金属ベーストランジスタおよびそれを用いた発振器
【課題】 テラヘルツ帯の分光ならびに透視装置を小型・低コストで実現する上で、これに用いられる発振器を小型・低コスト化することが最重要課題であった。
【解決手段】 発振器の能動素子に金属ベーストランジスタを採用し、その最大発振周波数を数THzにまで向上するために、電子の飽和速度の高いInN或いはInNを主成分とする材料をコレクタに用いた。特性を再現性よく得るために、コレクタとベースの界面にInGaNを挿入することが有用である。本発明の金属ベーストランジスタを用いてテラヘルツ帯の発振を可能とする発振器を構成することが可能である。又、この発振器を信号源あるいは局所発振器の少なくとも一つに適用した分光装置を提供する。
【解決手段】 発振器の能動素子に金属ベーストランジスタを採用し、その最大発振周波数を数THzにまで向上するために、電子の飽和速度の高いInN或いはInNを主成分とする材料をコレクタに用いた。特性を再現性よく得るために、コレクタとベースの界面にInGaNを挿入することが有用である。本発明の金属ベーストランジスタを用いてテラヘルツ帯の発振を可能とする発振器を構成することが可能である。又、この発振器を信号源あるいは局所発振器の少なくとも一つに適用した分光装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は超高速トランジスタ及びそれを用いた発振器に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
危険物探知のニーズが高まる中、物質を非破壊で同定可能なテラヘルツ(THz)帯の分光技術が注目を集めている。そして、既に、自由電子レーザ、p型Geレーザ、光注入型パラメトリック発生、光スイッチ上光混合といった光を光源に用いた手法でTHz帯利用の有効性が実証されてきている。これらの技術の比較は、例えば、日本放射線技術学会雑誌第58巻第4号(2002年)第441−第447頁(非特許文献1)に示されている。しかし、光を用いた光源でTHz帯分光装置を形成すると、大型、高コスト化が避けられず、市場ニーズである小型、低コスト化に対応できない問題があった。
【0003】
一方、低コスト化を主眼にして、ガンダイオードやインパットダイオードのようなミリ波帯発振器の出力を、GaAsショットキーダイオードによりてい倍する方法がありえるものの、(1)てい倍によって、装置が大型化すること、(2)出力がミリ波発振器のレベルから数桁低減し分光装置に必要な出力を得るのが困難となること、という2つの問題が発生する。そこで、THz帯で直接発振する発振器を、半導体プロセスを用いて小型、低コストで実現する技術が望まれていた。しかし、直接発振に必要な最大発振周波数である数THzを従来半導体技術で実現するのは困難であった。
【0004】
発振器に用いる能動素子の候補として、Siに比較して高周波特性に優れるInP基板上高電子移動度トランジスタ(HEMT)及びヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)を考えた場合、ともに最大発振周波数は数百GHz止まりであるものの、後者の方が縦型素子で電力密度を高くでき、表面再結合に起因した位相雑音の少ない特長があることから、小型・高性能化に適している。そこで、発明者らは、HBTに類似の縦型素子で、最大発振周波数を最大化させた金属ベーストランジスタ(Metal Base Transistor:以下、MBTと略記する)を、THz帯発振器用能動素子に適用することを考えた。
【0005】
これまでMBTの高周波特性は報告されていないものの、電流増幅率に関して20000まで増加させた構造がアプライド・フジックス・レターズ第77巻第5号(2000年)第753頁から第755頁(非特許文献2)に示されている。そこでは、図14に示すように、サファイア基板21上に、コレクタトップ構造を有するMBTが形成され、そのMBTはサブエミッタ22が高ドープn型GaN、エミッタ23がn型GaN、ベース24がW、コレクタ25がベース金属を酸化させて形成したWO3、そして、コレクタ電極26、ベース電極27、エミッタ電極28からなっていた。
【0006】
【非特許文献1】日本放射線技術学会雑誌第58巻第4号(2002年)第441−第447頁。
【0007】
【非特許文献2】アプライド・フジックス・レターズ第77巻第5号(2000年)第753頁から第755頁(Applied Physics Letters Vol.77、No.5(2000)pp.753−757)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでのMBTは遮断周波数が相対的に低い問題がある。その主要要因はWO3よりなるコレクタにおける空乏層中の電子の走行速度が106cm/s台と遅いことである。この走行速度の値は、MBTの遮断周波数をこれまでのHBTの遮断周波数よりも低くするものである。このことは、THz分光装置に必要とされる最大発振周波数、数THzの実現を不可能とする。従って、走行速度の向上が技術的課題の最も大きな問題である。
【0009】
合わせて、本願は、THz分光装置の小型、低コスト化を実現の為に有用な発振器を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の骨子は、第1の基板上に、順次積層されたコレクタ層、ベース層、及びエミッタ層を有する金属ベーストランジスタであって、前記コレクタ層がn型InN或いはInNモル比が0.5以上であるn型半導体材料からなり、前記ベース層が金属からなる金属ベーストランジスタである。
【0011】
このような金属ベーストランジスタを再現性よく得るために、第2の手段として、前記MBTの前記コレクタ層とベース層の界面に、InNモル比0.5未満のn型InGaN、或いはInNモル比が0.5以上であるp型InGaNを挿入するのが好ましい。
【0012】
前記第1及び第2の手段を更により効果的にするために、第3の手段として、前記ベース層のMBT真性領域(エミッタ電極直下のトランジスタ動作に本質的な領域)における厚さを、MBT寄生領域(エミッタ電極直下以外のMBT領域)における厚さよりも小さく、1原子層以上であるようにすることが有用である。
【0013】
又、前記第3の手段をより簡便に再現性よく実現するために、第4の手段として、前記ベース層を構成する金属の酸化物をエミッタ層に用いるようにすることが有用である。特に、具体的材料の組み合わせとしては、前記ベース層をAl、前記エミッタ層をAl酸化物としたものが最適である。更に、WとW酸化物、MoとMo酸化物、HfとHf酸化物、ZrとZr酸化物などが好適である。
【0014】
本願発明の発振器は、前記MBTが形成された上記第1の基板上に、抵抗素子、容量素子、インダクタンス素子、伝送線路の少なくとも一つが形成されたモノリシック集積回路内に、少なくとも一つ以上の発振周波数を有する発振器アレイを形成し、第2の基板とバンプ電極を介して接続した上で、分光装置の信号源或いは局所発振器の少なくとも一つに用いるようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本願発明のMBTは高い遮断周波数を実現することが出来る。従って、本願発明のMBTを用いて、最大発振周波数が数THzの発振器を提供することが出来る。
【0016】
本願発明の別な観点は、THz分光装置の小型、低コスト化を実現の為に有用な発振器を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
具体的な本願発明の諸形態を説明するに先立って、前記諸形態の構成、特徴など補足説明する。
【0018】
本願発明の骨子である、MBTのコレクタにn型InN、或いはInNモル比が0.5以上であるn型半導体を用いる、本願発明の骨子である形態は、こうした材料を用いることによって、コレクタ層における空乏層中の電子の速度が107cm/s台に向上する。特にInNコレクタでは、4×107cm/sにまで増加する。この結果、コレクタ空乏層でのキャリア走行時間が大幅に低減し、遮断周波数が向上する。
【0019】
従って、THz分光装置用発振器に必要とされる最大発振周波数2THzを実現できる。
【0020】
尚、前記InNモル比が0.5以上である主なn型半導体材料としては、例えば、InxGa1−xN(x>0.5)、InxAl1−xN(x>0.5)、InxGayAl1−x−yN(x>0.5)をあげることが出来る。
【0021】
前記第1の基板は、サファイア、SiC、Si、GaAs等の半導体基板や、ガラス等の非晶質基板など、これまでMBT用として用いられて来た基板を用いることが出来る。ベース層の金属も、これまでMBT用として用いられて来たベース層の材料を用いることが出来る。その例を掲げれば、例えば、Al、W、Mo、Hf、Zrなどである。
【0022】
又、コレクタ層も、これまでMBT用として用いられて来たコレクタ層の材料を用いることが出来る。その例を掲げれば、例えば、Al2O3、WO3、MoO2、HfO2、ZrO2などである。Al2O3が、前述のベース層の金属のAlと相まって、最も好ましい例である。
【0023】
次に、改良された第2の形態を説明する。前記コレクタ層と前記ベース層の界面にInNモル比0.5未満のn型InGaN、或いはInNモル比が0.5以上であるp型InGaNを挿入する第2の手段である。
【0024】
即ち、第1の手段では、InN層の形成方法によっては、前記コレクタ層と前記金属ベース層との界面に電子が蓄積され、ベース・コレクタ接合のダイオード動作に難点を発生する場合がある。この第2の手段により、ベース層となる金属を、蒸着、スパッタ、化学的気相堆積法、等のどのような形成方法によっても、ベース・コレクタ界面に電子の蓄積を起こさず、再現性に優れたMBTを実現することが出来る。
【0025】
次に、遮断周波数を向上させる改良に関わる第3の手段である。即ち、前記ベース層の真性領域における厚さを、寄生領域における厚さよりも小さく、1原子層以上とする形態である。このことにより、ベース走行時間とベース抵抗を共に低減できる。この結果、遮断周波数の向上をはかることが可能である。そして、本MBTを用いた発振器では、最大発振周波数を3THz以上に向上することが出来る。
【0026】
第4の手段は、前記第3の手段の形態を、より簡便に再現性よく実現することが出来る形態である。この第4の手段は、前記ベース層を構成する金属の酸化物をエミッタ層に用いるものである。この場合、当該金属を酸化することによって、本例の形態を、簡便に再現性よく実現できる。
【0027】
この形態では、前記製造方法の観点以外に、エミッタ層からエネルギーの高い高速なホットエレクトロンが、ベース層に注入され、遮断周波数が向上する。この結果、最大発振周波数も4THz以上と増加する。本例は本願発明をより効果的に実現するものである。
【0028】
次に、本願発明の第2の観点である発振器について説明する。
【0029】
本願発明の発振器の骨子は、第1の基板に発振器に必要なトランジスタと、所望の電子部材、例えば、抵抗素子、容量素子、インダクタンス素子、伝送線路などの少なくとも一つを形成し、モノリシック集積回路を構成する。この集積回路内に発振器アレイが組み込まれ、且つ当該発振器アレイ用のトランジスタとして、これまで説明したMBTが用いられる。一方、これらの電子的諸要素への、外部への接続の為、バンプが形成された第2の基板が準備される。そして、第1の基板と第2の基板とが、バンプを介して接続され、フリップチップとなされる。
【0030】
更に、本願発明の金属ベーストランジスタを用いた発振器或いは発振器アレーは、分光・透過装置の信号源或いは局所発振器の構成部材に適用して有用である。こうして、THz分光・透視装置を小型、低コスト化を実現することが出来る。
【0031】
他方、前記公知技術になるMBTを用いて発振器を構成すると、THz帯での直接発振が困難であることから、GaAsショットキーダイオードによるてい倍器を併用せざるを得ない。従って、こうした発振器を用いては、THz分光・透視装置の小型、低コスト化は不可能である。
【0032】
<実施例1>
図1は、本発明の第1の実施例であるMBTの縦断面構造図である。本例は、エミッタトップの構造で、且つコレクタに電子の飽和速度が極めて高い材料であるInNを採用した。
【0033】
サファイア基板1上に、高濃度n型ドープInNサブコレクタ層(電子濃度5×1018cm−3、膜厚500nm)2、n型InNコレクタ層(電子濃度5×1016cm−3、膜厚500nm)3、Alベース層(膜厚5nm)4、Al2O3エミッタ層(膜厚5nm))5からなる積層メサ構造が形成される。そして、このメサ構造に、Au/Pt/Tiからなるエミッタ電極6、ベース電極7、コレクタ電極8が、それぞれエミッタ層5上、ベース層4上、サブコレクタ層2上に形成されている。
【0034】
本実施例では、従来のコレクタトップ構造に代えて、エミッタトップ構造を採用し、コレクタに電子の飽和速度が4×107cm/sと極めて高い材料を採用した結果、電子のコレクタ空乏層走行時間が大幅に低減し、MBT最大発振周波数がTHz分光・透視装置用発振器に必要とされる2THzにまで到達した。
【0035】
尚、本構造の製造方法の基本は、実施例4を持って説明するので、ここでは詳細省略する。これに準じれば良い。
【0036】
本実施例では、n型コレクタ層3にInNを用いたが、InNモル比が0.5以上の半導体材料であれば、107cm/s台の高速なコレクタ空乏層内電子走行が実現できるため、上述のInNコレクタ同様に実施できるのはもちろんである。又、基板1はサファイアに限定されず、SiC、Si、GaAs等の半導体基板や、ガラス等の非晶質基板であってもよい。非晶質基板を用いた場合には、サブコレクタ層2およびコレクタ層3が多結晶となるが、InNの場合、多結晶であっても半導体伝導が得られるので適用可能である。
【0037】
<実施例2>
図2は本発明の第2の実施例であるMBTの縦断面構造図である。実施例1のn型InNコレクタ層3とAlベース層4の間に、中間層9として、InNモル比0.5未満のn型InGaN、或いはInNモル比が0.5以上であるp型InGaN(膜厚5nm)を挿入した。その他の半導体層は実施例1のものと同様である。
【0038】
実施例1では、InN層の形成方法によっては、コレクタとベースとの界面に電子が蓄積され、ベース・コレクタ接合におけるダイオード動作の難点も見られた。これはInNやInAs等、Inを多く含む材料に特有の現象と考えられる。一方、本実施例によれば、ベース・コレクタ界面のIn含有量が低減し、電子の蓄積が回避できることから、特性の再現性に優れたMBTを実現できる効果がある。
【0039】
尚、p型InGaNについては、p型濃度が低く、空乏化して高抵抗となってもMBT動作上、問題ない。
【0040】
<実施例3>
図3は本発明の第3の実施例であるMBTの縦断面構造図である。実施例1或いは実施例2におけるベース層4の厚さを、真性領域において5nm、寄生領域において10nmとした。その結果、最大発振周波数を3THzにまで向上した。
【0041】
本実施例によれば、ベース走行時間とベース抵抗を共に低減できる結果、最大発振周波数を大幅に向上できる効果がある。
【0042】
尚、本実施例では、ベース層4の真性領域における厚さを5nmとしたが、1原子層以上であればよい。
【0043】
<実施例4>
本実施例では、実施例3におけるエミッタ層5を、ベース4を構成する金属の酸化物とした。従って、本例は、本願発明の基本構成に加えて、(1)InGaNの中間層を有すること、(2)ベース層のトランジスタ真性領域における厚さを、トランジスタ寄生領域における厚さよりも小さくする構成、並びに(3)ベースを構成する金属の酸化物をエミッタとする、の各構成をも備える例である。
【0044】
以下、図4から図9を用いて、本実施例におけるMBTの製造方法の例を説明する。始めに、サファイア基板1上に分子線エピタキシー法を用いて、高濃度n型ドープInNサブコレクタ層(電子濃度5×1018cm−3、膜厚500nm)2、n型InNコレクタ層(電子濃度5×1016cm−3、膜厚500nm)3、n型InGaN中間層(InNモル比0.6、電子濃度5×1016cm−3、膜厚5nm)9を基板温度350℃にて順次成長した(図4)。
【0045】
続いて、分子線エピタキシー装置内にて、基板温度を150℃まで低減し、Alベース層(膜厚10nm)4を成長した(図5)。
【0046】
その後、分子線エピタキシー装置から試料を取り出し、ホトリソグラフィーおよびドライエッチングを用いて、Alベース層9および中間層7の選択的除去を行った。そして、リフトオフ法を用いて、Au/Pt/Tiベース電極を形成した(図6)。
【0047】
続いて、リフトオフ法を用いて、Au/Pt/Tiコレクタ電極を形成した(図7)。
【0048】
そして、化学的気相堆積法を用いてSiO2膜等の絶縁膜(膜厚20nm)10でMBT全体を被覆し、ホトリソグラフィーおよびドライエッチングを用いてエミッタ領域のみ開口し、200℃、30分の条件で、紫外線により生成したオゾンにより酸化し(通常、ユーヴィーオゾン酸化(UVO3酸化)と呼ばれる)、Al2O3エミッタ5を形成した(図8)。この際、エミッタ5の厚さが5nm、その直下の真性ベース厚さが5nmとなった。
【0049】
最後に、リフトオフ法を用いて、Au/Pt/Tiエミッタ電極を形成しMBTを完成させた(図9)。
【0050】
本実施例によれば、実施例3に示したMBTのベースを構成する金属の酸化物をエミッタに用いることにより、酸化工程を用いて、上記第3の手段をより簡便に再現性よく実現できる。
【0051】
<実施例5>
本発明に関する発振器、発振器アレーの例を図10、図12、又、分光装置への応用を図13を用いて例示する。
【0052】
少なくともMBT11が形成された基板1を準備する。この場合、要求される特性の応じて、MBT11は、実施例1から4に説明したいずれかのMBTを用いて良い。MBT11が形成された基板1上に、例えば、抵抗素子12、容量素子13、インダクタンス素子14、伝送線路15などを形成し、モノリシック集積回路とした(図10)。受動素子や伝送線路をモノリシック化するのは、THz帯信号を扱う上で、ハイブリッド集積では信号遅延が大きくなりすぎるためである。このモノリシック集積回路に表面保護を施し、例えばセラミック或いは樹脂からなるモジュール基板16にバンプ30を介してフリップチップ接続した形態が図11である。ここで、実装にワイヤボンディングではなく、フリップチップを用いるのは、ワイヤボンディングに起因した寄生インダクタンス等、寄生成分による特性劣化を低減するためである。
【0053】
図15は本発明による発振器の回路図である。L1、L2、L3、L4、L5、L6、RLは伝送線路15から構成される。L1およびL6は、それぞれベース電圧Vbbおよびコレクタ電圧VccをTHz信号に対して十分高いインピーダンスでバイアス供給するための線路である。また、L2とL3はMBTコレクタ端において負性抵抗を生成するための線路である。それに対し、L4とL5は負荷抵抗RL(本実施例では50Ω)において、出力を最大化するための整合回路を構成する線路である。C1、C2、C3は直流成分を除去するための容量である。本実施例では、L2とL3の線路幅と線路長をそれぞれ変えて組合せることにより、1−3THzの範囲の発振器を実現した。
【0054】
実際のTHz分光装置では単一発振周波数だけではなく、1THz−3THzの範囲の周波数を扱う必要があることから、発振器をアレイ状にする必要がある。図12は、上記モノリシック集積回路に発振周波数の異なる発振器が1からn(nは整数)まで配置され、それぞれの入出力端子や電源端子がモジュール基板17とフリップチップ実装されている。
【0055】
こうした発振器或いは発振器アレイは、THz分光装置の発振器或いは局所発振器に適用することが出来る。図13にTHz分光装置の例を、ブロック図にて示す。
【0056】
図13のTHz分光装置では、発振器18から出射したTHz光は測定試料31に照射され、測定試料31からの反射光または透過光が周波数混合器32に導入される。そこで、反射光または透過光が局所発振器19の出力と乗算され、その出力である差周波信号が低雑音増幅器33にて増幅された後、バンドパスフィルタ34を通過する。その後、信号はA/Dコンバータ&DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)35にて、アナログ-デジタル変換されてデジタル信号処理を施され、ディスプレイ36にて表示される。そこで、例えば、本願発明の発振器或いは発振器アレイを、図13に示される装置の、発振器18或いは局所発振器19に適用することが出来る。
【0057】
本実施例によれば、てい倍器を用いずに、小型、低コストな発振器18及び局所発振器19を用いた小型、低コストなTHz分光装置を実現できる。
【0058】
本発明は金属ベーストランジスタおよびそれを用いた発振器だけではなく、超高速トランジスタ及びそれを用いた装置に利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は本発明の第1の実施例である金属ベーストランジスタの縦断面構造図である。
【図2】図2は本発明の第2の実施例である金属ベーストランジスタの縦断面構造図である。
【図3】図3は本発明の第3の実施例である金属ベーストランジスタの縦断面構造図である。
【図4】図4は本発明の第4の実施例であるMBTの第1工程を示す縦断面構造図である。
【図5】図5は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図4に続く工程を示す縦断面構造図である。
【図6】図6は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図5に続く工程を示す縦断面構造図である。
【図7】図7は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図6に続く工程を示す縦断面構造図である。
【図8】図8は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図7続く工程を示す縦断面構造図である。
【図9】図9は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図8に続く工程を示す縦断面構造図である。
【図10】図10は本発明の第5の実施例であるMBT発振器を構成するモノリシック集積回路を示す縦断面構造図である。
【図11】図11は本発明の第5の実施例であるMBT発振器を構成するモノリシック集積回路のモジュール基板への実装形態を示す縦断面構造図である。
【図12】図12は本発明の第5の実施例であるMBT発振器アレイを構成するモノリシック集積回路のモジュール基板への実装形態を示す縦断面構造図である。
【図13】図13は本発明の第5の実施例であるMBT発振器を用いたTHz分光装置の構成を示すブロック図である。
【図14】図14は従来技術による金属ベーストランジスタの縦断面構造図である。
【図15】図15は本発明による発振器の回路図である。
【符号の説明】
【0060】
1、21・・・サファイア基板、2・・・サブコレクタ層、22・・・サブエミッタ層、5、23・・・エミッタ層、4、24・・・ベース層、3、25・・・コレクタ層、8、26・・・コレクタ電極、7、27・・・ベース電極、6、28・・・エミッタ電極、9・・・InGaN中間層、10・・・絶縁膜、11・・・金属ベーストランジスタ、12・・・抵抗素子、13・・・容量素子、14・・・インダクタンス素子、15・・・伝送線路、16、17・・・モジュール基板、18・・・発振器、19・・・局所発振器、30・・・バンプ、31・・・測定試料、32・・・周波数混合器、33・・・低雑音発振器、34・・・バンドパスフィルタ、35・・・A/Dコンバータ&DSP、36・・・ディスプレイ。
【技術分野】
【0001】
本願発明は超高速トランジスタ及びそれを用いた発振器に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
危険物探知のニーズが高まる中、物質を非破壊で同定可能なテラヘルツ(THz)帯の分光技術が注目を集めている。そして、既に、自由電子レーザ、p型Geレーザ、光注入型パラメトリック発生、光スイッチ上光混合といった光を光源に用いた手法でTHz帯利用の有効性が実証されてきている。これらの技術の比較は、例えば、日本放射線技術学会雑誌第58巻第4号(2002年)第441−第447頁(非特許文献1)に示されている。しかし、光を用いた光源でTHz帯分光装置を形成すると、大型、高コスト化が避けられず、市場ニーズである小型、低コスト化に対応できない問題があった。
【0003】
一方、低コスト化を主眼にして、ガンダイオードやインパットダイオードのようなミリ波帯発振器の出力を、GaAsショットキーダイオードによりてい倍する方法がありえるものの、(1)てい倍によって、装置が大型化すること、(2)出力がミリ波発振器のレベルから数桁低減し分光装置に必要な出力を得るのが困難となること、という2つの問題が発生する。そこで、THz帯で直接発振する発振器を、半導体プロセスを用いて小型、低コストで実現する技術が望まれていた。しかし、直接発振に必要な最大発振周波数である数THzを従来半導体技術で実現するのは困難であった。
【0004】
発振器に用いる能動素子の候補として、Siに比較して高周波特性に優れるInP基板上高電子移動度トランジスタ(HEMT)及びヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)を考えた場合、ともに最大発振周波数は数百GHz止まりであるものの、後者の方が縦型素子で電力密度を高くでき、表面再結合に起因した位相雑音の少ない特長があることから、小型・高性能化に適している。そこで、発明者らは、HBTに類似の縦型素子で、最大発振周波数を最大化させた金属ベーストランジスタ(Metal Base Transistor:以下、MBTと略記する)を、THz帯発振器用能動素子に適用することを考えた。
【0005】
これまでMBTの高周波特性は報告されていないものの、電流増幅率に関して20000まで増加させた構造がアプライド・フジックス・レターズ第77巻第5号(2000年)第753頁から第755頁(非特許文献2)に示されている。そこでは、図14に示すように、サファイア基板21上に、コレクタトップ構造を有するMBTが形成され、そのMBTはサブエミッタ22が高ドープn型GaN、エミッタ23がn型GaN、ベース24がW、コレクタ25がベース金属を酸化させて形成したWO3、そして、コレクタ電極26、ベース電極27、エミッタ電極28からなっていた。
【0006】
【非特許文献1】日本放射線技術学会雑誌第58巻第4号(2002年)第441−第447頁。
【0007】
【非特許文献2】アプライド・フジックス・レターズ第77巻第5号(2000年)第753頁から第755頁(Applied Physics Letters Vol.77、No.5(2000)pp.753−757)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでのMBTは遮断周波数が相対的に低い問題がある。その主要要因はWO3よりなるコレクタにおける空乏層中の電子の走行速度が106cm/s台と遅いことである。この走行速度の値は、MBTの遮断周波数をこれまでのHBTの遮断周波数よりも低くするものである。このことは、THz分光装置に必要とされる最大発振周波数、数THzの実現を不可能とする。従って、走行速度の向上が技術的課題の最も大きな問題である。
【0009】
合わせて、本願は、THz分光装置の小型、低コスト化を実現の為に有用な発振器を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の骨子は、第1の基板上に、順次積層されたコレクタ層、ベース層、及びエミッタ層を有する金属ベーストランジスタであって、前記コレクタ層がn型InN或いはInNモル比が0.5以上であるn型半導体材料からなり、前記ベース層が金属からなる金属ベーストランジスタである。
【0011】
このような金属ベーストランジスタを再現性よく得るために、第2の手段として、前記MBTの前記コレクタ層とベース層の界面に、InNモル比0.5未満のn型InGaN、或いはInNモル比が0.5以上であるp型InGaNを挿入するのが好ましい。
【0012】
前記第1及び第2の手段を更により効果的にするために、第3の手段として、前記ベース層のMBT真性領域(エミッタ電極直下のトランジスタ動作に本質的な領域)における厚さを、MBT寄生領域(エミッタ電極直下以外のMBT領域)における厚さよりも小さく、1原子層以上であるようにすることが有用である。
【0013】
又、前記第3の手段をより簡便に再現性よく実現するために、第4の手段として、前記ベース層を構成する金属の酸化物をエミッタ層に用いるようにすることが有用である。特に、具体的材料の組み合わせとしては、前記ベース層をAl、前記エミッタ層をAl酸化物としたものが最適である。更に、WとW酸化物、MoとMo酸化物、HfとHf酸化物、ZrとZr酸化物などが好適である。
【0014】
本願発明の発振器は、前記MBTが形成された上記第1の基板上に、抵抗素子、容量素子、インダクタンス素子、伝送線路の少なくとも一つが形成されたモノリシック集積回路内に、少なくとも一つ以上の発振周波数を有する発振器アレイを形成し、第2の基板とバンプ電極を介して接続した上で、分光装置の信号源或いは局所発振器の少なくとも一つに用いるようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本願発明のMBTは高い遮断周波数を実現することが出来る。従って、本願発明のMBTを用いて、最大発振周波数が数THzの発振器を提供することが出来る。
【0016】
本願発明の別な観点は、THz分光装置の小型、低コスト化を実現の為に有用な発振器を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
具体的な本願発明の諸形態を説明するに先立って、前記諸形態の構成、特徴など補足説明する。
【0018】
本願発明の骨子である、MBTのコレクタにn型InN、或いはInNモル比が0.5以上であるn型半導体を用いる、本願発明の骨子である形態は、こうした材料を用いることによって、コレクタ層における空乏層中の電子の速度が107cm/s台に向上する。特にInNコレクタでは、4×107cm/sにまで増加する。この結果、コレクタ空乏層でのキャリア走行時間が大幅に低減し、遮断周波数が向上する。
【0019】
従って、THz分光装置用発振器に必要とされる最大発振周波数2THzを実現できる。
【0020】
尚、前記InNモル比が0.5以上である主なn型半導体材料としては、例えば、InxGa1−xN(x>0.5)、InxAl1−xN(x>0.5)、InxGayAl1−x−yN(x>0.5)をあげることが出来る。
【0021】
前記第1の基板は、サファイア、SiC、Si、GaAs等の半導体基板や、ガラス等の非晶質基板など、これまでMBT用として用いられて来た基板を用いることが出来る。ベース層の金属も、これまでMBT用として用いられて来たベース層の材料を用いることが出来る。その例を掲げれば、例えば、Al、W、Mo、Hf、Zrなどである。
【0022】
又、コレクタ層も、これまでMBT用として用いられて来たコレクタ層の材料を用いることが出来る。その例を掲げれば、例えば、Al2O3、WO3、MoO2、HfO2、ZrO2などである。Al2O3が、前述のベース層の金属のAlと相まって、最も好ましい例である。
【0023】
次に、改良された第2の形態を説明する。前記コレクタ層と前記ベース層の界面にInNモル比0.5未満のn型InGaN、或いはInNモル比が0.5以上であるp型InGaNを挿入する第2の手段である。
【0024】
即ち、第1の手段では、InN層の形成方法によっては、前記コレクタ層と前記金属ベース層との界面に電子が蓄積され、ベース・コレクタ接合のダイオード動作に難点を発生する場合がある。この第2の手段により、ベース層となる金属を、蒸着、スパッタ、化学的気相堆積法、等のどのような形成方法によっても、ベース・コレクタ界面に電子の蓄積を起こさず、再現性に優れたMBTを実現することが出来る。
【0025】
次に、遮断周波数を向上させる改良に関わる第3の手段である。即ち、前記ベース層の真性領域における厚さを、寄生領域における厚さよりも小さく、1原子層以上とする形態である。このことにより、ベース走行時間とベース抵抗を共に低減できる。この結果、遮断周波数の向上をはかることが可能である。そして、本MBTを用いた発振器では、最大発振周波数を3THz以上に向上することが出来る。
【0026】
第4の手段は、前記第3の手段の形態を、より簡便に再現性よく実現することが出来る形態である。この第4の手段は、前記ベース層を構成する金属の酸化物をエミッタ層に用いるものである。この場合、当該金属を酸化することによって、本例の形態を、簡便に再現性よく実現できる。
【0027】
この形態では、前記製造方法の観点以外に、エミッタ層からエネルギーの高い高速なホットエレクトロンが、ベース層に注入され、遮断周波数が向上する。この結果、最大発振周波数も4THz以上と増加する。本例は本願発明をより効果的に実現するものである。
【0028】
次に、本願発明の第2の観点である発振器について説明する。
【0029】
本願発明の発振器の骨子は、第1の基板に発振器に必要なトランジスタと、所望の電子部材、例えば、抵抗素子、容量素子、インダクタンス素子、伝送線路などの少なくとも一つを形成し、モノリシック集積回路を構成する。この集積回路内に発振器アレイが組み込まれ、且つ当該発振器アレイ用のトランジスタとして、これまで説明したMBTが用いられる。一方、これらの電子的諸要素への、外部への接続の為、バンプが形成された第2の基板が準備される。そして、第1の基板と第2の基板とが、バンプを介して接続され、フリップチップとなされる。
【0030】
更に、本願発明の金属ベーストランジスタを用いた発振器或いは発振器アレーは、分光・透過装置の信号源或いは局所発振器の構成部材に適用して有用である。こうして、THz分光・透視装置を小型、低コスト化を実現することが出来る。
【0031】
他方、前記公知技術になるMBTを用いて発振器を構成すると、THz帯での直接発振が困難であることから、GaAsショットキーダイオードによるてい倍器を併用せざるを得ない。従って、こうした発振器を用いては、THz分光・透視装置の小型、低コスト化は不可能である。
【0032】
<実施例1>
図1は、本発明の第1の実施例であるMBTの縦断面構造図である。本例は、エミッタトップの構造で、且つコレクタに電子の飽和速度が極めて高い材料であるInNを採用した。
【0033】
サファイア基板1上に、高濃度n型ドープInNサブコレクタ層(電子濃度5×1018cm−3、膜厚500nm)2、n型InNコレクタ層(電子濃度5×1016cm−3、膜厚500nm)3、Alベース層(膜厚5nm)4、Al2O3エミッタ層(膜厚5nm))5からなる積層メサ構造が形成される。そして、このメサ構造に、Au/Pt/Tiからなるエミッタ電極6、ベース電極7、コレクタ電極8が、それぞれエミッタ層5上、ベース層4上、サブコレクタ層2上に形成されている。
【0034】
本実施例では、従来のコレクタトップ構造に代えて、エミッタトップ構造を採用し、コレクタに電子の飽和速度が4×107cm/sと極めて高い材料を採用した結果、電子のコレクタ空乏層走行時間が大幅に低減し、MBT最大発振周波数がTHz分光・透視装置用発振器に必要とされる2THzにまで到達した。
【0035】
尚、本構造の製造方法の基本は、実施例4を持って説明するので、ここでは詳細省略する。これに準じれば良い。
【0036】
本実施例では、n型コレクタ層3にInNを用いたが、InNモル比が0.5以上の半導体材料であれば、107cm/s台の高速なコレクタ空乏層内電子走行が実現できるため、上述のInNコレクタ同様に実施できるのはもちろんである。又、基板1はサファイアに限定されず、SiC、Si、GaAs等の半導体基板や、ガラス等の非晶質基板であってもよい。非晶質基板を用いた場合には、サブコレクタ層2およびコレクタ層3が多結晶となるが、InNの場合、多結晶であっても半導体伝導が得られるので適用可能である。
【0037】
<実施例2>
図2は本発明の第2の実施例であるMBTの縦断面構造図である。実施例1のn型InNコレクタ層3とAlベース層4の間に、中間層9として、InNモル比0.5未満のn型InGaN、或いはInNモル比が0.5以上であるp型InGaN(膜厚5nm)を挿入した。その他の半導体層は実施例1のものと同様である。
【0038】
実施例1では、InN層の形成方法によっては、コレクタとベースとの界面に電子が蓄積され、ベース・コレクタ接合におけるダイオード動作の難点も見られた。これはInNやInAs等、Inを多く含む材料に特有の現象と考えられる。一方、本実施例によれば、ベース・コレクタ界面のIn含有量が低減し、電子の蓄積が回避できることから、特性の再現性に優れたMBTを実現できる効果がある。
【0039】
尚、p型InGaNについては、p型濃度が低く、空乏化して高抵抗となってもMBT動作上、問題ない。
【0040】
<実施例3>
図3は本発明の第3の実施例であるMBTの縦断面構造図である。実施例1或いは実施例2におけるベース層4の厚さを、真性領域において5nm、寄生領域において10nmとした。その結果、最大発振周波数を3THzにまで向上した。
【0041】
本実施例によれば、ベース走行時間とベース抵抗を共に低減できる結果、最大発振周波数を大幅に向上できる効果がある。
【0042】
尚、本実施例では、ベース層4の真性領域における厚さを5nmとしたが、1原子層以上であればよい。
【0043】
<実施例4>
本実施例では、実施例3におけるエミッタ層5を、ベース4を構成する金属の酸化物とした。従って、本例は、本願発明の基本構成に加えて、(1)InGaNの中間層を有すること、(2)ベース層のトランジスタ真性領域における厚さを、トランジスタ寄生領域における厚さよりも小さくする構成、並びに(3)ベースを構成する金属の酸化物をエミッタとする、の各構成をも備える例である。
【0044】
以下、図4から図9を用いて、本実施例におけるMBTの製造方法の例を説明する。始めに、サファイア基板1上に分子線エピタキシー法を用いて、高濃度n型ドープInNサブコレクタ層(電子濃度5×1018cm−3、膜厚500nm)2、n型InNコレクタ層(電子濃度5×1016cm−3、膜厚500nm)3、n型InGaN中間層(InNモル比0.6、電子濃度5×1016cm−3、膜厚5nm)9を基板温度350℃にて順次成長した(図4)。
【0045】
続いて、分子線エピタキシー装置内にて、基板温度を150℃まで低減し、Alベース層(膜厚10nm)4を成長した(図5)。
【0046】
その後、分子線エピタキシー装置から試料を取り出し、ホトリソグラフィーおよびドライエッチングを用いて、Alベース層9および中間層7の選択的除去を行った。そして、リフトオフ法を用いて、Au/Pt/Tiベース電極を形成した(図6)。
【0047】
続いて、リフトオフ法を用いて、Au/Pt/Tiコレクタ電極を形成した(図7)。
【0048】
そして、化学的気相堆積法を用いてSiO2膜等の絶縁膜(膜厚20nm)10でMBT全体を被覆し、ホトリソグラフィーおよびドライエッチングを用いてエミッタ領域のみ開口し、200℃、30分の条件で、紫外線により生成したオゾンにより酸化し(通常、ユーヴィーオゾン酸化(UVO3酸化)と呼ばれる)、Al2O3エミッタ5を形成した(図8)。この際、エミッタ5の厚さが5nm、その直下の真性ベース厚さが5nmとなった。
【0049】
最後に、リフトオフ法を用いて、Au/Pt/Tiエミッタ電極を形成しMBTを完成させた(図9)。
【0050】
本実施例によれば、実施例3に示したMBTのベースを構成する金属の酸化物をエミッタに用いることにより、酸化工程を用いて、上記第3の手段をより簡便に再現性よく実現できる。
【0051】
<実施例5>
本発明に関する発振器、発振器アレーの例を図10、図12、又、分光装置への応用を図13を用いて例示する。
【0052】
少なくともMBT11が形成された基板1を準備する。この場合、要求される特性の応じて、MBT11は、実施例1から4に説明したいずれかのMBTを用いて良い。MBT11が形成された基板1上に、例えば、抵抗素子12、容量素子13、インダクタンス素子14、伝送線路15などを形成し、モノリシック集積回路とした(図10)。受動素子や伝送線路をモノリシック化するのは、THz帯信号を扱う上で、ハイブリッド集積では信号遅延が大きくなりすぎるためである。このモノリシック集積回路に表面保護を施し、例えばセラミック或いは樹脂からなるモジュール基板16にバンプ30を介してフリップチップ接続した形態が図11である。ここで、実装にワイヤボンディングではなく、フリップチップを用いるのは、ワイヤボンディングに起因した寄生インダクタンス等、寄生成分による特性劣化を低減するためである。
【0053】
図15は本発明による発振器の回路図である。L1、L2、L3、L4、L5、L6、RLは伝送線路15から構成される。L1およびL6は、それぞれベース電圧Vbbおよびコレクタ電圧VccをTHz信号に対して十分高いインピーダンスでバイアス供給するための線路である。また、L2とL3はMBTコレクタ端において負性抵抗を生成するための線路である。それに対し、L4とL5は負荷抵抗RL(本実施例では50Ω)において、出力を最大化するための整合回路を構成する線路である。C1、C2、C3は直流成分を除去するための容量である。本実施例では、L2とL3の線路幅と線路長をそれぞれ変えて組合せることにより、1−3THzの範囲の発振器を実現した。
【0054】
実際のTHz分光装置では単一発振周波数だけではなく、1THz−3THzの範囲の周波数を扱う必要があることから、発振器をアレイ状にする必要がある。図12は、上記モノリシック集積回路に発振周波数の異なる発振器が1からn(nは整数)まで配置され、それぞれの入出力端子や電源端子がモジュール基板17とフリップチップ実装されている。
【0055】
こうした発振器或いは発振器アレイは、THz分光装置の発振器或いは局所発振器に適用することが出来る。図13にTHz分光装置の例を、ブロック図にて示す。
【0056】
図13のTHz分光装置では、発振器18から出射したTHz光は測定試料31に照射され、測定試料31からの反射光または透過光が周波数混合器32に導入される。そこで、反射光または透過光が局所発振器19の出力と乗算され、その出力である差周波信号が低雑音増幅器33にて増幅された後、バンドパスフィルタ34を通過する。その後、信号はA/Dコンバータ&DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)35にて、アナログ-デジタル変換されてデジタル信号処理を施され、ディスプレイ36にて表示される。そこで、例えば、本願発明の発振器或いは発振器アレイを、図13に示される装置の、発振器18或いは局所発振器19に適用することが出来る。
【0057】
本実施例によれば、てい倍器を用いずに、小型、低コストな発振器18及び局所発振器19を用いた小型、低コストなTHz分光装置を実現できる。
【0058】
本発明は金属ベーストランジスタおよびそれを用いた発振器だけではなく、超高速トランジスタ及びそれを用いた装置に利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は本発明の第1の実施例である金属ベーストランジスタの縦断面構造図である。
【図2】図2は本発明の第2の実施例である金属ベーストランジスタの縦断面構造図である。
【図3】図3は本発明の第3の実施例である金属ベーストランジスタの縦断面構造図である。
【図4】図4は本発明の第4の実施例であるMBTの第1工程を示す縦断面構造図である。
【図5】図5は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図4に続く工程を示す縦断面構造図である。
【図6】図6は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図5に続く工程を示す縦断面構造図である。
【図7】図7は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図6に続く工程を示す縦断面構造図である。
【図8】図8は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図7続く工程を示す縦断面構造図である。
【図9】図9は本発明の第4の実施例であるMBTの製造方法のうち、図8に続く工程を示す縦断面構造図である。
【図10】図10は本発明の第5の実施例であるMBT発振器を構成するモノリシック集積回路を示す縦断面構造図である。
【図11】図11は本発明の第5の実施例であるMBT発振器を構成するモノリシック集積回路のモジュール基板への実装形態を示す縦断面構造図である。
【図12】図12は本発明の第5の実施例であるMBT発振器アレイを構成するモノリシック集積回路のモジュール基板への実装形態を示す縦断面構造図である。
【図13】図13は本発明の第5の実施例であるMBT発振器を用いたTHz分光装置の構成を示すブロック図である。
【図14】図14は従来技術による金属ベーストランジスタの縦断面構造図である。
【図15】図15は本発明による発振器の回路図である。
【符号の説明】
【0060】
1、21・・・サファイア基板、2・・・サブコレクタ層、22・・・サブエミッタ層、5、23・・・エミッタ層、4、24・・・ベース層、3、25・・・コレクタ層、8、26・・・コレクタ電極、7、27・・・ベース電極、6、28・・・エミッタ電極、9・・・InGaN中間層、10・・・絶縁膜、11・・・金属ベーストランジスタ、12・・・抵抗素子、13・・・容量素子、14・・・インダクタンス素子、15・・・伝送線路、16、17・・・モジュール基板、18・・・発振器、19・・・局所発振器、30・・・バンプ、31・・・測定試料、32・・・周波数混合器、33・・・低雑音発振器、34・・・バンドパスフィルタ、35・・・A/Dコンバータ&DSP、36・・・ディスプレイ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上に、順次積層されたコレクタ層、ベース層、及びエミッタ層を有し、且つ前記コレクタ層はn型InN或いはInNモル比が0.5以上であるn型半導体材料からなり、前記ベース層は金属からなることを特徴とする金属ベーストランジスタ。
【請求項2】
前記コレクタ層と前記ベース層の界面に、InNモル比0.5未満のn型InGaN層、或いはInNモル比が0.5以上であるp型InGaN層のいずれかを有することを特徴とする請求項1記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項3】
前記ベース層のトランジスタ真性領域における厚さは、トランジスタ寄生領域における厚さよりも小さく、1原子層以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項4】
前記ベース層のトランジスタ真性領域における厚さは、トランジスタ寄生領域における厚さよりも小さく、1原子層以上であることを特徴とする請求項2に記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項5】
前記ベース層を構成する金属の酸化物をエミッタ層に用いたことを特徴とする請求項3記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項6】
前記ベース層を構成する金属の酸化物をエミッタ層に用いたことを特徴とする請求項4記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項7】
前記ベース層はAl、上記エミッタ層はAl酸化物であることを特徴とする請求項5記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項8】
前記ベース層はAl、上記エミッタ層はAl酸化物であることを特徴とする請求項6記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項9】
少なくとも金属ベーストランジスタを有する発振器の複数を有する発振器アレー、及び電子部材の少なくとも一つが搭載されたモノリシック集積回路を有する第1の基板と、前記モノリシック集積回路の外部端子を少なくとも一つ有する第2の基板と、を有し、
前記第1の基板と前記第2の基板とが、前記発振器アレー及び、電子部材がバンプ電極を介して電気的接続がなされ、且つ
前記金属ベーストランジスタが請求項1より請求項8のいずれかに記載の金属ベーストランジスタであることを特徴とする発振器。
【請求項10】
信号源或いは局所発振器の構成部材の少なくとも一つとして、請求項1より請求項8のいずれかに記載の金属ベーストランジスタを用いたことを特徴とする分光装置。
【請求項11】
信号源或いは局所発振器の少なくとも一つとして、請求項9に記載の金属ベーストランジスタを用いたことを特徴とする分光装置。
【請求項1】
第1の基板上に、順次積層されたコレクタ層、ベース層、及びエミッタ層を有し、且つ前記コレクタ層はn型InN或いはInNモル比が0.5以上であるn型半導体材料からなり、前記ベース層は金属からなることを特徴とする金属ベーストランジスタ。
【請求項2】
前記コレクタ層と前記ベース層の界面に、InNモル比0.5未満のn型InGaN層、或いはInNモル比が0.5以上であるp型InGaN層のいずれかを有することを特徴とする請求項1記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項3】
前記ベース層のトランジスタ真性領域における厚さは、トランジスタ寄生領域における厚さよりも小さく、1原子層以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項4】
前記ベース層のトランジスタ真性領域における厚さは、トランジスタ寄生領域における厚さよりも小さく、1原子層以上であることを特徴とする請求項2に記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項5】
前記ベース層を構成する金属の酸化物をエミッタ層に用いたことを特徴とする請求項3記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項6】
前記ベース層を構成する金属の酸化物をエミッタ層に用いたことを特徴とする請求項4記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項7】
前記ベース層はAl、上記エミッタ層はAl酸化物であることを特徴とする請求項5記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項8】
前記ベース層はAl、上記エミッタ層はAl酸化物であることを特徴とする請求項6記載の金属ベーストランジスタ。
【請求項9】
少なくとも金属ベーストランジスタを有する発振器の複数を有する発振器アレー、及び電子部材の少なくとも一つが搭載されたモノリシック集積回路を有する第1の基板と、前記モノリシック集積回路の外部端子を少なくとも一つ有する第2の基板と、を有し、
前記第1の基板と前記第2の基板とが、前記発振器アレー及び、電子部材がバンプ電極を介して電気的接続がなされ、且つ
前記金属ベーストランジスタが請求項1より請求項8のいずれかに記載の金属ベーストランジスタであることを特徴とする発振器。
【請求項10】
信号源或いは局所発振器の構成部材の少なくとも一つとして、請求項1より請求項8のいずれかに記載の金属ベーストランジスタを用いたことを特徴とする分光装置。
【請求項11】
信号源或いは局所発振器の少なくとも一つとして、請求項9に記載の金属ベーストランジスタを用いたことを特徴とする分光装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−210462(P2006−210462A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17724(P2005−17724)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]