説明

銅系焼結摺動材料およびそれを用いる焼結摺動部材

【課題】高面圧下での軸受の耐焼付き性および/または耐摩耗性の向上と、異音の発生防止と、給脂間隔の延長とをねらいとした銅系焼結摺動材料と、この銅系焼結摺動材料を裏金に一体化させた焼結摺動部材を提供する。
【解決手段】Cu合金相を母相として、2.0〜35重量%のAlと、25重量%以下のCuと、0.05〜1.5重量%のCと、5〜40重量%のCoと、5〜40重量%のNiと、0.05〜5.0重量%のSi、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Ti、P、Co、Snの一種以上を含有するFe合金相が、5〜50重量%分散されてなる焼結組織からなる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高面圧下での軸受の耐焼付き性および/または耐摩耗性の向上、異音の発生防止、給脂間隔の延長をねらいとした銅系摺動材料およびそれを用いる焼結摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建設機械の作業機ブッシュのようなより高面圧、低速の条件下で使用される軸受材として、耐摩耗性を重視した浸炭もしくは高周波焼入れした鋼製のブッシュがグリース潤滑下にて用いられている。特に、この種の作業機では高面圧下で潤滑条件が厳しくなることから、作業時に不快な異音が発生するのを防止するために、前記鋼製ブッシュの摺動面に潤滑皮膜処理を施したり、グリースの潤滑性を高めるために多数のグリース溝を形成することが行われている。
【0003】
また、前記グリースの給脂間隔を延ばすことによるイージーメンテナンス化の関係から、例えばFe−C−Cuを基本型とし、硬質なマルテンサイト基地の鉄系焼結摺動材料の気孔に潤滑油を含浸させた含油焼結軸受や、この鉄系焼結摺動材料に、より硬質な工具粉末やセラミック粉末を添加した含油焼結軸受等も、軽負荷の作業機部位において一部使用されている(非特許文献1参照)。
【0004】
また、銅系焼結軸受材についても、Cu−Sn−Pb、Cu−Sn−Pb−C等の青銅系軸受が奨励されている。
【0005】
作業機などの軸受部への給脂間隔を延ばすために、高力黄銅製ブッシュに、摺動部面積の30%前後の面積の機械加工穴を設け、その穴を摺動方向においてオーバーラップするように配置し、この穴に固体潤滑剤の(多孔質)黒鉛を埋め込んだ軸受材料(例えばオイレス工業社製、500SP)や、固体潤滑剤を多量に添加した金属焼結体(例えば東芝タンガロイ社製、SL合金)が利用されている場合もある。
【0006】
また、高面圧条件下にて使用される複層焼結摺動部材としては、鋼鉄裏金金属と、この鋼鉄裏金金属に焼結と同時に接合される、銅10〜30重量部、黒鉛0.1〜6.5重量部、二硫化モリブデン0.1〜7重量部、残部が鉄からなる鉄系焼結合金層を含む滑りベアリングが、特許文献1において開示されている。
【0007】
また、高面圧条件下で使用される銅系の複層焼結摺動材としては、固体潤滑成分としての黒鉛が3〜8重量%の範囲で分散含有された5〜13重量%Al、3〜6重量%Fe、0.1〜1.5TiHの組成範囲のアルミ青銅系焼結摺動合金を燐合金板の接合層を介して鋼板に一体接合してなる複層焼結摺動材およびその製造方法が、特許文献2において開示されている。
【0008】
前述の作業機ブッシュのように、高面圧下で、かつ極めて遅い速度で摺動するものにおいては、潤滑膜形成条件が極めて厳しくなる。前記鋼製ブッシュでは硬さの点で高荷重に対してへたることはないが、容易に焼付いたり、不快な異音が発生し易いことが重要な問題となっており、給脂間隔を短くしてそれらの問題が発生しないように管理することが必要となっている。
【0009】
前記作業機ブッシュとして、マルテンサイト基地の含油鉄系焼結摺動材を使用するものにおいては、へたりがなく、鋼製ブッシュに比べて焼付き性の点でかなり改善されるものであるが、作業機のように極めて低速、かつ高荷重下で使用される場合には、潤滑切れ状態が容易に起こるために、耐焼付き性の向上および異音発生の防止を十分に図ることができないという問題点がある。
【0010】
さらに、焼結摺動材中の空隙に潤滑油を多量に含油させて摺動時の潤滑条件を改善するものにおいては、焼結体中に空隙が多く存在することによって逆に潤滑的な条件が悪くなり、耐焼付き性の向上および異音の発生を期待するほどに改善できないという問題点がある。
【0011】
また、鋼製の作業機ピンと作業機ブッシュとの間の耐焼付き性を高めるために、異種材のCu−Sn、Cu−Pbなど青銅系材料を用いるものでは、高面圧下でへたってしまうという問題点と、潤滑条件が厳しいために極めて簡単に摩耗するという問題点がある。
【0012】
これに対し、作業機ブッシュに、より硬質で、高強度の溶製された高力黄銅材を使用するものでは、へたりはほぼなく、鋼製ブッシュに比べて異音の発生がかなりの点で防止できるものの、前述のように潤滑切れが容易に起こるために、耐焼付き性の向上および異音発生の防止を十分に図ることができないという問題点がある。
【0013】
また、より硬質で、高強度な溶製される高力黄銅材に穴あけ加工を施し、この穴に自己潤滑性の高い黒鉛を埋め込み、さらに黒鉛に潤滑油を含油させたブッシュにおいても、前述のへたりに関する問題は解決されるものの、黒鉛充填用の穴の面積率を通常25〜30%に抑えて使用されるため、作業機のように揺動しながら摺動する距離が短くなるに連れて潤滑の行き届かなくなる個所ができ、局所的な焼付きが発生するとともに、長時間にわたって十分な自己潤滑性が得られないという問題点があり、また黒鉛埋め込み用の穴あけ加工と黒鉛の充填等の工程がコストを顕著に引き上げるという問題点がある。
【0014】
また、安価な作業機ブッシュとしてマルテンサイト基地の含油鉄系焼結摺動材を使用するものにおいては、へたりもなく、かつ前記鋼製ブッシュに比べて耐焼付き性の点でかなり改善されるものの、まだ十分でないという問題点がある。
【0015】
一方、前記特許文献1に開示されているものでは、多量の固体潤滑剤を分散させていることから、耐焼付き性が改善されると考えられるが、多量の固体潤滑剤の分散および/または後述するその製造方法のために、鉄系焼結摺動材が極めて靭性に乏しく、強度不足となってその耐摩耗性が問題となり、また例えば削岩作業中に容易に破損するといった問題点がある。
【0016】
また、この特許文献1に開示されている製造方法は、プレス金型中に鋼鉄製裏金金属とその内周面に鉄系焼結材料の混合粉末を配して、この混合粉末を50〜300kgf/cmの圧力で加圧成形した後に、金型から取り出して焼結する方法であるが、このような方法によれば、焼結密度が極めて低く、焼結時においてその鉄系焼結体が大きく収縮して、極めて不安定な焼結接合となること、焼結体強度が十分でないことといった問題点がある。
【0017】
さらに、特許文献2に開示されている技術のように、耐焼付き性を高めるために、3〜8重量%(約12〜36体積%)に及ぶ多量の固体潤滑剤の黒鉛を高強度なアルミ青銅焼結材料中に含有させたものにおいても、Cu−Al焼結合金が軟質なα相組織であるために十分な耐焼付き性を示さず、その耐焼付き性を補う黒鉛を多量に含有することによる強度的な弱さから、十分な高面圧下での摺動特性が確保されず、また耐摩耗性においても十分でないという問題点がある。
【0018】
また、この従来技術では、固体潤滑剤を多量に含有し、かつSn等の液相発生成分を含有しないことから、金属焼結体では焼結性が困難となり、実用的な強度を得るためには焼結時に加圧処理を必要としている。例えば前記3〜8重量%黒鉛、8〜10重量%Al、4〜6重量%Fe、0.2〜1.0重量%Tiを適量として含有するAl青銅系焼結摺動材料を燐青銅板の接合層を介して裏金に一体化した複層焼結摺動部材は、焼結時において加圧処理を必要としており、少なくとも一体化する工程におけるコスト高が避けられないという問題点がある。
【0019】
【非特許文献1】「焼結機械部品−その設計と製造−」、日本粉末冶金工業会偏著、技術書院、昭和62年発刊、P339
【特許文献1】特開平11−117940号公報
【特許文献2】特開平5−156388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、高面圧下での軸受の耐焼付き性および/または耐摩耗性の向上と、異音の発生防止と、給脂間隔の延長とをねらいとした銅系焼結摺動材料と、この銅系焼結摺動材料を裏金に一体化させた焼結摺動部材を提供することを目的とするものである。
【0021】
より詳細な目的は、(1)Alを含有するFe合金相とCu合金相によって顕著な耐凝着性の改善を図り、(2)Fe合金相のマルテンサイト組織化による耐摩耗性の向上を図り、(3)摺動時の発熱をFe合金相の二次変態(規則−不規則変態および磁気変態)により吸熱して潤滑面での昇温を遅らせ、(4)硬質で、耐焼付き性に優れるCu−Al系β相が、銅系焼結摺動材料中に液相として分散するCu合金相および/または鉄合金相中に微細に析出分散するCu合金相となるようにし、(5)気孔中への潤滑油の含油と固体潤滑剤の分散による低速度の境界潤滑でのスティック・スリップで発生し易い異音を防ぐようにした銅系焼結摺動材料を提供し、併せて、(6)鉄系焼結体を顕著に膨張させるAlと、収縮させるCuを含有させ、円筒状または略円筒状鉄系材料の内径面に接合させた複層焼結摺動部材を提供することにある。
【0022】
さらに、耐焼付き性、耐摩耗性に優れたFe合金相をCu系焼結材料中に高濃度に分散させてなる銅系焼結摺動材料および焼結摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
低速で、かつ高面圧下の潤滑切れが起こり易い摺動条件下で使用される作業機軸受材料は、適度の硬さを有しながら、耐焼付き性および/または耐摩耗性に優れた特性を持つことが必要であり、この結果として、異音の発生防止、給脂間隔の延長が達成されるものである。このような観点から、本発明では、このような特性を持つ材料として、Fe系合金規則相を形成し易いAlをFe相中に含有するFe−Al−Cu系、Fe−Al−Cu−C系合金相が優れていることを明らかにした点に特徴がある。とりわけ、炭素を含有させたFe−Al−Cu−C系合金相は、容易に焼結後の冷却段階でマルテンサイトおよび/またはベイナイト組織に焼入れ硬化することができることから、その耐摩耗性の改善に安価に対応することができる。
【0024】
HANSENの状態図集を参照すれば、実用的な軸受Fe系合金で規則相を示す系としては、Fe−Al、Fe−Si、Fe−Co、Fe−Niが挙げられるが、コスト的な観点からは、Fe−Al系、Fe−Si系を主体に用いたものが極めて有効である。
【0025】
また、Al、Siはともに鉄系摺動材料表面に酸化物層を形成し、耐食性、耐酸化性に優れる作用があり、前述の過酷な摺動条件下では、これらの酸化物層が金属同士の接触を防止して、その耐焼付き性を著しく改善することも好都合である。
【0026】
なお、Fe−Al系、Fe−Si系の規則相としては、FeAl、FeAl、FeSi、FeSiがある。これらの結晶はいずれもBCC構造であり、Fe原子とAl原子および/またはSi原子が極めて強力に引き付け合いながら、規則正しくそれら原子同士が最近接距離に配置されることから、この規則相の硬さは、規則度が高まるとともに、金属間化合物に近い硬さを示すことが良く知られている。しかも、Ni、Coを添加したFe−Al系合金ではFe−AlとNi−AlもしくはCo−Alの2種の規則相への二相分離反応も関与することから、例えば600℃での時効処理を施すか、焼結後の冷却速度を遅くすることによって、顕著に硬化させることができ、耐摩耗性の付与に極めて有効である。しかし、これらの規則相硬さがビッカース硬さHv800を越えることはなく、摺動材料として用いた場合においては、前述の相手摺動材となる作業機ピン表面が熱処理で硬化されているので、ブッシュによるアタックがなく、かつ摺動材自身が耐摩耗性に優れることは好ましいことである。
【0027】
規則相が金属間化合物に近い硬さをもつことから類推されるように、Fe原子とAl原子および/またはSi原子が規則配列すると極めて安定である。その逆に、凝着によってその原子的配列が乱されると極めて不安定な状態になる。したがって、化学的な意味合いからして、鋼製の作業機ピンの凝着性を低減させることは摺動材料としての特性に好ましいのは明らかである。
【0028】
さらに、規則的な原子配列が不規則化する段階においては、顕著な吸熱反応を伴うことから、本発明による摺動材料が摺動面における発熱を抑える作用を示すことはより好ましい。また、顕著な凝着によるのではなくても、摺動面が摩擦熱によって昇温する場合においても、規則相から不規則相への二次変態的な広い温度範囲での吸熱作用を持つことを利用することによって、結果的には耐凝着性を改善することが好ましいのは明らかである。
【0029】
さらに、これら規則・不規則変態と同様な吸熱反応は、強磁性体から常磁性体に二次的変態する磁気変態によっても顕著に引き起こされるので、例えば規則・不規則変態温度と磁気変態温度とを調整することによって、更なる二次変態的な広い温度範囲での極めて顕著な吸熱作用を引き起こさせるように設計することが可能であり、耐凝着性の向上を図ることができることも本発明に係る摺動材料の特徴である。
【0030】
Fe−Al系においては、HANSENの状態図を参照して、FeAl規則相を発現する組成範囲を推定すると、一般の鉄系材料の摺動面が100℃で焼付き性が始まるとすれば、前記Fe系合金相中のAlは少なくとも2〜20質量%含有するのが適量である。同様に、Fe−Si系でも、ほぼ同範囲の添加量が適当である。さらに、SiとAlと適当に混ぜて使用することも好ましいが、その際の鉄系焼結摺動材料中のFe系合金相において、1〜10質量%のSiを含有し、Al+Siを21質量%以下含有するのが適当であることは明らかである。
【0031】
前記Fe合金相において、Co、Niの一種以上を5〜40質量%含有し、Fe合金相の硬さをHv300〜800に調整するのが好ましい。
【0032】
なお、本発明のAlを高濃度に含有する鉄系焼結摺動材料を製造する際において、金属Alの素粉末を添加する場合には極めて顕著な膨張性を示し、Fe−Al系、Fe−Al−C系ではとても強度的な観点から摺動材料としての使用に耐えられない問題がある。そこで、本発明では、(1)燐(鉄)、Si、Tiの一種以上を0.25質量%以上添加し、還元性を高めると同時に部分的な液相を出現させることによって焼結性を促進する、(2)10質量%以上のCu粉末を添加して、焼結初期においてCu系の液相を発生させることによって焼結を促進する、(3)Cu粉末に固溶して融点を下げるSn、Si、燐、Mn等の元素を10質量%の範囲内で調整して焼結性を促進する、という手段によって前述の顕著な膨張性を制御することとし、Fe−Al系を主体とする規則相焼結摺動材料および規則相がCu系成分によって容易に製造できるようにした。
【0033】
とりわけ、軟質なFe粉末とAl粉末の混合粉末を利用することによるその難焼結性を解決し、より安価な軸受を製造するために、Cu添加量を極力低減し、Sn、Ti、P、Siの一種以上を0.1〜5質量%の範囲内で添加することによって焼結性を改善することが好ましい。
【0034】
また、10〜50質量%のCuの添加は、比較的低温側の焼結によってその材料の焼結性を高めるが、50質量%以上の添加では焼結時の液相量が多くなり過ぎ、焼結体の保形性が悪くなるとともに、コストが高くなる。
【0035】
また、炭素を添加した場合には鉄合金相へのCuの固溶度が少なくなることによって同一Cu添加量同士で焼結時の液相量を比較した場合には液相量が多くなるので、C添加によってCu添加を少なくすることができることもコストを下げるのに良い。
【0036】
前述のAlの添加による膨張は、Al添加量が多いほど大きくなるために、それを抑えるためのCu添加量も多くなる問題がある場合には、金属Al粉末の添加量を抑え、Fe−Al合金粉末を利用することが極めて有効である。あるいは、Fe−Al合金粉末、Cu−Al合金粉末などを利用することが、Alの合金添加方法として好ましいこともある。
【0037】
さらに、前記鉄系焼結摺動材料を製造する際において、その摺動材料中のFe合金相組成に近いFe系合金粉末とCu粉末を混合成形して焼結することが、成形性の困難さを避けるため、また顕著な焼結時の膨張性を抑えるために好ましいことであるが、Fe系合金粉末の入手性と粉末コストが高いことが問題である。
【0038】
前記Fe−Al−Cu−C系焼結摺動材料における適正なC添加量は焼結後の冷却によって得られるFe合金相硬さ(Hv=250〜850)によって、0.05質量%以上が好ましく、その上限は、Fe合金相中にセメンタイト粒子を分散させて耐摩耗性を向上させる観点から1.5質量%とするのが好ましい。ここで、前記Fe合金相は、マルテンサイト、ベイナイト、粒状セメンタイトの一種以上の組織からなっているのが良い。
【0039】
なお、前記冷却によって鉄系焼結摺動材料のFe合金相がマルテンサイトおよび/またはベイナイト組織となるようにFe合金相の焼入れ硬化性および/または時効硬化性を高めるためのSi、Mn、Ni、Cr、Mo、V、P、Ti、W、Coの一種以上の合金元素を各々0.1〜5質量%で含有されているのが好ましい。とりわけ、Niの添加は含有するAl、Si、Tiと顕著な時効硬化性を示すので、耐摩耗性の観点からは好ましいが、コスト的な観点から5質量%以下に制限した。Niと同じ作用はCoの添加によっても認められる。このCo添加量の上限についても同じ理由から5質量%とするのが良い。
【0040】
なお、前述のようにCの添加によって鉄系焼結摺動材料を焼入れ硬化する機能は、Cを含まない鉄系焼結摺動材料に浸炭処理を施して焼入れ硬化することによって実現させても良いことは明らかである。とりわけ、Alを含有する本鉄系焼結摺動材料は、窒化、ガス軟窒化によって顕著に硬化されるので、耐摩耗性の改善には有効である。
【0041】
さらに、前述のように前記鉄系焼結摺動材料のFe合金相組成に近いFe−Al系合金粉末とCu粉末を混合成形して焼結することが、焼結時の顕著な膨張を抑える上で好ましい手段であるが、Alを除いたFe−CやFe−C−Cu系焼結材料用混合粉末、またはその混合粉末にAl添加量を最小限に抑えた混合粉末を2000kgf/cm以上で加圧したプレス成形体を焼結すると同時に、Cu−Al系材料を溶融してその成形体に溶浸するか、もしくは前記プレス成形体を一旦焼結した後に、再度Cu−Al系材料を溶浸することによってFe−Al−Cu系、Fe−Al−Cu−C系焼結摺動材料を製造することが好ましい。
【0042】
前記各発明において、前記鉄系焼結摺動材料の粒界に分散する元液相のCu合金相および/または前記鉄系焼結摺動材料のFe合金相中に析出する微粒子のCu合金相が、Cu−Al状態図中に記載されるβ相および/またはその変態相を含んでいるのが好ましい。
【0043】
本発明では、Cu−Alに固溶して融点を下げるSn、Si、燐、Mn等の元素をCuに対して10質量%以下の範囲内で調整して溶浸温度を下げるとともに、顕著に膨張性を制御することとし、Fe−Al−Cu−C系を主体とする鉄系焼結摺動材料を容易に製造できるようにした。
【0044】
SnとAlは反発し合う性質を持ち、焼結時や溶浸後の冷却時においてSnが焼結体から排出され易い(発汗し易い)ことから、本発明では、SnをCu添加量に対して10質量%以下の範囲で添加することによってその発汗を防止した。また、TiはAlとも反応して本発明の鉄系焼結摺動材料中に分散するCu合金相を強化する働きをする。さらに、SnはCu−Al合金系のβ相(HANSENの状態図を参照)を安定化することから、Tiの添加はSnの発汗を防止してβ相を出現し易くする働きをし、さらにそのβ相の出現によって摺動時の耐焼付き性を改善する(特開2001−271129号公報参照)。また、Snが焼結体中に多く存在し得ることは、後述する裏金との接合性によっても好ましいことである。
【0045】
また、Tiの添加によって鉄系材料との接合性が顕著に改善されることは後述するように、本発明の鉄系焼結摺動材料を円筒状または略円筒状鉄系材料の内径面に焼結接合または加熱接合した複層の鉄系焼結摺動部材の製造に極めて重要である。
【0046】
さらに、後述するように固体潤滑剤として黒鉛を分散させた本発明の鉄系焼結摺動材料においては、Cu−Al、Cu−Sn系合金液相と黒鉛の濡れ性が悪い問題があるが、Tiの添加によって黒鉛表面にTiCを形成させることによって濡れ性を顕著に改善することができる。
【0047】
なお、後述するように、Fe−Al−Cu系焼結摺動材料中の各相のEPMA組成分析(X線マイクロアナライザー分析)を行った結果、Al、TiはCu合金相よりもFe規則相中へ濃化するのに対して、SnはCu系相へ濃化し、Pはほぼ均等に固溶することが明らかとなっている。また、Fe合金相中へ固溶するCu濃度は約25質量%、Cu合金相へ固溶するFe濃度は約5質量%にまで及ぶことが明らかとなっている。
【0048】
したがって、10質量%以上のCuを含有するFe−Al−CuおよびFe−Al−Cu−C系焼結摺動材料は、Fe合金相中には焼結時に最大でも約25質量%のCuを固溶しているため、焼結温度からの冷却時や、低温度における時効処理によって、Fe合金相内部に微細なCu合金相が析出することが予想される。とりわけ、析出するCu合金相が前述の耐焼付き性に優れ(特開2001−271129号公報参照)、かつ高硬度なβ相である場合には、Fe合金相自身の耐焼付き性向上に寄与することは明らかである。
【0049】
また、Snは、Fe規則相へほとんど固溶せずにCu系相に濃化して、Cu合金相の摺動特性を高めることが容易に理解できるが、本出願人が特開2001−271129号公報において開示しているように、このSnは、Cu−Al系β相を顕著に安定化してβ相を出現し易くすると同時に、Cu合金相の融点を下げて易焼結性を高める働きをするが、Al共存下でSnが多量に添加された場合には、金属間化合物を多量に析出して顕著に脆化するので、このSnの添加量をCu添加量の10質量%以下とした。
【0050】
さらに、前記β相のCu合金相の摺動特性を高める、Sn、Ti、Ni、Mn、Si、Pの一種以上の元素が共存することが望ましいことは明らかである。
【0051】
なお、前記鉄系焼結摺動材料中のCu合金相の分布や大きさ、後述する気孔の分散性や固体潤滑剤の分散性はその摺動材料の摺動特性や強度に深く関係することが良く知られており、鉄系焼結摺動材料に使用する鉄系粉末を60μm(250メッシュ以下)で、より好ましくは45μm(325メッシュ以下)の微細なものにすることが好ましい。
【0052】
前述のように、前記鉄系焼結摺動材料の優れた摺動特性および耐摩耗性は、その摺動材料中のFe合金相にあることは明らかであることから、本発明では、更に、Fe合金相成分範囲の粒子をCu系合金マトリックスに分散させた銅系焼結摺動材料を開発した。
【0053】
要するに、本発明による焼結摺動材料は、Cu合金相を母相として、2.0〜35重量%のAlと、25重量%以下のCuと、0.05〜1.5重量%のCと、5〜40重量%のCoと、5〜40重量%のNiと、0.05〜5.0重量%のSi、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Ti、P、Co、Snの一種以上を含有するFe合金相が、5〜50重量%分散されてなる焼結組織からなることを特徴とするものである(第1発明)。
【0054】
ここで、Cu合金相において、少なくともAl、Sn、Tiの一種以上を含有し、Cu−Al状態図中に記載されるβ相および/またはその変態相を含んでいるのが好ましい(第2発明)。
【0055】
また、前記銅系焼結摺動材料中に分散するFe合金相が、マルテンサイト、ベイナイト、粒状セメンタイトの一種以上の組織からなっており(第3発明)、硬さがHv=250〜850の銅系焼結摺動材料とするのが好ましい。
【0056】
さらに、潤滑油の軸受摺動面への均一供給を図る目的で、鉄系焼結摺動材料中に潤滑油を含有させる気孔を分散させることは、軸受の耐焼付き性を高めるだけでなく、軸受への給脂間隔を顕著に延長する効果があるので、本発明では、前述の軸受用鉄系焼結摺動材料中の気孔を規定した。
【0057】
通常、鉄系焼結摺動材料および/または銅系焼結摺動材料は、0.5〜30体積%の気孔を含有しているが、摺動材料としては気孔が通気孔である3体積%以上が望ましく、またその上限は焼結体強度の観点から30体積%を越えないことが望ましい。
【0058】
また、気孔中に含油する潤滑油の粘性は、使用条件によって種々変えることができる(例えばISO粘度等級100〜1500)が、例えば作業機ブッシュのような高面圧、低摺動特性で使用する場合にはより高粘度な潤滑油を含浸することが好ましく、また耐熱性の高い合成潤滑油やそれと2〜10質量%のワックス類を溶融させたもの等を含油しても良い。
【0059】
また、前記多量の気孔を含有させる場合においては、潤滑性の優れたPA(ポリアミド)等の樹脂やワックスを含浸させることも効果的である。
【0060】
さらに、前記鉄系焼結摺動材料において、その耐焼付き性と耐摩耗性を改善するために、従来から良く知られている固体潤滑性の高い、黒鉛、MoS、WS、MnS、CaF等の固体潤滑剤(3〜9質量%)を添加するのが好ましい(第5発明)。
【0061】
なお、固体潤滑剤である黒鉛を鉄系焼結摺動材料中に分散させた場合には、0.06〜1mmの粒径が主体となる黒鉛に対して、前述の45μm以下の微細な鉄系粉末を用いて黒鉛粒子を取り囲むことが好ましい。また、固体潤滑剤となる黒鉛は造粒等の手段で粒状に調整されることが好ましい。
【0062】
さらに、前記黒鉛粒子周辺に不定形な気孔が多く存在すると、その位置での切欠き作用による強度低下が著しくなるために、後述するような溶浸方法を用い、その気孔を低減した鉄系焼結摺動材料が好ましく、またより多量の黒鉛を含有する際の鉄系焼結摺動材料の気孔率は、例えば0.1〜10体積%のように、できるだけ少ない方が強度的な観点から好ましい。
【0063】
また、黒鉛が鉄系マトリックス中に固溶していき、黒鉛周辺にセメンタイトなどの大きな炭化物を形成し、摺動時において相手材料を強烈に摩耗させる場合が多く、またMoS、WSにおいても、反応して硫化鉄や硫化銅を形成するので、固体潤滑材として、黒鉛、MoS、WSなどを分散焼結する場合には、固体潤滑材の表面に鉄との反応を防止するためのガラス系材料をコーティングした状態にすることが望ましい(特開平4−254556号公報参照)。
【0064】
さらに、硬質分散粒子による耐焼付き性および耐摩耗性を改善する手段として、Mo(0.2〜10質量%)、W等の金属粒子、酸化物、炭化物、窒化物等のセラミックス、超硬(Co−WC系)、サーメット(Ni−TiC系)、高速度鋼粉末等の炭化物、窒化物を含有する硬質分散材、さらにはFeCo、NiAl、TiAl、NiSi、NiTi等の金属間化合物の一種以上が含有されているのが好ましい(第5発明)。
【0065】
前記第5発明においては、少なくとも2〜9質量%の造粒された黒鉛が分散され、さらに0.1〜5質量%のMoS、WS、MnSが分散されているのが良い(第6発明)。
【0066】
次に、固体潤滑剤を多く含有する強度の弱い本発明の鉄系焼結摺動材料を補強する目的、本発明の鉄系焼結摺動材料の使用量を少なくする目的等のために、本発明では、前述の鉄系焼結摺動材料を裏金に一体化して複層焼結摺動部材として利用することが好ましい。ここで、一体化方法としては、前記摺動材料をロウ付け、接着の各種方法や、この摺動材料を焼結する時に接合する焼結接合法による方法がある。
【0067】
とりわけ、前述の銅系焼結摺動材料を裏金に焼結接合する方法としては、Cu−Sn、Cu−Sn−Pb系焼結摺動材料を裏金鋼板に焼結接合する従来からの方法が簡便に適用される。この方法は、前記Fe合金相成分の粉末を青銅系のCu−Sn、Cu−Sn−Pb系粉末に混合した混合粉末や金属Cu、Sn、Pb粉末やそれらの合金粉末で調整した粉末との混合粉末を裏金となる鋼板上に散布し、700℃以上の温度で一旦仮焼結接合した後、圧延機などの機械的手段でその仮焼結体を加圧成形して再度焼結して製造する方法であり、より高密度な焼結層を得るには、加圧成形と焼結とを繰り返すこととなる。
【0068】
円筒状もしくは略円筒状の焼結摺動部材を得る場合には、鉄系焼結摺動材料を円筒状、略円筒状もしくは板状に成形・加工し、鉄系材料よりなる裏金に一体化するのが好ましい(第7発明)。
【0069】
前記第7発明において、前記裏金となる鉄系材料の焼入れ性がDI値=2.0以下で、ガス急冷もしくは油焼入れによってもフェライト、パーライト、ベイナイトのいずれかの組織を示し、この裏金に焼結接合する鉄系焼結摺動材料中のFe合金相の一部以上をマルテンサイト化することによって、この鉄系焼結摺動材料に圧縮残留応力が働くようにするのが好ましい(第8発明)。この場合、前記裏金となる鉄系材料の気孔率が3〜20体積%に調整され、各気孔に潤滑油が含浸されているのが良い(第9発明)。
【0070】
また、円筒状もしくは略円筒状に成形されて複層焼結ブッシュとされた複層焼結摺動部材においては、両端面部の外周面の面取りが内周面の面取りよりも小さくされているのが好ましい(第10発明)。
【0071】
さらに、前記第7発明〜第10発明においては、円筒状もしくは略円筒状に成形された複層焼結摺動部材であって、スラスト荷重を受けて摺動するように前記裏金に鍔部が設けられ、この鍔部摺動面に焼入れ硬化処理が施されているか、もしくは耐摩耗材料および/または摺動材料が配されているのが好ましい(第11発明)。ここで、前記耐摩耗材料もしくは摺動材料は、超硬、ステライト、鉄系耐摩耗材料、セラミックス、Cu系耐摩耗材料のうちの一種であり、これらが溶射、ロウ付け、焼結接合、溶浸接合、接着のうちのいずれかの手段で一体化されるのが良い(第12発明)。
【0072】
さらに、前記各発明における鉄系焼結摺動材料が前記鍔部摺動面において一体化されているのが好ましい(第13発明)。
【0073】
次に、円筒状もしくは略円筒状に成形された複層焼結摺動部材を製造するためには、
予め成分調整された鉄系焼結材料の成形体もしくは焼結体を、円筒状もしくは略円筒状の鉄系材料よりなる裏金の内径面に略内接するように配置し、前記鉄系焼結材料より低融点に成分調整された銅系または銅アルミニウム系材料を前記鉄系焼結材料の成形体もしくは焼結体に加熱しながら溶浸することによってその鉄系焼結材料を膨張させながら前記裏金に接合する方法とするのが好ましい。
【0074】
なお、前記銅系焼結摺動材料中のFe合金相を焼入れ硬化させるためには、少なくとも850℃以上の温度から冷却する必要があるので、焼結温度は850℃以上であって、焼結後の冷却速度によって焼入れ硬化するように、Ni、Cr、Mn、Moなどの合金元素が調整されているのが好ましい。ただし、裏金鋼板は、その冷却速度において焼入れ硬化しないような、例えばSPCCや炭素鋼鋼板からなるのが好ましい。
【0075】
また、前述の鉄系焼結摺動材料を同様の方法で複層焼結摺動部材とするには、Fe合金相粉末の添加量をより増大させると良いので、前述の基本的な製造方法は変わらない。
【0076】
前記複層の鉄系焼結摺動部材の製造方法においては、円筒状もしくは略円筒状の鉄系材料の内径面に、その内径とほぼ同じか僅かに小さい外径をもつとともに、Alを除いたFe−CやFe−C−Cu系焼結材料用混合粉末、またはその混合粉末にAl添加量を最小限に抑えた混合粉末を、2000kgf/cm以上で加圧成形した成形体を配置し、この成形体を焼結すると同時に、Cu−Al系材料を溶融してその成形体に溶浸することによって、その成形体内での焼結とAl成分の拡散によって膨張が始まり、鉄系焼結摺動材料を鉄系材料の内径面に押し付けながら接合することができる。
【0077】
なお、前記溶浸するFe−CやFe−C−Cu系のプレス成形体は、一旦焼結した後に、鉄系材料の内径面に配置して溶浸する方法であっても良いのは明らかである。
【0078】
さらに、前記溶浸方法で作った鉄系摺動材料においても、溶浸後に再加熱することによってAlの合金化がより進行して更なる膨張性が出現することが容易に想定されることから、溶浸法で作った鉄系焼結摺動材料を鉄系材料内径面に配置して、再加熱して接合する方法を用いるのが良く、また、接合面に予め適正なロウ剤を配置し、その接合性を改善することも好ましい。
【0079】
円筒状および/または鍔付き円筒形状の鉄系裏金材料の内径部に、前記鉄系焼結摺動材料を焼結接合してなる複層焼結摺動部材の製造原理は、その前記鉄系焼結摺動材料の焼結時に添加したAlが800℃以上の低温側において顕著に拡散し始めることによって大きな膨張を引き起こし、その膨張によってその鉄系焼結摺動材料を鉄系裏金材料の内径面に押し付けながら焼結接合し、さらに昇温しながら850℃以上の温度で接合の主体となるCu合金成分が溶融してその焼結性を高め、より高強度化させる点にある。
【0080】
円筒状もしくは略円筒状にした前記鉄系焼結摺動材料を円筒状もしくは略円筒状の鉄系材料の内径面にロウ付けする方法として、円筒状もしくは略円筒状に成形された複層焼結摺動部材の製造方法であって、鉄系焼結摺動材料を、円筒状もしくは略円筒状の鉄系材料よりなる裏金の内径面に略内接するように配置するとともに、それら焼結摺動材料と裏金との間にロウ剤を配置し、前記焼結摺動材料の内周面からの高周波加熱によってその焼結摺動材料を前記裏金に押し付けながらロウ付けすることが好ましい。なお、前記ロウ付け後に前記鉄系焼結摺動材料中のFe合金相を焼入れ硬化させるには、ロウ付け温度が850℃以上であるのが好ましい。
【0081】
前記鉄系焼結材料を焼入れ硬化させるために、炭素量はその必要硬さに応じて自在に調整されるが、通常は0.05〜1.0質量%の範囲とするのが好ましい。さらに、本発明では、焼結接合後の冷却過程において、マルテンサイトおよび/またはベイナイトの一種以上が形成されて硬化するように、Ni、Mo、Cr、W等の一種以上の元素によって焼入れ性が調整され、かつ裏金の鉄系材料が焼入れ硬化されないようにして、冷却完了時点では鉄系焼結体が焼入れ変態によって膨張し、裏金によって圧縮応力が残留するように調整し、焼入れ時の裏金との剥離や焼結層の割れが発生しないようにするのが好ましい。
【0082】
また、円筒形の軸方向への膨張収縮により割れが発生する場合には、その防止手段として、鉄系焼結材料の成形体を2つ以上多段積みに分けて焼結接合することが好ましい。
【0083】
前記円筒状、略円筒状または板状の鉄系裏金材料としては、鋼、鋳鉄、焼結材料等が適用できることは明らかである。前記鉄系焼結摺動材料を一体化した複層の焼結摺動部材においては、より潤滑油を多く含有し、より長時間の給脂間隔を達成するために、鉄系焼結材料を裏金に利用し、この裏金中においても潤滑油を多量に含有させることが好ましい。
【0084】
また、前記複層焼結摺動部材を製造するには、鉄系焼結材料を膨張させる金属であるAlを添加する鉄系焼結体においては、Alを少なくとも0.1質量%以上含有することによって膨張性が顕著に確認されるので、鉄系焼結材料を膨張させる金属であるAlを少なくとも0.1質量%以上含有するとともに、高温度側で液相を発生させて焼結体強度と焼結接合性を確保するために、10〜50質量%のCu、0.1〜10質量%のSnおよび0.1〜10質量%のTiのいずれか一種以上を含有してなり、円筒状もしくは略円筒状の鉄系材料よりなる裏金の内径と略同じか、または僅かに小さい外径を有する鉄系焼結材料よりなる円筒状の成形体を、前記裏金の内径面に挿入・配置し、
(a)700℃以上の温度で所定時間加熱することによって、前記焼結材料を膨張させて前記裏金に焼結接合させ、
(b)さらに昇温して820℃以上の温度で加熱することによりCu系合金液相を発生させることによって、前記焼結材料を緻密化させる方法とするのが好ましい。
【0085】
Alの添加による膨張性は合金の拡散性が活発になる800℃以上の温度域で顕著に現れ始め、Cuが共存しない場合には1100℃においても更に膨張し続けるが、例えばCuを15質量%以上添加した場合には1050℃前後での液相の発生とともに収縮し始めることがわかる。
【0086】
また、炭素を添加することによって、Fe合金相へのCuの固溶度を減じることになり、焼結時のCuの液相量が多くなり、より焼結性が促進される。
【0087】
本発明では、Fe−Al−Cuの膨張収縮特性を利用して、800℃以上で、かつ最大膨張を示す1050℃以下の温度域において収縮性にあまり寄与しない第三の合金元素を添加して液相を発生させることによって接合性を確保し、1050℃以上の温度での加熱によって鉄系焼結体の緻密化と焼結体強度の確保を図るようにした。なお、前記Fe−Al−Cu系焼結摺動材料において、円筒状もしくは略円筒状の鉄系材料との焼結接合性を改善するための第三元素としては、少なくともSn、P、Ti、Siの一種以上が選ばれる。例えばSnやTiを添加した場合においては大きな膨張性が発現されるが、Cuと合金化されることによって、低融点化される特性を持つものである。各々の添加量としては、1〜10質量%の範囲で調整されるが、作用効果とコスト的な観点からは5質量%以下とするのが好ましい。
【0088】
とりわけ、Tiは微量添加によっても、炭素を含む鉄相とCu相の界面に炭化物を形成して、Cu液相との濡れ性を顕著に改善するので、添加量としては0.1質量%以上とするのが効果的である。
【0089】
また、Pは燐鉄として炭素を含有する鉄系焼結体に添加した場合において膨張性を与えることは良く知られている。また、Cuとの合金化では強力な還元作用を示し、内径面焼結接合技術においては極めて好ましい添加元素であり、燐鉄添加量としては、Fe−C固溶体に対するPの固溶度が約1.2質量%であるので、P量として1.2質量%以下に抑えるのが好ましい。
【0090】
前記焼結接合後の冷却過程において、炭素を含有するFe合金相をマルテンサイト変態によって硬化させるとともに膨張させ、同時に前記裏金は焼入れ硬化させないように焼入れ性を調整することによって、前記焼結材料および焼結接合を強化する圧縮残留応力を作用させるようにするのが好ましい。
【0091】
また、焼結摺動部材の製造は、
円筒状もしくは略円筒状に成形された複層焼結摺動部材の製造方法であって、円筒状もしくは略円筒状の鉄系材料よりなる裏金にスラスト荷重を受けて摺動するように鍔部が設けられ、この裏金の内径面に鉄系焼結摺動材料を焼結接合すると同時に、前記鍔部摺動面に耐摩耗材料および/または摺動材料を接合することにより行うのが好ましい。
【0092】
ここで、前記耐摩耗材料および/または摺動材料は、少なくとも炭素1.5〜3.5質量%、Cr5〜17質量%を含有する高炭素高Cr鉄合金焼結材料であるのが良い。
【0093】
また、本発明では、前記円筒状および/または鍔付き円筒形状複合焼結摺動部材において、焼結材料と焼結接合する裏金面に潤滑油の溜り溝部を予め形成しておき、前記方法によって内径面に焼結接合することによって潤滑油を貯蔵できるようにし、含油工程において複合焼結摺動部材の含油量を増すようにした。また、このような潤滑油溜りを持つ軸受では、焼結層自身に強度を極端に低下させる気孔を、従来の含油軸受のように15体積%と多量に形成する必要がなく、潤滑油溜りにある潤滑油が焼結層中に気孔を通じて摺動面に供給される程度の開気孔率が保証されれば良いので、焼結層中の開気孔率が十分に保証される気孔率である5体積%程度にまで焼結層を緻密化できることになり、高強度な含油焼結軸受が提供できるようになった。
【0094】
また、本発明では、衝撃力による高面圧だけでなく、スラスト荷重のかかる状態での回転および/または揺動摺動時においても耐焼付き性に優れ、土砂の侵入に対する耐摩耗性とシール機能を付加した鍔付き作業機ブッシュを提供することができる。とりわけ、コスト的には前記鍔付き円筒形状の複層鉄系焼結部材の円筒状内径面に鉄系焼結摺動材料を焼結接合する際に、鍔部のスラスト部摺動環境に応じて、超硬、ステライト、鉄系耐摩耗材料、セラミックス、Cu系耐摩耗材料等の各種の摺動材料および耐摩耗材料を裏金になる鉄系材料にロウ付け、焼結接合、溶浸接合することが好ましい。
【0095】
なお、後述する実施例においては、Fe−3質量%C−15質量%Cr−2.3質量%Mo−2.1質量%Ni−0.2質量%Pの高炭素高Cr鉄系耐摩耗焼結材料を焼結接合したが、その焼結材料は建設機械の下転輪ローラ部のフローティングシール用材料として耐久性に優れた材料である。
【実施例】
【0096】
次に、本発明による銅系焼結摺動材料およびそれを用いる焼結摺動部材の具体的な実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0097】
(実施例1)
電解鉄(99.95質量%)とAl、Coとを用いて、各種組成の合金を真空雰囲気下で溶解、製造し、鍛造後、小試験片に切り出し、それら合金の磁気変態温度(キュリー点、℃)と、硬さと熱処理との関係を調べた。
【0098】
図1(a)(b)には、0〜40原子%Co、0〜40原子%Alの組成のFe−Al−Co三元合金を1200℃に加熱後急冷したもの(a)と、この急冷後に600℃で10時間時効処理したもの(b)のそれぞれのビッカース硬さ分布が示されている。これらの図から、急冷したもの(図1(a))においても25〜40原子%Al、15〜30原子%Coの範囲においてわずかな硬化傾向が認められるが、600℃で時効処理したもの(図1(b))では、15〜40原子%Al、10〜40原子%Coの範囲において顕著に硬化する領域が存在することがわかる。
【0099】
次に、図2には、図1(b)において、0、10、15、20、30、40原子%Co断面におけるAl濃度(原子%)と硬さとの関係が示されている。この図から、次のことがわかる。すなわち、0原子%Co(Coを添加しない場合)においては、Al濃度の増加に伴って硬化している。この硬化割合は、急冷合金で観察された増加の程度にほぼ等しいため、600℃での時効硬化現象がほとんど観察されていない。これに対して、10原子%Coにおいては、15原子%Al(約8質量%Al)において顕著に硬化し、20原子%Alにて最大硬さ(Hv=620)に達した後、30原子%Alで時効硬化性が消失する。また、20原子%CoでのAl添加の影響は、10原子%Alから時効硬化性が確認され、30原子%Alで最大硬さ(Hv=770)に達した後、40原子%Alでほぼ時効硬化性が消失する。さらに、30原子%Coにおいては、40原子%Alまで時効硬化性が確認されるが、40原子%Alに至ると顕著な時効硬化性はなくなる。
【0100】
上述の結果からすれば、Co添加による時効硬化性を効率的に発揮するには、10〜30原子%Coおよび10〜50原子%Alの範囲で調整されるのが好ましく、より低温度側での時効硬化性はさらに、例えば5原子%程度の低Al、低Co濃度側においても現れることは明らかである。なお、上述のようなCoの添加による顕著な時効硬化現象は、Fe系規則相の二相分離反応に由来することは明らかであり、同様の現象はFe−Al−Ni系合金においても確認されている。さらに、同様の現象がAlの代わりにSiおよびCo、Niの代わりにMnの合金元素を用いることにより得られるのは、熱力学的に予測される。
【0101】
図3には、10原子%Coを添加したFe−Al−Co三元合金を、5℃/minの昇温、降温速度で測定した磁化曲線から求めた磁気変態温度(キュリー温度)とAl原子%濃度との関係が示されている。なお、図中には、HANSENの状態図に記載のFeAlの規則不規則変態温度を熱分析、比熱、電気抵抗および磁気変態法等の測定方法によって調査した結果が併せて示されている。一般に、磁気変態測定からの規則不規則変態温度の測定方法は感度が低いものであるが、その他の測定方法による結果を総合すると、Fe−Al合金系におけるFeAlの規則不規則変態が500℃で起こるAl濃度限界は10原子%(約5質量%)であり、前述のように室温においても規則不規則変態が起こること、および摺動面温度が100〜200℃にすぐに達成することを考え合わせると、図3中の破線で示されるように、規則不規則変態が生じるAl濃度限界は約4原子%(約2質量%)であることが明らかである。したがって、明確な規則不規則変態性を有効に利用するためには、少なくとも4質量%以上の添加が好ましいことが分かる。
【0102】
さらに、Fe−10原子%Co−15原子%Alでは、複数の磁気変態点が出現し、Fe−10原子%Co−20原子%Al合金では三段の磁気変態温度が確認される。このことから、不規則状態、FeAl型およびFeAl型の3種類の原子配列が存在していることが確認されるとともに、規則相による複数の磁気変態点出現域が、より高温度側とAlのより低濃度側に推移して発現されることから、Coの添加によってFe−Al系の規則相がより安定化され、この場合の前述のAl添加の適正量は1質量%以上で、さらなるCoの添加(〜40原子%)によって、Al添加の適正量は0.5質量%にさがることが明らかである。
【0103】
(実施例2)
本実施例では、Fe規則相単味の耐摩耗性を評価するために、表1に示される組成の溶製材料よりなる直径10mm、長さ50mmの円柱状試験片を用いて、500℃と600℃での前記時効処理時間を調整することによって各種の硬さを調整した後、油潤滑下で、SiCを20質量%含有したポルトランドセメント円盤に摺動材料を押し付けたときの土砂摩耗性を評価した。
【0104】
【表1】

【0105】
図4には、試験装置の概念図と試験条件とが示されている。この試験においては、ビッカース硬さがHv=500となるように焼入れ焼戻しされたS45基準材を試験材と同時に装置に取り付けて、試験材の摩耗性を基準材の摩耗量に対する摩耗量の比で評価した。図5に、本発明によるFe系規則相材料の硬さを、比較材とともに示す試験結果が示されている。この図から明らかに、Fe系規則相の耐摩耗性が硬さの割に極めて優れていることがわかる。これらの結果は、各合金を0.1体積%以上の気孔率を含有する焼結材料として製造した場合においても同じであることは明らかである。
【0106】
(実施例3)
本実施例では、表2に示される合金を真空溶解して、1000〜1150℃での熱間鍛造、熱間圧延で板状に加工した後、切断・丸曲げし、図6に示される形状に機械加工したブッシュを摺動試験片とし、600℃での前記時効処理時間を調整することによって各種の硬さになるように調整した。比較材としては、SCM420肌焼き鋼に表面炭素濃度を約0.8質量%に調整した浸炭処理ブッシュ(比較材1)、S43C焼入れ焼戻しブッシュ(比較材2)および高力黄銅4種材(Cu−25質量%Zn−5質量%Al−3質量%Mn−2.5質量%Fe)(比較材3)を用いた。
【0107】
【表2】

【0108】
図7には、摺動試験装置の概念図と試験条件が示されている。この摺動試験においては、供試ブッシュの投影面積に対して1000kg/cmまで100kg/cm毎に10000回の往復摺動を行いながら摺動面圧を段階的に高めて行き、焼付いて摩擦係数が急増したり、急進的な摩耗や異音が発生した時点で試験を中断して評価を行った。
【0109】
図8には摺動摩擦係数の推移、図9には摺動摩耗量の推移がそれぞれ示されている。これらの試験結果から、本発明材が比較材に比べて極めて良好な耐焼付き性を発揮するとともに、Fe規則相を時効硬化させた場合において耐摩耗性が改善されるのが明らかである。この結果は、気孔率を極力少なくした高密度焼結摺動材料においても適用されることは明らかである。
【0110】
(実施例4)
300メッシュ以下のFeアトマイズ粉末、Fe10質量%Al、Fe17質量%Alアトマイズ粉末、Alアトマイズ粉末、Snアトマイズ粉末、Ni10Pアトマイズ粉末、Cu8Pアトマイズ粉末、300メッシュ以下のTiH粉末、燐鉄(25質量%P)、Si粉末、Mn粉末、5μmのカーボニルNi粉末、平均粒径6μmの黒鉛等を用いて、表3、表4に示される配合成分の混合粉末を作成し、図10に示される引張試験片(形状ブッシュ摺動試験片)を成形圧力4ton/cmで成形した。なお、これら成形体は、10−1torr以下の真空状態にて950〜1250℃の範囲で10分〜1hr焼結して、600torrのNガス冷却後にそれらの寸法、組織を調査した。
【0111】
【表3】

【表4】

【0112】
図11〜図13は、1140℃、1200℃、1250℃で各1hr真空焼結した時の前記引張試験片長さを示したものである。なお、その他の詳細な寸法測定結果は表3、表4中に合わせて示した。この結果から明らかなように、図中に破線にて示される成形体長さ(約96.55mm)に対して、Fe−Al二元系焼結合金において、FeとAlの素粉末を配合した焼結合金では、1250℃までの高温度においても焼結収縮することはなく、従来からの報告(例えばD.J.LEE AND R.M.German、American Power Metallurgy Institute,21(1985.9))の通りに、顕著な膨張性を示すことがわかった。また、Alに対して熱力学的反発性を有するSi、Sn、Cを単独に添加した焼結合金においても、顕著な膨張性を抑えることはなく、燐鉄(Fe25質量%P)を単独に添加した場合においてのみ1250℃において焼結収縮性が認められた。したがって、緻密なFe−Al二元系焼結合金を得るためにはFe−Al二元合金粉末や二元合金粉末に少量のAl素粉末を添加することが望ましいのは明らかである(表3、表4のNo.32参照)。
【0113】
しかし、素粉末を用いたFe−Al焼結合金の難焼結性を改善するためのCu添加の影響を調査した結果、Cu単独の添加では10質量%未満では焼結収縮性の改善がほとんどないが、10質量%以上の添加によって焼結収縮性が認められるようになり、好ましくは約20質量%Cuによって十分な焼結収縮性が確保されることがわかった。この原因は、図14に示されるFe−12質量%Al−20質量%Cu焼結合金の組織観察写真からわかるように、Fe−Al合金相中にCuを多量に固溶して、Fe−Al合金相粒子間にCu−Al系合金が液相として残留する量が少なくなるためである。したがって、Fe−Al系焼結合金の焼結性を高めるためには、10質量%以上のCuの添加が必要であり、より好ましくは20質量%以上であることがわかった。
【0114】
さらに、CuとともにSi,Sn,P,Ti等のCu合金の融点を下げる合金元素を複合添加することによって、その焼結収縮性はさらに改善され、より低温度側からの焼結収縮性が確保されることがわかる。また、炭素を固溶させた焼結合金においては、より焼結性が高められているが、これはFe合金相へのCuの固溶度が減じることによって、液相を発生させるCuが多くなったためである。
【0115】
表5は、表3、表4中のNo.23〜27の焼結合金を1200℃で0.5hr真空焼結・ガス冷却したFe−Al系規則相およびFe−Al規則相を繋ぐCu−Al系相の化学組成をX線マイクロアナライザー(EPMA分析)によって調べた結果を示したものである。
【0116】
【表5】

【0117】
この表5から明らかなように、Al、TiはCu−Al相よりもFe−Al規則相中に顕著に濃縮して存在しており、SnはCu−Al相中に濃縮するとともに、Feが3〜5質量%程度固溶することがわかった。また、HANSENの状態図を参考にした場合、Cu−Al相には約9質量%のAlが含有され、さらにSn,Feなどのβ相を安定化する元素が含有されていることから、Cu−Al相がほぼβ相に相当すると考えられることがわかった。
【0118】
さらに、Fe−Al合金相には焼結温度によって最大25質量%のCuも固溶しており、焼結後の冷却過程や焼結温度以下の低温側での再加熱によってFe−Al合金相中においてもβ相に相当する微細なCu合金相が析出することは明らかである。
【0119】
このことは、本出願人が既に特開2001−271129号公報において開示しているように、β相Cu−Al合金が高面圧、低摺動速度の極めて厳しい油潤滑条件下で使用する合金として優れた摺動特性と耐摩耗性を発揮することから、極めて好ましいことであることは明らかである。
【0120】
なお、前記特開2001−271129号公報においても既に開示しているように、Si,Sn,Tiの添加はβ相Cu−Al合金の焼結性をも顕著に高めると同時に、顕著に硬化させるために、その添加量はCu添加量に対して10質量%以下に抑えて使用することが好ましい。
【0121】
図15は、Fe,Al素粉末を用いたFe−Al系焼結合金の焼結収縮性に対するSi,Co,Niの影響を示したものである。この図から、前記時効硬化性を顕著にするNi,Coの添加によっても十分な焼結収縮性が得られること、およびSiの添加によって焼結収縮性がより改善されることがわかる。SiはAlと同結晶構造のFe−Si系規則相を形成する元素であることから、Alとの複合添加は規則相を形成させる観点から極めて望ましい元素である。
【0122】
さらに、図15中にはFe10質量%Al合金粉末を利用して、Al素粉末添加量を抑えた規則相焼結合金(表3、表4中のNo.32)の焼結収縮性が示されているが、素粉末だけの焼結合金に比べ、良好な収縮性を示すとともに、例えばFe−Al、Fe−Co−Al、Fe−Ni−Al、Fe−Al−Si等の合金粉末の入手性が良い場合には、これらの合金粉末にCuもしくはCu合金粉末を添加配合することによって焼結収縮性の良い各種Fe−Al系焼結合金が得られることが明らかである。
【0123】
(実施例5)
本実施例は、実施例4に示される表3、表4中の代表的なFe−Al焼結合金と、表6に示されるようなCu合金マトリックスに#100メッシュ以下のFe15Al、Fe10Al10Co、Fe0.6C4Al0.74Mn1.51Cr0.38Mo合金粉を分散させるように焼結した材料の摺動特性の調査を行ったものである。なお、比較材として、高力黄銅4種材(Cu−25質量%Zn−5質量%Al−3質量%Mn−2.5質量%Fe)および表6中のNo.53組成の鉄系含油軸受を用いた。
【0124】
【表6】

【0125】
プレス成形体は、外径66mm、内径47mm、高さ35mmの円筒体を4ton/cmの加圧力で成形した後に、気孔率が10体積%、20体積%程度になるように真空焼結、Nガス冷却したものを前述の図6に示される形状にブッシュ加工したもの、および600℃で1hrの加熱処理を行ったものに#30の潤滑オイルを含浸させて摺動試験に供した。また、摺動試験装置およびその試験条件は前述の図7に示されているとおりである。摺動面圧は供試ブッシュの投影面積に対して1000kg/cmまで50kg/cm毎に10000回の往復摺動を行いながら面圧を段階的に高め、焼付いて摩擦係数が急増したり、急進的な摩耗や異音が発生した時点で試験を中断して評価した。
【0126】
図16には、気孔率を約10体積%に調整した場合の試験結果が示されている。この結果から明らかなように、本発明材の多くが高力黄銅材に比べて明らかに高い耐焼付き面圧を示していることがわかる。とりわけ、Co,Ni等を含有しないFe−Al−Cu、Fe−C−Al−Cuにおいて、前記図8に示されるものに比べて優れた耐焼付き性を有している。この原因は、焼結体中に含浸させた潤滑油に起因することは明らかであり、少なくとも開気孔性が維持される5体積%以上の気孔率が望ましいことは明らかである。また、No.47〜57の結果からは、Fe−Al規則相をCuマトリックス中に分散させた摺動材料においてもその耐焼付き性は顕著に改善され、Fe系規則相がほぼ5質量%以上でその改善効果が認められるが、10質量%以上(近似的には10体積%以上)含有されるのが望ましいことがわかる。
【0127】
また、No.53〜55のFe−C−Al規則相合金は、Al濃度が4質量%と低いが、焼結後のガス冷却で焼入れ硬化され、その硬さがHv450以上になっていることによって、耐焼付き性が改善されていることがわかる。
【0128】
さらに、No.57は、銅焼結マトリックス組成をβ相Cu−Al合金になるようにしたものであるが、極めて優れた摺動特性を示すことがわかる。
【0129】
また、図17には気孔率を約20体積%に調整した場合の摺動試験結果が示されているが、耐焼付き性がより改善されていることがわかる。現実的には25体積%以上の気孔率を維持した場合には、軸受材料としての強度不足が問題になるものと考えられる。
【0130】
以上の実施例の結果から、Fe合金相自身に極めて優れた耐焼付き性および耐摩耗性等の摺動、耐摩耗特性が備わっていることが明らかになったが、Fe系焼結合金にようにCuを多量に添加して、Fe規則相をCu相で繋ぐような組織や、Cu量をより多くしてCu相中にFe合金相が分散するような組織を持つ銅系焼結摺動材料を開発することが可能である。この場合、銅系焼結摺動材料中に分散させるFe−Al系合金相の量は、10体積%以上であると考えられるが、より好ましくは20体積%以上で50体積%以下であることは明らかである。
【0131】
(実施例6)
表7には本実施例で使用したFe系規則相焼結合金組成が示されている。混合粉末の成形は、外径53mm、内径47mm、高さ35mmの円筒体を2ton/cmの加圧力で成形した後に、外径66mm、内径53mm、高さ40mmの鋼管(S45C)の内径部にセットして1150℃、1hr真空焼結した後、Nガス冷却した。
【0132】
【表7】

【0133】
なお、表7中には、超音波検査装置にて評価した鋼管と焼結層との接合率(接合面積率)が合わせて示されている。この表から明らかなように、内径焼結接合にとってもSnの添加が極めて効果的であり、0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上の添加が必要であることがわかる。また、燐鉄,Ti,Cr,Niの添加によって接合率が顕著に改善されているのがわかる。これは、これらの元素が焼結の際に発生する液相と外接する鋼管表面の濡れ性を改善するためであることは明らかである。また、黒鉛の単独添加による接合率の低下が大きく認められなかったのは、黒鉛とSnを多量に含有する液相が濡れにくいことから、焼結体内に発生する液相が鋼管との接合界面に排出され易くなるためと考えられるが、黒鉛と、Ti,Cr等の黒鉛との反応性に富んだ合金元素とを複合添加した場合には、低融点のSnに対する黒鉛の影響が先行して作用し、さらにTi,Crの作用が重複することによって、接合性がより改善されることがわかった。
【0134】
また、B12,13,14,15には、固体潤滑用として水ガラスでSGO黒鉛を直径0.05〜0.85mmに造粒した黒鉛粒子を添加した鉄系焼結合金の焼結接合を実施したが、Alの添加が顕著な焼結接合性を高めている。この原因は、Al添加による焼結膨張性にあることは明らかである。
【0135】
さらに、接合する鋼管の内径面に予めスパイラル状の深さ約1mm、幅5mmの油溝を機械加工で形成したものに対しても、前述されたのと略同じように内径面に接合焼結することができることがわかる。また、この溝加工部を適宜工夫し、この溝部に潤滑油を含有させることによって、より長時間の無給脂軸受に適していることがわかる。
【0136】
(実施例7)
本実施例では、250メッシュ以下のCuアトマイズ粉末、Snアトマイズ粉末、100メッシュ以下のFe15Al、Fe10Al10Ni、Fe0.6C4Al0.74Mn1.51Cr0.38Moアトマイズ粉末を用いて、前記実施例5の表6に示される混合粉末を調整し、400番の研磨紙で表面を荒し、アセトンで良く洗浄した軟鋼板(SS400、厚さ3.5mm、幅90mm、長さ300mm)への接合焼結実験を実施した。
【0137】
この実験においては、表6中の混合粉末を前記軟鋼板上に3mmの高さで散布して、露点−38℃のアンモニア分解ガス雰囲気炉で、850℃で20分間加熱されるように接合焼結した後に、圧延機で焼結層が1.7mmになるように圧延し、さらに圧延した散布材を再度前述と同じ条件で焼結した。なお、No.53〜55は、焼結温度を950℃として製造し、さらにNo.57は金属Al素粉末を使うと、散布方式では顕著な膨張が起こり製造できないので、300メッシュ以下のCu20Al合金粉末を、Al濃度と同量に調整した混合粉末を使い、900℃で焼結することによって製造した。この焼結後にその焼結層を内側にして直系45mmの円筒上に丸曲げ加工を施し、その時の鋼鈑からの焼結層の剥離状況を観察した。この結果、曲げ加工時における割れ、剥離の発生はなかった。
【0138】
(実施例8)
本実施例では、100メッシュ以下のFeアトマイズ粉末、250メッシュ以下のCuアトマイズ粉末、Snアトマイズ粉末、100メッシュ以下のFe15Al、Fe10Al10Niアトマイズ粉末を用いて表8に示される混合粉末を調整し、実施例7と同じ鋼鈑への接合焼結実験を実施した。なお、焼結温度は900℃として丸曲げ加工後の焼結層の剥離状況を観察した。この観察において薄利の発生はなかった。
【0139】
【表8】

【0140】
次に、図18に示される定速摩擦摩耗試験機と試験条件、図19に示される摺動試験片を用いて、摺動特性を調査した。なお、比較材としては、鋼鈑に接合焼結されたCu−10質量%Sn−10質量%Pbの鉛青銅焼結材料(LBC)を用いた。図20には、異常摩耗および異常な摩擦係数の増大が発生する時点でのPV値(限界PV値)を調査した結果が示されている。この結果から、5質量%以上のFe15Al規則相合金粉末の添加によって摺動特性が改善されるが、10質量%以上の添加がより好ましいことは明らかである。
【0141】
(実施例9)
本実施例では、溶浸方法による焼結材料の製造と鋼管内径部への接合に関して試験を行った。本実施例では、表9に示される鉄系焼結材料の混合粉末を先の実施例6と同じ条件でプレス成形体とし、これにCu、Cu20Sn、Cu20Sn22Al2Tiの組成になるように調整した混合粉末成形体を準備し、1150℃の真空雰囲気中で焼結と同時に溶浸した。
【0142】
【表9】

【0143】
溶浸後の鉄系焼結材料の寸法変化率と気孔率が表9に示されているが、いずれの場合も顕著な膨張を示し、気孔率は焼結体強度の観点からは十分密度の高いものが得られることがわかる。特に、先の実施例5と同様の方法で固体潤滑用の造粒黒鉛を添加した材料にとっては好ましい摺動材料になることは明らかである。
【0144】
また、実施例6と同じ裏金に鉄系焼結材料のプレス成形体を配置して、溶浸処理を行った場合においては、容易に想像されるように、その裏金内径部に接合されることがわかった。
【0145】
(実施例10)
実施例6で製造したB12〜15および実施例9で製造したD4,9,11,12を用いて、実施例3と同じ方法で含油処理した後に、摺動試験を実施した。本実施例に供する試験片はすべて、焼結または溶浸後に急冷して焼入れ硬化するように調整し、Hv450以上の硬さに調整したものである。
【0146】
さらに、予備テストの結果、B12〜15の試験片の端面部が面圧500kgf/cm以上において欠ける場合のあることがわかったので、本実施例に供する試験片は、内周面の油溝加工を止めるとともに、両端面内周面に端面から3mm位置から30°の面取りを施したものとした。
【0147】
図21に摺動試験の結果が示されている。Al添加量の少ないB12,B13,D12は比較的低面圧で焼付くが、先の図16の結果と比較すると明らかに黒鉛潤滑剤を分散させたことによる耐焼付き性の改善が認められる。さらに、4質量%以上のAlを添加したB14,B15,D4,D9,D11の耐焼付き性改善が顕著であることも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】Fe−Al−Co三元合金を1200℃に加熱後急冷したもののビッカース硬さ分布を示す図(a)およびこの急冷後に600℃で10時間時効処理したもののビッカース硬さ分布を示す図(b)
【図2】図1(b)における0,10,15,20,30,40原子%Co断面におけるAl濃度(原子%)と硬さとの関係を示すグラフ
【図3】Fe−Al系合金相の規則不規則変態領域を示すグラフ
【図4】摩耗試験の試験装置の概念図と試験条件を示す図
【図5】Fe系規則相材料の硬さと摩耗比との関係を示すグラフ
【図6】摺動試験に供した試験片形状を示す断面図
【図7】摺動試験装置の概念図(a)と試験条件(b)を示す図
【図8】Fe系規則相材の摺動摩擦係数の推移を示すグラフ
【図9】Fe系規則相材の摺動摩耗量の推移を示すグラフ
【図10】引張試験片の形状を示す図
【図11】FeAlCu系焼結特性(1140℃)を示すグラフ
【図12】FeAlCu系焼結特性(1200℃)を示すグラフ
【図13】FeAlCu系焼結特性(1250℃)を示すグラフ
【図14】各種Fe系規則相焼結合金の焼結組織(金属組織)を示す写真
【図15】Fe−Al系規則相焼結合金の焼結収縮性に対するSi,Co,Niの影響を示すグラフ
【図16】F系規則相焼結合金の耐焼付き性(気孔率約10体積%)を示すグラフ
【図17】F系規則相焼結合金の耐焼付き性(気孔率約20体積%)を示すグラフ
【図18】定速摩擦摩耗試験機と試験条件を示す図
【図19】定速摩擦摩耗試験用の摺動試験片形状を示す図
【図20】Fe系焼結材料の摺動特性を示すグラフ
【図21】黒鉛分散摺動材料の耐焼付き性を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu合金相を母相として、2.0〜35重量%のAlと、25重量%以下のCuと、0.05〜1.5重量%のCと、5〜40重量%のCoと、5〜40重量%のNiと、0.05〜5.0重量%のSi、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Ti、P、Co、Snの一種以上を含有するFe合金相が、5〜50重量%分散されてなる焼結組織からなることを特徴とする銅系焼結摺動材料。
【請求項2】
前記Cu合金相において、Al、Sn、Tiの一種以上を含有し、Cu−Al状態図中に記載されるβ相および/またはその変態相を含んでいる請求項1に記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項3】
前記銅系焼結摺動材料中に分散するFe合金相が、マルテンサイト、ベイナイト、粒状セメンタイトの一種以上の組織からなっている請求項1または2に記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項4】
気孔率が3〜30体積%に調整され、各気孔に潤滑油が含浸されている請求項1〜3のいずれかに記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項5】
黒鉛、MoS、WS、MnS、CaF等の固体潤滑剤および/またはMo、W等の金属粒子、酸化物、炭化物、窒化物等のセラミックス、超硬、サーメット、高速度鋼粉末等の炭化物、窒化物を含有する硬質分散材、さらにはFeCo、NiAl、TiAl、NiSi、NiTi等の金属間化合物の一種以上が含有されている請求項1〜4のいずれかに記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項6】
少なくとも2〜9重量%の造粒された黒鉛が分散され、さらに0.1〜5重量%のMoS、WS、MnSが分散されている請求項5に記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の銅系焼結摺動材料を円筒状、略円筒状もしくは板状に成形・加工し、鉄系材料よりなる裏金に一体化してなることを特徴とする焼結摺動部材。
【請求項8】
前記裏金となる鉄系材料の焼入れ性がDI値=2.0以下で、ガス急冷もしくは油焼入れによってもフェライト、パーライト、ベイナイトのいずれかの組織を示し、この裏金に焼結接合する銅系焼結摺動材料中のFe合金相の一部以上をマルテンサイト化することによって、この銅系焼結摺動材料に圧縮残留応力が働くようにする請求項7に記載の焼結摺動部材。
【請求項9】
前記裏金となる鉄系材料の気孔率が3〜20体積%に調整され、各気孔に潤滑油が含浸されている請求項7または8に記載の焼結摺動部材。
【請求項10】
円筒状もしくは略円筒状に成形されて複層焼結ブッシュとされた複層焼結摺動部材であって、両端面部の外周面の面取りが内周面の面取りよりも小さくされている請求項7〜9のいずれかに記載の焼結摺動部材。
【請求項11】
円筒状もしくは略円筒状に成形された複層焼結摺動部材であって、スラスト荷重を受けて摺動するように前記裏金に鍔部が設けられ、この鍔部摺動面に焼入れ硬化処理が施されているか、もしくは耐摩耗材料および/または摺動材料が配されている請求項7〜10のいずれかに記載の焼結摺動部材。
【請求項12】
前記耐摩耗材料もしくは摺動材料が、超硬、ステライト、鉄系耐摩耗材料、セラミックス、Cu系耐摩耗材料のうちの一種であり、これらが溶射、ロウ付け、焼結接合、溶浸接合、接着のうちのいずれかの手段で一体化される請求項11に記載の焼結摺動部材。
【請求項13】
前記銅系焼結摺動材料が前記鍔部摺動面において一体化されている請求項11に記載の焼結摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−63663(P2008−63663A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239586(P2007−239586)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【分割の表示】特願2002−152222(P2002−152222)の分割
【原出願日】平成14年5月27日(2002.5.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】