、次に示すような変形をも含むものである。
前記実施形態では、クイックシフトモードにおけるシフトアップ、シフトダウンを3速切換としていたが、本発明はこれに限られない。すなわち、クイックシフトモードによる切換を4速、5速とすることも可能である。
【0049】
前記実施形態では、連続無段変速機の一例として、HSTにより説明したが、連続無段変速機であればCVTであっても良い。また、連続無段階変速としては最大変速比から最小変速比の間を20段階にわけて小刻みに変速するもので説明したが、20段階に限定されるものではなく、変速操作手段を操作している間連続的に変速比を変更し続けるものであっても良いことはもちろんである。また、ブルドーザの例で説明したが、建設機械に限らず他の車両にも適用可能である。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ブルドーザに利用できる他、パワーショベルやホイルローダ等の他の建設機械にも利用することができる。また、本発明は、ブルドーザ等の建設機械に限らず他の車両にも適用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続無段変速機と、この連続無段変速機の変速切換制御を行う制御手段とを有し、変速操作手段により前記変速機の変速比を切換可能な連続無段変速機搭載車両であって、
前記変速操作手段による変速比切換のモードを、
予め設定された複数段の変速比において変速比を段階的に切換える第1モードと、変速比を連続的又は略連続的に切換える第2モードに切換えるシフトモード切換手段を有し、
前記制御手段は、
前記制御手段は、少なくとも、前記変速操作手段の操作により検出される変速操作信号と、前記シフトモード切換手段の切換により検出されるモード信号とに基づいて、目標車速の設定を行う車速設定部を有する
ことを特徴とすることを特徴とする連続無段変速機搭載車両。
【請求項2】
請求項1に記載の連続無段変速機搭載車両において、
前記連続無段変速機は、HSTであることを特徴とする連続無段変速機搭載車両。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の連続無段変速機搭載車両において、
第1モードにおける変速操作手段と、第2モードにおける変速操作手段とが同一のものであることを特徴とする連続無段変速機搭載車両。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の連続無段変速機搭載車両において、
前記車両は建設機械であり、前記変速操作手段は前記建設機械の走行レバーに設けた押ボタンスイッチであることを特徴とする連続変速機搭載車両。

【国際公開番号】WO2005/054720
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515981(P2005−515981)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018017
【国際出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】