説明

電力変換装置及び電力変換システム

【課題】更なる信頼性向上を図れる電力変換装置及び電力変換システムを提供すること。
【解決手段】上記課題を解決するために、例えば、インバータ回路は、前記モータ制御回路からのPWM信号に基づき前記インバータ回路を構成する半導体スイッチング素子を駆動するゲートドライブ回路とサージ電圧検出信号を検出するサージ電圧検出回路を備え、サージ電圧検出回路により検出されたサージ電圧検出信号はモータ制御回路に入力され、サージ電圧検出信号を検出した際に前記電流指令生成部からの電流指令値と所定の電流指令値と対比することによりサージ電圧を抑制するサージ電圧抑制手段の実施の可否を選択するような手段を設けるようにすればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ主回路を構成する半導体スイッチング素子が遮断時に発生するサージ電圧を検出し、電流指令値と対比することで、インバータ主回路の異常検出するインバータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数のスイッチング素子によって構成される電力変換装置において、前記スイッチング素子が遮断時に発生するサージ電圧から過電圧破壊を防ぐ手法は知られており、例えば、特許文献1では、スイッチング素子のコレクタ電圧を分圧した電位を検出することでサージ電圧を検出し、異常判定の際には電動機トルク制限指令信号によって電動機のトルクを制限している。
【0003】
さらに、特許文献2では、IGBTのコレクタ・エミッタ間に印加される電圧が定電圧ダイオードの定電圧レベル異常になると、定電圧ダイオードとダイオードを経由してゲート電流を流すことでゆっくりとターンオフさせることで過大な電圧が印加されるのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−236371号公報
【特許文献2】特開平7−170654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献いずれの手法においては、あくまで大電流駆動時の最大サージ電圧の検出を想定するものであり、実モータ駆動時で多用される小電流領域でのサージ電圧に対しては考慮されていない。そのため、インバータ主回路の異常検知に対する信頼性が損なわれる可能性があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、更なる信頼性向上を図れる電力変換システムおよび電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、例えば、サージ電圧検出回路により検出されたサージ電圧検出信号はモータ制御回路に入力され、サージ電圧検出信号を検出した際に前記電流指令生成部からの電流指令値と所定の電流指令値と対比することによりサージ電圧を抑制するサージ電圧抑制手段の実施の可否を選択するような手段を設けるようにすればよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性の高い電力変換システムおよび電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る電力変換システムのモータ制御装置の制御ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るサージ電圧検出装置のブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るサージ電圧検出動作波形である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るサージ電圧検出のフローチャートである。
【図6】半導体スイッチング素子の50Aおよび650A遮断時の波形例である。
【図7】半導体スイッチング素子におけるコレクタ電流とサージ電圧の関係例である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るサージ電圧検出のフローチャートである。
【図10】本発明の第3の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係るサージ電圧検出のフローチャートである。
【図13】本発明の第3の実施形態に係るサージ電圧検出レベルと半導体スイッチング素子の保護範囲である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る電力変換システムおよび電力変換装置について簡単に原理を説明する。
【0011】
インバータをはじめとする電力変換システムは、半導体スイッチング素子の組み合わせにより構成され、各素子を順次スイッチング動作させることで、電力変換を実施している。半導体スイッチング素子のスイッチング動作時において、その遮断時にはスイッチング速度により、跳ね上がり(サージ)電圧が発生する。
【0012】
半導体スイッチング素子のコレクタ−エミッタ間(またはドレイン−ソース間)に印加されている電圧に対して、このサージ電圧が、半導体スイッチング素子の耐圧を超える場合には、半導体スイッチング素子は自らのサージ電圧により過電圧破壊をきたす可能性がある。
【0013】
サージ電圧は、V=L×di/dtで計算される主回路インダクタンスLまたは電流変化率di/dtに比例した電圧である。すなわち、インバータの出力電流が大きく、di/dtが大きくなる程、発生するサージ電圧は出力電流値に比例して大きくなる特徴がある。
【0014】
一般的に、半導体スイッチング素子のゲートドライブ回路設計の際には、使用する半導体スイッチング素子のサージ電圧が耐圧を超えないように、ゲート抵抗を設定する等のマッチングを行っている。そのため、サージ電圧そのものはモニタされておらず、電力変換システム駆動中の経年劣化やシステムの不具合等により、主回路インダクタンスや電流変化率に変化が生じてサージ電圧が拡大していたとしても、半導体スイッチング素子が破壊に至るまでに捉えることは難しかった。
【0015】
本発明の実施形態に係る電力変換システムおよび電力変換装置は、ゲートドライブ回路に設けたサージ電圧検出手段からのサージ電圧検出信号をモニタし、モータ制御回路の電流指令生成部にて生成される電流指令値とその電流指令値に相対するサージ電圧値との対比を行うことを特徴とする。
【0016】
ここで、インバータ出力電流値に相対した所定の電圧値以上のサージ電圧が検出された場合には、サージ電圧異常検出信号を出力するとともに、電流制御系のゲイン調整や出力電流を制限することで、半導体スイッチング素子への過大なサージ電圧印加を防ぐことができる。
【0017】
特に、小電流領域でのサージ電圧検出を積極的に実施することで、主回路インピーダンスの変化を早期に検出できるため、更なる信頼性向上を図れるモータ制御装置を提供することができる。
【0018】
以下、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る電力変換システムのモータ制御装置の制御ブロック図である。モータ1は永久磁石同期モータであり、回転速度および磁極位置はレゾルバやエンコーダ等の回転センサにより検出される。モータ1は、ケーブルを介してインバータ回路2と接続されており、電力の供給を受けている。
【0020】
インバータ回路2は、IGBT等の半導体スイッチング素子から構成されており、PWM信号により各相上下アームをスイッチングすることで電力変換を行っている。インバータ回路2から出力され、ケーブルを介してモータ1へ流れる電流は、電流センサ3より検出される。電流センサ3により検出されたインバータ出力電流値は、モータ制御回路4内の演算処理装置に含まれるA/D変換機能等を介して、電流制御部8へフィードバックされる。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係るサージ電圧検出装置のブロック図である。
【0022】
電流指令は、上位コントローラからのトルク指令値τ*とモータ1の回転速度ωおよび磁極位置θをモータ制御回路4の電流指令生成部7で生成される。生成された電流指令値は、モータ制御回路4の電流制御部8にて、電流センサ3より検出されたインバータ出力電流のフィードバック値との偏差を演算し、制御器を通じてPWM信号へ変換される。PWM信号は、ゲートドライブ回路5を介してIGBT等の半導体スイッチング素子をスイッチング駆動させている。
【0023】
次に、第1の実施形態におけるサージ電圧検出手段を以下説明する。
【0024】
図3は、第1の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。所定のツェナー電圧を有するツェナーダイオードと逆流防止用ダイオードと抵抗器を直列接続した回路は、半導体スイッチング素子のコレクタ−エミッタ間(またはドレイン−ソース間)に、前記半導体スイッチング素子と並列に接続される。この回路構成により、半導体スイッチング素子の遮断時にコレクタ−エミッタ間(またはドレイン−ソース間)に印加されるサージ電圧が所定のツェナー電圧を超えた時に発生するツェナー電流を検出する。
【0025】
次に、図4を用いて、第1の実施形態に係るサージ電圧検出動作波形について説明する。所定のツェナー電圧Vzを有するツェナーダイオードは、Vzを超えるサージ電圧が印加されることによって、ツェナー電流Izを流す。ツェナー電流は微小な電流であるので、図3に示すような差動増幅回路等により、検出レベルを増幅する。
【0026】
また、サージ電圧は数十ns単位の短時間で変化する電圧であり、この電圧を検出信号として捕らえるために、サージ電圧検出回路には、検出したツェナー電流を一定時間保持するラッチ回路または検出したツェナー電流をトリガとした1ショットパルス出力回路を備えることが望ましい。
【0027】
サージ電圧検出回路により検出されたサージ電圧検出信号Vsは、フォトカプラ等の絶縁伝達素子により、モータ制御回路に備えられた演算処理装置等へ入力される。演算処理装置は、入力されるサージ電圧検出信号Vsoのレベル(H/L)で、所定の電圧値以上のサージ電圧印加の有無を判定する。
【0028】
図5は第1の実施形態に係るサージ電圧検出のフローチャートである。ステップS101は、図3に示したサージ電圧検出回路からのサージ電圧検出信号Vsoのレベル判定部である。所定の電圧値以上のサージ電圧印加がある場合には、サージ電圧検出回路よりVsoはLとして入力される。
【0029】
一方、サージ電圧検出信号VsoがHである場合は、所定の電圧値以上のサージ電圧は発生していないので、通常のインバータ駆動を継続する。サージ電圧検出信号VsoがLである場合には、次のステップS102で、サージ電圧検出時における電流指令値の妥当性比較を行う。
【0030】
ここで、モータ制御回路上の演算処理装置では、電流指令値を随時モニタしており、サージ電圧検出信号VsoがLレベルで入力された時点での電流指令値Is_cmdをメモリへ記憶しておく。一方で、サージ電圧検出レベルは、ツェナー電圧により設定できるので、予め任意のサージ電圧検出レベルを設定しておく。出力電流値に対するサージ電圧との相関関係より、ある所定の電流指令値I_cmdでの駆動時に発生するサージ電圧よりも大きいツェナー電圧を有するツェナーダイオードを用いてサージ電圧検出回路を構成しておく。
【0031】
ステップS102では、サージ電圧検出時の電流指令値Is_cmdと予め設定しておいた所定の電流指令値I_cmdを比較し、Is_cmd≦I_cmdである場合には、本来発生することのないサージが発生しているものと判定される。
【0032】
正常動作時には、所定の電流値I_cmdに対するサージ電圧が設定したツェナー電圧を超えることが無いため、サージ電圧検出信号は出力されない。また、サージ電圧検出時の電流指令値Is_cmdが設定された所定の電流指令値以上であった場合(Is_cmd>I_cmd)には、サージ電圧が検出されても良い電流領域であるため通常のモータ駆動を継続する。
【0033】
ステップS102で、設定された電流指令値以下であった場合(Is_cmd≦I_cmd)には、サージ電圧異常が発生しているものと判断し、ステップS103でサージ電圧異常、主回路異常判定の信号を出力する。さらに、ステップS103からのサージ電圧異常信号を受け、ステップS104では、以降のモータ駆動に対して出力電流値を制限するための電流出力制限信号を出力する。
【0034】
サージ電圧異常判定により、インバータ出力電流値を抑えることで、大電流駆動時のサージ電圧による半導体スイッチング素子の過電圧破壊を防ぐことができる。また、小電流領域でのサージ電圧異常を早期に検出することにより、大電流駆動への電流移行中に主回路異常が検出できるため、信頼性の高い電力変換システムおよび電力変換装置を提供することができる。
【0035】
本実施形態におけるサージ電圧検出に関して、具体例を用いて以下説明する。
【0036】
図6は、半導体スイッチング素子遮断時のコレクタ電圧およびコレクタ電流の動作波形例である。図6(a)は50A遮断時、図6(b)は650A遮断時のコレクタ電圧およびコレクタ電流をそれぞれ示す。また、図7は半導体スイッチング素子におけるコレクタ電流とサージ電圧の関係例を示す。50A、650A遮断時のサージ電圧は、それぞれ450V、620Vに達し、出力電流が大きいほどサージ電圧が大きい。
【0037】
ここでは、サージ電圧検出レベルは480Vと設定し、ツェナー電圧Vz=480Vのツェナーダイオードを用いてサージ電圧検出を行い、サージ電圧異常検出時に演算処理装置で妥当性比較を行う所定の電流指令値はI_cmd=50Aとしている。
【0038】
通常の50A遮断時のサージ電圧は450Vであり、ツェナー電圧480V以下であるため、サージ電圧検出信号は出力されない。一方で、200A以上での遮断時では、サージ電圧は480Vを超えてくるため、サージ電圧検出信号が出力されるが、モータ制御回路に備えられた演算処理装置での、電流指令値の妥当性比較により、Is_cmd>50Aのため異常判定はされない。
【0039】
図7に示す破線グラフは、電力変換システムの経年劣化による主回路インダクタンス拡大や電流センサ等の不具合により、サージ電圧が拡大した場合を想定したものである。コレクタ電流に対するサージ電圧が全体的に30V大きくなると仮定すると、従来50A遮断時に発生していた450Vのサージ電圧は480Vへ拡大し、650A遮断時に発生していた620Vのサージ電圧は650Vまで拡大してしまう。その結果、650A遮断時のサージ電圧はIGBT素子の耐圧である650Vに達してしまうため、過電圧破壊に繋がる恐れがある。
【0040】
しかし、本実施例を適用することにより、480Vのサージ電圧検出レベルと所定の電流指令値I_cmd=50Aの設定をすることで、電流指令50A遮断時に発生した480Vのサージ電圧を異常電圧として検出することができる。さらに、小電流駆動時にサージ電圧異常を検出して、電流指令値を制限することによって、650A遮断時による650Vのサージ電圧の印加を避けることができる。
【0041】
以上のように、所定の電流指令値に対するサージ電圧検出信号の有無によって、本来検出されるはずの無い小電流領域でサージ電圧異常の信号を認識した場合に、主回路インダクタンスまたは電流変化率に異常をもたらす変化がモータ制御システム内で発生していることを認識でき、さらに電流指令制限等のサージ電圧抑制手段を用いることで、半導体スイッチング素子への大電流駆動によるサージ電圧印加を避けることができる。
【0042】
<第2の実施形態>
図8は、第2の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。図1および図2に示す基本的なモータ制御ブロック図は第1の実施形態と同様である。また、サージ電圧の検出方法および演算処理装置での電流指令値の妥当性比較も第1の実施形態と同様である。
【0043】
第2の実施形態におけるサージ電圧検出回路は、第1の実施形態に加え、ゲートドライブ回路にゲート抵抗の切り替え機能を追加した形態である。
【0044】
接続されるゲート抵抗は、通常駆動時のゲート抵抗値Rを有する抵抗器Aと、Rよりも大きいゲート抵抗値Rsを有する抵抗器Bである(R<Rs)。通常のモータ駆動時には、ゲート抵抗は抵抗器Aに接続されている。
【0045】
図9は、第2の実施形態に係るサージ電圧検出のフローチャートである。第1の実施形態と同様に所定のサージ電圧検出レベルを設定し、モータ制御装置上の演算処理装置が、ステップS102でサージ電圧検出時の電流指令値の妥当性比較により、サージ電圧検出時の電流指令値Is_cmdと予め設定しておいた所定の電流指令値I_cmdを比較し、Is_cmd≦I_cmdであると判定した場合には、ステップS103よりサージ電圧異常、主回路異常判定の信号を出力する。ステップS103からのサージ電圧異常信号を受け、ステップS105でゲート抵抗切り替え信号を出力する。演算処理装置から出力されたゲート抵抗切り替え信号により、ゲートドライブ回路では、通常駆動時に接続されている抵抗器Aから、ゲート抵抗Aよりも大きい抵抗値を有するゲート抵抗器Bへ接続を切り替えることにより、半導体スイッチング素子のdi/dtを調整してサージ電圧を抑制する。
【0046】
なお、本実施例は、第1の実施例に示した出力電流値の制限と併用しても良い。
【0047】
<第3の実施形態>
図10は、第3の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。図1および図2に示す基本的なモータ制御ブロック図は第1の実施形態と同様である。
【0048】
第3の実施形態におけるサージ電圧検出回路は、第1または第2の実施例に加えて、ツェナー電圧の異なるツェナーダイオードと逆流防止ダイオードと抵抗器を直列接続した回路を半導体スイッチング素子と並列に接続することで、サージ電圧検出レベルの異なるサージ電圧検出回路を追加した形態である。サージ電圧検出回路1〜3には、ツェナー電圧の異なるツェナーダイオード1〜3を用いており、検出したツェナー電流を一定時間保持するラッチ回路または1ショットパルス出力回路を有する。
【0049】
ここで、任意に設定するツェナー電圧Vz1〜Vz3がサージ電圧検出レベルであり、各検出レベルを超えたサージ電圧が印加された場合に、各々のサージ電圧検出回路からの検出信号Vso1〜Vso3が出力される。ここでは、各ツェナーダイオードは、ツェナー電圧1<ツェナー電圧2<ツェナー電圧3となる異なるツェナー電圧をそれぞれ有する。
【0050】
なお、図11に示すように、ツェナー電圧の異なるツェナーダイオードを複数直列接続することで、サージ電圧検出レベルを設定する構成としても良い。
【0051】
図12は、第3の実施形態におけるサージ電圧検出のフローチャートである。出力されたサージ電圧検出信号Vso1〜Vso3に従って、検出したサージ電圧のレベルを場合分けすることができるので、各々のサージ電圧レベルに妥当性比較用の電流指令値I_cmd_1〜I_cmd_3を設定する。
【0052】
ここでは、サージ電圧検出レベルとして、ツェナーダイオード1〜3のツェナー電圧は、Vz1=480V、Vz2=540V、Vz3=600Vと設定し、比較用電流指令値は、I_cmd_1=50A、I_cmd_2=300A、I_cmd_3=500A、と設定する。
【0053】
まずステップS201〜203では、サージ電圧検出信号Vso1、Vso2、Vso3のH/L組み合わせにより、
Vso1=L、Vso2=H、Vso3=Hは、480V以上、540V未満のサージ電圧検出、
Vso1=L、Vso2=L、Vso3=Hは、540V以上、600V未満のサージ電圧検出、
Vso1=L、Vso2=L、Vso3=Lは、600V以上のサージ電圧検出、
というように、検出したサージ電圧のレベルを区分けすることができる。
【0054】
ステップS201では、480V以上のサージ電圧検出有無をサージ電圧検出信号Vso1により判定する。
【0055】
Vso1=Hの場合は、サージ電圧検出無しの判定であり、モータ駆動を継続する。
【0056】
Vso1=Lの場合は、ステップS202にて、540V以上のサージ電圧検出有無をサージ電圧検出信号Vso2により判定する。
【0057】
Vso2=Hの場合は、480V以上、540V未満のサージ電圧検出と判定され、ステップS211にて、サージ電圧検出時の電流指令値Is_cmdと予め設定した電流指令値I_cmd_1=50Aとを比較する。Is_cmd≦I_cmd_1であれば、ステップS221でサージ電圧異常信号を出力すると共に、ステップS231でゲートドライブ回路上のゲート抵抗切り替えによるサージ電圧抑制手段を実施する。一方で、Is_cmd>I_cmd_1であれば、大電流駆動でのサージ電圧検出と判断され、通常のモータ駆動を継続する。
【0058】
Vso2=Lの場合は、ステップS203にて、Vz3=600V以上のサージ電圧検出有無をサージ電圧検出信号Vso3により判定する。
【0059】
Vso3=Hの場合は、540V以上、600V未満のサージ電圧検出と判定され、ステップS212にて、サージ電圧検出時の電流指令値Is_cmdと予め設定した電流指令値I_cmd_2=300Aとを比較する。Is_cmd≦I_cmd_2であれば、ステップS222でサージ電圧異常信号を出力すると共に、ステップS232で電流指令制限によるサージ電圧抑制手段を実施する。一方で、Is_cmd>I_cmd_2であれば、電流指令値に対するサージ電圧異常があるが、モータの継続駆動は可能と判断できるため、ステップS211でサージ電圧異常信号を出力すると共に、ステップS231でゲートドライブ回路上のゲート抵抗切り替えによるサージ電圧抑制手段を実施する。
【0060】
Vso3=Lの場合は、600V以上のサージ電圧検出と判定され、ステップS213にて、サージ電圧検出時の電流指令値Is_cmdと予め設定した電流指令値I_cmd_3=500Aとを比較する。Is_cmd≦I_cmd_3であれば、500A以下での遮断時に600V以上のサージ電圧が発生していると判定できるので、ステップS223でサージ電圧異常信号を出力すると共に、ステップS233でモータ駆動を即停止する。
【0061】
一方で、Is_cmd>I_cmd_3であれば、電流指令値に対するサージ電圧異常があるが、モータの継続駆動は可能と判断できるため、ステップS222でサージ電圧異常信号を出力すると共にステップS232で電流指令制限によるサージ電圧抑制手段を実施する。
【0062】
図13は第3の実施形態に係るサージ電圧検出レベルと半導体スイッチング素子の保護範囲を示す。サージ電圧検出レベルVzと所定の電流指令値I_cmdで囲まれる範囲が、各サージ電圧抑制手段が適用される範囲であり、上述した実施例に依れば、電流指令値I_cmd_1=50Aとサージ電圧検出レベルVz1=480Vで設定され、2点鎖線で囲まれる範囲では、ゲート抵抗切り替えによるサージ電圧抑制手段を実施し、電流指令値I_cmd_2=300Aとサージ電圧検出レベルVz2=540Vで設定され、1点鎖線で囲まれる範囲では、電流指令制限によるサージ電圧抑制手段を実施し、電流指令値I_cmd_3=500Aとサージ電圧検出レベルVz2=600Vで設定され、実太線で囲まれる範囲ではモータ駆動を停止する。
【0063】
以上のように、複数設けたサージ電圧検出レベルとサージ電圧検出時点での電流指令値との比較により、サージ電圧抑制手段を切り替えることができる。
【0064】
サージ電圧検出レベルに対して実施するサージ電圧抑制手段の組み合わせは任意であり、種々のサージ電圧抑制手段を持つことにより、半導体スイッチング素子の過電圧破壊を避けながら、モータ駆動を継続できる電力変換システムおよび電力変換装置を提供することができる。
【0065】
<第4の実施形態>
図14は、第4の実施形態に係るサージ電圧検出回路である。図1および図2に示す基本的なモータ制御ブロック図は第1の実施形態と同様である。第4の実施形態におけるサージ電圧検出回路は、半導体スイッチング素子のコレクタ−エミッタ(またはドレイン−ソース)間に印加される電圧を抵抗器で分圧して直接検出する。分圧されたコレクタ(またはドレイン)電圧は、ピークホールド回路を介することで、印加されたサージ電圧のピーク値Vpとして一定時間出力される。なお、サージ電圧検出レベルは、分圧抵抗の分圧比により決定される。
【0066】
また、図15に示すように、分圧したコレクタ(またはドレイン)電圧は、差動増幅回路等を介して検出可能なレベルに変換し、マイクロコンピュータ等の演算処理装置で検出しても良い。演算処理装置等を用いることで、サージ電圧検出レベルはソフトで任意に設定することができる。そして、演算処理装置内で、任意に設定するサージ電圧検出レベルを閾値とし、ピークホールド回路から出力されたサージ電圧のピーク値とを比較することで、サージ電圧検出信号Vsの出力を決定する。
【0067】
上述したサージ電圧検出回路により検出されたサージ電圧のピーク値Vp、またはサージ電圧検出信号Vsは、フォトカプラ等の絶縁伝達素子により、モータ制御回路に備えられた演算処理装置等へ入力される。演算処理装置は、入力されるサージ電圧検出信号Vsoのレベル(H/L)で、所定の電圧値以上のサージ電圧印加の有無を判定する。
【0068】
本実施形態におけるサージ電圧異常検出後の処理は、第1の実施形態と同様に、図5で示すフローチャートに従い、サージ電圧抑制手段として電流指令を制限する手段を実施する。また、第2の実施形態のように、ゲート抵抗切り替え機能を備える場合には、図9に示すフローチャートに従い、サージ電圧抑制手段としてゲート抵抗切り替え手段を実施しても良い。さらに、第3の実施形態のように、複数のサージ電圧検出回路を備える場合には、図12に示すフローチャートに従い、サージ電圧検出レベルと電流指令値により、複数のサージ電圧抑制手段を切り替える手段を実施しても良い。
【0069】
以上、第1から第4の実施形態の適用により、サージ電圧を検出することでIGBT等の半導体スイッチング素子を過電圧破壊から防ぐことが可能となり、信頼性の高い電力変換装置を提供することが可能になる。
【0070】
また、上述したサージ電圧検出手段は、インバータ主回路のインダクタンスや電流変化率の異常によるサージ電圧の拡大を検知すると共に、サージ電圧異常判定部よりフェール信号を出力し、そのフェール信号をもとにモータ制御装置の操作盤や制御機器に表示する。例えば、電気自動車に適用される場合には、内部パネルに警告ランプを点灯させる等を実施することにより、モータ制御装置操作者またはメンテナンス作業者へ、サージ電圧異常を通知することができる。
【0071】
加えて、小電流領域でのサージ電圧異常を早期に検出することにより、トルク制限をかけるまたはゲート抵抗を切り替える等のサージ電圧抑制手段を実施することで、半導体スイッチング素子への過電圧印加を避けながら、モータ制御システムを継続駆動することが可能になるため、信頼性の高い電力変換装置を提供することが可能となる。
【0072】
本発明の応用範囲としては、本文中で例を挙げた永久磁石同期モータ駆動システムを利用した自動車の他、エレベータ、圧縮機等、半導体スイッチング素子により構成された電力変換回路を有し、特に遮断時には、半導体スイッチング素子にサージ電圧が印加されるようなシステムとそのシステムを利用している機器が考えられる。
【符号の説明】
【0073】
1 モータ
2 インバータ回路
3 電流センサ
4 モータ制御回路
5 ゲートドライブ回路
6 サージ電圧検出手段
7 電流指令生成部
8 電流制御部
9 ツェナーダイオード
10 逆流防止ダイオード
11 検出抵抗器
12 増幅回路
13 ラッチ回路
14 絶縁伝達素子
15 ゲート抵抗A
16 ゲート抵抗B
17 ゲート抵抗切り替えスイッチ
18 ツェナーダイオード1 Vz1
19 ツェナーダイオード2 Vz2
20 ツェナーダイオード3 Vz3
21 ツェナーダイオード4
22 ツェナーダイオード5
23 分圧抵抗器A
24 分圧抵抗器B
25 ピークホールド回路
26 マイクロコンピュータ
50 サージ電圧保護領域1
51 サージ電圧保護領域2
52 サージ電圧保護領域3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流電流を出力するインバータ回路と、
前記3相交流電流を検出する電流センサと、
前記インバータ回路を駆動するモータ制御回路を備え、
前記インバータ回路は、前記モータ制御回路からのPWM信号に基づき前記インバータ回路を構成する半導体スイッチング素子を駆動するゲートドライブ回路とサージ電圧検出信号を検出するサージ電圧検出回路を備え、
前記モータ制御回路は、電流指令値を生成および記憶する電流指令生成部を備え、
前記サージ電圧検出回路により検出されたサージ電圧検出信号は前記モータ制御回路に入力され、
前記サージ電圧検出信号を検出した際に前記電流指令生成部からの電流指令値と所定の電流指令値と対比することによりサージ電圧を抑制するサージ電圧抑制手段の実施の可否を選択する選択手段を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記モータ制御回路は、上位コントローラからのトルク指令値に基づいて電流指令を生成する電流指令生成部を有し、
前記電流指令生成部は、前記サージ電圧検出信号が検出された時点における電流指令値が所定の電流値以下である場合には、サージ電圧異常であると判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置であって、
前記サージ電圧検出回路は、ツェナーダイオードとダイオードと抵抗器とを直列接続し、半導体スイッチング素子のコレクタ・エミッタ間またはドレイン・ソース間に並列に接続することで、所定のツェナー電圧値を超えた場合に前記ツェナーダイオードに流れるツェナー電流を検出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電力変換装置であって、
前記サージ電圧検出回路は、分圧抵抗により半導体スイッチング素子のコレクタ・エミッタ(またはドレイン・ソース)間の電圧を分圧して取り込み、ピークホールド回路によってコレクタ・エミッタ間に印加されるサージ電圧のピーク値を検出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項3に記載の電力変換装置であって、
前記サージ電圧検出回路は、複数のツェナーダイオードを直列接続することで、サージ電圧の検出レベルの異なる検出回路を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項3又は5記載の電力変換装置であって、
前記サージ電圧検出回路は、単一もしくは複数のツェナーダイオードとダイオードと抵抗器とを直列接続し、半導体スイッチング素子のコレクタ・エミッタまたはドレイン・ソース間に複数並列に接続することで、複数のサージ電圧検出レベルを有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の電力変換装置であって、
前記モータ制御回路は、上位コントローラからのトルク指令値に基づいて電流指令を生成する電流指令生成部を有し、前記電流指令生成部は、前記サージ電圧検出手段からのサージ電圧検出信号が入力された場合に前記電流指令値の最大出力値を制限することを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1乃至6いずれかに記載の電力変換装置であって、
前記モータ制御回路は、上位コントローラからのトルク指令値に基づいて電流指令を生成する電流指令生成部を有し、前記電流指令生成部は、前記サージ電圧検出手段からのサージ電圧検出信号が入力された場合に、サージ電圧が規定値以下になるまで電流値を下げる帰還制御を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項1乃至6いずれかに記載の電力変換装置であって、
前記モータ制御回路は、上位コントローラからのトルク指令値に基づいて電流指令を生成する電流指令生成部を有し、前記電流指令生成部7は、前記サージ電圧検出手段からのサージ電圧検出信号が入力された場合に、前記電流指令値の生成を停止することを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の電力変換システムであって、
前記モータ制御回路は、上位コントローラからのトルク指令値に基づいて電流指令を生成する電流指令生成部を有し、前記電流指令生成部は、マイクロコンピュータ等の演算処理装置により構成され、前記サージ電圧検出信号が検出された時点における電流指令値が、任意に定めた電流値以下である場合には、前記ゲートドライブ回路のゲート抵抗値を切り替えることでモータ駆動を継続することを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
モータとインバータとを含む電力変換システムにおいて、
前記電力変換装置は、3相交流電流を前記モータに出力するインバータ回路と、前記3相交流電流を検出する電流センサと、前記インバータ回路を駆動するモータ制御回路を備え、前記インバータ回路は、前記モータ制御回路からのPWM信号に基づき前記インバータ回路を構成する半導体スイッチング素子を駆動するゲートドライブ回路とサージ電圧検出信号を検出するサージ電圧検出回路を備え、前記モータ制御回路は、電流指令値を生成および記憶する電流指令生成部を備え、前記サージ電圧検出回路により検出されたサージ電圧検出信号は前記モータ制御回路に入力され、前記サージ電圧検出信号を検出した際に前記電流指令生成部からの電流指令値と所定の電流指令値と対比することによりサージ電圧を抑制するサージ電圧抑制手段の実施の可否を選択する選択手段を備えることを特徴とする電力変換システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−27217(P2013−27217A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161532(P2011−161532)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】