説明

金属アルコキシド溶液

【課題】良好な電気的性能を有する半導体デバイスを効率よく製造可能な金属アルコキシド溶液を提供する。
【解決手段】下記一般式Iで表される金属アルコキシド化合物と、それぞれ一般式IIで表される金属アルコキシド化合物であって一般式II中のMが異なる2種の金属アルコキシド化合物と、が連結して形成された複合アルコキシドを含有し、前記複合アルコキシド全体における比率Zn/Mが0.2〜1.5の範囲であり且つ前記Mで表される2つの元素の比率が0.05〜20の範囲であり、1〜100mPa・sの粘度を有する半導体デバイス用金属アルコキシド溶液。
Zn(OR ・・・[I]
M(OR ・・・[II]
(式中、Mはアルミニウム、鉄、インジウム及びガリウムの中のいずれか1つの元素であり、R及びRはそれぞれ同一でも異なってもよく、炭素数が1〜20の置換又は無置換のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属アルコキシド溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス基板上に形成された多結晶シリコンやアモルファスシリコンTFTは、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイにおける画素及びドライバに用いられている。しかしながら、モバイル用途を考えるとガラス基板に代わり、軽くて割れにくいプラスチック基板の使用が切望されているが、TFTなどの半導体デバイスを製造する際の耐熱性やフォトリソグラフィー工程における安定性・煩雑性などの点が問題であった。これに対処するため、ガラス基板上に半導体デバイスを一旦作製したのち、プラスチック基板に移設することが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
最近、細野らは室温プロセスで作製したアモルファス酸化物半導体を用いたフレキシブル薄膜トランジスタを報告している(例えば、非特許文献1及び特許文献2参照)。これによれば、プラスチック基板上に気相法によりアモルファスZnGaInO4が形成され、高い整流特性が得られている。
【0004】
一方、透明導電膜パターンを形成するには、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィーが一般的である。また、例えば特許文献3及び4では、金属アルコキシドゾルや、金属アルコキシド又は金属塩を主原料として得られる金属酸化物ゾルを基板上に塗布し乾燥させて薄膜を形成した後、紫外線をパターン状に照射しエッチングしてパターンを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−235238号公報
【特許文献2】特開2004−103957号公報
【特許文献3】特開平6−166501号公報
【特許文献4】特開平9−157855号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature、(2004) Vol.432, pp.488-492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、気相法による製造では、フォトリソグラフィーによりパターン形成を行っているが、リソグラフィー工程における安定性や工程の煩雑性の観点ではさらに改善が必要である。
従って、本発明の目的は、良好な電気的性能を有する半導体デバイスを効率よく製造可能な金属アルコキシド溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属アルコキシド溶液は、下記一般式I及び一般式IIで表される金属アルコキシド化合物(一般式I及び一般式IIで表される化合物はその一部が連結して複合アルコキシドを形成していてもよい)を含有し、1〜100mPa・sの粘度を有するものである。
Zn(OR12 ・・・[I]
M(OR23 ・・・[II]
(式中、Mはアルミニウム、鉄、インジウム及びガリウムの中の少なくとも一つの元素であり、比率Zn/Mが0.2〜10の範囲である。R1及びR2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数が1〜20の置換、又は無置換のアルキル基を表す。)
【0009】
ここで、上記一般式II中、Mがアルミニウム、鉄、インジウム及びガリウムの中の少なくとも二つの元素を含み、それらの比率が0.05〜20の範囲であることが好ましい。
また、前記金属アルコキシド溶液における比率Zn/Mが0.2から1.5の範囲であることが好ましい。
【0010】
また、前記金属アルコキシド溶液が更に、下記一般式IIIで表され且つ沸点が120℃〜250℃の高沸点溶媒を少なくとも1種類含むことが好ましい。
3−OH ・・・[III]
(式中、R3は炭素原子数1〜12の置換又は未置換のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、又はアリール基を表す。)
【0011】
本発明の金属アルコキシド溶液は、一般式I及びIIで表される化合物、即ち、金属アルコキシド又は複合アルコキシドを含み、これらを加熱することにより、半導体特性を有する金属酸化物のナノ粒子を形成することができる。この半導体特性を有する金属酸化物のナノ粒子は、結晶のみならずアモルファス状態であっても良好な半導体特性を発揮することができる。このため、溶液の状態で取り扱いやすい上に、結晶化に必要な高温での加熱処理を行う必要なく、低温での加熱により緻密な半導体薄膜層の形成を可能にする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な電気的性能を有する半導体デバイスを効率よく製造可能な金属アルコキシド溶液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例に係る半導体デバイスの構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の金属アルコキシド溶液は、上記一般式I及び一般式IIで表される金属アルコキシド化合物を含有し、1〜100mPa・sの粘度を有するものである。
Zn(OR12 ・・・[I]
M(OR23 ・・・[II]
本金属アルコキシド溶液によれば、溶液自体を加熱することによりアモルファス状態でも良好な半導体特性を有する金属酸化物ナノ粒子を得ることができるので、簡便に半導体薄膜を形成することができる。
【0015】
上記一般式I及びIIで表される金属アルコキシド化合物は、溶液中、それぞれ1種で存在してもよく、複数種を組み合わせたものであってもよい。
上記式中、Mはアルミニウム、鉄、インジウム及びガリウムの中の少なくとも一つの元素であり、粒子形成温度、隣接するゲート絶縁膜への拡散性、電気特性の観点から、好ましくは、これらの元素のうちの少なくとも二つを含む。これらのうち、室温で高い絶縁性を示し、ノーマリーオフ特性を得やすい観点から、アルミニウム、ガリウム又はインジウムが好ましい。
また、電気特性の観点からは特にガリウムとインジウムとの組み合わせであることが好ましく、材料コストの観点からは特にアルミニウムとインジウムとの組み合わせであることが好ましい。また、これらの元素のうち、アモルファス状態でも優れた電気特性が得られるという観点から少なくともインジウムが含まれていることが好ましい。
二つの元素を含む場合、一方の元素に対する他方の元素の比率として0.05〜20であり、好ましくは0.1〜10である。3つの元素を含む場合は、各元素が少なくとも5原子%含有していれば後は任意の比率で使用できる。
【0016】
上記一般式I及び一般式IIで表される金属アルコキシド化合物は、金属アルコキシド溶液中で、それぞれ単独で存在していてもよく、その一部が連結して複合アルコキシドを形成していてもよい。このとき、金属アルコキシド溶液中の各化合物及び/又は複合アルコキシドにおいて、比率Zn/Mは、0.2〜10の範囲である。0.2未満では原料コストが高くなり、一方、10を超えるとZn成分が過剰となって酸化亜鉛の結晶が生じて複合酸化物ナノ粒子を形成することができない。Zn/Mの範囲は、電気特性の観点から0.2〜1.5の範囲であることが好ましく、0.5〜1.3の範囲であることが更に好ましい。
【0017】
上記一般式I及びII中、R1及びR2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数が1〜20、好ましくは1〜6のアルキル基を表し、置換されていても無置換であってもよい。炭素数が20を超えると、金属分子間が長くなって薄膜形成時に金属酸化物中にアルキル基が残存する場合があるため好ましくない。置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、アミノ基(アミノ基の水素原子は炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい)、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基などを挙げることができる。
【0018】
このような一般式I及び一般式IIに相当する化合物の例としては、亜鉛エトキシド、亜鉛エトキシエトキシド、亜鉛ジメチルアミノエトキシド、亜鉛メトキシエトキシド、インジウムイソプロポキシド、インジウム−n−ブトキシド、インジウムメトキシエトキシド、インジウムジエチルアミノエトキシド、ガリウムエトキシド、ガリウムイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム−n−ブトキシド、アルミニウム−s−ブトキシド、アルミニウム−t−ブトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムエトキシエトキシエトキシド、鉄イソプロポキシドなどを挙げることができる。
【0019】
本発明の金属アルコキシド溶液では、一般式I及びIIの金属アルコキシド化合物を、ZnとMの合計濃度として0.5〜20質量%、好ましくは1〜10質量%で含有する。0.5質量%未満では、均一な薄膜ができない場合があり、20質量%を超えると充分に薄い半導体膜を構成することができない場合がある。
【0020】
また、ナノ粒子分散液の粘度は、塗布手段により異なるが、例えばインクジェットやディスペンサーの場合、吐出性の観点から1〜100mPa・s、好ましくは1〜20mPa・sであることが望ましい。ナノ粒子分散液の上記粘度は、市販の粘度計、例えば振動式粘度計VISCOMATE(CBCマテリアルズ株式会社製)で測定することができる。
【0021】
金属アルコキシド溶液は、上記金属アルコキシド化合物を溶解するための適当な溶媒を含む。この溶媒としては、水、アルコール類、アミノアルコール類、グリコール類などを挙げることができ、分散液の安定性、乾燥性の観点から下記一般式IIIで表される高沸点溶媒を少なくとも1種含むものであることが更に好ましい。
3−OH [III]
【0022】
ここで、R3は炭素原子数2〜12の置換又は未置換のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、又はアリール基を表す。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。アルケニル基としては、ブテニル基、プロペニル基などが、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などが、アリール基としては、フェニル基などがそれぞれ挙げられる。
アルキル基やアルケニル基への好ましい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、メトキシエトキシ基、フェノキシ基など)、水酸基、アミノ基などが挙げられる。シクロアルキル基やアリール基への好ましい置換基の例としては、アルキル基(メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、メトキシエトキシ基、フェノキシ基など)、水酸基、アミノ基などが挙げられる。
特に好ましい置換基としては、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ-t-ブチルアミノ基など)が挙げられる。
【0023】
また一般式IIIで表される上記高沸点溶媒の沸点は、120℃〜250℃であり、乾燥時の負荷軽減の観点から好ましくは130℃〜200℃である。沸点が120℃未満では乾燥速度が速く十分な平滑性を得にくいため好ましくなく、250℃を超えると半導体薄膜を形成する際に残存しやすくなるため、好ましくない。本発明に係る金属アルコキシド溶液は、一般式IIIで表される高沸点溶媒を分散媒として少なくとも1種含有していればよく、このうちの複数種の組み合わせ、或いは他の溶媒との組み合わせであってもよい。
【0024】
一般式IIIに相当する高沸点溶媒としては、例えば、2−エトキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−(エトキシエトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ジエチルアミノエタノール、2-ジプロピルアミノエタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ベンジルアルコールなどを挙げることができる。
これらの分散媒と併用できる溶媒としては、例えばジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセチルアセトンなどが挙げられる。
【0025】
本発明の金属アルコキシド溶液は、帯電防止剤、可塑剤、高分子バインダー、増粘剤等の各種添加剤を目的に応じて添加し、物性調整した後、インクジェットプリンター用又はディスペンサー用のインク溶液として用いてもよい。
【0026】
本発明の金属アルコキシド溶液は、溶液の形態で塗布でき、表面が平滑な薄膜を形成することができる。このため、より薄い膜を形成することができる。
また、溶液自体を加熱し、熱分解することによって容易に、良好な半導体特性を有する金属酸化物ナノ粒子分散液を形成することができるので、半導体デバイスにおける半導体膜を構成するために好ましく用いることができる。
【0027】
本発明の金属アルコキシド溶液を加熱することによって得ることができる金属酸化物ナノ粒子は、50nm以下の平均粒子サイズを有することができる。50nm以下であれば、粒子を結晶化させるのに大きなエネルギーを要することがなく、抵抗率、キャリア移動度などの電気特性も良好な範囲にすることができ、更には半導体デバイスを作製する際に充分に薄い膜厚の半導体膜を形成することができる。
なお、平均粒子サイズが1nm未満であると、粒子が不安定であり、塗布、乾燥中に合一が起こりやすいため、好ましくない。金属酸化物ナノ粒子の平均粒子サイズは、粒子の安定性及び塗布面の平滑性の観点から好ましくは、2nm〜30nm、さらに好ましくは2nm〜10nmである。また、変動係数は、塗布面の平滑性の観点から30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下の単分散粒子である。金属酸化物ナノ粒子の粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)やX線回折(XD)によって測定することができる。
【0028】
また、この金属酸化物ナノ粒子は、多結晶状態でもアモルファス状態でもよいが、好ましくはアモルファス状態である。アモルファス状態であれば、比較的低温で粒子を形成することができるので、粒子サイズを小さくすることが可能となり半導体薄膜層の平滑性、緻密性を向上させることができる。従って、本発明の金属アルコキシド溶液を用いることによって、ナノ粒子を結晶化させることなく、アモルファス状態で半導体デバイスを作製することができる。
【0029】
本発明の金属アルコキシド溶液を熱分解することによって得られる金属酸化物ナノ粒子としては、例えば、以下の一般式IVまたはIV'で表されるものが挙げられる。
ZnXYInZ(X+1.5Y+1.5Z) [IV]
(式中、Mはアルミニウム、鉄及びガリウムの中の少なくとも一つの元素であり、比率X/Yが0.2〜10の範囲であり、比率Y/Zが0.1〜2.5の範囲である。)
ZnX'InZ'(X'+1.5Z') [IV']
(式中、比率X'/Z'は0.5〜8の範囲である。)
【0030】
これらの金属酸化物ナノ粒子を含むことが可能な半導体デバイスとしては、各種のデバイスを含むことができ、例えば、電界効果型トランジスタ、バイポーラトランジスタ、積層型半導体装置、発光素子などを挙げることができる。これらの半導体デバイスの構成、構造等の詳細は特開2002−76356号等の文献に記載されており、本発明においても適用できる。
【0031】
次に本発明の金属アルコキシド溶液を用いて作製される本発明の半導体デバイスについて説明する。
図1には、本発明の金属アルコキシド溶液を適用可能な半導体デバイスの一例としての半導体デバイス10が示されている。
半導体デバイス10では、基板12上に、ゲート電極14及びゲート絶縁膜16を介して、ソース電極18、ドレイン電極20、半導体薄膜22が設けられている。
【0032】
基板12は、主として、絶縁性の材料で構成されており、石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、耐熱ガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)、サファイア等のガラス;Al23、MgO、BeO、ZrO2、Y23、ThO2、CaO、GGG(ガドリウム・ガリウム・ガーネット)等の無機材料;ポリカーボネート;ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;ポリアリレート;ポリサルフォン;ポリエーテルサルフォン;ポリイミド;フッ素樹脂;フェノキシ樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ナイロン;スチレン系樹脂;ABS樹脂;金属;等を挙げることができ、所望によりそれらを併用してもよい。用途に応じてこれらの材料から適宜選択して、フィルム状等の可撓性基板、又は剛性のある基板とすることができる。
【0033】
耐熱性、耐光性の低いプラスチック基板を用いる場合には、該プラスチックのレーザ光による変性を防止するために変性防止層(下地層)を設け、その上にゲート電極14及びゲート絶縁膜16を形成することが好ましい。変性防止層は、プラスチック基板へ到達する光のエネルギーを低減する機能を少なくとも有する層である。
好ましい材料としては、SiO2、SnO2、ZnO、MgO、CaO、SrO、BaO、Al23、ZrO2、Nb25、V25、TiO2、Sc23、Y23、La23、Ga23、GeO2、Ta25、HfO2などが挙げられる。これらの中で絶縁抵抗の大きいものはゲート絶縁膜の材料としても用いることができる。変性防止層は、ゾル−ゲル法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法など、通常の成膜方法により形成できる。なお、前記基板の形状は円盤状、カード状、シート状などいずれの形状であってもよい。
【0034】
ソース電極18、ドレイン電極20及びゲート電極14としては、アルミニウム、銅などの金属、Ti−Al、Mo−Tiなどの複合金属及び高ドープした半導体ポリシリコンなどの不透明導電性材料や、SnをドープしたIn23(ITO)、SbをドープSnO2(ATO)、ZnをドープしたIn23(IZO)、MgIn24、CuAlO2,AgInO2、13族元素(B、Al、Ga、In、Tl)、17族元素(F、Cl、Br、I)、1族元素(Li、Na、K、Rb、Cs)、15族元素(N、P、As、Sb、Bi)のいずれかをドープした導電性ZnO等の透明導電性材料を挙げることができ、所望によりそれらを併用してもよい。
なお、ソース電極18、ドレイン電極20及びゲート電極14としての各膜厚は、所望される電気的特性によって異なるが、一般に、0.04〜1μmとすることができる。
【0035】
ゲート絶縁膜16としては、例えば、1価の価数を取りうる元素又は15族元素又は、3d遷移金属元素をドープした絶縁性ZnO、SiN、SiO2等の透明絶縁性材料を挙げることができる。ここで、1価の価数を取りうる元素としては、例えば、1族元素(Li、Na、K、Rb、Cs)、Cu、Ag、Au等を挙げることができ、15族元素としては、N、P、As、Sb、Bi等を挙げることができる。ゲート絶縁膜16としては、その他にも、Al23、MgO、CeO2、ScAlMgO4、SiO2、等の透明絶縁性酸化物を用いることができる。さらに、ポリマーフィルム、ビニール、プラスチック等の透明な絶縁体を用いてもよい。
なお、ゲート絶縁膜16としての乾燥膜厚は、所望される電気的特性によって異なるが、一般に、0.1〜1μmとすることができる。
【0036】
半導体薄膜22は、上述した本発明の金属アルコキシド溶液を用いて形成することができる。半導体薄膜22の乾燥膜厚は、20〜500nm、好ましくは30〜200nmとすることができる。
【0037】
このような本発明に係る半導体デバイスを製造する方法は、常法によってゲート電極14及びゲート絶縁膜16上にソース電極18及びドレイン電極20が設けられた基板12上の所定の位置に向かって、本発明に係る金属アルコキシド溶液をインクジェット方式又はディスペンサー方式により吐出して金属アルコキシド層を塗設(パターン形成)し、このパターンを乾燥させ、その後、加熱することにより半導体薄膜22を形成することを含む。このようにインクジェット方式又はディスペンサー方式によって半導体薄膜22を形成するので、リソグラフィーを適用することなく効率よく、且つ低いエネルギーで半導体デバイスを製造することができる。
【0038】
インクジェット方式及びディスペンサー方式による吐出工程では、ライン状に吐出ヘッドを並べ、コンピューターに入力された図形情報に基づき各吐出ヘッドを作動させることにより、1次元に走査するだけで必要な箇所のみに金属アルコキシド溶液が塗布される。これにより、金属アルコキシド溶液の無駄なく且つ短時間で半導体薄膜パターンを得ることができる。
【0039】
インクジェットプリンターを用いて又はディスペンサー方式により金属アルコキシド溶液を吐出した場合には、塗膜の厚みは、好ましくは0.1〜1000μm、より好ましくは1〜500μmである。これらの範囲内であれば、適切な電気特性を備えた半導体デバイスを構成するための乾燥膜厚を形成することができる。
【0040】
インクジェットプリンターには、インクの吐出方式により各種のタイプがある。例えば、圧電素子型、バブルジェット(登録商標)型(インクに発泡を起こし、その圧力によりインクを噴出する方式)、空気流型、固形熱溶融性インク型、静電誘導型、音響インクプリント型、電気粘性インク型、また、大量生産に適した連続噴射型などがあり、本発明にはいずれでも使用することができ、パターンの形状や厚さ、インクの種類などにより適宜選択することができる。インクジェット方式の場合は、吐出するインク滴の大きさを調節することにより、パターン幅やピッチを3μm程度まで細線化することができる。従って、回路パターンやディスプレイの画素の形成にも十分対応できる。
【0041】
また、インクジェットプリンターやディスペンサーとパソコン等のコンピューターとを接続することにより、コンピューターに入力された図形情報により、基板上にパターンを形成することができる。
【0042】
金属アルコキシド溶液をパターン状に吐出して形成したパターンは、加熱(焼成)することにより、金属アルコキシドから金属酸化物薄膜を形成し、緻密化できると共に必要により結晶化させて、良好な半導体特性を備えた半導体膜層22を形成する。
なお、加熱処理前のパターンの乾燥は、適宜行ってもよく、実施する場合には自然乾燥でも通常の乾燥機を用いて行ってもよい。乾燥温度は、特に制限はないが、一般に、室温〜150℃にすることができる。
【0043】
加熱(焼成)は、基板がガラスや石英などの耐熱性の場合には、電気炉などを用いて500℃程度まで加熱することができる。
一方、プラスチック基板などの耐熱温度が低い材料を基板とした場合には、赤外又は紫外レーザによって加熱することが好ましい。レーザの使用は、ビームを照射して塗膜部に焦点を絞ることができるので描画した塗膜の部分だけ高エネルギーで加熱することができ、この結果、プラスチック基板のような一般に耐熱性が高くない基板であっても適用することができる。
【0044】
照射するレーザは、750nm〜1700nmの赤外光(熱線)及び/又は360nm以下の吸収を有する紫外光であることがより好ましい。更に、基板自体は吸収がないか、吸収が弱い波長のものが望ましい。代表的なレーザとしては、AlGaAsやInGaAsPなどの半導体レーザ、Nd:YAGレーザ、ArF、KrF、XeCl、XeFなどのエキシマレーザー、色素レーザなどが挙げられる。
【0045】
レーザによる加熱工程では、目的とする照射部に光を集束させてその部分を高エネルギーとし、金属酸化物ナノ粒子の形成、緻密な金属酸化物薄膜の形成、結晶化を起こすことができる。また、加熱工程によって形成される金属酸化物ナノ粒子の平均粒子サイズは、1〜50nmと小さいため、金属酸化物薄膜の緻密化や結晶化をより低温で起こすことができ、短時間レーザ照射することで半導体薄膜22を得ることができる。また、得られる金属酸化物薄膜がアモルファス状態であれば、比較的低温で半導体デバイスを形成することができるので、半導体デバイスを構成する際に無機材料のみならず有機材料を基板として使用することができる。
【0046】
このレーザ照射の照射光の強さは、金属アルコキシドが金属酸化物ナノ粒子を形成すると共に、金属酸化物薄膜22が緻密化、必要により結晶化するに十分な程度であればよく、特に制限はない。好ましくは0.1mJ/cm2以上、より好ましくは1〜1000mJ/cm2である。レーザの照射は連続であっても、パルス状のものを複数回行ってもよい。
【0047】
ゲート絶縁膜16は、前述した絶縁性材料を適当な溶媒に溶解又は分散させた絶縁膜形成用溶液を調製し、スピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコートなどの塗布法を利用した形成方法や、液相沈着法やスパッタリング、イオンプレーティング法などの気相法で製膜することができるが、好ましくは、半導体薄膜22と同様に、ゲート絶縁膜16についても、絶縁膜形成用溶液をインクジェット方式又はディスペンサー方式により所定位置に吐出させること、吐出された絶縁膜形成用溶液を加熱することを含む方法によって形成してもよい。このとき半導体薄膜22と同様に、加熱工程の前に乾燥工程を設けてもよい。これにより、半導体デバイス全体の製造効率を向上させることができる。
ここで用いられる絶縁膜形成用溶液は、前述した絶縁性材料に加えて帯電防止剤、可塑剤、高分子バインダー、増粘剤等の各種添加剤等を含むことができる。また、絶縁膜形成用溶液は、前述した絶縁性材料のナノ粒子分散物であってもよい。
【0048】
また、基板12とゲート絶縁膜16及びゲート電極14との間には、前記基板表面の平面性の改善、接着力の向上、基板12又は基板12に接触する膜の変質防止などの目的で、下塗り層が設けられてもよい。
下塗り層の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸・メタクリル酸共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、Nーメチロールアクリルアミド、スチレン・ビニルトルエン共重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の高分子物質;熱硬化性又は光・電子線硬化樹脂;及びカップリング剤などの表面改質剤等が挙げられる。熱硬化性又は光・電子線硬化樹脂、及びカップリング剤(例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ゲルマニウム系カップリング剤アルミニウム系カップリング剤など)が好ましい。また、SiO2やSiNなどの無機材料であってもよい。
【0049】
前記下塗り層は、上記材料を適当な溶媒に溶解又は分散させて塗布液を調製し、該塗布液をスピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコートなどの塗布法を利用して基板表面に塗布することにより形成することができる。また、前記無機材料の場合には、液相沈着法やスパッタリング、イオンプレーティング法などの気相法で製膜することができる。下塗り層の膜厚(乾燥時)は、一般に0.001〜20μmが好ましく、0.005〜10μmがより好ましい。
【0050】
本発明の半導体デバイス10は、金属アルコキシドを加熱することによって形成された半導体薄膜22を備えているので、所望の半導体特性を有することができ、また基板12の材料を無機材料に制限されることなく効率よく作製することができる。なお、本発明の半導体デバイスは上記構造に限定されるものではなく、半導体デバイスの用途等に応じて、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極及び半導体薄膜の各構成部材の相対位置を適宜、変更してもよい。また、各構成部材の配置に合わせて形成順序等を変更することができる。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り重量(質量)基準である。
[実施例1]
[金属アルコキシド溶液の調製1]
酢酸亜鉛二水和物1.10gにエタノール50mlを加え1時間還流した。30mlを留去したのち、2−エトキシエタノール100mlを加え溶液Aを調製した。亜鉛エトキシド及び亜鉛エトキシエトキシドの生成を確認した。溶液Aに、インジウムイソプロポキシド1.46g、ガリウムエトキシド1.03g、及び2-ジエチルアミノエタノール100mlを添加し110℃に昇温して1時間撹拌した。さらに一部溶媒を留去しながら170℃に昇温して1時間撹拌した。その後、室温に冷却後収納し、金属アルコキシド溶液として、収量約30mlの淡黄色の試料(1)を得た(試料中の亜鉛・金属量:4.1質量%)。
酢酸亜鉛二水和物の使用量を0.77g、又は1.54gに変えた以外は同様にして試料(2)及び(3)を調製した。また、ガリウムエトキシドの使用量を0.88g、又は1.23gに変えた以外は同様にして試料(4)及び(5)を調製した。さらに、ガリウムエトキシドの代わりにアルミニウムイソプロポキシドを1.03g、ガリウムイソプロポキシドを1.24g、鉄(III)イソプロポキシドを1.17g用いた以外は同様にして試料(6)、(7)及び(8)を調製した。
2-ジエチルアミノエタノール100mlの代わりに、2−(2−アミノエトキシエタノール20ml、トルエン30ml及び2−エトキシエタノール50mlの混合溶媒を使用した以外は試料(1)と同様の方法で試料(9)を調製した。
【0052】
[金属アルコキシド溶液の調製2]
酢酸亜鉛二水和物を1.64g、インジウムイソプロポキシドを0.10g、ガリウムエトキシドを0.07g、を用いた以外は上記と同様にしてZn:Ga:In=22:1:1(Zn/M=11)の試料(10)を調製した。
【0053】
[試料の比較]
上記のようにして得られた試料(1)〜(7)の組成、粘度等を表1にまとめた。なお、組成はICP分析より求めた。粘度は、振動式粘度計VISCOMATE(CBCマテリアルズ(株)社製)による測定で求めた。沈殿物の同定はX線回折パターンから判断した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示されるように、試料(1)〜(9)では粘度8〜9mPa・sの複合金属アルコキシドを含む金属アルコキシド溶液であった。これに対して、試料(10)では、ZnOの白色沈殿を生成し、金属アルコキシド溶液として使用することができなかった。これにより、Zn/Mの比率が大きい金属アルコキシド溶液は合成できないことがわかった。
【0056】
[実施例2]
[ボトムゲート型TFTの作製]
幅50mm、長さ50mm、0.7mm厚のガラス基板上にフォトリソグラフィー法によりゲート電極(ITO)を設置した。ゲート絶縁膜としてRFスパッタ法によりY23を膜厚300nmで形成した。インクジェット法でAuナノインク((株)アルバック製)を用いてソース及びドレイン電極を描画し200℃で20分加熱した。チャネル長及びチャネル幅はそれぞれ50μm及び200μmであった。
このソース及びドレイン電極の上に、金属アルコキシド溶液として実施例1で調製した試料(1)をインクジェット法にて乾燥膜厚150nmで塗設、乾燥後、500℃で30分焼成してチャネル層を形成し、ボトムゲート型TFTを作製した。なお、試料(1)は、乾燥後500℃で30分加熱してもX線回折パターンが得られないことを実験で確認しており、ここで形成した半導体薄膜(チャネル層)もアモルファス状態であると推定される。
[TFT素子の特性評価]
作製したTFTは、ゲート電圧VG=0Vの時はIDS=1×10-8A(VDS=5.0V)であり、VG=5Vの時はIDS=9×10-6Aとなり、ノーマリーOFF特性が得られた。
【0057】
[実施例3]
[フレキシブル基板上へのTFT素子の作製]
幅100mm、長さ100mm、0.2mm厚のPET基板上にシランカップリング剤を用いてSiO2からなる厚さ500nmの変性防止層を形成した。この上にフォトリソグラフィー法によりゲート電極(ITO)を設置した。ゲート絶縁膜としてアルミニウムイソプロポキシドの2−ジエチルアミノエタノール溶液を用い、スピンコートにより乾燥膜厚350nmで塗設、乾燥後、500℃で10分焼成した。インクジェット法でAuナノインク((株)アルバック製)を用いてソース及びドレイン電極を描画し250℃で20分加熱した。チャネル長及びチャネル幅はそれぞれ50μm及び200μmであった。
このソース電極及びドレイン電極の上に、金属アルコキシド溶液として実施例1で調製した試料(1)を、インクジェット法にて乾燥膜厚150nmで塗設、乾燥後、波長248nmのKrFエキシマレーザー光(照射エネルギーは80mJ/cm2/パルス、周波数20Hz、照射時間1分)を照射してチャネル層を形成し、TFTを作製した。
[TFT素子の特性評価]
作製したTFTは、ゲート電圧VG=0Vの時はIDS=3×10-8A(VDS=5.0V)であり、VG=5Vの時はIDS=8×10-6Aとなり、ノーマリーOFF特性が得られた。
なお、チャネル層を実施例1で調製した試料(2)〜(9)を用いて同様に作製したTFTもノーマリーOFF特性を得た。
【0058】
このように本発明の実施例にかかる半導体デバイスは、低エネルギーで効率よく製造することができると共に、良好な電気的性能を有する。
【符号の説明】
【0059】
10 半導体デバイス
12 基板
14 ゲート電極
16 ゲート絶縁膜
18 ソース電極
20 ドレイン電極
22 半導体薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式I及び一般式IIで表される金属アルコキシド化合物(一般式I及び一般式IIで表される化合物はその一部が連結して複合アルコキシドを形成していてもよい)を含有し、1〜100mPa・sの粘度を有する金属アルコキシド溶液。
Zn(OR12 ・・・[I]
M(OR23 ・・・[II]
(式中、Mはアルミニウム、鉄、インジウム及びガリウムの中の少なくとも一つの元素であり、比率Zn/Mが0.2〜10の範囲である。R1及びR2はそれぞれ同一でも異なってもよく、炭素数が1〜20の置換又は無置換のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記一般式II中、Mがアルミニウム、鉄、インジウム及びガリウムの中の少なくとも二つの元素を含み、それらの比率が0.05〜20の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の金属アルコキシド溶液。
【請求項3】
前記金属アルコキシド溶液における比率Zn/Mが0.2から1.5の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属アルコキシド溶液。
【請求項4】
前記金属アルコキシド溶液におけるZnとMの合計濃度が、前記金属アルコキシド溶液の全質量に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属アルコキシド溶液。
【請求項5】
前記金属アルコキシド溶液が更に、下記一般式IIIで表され且つ沸点が120℃〜250℃の高沸点溶媒を少なくとも1種類含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属アルコキシド溶液。
3−OH ・・・[III]
(式中、R3は炭素原子数1〜12の置換又は未置換のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基又はアリール基を表す。)

【図1】
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【公開番号】特開2011−211206(P2011−211206A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97538(P2011−97538)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2005−222245(P2005−222245)の分割
【原出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】