説明

酸化チタン粒子およびその製造方法、製造装置ならびにこの酸化チタンを用いた処理方法

光触媒として高い光触媒活性が期待できる比表面積が大きく、結晶性が高くて内部欠陥が少ない酸化チタン粒子を得る。また、高温に加熱されてもルチル型結晶構造に転位しずらく、焼結が進行しにくい酸化チタン粒子を得る。光触媒となる酸化チタン粒子として、その形状が箱型形状の多面体のものを用いる。この酸化チタン粒子をなす多面体は、1以上の酸化チタンの単結晶多面体から構成されている。また、この単結晶多面体の扁平率を、0.33〜3.0とするとさらに結晶性が高くなる。さらに、多面体が6面体ないし10面体であることが好ましい。また、ルチル転位率R(700−24)が7.5%以下で、ルチル転位率R(500−24)が2.0%以下とする。石英ガラス製の合成管内に四塩化チタン蒸気と酸素を供給し、合成管の外部から酸水素炎バーナで加熱し、熱酸化してかかる形状の酸化チタン粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
この発明は、光触媒等に用いられる酸化チタン粒子とその製造方法、製造装置ならびに処理方法に関し、酸化チタン粒子を新規な形状の粒子とすることで、光触媒としたときの光触媒活性を大きく高めたものである。
酸化チタン粒子からなる光触媒は周知である。酸化チタン粒子の光触媒反応は、酸化チタン粒子の表面で起こる化学反応であり、分解対象化学物質が酸化チタン粒子の表面に吸着することからその反応が始まる。このため、酸化チタン粒子の粒径が小さいほど高い光触媒活性を示す。
日本特開平11−267519号公報、日本特開平08−164334号公報、日本特開平07−303835号公報に開示の先行発明では、このため、酸化チタン粒子の粒径を数nmオーダーにまで微細化した酸化チタン粒子が望ましいとしている。しかし、このような数nmオーダーの微粒子の酸化チタン粒子では、スラリーとしたときに分散性に問題が生じることがある。
また、光触媒用として市販されている酸化チタン粒子は、いずれもその粒子形状が球形であり、単位重量当たりの比表面積が小さく、反応性が十分とは言えない問題がある。
ところで、酸化チタンの光触媒作用は、酸化チタン粒子に光が照射されることにより、酸化チタンを構成している電子が励起され、電子(e)またはホール(h)が生じ、これによって酸化力または還元力が生じることで発現される。
しかし、励起された電子またはホールの一部が、酸化チタン内部の欠陥を再結合中心として再結合して、光触媒活性が低下することが知られている。
このため、内部欠陥の少ない酸化チタン粒子が望ましいことになり、日本特開2001−276615号公報に開示の先行発明では、高い触媒活性を示す大粒径のアナターゼ単結晶が提案されている。
しかし、従来の製法では、結晶性が高く、かつ粒径が小さい酸化チタン粒子を得ることは不可能であり、内部欠陥が少ない結晶性の高い粒子を得るには、粒径を大きくし、比表面積を犠牲にするしか方法がなかった。そのため、上記日本特開2001−276615号公報に開示された酸化チタン粒子は、分解対象化学物質の吸着量が少なく、光触媒として不利であった。
また、日本特開平10−081517号公報、日本特開平10−095617号公報には、顔料、遮蔽材などの用途として、球形粒子以外に針状、樹枝状、ヒトデ状、板状などの形状の酸化チタン粒子が提案されている。しかし、これらの形状の酸化チタン粒子では、酸化チタン本来の結晶形状からかけ離れたものとなっており、結晶性が大きく低下し、アモルファスに近い構造となつており、必然的に内部欠陥が多くなる問題がある。
したがって、単位重量当たりの比表面積が大きく、結晶性が高くて内部欠陥が少なく、光触媒として好適な酸化チタン粒子は未だ知られていない。
また、酸化チタン粒子の製造方法としては、日本特開平05−163022号公報に示される液相合成法や日本特開2001−276615号公報に示される気相合成法が知られている。しかしながら、これらの製造方法では、上述の単位重量当たりの比表面積が大きく、結晶性が高くて内部欠陥の少なく、光触媒として好適な酸化チタン粒子を合成することは不可能である。
また、酸化チタン粒子を光触媒として実際に機能させるには、基材に酸化チタン粒子を担持させて、分解対象物と効率よく接触させる必要がある。この酸化チタン粒子の基材への担持方法としては、日本特開平07−002522号公報に示されるように、無機材料からなる基材に直接焼き付ける方法がある。この方法は、低融点ガラスなどを結合材として用い、この結合材が軟化、溶融するまでの温度、通常700℃程度まで加熱して焼き付けるものである。
また、日本特許第3279755号公報に示されるように、合成樹脂などの有機系結合材を用いて基材に固定する方法がある。この方法では、有機系結合材として酸化チタンで分解されにくく、かつ500℃程度で数時間以内の加熱で固化する合成樹脂を選択使用する必要がある。
しかしながら、これらの担持方法では、いずれにしても500℃ないし700℃程度の温度に加熱することから、酸化チタンの結晶構造が変化してしまう。
光触媒として利用されている酸化チタンは、アナターゼ型結晶構造を有するものであり、このアナターゼ型酸化チタンは、光触媒活性が他の結晶構造であるルチル型、ブルカイト型のものよりも優れているためである。
ところが、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子を担持する際に、上述のように500〜700℃程度で加熱すると、結晶構造がルチル型に転位し、光触媒活性が低下することが一般に知られている。
また、この加熱の際に、酸化チタン粒子相互が焼結し、その表面積が減少し、これによっても光触媒活性が低下することにもなる。
よって、本発明における課題は、光触媒として高い光触媒活性が期待できるような比表面積が大きく、結晶性が高くて内部欠陥が少ない酸化チタン粒子およびその製造方法と製造装置を得ることにある。また、高温に加熱されてもルチル型結晶構造に転位することが少なく、また加熱されても焼結が進行しにくい酸化チタン粒子を得ることにもある。さらには、かかる酸化チタン粒子を使用した処理効果の高い有害物質の分解方法などの利用方法をも得ることにある。
【発明の開示】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、粒径1nm〜500nmで、1以上の単結晶多面体から構成されている箱型形状の多面体である酸化チタン粒子である。
請求項2にかかる発明は、単結晶多面体の扁平率が、0.33〜3.0である請求項1記載の酸化チタン粒子である。
請求項3にかかる発明は、多面体が、6面体ないし10面体にいずれかである請求項1記載の酸化チタン粒子である。
請求項4にかかる発明は、ルチル転位率R(700−24)が7.5%以下で、ルチル転位率R(500−24)が2.0%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の酸化チタン粒子である。
請求項5にかかる発明は、粒径が100〜500nmである請求項1ないし4のいずれかに記載の酸化チタン粒子である。
請求項6にかかる発明は、比表面積が3〜40m/gであって、内径15mmの密閉容器に5体積%酢酸水溶液5ミリリットルと酸化チタン粒子50mgを入れ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量が、y=0.8x(xは比表面積;m/gで、yは二酸化炭素発生量;μmol/hrである。)で表されるラインの上方の領域に位置するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の酸化チタン粒子である。
請求項7にかかる発明は、ケイ素がドープされ、比表面積が3〜40m/gであって、内径15mmの密閉容器に5体積%酢酸水溶液5ミリリットルと酸化チタン粒子50mgを入れ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量が、y=0.8x(xは比表面積;m/gで、yは二酸化炭素発生量;μmol/hrである。)で表されるラインの上方の領域に位置するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の酸化チタン粒子である。
請求項8にかかる発明は、請求項1ないし7にいずれかに記載の酸化チタン粒子を多数集合した酸化チタン粉末であって、この粉末をなす酸化チタン粒子の80%以上がアナターゼ型結晶で占められる酸化チタン粉末である。
請求項9にかかる発明は、90%以上がアナターゼ型結晶で占められる請求項8記載の酸化チタン粉末である。
請求項10にかかる発明は、合成管内にチタン化合物蒸気と酸素を供給し、合成管外部から加熱することを特徴とする酸化チタン粒子の製造方法である。
請求項11にかかる発明は、加熱源として酸水素炎バーナを用いることを特徴とする請求項10記載の酸化チタン粒子の製造方法である。
請求項12にかかる発明は、合成管を回転させることを特徴とする請求項10または11記載の酸化チタン粒子の製造方法である。
請求項13にかかる発明は、合成管内部に、チタン化合物蒸気と酸素との混合ガスを合成管内壁側に誘導する柱状部材を設けて外部から加熱することを特徴とする請求項10記載の酸化チタン粒子の製造方法である。
請求項14にかかる発明は、合成管と柱状部材との間隔を0.1〜10mmとすることを特徴とする請求項13記載の酸化チタン粒子の製造方法である。
請求項15にかかる発明は、生成した酸化チタン粒子の回収方法が、サーモフォレシス効果を利用し、合成管の下流部分に酸化チタン粒子を堆積させて回収するものであることを特徴とする請求項10ないし14のいずれかに記載の酸化チタン粒子の製造方法である。
請求項16にかかる発明は、生成した酸化チタン粒子の回収方法が、合成管の下流側に設けられたバグフィルタを用いるものであることを特徴とする請求項10ないし14のいずれかに記載の酸化チタン粒子の製造方法である。
請求項17にかかる発明は、合成管と、この合成管をその外部から加熱する加熱源と、合成管をその軸周りに回転させる回転駆動部と、合成管内にチタン化合物蒸気と酸素を供給する原料供給部を備えた酸化チタン粒子の製造装置である。
請求項18にかかる発明は、合成管内で生成した酸化チタン粒子を回収するバグフィルターを備えた請求項17に記載の酸化チタン粒子の製造装置である。
請求項19にかかる発明は、合成管内部に、チタン化合物蒸気と酸素の混合ガスを合成管内壁側に誘導する柱状部材を設けた請求項17または18記載の酸化チタン粒子の製造装置である。
請求項20にかかる発明は、請求項1ないし7ののいずれかに記載の酸化チタン粒子からなる光触媒である。
請求項21にかかる発明は、請求項8または9記載の酸化チタン粉末からなる光触媒である。
請求項22にかかる発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の酸化チタン粒子を含む塗料である。
請求項23にかかる発明は、請求項8または9記載の酸化チタン粉末を含む塗料である。
請求項24にかかる発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の酸化チタン粒子を表面に担持した光触媒反応体と、この光触媒反応体に光を照射する光源を備えた光触媒装置である。
請求項25にかかる発明は、請求項8または9記載の酸化チタン粉末を用いる有害物質の分解方法である。
請求項26にかかる発明は、被処理対象物と酸化チタン粒子を接触させて分解を行った後、酸化チタン粒子をフィルターによって分離する請求項25記載の有害物質の分解方法である。
請求項27にかかる発明は、フィルターがガラス繊維製で、目開きが2.0μm以上である請求項26記載の有害物質の分解方法である。
請求項28にかかる発明は、請求項20または21記載の光触媒を用いる脱臭方法である。
請求項29にかかる発明は、請求項20または21記載の光触媒を用いる殺菌方法である。
請求項30にかかる発明は、請求項20または21記載の光触媒を用いる有害物質の分解方法である。
本発明の酸化チタン粒子は、箱型形状の多面体からなるものであるので、結晶性が高く、内部欠陥および表面欠陥が少なく、また単位重量当たりの比表面積が大きいものとなる。特に、結晶多面体の扁平率が0.33〜3.0の範囲であるものは比表面積がさらに大きなものとなり、かつ結晶性も高く好ましい。また、加熱されても、高活性のアナターゼ型結晶構造から低活性のルチル型結晶構造に転位することが少なく、焼結も進行しにくいものとなる。
このため、この酸化チタン粒子からなる光触媒は、励起された電子、ホールの再結合の割合が減少し、また分解対象物質の吸着面積が大きくなるため、極めて高い光触媒活性を有するものとなる。また、酸化チタン粒子を基材に担持する際に受ける加熱処理によって光触媒活性が低下することもない。
また、本発明の酸化チタン粒子の製造方法および製造装置は、上述の箱型形状の多面体からなる酸化チタン粒子を効率よく製造することができる。
さらに、本発明の光触媒、塗料、光触媒装置は、上記の酸化チタン粉末を利用したものであるので、有害物質の分解効率が高いものとなる。また、脱臭効果、殺菌効果も高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の箱型形状の多面体の酸化チタン粒子の例を模式的に示す概略斜視図である。
図2は、本発明の酸化チタン粒子を構成する結晶多面体の例を模式的に示す概略斜視図である。
図3は、本発明の酸化チタン粒子における表面積と酢酸分解量との関係を示す図表である。
図4は、本発明の酸化チタン粒子の製造装置の一例を示す概略構成図である。
図5は、本発明の酸化チタン粒子の製造装置の他の例を示す概略構成図である。
図6は、本発明の酸化チタン粒子の製造装置の他の例の要部を示す概略構成図である。
図7は、本発明の有害物質の分解方法に用いられる装置の一例を示す概略構成図である。
図8は、実施例1で得られた酸化チタン粒子の形状を示す電子顕微鏡写真である。
図9は、実施例2での結果を示す図表である。
図10は、比較例3での加熱後の酸化チタン粒子の電子顕微鏡写真である。
図11は、実施例5での結果を示す図表である。
発明を実施するために最良の形態
(酸化チタン粒子)
以下、本発明の酸化チタン粒子を詳しく説明する。
図1は、この発明の酸化チタン粒子の一例を示す模式図である。この例の酸化チタン粒子1は、箱型形状であって、かつ10面体のものである。
本発明での「箱型形状の多面体」とは、正方晶系である酸化チタンの結晶面が粒子の外形に反映されていることが推定できる多面体を指す。
また、この箱型形状の多面体の酸化チタン粒子は、1個または多数個の酸化チタンの単結晶の多面体(単結晶多面体)が集合して構成され、単結晶多面体の集合数により6面体からこれ以上の多面体と形状が変化する。本発明では、これらのものも全て本発明の箱型形状の多面体に包含される。また、単結晶多面体であっても、例えば10面体などの6面体以上の多面体も存在し、これらも本発明の多面体に含まれる。
これらの多面体のなかでも、図1に示すように、10面体が最も好ましい。
また、箱型形状の多面体として6面体を例とした場合、6面体の角がわずかに欠けている形状ややや丸みを帯びている形状のものも、本来完全な6面体であったものが、熱的あるいは機械的に変形したものと考えられるため、ここでの6面体に含まれる。
さらに、例えば、10面体の一部に結晶成長時における欠陥が発生し、凹凸を持つなどしてわずかに形状が変化しているものも、後述する効果を有している限り、本発明の10面体に含まれる。そして、この多面体としては、6面体ないし10面体が、結晶性に富み、他のこれ以上の面数を持つ多面体に比べて好ましい。
一般に、酸化チタンの結晶形は、アナターゼ型、ルチル型、ブルックカイト型の3種があるが、本発明の箱型形状の多面体の酸化チタン粒子では、この酸化チタン粒子が多数集合した粉末の状態で、この粉末を構成している粒子の80%以上、好ましくは90%以上がアナターゼ型結晶で、20%以下、好ましくは10%以下がルチル型結晶からなっている。
また、アナターゼ型およびルチル型はともに正方晶に属し、正方晶はa軸とb軸とが等価であるため、6面体以外の多面体においても酸化チタン本来のa軸、b軸およびc軸が確定できる。
図2は、本発明の箱型形状の多面体の酸化チタン粒子を構成する単結晶多面体2の例を示すものである。この単結晶多面体2の中心からa軸と垂直に交わる面または稜までの距離をXとし、c軸と垂直に交わる面または稜までの距離をZとし、単結晶多面体の扁平率HをH=X/Zと定義すると、扁平率Hが0.33〜3.0、好ましくは0.6〜1.67である単結晶多面体からなる酸化チタン粒子は、光触媒活性が高くて好ましい。
また、多面体が複数の単結晶多面体からなる場合には、個々の単結晶多面体に分割して考えればよく、個々の単結晶多面体について同様に扁平率を算出し、その平均値を取ればよい。また、この扁平率の実際の測定は、合成した酸化チタン粒子を対象としてこれを走査型電子顕微鏡で観察し、その多面体の寸法を測定して、XおよびZの値を計測し、これから算出することになる。
また、本発明の箱型形状の多面体の酸化チタン粒子の寸法は、平均粒径が1〜500nm、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜90nm、さらに好ましくは10〜70nm、より好ましくは10〜50nmとされ、粒径分布で表すと、粒子全体の85%を占める粒子の径が10nm以上で、100nm以下、好ましくは10nm以上で、40nm以下とされる。
また、酸化チタン粒子の平均粒径は、使用用途によって、適切な粒径範囲が決められ、1〜500nmの範囲から適宜選択することになる。
また、本発明の酸化チタン粒子は、加熱によるルチル型結晶構造への転位が大幅に小さいものとなっている。本発明では、このルチル型への転位をルチル転位率R(700−24)およびルチル転位率R(500−24)で評価する。
ルチル転位率R(700−24)とは、酸化チタン粒子を700℃で24時間加熱したときの加熱前のアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合をA(前)%とし、加熱後のアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合をA(後)%とし、
[A(前)−A(後)]/A(前)×100
で、定義されるものである。
ルチル転位率R(500−24)とは、酸化チタン粒子を500℃で24時間加熱したときの転位率で、先と同様にして定義される。
アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合は、X線回折法によりそのピーク強度から測定される。
そして、本発明の酸化チタン粒子では、ルチル転位率R(700−24)が7.5%以下、好ましくは5.0%以下で、かつルチル転位率R(500−24)が2.0%以下、好ましくは1.0%以下となっている。
また、本発明の酸化チタン粒子は、加熱による焼結の進行が大幅に抑制されており、加熱処理によるその比表面積の低下を防止できる。これは、酸化チタン粒子の結晶性が高いことに起因しているものと考えられる。
このような酸化チタン粒子においては、その多面体が1以上の単結晶多面体から構成されているので、結晶性が優れ、内部欠陥および表面欠陥の少ないものとなる。また、粒子形状が図1に示すように、箱型であるので従来の球形の酸化チタン粒子に比べて、単位重量当たりの比表面積が大きなものとなる。
特に、扁平率が0.33〜3.0、なかでも0.6〜1.6の範囲内のものでは、さらに結晶性が高いものとなる。このため、この酸化チタン粒子からなる光触媒は、従来のものに比較して極めて高い光触媒活性を発揮するものとなる。
また、このような酸化チタン粒子においては、ルチル転位率が小さく、加熱によるルチル型結晶構造への転位が極めて小さく、かつ粒子相互の焼結が抑えられるので、この酸化チタン粒子を基材に担持する際の加熱処理によっても、高い触媒活性を失うことがない。
また、本発明の酸化チタン粒子は、表面積が従来の酸化チタン粒子よりも小さいものでありながら、高結晶性を有するため、高い光触媒活性を有するものである。
すなわち、BE法による比表面積が3〜40m/gの範囲であり、内径15mmの密閉容器に5体積%酢酸水溶液5ミリリットルと酸化チタン粒子を50mg入れ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量が、図3に示すy=0.8x(xは比表面積;m/g、yは二酸化炭素発生量;μmol/hrである。)のラインよりも上の領域に位置し、好ましくは40μmol以上である光触媒活性を有する。また、ケイ素をドープした酸化チタン粒子では、同様の試験条件で、二酸化炭素量が、図3に示すy=0.8x(xは比表面積、yは二酸化炭素発生量である。)のラインよりも上の領域に位置し、好ましくは30μmol以上、45μmol以下の光触媒活性を有する。
従来市販されている酸化チタン粒子では、十分な光触媒活性を得るため、その表面積が50m/g以上となっているが、このものでは製造が困難である。これに対して、本発明の酸化チタン粒子では表面積が小さいにもかかわらず、高い触媒活性を示し、その製造が容易となる。
前記光触媒活性を規定するための基質として用いた酢酸は、光触媒作用により二酸化炭素に分解されるので、発生する二酸化炭素量を定量することで触媒活性の程度を評価することができる。前記の通り内径15mmの密閉容器に5体積%酢酸水溶液5ミリリットルと酸化チタン粒子50mgを入れ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間あたりに発生する二酸化炭素量で比較すると、従来品である市販の酸化チタン粒子と本発明の酸化チタン粒子とは、図3に示すように光触媒活性に大差がある。
この実験条件では紫外線照射面積が一定であるため、酸化チタン粒子が受け取る励起光量が一定であり、分解量は分解対象物に対する吸着能で決定される。したがって、従来の酸化チタン粒子の特性では、二酸化炭素の発生量は酸化チタン粒子の比表面積に比例している。
従来の酸化チタン粒子は、今回の実験条件において、X軸に比表面積をとり、Y軸に二酸化炭素発生量をとると、y=0.8xというライン上もしくは下方に特性値がプロットされる。この結果からも明らかなように、従来の製法ではこのラインより下方に位置する特性の粒子しか作ることができなかった。
しかし、同じく図3中、サンプルA〜Dとして表記した本発明の酸化チタン粒子では、このラインより大きく上方に位置する光触媒特性を得ており、比表面積が3〜40m/gの範囲において、1時間あたりの二酸化炭素の発生量がサンプルA〜Cについては40μmol以上になっている。
このことから分かるように、本発明の酸化チタン粒子は従来の比表面積の大小による吸着能の差に起因しない他の理由、すなわち高結晶性に起因する理由により高い光触媒活性を有し、高い酢酸分解活性を有している。
また、本発明の酸化チタン粒子は、必要に応じて他の元素、例えばリン、窒素、シリコン、ホウ素などの元素をドーピングし、光触媒活性の調整や光触媒活性励起光波長の長波長側へのシフトなどの特性変更を行うこともできる。例えば、図3中、サンプルDとして表記した酸化チタン粒子は、ドーパントとしてシリコンを添加し、酸化チタン粒子の光触媒活性を低下させたものである。
(酸化チタン粒子の製造)
以下、本発明の酸化チタン粒子の製造方法および製造装置について、詳しく説明する。
本発明の箱型形状の多面体の酸化チタン粒子の製造は、基本的には、合成管内にチタン化合物蒸気と酸素を供給し、合成管の外部から加熱することによって行われる。
図4は、この発明の酸化チタン粒子の製造装置の一例を示すもので、図中符号11は合成管を示す。この合成管11は、石英ガラス、アルミナなどの熱的、化学的に安定な材料からなる内径10〜200mmのパイプ状のものである。これの内径が10mm未満では合成管11内での原料物質の流速が速くなり、反応効率が低下し、200mmを越えると合成管11の径方向の温度分布が大きくなり、酸化チタン粒子の粒径分布が大きくなる。
この合成管11は、その両端が図示しないガラス旋盤に固定され、回転数20〜70rpm程度で回転するようになっている。また、合成管11の下方には、酸水素炎バーナ12が配置されており、合成管11を外部から加熱できるようになっている。この酸水素炎バーナ12は、1基以上でもよく、通常4〜12基程度を並列に並べて配置することが、合成管11の均一な加熱が行われ、粒径分布を小さくすることができて好ましい。
また、このバーナ12による加熱においては、合成管11の外周の少なくとも3分の1以上が炎に接触して加熱されるように炎の大きさ、合成管11とバーナ12との間隔等を制御することが好ましく、これによっても均一な加熱がなされる。
また、符号13は、バブラーを示す。このバブラー13は、その内部に四塩化チタン、硫酸チタンなどのチタン化合物液を満たし、管14から供給されるアルゴンなどのガスをチタン化合物液に吹き込むこと(バブリング)でチタン化合物液を気化させるものである。この時のチタン化合物液の温度は、例えば、四塩化チタンでは蒸気圧の大きさから60℃以上とされる。気化したチタン化合物蒸気は、気化したチタン化合物蒸気が液化しないようにバブラー13の温度以上の温度、例えば四塩化チタンでは85℃以上に保温された配管15を経て合成管11の一端からその内部に送り込まれるようになっている。
また、合成管11の一端には、図示しない酸素ボンベなどの酸素供給源からの酸素が管16を介して送り込まれるようになっている。
合成管11の他端には、管17の一端が接続され、この管17の他端はバグフィルタ18に接続され、合成管11からの排気ガスがバグフィルタ18に送り込まれるようになっている。
このバグフィルタ18は、合成管11内で合成され、ここから排気ガスに伴って流出する酸化チタン粒子の一部または全部を捕集するものであり、空気、窒素などの圧縮ガスでフィルタに衝撃を与えて目詰まりした酸化チタン粒子を払い落とす機構や機械的に目詰まりを叩き落とす機構を有するものが用いられる。
バグフィルタ18からの排気は、図示しない排気装置により系外に排気されるようになっている。
この装置を用いて酸化チタン粒子を製造する方法を説明する。
まず、バブラー13からのチタン化合物蒸気と酸素供給源からの酸素とを回転する合成管11内に導入し、その外部から酸水素炎バーナ12で加熱し、合成管11内で四塩化チタンなどのチタン化合物を熱酸化し、酸化チタン粒子を合成する。
この合成時の合成管11内の反応領域における合成温度は、850〜1500℃とされ、850℃未満では反応率が低下し、850℃以上では90%以上の反応率となる。また、1500℃を越えると生成した酸化チタン粒子が互いに焼結し始め、生成される酸化チタン粒子の比表面積が低下する。
また、合成管11内でのチタン化合物蒸気と酸素との流速に関しては、流速が速いほどヒートゾーン通過にかかる時間、すなわち結晶成長する時間が短くなり、粒径の小さな酸化チタン粒子を得ることができる。しかし、流速が速くなりすぎると、反応効率が大幅に低下するので工業的に好ましくない。四塩化チタンを原料とし内径32mm、厚さ2.5mmの石英ガラス製の合成管11を用い、合成温度を1230℃とした場合には、150〜1500mm/分が望ましい。
また、合成のための加熱源として酸水素炎バーナ12を用いているが、この酸水素炎バーナは発生熱量が高く、電気ヒータに比べて局所的な加熱が可能である。このため、均一核生成に必要な熱エネルギーを容易に得ることができ、またヒートゾーンが狭くなることも加わり、酸化チタンの結晶成長を抑制することができる。また、原子の拡散移動に必要な高温を容易に得ることができ、結晶性の高い酸化チタン粒子を合成することができる。
さらに、合成管11内に供給されるチタン化合物蒸気と酸素との比率は、酸化反応の当量に基づいて決められるが、酸素をやや過剰に供給し、酸化反応が完全に進行するようにすることが好ましい。例えば、四塩化チタンを用いたときは、四塩化チタン1モルに対して、酸素を1.05〜1.2モル程度とすることが望ましい。
合成管11内で合成された酸化チタン粒子は、排気の流れに乗って、合成管11の下流側に移動するが、合成管11の下流側は加熱されていないので、その温度は数十℃と低い。このため、高温の酸化チタン粒子が急速に冷却され、サーモフォレシス効果により合成管11の下流部分の壁に堆積してゆく。合成部分での温度は局所的に1000℃程度に加熱されており、下流部分は数十℃であるので、効果的にサーモフォレシス効果が作用し、効率よく酸化チタン粒子が堆積する。
また、合成管11の下流部分を水、窒素などの気体で冷却すると酸化チタン粒子の堆積効率が向上する。さらに、熱伝導係数が大きく、熱交換作用が高いヘリウムガスを合成管11内に供給すると、下流部分での冷却がより効率的に行われ、サーモフォレシス効果が高まり、これによっても堆積効率が向上する。
一方、排気中に存在する残余の酸化チタン粒子は、その流れに乗ってバグフィルタ18内に送られ、ここで回収される。この回収の際、合成された酸化チタン粒子が極めて微細粒子であるので、フィルタは目詰まりしやすい。このため、上述の空気、窒素などの圧縮ガスでフィルタに衝撃を与えて目詰まりした酸化チタン粒子を払い落とす機構や機械的に目詰まりを叩き落とす機構を有するものが目詰まり対策に好適である。
そして、この合成反応時において、原料濃度、反応温度等の反応条件を調整することにより、結晶多面体の各結晶面の結晶成長速度を変化させることができ、これによって上記扁平率を制御できる。また、多面体の面数も制御できる。また、扁平率が0.33〜3.0、好ましくは0.6〜1.67の結晶多面体からなり、光触媒作用が極めて高い酸化チタン粒子を製造することができる。
さらに、反応雰囲気を酸化雰囲気とすることで、アナターゼ型結晶構造を有するものを95%以上とすることができ、反応雰囲気を酸化雰囲気から還元雰囲気に適宜変化させることで、そのアナターゼ型とルチル型との比率を制御することができる。
図5は、この発明の酸化チタン粒子の製造装置の他の例を示すもので、図4に示したものとは同一構成部分には同一符号を附してその説明を省略する。
この例の製造装置は、合成される酸化チタン粒子に、例えばリン、窒素、シリコン、ボロンなどのドーパントを添加するときに用いられるもので、ドーパントとなる化合物蒸気を発生する他のバブラー21を追加したもので、このバブラー21からのドーパントとなる化合物蒸気は管22を経て管15に合流したうえ、合成管11内に送り込まれるようになっている。
また、ドーパントとなる化合物蒸気の供給のために、管22を直接合成管11に接続し、直接合成管11内に供給してもよい。さらに、加熱源として酸水素炎バーナに限られることはなく、電気ヒータなどを用い、局所的に加熱することができるが、酸水素炎バーナが上述の理由により好ましい。
また、生成された酸化チタン粒子の回収は、サーモフォレシス効果を利用した合成管の下流部分に堆積させるもののみとしてもよく、生成した酸化チタン粒子を堆積させずにバグフィルタ18に直接送り込んでここで回収するようにしてもよい。また、原料となるチタン化合物を加熱して気化させる方法(ベイキング)でチタン化合物蒸気とすることもできる。
このような酸化チタン粒子の製造方法によれば、上述の箱型形状の多面体の酸化チタン粒子を効率よく製造することができる。この製造方法は、熱酸化法に分類されるものであるが、従来の合成室内に四塩化チタン蒸気と加熱酸素を送り込み、合成室内で酸化反応させる熱酸化方法では、球状の酸化チタン粒子しか生成せず、しかも粒径の大きなものしか得ることができない。
これに対して、上記の製造方法では、例えば、平均粒径20nmで、粒子全体の85%を占める粒子の径が10nm〜40nmの粒度分布が得られる。
図6は、この発明の酸化チタン粒子の製造装置の他の例を示すもので、この例の製造装置にあっては、合成管11の内部の加熱部位に柱状部材21が設けられている以外は、図4に示した製造装置と同様である。
この柱状部材31は、中空の有底円筒状または中実の丸棒状の部材であって、石英などの合成管11をなす材料と熱膨張率が近似または同一の材料からなるものである。この柱状部材31は、図示のように、合成管11の内壁から離れ、かつ合成管11と軸を同じくして配置されており、内壁面との間隙が0.1〜10mmとされている。この間隔が0.1mm未満では生成する粒子でその隙間が目詰まりし、10mmを超えると、温度分布が不均一となる領域が増加し、柱状部材21を設けた意味がなくなる。
また、この例での柱状部材31の支持は、原料ガスの供給用の配管15の先端部に、柱状部材31を接合することによって行われ、配管15をガラス旋盤32で回転可能に支持するようになっている。配管15からの原料ガスは、配管15の先端部に形成された孔33から、合成管11内部に送り出されるようになっている。
この例の製造装置を用いて酸化チタン粒子を製造する方法について説明すると、このような柱状部材31を設けることにより、合成管11内に送り込まれた原料ガスは、合成管11の内壁側に誘導され、その内壁に沿って流れることになる。そして、合成管11の内壁部分が酸水素炎バーナ12によって最も高温に加熱されるため、原料ガスは合成管11内の加熱温度の高い領域で加熱され、酸化反応が進行することになる。これにより、生成する酸化チタン粒子は、粒径が揃った均一な粒径のものとなる。また、結晶性の高い粒子が多く得られ、結晶形状のばらつきが減少し、これらにより触媒活性の高い酸化チタン粒子を製造することができる。この製造装置によれば、例えば、平均粒径20nmで、粒子全体の85%を占める粒子の径が10nm〜40nmの粒度分布が得られる。
この製造方法での製造条件に関しては、原料ガスの流速が速い方が加熱ゾーンを通過するに要する時間が短くなり、粒径の小さい酸化チタン粒子が生成するが、反応効率が低下する。このため、合成管11の内径36mm、柱状部材31の外径20mm、合成温度1100℃とした場合、原料ガスの流速は150〜1500mm/分程度とすることが好ましい。
(酸化チタン粒子を用いた応用)
以下、上述の酸化チタン粒子を用いた種々の応用に関して説明する。
(光触媒)
本発明の光触媒は、上述の箱型形状の多面体の酸化チタン粒子またはこの酸化チタン粒子が多数集合した酸化チタン粉末からなるもので、この酸化チタン粒子または粉末を適宜の手段で基材上に塗布、付着させることで光触媒作用を発揮する。例えば、有機溶媒などの分散媒に分散してペーストとし、このペーストをガラス、セラミック、金属、木材、プラスチック、塗膜などの基材上に塗布し、加熱して基材に担持することによって光触媒として機能する。また、低融点ガラスや各種ポリマーなどの結合材を添加し、これを基材に塗布し、加熱して結合材を溶融して基材に固定することによっても光触媒として機能する。
また、本発明の光触媒は、可視光応答型とすることもできる。例えば、この発明の酸化チタン粒子を、アルゴンで所定の濃度に希釈したアンモニアガス雰囲気中で所定時間加熱することにより可視光応答型光触媒とすることができる。可視光応答型光触媒は、400nm以上の波長の可視光でも光触媒活性を発揮し、室内等の蛍光灯、電灯などの人工光源からの可視光でもその光触媒活性を十分に利用することができる。
この光触媒は、従来の酸化チタン粒子からなる光触媒と同様に汚染物質の分解除去、悪臭物質の分解除去、殺菌、滅菌などや超撥水性被膜の形成、表面の防汚などに用いることができ、その具体的な使用形態は従来の酸化チタン粒子からなる光触媒と同様である。
(塗料)
本発明の塗料は、前記酸化チタン粒子または酸化チタン粉末と、コーティング膜を構成するための樹脂成分を必須成分として含むものである。
この光触媒塗料における酸化チタン粒子の配合量は、固形分全量に対して0.1〜80質量%の範囲、好ましくは5〜20質量%の範囲とされる。酸化チタン粒子の配合量が前記範囲より少ないと、得られるコーティング膜の光触媒活性が十分に得られない可能性がある。また酸化チタン粒子の配合量が前記範囲を超えると、塗料の流動性が悪くなり、塗布操作が困難となり、また樹脂成分が少なくなることから強固なコーティング膜が得られない可能性がある。
この塗料に配合する樹脂成分は、塗料として良好なコーティング膜を形成可能であれば、特に限定されず、従来より塗料分野で用いられている樹脂成分、例えばアクリル系樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン系樹脂などを用いることができる。また、これらの樹脂の樹脂分10〜40質量%の水性エマルジョンを用いることができる。水性エマルジョンを用いれば、溶剤を配合する必要がなくなり、環境に優しいものとなる。
この樹脂成分の配合量は、固形分全量に対して20〜99.9質量%の範囲、好ましくは50〜80質量%の範囲とされる。
また、この塗料に配合される溶剤としては、使用する樹脂成分を溶解するのに適した各種の溶剤を用いることができ、例えば、水、エタノール、芳香族炭化水素や環式炭化水素などの炭化水素系溶剤、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類などが用いられる。この溶剤の配合量は、光触媒塗料中の全固形分100質量部に対して80〜99.5質量部程度とされる。
この塗料には、前記必須成分の他に、該塗料の物性、光触媒活性を損なわない範囲で、顔料、分散安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加物を必要に応じて添加することができる。
この塗料では、金属板、タイルなどのセラミック板、ガラス、木材、コンクリートなどの様々な基材にこれを塗布し、乾燥固化させることによって、光触媒活性を持ったコーティング膜を形成できる。この光触媒塗料の基材への塗布方法は、基材の形状、材料、大きさなどに応じて、従来公知の各種塗布方法の中から適宜選択することができ、例えば、ディップコーティング、刷毛塗り、スプレー塗装、電着塗装、スピンコート法、ドクターブレード法などを用いて塗布することができる。
この塗料にあっては、高い光触媒活性を有する酸化チタン粒子を含むものなので、これを適当な基材にコーティングすることによって、従来品よりも高い光触媒活性を有するコーティング膜を形成できる。
なお、この塗料においては、酸化チタン粒子の光触媒活性が高い場合に、樹脂成分、溶剤などの添加材料自体が分解されることがある。このため、シリコンなどの元素を添加して光触媒活性を若干低下させた酸化チタン粒子を使用することが好ましい場合もある。
(光触媒装置)
本発明の光触媒装置は、前記酸化チタン粒子を表面に有する光触媒反応体と、該光触媒反応体に光を照射する光源を備えたものである。
光触媒反応体の形状、構造は特に限定されず、粉体状、又は水などの液体に懸濁させた状態でも良いが、好ましくは前述した酸化チタン粒子または粉末を含む塗料を適当な基材表面に塗布して得られた構造体が好ましい。
さらに、この構造体は、板状、管状、ハニカム状、粒子状などの種々の形状とすることができ、有害物を含有する被処理物の性状、供給方法などに応じて適宜選択される。前記板状、管状、ハニカム状などの構造体は、金属板や金属管、金属製ハニカム材の表面に上記塗料をコーティングすることにより作製でき、また粒子状の構造体は、ガラスビーズ、合成樹脂ビーズ、多孔質セラミックスなどの適当な粒径の粒子に前記塗料をコーティングすることによって作製できる。
この光触媒装置に用いる光源としては、高圧水銀灯、キセノンランプ、ブラックライトなどの人工光源が好ましい。
この光触媒装置の構成は、有害物を含有する被処理物の性状や供給方法などに応じて適宜変更でき、例えば、被処理物が工業廃水などの液体の場合、タンク内に板状、管状、ハニカム状、粒子状などの前記光触媒反応体を入れ、さらにタンク内に光源を配置するか、又はタンク外部の光源から光ファイバを用いてタンク内に光を照射するような構成とし、タンク内に被処理液体を入れ、光触媒反応体によって有害物質を分解することができる。
また、被処理物が排気ガスなどの気体の場合、この被処理気体の流路に前記光触媒反応体と光源とを配置し、被処理気体を光触媒反応体と接触させて有害物を分解したり、光源を配置したタンク内に前記粒子状の光触媒反応体を充填し、タンク下方から被処理気体を吹き出し、光触媒反応体の流動床を形成して被処理気体を処理することもできる。
本発明の光触媒装置によれば、前記酸化チタン粒子を表面に有する光触媒反応体と、該光触媒反応体に光を照射する光源とを備えた構成としたことによって、窒素酸化物、汚染物質、悪臭成分などの有害物を高効率で分解することができる。
(有害物質の分解方法)
本発明の酸化チタン粉末を用いる有害物質の分解方法は、粒径が100〜500nmの酸化チタン粒子が集合した粉末であって、この粉末をなす粒子全体の90%以上がアナターゼ型結晶からなり、かつ酸化チタン粒子が箱形形状の10面体などの多面体からなる酸化チタン粉末を用いるものである。
この酸化チタン粉末を有害物質が溶解または分散している水、空気などの流体と直接接触させ、これに紫外光などの光を照射して、流体中の有害物質を分解した後、流体をフィルターで濾過し、酸化チタン粉末を分離回収する方法である。
通常、高い光触媒活性を示す酸化チタン粒子は、粒径が小さいものとなる。このため、数nmから数十nmの粒径の酸化チタン粒子をこのような用途に使用することになる。ところが、このような粒径の粒子を用い、水などに分散すると凝集し、約300nm程度のクラスターを形成する。この大きさのクラスターを濾過するとなると、目開きが0.1μm程度のフィルターを用いることになるが、このような細かいフィルターではすぐに目詰まりが生じ、実用的でない。
これに対して、本発明での酸化チタン粒子を用いる場合には、その粒径が100〜500nmと大きいものを選択して使用するにもかかわらず、元々結晶性が高いために良好な触媒活性を示し、高い分解能力を発揮する。また、凝集後のクラスターの大きさが2〜5μmとなるので、目開きが1〜2μmのフィルターを用いて、急速濾過ができ、しかもフィルターの目詰まりも生じにくく、実用性の高いものとなる。
図7は、本発明の有害物質の分解方法に用いられる処理装置の例を示すもので、この例の装置は水中に有害物質が溶解または分散している液を処理対象とするものである。
図中符号51は、ステンレス鋼、プラスチックなどからなる処理タンクであり、この処理タンク51には、処理対象液が流入する流入管52と、分解処理後の液が流出する排出管53が接続されている。流入管52の先端には、プレフィルター54が設けられ、流入する液に分散している粗大なゴミなどが除去されるようになっており、排出管53の基端には分離フィルター55が設けられ、処理対象液に分散している酸化チタン粉末が濾過され、分離回収されるようになっている。この分離フィルター55には、ガラス繊維などで作られたものが用いられる。
また、処理タンク51の上部には、紫外光ランプ収容用凹部56が形成されており、この凹部56の壁は、石英などの紫外光透過性ガラスから構成され、照射窓となっており、凹部56内に収容された高圧水銀灯、キセノンランプ、殺菌灯、ブラックライトなどの紫外光光源57からの紫外光が、照射窓から処理タンク51内の処理対象液に照射されるようになっている。この紫外光により処理対象液に分散している酸化チタン粒子が光触媒作用を発揮し、処理対象液に溶解または分散している有害物質が分解され、無害化されるようになっている。
さらに、処理タンク51には、内部の処理対象液を撹拌するためのプロペラシャフト58と磁気撹拌子59が設けられており、磁気撹拌子59は、処理タンク51の底部に設置されたマグネットスターラー60によって回転されるようになっている。
なお、酸化チタン粒子として太陽光などの可視光で活性を発揮する可視光型のものを用いる場合には、処理タンク51の全体または一部をガラスなどの材料で構成してもよい。
この例の処理装置を用いた処理方法では、処理対象液中の酸化チタン粒子の分散濃度は、処理対象液に対して0.5〜10wt%とされ、0.5wt%未満では分解が十分進行せず、10wt%を超えると、均一な粒子の分散が困難で、酸化チタン粒子が有害物質を抱き込んで沈降するようになる。
分解処理が進行するにつれて、分離フィルター55には酸化チタン粒子が捕獲され、処理対象液中の酸化チタン粒子の分散濃度が減少する。このような時は、周知の逆洗浄を行えば、分離フィルター55の目詰まりが解消し、かつ処理対象液中の酸化チタン粒子の分散濃度も復元する。
このような分解方法においては、処理対象液中において、酸化チタン粒子が凝集し、2μm以上のクラスターとなるため、比較的目の粗い、目開きが1μm以上の分離フィルター55を用いて、効率よく濾過ができ、濾過速度を大きくすることができ、例えば、有効面積500cmで、目開き2μmのガラス繊維製フィルターでは1時間当たり10リットル以上の濾過速度が達成できる。
また、空気などの気体に有害物質が溶解または分散している場合には、この気体を処理タンク内に導入し、処理タンク内に設けたファンにて気体を撹拌すると同時に酸化チタン粉末を強制的に浮遊させて分散状態とし、この状態で紫外光などの光を照射する方法が採用できる。また、前述した塗料を適当な基材表面に塗布してコーティング膜の状態とし、このコーティング膜に有害物質が溶解または分散している流体を接触させ、光を照射する方法でもよい。
本発明の有害物の分解方法で分解される有害物質としては、窒素酸化物(NOx)、汚染物質、悪臭成分が挙げられ、汚染物質及び悪臭成分としては、例えば、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ブチルアルコールなどのアルコール類、酢酸などのカルボン酸類、ケトン類、アンモニアやアミン類などの含窒素化合物、硫化水素やメルカプタンなどの含硫黄化合物などが挙げられる。
本発明の有害物の分解方法によれば、酸化チタン粒子に光を照射しつつ害物を接触させて該有害物を分解することによって、窒素酸化物(NOx)、汚染物質、悪臭成分などの有害物を高効率で分解することができる。
以下、具体例を示し、本発明の作用効果を明確にする。
(比較例1)
四塩化チタン蒸気を原料とし、加熱保温された酸素と合成室内で混合し、熱酸化させて酸化チタン粒子を合成した。四塩化チタン蒸気はバブリングで供給し、バブラー温度は85℃とした。バブリングガスにはアルゴンガスを用い、その流量は200sccmとした。反応酸素流量は1000sccmとし、反応酸素温度は1000℃とした。得られた酸化チタン粒子の形状は球形であった。また、その平均粒径は90nmであり、粒径分布は粒子全体の85%を占める粒子の径が20nm以上、200nm以下であった。
【実施例1】
石英ガラス製の合成管を用い、熱源を酸水素バーナとし、四塩化チタン蒸気と酸素を合成管に導入し、合成管の外部から加熱する熱酸化法により酸化チタン粒子を製造した。四塩化チタン蒸気はバブリングで供給し、バブラー温度は85℃とし、配管保温温度は140℃とした。バブリングガスにはアルゴンガスを用い、その流量は180sccmとした。反応酸素流量は1000sccmとし、合成温度は1230℃とした。酸水素炎バーナを6基配置した。石英ガラス管は内径32mmで、厚さ2.5mmであり、これを55rpmの回転数で回転させた。
得られた酸化チタン粒子の形状は図1に示すような10面体であった。その平均粒径は20nmであり、粒径分布は粒子全体の85%を占める粒子の径が10nm以上、40nm以下であった。また、扁平率は0.33〜3.0であった。
図8は、この製造条件で製造された酸化チタン粒子の粒子形状の一例を示す走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真である。
また、X線回折測定を行い、ピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を求めたところ、95%であった。
次に、この酸化チタン粒子を窒素雰囲気中、500℃で24時間熱処理を行った。熱処理後の酸化チタン粒子についてX線回折測定と電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡観察の結果、粒子の焼結は進行しておらず、粒子同士のネッキングも見られなかった。また、X線回折測定の結果より、ピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を推定した。熱処理前と粒子全体に占めるアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合は変わらなかった。
また、この酸化チタン粒子を窒素雰囲気中、700℃で24時間熱処理を行った。熱処理後の酸化チタン粒子についてX線回折測定と電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡観察の結果、粒子の焼結は進行しておらず、粒子同士のネッキングも見られなかった。
また、X線回折測定の結果より、ピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を推定した。熱処理前と粒子全体に占めるアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合はわずかに減少したが、ルチル転位率R(700−24)は5.0%であった。
【実施例2】
実施例1で得られた酸化チタン粒子を石英ガラス板にコーティングし、紫外線照射による光触媒活性の評価を行った。
評価は、同一条件におけるアセトアルデヒドの分解能力で行い、分解されて発生する二酸化炭素の濃度を測定し、酸化チタン粒子を構成する多面体の扁平率Hとの関係を比較した。各扁平率をもつ酸化チタン触媒における二酸化炭素濃度の時間変化を図9に示す。その結果、多面体の扁平率が1.01および1.58のサンプルが最も高い活性を示し、扁平率0.53および2.16のサンプルがそれに次ぐ活性を示した。
(比較例2)
比較例1で得られた酸化チタン粒子を石英ガラス板上にコーティングし、大腸菌を塗布した。これにブラックライトを照射し、大腸菌数の時間変化を調査したところ、最初の大腸菌数の1%以下になるまでの時間は60分であった。
【実施例3】
実施例1で得られた酸化チタン粒子を石英ガラス板にコーティングし、大腸菌を塗布した。これにブラックライトを照射し、大腸菌数の時間変化を調査したところ、最初の大腸菌数の1%以下になるまで時間は30分であった。
【実施例4】
石英ガラス製の合成管を用い、熱源を酸水素バーナーとし、四塩化チタン蒸気と酸素を合成管に導入し、合成管の外部から加熱する熱酸化法により酸化チタン粒子を製造した。四塩化チタン蒸気はバブリングで供給し、バブラー温度は85℃とした。バブリングガスにはアルゴンを用い、その流量は180sccmとした。
反応酸素流量は1000sccmとし、合成温度は1230℃とした。石英ガラス管は、内径32mmで、厚さ2.5mmであり、これを55rpmの回転数で回転した。
合成された酸化チタン粒子について、X線回折測定と電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡観察の結果、その粒子形状は10面体であり、酸化チタン粒子の平均粒径は60nmであり、粒径分布は粒子全体の85%を占める粒子の径が20〜100nmであった。X線回折測定の結果より、ピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を推定した。結果を表1に示す。
次に、この酸化チタン粒子を窒素雰囲気中、500℃で24時間熱処理を行った。熱処理後の酸化チタン粒子についてX線回折測定と電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡観察の結果、粒子の焼結は進行しておらず、粒子同士のネッキングも見られなかった。また、X線回折測定の結果より、ピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を推定した。結果を表1に示す。熱処理前と粒子全体に占めるアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合は変わらなかった。
また、この酸化チタン粒子を窒素雰囲気中、700℃で24時間熱処理を行った。熱処理後の酸化チタン粒子についてX線回折測定と電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡観察の結果、粒子の焼結は進行しておらず、粒子同士のネッキングも見られなかった。
また、X線回折測定の結果より、ピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を推定した。結果を表1に示す。熱処理前と粒子全体に占めるアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合はわずかに減少したが、ルチル転位率R(700−24)は4.2%であった。
(比較例3)
市販の光触媒用酸化チタン粒子を購入して比較した。比較に使用した酸化チタン粒子は、熱加水分解法で合成した粒子であり、電子顕微鏡観察した結果、粒子形状は球形であり、その平均粒径は60nmであり、粒径分布は粒子全体の85%を占める粒子の径が20〜100nmであった。X線回折測定の結果よりピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を推定した。結果を表1に示す。
次に、この酸化チタン粒子を窒素雰囲気中、700℃で24時間熱処理を行った。熱処理後の酸化チタン粒子についてX線回折測定と電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡観察の結果、粒子の焼結は進行しており、粒子同士のネッキングも見られた。
この加熱後の粒子の電子顕微鏡写真を図10に示す。
また、X線回折測定の結果より、ピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を推定した。結果を表1に示す。熱処理前と粒子全体に占めるアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合は大幅に減少し、ルチル転位率R(700−24)は78.5%であった。

【実施例5】
実施例4で作製した酸化チタン粒子を、低融点ガラスおよびバインダー、溶剤と混合して酸化チタンスラリーとした。この酸化チタンスラリーを石英ガラス板上に均一に塗布し、大気中で700℃で2時間加熱し、焼き付けを行い、酸化チタン粒子を担持したガラス板を作製した。このガラス板について、紫外線照射による光触媒活性の評価を行った。評価は、アセトアルデヒドの分解能力で行い、分解されて発生する二酸化炭素の濃度を測定した。
比較のため、比較例3の酸化チタン粒子(市販品)で同様の酸化チタン粒子担持ガラス板を作製し、同様の評価を行った。二酸化炭素濃度の時間変化を図11に示す。また、スラリーを塗布して焼き付け前(熱処理なし)の状態で同様の実験を行った結果も図11に示してある。
その結果、比較に用いた市販の酸化チタン粒子で作製したガラス板は、焼き付け前後で大きく活性が低下するが、実施例4の酸化チタン粒子で作製したガラス板は、特性が変化せず、高いアセトアルデヒドの分解能力を示すことがわかった。
【実施例6】
図4に示した酸化チタン粒子製造装置を用い、酸化チタン粒子の製造を行った。ガラス旋盤に外径40mmの石英ガラス製の反応合成管を設置し、45rpmで回転させた。この管に四塩化チタン蒸気50sccmと酸素1200sccmとを導入し、反応合成管の外部から酸水素バーナー炎で1300℃に加熱し、反応合成管内で酸化チタン粒子を合成した。合成した酸化チタン粒子はバグフィルターで回収した。
回収した酸化チタン粒子は十面体であり、X線回折分析(XRD)ピークから同定した結果、粉末中の全粒子の96%がアナターゼ型結晶であった。またBET法により比表面積を測定したところ、10.2m/gであった。
得られた酸化チタン粒子50mgを内径15mmの密閉容器に入れ、5体積%酢酸水溶液5ミリリットルに懸濁させ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量をガスクロマトグラフィーで定量分析すると54μmolであった。
【実施例7】
ガラス旋盤に外径40mmの石英ガラス製の反応合成管を設置し、45rpmで回転させた。この管に四塩化チタン蒸気20sccmと酸素1200sccmとを導入し、反応合成管の外部から酸水素バーナー炎で1300℃に加熱し、反応合成管内で酸化チタン粒子を合成した。合成した酸化チタン粒子はバグフィルターで回収した。
回収した酸化チタン粒子は十面体であり、X線回折分析(XRD)ピークから同定した結果、粉末中の全粒子の96%がアナターゼ型結晶であった。またBET法により比表面積を測定したところ、32.4m/gであった。
得られた酸化チタン粒子50mgを内径15mmの密閉容器に入れ、5体積%酢酸水溶液5ミリリットルに懸濁させ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量をガスクロマトグラフィーで定量分析すると52μmolであった。
【実施例8】
ガラス旋盤に外径40mmの石英ガラス製の反応合成管を設置し、45rpmで回転させた。この管に四塩化チタン蒸気30sccmと酸素1200sccmとを導入し、反応合成管の外部から酸水素バーナー炎で1300℃に加熱し、反応合成管内で酸化チタン粒子を合成した。合成した酸化チタン粒子はバグフィルターで回収した。
回収した酸化チタン粒子は十面体であり、X線回折分析(XRD)ピークから同定した結果、粉末中の全粒子の96%がアナターゼ型結晶であった。またBET法により比表面積を測定したところ、21.8m/gであった。
得られた酸化チタン粒子50mgを内径15mmの密閉容器に入れ、5体積%酢酸水溶液5ミリリットルに懸濁させ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量をガスクロマトグラフィで定量分析すると51μmolであった。
【実施例9】
ガラス旋盤に外径40mmの石英ガラス製の反応合成管を設置し、45rpmで回転させた。この管に四塩化チタン蒸気40sccmと四塩化ケイ素蒸気2sccmと酸素1200sccmとを導入し、反応合成管の外部から酸水素バーナー炎で1300℃に加熱し、反応合成管内で酸化チタン粒子を合成した。合成した酸化チタン粒子はバグフィルターで回収した。
回収した酸化チタン粒子は十面体であり、X線回折分析(XRD)ピークから同定した結果、粉末中の全粒子の96%がアナターゼ型結晶であった。またBET法により比表面積を測定したところ、30.1m/gであった。
得られた酸化チタン粒子50mgを内径15mmの密閉容器に入れ、5体積%酢酸水溶液5ミリリットルに懸濁させ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量をガスクロマトグラフィーで定量分析すると36μmolであった。原料にケイ素を添加することで意図的に酸化チタン粒子の分解力を制御することができた。
[従来品と本発明品との比較]
市販の酸化チタン粒子4種(以下、市販粉A〜Dという。)を入手し、それぞれXRDを行った。XRDピークから同定した結果、4種全てがアナターゼ型結晶が95%以上の酸化チタン粉末であった。これらの粒子の比表面積をBET法で測定した。
これらの酸化チタン粒子50mgをそれぞれ内径15mmの密閉容器に入れ、5体積%酢酸水溶液5ミリリットルに懸濁させ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量をガスクロマトグラフィーで定量分析した。得られた二酸化炭素量をy軸にとり、比表面積をx軸にとると、図3に示す結果となった。
前記実施例6〜9において作製し、比表面積と光触媒活性を測定した酸化チタン粒子をそれぞれサンプルA〜Dとし、合わせて図3にプロットした。
図3の結果から、従来品である市販粉A〜Dにおいては、X軸に比表面積をとり、Y軸に二酸化炭素発生量をとると、y=0.8xというライン上もしくは下方に特性値がプロットされる。この結果からも明らかなように、従来技術ではこのラインより下方に位置する特性の粒子しか作ることができなかった。
一方、サンプルA〜Dとして表記した本発明の酸化チタン粒子は、このラインより大きく上方に位置する光触媒特性を得ており、比表面積が10〜40m/gの範囲において、1時間あたりの二酸化炭素の発生量がサンプルA〜Cについては40μmol以上になっている。
また図3中、サンプルDとして表記した酸化チタン粒子は、ドーパントとしてケイ素を添加したことによって、酸化チタン粒子の光触媒活性を低下させることができた。
【実施例10】
図6に示した製造装置を用いて、酸化チタン粒子を製造した。石英ガラス製の合成管を用い、熱源を酸水素バーナとし、四塩化チタン蒸気と酸素を合成管に導入し、合成管の外部から加熱する熱酸化法により酸化チタン粒子を製造した。四塩化チタン蒸気はバブリングで供給し、バブラー温度は85℃とし、配管保温温度は140℃とした。バブリングガスにはアルゴンガスを用い、その流量は200sccmとした。反応酸素流量は1000sccmとし、合成温度は1100℃とした。石英ガラス管は外径40mmで、厚さ2mmであり、柱状部材の外径を20mmとし、石英ガラス管と柱状部材との間隙を8mmとした。これを55rpmの回転数で回転させた。
得られた酸化チタン粒子の形状は図1に示すような10面体であった。その平均粒径は20nmであり、粒径分布は粒子全体の85%を占める粒子の径が10nm以上、40nm以下であった。また、扁平率は0.33〜3.0であった。
また、X線回折測定を行い、ピーク強度からアナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の割合(%)を求めたところ、95%であった。
【実施例11】
実施例1における製造条件を変化させて、粒径200〜350nmで、10面体形状を有し、粒子全体の97%がアナターゼ型結晶である酸化チタン粉末を製造した。
石英ガラス製の処理タンク内に10μmol/リットルのメチレンブルー水溶液1.5リットルを入れ、これに上記酸化チタン粉末を15g投入し、水溶液を撹拌した。この処理タンクに波長325nmの紫外光をブラックライトから照射した。処理タンクの紫外線受光面積は300cmで、2.5mW/cmの照度で照射した。
30分後、面積500cmで目開き2.0μmのガラス繊維メッシュ製の円筒型フィルターを用いて、自重で濾過したところ、25分間で全量を濾過できた。濾過後のフィルターを水で逆洗浄し、洗浄液を乾燥したところ、投入した酸化チタン粉末の90%にあたる13.5gを回収することができた。
濾過した水溶液中のメチレンブルーの濃度を分光光度計で定量した結果、0.8μmol/リットルで、肉眼での観察では無色透明であった。
(比較例4)
市販の酸化チタン粉末を用意した。このものは、粒径が10〜40nmで、球形の形状であり、粒子全体の90%がアナターゼ型結晶である。
この市販酸化チタン粉末を用いて、実施例11と同様の条件で、メチレンブルー水溶液の分解を行った。
ただし、処理後の濾過には、面積500cmで目開き0.1μmのガラス繊維メッシュ製の円筒型フィルターを用いて行った。120分間の自重濾過で20mlが濾過されただけであった。一旦、濾過を中止し、逆洗浄をおこなってから再度濾過を試みたが、フィルターの目に酸化チタン粒子が詰まっており、濾過速度は改善されなかった。
濾過した水溶液中のメチレンブルーの濃度を分光光度計で定量した結果、0.8μmol/リットルで、肉眼での観察では無色透明であった。
(比較例5)
酸化チタン粒子を担持した市販のガラスビーズ状の光触媒を用意した。この光触媒は、ビーズ径が1mmで、ビーズ表面に粒径10〜40nmの酸化チタン粒子が付着していることが電子顕微鏡観察で判明した。また、X線回折分析により酸化チタン粒子の結晶形を観察したところ、ガラスビーズの影響で、ピークはブロードであったが、アナターゼ型とルチル型とのピークが同等のピーク強度で観察された。
この光触媒を150g用いて、実施例11と同様の条件でメチレンブルー水溶液の分解処理を行った。
30分後、面積500cmで目開き2.0μmのガラス繊維メッシュ製の円筒型フィルターを用いて、自重で濾過したところ、15分間で全量を濾過できた。濾過後のフィルターを水で逆洗浄し、洗浄液を乾燥したところ、投入した光触媒のほぼ全量を回収することができたが、ガラスビーズから脱落した酸化チタン粒子が認められ、再使用すると、分解処理能力が低下すると予想された。
濾過した水溶液中のメチレンブルーの濃度を分光光度計で定量した結果、4.6μmol/リットルで、肉眼での観察では青色透明であった。
【実施例12】
容量1.5リットルで、上部にプロペラ付きシャフトを設け、内部を撹拌可能とし、ポンプにより一定量の水溶液を流入、排出できる石英ガラス製の処理タンクを作製した。処理タンクには、流入管と排出管を設け、流入管にはプレフィルターを、排出管には面積500cmで目開き2.0μmのガラス繊維メッシュ製円筒状の分離フィルターを取り付けた。
処理タンク内に水を満たし、さらに実施例11で使用した酸化チタン粉末と同じ粉末を15g投入し、流入管から濃度10μmol/リットルのメチレンブルー水溶液を0.5リットル/時間の流量で流入し、処理後の水溶液が排出管から流出するようにした。
十分な時間メチレンブルー水溶液を流し込み、排出管から排出される水溶液のメチレンブルー濃度が、流入するメチレンブルー水溶液の濃度と同一になった時点で、ブラックライトからの波長365nmの紫外光の処理タンク内への照射を開始した。処理タンクの紫外線受光面積は300cmで、2.5mW/cmの照度で照射した。途中、分離フィルターの目詰まりを防止するために、45分毎にポンプを止め、ポンプを逆方向に運転して、0.5リットル/時間の流量で5分間逆洗浄を行った。
排出管から排出される水溶液を一定時間毎に採取し、そのメチレンブルー濃度を測定したところ、照射開始1時間後にはその濃度は定常状態となり、3.6μmol/リットルとなった。
産業上の利用分野
この発明の酸化チタン粒子は、光触媒として有害物質の分解、脱臭、殺菌などの用途に使用される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が1nm〜500nmで、1以上の単結晶多面体から構成されている箱型形状の多面体からなる酸化チタン粒子。
【請求項2】
単結晶多面体の扁平率が、0.33〜3.0である請求項1記載の酸化チタン粒子。
【請求項3】
多面体が、6面体ないし10面体のいずれかである請求項1記載の酸化チタン粒子。
【請求項4】
ルチル転位率R(700−24)が7.5%以下で、ルチル転位率R(500−24)が2.0%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の酸化チタン粒子。
【請求項5】
粒径が100〜500nmである請求項1ないし4のいずれかに記載の酸化チタン粒子。
【請求項6】
比表面積が3〜40m/gであって、
内径15mmの密閉容器に5体積%酢酸水溶液5ミリリットルと酸化チタン粒子50mgを入れ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量が、y=0.8x(xは比表面積;m/gで、yは二酸化炭素発生量;μmol/hrである。)で表されるラインの上方の領域に位置するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の酸化チタン粒子。
【請求項7】
ケイ素がドープされ、比表面積が3〜40m/gであって、
内径15mmの密閉容器に5体積%酢酸水溶液5ミリリットルと酸化チタン粒子50mgを入れ、懸濁させた状態で365nmの紫外光を15mW/cmの照度で照射し、1時間当たりに発生する二酸化炭素量が、y=0.8x(xは比表面積;m/gで、yは二酸化炭素発生量;μmol/hrである。)で表されるラインの上方の領域に位置するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の酸化チタン粒子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の酸化チタン粒子を多数集合した酸化チタン粉末であって、この粉末をなす酸化チタン粒子全体の80%以上がアナターゼ型結晶で占められる酸化チタン粉末。
【請求項9】
90%以上がアナターゼ型結晶で占められる請求項8記載の酸化チタン粉末。
【請求項10】
合成管内にチタン化合物蒸気と酸素を供給し、合成管外部から加熱することを特徴とする酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項11】
加熱源として酸水素炎バーナを用いることを特徴とする請求項10記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項12】
合成管を回転させることを特徴とする請求項10または11記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項13】
合成管内部に、チタン化合物蒸気と酸素の混合ガスを合成管内壁側に誘導する柱状部材を設けて外部から加熱することを特徴とする請求項10記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項14】
合成管と柱状部材との間隔を0.1〜10mmとすることを特徴とする請求項13記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項15】
生成した酸化チタン粒子の回収方法が、サーモフォレシス効果を利用し、合成管の下流部分に酸化チタン粒子を堆積させて回収するものであることを特徴とする請求項10ないし14のいずれかに記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項16】
生成した酸化チタン粒子の回収方法が、合成管の下流側に設けられたバグフィルタを用いるものであることを特徴とする請求項10ないし14のいずれかに記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項17】
合成管と、この合成管をその外部から加熱する加熱源と、合成管をその軸周りに回転させる回転駆動部と、合成管内にチタン化合物蒸気と酸素を供給する原料供給部を備えた酸化チタン粒子の製造装置。
【請求項18】
合成管内で生成した酸化チタン粒子を回収するバグフィルターを備えた請求項17に記載の酸化チタン粒子の製造装置。
【請求項19】
合成管内部に、チタン化合物蒸気と酸素の混合ガスを合成管内壁側に誘導する柱状部材を設けた請求項17または18記載の酸化チタン粒子の製造装置。
【請求項20】
請求項1ないし7のいずれかに記載の酸化チタン粒子からなる光触媒。
【請求項21】
請求項8または9記載の酸化チタン粉末からなる光触媒。
【請求項22】
請求項1ないし7のいずれかに記載の酸化チタン粒子を含む塗料。
【請求項23】
請求項8または9記載の酸化チタン粉末を含む塗料。
【請求項24】
請求項1ないし7のいずれかに記載の酸化チタン粒子を表面に担持した光触媒反応体と、この光触媒反応体に光を照射する光源を備えた光触媒装置。
【請求項25】
請求項8または9記載の酸化チタン粉末を用いる有害物質の分解方法。
【請求項26】
被処理対象物に酸化チタン粒子を接触させて分解を行った後、酸化チタン粒子をフィルターによって分離する請求項25記載の有害物質の分解方法。
【請求項27】
フィルターが、ガラス繊維製で、目開きが2.0μm以上である請求項26記載の汚染物質の分解方法。
【請求項28】
請求項20または21記載の光触媒を用いる脱臭方法。
【請求項29】
請求項20または21記載の光触媒を用いる殺菌方法。
【請求項30】
請求項20または21記載の光触媒を用いる有害物質の分解方法。

【国際公開番号】WO2004/063431
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507668(P2005−507668)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000073
【国際出願日】平成16年1月8日(2004.1.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】