説明

金型表面処理方法、および金型表面処理装置

【課題】金型の成形面に付着する汚れ、その中でも酸化膜を還元処理し、本来の金型素材面を露出させることによって成形品の不良発生を低減できる金型の処理方法と処理装置を提供する。
【解決手段】第1モールドベースと第2モールドベースを対向配置させ、パーティングライン面を介して内部にキャビティーを形成し、前記キャビティー内に成形材料を注入し、固化させて成形体を得る金型であって、前記第1モールドベースは前記キャビティーの一方の成形面となる第1成形面を備え、前記第2モールドベースは前記キャビティーの他の一方の成形面となる第2成形面を備え、前記成形体の成形工程前に、少なくとも前記第1成形面と前記第2成形面とを低酸素分圧雰囲気として、前記第1成形面と前記第2成形面とを加熱する金型表面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型表面処理方法、および金型表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いた成形技術は、射出成形に代表されるように、複雑な形状の製品を大量に生産するのに欠かせない技術となっている。他方、大量生産のために繰り返し使用される金型には、汚れなどが付着し易く、そのメンテナンスを効率的に行う手段が求められていた。例えば、特許文献1には、金型に付着した汚れをプラズマクリーニングする除去装置が提案されている。
【0003】
特許文献1には、上型と下型の汚れを取り除く中間ユニット7にプラズマを発生させる電極9を備え、上型6と下型5によって中間ユニット7の筐体8を挟持し、筐体8の内部に形成される密閉空間内で電極9から金型にプラズマ放電させることにより金型表面に付着した有機化合物などの汚れを除去するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−123204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、金型を用いた成形技術は、樹脂の成形に留まらず、樹脂と金属との複合材料や、金属の成形にも適用されている。昨今、特に、金属の中でも、突出して優れた物性を有する金属ガラスが着目されている。金属ガラスは、特定の金属材料を主成分とし、所定の条件を満たす元素を含む材料を混合した原材料を、溶融状態から極めて急速に冷却することにより、結晶が形成される前のランダムな非晶質状態のガラスの性質を有する合金(金属ガラス合金)である。この金属ガラス合金の成形時には、前述したように急速冷却が必要なため、成形用金型には、優れた冷却効率(熱伝導率)が求められているが、成形を繰り返すうちに、成形面が酸化してしまい、冷却効率が下がってしまうという問題があった。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の除去装置では、有機物などの化合物を除去できたとしても、成形面の酸化を改善することは困難であるという課題があった。また、プラズマ放電は、電極から金型表面までの距離が短い方が発生し易いため、成形面における凸部に付着した有機化合物は除去できても、凸部よりも電極から距離が離れる凹部や、金型の隅部では十分なプラズマ放電が得られず、汚れを十分に除去することは困難であるという課題があった。換言すれば、成形面の均一なクリーニングは困難であるという課題があった。さらに、プラズマ放電には、数千ボルトの高電圧が必要であるため、作業に危険性がともない、特殊な作業環境が必要となってしまうという課題もあった。
【0007】
そこで、金型の成形面に付着する汚れ、その中でも酸化膜を還元処理し、本来の金型素材面を露出させることによって成形品の不良発生を低減できる金型の処理方法と処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0009】
〔適用例1〕本適用例の金型表面処理方法は、第1モールドベースと第2モールドベースを対向配置させ、パーティングライン面を介して内部にキャビティーを形成し、前記キャビティー内に成形材料を注入し、固化させて成形体を得る金型であって、前記第1モールドベースは前記キャビティーの一方の成形面となる第1成形面を備え、前記第2モールドベースは前記キャビティーの他の一方の成形面となる第2成形面を備え、前記成形体の成形工程前に、少なくとも前記第1成形面と前記第2成形面とを低酸素分圧雰囲気として、前記第1成形面と前記第2成形面とを加熱することを特徴とする。
【0010】
本適用例によれば、低酸素分圧雰囲気では金型素材へのダメージの少ない温度範囲での加熱によって酸化還元反応を進行させることができ、金型表面に形成された酸化物を容易に金型素材に戻す(酸化前の金型素材に戻す)ことができる。従って、清浄な金型表面を維持することができ、成形品の歩留まり、すなわち高い成形率を維持することができる。
【0011】
〔適用例2〕上述の適用例において、前記第1成形面および前記第2成形面には銅が露出し、前記加熱温度は300℃以上600℃以下であり、前記低酸素分圧は10-9Pa以下10-20Pa以上であることを特徴とする。
【0012】
上述の適用例によれば、金属ガラスなど成形材料の溶湯を注入し急速冷却し、所定の成形品を得る金型の材料として熱伝伝導率の高い銅を用い場合、金型素材の銅に対してダメージの少ない300℃以上600℃以下の金型加熱温度であっても、酸素分圧を10-9Pa以下10-20Pa以上とすることで、酸化還元反応が進行する。したがって、清浄な金型表面を維持することができ、成形品の歩留まり、すなわち高い成形率を維持することができる。例えば、本適用例の酸化還元による金型の清浄化を行わずに成形を実施した場合、連続して30サイクル程度まで成形した後、成形品の良品率、すなわち成形率は急激に低下し始め、40サイクル程度の成形で成形不能となる。
【0013】
〔適用例3〕本適用例の金型表面処理装置は、第1モールドベースと第2モールドベースを対向配置させ、パーティングライン面を介して内部にキャビティーを形成し、前記キャビティー内に成形材料を注入し、固化させて成形体を得る金型と、前記第1モールドベースと前記第2モールドベースとを可動させる金型可動装置と、前記成形材料を前記キャビティー内に注入する材料供給装置と、少なくとも前記金型が収納される減圧チャンバーと、を備え、前記第1モールドベースと前記第2モールドベースとが離間した際に、少なくとも前記キャビティーの一方の成形面となる第1成形面と、前記キャビティーの他の一方の成形面となる第2成形面とを加熱する加熱装置と、前記減圧チャンバー内を減圧する真空排気装置と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本適用例によれば、成形体の成形装置に、金型の加熱装置と真空排気装置とを備え、真空排気装置によって形成される低酸素分圧環境において加熱装置が金型を加熱することにより、酸化還元反応が励起され、金型表面に形成された酸化物を容易に金型素材に戻す(酸化前の金型素材に戻す)ことができる。さらに、成形装置に備えることで、金型の着脱をすることなく、金型表面の清浄化を可能とし、高い装置の稼働率と成形率を維持することができる。
【0015】
〔適用例4〕上述の適用例において、前記加熱装置は、加熱部と、前記第1モールドベースと前記第2モールドベースとが離間した際に前記加熱部を、少なくとも前記第1成形面と前記第2成形面とが加熱される領域まで移動させ、前記加熱部に熱源を発生させる駆動装置と、を備えることを特徴とする。
【0016】
上述の適用例によれば、成形装置から金型の着脱をすることなく、金型表面の酸化還元(清浄化)を行うことができ、高い装置の稼働率と成形率を維持することができる。
【0017】
〔適用例5〕上述の適用例において、前記加熱部が、高周波加熱用誘導コイルであることを特徴とする。
【0018】
上述の適用例によれば、金型表面処理装置内の減圧環境(真空度)に関係なく金型表面を加熱することができるため、高い真空度が得られる高額な真空減圧装置を必要としないため、装置の低コストを実現できる。また、従来技術のプラズマ放電に必要とする高圧電源でなくても、所定温度までの加熱が可能であるので安全性が高い装置が実現できる。
【0019】
〔適用例6〕上述の適用例において、前記加熱部が、レーザー照射部であることを特徴とする。
【0020】
上述の適用例によれば、金型表面処理装置内の減圧環境(真空度)に関係なく金型表面を加熱することができるため、高い真空度が得られる高額な真空減圧装置を必要としないため、装置の低コストを実現できる。また、従来技術のプラズマ放電に必要とする高圧電源でなくても、所定温度までの加熱が可能であるので安全性が高い装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る金型表面処理装置を示す、(a)は概略断面図、(b)は部分拡大断面図、(c)金型のその他の形態を示す断面図。
【図2】第1実施形態に係る金型表面処理装置の、成形品の成形状態を示す概略断面図。
【図3】銅のエリンガムダイアグラム。
【図4】第2実施形態に係る金型表面処理装置を示す概略断面図。
【図5】第3実施形態に係るフローチャート。
【図6】第3実施形態に係る金型表面処理工程の詳細を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係る金型表面処理装置100を示し、(a)は概略断面図、(b)は部分拡大断面図、(c)金型のその他の形態を示す断面図。後述するが、図1(a)に示す金型表面処理装置100は、本来の成形装置に金型表面処理手段を備えた装置である。第1実施形態として説明する金型表面処理装置100は、金属ガラスを成形する金型を備える成形装置を例に説明する。図1(a)に示すように、金型表面処理装置100は、基台10に減圧チャンバー20が気密に図示しない固定手段によって固定され、減圧チャンバー20内部に連通するパイプ30aを備える真空排気装置としての減圧ポンプ30によって減圧チャンバー20の内部を減圧環境に保持することができる。
【0024】
減圧チャンバー20は、内部に第1モールドベースとしての下型41と第2モールドベースとしての上型42と、下型41と上型42とを固定する金型保持手段50と、を内部に収納することができる。また金型保持手段50は基台10に図示しない固定手段によって固定されている。本実施形態は金属ガラスを成形する装置であり、下型41、上型42は急速冷却に対応するため熱伝導率の高い銅を用いることが好ましい。熱伝導率が高く、所定の強度を備えていれば、銅に限定されず、例えば超硬合金、鉄系合金、アルミ系合金などであっても良い。また金型保持手段50は強度確保のため鋼を用いることが好ましい。
【0025】
下型41、上型42に銅を用いる場合、図1(a)の下型41、上型42部分の拡大図である図1(b)に示すように、下型41のキャビティーを構成する第1成形面としての成形面41a、および上型42のキャビティーを構成する第2成形面としての成形面42a、には素材である銅が露出する。本願明細書における「成形面に露出」とは、金型材料が成形面41a,41bの前面にわたって露出する状態が好ましいが、これに限定されない。例えば、図1(c)に示すように下型41、上型42のどちらか一方、もしくは両方が成形面41a,41bを有し銅で形成される成形部41A,42Aと、成形部41A,42Aを支持する基体部41B,42Bと、により形成され、基体部41B,42Bが銅以外の材料により形成される形態の場合、成形面41a,42aに部分的に基体部41B,42Bの材料が露出している部位mがあっても良い。
【0026】
金型保持手段50は、図示しないネジなどの固定手段によって下型41が固定される第1プレート51と、上型42が固定される第2プレート52を備え、第2プレート52が固定される金型保持プレート53aと、金型保持プレート53aを基台10に対して支持する支持柱53bと、下型41の移動を規制するガイド部53cと、を有する金型支持部53を備える。ガイド部53cは、図1(b)に示す下型41のパーティング面41bと上型42のパーティング面42bとを密着させるために下型41を移動させる場合に、第1プレート51に設けたガイド部51aを介して、第1プレート51に固定された下型41の移動方向を規制する。
【0027】
本実施形態に係る金型表面処理装置100は、上述したように金属ガラス成形装置であって、金属ガラスの溶湯を金型に供給する材料供給装置としての金属ガラス供給装置60(以下、供給装置60)を備えている。また、金属ガラスの成形は、金属ガラス溶湯が下型41と上型42とによって形成されるキャビティーに注入され、急速に冷却、固化することによって成形材をアモルファス化するものである。そのための冷却装置70を備え、冷却装置70で生成された低温の冷却媒体を、搬送部70aを介して下型41および上型42に送ることで、急速に冷却する。なお、図1(a)では第1プレート51および第2プレート52に搬送部70aが接続され、第1プレート51および第2プレート52から下型41および上型42に冷却媒体を送る形態となっているが、下型41および上型42に搬送部70aが接続されても良い。
【0028】
図1(a)に示すように下型41と上型42が離間した状態、いわゆる型開きの状態において、下型41と上型42との間に、加熱部としての高周波加熱用誘導コイル80aが配置される。詳細は後述するが、下型41と上型42の動作に応じて下型41と上型42とが合わせられる、いわゆる型閉めされる際には、高周波加熱用誘導コイル80aを下型41と上型42とに干渉しない位置まで退避させるように駆動する駆動手段80bとを備える加熱装置80が備えられている。また高周波加熱用誘導コイル80aには高周波電源Vより高周波電流が供給される。
【0029】
また、下型41と上型42とを型閉じ、型開きさせるために図示上下方向(矢印P)に第1プレート51を移動させるための金型可動装置としての昇降手段90が基台10に備えられ、昇降部90aが第1プレート51と接続されている。
【0030】
図2は第1実施形態に係る金型表面処理装置の、成形品の成形状態を示す概略断面図であり、成形物の成形時における高周波加熱用誘導コイル80aの位置を説明する図である。図2に示すように、下型41が昇降手段90によって上型42と組み合わされ、形成されたキャビティー内に金属ガラス溶湯が供給装置60より供給され、成形物Mが形成される。この時、高周波加熱用誘導コイル80aは、下型41、上型42と干渉しない位置に駆動手段80bによって移動されている。
【0031】
次に、下型41を上型42から昇降手段90によって離間させる方向(図示下向き)に移動する。いわゆる型開き状態として、成形物Mを取り出す。次に、下型41および上型42の成形面の状態を確認し、表面の処理が必要と判断した場合、図1に示すように高周波加熱用誘導コイル80aが駆動手段80bによって下型41と上型42との間に配置される。
【0032】
本実施形態に係る金型表面処理装置100における金型表面処理について説明する。本実施形態に係る金型表面処理装置100は上述したとおり金属ガラス成形装置でもある。金属ガラスの成形には原料材料を約1000℃で溶湯化し、キャビティー内に射出もしくは鋳込みによって注入し、キャビティー内で急速冷却することでアモルファス化した素材の成形体を得ることができる。したがって、キャビティーを形成する下型41および上型42の成形面は高温に曝され酸化し易くなってしまう。形成された銅酸化物は、銅に比べて熱伝導率が低く、成形物の冷却速度を遅くし、アモルファス化されない成形物を製造してしまう虞がある。
【0033】
本実施形態における金型表面処理とは、上述のように金型表面に形成された金型母材の酸化物を還元し、除去する処理をいう。この処理は金属冶金プロセスにおける酸化・還元反応に基づく処理である。この酸化・還元反応は図3に示すエリンガムダイアグラムから酸化物を金属に還元するための温度・酸素分圧を知り得ることができる。図3は、本実施形態に係る下型41、上型42が銅で形成されているので、銅のエリンガムダイアグラムを示している。
【0034】
図3に示す酸化・還元の絶対温度下における平衡点は、標準ギブズエネルギーもしくは生成自由エネルギーとして下記式で与えられる。
【0035】
【数1】

【0036】
図3に示す銅のエリンガム線図において、絶対温度T´=700°Kにおける生成自由エネルギーは点Aが示す約−250kj/molである。この点Aと点Oとを結ぶ直線Lと酸素分圧を示す目盛線との交点が示す酸素分圧10-14Paが得られる。すなわち、絶対温度T´=700°Kにおいて酸素分圧10-14Pa以下の条件下において銅の酸化物は還元されて銅となることを示す。
【0037】
ここで銅の基本的な物性として、600℃を超える温度で加熱すると軟化が著しくなるため、表面処理温度は600℃を超えないことが条件となる。図3において、600℃(873.15°K)における生成自由エネルギーを示す点A1と、点Oとを結ぶ直線L1が、酸素分圧を示す目盛線との交点が示す酸素分圧10-9Paを示す。すなわち、酸素分圧10-9Pa雰囲気中で下型41、上型42を600℃加熱することで、下型41、上型42の表面に形成される銅酸化物が還元され、銅に戻される。
【0038】
図3に示すように、酸素分圧が低いほど低温での酸化還元は可能になるが、複数回にわたり高純度ガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウムガス、によって減圧チャンバー20内部の酸素と置換させ、10-20Pa程度の酸素分圧を得ることが現実的な低酸素分圧の限界値であり、この点から酸素分圧10-20Paの目盛点と点Oとを結ぶ直線L2が、銅の生成自由エネルギー線と交わる点A2から、加熱温度が300℃以上で酸化還元できることがわかる。
【0039】
以上、説明したように銅から形成される下型41、上型42に形成される銅酸化物は、酸素分圧10-9〜10-20Pa雰囲気中において、300〜600℃に加熱することにより還元され、下型41、上型42の成形面は、型素材である銅が露出される。
【0040】
(第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態に係る金型表面処理装置100における加熱装置80をレーザー照射装置に置き換えたものであり、第1実施形態に係る金型表面処理装置100と共通する説明は省略する。
【0041】
図4は第2実施形態に係る金型表面処理装置110を示す概略断面図である。図4に示すように下型41と上型42が離間した状態、いわゆる型開きの状態において、下型41と上型42との間に、レーザー照射部81aが配置され、下型41と上型42の動作に応じて下型41と上型42とが型閉めされる際には、レーザー照射部81aを下型41と上型42とに干渉しない位置まで退避させるように駆動する駆動手段81bと、レーザーを生成するレーザー発信機81cとを備えるレーザー加熱装置81が備えられている。
【0042】
なお、金型表面処理装置100および金型表面処理装置110には、加熱される下型41および上型42の表面温度を測定する温度センサーを備えることが好ましい。温度センサーに限定は無いが、赤外線式放射温度計が好適に用いられる。
【0043】
(第3実施形態)
第3実施形態として、上述の金型表面処理装置100,110を用いた金型表面処理方法を説明する。図5および図6は、金型表面処理装置100,110を用いて金型表面処理を行うフローチャートである。
【0044】
金属ガラスの成形体を得る成形工程(S1)では、成形体の成形が繰り返し行われる。繰り返し成形が行われると、成形回数を増すごとに下型41、上型42の成形面には酸化物が形成され、成形品に成形不良が発生してくる。この不良発生の成形回数を予備成形あるいは試し成形などにより確認し、良品成形可能回数を規定値として、成形回数が規定値に達したか(S2)、を判断する。
【0045】
規定値に達しない、すなわちS2においてNOと判断された場合にはS1に戻り、成形を実行する。規定値に達した、すなわちS2においてYESと判断された場合には、図1に示すように下型41と上型42が離間した状態、いわゆる型開き状態であるかを判断する(S3)。S3の型開きの状態であるかの判断の手段としては、例えば昇降装置90における昇降部90aの位置を検出し型の開閉を判断する、あるいは光センサーによって高周波加熱用誘導コイル80aの移動領域に障害物(金型)が存在しているかどうかを検出する、などの方法が用いられる。
【0046】
S3において型開き状態である(YES)と判断されると、加熱部移動工程(S4)に移行する。加熱部移動工程(S4)では、加熱部80aを下型41と上型42とで挟まれる領域に移動する(図1参照)。なお、S3において型開き状態に無い(NO)と判断されると、型開きの動作が、図示しない金型表面処理装置100に備える制御部により実行され、再度、型開き状態であるかを判断するS3を実行する。
【0047】
加熱部移動工程(S4)によって、加熱部80aが所定の位置に移動すると金型表面処理工程(S5)に移行する。金型表面処理工程(S5)では、図6のフローチャートに示す処理が行われる。まず減圧チャンバー20の内部が減圧ポンプ30によって所定の圧力に減圧されるチャンバー内減圧工程(S51)が実行される。減圧チャンバー内の圧力は特に限定は無いが、1Pa程度の圧力にすることが好ましい。なお、上述の成形工程(S1)において、金属ガラスを成形する場合に、減圧チャンバー20内を約1Paの減圧環境で行われるので、S1からS5、あるいは後述のS6までの工程を減圧環境内で実施することもできる。
【0048】
所定の圧力までS51において減圧されると、次に減圧チャンバー20内の酸素濃度測定を行い、既定の酸素濃度以下になっているかを判断する(S52)。上述した通り、酸化還元反応は図3に示す銅のエリンガムダイアグラムから、温度条件と酸素分圧条件とが求められる。本実施形態の銅の金型の場合、後述する加熱工程(S54)において300℃から600℃の温度範囲で加熱され、その場合の酸素分圧は10-9〜10-20Paとすることで還元反応が起こる。酸素分圧は圧力に酸素濃度を乗じたものであるので、減圧チャンバー20内の圧力を1Paに維持した場合、酸素濃度の規定値としては純酸素を1.0とした場合に、酸素分圧は10-9〜10-20の範囲で規程される。
【0049】
S52において規定値の酸素濃度以下になっていないと判断される(NO)と、減圧チャンバー20内の酸素と置換するガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウムなどを減圧チャンバー20内に供給し酸素を排出しながら所定圧力に減圧チャンバー20内を維持することで、酸素濃度を低下させる。
【0050】
S52において規定の酸素濃度以下になったと判断される(YES)と、次の加熱工程(S54)に移行する。加熱工程(S54)では、例えば図1に示す高周波加熱用誘導コイル80aに高周波電源Vより高周波電流が供給され、下型41、上型42は発熱する。下型41、上型42の表面温度が300℃〜600℃の範囲で、還元反応が進行し、下型41および上型42の表面に形成されていた銅酸化物が還元され、型表面は銅となる。
【0051】
なお、第2実施形態に係る金型表面処理装置110の場合には、レーザー加熱装置81に備えるレーザー照射部81aは、下型41、上型42の表面に均一かつ全体にレーザーが照射されるように、駆動手段81bによって移動させながらレーザーを照射する。このようにして金属表面処理工程(S5)が行われ、次に加熱部移動工程(S6)に移行する。このように高周波加熱用誘導コイル80aによって金型に生じる誘導電流により加熱するので、成形面の凹凸、あるいは高周波加熱用誘導コイル80aから成形面での距離の影響を受けない均一な成形面41a,42aの加熱を行うことができる。また、レーザー加熱装置81によって金型表面を加熱する場合でも、レーザー照射部80aを移動させながらレーザーを照射させることで、成形面の凹凸、あるいは高周波加熱用誘導コイル80aから成形面での距離の影響を受けない均一な成形面41a,42aの加熱を行うことができる。
【0052】
加熱部移動工程(S6)は、加熱部移動工程(S4)とは逆の動作で、加熱部80aを退避させ、図2に示すように、型閉じの状態で金型と干渉しない位置まで加熱部80aを移動させる。加熱部移動工程(S6)が終了すると、再び成形可能な状態となるので成形工程(S1)に移行し、金属ガラス成形を再開する。
【0053】
金型表面処理装置100,110を用いることにより、上述の金属ガラス成形用金型表面に形成される金型の急速冷却を阻害する酸化物を容易に還元することができる。また、還元反応は上述の実施形態で説明したとおり、金属ガラスの成形装置に組み込まれた形態であり、金属ガラス成形体の成形工程の中に金型表面処理である酸化物の還元処理を組み込むことが可能となり、さらに、酸化物を金型表面から、例えば研削、エッチングなどの物理的な方法で削除する方法ではなく、還元反応によって酸化物を酸化前の状態に戻す方法であるので、金型寸法の変化が無い、すなわち成形品の寸法変化が発生しない処理方法である。したがって、金属ガラスの精密部品成形に優れた効果を発生する。
【0054】
なお、上述の実施形態では金属ガラスを成形する金型を例に説明したが、成形材料としてはこれに限定されず、樹脂成形の金型にも適用することができる。樹脂材料を成形する金型の場合には、酸化膜が形成された場合には酸化還元反応によって酸化物は処理するが、有機物からなる付着物は金型を高温にすることによって蒸散させて金型から除去することができる。
【符号の説明】
【0055】
10…基台、20…減圧チャンバー、30…減圧ポンプ、41…下型、42…上型、50…金型保持手段、60…金属ガラス供給装置、70…冷却装置、80…加熱装置、90…昇降手段、100…金型表面処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モールドベースと第2モールドベースを対向配置させ、パーティングライン面を介して内部にキャビティーを形成し、前記キャビティー内に成形材料を注入し、固化させて成形体を得る金型であって、
前記第1モールドベースは前記キャビティーの一方の成形面となる第1成形面を備え、前記第2モールドベースは前記キャビティーの他の一方の成形面となる第2成形面を備え、
前記成形体の成形工程前に、少なくとも前記第1成形面と前記第2成形面とを低酸素分圧雰囲気として、前記第1成形面と前記第2成形面とを加熱する、
ことを特徴とする金型表面処理方法。
【請求項2】
前記第1成形面および前記第2成形面には銅が露出し、
前記加熱温度は300℃以上600℃以下であり、
前記低酸素分圧は10-9Pa以下10-20Pa以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の金型表面処理方法。
【請求項3】
第1モールドベースと第2モールドベースを対向配置させ、パーティングライン面を介して内部にキャビティーを形成し、前記キャビティー内に成形材料を注入し、固化させて成形体を得る金型と、
前記第1モールドベースと前記第2モールドベースとを可動させる金型可動装置と、
前記成形材料を前記キャビティー内に注入する材料供給装置と、
少なくとも前記金型が収納される減圧チャンバーと、を備え、
前記第1モールドベースと前記第2モールドベースとが離間した際に、少なくとも前記キャビティーの一方の成形面となる第1成形面と、前記キャビティーの他の一方の成形面となる第2成形面とを加熱する加熱装置と、
前記減圧チャンバー内を減圧する真空排気装置と、を備える、
ことを特徴とする金型表面処理装置。
【請求項4】
前記加熱装置は、
加熱部と、
前記第1モールドベースと前記第2モールドベースとが離間した際に前記加熱部を、少なくとも前記第1成形面と前記第2成形面とが加熱される領域まで移動させ、前記加熱部に熱源を発生させる駆動装置と、を備える、
ことを特徴とする請求項3に記載の金型表面処理装置。
【請求項5】
前記加熱部が、高周波加熱用誘導コイルである、
ことを特徴とする請求項4に記載の金型表面処理装置。
【請求項6】
前記加熱部が、レーザー照射部である、
ことを特徴とする請求項4に記載の金型表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−206477(P2012−206477A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75814(P2011−75814)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】