説明

遠心式コンプレッサ装置、燃料電池用コンプレッサ、及び燃料電池用コンプレッサの制御方法

【課題】自動車等の車両において生じる多様な要因により、電動モータのロータに対して軸方向に過大な負荷荷重が付与される状況にあっても、規模を拡大することなく、安全且つ確実な動作を維持できる燃料電池用コンプレッサを提供すること。
【解決手段】電動モータのロータを軸方向に非接触状態で支持する一対の磁気軸受を備え、該ロータが軸方向に受ける負荷荷重FLに略比例して増大する制御電流icを含む励磁電流を前記磁気軸受に供給するようにした燃料電池用コンプレッサの制御方法である。制御電流icとその上限値icmaxとの大小関係を判断する制御電流値判断ステップS103と、ic≦icmaxの場合には、ロータの目標回転数Ndを第1目標回転数Nとして電動モータの回転を制御する一方、それ以外の場合には、Ndを第1目標回転数Nの0.8〜0.9倍の第2目標回転数Nに変更する目標値変更ステップS104とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータと、該電動モータのロータを軸方向に非接触状態で支持する磁気軸受装置とを備えた遠心式コンプレッサ装置、該遠心式コンプレッサ装置が適用される燃料電池用コンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の遠心式コンプレッサ装置では、前記ロータの回転速度(回転数)を目標値として電動モータの回転が制御され、それによってロータの先端に軸支されたインペラにより軸方向に吸入され、圧縮して径方向に吐出される空気の流量又は圧力が所望の値と一致するようにされている(特許文献1参照)。
【0003】
即ち、従来の遠心式コンプレッサ装置では、予め前記ロータ(インペラ)の回転速度と圧縮空気の流量又は圧力の関係が設定されており、該関係に基づきロータの回転速度が目標値と一致するように電動モータの回転を制御すれば、圧縮空気に所望の流量又は圧力が得られるようになっている。
【0004】
また、前記磁気軸受装置は、前記ロータをアキシャル方向(軸方向)又はラジアル方向(径方向)にそれぞれ非接触状態で支持するための一対の磁気軸受を備えている。当該磁気軸受装置では、前記ロータの変位に伴い変化する制御電流を、各磁気軸受に一定となる定常電流に合わせた励磁電流を当該一対の磁気軸受(の各電磁石)に供給することでロータを中立位置(ロータが外力を受けない状態で回転する設計上の位置)にて支持させるようにしている。
【0005】
ところで、燃料電池を利用した自動車等の車両に搭載され、圧縮空気を当該燃料電池に供給する燃料電池用コンプレッサが知られている(特許文献2参照)。この燃料電池用コンプレッサでは、インペラの先端近傍に加圧ボリュートが設けられており、前記インペラの回転により当該加圧ボリュート内に圧縮空気が生成され、燃料電池用コンプレッサの外部に排出される。
【特許文献1】特開2001−342995号公報
【特許文献2】特開2004−301225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような燃料電池用コンプレッサの中で、ロータの軸受に前述の磁気軸受装置(遠心式コンプレッサ装置)を使用したもの(図1参照)では、ロータ(12)の回転に伴い、インペラ(11)において軸方向に圧縮空気を生じさせるための推力Fが生まれ、その反作用として、前記ロータが軸方向に負荷荷重FLを受けるようになる。そして、該負荷荷重FLが過大となり、その上限値FLmax(ロータを中立位置で支持できる最大の荷重値)を超えると、磁気軸受装置によるロータの浮上制御が不能になり、その結果、燃料電池用コンプレッサ(1)内に設けた保護軸受にタッチダウン(着地)したり、場合によっては燃料電池用コンプレッサの故障につながる虞がある。
【0007】
尚、ロータが軸方向に受ける負荷荷重FLは、前記したインペラの推力F以外に、自動車等の車両の加減速、該車両に加わる横G、該車両の振動等の諸々の外的要因の他、さらに吸入する空気の温度や圧力等の内的要因により燃料電池用コンプレッサに付与される加速度(ロータに対して軸方向に付与される加速度)によっても変動(増大)する。
【0008】
かかる問題に対処するために磁気軸受の負荷容量(支持剛性)を高めれば、必然的に燃料電池用コンプレッサの大型化を招来する。そして、昨今、声高に叫ばれている地球環境問題やエネルギー問題に対応し、自動車等の車両に搭載される車両搭載装置に強く求められている小型化・軽量化・低コスト化に反する結果となり、好ましくない。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、自動車等の車両において生じる多様な要因により、電動モータのロータに対して軸方向に過大な負荷荷重が付与される状況にあっても、規模を拡大することなく、安全且つ確実な動作が維持できる遠心式コンプレッサ装置、及び、該遠心式コンプレッサ装置が適用される燃料電池用コンプレッサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、自動車等の車両に搭載された車両搭載装置に圧縮空気を供給するべく当該車両に設けられ、インペラを軸支するロータをステータで回転駆動する電動モータと、前記ロータを軸方向に非接触状態で支持する一対の磁気軸受とを備え、前記ロータの浮上位置を調節すべく、当該ロータの変位によって変化しない定常電流と、該ロータの変位によって変化するとともに前記圧縮空気の供給に伴って前記ロータが軸方向に受ける負荷荷重に略比例して増大する制御電流と、を合わせた励磁電流を前記一対の磁気軸受に供給する遠心式コンプレッサ装置において、前記制御電流が所定値を超えないように前記電動モータの回転を制御すること、を要旨とする。
【0011】
同構成によれば、電動モータのロータが軸方向に受ける負荷荷重に略比例して増大する制御電流が所定値を超えないように電動モータの回転が制御される。このため、例えば、この所定値を前記ロータに対して軸方向に付与される負荷荷重が当該ロータを中立位置で支持できる限界値を超えないようになる値に設定すれば、該負荷荷重が過大となり、一対の磁気軸受による電動モータのロータの浮上制御が不能に陥る不具合が回避できるようになる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の遠心式コンプレッサ装置において、前記所定値が、前記ロータに対して軸方向に付与される負荷荷重が過大となり前記磁気軸受による当該ロータの浮上制御が不能にならない前記制御電流の上限値に設定されていること、を要旨とする。
【0013】
同構成によれば、所定値が、電動モータのロータに対して軸方向に付与される負荷荷重が過大となり一対の磁気軸受による当該ロータの浮上制御が不能にならない制御電流の上限値に設定される。これにより、一対の磁気軸受による前記ロータの浮上制御が不能になる不具合が的確に回避できるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の遠心式コンプレッサ装置において、前記ロータの回転数の目標値が、前記制御電流が前記所定値以下になる値に設定されていること、を要旨とする。
【0015】
同構成によれば、電動モータのロータの回転数の目標値が、制御電流が所定値以下になる値に設定されるので、当該ロータが軸方向に受ける負荷荷重が磁気軸受の負荷容量(支持剛性)を超えないようにするための電動モータの回転の制御を的確に行うことができるようになる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の遠心式コンプレッサ装置において、前記制御電流が前記所定値以下の場合には、前記ロータの回転数の目標値を前記車両搭載装置で必要となる圧縮空気量に応じて設定される第1目標回転数として前記電動モータの回転を制御する一方、前記制御電流が前記所定値を超えた場合には、前記第1目標回転数を該回転数未満であって、前記制御電流が前記所定値を超えることを防止しうる第2目標回転数に変更するようにしたこと、を要旨とする。
【0017】
同構成によれば、制御電流が所定値以下に維持されるようになって電動モータのロータが安定して中立位置で支持できるようになる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の遠心式コンプレッサ装置において、前記第2目標回転数が、圧縮空気を生じさせるために前記インペラに生じる推力に加えて、さらに前記車両の加減速、該車両に加わる横G、及び該車両の振動等を含む要因により前記ロータに付与される加速度によって前記ロータが軸方向に受ける負荷荷重を考慮して設定されていること、を要旨とする。
【0018】
同構成によれば、第2目標回転数が、自動車等の車両において生じる多様な要因により電動モータのロータに付与される加速度によって当該ロータが軸方向に受ける負荷荷重を考慮して設定されているので、一対の磁気軸受による前記ロータの浮上制御が不能になる不具合が一定の予測性の下で的確に回避できるようになる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の遠心式コンプレッサ装置において、前記第2目標回転数が、前記第1目標回転数の0.8倍以上0.9倍以下に設定されていること、を要旨とする。
【0020】
同構成によれば、第2目標回転数が、車両の燃料電池で必要となる圧縮空気量に応じ、第1目標回転数の0.8倍以上0.9倍以下の具体的数値に設定されているので、一対の磁気軸受による前記ロータの浮上制御が不能になる不具合が防止される電動モータの回転の制御が具体的且つ確実に行えるようになる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、自動車等の車両に搭載された燃料電池に圧縮空気を供給する燃料電池用コンプレッサであって、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の遠心式コンプレッサ装置を用いること、を要旨とする。
【0022】
同構成によれば、自動車等の車両において生じる多様な要因により、電動モータのロータの浮上制御が不能に陥る不具合が回避され、当該車両の燃料電池に圧縮空気を安定して供給できる信頼性の高い燃料電池用コンプレッサが実現されるようになる。
【0023】
請求項8に記載の発明は、自動車等の車両に搭載された燃料電池に圧縮空気を供給するべく当該車両に設けられ、インペラを軸支するロータをステータで回転駆動する電動モータと、前記ロータを軸方向に非接触状態で支持する一対の磁気軸受とを備え、前記ロータの浮上位置を調節すべく、当該ロータの変位によって変化しない定常電流と、該ロータの変位によって変化するとともに前記ロータが軸方向に受ける負荷荷重に略比例して増大する制御電流と、を合わせた励磁電流を前記一対の磁気軸受に供給する燃料電池用コンプレッサの制御方法であって、前記制御電流と所定値との大小関係を判断する制御電流値判断ステップと、前記制御電流が前記所定値以下の場合には、前記ロータの回転数の目標値を前記車両搭載装置で必要となる圧縮空気量に応じて設定される第1目標回転数として前記電動モータの回転を制御する一方、前記制御電流が前記所定値を超えた場合には、前記目標値を前記第1目標回転数の0.8倍以上0.9倍以下の第2目標回転数に変更する目標値変更ステップとを含むこと、を要旨とする。
【0024】
同構成によれば、車両の燃料電池で必要となる圧縮空気量を確保できるとともに、自動車等の車両において生じる多様な要因によって電動モータのロータの浮上制御が不能に陥る不具合が効果的に回避できるようになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の遠心式コンプレッサ装置によれば、自動車等の車両において生じる多様な要因により、電動モータのロータに対して軸方向に過大な負荷荷重が付与される状況にあっても、規模を拡大することなく、安全且つ確実な動作が維持できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
本実施形態の遠心式コンプレッサ装置は、自動車等の車両に搭載され、該車両の動力源としての燃料電池に主として空気を圧縮状態として供給する燃料電池用コンプレッサとして使用される。
【0027】
図1に示すように、前記燃料電池用コンプレッサ1は、燃料電池に圧縮された空気を供給するインペラ11と、該インペラ11を回転駆動するための電動モータ10と、該インペラ11及び電動モータ10を収容する有底円筒状のハウジング15とを備えている。この燃料電池用コンプレッサ1は、車両内において、図1に示す水平状態で使用される(図1においては、ロータ12の軸方向と直交する方向が鉛直方向となる)。
【0028】
前記電動モータ10は、インペラ11を先端部12tで支持(軸支)するロータ12及び該ロータ12を電磁力により回転駆動するステータ13を備えている。
前記インペラ11は、ハウジング15の一部を構成する加圧ボリュート16内に回転可能に収容されている。該加圧ボリュート16には、空気を燃料電池用コンプレッサ1内部に導入する空気導入路16aと、生成された圧縮空気を外部に吐出(排出)する空気排出路16bとが設けられている。
【0029】
前記ロータ12は、その中央部位が径方向外方に膨出して大径部12cを形成しており、その先端側(インペラ11側)及び後端側には、前記大径部12cを挟み込むように、鉄等の磁性体からなる前後一対の円盤状のフランジ部12a,12bが相対回転不能に設けられている。そして、該ロータ12は、それぞれ、前記フランジ部12a,12bを、ハウジング15に固設された前後一対のアキシャル磁気軸受21,22(該アキシャル磁気軸受21,22の鉄製のヨーク部には、コイル巻線21a,22aが巻回され、複数の電磁石を構成している。)に対面させて軸方向(アキシャル方向)に非接触状態で支持されるとともに、同ハウジング15に前記アキシャル磁気軸受21,22に挟まれる位置にて固設された前後一対のラジアルフォイル軸受17a,17bによって径方向(ラジアル方向)に非接触状態で支持される。尚、図1に示す燃料電池用コンプレッサ1においては、前記ロータ12の軸方向の位置を検出するアキシャル位置センサ23がハウジング15の底部15aの中央位置に配設されている。
【0030】
本実施形態で用いる磁気軸受装置2は、前記した燃料電池用コンプレッサ1に備えられるものであり、図1及び図2を参照して、前記した一対のアキシャル磁気軸受21,22及びアキシャル位置センサ23を含む機械本体201と、前記アキシャル磁気軸受21,22の各電磁石の電磁力を制御してロータ12の浮上位置を調節するとともに、該ロータ12の回転速度を制御して燃料電池用コンプレッサ1の圧縮空気の流量又は圧力を調節するコントローラ202とを備えている。以下、ロータ12の軸方向をZ軸、Z軸と直交するとともに互いに直交する2つの径方向をX軸、Y軸とする。
【0031】
前記機械本体201は、ロータ12をステータ13で回転駆動する前記電動モータ10、ロータ12をZ軸方向に離間した2箇所において、X軸方向及びY軸方向に非接触状態で支持する前記ラジアルフォイル軸受17a,17b、ロータ12をZ軸方向に非接触状態で支持する前記アキシャル磁気軸受21,22、及びロータ12のZ軸上の位置を検出して位置検出信号を出力する前記アキシャル位置センサ23を備えている。
【0032】
前記コントローラ202は、前記アキシャル位置センサ23から入力される位置検出信号に基づきロータ12の中立位置からのZ軸上における変位量を演算して該変位量に対応する変位信号を出力する位置センサ回路23a、ロータ12に外乱が作用しても中立位置で支持するための電磁石制御信号を出力するとともに該ロータ12を所定の回転数で回転駆動するための回転数指令信号を出力するDSP(DSP:Digital Signal Processor;デジタル信号処理装置)ボード25、該DSPボード25から入力される電磁石制御信号に基づき前記アキシャル磁気軸受21,22の各電磁石を駆動する磁気軸受駆動回路21b、及び前記DSPボード25から入力される回転数指令信号に基づき前記電動モータ10のロータ12の回転数をPWM制御方式により制御するインバータ回路26を備えている。
【0033】
前記DSPボード25には、制御プログラムが実行可能なデジタル処理手段としてのDSP25a、該DSP25aに設けられた記憶手段としてのROM及びフラッシュメモリ(図示せず)、A/D変換器24a,24c、及びD/A変換器24bが、図2に示す接続状態で配設されている。
【0034】
前記DSP25aには、前記電動モータ10に流れる駆動電流を検知する電流センサ10aからの当該駆動電流信号がA/D変換器24cを介してデジタル信号に変換後に入力されるとともに、車両に備えられ、所定の処理プログラムを実行して電動モータ10の回転を制御するコンピュータ3から入力される指令信号と前記駆動電流信号とに基づいて回転数指令信号を演算し、該回転数指令信号を前記インバータ回路26に出力する電動モータ駆動部25b、及び、前記位置センサ回路23aからA/D変換器24aを介して入力されるロータ12の変位信号に基づいて電磁石制御信号を演算し、該電磁石制御信号をD/A変換器24bを介して前記磁気軸受駆動回路21bに出力するとともに、当該電磁石制御信号を電動モータ10の回転の制御に供すべく前記コンピュータ3に出力するAMB(AMB:Active Magnetic Bearing;能動型磁気軸受)制御部25cが備えられている。
【0035】
尚、前記ROMには、DSP25aで処理される制御プログラムが格納されており、フラッシュメモリには、前記アキシャル磁気軸受21,22の制御パラメータを記憶した制御パラメータテーブルや、バイアス電流値(定常電流値)を記憶したバイアス電流値テーブル等が設けられている。
【0036】
本実施形態の燃料電池用コンプレッサ1は、以上のように構成され、前記磁気軸受駆動回路21bは、DSPボード25からの電磁石制御信号に基づく制御電流icを前記ROMに記憶された定常電流ioに合わせたアキシャル方向励磁電流ieを前記アキシャル磁気軸受21,22の各電磁石に供給する。また、前記インバータ回路26は、DSPボード25からの回転数指令信号に基づき電動モータ10のロータ12の回転数をPWM制御する。これにより、該ロータ12は、前記アキシャル磁気軸受21,22及びラジアルフォイル軸受17a,17bによって中立位置に非接触状態で支持された状態で電動モータ10のステータ13で回転駆動される。尚、前記制御電流icは、図3に示すように、燃料電池用コンプレッサ1から燃料電池への圧縮空気の供給に伴ってロータ12がZ軸方向に受ける負荷荷重FLと略比例して増大することが確認されている。
【0037】
そして、図1を参照して、前記ロータ12の回転に伴ってインペラ11が回転することにより、空気が加圧ボリュート16の空気導入路16aを通って矢印a1(導入空気の圧力:p0[MPa])の方向に導入されて加圧され、さらに圧縮状態にて加圧ボリュート16の空気排出路16bを通って矢印a2(吐出空気の圧力:p1[MPa])の方向に排出され、図示しない加湿機を経由して車両の燃料電池に供給される。
【0038】
ここで、空気の圧縮に伴い、インペラ11(ロータ12)においてZ軸方向に推力F[N]が生じ、該推力F[N]の反作用力を含む負荷荷重FL[N]をロータ12が受けることで当該ロータ12が中立位置からZ軸方向に沿って変位するようになる。そして、該変位量に対応する変位信号が位置センサ回路23aからA/D変換器24aを介してDSP25aのAMB制御部25cに入力され、該AMB制御部25cにおいて当該変位信号に基づいて、前述のとおりに電磁石制御信号が演算される。
【0039】
本実施形態の燃料電池用コンプレッサ1は、前記電磁石制御信号に基づく制御電流ic[A]が該制御電流icの上限値icmax[A](所定値)を超えないように前記電動モータ10の回転を制御する点に特徴を有する。ここで、当該制御電流icの上限値icmaxは、図3に示す制御電流icとロータ12のZ軸方向の負荷荷重FLとの比例関係に基づき、ロータ12が当該負荷荷重FLの上限値FLmax[N](ロータ12を中立位置で支持できる最大の荷重値)に対応して設定されるものである。
【0040】
詳細には、図4及び図5を参照して、ロータ12の回転数の目標値(以下、目標回転数という。)Nd[rpm]を、車両の燃料電池で必要となる圧縮空気量Q[m/sec]に応じた値としてN[rpm]に設定している場合では、同図中の(2)のようにインペラ11の推力F(図1参照)にのみ由来する前記負荷荷重FLの変動幅は小さく、該負荷荷重FLは、その上限値FLmaxを超えることはない。ところが、このインペラ11の推力F以外に、自動車等の車両の加減速、該車両に加わる横G、該車両の振動等の諸々の外的要因に加えて、さらに吸入する空気の温度や圧力等の内的要因により燃料電池用コンプレッサ1に付与される加速度を含めた場合には、前記負荷荷重FLの変動幅は、図4中の(1)のように大きくなる。そして、前記負荷荷重の上限値FLmaxを超えるようになって、この状態が継続されると、磁気軸受装置2(アキシャル磁気軸受21,22)によるロータ12の浮上制御が制御範囲を逸脱して不能に陥ることがある。その結果、燃料電池用コンプレッサ1内に設けた保護軸受(図示省略)にタッチダウン(着地)したり、場合によっては燃料電池用コンプレッサ1の故障につながる虞がある。
【0041】
そこで、本実施形態では、燃料電池用コンプレッサ1の動作中に前記制御電流icがその上限値icmaxを超えたことを条件として、図4中の(1)´のように、ロータ12の目標回転数Ndを前記第1目標回転数N[rpm]から、該第1目標回転数Nに定数K(0.8≦K≦0.9)を乗算した第2目標回転数N(=K・N)[rpm]に変更する。ここで、定数Kは、インペラ11の推力F以外に、自動車等の車両の加減速、該車両に加わる横G、該車両の振動等の諸々の外的要因に加えて、さらに吸入する空気の温度や圧力等の内的要因により燃料電池用コンプレッサ1に付与される加速度を考慮し、それら諸要因によって前記負荷荷重FLに変動が生じても、制御電流icがその上限値icmax以下に維持されるように設定した値である。
【0042】
これにより、電動モータ10のロータ12の回転数Nが低下し、インペラ11の推力Fが減少する。この結果、図4中の(1)のように上記諸要因により負荷荷重FLの変動が大きい状況にあっても、当該負荷荷重FLがその上限値FLmaxを超えることはなくなり、磁気軸受装置2によるロータ12の浮上制御が不能に陥る不具合が効果的に回避できるようになる。
【0043】
本実施形態の燃料電池用コンプレッサ1では、図5に示すように、電動モータ10は、そのロータ12の回転数Nが、その回転数下限値Nmin以上、前記負荷荷重FLがその上限値FLmaxを超えない回転数上限値Nmax以下の範囲となる理論上の制御範囲内で制御される。
【0044】
以下、本実施形態における電動モータ10の制御フローを図6を参照して説明する。この制御フローは、前記コンピュータ3において、処理プログラム上で一定のサンプリング時間ごとに実行されるものである。
【0045】
まず、初期設定として、電動モータ10のロータ12の目標回転数NdをN[rpm]、制御電流icの上限値icmax[A]、第1目標回転数Nに乗算して第2目標回転数N2を得るための定数K(0.8≦K≦0.9)を設定する(ステップS101)。
【0046】
次に、前記AMB制御部25cから出力される電磁石制御信号に基づいて制御電流icを取得する(ステップS102)。
そして、該制御電流icとその上限値icmaxの大小関係が判断される。換言すれば、ロータ12が軸方向に受ける負荷荷重FLがその上限値FLmaxと比較される(ステップS103;制御電流値判断ステップ)。ここで、ic>icmaxの場合(Yesの場合)は、前記目標回転数Ndを第2目標回転数N(=K・N;0.8≦K≦0.9)に設定する(ステップS104;目標値変更ステップ)。一方、ic≦icmaxの場合(Noの場合)は、前記初期設定のままで電動モータ10の回転の制御が継続される(ステップS105)。その後、スタート時点からサンプリング時間が経過し、タイムアップすれば(ステップS106)、ステップS102の手前の段階(A)に戻る。
【0047】
以上、本実施形態の燃料電池用コンプレッサ1によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)電動モータ10のロータ12が軸方向に受ける負荷荷重FLに略比例して増大する制御電流icがその上限値icmax(所定値)を超えないように電動モータ10の回転が制御される。このため、該負荷荷重FLがその上限値FLmaxを超え、アキシャル磁気軸受21,22(磁気軸受装置2)による電動モータ10のロータ12の浮上制御が不能に陥る不具合が回避でき、当該ロータ12が安定して中立位置で支持できるようになる。
【0048】
(2)電動モータ10のロータ12の回転数Nの目標回転数Ndが、制御電流icがその上限値icmax(所定値)を超えない値である第2目標回転数Nに設定される。このため、当該ロータ12が軸方向に受ける負荷荷重FLがアキシャル磁気軸受21,22の負荷容量(支持剛性)を超えないようにするための電動モータ10の回転の制御を的確に行うことができるようになる。
【0049】
(3)第2目標回転数Nが、圧縮空気を生じさせるためにインペラ11に生じる推力Fに加えて、さらに車両の加減速、該車両に加わる横G、及び該車両の振動等を含む要因によりロータ12に付与される加速度によって当該ロータ12が軸方向に受ける負荷荷重FLを考慮して設定されている。このため、アキシャル磁気軸受21,22による前記ロータ12の浮上制御が不能になる不具合が一定の予測性の下で的確に回避できるようになる。
【0050】
(4)第2目標回転数Nが、車両の燃料電池で必要となる圧縮空気量に応じ、第1目標回転数Nの0.8倍以上0.9倍以下の具体的数値に設定されているので、電動モータ10の回転の制御が具体的且つ確実に行えるようになる。
【0051】
(5)以上の(1)〜(4)により、自動車等の車両において生じる多様な要因により、電動モータ10のロータ12の浮上制御が不能に陥る不具合が回避され、当該車両の燃料電池に圧縮空気を安定して供給できる信頼性の高い燃料電池用コンプレッサ1が実現されるようになる。
【0052】
(6)さらに、既存の燃料電池用コンプレッサにおいて、その制御方法を変更することのみで、アキシャル磁気軸受21,22の負荷容量(支持剛性)を高める効果が得られる。このため、装置の規模を拡大する必要がなく、昨今の地球環境問題やエネルギー問題に対応し、自動車等の車両に搭載される車両搭載装置に強く求められている小型化・軽量化・低コスト化の要請に対応したものとなる。
【0053】
尚、上記実施形態は、以下のように変形してもよい。
・上記実施形態では、磁気軸受装置2における演算処理にDSP25aを用いたが、これに限定されるものではなく、例えばパーソナルコンピュータ、CPU(中央演算処理装置)等、DSP以外のものを用いてもよい。また、DSP25a以外にコンピュータ3を別途設け、電動モータ10の制御を行わせたが、当該DSP25aにコンピュータ3の処理機能を併せ持たせるようにしてもよい。
【0054】
・上記実施形態では、本発明の遠心式コンプレッサ装置を燃料電池用コンプレッサに適用した例を示した。しかし、これに限られず、該遠心式コンプレッサ装置は、その他、ターボ分子ポンプ等の圧縮空気を生成する汎用のターボ型コンプレッサにも適用することもできるし、そのような空気コンプレッサ以外に、他の回転機器(コンプレッサ、ブロワ、タービン)にも適用することができる。
【0055】
・上記実施形態では、第1目標回転数Nに乗算する定数Kを0.8以上0.9以下の範囲に設定した。しかし、これに限られず、該定数Kは,遠心式コンプレッサ装置の規模や用途に応じ、多様な要因で遠心式コンプレッサ装置に付与される加速度を考慮して適宜変更可能(例えば、0.6以上0.75以下の範囲とする。)である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池用コンプレッサの軸方向断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池用コンプレッサに適用される磁気軸受装置のブロック図。
【図3】制御電流ic[A](励磁電流ie[A])と電動モータのロータのZ軸方向の負荷荷重FL[N]との関係を示すグラフ図。
【図4】電動モータのロータの目標回転数Ndを第1目標回転数Nから第2目標回転数Nに変更する根拠を説明するためのグラフ図(横軸を時間、縦軸をロータの回転数N及びロータの負荷荷重FLとする)。
【図5】電動モータの回転の制御範囲を説明するためのグラフ図(横軸を電動モータのロータの回転数N、縦軸をロータの負荷荷重FL及び圧縮空気量Qとする)。
【図6】本発明の実施形態に係る燃料電池用コンプレッサにおける電動モータの制御フロー図。
【符号の説明】
【0057】
1…燃料電池用コンプレッサ(遠心式コンプレッサ装置)、2…磁気軸受装置、10…電動モータ、11…インペラ、12…ロータ、12t…先端部、13…ステータ、21,22…アキシャル磁気軸受(一対の磁気軸受)、25a…DSP、25b…電動モータ駆動部、25c…AMB制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車等の車両に搭載された車両搭載装置に圧縮空気を供給するべく当該車両に設けられ、
インペラを軸支するロータをステータで回転駆動する電動モータと、前記ロータを軸方向に非接触状態で支持する一対の磁気軸受とを備え、
前記ロータの浮上位置を調節すべく、当該ロータの変位によって変化しない定常電流と、該ロータの変位によって変化するとともに前記圧縮空気の供給に伴って前記ロータが軸方向に受ける負荷荷重に略比例して増大する制御電流と、を合わせた励磁電流を前記一対の磁気軸受に供給する遠心式コンプレッサ装置において、
前記制御電流が所定値を超えないように前記電動モータの回転を制御することを特徴とする遠心式コンプレッサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心式コンプレッサ装置において、
前記所定値が、前記ロータに対して軸方向に付与される負荷荷重が過大となり前記磁気軸受による当該ロータの浮上制御が不能にならない前記制御電流の上限値に設定されている遠心式コンプレッサ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の遠心式コンプレッサ装置において、
前記ロータの回転数の目標値が、前記制御電流が前記所定値以下になる値に設定されている遠心式コンプレッサ装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の遠心式コンプレッサ装置において、
前記制御電流が前記所定値以下の場合には、前記ロータの回転数の目標値を前記車両搭載装置で必要となる圧縮空気量に応じて設定される第1目標回転数として前記電動モータの回転を制御する一方、前記制御電流が前記所定値を超えた場合には、前記第1目標回転数を該回転数未満であって、前記制御電流が前記所定値を超えることを防止しうる第2目標回転数に変更するようにした遠心式コンプレッサ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の遠心式コンプレッサ装置において、
前記第2目標回転数が、圧縮空気を生じさせるために前記インペラに生じる推力に加えて、さらに前記車両の加減速、該車両に加わる横G、及び該車両の振動等を含む要因により前記ロータに付与される加速度によって前記ロータが軸方向に受ける負荷荷重を考慮して設定されている遠心式コンプレッサ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の遠心式コンプレッサ装置において、
前記第2目標回転数が、前記第1目標回転数の0.8倍以上0.9倍以下に設定されている遠心式コンプレッサ装置。
【請求項7】
自動車等の車両に搭載された燃料電池に圧縮空気を供給する燃料電池用コンプレッサであって、
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の遠心式コンプレッサ装置を用いることを特徴とする燃料電池用コンプレッサ。
【請求項8】
自動車等の車両に搭載された燃料電池に圧縮空気を供給するべく当該車両に設けられ、
インペラを軸支するロータをステータで回転駆動する電動モータと、前記ロータを軸方向に非接触状態で支持する一対の磁気軸受とを備え、
前記ロータの浮上位置を調節すべく、当該ロータの変位によって変化しない定常電流と、該ロータの変位によって変化するとともに前記ロータが軸方向に受ける負荷荷重に略比例して増大する制御電流と、を合わせた励磁電流を前記一対の磁気軸受に供給する燃料電池用コンプレッサの制御方法であって、
前記制御電流と所定値との大小関係を判断する制御電流値判断ステップと、
前記制御電流が前記所定値以下の場合には、前記ロータの回転数の目標値を前記車両搭載装置で必要となる圧縮空気量に応じて設定される第1目標回転数として前記電動モータの回転を制御する一方、前記制御電流が前記所定値を超えた場合には、前記目標値を前記第1目標回転数の0.8倍以上0.9倍以下の第2目標回転数に変更する目標値変更ステップとを含むことを特徴とする燃料電池用コンプレッサの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−196442(P2008−196442A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34727(P2007−34727)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】