説明

金属ナノ粒子ペースト、並びに金属ナノ粒子ペーストを用いた電子部品接合体、LEDモジュール及びプリント配線板の回路形成方法

【課題】金属ナノ粒子の低温焼結特性を用いて、簡易に、導電性及び機械的強度に優れた金属的接合を得、また導通性に優れた配線パターンを形成できる金属ナノ粒子ペーストを提供する。
【解決手段】(A)金属ナノ粒子と、(B)前記金属ナノ粒子の表面を被覆する保護膜と、(C)カルボン酸類と、(D)分散媒とを含むことを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が保護膜で被覆された金属ナノ粒子とカルボン酸類とを含有した金属ナノ粒子ペーストに関し、より具体的には、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの印刷により非常に低温の熱処理で基板上に配線パターンを形成でき、また非常に低温の熱処理で基板上に電子部品を接合できる金属ナノ粒子ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基板に電子部品を実装する分野において、電気的接合は、鉛フリーはんだ、特に、スズ-銀-銅合金はんだが主流となっているが、実装温度が240℃以上と非常に高温となるので、全ての電子部品や基板に対応できるものではない。例えば、PETなど耐熱性に劣った基板を用いる場合やモジュールの耐熱性の問題等で低温にて接合せざるを得ない場合には、比較的低温で電気的接合が可能なビスマスやインジウム系合金を使用していた。しかし、ビスマスは接合強度や合金の脆さに問題があり、インジウム系合金は高価という問題がある。
【0003】
また、耐熱性の点ではんだ付けに不向きな電子部品の実装やモジュールの組み立てには、比較的低温で電気的接合が可能な銀ペーストが用いられてきたが、スズ電極との局部電池による導通抵抗の上昇、カーケンダルボイドの発生及びコスト等が問題となっている。一方で、導通抵抗の上昇を防止するために、銀ペーストに低融点金属や導電フィラー、金属ナノ粒子を添加することが行なわれている。
【0004】
表面が被覆されコロイド状に分散した金属ナノ粒子の製造方法には、例えば、ガス中蒸発法や還元析出法等が挙げられる(特許文献1、特許文献2)。また、活性連続界面蒸着法も表面が被覆されコロイド状に分散した金属ナノ粒子の製造方法の一つであり、最も小さく、均一なサイズと均一な形状の金属・合金微粒子コロイドを比較的簡単な装置で得られ、かつ多くの種類の金属・合金に適用できる(特許文献3)。
【0005】
金属ナノ粒子は、比表面積が大きく反応活性が高いので、金属バルクと比較して、低温で融着する低温焼結という特性を有する。例えば、銀の場合、本来の融点964℃より格段に低い200〜300℃程度の加熱処理で融着接合現象が起こり、金属バルクと同等の導通性を示すことが知られている。
【0006】
一方、近年、加熱工程の複雑化により、金属接点が再度熱に晒される可能性があり、その場合スズ-ビスマス合金に代表される低融点合金では再溶融による接続信頼性の低下が問題となっている。また、パワートランジスタ等の高温発熱箇所に適した高融点はんだには、依然として環境への悪影響が懸念される高鉛はんだを使用している。そこで、金属ナノ粒子、特に、銀ナノ粒子の低温焼結特性と焼結後は金属本来の融点に戻る性質を利用して、接続信頼性の低下防止と接合の耐高温性を図っている。このように、銀ナノ粒子を用いることで、金属が本来持つ融点よりもはるかに低い加熱温度で、電子部品を基板に接合でき、また配線パターンを形成できるようになったが、高いコストという問題点は解決されていない。
【0007】
そこで、特許文献4では、低温且つ短時間で銅ナノ粒子を用いた配線パターンを形成する方法が提案されている。しかし、スズと同様に銅も大気中で酸化を受け易いので、酸化銅ナノ粒子を還元性気体の存在下生起されるプラズマ雰囲気中にて還元反応させることにより、銅ナノ粒子の焼結体を形成させる必要がある。従って、上記記技術には、反応雰囲気を厳密にコントロールし、かつ特殊な装置を用いなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2005/025787号公報
【特許文献2】特開2005−26081号公報
【特許文献3】特開2008−150630号公報
【特許文献4】特開2004−119686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、金属ナノ粒子の低温焼結特性を用いて、簡易に、導電性及び機械的特性に優れた金属的接合を得、また導電性に優れた配線パターンを形成できる金属ナノ粒子ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様は、(A)金属ナノ粒子と、(B)前記金属ナノ粒子の表面を被覆する保護膜と、(C)カルボン酸類と、(D)分散媒とを含むことを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。(A)金属ナノ粒子と(B)保護膜の構成成分である化合物との間で発生する静電力に起因した分子間力、すなわち静電的な結合により、(A)金属ナノ粒子の表面に(B)保護膜が結合し、(A)金属ナノ粒子が(B)保護膜に被覆されると考えられる。(A)金属ナノ粒子の表面が(B)保護膜で被覆されていることにより、(D)分散媒中において(A)金属ナノ粒子の凝集が防止された状態で金属ナノ粒子ペーストを保存できる。また、金属ナノ粒子ペーストを金属ナノ粒子の融点よりも低い所定温度で加熱処理、すなわち低温焼結させると、(B)保護膜と(C)カルボン酸類とが反応することで、(A)金属ナノ粒子と(B)保護膜との間の、静電力に起因した分子間力による結合が切れて、(A)金属ナノ粒子の表面から(B)保護膜が離れると考えられる。そして、上記加熱条件下、(A)金属ナノ粒子の表面から(B)保護膜が離れると、(A)金属ナノ粒子が相互に凝集、焼結する。なお、「低温焼結」とは、金属ナノ粒子を構成する金属の固有の融点よりも低い温度で、金属ナノ粒子が相互に融着して焼結することを意味する。
【0011】
本発明の態様は、前記(A)金属ナノ粒子の平均一次粒子径が、1〜100nmであることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。本発明の態様は、前記(A)金属ナノ粒子が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、亜鉛、チタン、アルミニウム及びアンチモンからなる群から選択された少なくとも一種の金属であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。本発明の態様は、前記(A)金属ナノ粒子が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、亜鉛、チタン、アルミニウム及びアンチモンからなる群から選択された少なくとも一種の金属合金であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。本発明の態様は、前記(A)金属ナノ粒子がスズであり、前記スズの平均一次粒子径が1〜50nmであることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。
【0012】
本発明の態様は、前記(B)金属ナノ粒子の表面を被覆する保護膜が、前記(A)金属ナノ粒子と孤立電子対による配位的な結合が可能である、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を含んだ基を有する有機化合物を含むことを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。(A)金属ナノ粒子に、(B)保護膜を構成する有機化合物の酸素原子、窒素原子または硫黄原子が静電力由来の分子間力で結合することにより、(B)保護膜が(A)金属ナノ粒子を被覆すると考えられる。
【0013】
本発明の態様は、前記酸素原子を含んだ基がヒドロキシ基(-OH)またはオキシ基(-O-)、前記窒素原子を含んだ基がアミノ基(-NH2)、前記硫黄原子を含んだ基がスルファニル基(-SH)であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。(A)金属ナノ粒子に、(B)保護膜を構成する有機化合物のヒドロキシ基(-OH)若しくはオキシ基(-O-)の酸素原子、アミノ基(-NH2)の窒素原子またはスルファニル基(-SH)の硫黄原子が静電力に起因した分子間力で結合することにより、(B)保護膜が(A)金属ナノ粒子を被覆すると考えられる。
【0014】
本発明の態様は、前記酸素原子を含んだ基を有する有機化合物が、下記一般式(I)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、炭素数2〜20の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。一般式(I)は、分子内脱水された糖アルコールと脂肪酸のエステルであり、分子内脱水された糖アルコールのヒドロキシ基(-OH)の酸素原子が、静電力に起因した分子間力により(A)金属ナノ粒子表面と結合することで、(B)保護膜が(A)金属ナノ粒子を被覆すると考えられる。また、後述するように、一般式(I)の糖アルコール脂肪酸エステルは、下記一般式(II)のモノカルボン酸、下記一般式(III)のジカルボン酸等のカルボン酸類と反応する、すなわち糖アルコールのヒドロキシ基がカルボン酸類のカルボキシル基と反応することで(B)保護膜が(A)金属ナノ粒子表面から離れると考えられる。本発明の態様は、前記窒素原子を含んだ基を有する有機化合物が、下記一般式(IV)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rは炭素数2〜20の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。一般式(IV)はアミンであり、アミノ基の窒素原子が、静電力に起因した分子間力により(A)金属ナノ粒子表面と結合することで、(B)保護膜が(A)金属ナノ粒子を被覆すると考えられる。
【0019】
本発明の態様は、前記(C)カルボン酸類が、モノカルボン酸若しくはその無水物、またはジカルボン酸若しくはその無水物であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。本発明の態様は、前記モノカルボン酸が、下記一般式(II)
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、Rは、炭素数6〜10の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。本発明の態様は、前記ジカルボン酸が、下記一般式(III)
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Rは、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜12の二価の基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。
【0024】
本発明の態様は、前記(A)金属ナノ粒子が銀を含んでおり、前記(D)分散媒がテルペンアルコール類であることを特徴とする金属ナノ粒子ペーストである。すなわち、(A)金属ナノ粒子の金属種は銀であるか、または少なくとも銀を含有している。
【0025】
本発明の態様は、上記金属ナノ粒子ペーストを用いて基板に電子部品を実装したことを特徴とする電子部品接合体である。この態様では、基板と電子部品との導電性接合材料として上記金属ナノ粒子ペーストを用いている。
【0026】
本発明の態様は、上記金属ナノ粒子ペーストにて、基板にLED素子を接合したことを特徴とするLEDモジュールである。
【0027】
本発明の態様は、上記金属ナノ粒子ペーストを用いてスクリーン印刷法またはインクジェット法によりプリント配線板上に電極及び配線パターンを形成し、250℃以上で加熱することにより前記配線パターンを焼成処理することを特徴とするプリント配線板の回路形成方法である。この態様では、基板の配線材料として上記金属ナノ粒子ペーストを用いている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、金属ナノ粒子の低温焼結特性を用いて、安価かつ簡易に、導電性、機械的強度に優れた金属的接合を得、また導電性に優れた配線パターンを形成できる。また、本発明によれば、金属ナノ粒子の表面が保護膜で被覆されているので、金属ナノ粒子ペーストの保存時では金属ナノ粒子の凝集を防止して分散安定性を向上させることができる。さらに、金属ナノ粒子ペーストを融点よりも低温で加熱処理すると保護膜とカルボン酸類とが反応することにより、金属ナノ粒子の表面から保護膜が離れるので、保存時の分散安定性に優れつつ、容易に金属ナノ粒子が凝集、焼結できる。
【0029】
特に、銀を含有した金属ナノ粒子の分散媒としてテルペンアルコール類を用いた金属ナノ粒子ペーストを用いて塗膜を形成すると、導電性と機械的強度に優れるだけでなく、高反射率を有する塗膜を得ることができる。また、銀を含有した金属ナノ粒子ペーストは、優れた導電性を有すると同時に高い熱伝導性と熱散逸性を有している。従って、銀を含有した金属ナノ粒子とテルペンアルコール類とを配合した金属ナノ粒子ペーストは、反射率と熱伝導性にも優れるので、例えば、回路基板表面に塗工することで、回路基板に優れた反射率を付与するとともに、電子部品、例えばLED素子を接合するための接合材として適している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】金属ナノ粒子の金属種にスズまたははんだ粉を用いた場合のリフロー加熱プロファイルを説明する図である。
【図2】金属ナノ粒子の金属種に銀または銅を用いた場合のリフロー加熱プロファイルを説明する図である。
【図3】金属ナノ粒子の金属種に銀を用いた場合のリフロー加熱プロファイルを説明する図である。
【図4】金属ナノ粒子の金属種に銀を用いた場合の第2のリフロー加熱プロファイルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の金属ナノ粒子ペーストについて説明する。本発明の金属ナノ粒子ペーストは、(A)金属ナノ粒子と、(B)前記金属ナノ粒子の表面を被覆する保護膜と、(C)カルボン酸類と、(D)分散媒とを含む混合物である。
【0032】
(A)金属ナノ粒子
(A)成分である金属ナノ粒子は、ナノオーダーの平均一次粒子径を有する金属粉である。ナノオーダーの平均一次粒子径を有することで、比表面積が大きく粒子表面の反応活性が高くなるので、金属本来の融点よりもはるかに低い加熱温度で、電子部品を基板に電気的に接合でき、また基板上に配線パターンを形成できる。金属ナノ粒子の金属種は、良導電性を有し、後述する(B)成分である保護膜を被覆できるものであれば特に限定されず、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、亜鉛、チタン、アルミニウム及びアンチモンなど、はんだに使用される金属単体や上記金属種を含有する金属合金を挙げることができる。上記金属種のうち、環境への負荷、コスト及びマイグレーション現象の発生防止の点からスズ、銅が好ましい。
【0033】
また、LED素子を回路基板に接合する導電性接合材料として金属ナノ粒子ペーストを使用する場合、高輝度のLEDモジュールを得る点から、上記金属種は銀が好ましい。
【0034】
金属ナノ粒子の平均一次粒子径の上限値は、低温焼結特性を奏する点から100nmであり、低温焼結を迅速に進める点から50nmが好ましく、緻密な電子部品接合部への適用及び微細な配線パターンの形成の点から20nmが特に好ましい。また、金属ナノ粒子の平均一次粒子径の下限値は、分散安定性の点から1nmであり、低温焼結性の点から2nmが好ましく、生産安定性の点から3nmが特に好ましい。これらの金属ナノ粒子は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
(B)金属ナノ粒子の表面を被覆する保護膜
(B)成分である金属ナノ粒子の表面を被覆する保護膜は、(A)金属ナノ粒子表面の反応活性が高いことによる金属ナノ粒子相互の融着を防止して、金属ナノ粒子に分散媒中における均一な分散、すなわち分散安定性を与えるためのものである。前記保護膜の構成成分は、金属ナノ粒子表面を被覆して、分散媒中で金属ナノ粒子に均一な分散性を発揮させる化合物であれば特に限定されず、例えば、金属ナノ粒子と孤立電子対による配位的な結合が可能である、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を含んだ基を有する有機化合物を挙げることができる。上記した酸素原子、窒素原子または硫黄原子が静電力に起因した分子間力により金属ナノ粒子表面に結合することにより、保護膜が金属ナノ粒子を被覆する。また、有機化合物は有機溶媒等の分散媒と親和性を有するので、分散安定性を有することができる。さらに、酸素原子を含んだ基の例としてヒドロキシ基(-OH)やオキシ基(-O-)、窒素原子を含んだ基の例としてアミノ基(-NH2)、硫黄原子を含んだ基の例としてスルファニル基(-SH)を挙げることができる。
【0036】
また、保護膜の構成成分である有機化合物は、室温での熱的安定性と金属ナノ粒子の分散性の点から、金属ナノ粒子と孤立電子対による配位的な結合が可能である、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を含んだ基を有し、かつ炭素数2〜20の飽和または不飽和炭化水素基を有する有機化合物が好ましく、特に好ましくは、金属ナノ粒子と孤立電子対による配位的な結合が可能である、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を含んだ基を有し、かつ炭素数4〜18の飽和または不飽和炭化水素基を複数有する有機化合物である。
【0037】
上記した保護膜の構成成分となる有機化合物には、例えば、糖アルコールと脂肪酸のエステルを挙げることができる。糖アルコールは、特に限定されず、例えば、グリセリン、ソルビトール及びソルビトールの分子内脱水したもの、マンニトール及びマンニトールの分子内脱水したもの、キシリトール及びキシリトールの分子内脱水したもの並びにエリトリトール及びエリトリトールの分子内脱水したもの等を挙げることができる。また、脂肪酸は、特に限定されず、例えば、ブチル酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等を挙げることができる。糖アルコール脂肪酸エステルには、例えば、下記一般式(I)
【0038】
【化5】

【0039】
(式中、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、炭素数2〜20の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表される分子内脱水された糖アルコールと脂肪酸のエステルを挙げることができ、上記一般式(I)の糖アルコール脂肪酸エステルの具体例としては下記式(I‐1)
【0040】
【化6】

【0041】
で表される化合物を挙げることができる。さらに、保護膜の構成成分となる有機化合物には、例えば、下記一般式(IV)
【0042】
【化7】

【0043】
(式中、Rは炭素数2〜20の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表されるアミンを挙げることができ、アミンの具体例としては下記式(IV‐1)
【0044】
【化8】

【0045】
で表される化合物を挙げることができる。
【0046】
金属ナノ粒子に対する保護膜の被覆量の上限値は、金属ナノ粒子100質量部に対して、導通抵抗値の上昇防止の点から30質量部であり、低温焼結性の点から20質量部が好ましい。一方、金属ナノ粒子に対する保護膜の被覆量の下限値は、金属ナノ粒子100質量部に対して、金属ナノ粒子の室温における分散安定性を保持する点から5質量部であり、分散安定性をより確実にする点で10質量部が好ましい。これらの保護膜の構成成分は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0047】
(B)成分である保護膜で被覆された金属ナノ粒子の製造方法は、特に限定されないが、均一なサイズと形状を有する金属・合金微粒子コロイドを簡単に製造でき、また、スズ、銅及びニッケル等の酸化されやすい卑金属類であっても純金属の状態でナノ粒子化できる点で、上記特許文献3に記載の活性連続界面蒸着法が好ましい。
【0048】
活性連続界面蒸着法には、液体媒質を下部に貯留する回転式真空槽と、前記回転式真空槽内部に配置された金属材料の蒸発構造と、前記回転式真空槽を真空槽の中心軸周りに回転させる可変速回転機構とからなる装置が使用される。
【0049】
活性連続界面蒸着法とは、具体的には、回転式真空槽の内部に、保護膜の構成成分(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル)を10質量%配合した溶液(例えばアルキルナフタレン溶液)を所定量(例えば200ml)装填し、抵抗加熱蒸発源に金属ナノ粒子の原料となる金属塊を所定量(例えば10g)装填する。回転式真空槽を所定の回転数(例えば100mm/s)で回転させながら、真空排気し、5×10−5Torrの真空中で、抵抗加熱蒸発源を加熱し、金属蒸気を所定の速度(例えば0.2g/min)で蒸発させる。この条件にて、所定時間(例えば120分)運転することにより、金属塊はほぼ消滅し、蒸発した金属が溶液に吸着して回転式真空槽の底部に金属ナノ粒子のコロイドを得ることができる。得られた金属ナノ粒子のコロイドから溶液(例えばシクロヘキサン溶液)を揮発させて、保護膜で被覆された金属ナノ粒子を製造できる。
【0050】
(C)カルボン酸類
(C)成分であるカルボン酸類は、所定の加熱条件下、すなわち金属ナノ粒子を構成する金属の固有の融点よりも低い加熱温度の条件下、金属ナノ粒子を被覆している保護膜と反応することで、金属ナノ粒子の表面から保護膜を離して、保護膜としての機能を失わせるものである。上記加熱条件下、保護膜が金属ナノ粒子の表面から離れることで、金属ナノ粒子が相互に凝集し、焼結する。すなわち、カルボン酸類は、保護膜分離剤として機能する。例えば、カルボン酸類は、保護膜の構成成分である有機化合物の、金属ナノ粒子と孤立電子対による配位的な結合が可能である、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を含んだ基と反応する。
【0051】
より具体的には、保護膜の構成成分として一般式(I)の糖アルコール脂肪酸エステルを例にすると、カルボン酸類のカルボキシル基が分子内脱水された糖アルコールのヒドロキシ基と反応してエステル化されることで、糖アルコールのヒドロキシ基に起因した、糖アルコール脂肪酸エステル・金属ナノ粒子間の分子間力による結合が切れて、金属ナノ粒子の表面から保護膜が分離する。また、保護膜の構成成分として一般式(IV)のアミンを例にすると、アミンのアミノ基がカルボン酸類のカルボキシル基と反応してアミド化されることで、アミノ基に起因した、アミン・金属ナノ粒子間の分子間力による結合が切れて、金属ナノ粒子の表面から保護膜が分離する。
【0052】
金属ナノ粒子ペーストに配合可能なカルボン酸類は、モノカルボン酸及びその無水物、ジカルボン酸及びその無水物、トリカルボン酸及びその無水物等、カルボキシル基を有する有機化合物であれば特に限定されない。モノカルボン酸としては、例えば、一般式(II)
【0053】
【化9】

【0054】
(式中、Rは、炭素数6〜10の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表される化合物を挙げることができる。具体例としては、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸等の飽和脂肪酸及び上記各飽和脂肪酸の無水物、並びにtrans‐3‐ヘキセン酸、2‐ノネン酸等の不飽和脂肪酸及び上記各不飽和脂肪酸の無水物を挙げることができ、円滑な保護膜分離能の点からノナン酸が好ましい。ジカルボン酸としては、例えば、一般式(III)
【0055】
【化10】

【0056】
(式中、Rは、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜12の二価の基を示す。)で表される化合物を挙げることができる。具体例としては、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、ジグリコール酸、コハク酸、フタル酸及び上記したそれぞれの酸の無水物や誘導体等が挙げられ、残渣の残りにくさ及び円滑な保護膜分離能の点からジグリコール酸、ジグリコール酸無水物、コハク酸無水物が好ましい。また、トリカルボン酸の例としては、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸等を挙げることができる。
【0057】
カルボン酸類の配合量の上限値は、保護膜を被覆した金属ナノ粒子100質量部に対して、カルボン酸類による金属ナノ粒子の酸化防止の点から300質量部であり、金属ナノ粒子ペースト全体としての金属比率を確保する点から200質量部が好ましい。一方、カルボン酸類の配合量の下限値は、保護膜を被覆した金属ナノ粒子100質量部に対して、金属ナノ粒子の表面から保護膜を確実に分離させる点から30質量部であり、導通性を安定させる点から40質量部が好ましい。これらのカルボン酸類は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0058】
(D)分散媒
(D)成分である分散媒は、金属ナノ粒子ペーストの粘度を調整するとともに、低温焼結時に金属ナノ粒子が金属ナノ粒子ペースト中を移動する際の潤滑剤として機能するものである。分散媒の例としては、デカン、テトラデカン、オクタデカン等の飽和または不飽和脂肪族炭化水素類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロプレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及び上記グリコールエーテル類のエステル化物などのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシルジグリコールなどのアルコール類、スクアランなど炭素数30以上の不飽和炭化水素類等を挙げることができる。
【0059】
また、分散媒として、モノテルペンアルコール、セスキテルペンアルコール及びジテルペンアルコール等のテルペンアルコール類を使用してもよい。金属ナノ粒子として、特に、銀を含有した金属ナノ粒子を用いる場合には、上記したテルペンアルコール類の分散媒を使用すると、導電性に優れかつ高反射率を有する塗膜を形成できる金属ナノ粒子ペーストを得ることができる。モノテルペンアルコールの例としては、α‐テルピネオール、β‐テルピネオール、γ‐テルピネオール、δ‐テルピネオール、マノオール、ボルネオール、テルビネン‐4‐オール、並びに1‐ヒドロキシ‐p‐メンタン及び8‐ヒドロキシ‐p‐メンタンなどのジヒドロテルピネオール等を挙げることができる。セスキテルペンアルコールの例としては、キャトロール、セドロール、ネロリドール、パチュロール、α−ビサボロール、ビリディフロロール、カジノール等を挙げることができる。
【0060】
これら分散媒は、室温で安定的に保存でき、さらに低温焼結時における蒸散を抑える点から、引火点が50℃以上かつ沸点が150℃以上の有機溶媒が好ましく、例えば、ヘキシルジグリコールを挙げることができる。また、低温焼結時における潤滑剤機能の点から、特に好ましくは(B)成分である保護膜が金属ナノ粒子表面から分離する温度以上の沸点を有する有機溶媒であり、例えば、250℃以上の沸点を有するスクアラン、テトラデカン等を挙げることができる。
【0061】
分散媒の配合量は、所望の粘度に応じて適宜配合可能であるが、保護膜で被覆された金属ナノ粒子100質量部に対して、例えば、1〜300質量部であり、塗膜のひび割れを防止する点から20〜200質量部が好ましい。金属ナノ粒子ペーストのB型粘度計における粘度は、例えば、25℃において5Pa・s〜400Pa・sであり、塗布の作業性の点から25℃において20Pa・s〜300Pa・sが好ましく、スクリーン印刷またはディスペンサーによる塗布及び潤滑剤としての機能の点から、25℃において50Pa・s〜200Pa・sが特に好ましい。また、これらの分散媒は単独で使用してもよく2種以上を混合して使用してもよい。
【0062】
金属ナノ粒子ペーストには、用途に応じて、適宜、慣用の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤、流動性向上剤、分散安定化剤、増粘剤、粘度調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、消泡剤、殺菌剤、充填材などを挙げることができる。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0063】
次に、本発明の金属ナノ粒子ペーストの製造方法を説明する。金属ナノ粒子ペーストの製造方法は特に限定されず、例えば、所定の分散媒に、所定の製法(例えば、活性連続界面蒸着法)で製造された保護膜で被覆された金属ナノ粒子と、カルボン酸類とを添加し分散させることにより得られる。
【0064】
次に、本発明の金属ナノ粒子ペーストの用途例及び使用方法例について説明する。本発明の金属ナノ粒子ペーストは、種々の用途に使用可能である。本発明の金属ナノ粒子ペーストは、高密度で金属ナノ粒子を含み、また、金属ナノ粒子の融点よりも低い温度(例えば、スズの場合150〜200℃程度、銀、銅の場合250〜350℃程度)で焼結可能である、すなわち低温焼結性を有するので、例えば、配線基板に電子部品を電気的かつ物理的に接合する導電性接合材料、導電性膜を形成する膜材料、特に、基板に配線パターンを形成する配線材料としての用途がある。
【0065】
導電性接合材料として使用する場合、配線基板上の電子部品を接合する位置に、金属ナノ粒子ペーストを塗布し、塗布した金属ナノ粒子ペースト膜上に電子部品を載置後、焼成処理して、配線基板上に電子部品を接合する。金属ナノ粒子ペーストの塗布方法は、特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、ディスペンサー法などが挙げられる。金属ナノ粒子ペーストの塗布量は、適宜調整可能であり、例えば、1〜20μmの厚さにて塗布する。焼成温度は、金属ナノ粒子表面を被覆していた保護膜が金属ナノ粒子から分離されて金属ナノ粒子が相互に融着して低温焼結する温度であれば、特に限定されず、例えば、金属ナノ粒子がスズであって、保護膜が式(I‐1)のソルビタン脂肪酸エステルの場合、150〜200℃であり、好ましくは150〜170℃、金属ナノ粒子が銅または銀であって、保護膜が式(I‐1)のソルビタン脂肪酸エステルの場合、250〜350℃であり、好ましくは280〜320℃である。また、焼成時間は、適宜選択可能であり、例えば、5〜120分である。使用する配線基板の材質は、特に限定されず、ガラス類、金属酸化物等の無機材料に加えて、本発明の金属ナノ粒子ペーストは低温焼結性を有するので、無機材料に比べて耐熱性の劣るポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、フッ素樹脂などの有機材料も使用できる。
【0066】
この使用方法例は、金属粒子がナノサイズなので、配線基板上の微細な領域にも電子部品を接合することができる。例えば、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、従来のはんだでは印刷供給量のばらつきが問題となる0402チップや0.3mm以下の狭ピッチの実装領域などでも接合可能である。
【0067】
また、配線材料として使用する場合、基板上に、金属ナノ粒子ペーストにて所望の配線パターンを描画し、描画された配線パターンを焼成処理して、基板上に焼結した配線パターンを形成する。金属ナノ粒子ペーストの塗布方法は、配線パターンの形成可能な塗布方法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などが挙げられる。なお、金属ナノ粒子ペーストの塗布量、焼成条件、使用可能な基板の材質は、上記した導電性接合材料として使用する場合と同様である。この使用方法例は、金属粒子がナノサイズであることを利用して、微細な配線パターンの形成にも適用することができる。
【0068】
さらに、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、銀を含有した金属ナノ粒子と、テルペンアルコール類の分散媒を使用すると、導電性に優れかつ高反射率を有する塗膜を形成できるので、金属ナノ粒子ペーストを塗工した回路基板にLED素子をダイボンダーを用いて接合してLEDモジュールを製造する際の、反射塗膜・接合用材料としても使用できる。
【実施例】
【0069】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではない。
【0070】
実施例1〜11、比較例1〜6
以下に、本発明の金属ナノ粒子ペーストを導電性接合材料として使用した実施例を説明する。
【0071】
(1)金属ナノ粒子ペーストの配合成分について
導電性材料
・保護膜で被覆された金属ナノ粒子(以下、「被覆金属ナノ粒子」と表す)について
被覆金属ナノ粒子I:上記活性連続界面蒸着法にて、スズナノ粒子に式(I‐1)のソルビタン脂肪酸エステルからなる保護膜を被覆したもの。
被覆金属ナノ粒子II:上記活性連続界面蒸着法にて、スズナノ粒子に式(IV‐1)のオレイルアミンからなる保護膜を被覆したもの。
被覆金属ナノ粒子III:上記活性連続界面蒸着法にて、銀ナノ粒子に式(I‐1)のソルビタン脂肪酸エステルからなる保護膜を被覆したもの。
被覆金属ナノ粒子IV:上記活性連続界面蒸着法にて、銅ナノ粒子に式(I‐1)のソルビタン脂肪酸エステルからなる保護膜を被覆したもの。
熱分析(TG‐DTA法)より、上記被覆金属ナノ粒子I〜IVの保護膜成分の含有量はいずれも20質量%であった。
・金属粉について
SAC305はんだ粉:(株)タムラ製作所製、遠心アトマイズ法により作製。
乾粉スズナノ粒子:保護膜による被膜の無いもの。アルドリッチ(株)製、「Tin nanopowder」
【0072】
(2)導電性接合材料として使用する金属ナノ粒子ペーストの調製方法
上記活性連続界面蒸着法により得られた、被覆金属ナノ粒子を20質量%含有したシクロヘキサン分散液を、メノウ乳鉢に所定量投入し減圧乾燥によりシクロヘキサン分を全て揮発させて保護膜成分を20質量%有した被覆金属ナノ粒子を得た。この被覆金属ナノ粒子に、所定量のカルボン酸類と所定量の溶剤とを加え、乳棒を用いて5分間混合することで導電性接合材料として使用する金属ナノ粒子ペーストを調製した。
【0073】
前記導電性接合材料の調製方法を用いて、下記表1に示す各成分を下記表1に示す配合割合にて配合することで、実施例1〜11及び比較例1〜6の金属ナノ粒子ペーストを調製した。下記表1に示す配合量は質量%を表す。
【0074】
【表1】

【0075】
(3)性能評価
(一)チップ導通抵抗
表面に銅箔ランドが形成されたガラスエポキシ基板上に、上記のように調製した金属ナノ粒子ペーストを200μmtのメタルマスクを用いてメタルスキージで印刷し、YAMAHA(株)製チップマウンターを用いて抵抗値が0Ωであるスズめっきの1608CRチップを搭載した。そして、リフロー加熱(金属種がスズの被覆金属ナノ粒子を配合した実施例1〜8と比較例1、3〜4、乾粉スズナノ粒子を配合した比較例2、SAC305はんだ粉を配合した比較例5〜6、並びにSAC305はんだ粉と同様の組成となるように、金属種がスズの被覆金属ナノ粒子、金属種が銀の被覆金属ナノ粒子及び金属種が銅の被覆金属ナノ粒子を配合した実施例11は、図1に示すリフロープロファイル(リフロー加熱時の酸素濃度は50ppm以下)、金属種が銀または銅の被覆金属ナノ粒子を配合した実施例9〜10は、図2に示すリフロープロファイル(リフロー加熱時の酸素濃度は50ppm以下))にてガラスエポキシ基板上に搭載した1608CRチップを接合し、この接合体の導通抵抗の値を、岩通計測(株)製マイクロメーターを用いて測定した。
(二)チップ抵抗部品のせん断強度
表面に銅箔ランドが形成されたガラスエポキシ基板上に、上記のように調製した金属ナノ粒子ペーストを150μmtのメタルマスクを用いてメタルスキージで印刷し、スズめっきの1608CRチップを銅箔ランドの印刷膜上に10個載置した。そして、リフロー加熱(金属種がスズの被覆金属ナノ粒子を配合した実施例1〜8と比較例1、3〜4、乾粉スズナノ粒子を配合した比較例2、SAC305はんだ粉を配合した比較例5〜6、並びにSAC305はんだ粉と同様の組成となるように、金属種がスズの被覆金属ナノ粒子、金属種が銀の被覆金属ナノ粒子及び金属種が銅の被覆金属ナノ粒子を配合した実施例11は、図1のリフロープロファイル(リフロー加熱時の酸素濃度は50ppm以下)、金属種が銀または銅の被覆金属ナノ粒子を配合した実施例9〜10は、図2のリフロープロファイル(リフロー加熱時の酸素濃度は50ppm以下))にてガラスエポキシ基板上に載置した1608CRチップを接合して試験片を作製した。この試験片について、引張り試験機(SHIMADZU(株)製EZ-L)を用いて、5mm/minの条件で1608CRチップのせん断強度を測定した。なお、測定結果は、せん断強度を測定した10個の1608CRチップの平均値である。
(三)表面状態
上記(一)チップ導通抵抗と同様の方法にて作製した接合体について、基板・チップ間の接合部を目視にて観察した。評価は、下記4段階で行なった。
◎:金属光沢があり、表面が滑らかである。
○:金属光沢があるが、表面は滑らかではない。
△:金属光沢があまり無く、表面に凸凹と空泡有り。
×:金属光沢が無く加熱前と変化が無い。
【0076】
実施例1〜11、比較例1〜6の評価結果を下記表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表2のせん断強度について、「測定不可」とは、1608CRチップをガラスエポキシ基板上に接合できなかったために、せん断強度を測定できなかったことを意味する。
【0079】
表2に示すように、ソルビタン脂肪酸エステル膜が被覆された金属ナノ粒子とカルボン酸類とを配合した金属ナノ粒子ペースト(実施例1〜4、6〜10)及びオレイルアミン膜が被覆された金属ナノ粒子とカルボン酸類とを配合した金属ナノ粒子ペースト(実施例5)を用いて基板にチップを接合すると、チップ導通抵抗値が低くなり、優れた導通性を有する接合部を得ることができた。また、実施例1〜10では、基板上に接合されたチップのせん断強度が増して接合部の機械的強度が向上し、接合部の表面状態も良好であった。実施例11に示すように、被覆金属ナノ粒子を金属ナノ粒子の金属種が3種類からなる混合品としても、優れた導通性を有する接合部を得ることができ、接合部の表面状態も良好であった。また、実施例11では、実施例1〜10と比較して、特にチップのせん断強度が増して接合部の機械的強度がより向上した。
【0080】
実施例1、3〜6、8〜11と実施例2の比較から、ジグリコール酸、ジグリコール酸無水物またはオクテニルコハク酸無水物の配合比率を30質量%以上とすると、接合部の導通性、せん断強度及び表面状態のいずれも、より向上した。また、ジカルボン酸またはジカルボン酸の無水物を使用すると(実施例1、5、6、8〜11)、モノカルボン酸を使用する場合(実施例7)と比較して、接合部の導通性、せん断強度及び表面状態のいずれも、より一層向上した。実施例9、10より、金属種が銀(実施例9)または銅(実施例10)である被覆金属ナノ粒子に、分散媒として高沸点の炭化水素系溶媒であるスクアランを用いると、接合部の導通性と表面状態が特に優れていた。
【0081】
一方、比較例1から、保護膜が被覆された金属ナノ粒子のペーストに保護膜分離剤であるカルボン酸類を配合せず、また、比較例3、4から、保護膜が被覆された金属ナノ粒子のペーストに保護膜分離剤としてカルボン酸類を配合しないと(比較例3ではアミンを配合、比較例4ではハロゲン系活性剤を配合)、いずれも、接合自体が不十分となり、接合部の導通性も認められなかった。さらに、接合部の表面状態も不良であった。また、比較例2、6から、保護膜で被覆されていない金属ナノ粒子や従来のはんだ粉を用いたペーストにカルボン酸類を配合しても、チップ導通抵抗が高く、接合部の導通性は劣っていた。また、比較例2、5、6は、比較例1、3、4と同様に、接合が不十分で、接合部の表面状態も不良であった。
【0082】
実施例12〜14、比較例7
以下に、本発明の金属ナノ粒子ペーストを配線材料として使用した実施例を説明する。
【0083】
(1)金属ナノ粒子ペーストの配合成分について
導電性材料
被覆金属ナノ粒子III、被覆金属ナノ粒子IVは、上記した金属ナノ粒子ペーストを導電性接合材料として使用した実施例と同様である。
金属ナノ粒子VIは、保護膜による被膜の無いもの。
【0084】
(2)配線材料として使用する金属ナノ粒子ペーストの調製方法
上記活性連続界面蒸着法により得られた、被覆金属ナノ粒子を20質量%含有したシクロヘキサン分散液を、メノウ乳鉢に所定量投入し減圧乾燥によりシクロヘキサン分を全て揮発させて保護膜成分を20質量%有した被覆金属ナノ粒子を得た。この被覆金属ナノ粒子に、所定量のカルボン酸類と所定量の溶剤とを加え、乳棒を用いて5分間混合することで配線材料として使用する金属ナノ粒子ペーストを調製した。
【0085】
前記配線材料の調製方法を用いて、下記表3に示す各成分を下記表3に示す配合割合にて配合することで、実施例12〜14及び比較例7の金属ナノ粒子ペーストを調製した。下記表3に示す配合量は質量%を表す。
【0086】
【表3】

【0087】
(3)性能評価
(四)体積抵抗
スライドガラス上に、上記のように調製した金属ナノ粒子ペーストをスクリーン印刷で長さ5cm×幅1cm塗布し、下記表4に示す焼成条件(図2にリフロープロファイルを示す)にて塗膜を焼成後、膜厚を測定し、岩通計測(株)製マイクロメーターを用いて抵抗値を測定することにより、体積抵抗(比抵抗)値を算出した。
【0088】
実施例12〜14、比較例7の評価結果を下記表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
表4に示すように、ソルビタン脂肪酸エステル膜で表面が被覆された金属ナノ粒子にカルボン酸類を配合すると、体積抵抗値が抑えられた配線パターンを形成できた。
【0091】
実施例15〜19、比較例8〜10
以下に、本発明の金属ナノ粒子ペーストについて、高反射率を有する塗膜・接合用材料として使用した実施例を説明する。
【0092】
(1)金属ナノ粒子ペーストの配合成分について
導電性材料
・被覆金属ナノ粒子IIIは、上記した金属ナノ粒子ペーストを導電性接合材料として使用した実施例の被覆金属ナノ粒子IIIと同様である。
・銀粉は、福田金属(株)製、「AgC−A」。
【0093】
分散媒
・ターピネオールC:日本テルペン(株)製、α‐テルピネオール、β‐テルピネオール及びγ‐テルピネオールの混合物。既存化学物質番号3−2323、CAS.No.8000−41−7、純度85質量%以上。
・ジヒドロターピネオール:日本テルペン(株)製、1‐ヒドロキシ‐p‐メンタン及び8‐ヒドロキシ‐p‐メンタンの混合物。既存化学物質番号3−2315、CAS.No.498−81−7、純度96質量%以上。
【0094】
(2)基板の塗膜(反射塗膜・LED素子接合用材料)として使用する被覆金属ナノ粒子ペーストの調製方法
上記活性連続界面蒸着法により得られた、被覆金属ナノ粒子を20質量%含有したシクロヘキサン分散液を、メノウ乳鉢に所定量投入し減圧乾燥によりシクロヘキサン分を全て揮発させて保護膜成分を20質量%有した被覆金属ナノ粒子を得た。この被覆金属ナノ粒子に、所定量のカルボン酸類と所定量の溶剤とを加え、乳棒を用いて5分間混合することでLED素子の基板への接合材料として使用する金属ナノ粒子ペーストを調製した。
【0095】
前記調製方法を用いて、下記表5に示す各成分を下記表5に示す配合割合にて配合することで、実施例15〜19及び比較例8〜10の金属ナノ粒子ペーストを調製した。下記表5に示す配合量は質量%を表す。
【0096】
【表5】

【0097】
(3)性能評価
(五)反射率
6cm×3cmのスライドガラス上に、上記のように調製した金属ナノ粒子ペーストを200μmtのメタルマスクを用いてメタルスキージで印刷した。印刷後、下記表6に示す焼成条件にて加熱(金属種が銀の被覆金属ナノ粒子を配合した実施例15〜19のうちの実施例15、18、19と比較例8〜10は図2に示すリフロープロファイル、実施例16は図3に示すリフロー加熱プロファイル、実施例17は図4に示すリフロー加熱プロファイル)して、スライドガラス上に3cm×2cmの金属塗膜を形成した。焼成した前記金属塗膜について、日立ハイテク(株)製の分光光度計「日立分光光度計U‐4100」を用いて、450nmにおける金属塗膜の反射率を測定した。また、250〜800μmの範囲における反射率の最大値もあわせて測定した。反射率の測定は、実施例、比較例ともに、YAGレーザーにて入射角10°として行なったものであり、アルミナを基準試料(日立ハイテク(株)製「酸化アルミニウム製標準白色板」)として入射角10°におけるその反射率を100とした場合の、全光相対反射率として測定した。
(六)塗膜の状態
上記(五)と同様の方法で形成した金属塗膜を目視にて観察した。金属塗膜にひび割れが生じずに均一に塗工されているものを「均一」、金属塗膜にひび割れが生じて実用に適しないものを「ひび割れ」と評価した。
【0098】
なお、体積抵抗は上記(四)、チップ抵抗部品のせん断強度は上記(二)と同様の手法で測定した。
【0099】
実施例15〜19、比較例8〜10の評価結果を下記表6に示す。
【0100】
【表6】

【0101】
表6に示すように、被覆金属ナノ粒子の金属種を銀とし、分散媒にテルペンアルコール類を使用すると、低体積抵抗値と高反射率を有し、チップ抵抗部品のせん断強度に優れた塗膜を得ることができた。また、実施例15〜19と比較例8、9より、分散媒にテルペンアルコール類を使用することにより、塗膜のひび割れを防止しつつ反射率を向上させることができた。焼成の雰囲気を不活性ガスではなく大気とすることで塗膜の反射率をさらに向上させることができた。また、実施例15〜17、19より、加熱温度を250℃、特に300℃とすることで、塗膜の反射率をさらに向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、金属ナノ粒子の融点よりも低温の熱処理で基板と電子部品を電気的に接合でき、また前記低温の熱処理で基板上に配線パターンを形成できるので、基板上に電子部品を実装する分野で利用価値が高い。また、銀を含有した金属ナノ粒子とテルペンアルコール類とを配合した金属ナノ粒子ペーストは、反射率と熱伝導性にも優れるので、特に、基板の反射塗膜材料及びLED素子を接合する接合材料として利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)金属ナノ粒子と、(B)前記金属ナノ粒子の表面を被覆する保護膜と、(C)カルボン酸類と、(D)分散媒とを含むことを特徴とする金属ナノ粒子ペースト。
【請求項2】
前記(A)金属ナノ粒子の平均一次粒子径が、1〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項3】
前記(A)金属ナノ粒子が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、亜鉛、チタン、アルミニウム及びアンチモンからなる群から選択された少なくとも一種の金属であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項4】
前記(A)金属ナノ粒子が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、亜鉛、チタン、アルミニウム及びアンチモンからなる群から選択された少なくとも一種の金属合金であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項5】
前記(A)金属ナノ粒子がスズであり、前記スズの平均一次粒子径が1〜50nmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項6】
前記(B)金属ナノ粒子の表面を被覆する保護膜が、前記(A)金属ナノ粒子と孤立電子対による配位的な結合が可能である、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を含んだ基を有する有機化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項7】
前記酸素原子を含んだ基がヒドロキシ基(-OH)またはオキシ基(-O-)、前記窒素原子を含んだ基がアミノ基(-NH2)、前記硫黄原子を含んだ基がスルファニル基(-SH)であることを特徴とする請求項6に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項8】
前記酸素原子を含んだ基を有する有機化合物が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、炭素数2〜20の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項6または7に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項9】
前記窒素原子を含んだ基を有する有機化合物が、下記一般式(IV)
【化2】

(式中、Rは炭素数2〜20の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項6または7に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項10】
前記(C)カルボン酸類が、モノカルボン酸若しくはその無水物、またはジカルボン酸若しくはその無水物であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項11】
前記モノカルボン酸が、下記一般式(II)
【化3】

(式中、Rは、炭素数6〜10の一価の基で、飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項10に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項12】
前記ジカルボン酸が、下記一般式(III)
【化4】

(式中、Rは、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜12の二価の基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項10に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項13】
前記(A)金属ナノ粒子が銀を含んでおり、前記(D)分散媒がテルペンアルコール類であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子ペーストを用いて基板に電子部品を実装したことを特徴とする電子部品接合体。
【請求項15】
請求項13に記載の金属ナノ粒子ペーストにて、基板にLED素子を接合したことを特徴とするLEDモジュール。
【請求項16】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子ペーストを用いてスクリーン印刷法またはインクジェット法によりプリント配線板上に電極及び配線パターンを形成し、250℃以上で加熱することにより前記配線パターンを焼成処理することを特徴とするプリント配線板の回路形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−23014(P2012−23014A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286550(P2010−286550)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(390005223)株式会社タムラ製作所 (526)
【Fターム(参考)】