説明

配線用フィルム基板の製造方法、配線用フィルム基板、および配線用フィルム基板の製造装置

【課題】 高周波信号の伝送に好適で、高密度実装可能な、配線用フィルム基板を提供する。
【解決手段】 配線用フィルム基板を製造する配線用フィルム基板の製造方法であって、有機物樹脂からなる有機物フィルム1の表面に無電解めっき法で導体シード層3を形成する導体薄膜形成工程と、この有機物フィルム1と熱可塑性樹脂からなる液晶ポリマーフィルム4とを導体薄膜を挟んで熱圧着する熱圧着工程と、有機物フィルム1を導体シード層3から剥離する剥離工程と有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント基板などの配線用フィルム基板の製造方法等に係り、より詳しくは、例えば、高周波信号の伝送に好適で高密度の実装が可能な配線用フィルム基板の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に携帯用機器の普及など、電子回路を内蔵する機器の小型化が進むことに伴い、樹脂フィルムを基板とするフレキシブルプリント配線基板(配線用フィルム基板)が広く用いられるようになってきている。このような小型機器に用いられるフレキシブルプリント配線基板は、配置されるスペースも限られることから、曲げて用いられる場合も多く、その曲率も使用する機器によって定まっていない。また、可動部分に使用される場合もある。
【0003】
現在、フレキシブルプリント配線基板の基板材料としては、ポリイミドフィルムが広く用いられている。このポリイミドフィルムは、他の有機物や高分子系材料と比べて高い耐熱性(500℃まで)を有し、また、機械強度や耐化学薬品性の面でも高い性能を備えている。また、誘電率も低く(通常3.2〜3.4)、延性に富み、熱膨張係数にも優れていることから、フレキシブルプリント配線基板の基板材料として有利な点が多い。
【0004】
図5(a)〜(d)は、基板材料としてポリイミドを用い、サブトラクティブ法によって配線パターンを製造する製造方法を説明するための図である。ここでは、まず、図5(a)に示すように、ポリイミドのフィルム基板201に例えば9μmの厚さからなる銅箔202を張り合わせて、いわゆる銅張積層板を形成する。その後、図5(b)に示すように、この銅箔202が張り合わされたポリイミドのフィルム基板201にレジスト203でパターンニングする。そして、図5(c)に示すようにエッチングで配線パターン202Aを形成し、図5(d)に示すようにレジスト203を剥離して、ポリイミドのフィルム基板201上に配線パターン202Aを形成している。
【0005】
ここで、近年の情報化社会の進展に伴い、情報伝達や情報処理の高速化が進み、信号の高周波化が進んだ場合に、基板材料であるポリイミドフィルムは、誘電率が高いことから、高周波における伝送損失が大きくなることが問題となる。
また、上述したサブトラクティブ法によるフレキシブルプリント配線基板の形成では、ポリイミドのフィルム基板201に銅箔202を張り合わせた銅張積層板を用いることから、エッチングする銅箔の厚みが厚いために、配線のエッジをシャープに形成することができない。また、図5(d)に示すような銅膜表面側の配線幅L1と基板表面側(接合側)の配線幅L2において、これらの幅が大きく異なってしまい、微細配線を形成するのが難しいという問題もある。
【0006】
そこで、次世代のフレキシブルプリント配線基板の基板材料として液晶ポリマーフィルムを用い、セミアディティブ法によってフレキシブルプリント配線基板を形成する方法が検討されている。
図6(a)〜(e)は、基板材料として液晶ポリマーフィルムを用いセミアディティブ法によって配線パターンを製造する製造方法を説明するための図である。まず、図6(a)に示すように、液晶ポリマーフィルム101に薄い導体シード層102を形成する。その後、図6(b)に示すように、導体シード層102の上にレジスト103を形成する。次に、図6(c)に示すように、形成されたレジスト103を用いて電気めっき法で配線形成部にのみ銅膜104を厚付けしてパターンめっきを行う。その後、図6(d)に示すようにレジスト103を除去(剥離)する。そして最後に、図6(e)に示すように、エッチングにより、レジスト103が形成されていた非配線部分の導体シード層102を除去して配線パターンを形成する。
このようにして形成されたフレキシブルプリント配線基板では、液晶ポリマーフィルム101の誘電率が低いことから、高周波における伝送損失を小さくすることができる。また、図6(a)〜(e)に示すセミアディティブ法によれば、高密度配線(微細配線)が可能となる。
【0007】
しかして、このセミアディティブ法では、最後に導体シード層102をエッチングで除去しなければならないので、導体シード層102は薄いほどよい。しかしながら、銅箔は数μm厚程度が薄さの限界といわれているため、導体シード層102を銅箔で形成することは好ましくない。
また、この導体シード層102の形成方法として、スパッタリング法や無電解めっき法が考えられる。しかしながら、このスパッタリング法は、真空中で製膜しなければならないため製造プロセスが煩雑になり、製造コストが高くなることが問題となる。更に、無電解めっき法は、製造プロセスが簡易でありコストが安くなるという利点があるが、十分な密着強度で液晶ポリマーフィルム101にめっき膜を形成することは困難とされている。
【0008】
公報記載の従来技術として、液晶ポリマーフィルムに無電解めっき法で導体薄膜を形成する際、フィルム表面を粗化することで十分な密着強度を得ようとするものが存在する(例えば、特許文献1参照。)。また、液晶ポリマーフィルムに無電解めっき法で導体薄膜を形成するに際し、無電解めっき法で用いる触媒化処理溶液に工夫を施すことで密着強度を上げようとする技術が存在する(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
【特許文献1】特開2000−223804号公報
【特許文献2】特開2004−143587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この上記各特許文献に提案されている方法によれば、液晶ポリマーフィルムに無電解めっき法で導体薄膜を形成することが可能である。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、フィルム表面が粗化されていることで、伝送損失が大きくなってしまい、液晶ポリマーフィルムを用いた利点が低減してしまう。また、特許文献2に記載の技術では、プロセスが煩雑となり、処理時間が長くなるという問題があった。
【0011】
本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、高周波信号の伝送に好適で、高密度実装可能な、配線用フィルム基板を提供し、また、この配線用フィルム基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的のもと、本発明は、図6(a)に示す配線用フィルム基板を製造する製造方法について鋭意検討を加えてなされた提案である。即ち、本発明が適用される配線用フィルム基板の製造方法では、まず、最初の工程として、少なくとも有機物樹脂からなる第1のフィルム表面に無電解めっき法で導体薄膜を形成する。次の工程では、この第1のフィルムと熱可塑性樹脂からなる第2のフィルムとを導体薄膜を挟んで熱圧着する。この工程を経た後、第1のフィルムを第2のフィルムから剥離する。言い換えると、本発明は、配線用フィルム基板を製造する配線用フィルム基板の製造方法であって、有機物樹脂からなる第1のフィルムの表面に無電解めっき法で導体薄膜を形成する導体薄膜形成工程と、この第1のフィルムと熱可塑性樹脂からなる第2のフィルムとを導体薄膜を挟んで熱圧着する熱圧着工程と、第1のフィルムを導体薄膜から剥離する剥離工程とを含む。
【0013】
ここで、熱圧着時の温度は、この熱可塑性樹脂からなる第2のフィルムの融点近傍とする。この熱可塑性樹脂は融点以上に加熱されると粘度が大幅に低下し、それ自体が接着剤となり、硬化後に導体薄膜と強く接着する。第1のフィルムは熱圧着時に溶けてはいけない。それ故に、第1のフィルムは熱硬化性樹脂からなっているか、融点が熱圧着時の温度よりも高い熱可塑性樹脂からなっていなければならない。即ち、この熱圧着工程は、熱可塑性樹脂からなる第2のフィルムの融点近傍の温度で熱圧着を行うことを特徴とすることができる。また、この第1のフィルムは、熱硬化性樹脂からなることを特徴とすることができる。更に、この第1のフィルムは熱可塑性樹脂からなり、第1のフィルムの融点は熱圧着工程の熱圧着時の温度よりも高いことを特徴とすることができる。
【0014】
また、この第1のフィルムの導体薄膜を備える側の表面が滑らかすぎると導体薄膜を良好に形成することができず、表面が粗すぎると導体薄膜の第1のフィルムへの密着強度が大き過ぎるため、熱圧着後に第1のフィルムを良好に剥離することができない。表面粗さを十点平均高さRzで表して100nm以上2μm以下であることが好ましく、500nm以上1μm以下である場合が更に好ましい。
【0015】
一方、本発明が適用される配線用フィルム基板は、有機物樹脂からなる第1のフィルムの表面に無電解めっき法で形成され、その後、この第1のフィルムから剥離される導体薄膜と、第1のフィルムが剥離される前に導体薄膜を挟んで熱圧着され、この導体薄膜に接着される第2のフィルムとを有する。ここで、この第2のフィルムは液晶ポリマーフィルムであり、この導体薄膜は、Cu、Cu合金、Ni、およびNi合金のうち、少なくとも1つを含む金属薄膜であることを特徴とすることができる。
また、この導体薄膜は、薄すぎると電気めっきによる導体膜の積層が良好に行えず、厚すぎると配線形成時のエッチングプロセスに時間がかかり過ぎてしまう。そこで、この導体薄膜の厚みは30nm〜800nmの間(30nm以上800nm以下)が好ましく、100nm〜300nm(100nm以上300nm以下)が更に好ましい。
更に、この導体薄膜は、無電解めっき法により第1のフィルムに形成されるので、導体薄膜と第1のフィルムの界面ではPd、Pt、Au、およびAgのうち少なくとも一つを含む金属原子が検出されるが、この導体薄膜と第2のフィルムは熱圧着により接着されるので界面に金属触媒が実質的に検出されることはない。
【0016】
更に他の観点から捉えると、本発明が適用される配線用フィルム基板は、有機物樹脂フィルムと、この有機物樹脂フィルムの表面に無電解めっき法で形成される導体薄膜と、この導体薄膜を挟んで有機物樹脂フィルムと熱圧着され、この導体薄膜に接着される液晶ポリマーフィルムとを有し、その後、有機物樹脂フィルムを剥がして用いられる。
ここで、この有機物樹脂フィルムと導体薄膜との間には、無電解めっきの触媒核となる金属原子が含まれることを特徴とすることができる。また、この液晶ポリマーフィルムと導体薄膜との間には、無電解めっきの触媒核となる金属原子が含まれていないことを特徴とすることができる。
【0017】
また、本発明は、配線用フィルム基板を製造する配線用フィルム基板の製造装置であって、表面に無電解めっき法で導体薄膜が形成された有機物樹脂からなる第1のフィルムを担持して供給する第1の供給手段と、この第1のフィルムの導体薄膜と重ね合わされる熱可塑性樹脂からなる第2のフィルムを担持して供給する第2の供給手段と、この第1の供給手段から供給される第1のフィルムと、第2の供給手段から供給される第2のフィルムとを導体薄膜を挟んで熱圧着する熱圧着手段と、この熱圧着手段により熱圧着されたフィルム部材から第1のフィルムを剥離する剥離手段とを備えたことを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高周波信号の伝送に好適で、高密度実装可能な、配線用フィルム基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本実施の形態は、図6(a)に示すような配線用フィルム基板そのものを提供する技術に関するものである。
図1(a)〜(c)は、本実施の形態が適用される配線用フィルム基板の製造方法を説明するための図である。まず、図1(a)に示すように、熱硬化性樹脂または融点が高い熱可塑性樹脂からなる有機物フィルム1(第1のフィルム)に、Pd触媒2を用いて無電解めっき法で、例えば、厚さ200nm程度の導体シード層3(導体薄膜)を形成する。Pd触媒2の代わりに、Pt、Au、Agなどの触媒を用いることが可能である。次に、形成された導体シード層3に熱可塑性樹脂である液晶ポリマーフィルム4(第2のフィルム)を重ね、図1(b)に示すように、熱圧着により液晶ポリマーフィルム4を導体シード層3に接着させる。この熱圧着の温度は、液晶ポリマーフィルム4の融点よりも高い。この液晶ポリマーフィルム4の融点よりも高く熱せられ、さらに圧力をかけられることで、液晶ポリマーフィルム4は導体シード層3に十分に接着する。
【0020】
ここで、有機物フィルム1は、前述のように、熱硬化性樹脂か、または融点が熱圧着時の温度よりも高い熱可塑性樹脂からなっている。そのために、有機物フィルム1は、熱圧着により溶融することはなく、導体シード層3との密着力は強くない。例えば、セロハンテープを有機物フィルム1に貼り、セロハンテープを剥がすと、セロハンテープに有機物フィルム1が貼り付いた状態で有機物フィルム1と導体シード層3とが剥離する程度である。図1(c)では、図1(b)により熱圧着された基板から有機物フィルム1を剥がし、液晶ポリマーフィルム4と導体シード層3とを有する配線用フィルム基板を生成している。
【0021】
このような製造方法によって形成される結果物としての配線用フィルム基板(図6(a)参照)は、図1(c)に示すように、有機物フィルム1が剥がされた状態で取引対象となる。また、図1(b)に示す有機物フィルム1が貼り付いている状態で取引対象とされる場合も考えられる。かかる場合には、図6(a)〜(e)に示すような配線パターンを形成する直前に有機物フィルム1を剥がし、配線用フィルム基板を図6(a)に示す状態にすることが好ましい。配線パターンを形成する際に有機物フィルム1を剥がすことで、導体シード層3の表面にゴミ等が付着することを防止でき、付着物の洗浄工程などが不要となるという利点もある。
【0022】
図2は、図1(b)に示す熱圧着工程と図1(c)に示す剥離工程とを実行する熱圧着装置20を示した構成図である。図2に示す熱圧着装置20は、導体シード層3がめっき形成された有機物フィルム1を供給する有機物フィルム供給ローラ21(第1の供給手段)と液晶ポリマーフィルム1を供給する液晶ポリマーフィルム供給ローラ22(第2の供給手段)とを備えている。また、供給される有機物フィルム1の導体シード層3と液晶ポリマーフィルム4とを熱圧着するための一対の加熱加圧ローラ23(熱圧着手段)を有している。この加熱加圧ローラ23の内部には、加熱ヒータ24が設けられている。更に、熱圧着後の配線用フィルム基板を下流側に搬送する一対の出口ローラ25を有している。この出口ローラ25を通過した後、加熱溶融と加圧によって導体シード層3に溶融後に冷却されて導体シード層3に密着した液晶ポリマーフィルム4と、導体シード層3に付着していた有機物フィルム1とが剥離される。剥離された有機物フィルム1は、有機物フィルム回収ローラ26によって回収される。一方、導体シード層3を有する液晶ポリマーフィルム4は、回収ローラ27によって回収され、配線用フィルム基板の製品として提供される。この出口ローラ25、有機物フィルム回収ローラ26、および回収ローラ27は、剥離手段として機能する。
【0023】
図3は、図2に示すような剥離工程を行わずに、導体シード層3に有機物フィルム1が付着した状態で回収ローラによって回収される熱圧着装置30の構成を示している。図3に示す熱圧着装置30では、図2に示す有機物フィルム回収ローラ26と回収ローラ27とを設ける代わりに、回収ローラ31が設けられている。この回収ローラ31によって回収されたフィルムは、そのまま取引対象となり、次工程の配線パターンを形成する際に、不要となる有機物フィルム1が剥がされて使用される。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本実施の形態を具体的に説明する。但し、本実施例は、その要旨を超えない限り、本実施の形態を限定するものではない。
〔実施例1〕
図4は、実施例1における製造方法の工程を説明するための図である。まず、ポリイミドフィルム(宇部興産(株)製:ユーピレックス−25S)を準備し(ステップ101)、このポリイミドフィルム表面に、次のステップ102〜ステップ107の工程(無電解めっき法)により銅めっき膜を付着させた。
まず、ポリイミドフィルム表面の粗さは、十点平均高さRzで表して約1μmであった。最初に、大気プラズマ照射でフィルム表面を化学的に活性化させた(ステップ102)。次に、シランカップリング剤(信越シリコーン社製:KBM903)に3分間浸漬した後に水洗いした(ステップ103)。次にPd触媒付与剤(奥野製薬工業社製:OPC−80キャタリストM)に3分間浸漬した後に水洗いした(ステップ104)。その後、塩酸に3分間浸漬した後に水洗いした(ステップ105)。最後に、32℃の無電解銅(Cu)めっき液(奥野製薬工業社製:ATSアドカッパ−IW)に10分間浸漬した後に水洗いし、100℃大気中で30分間乾燥させた(ステップ106)。このようにして、めっき膜を付着したポリイミドフィルムを形成した(ステップ107)。このポリイミドフィルム上に形成されためっき膜の厚みは、SEM(Scanning Electron Microscope)観察結果で約200nmであった。セロハンテープでテープ剥離試験をしたところ、めっき膜はテープに付着してフィルムから剥離した。
【0025】
次に、図2に示すような熱圧着装置20で、めっき膜が表面に形成されたポリイミドフィルムと液晶ポリマーフィルム(クラレ社製:ベクスターOC)とを、めっき膜を挟む形で合わせ(ステップ108)、熱圧着した(ステップ109)。熱圧着時の温度は300℃、圧力は40N/cmとした。その後、ポリイミドフィルムを剥離した(ステップ110)。ここでポリイミドフィルムを剥がしたところ、めっき膜はポリイミドフィルムから剥がれて液晶ポリマーフィルムの方へ接着し、めっき膜と液晶ポリマーフィルムの界面でPd触媒は検出されなかった(ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)による分析)。以上のようにして、液晶ポリマーフィルム(クラレ社製:ベクスターOC)に銅(Cu)膜を備えためっき膜付着液晶ポリマーフィルムを製造した(ステップ111)。
【0026】
〔実施例2〕
ステップ106に示す無電解めっき液として、Ni−B系めっき液(奥野製薬工業社製:トップケミアロイB−1)を用いた点以外は、実施例1と同様な操作を行い、液晶ポリマーフィルム上にNi−B薄膜を備えためっき膜付着液晶ポリマーフィルムを形成した。めっき膜の厚みは約200nmであった(SEM観察結果)。めっき膜と液晶ポリマーフィルムの界面でPd触媒は検出されなかった(ESCAによる分析)。
【0027】
〔比較例1〕
第1のフィルムに該当するポリイミドフィルムを用いずに、液晶ポリマーフィルムに実施例1に記載した通りの無電解めっき法の手順で銅膜を備えた。めっき膜の厚みは約200nmであった(SEM観察結果)。ESCAによる分析でめっき膜と液晶ポリマーフィルムの界面にPdが存在することを確認した。
【0028】
〔比較例2〕
表面粗さRzが5μmであるポリイミドフィルムに、実施例1と同様の操作で銅膜を形成した。図2に示すような熱圧着装置20でポリイミドフィルムと液晶ポリマーフィルムとを銅膜を挟む形で熱圧着した。その後、ポリイミドフィルムを剥がしたところ、銅膜がポリイミドフィルムに部分的に残余し、ポリイミドフィルムと銅膜の剥離を良好に行うことができなかった。
【0029】
〔比較例3〕
ポリイミドフィルムの表面粗さRzが30nmであること以外は実施例1と同様にし、ポリイミドフィルム表面に銅膜形成を試みた。しかしながら、膜はがれが生じて良好な銅膜を形成することができなかった。
【0030】
〔比較例4〕
液晶ポリマーフィルムに10μm厚の銅箔を熱圧着装置で熱圧着した(銅張積層板)。
〔比較例5〕
無電解めっき法で形成しためっき膜の厚みが5nmであること以外は実施例1と同様である。
〔比較例6〕
無電解めっき法で形成しためっき膜の厚みが3μmであること以外は実施例1と同様である。
【0031】
表1に、実施例で得られた試料について行った評価の結果をまとめた。
【表1】

【0032】
比較例2では、ポリイミドフィルムの表面が荒すぎ(Rzで5μm)、ポリイミドフィルムと銅膜の剥離が良好に行えなかったために、めっき膜である導体シード層を液晶ポリマーフィルムに形成することができなかった。比較例3では、ポリイミドフィルムの表面が滑らか過ぎる(Rzで30nm)ために銅膜の形成を良好に行えなかった。以上による考察として、ポリイミドフィルムの導体薄膜を備える側の表面が滑らか過ぎず良好にめっき膜を形成する程度として、Rzで100nm以上が好ましく、更に好ましくはRzで500nm以上である。また、銅膜の剥離を良好に行うものとして、ポリイミドフィルムの導体薄膜を備える側の表面が荒れ過ぎていないことが必要であり、Rzで2μm以下程度が好ましく、実施例1の程度である1μm以下が更に好ましい。
【0033】
また、比較例5では、導体シード層が5nmと薄すぎたために、電気めっき法により導体膜を良好に積層することができなかった。実施例1、2、比較例1、6では、めっき膜を形成することができた。従って、この導体シード層の厚みとしては30nm以上程度が好ましく、更に好ましくは、実施例1、2を考慮すると100nm以上程度である。
一方、この実施例1、2、比較例1、6について、電気めっき法により銅膜を10μm積層した後に、セミアディティブ法により幅/高さが20μm/10μmの配線を形成した。プロセスの最後に行う導体シード層のエッチングにかかる時間は、比較例6ではシード層が3μmと厚いために長くなった。従って、厚すぎると配線形成時のエッチングプロセスに時間がかかり過ぎる点を考慮すると、導体シード層の厚みは800nm以下が好ましく、実施例1、2を考慮すると300nm以下が更に好ましい。
【0034】
また、この実施例1、2、比較例1、6で得られた配線用フィルム基板に電気めっき法で更に10μmの銅膜を積層した試料と、比較例4で得られた試料について、90度ピール試験で導体膜と液晶ポリマーフィルムとの密着強度を測定した。その結果、実施例1、2、比較例6の試料は、導体膜の密度強度が650N/mと良好であり、比較例4の銅張積層板による試料の密着強度(670N/m)と同程度の密着強度を有していることがわかった。一方、比較例1の試料の密着強度は10N/m程度と非常に低い値となった。
【0035】
更に、実施例1、2、比較例1、6で得られた試料にセミアディティブ法で幅/高さが20μm/10μmの銅配線を作成した。また、比較例4で得られた試料にサブトラクティブ法で幅/高さが20μm/10μmの配線を作成した。これらの試料について、図5(d)にて説明したようなL1とL2と同様の寸法関係を把握した。即ち、導体膜表面側の配線幅L1を液晶ポリマーフィルム表面側(接合側)の配線幅L2で除した値である、比L1/L2を算出した。この結果、実施例1、2では、比L1/L2が0.98、0.97と大きく、微細配線を形成するのに好ましい配線用フィルム基板を得ることが可能であることが明らかとなった。比較例1および比較例6では、比L1/L2が0.82、0.95という値が得られたが、比較例4の試料では、L1/L2が0.51と、他の試料よりも小さく、微細加工には不適当であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)〜(c)は、本実施の形態が適用される配線用フィルム基板の製造方法を説明するための図である。
【図2】図1(b)に示す熱圧着工程と図1(c)に示す剥離工程とを実行する熱圧着装置を示した構成図である。
【図3】図2に示すような剥離工程を行わずに、導体シード層に有機物フィルムが付着した状態で回収ローラによって回収される熱圧着装置の構成を示した図である。
【図4】実施例1における製造方法の工程を説明するための図である。
【図5】(a)〜(d)は、基板材料としてポリイミドを用い、サブトラクティブ法によって配線パターンを製造する従来の製造方法を説明するための図である。
【図6】(a)〜(e)は、基板材料として液晶ポリマーフィルムを用いセミアディティブ法によって配線パターンを製造する製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0037】
1…有機物フィルム、2…Pd触媒、3…導体シード層、4…液晶ポリマーフィルム、20…熱圧着装置、30…熱圧着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線用フィルム基板を製造する方法であって、
有機物樹脂からなる第1のフィルムの表面に無電解めっき法で導体薄膜を形成する導体薄膜形成工程と、
前記第1のフィルムと熱可塑性樹脂からなる第2のフィルムとを前記導体薄膜を挟んで熱圧着する熱圧着工程と
を含む配線用フィルム基板の製造方法。
【請求項2】
前記第1のフィルムを前記導体薄膜から剥離する剥離工程を更に含む請求項1記載の配線用フィルム基板の製造方法。
【請求項3】
前記熱圧着工程は、熱可塑性樹脂からなる前記第2のフィルムの融点近傍の温度で熱圧着を行うことを特徴とする請求項1または2記載の配線用フィルム基板の製造方法。
【請求項4】
有機物樹脂からなる前記第1のフィルムは、熱硬化性樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の配線用フィルム基板の製造方法。
【請求項5】
有機物樹脂からなる前記第1のフィルムは熱可塑性樹脂からなり、当該第1のフィルムの融点は前記熱圧着工程の熱圧着時の温度よりも高いことを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の配線用フィルム基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1のフィルムの前記導体薄膜が形成される側の表面粗さは、十点平均高さRzで100nm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5何れか1項記載の配線用フィルム基板の製造方法。
【請求項7】
有機物樹脂からなる第1のフィルムの表面に無電解めっき法で形成され、その後、当該第1のフィルムから剥離される導体薄膜と、
前記第1のフィルムが剥離される前に前記導体薄膜を挟んで熱圧着され、当該導体薄膜に接着される第2のフィルムと
を有する配線用フィルム基板。
【請求項8】
前記第2のフィルムは液晶ポリマーフィルムであることを特徴とする請求項7記載の配線用フィルム基板。
【請求項9】
前記導体薄膜は、Cu、Cu合金、Ni、およびNi合金のうち、少なくとも1つを含む金属薄膜であることを特徴とする請求項7または8記載の配線用フィルム基板。
【請求項10】
前記導体薄膜は、厚みが30nm以上800nm以下であることを特徴とする請求項7乃至9何れか1項記載の配線用フィルム基板。
【請求項11】
有機物樹脂フィルムと、
前記有機物樹脂フィルムの表面に無電解めっき法で形成される導体薄膜と、
前記導体薄膜を挟んで前記有機物樹脂フィルムと熱圧着され、当該導体薄膜に接着される液晶ポリマーフィルムと
を有し、その後、前記有機物樹脂フィルムを剥がして用いられる配線用フィルム基板。
【請求項12】
前記有機物樹脂フィルムと前記導体薄膜との間には、無電解めっきの触媒核となる金属原子が含まれることを特徴とする請求項11記載の配線用フィルム基板。
【請求項13】
前記液晶ポリマーフィルムと前記導体薄膜との間には、無電解めっきの触媒核となる金属原子が含まれていないことを特徴とする請求項11または12記載の配線用フィルム基板。
【請求項14】
配線用フィルム基板を製造する製造装置であって、
表面に無電解めっき法で導体薄膜が形成された有機物樹脂からなる第1のフィルムを担持して供給する第1の供給手段と、
前記第1のフィルムの前記導体薄膜と重ね合わされる熱可塑性樹脂からなる第2のフィルムを担持して供給する第2の供給手段と、
前記第1の供給手段から供給される前記第1のフィルムと、前記第2の供給手段から供給される前記第2のフィルムとを前記導体薄膜を挟んで熱圧着する熱圧着手段と、
前記熱圧着手段により熱圧着されたフィルム部材から前記第1のフィルムを剥離する剥離手段と
を備えた配線用フィルム基板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−237323(P2006−237323A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50591(P2005−50591)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】