説明

金属又は金属合金表面のはんだ付け性及び耐食性強化溶液および方法

【課題】金属又は金属合金の表面のはんだ付け性と耐食性を高める溶液および方法を提供する。
【解決手段】リン化合物とはんだ付け性強化化合物とを含む新規な溶液を使用して、金属又は金属合金表面のはんだ付け性および耐食性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化合物とはんだ付け性強化化合物とを含む溶液、および金属又は金属合金表面のはんだ付け性及び耐食性を高める方法におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
銅又はニッケル製の被処理物の表面が酸化したり変色するのを防ぐために、またはんだ付け性を高めるために、銅やニッケル製の被処理物の表面にはしばしば、金属被膜、特にはスズ又はスズ合金の被膜が形成されている。
【0003】
高温の大気または他の酸化性雰囲気のような条件下では、製造から電子装置への組込みまでの間の輸送や貯蔵期間中に、例えば電子リード枠や電気コネクタのスズ又は他の金属で被覆された表面に、酸化皮膜が形成されがちである。酸化被膜は、スズ被覆面の表面を変色し、多くの消費者が容認できないと思うような黄色味を帯びさせる。さらに、酸化物は、被覆された電子端末の接触抵抗を悪化させることがある。変色の無い表面は、酸化物で被覆されている表面よりも電気接触抵抗が低く、はんだ付け性も良い。
【0004】
スズ製被膜は、集積回路(「IC」)製造のリード仕上げにも使用されている。コンデンサやトランジスタなど受動素子の最終工程として、スズ又はスズ合金の薄膜が設けられる。
【0005】
優れたはんだ付け性を決定づけるには多数の因子があるが、そのうちで最も重要な三因子は、表面酸化物生成(腐食)の程度、共付着炭素の量、および金属間化合物生成の程度である。表面酸化物生成は熱力学的に自然であるため、自然発生する。表面酸化物の生成の割合は、温度と時間に依存する。温度が高いほど、また露出時間が長いほど、表面酸化物が厚く生成する。スズ又はスズ合金めっき被膜又はめっき層では、表面酸化物生成は被膜又はめっき層の表面形態にも依存する。例えば、純粋なスズ被膜とスズ合金被膜とを比べると、その他全ての条件が同じであるなら、一般にスズ合金の方が表面酸化物は少なく、もしくは薄く生成する。
【0006】
一般に、酸化物被覆表面よりも電気接触抵抗が低くてはんだ付け性が良い、変色の無い表面を作ることが本発明の目的である。
【0007】
特許文献1には、被覆した電気接触表面の腐食保護をもたらす方法及び溶液であって、ホスホン酸塩と潤滑剤と種々の揮発性有機溶媒を含む溶液に、前記表面をさらすことを含む方法及び溶液が開示されている。そのような溶媒を処理のために蒸発させることには、取扱い、作業者に有害なおそれ、および廃棄物の川への廃棄など環境上の懸念がある。
【0008】
特許文献2には、被処理物のスズ表面の耐食性を強化する方法であって、リン酸化合物と水を含む組成物にスズ表面を接触させて、スズ被膜上にリン系被膜を形成させ、それによりスズ表面の腐食を抑制することを含む方法が開示されている。リン酸含有組成物は、約30容量%までの濃度の有機溶媒と水を有する。だが、有機溶媒は作業条件下で揮発し易く、しばしば危険であるので、その使用は不都合である。
【0009】
特許文献3には、金属及び金属合金への酸化物生成を防ぐアルキルリン酸のような、無機及び有機リン酸類を含む組成物で、金属及び金属合金を処理することにより、それらの腐食を抑制する方法が開示されている。
【0010】
特許文献4は、酸溶液に炭素原子8乃至10個を含むアルキルモノホスホン酸と、金属腐食抑制剤としての界面活性剤を混合したものの使用に関する。金属は、アルミニウム及びアルミニウム合金、クロム・ニッケル鋼、普通の鋼、黄銅および銅からなる群より選ばれる。
【0011】
特許文献5は、アルミニウム合金製品の外側表面の汚れ、特には水汚れの発生を抑制する方法に関する。この方法は、前記製品、特にはアルミニウム合金5000乃至6000シリーズ製の薄板又は厚板製品、押出品および/または鍛造品の外側表面を、オルガノホスホン酸又はオルガノホスフィン酸誘導物質に接触させることを必要としている。好ましくは、液体状にしたこの物質をアルコール又は水系担体溶液に添加し、次いで平坦な薄板又は厚板製品の表面に噴霧、浸し塗り、塗布またはロール塗りして、製品の光沢を出す。
【0012】
特許文献6は、被膜の腐食を抑制したり付着性を改善するために、各種の金属表面の処理に使用できる、少なくとも一種のオルガノホスホネート又はオルガノホスホネート種を含む組成物に関する。この組成物は、ビニルホスホン酸、ビニリデン−1,1−ジホスホン酸またはフェニルビニルホスホン酸など、オルガノホスホネート又はオルガノホスホネート種の単独重合体又は共重合体を含むことができる。
【0013】
特許文献7には、金属表面を腐食から保護する方法であって、オルガノホスホン酸、リン酸又はホスフィン酸に金属を接触させることを含む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5853797号明細書(フックス、外)
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0268991A1号明細書(ファン、外)
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0237097A1号明細書(ラウ、外)
【特許文献4】欧州特許第0009247B号公報
【特許文献5】欧州特許第1221497A2号公報
【特許文献6】英国特許第2331942A号公報
【特許文献7】米国特許第3630790号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述した方法は全て、金属及び金属合金表面のはんだ付け性及び外観に関する品質を維持するためのそれらの処理に関するものであるが、依然として、耐食性並びにウイスカ抑制の改善をもたらすことのできる環境に優しい方法が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下に明らかにするように、リン化合物およびはんだ付け性強化化合物を含む水溶液に関する。
【0017】
また、本発明は、金属及び金属合金表面のはんだ付け性および耐食性を高める方法であって、該表面をこの水溶液に接触させる方法にも関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属表面を、リン化合物とはんだ付け性強化化合物と水とを含む組成物に浸漬するか、さもなければ接触させて、スズ表面にリン系被膜を形成する。この被膜が、スズ表面の腐食を妨げ、湿潤性およびはんだ付け性を高め、そして驚くべきことにはウイスカ生成をも防ぐ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、金属又は金属合金の表面、例えばニッケル、銅、銀、金、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、インジウムおよびそれらの合金の表面の、耐食性を強化する溶液および方法に関する。金属又は金属合金の表面は、スズ又はスズ合金表面であることが好ましい。スズ合金表面の例には、SnPb、SnCu、SnBi、SnAgおよびSnAgCuが含まれる。
【0020】
例えばそのような一被処理物は、電子リード枠、受動素子、ウェハーのバンプなどの電子部品、もしくは電気コネクタである。その他の好適な金属表面には、亜鉛、アルミニウム、鉄もしくは銅又はそれらの合金基材の表面が含まれる。
【0021】
本発明に係る溶液は、工学的、機能的、装飾的な電子装置の一部であろうとなかろうと、如何なる金属表面にも適用できるが、好ましくはスズ又はスズ合金の表面に適用できる。電子装置用のスズ表面に関しては、本方法は、スズ表面の一部のリフローを含むめっき作業前の貯蔵過程において、スズ又はスズ合金の表面の耐食性を強化し、またそのはんだ付け性も維持できる。
【0022】
本発明の溶液はまた、細孔を有する、金のような非常に薄い金属の表面にも適用できる。そのような細孔を本発明の溶液で封止して、金被膜の下にある例えばニッケル、銅またはスズからなる下地層の酸化物生成を防止することができる。
【0023】
本発明によれば、金属表面を、リン化合物とはんだ付け性強化化合物と水とを含む組成物に浸漬するか、さもなければ接触させて、スズ表面にリン系被膜を形成する。この被膜が、スズ表面の腐食を妨げ、湿潤性およびはんだ付け性を高め、そして驚くべきことにはウイスカ生成をも防ぐ。
【0024】
金属表面を処理するための本発明に係る水溶液は、下記の成分を含んでいる。
(a)下記式で表される少なくとも一種のリン化合物又はその塩
【0025】
【化1】

【0026】
式中、R1、R2およびR3は、同一であっても異なっていてもよいが独立に、H、ナトリウムまたはカリウムのような好適な対イオン、置換又は未置換の線状又は分枝したC1〜C20アルキル、線状又は分枝した置換又は未置換のC1〜C6アルカリール、および置換又は未置換のアリールからなる群より選ばれ、そしてnは、1乃至15の範囲にある整数である。
【0027】
(b)下記式で表される少なくとも一種のはんだ付け性強化化合物又はその塩
【0028】
【化2】

【0029】
式中、m、n、oおよびpは、0乃至200の範囲にある整数であり、同一であっても異なっていてもよいが、m+n+o+pは少なくとも2である。好ましくはm+n+o+pは、4乃至100の範囲にあり、より好ましくは10乃至50の範囲にある。
【0030】
R1およびR7は、同一であっても異なっていてもよいが、独立に、H、ナトリウムまたはカリウムのような好適な対イオン、置換又は未置換の線状又は分枝したC1〜C20アルキル、線状又は分枝したC1〜C6アルカリール、アリル、アリール、硫酸基、リン酸基、ハロゲンおよびスルホン酸基からなる群より選ばれ;そしてR2、R3、R5およびR6の群の各々は、同一であっても異なっていてもよいが、独立に、H、線状又は分枝した置換又は未置換のC1〜C6アルキルからなる群より選ばれ;そしてR4は、線状又は分枝した置換又は未置換のC1〜C12アルキレン、1,2−、1,3−及び1,4−置換アリーレン、1,3−、1,4−、1,5−、1,6−及び1,8−置換ナフチレン、高次環形成アリーレン、シクロアルキレン、−O−(CH2(CH2nOR1(ただし、R1は上に定義した意味である)、および下記式で表される部分からなる群より選ばれる。
【0031】
【化3】

【0032】
式中、置換は各環で独立に、1,2−、1,3−又は1,4−であり、そしてqおよびrは、同一であっても異なっていてもよいが、独立に、0乃至10の範囲にあり、そしてR8およびR9は、独立に、Hおよび線状又は分枝したC1〜C6アルキルからなる群より選ばれる。
【0033】
本明細書に記載する置換アルキル、アルカリール及びアリール基は、炭素と水素以外の少なくとも1個の原子で置換された炭化水素基であり、炭素鎖原子が窒素、酸素、ケイ素、リン、ホウ素、硫黄又はハロゲン原子のようなヘテロ原子で置換されてなる基も含まれる。炭化水素基は、次の置換基のうちの1個以上で置換されていてもよい:ハロゲン、ヘテロシクロ、アルコキシ、アルケノキシ、アルキノキシ、アリールオキシ、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、ヒドロキシカルボニル、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、アミノ、アミド、ニトロ、ホスホノ、シアノ、チオール、ケタール類、アセタール類、エステル類およびエーテル類。
【0034】
好ましいのは、はんだ付け性強化化合物VIIのR1およびR7が独立に、H、メチル、ナトリウム、カリウム、ハロゲン、硫酸基、リン酸基およびスルホン酸基からなる群より選ばれてなる水溶液である。
【0035】
好ましいのは、はんだ付け性強化化合物VIIのR2、R3、R5およびR6が独立に、H、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルからなる群より選ばれてなる水溶液である。
【0036】
好ましいのは、はんだ付け性強化化合物VIIのR4が、下記式で表される群より選ばれてなる水溶液である。
【0037】
【化4】

【0038】
式中、R8およびR9は、H、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルからなる群より選ばれる。
【0039】
VII式に従って下記式を有するはんだ付け性強化化合物が、特に好ましい。
【0040】
【化5】

【0041】
式中、n=1〜20、好ましくは3〜8。
【0042】
【化6】

【0043】
式中、n=1〜20、好ましくは2〜10。
【0044】
【化7】

【0045】
式中、n=1〜20、好ましくは2〜7。
【0046】
更に好ましいのは、上記のはんだ付け性強化化合物とII式に従うリン化合物との組合せである。
【0047】
本発明に係る水性組成物のpHは、通常は1〜8であり、好ましくは2〜5である。作業中一定のpH値を確保するために、溶液に緩衝系を加える。好適な緩衝系には、ギ酸/ギ酸塩、リンゴ酸/リンゴ酸塩、クエン酸/クエン酸塩、酢酸/酢酸塩、およびシュウ酸/シュウ酸塩が含まれる。上記酸塩のナトリウム塩又はカリウム塩を使用することが好ましい。上記の酸と対応する塩以外にも、水性組成物のpH値を1〜8、好ましくは2〜5にするいずれの緩衝系でも加えることができる。
【0048】
緩衝濃度は、酸で5〜200g/l、それに対応する塩で1〜200g/lの範囲にある。
【0049】
I−VI式で表される少なくとも一種のリン化合物(a)は、0.0001乃至0.05モル/lの量で使用することが好ましく、より好ましくは0.001乃至0.01モル/lの量で使用する。
【0050】
VII式で表される少なくとも一種のはんだ付け性強化化合物(b)は、一般に0.0001乃至0.1モル/lの量で使用し、好ましくは0.001乃至0.005モル/lで使用する。
【0051】
任意に、溶液は更に市販されている消泡剤を含んでいてもよい。
【0052】
本発明に係る水性組成物は通常、以下に記載するように、作業手順の間で付与する。
【0053】
好ましくはスズ又はスズ合金によるめっきは、当該分野で知られている標準的な方法により成され、例えば金属仕上げ、手引及び指導書(Metal Finishing, Guidebook & Directory)、2006年、p.266−277に記載されている。一般に金属めっきは、電解法でも無電解めっき法でも成すことができる。
【0054】
スズ又はスズ合金めっきが好ましいが、亜鉛、アルミニウム、鉄または銅のめっきも用いることができる。
【0055】
例えば、代表的なスズめっき浴としては、一種以上の水溶性スズ塩が挙げられ、具体的には硫酸スズ、スルホン酸スズなどのスルホン酸アルキルスズ、スズアルカノールスルホン酸、および塩化スズやフルオロホウ酸スズなどのハロゲン化スズがある。また、浴としては、硫酸、スルホン酸アルキル、スルホン酸アルカノールおよびハロゲン化物塩などの電解質も挙げられ、導電性マトリックスになる。界面活性剤並びに他の従来添加剤も含まれ、所望のスズ皮膜を与える。成分の量は従来通りであり、当該分野でもよく知られているし、また文献から得ることもできる。
【0056】
めっきおよび本発明に係る組成物付与の一般的な処理順序は、以下の通りである。
【0057】
めっき工程1を、しばしば酸性めっき浴で行った後、脱イオン水を用いたすすぎ工程2、そしてめっき浴が酸性である場合にはアルカリ性溶液を加える、逆もまた同様の中和工程3を行う。任意に、めっきした表面を再度脱イオン水ですすぎ、その後、工程5で本発明に係る溶液を用いて処理する。
【0058】
基板を溶液に浸漬することが好ましい。あるいは、噴霧や浸し塗りも可能である。
【0059】
処理時間は、1秒から10分の間で変えることができるが、好ましくは接触時間は、少なくとも5秒であり、60秒を越えない。一般に、溶液は15℃乃至60℃の温度にあり、好ましくは20℃乃至40℃の温度にある。
【0060】
次いで、如何なる余分な酸化物抑制組成物も除去するために、任意に金属及び金属合金を水ですすいでもよい。
【0061】
処理及びすすぎ工程に続いて、100から200℃の間の温度で、30から120分の時間で基板を加熱することにより、後ベーキング工程を行ってもよい。基板がリード枠であるなら、この工程は特に好ましい。後ベーキングは更にウイスカ生成も低減する。
【0062】
処理及びすすぎ工程に続いて、リフロー工程を行ってもよい。任意の好適なリフロー工程を利用することができる。リフローは、加熱により、気相リフロー、レーザーリフロー、プラズマ、オーブン溶融、および金属及び金属合金に電流を通すことにより、あるいは金属及び金属合金をその融解温度以上に加熱する他の任意の方法により行うことができる。
【0063】
本発明に係る溶液で処理した表面のはんだ付け性について、国際規格(International Standard)IEC68−2−20(1979年版)に従って試験した。この方法では、素子端子として3個の多角形リード(幅:0.62mm、厚み:0.62mm)を使用することになる。リード端子に液体融剤を付け、素子をホルダーに固定した後、リードを高感度天秤からつるす。端子をはんだ浴の清浄にした表面に接触させ、規定の深さで浸漬する。
【0064】
浸漬した端子にかかる浮力と表面張力作用の合力を、変換器で検出して信号に変換し、それを時間の関数として連続的にモニターし、そして高速チャート記録計で記録するか、あるいはコンピュータ画面に表示する。実験の詳細はその規格に見つけることができる。
【0065】
はんだ付け性試験は全て、MENICSO ST50(メトロネレク(Metronelec)社製)で行った。 下記のパラメータを用いた。
合金: SnAgCu
温度: 245℃
密度: 7.2mg/mm3
浸漬時間: 10秒
感度: 2.5
浸漬深さ: 3mm
浸漬速度: 21mm/秒
【0066】
付けた融剤は、規格に従って、マルチコア(Multicore)社製の、コロホニウム25%含有イソプロパノールに基づく非活性Rタイプ(ロジン)である。
【0067】
8時間および16時間後に試験を実施する。規格IEC68−2−20に記載された試験に加えて、温度105℃、高湿度(100%)、圧力1.192atmの圧力がまで、リードを8、16及び24時間処理して、非常に苛酷な老化条件をシミュレートする。
【実施例】
【0068】
以下の実施例により、本発明について更に説明する。
【0069】
全般:めっきすべき基板は、銅表面を持つリード(幅:0.62mm、厚み:0.62mm)である。
【0070】
スズメタンスルホン酸(スズ70g/l)、メタンスルホン酸200g/l、湿潤剤および結晶成長抑制剤からなる、市販の浸漬用スズめっき浴(スタノピュア(Stannopure)HSM−HT、アトテック・ドイツ社(Atotech Deutschland GmbH)製)を用いて、銅表面をスズでめっきする。浴温度40℃、電流密度10A/dm2、めっき時間2.0分、そして被覆厚(Sn)10μmである。
【0071】
[実施例1(比較)]
上に記載したような多角形リード10個を、上記のスタノピュアHSM−HT法に従って、スズでめっきする。
【0072】
めっきした後、工程5を省略すること以外は前述した工程順序に従って、リードを処理する。
【0073】
アルカリ浸漬(工程4)を、リン酸カリウムK3PO4、10g/lを含む室温の溶液で15秒行う。後ベーキングは150℃は1時間である。
【0074】
8及び16時間後のIEC68−2−20に従うはんだ付け性試験の結果、並びに温度105℃、高湿度(100%)、圧力1.192atmの圧力がまで8、16及び24時間という、非常に苛酷な老化条件をシミュレートする試験の結果を、第1表に示す。図表は、各試験につき10回の測定で得られた平均値を表す。
【0075】
[実施例2]
上に記載した多角形リード10個を、上記のスタノピュアHSM−HT法に従って、スズでめっきする。
【0076】
アルカリ浸漬(工程4)を、リン酸カリウムK3PO4、10g/lを含む室温の溶液で15秒行う。本発明の組成物は、α,α’,α”−1,2,3−プロパントリイルトリス[ω−ヒドロキシポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)]、CASNo.31694−55−0、5g/l、
【0077】
【化8】

【0078】
およびn−オクチルホスホン酸1g/lを含有する水溶液であり、室温で15秒である。
【0079】
後ベーキングは150℃で1時間である。
【0080】
めっきした後、前述した工程順序に従ってリードを処理する。
【0081】
8及び16時間後のIEC68−2−20に従うはんだ付け性試験の結果、並びに温度105℃、高湿度(100%)、圧力1.192atmの圧力がまで8、16及び24時間という、非常に苛酷な老化条件をシミュレートする試験の結果を、第1表に示す。図表は、各試験につき10回の測定で得られた平均値を表す。
【0082】
一般に、零交叉時間が少ないほど、金属表面の湿潤性が良く、従ってはんだ付け性も良い。工業目的では3秒より多い零交叉時間は、はんだ付けし易い表面として認められるとは考えられない。得られた湿潤力値も、はんだ付けし易い表面の性状を示す指標になる。一般に、湿潤力が高いほど、表面のはんだ付け性も良い。実施した全試験で湿潤力が一定のままであることが理想的である。湿潤力0は湿潤が起こらないことを示す。
【0083】
第1表に、試験の結果を示す。
【0084】
第 1 表:
実施例1(比較)及び実施例2に係るスズ表面にて実施した
蒸気試験の零交叉時間(ZCR)と湿潤力値(mN/mm)
─────────────────────────────────
老化試験 ZCT/s 湿潤力/N/mm
─────────────────────────────────
実施例1 実施例2 実施例1 実施例2
─────────────────────────────────
めっき時 0.7 0.5 0.44 0.42
8 蒸気 0.8 0.5 0.53 0.44
16 蒸気 1.1 0.7 0.21 0.44
8 圧力 4.0 1.3 0.02 0.43
16 圧力 6.2 1.3 0 0.40
24 圧力 ∞ 1.4 0 0.39
─────────────────────────────────
【0085】
表から分かるように、本発明の組成物で処理したスズ表面(実施例2)は、試験全てにおいて零交叉時間が1.5秒未満を示している。また、湿潤力も、苛酷な処理条件後であってもほぼ同じで変わらずに高いままである。湿潤力を比較することができるように、湿潤力は5秒後に測定している。とりわけ、24時間の圧力がま試験は非常に苛酷な条件を意味する。比較実施例1によれば、スズめっき表面の処理を行っていない。零交叉時間は、圧力がまでは最少時間でも既に(4.0秒)で、3秒の臨界値を越えている。湿潤力は、16時間の蒸気処理後に既に初期値の半分未満まで落ち、蒸気がま処理後にはほぼゼロである。
【0086】
この結果から、本発明の組成物によるはんだ付け性の効果は明白である。先行技術と比べて、記載されているのよりもずっと低い濃度で化合物を使用できることも明らかである。国際公開第2005/121405A1号パンフレットには、実施例1に従っているが、n−オクチルホスホン酸を本明細書の1g/lの代わりに、10g/l使用することが開示されている。
【0087】
さらに、実施例1及び2に従って製造した試料の変色を観察した。55℃、湿度85%で4.000時間後に、実施例1に従って処理した3個のリードは黄色の変色を示したが、一方、実施例2のリードはめっきし立てのスズ表面の銀色を維持していた。
【0088】
実施例2に係る溶液のリード枠における撥水作用を、未処理の試料と比較して次のように行う:めっきし立ての艶消スズめっき層であって、本発明に係る組成物で処理してないものと処理したものにおける水の接触角シータを、クルス(Kruss)DSA10Mk2を備えた液滴形状分析機(DSA)で求めた。実施例1に従って処理したリードの接触角は124度で、非常に優れた湿潤性を示した。反対に、実施例1のリードは殆ど湿潤性を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面を処理するための下記の成分を含む水溶液:
(a)下記式で表される少なくとも一種のリン化合物又はその塩、
【化1】


(式中、R1、R2およびR3は、同一であっても異なっていてもよいが、独立に、H、ナトリウムまたはカリウムのような好適な対イオン、置換又は未置換の線状又は分枝したC1〜C20アルキル、線状又は分枝した置換又は未置換のC1〜C6アルカリール、および置換又は未置換のアリールからなる群より選ばれ、そしてnは、1乃至15の範囲にある整数である)
(b)下記式で表される少なくとも一種のはんだ付け性強化化合物又はその塩。
【化2】


(式中、m、n、oおよびpは、0乃至200の範囲にある整数であり、同一であっても異なっていてもよいが、m+n+o+pは少なくとも2であり、
R1およびR7は、同一であっても異なっていてもよいが、独立に、H、ナトリウムまたはカリウムのような好適な対イオン、置換又は未置換の線状又は分枝したC1〜C20アルキル、線状又は分枝したC1〜C6アルカリール、アリル、アリール、硫酸基、リン酸基、ハロゲンおよびスルホン酸基からなる群より選ばれ;そしてR2、R3、R5およびR6の群の各々は、同一であっても異なっていてもよいが、独立に、Hおよび線状又は分枝した置換又は未置換のC1〜C6アルキルからなる群より選ばれ;そしてR4は、線状又は分枝した置換又は未置換のC1〜C12アルキレン、1,2−、1,3−及び1,4−置換アリーレン、1,3−、1,4−、1,5−、1,6−及び1,8−置換ナフチレン、高次環形成アリーレン、シクロアルキレン、−O−(CH2(CH2nOR1(ただし、R1は前記した意味を持つ)、および下記式で表される部分からなる群より選ばれる)
【化3】




(式中、各環の置換は独立に、1,2−、1,3−又は1,4−であり、そしてqおよびrは、同一であっても異なっていてもよいが、独立に、0乃至10の範囲にあり、そしてR8およびR9は独立に、Hおよび線状又は分枝したC1〜C6アルキルからなる群より選ばれる)
【請求項2】
リン化合物I−VIのR1、R2およびR3が独立に、H、またはナトリウムまたはカリウムのような好適な対イオン、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ヘキシル、イソヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、n−ノニル、イソノニル、n−デシル、イソデシル、n−ウンデシル、イソデシル、n−ドデシル、イソドデシルからなる群より選ばれる請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
リン化合物I−VIのR1が、n−プロピル、イソプロピル、n−ヘキシル、イソヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、n−ノニル、イソノニル、n−デシル、イソデシル、n−ウンデシル、イソデシル、n−ドデシル、イソドデシルからなる群より選ばれ、そしてR2およびR3がHである請求項1に記載の水溶液。
【請求項4】
はんだ付け性強化化合物VIIのR1およびR7が独立に、H、メチル、ナトリウム、カリウム、ハロゲン、硫酸基、リン酸基およびスルホン酸基からなる群より選ばれる請求項1乃至3のいずれかの項に記載の水溶液。
【請求項5】
はんだ付け性強化化合物VIIのR2、R3、R5およびR6が独立に、H、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルからなる群より選ばれる請求項1乃至3のいずれかの項に記載の水溶液。
【請求項6】
はんだ付け性強化化合物VIIのR4が、下記式で表される群より選ばれる請求項1乃至3のいずれかの項に記載の水溶液。
【化4】



(式中、R8およびR9は、H、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルからなる群より選ばれる)
【請求項7】
はんだ付け性強化化合物VIIが、下記式からなる群より選ばれる請求項1乃至3のいずれかの項に記載の水溶液。
【化5】


(式中、n=1〜20)
【化6】



(式中、n=1〜20)
および
【化7】

(式中、n=1〜20)
【請求項8】
I−VI式で表される少なくとも一種のリン化合物(a)が、0.0001乃至0.05モル/lの量で使用される請求項1に記載の水溶液。
【請求項9】
VII式で表される少なくとも一種のはんだ付け性強化化合物(b)が、0.0001乃至0.1モル/lの量で使用される請求項1に記載の水溶液。
【請求項10】
pH値が2から5の間にある請求項1に記載の水溶液。
【請求項11】
ギ酸/ギ酸塩、酒石酸/酒石酸塩、クエン酸/クエン酸塩、酢酸/酢酸塩およびシュウ酸/シュウ酸塩からなる群より選ばれた緩衝系が含まれている請求項1に記載の水溶液。
【請求項12】
金属表面を持つ基板のはんだ付け性および耐食性を強化する方法であって、該表面を請求項1に記載の水溶液で処理する方法。
【請求項13】
金属表面が、スズ又はスズ合金の表面である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
スズ合金の表面が、SnPb、SnCu、SnBi、SnAgおよびSnAgCuの表面からなる群より選ばれるものである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
さらに、水溶液による処理の前又は後に、基板のスズ又はスズ合金表面をリフローで接合することを含む請求項12乃至14のいずれかの項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の水溶液で処理されたスズ又はスズ合金の表面を持つ基板。
【請求項17】
基板が、ブリキ板またはスズめっき線またはリード枠のようなスズめっきした半製品、コネクタまたはプリント回路板である請求項16に記載の基板。

【公表番号】特表2010−532824(P2010−532824A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515418(P2010−515418)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005650
【国際公開番号】WO2009/007122
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(503037583)アトテック・ドイチュラント・ゲーエムベーハー (55)
【氏名又は名称原語表記】ATOTECH DEUTSCHLAND GMBH
【Fターム(参考)】