説明

金属、特に鋼を腐食及び/又はスケーリングから保護するためのコーティング剤、並びに金属及び金属部品のコーティング方法

【課題】コーティングされた鋼板の熱処理後においても溶接(特にスポット溶接)することが可能な、コーティング材を提供すること。
【解決手段】840℃以上の温度による高温処理に供されたときに構造変化し、更なるコーティング材のための適切なプライマーとして機能し、容易に酸化され得る有機成分を含有する、容易に酸化され得る有機系若しくは無機/有機系の結合剤が、導電性の金属若しくは非金属の充填剤と結合することにより、塗布されたコーティング材が溶接に適するようになり、前記コーティング材が還元状態のときに酸化プロセスに対して耐性を示す導電性化合物が前記コーティング材中に含まれ、湿式−化学的方法により塗布できることを特徴とするコーティング材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腐食及び/又はスケーリングから金属(特に鋼)を保護するためのコーティング材料、金属のコーティング方法、並びに金属部品の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業においては、ボディ部品などの耐荷重の鋼製の部品は通常、高強度の熱処理された鋼材から製造される。この製造においては、鋼を800〜900℃以上の温度でアニールし、鋼を熱成形し、かなり迅速な冷却速度で再び冷却することにより、そのオーステナイト形に変換する工程を含んでなり、それにより高強度の、マルテンサイトミクロ構造が形成される。冷却し、その後硬化させる工程を形成装置内で行う場合、通常プレス硬化という。この方法により、高強度の部品の製造が可能となる。大型の部品及び複雑なジオメトリを有する部品を生産する際には、近年、室温でのプレ成形(低温成形)、それに続く、予備成形された部分の熱成形(プレス硬化)からなる二段階成形工程の使用が一般化しつつある。但し熱成形においては、鋼面のスケーリングの発生が課題として存在する。
【0003】
スケーリングという用語は、空気中の高温の酸素と金属が直接反応することにより生じる酸化のことを指す。鋼の表面に形成されるスケール層は硬くて脆いため、特に冷却工程の間、土塊のような状態で母材から剥がれ落ちる。
【0004】
スケール層は部品及び形成装置にダメージを与えるため、各形成段階の後に洗浄工程を行い、スケールのフレークを除去する必要がある。ゆえに、使用する金属シートが保護されていない場合、連続生産のために必要な数の部品の押圧硬化は極めて困難となる。更に、良好な腐食防止がなされている場合、それらが更に加工される前に、部品からスケールをサンドブラストにより除去する必要がある。なぜなら、さもなくば、以降の工程(例えばリン酸処理及び電気泳動浸漬コーティング)の材料として不適当なものとなるからである。
【0005】
鋼のための防錆コーティングが従来公知である。アルミニウム若しくはアルミニウム合金、又は、亜鉛若しくは亜鉛合金による金属コーティングを行う場合、ホットディップ又は電気めっき工程を経て鋼上に析出させる。
【0006】
特許文献1では、熱圧延シートへの金属又は金属合金のコーティングに関して記載されている。この場合のコーティングはアルミニウム、又はアルミニウム、鉄及びケイ素の合金の層であり、前記層は熱浸漬コーティング(ホットディップアルミナイジング)により付与される。この種類の保護層により、オーステナイト化温度への加熱工程の間、スケーリングに対する顕著に有効な保護が可能となる。しかしながらそれは、押圧硬化の操作において使用する場合には問題点が存在する。これらは、特に複雑なジオメトリを有する部品を形成する際に顕著となる。特許文献2では、特許文献1に記載されているホットディップ工程の間、鋼と実際のコーティングとの間に金属間合金相が既に形成されており、この金属間合金相は硬くて脆いため、冷却時の変形によりひび割れが生じることを記載している。生じるひび割れにより、母材からのコーティングの剥離が生じ、それによりその保護機能が損なわれる。この説明、並びに鋼スラッグ又は鋼部品の成形における経験上、ホットディップアルミナイジングは低温成形には不適当であり、ゆえに、低温及び熱成形の二段階工程には当然ながら不適当である。特許文献2では、これらの課題が、電気めっき方法を使用した、有機−非水溶性溶液からの金属保護コーティングにより解決されうることを示唆している。その意図は、アルミニウム若しくはアルミニウム合金の、又は亜鉛若しくは亜鉛合金の層を析出させることである。しかしながら、鋼上へのアルミニウムの電気めっきは、非常に時間及びコストのかかる方法である。
【0007】
代わりに亜鉛及び亜鉛合金が用いられる場合も、熱成形用途において問題点が存在するが、その理由は、加熱することにより大部分の亜鉛が酸化するか、又は保護ガスが用いられている場合には蒸発するからである。
【0008】
特許文献3から5では、様々な硬化鋼部品の製造方法を開示している。いずれの場合においても、酸素に対する親和性を有する他の元素(特にアルミニウム)と組み合わせた亜鉛を含んでなる保護コーティングが、鋼に適用されている。この保護コーティングは、特許文献4ではホットディップ工程により実施され、特許文献3及び5ではホットディップ又は電気めっき工程により実施されている。しかしながら、これらの文献で記載されている、主な成分として亜鉛を含有する全てのコーティング材の共通の特徴としては、それらがプレス−硬化工程で必要となるオーステナイト化温度において酸化及び蒸発に影響されやすいことや、その表面上に存在する微量の汚損(例えばダスト)が燃焼し、その部分における拒絶が生じることが挙げられる。
【0009】
特許文献6の記載により、ゾル−ゲル工程による色素含有又は充填剤含有ポリシロキサンベースの組成物の調製方法が公知となっている。この工程の第一段階で、エポキシ基を含有するオルガノシラン(アルコキシシラン)がゾル状に加水分解され、第二段階で当該ゾルがゲルに変化する。使用する色素又は充填剤は、少なくとも500nmの平均粒子径を有する。当該組成物は、最大平均分子量1,000の芳香族ポリオールを含有しうる。
【0010】
特許文献7では、基材(特に自動車本体)への、単層コーティング又は多層コーティングシステムにより塗布されるゾル−ゲルコーティング材料を開示している。当該ゾル−ゲルコーティング材を使用する目的は、接着における問題を生じさせることなく、既に硬化したコーティングシステム上に、可能な限り短い時間でスクラッチ耐性コーティングを行うことである。この場合、シロキサン含有コーティング材は有機成分により修飾される。当該ゾル−ゲルコーティング材の主成分はアクリル酸コポリマー溶液及びゾルである。
【0011】
特許文献8では、加水分解及び凝縮工程によって調製した(ヘテロ)ポリシロキサンベースのコーティング組成物を基材に塗布し、前記コーティング組成物を硬化させることによる、金属基材の腐食保護方法を開示している。当該コーティング組成物は、金属と反応又は相互作用して金属Yを形成する、少なくとも1つの金属Zを含んでなり、それは金属Xより負の生成エンタルピーを有する。当該コーティング組成物は、湿式の化学工程により塗布することができる。しかしながら、当該コーティングはスポット溶接どころか、溶接に適するとも記載されていない。
【0012】
特許文献9では、少なくとも1つの有機系の塗膜形成成分、粒子形の少なくとも1つの無機化合物、及び少なくとも1つの潤滑材を含有する水性組成物を金属表面に塗布する方法を開示している。特許文献10に記載されている組成物は、有機系の塗膜形成成分に加えて、陽イオン及び/又は陽イオンのヘキサフルオロ錯体、並びに粒子状の少なくとも1つの無機化合物を含有する。
【0013】
特許文献11は、ケイ素化合物を含有し、主に表面コーティング材の調製に用いられる、塗料の原料としての物質に関して開示している。当該物質は、少なくとも1つのアルキルトリアルコキシシラン、少なくとも1つのアルコキシシラン及び/又は少なくとも1つのテトラアルコキシシラン、少なくとも1つの含水ケイ酸ゾル、少なくとも1つの酸性、並びに少なくとも1つのアルコール若しくは少なくとも1つのグリコールを含有する反応性混合物である。
【0014】
特許文献12では、着色された若しくは機能性多層コーティングを施されたアルミニウムコイルを開示している。当該コイルは、それらの表面のうちの少なくとも1つに、着色性のパウダースラリー、クリアラッカー及び有機物質で修飾されたセラミック材料をベースとする密封剤からなる、組合せ効果を有するコーティングが施されている。
【0015】
特許文献13では、有機官能性シラン、金属化合物及び低揮発性オキシドを使用した機能性コーティングの調製方法に関して開示している。当該方法は、加水分解による縮合、有機系の架橋可能なプレポリマーを当該加水分解による縮合物に添加し、このようにして得られたコーティング溶液を基材に塗布し、その後硬化させることを含んでなる。
【0016】
特許文献14では、エポキシ基を含有する加水分解性のシランをベースとする組成物の調製方法に関して開示しており、当該方法では、粒子状物質、好ましくは非イオン性活性剤又は芳香族性ポリオールが、予め加水分解されたケイ素化合物に添加され、それにより、親水性が持続され、防錆効果を有し、良好な接着性及び高い透明度を有するスクラッチ耐性コーティング材が得られる。
【0017】
湿式−化学的方法により施される防錆コーティングの分野において、例えば有機系の保護コーティングが公知である。それらの幾つかは、亜鉛色素を充填した保護エナメル質である。これらは、好ましくは電気亜鉛めっき又はホットディップ亜鉛めっきされた鋼面上の更なるシーリング層として施されることにより、低温での用途において良好な防錆効果を提供する。しかしながら、それらは熱安定性が不十分なため、800℃以上の温度を伴う熱成形及びプレス硬化工程には使用できない。多数の有機物ベース若しくはゾル−ゲルベースの錆止めコーティングも同様である。
【0018】
現在では、湿式−化学的塗布に適し、鋼材を腐食及び/又はスケーリングから保護し、600℃以上の温度でコーティングされた鋼板を熱処理した後においても溶接に適するコーティング材は存在しない。この溶接適合性としては、具体的には、スポット溶接に供される、コーティングされ、その後熱処理された鋼部分の適合性が挙げられるが、当該工程において、コーティング/部品コンポジットは、上記した熱処理の後においても十分高い導電率を必要とする。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1013785A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10246614A1号明細書
【特許文献3】国際公開第2005/021820A1号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2005/021821A1号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/021822A1号パンフレット
【特許文献6】独国特許出願公開第10039404A1号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第19940857A1号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第19813709A1号明細書
【特許文献9】独国特許出願公開第10149148A1号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第10161383A1号明細書
【特許文献11】独国特許出願公開第10141687A1号明細書
【特許文献12】独国特許出願公開第10027265A1号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第0610831A2号明細書
【特許文献14】国際公開第95/13326A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上より、本発明が解決しようとする課題は、コーティングされた鋼板の熱処理後においても溶接(特にスポット溶接)することが可能な、コーティング材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題は、本発明の新規なコーティング材、詳細には、840℃以上の温度による高温処理に供されたときに構造変化し、更なるコーティング材のための適切なプライマーであり、容易に酸化され得る有機成分を含有する、容易に酸化され得る有機系若しくは無機/有機系の結合剤が、導電性の金属若しくは非金属の充填剤と結合することにより、塗布されたコーティング材が溶接に適するようになり、前記コーティング材が還元状態のときに酸化プロセスに対して耐性を示す導電性化合物が、前記コーティング材中に含まれ、湿式−化学的方法により塗布できることを特徴とするコーティング材により解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
発明者らは驚くべきことに、湿式−化学的方法により適用されることができ、スケーリングに対して良好な保護を提供し、溶接(特に点溶接のために)にも適するコーティング材を提供することを可能にする手段を見出した。
【0022】
適切な充填剤を含有する適切な結合剤の使用により、本発明のコーティング材は、硬化工程の高温処理段階の間、変化する。この変化は、導電性の反応性層が金属基質と共に形成されるような態様で行われ、またかかる変化は、800℃以上の温度による処理後においても溶接、特に点溶接に適している。高温工程の間、結合剤は、10分未満の時間、600℃以上の温度で酸化される。有機成分が燃焼し、ガス状生成物及び導電性の煤煙が形成される。有機成分の燃焼の間、還元条件がコーティング層中に形成され、高温工程の間、金属色素を酸化から保護する。酸化による絶縁コーティング成分の除去後、コーティングに含まれる金属色素及び非金属導電性粒子が基材表面と結合して導電性表面が形成される。湿式−化学的方法により塗布できない従来技術のコーティング材と比較して、本発明のコーティングには、以下の利点が存在する:当該コーティング材は、コイルコーティング技術以外にも広範囲に適用でき、カーテンコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、フラッディングなどの他の方法により塗布でき、それにより、コイル及びスラッグ以外に、三次元構造を有する部品にも使用できる。当該コーティング材は多機能性である。すなわち、腐食及び/又はスケールから保護するそれらの主要な機能に加えて、低温−及び熱成形工程の間、潤滑効果を発揮しうる成分を添加することにより、表面滑剤が不必要となるという効果も有する。更なる効果としては、当該コーティング材が極薄い層厚(低いμm範囲)で塗布できるということであり、それにより導電率が改善され、材料及びコスト削減が可能となる。熱成形工程後、更に高い導電率が要求される場合、薄い導電性プライマーを当該コーティング上に塗布してもよい。
【0023】
成形工程又は高温成形工程の後、コーティング材が基材表面に残存でき、それにより、例えばスクラッチ耐性が強化され、防錆効果が改善され、美的態様(色、抗フィンガープリント性の強化)が得られ、曇り防止効果(金属又はPVD面の場合)が得られ、導電率の改変効果(静電気防止効果、絶縁効果)が得られ、また、通常の下流工程(例えばリン酸化及び電気泳動浸漬コーティング)に用いるプライマーとしての機能も発揮することができる。
【0024】
本発明の他の実施形態では、塗布したコーティング材を溶接に適合させるために、有機系、無機系、又は有機−無機系結合剤のマトリックスには、還元条件下で840℃超の温度で加熱されることにより導電性相を形成する化合物(特に金属塩、金属アルコキシド、鉄、銅、タングステン及びアルミニウムのカーバイド及びリン化物)、並びに導電性オキシド(特にアンチモンスズオキシド(ATO)及びインジウムスズオキシド(ITO)が含有される。
【0025】
金属塩は好ましくは亜族金属(Nebengruppenmetal)の塩である。
【0026】
本発明の他の実施形態は、コーティングを溶接に適合させるために、当該コーティング材に、高温での酸化プロセスに対する耐性を有する導電性化合物(具体的には特殊鋼色素、色素又は貴金属、銅、スズ、黒鉛及び煤煙の粉末、及び高温耐性半導体(例えばシリコンカーバイド))を含有させることを特徴とする。
【0027】
コーティングの溶接に対する適合性は、高温での酸化工程に対する耐性を有し、硬化工程前及び工程中においてスポット溶接に必要な導電率を有する、導電性化合物の選択性添加によって得られる。
【0028】
本発明の別の実施形態は、コーティングが還元条件にあるとき、酸化プロセスに対して耐性を示す導電性物質が、鉄、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、黒鉛及び煤煙の色素及び粉末から選択されることを特徴とする。
【0029】
上記のコーティング中の還元状態は、特に結合剤により誘導されうる。
【0030】
本発明では、コーティング材は、5〜95重量%、好ましくは10〜75重量%の結合剤、並びに0〜90重量%、好ましくは25〜75重量%色素及び/又は充填剤を含有する。
【0031】
本発明では、結合剤としては、有機化合物(具体的にはポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エステル及びメタクリル酸)、有機−無機化合物(具体的にはアルキルアルコキシシラン、アルコキシシラン又はそれらの混合物の加水分解及び縮合によるオリゴシロキサン及びポリシロキサン)、又はシリコーン類(シリコーン樹脂又は有機修飾されたシリコーン樹脂)、又は純粋な無機化合物(具体的にはシリケート、ポリホスフェート及びアルミノシリケート)、又は金属、金属アルコキシド及びそれらの縮合物、金属酸化物及び金属塩などが挙げられる。
【0032】
コーティング材が金属色素を、具体的にはアルミニウム、亜鉛、鉄、スズ、銅、マグネシウム、高純度の鋼、銀若しくは他の貴金属、又は金属塩を含有するのが好適である。
【0033】
これらは、防錆性を改良し、及び/又は高温腐食(スケール形成)を防止するのに役立つ。
【0034】
コーティング材中に、潤滑材(具体的には天然及び合成ワックス、オイル、ポリテトラフルオロエチレン及びフルオロエチレンプロピレンなどのポリマー)、熱可塑性物質(特にポリエチレン及びポリアミド)、ステアリン酸塩(アルミニウム、亜鉛、マグネシウム及びリチウム系の石鹸)、高級脂肪酸、塩素、リン及び硫黄含有有機化合物、カルシウム又はバリウムのフッ化物、カルシウム及び亜鉛のリン酸化物、酸化物、水酸化物及び硫化物、並びに金属(具体的には鉛、銅、スズ、銀、金、インジウム及びニッケル)を含有させるのが好適である。
【0035】
本発明においては、当該コーティング材にグリース、具体的には無機グリース、好ましくは黒鉛、煤煙、窒化ホウ素、窒化チタン、二硫化モリブデン及び二硫化タングステンなどを含有させてもよい。
【0036】
これらのグリースは、特に高い温度で実施される工程に適している。
【0037】
本発明は更に、1つ以上の防錆色素又は腐食抑制剤を含有するコーティング材の提供に関する。かかる物質としては具体的にはシリケート、ポリホスフェート、タンニン誘導体、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルカリスルホネート、亜鉛の有機窒素含有酸塩及びリン酸塩、カルシウム、マグネシウム、亜鉛又はアルミニウムのクロム酸塩及びモリブデン酸塩が挙げられる。
【0038】
このようにして腐食耐性が改良される。
【0039】
本発明では、当該コーティング材はスポット溶接に適している。
【0040】
本発明はまた、金属(特に鋼)に本発明のコーティング材を塗布する方法の提供に関し、当該コーティング材は、湿式−化学的コーティング工程(例えばナイフ塗布、浸漬コーティング、スプレーコーティング、ローラー塗布、フラッディング又はカーテンコーティング)によって基材に施され、硬化処理によって基材の表面に強固に結合する。
【0041】
本発明の1つの変形態様では、室温〜800℃の温度範囲、好ましくは室温〜300℃の温度で硬化させる。加熱された空気、NIR、IR、UV範囲の放射、電子ビーム又は電磁誘導によって高い温度が設定される。
【0042】
上記のような通常の乾燥又は硬化段階の後、コーティング材は充分な導電率を示し、それにより溶接にとり好適となる。
【0043】
本発明の他の態様では、基材に対するコーティング材の塗布後に、コーティング材/基材複合体が840℃〜1,300℃の温度、好ましくは840℃〜1,000℃の温度に加熱される高温加工処理が行われる。
【0044】
熱処理によりコーティング材の化学構造の変化が生じ、通常、金属にとっての技術的重要性を有する構造(例えば押圧、鍛造、などによる金属の処理性(その成形特性))が改良される。熱処理は、成形の有無にかかわらず、実施される硬化工程の一部として実施されてもよい。熱処理の利点としては、得られる構造が充分な導電率を示し、標準的な溶接技術(特に点溶接)による溶接を可能にするということである。更に、コーティング材は、全ての標準的な低温−及び熱成形工程により形成されうる。
【0045】
更に高温加工段階は1秒〜数時間、好ましくは1秒〜30分実施する。
【0046】
本発明では、金属基材としては、鋼、鋼合金、又は金属コーティングを施された鋼(例えばアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、スズ、又はアルミニウム−ケイ素、アルミニウム−鉄、亜鉛−鉄、亜鉛−ケイ素及び亜鉛−アルミニウム−ケイ素などの適当な合金でコーティングされた鋼)が挙げられる。
【0047】
本発明では、コイル、スラッグ又は他の部品(具体的にはロッド、ワイヤ、パイプ、成形物、鍛造物又はキャスティング生成物)が鋼の基材として用いられる。
【0048】
最後に、本発明はまた、本発明のコーティング材により得られる金属部品の提供に関する。
【0049】
かかる金属部品の例としては、具体的には自動車部品(例えばボディ及びエンジン部品)、電車及び航空機の部品、機械、工業用プラント及び農業機械に使用する金属部品、並びに建設及び鉱業用の金属部品などが挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下の3つの実施例を参照することにより、本発明を詳細に説明する。
【0051】
<実施例1>:
10gの黒鉛粉末(粒度<10μm)を、60%のシリコーンポリエステル溶液(例えばキシロール中溶液、商品名「Silikoftal」として市販)100gに添加し、撹拌機を使用して完全に溶解させた。70gのエタノール、10gのカルナウバワックス分散液(ストッダード溶媒中、20重量%の固形分)、50gのアルミニウム顔料ペースト(例えばSchlenk社製、Decomet Hochglanz、Al 1002/10)及び20gの亜鉛ペースト剤(例えばZinkflake GTT、エッカルト社製)を混合液に添加し、数時間にわたり、パドルスターラー(低いせん断力)で均一に撹拌した。
【0052】
ブチルグリコールで適当に希釈した後、得られるコーティング材をグラビティカップ(例えばSata Jet、1.2mmのノズル)を装着したスプレー機を使用して、アルカリで脱脂した鋼製の基材に塗布するか、又は、適切な基材ジオメトリ(平坦な金属シート又はスラッグ)の場合、ドクターナイフを用いて薄い、ウエットな薄膜として塗布した。10〜40μmの厚が得られた。コーティングを、220℃の表層温度で約10分間硬化させた。あるいは、コーティングは、ローラー(例えばコイルコーティング)によって、金属シートに塗布し、230〜240℃のピーク金属温度(PMT)でストーブで加熱してもよい。
【0053】
<実施例2>:
30gの黒鉛粉末(粒度<10μm)を、60%のシリコーンポリエステル溶液(例えばキシロール中溶液、商品名「Silikoftal」として市販)100gに添加し、撹拌機を使用して完全に溶解させた。70gのキシロール、10gのカルナウバワックス分散液(ストッダード溶媒中、20重量%の固形分)及び30gのアルミニウム顔料ペースト(例えばSchlenk社製、Decomet Hochglanz、Al 1002/10)を混合液に添加し、数時間にわたり、パドルスターラー(低いせん断力)で均一に撹拌した。
【0054】
ブチルグリコールで適当に希釈した後、得られるコーティング材をグラビティカップ(例えばSata Jet、1.2mmのノズル)を装着したスプレー装置を使用して脱脂した亜鉛めっき鋼基材に塗布するか、又は、適切な基材ジオメトリ(平坦な金属シート又はプレート)の場合、ドクターナイフを用いて薄い、ウエットな薄膜として塗布した。10〜40μmの厚が得られた。コーティングを、220℃の表層温度で約10分間硬化させた。あるいは、コーティングは、ローラー(例えばコイルコーティング)によって、亜鉛めっき鋼シートに塗布し、230〜240℃のピーク金属温度(PMT)でストーブで加熱してもよい。
【0055】
<実施例3>:
50gのブチルアルコール及び85gの鉄色素ペースト剤(例えばSTAPA TA Ferricon 200、エッカルト社製)を、60%のシリコーンポリエステル溶液(例えば商品名「Silikoftal」、キシロール中溶液)100gに添加し、低いせん断力で均一に撹拌した。
【0056】
得られたコーティング材を、グラビティカップ(例えばSata Jet、1.4mmのノズル)を装着したスプレー装置を使用してアルカリ脱脂された鋼製基材に塗布するか、又は、適切な基材ジオメトリ(平坦な金属シート又はスラッグ)の場合、ドクターナイフを用いて薄い、ウエットな薄膜として塗布した。10〜40μmの厚が得られた。コーティングを、250℃の表層温度で約10分間硬化させた。
【0057】
<実施例4>:
適切な溶剤(例えばSolvesso 150芳香族化合物混合液)250gを、ポリエステル樹脂溶液(例えば、商品名Desmotherm VP LS 2218として市販)100gに添加し、均一に撹拌した。プレート状の銅粉末(例えばSTANDART Kupferpulver Feinschliff GTT、エッカルト社製)80gを、希釈されたポリエステル樹脂に添加し、パドルスターラー(低いせん断力)で均一に撹拌した。10gの黒鉛粉末(粒度<10μm)及びカルナウバワックス分散液(ストッダード溶媒中、20重量%の固形分)10gを混合液に添加し、完全に溶解させた。
【0058】
得られたコーティング材を、グラビティカップ(例えばSata Jet、1.4mmのノズル)を装着したスプレー装置を使用してアルカリ脱脂された鋼製基材に塗布するか、又は、適切な基材ジオメトリ(平坦な金属シート又はスラッグ)の場合、ドクターナイフを用いて薄い、ウエットな薄膜として塗布した。10〜40μmの厚が得られた。コーティングを、180℃の表層温度で約10分間硬化させた。あるいは、コーティングは、ローラー(例えばコイルコーティング)によって、亜鉛めっき鋼シートに塗布し、230〜240℃のピーク金属温度(PMT)でストーブで加熱してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、特に鋼材を腐食及び/又はスケーリングから保護するためのコーティング材であって、840℃以上の温度による高温処理に供されたときに構造変化し、更なるコーティング材のための適切なプライマーであり、容易に酸化され得る有機成分を含有する、容易に酸化され得る有機系若しくは無機/有機系の結合剤が、導電性の金属若しくは非金属の充填剤と結合することにより、塗布された前記コーティング材が溶接に適するようになり、前記コーティング材が還元状態のときに酸化プロセスに対して耐性を示す導電性化合物が、前記コーティング材中に含まれ、湿式−化学的方法により塗布することができる、コーティング材。
【請求項2】
塗布した前記コーティング材を溶接に適合させるために、有機系、無機系、又は有機−無機系結合剤のマトリックスに、還元条件下で840℃超の温度で加熱されることにより導電性相を形成する化合物、具体的には金属塩、金属アルコキシド、鉄、銅、タングステン及びアルミニウムのカーバイド及びリン化物、並びに導電性オキシド、具体的にはアンチモンスズオキシド(ATO)及びインジウムスズオキシド(ITO)が添加されている、請求項1記載のコーティング材。
【請求項3】
コーティングを溶接に適合させるために、当該コーティング材に、高温での酸化プロセスに対する耐性を有する導電性化合物、具体的には特殊鋼色素、色素又は貴金属、銅、スズ、黒鉛及び煤煙の粉末、及び高温耐性半導体(例えばシリコンカーバイド)が添加されている、請求項1記載のコーティング材。
【請求項4】
コーティングが還元条件にあるとき、酸化プロセスに対して耐性を示す導電性物質が、鉄、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、黒鉛及び煤煙の色素及び粉末から選択される、請求項1記載のコーティング材。
【請求項5】
5〜95重量%、好ましくは10〜75重量%の結合剤、並びに0〜90重量%、好ましくは25〜75重量%色素及び/又は充填剤を含有する、請求項1記載のコーティング材。
【請求項6】
前記結合剤が、有機化合物(具体的にはポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エステル及びメタクリル酸)、有機−無機化合物(具体的にはアルキルアルコキシシラン、アルコキシシラン又はそれらの混合物の加水分解及び縮合によるオリゴシロキサン及びポリシロキサン)、又はシリコーン類(シリコーン樹脂又は有機修飾されたシリコーン樹脂)、又は純粋な無機化合物(具体的にはシリケート、ポリホスフェート及びアルミノシリケート)、又は金属、金属アルコキシド及びそれらの縮合物、金属酸化物及び金属塩を含有する、請求項1記載のコーティング材。
【請求項7】
金属色素、具体的にはアルミニウム、亜鉛、鉄、スズ、銅、マグネシウム、高純度の鋼、銀若しくは他の貴金属、又は金属塩を含有する、請求項1記載のコーティング材。
【請求項8】
潤滑材(具体的には天然及び合成ワックス、オイル、ポリテトラフルオロエチレン及びフルオロエチレンプロピレンなどのポリマー)、熱可塑性物質(特にポリエチレン及びポリアミド)、ステアリン酸塩(アルミニウム、亜鉛、マグネシウム及びリチウム系の石鹸)、高級脂肪酸、塩素、リン及び硫黄含有有機化合物、カルシウム又はバリウムのフッ化物、カルシウム及び亜鉛のリン酸化物、酸化物、水酸化物及び硫化物、並びに金属(具体的には鉛、銅、スズ、銀、金、インジウム及びニッケル)を含有する、請求項1記載のコーティング材。
【請求項9】
グリース、具体的には無機グリース、好ましくは黒鉛、煤煙、窒化ホウ素、窒化チタン、二硫化モリブデン及び二硫化タングステンを含有する、請求項1記載のコーティング材。
【請求項10】
1つ以上の防錆色素又は腐食抑制剤、具体的にはシリケート、ポリホスフェート、タンニン誘導体、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルカリスルホネート、亜鉛の有機窒素含有酸塩及びリン酸塩、カルシウム、マグネシウム、亜鉛又はアルミニウムのクロム酸塩及びモリブデン酸塩を含有する、請求項1記載のコーティング材。
【請求項11】
スポット溶接に適する、請求項1記載のコーティング材。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項記載のコーティング材を用いる、金属コーティング方法(特に鋼のコーティング方法)であって、当該コーティング材が、湿式−化学的コーティング工程(例えばナイフ塗布、浸漬コーティング、スプレーコーティング、ローラー塗布、フラッディング又はカーテンコーティング)によって基材に施され、硬化処理によって基材の表面に強固に結合する方法。
【請求項13】
室温〜800℃の温度範囲、好ましくは室温〜300℃の温度で硬化が行われ、加熱された空気、NIR、IR、UV範囲の放射、電子ビーム又は電磁誘導によって高い温度が設定される、請求項12記載の金属コーティング方法。
【請求項14】
基材に対するコーティング材の塗布後に、コーティング材/基材複合体が840℃〜1,300℃の温度、好ましくは840℃〜1,000℃の温度に加熱される高温加工処理が行われる、請求項12記載の金属コーティング方法。
【請求項15】
高温加工段階が1秒〜数時間、好ましくは1秒〜30分実施される、請求項12記載の金属コーティング方法。
【請求項16】
金属基材が、鋼、鋼合金、又は金属コーティングを施された鋼(例えばアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、スズ、又はアルミニウム−ケイ素、アルミニウム−鉄、亜鉛−鉄、亜鉛−ケイ素及び亜鉛−アルミニウム−ケイ素などの適当な合金でコーティングされた鋼である、請求項12記載の金属コーティング方法。
【請求項17】
コイル、スラッグ又は他の部品(具体的にはロッド、ワイヤ、パイプ、成形物、鍛造物又はキャスティング生成物)が鋼の基材として用いられる、請求項12記載の金属コーティング方法。
【請求項18】
請求項1から11記載のコーティング材を用いて得られた金属部品。

【公表番号】特表2009−518471(P2009−518471A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543650(P2008−543650)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/DE2006/002178
【国際公開番号】WO2007/076766
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(507408187)ナノ−エックス ゲーエムベーハー (9)
【Fターム(参考)】