説明

銅配線半導体用洗浄剤

【課題】 本発明は、銅配線を腐食させることなく、配線金属の腐食抑制の目的で添加されている防食剤などの有機残渣、および研磨された銅配線金属の銅の残渣の除去性に優れる銅および銅合金配線半導体用の洗浄剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 銅または銅合金配線を形成する半導体製造工程中の化学的機械的研磨工程に続く洗浄工程において使用される洗浄剤であって、HLBが15〜35であって分子内に少なくとも1個の水酸基を有するアミン(A)、HLBが10〜30であって分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を有しかつ水酸基を含まないアミン(B)、および水を必須成分とし、使用時のpHが7.5〜13.0であることを特徴とする銅配線半導体用洗浄剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程における化学的機械的研磨(以下、「化学的機械的研磨」をCMPと略称する。)工程の後の洗浄工程に用いられる洗浄剤(以下、CMP後洗浄剤と略記する。)に関するものであって、特に表面に銅または銅合金の配線が施された半導体のCMP後洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン半導体に代表される半導体素子は、高性能化、小型化等の市場ニーズに対応して微細化、高集積化が進んでいる。これに伴い微細な配線パターンを作成するための高度な平坦化技術が必須となり、半導体の製造工程において、ウェハ表面をアルミナやシリカの微粒子を含む研磨スラリー(以下、CMPスラリーと略称する。)を用いて研磨するCMP工程が導入されている。
【0003】
しかしながらこのCMP工程では、CMPスラリー中のアルミナやシリカなどの研磨微粒子(以下、「研磨微粒子」を砥粒と略記する。)、研磨を促進するために添加された硝酸鉄水溶液、金属腐食抑制目的で添加されている防食剤、研磨された銅配線金属などが、研磨後のウェハ上に残留しやすい。これら残留物は配線間の短絡など半導体の電気的な特性に悪影響を及ぼすため、これら残留物を除去し、ウェハ表面を清浄化する必要がある。
【0004】
このCMP工程後の洗浄工程に用いる洗浄剤として、ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアルカリ性の洗浄剤(特許文献1)、鎖状アルカノールアミンを主成分とするアルカリ性の洗浄剤が知られている(特許文献2)。
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2の洗浄剤は、金属残渣物の除去性、CMPスラリー中に添加された砥粒の除去性や耐腐食性に優れているものの、有機残渣の除去性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再表2001−71789号公報
【特許文献2】特開平11−74243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、銅配線を腐食させることなく、配線金属の腐食抑制の目的で添加されている防食剤などの有機残渣、および研磨された銅配線金属の銅の残渣の除去性に優れる銅および銅合金配線半導体用の洗浄剤を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、銅または銅合金配線を形成する半導体製造工程中の化学的機械的研磨工程に続く洗浄工程において使用される洗浄剤であって、HLBが15〜35であって分子内に少なくとも1個の水酸基を有するアミン(A)、HLBが10〜30であって分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を有しかつ水酸基を含まないアミン(B)、および水を必須成分とし、使用時のpHが7.5〜13.0であることを特徴とする銅配線半導体用洗浄剤;並びにこの洗浄剤を使用して製造された半導体基板または半導体素子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗浄剤は、銅配線を腐食させることなく、有機残渣および金属残渣の除去性に優れる。
また、2%水溶液の曇点が40℃以上のノニオン性界面活性剤を併用すると、ウエハ表面に対する洗浄剤の濡れ性が向上し、金属残渣の除去性がさらに向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、CMP工程の後の洗浄工程に用いられる洗浄剤であって、特定のHLBを有し分子内に少なくとも1個の水酸基を有するアミン(A)、特定のHLBを有し分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を有しかつ水酸基を含まないアミン(B)、および水を必須成分とし、使用時のpHが7.5〜13.0であることを特徴とする。
さらに、アミン(A)はHLBが15〜35であり、アミン(B)はHLBが10〜30であることも要件である。
【0011】
ここでの「HLB」とは、親水性と親油性のバランスを示す指標であって、例えば「界面活性剤入門」〔2007年三洋化成工業株式会社発行、藤本武彦著〕212頁に記載されている小田法による計算値として知られているものであり、グリフィン法による計算値ではない。
HLB値は有機化合物の有機性の値と無機性の値との比率から計算することができる。
HLB≒10×無機性/有機性
HLBを導き出すための有機性の値及び無機性の値については前記「界面活性剤入門」213頁に記載の表の値を用いて算出できる。
【0012】
本発明において、第1の必須成分であるHLBが15〜35であって分子内に少なくとも1個の水酸基を有するアミン(A)としては、例えば、水酸基を1個以上有する脂肪族アミン(A1)、水酸基を1個以上有する脂環式アミン(A2)、水酸基を1個以上有するアラルキルアミン(A3)、水酸基を1個以上有する複素環式アミン(A4)などが挙げられる。
【0013】
HLBが15〜35であって分子内に少なくとも1個の水酸基を有する脂肪族アミン(A1)の具体例としては、ジエタノールアミン(HLB=33)、トリエタノールアミン(HLB=31)、ジメチルアミノエタノール(HLB=22)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(HLB=28)、2−[(アミノエチル)アミノ]エタノール、(HLB=30)等が挙げられる。
水酸基を1個以上含有していればモノアミンでもポリアミンでもよい。
【0014】
HLBが15〜35であって分子内に少なくとも1個の水酸基を有する脂環式アミン(A2)の具体例としては、1,3−および1,4−ジアミノシクロヘキサンのモノヒドロキシエチル置換体(HLB=18)等が挙げられる。
【0015】
HLBが15〜35であって分子内に少なくとも1個の水酸基を有するアラルキルアミン(A3)の具体例としては、メタキシリレンジアミンのエチレンオキサイド2モル付加体(HLB=16)等などの芳香脂肪族アミンが挙げられる。
【0016】
HLBが15〜35であって分子内に少なくとも1個の水酸基を有する複素環式アミン(A4)の具体例としては、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(HLB=20)、モルホリン−4−エタノール(HLB=17)等が挙げられる。
【0017】
これらのアミン(A)のうち、銅配線耐腐食性とCMP工程後のウェハ上に残留する有機残渣の除去性の観点から好ましくは、上述の脂肪族アミン(A1)、複素環式アミン(A4)である。
さらにCMP工程後のウェハ上に残留する砥粒の除去性の観点からより好ましくは、トリエタノールアミン、2−[(アミノエチル)アミノ]エタノール、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンであり、特に好ましくは、2−[(アミノエチル)アミノ]エタノールである。
【0018】
アミン(A)の含有量は、銅配線耐腐食性および有機残渣除去性の観点から、アミン(A)、アミン(B)および水の使用時の合計重量に基づいて、通常0.001〜10重量%であり、好ましくは0.005〜5重量%、さらに好ましくは0.01〜2重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%である。
【0019】
本発明において、第2の必須成分であるHLBが10〜30であって分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を有しかつ水酸基を含まないアミン(B)としては、例えば、3級アミノ基を有する脂肪族アミン(B1)、3級アミノ基を有する脂環式アミン(B2)、3級アミノ基を有する複素環式アミン(B3)などが挙げられる。
【0020】
HLBが10〜30であって分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を有する脂肪族アミン(B1)の具体例としては、N,N’−ジメチルアミノジエチルエーテル(HLB=11)、テトラメチルエチレンジアミン(HLB=13)、N−メチル−N,N−ビス(2−ジメチルアミノエチル)アミン(HLB=26)等が挙げられる。なお、HLBが10〜30であって分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を含有していればモノアミンでもポリアミンでもよい。
【0021】
HLBが10〜30であって分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を有する脂環式アミン(B2)の具体例としては、N,N−ジメチル−1,4−ジアミノシクロヘキサン(HLB=11)等が挙げられる。
【0022】
HLBが10〜30であって分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を有する複素環式アミン(B3)の具体例としては、N−(2−アミノエチル)ピペリジン(HLB=11)、N−(2−アミノエチル)ピペラジン(HLB=18)、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン(HLB=15)、1−メチル−4−[2−(ジメチルアミノ)エチル]ピペラジン(HLB=12)等が挙げられる。
【0023】
これらのアミン(B)のうち、CMP工程後のウェハ上に残留する有機残渣の除去性の観点から好ましくは、上述の脂肪族アミン(B1)、複素環式アミン(B3)である。
さらに銅配線腐食性の観点からより好ましくは、N−メチル−N,N−ビス(2−ジメチルアミノエチル)アミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、1−メチル−4−[2−(ジメチルアミノ)エチル]ピペラジンであり、特に好ましくは、N−メチル−N,N−ビス(2−ジメチルアミノエチル)アミンである。
【0024】
アミン(B)の含有量は、銅配線耐腐食性および有機残渣除去性の観点から、アミン(A)、アミン(B)および水の使用時の合計重量に基づいて、通常0.001〜10重量%であり、好ましくは0.005〜5重量%、さらに好ましくは0.01〜2重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%である。
【0025】
本発明おいて、アミン(A)とアミン(B)の比率は、銅配線腐食性と有機残渣除去性の両立の観点から、モル比で好ましくは(A)/(B)=0.5〜10.0であり、さらに好ましくは(A)/(B)=0.7〜5.0であり、特に好ましくは(A)/(B)=0.8〜1.5である。(A)と(B)のモル比がこの範囲であると、銅配線腐食性と有機残渣除去性のバランスが良好である。
【0026】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、水が必須成分であり、具体的には、電気伝導率(μS/cm;25℃)が小さいものが挙げられる。具体的には、電気伝導率は、有機残渣および金属残渣の除去性、入手のしやすさ、及び銅配線の再汚染(水中の金属イオンの銅配線への再付着)防止の観点から、通常0.055〜0.2、好ましくは0.056〜0.1、さらに好ましくは0.057〜0.08である。このような電気伝導率が小さい水としては、超純水が好ましい。
なお、電気伝導率は、JIS K0400−13−10:1999に準拠して測定される。
【0027】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤をそのまま、あるいはさらに希釈して実際に使用する時のpHは通常7.5〜13.0であり、好ましくは、8.5〜13.0、さらに好ましくは9.5〜13.0である。
pHが低すぎると有機残渣除去性が悪くなり、高すぎると銅配線耐腐食性が悪くなる。
【0028】
銅配線半導体用洗浄剤は、必須成分であるアミン(A)、アミン(B)、および水以外に、2%水溶液の曇点が40℃以上のノニオン系界面活性剤(C)を併用することにより、洗浄剤のウエハに対する濡れ性が向上し、銅配線耐腐食性、有機残渣除去性に加え、金属残渣除去性も満足することができる。
ノニオン系界面活性剤(C)の2%水溶液の曇点は、好ましくは、50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。
【0029】
このようなノニオン系界面活性剤(C)として、具体的には、ココアミンのエチレンオキシド(5〜10モル)付加物(曇点50℃以上)、ラウリルアルコールのエチレンオキシド(8〜12モル)付加物(曇点40℃以上)等が挙げられる。
【0030】
ノニオン系界面活性剤(C)の含有量は、洗浄剤の表面張力を低下させるのに必要な量でよく、本発明の銅配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.0001〜1重量%、好ましくは0.0005〜0.3重量%、特に好ましくは0.001〜0.1重量%である。
【0031】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、必須成分であるアミン(A)、アミン(B)、水、および必要に応じて添加するノニオン界面活性剤(C)を含有するが、さらに、本発明の半導体用洗浄剤の性能を損なわない範囲で腐食抑制剤(D)、還元剤(E)、錯化剤(F)などを添加してもよい。
【0032】
腐食抑制剤(D)としては、第4級アンモニウムヒドロキシド、グアニジン化合物が挙げられる。
4級アンモニウムヒドロキシドとしては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、グアニジン化合物としては、炭酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン等が挙げられる。
【0033】
これらの腐食抑制剤(D)のうち、水溶性及び銅配線耐腐食性の観点から、第4級アンモニウムヒドロキシドが好ましく、さらに好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシドである。
【0034】
腐食抑制剤(D)の含有量は、銅配線腐食抑制性向上の観点から、本発明の銅配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.001〜1.0重量%、さらに好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0035】
還元剤(E)としては、有機還元剤及び無機還元剤が挙げられる。
有機還元剤としては、ポリフェノール化合物、シュウ酸またはその塩、炭素数6〜9の脂肪族アルデヒドやベンズアルデヒド等が挙げられ、無機還元剤としては、亜硫酸またはその塩、チオ硫酸またはその塩等が挙げられる。
【0036】
これらの還元剤(E)のうち、有機残渣除去性の観点から、有機還元剤が好ましく、さらに好ましくはポリフェノール化合物、シュウ酸またはその塩である。さらに、錯化作用の観点等から、ポリフェノール化合物が好ましく、特に好ましくは没食子酸である。
【0037】
これらの還元剤を添加する場合、還元剤(E)の含有量は、有機残渣除去性の観点から、本発明の銅配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.001〜1.0重量%、さらに好ましくは0.01〜0.5重量%、特に好ましくは0.05〜0.1重量%である。これらの還元剤が1.0重量%より多くなると銅配線耐腐食性が低下してしまう。
【0038】
錯化剤(F)としては、芳香族又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸(またはその塩)、ヒドロキシル基かカルボキシル基の少なくとも一方を有する複素環式化合物、ホスホン酸(またはその塩)等が挙げられる。
【0039】
これらの錯化剤(F)のうち、有機残渣除去性の観点から、脂肪族ヒドロキシカルボン酸(またはその塩)及びポリカルボン酸(またはその塩)が好ましく、脂肪族ヒドロキシカルボン酸(またはその塩)が特に好ましい。
【0040】
錯化剤を添加する場合、錯化剤(F)の含有量は、有機残渣除去性の向上の観点から、本発明の銅配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.001〜0.5重量%であり、好ましくは0.01〜0.3重量%、特に好ましくは0.05〜0.1重量%である。錯化剤(F)の含有量が0.5重量%より多くなると逆に有機残渣除去性の効果が低下する。
【0041】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、アミン(A)、アミン(B)、および必要によりその他の成分を水と混合することによって製造することができる。
混合する方法としては、特に限定されないが、容易かつ短時間で均一に混合できるという観点等から、水とアミン(A)とアミン(B)を混合し、続いて必要によりその他の成分を混合する方法が好ましい。
【0042】
混合装置としては、撹拌機又は分散機等が使用できる。撹拌機としては、メカニカルスターラー及びマグネチックスターラー等が挙げられる。分散機としては、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル及びビーズミル等が挙げられる。
【0043】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、銅配線を有する半導体基板、半導体素子、半導体洗浄性評価用の銅メッキ基板など、また記録媒体磁気ディスク用のアルミニウム基板、ガラス状炭素基板、ガラス基板、セラミックス基板など、また液晶用ガラス基板、太陽電池用ガラス基板などを洗浄する洗浄方法に使用することができる。
【0044】
銅配線を有する半導体基板又は半導体素子などを洗浄する洗浄方法としては、枚葉方式とバッチ方式が挙げられる。枚葉方式は、一枚ずつ半導体基板又は半導体素子を回転させ、銅配線半導体用洗浄剤を注入しながら、ブラシを用いて洗浄する方法であり、バッチ方式とは複数枚の半導体基板又は半導体素子を銅配線半導体用洗浄剤に漬けて洗浄する方法である。
【0045】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、銅配線を有する半導体基板又は半導体素子を製造する過程において、レジスト現像後、ドライエッチング後、ウェットエッチング後、ドライアッシング後、レジスト剥離後、CMP処理前後及びCVD処理前後等の洗浄工程に使用できる。特に、有機残渣除去性と金属不純物除去性の観点から、CMP処理後の洗浄工程に用いることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0047】
実施例1〜7、および比較例1〜5
ポリエチレン製容器内で表1に記載の配合を行い、本発明の銅配線半導体用洗浄剤および比較のための洗浄剤を得た。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、表1中の(C−1)と(C−2)の2%水溶液の曇点はそれぞれ100℃と52℃である。
【0050】
本発明の銅配線用半導体用洗浄剤および比較のための銅配線半導体用洗浄剤について、有機残渣除去性、金属残渣除去性、ならびに銅配線耐腐食性を以下の方法で測定し、評価した。
評価結果を表1に示す。
【0051】
<有機残渣除去性の評価方法>
有機残渣除去性の評価は、以下に示す手順によりおこなった。
【0052】
(1)銅メッキされたシリコンウェハの洗浄
シリコンウェハに銅メッキが施されたウェハ(アドバンスマテリアルテクノロジー社製、「Cuメッキ10000A Wafer」、銅メッキの膜厚=1.0μm)を、縦1.5cm×横1.5cmに切断し、10%酢酸水溶液中に1分間浸漬した後、超純水で洗浄した。
【0053】
(2)有機残渣液の調製
ベンゾトリアゾール(BTA)0.4g、濃度30%の過酸化水素水0.6g、超純水200gを混合し、塩酸でpHが3.0になるように調整し、有機残渣液を作成した。
【0054】
(3)有機残渣を付着させた銅メッキウェハの作成
銅メッキウェハを(2)で調整した有機残渣液に60秒間浸漬した後、超純水に60秒間浸漬し、窒素気流でウェハ表面を乾燥して有機残渣を付着させた銅メッキウェハを作成した。
【0055】
(4)銅メッキウェハに付着させた有機残渣量の測定
有機残渣物であるベンゾトリアゾールに由来する窒素の量を、X線光電子分光(XPS)装置(アルバックファイ社製、ESCA−5400型)を用いて測定することによって、(3)で作成した銅メッキウェハに付着した有機残渣量を測定した。
具体的には、XPSを用いて、結合エネルギー397eV〜399eVの範囲で光電子数の測定を行い、窒素に由来する397.5〜398.4eVの範囲におけるピーク面積値を求めた。軟X線は、MgKα線(1253.6eV)を使用した。
【0056】
(5)銅メッキウェハに付着させた有機残渣の除去
本発明及び比較用の銅配線半導体用洗浄剤各50gに、(3)で作成した有機残渣を付着させた銅メッキウェハを3分間浸漬し、銅メッキウェハから有機残渣を除去した。その後、超純水1Lに60秒間浸漬し、窒素気流でウェハ表面を乾燥させた。
【0057】
(6)銅メッキウェハに残留した有機残渣量の測定
有機残渣物であるベンゾトリアゾールに由来する窒素の量を、(4)と同様に、XPSを用いて測定することによって銅メッキウェハに残留した有機残渣量を測定した。
【0058】
(7)有機残渣除去性の評価判定
(4)と(6)のXPSで測定したそれぞれのピーク面積値を下記数式(1)に代入し、BTA残渣除去率を算出した。
【0059】
【数1】

【0060】
Xa:有機残渣除去前のベンゾトリアゾール由来の窒素のピーク面積値
Xb:有機残渣除去後のベンゾトリアゾール由来の窒素のピーク面積値
【0061】
算出した有機残渣除去率から、以下の判定基準で有機残渣除去性を判定した。
○:有機残渣除去率が90%以上
△:有機残渣除去率が80〜90%
×:有機残渣除去率が80%未満
【0062】
<金属残渣除去性の評価方法>
金属残渣除去性の評価は、以下に示す手順によりおこなった。
(1)酸化シリコン単層膜を有するウェハの前処理
酸化シリコン単層膜を有するシリコンウェハ(アドバンテック社製、「P−TEOS1.5μ」、酸化シリコンの膜厚=1.5μm)を、縦1.0cm×横2.0cmの切片に切断し、10%酢酸水溶液に1分間浸漬した後、超純水で洗浄した。
【0063】
(2)金属イオンを含有する水溶液の調製
硝酸亜鉛0.1部、硝酸鉄0.1部および硝酸マグネシウム0.1部に、全量が100gになるように水を加え、亜鉛、鉄、マグネシウムの金属イオンをそれぞれ0.1重量%含有する水溶液を調製した。
【0064】
(3)金属イオン水溶液によるウェハの汚染処理
前処理したウェハの切片を、金属イオンを含有する水溶液10gに1分間浸漬した後、窒素ブローで乾燥させることにより、ウェハの表面に金属イオンを付着させた。
【0065】
(4)ウェハの洗浄
汚染処理したウェハの切片を、銅配線半導体用洗浄剤各10gに浸漬した。25℃で3分間静置した後、洗浄剤から取り出した。
【0066】
(5)ウェハの表面から洗浄剤中に溶出した金属イオン濃度の測定
浸漬させた後の銅配線半導体用洗浄剤を5g取り出し、硝酸水溶液でpHを3.0に調整した。
その後、全量が10gになるまで超純水を加えて測定液とした。測定液中に含有する亜鉛、鉄、およびマグネシウム金属イオンの濃度を、ICP−MS分析装置(誘導結合プラズマ質量分析装置)(アジレントテクノロジー社製、Agilent7500cs型)を用いて測定した。
【0067】
(6)ウェハの表面から洗浄剤中に溶出した金属イオンの溶出量の計算
下記数式(2)を用いて各金属イオンの溶出量を計算した。
【0068】
【数2】

【0069】
Metalcon:ICP−MS分析で定量した測定液中の各金属イオン濃度(ppb(ng/g))
G1:試験片を浸漬させた銅配線半導体用洗浄剤の液量(g)
G2:pH調整前に取り出した銅配線半導体用洗浄剤の液量(g)
G3:測定液の液量(g)
SiO2:酸化シリコンの単層膜を有するウェハにおける酸化シリコン膜の面積(cm2)
【0070】
(7)金属残渣除去性の評価判定
算出した各金属イオンの溶出量の合計量から、金属残渣除去性を評価し、ウェハ単位面積あたりの金属イオンの溶出量が多いほど、金属残渣除去性が優れていると判定した。
具体的には、以下の判定基準で金属残渣除去性を判定した。
○:15ng/cm以上
△:5〜15ng/cm
×:5ng/cm未満
【0071】
<銅配線耐腐食性の評価方法>
銅配線の耐腐食性評価は、以下に示す手順によりおこなった。
(1)銅単層膜を有するウェハの前処理
銅単層膜を蒸着したウェハ(アドバスマテリアルズテクノロジー製、シリコン基板に銅金属を膜厚2μmで蒸着したもの)を、縦1.0cm×横2.0cmの切片に切断し、10%酢酸水溶液に1分間浸漬した後、超純水で洗浄した。
【0072】
(2)銅の抽出
前処理した銅単層膜を有するウェハの切片を、銅配線半導体用洗浄剤各10gに浸漬し、25℃で3分間静置した後、洗浄剤から取り出した。
【0073】
(3)銅イオン濃度の測定
切片を取り出した後の銅配線半導体用洗浄剤から5g秤量し、0.1%硝酸水溶液を加えてpHを3.0に調整した。その後、全量が10gになるまで超純水を加えて測定用試料液とした。
測定用試料液中の銅イオン濃度を、ICP−MS分析装置(誘導結合プラズマ質量分析装置)(アジレントテクノロジー社製、Agilent7500cs型)を用いて測定した。
【0074】
(4)銅イオンの溶出量の算出
銅イオンの濃度を下記数式(3)に代入し、銅イオンの溶出量(ng/cm2)を算出した。
【0075】
【数3】

【0076】
Cucon:ICP−MS分析で定量した測定液中の銅イオン濃度(ppb(ng/g))
H1:試験片を浸漬させた銅配線半導体用洗浄剤の液量(g)
H2:pH調整前に取り出した銅配線半導体用洗浄剤の液量(g)
H3:測定液の液量(g)
CU:銅の単層膜を有するウェハにおける銅単層膜の面積(cm
【0077】
(5)銅配線耐腐食性の評価判定
算出した銅イオンの溶出量から、銅配線耐腐食性を評価し、銅単層膜を有するウェハ単位面積あたりの銅イオンの溶出量が少ないほど、銅配線耐腐食性が優れていると判定した。具体的には、以下の判定基準で銅配線耐腐食性を判定した。
○:15ng/cm未満
△:15〜20ng/cm
×:20ng/cm以上
【0078】
表1に示すように、実施例1〜7の本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、有機残渣除去性絶縁膜上の金属残渣除去性、および銅配線耐腐食性のいずれでも良好な結果が得られた。
一方、水酸基を有するがHLBが15〜35でないアミン(A’−1)、HLBが15〜35であるが水酸基を有しないアミン(A’−2)をそれぞれ(A)の代わりに使用した比較例1と比較例2、および、3級アミノ基を1個以上含み、かつ水酸基を含まないがHLBが10〜30でないアミン(B’−1)と(B’−2)をそれぞれ(B)の代わりに使用した比較例3と比較例4は、いずれも有機残渣除去性が不良であった。
また、本発明の必須成分であるアミン(A)および(B)のいずれも含まない比較例5は、銅配線腐食性および金属残渣除去性がいずれも不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、有機残渣除去性、銅配線腐食性に優れ、かつ金属残渣の除去性に優れることから、銅または銅合金配線を形成する半導体製造工程中のCMP工程の後に続く工程において使用される洗浄剤として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金配線を形成する半導体製造工程中の化学的機械的研磨工程に続く洗浄工程において使用される洗浄剤であって、HLBが15〜35であって分子内に少なくとも1個の水酸基を有するアミン(A)、HLBが10〜30であって分子内に少なくとも1個の3級アミノ基を有しかつ水酸基を含まないアミン(B)、および水を必須成分とし、使用時のpHが7.5〜13.0であることを特徴とする銅配線半導体用洗浄剤。
【請求項2】
該アミン(A)と該アミン(B)のモル比(A)/(B)が0.1〜2.0である請求項1記載の銅配線半導体用洗浄剤。
【請求項3】
さらに2%水溶液の曇点が40℃以上のノニオン系界面活性剤(C)を使用時の洗浄剤全体に対して1重量%以下含有する請求項1または2記載の銅配線半導体用洗浄剤。
【請求項4】
銅または銅合金配線を形成する半導体製造工程中の化学的機械的研磨の後に続く工程において、請求項1〜3のいずれかの洗浄剤を使用して製造された半導体基板または半導体素子。

【公開番号】特開2012−216690(P2012−216690A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81150(P2011−81150)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】