説明

配向多結晶材料及びその製造方法

【課題】単結晶粒子の集合体よりなる多結晶材料、特に各単結晶粒子が立方晶系の結晶構造を有する多結晶材料であって、各単結晶粒子の結晶方位が揃った配向多結晶材料を提供する。
【解決手段】この配向多結晶材料の製造方法は、希土類元素が添加された単結晶粒子を含む原料粉末を、溶液中に懸濁してなる懸濁液(スラリー1)を準備する準備工程と、磁場中でスリップキャスティングを行うことにより、懸濁液から成形体を得る成形工程と、成形体を焼成して、結晶方位が制御された多結晶構造を有する配向多結晶材料を得る焼成工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配向多結晶材料及びその製造方法に関する。本発明に係る配向多結晶材料は、例えば、レーザ装置、光計測や光通信用素子等に用いられる光学材料に好適に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
現在、固体レーザの主流は、発光中心としてNd(ネオジウム)やYb(イッテルビウム)をYAG単結晶体に添加してなるNd:YAGレーザやYb:YAGレーザである。YAGレーザにおけるレーザ媒質としてのYAG単結晶体は、一般にチョコラルスキー(CZ)法等の単結晶育成により製造される。しかし、単結晶育成には通常1ヶ月以上の長期間を要し、またレーザ媒質として利用できる出力特性の高い部位は単結晶インゴットのうちわずか一部にすぎない。このため、単結晶育成には生産性及び出力特性の点で問題がある。
【0003】
そこで、近年、多結晶構造のセラミックスレーザが注目されている。セラミックスレーザは、例えば、原料粉末を所定形状にプレス成形してから真空で焼成することにより製造される。このセラミックスレーザは、大型化が可能で、短期間かつ容易に製造することができ、また高い出力特性を期待できる(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
このセラミックスレーザにおけるレーザ媒質には、光学的に等方性の材料が用いられている。そして、光学的に等方性材料としては、結晶構造が立方晶系のYAG多結晶体が主に用いられている。この光学的等方性材料である立方晶系のYAG多結晶体は、全ての方向に対して同じ屈折率を示す。このため、YAG単結晶体と同様、レーザ媒質として有効に機能する。
【0005】
ところで、YAG単結晶体をレーザ媒質とする固体レーザにおいて、高出力でレーザ発振させようとすると、発熱によりセラミックスレーザ材料の中央が歪んで内部応力が発生し、光弾性効果により屈折率が部分的に変化して、光学的に異方性となる。この現象は、固体レーザにおける熱複屈折の問題として多くの検討がなされ、その対策として熱複屈折補償法なる手法が提案されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0006】
本発明者らの研究によれば、YAG多結晶体をレーザ媒質とするセラミックスレーザにおいても、YAG単結晶体をレーザ媒質とする固体レーザと同様、熱複屈折により光学的に異方性となることが判明している(非特許文献4参照)。
【0007】
一方、本発明者らの別の研究によれば、YAG単結晶体における熱複屈折は結晶方位に依存することが判明している(非特許文献5参照)。
【0008】
そして、本発明者は、これらを総合的に勘案した結果、YAG多結晶体をレーザ媒質とするセラミックスレーザにおいては、YAG単結晶体をレーザ媒質とする固体レーザと同様には、熱複屈折の問題を解決できないことを突き止めた。
【0009】
すなわち、YAG多結晶体は、それぞれが異なる結晶方位をもつ単結晶粒子が密に集合した構造となっている。換言すれば、YAG多結晶体における各結晶粒子の結晶方位の向きはランダムとなっている。そうすると、各結晶粒子の結晶方位に依存する熱複屈折も結晶粒子毎に異なるものとなり、もはや熱複屈折補償法によっては補償できない。
【特許文献1】特開平5−235462号公報
【非特許文献1】Annu. Rev. Mater. Res. 2006.36:397-429, “Progress in Ceramic Lasers”, Akio Ikesue, Yan Lin Aung, Takunori Taira, Tomosumi Kamimura, Kunio Yoshida, and Gary L. Messing
【非特許文献2】OPTICS LETTERS / Vol. 24, No. 12 / June 15, 1999, p.820-822, “Simple method for reducing the depolarization loss resulting from thermally induced birefringence in solid-state lasers”, W.A.Clarkson, N.S.Felgate, and D.C.Hanna
【非特許文献3】OPTICS LETTERS / Vol. 25, No. 2 / January 15, 2000, p.105-107, “High-brightness 138-W green laser based on an intracavity-frequency-doubled diode-side-pumped Q-switched Nd:YAG laser”, Susumu Konno, Tetsuo Kojima, Shuichi Fujikawa, and Koji Yasui
【非特許文献4】OPTICS LETTERS / Vol. 27, No. 4 / February 15, 2002, p.234-236, “Thermal-birefringence-induced depolarization in Nd:YAG ceramics”, Ichiro Shoji, Yoichi Sato, Sunao Kurimura, Voicu Lupei, and Takunori Taira
【非特許文献5】APPLIED PHYSICS LETTERS / VOLUME 80, NUMBER 17, 29 APRIL, 2002, p.3048-3050, “Intrinsic reduction of the depolarization loss in solid-state lasers by use of a (110)-cut Y3Al5O12crystal”, Ichiro Shoji and Takunori Taira
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、単結晶粒子の集合体よりなる多結晶材料、特に各単結晶粒子が立方晶系の結晶構造を有する多結晶材料であって、各単結晶粒子の結晶方位が揃った配向多結晶材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の配向多結晶材料は、希土類元素を含む複数の単結晶粒子を成形、焼成して得られた多結晶材料であって、各該単結晶粒子における結晶方位が揃った多結晶構造を有することを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の配向多結晶材料において、前記単結晶粒子は立方晶系の結晶構造を有することが好ましい。
【0013】
(3)本発明の配向多結晶材料において、前記単結晶粒子はガーネット系のものであることが好ましい。
【0014】
(4)本発明の配向多結晶材料において、前記単結晶粒子は、YAl12の化学式で示されるイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)よりなることが好ましい。
【0015】
(5)本発明の配向多結晶材料において、前記希土類元素は、ネオジウム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)及びセリウム(Ce)よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0016】
(6)本発明の配向多結晶材料は、好ましくは光学材料に用いられる。
【0017】
(7)本発明の配向多結晶材料の製造方法は、希土類元素が添加された単結晶粒子を含む原料粉末を、溶液中に懸濁してなる懸濁液を準備する準備工程と、磁場中でスリップキャスティングを行うことにより、前記懸濁液から成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼成して、結晶方位が制御された多結晶構造を有する配向多結晶材料を得る焼成工程と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
(8)本発明の配向多結晶材料の製造方法において、前記単結晶粒子は立方晶系の結晶構造を有することが好ましい。
【0019】
(9)本発明の配向多結晶材料の製造方法において、前記単結晶粒子はガーネット系のものであることが好ましい。
【0020】
(10)本発明の配向多結晶材料の製造方法において、前記単結晶粒子は、YAl12の化学式で示されるイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)よりなることが好ましい。
【0021】
(11)本発明の配向多結晶材料の製造方法において、前記希土類元素は、ネオジウム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)及びセリウム(Ce)よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0022】
(12)本発明の配向多結晶材料の製造方法により製造された配向多結晶材料は、好ましくは光学材料に用いられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、多結晶構造を有し、その多結晶構造を構成する各単結晶粒子における結晶方位が揃った配向多結晶材料を得ることができる。このため、この配向多結晶材料を例えば光学材料としてのレーザ媒質に利用すれば、例えばYAG単結晶体をレーザ媒質とする場合と同様に、光弾性効果による屈折率の変化を熱複屈折補償法により良好に補償することができる。したがって、大型化や低コスト化等に有利で、しかも簡易かつ短時間に製作が可能なセラミックスレーザにおいて、高出力でのレーザ発振が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の配向多結晶材料及びその製造方法の実施形態について詳しく説明する。なお、本発明の配向多結晶材料及びその製造方法は、説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0025】
本実施形態に係る配向多結晶材料は、希土類元素を含む複数の単結晶粒子を成形、焼成して得られた多結晶材料であって、結晶方位が制御された多結晶構造を有する。
【0026】
本実施形態に係る配向多結晶材料の多結晶構造を構成する各単結晶粒子に含まれる前記希土類元素の種類としては、光学的に等方性の単結晶粒子に添加されることで、その単結晶粒子において磁気異方性を誘起させるものであれば、特に限定されない。このような希土類元素として、例えばネオジウム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)やセリウム(Ce)を挙げることができる。これらの希土類元素のうちの一種が単独で各単結晶粒子に含まれていてもよいし、あるいは複数種類の希土類元素が各単結晶粒子に含まれていてもよい。またこれらの希土類元素の中でも、特にNd及びYbのうちの少なくとも一方が単結晶粒子に含まれていることが好ましい。Nd又はYbは、固体レーザにドープする代表的な元素であるため、まずはこれらの元素をドープした配向多結晶材料を検討する必要がある。
【0027】
本実施形態に係る配向多結晶材料の多結晶構造を構成する各単結晶粒子の種類としては、屈折率が方位により変化しない等方性材料であれば、特に限定されない。このような単結晶粒子のうち好ましいものとして、立方晶系の結晶構造を有するものを挙げることができる。
【0028】
立方晶系の結晶構造を有する単結晶粒子として好ましくは、ガーネット系のものや三二酸化物(sesquioxide)系のもの他、窒化物半導体材料よりなるものを挙げることができ、これらの中でもガーネット系のものが特に好ましい。
【0029】
なお、この立方晶系の結晶構造を有する単結晶粒子はいずれも光学的に等方性の材料となる。
【0030】
ガーネット系の単結晶粒子としては、例えば、YAl12の化学式で示されるイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)、YScGa(5−x)12(0<x≦2)の化学式で示されるイットリウム−スカンジウム−ガリウム−ガーネット(YSGG)、YScAl(5−x)12(0<x≦2)の化学式で示されるイットリウム−スカンジウム−アルミニウム−ガーネット(YSAG)、GdScGa(5−x)12(0<x≦2)の化学式で示されるガドリニウム−スカンジウム−ガリウム−ガーネット(GSGG)、GdGa12の化学式で示されるガドリニウム−ガリウム−ガーネット(GGG)やLuAl12の化学式で示されるルテチウム−アルミニウム−ガーネット(LuAG)を挙げることができる。これらの中でも、YAGが特に好ましい。
【0031】
三二酸化物系の単結晶粒子としては、例えば、Sc、Lu、Yを挙げることができる。
【0032】
窒化物半導体材料としては、例えば、GaNやAlNを挙げることができる。
【0033】
なお、本実施形態の配向多結晶材料の多結晶構造を構成する単結晶粒子は、複数種類の単結晶粒子よりなる混晶系であってもよい。
【0034】
本実施形態に係る配向多結晶材料は、好ましくは光学材料に用いられる。この光学材料としては、例えば、レーザ媒質、光学基板、窓、レンズ、プリズム、ビームスプリッタ、ファイバやスラブなどの導波路を挙げることができる。これらの光学材料のうちではレーザ媒質が特に好ましい。
【0035】
磁気異方性を示さない立方晶系の結晶構造を有する単結晶粒子においては、従来、磁場印加によっては結晶方位を配向させることができなかった。その点、本実施形態に係る配向多結晶材料では、単結晶粒子が所定の希土類元素を含有している。この希土類元素を含有する単結晶粒子においては、希土類元素イオンの添加により磁気異方性が誘起される。希土類元素の場合,4f軌道が5s5p電子軌道の内側にあり、外部場の影響を余り受けないので,軌道磁気モーメントもスピン磁気モーメントも,全体の磁気モーメントに貢献する。そのため、常磁性体の希土類元素が添加された単結晶粒子は磁気異方性を発現する。したがって、希土類元素を含有する単結晶粒子は、磁場印加による結晶配向が可能となる。
【0036】
よって、本実施形態に係る配向多結晶材料は、本実施形態に係る配向多結晶材料の製造方法により製造されることで、各単結晶粒子における結晶方位が揃った多結晶構造を有するものとなる。
【0037】
本実施形態に係る多結晶材料の製造方法は、準備工程と、成形工程と、焼成工程とを備えている。
【0038】
準備工程では、希土類元素が添加された単結晶粒子を含む原料粉末を、溶液中に懸濁してなる懸濁液を準備する。
【0039】
希土類元素が添加された単結晶粒子の準備方法は特に限定されず、例えば、予備混合や仮焼きによる固相反応、あるいは湿式合成法により、所定の酸化物粉末に希土類元素を均一分散させればよい。
【0040】
そして、例えば、希土類元素が添加された単結晶粒子としての酸化物粉末と、他の所定の酸化物粉末との混合粉末よりなる原料粉末を、水及び高分子系分散剤に添加することで、懸濁液を準備することができる。
【0041】
成形工程では、磁場中でスリップキャスティングを行うことにより、前記懸濁液から成形体を得る。
【0042】
このときのスリップキャスティングの方法は特に限定されず、例えば、石膏製等のモールドに前記懸濁液を注ぎ込み、重力方向に脱水して乾燥、成形すればよい。
【0043】
本実施形態の製造方法では、このスリップキャスティングを磁場中で行う。このときの磁場の強さは適宜設定可能であるが、2T(テスラー)以上とすることが好ましく、10T以上とすることがより好ましい。
【0044】
磁場の印加方法や手段は特に限定されず、スリップキャスティングにより形成しようとする成形体に対して任意の方向に磁場をかけることができる。これにより、各単結晶粒子における結晶方位が所定方向に揃った成形体を得ることができる。
【0045】
焼成工程では、前記成形体を焼成して、結晶方位が制御された多結晶構造を有する配向多結晶材料を得る。すなわち、こうして得られた配向多結晶材料では、多結晶構造を構成する各単結晶粒子における結晶方位が揃ったものとなる。
【0046】
なお、焼成工程においては、所定の磁場を印加した方が望ましいが、材料又はプロセスによっては焼成工程で磁場を印加しなくても、各単結晶粒子における結晶方位が所定方向に揃った多結晶構造を有する配向多結晶材料を得ることができる。
【0047】
焼成工程の条件は特に限定されず、例えば、温度:1600K以上融点以下、時間:数時間〜1日程度、雰囲気:真空中とすることができる。
【実施例】
【0048】
以下、一実施例により本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0049】
(YAG単結晶体における磁気異方性発現の検証)
代表的な希土類固体レーザ材料である、1at%Nd:YAG単結晶体及び10at%Yb:YAG単結晶体を作製した。各単結晶体のサイズは、4mm×4mm×4mmである。
【0050】
なお、1at%Nd:YAG単結晶体は、チョコラルスキー法により作製した。また、10at%Yb:YAG単結晶体も、チョコラルスキー法により作製した。
【0051】
そして、1at%Nd:YAG単結晶体及び10at%Yb:YAG単結晶体について、量子干渉型磁束計(SQUID、Quantum Design社製)により、<100>、<110>及び<111>方向の磁化率を測定した。その結果、立方晶系のYAG単結晶に磁気異方性が誘起されていることが実験的に明らかとなった。
【0052】
表1に、YAG単結晶体、1at%Nd:YAG単結晶体及び10at%Yb:YAG単結晶体の質量磁化率と磁気異方性(300K)を示す。なお、YAG単体体の磁化率は、Yb:YAG単結晶体の磁化率に対するYb3+濃度依存性の測定結果から不純物混入による誤差を除いて求めた。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より、YAG単結晶体に対して、1at%のNd3+イオンを添加した1at%Nd:YAG単結晶体では、YAG単結晶体における各軸の磁化率が常磁性側にシフトした。
【0055】
また、1at%のNd3+イオンの添加により、<100>を磁化容易軸とする約3×10−8の磁化率差が認められ、磁化率絶対値に対し約3%の磁気異方性が誘起できた。
【0056】
さらに,10at%Yb:YAG単結晶体については、3×10−7の磁気異方性が誘起されるとともに、磁化が反磁性から常磁性へと変化する現象が発現した。
【0057】
したがって、NdやYbを代表とする希土類添加による磁気異方性発現は立方晶系材料において普遍的効果であり、強磁場印加による多結晶体の配向制御が可能となることが明らかになった。
【0058】
(配向制御の検証)
<準備工程>
前述した方法と同様の方法により準備した1at%Nd:YAG単結晶体を乳鉢にて粉砕し,平均粒子径0.36μmの単結晶粒子とした。この単結晶粒子群0.4gに水0.7g及び高分子系分散剤(セルナ D−305)0.06gを添加することによりスラリー(懸濁液)を作製した。
【0059】
<成形工程>
そして、図1に示されるように、スラリー1を石膏製モールド2に注ぎ込み、超伝導磁石3により10Tの磁場を印加しつつ、スラリー1を重力方向に脱水して乾燥、成形した。
【0060】
この成形工程における磁場の印加方向は、脱水方向(重力方向)と平行とした。
【0061】
<焼成工程>
得られた成形体を、無磁場、1973Kの温度で、数時間焼成して焼結体を得た。
【0062】
こうして得られた円筒形状の配向多結晶材料の試料(サイズ:直径10mm、厚み1mm)について、X線回折装置(型番2035、RIGAKU社製)を用いてX線回折(XRD)をし、結晶方位を評価した。その結果を図2に示す。
【0063】
図2において、(a)の粉末と(b)の成形体とについて、結晶方位(400)及び(800)の相対強度を比較すると、いずれも(a)と(b)とでほとんど差が認められなかった。これに対し、(c)の焼結体では、結晶方位(400)及び(800)の相対強度は、いずれも(a)又は(b)に対して微かな上昇が認められた。
【0064】
これらの結果から、従来、磁場配向が出来ないと信じられていた立方晶系の単結晶粒子よりなる多結晶体においても、各単結晶粒子に希土類元素を添加することで磁気異方性を誘起することにより、磁場配向が可能となることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施例の配向多結晶材料の製造方法を模式的に説明する図である。
【図2】本実施例で得られた配向多結晶材料の試料について、X線回折をした結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1…スラリー(懸濁液) 2…石膏製モールド
3…超伝導磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含む複数の単結晶粒子を成形、焼成して得られた多結晶材料であって、各該単結晶粒子における結晶方位が揃った多結晶構造を有することを特徴とする配向多結晶材料。
【請求項2】
前記単結晶粒子は立方晶系の結晶構造を有することを特徴とする請求項1に記載の配向多結晶材料。
【請求項3】
前記単結晶粒子はガーネット系のものであることを特徴とする請求項2に記載の配向多結晶材料。
【請求項4】
前記単結晶粒子は、YAl12の化学式で示されるイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)よりなることを特徴とする請求項3に記載の配向多結晶材料。
【請求項5】
前記希土類元素は、ネオジウム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)及びセリウム(Ce)よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の配向多結晶材料。
【請求項6】
光学材料に用いられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の配向多結晶材料。
【請求項7】
希土類元素が添加された単結晶粒子を含む原料粉末を、溶液中に懸濁してなる懸濁液を準備する準備工程と、
磁場中でスリップキャスティングを行うことにより、前記懸濁液から成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成して、結晶方位が制御された多結晶構造を有する配向多結晶材料を得る焼成工程と、を備えていることを特徴とする配向多結晶材料の製造方法。
【請求項8】
前記単結晶粒子は立方晶系の結晶構造を有することを特徴とする請求項7に記載の配向多結晶材料の製造方法。
【請求項9】
前記単結晶粒子はガーネット系のものであることを特徴とする請求項8に記載の配向多結晶材料の製造方法。
【請求項10】
前記単結晶粒子は、YAl12の化学式で示されるイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)よりなることを特徴とする請求項9に記載の配向多結晶材料の製造方法。
【請求項11】
前記希土類元素は、ネオジウム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)及びセリウム(Ce)よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一つに記載の配向多結晶材料の製造方法。
【請求項12】
前記配向多結晶材料は光学材料に用いられることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一つに記載の配向多結晶材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−160760(P2009−160760A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340019(P2007−340019)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
【Fターム(参考)】