説明

過給機

【課題】タービンに流路断面積を可変にする可動ベーンを、コンプレッサに出没式の可動ベーンを適用する場合に、これらの可動ベーンに共通のアクチュエータを備えることで、コンパクト化を図ることが可能な過給機を提供する。
【解決手段】過給機1は、タービン10側で流路断面積を可変にする第1の可動ベーン41と、コンプレッサ20側でディフューザ流路に出没する第2の可動ベーン51と、第1および第2の可動ベーン41、51に共通の駆動モータ61と、第2の可動ベーン51をディフューザ流路に出没させるカム機構CMとを備える。カム機構CMは、第1の可動ベーン41が所定量αよりも閉じた状態で、第2の可動ベーン51をディフューザ流路に突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
過給機では、タービンやコンプレッサに可動ベーンを設けることがある。タービンには、タービンホイールに作動流体を導く流路につき、流路断面積を可変にする可動ベーンを設けることができる。流路断面積を可変にすることで、タービン容量を可変にすることができる。コンプレッサには、ディフューザ流路に出没する出没式の可動ベーンを設けることができる。ディフューザ流路に可動ベーンを出没させることで、圧縮効率と適用可能な流量範囲との両立を図ることができる。
【0003】
可動ベーンを駆動するにはアクチュエータが必要になる。特許文献1では、タービン側とコンプレッサ側の可動ベーンそれぞれに対し個別にアクチュエータを備えた過給機が開示されている。なお、可動ベーンを駆動するアクチュエータを複数備えた構成には、例えば特許文献2に開示されるような構成もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−205330号公報
【特許文献2】特開2009−270472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タービン側とコンプレッサ側の可動ベーンそれぞれに対し個別にアクチュエータを備えると、過給機が大型化する。過給機が大型化すると、過給機の搭載スペースが制限される。このため、タービン側とコンプレッサ側とに共通のアクチュエータを用いることが考えられる。しかしながら、アクチュエータの共通化は必ずしも容易ではない。これは、タービン側とコンプレッサ側とで可動ベーンの作動特性が必ずしも一致しないためである。例えばアクチュエータの共通化は次の場合に困難である。
【0006】
すなわち、タービンには流路断面積を可変にする可動ベーンを、コンプレッサには出没式の可動ベーンを適用する。タービン側では運転状態に応じて流路断面積を次第に変化させることができる。一方、コンプレッサ側では運転状態に応じて可動ベーンを突出した状態、或いは引き込まれた状態にする。このため、可動ベーンはタービン側とコンプレッサ側とで、運転状態に応じて互いに異なる動作を行う必要がある。そして、このことがアクチュエータの共通化を困難にする。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、タービンに流路断面積を可変にする可動ベーンを、コンプレッサに出没式の可動ベーンを適用する場合に、これらの可動ベーンに共通のアクチュエータを備えることで、コンパクト化を図ることが可能な過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はタービンおよびコンプレッサと、前記タービンに設けられ、前記タービンが備えるタービンホイールに作動流体を導く流路の断面積を可変にする第1の可動ベーンと、前記コンプレッサに設けられ、前記コンプレッサのディフューザ流路に出没する第2の可動ベーンと、前記第1および第2の可動ベーンに共通のアクチュエータと、前記第2の可動ベーンを前記ディフューザ通路に出没させるカム機構と、を備え、前記アクチュエータが、前記第1の可動ベーンを駆動するとともに、前記カム機構を介して前記第2の可動ベーンを駆動し、前記カム機構が、前記第1の可動ベーンが所定量よりも閉じた状態で、前記第2の可動ベーンを前記ディフューザ通路に突出させる過給機である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タービンに流路断面積を可変にする可動ベーンを、コンプレッサに出没式の可動ベーンを適用する場合に、これらの可動ベーンに共通のアクチュエータを備えることで、コンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】過給機の概略構成図である。
【図2】可変ノズルベーン機構の正面図である。
【図3】可変ノズルベーン機構の背面図である。
【図4】スライド式ベーン機構の分解構成図である。
【図5】スライド式ベーン機構の側面模式図である。
【図6】コンプレッサ側から見た過給機の外観図である。
【図7】タービン側から見た過給機の外観図である。
【図8】第1および第2の可動ベーンの作動関係をグラフで示す図である。
【図9】スライド式ベーン機構の変形例の側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【0012】
図1は過給機1の概略構成図である。過給機1はタービン10およびコンプレッサ20を備えている。過給機1は例えばエンジンに用いることができる。タービン10はタービンハウジング11とタービンホイール12とを備えている。タービンハウジング11はタービン10の筐体をなしている。タービンハウジング11にはタービンホイール12が収容されている。
【0013】
タービンホイール12の外側には第1のスクロール部11aが設けられている。第1のスクロール部11aは作動流体(例えばエンジンの排気)の流路を有している。流路はスクロール状の形状をなしている。第1のスクロール部11aおよびタービンホイール12間には流路部10aが設けられている。流路部10aは作動流体の流路を有している。流路は環状の形状をなしている。
【0014】
作動流体は第1のスクロール部11a内に導入される。導入された作動流体は、スクロール状の流路に沿った流れを形成しながら、流路部10aを介してタービンホイール12に到達する。したがって、第1のスクロール部11aと流路部10aとが有する流路それぞれは、タービンホイール12に作動流体を導く流路となっている。タービンホイール12に到達した作動流体はタービンホイール12を回転し、その後、排出口11bを介して排出される。
【0015】
コンプレッサ20はコンプレッサハウジング21とコンプレッサホイール22とを備えている。コンプレッサハウジング21はコンプレッサ20の筐体をなしている。コンプレッサハウジング21にはコンプレッサホイール22が収容されている。コンプレッサホイール22はシャフト30を介してタービンホイール12によって回転される。
【0016】
コンプレッサホイール22の外側には第2のスクロール部21aが設けられている。第2のスクロール部21aとコンプレッサホイール22との間には、ディフューザ部20aが設けられている。ディフューザ部20aは、環状の流路からなるディフューザ流路を有している。ディフューザ部20aは、コンプレッサホイール22が送り出す流体の運動エネルギーを圧力に変換する。
【0017】
コンプレッサハウジング21内には、吸入口21bから流体(例えばエンジンの吸入空気)が吸入される。吸入された流体はコンプレッサホイール22に向かって流通する。その後、流体はコンプレッサホイール22の回転により外側に向けて送り出される。送り出された流体は、ディフューザ部20a、第2のスクロール部21aを介して例えばエンジンの吸気マニホルド等に供給される。
【0018】
過給機1ではタービン10に第1の可動ベーン41を設けている。第1の可動ベーン41はノズルベーンであり、タービンホイール12に作動流体を導入する流路の断面積を可変にする。具体的には第1の可動ベーン41は流路部10aに設けられており、流路部10aが有する流路の断面積を可変にする。
【0019】
第1の可動ベーン41は、可変ノズルベーン機構40に組み込まれている。可変ノズルベーン機構40は、タービンホイール12の背後側からタービンハウジング11に組み付けられている。可変ノズルベーン機構40は第1の可動ベーン41を可動にする。可変ノズルベーン機構40について、図2、図3を用いて説明する。
【0020】
図2は可変ノズルベーン機構40の正面図、図3は可変ノズルベーン機構40の背面図である。可変ノズルベーン機構40は正面側をタービン10側、背面側をコンプレッサ20側に合わせた向きで、タービンハウジング11に組み付けられる。図2に示すように、可変ノズルベーン機構40は第1の可動ベーン41のほか、ベースプレート42とピン43とを備えている。
【0021】
第1の可動ベーン41は、ベースプレート42に環状の列をなすようにして複数設けられている。ベースプレート42は環状のプレート部材であり、可変ノズルベーン機構40の構造的基盤をなす。ベースプレート42は、流路部10aの壁部のうち、タービンホイール12背後側の壁部を構成する。ピン43は第1の可動ベーン41毎に設けられている。
【0022】
ピン43は対応する第1の可動ベーン41に連結されている。ピン43はベースプレート42に回転自在に設けられている。したがって、第1の可動ベーン41はピン43を介してベースプレート42に回転自在に設けられている。第1の可動ベーン41と対応するピン43とは、ピン43を軸とした一体回転をする。
【0023】
図2では開いた状態の第1の可動ベーン41を実線で示している。さらに一部の第1の可動ベーン41については、ほぼ閉じた状態を破線で示している。これらの状態の間では、隣り合う第1のベーン41間に形成される流路の断面積が互いに異なる。すなわち、第1の可動ベーン41は、具体的には隣り合う第1の可動ベーン41間に形成される流路それぞれの断面積を可変にする。第1の可動ベーン41はこれら流路断面積を互いに同様に変更することができる。
【0024】
図3に示すように、可変ノズルベーン機構40は第1の操作レバー44と、駆動ピン45と、駆動アーム46と、駆動リング47と、ベーンアーム48と、ローラ49とを備えている。これら44から49まではベースプレート42の背面側に設けられており、第1の可動ベーン41の操作機構を構成する。この操作機構の仕組みは次の通りである。
【0025】
すなわち、第1の操作レバー44への駆動入力が、まず駆動ピン45および駆動アーム46を介して駆動リング47に伝わる。そして、駆動リング47を介してさらに複数のベーンアーム48に伝わる。ベーンアーム48は第1の可動ベーン41毎に設けられている。そして、ベーンアーム48と対応する第1の可動ベーン41とは、ベースプレート42を貫通するピン43を介して連結されている。
【0026】
このため、駆動入力が伝達されたベーンアーム48はピン43を軸にして回転する。そして、これに応じて対応する第1の可動ベーン41も一体回転する。第1の可動ベーン41は、駆動リング47が矢印Ct方向に駆動された場合に閉じる方向に回転する。また、矢印Otの方向に駆動された場合に開く方向に回転する。
【0027】
より詳細な説明は次の通りである。第1の操作レバー44は駆動リング47の外側から内側にかけて設けられている。第1の操作レバー44の先端部は駆動ピン45を介して駆動アーム46の後端部と連結されている。駆動ピン45はベースプレート42に回転自在に設けられている。このため、第1の操作レバー44、駆動ピン45および駆動アーム46は駆動ピン45を軸とした一体回転をする。
【0028】
ベースプレート42の外側には、駆動リング47が設けられている。駆動リング47の内周部には、凹状の溝からなる第1の係合部47aが設けられている。第1の係合部47aには、駆動アーム46の先端部が駆動リング47の内側から係合している。駆動アーム46の先端部は駆動ピン45を軸にして円弧を描くように動作する。また、駆動リング47は複数のローラ49でベースプレート42に回転自在に設けられている。このため、第1の操作レバー44への駆動入力で駆動リング47が回転する。
【0029】
駆動リング47は、凹状の溝からなる第2の係合部47bを内周部に複数備えている。第2の係合部47bはベーンアーム48毎に設けられている。第2の係合部47bには、対応するベーンアーム48の先端部が駆動リング47の内側から係合している。一方、ベーンアーム48の後端部は第1の可動ベーン41とピン43で連結されている。このため、駆動リング47が回転すると、ベーンアーム48の先端部がピン43を軸にして円弧を描くように動作する。そしてこれにより、ピン43および第1の可動ベーン41が一体回転する。
【0030】
図1に示すように、過給機1ではコンプレッサ20に第2の可動ベーン51を設けている。第2の可動ベーン51はディフューザ部20aに設けられており、ディフューザ流路に出没する。第2の可動ベーン51は、スライド式ベーン機構50に組み込まれている。スライド式ベーン機構50は、コンプレッサホイール22の背後側からコンプレッサハウジング21に組み付けられている。スライド式ベーン機構50は第2の可動ベーン51を可動にする。スライド式ベーン機構50について、図4、図5を用いて説明する。
【0031】
図4はスライド式ベーン機構50の分解構成図である。図5はスライド式ベーン機構50の側面模式図である。図5では、コンプレッサハウジング21とともにスライド式ベーン機構50を示している。そして、図5(a)は第2の可動ベーン51がディフューザ流路に突出した状態を、図5(b)は第2の可動ベーン51が後述するスリット52aに引き込まれた状態を示している。
【0032】
スライド式ベーン機構50は、図4に図示された側を表面側として、表面側をコンプレッサ20側に合わせた向きでコンプレッサハウジング21に組み付けられる。スライド式ベーン機構50は第2の可動ベーン51のほか、ディフューザプレート52と、可動部材53と、カムリング54と、第2の操作レバー55と、スプリング56とを備えている。
【0033】
ディフューザプレート52は環状のプレート部材である。ディフューザプレート52は、ディフューザ部20aの壁部のうち、コンプレッサホイール22背後側の壁部を構成する。ディフューザプレート52にはスリット52aが設けられている。スリット52aは第2の可動ベーン51毎に設けられている。スリット52aは第2の可動ベーン51の形状に合わせて形成されている。スリット52aは、第2の可動ベーン51のディフューザ流路への出没を可能にする。
【0034】
ディフューザプレート52の背後には、可動部材53が設けられている。可動部材53は環状の部材であり、可動部材53には第2可動ベーン51が設けられている。第2の可動ベーン51は、可動部材53の表面側に環状の列をなすようにして複数設けられている。これら複数の第2の可動ベーン51は可動部材53に一体形成されている。可動部材53は過給機1の軸方向に沿って移動可能に設けられている。可動部材53は過給機1の軸方向に沿って移動することで、第2の可動ベーン51をディフューザ流路に出没させる。
【0035】
可動部材53の背後には、カムリング54が設けられている。カムリング54は円筒状の部材であり、過給機1の軸周りに回転可能に設けられる。カムリング54は突き出し部54aと、引き込み部54bと、接続部54cとを備えている。これら突き出し部54a、引き込み部54bおよび接続部54cは、カムリング54の表面側に設けられている。
【0036】
突き出し部54aは周方向に沿って均等に複数(ここでは3つ)設けられている。複数の突き出し部54aは、カムリング54背後側の円形端部を底部として、底部から互いに同様の高さで平らに形成されている。引き込み部54bは隣り合う突き出し部54aの間に設けられている。複数の引き込み部54bも底部から互いに同様の高さで平らに形成されている。突き出し部54aは引き込み部54bよりも表面側に突き出している。
【0037】
突き出し部54aそれぞれは、隣り合う引き込み部54bのうち、同方向に位置する引き込み部54bそれぞれとの間で、接続部54cによって接続されている。接続部54cは、引き込み部54bから突き出し部54aに向かって斜めに立ち上がるようにして傾斜している。接続部54cはこれら突き出し部54a、引き込み部54bと滑らかな接合カーブを有して接合されている。これら突き出し部54a、引き込み部54bおよび接続部54cは、カムCMを構成している。
【0038】
カムCMはカム係合部53aと係合する。カム係合部53aは可動部材53にカムCM毎に設けられている。カム係合部53aは、可動部材53の外周から突起するように設けられている。径方向に沿ったカム係合部53aの位置は、カムCMと係合可能な位置に設定されている。周方向に沿ったカム係合部53aの幅は、周方向に沿った引き込み部54bの幅よりも小さく設定されている。カムCMとカム係合部53aとはカム機構に相当する。カム係合部53aは例えばブロック状に突起していてもよい。
【0039】
カム機構はカムリング54の回転方向に応じて次のように作動する。すなわち、カムリング54が矢印Cc方向に回転した場合、カム機構は第2の可動ベーン51をディフューザ流路に突出させるように作動する。また矢印Ocの方向に回転した場合、カム機構は第2の可動ベーン51をスリット52aに引き込むように作動する。カム機構はこのようにして第2の可動ベーン51をディフューザ流路に出没させる。
【0040】
第2の操作レバー55は、カムリング54に設けられている。第2の操作レバー55は外部から操作可能に設けられている。第2の操作レバー55は外部からのカムリング54の駆動を可能にする。したがって、カムリング54は、第2の操作レバー55を介した駆動入力によって回転駆動する。
【0041】
スプリング56はディフューザプレート52と可動部材53との間に設けられている。スプリング56は可動部材53をカムリング54側に付勢する。そしてこれにより、可動部材53の不要な動きを規制する。スプリング56は次のようにして設けることができる。すなわち、可動部材53の表面側にスプリング56を収納可能な収納部53bを周方向に沿って均等に複数設ける。そして、各収納部53bにスプリング56を設ける。収納部53bは有底円筒状の形状に形成することができる。
【0042】
図6はコンプレッサ20側から見た過給機1の外観図である。図7はタービン10側から見た過給機1の外観図である。過給機1はモータ駆動機構60を備えている。モータ駆動機構60は駆動モータ61と、減速機62と、出力軸63とを備えている。駆動モータ61の出力は減速機62を介して出力軸63に伝達される。駆動モータ61は、所定の角度範囲内で出力軸63を回転駆動する。出力軸63は過給機1の軸方向に沿って設けられている。
【0043】
過給機1は、リンク駆動機構70を備えている。リンク駆動機構70は、出力レバー71と、吸気側リンク機構80と、排気側リンク機構90とを備えている。出力レバー71は、出力軸63に設けられている。出力レバー71は出力軸63から径方向に互いに反対側に向かって延伸している。出力レバー71は出力軸63に連結されており、出力軸63と一体回転する。
【0044】
出力レバー71の一端側には吸気側リンク機構80が、他端側には排気側リンク機構90が接続されている。吸気側リンク機構80は、出力レバー71と第2の操作レバー55とを接続する。排気側リンク機構90は、出力レバー71と第1の操作レバー44とを接続する。
【0045】
吸気側リンク機構80は、ロッド81と、接続ピン82、83とを備えている。ロッド81は、接続ピン82を介して出力レバー71と回転可能に接続されている。またロッド81は接続ピン83を介して第2の操作レバー55と回転可能に接続されている。なお、排気側リンク機構90にも同様の構造を適用している。このため、排気側リンク機構90については説明を省略する。
【0046】
リンク機構80、90を備えた過給機1では、出力軸63が矢印C方向に回転する場合、駆動軸63の回転が第2の操作レバー55を押すように作用する。このため、第2の操作レバー55は矢印Cc方向にカムリング54を駆動する。結果、カム機構の作動に応じて、第2の可動ベーン51がディフューザ流路に突出する。
同時に、矢印C方向に回転する場合、駆動軸63の回転は第1の操作レバー44を引っ張るように作用する。このため、第1の操作レバー44は矢印Ct方向に駆動リング47を駆動する。結果、第1の可動ベーン41が閉じる方向に回転する。
【0047】
矢印O方向に回転する場合、駆動軸63の回転は第2の操作レバー55を引っ張るように作用する。このため、第2の操作レバー55は矢印Oc方向にカムリング54を駆動する。結果、カム機構の作動に応じて、第2の可動ベーン51がスリット52aに引き込まれる。
同時に、矢印O方向に回転する場合、駆動軸63の回転は第1の操作レバー44を押すように作用する。このため、第1の操作レバー44は矢印Ot方向に駆動リング47を駆動する。結果、第1の可動ベーン41が開く方向に回転する。
【0048】
したがって、過給機1では出力軸63を回転する駆動モータ61が、第1の可動ベーン41を駆動するとともに、カム機構を介して第2の可動ベーン51を駆動するアクチュエータに相当する。
【0049】
第1および第2の可動ベーン41、51に求められる作動特性は次の通りである。すなわち、第1の可動ベーン41については、タービン10を流通する作動流体の流量が小さい場合ほど、第1の可動ベーン41をより閉じた状態にする。作動流体の流速を高めることで、過給圧を高めるためである。これにより、タービン容量が可変となる。
【0050】
第2の可動ベーン51については、コンプレッサ20を流通する流体の流量が小さい場合に、第2の可動ベーン51をディフューザ流路に突出させる。過給効率を高めるためである。また流体の流量が大きい場合に、第2の可動ベーン51をスリット52aに引き込む。適用可能な流量範囲が狭くなることを防止するためである。
【0051】
このように第1および第2の可動ベーン41、51に求められる作動特性は互いに異なる。これに対し、過給機1は次のようにして第1および第2の可動ベーン41、51を共通の駆動モータ61で駆動する。図8は第1および第2の可動ベーン41、51の作動関係をグラフで示す図である。縦軸は第2の可動ベーン51の状態、横軸は第1の可動ベーン41の状態を示す。
【0052】
第1の可動ベーン41が最も閉じた状態で、第2の可動ベーン51は突出している。この状態から、駆動モータ61が前述した矢印O方向に回転すると、第1の可動ベーン41は駆動モータ61の回転に応じて次第に開く。一方、第2の可動ベーン51は第1の可動ベーン41が所定量αよりも閉じた状態では突出したままの状態となる。
【0053】
これは、第1の可動ベーン41が駆動モータ61の連続的な回転に応じてリニアな特性で開閉される一方、第2の可動ベーン51がカム機構を介して駆動されるためである。このような状態を実現するため、過給機1では第1の可動ベーン41が所定量αよりも閉じた状態で、第2の可動ベーン51をディフューザ通路に突出させるように突き出し部54aを設けている。所定量αは中間領域に設定されている。但しこれに限られず、所定量αはカムCMとカム係合部53aの位置関係によって適宜設定できる。
【0054】
第1の可動ベーン41が所定値α以上に開いた場合、第2の可動ベーン51はカム機構の作動に応じて没入する。スリット52aに完全に没入するまでの間における第2の可動ベーン51の作動特性は、状態の変化速度が急増するように設定されている。この間の作動特性は接続部54cの傾斜度合いで調整できる。また、滑らかな接合カーブを設けることで、第2の可動ベーン51をスムースに駆動できる。第2の可動ベーン51が完全に没入した後、第1の可動ベーン41が最も開いた状態になるまでの間では、第2の可動ベーン51は没入したままの状態になる。
【0055】
次に過給機1の作用効果について説明する。過給機1は上述した通り、作動特性が異なる第1および第2の可動ベーン41、51を共通の駆動モータ61で駆動することができる。このため過給機1は、タービン10に流路断面積を可変にする第1の可動ベーン41を、コンプレッサ20に出没式の第2の可動ベーン51を適用する場合に、これらの可動ベーン41、51に共通の駆動モータ61を備えることで、コンパクト化を図ることができる。
【0056】
また過給機1では、第1の可動ベーン41が駆動リング47を介して、第2の可動ベーン51がカムリング54を介して駆動される。この点、駆動リング47とカムリング54とは、第1および第2の可動ベーン41、51を駆動するにあたり、過給機1の軸に垂直な平面上で、さらに具体的には過給機1の軸周りに外部から回転駆動させることが可能な被駆動部材となっている。
【0057】
このため過給機1は、駆動リング47とカムリング54とを備えることで、タービン10側とコンプレッサ20側とで駆動入力の態様を合わせることができ、結果、リンク駆動機構70を簡素化できる。また、カム機構を構成するカムリング54を被駆動部材とすることで、合理的な構成とすることができる。また、第1の可動ベーン41を駆動するのにモータ駆動機構60を用いる構成をベースとする場合には、モータ駆動機構60を特段変更することなく、第2の可動ベーン51を駆動できる。
【0058】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば上述した実施例では、第1の可動ベーン41が隣り合う第1の可動ベーン41間に形成される流路それぞれの断面積を可変する場合について説明した。しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、第1の可動ベーンは例えばスクロール流路の断面積を可変にするものであってもよい。
【0059】
また例えば、カム機構は次のように構成することもできる。図9はスライド式ベーン機構50の変形例であるスライド式ベーン機構50´の側面模式図である。図9(a)は第2の可動ベーン51がディフューザ流路に突出した状態を、図9(b)は第2の可動ベーン51がスリット52aに引き込まれた状態を示している。
【0060】
可動部材53´はカム係合部53a´を備える。カムリング54´は突き出し部54a´、引き込み部54b´および接続部54c´を備える。突き出し部54a´にはボール57が設けられている。カムCM´は、突き出し部54a´と、引き込み部54b´と、接続部54c´と、ボール57とで構成されている。カム機構は、カムCM´とカム係合部53a´とで実現される。
【0061】
ボール57は転動体であり、突き出し部54a´のうち、接続部54c´付近の部分に転動可能に設けられている。転動体としては、ボール57の代わりに例えばコロも適用できる。カム係合部53a´は、可動部材53´の背面外周部から隆起するように設けられている。カム係合部53a´と引き込み部54b´との周方向に沿った幅は、カム係合部53a´のほうが引き込み部54b´よりも小さくなるように設定されている。
【0062】
カム係合部53a´の周方向に沿った端部のうち、カムCM´と係合する側の端部には、傾斜部53aa´が設けられている。ボール57は、係合時に傾斜部53aa´に当接するように設けられている。傾斜部53aa´および接続部54c´の傾斜度合いは、傾斜部53aa´の傾斜度合いのほうが、接続部54c´の傾斜度合いよりも小さくなるように設定することができる。スライド式ベーン機構50´では、カムリング54´が可動部材53´との間にボール57を介した状態で回転する。このためスライド式ベーン機構50´では、カム機構をスムースに作動させることができる。
【符号の説明】
【0063】
過給機 1
タービン 10
流路部 10a
コンプレッサ 20
ディフューザ部 20a
シャフト 30
可変ノズルベーン機構 40
第1の可動ベーン 41
第1の操作レバー 44
スライド式ベーン機構 50
第2の可動ベーン 51
ディフューザプレート 52
可動部材 53
カムリング 54
第2の操作レバー 55
モータ駆動機構 60
駆動モータ 61
減速機 62
出力軸 63
リンク駆動機構 70
出力レバー 71
吸気側リンク機構 80
排気側リンク機構 90



【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンおよびコンプレッサと、
前記タービンに設けられ、前記タービンが備えるタービンホイールに作動流体を導く流路の断面積を可変にする第1の可動ベーンと、
前記コンプレッサに設けられ、前記コンプレッサのディフューザ流路に出没する第2の可動ベーンと、
前記第1および第2の可動ベーンに共通のアクチュエータと、
前記第2の可動ベーンを前記ディフューザ通路に出没させるカム機構と、を備え、
前記アクチュエータが、前記第1の可動ベーンを駆動するとともに、前記カム機構を介して前記第2の可動ベーンを駆動し、
前記カム機構が、前記第1の可動ベーンが所定量よりも閉じた状態で、前記第2の可動ベーンを前記ディフューザ通路に突出させる過給機。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−82760(P2012−82760A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230032(P2010−230032)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】