説明

電力増幅器

【課題】本実施例の一側面における電力増幅器はトランジスタの入力側と出力側の両方に高調波処理を行う整合回路を設けた場合でも発振が生じるのを抑止し、電力増幅器の安定動作を可能とすることを目的とする。
【解決手段】本実施例の一側面における電力増幅器は、基本波と高調波を含む入力信号を入力ノードで受けとり、入力信号の電力を増幅することにより出力信号を生成し、生成された出力信号を出力ノードから出力する増幅回路と、増幅回路の入力ノードに接続され、入力信号の高調波処理を行う入力整合回路と、増幅回路の出力ノードに接続され、出力信号の高調波処理を行う出力整合回路を含む。増幅回路は、入力信号の電力が所定値より大きい値からその所定値より小さい値に低下したとき、生成される出力信号に含まれる高調波の整合点における出力インピーダンスの位相を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施例の一側面において開示する技術は、電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
無線基地局で用いられる無線通信装置は、無線送信される送信信号の電力を増幅するため、電力増幅器を含む。電力増幅器は一般に、高周波の入力信号に対して高出力動作を行うことが要求されるため、高周波の入力信号に対して、高い電力増幅効率を有することが望まれている。高増幅効率を有する電力増幅器を実現する手段の一つとして、F級電力増幅器が知られている。
【0003】
図1は、電力増幅器の構成の一例を示す図である。図1に示した電力増幅器100は、トランジスタ102、入力整合回路104、出力整合回路106、ゲートバイアス発生回路108、及びドレインバイアス発生回路110を含む。
【0004】
トランジスタ102のゲートには、ゲートバイアス発生回路108から入力整合回路104を介して一定のゲートバイアス電圧が供給され、ドレインにはドレインバイアス発生回路110から出力整合回路106を介して一定のドレインバイアス電圧が供給される。トランジスタ102は、電力増幅器100の入力ノードPinに供給された入力信号をゲートで受けとり、受けとった入力信号の電力を増幅する。トランジスタ102は、電力増幅の結果得られる信号を出力信号として、ドレインから、電力増幅器100の出力ノードPoutに出力する。
【0005】
トランジスタ102のドレインには、出力整合回路106が接続されている。出力整合回路106は、トランジスタ102の出力信号に含まれる高調波を処理する高調波処理回路として機能する。電力増幅器100がF級増幅器として動作する場合、出力整合回路106において、トランジスタ102の出力ノードから負荷回路側(出力整合回路106側)を見たときのインピーダンスが、偶数次高調波に対してはゼロ(ショート)となり、奇数次高調波に対しては無限大(開放)となるように、高調波処理が行われる。電力増幅器100がF級増幅器として動作する場合、このような高調波処理によって、出力信号の電圧波形と電流波形との重なりを減らすことができ、電力損失を抑えることにより、電力増幅を高効率化することができる。高調波処理回路については、複数のスタブによって構成された分布定数線路によって実現する手法が知られている(例えば、下記特許文献1及び2参照)。
【0006】
一方、トランジスタ102のゲートには、入力整合回路104が接続されている。入力整合回路104は、トランジスタ102の入力信号に含まれる高調波を処理する高調波処理回路として機能する。電力増幅器100では、入力整合回路104においても、出力整合回路106と同様の高調波処理が行われる。電力増幅器100では、出力側の出力整合回路106だけでなく、入力側の入力整合回路104においても高調波処理を行うことによって、さらなる電力増幅の高効率化を達成することができる。
【0007】
また、出力整合回路106において、トランジスタ102の出力ノードから負荷回路を見たときのインピーダンスが、偶数次高調波に対して無限大(開放)となり、奇数次高調波に対してはゼロ(ショート)となるように、高調波処理を行い、出力信号の電圧波形と電流波形との関係が、上述のF級増幅器の場合とは逆にすることにより、電力増幅の高効率化を図る逆F級電力増幅器も提案されている(下記非特許文献1参照)。逆F級電力増幅器においては、F級増幅器よりもさらに高効率な電力増幅が可能になると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001‐356779号公報
【特許文献2】特開2003−234626号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A. Inoue, et al., “Analysis of class-F and inverse class-F amplifiers,” IEEE MTT-S Int. Microwave Symp. Dig., Boston, MA Jun. 2000, pp. 775-778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、トランジスタの入力側(ゲート側)と出力側(ドレイン側)の両方に、スタブを形成し、入力側と出力側の両方において高調波処理を行うようにした場合、スタブを形成せず、入力側と出力側の両方とも高調波処理を行わない場合や、出力側にのみスタブを形成し、出力側においてのみ高調波処理を行う場合と比べて、電力増幅効率を向上させることができる。
【0011】
しかしながら、トランジスタの入力側(ゲート側)と出力側(ドレイン側)の両方にスタブを形成した場合、高調波帯域において発振が生じる場合があることが、本願発明者が行った実験により見出された。このような発振現象は、電力増幅器の動作を不安定にする要因となるため、発振が生じるのを事前に抑止することが望まれる。
【0012】
従って、本実施例の一側面においては、トランジスタの入力側と出力側の両方に高調波処理を行う整合回路を設けた場合でも、発振が生じるのを抑止することができ、安定動作が可能な電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施例の一側面における電力増幅器は、基本波と高調波を含む入力信号を入力ノードで受けとり、前記入力信号の電力を増幅することにより出力信号を生成し、前記生成された出力信号を出力ノードから出力する増幅回路と、前記増幅回路の入力ノードに接続され、前記入力信号の高調波処理を行う入力整合回路と、前記増幅回路の出力ノードに接続され、前記出力信号の高調波処理を行う出力整合回路とを含む。さらに、前記増幅回路は、前記入力信号の電力が所定の値より大きい値から前記所定の値より小さい値に低下したとき、前記生成される出力信号に含まれる高調波の整合点における出力インピーダンスの位相を回転させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本実施例の一側面における電力増幅器においては、トランジスタの入力側と出力側の両方に高調波処理を行う整合回路を設けた場合でも、発振が生じるのを抑止し、電力増幅器の安定動作を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電力増幅器の構成の一例を示す図である。
【図2】トランジスタ102の入力側と出力側の両方にスタブを形成し、高調波処理回路を設けた電力増幅器における発振の一例を示す図である。
【図3】電力増幅器の入出力特性を示す図である。
【図4】第1実施例に係る電力増幅器400の構成の一例を示す図である。
【図5】入力整合回路404と出力整合回路406の構成の一例を示す図である。
【図6】第2実施例に係る電力増幅器600の構成の一例を示す図である。
【図7】第3実施例に係る電力増幅器700の構成の一例を示す図である。
【図8】基準値テーブル718の一例を示す図である。
【図9】第4実施例に係る電力増幅器900の構成の一例を示す図である。
【図10】第5実施例に係る電力増幅器1000の構成の一例を示す図である。
【図11】ゲートバイアス電圧を変化させたときの、2次高調波に対する最適整合点のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0017】
[1.第1実施例]
以下、第1実施例に係る電力増幅器について説明する。
【0018】
[1−1.発振現象に関する実験及び考察]
第1実施例に係る電力増幅器について説明する前に、本願発明者が行った、上述の発振現象に関する実験及び考察について説明する。
【0019】
[1−1−1.発振現象に関する実験]
図2は、本願発明者が図1に示した電力増幅器100を用いて行った、上述の発振現象に関する実験(以下、実験1と称する)の結果を示す図である。図2は、図1に示したトランジスタ102の入力側と出力側の両方にスタブを形成し、高調波処理回路を設けたF級電力増幅器における発振の一例を示す図である。
【0020】
図2に示した例は、800MHzの基本波を有する入力信号に対して高調波帯域において観測された発振の例であり、本願発明者が実験により取得したデータに基づくものである。図2から分かるように、偶数次の高調波において発振が生じることが観測された。
【0021】
また、本願発明者が行った実験1によれば、図2に示した発振は、電力増幅器の入力電力を、トランジスタにおいて、出力電力が飽和する領域(飽和領域)に属する大きい電力値から、入力電力と出力電力の関係が線形性を示す領域(線形領域)に属する小さい電力値に減少させた場合にのみ観測された。一方、図2に示した発振は、入力電力を、飽和領域に属する大きい電力値にした場合には観測されなかった。また、上述の発振は、入力電力を、線形領域に属する小さい電力値から、飽和領域に属する大きい電力値に増加させていった場合にも、同様に観測されなかった。
【0022】
すなわち、上記実験1の結果から、本願発明者は、上述の発振現象が、電力増幅器において入力電力を、トランジスタの飽和領域の電力値から、線形領域の電力値に減少させた場合にのみ観測される、入力電力に対して履歴(ヒステリシス)を有する発振現象であることを見出した。
【0023】
一方、本願発明者は、トランジスタの入力側と出力側の一方においてスタブを切り離し、高調波処理回路を設けないようにした場合には、図2に示した発振が生じないことを、実験により確認した(以下、実験2と称する)。
【0024】
[1−1−2.実験1及び実験2の結果に基づく考察]
上述の実験2の結果により、トランジスタの入力側と出力側の一方においてスタブを切り離した場合には発振現象が見られなくなることから、トランジスタの入力側と出力側の両方においてスタブ自体が反射器を形成し、入力側と出力側に設けられたスタブの間で信号の反射が起こり、入力側と出力側に設けられたスタブの間で信号の共振が生じていることが、上述の発振現象の一因であると考えられる。
【0025】
すなわち、トランジスタ102の出力側に位置する出力整合回路106によって、トランジスタ102の出力信号の高調波が反射され、反射された高調波信号がトランジスタ102の入力側に帰還される。この帰還された高調波信号は、入力側に位置する入力整合回路104によって反射され、反射された高調波信号がトランジスタ102によって増幅されて、再び出力信号としてトランジスタ102の出力側に現れる。
【0026】
そして、実験1の結果から、電力増幅器の入力電力を、トランジスタの飽和領域に属する大きい電力値から、線形領域に属する小さい電力値に減少させた場合に、入力側と出力側に設けられたスタブの間の信号の反射において、共振条件が満たされるようになり、発振が生じるものと考えられる。
【0027】
特に、トランジスタを用いた電力増幅器の場合、トランジスタは入力電力が低いほど利得が増加するため、トランジスタへの入力電力が低く、トランジスタの出力側のスタブの反射によって入力側に帰還される信号の電力が低い場合であっても、帰還された信号の電力がトランジスタによって増幅されることにより、出力側には大きな出力電力を有する出力信号が生じることとなり、発振が生じ易くなっていると考えられる。
【0028】
従って、電力増幅器において発振が生じるのを抑止するためには、意図的に、トランジスタの出力信号(高調波信号)が、入力側と出力側に設けられたスタブの間における信号の共振条件を満たさないようにすることが有効であると考えられる。
【0029】
尚、上述の実験2の結果から、トランジスタの入力側と出力側の一方においてスタブを切り離すことにより、上述の発振が生じるのを抑止することが分かるが、一方のスタブを切り離した場合、上述のように、高い電力増幅効率を得るのは難しくなる。そのため、一方のスタブを切り離すのは望ましくない。
【0030】
[1−1−3.発振抑止方法の検証実験]
上述の考察に基づいて、本願発明者はさらに、以下に示す検証実験を行った。
【0031】
本願発明者は、ゲートバイアス電圧を変化させて、ゲートバイアス電圧をそれぞれ、−2.69V、−2.39V、−2.19Vと正電圧方向に大きくした場合に、高調波帯域において、図2に示したような発振現象が観測されるかを検証する実験(以下、実験3と称する)を行った。
【0032】
尚、実験3においては、図1に示した電力増幅器100を用い、トランジスタ102として、出力電力が10Wであり、ピンチオフ電圧が負電圧である負電圧GaN FET(Field Effect Transistor)を用い、ドレインバイアス発生回路110においてはドレインバイアス電圧を28Vとした。また、入力整合回路104及び出力整合回路106には、複数のスタブによって構成された分布定数線路を用い、入力側、出力側ともに2次高調波まで高調波処理を行う構成を採用した。また、入力信号には、800MHzの基本波を有する高周波信号を用いた。
【0033】
実験1の結果、ゲートバイアス電圧を−2.69Vとした場合には、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少したときに、図2に示したような発振現象が観測された。一方、ゲートバイアス電圧を−2.39Vとした場合には、同様に、図2に示したような発振現象が観測されたものの、発振が観測された高調波(例えば、2次高調波)における電力値(ピーク値)は、ゲートバイアス電圧を−2.69Vとした場合よりも小さくなることが観測された。そして、ゲートバイアス電圧を−2.19Vとした場合には、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少したときであっても、発振現象は観測されなくなり、例えば、2次高調波において観測されていた電力のピークも消滅することが確認された。
【0034】
[1−1−4.検証実験の結果に対する考察]
実験1の結果が示すように、ゲートバイアス電圧を正電圧方向に大きくすることにより発振が生じなくなる点について、本願発明者は、以下に示すように考察した。
【0035】
図11は、本願発明者が行ったシミュレーションの結果の一例をスミスチャートによって示した図であり、ゲートバイアス電圧を変化させたときの、2次高調波に対する最適整合点のシミュレーション結果を示す図である。図11に示したシミュレーションは、上述の実験3の場合と同様に、図1に示した電力増幅器100を用いて行われた。
【0036】
図11に示したように、入力電力が発振が観測されなかった飽和領域に属する値である場合は(Pin=25dBm)、ゲートバイアス電圧Vgを−2.69Vから−2.19Vに高くしても、2次高調波に対する整合点は変化しないことが分かる。
【0037】
これに対して、入力電力が発振が観測された線形領域に属する値である場合には(Pin=6dBm)、ゲートバイアス電圧Vgを−2.69Vから−2.19Vに高くすると、2次高調波に対する整合点は、図11に点線矢印で示したようにずれ、2倍高調波信号に対するインピーダンスの位相が約70度から約50度に回転することが分かる。
【0038】
すなわち、電力増幅器100において、入力電力が線形領域に属する小さい値である場合に、ゲートバイアス電圧を正電圧方向に大きくすることにより、高調波信号に対する整合点をずらし、高調波信号の整合点における出力インピーダンスの位相を、小さくなる方向に回転させることができることを確認した。
【0039】
そして、高調波信号に対する整合点がずれることにより、入力電力が線形領域に属する小さい値であるときのトランジスタ102の利得が低くなる方向に変化するため、高調波信号が入力整合回路104と出力整合回路106の間における信号の共振条件を満たさなくなり、発振を抑止することができたものと考えられる。
【0040】
また、別の観点によれば、電力増幅器100において、ゲートバイアス電圧が負電圧方向に小さい場合、高調波帯域において安定指数が(K factor)1より小さくなる帯域が存在し、高調波信号の整合点が不安定領域に位置する場合があったと考えられる。電力増幅器の安定指数が1より小さい不安定領域においては、発振が生じる可能性があることが知られているためである。
【0041】
これに対し、ゲートバイアス電圧を正電圧方向に大きくした場合、高調波帯域における安定指数を全体的に大きくすることができるので、安定指数が1より小さくなっていた帯域においても、安定指数を1より大きい値にすることができる。
【0042】
これにより、高調波信号の整合点を不安定領域から、安定指数が1より大きく、発振が生じる可能性が無い安定領域にずらすことができるため、高調波信号が入力整合回路104と出力整合回路106の間における信号の共振条件を満たさなくなり、発振を抑止することができたものと考えられる。
【0043】
[1−1−5.電力増幅器の入出力特性に関する実験]
さらに、本願発明者は、ゲートバイアス電圧を−2.19Vとした場合に、発振現象が観測されなくなるという実験結果をふまえて、ゲートバイアス電圧をそれぞれ、−2.69V、−2.39V、及び−2.19Vと正電圧方向に大きくした場合において、電力増幅器の入出力特性がどのように変化するかを検証する実験(以下、実験4と称する)を行った。尚、実験4においては、実験3の場合と同様の構成を有する電力増幅器を用いた。
【0044】
図3は、実験4の結果を示すものであり、電力増幅器の入出力特性を示す図であり、トランジスタ102のゲートに供給される入力信号の電力(入力電力)と、ドレインから出力される出力信号の電力(出力電力)の相関関係を示す図である。図3において、破線で示した曲線(a)は、ゲートバイアス電圧を−2.69Vとした場合の入出力特性を示し、一点鎖線で示した曲線(b)は、ゲートバイアス電圧を−2.39Vとした場合の入出力特性を示し、実線で示した曲線(c)は、ゲートバイアス電圧が−2.19Vをとした場合の入出力特性を示す。
【0045】
まず、図3に示した曲線(a)〜(c)を個別にみると、電力増幅器100の入出力特性はそれぞれ、入力電力が低い側の領域に線形領域を有し、入力電力が高い側の領域に飽和領域を有する。線形領域においては、出力電力と入力電力との関係は線形性を示し、飽和領域では、出力電力は飽和し、入力電力が増加してもおおよそ一定の値に維持される。
【0046】
次に、図3に示した曲線(a)〜(c)を互いに比較すると、各々のゲートバイアス電圧における入出力特性の差は比較的小さく、電力増幅器100の増幅効率の観点においては、許容し得る範囲内のものであった。特に、飽和領域でのドレイン効率は、ゲートバイアス電圧が−2.69V、−2.39V、−2.19Vである場合、それぞれ、74.8%、74.7%、74.7%であり、それらの差はわずかなものであり、ゲートバイアス電圧を−2.69Vから−2.19Vへと正電圧方向に大きくしたとしても、入出力特性の変化が増幅効率に与える影響は許容範囲内のものであることが確認された。
【0047】
一方、ゲートバイアス電圧を−2.69Vから−2.19Vへと正電圧方向に大きくした場合、トランジスタ102の動作期間中にゲートに印加される電圧の平均レベルが高くなることから、トランジスタ102の動作期間中に流れるドレイン電流の平均値も増加してしまう。トランジスタ102の動作期間中に流れるドレイン電流の増加は、トランジスタ102の劣化を早める要因となるので、トランジスタの寿命を短くし、デバイスとしての信頼性を低下させる一因となる。
【0048】
従って、トランジスタの信頼性の観点からは、ゲートバイアス電圧を増加させることは好ましいことではない。
【0049】
[1−2.発振抑止方法]
以上説明した実験及び考察に基づいて、本願発明者は以下の(a)〜(d)に示す点に着目した。
【0050】
(a)高調波帯域において発振現象が観測されるのは、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少したときである点、
(b)ゲートバイアス電圧を正電圧方向に大きくした場合に、高調波帯域における発振現象が観測されなくなる点、
(c)ゲートバイアス電圧を正電圧方向に大きくしても、電力増幅器の入出力特性の変化が増幅効率に与える影響を許容範囲内に抑えることが可能である点、及び、
(d)トランジスタの信頼性を低下させないためには、ゲートバイアス電圧を増加させないのが好ましい点。
【0051】
そして、上記(a)〜(d)の着目点に基づいて、本願発明者は、電力増幅器において、入力電力の変動を監視し、入力電力が予め決められた閾値より小さい場合は、発振が生じる可能性があると判断して、ゲートバイアス電圧を、発振を抑止することが可能な第1電圧値に設定する一方、入力電力が予め決められた閾値より大きい場合は、発振が生じる可能性はないと判断して、ゲートバイアス電圧を負電圧方向に小さくし、第1電圧値より負電圧方向に小さい第2電圧値に設定するという発振抑止方法を見出した。
【0052】
上記方法において、入力電力が上記閾値より小さい場合は、発振が生じる可能性があると判断して、ゲートバイアス電圧を、発振を抑止することが可能な第1電圧値に設定することとしたのは、上記(a)、(b)及び(c)に着目したためである。また、入力電力が上記閾値より大きい場合は、発振が生じる可能性はないと判断して、ゲートバイアス電圧を第1電圧値より負電圧方向に小さい第2電圧値に設定することとしたのは、上記(a)及び(d)に着目したためである。
【0053】
ここで、上記閾値は、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少したときに発振現象が観測されることから、線形領域に属する入力電力値の範囲内の値であって、かつ、入力電力を減少させていったときに発振が観測され始める入力電力値よりも大きい値が設定される。上記閾値は、図3に示した電力増幅器の入出力特性においては、例えば10dbmである。
【0054】
また、第1電圧値は、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少した場合に、電力増幅器において発振が生じないような電圧である。第2電圧値は、図3に示した電力増幅器の入出力特性においては、例えば−2.19Vである。
【0055】
一方、第2電圧値は、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少した場合に、電力増幅器において発振が生じるような電圧であってもよい。第1電圧値は、図3に示した電力増幅器の入出力特性においては、例えば−2.69Vである。
【0056】
また、上述の検証実験の結果に対する考察に基づいて、トランジスタの機能・動作の観点からみると、上記の方法において、入力電力がトランジスタの飽和領域の電力値から、線形領域の電力値に減少した場合に、ゲートバイアス電圧を上述の第1電圧値に設定することは、トランジスタが、出力される高調波信号の整合点における出力インピーダンスの位相を小さくなる方向に回転させ、トランジスタの利得を低くなる方向にずらすことに対応するものである。あるいは、別の観点によれば、トランジスタが、高調波信号の整合点が安定領域に位置するように、高調波帯域において電力増幅器の安定指数(K factor)を1より大きい値とすることに対応するものである。
【0057】
[1−3.電力増幅器の構成]
以下に、第1実施例に係る電力増幅器400の構成例を説明する。第1実施例に係る電力増幅器400は、上述した発振抑止方法を実現するための機能及び構成を有し、発振抑止方法を実現するための動作を実行するものである。
【0058】
[1−3−1.電力増幅器400の構成例]
図4は第1実施例に係る電力増幅器400の構成の一例を示す図である。図4に示した電力増幅器400は、例えばF級増幅器であり、トランジスタ402、入力整合回路404、出力整合回路406、ゲートバイアス発生回路408、ドレインバイアス発生回路410、電力検出回路412、及びコントローラ414を含む。
【0059】
トランジスタ402は、ソースが接地(グランド)GNDに電気的に接続され、電力増幅回路として機能する。すなわち、トランジスタ402は、ゲートにおいて、入力整合回路404を介して、電力増幅器400の入力ノードPinに供給された入力信号を受けとり、受けとった入力信号の電力を増幅する。トランジスタ402は、増幅された信号をドレインから、出力整合回路406を介して、電力増幅器400の出力ノードPoutに出力する。
【0060】
トランジスタ402は例えば、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、FET)である。トランジスタ402としては例えば、出力電力が10Wであり、ピンチオフ電圧が負電圧であるGaN FETを用いることができる。但し、トランジスタ402には、バイポーラトランジスタを用いてもよい。また、トランジスタ402に代えて、他の増幅回路を用いてもよい。
【0061】
また、トランジスタ402のゲートに入力ノードPinを介して供給される入力信号は、例えば、数百MHzから数GHzの周波数を有する高周波信号であり、基本波信号に加えて、基本波信号の周波数(基本周波数)の整数倍の周波数を有する複数の高調波信号を含む。
【0062】
入力整合回路404は、トランジスタ402の入力側に設けられ、トランジスタ402のゲートに電気的に接続される。入力整合回路404は、入力信号に含まれる高調波信号に対して高調波処理を行う。入力整合回路404の詳細については後述する。
【0063】
出力整合回路406は、トランジスタ402の出力側に設けられ、トランジスタ402のゲートと電気的に接続される。出力整合回路406は、出力信号に含まれる高調波信号に対して高調波処理を行う。出力整合回路406の詳細については後述する。
【0064】
ドレインバイアス発生回路410は、出力整合回路406と電気的に接続され、出力整合回路406を介して、トランジスタ402のドレインにバイアス電圧(ドレインバイアス電圧)を出力する。ドレインバイアス発生回路404から供給されるバイアス電圧は例えば、28Vである。尚、ドレインバイアス発生回路406は、周知の電圧発生回路によって実現することができる。
【0065】
ゲートバイアス発生回路408は、入力整合回路404と電気的に接続され、入力整合回路404を介して、トランジスタ402のゲートにバイアス電圧(ゲートバイアス電圧)を供給する。ゲートバイアス発生回路408の動作は、コントローラ414によって制御される。ゲートバイアス発生回路408は、コントローラ414から供給される電圧設定情報に基づいて、トランジスタ402のゲートに供給するゲートバイアス電圧の電圧値を変更する。尚、ゲートバイアス発生回路408は、周知の可変電圧発生回路によって実現することができる。
【0066】
電力検出回路412は、電力増幅器400の入力ノードPinに電気的に接続され、入力ノードPinに供給された入力信号の平均電力(平均入力電力)を継続的に検出する。電力検出回路412は、検出された入力信号の平均電力の値を随時、コントローラ414に出力する。電力検出回路412は例えば、周知のパワーセンサである。
【0067】
コントローラ414は、電力検出回路412から、入力信号の平均電力の値を受けとり、受けとった入力信号の平均電力値に基づいて、ゲートバイアス発生回路408によって行われるゲートバイアス電圧の出力動作を制御する。尚、上述したように、発振現象は入力電力をトランジスタの飽和領域から線形領域へと減少させた場合に観測されるものであり、発振の発生と消滅の間の間隔は比較的長いため、平均電力の検出による制御で十分に対応可能である。
【0068】
コントローラ414は例えば、ゲートバイアス電圧の出力制御機能を実現するプログラムがインストールされたコンピュータにより、実現することができる。あるいは、コントローラ414は例えば、ゲートバイアス電圧の出力制御機能を実現するプログラムを実行するプロセッサにより、実現することができる。あるいは、コントローラ414は、ゲートバイアス電圧の出力制御機能を備えた種々のLSI、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等によっても、実現することができる。
【0069】
コントローラ414は、受けとった入力信号の平均電力値に基づいて、ゲートバイアス発生回路408が出力すべきゲートバイアス電圧の設定値を決定する。コントローラ414は、決定されたゲートバイアス電圧の設定値を示す電圧設定情報を生成し、ゲートバイアス発生回路408に出力する。
【0070】
コントローラ414は、受けとった入力信号の平均電力値が第1閾値よりも小さい場合、ゲートバイアス電圧の設定値を第1電圧値に設定する。ここで、第1閾値は、線形領域に属する入力電力値の範囲内で設定され、かつ、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少した場合に発振が観測され始める入力電力値よりも大きい値であり、例えば、図3に示した電力増幅器の入出力特性の場合、10dbmである。
【0071】
第1電圧値は、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少した場合に、電力増幅器において発振が生じないようなゲートバイアス電圧値であり、例えば、−2.19Vである。入力電力の値が第1閾値より小さい場合には、ゲートバイアス電圧の値によっては、発振が生じる可能性があるためである。第1電圧値は、後述する第2電圧値よりも正電圧方向に大きい値である。
【0072】
第1閾値及び第1電圧値は、電力増幅器400において製品出荷前に動作試験を行い、動作試験を通じて、電力増幅器の基本特性を事前に取得しておくことにより決定される。第1閾値は例えば、線形領域に属する入力電力値であって、かつ、入力電力を飽和領域に属する電力値から減少させていったときに発振が観測され始める入力電力の値を、動作試験を通じて事前に取得しておくことにより、決定される。第1電圧値は例えば、動作試験を通じて、発振が抑止することができるゲートバイアス電圧の値といった特性を事前に取得しておくことにより、決定される。第1閾値及び第1電圧値は、コントローラ414内のメモリに記憶される。
【0073】
また、コントローラ414は、受けとった入力信号の平均電力値が第2閾値より大きい場合、ゲートバイアス電圧の設定値を第2電圧値に設定する。ここで、第2閾値は、線形領域に属する入力電力値の範囲内で設定され、かつ、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少した場合に発振が観測され始める入力電力値よりも大きい値であり、例えば、図3に示した電力増幅器の入出力特性の場合、10dbmである。
【0074】
第2電圧値は、電力増幅器400の増幅効率の最適化の観点から適宜設定される値であり、例えば、−2.69Vである。第2電圧値は、増幅効率の観点から許容し得る範囲内で、可能な限り負電圧方向に小さい値を選択するのが好ましい。また、第2電力値は、入力電力の値が第2閾値より大きい場合に用いられる値であるため、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少した場合に、電力増幅器400において発振が生じるような電圧であってもよい。第2閾値及び第2電圧値は、コントローラ414内のメモリに記憶される。
【0075】
尚、上述の例では、第1閾値と第2閾値を同じ値としたが、これに限定されることはなく、異なる値を設定することができる。
【0076】
また、上述の例では、第1閾値と第2閾値においてそれぞれ、ゲートバイアス発生回路が出力するゲートバイアス電圧を第1設定値と第2設定値の2つの設定値の間で切り換えるようにしたが、この構成には限定されない。例えば、第1設定値と第2設定値の間に1つ以上の設定値を追加して、第1閾値及び第2閾値の付近でゲートバイアス電圧を段階的に変化させるようにしてもよい。さらに、第1閾値及び第2閾値の付近で、ゲートバイアス電圧を第1設定値と第2設定値の2つの設定値の間で連続的に変化させるようにしてもよい。
【0077】
以上説明したように、電力増幅器400においては、入力電力がトランジスタ402の飽和領域の電力値から、線形領域の電力値に減少した場合でも、ゲートバイアス電圧が上述の第1電圧値に設定されるので、出力される高調波信号の整合点における出力インピーダンスの位相を小さくなる方向に回転させ、トランジスタの利得を低くなる方向に変化させることにより、高調波信号が、入力整合回路404と出力整合回路406の間における信号の共振条件を満たさないようにすることができる。これにより、発振現象が生じるのを抑止することができ、電力増幅器400の動作が発振に起因して不安定になるのを防止することができる。
【0078】
加えて、入力電力が飽和電力の電力値まで高くなった場合には、ゲートバイアス電圧が第1電圧値よりも小さい第2電圧値に設定されるので、トランジスタ402に流れるドレイン電流を小さくすることができる。これにより、トランジスタ402の動作期間中に流れるドレイン電流の平均値を減少させることができ、トランジスタ402の信頼性が低下するのを防止することができる。
【0079】
[1−3−2.入力整合回路404と出力整合回路406の構成]
図5は、入力整合回路404と出力整合回路406の構成の一例を示す図である。図5に示した入力整合回路404及び出力整合回路406の構成は、電力増幅器400をF級増幅器として動作させるためのものである。
【0080】
出力整合回路406は、伝送線路502、スタブ504、506、508、510を含む分布定数線路である。伝送線路502は、トランジスタ402の出力ノード(ドレイン)に接続され、λ1/4の長さを有する。ここで、λ1は基本波信号の波長である。伝送線路502の長さは、トランジスタ402のドレインを起点とした時の長さが、λ1/4となるように決定される。
【0081】
スタブ504は、オープスタブであり、その一方の端部が伝送線路502の、トランジスタ402のドレインと反対側の端部Aに接続されており、他方の端部は開放されている。スタブ504はλ2/4の長さ、すなわち、λ1/8の長さを有する。ここで、λ2は2次高調波信号の波長であり、λ1の1/2の長さに相当する。
【0082】
同様に、スタブ506、508、510はそれぞれ、オープスタブであり、その一方の端部が伝送線路502の端部Aに接続されており、他方の端部は開放されている。スタブ506、508、510はそれぞれλ3/4、λ4/4、λ5/4の長さ、すなわち、λ1/12、λ1/16、λ1/20の長さを有する。ここで、λ3、λ4、λ5はそれぞれ、3次、4次、5次高調波信号の波長であり、λ1の1/3、1/4、1/5の長さに相当する。
【0083】
出力整合回路406は例えば、誘電率3.1、誘電正接0.001の1つのプリント基板をマイクロストリップ構造に加工することにより、実現することができる。但し、出力整合回路406の構造は、マイクロストリップ構造には限定されず、これ以外にも例えば、トリプレート構造を用いてもよい。
【0084】
出力整合回路406において、スタブ504はオープンスタブであるため、接続点Aにおいて、2次高調波信号に対するインピーダンスがゼロ(ショート)となる。同様に、スタブ506、508、510はそれぞれ、オープンスタブであるため、接続点Aにおいて、3次高調波信号、4次高調波信号及び5次高調信号に対するインピーダンスがゼロ(ショート)となる。
【0085】
一方、トランジスタ402のドレインから見たときの伝送線路502のインピーダンスは、伝送線路502の長さがλ1/4であるため、基本波信号、3次高調波信号、5次高調波信号に対しては、無限大(開放)となる一方、2次高調波信号、4次高調波信号に対しては、ゼロ(ショート)となる。
【0086】
よって、出力整合回路406は、トランジスタ402の出力ノード(ドレイン)から負荷回路側(出力整合回路406側)を見たときのインピーダンスを、2次高調波及び4次高調波に対してはゼロ(ショート)とし、3次高調波及び5次高調波に対しては無限大(開放)とすることができる。すなわち、出力整合回路406は5次高調波まで、高調波処理を行う回路である。
【0087】
また、入力整合回路404は、伝送線路512、スタブ514、516、518、520を含む分布定数線路である。伝送線路512はトランジスタ402の入力ノード(ゲート)に接続され、λ1/4の長さを有する。
【0088】
スタブ514は、λ2/4の長さを有するオープスタブであり、その一方の端部が伝送線路512の、トランジスタ402のゲートと反対側の端部Bに接続されており、他方の端部は開放されている。同様に、スタブ516、518、520はそれぞれ、λ3/4、λ4/4、λ5/4の長さを有するオープスタブであり、その一方の端部が伝送線路512の、トランジスタ402のゲートと反対側の端部Bに接続されており、他方の端部は開放されている。
【0089】
入力整合回路404は、出力整合回路406と同様に、例えば、誘電率3.1、誘電正接0.001の1つのプリント基板をマイクロストリップ構造に加工することにより、実現することができる。入力整合回路404は、出力整合回路406と同様に、トランジスタ402の入力ノード(ゲート)から負荷回路側(入力整合回路404側)を見たときのインピーダンスを、2次高調波及び4次高調波に対してはゼロ(ショート)とし、3次高調波及び5次高調波に対しては無限大(開放)とすることができる。すなわち、入力整合回路404は5次高調波まで、高調波処理を行う回路である。
【0090】
尚、上述の例では、入力整合回路404及び出力整合回路406によって5次高調波まで高調波処理を行っているが、これには限定されず、高調波処理の対象とする高調波の次数は、電力増幅器400の性能等に応じて、適宜選択可能である。
【0091】
また、上述の例では、電力増幅器400をF級増幅器として動作させる例を示したが、入力整合回路404及び出力整合回路406をそれぞれ、トランジスタ102の入力ノード及び出力ノードから負荷回路を見たときのインピーダンスが、偶数次高調波に対して無限大(開放)となり、奇数次高調波に対してはゼロ(ショート)となるように設計することにより、電力増幅器400を逆F級増幅器として動作させることも可能である。
【0092】
[2.第2実施例]
以下、第2実施例に係る電力増幅器について説明する。
【0093】
図6は、第2実施例に係る電力増幅器600の構成の一例を示す図である。図6に示した電力増幅器600は、図4に示した電力増幅器400と、電力検出回路412及びコントローラ414の代わりに、電力検出回路612及びコントローラ614が設けられている点で異なるが、それ以外の部分は同様である。図4に示した電力増幅器400と同一又は対応する部分は、同一の符号で示されている。図6において同一の符号で示した部分の動作や機能は、図4に関連して説明したとおりであるので、詳細な説明は省略する。
【0094】
図4に示した電力増幅器400では、電力検出回路412により入力ノードPinに供給された入力信号の電力(入力電力)を検出したが、図6に示した電力増幅器600では、電力検出回路612により出力ノードPoutに出力された出力信号の電力(出力電力)を検出する。図3に示した電力増幅器の入出力特性から分かるように、入力電力の増加に対して、出力電力は単調に増加し、入力電力と出力電力は一対一の関係にある。よって、入力電力の変動を監視するためには、入力電力を検出する代わりに、出力電力を検出するようにしてもよいためである。
【0095】
図6に示したように、電力増幅器600において、電力検出回路612は、電力増幅器600の出力ノードPoutに電気的に接続され、出力ノードPoutに出力された出力信号の平均電力(平均入力電力)を継続的に検出する。電力検出回路612は、検出された入力信号の平均電力の値を随時、コントローラ614に出力する。電力検出回路612は例えば、周知のパワーセンサである。
【0096】
コントローラ614は、電力検出回路612から、出力信号の平均電力の値を受けとり、受けとった出力信号の平均電力値に基づいて、ゲートバイアス発生回路408によって行われるゲートバイアス電圧の出力動作を制御する。尚、電力増幅器400の場合と同様に、発振の発生と消滅の間の間隔は比較的長いため、平均電力の検出による制御で十分に対応可能である。
【0097】
コントローラ614は、受けとった出力信号の平均電力値に基づいて、ゲートバイアス発生回路408が出力すべきゲートバイアス電圧の設定値を決定する。コントローラ614は、決定されたゲートバイアス電圧の設定値を示す電圧設定情報を生成し、ゲートバイアス発生回路408に出力する。尚、コントローラ614の実現手段は、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0098】
コントローラ614は、受けとった出力信号の平均電力値が第1閾値よりも小さい場合、ゲートバイアス電圧の設定値を第1電圧値に設定する。ここで、第1閾値は、線形領域に属する出力電力値の範囲内で設定され、かつ、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少した場合に、発振が観測され始める出力電力値よりも大きい値であり、例えば、図3に示した電力増幅器の入出力特性の場合、30dbmである。第1電圧値は、後述する第2電圧値よりも正電圧方向に大きい値である。第1電圧値の詳細については、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0099】
また、コントローラ614は、受けとった出力信号の平均電力値が第2閾値より大きい場合、ゲートバイアス電圧の設定値を第2電圧値に設定する。ここで、第2閾値は、線形領域に属する出力電力値の範囲内で設定され、かつ、入力電力が飽和領域に属する電力値から、線形領域に属する電力値に減少した場合に、発振が観測され始める出力電力値よりも大きい値であり、例えば、図3に示した電力増幅器の入出力特性の場合、30dbmである。第2電圧値の詳細については、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0100】
尚、上述の例では、第1閾値と第2閾値を同じ値としたが、電力増幅器400の場合と同様に、これに限定されることはなく、異なる値を設定することができる。また、上述の例では、第1閾値と第2閾値においてそれぞれ、ゲートバイアス発生回路が出力するゲートバイアス電圧を第1設定値と第2設定値の2つの値で切り換えるようにしたが、電力増幅器400の場合と同様に、この構成には限定されなく、例えば、2つの設定値の間を第1閾値及び第2閾値の付近で連続的に変化させるようにしてもよい。
【0101】
以上説明したように、電力増幅器600においては、入力電力がトランジスタ402の飽和領域の電力値から、線形領域の電力値に減少した場合、そのことが出力電力の検出を通じて検出され、ゲートバイアス電圧が上述の第1電圧値に設定されるので、出力される高調波信号の整合点における出力インピーダンスの位相を小さくなる方向に回転させ、トランジスタの利得を低くなる方向に変化させることにより、高調波信号が、入力整合回路404と出力整合回路406の間における信号の共振条件を満たさないようにすることができる。これにより、発振現象が生じるのを抑止することができ、電力増幅器600の動作が発振に起因して不安定になるのを防止することができる。
【0102】
加えて、入力電力が飽和電力の電力値まで高くなった場合、そのことが出力電力の検出を通じて検出され、ゲートバイアス電圧が第1電圧値よりも小さい第2電圧値に設定されるので、トランジスタ402に流れるドレイン電流を小さくすることができる。これにより、トランジスタ402の動作期間中に流れるドレイン電流の平均値を減少させることができ、トランジスタ402の信頼性が低下するのを防止することができる。
【0103】
[3.第3実施例]
以下、第3実施例に係る電力増幅器について説明する。
【0104】
図7は、第3実施例に係る電力増幅器700の構成の一例を示す図である。図7に示した電力増幅器700は、図4に示した電力増幅器400と、コントローラ414の代わりに、コントローラ714が設けられ、電流検出回路716及び後述する基準値テーブル802を格納するメモリ718が追加されている点で異なるが、それ以外の部分は同様である。図4に示した電力増幅器400と同一又は対応する部分は、同一の符号で示されている。図7において同一の符号で示した部分の動作や機能は、図4に関連して説明したとおりであるので、詳細な説明は省略する。
【0105】
[3−1.電力増幅器700における発振の有無の判定]
図4に示した電力増幅器400では、電力検出回路412により入力ノードPinに供給された入力信号の電力(入力電力)を検出することにより、入力電力を監視し、入力電力の値に基づいて、発振が生じる可能性があるか否かを判断している。
【0106】
しかしながら、上述したように、電力増幅器において観測される発振現象は、入力電力を、トランジスタの飽和領域の電力値から、線形領域の電力値に減少させた場合にのみ観測され、入力電力に対して履歴(ヒステリシス)を有する減少であるため、入力電力が線形領域に属する電力値であったとしても、発振が生じない場合がある。例えば、線形領域に属する電力値が、飽和領域から減少した結果得られた値ではなく、線形領域に属する、さらに小さい値から増加した結果得られた値である場合には、実際には、発振は観測されない。
【0107】
電力増幅器400では、入力電力値が第1閾値より小さい場合には、ゲートバイアス電圧の値は第1電圧値に設定されるため、上述のように実際には発振が生じないような場合であっても、ゲートバイアス電圧が第1電圧値に設定されてしまう。発振が生じていない場合は、ゲートバイアス電圧は、第1電圧値より小さい電圧値(例えば、第2電圧値)に設定すれば十分であるため、過度に大きな値に設定してしまうことになる。これにより、トランジスタ402の動作期間中にゲートに印加される電圧の平均レベルが高くなることから、トランジスタ402の動作期間中に流れるドレイン電流の平均値も増加してしまい、トランジスタ402の劣化が早まり、デバイスとしての信頼性が低下してしまう。
【0108】
ところで、トランジスタ402においては、ドレイン電流は入力電力の増加に対して、単調に増加し。入力電力とドレイン電流は基本的に一対一の関係にある。しかしながら、本願発明者は、実験により、同一の入力電力に対応するドレイン電流であっても、電力増幅器において発振が生じている場合と発振が生じていない場合との間で、ドレイン電流が異なる値をとることを見出した。本願発明者が行った実験によれば、同一の電力を有する入力信号を供給した場合であっても、発振が生じている場合のドレイン電流値は、発振が生じていない場合のドレイン電流値よりも小さくなることが観測された。
【0109】
この実験結果に基づいて、本願発明者は、電力増幅器において、ドレイン電流の値を検出し、検出されたドレイン電流値を、発振が生じていない場合のドレイン電流値と比較することにより、電力増幅器において発振が生じているか否かを、より正確に判定することをできることを見出した。
【0110】
そこで、図7に示した電力増幅器700では、電力検出回路412により入力ノードPinに供給された入力信号の電力(入力電力)を検出し、さらに、トランジスタ402のドレイン電流(出力電流)を検出する。一方、コントローラ714において、発振が生じない場合の入力電力値とドレイン電流値(ドレイン電流基準値)の関係を示す情報を、後述する基準値テーブル802として、メモリ718に予め記憶しておく。
【0111】
そして、検出された入力信号の電力値に基づいて、基準値テーブル802から、入力電力に対応するドレイン電流基準値を取得し、取得されたドレイン電流基準値と、検出されたドレイン電流の電流値との差分値が一定値より大きいか否かを判定する。その差分値が一定値より大きい場合は、発振が生じていると判定し、その差分値が一定値より小さい場合は、発振は生じていないと判定する。
【0112】
[3−2.電力増幅器700の構成例]
図7に示したように、電力増幅器700において、電流検出回路716は、トランジスタ402のドレインに出力整合回路406を介して電気的に接続され、トランジスタ402のドレインに流れるドレイン電流を平均値(平均ドレイン電流)として継続的に検出する。電流検出回路716は、検出されたドレイン電流の平均値を随時、コントローラ714に出力する。電流検出回路716としては例えば、周知の電流計を用いることができる。
【0113】
コントローラ714は、基準値テーブル802を格納するメモリ718を含む。基準値テーブル802は、電力増幅器700において発振が生じていない場合の、入力電力値とドレイン電流値(ドレイン電流基準値)の間の関係を示すテーブルであり、コントローラ714内のメモリ718に記憶されている。
【0114】
図8は、基準値テーブル802の一例を示す図である。図8に示したように、基準値テーブル802には、複数の入力電力値p_nと、各々の入力電力値p_nに対応するドレイン電流基準値id_nが格納されている。
【0115】
基準値テーブル802は、電力増幅器700において製品出荷前に動作試験を行い、動作試験を通じて、入力信号の電力を増加させながら、複数の入力電力値に対して、入力信号の電力と、対応するドレイン電流を検出することにより作成される。ここで、上述のように、電力増幅器において観測される発振現象は、入力電力を、トランジスタの飽和領域の電力値から、線形領域の電力値に減少させた場合にのみ観測されるものであり、入力電力に対して履歴(ヒステリシス)を有する。このため、発振が生じていない場合の入力電力とドレイン電流の関係を取得するために、電力増幅器700においては、線形領域の低入力電力側から飽和領域に向けて、入力信号の電力を増加させながら、複数の入力電力値に対して、入力信号の電力と、対応するドレイン電流を順次検出していくことが望ましい。検出されたドレイン電流の値をドレイン電流基準値として、対応する入力電力値と関連づけてテーブルに格納していくことにより、基準値テーブル802を作成することができる。
【0116】
図7に戻って、コントローラ714は、電力検出回路412から、入力信号の平均電力の値を受けとり、電流検出回路716から、ドレイン電流の平均値を受けとる。コントローラ714は、受けとった入力信号の平均電力値と、受けとったドレイン電流の平均値に基づいて、ゲートバイアス発生回路408によって行われるゲートバイアス電圧の出力動作を制御する。
【0117】
コントローラ714は、受けとった入力信号の平均電力値と、受けとったドレイン電流の平均値に基づいて、ゲートバイアス発生回路408が出力すべきゲートバイアス電圧の設定値を決定する。コントローラ714は、決定されたゲートバイアス電圧の設定値を示す電圧設定情報を生成し、ゲートバイアス発生回路408に出力する。尚、コントローラ714の実現手段は、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0118】
コントローラ714は、基準値テーブル802を参照することにより、受けとった入力信号の平均電力値に基づいて、対応するドレイン電流基準値を取得し、取得したドレイン電流基準値と、受けとったドレイン電流の平均値の差分値を算出する。
【0119】
コントローラ714は、算出された差分値が予め定められた閾値よりも大きい場合、発振が生じていると判定し、ゲートバイアス電圧の設定値を第1電圧値に設定する。ここで、第1電圧値は、後述する第2電圧値よりも正電圧方向に大きい値である。第1電圧値の詳細については、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0120】
一方、コントローラ714は、算出された差分値が上記閾値よりも小さい場合、発振は生じていないと判定し、ゲートバイアス電圧の設定値を第2電圧値に設定する。ここで、第2電圧値の詳細については、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0121】
尚、上述の実施例では、検出された入力電力値から、対応するドレイン電流基準値を取得する際に、基準値テーブル802を参照したが、その代わりに、製品出荷前の動作試験によって、入力電圧値とドレイン電流基準値の間の関係を示す関係式を導出して、コントローラ714に記憶させておき、その関係式を用いてドレイン電流基準値を算出するようにしてもよい。
【0122】
また、上述の例では、第1閾値と第2閾値を同じ値としたが、電力増幅器400の場合と同様に、これに限定されることはなく、異なる値を設定することができる。また、上述の例では、第1閾値と第2閾値においてそれぞれ、ゲートバイアス発生回路が出力するゲートバイアス電圧を第1設定値と第2設定値の2つの値で切り換えるようにしたが、電力増幅器400の場合と同様に、この構成には限定されなく、例えば、2つの設定値の間を第1閾値及び第2閾値の付近で連続的に変化させるようにしてもよい。
【0123】
以上説明したように、電力増幅器700においては、ドレイン電流を検出し、検出されたドレイン電流の値を、予め用意された、発振が生じない場合のドレイン電流値(ドレイン電流基準値)と比較することにより、実際に発振が生じているか否かを判定している。そして、電力増幅器700においては、比較により発振が生じていると判定された場合には、ゲートバイアス電圧が上述の第1電圧値に設定されるので、出力される高調波信号の整合点における出力インピーダンスの位相を小さくなる方向に回転させ、トランジスタの利得を低くなる方向に変化させることにより、高調波信号が、入力整合回路404と出力整合回路406の間における信号の共振条件を満たさないようにすることができる。これにより、発振現象が生じるのを抑止することができ、電力増幅器600の動作が発振に起因して不安定になるのを防止することができる。
【0124】
加えて、電力増幅器700においては、比較により発振が生じていないと判定された場合に、ゲートバイアス電圧が第1電圧値よりも小さい第2電圧値に設定されるので、入力電力が線形領域に属する電力値であっても、発振が生じない場合には、ゲートバイアス電圧を第2電圧値に保持して、トランジスタ402に流れるドレイン電流を小さくすることができる。これにより、電力増幅器700においては、電力増幅器400の場合と比べて、トランジスタ402の動作期間中に流れるドレイン電流の平均値をさらに減少させることができ、トランジスタ402の信頼性の低下を防止する効果をさらに高めることができる。
【0125】
[4.第4実施例]
以下、第4実施例に係る電力増幅器について説明する。
【0126】
図9は、第4実施例に係る電力増幅器900の構成の一例を示す図である。図9に示した電力増幅器900は、Outphasing型もしくはChireix型と呼ばれる電力増幅器に属する、無損失合成出力の電力増幅器であり、出力信号の電力(出力電力)に基づいて、ゲートバイアス発生回路によって行われるゲートバイアス電圧の出力動作を制御する機能を有するものである。
【0127】
図9に示した電力増幅器900は、単体増幅器である電力増幅器600を2つ組み合わせたような構成を有しており、分配器922、第1増幅回路部942−1、第2増幅回路部942−2、ドレインバイアス発生回路910、電力検出回路912、合成器924、整合回路930、位相検出回路932、及び、移相器934、コントローラ914を含む。コントローラは、後述する基準値テーブルを格納するメモリ918を含む。
【0128】
電力増幅器900において、分配器922は、電力増幅器900の入力ノードに供給された入力信号(第1入力信号)に基づいて、2つの入力信号(第2入力信号、第3入力信号)に生成する。分配器922は例えば、ハイブリッドによって構成された分布定数線路によって実現される。分配器922は、生成された2つの入力信号のうちの一方の入力信号(第2入力信号)を、移相器934を介して、第1増幅回路942−1に入力する。移相器924は、入力された第2入力信号の位相を回転させる。分配器922は、他方の入力信号(第3入力信号)を第2増幅回路部942−2に入力する。分配器922は、移相器934と協働して、第2入力信号及び第3入力信号を、各々の電力値が第1増幅回路部942−1及び第2増幅回路部942−2の飽和領域に属する同一の値となるように生成する。
【0129】
第1増幅回路部942−1は、トランジスタ902−1、入力整合回路904−1、出力整合回路906−1、及びゲートバイアス発生回路908−1を含む。第2増幅回路部942−2は、トランジスタ902−2、入力整合回路904−2、出力整合回路906−2、及びゲートバイアス発生回路908−2を含む。
【0130】
位相検出回路932は、移相器934に接続され、移相器934から出力された第2入力信号の位相を継続的に検出する。位相検出回路932は、検出された第2入力信号の位相の値を随時、コントローラ914に出力する。位相検出回路932は例えば、周知の位相検出器である。
【0131】
電力検出回路912は、電力増幅器900の出力ノードPinに電気的に接続され、合成器924によって出力ノードPinに出力された出力信号(第3出力信号)の平均電力(平均出力電力)を継続的に検出する。電力検出回路912は、検出された第3出力信号の平均電力の値を随時、コントローラ914に出力する。電力検出回路912は例えば、周知のパワーセンサである。
【0132】
ここで、本願発明者は、実験により、Outphasing型もしくはChireix型の増幅器においては、移相器924が回転させる第2入力信号の位相値が同一であっても、電力増幅器において発振が生じている場合と発振が生じていない場合との間で、第3出力信号の平均電力が異なる値をとることを見出した。本願発明者が行った実験によれば、同一の位相を有する第2入力信号を供給した場合であっても、発振が生じている場合の第3出力信号の電力値は、発振が生じていない場合の電力値からずれることが観測された。
【0133】
この実験結果に基づいて、本願発明者は、電力増幅器において、第3出力信号の電力値を検出し、検出された第3出力信号の電力値を、発振が生じていない場合の電力値と比較することにより、電力増幅器において発振が生じているか否かを、より正確に判定することをできることを見出した。
【0134】
そこで、図9に示した電力増幅器900では、位相検出回路932により、移相器934から出力される第2入力信号の位相(入力位相)を検出し、さらに、第3出力信号の電力(出力電力)を検出する。一方、コントローラ914において、発振が生じない場合の第2入力信号の位相(入力位相)と出力電力(出力電力基準値)の関係を示す情報を、基準値テーブルとして、メモリ918に予め記憶しておく。
【0135】
そして、検出された入力位相に基づいて、基準値テーブルから、入力位相の値に対応する出力電力基準値を取得し、取得された出力電力基準値と、検出された出力電力の値との差分値が一定値より大きいか否かを判定する。その差分値が一定値より大きい場合は、発振が生じていると判定し、その差分値が一定値より小さい場合は、発振は生じていないと判定する。
【0136】
コントローラ914は、上述の基準値テーブルを格納するメモリ918を含む。基準値テーブルは、電力増幅器900において発振が生じていない場合の、第2入力信号の位相(入力位相)の値と、第3出力信号の電力値(出力電力基準値)の間の関係を示すテーブルであり、コントローラ914内のメモリ918に記憶されている。基準値テーブルの構成は、図8に示した基準値テーブル802と同様のものであり、複数の入力位相値ph_nと、各々の入力位相値ph_nに対応する出力電力基準値op_nが格納されている。
【0137】
上述の基準値テーブルは、電力増幅器900において製品出荷前に動作試験を行い、動作試験を通じて、入力位相を変化させながら、複数の入力位相値に対して、入力位相と、対応する出力電力を検出することにより作成される。上述の基準値テーブルは、検出された出力電力の値を出力電力基準値として、対応する入力位相値と関連づけてテーブルに格納していくことにより作成することができる。
【0138】
コントローラ914は、位相検出回路932から、第2入力信号の位相(入力位相)の値を受けとり、電力検出回路912から、第3出力信号の平均電力(平均出力電力)の値を受けとる。コントローラ914は、受けとった第2入力信号の位相値と、受けとった第3出力信号の電力値に基づいて、ゲートバイアス発生回路908‐1、908−2によって行われるゲートバイアス電圧の出力動作を制御し、ゲートバイアス発生回路908−1、908−2が出力すべきゲートバイアス電圧の設定値を決定する。コントローラ914は、決定されたゲートバイアス電圧の設定値を示す第1電圧設定情報を生成し、ゲートバイアス電圧回路908−1に出力する。また、コントローラ914は、決定されたゲートバイアス電圧の設定値を示す第2電圧設定情報を生成し、ゲートバイアス電圧回路908−2に出力する。尚、コントローラ914の実現手段は、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0139】
コントローラ914は、上述の基準値テーブルを参照することにより、受けとった第2入力信号の位相値(入力位相値)に基づいて、対応する出力電力基準値を取得し、取得した出力電力基準値と、受けとった第3出力信号の平均電力(平均出力電力)値の差分値を算出する。
【0140】
コントローラ914は、算出された差分値が予め定められた閾値よりも大きい場合、発振が生じていると判定し、ゲートバイアス電圧の設定値を第1電圧値に設定する。ここで、第1電圧値は、後述する第2電圧値よりも正電圧方向に大きい値である。第1電圧値の詳細については、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0141】
一方、コントローラ914は、算出された差分値が上記閾値よりも小さい場合、発振は生じていないと判定し、ゲートバイアス電圧の設定値を第2電圧値に設定する。ここで、第2電圧値の詳細については、コントローラ414に関して説明したものと同様である。
【0142】
尚、上述の実施例では、検出された入力位相値から、対応する出力電力基準値を取得する際に、基準値テーブルを参照したが、その代わりに、製品出荷前の動作試験によって、入力位相値と出力電力基準値の間の関係を示す関係式を導出して、コントローラ914に記憶させておき、その関係式を用いて出力電力基準値を算出するようにしてもよい
第1増幅回路部942−1は移相器934から第2入力信号を受けとり、コントローラ914から第1電圧設定情報を受けとる。第1増幅回路部942−1は、電力検出回路912、位相検出回路932、コントローラ914、及びドレインバイアス発生回路910と協働して、飽和領域で動作する増幅器として動作する。第1増幅回路部942−1は、受けとった第2入力信号に対して増幅動作を行い、第1出力信号を合成器924に出力する。
【0143】
第2増幅回路部942−2は分配器922から第3入力信号を受けとり、コントローラ914から第2電圧設定情報を受けとる。第2増幅回路部942−2は、電力検出回路912、位相検出回路932、コントローラ914、及びドレインバイアス発生回路910と協働して、飽和領域で動作する増幅器として動作する。第2増幅回路部942−2は、受けとった第3入力信号に対して増幅動作を行い、第2出力信号を合成器924に出力する。
【0144】
尚、第1増幅回路部942−1、第2増幅回路部942−2、電力検出回路912、コントローラ914、及びドレインバイアス発生回路910において、図4に示した電力増幅器400と対応する部分は、対応する符号(下二桁の数字が同一の符号)で示されている。図9において対応する符号で示した部分の動作や機能は、第4実施例に関して特に説明する以外は、図4に関連して説明したとおりであるので、詳細な説明は省略する。
【0145】
合成器924は移相器926、928を含み、第1増幅回路部942−1及び第2増幅回路部942−2の各々から出力信号(第1出力信号、第2出力信号)を受けとる。合成器924において、移相器926は、第1増幅回路部942−1から第1出力信号を受けとり、受けとった第1出力信号の位相を、φだけ回転させる。移相器928は、第2増幅回路部942から第2出力信号を受けとり、受けとった第2出力信号の位相を、180−φだけ回転させる。
【0146】
合成器924は、移相器926及び928によって位相を回転させた第1出力信号と第2出力信号をベクトル加算処理によって合成し、第3出力信号を生成する。合成器924は生成された第3出力信号を、後段のアンテナのインピーダンスとの整合を図るための整合回路930を介して、電力増幅器900の出力ノードPoutに出力する。
【0147】
ここで、位相φは、合成器924において、第1出力信号及び第2出力信号に対してベクトル加算処理を行う際の位相調整パラメータであり、第1増幅回路部942−1及び第2増幅回路部942−2の有するリアクタンス成分に起因した、第1出力信号及び第2出力信号の位相のずれを調整するためのパラメータである。
【0148】
また、整合回路930は、スタブによって構成された分布定数線路によって実現することができる。
【0149】
以上説明したように、電力増幅器900においては、出力電力を検出し、検出された出力電力の値を、予め用意された、発振が生じない場合の出力電力値(出力電力基準値)と比較することにより、実際に発振が生じているか否かを判定している。そして、電力増幅器900においては、比較により発振が生じていると判定された場合には、第1増幅回路部942−1においては、高調波信号が、入力整合回路904−1と出力整合回路906−1の間における信号の共振条件を満たさないようにし、第2増幅回路部942−2においては、高調波信号が、入力整合回路904−2と出力整合回路906−2の間における信号の共振条件を満たさないようにすることができる。これにより、発振現象が生じるのを抑止することができ、電力増幅器900の動作が発振に起因して不安定になるのを防止することができる。
【0150】
加えて、電力増幅器900においては、比較により発振が生じていないと判定された場合には、ゲートバイアス電圧をより小さい設定値に変更し、トランジスタ902−1、902−2に流れるドレイン電流を小さくすることができる。これにより、トランジスタ902−1、902−2の動作期間中に流れるドレイン電流の平均値を減少させることができ、トランジスタ902−1、902−2の信頼性が低下するのを防止することができる。
【0151】
尚、上述の例では、電力検出回路912により第3出力信号の平均電力を検出するようにしたが、この構成には限定されず、第1増幅回路部942−1及び第2増幅回路部942−2の出力ノードにそれぞれ、電力検出回路を電気的に接続し、合成器924に入力される第1出力信号及び第2出力信号の平均電力を検出するようにしてもよい。この場合、ゲートバイアス発生回路908−1及び908−2のゲートバイアス電圧の出力動作はそれぞれ、コントローラ914により、第1出力信号及び第2出力信号の平均電力値に基づいて制御される。
【0152】
[5.第5実施例]
以下、第5実施例に係る電力増幅器について説明する。
【0153】
図10は、第5実施例に係る電力増幅器1000の構成の一例を示す図である。図10に示した電力増幅器1000は、Outphasing型もしくはChireix型と呼ばれる電力増幅器に属する、無損失合成出力の電力増幅器であり、トランジスタのドレイン電流(出力電流)に基づいて、ゲートバイアス発生回路によって行われるゲートバイアス電圧の出力動作を制御する機能を有するものである。
【0154】
図10に示した電力増幅器1000は、単体増幅器である電力増幅器700を2つ組み合わせたような構成を有しており、図9に示した電力増幅器900と、コントローラ914及びメモリ918の代わりに、コントローラ1014及びメモリ1018が設けられ、電力検出回路912の代わりに、電流検出回路1016が設けられている点で異なるが、それ以外の部分は同様である。図9に示した電力増幅器900と同一又は対応する部分は、同一の符号で示されている。図10において同一の符号で示した部分の動作や機能は、第5実施例において特に説明する以外は、図9に関連して説明したとおりであるので、詳細な説明は省略する。
【0155】
電力増幅器1000において、電流検出回路1016は、図7に示した電流検出器716と同様に、トランジスタ902−1、902−2のドレインに出力整合回路906−1、906−2、合成器924、及び整合回路930を介して電気的に接続され、トランジスタ902−1、902−2のドレインに流れるドレイン電流(合計値)を平均値(平均ドレイン電流)として継続的に検出する。電流検出回路1016は、検出されたドレイン電流の平均値を随時、コントローラ1014に出力する。電流検出回路1016としては例えば、周知の電流計を用いることができる。
【0156】
ここで、本願発明者は、実験により、Outphasing型もしくはChireix型の増幅器においては、移相器924が回転させる第2入力信号の位相値が同一であっても、電力増幅器において発振が生じている場合と発振が生じていない場合との間で、トランジスタ902−1、902−2のドレインに流れるドレイン電流(合計値)が異なる値をとることを見出した。本願発明者が行った実験によれば、同一の位相を有する第2入力信号を供給した場合であっても、発振が生じている場合のドレイン電流値は、発振が生じていない場合のドレイン電流値からずれることが観測された。
【0157】
この実験結果に基づいて、本願発明者は、電力増幅器において、ドレイン電流値を検出し、検出されたドレイン電流値を、発振が生じていない場合のドレイン電流値と比較することにより、電力増幅器において発振が生じているか否かを、より正確に判定することをできることを見出した。
【0158】
そこで、図10に示した電力増幅器1000では、位相検出回路932により、移相器934から出力される第2入力信号の位相(入力位相)を検出し、さらに、ドレイン電流(出力電流)を検出する。一方、コントローラ1014において、発振が生じない場合の第2入力信号の位相(入力位相)と出力電流(出力電流基準値)の関係を示す情報を、基準値テーブルとして、メモリ1018に予め記憶しておく。
【0159】
そして、検出された入力位相に基づいて、基準値テーブルから、入力位相の値に対応する出力電流基準値を取得し、取得された出力電流基準値と、検出された出力電流の値との差分値が一定値より大きいか否かを判定する。その差分値が一定値より大きい場合は、発振が生じていると判定し、その差分値が一定値より小さい場合は、発振は生じていないと判定する。
【0160】
コントローラ1014は、上述の基準値テーブルを格納するメモリ1018を含む。基準値テーブルは、電力増幅器1000において発振が生じていない場合の、第2入力信号の位相(入力位相)の値と、出力電流の値(出力電流基準値)の間の関係を示すテーブルであり、コントローラ1014内のメモリ1018に記憶されている。基準値テーブルの構成は、図8に示した基準値テーブル802と同様のものであり、複数の入力位相値ph_nと、各々の入力位相値ph_nに対応する出力電流基準値oc_nが格納されている。
【0161】
上述の基準値テーブルは、電力増幅器1000において製品出荷前に動作試験を行い、動作試験を通じて、入力位相を変化させながら、複数の入力位相値に対して、入力位相と、対応する出力電流を検出することにより作成される。上述の基準値テーブルは、検出された出力電流の値を出力電力基準値として、対応する入力位相値と関連づけてテーブルに格納していくことにより作成することができる。
【0162】
コントローラ1014は、位相検出回路932から、第2入力信号の位相(入力位相)の値を受けとり、電流検出回路1116から、ドレイン電流(出力電流)の平均値を受けとる。コントローラ1014は、受けとった第2入力信号の位相値と、受けとった出力電流値に基づいて、ゲートバイアス発生回路908‐1、908−2によって行われるゲートバイアス電圧の出力動作を制御し、ゲートバイアス発生回路908−1、908−2が出力すべきゲートバイアス電圧の設定値を決定する。コントローラ1014は、決定されたゲートバイアス電圧の設定値を示す第1電圧設定情報を生成し、ゲートバイアス電圧回路908−1に出力する。また、コントローラ1014は、決定されたゲートバイアス電圧の設定値を示す第2電圧設定情報を生成し、ゲートバイアス電圧回路908−2に出力する。
【0163】
第1増幅回路部942−1は、移相器934から、分配器922によって電力増幅器1000の入力ノードPinに供給された入力信号(第1入力信号)に基づいて生成された2つの入力信号のうちの一方の入力信号(第2入力信号)を受けとり、コントローラ1014から第1電圧設定情報を受けとる。第1増幅回路942−1は、電力検出回路912、位相検出回路934、電流検出回路1016、コントローラ1014、及びドレインバイアス発生回路910と協働して、飽和領域で動作する増幅器として動作する。第1増幅回路部942−1は、受けとった第2入力信号に対して増幅動作を行い、第1出力信号を合成器924に出力する。
【0164】
第2増幅回路部942−2は分配器922から、他方の入力信号(第3入力信号)を受けとり、コントローラ1014から第2電圧設定情報を受けとる。第2増幅回路部942−2は、電力検出回路912、位相検出回路934、電流検出回路1016、コントローラ1014、及びドレインバイアス発生回路910と協働して、飽和領域で動作する増幅器として動作する。第2増幅回路部942−2は、受けとった第3入力信号に対して増幅動作を行い、第2出力信号を合成器924に出力する。
【0165】
以上説明したように、電力増幅器1000においては、ドレイン電流(出力電流)を検出し、ドレイン電流の検出値を、予め用意された、発振が生じない場合の出力電流値(出力電流基準値)と比較することにより、実際に発振が生じているか否かを判定し、発振が生じていると判定された場合に、第1増幅回路部942−1においては、高調波信号が、入力整合回路904−1と出力整合回路906−1の間における信号の共振条件を満たさないようにし、第2増幅回路部942−2においては、高調波信号が、入力整合回路904−2と出力整合回路906−2の間における信号の共振条件を満たさないようにすることができる。これにより、発振現象が生じるのを抑止することができ、電力増幅器1000の動作が発振に起因して不安定になるのを防止することができる。
【0166】
加えて、電力増幅器1000においては、比較により発振が生じていないと判定された場合には、ゲートバイアス電圧をより小さい設定値に変更し、トランジスタ902−1、902−2に流れるドレイン電流を小さくすることができる。これにより、トランジスタ902−1、902−2の動作期間中に流れるドレイン電流の平均値を減少させることができ、トランジスタ902−1、902−2の信頼性が低下するのを防止することができる。
【0167】
尚、上述の例では、電流検出回路1016によりトランジスタ902−1、902−2のドレイン電流の合計値を検出するようにしたが、この構成には限定されず、合成器924の2つの入力ノードにそれぞれ電流検出回路を電気的に接続し、トランジスタ902−1、902−2のドレイン電流を個別に検出するようにしてもよい。この場合、ゲートバイアス発生回路908−1及び908−2のゲートバイアス電圧の出力動作はそれぞれ、コントローラ1014により、トランジスタ902−1、902−2の個別のドレイン電流値に基づいて制御される。
【0168】
以上、本発明の例示的な実施形態の電力増幅器について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。各実施例に開示された技術は、相互に矛盾することがない限り、適宜組合せることが可能であるものである。
【0169】
以上の第1ないし第6実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
基本波と高調波を含む入力信号を入力ノードで受けとり、前記入力信号の電力を増幅することにより出力信号を生成し、前記生成された出力信号を出力ノードから出力する増幅回路と、
前記増幅回路の入力ノードに接続され、前記入力信号の高調波処理を行う入力整合回路と、
前記増幅回路の出力ノードに接続され、前記出力信号の高調波処理を行う出力整合回路と、
を有し、
前記増幅回路は、前記入力信号の電力が所定の値より大きい値から前記所定の値より小さい値に低下したとき、前記生成される出力信号に含まれる高調波の整合点における出力インピーダンスの位相を回転させることを特徴とする電力増幅器。
(付記2)
前記増幅回路は、前記入力信号の電力に基づいて、前記出力インピーダンスの位相を、小さくなる方向に回転させることを特徴とする付記1記載の電力増幅器。
(付記3)
前記増幅回路は、ゲートを前記入力ノードとし、ドレインを前記出力ノードとするトランジスタであり、
前記電力増幅器は、
前記入力信号の電力が第1閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、第1電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記入力信号の電力が第2閾値より大きいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第1電圧値よりも小さい第2電圧値を有するバイアス電圧を供給するバイアス発生器をさらに有することを特徴とする付記2記載の電力増幅器。
(付記4)
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記トランジスタの入力電力と出力電力の間の特性において線形性を示す領域に含まれる入力電力値であることを特徴とする付記3記載の電力増幅器。
(付記5)
前記入力整合回路及び前記出力整合回路はそれぞれ、複数のスタブを含む分布定数線路であることを特徴とする付記2ないし4のいずれか1つに記載の電力増幅器。
(付記6)
前記増幅回路は、前記出力信号の電力に基づいて、前記生成される出力信号に含まれる高調波の整合点における前記出力インピーダンスの位相を、小さくなる方向に回転させることを特徴とする付記1記載の電力増幅器。
(付記7)
前記増幅回路は、ゲートを前記入力ノードとし、ドレインを前記出力ノードとするトランジスタであり、
前記電力増幅器は、
前記出力信号の電力が第1閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、第1電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記出力信号の電力が第2閾値より大きいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第1電圧値よりも小さい第2電圧値を有するバイアス電圧を供給するバイアス発生器をさらに有することを特徴とする付記6記載の電力増幅器。
(付記8)
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記トランジスタの入力電力と出力電力の間の特性において線形性を示す領域に含まれる出力電力値であることを特徴とする付記7記載の電力増幅器。
(付記9)
前記入力整合回路及び前記出力整合回路はそれぞれ、複数のスタブを含む分布定数線路であることを特徴とする付記6ないし8のいずれか1つ記載の電力増幅器。
(付記10)
前記増幅回路は、前記出力ノードに流れる出力電流に基づいて、前記生成される出力信号の高調波に含まれる高調波の整合点における前記出力インピーダンスの位相を、小さくなる方向に回転させることを特徴とする付記1記載の電力増幅器。
(付記11)
前記増幅回路は、ゲートを前記入力ノードとし、ドレインを前記出力ノードとするトランジスタであり、
前記電力増幅器は、
前記出力電流の値と基準値との差が第1閾値よりも大きいとき、前記トランジスタのゲートに、第1電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記出力電流の値と前記基準値との差が第2閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第1電圧値よりも小さい第2電圧値を有するバイアス電圧を供給するバイアス発生器をさらに有することを特徴とする付記10記載の電力増幅器。
(付記12)
前記電力増幅器は、前記電力増幅器が正常に動作する場合の、前記入力信号の電力値と前記出力電流の値の関係を示す基準値情報をさらに含み、
前記基準値情報に基づいて、前記入力ノードで受けとられた前記入力信号の電力値に対応する前記出力電力の値を取得することにより、前記基準値を決定することを特徴とする付記11記載の電力増幅器。
(付記13)
前記入力整合回路及び前記出力整合回路はそれぞれ、複数のスタブを含む分布定数線路であることを特徴とする付記10ないし12のいずれか1つに記載の電力増幅器。
(付記14)
基本波と高調波を含む第1入力信号を受けとり、受けとった前記第1入力信号に基づいて、前記基本波と前記高調波を含む第2入力信号及び第3入力信号を生成する分配器と
前記第2入力信号を第1入力ノードで受けとり、前記第2入力信号の電力を増幅することにより第1出力信号を生成し、前記生成された第1出力信号を第1出力ノードから出力する第1増幅回路と、
前記第1増幅回路の第1入力ノードに接続され、前記第2入力信号の高調波処理を行う第1入力整合回路と、
前記第1増幅回路の第1出力ノードに接続され、前記第1出力信号の高調波処理を行う第1出力整合回路と、
前記第3入力信号を第2入力ノードで受けとり、前記第3入力信号の電力を増幅することにより第2出力信号を生成し、前記生成された第2出力信号を第2出力ノードから出力する第2増幅回路と、
前記第1増幅回路の第2入力ノードに接続され、前記第2入力信号の高調波処理を行う第2入力整合回路と、
前記第1増幅回路の第2出力ノードに接続され、前記第2出力信号の高調波処理を行う第2出力整合回路と、
前記第1出力信号と前記第2出力信号を合成し、第3出力信号を生成する合成器と、
を有し、
前記第1増幅回路は、前記第3出力信号の出力電力に基づいて、前記生成される第1出力信号に含まれる高調波の整合点における出力インピーダンスの位相を回転させ、
前記第2増幅回路は、前記第3出力信号の前記出力電力に基づいて、前記生成される第2出力信号に含まれる高調波の整合点における出力インピーダンスの位相を回転させることを特徴とする電力増幅器。
(付記15)
前記第1増幅回路は、ゲートを前記第1入力ノードとし、ドレインを前記第1出力ノードとするトランジスタであり、
前記第2増幅回路は、ゲートを前記第2入力ノードとし、ドレインを前記第2出力ノードとするトランジスタであり、
前記第1電力増幅器は、
前記出力電力の値と基準値との差が第1閾値よりも大きいとき、前記第1トランジスタのゲートに、第1電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記出力電力の値と前記基準値との差が第2閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第1電圧値よりも小さい第2電圧値を有するバイアス電圧を供給する第1バイアス発生器をさらに有し、
前記第2電力増幅器は、
前記出力電力の値と前記基準値との差が前記第1閾値よりも大きいとき、前記第2トランジスタのゲートに、第3電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記出力電力の値と前記基準値との差が前記第2閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第3電圧値よりも小さい第4電圧値を有するバイアス電圧を供給する第2バイアス発生器をさらに有することを特徴とする付記14記載の電力増幅器。
(付記16)
前記電力増幅器は、前記電力増幅器が正常に動作する場合の、前記第2入力信号の位相の値と前記出力電力の値の関係を示す基準値情報をさらに含み、
前記基準値情報に基づいて、前記第2入力信号の位相値に対応する前記出力電力の値を取得することにより、前記基準値を決定することを特徴とする付記15記載の電力増幅器。
(付記17)
基本波と高調波を含む第1入力信号を受けとり、受けとった前記第1入力信号に基づいて、前記基本波と前記高調波を含む第2入力信号及び第3入力信号を生成する分配器と
前記第2入力信号を第1入力ノードで受けとり、前記第2入力信号の電力を増幅することにより第1出力信号を生成し、前記生成された第1出力信号を第1出力ノードから出力する第1増幅回路と、
前記第1増幅回路の第1入力ノードに接続され、前記第2入力信号の高調波処理を行う第1入力整合回路と、
前記第1増幅回路の第1出力ノードに接続され、前記第1出力信号の高調波処理を行う第1出力整合回路と、
前記第3入力信号を第2入力ノードで受けとり、前記第3入力信号の電力を増幅することにより第2出力信号を生成し、前記生成された第2出力信号を第2出力ノードから出力する第2増幅回路と、
前記第1増幅回路の第2入力ノードに接続され、前記第2入力信号の高調波処理を行う第2入力整合回路と、
前記第1増幅回路の第2出力ノードに接続され、前記第2出力信号の高調波処理を行う第2出力整合回路と、
前記第1出力信号と前記第2出力信号を合成し、第3出力信号を生成する合成器と、
を有し、
前記第1増幅回路は、前記合成器の出力ノードに流れる出力電流に基づいて、前記生成される第1出力信号に含まれる高調波の整合点における出力インピーダンスの位相を回転させ、
前記第2増幅回路は、前記合成器の出力ノードに流れる前記出力電流に基づいて、前記生成される第2出力信号に含まれる高調波の整合点における出力インピーダンスの位相を回転させることを特徴とする電力増幅器。
(付記18)
前記第1増幅回路は、ゲートを前記第1入力ノードとし、ドレインを前記第1出力ノードとするトランジスタであり、
前記第2増幅回路は、ゲートを前記第2入力ノードとし、ドレインを前記第2出力ノードとするトランジスタであり、
前記第1電力増幅器は、
前記出力電流の値と基準値との差が第1閾値よりも大きいとき、前記第1トランジスタのゲートに、第1電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記第3出力電流の値と前記基準値との差が第2閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第1電圧値よりも小さい第2電圧値を有するバイアス電圧を供給する第1バイアス発生器をさらに有し、
前記第2電力増幅器は、
前記出力電流の値と前記基準値との差が前記第1閾値よりも大きいとき、前記第2トランジスタのゲートに、第3電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記出力電流の値と前記基準値との差が前記第2閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第3電圧値よりも小さい第4電圧値を有するバイアス電圧を供給する第2バイアス発生器をさらに有することを特徴とする付記17記載の電力増幅器。
(付記19)
前記電力増幅器は、前記電力増幅器が正常に動作する場合の、前記第2入力信号の位相の値と前記出力電流の値の関係を示す基準値情報をさらに含み、
前記基準値情報に基づいて、前記第2入力信号の位相値に対応する前記出力電流の値を取得することにより、前記基準値を決定することを特徴とする付記18記載の電力増幅器。
【符号の説明】
【0170】
100 電力増幅器、
102 トランジスタ、
104 入力整合回路、
106 出力整合回路、
108 ゲートバイアス発生回路、
110 ドレインバイアス発生回路、
400 電力増幅器、
402 トランジスタ、
404 入力整合回路、
406 出力整合回路、
408 ゲートバイアス発生回路、
410 ドレインバイアス発生回路、
412 電力検出回路、
414 コントローラ、
502 伝送線路、
504、506、508、510 スタブ、
512 伝送線路、
514、516、518、520 スタブ、
600 電力増幅器、
612 電力検出回路、
614 コントローラ、
700 電力増幅器、
714 コントローラ、
716 電流検出回路、
718 メモリ、
802 基準値テーブル、
900 電力増幅器、
902−1 トランジスタ、
902−2 トランジスタ、
904−1 入力整合回路、
904−2 入力整合回路、
906−1 出力整合回路、
906−2 出力整合回路、
908−1 ゲートバイアス発生回路、
908−2 ゲートバイアス発生回路、
910 ドレインバイアス発生回路、
912 電力検出回路、
914 コントローラ、
918 メモリ、
922 分配器、
924 合成器、
926、928 移相器、
930 整合回路、
932 位相検出回路、
934 移相器、
942−1 第1増幅回路部、
942−2 第2増幅回路部、
1000 電力増幅器、
1014 コントローラ、
1018 メモリ、
1016 電流検出回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本波と高調波を含む入力信号を入力ノードで受けとり、前記入力信号の電力を増幅することにより出力信号を生成し、前記生成された出力信号を出力ノードから出力する増幅回路と、
前記増幅回路の入力ノードに接続され、前記入力信号の高調波処理を行う入力整合回路と、
前記増幅回路の出力ノードに接続され、前記出力信号の高調波処理を行う出力整合回路と、
を有し、
前記増幅回路は、前記入力信号の電力が所定の値より大きい値から前記所定の値より小さい値に低下したとき、前記生成される出力信号に含まれる高調波の整合点における出力インピーダンスの位相を回転させることを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
前記増幅回路は、前記入力信号の電力に基づいて、前記出力インピーダンスの位相を、小さくなる方向に回転させることを特徴とする請求項1記載の電力増幅器。
【請求項3】
前記増幅回路は、ゲートを前記入力ノードとし、ドレインを前記出力ノードとするトランジスタであり、
前記電力増幅器は、
前記入力信号の電力が第1閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、第1電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記入力信号の電力が第2閾値より大きいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第1電圧値よりも小さい第2電圧値を有するバイアス電圧を供給するバイアス発生器
をさらに有することを特徴とする請求項2記載の電力増幅器。
【請求項4】
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記トランジスタの入力電力と出力電力の間の特性において線形性を示す領域に含まれる入力電力値であることを特徴とする請求項3記載の電力増幅器。
【請求項5】
前記増幅回路は、前記出力信号の電力に基づいて、前記生成される出力信号に含まれる高調波の整合点における前記出力インピーダンスの位相を、小さくなる方向に回転させることを特徴とする請求項1記載の電力増幅器。
【請求項6】
前記増幅回路は、ゲートを前記入力ノードとし、ドレインを前記出力ノードとするトランジスタであり、
前記電力増幅器は、
前記出力信号の電力が第1閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、第1電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記出力信号の電力が第2閾値より大きいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第1電圧値よりも小さい第2電圧値を有するバイアス電圧を供給するバイアス発生器
をさらに有することを特徴とする請求項5記載の電力増幅器。
【請求項7】
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記トランジスタの入力電力と出力電力の間の特性において線形性を示す領域に含まれる出力電力値であることを特徴とする請求項6記載の電力増幅器。
【請求項8】
前記増幅回路は、前記出力ノードに流れる出力電流に基づいて、前記生成される出力信号の高調波に含まれる高調波の整合点における前記出力インピーダンスの位相を、小さくなる方向に回転させることを特徴とする請求項1記載の電力増幅器。
【請求項9】
前記増幅回路は、ゲートを前記入力ノードとし、ドレインを前記出力ノードとするトランジスタであり、
前記電力増幅器は、
前記出力電流の値と基準値との差が第1閾値よりも大きいとき、前記トランジスタのゲートに、第1電圧値を有するバイアス電圧を供給し、前記出力電流の値と前記基準値との差が第2閾値よりも小さいとき、前記トランジスタのゲートに、前記第1電圧値よりも小さい第2電圧値を有するバイアス電圧を供給するバイアス発生器
をさらに有することを特徴とする請求項8記載の電力増幅器。
【請求項10】
前記電力増幅器は、前記電力増幅器が正常に動作する場合の、前記入力信号の電力値と前記出力電流の値の関係を示す基準値情報をさらに含み、
前記基準値情報に基づいて、前記入力ノードで受けとられた前記入力信号の電力値に対応する前記出力電力の値を取得することにより、前記基準値を決定することを特徴とする請求項9記載の電力増幅器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−110660(P2013−110660A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255754(P2011−255754)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】