説明

金属部材と合成樹脂の接合構造

【課題】簡単な設備で、シーラ部材を使用して、接着強度を向上させる金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造を提供する。
【解決手段】金属部材と合成樹脂部材11を接合する接合構造において、合成樹脂部材11の表面に多数の凹部30を形成する。凹部30が形成された面を金属部材の表面と対向させ、金属部材と合成樹脂部材11の間にシーラ部材12を貼付する。シーラ部材12が凹部30に進入するとともに、シーラ部材12が金属部材と合成樹脂部材11を接合する接合構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラ部材を用いて、金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造に関するものである。例えば、自動車のエンジン本体とタイミングチェーンカバーとの接合等に使用される接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジンにおいて、エンジン本体とタイミングチェーンカバーの接合や、エンジン本体とオイルパンの接合等において、耐熱性を有するとともに、接合強度を向上させ、シール性を確保するために、それの間に所定の肉厚を有するシーラ部材を使用している。
【0003】
従来、このタイミングチェーンカバーやオイルパンは、エンジン本体と同様に金属で形成されていたが、車両の軽量化の要請のため、合成樹脂を使用することが検討されている。また、他の金属部材と金属部材の接合構造においても、軽量化やコストダウンのため、一方の金属部材が合成樹脂部材に置き換わり、金属部材と合成樹脂部材の接合が使用されることが増加している。
【0004】
しかしながら、シーラ部材は、金属部材とは接着強度が大きいが、合成樹脂との接着強度が低く、金属部材と合成樹脂部材をシーラ部材で接合するために、合成樹脂部材とシーラ部材の接合強度を向上させることが望まれていた。また、合成樹脂部材は、耐熱性を必要とするため、使用する材料に制限があった。
【0005】
合成樹脂部材の接着力を向上させるために、合成樹脂の表面をショットブラストやサンドペーパによって表面を粗面化して、アンカー効果により接着力を向上させることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。この場合は、樹脂部材と樹脂シート、即ち合成樹脂同士を接着するものであり、接着剤層を薄層で塗布するものであり、ペースト状で所定の肉厚を有するシーラ部材を使用するものとは異なっている。
【0006】
また、図8に示すように、合成樹脂部材110と金属部材210の複合体を形成する場合に、金属部材210の表面に斜め方向に複数の傾斜穴211を形成し、その傾斜穴211に溶融状態の合成樹脂部材110を流入させて、合成樹脂部材110と金属部材210の複合体を形成するものがある(例えば、特許文献2参照。)。この場合は、合成樹脂部材が剥がれ難くするために、傾斜穴211の角度を異ならせたものを使用していた。そして、この場合には合成樹脂を直接傾斜穴211に流入させるため、形成後、合成樹脂部材110と金属部材210の取り外しが困難であった。
そのため、合成樹脂部材110と金属部材210を取り外すことが必要な場合には不適当であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−58485号公報
【特許文献2】特開2009−51131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、本発明は、簡単な設備で、シーラ部材を使用して、接着強度を向上させる金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1の本発明は、金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造において、
合成樹脂部材の表面に多数の凹部を形成し、凹部が形成された面を金属部材の表面と対向させ、金属部材と合成樹脂部材の間にシーラ部材を貼付し、シーラ部材が凹部に進入するとともに、シーラ部材が金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造である。
【0010】
請求項1の本発明では、合成樹脂部材の表面に多数の凹部を形成し、凹部が形成された面を金属部材の表面と対向させ、金属部材と合成樹脂部材の間にシーラ部材を貼付し、シーラ部材が凹部に進入する。このため、シーラ部材と合成樹脂部材との接触面積が大きくなるとともに、アンカー効果によりシーラ部材と合成樹脂部材の接着強度が増大することができる。
【0011】
請求項2の本発明は、合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、深さが0.001乃至2mmであり、幅が0.005乃至3mmである金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造である。
【0012】
請求項2の本発明では、合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、深さが0.001乃至2mmであり、幅が0.005乃至3mmであるため、ペースト状のシーラ部材が凹部に進入し易く、合成樹脂部材との充分な接着面積を得ることができ、凹部に進入したシーラ部材のアンカー効果を得ることができる。
【0013】
深さが0.001mm未満では、接着面積の増加が少なくなるとともに、充分なアンカー効果を得ることができなくなり、2mmを超える場合には、凹部を形成する手間が増大するとともに、ペースト状のシーラ部材が凹部の底まで進入することが困難であり、接着強度の増加が少ない。
幅が0.005mm未満では、凹部の開口部が小さいため、ペースト状のシーラ部材が凹部に進入することが困難であり、幅が3mmを超える場合には、凹部を形成する手間が増大するとともに、凹部の数が少なくなり、接触面積が小さくなり、接着強度が向上しなくなる。
【0014】
請求項3の本発明は、金属部材は、アルミニウム製、鉄製又はステンレススチール製であり、合成樹脂部材はエンジニアリングプラスチック製であり、シーラ部材は、シリコーンゴム系のペースト状である金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造である。
【0015】
請求項3の本発明では、金属部材は、アルミニウム製、鉄製又はステンレススチール製であり、合成樹脂部材はエンジニアリングプラスチック製であり、シーラ部材は、シリコーンゴム系のペースト状である。シーラ部材により、材料の物性の異なる2つの材料を強固に接合することができる。金属部材は、アルミニウム製、鉄製又はステンレススチール製のため、シーラ部材との接合力が大きく、重量を軽減して、軽量化を達成することができる。合成樹脂部材はエンジニアリングプラスチック製のため、成形が容易であるとともに、耐熱性、耐久性、剛性に優れた製品を得ることができる。
シーラ部材は、シリコーンゴム系のペースト状であるため、接着強度が大きく、耐熱性、耐久性に優れた製品を得ることができる。
【0016】
請求項4の本発明は、金属部材は、エンジンのシリンダブロック及びシリンダヘッドであり、合成樹脂部材はタイミングチェーンカバーである金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造である。
【0017】
請求項4の本発明では、金属部材は、エンジンのシリンダブロック及びシリンダヘッドであり、合成樹脂部材はタイミングチェーンカバーである。タイミングチェーンカバーを合成樹脂で形成したため、エンジンを軽量化することができる。タイミングチェーンカバーに凹部を形成したため、シーラ部材でシリンダブロック及びシリンダヘッドとタイミングチェーンカバーを強固に接着することができるとともに、エンジンの熱でシーラ部材やタイミングチェーンカバーが劣化することがない。
【0018】
請求項5の本発明は、合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、合成樹脂部材の表面をショットブラスト、レーザー加工、ドリル加工により形成するか、又は合成樹脂部材の成形用の金型の表面に多数の凸部を形成し、その形成された多数の凸部を合成樹脂部材の成形時に転写して凹部を形成するか、そのいずれかにより形成された金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造である。
【0019】
請求項5の本発明では、合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、合成樹脂部材の表面をショットブラスト、レーザー加工、ドリル加工により形成する場合には、直接ショットブラスト、レーザー加工、ドリル加工の加工条件を調整することにより、凹部の深さと幅をコントロールすることができる。
合成樹脂部材の成形用の金型の表面に多数の凸部を形成し、その形成された多数の凸部を合成樹脂部材の成形時に転写して凹部を形成する場合には、金型の表面に多数の凸部を形成することにより、射出成型等により、多数の合成樹脂部材を同じ条件で凹部を効率よく形成することができる。
【0020】
請求項6の本発明は、合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、底部の方が開口部よりも面積が広い、金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造である。
【0021】
請求項6の本発明では、合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、底部の方が開口部よりも面積が広いため、凹部の中に進入したシーラ部材が抜け難く、大きなアンカー効果を発揮して、金属部材と合成樹脂部材を強く接合することができる。
【0022】
請求項7の本発明は、合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、合成樹脂部材の表面に対して斜めに形成された、金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造である。
【0023】
請求項7の本発明では、合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、合成樹脂部材の表面に対して斜めに形成されたため、合成樹脂部材を剥がすときに、凹部の中に進入したシーラ部材が剥がし方向と異なって、抜け難く、アンカー効果を発揮して、金属部材と合成樹脂部材を強く接合することができる。
【発明の効果】
【0024】
合成樹脂部材の表面に多数の凹部を形成し、シーラ部材が凹部に進入するため、シーラ部材と合成樹脂部材との接触面積が大きくなるとともに、アンカー効果によりシーラ部材と合成樹脂部材の接着強度が増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態で使用する自動車用エンジンの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態で使用するオイルパンの側面図である。
【図3】本発明の実施の第1の形態である合成樹脂部材とシーラ部材の接合部分の拡大断面図である。
【図4】本発明の実施の第2の形態である合成樹脂部材とシーラ部材の接合部分の拡大断面図である。
【図5】本発明の実施の第3の形態である合成樹脂部材とシーラ部材の接合部分の拡大断面図である。
【図6】本発明の実施の第4の形態である合成樹脂部材とシーラ部材の接合部分の拡大断面図である。
【図7】本発明の実施の形態において、合成樹脂部材の表面処理をしたものと、従来の表面処理をしないものとのシーラ部材と合成樹脂部材との接合強度を示すグラフである。
【図8】従来の合成樹脂部材と金属部材の接合部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について、シーラ部材を使用して、自動車のエンジン1のダイキャスト製のシリンダヘッドカバー2とシリンダヘッド3に、合成樹脂製のタイミングチェーンカバー10とオイルパン20を接続する場合を例にとり、図1〜図6に基づき、シーラ部材を使用して金属部材と合成樹脂部材の接続構造について説明する。
なお、本発明の金属部材と合成樹脂部材の接続構造は、上記以外にも、他の金属部材と合成樹脂部材を接合する場合にも使用することができる。
【0027】
図1は、自動車のエンジン1における分解斜視図であり、エンジン1は、シリンダヘッドカバー2と、その下にシリンダヘッド3と、さらにその下に、シリンダブロック4が一体的に組み立てられている。シリンダヘッド3の内部には、吸気カムプーリ7と排気カムプーリ8が取付けられている。
【0028】
シリンダブロック4にはクランクプーリ6が設けられて、吸気カムプーリ7と排気カムプーリ8の先端に取付けられたギヤとクランクプーリ6の先端に取付けられたギヤにタイミングチェーン5が掛けられている。
このシリンダヘッドカバー2、シリンダヘッド3及びシリンダブロック4は、鉄(鋳鉄)アルミニウム、マグネシウム、ステンレススチール、或いはこれらを含む合金で形成されている。
【0029】
タイミングチェーンカバー10は、タイミングチェーン5が取付けられたシリンダヘッド3及びシリンダブロック4の側面を覆うように取付けられている。
図1に示すように、タイミングチェーンカバー10は、外周面がシリンダヘッド3及びシリンダブロック4の外周部に当接するように当接面11を形成している。これにより、タイミングチェーンカバー10でタイミングチェーン5を完全に覆い、シールすることができる。当接面11には、後述するように表面に多数の凹部30が形成されて、シーラ部材であるシーラ12が塗布されている。
【0030】
タイミングチェーンカバー10は、耐熱性の合成樹脂で形成されている。このため、エンジン1の重量を低減させることができるとともに、エンジンの熱により変形や劣化をすることがない。
耐熱性の合成樹脂として、エンジニアリングプラスチックを使用し、例えばポリアミド樹脂であるナイロン66、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12等及びポリプロピレン、ポリアセタール、ポリカーボネート等を使用することができる。合成樹脂は、ホモポリマーでも、2種以上のコポリマーでもよい。
【0031】
ポリアミド樹脂及び他の合成樹脂においても、無機充填剤を使用することができる。無機充填剤として、例えばガラス繊維やカーボン繊維等の繊維状充填剤や、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、シリカ等の粉末状充填剤を使用することができる。無機充填剤を使用すると、耐熱性や剛性を向上させることができる。ガラス繊維やカーボン繊維等の繊維状充填剤を使用すると耐衝撃性や弾力性が向上する。
【0032】
オイルパン20は、シリンダブロック4の下面に取付けられている。オイルパン20はオイルを貯油できるように凹んで形成され、外周部は、シリンダブロック4の下面に当接するように当接面21が形成されている。当接面21には、タイミングチェーンカバー10と同様に表面に凹部30が形成されて、シーラ22が塗布されている。
オイルパン20も上記と同様の耐熱性の合成樹脂を使用することができ、無機充填剤を使用することができる。
【0033】
シーラ部材であるシーラ12、22は、ペースト状の粘性の高いシリコーンゴム系の材料で形成されている。このシーラ12、22は、例えばFIPG(Formed In Place Gasket)と呼ばれるガスケットが使用される。
シーラ12、22は、タイミングチェーンカバー10やオイルパン20に塗布するときは、粘性を有するため、すぐに垂れることがなく、塗布後には弾性を有して固まることができる。このため、タイミングチェーンカバー10やオイルパン20とシリンダブロック4の間をシールして、オイルが外部に漏出することを防止できる。
シーラ部材であるシーラ12、22は、例えばシリコーンゴム系の他に、ブチルゴム、ポリウレタン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム等のゴム系の材料を使用することができる。
【0034】
次に、合成樹脂部材であるタイミングチェーンカバー10とオイルパン20の当接面11、12に形成された凹部30について説明する。凹部30の形状は、図3〜図6に示す。
まず、図3に基づき本願発明の第1の実施の形態を説明する。図3において、凹部30は、深さ(図3においてAで示す。)は、0.001〜2mmであり、幅(図3においてBで示す。)は、0.005〜3mmである。
この凹部30に、シーラ12、22が進入して、タイミングチェーンカバー10やオイルパン20とシリンダブロック4を接合して、その間をシールすることができる。
【0035】
合成樹脂部材であるタイミングチェーンカバー10とオイルパン20の当接面11、12に形成された凹部30は、当接面11、12をショットブラスト、レーザー加工、ドリル加工により形成する場合には、直接ショットブラスト、レーザー加工、ドリル加工の加工条件を調整することにより、凹部の深さと幅をコントロールすることができる。
【0036】
合成樹脂部材の成形用の金型の表面に多数の凸部を形成し、その形成された多数の凸部を合成樹脂部材の成形時に転写して凹部を形成する場合には、金型の表面に多数の凸部を形成することにより、射出成型等により形成する。この場合には、金型の表面に多数の凸部は、凸部を格子状に多数形成してもよく、凸部をランダムに形成してもよい。
一度金型に凸部を形成すれば、射出成型を繰り返すことにより、同じ凹部を有する多数の合成樹脂部材を同じ条件で効率よく形成することができる。
【0037】
合成樹脂部材の表面に形成された凹部30に、ペースト状のシーラ12、22が進入することにより、充分な接着面積とアンカー効果を得ることができる。
凹部30の深さが0.001mm未満では、シーラ12、22が進入する量が少なくて、接着面面積も少なくなり、充分なアンカー効果を得ることができなくなる。凹部30の深さが2mmを超える場合には、凹部30を形成するために後述するショットブラスト等を行うが、そのショットブラストを行う時間が増大するとともに、シーラ12、22がペースト状であるため粘度が高く、凹部30の底まで進入することが困難であり、無駄である。
【0038】
凹部30の幅が0.005mm未満では、凹部30の開口部が小さいため、ペースト状のシーラ部材が凹部30に進入することが困難であり、幅が3mmを超える場合には、凹部30を形成する手間が増大するとともに、アンカー効果も小さくなり、凹部30の数が少なくなり、接触面積が小さくなり、接着強度が向上しなくなる。
【0039】
図3における凹部30は、ショットブラストで形成することができる。ショットブラストにより凹部を形成する場合には、当接面11、12に空気と共に研磨剤を吹き付けて行う。研磨剤としては、例えばジルコン系の研磨剤である株式会社不二製作所製のジルコングリッド(FZG-30、40)を使用した。研磨剤は、結晶性ジルコニア(ZrO2)と非結晶質酸化ケイ素(SiO2)からなり、研磨剤の粒径は、FZG-30では、0.425〜0.600mmであり、FZG-40では、0.250〜0.425mmである。
【0040】
また、研磨剤としては、ジルコン系の研磨剤以外としては、例えば、鉄、ステンレススチール、アルミナ、炭化ケイ素の粉体、プラスチック系のナイロン、メラミン、ポリカーボネイト、アクリル等の粉体、ガラスパウダー等を使用することができる。
吹き付けは、直圧タイプと重力タイプのいずれを用いてもよい。
吹き付けの空気圧と時間を調整して、凹部30は、深さ(図3においてAで示す。)は、0.01〜0.2mmであり、幅(図3においてBで示す。)は、0.05〜0.3mmであるものを得た。
【0041】
ショットブラストは、研磨剤を合成樹脂部材であるタイミングチェーンカバー10の当接面11とオイルパン20の当接面21に吹き付けて行う。
本実施の形態では、ナイロン66から形成されたテストピース(幅40mm、長さ60mm)に、ジルコングリッドの粒径0.25〜0.60mmの研磨剤を5〜10秒間、エア圧0.3〜0.5Mpaを吹き付けて、ショットブラストを行った。
これにより、表面に幅0.07〜0.11mm、深さ0.02〜0.05mmの凹部を形成した。
【0042】
このショットブラストを行ったナイロン66から形成されたテストピースと、同じ大きさのアルミニウムのテストピースの間に、ペースト状の粘性の高いシリコーンゴム系のシーラを幅10mm塗布した後、剥離強度を測定した。その結果を図7に示す。
剥離強度は、ナイロン66のテストピースとアルミニウムのテストピースをそれぞれ引張試験機により引張破断するまでの強度を測定した。
【0043】
テストピースは、60mm×40mmの大きさのナイロン66の板に、テストピースの全面に亘りシリコーンゴム系のシーラを塗布した後に、60mm×40mmの大きさのアルミニウムのテストピースを載せて若干押圧してから、96時間放置した。そしてせん断方向に引張り、破断時の引張荷重を測定して、シーラを塗布した面積で割り、破断荷重を求めた。
【0044】
図7に示すように、ショットブラストを行ったものは、引張破断する強度は、0.5〜0.7MPa程度であり、ショットブラストを行わなかったものは、引張破断する強度は、0.1〜0.2MPa程度である。このため、ショットブラストを行ったことによる接着強度が大きくなっていることが明確である。
【0045】
次に、図4に基づき本願発明の第2の実施の形態を説明する。
第2の実施の形態の凹部30は、斜めに傾斜して作成されている。凹部30の深さと幅は、第1の実施の形態と同様である。
凹部30が傾斜して形成されているため、シーラ12、22が剥離し難く、アンカー効果を大きくすることができる。
【0046】
凹部30の傾斜は、場所によりそれぞれ方向を変化させることができる。この場合は、アンカー効果をより大きくすることができる。
凹部30の形成は、タイミングチェーンカバー10やオイルパン20を射出成型等で形成するときに、金型に、凹部30を形成するための突起を形成し、同時に形成することができる。
凹部30の傾斜を場所により方向を変化させる場合には、金型にスライドコアを設けることが必要となる。
【0047】
次に、図5に基づき本願発明の第3の実施の形態を説明する。
第3の実施の形態の凹部30は、底部の方が球状に広がって、開口部よりも面積が広く形成されている。このため、凹部30の中に進入したシーラ12、22が凹部30から抜け難く、アンカー効果を大きくすることができる。
【0048】
第3の実施の形態の凹部30は、レーザー加工で形成することができる。タイミングチェーンカバー10とオイルパン20の当接面11、12にレーザー光をスポット的に多数回照射して、凹部30を形成する。レーザー光を調節することにより凹部30の底部に球状の部分を形成することができる。
【0049】
次に、図6に基づき本願発明の第4の実施の形態を説明する。
第4の実施の形態の凹部30は、底部の方が断面三角形状に広がって、開口部よりも面積が広く形成されている。このため、底部の方が断面三角形状に広がった凹部は、横方向に連続して帯状に延びて、その帯状の凹部を多数平行に並べて形成してもよい。さらに、その帯状の凹部を縦方向にも多数平行に並べて形成してもよい。
凹部30の中に進入したシーラ12、22が凹部30から抜け難く、アンカー効果を大きくすることができる。
【0050】
第3の実施の形態の凹部30は、レーザー加工やドリル加工で形成することができる。タイミングチェーンカバー10とオイルパン20の当接面11、12にドリルを当てて、凹部30を形成する。ドリルの刃を移動することにより凹部30の底部に三角形状の部分を形成することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン
2 シリンダヘッドカバー
3 シリンダヘッド
4 シリンダブロック
10 タイミングチェーンカバー
11、21 当接面
12、22 シーラ
20 オイルパン
30 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造において、
上記合成樹脂部材の表面に多数の凹部を形成し、該凹部が形成された面を上記金属部材の表面と対向させ、上記金属部材と合成樹脂部材の間にシーラ部材を貼付し、該シーラ部材が上記凹部に進入するとともに、上記シーラ部材が上記金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造。
【請求項2】
上記合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、深さが0.001乃至2mmであり、幅が0.005乃至3mmである請求項1に記載の金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造。
【請求項3】
上記金属部材は、アルミニウム製、鉄製又はステンレススチール製であり、上記合成樹脂部材はエンジニアリングプラスチック製であり、上記シーラ部材は、シリコーンゴム系のペースト状である請求項1又は請求項2に記載の金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造。
【請求項4】
上記金属部材は、エンジンのシリンダブロック及びシリンダヘッドであり、上記合成樹脂部材はタイミングチェーンカバーである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造。
【請求項5】
上記合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、上記合成樹脂部材の表面をショットブラスト、レーザー加工、ドリル加工により形成するか、又は上記合成樹脂部材の成形用の金型の表面に多数の凸部を形成し、その形成された多数の凸部を合成樹脂部材の成形時に転写して上記凹部を形成するか、そのいずれかにより形成された請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造。
【請求項6】
上記合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、底部の方が開口部よりも面積が広い請求項1乃至5のいずれか一項に記載の金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造。
【請求項7】
上記合成樹脂部材の表面に形成された凹部は、上記合成樹脂部材の表面に対して斜めに形成された請求項1乃至6のいずれか一項に記載の金属部材と合成樹脂部材を接合する接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−255513(P2012−255513A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129859(P2011−129859)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(308039414)株式会社FTS (60)
【Fターム(参考)】