説明

鋳鉄、鋳鉄鋳片、およびその製造方法

【課題】多大の熱エネルギー及び長時間を要する熱処理を行うことなく、加工性に優れた強靭な鋳鉄、鋳鉄鋳片、およびそれらを効率良く製造し得る製造方法を提供すること。
【解決手段】白鋳鉄となる成分からなる鋳鉄において、伸延黒鉛が分散している鋳鉄であり、また白鋳鉄となる成分が、質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成であり、さらに、伸延している黒鉛の幅が0.4mm以下、長さが50mm以下である鋳鉄。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性の良好な鋳鉄、鋳鉄鋳片、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強靱鋳鉄としては、Mg,Ca,Ce等の黒鉛球状化剤を添加し、黒鉛球状化処理して得られるダクタイル鋳鉄やコンパクトバーミキュラ鋳鉄(以降はC/V鋳鉄と記載)があり、又、白銑化鋳造で得られる白銑鉄を熱処理して得られる可鍛鋳鉄等がある。
上記C/V鋳鉄では、黒鉛が球状化までに到らず、中間型の塊状等の黒鉛となって存在する。また、可鍛鋳鉄は鋳造性が良く、しかも熱処理を施すことによって鋼のように延性に富み、強靱な特性を有するので、機械構造用材料として重要なものである。この可鍛鋳鉄には白心可鍛鋳鉄、黒心可鍛鋳鉄、特殊な基地を有するもの等に分類される。
【0003】
この内、黒心可鍛鋳鉄においては、可鍛鋳鉄鋳物として鋳放しのままでは白銑組織を呈しており、これは硬くて脆いため、その製造工程において焼なましによる黒鉛化処理を行っている。
この焼なまし条件は、多くの他の鋳造要因によって、その時間および温度が決定されるが、通常ではこの焼なましは二段階の焼なまし工程を含むものである。その第一段焼なましは900〜980℃の温度で、10ないし20時間を要し、この処理で遊離のセメンタイトは完全に分解され、第二段焼なましでは直接的な黒鉛化を目的とした700〜760℃の温度範囲での徐冷とパーライト中のセメンタイトを黒鉛化する700〜730℃の範囲での長時間処理が組み合わされて行われている。このように、全焼なまし工程に要する時間は、通常では20〜100時間程度を要していることが、(非特許文献1)に記載されている。
【0004】
ダクタイル鋳鉄や可鍛鋳鉄はある程度の圧延が可能であり、鋳造した鋳片を圧延して鋳鉄厚板や鋳鉄薄板、鋳鉄棒等の圧延鋳鉄にすることによって様々な用途への適用が期待されている。しかしながら、これらの鋳鉄は圧延可能な条件が狭く、適用は限定された用途にとどまっている。
また、圧延用の素材となる鋳片を得る方法としては、通常は砂型等の鋳型へ溶湯を注入して鋳片を得る鋳造法が用いられているが、生産性を向上させる手段ために連続鋳造が行われる場合がある。
【0005】
しかし、上記(非特許文献1)の方法では、可鍛鋳鉄鋳物では黒鉛化処理に長時間を要するため、著しく生産性が悪く、また長時間の加熱により、表面の酸化、脱炭が生ずるため、これを抑止するため非酸化雰囲気加熱の必要性から、さらに処理コストが上昇する問題がある。さらに、焼なましサイクルが適正であるにもかかわらず、処理後に析出した黒鉛は球状化されていない。このため、十分に満足できる特性を備えた黒鉛化処理とは言えなかった。特に強度、延性バランスや疲労強度の面で、通常のねずみ鋳鉄に比較してあまり可鍛鋳鉄としての優位性がなく、さらにこれら特性面から向上させることが望まれている。
【0006】
これに対して、(特許文献1)には、短時間で黒鉛化する処理方法が示されているが、処理後に析出した黒鉛は、完全には球状化されていない。また、ダクタイル鋳鉄や可鍛鋳鉄を圧延して得られる圧延鋳鉄では、圧延時に黒鉛が薄片状となって層状に分布するために、加工性が悪化してしまう。
さらに、通常鋳鉄の連続鋳造ではチルの生成を防止する等の目的でグラファイトのモールドが用いられているが、白鋳鉄は固液共存域が広いために連続鋳造が困難であり、(特許文献2)に示されている様に、ごく一部を除いてほとんど行われていない。
この他に、(特許文献3)に示されるように、双ロール鋳造機によって薄板状に白銑化鋳造し、これを熱処理して可鍛鋳鉄からなる薄板鋳鉄板を製造することも、強靱薄板鋳鉄板の製造方法として考えられるが、この場合は可鍛鋳鉄製造の場合と同様、塊状の黒鉛となり黒鉛の球状化が不十分であるために、加工性が不十分であるという問題点がある。
【非特許文献1】日本鉄鋼協会、「第3版 鉄鋼便覧、第V巻 鋳造・鍛造・粉末冶金」、頁115〜116、1982年
【特許文献1】特開平7−138636号公報
【特許文献2】US Patent 4074747号
【特許文献3】特許第3130670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであって、多大の熱エネルギー及び長時間を要する熱処理を行うことなく、加工性に優れた強靱な鋳鉄、鋳鉄鋳片、およびそれらを効率よく製造し得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の概要は、以下の通りである。
(1) 質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成からなる鋳鉄において、伸延した黒鉛が分散していることを特徴とする鋳鉄。
(2) 伸延している黒鉛の幅が0.4mm以下、長さが50mm以下であることを特徴とする(1)に記載の鋳鉄。
(3) 黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っていることを特徴とする(1)または(2)に記載の鋳鉄。
(4) 鋳鉄中のフェライトの占める割合が70%以上であることを特徴とする(3)に記載の鋳鉄。
(5) 鋳鉄成分としてCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の鋳鉄。
(6) 伸延した黒鉛が、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の粒子の1種以上と複合していることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の鋳鉄。
(7) 球状化剤元素がMg、CaまたはREMの1種以上を含有していることを特徴とする(6)に記載の鋳鉄。
(8) 前記の鋳鉄が、薄板鋳鉄、厚板鋳鉄、条鋳鉄であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の鋳鉄。
【0009】
(9) 質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成からなる鋳鉄において、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が分散していることを特徴とする鋳鉄。
(10) 球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が、50個/mm以上分散していることを特徴とする(9)に記載の鋳鉄。
(11) 球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子の直径が0.05〜5μmであることを特徴とする(9)または(10)に記載の鋳鉄。
(12) 鋳鉄成分としてCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする(9)〜(11)のいずれかに記載の鋳鉄。
(13) 球状化剤元素がMg、CaまたはREMの1種以上含有していることを特徴とする(9)〜(12)のいずれかに記載の鋳鉄。
(14) 前記の鋳鉄が、薄板鋳鉄、厚板鋳鉄、条鋳鉄であることを特徴とする(9)〜(13)のいずれかに記載の鋳鉄。
【0010】
(15) 質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成からなる鋳鉄の鋳片において、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が分散していることを特徴とする鋳片。
(16) 球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が、50個/mm以上分散していることを特徴とする(15)に記載の鋳片。
(17) 球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子の直径が0.05〜5μmであることを特徴とする(15)または(16)のいずれかに記載の鋳片。
(18) 鋳鉄成分としてCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする(15)〜(17)のいずれかに記載の鋳片。
(19) 球状化剤元素がMg、CaまたはREMの1種以上含有していることを特徴とする(15)〜(18)のいずれかに記載の鋳片。
(20) 鋳片の厚みが1〜120mmであることを特徴とする(15)〜(19)のいずれかに記載の鋳片。
【0011】
(21) 球状化剤を添加した、質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成の溶鉄を鋳造し、白鋳鉄組織の鋳片を製造することを特徴とする鋳片の製造方法。
(22) 球状化剤がMg、CaまたはREMの1種以上を含有することを特徴とする(21)に記載の鋳片の製造方法。
(23) 溶鉄にCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を添加することを特徴とする(21)または(22)に記載の鋳片の製造方法。
(24) 水冷銅鋳型を有する連続鋳造機を用いて連続鋳造することを特徴とする(21)〜(23)のいずれかに記載の鋳片の製造方法。
(25) 薄スラブ連続鋳造機、または鋳型壁面が鋳片と同期して移動する連続鋳造機を用いて連続鋳造することを特徴とする(21)〜(24)のいずれかに記載の鋳片の製造方法。
(26) (21)〜(25)のいずれかに記載の方法に引き続き、鋳片を熱間、冷間のどちらか一方または両方で圧延することを特徴とする鋳鉄の製造方法。
(27) 圧延した鋳鉄が、薄板鋳鉄、厚板鋳鉄、条鋳鉄であることを特徴とする(26)に記載の鋳鉄の製造方法。
【0012】
(28) 鋳片を900℃超で熱間圧延することを特徴とする(26)または(27)に記載の伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の製造方法。
(29) 熱間圧延前の加熱温度を900℃超とすることを特徴とする(28)に記載の伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の製造方法。
(30) (28)または(29)に記載の方法に引き続き、熱間圧延した鋳鉄を冷間圧延することを特徴とする伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の製造方法。
(31) (28)〜(30)のいずれかに記載の方法に引き続き、鋳鉄を650〜730℃で保持した後、300℃以下まで冷却することを特徴とする伸延した黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っている鋳鉄の製造方法。
(32) (28)〜(30)のいずれかに記載の方法に引き続き、730〜300℃の間を徐冷することを特徴とする伸延した黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っている鋳鉄の製造方法。
(33) 薄板鋳鉄を製造するに際し、(28)〜(30)のいずれかに記載の方法に引き続き、750〜550℃の温度で鋳鉄を円筒状コイルとして巻き取り、冷却することを特徴とする伸延した黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っている鋳鉄の製造方法。
(34) 730〜300℃の間の冷却速度が10℃/min以下であることを特徴とする(31)〜(33)のいずれかに記載の鋳鉄の製造方法。
【0013】
(35) (28)〜(34)のいずれかに記載の方法に引き続き、鋳鉄を冷間圧延することを特徴とする伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る圧延鋳鉄、薄板鋳鉄板および製造方法によれば、多大の熱エネルギー及び長時間を要する熱処理を行うことなく、圧延鋳鉄を製造し得る。これによって、加工性に優れた鋳鉄厚板、薄板鋳鉄板、条鋳鉄等を得ることが可能となり、これを用いて様々な製品を提供する事が可能となり、エネルギー消費が少なく、CO排出の少ない環境負荷の低い鋼材の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、白鋳鉄成分の溶鉄に球状化剤を添加した鋳鉄を鋳造して鋳片とし、その鋳片を圧延した後に加熱処理することによって、圧延された鋳鉄であって、球状黒鉛が分散した加工性に優れた球状黒鉛鋳鉄が製造可能であることを新たに見いだした。
具体的には、白鋳鉄成分の鋳鉄の溶湯に球状化剤を添加した後、鋳造して得られる鋳造ままの鋳片の組織には、黒鉛は観察されなかった。次に、この鋳片を比較的低温で熱間圧延した後、比較的高温で加熱処理して得られる鋳鉄の組織には、球状黒鉛組織が観察された。この鋳鉄を曲げ加工すると、加工性が非常に良好であることが判明した。この鋳鉄中の球状黒鉛の外表面の一部または全体がフェライトで覆われており、このフェライト相が多い鋳鉄は加工性が良いことが判明した。
以上の結果は、薄板、厚板、条等の種々の形状の鋳鉄において、同様であった。
【0016】
また、上記の黒鉛が球状ではなく、伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の場合、良好な加工性が得られ、さらに制振性や吸音性に優れたものとなり、白鋳鉄成分の溶鉄に球状化剤を添加した溶湯を鋳造して鋳片とし、その鋳片を圧延することによって、伸延した黒鉛が分散する鋳鉄が製造可能であることを新たに見いだした。
具体的には、白鋳鉄成分の鋳鉄の溶湯に球状化剤を添加した後、鋳造して得られる鋳造ままの鋳片の組織には、黒鉛は観察されなかった。次に、この鋳片を比較的高温で熱間圧延して得られる鋳鉄の組織には、伸延した黒鉛が分散した組織が観察された。この鋳鉄を曲げ加工すると、容易に加工でき、さらに制振性や吸音性が優れていることが判明した。この鋳鉄中の伸延した黒鉛の外表面の一部または全体がフェライトで覆われており、このフェライト相が多い鋳鉄は加工性が良いことが判明した。
以上の結果も、薄板、厚板、条等の種々の形状の鋳鉄において、同様であった。
【0017】
熱間圧延を途中で中断した圧延鋳片の組織には、球状黒鉛とそれが圧下された黒鉛が観察され、圧延して得られた鋳鉄板で観察された伸延した黒鉛は、鋳片の加熱あるいは圧延時に析出してきた球状黒鉛が圧延によって伸延されたものであることが確認された。
【0018】
本発明はこれらの知見に基づいてなされたものである。以下に本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の白鋳鉄となる成分の鋳鉄において、球状黒鉛が数多く分散しているものについて説明する。ちなみに、上記の様な鋳鉄としては、圧延後の鋳鉄であって、薄板鋳鉄、厚板鋳鉄、条鋳鉄等が例示できる。条鋳鉄とは、棒材、線材、レール材や、山形、I形、H形等の断面の形材、矢板材等を言う。また、鋳型壁面が鋳片と同期して移動する連続鋳造機を用いて、圧延を行うことなく得られる鋳鉄も薄板鋳鉄に含んでも良い。従来技術では、この様な性状を形成している鋳鉄はなく、本発明の様な性状のものを得ることで、非常に良好な加工性を確保することができる。
【0019】
以下、薄板鋳鉄を例として説明する。
上記薄板鋳鉄板は、白鋳鉄成分の溶鉄に球状化剤を添加した鋳鉄を鋳造して鋳片とし、その鋳片を圧延した後に加熱処理して得られる。製造方法の詳細については後述する。
本発明の球状黒鉛において、球状とは必ずしも完全な球体という意味ではなく、表面に凹凸があっても良く、また部分的には平面部を有していても良い。
【0020】
次に白鋳鉄となる成分について説明する。CとSiは白鋳鉄を得るためには、最も重要な元素であって、かつ黒鉛化速度に大きく影響するものである。CとSiが質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%、望ましくは、(%C)≦4.3−1.3×(%Si)、C≧1.7%を満足すると、白鋳鉄となる。ここで、(%C)は白鋳鉄中のCの質量%、(%Si)は白鋳鉄中のSiの質量%を、それぞれ示している。Cの含有量は1.7質量%未満では白鋳鉄が得られないため、1.7質量%以上の範囲とする。
【0021】
また、加工性を確保するためには、球状黒鉛の個数密度は50個/mm以上分散していることが好ましい。球状黒鉛の個数密度が50個/mm未満では加工性がやや悪化する。
この球状黒鉛の大きさは特に規定するものではないが、通常は円相当直径で0.4mm以下であることが多い。
【0022】
また、加工性を確保するためには黒鉛の外表面を覆うフェライト量を多くすることが望ましく、鋳鉄中のフェライトの占める割合が70%以上(容量ベース)であることが望ましく、80〜90%以上(容量ベース)であるとより望ましい。鋳鉄中のフェライトの占める割合が70%未満(容量ベース)では加工性がやや低下する。
ここで、鋳鉄中のフェライトの占める割合は、鋳鉄断面におけるフェライトの面積率を求めることで得られる。また、前記の面積率は、画像解析等により求めることができる。
【0023】
さらに、鋳鉄成分としてCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を含むことが好ましい。これは、CrやNiを含有することで製造時における黒鉛の生成を制御できるためである。すなわち、Crは鋳造時の黒鉛化を抑制し、Niは加熱処理時の黒鉛化を促進する作用がある。但し、CrおよびNiの含有量は0.1質量%未満ではその効果が得られにくいために、Cr、Niともに含有量は0.1質量%以上が好ましい。尚、上限値は特に規定するものではなく、コストや要求される加工性等を考慮して適宜設定すれば良い。
【0024】
分散している球状黒鉛は、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の粒子の1種以上と複合している。ここで、球状化剤とは、球状黒鉛鋳鉄の製造において用いられる球状化剤のFe−Si−Mg、Fe−Si−Mg−Ca、Fe−Si−Mg−REM、Ni−Mg等を意味しており、特に限定するものではない。
球状化剤元素が存在すると、鋳鉄中に球状化剤中の元素と鉄中の酸素、硫黄、窒素と化合して生成した酸化物、硫化物、窒化物およびそれらの複合化合物の粒子が生成し、これが核となって、圧延後の加熱処理時に球状黒鉛が析出して、これらの粒子の1種以上と複合した球状黒鉛が生成される。
【0025】
球状化剤の具体的な元素としては、Mg、Ca、希土類元素(REM)が球状化促進効果の点で好ましい。この中でも、とくにMgはその効果が大きいためより好ましい。従って、球状化剤としては、Mg、Ca、希土類元素(REM)を含有する物質であることが好ましい。
上記球状化剤は、単一元素でも、複数元素の混合物のいずれでも、その効果は発揮される。
【0026】
次に、本発明の薄板は、白鋳鉄となる成分からなる鋳鉄の薄板において、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が分散しているものである。
上記薄板鋳鉄板は、白鋳鉄成分の溶鉄に球状化剤を添加した鋳鉄を鋳造して鋳片とし、その鋳片を圧延して得られる、圧延後の加熱処理を行う前の薄板鋳鉄板である。製造方法の詳細については後述する。
この薄板鋳鉄板は加熱処理していないため、球状黒鉛は析出していない。従って、白鋳鉄となる成分からなる鋳鉄の薄板で、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が分散している状態になっている。尚、白鋳鉄となる成分、球状化剤元素、CrやNiの作用等については、前述と同様である。
【0027】
また、これらの粒子の個数密度が50個/mm未満では、熱処理時の球状黒鉛の生成がやや遅くなるとともに、生成する球状黒鉛の密度がやや小さくなり、かつ、球状黒鉛が粗大になるために加工性等が損なわれやすくなる。従って、粒子の個数密度は50個/mm以上が望ましい。
さらに、上記粒子の直径は0.05μm未満では球状黒鉛の核として働きにくくなり、5μm超では生成した球状黒鉛が粗大になり、加工性等が損なわれやすくなるために、粒子の直径は0.05μm以上5μm以下が望ましい。ここで、粒子の直径とは、粒子の円相当径を意味している。
【0028】
さらに、本発明の鋳片は、前記の圧延後の加熱処理を行っていない薄板と同様に、白鋳鉄となる成分からなる鋳鉄の鋳片において、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が分散しているものである。
上記鋳片は、白鋳鉄成分の溶鉄に球状化剤を添加した鋳鉄を鋳造して鋳片として得られる。製造方法の詳細については後述する。この鋳片についても、前記の圧延後で加熱処理を行っていない薄板と同様に、球状黒鉛は析出していない。
従って、白鋳鉄となる成分からなる鋳鉄の鋳片において、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が分散している状態になっている。尚、白鋳鉄となる成分、球状化剤元素、CrやNiの作用、個数密度、粒子の大きさ等については、前述と同様である。
【0029】
鋳片の製造はインゴット鋳造や連続鋳造でもよいが、黒鉛は鋳造時の冷却速度が小さいほど生成しやすい傾向があり、水冷銅鋳型を用いた連続鋳造で製造することが望ましい。連続鋳造において鋳造厚みが大きくなると中心部での冷却速度が低下するので、連続鋳造して得られる鋳片の厚みは1〜120mmであることが好ましい。
具体的には、薄板を製造する場合には薄スラブ連鋳機で製造すると、厚みが30〜120mm程度の鋳片が得られ、さらにはベルトやロールといった移動鋳型を用いる双ベルト、短ベルト、双ドラム、短ドラム鋳造機で鋳造すると、厚みが1〜30mm程度の鋳片(または薄板と呼称しても良い)が得られる。
【0030】
次に、本発明の鋳片の製造方法について説明する。
まず、白鋳鉄成分の溶鉄中に球状化剤を添加して溶製する。ここで、白鋳鉄成分は前述の通りである。また、添加する球状化剤は、好ましくはMg、CaまたはREMの1種以上を用いると、球状化促進の点で効果的である。球状化剤の添加は、通常は取鍋やタンディッシュ等で行われる。また、球状化剤の添加量は最終製品の薄板が良好な加工性を確保できる量であれば、特に規定するものではなく、事前調査等により適宜設定すれば良いが、通常は溶鉄に対して0.02質量%程度である。
さらに溶鉄に対して、Cr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を添加することが好ましい。CrやNiの添加についても、上記と同様に、通常は取鍋やタンディッシュ等で行われる。
【0031】
この様にして溶製した溶鉄を鋳造することで、本発明の鋳片が得られる。鋳造方法は、鋳造ままで材料全体にわたって白鋳鉄が得られる冷却速度を有するものであれば、特に規定するものではない。さらに、冷却速度についても鋳造条件によっても影響を受けるため、特に限定するものではなく、適宜設定すれば良い。但し、冷却速度は大きい方が白鋳鉄となりやすいため、好ましい。
従って、この鋳片を製造する際には、通常の砂型等の鋳型を用いて鋳造してもよいが、黒鉛は冷却速度が小さいほど生成しやすい傾向があるので、比較的冷却速度が大きくなる連続鋳造機で製造する事が望ましい。さらに連続鋳造機を用いることによって生産性が上がり、安価に製造が可能である。
【0032】
なお、本発明においては、鋳造ままで白鋳鉄組織を得ることをその前提としており、これは凝固時の初晶、共晶で生成する黒鉛は粗大なためこの晶出を阻止するためである。さらに、鋳造時に生成する黒鉛では冷却速度によって黒鉛の生成の状態が変化するために、黒鉛の大きさや個数に厚み方向での不均一が生じることがあり、特に厚み中央部近傍では粗大な黒鉛となる可能性が高い。
また、鋳片中にすでに黒鉛が存在していると、鋳片を圧延して鉄板を製造する際に、圧延によって黒鉛が薄片状になってしまい、この薄片状の黒鉛が層状に分布するために加工性等が損なわれるために、鋳片は黒鉛を生成していないことが必要である。
【0033】
これに対し、本発明の方法によれば、溶鉄中にMg、Ca、REM等の元素を含む球状化剤を添加した溶鉄を鋳造することで、得られた鋳片中には黒鉛が析出することなく、上記の球状化剤中の元素と鉄中の酸素、硫黄、窒素と化合して生成した酸化物、硫化物、窒化物およびそれらの複合化合物の粒子が分散して存在している。
【0034】
また、鋳鉄の連続鋳造においては、通常グラファイトや耐火物の鋳型が使われてきたが、これでは冷却速度が小さいために黒鉛が生成しやすく、凝固シェルの成長も遅いために白鋳鉄の鋳造は困難であった。
すなわち、白鋳鉄は、通常鋳鉄の連続鋳造で用いられている黒鉛鋳型では、溶鉄中に炭素が溶解していくために鋳型の損耗が激しく、長時間の鋳造ができないことや、白鋳鉄は固液共存域が広いために、黒鉛鋳型では凝固シェルの強度が弱く、ブレークアウトが発生しやすく鋳造が困難であった。
そこで、水冷銅鋳型を用いることによって冷却速度を増加させることが可能となり、鋳片での黒鉛の生成を防止できるため、好ましい。さらに、凝固シェルの生成を促進することによって長時間、安定して連続鋳造することが可能であり、鋳造速度もグラファイトや耐火部の鋳型を用いるよりも、大きくすることが可能となり生産性が向上する。
【0035】
黒鉛は鋳造時の冷却速度が大きいほど生成しにくい傾向がある。従って、黒鉛を生成させないためには、冷却速度の大きい連続鋳造機を用いることが好ましい。具体的には、通常の鋼の連続鋳造で用いられる水冷銅鋳型を用いた連続鋳造機、望ましくは薄スラブ連続鋳造機、または鋳型壁面が鋳片と同期して移動する連続鋳造機を用いることが好ましい。
通常の鋼の連続鋳造で用いられる水冷銅鋳型を用いたスラブやブルームの連続鋳造機で鋳造して得られる鋳片の厚みは120〜400mm程度、薄スラブ連鋳機で鋳造して得られる鋳片の厚みは30〜120mm程度、さらにはベルトやロールといった移動鋳型を用いる双ベルト、短ベルト、双ドラム、短ドラム鋳造機で鋳造して得られる鋳片(または薄板と呼称しても良い)の厚みは1〜30mm程度である。
また、棒状の製品を製造する場合には、四角や円形の断面を持つビレットの連続鋳造機を用いて鋳造しても良い。その際の鋳片の断面は、四角の辺の長さまたは円の直径が75〜250mm程度である。
【0036】
本発明の方法によって製造された鋳片中には、上述の通り黒鉛が生成していない。そのため、上記鋳片は熱間圧延、場合によってはさらに冷間圧延を行なう際の圧下率を大きくすることが可能である。
ここで圧延に際し、薄鉄鋳鉄を製造する場合は、連続鋳造あるいは金型等で鋳造された鋳片を加熱炉にて加熱し、あるいは、熱片のまま受け取り、粗圧延機および仕上圧延機にて熱間圧延してストリップとし、巻取機でコイルに巻き取って熱延板とする、場合によってはコイルに巻き取った熱延板を巻き戻して酸洗し、冷間圧延機にて冷間圧延し、再びコイルに巻き取って冷延板とすることで得られる。
また、同様に厚板鋳鉄を製造する場合は、連続鋳造あるいは金型等で鋳造された鋳片を加熱炉にて加熱した後、厚板圧延機にて必要に応じて長手方向、幅方向に圧延を繰り返して所定の寸法の平板とし、冷却することで得られる。
さらに、条鋳鉄を製造する場合は、連続鋳造あるいは金型等で鋳造された鋳片を加熱炉にて加熱し、所定の形状の孔型ロールを有する粗圧延機、中間圧延機、仕上圧延機にて圧延して棒状、線状、レール状や山形、I形、H形等の断面の形材等に成形し、所定の長さに切断あるいはコイル状の巻き取ることで得られる。
【0037】
圧延後の鋳鉄中も、黒鉛が析出することなく、上記の球状化剤中の元素と鉄中の酸素、硫黄、窒素と化合して生成した酸化物、硫化物、窒化物およびそれらの複合化合物の粒子が分散して存在している状態が維持されている。
さらに、圧延により得られた、黒鉛の生成していない圧延ままの鋳鉄を、加熱処理して球状黒鉛を生成させることで、薄片状の黒鉛が層状に分布しない球状黒鉛鋳鉄を製造することが可能となる。
【0038】
圧延後に加熱処理した鋳鉄では、分散していた球状化剤中の元素と鉄中の酸素、硫黄、窒素と化合して生成した酸化物、硫化物、窒化物およびそれらの複合化合物の粒子を核として、熱処理によって球状黒鉛が生成するために、黒鉛が均一に分散しており、粒子数が多いので微細である。このように、球状黒鉛を微細に分散させることによって加工性の優れた鋳鉄が得られる。求められる製品の厚みや材質によって熱間圧延と冷間圧延は適宜選択可能である。
もし、球状化剤元素が存在しない場合には、圧延後に加熱処理しても黒鉛は球状黒鉛とならず、塊状や爆発状の黒鉛となり、黒鉛化にも長時間を要する。これに対し、短時間の加熱処理で球状黒鉛化することが可能である。
【0039】
また、上記では圧延ままの鋳鉄を加熱処理する方法を説明しているが、例えばベルトやロールといった移動鋳型を用いる双ベルト、短ベルト、双ドラム、短ドラム鋳造機で鋳造して得られた、厚みが1〜30mm程度の鋳片(または薄板と呼称しても良い)においては、圧延する必要がない場合は圧延することなく、加熱処理しても良い。
【0040】
熱間圧延に際しては、圧延温度を900℃超とすると黒鉛の生成が起こり易くなるので、900℃以下が望ましい。圧延温度を900℃以下とすることで、圧延後の板中に黒鉛の生成していない鋳鉄をより確実に得ることができる。また、圧延前の加熱についても同様に、加熱温度を900℃超とすると黒鉛の生成が起こり易くなるので、900℃以下が望ましい。
【0041】
次に、鋳鉄の圧延後の加熱処理温度について説明する。ここでの加熱処理は、球状黒鉛化を促進させることが目的につき、加熱処理温度が900℃以下では球状黒鉛化に長時間を要すため、900℃超であることが好ましい。但し、加熱処理温度の上限は特に規定しないものの、1150℃を越えると強度が低下し、熱処理歪みが増大しやすくなるため、1150℃以下で加熱処理することが好ましい。
【0042】
さらに、鋳鉄の圧延後の加熱処理時間について説明する。本発明では、球状化剤を添加しているため短時間での球状黒鉛化が可能であり、60分超の加熱を行うと黒鉛が大きくなってしまう場合がある。その様な恐れがある場合、圧延後の加熱処理時間としては60分以下とすることが望ましい。本発明の方法によると、60分以下の加熱処理でも、微細な黒鉛が均一に分散した鋳鉄が得られる。
【0043】
本発明では、圧延後の鋳鉄や、厚みの薄い鋳片等の、加熱処理後の黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っている。前記の加熱処理後の冷却速度が速いと、十分にフェライトが形成される前に冷却されてしまい、フェライト量が少なくなる。
従って、鋳鉄中のフェライトの割合を増加させるために、フェライトへ変化させるための時間を確保することが重要であり、前記の加熱処理後の冷却過程で730〜650℃で一旦保持することが望ましく、例えば30分〜1時間程度保持することが望ましい。また、別の方法として、前記の冷却過程で730℃から300℃までの間を徐冷することが望ましく、その冷却速度は10℃/min以下の冷却速度とすることが望ましい。さらに、これらの両方を行なっても良い。
730℃超ではフェライトが安定して存在しづらく、また300℃未満になるとフェライトが生成しづらくなる。また、10℃/min超の冷却速度ではフェライト量が低減し易くなる。
【0044】
次に、本発明の白鋳鉄となる成分の鋳鉄において、伸延した黒鉛が数多く分散しているものについて説明する。
数多く分散している伸延した黒鉛は、球状の黒鉛が圧延によって延ばされたものであるため、黒鉛と地鉄の界面はなめらかであり、おのおのは独立して存在しているものである。
従来技術では、このような性状を形成しているものはなく、本発明の様な性状のものを得ることによって、良好な加工性を確保でき、さらに良好な制振性や吸音性も確保できる。
【0045】
伸延した黒鉛が粗大化すると加工性が損なわれるので、黒鉛の幅は0.4mm以下、長さは50mm以下が望ましい。
この鋳鉄中の伸延した黒鉛の外周の一部または全体がフェライトで覆われることによって加工性をさらに向上させている。また、加工性を確保するためには黒鉛の外表面を覆うフェライト量を多くすることが望ましく、鋳鉄中のフェライトの占める割合が70%以上(容量ベース)であることが望ましく、80〜90%以上(容量ベース)であるとより望ましい。鋳鉄中のフェライトの占める割合が70%未満(容量ベース)では加工性がやや低下する。ここで、鋳鉄中のフェライトの占める割合は、鋳鉄断面におけるフェライトの面積率を求めることで得られる。また、前記の面積率は、画像解析等により求めることができる。
従来技術では、このような性状を形成しているものはなく、本発明の様な性状のものを得ることによって、良好な加工性を確保できる。
【0046】
上記鋳鉄は、白鋳鉄成分の溶鉄に球状化剤を添加した溶湯を鋳造して鋳片とし、その鋳片を熱間圧延して得られる。製造方法の詳細については後述する。
また、白鋳鉄となる成分が、質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%、望ましくは、(%C)≦4.3−1.3×(%Si)、C≧1.7%を満足する組成であることは、球状黒鉛鋳鉄での記載内容と同様である。
さらに、鋳鉄成分としてCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を含むことが好ましいことも、球状黒鉛鋳鉄での記載内容と同様である。
【0047】
分散している伸延した黒鉛は、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の粒子の1種以上と複合している。ここで、球状化剤とは、球状黒鉛鋳鉄の製造において用いられる球状化剤のFe−Si−Mg、Fe−Si−Mg−Ca、Fe−Si−Mg−REM、Ni−Mg等を意味しており、特に限定するものではない。
球状化剤元素が存在すると、鋳鉄中に球状化剤中の元素と鉄中の酸素、硫黄、窒素と化合して生成した酸化物、硫化物、窒化物およびそれらの複合化合物の粒子が生成し、これが核となって、圧延前加熱、圧延時に黒鉛が析出して、これらの粒子の1種以上と複合した黒鉛が生成され、この様な粒子と複合した黒鉛が圧延時に伸延される。
【0048】
球状化剤の具体的な元素としては、Mg、Ca、希土類元素(REM)が球状化促進効果の点で好ましい。この中でも、とくにMgはその効果が大きいためより好ましい。従って、球状化剤としては、Mg、Ca、希土類元素(REM)を含有する物質であることが好ましい。
上記球状化剤は、単一元素でも、複数元素の混合物のいずれでも、その効果は発揮される。
また、伸延した黒鉛が分散している鋳鉄の場合も、溶湯を鋳造して得られる鋳片の性状や、鋳片の製造方法については、球状黒鉛が分散している鋳鉄の場合と同様である。
【0049】
本発明の方法によって製造された鋳片中には、上述の通り黒鉛が生成していないが、圧延前の加熱や圧延時での加熱を適切に行うことにより黒鉛が生成するため、圧下可能な強度とすることができ、熱間圧延が可能となり、各種鋳鉄とすることが可能である。
すなわち、加熱、熱間圧延の際に、分散していた球状化剤中の元素と鉄中の酸素、硫黄、窒素と化合して生成した酸化物、硫化物、窒化物およびそれらの複合化合物の粒子を核として、球状黒鉛が生成するために、黒鉛が均一に分散しており、粒子数が多いので微細である。このように、球状黒鉛を微細に分散するので容易に熱間圧延が可能である。
【0050】
さらに圧延後の鋳鉄には伸延した黒鉛が分散しており、これらはつながることなく独立して存在する。また、黒鉛と地鉄の界面は滑らかである。このように伸延した黒鉛を分散させることで加工性の優れた鋳鉄が得られる。求められる製品の厚みや材質によってその後の冷間圧延は適宜選択可能である。
もし、球状化剤元素が存在しない場合には、圧延時に黒鉛は球状黒鉛とならず、塊状や
爆発状の黒鉛となり、圧延時に伸延した黒鉛と地鉄の境界に凹凸が生じたり網目状になっ
たりするために、熱間圧延の際に割れが生じたり、圧延板の加工性等が損なわれる。
【0051】
熱間圧延に際しては、圧延前加熱温度および圧延温度が900℃以下の場合、黒鉛の生成が起こりにくいので、900℃超であることが望ましい。圧延前加熱や圧延温度を900℃超とすることで、圧延前加熱時や圧延時に黒鉛の生成が起こり易くなり、伸延した黒鉛が微細に分散した鋳鉄が得られる。ここで、圧延前加熱温度および圧延温度の好ましい上限値は特に規定するものではなく、適宜設定すれば良いが、通常は鉄の融点である1150℃以下で行うことができる。
この鋳鉄中の伸延した黒鉛の外周の一部または全体がフェライトで覆われることによって加工性をさらに向上させている。また、加工性を確保するためには黒鉛の外表面を覆うフェライト量を多くすることが望ましく、断面におけるフェライトの面積率が70%以上であることが望ましいことは前述の通りである。
【0052】
熱間圧延後の冷却速度が速いと、十分にフェライトが形成される前に冷却されてしまい、フェライト量が少なくなる。従って、鋳鉄中のフェライトの割合を増加させるために、熱間圧延後にフェライトへ変化させるための時間を確保することが重要であり、前記の熱間圧延後の冷却過程で730〜650℃で一旦保持することが望ましく、例えば30分〜1時間程度保持することが望ましい。また、別の方法として、前記の冷却過程で730℃から300℃までの間を徐冷することが望ましく、その冷却速度は10℃/min以下の冷却速度とすることが望ましい。さらに、これらの両方を行なっても良い。
730℃超ではフェライトが安定して存在しづらく、また300℃未満になるとフェライトが生成しづらくなる。また、10℃/min超の冷却速度ではフェライト量が低減し易くなる。
【0053】
熱間圧延した鋳鉄が薄板の場合は、コイル状に巻き取ってもよく、その際にフェライト量を増加させるために750〜550℃の温度でコイルに巻き取ることで徐冷できるため望ましい。この場合の冷却速度は通常10℃/min以下とすることができる。
750℃超では圧延を終了して巻き取ることが困難となり易く、一方550℃未満で巻き取るとフェライト量が減少し易くなる。
【0054】
また、上記の通り熱間圧延で得られた伸延した黒鉛が分散している鋳鉄を、さらに必要に応じて冷間圧延しても良い。
伸延した黒鉛は振動を吸収しやすいため、球状黒鉛鋳鉄に比べて制振性や吸音性に優れた鋳鉄を製造することが可能となる。
【実施例1】
【0055】
表1に示す化学成分の鋳鉄を溶解炉で溶解し、球状化剤を添加した後、100mm角の金型に鋳造した。この白鋳鉄を熱間圧延して3.5mm厚の熱延板とした。さらに一部の熱延板では冷間圧延を行い1.2mm厚の冷延板とした。白鋳鉄を圧延して得た熱延板および冷延板の一部を加熱炉で加熱処理を行った。加熱終了後は所定の温度履歴を経て室温まで冷却した。
一方、比較例では従来の技術を用いた例を行った。具体的には、比較例1では通常の球状黒鉛鋳鉄溶湯を鋳造し、得られた鋳片の熱間圧延を行った。また比較例2では白鋳鉄成分系の鋳鉄溶湯に球状化剤を添加せずに鋳造し、得られた鋳片の熱間圧延、冷間圧延を行い、圧延後の加熱処理を行った。
【0056】
得られた鋳片、熱延板、冷延板および熱処理後の板よりサンプルを採取して、析出物の組成をSEM−EDXで、また析出物の個数をSEMで測定した。さらに、黒鉛の形態、個数を光学顕微鏡で測定するとともに、製品板をナイタール腐食液で腐食して金属組織を現出させ、光学顕微鏡で観察してフェライトの面積率(フェライト率と記載することがある)を測定した。これらの結果を表2、表3にまとめて示す。実施例No.1a〜No.17aは白鋳鉄となる成分からなる鋳鉄の薄板において、球状黒鉛が分散している場合の実施例であり、実施例No.1b〜No.17bは白鋳鉄となる成分からなる鋳鉄の薄板において、伸延した黒鉛が分散している場合の実施例である。
【0057】
以上の本実施例の結果より、発明例では微細な球状黒鉛あるいは伸延した黒鉛が分散した鋳鉄薄板の製造が可能なことがわかった。これらの鋳鉄薄板は曲げ加工しても割れずに加工が可能であった。特に、フェライト率が60%以上のものは曲げ加工性が確保され、フェライト率が70%以上のものは曲げ加工性が優れていた。
一方、比較例1は熱間圧延時に耳割れが発生して、板の形状が不良となり、得られた板を曲げ加工すると割れてしまった。比較例2は、曲げ加工時に割れが発生した。
【0058】
また、図1に供試材の金属組織写真の例を示し、図1(a)は発明例No.1aであり、図1(b)は発明例No.1bであり、図1(c)は比較例No.1の金属組織である。図1より発明例No.1aでは黒鉛は球状を呈しており、発明例No.1bでは黒鉛は伸延していた。これに対して比較例No.1では黒鉛は薄片状となって層状に存在していた。
さらに、図2は発明例の黒鉛の拡大写真の例を示す。図2(a)はNo.1aの球状黒鉛であり、図2(b)はNo.1bの伸延黒鉛である。黒鉛の中心近傍に介在物粒子が存在しており、これを核に黒鉛が生成している。尚、黒鉛の中心近傍の介在物粒子はMg−O−SであることをSEMにより確認した。
【0059】
また、図3は供試材のナイタール腐食液で腐食後の金属組織写真の例を示し、図3(a)は発明例No.1aであり、図3(b)は発明例No.1bであり、図3(c)は実施例2bの金属組織である。図3より発明例No.1aでは球状を呈した黒鉛の周囲のほぼ全体をフェライトが覆っており、発明例No.1bでは伸延した黒鉛の周囲のほぼ全体をフェライトが覆っていた。これに対して実施例2bではフェライトの面積率が低く、伸延した黒鉛の周囲の全体をフェライトが覆っているものと、伸延した黒鉛の周囲の一部をフェライトが覆っているものとが混在している。但し、いずれも黒鉛の周囲をフェライトが覆っており、加工性が確保されていた。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2−1】

【0062】
【表2−2】

【0063】
【表3−1】

【0064】
【表3−2】

【実施例2】
【0065】
C:3.4質量%、Si:0.3質量%の鋳鉄溶湯に、Ni−Mgの球状化剤を添加しMg:0.03質量%とした後、タンディッシュを介して水冷銅モールドを用いた縦型の連続鋳造機で厚み200mm、幅1000mmのスラブを連続鋳造し、鋳片を製造した。図4に連続鋳造機の概要を示す。
この鋳片の一部を850℃で熱間圧延して3mm厚の熱延板とした。さらに、一部の熱延板は冷間圧延を行い1mm厚の冷延板とした。こうして得られた熱延板および冷延板を加熱炉で1000℃で30分間加熱した。加熱終了後は室温まで放冷した。得られた鋳片、熱延板、冷延板および加熱処理後の板よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
その結果、鋳片および加熱処理前の板においては、Mgの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.1〜3μm程度の粒子が観察されたが、黒鉛は認められなかった。一方、加熱処理後の板では熱延板、冷延板ともに球状黒鉛が観察された。この球状黒鉛の個数は約100個/mmであり、微細で数多く分散していた。また、この球状黒鉛の内部には加熱処理前に観察された粒子が存在していた。
【0066】
また、鋳片の他の一部を950℃で熱間圧延して3mm厚の熱延板とし、600℃の温度でコイルに巻き取った。さらに、一部の熱延板は冷間圧延を行い1mm厚の冷延板とした。得られた鋳片、熱延板、冷延板よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
鋳片においては、Mgの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.1〜3μm程度の粒子が観察されたが黒鉛は認められなかった。圧延後の板では熱延板、冷延板ともに伸延した黒鉛が分散している様子が観察された。この球状黒鉛の個数は約100個/mmであり、微細で数多く分散していた。また、この黒鉛の内部には鋳片内に観察された粒子が存在していた。さらに、黒鉛の周囲はフェライトで覆われており、フェライトの占める面積率は98%であった。
【実施例3】
【0067】
C:2.4質量%、Si:0.7質量%の鋳鉄溶湯にCa−Si系の球状化剤を添加し、Ca:0.005質量%、Si:1.0質量%とした後、タンディッシュを介して水冷銅モールドを用いた縦型の薄スラブ連続鋳造機で厚み50mm、幅900mmの薄スラブを鋳造した。
この鋳片の一部を800℃で熱間圧延して3.5mmの熱延板とし、コイル状に巻き取った。さらに、一部の熱延板は冷間圧延を行い1.5mmの冷延板とした。こうして得られた熱延板および冷延板は加熱炉で1000℃で30分間加熱した。加熱終了後は700℃から300℃の間を1℃/分の冷却速度で冷却し、その後室温まで放冷した。得られた鋳片、熱延板、冷延板および加熱処理後の板よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
その結果、鋳片および加熱処理前の板においては、Caの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.5〜4μm程度の粒子が観察されたが、黒鉛は認められなかった。一方、加熱処理後の板では熱延板、冷延板ともに球状黒鉛が観察された。この球状黒鉛の個数は約150個/mmであり、微細で数多く分散していた。また、この球状黒鉛の内部には加熱処理前に観察された粒子が存在していた。さらに、黒鉛の周囲はフェライトで覆われており、フェライトの占める面積率は75%であった。
【0068】
また、鋳片の他の一部を1000℃で熱間圧延して3.5mmの熱延板とし、巻き取り温度730℃でコイル状に巻き取った。さらに、一部の熱延板は冷間圧延を行い1.5mmの冷延板とした。得られた鋳片、熱延板、冷延板よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
鋳片においては、Caの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.5〜4μm程度の粒子が観察されたが黒鉛は認められなかった。圧延後の板では熱延板、冷延板ともに伸延した黒鉛が分散していた。この伸延した黒鉛の個数は約150個/mmであり、微細に分散していた。また、この黒鉛の内部には鋳片内に観察された粒子が存在していた。さらに、黒鉛の周囲はフェライトで覆われており、フェライトの占める面積率は95%であった。
【実施例4】
【0069】
C:3.0質量%、Si:0.6質量%の鋳鉄溶湯にREM系の球状化剤を添加し、REM:0.01質量%とした後、ドラム直径1000mmの双ドラム連鋳機で厚み3mmの板に鋳造した。この板の一部は冷間圧延を行い厚み1.0mmの冷延板とした。鋳造ままの板および冷延板を加熱炉で950℃、45分間加熱した。加熱終了後は室温まで放冷した。得られた鋳片、冷延板および加熱処理後の板よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
その結果、鋳片および加熱処理前の板においては、REMの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.1〜3μm程度の粒子が観察されたが、黒鉛は認められなかった。一方、加熱処理後の板では熱延板、冷延板ともに球状黒鉛が観察された。この球状黒鉛の個数は約200個/mmであり、微細で数多く分散していた。また、この球状黒鉛の内部には加熱処理前に観察された粒子が存在していた。
【実施例5】
【0070】
C:3.0質量%、Si:0.6質量%の鋳鉄溶湯にREM系の球状化剤を添加し、REM:0.01質量%とした後、ドラム直径1000mmの双ドラム連鋳機で厚み3mmの板に鋳造し、インライン圧延機で厚み2.4mmまで圧延した。尚、圧延温度は950℃とした。この板の一部は冷間圧延を行い厚み1.0mmの冷延板とした。得られた熱延板、冷延板よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
熱延板、冷延板ともに伸延した黒鉛が観察された。この伸延した黒鉛は、数多く分散していた。また、その大きさは、幅が0.01mm〜0.3mm、長さが0.02mm〜30mmであった。さらに、この伸延した黒鉛の内部にはREMの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.05〜3μm程度の粒子が観察された。
【実施例6】
【0071】
C:3.4質量%、Si:0.3質量%の鋳鉄溶湯に、Ni−Mgの球状化剤を添加しMg:0.03質量%とした後、タンディッシュを介して水冷銅モールドを用いた縦型の連続鋳造機で厚み250mm、幅1500mmのスラブを連続鋳造し、鋳片を製造した。図4に連続鋳造機の概要を示す。
この鋳片の一部を850℃で熱間圧延して40mm厚の熱延厚板とした。こうして得られた熱延板を加熱炉で1000℃で30分間加熱した。加熱終了後は室温まで放冷した。得られた鋳片、熱延厚板および加熱処理後の板よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
その結果、鋳片および加熱処理前の板においてはMgの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.1〜3μm程度の粒子が観察されたが、黒鉛は認められなかった。一方、加熱処理後の板では球状黒鉛が観察された。この球状黒鉛の個数は約180個/mmであり、微細で数多く分散していた。また、この球状黒鉛の内部には加熱処理前に観察された粒子が存在していた。
【0072】
また、鋳片の他の一部を950℃で熱間圧延して40mm厚の熱延厚板とした。得られた鋳片、熱延厚板よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
鋳片においては、Mgの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.1〜3μm程度の粒子が観察されたが黒鉛は認められなかった。圧延後の板では伸延した黒鉛が分散している様子が観察された。この球状黒鉛の個数は約180個/mmであり、微細で数多く分散していた。また、この黒鉛の内部には鋳片内に観察された粒子が存在していた。
【実施例7】
【0073】
C:2.4質量%、Si:1.0質量%の鋳鉄溶湯に、Ni−Mgの球状化剤を添加しMg:0.03質量%とした後、タンディッシュを介して水冷銅モールドを用いた円弧半径10.5mの湾曲型の連続鋳造機で160mm角のビレットを連続鋳造し、鋳片を製造した。
この鋳片の一部を850℃で熱間圧延して20mm径の棒とした。こうして得られた鋳鉄棒を加熱炉で1000℃で30分間加熱した。加熱終了後は室温まで放冷した。得られた鋳片、鉄棒および加熱処理後の鋳鉄棒よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
その結果、鋳片および加熱処理前の鋳鉄棒においては、Mgの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.1〜3μm程度の粒子が観察されたが、黒鉛は認められなかった。一方、加熱処理後の棒では球状黒鉛が観察された。この球状黒鉛の個数は約180個/mmであり、微細で数多く分散していた。また、この球状黒鉛の内部には加熱処理前に観察された粒子が存在していた。
【0074】
また、鋳片の他の一部を950℃で熱間圧延して15mm径の鋳鉄棒とした。得られた鋳片、鋳鉄棒よりサンプルを採取して、黒鉛の形態および分布を調査した。
鋳片においては、前記の通り、Mgの酸化物と硫化物およびこれらが複合した0.1〜3μm程度の粒子が観察されたが黒鉛は認められなかった。また、鋳鉄棒では伸延した黒鉛が分散している様子が観察された。この伸延した黒鉛の個数は約180個/mmであり、微細で数多く分散していた。また、この黒鉛の内部には鋳片内に観察された粒子が存在していた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施例に係る製品板の金属組織写真である。(a)発明例No.1aの組織(b)発明例No.1bの組織(c)比較例No.1の組織
【図2】本発明の実施例に係る製品板中の黒鉛の拡大写真である。(a)発明例No.1aの黒鉛(b)発明例No.1bの黒鉛
【図3】本発明の実施例に係る製品板のナイタール腐食後の金属組織写真である。(a)発明例No.1aの組織(b)発明例No.1bの組織(c)発明例No.2bの組織
【図4】本発明の実施例に係る連続鋳造機を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成からなる鋳鉄において、伸延した黒鉛が分散していることを特徴とする鋳鉄。
【請求項2】
伸延している黒鉛の幅が0.4mm以下、長さが50mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄。
【請求項3】
黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っていることを特徴とする請求項1または2に記載の鋳鉄。
【請求項4】
鋳鉄中のフェライトの占める割合が70%以上であることを特徴とする請求項3に記載の鋳鉄。
【請求項5】
鋳鉄成分としてCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋳鉄。
【請求項6】
伸延した黒鉛が、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の粒子の1種以上と複合していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の鋳鉄。
【請求項7】
球状化剤元素がMg、CaまたはREMの1種以上を含有していることを特徴とする請求項6に記載の鋳鉄。
【請求項8】
前記の鋳鉄が、薄板鋳鉄、厚板鋳鉄、条鋳鉄であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の鋳鉄。
【請求項9】
質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成からなる鋳鉄において、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が分散していることを特徴とする鋳鉄。
【請求項10】
球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が、50個/mm以上分散していることを特徴とする請求項9に記載の鋳鉄。
【請求項11】
球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子の直径が0.05〜5μmであることを特徴とする請求項9または10に記載の鋳鉄。
【請求項12】
鋳鉄成分としてCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の鋳鉄。
【請求項13】
球状化剤元素がMg、CaまたはREMの1種以上含有していることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の鋳鉄。
【請求項14】
前記の鋳鉄が、薄板鋳鉄、厚板鋳鉄、条鋳鉄であることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の鋳鉄。
【請求項15】
質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成からなる鋳鉄の鋳片において、球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が分散していることを特徴とする鋳片。
【請求項16】
球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子が、50個/mm以上分散していることを特徴とする請求項15に記載の鋳片。
【請求項17】
球状化剤元素の酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの複合化合物の1種以上の粒子の直径が0.05〜5μmであることを特徴とする請求項15または16のいずれかに記載の鋳片。
【請求項18】
鋳鉄成分としてCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の鋳片。
【請求項19】
球状化剤元素がMg、CaまたはREMの1種以上含有していることを特徴とする請求項15〜18のいずれかに記載の鋳片。
【請求項20】
鋳片の厚みが1〜120mmであることを特徴とする請求項15〜19のいずれかに記載の鋳片。
【請求項21】
球状化剤を添加した、質量%で、(%C)≦4.3−(%Si)÷3、C≧1.7%を満足する組成の溶鉄を鋳造し、白鋳鉄組織の鋳片を製造することを特徴とする鋳片の製造方法。
【請求項22】
球状化剤がMg、CaまたはREMの1種以上を含有することを特徴とする請求項21に記載の鋳片の製造方法。
【請求項23】
溶鉄にCr≧0.1質量%、Ni≧0.1質量%のいずれか1種以上を添加することを特徴とする請求項21または22に記載の鋳片の製造方法。
【請求項24】
水冷銅鋳型を有する連続鋳造機を用いて連続鋳造することを特徴とする請求項21〜23のいずれかに記載の鋳片の製造方法。
【請求項25】
薄スラブ連続鋳造機、または鋳型壁面が鋳片と同期して移動する連続鋳造機を用いて連続鋳造することを特徴とする請求項21〜24のいずれかに記載の鋳片の製造方法。
【請求項26】
請求項21〜25のいずれかに記載の方法に引き続き、鋳片を熱間、冷間のどちらか一方または両方で圧延することを特徴とする鋳鉄の製造方法。
【請求項27】
圧延した鋳鉄が、薄板鋳鉄、厚板鋳鉄、条鋳鉄であることを特徴とする請求項26に記載の鋳鉄の製造方法。
【請求項28】
鋳片を900℃超で熱間圧延することを特徴とする請求項26または27に記載の伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の製造方法。
【請求項29】
熱間圧延前の加熱温度を900℃超とすることを特徴とする請求項28に記載の伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の製造方法。
【請求項30】
請求項28または29に記載の方法に引き続き、熱間圧延した鋳鉄を冷間圧延することを特徴とする伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の製造方法。
【請求項31】
請求項28〜30のいずれかに記載の方法に引き続き、鋳鉄を650〜730℃で保持した後、300℃以下まで冷却することを特徴とする伸延した黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っている鋳鉄の製造方法。
【請求項32】
請求項28〜30のいずれかに記載の方法に引き続き、730〜300℃の間を徐冷することを特徴とする伸延した黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っている鋳鉄の製造方法。
【請求項33】
薄板鋳鉄を製造するに際し、請求項28〜30のいずれかに記載の方法に引き続き、750〜550℃の温度で鋳鉄を円筒状コイルとして巻き取り、冷却することを特徴とする伸延した黒鉛の外表面の一部または全体をフェライトが覆っている鋳鉄の製造方法。
【請求項34】
730〜300℃の間の冷却速度が10℃/min以下であることを特徴とする請求項31〜33のいずれかに記載の鋳鉄の製造方法。
【請求項35】
請求項28〜34のいずれかに記載の方法に引き続き、鋳鉄を冷間圧延することを特徴とする伸延した黒鉛が分散する鋳鉄の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−256801(P2009−256801A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170042(P2009−170042)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【分割の表示】特願2004−4357(P2004−4357)の分割
【原出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】