説明

電力変換装置

【課題】電力変換装置のパワー半導体を効率的に冷却し、装置の小型化を図る。
【解決手段】複数のパワー半導体素子,受熱部材,複数のヒートパイプおよび複数の放熱フィンを有し、前記複数の半導体素子は前記受熱部材の一方の側に取付けられ、前記複数のヒートパイプは前記受熱部材の他方の側に取付けられ、前記複数のヒートパイプは前記受熱部材に熱的に接続された受熱部を持ち、前記複数のヒートパイプの一部は前記受熱部の両側から立ち上げられた放熱部を持ち、前記複数のヒートパイプの他の一部は前記受熱部の片側のみから立ち上げられた放熱部を持ち、前記複数の放熱フィンは前記複数のヒートパイプの放熱部に設けられ、前記ヒートパイプの放熱部のパイプを千鳥配列状に配置する構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、電気鉄道車両を駆動する電動機を制御するためのもので、車両の床下等に設置されている。車両の床下等のスペースは限られているため、電力変換装置を小型化することが望まれている。従来の電力変換装置は、特許文献1のようにL字形状のヒートパイプの受熱部が受熱部材に熱的に接触するように配置し、ヒートパイプ受熱部から立ち上がる放熱部を千鳥状に配置することにより、放熱性能を向上した構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−251499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来構造においては、ヒートパイプの受熱部が受熱部材の全体に亘って配置されていないため、受熱部材の位置によっては冷却が十分に行われずに温度の高い部分が生じるという課題があった。
【0005】
本発明の目的は、受熱部材、更にはパワー半導体素子を十分に冷却することによって、小型の電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の電力変換装置では、複数のパワー半導体素子,受熱部材,複数のヒートパイプおよび複数の放熱フィンを有する電力変換装置において、複数のパワー半導体素子は受熱部材の一方の側に取付けられ、複数のヒートパイプは受熱部材の他方の側に取付けられ、複数のヒートパイプは形状の異なる2種類以上のヒートパイプから成り、複数のヒートパイプの少なくとも一部は前記受熱部から前記受熱部材の外側に立ち上げられた放熱部を持ち、複数の放熱フィンは複数のヒートパイプの放熱部に設けられ、ヒートパイプの放熱部を千鳥配列状に配置する構造とした。
【発明の効果】
【0007】
このような構造とすることにより、ヒートパイプの放熱部とフィンの接触部分を十分に確保するとともに、受熱部材全体にヒートパイプの受熱部を配置することができるので、受熱部材全体を良好に冷却することができ、電力変換装置を小型化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態における電力変換装置の水平断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における電力変換装置の鉛直断面図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるヒートパイプの配置を示す図である。
【図4】従来の構造と本発明の一実施形態における構造の電力変換装置の冷却性能の数値シミュレーション結果を示す図である。
【図5】従来の電力変換装置の一例を示す構造図である。
【図6】本発明の一実施形態におけるパワー半導体素子とヒートパイプの配置を示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態における電力変換装置のヒートパイプの配置を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態における電力変換装置のヒートパイプの配置を示す図である。
【図9】本発明の他の実施形態における電力変換装置のヒートパイプの配置を示す図である。
【図10】本発明の更に他の実施形態における電力変換装置の構造図である。
【図11】本発明の電力変換装置を鉄道車両に搭載した構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態を以下、図面を用いて説明する。図11に本発明の一実施形態における電力変換装置を鉄道車両に搭載したときの構成を示す。本発明の電力変換装置は、鉄道車両の床下等に設けられ、車両を駆動する電動機に供給する電力の周波数を変えることにより、電動機の回転速度の制御を行う。図11において、電力変換装置500は、車体501に吊り下げられた状態で固定されている。図1に本実施形態における電力変換装置の水平方向の断面図を、図2に鉛直方向の断面図を示す。図1,図2において、アルミニウム合金等の金属からなる受熱部材4の一方の側には、複数のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子と、それらと並列接続されたFWD(Free Wheel Diode)素子等とを含むパワー半導体モジュール5が設置されている。さらに、複数のパワー半導体モジュール5がインバータを構成している。パワー半導体モジュール5は、グリース等の部材(図示せず)を介して受熱部材4とねじ等(図示せず)によって固定される。受熱部材4は支持部材13に固定されている。支持部材13のパワー半導体モジュール5の側には、フィルタコンデンサ6やIGBT駆動回路7等の電子部品が設置されている。また、電力変換装置のパワー半導体モジュールの設置された側は、ケース8,9,10,11により密閉されている。受熱部材4のパワー半導体モジュール設置面の反対側には、U字形状のヒートパイプ1の受熱部101が埋め込まれ、ハンダ付け等により受熱部材4と熱的に接続されている。また、L字形状のヒートパイプ2の受熱部201も同様に受熱部材4に埋め込まれてハンダ付け等により接続されている。U字形状ヒートパイプ1の両端は、放熱部102が受熱部材4から立ち上がっている。また、L字形状ヒートパイプ2の片側の端から、放熱部202が立ち上がっている。放熱部102および202には、複数のフィン3が設けられている。支持部材13のヒートパイプ1の側には、カバー12が設けられている。カバー12の一部に開口部を設けても良い。車両が走行することにより、空気取入口14から取り込まれた空気が矢印30の方向に流れ、空気排出口15から排出される。逆方向に車両が走行するときには、空気の流れる方向は反対向きになる。なお、空気を冷却ファンによって強制的に送風する構造としても良い。このように、空気がフィン3の間を流れるようにすることで、フィン3から空気へ放熱が行われる。
【0010】
次に、パワー半導体モジュール5を冷却する動作について説明する。パワー半導体モジュール5の内部に設けられたパワー半導体等が動作することによって発生した熱は受熱部材4に伝えられ、ヒートパイプ1の受熱部101に達する。ヒートパイプ1には冷媒(純水、ハイドロフルオロカーボン等)が封入されている。受熱部101において加熱された冷媒は蒸発して気体となり、放熱部102に移動する。放熱部102において空気によって冷却された冷媒は凝縮して液体に戻る。図2に示すように、放熱部102には10度程度のゆるやかな傾斜が設けてあり、放熱部102で凝縮した冷媒は重力によって受熱部に戻る。このように蒸発,凝縮を繰り返して冷媒が移動することにより、受熱部材4の熱が空気に放熱される。
【0011】
図3に受熱部材4におけるヒートパイプの形状と配置を示す。U字形状のヒートパイプ1,21と、L字形状のヒートパイプ2とが配置され、それぞれの放熱部102,202などが千鳥状に配置されている。また、L字形状やU字形状のヒートパイプの他に、受熱部材から立ち上がった放熱部を持たない均熱用の均熱パイプ16も設けられている。この均熱パイプ16により、受熱部材全体に熱が広がるため、局所的に高温部分が生じるのを避けることができる。このようにヒートパイプを配置することにより、受熱部材4の全体に亘ってヒートパイプを埋め込むことができ、また、ヒートパイプの放熱部を千鳥状に配置することにより、通風抵抗を抑えながら放熱フィン3と接触する多数のヒートパイプを分散して配置することができるので、大幅にパワー半導体素子の冷却性能が向上し、装置を小型化することが可能である。
【0012】
本実施形態の構造と、図5のようにU字形状のヒートパイプをインラインに配置した場合の冷却性能について、数値シミュレーションを実施して冷却性能を比較した。図4(a)は図5の構造、図4(b)は本実施形態の構造における受熱部材表面温度分布のシミュレーション結果である。図4では、空気と受熱部材との最大の温度差を1として正規化した温度差を示している。図4を見ると分かるように、ヒートパイプをインラインに配置した構造(図4の(a))と比較して、本実施形態の構造(図4の(b))では最高温度が低く抑えられている。このことは、本実施形態では通風抵抗が小さいのでフィン部分を通過する風速を大きくでき、更に放熱部を分散して配置しているため、パワー半導体の冷却性能が向上した効果を示している。
【0013】
図6に、本実施形態におけるパワー半導体素子とヒートパイプの受熱部材上の配置を示す。図6において、50,51,52はパワー半導体素子、53は絶縁基板、54は放熱板である。これらのパワー半導体素子,絶縁基板,放熱板は図1,図2におけるパワー半導体モジュール5の内部に設置されている。絶縁基板53は窒化アルミニウム等の絶縁材料の表面に、アルミニウム等の配線パターンを接合した構造になっており、パワー半導体素子は、配線パターンにハンダ等によって接合される。絶縁基板の反対側にも薄いアルミニウムの板が接合されており、そのアルミニウム板と放熱板54とがハンダ等によって接合されている。放熱板54は、銅やAlSiC等の熱伝導率が比較的高い材料でできており、パワー半導体素子の熱を水平方向にも拡散させる役割がある。パワー半導体素子は、図6に示すように、受熱部材4を介してヒートパイプの受熱部に沿った位置に配置される。
【0014】
図6で、半導体素子50と51の距離は小さく、50と52の距離はやや大きく取っている。このため、パワー半導体素子が密に配置される方向とヒートパイプの長手方向が同じ方向になっている。また、パワー半導体素子の配置に合わせて、ヒートパイプ間の間隔を変化させ、パワー半導体素子の受熱部材上の位置と前記ヒートパイプの受熱部材上の位置とが概略重なりあうように配置している。このように半導体素子とヒートパイプを配置することにより、半導体素子とヒートパイプが近い位置に配置されるため、半導体素子から発生した熱をより効率的にヒートパイプへ伝えることができる。
【0015】
以上、説明してきたように、本実施形態によればパワー半導体素子の冷却性能を大きく向上させることができ、装置を小型化することができる。
【0016】
図7に本発明の他の実施形態における電力変換装置を示す。図7には受熱部材4と、受熱部材4上におけるヒートパイプの配置を示している。図7に示していない部分の構成は、第1の実施形態と同様である。図7に示すように、本実施形態では立ち上がり部のない均熱パイプを無くして、すべてのヒートパイプをL字形状とU字形状のヒートパイプにより構成した。ヒートブロックから立ち上がる放熱部のパイプ(102,202など)が千鳥形状になるように配置されている。本実施形態で使用されるヒートパイプの種類は2種類だけなので、製造コストを低く抑えることができる。本実施形態によれば、受熱部材4の全体に亘ってヒートパイプを埋め込むことができ、また、通風抵抗を抑えながらも、放熱フィン3と接触する多数のヒートパイプを分散して配置することができるので、大幅にパワー半導体素子の冷却性能が向上し、装置を小型化することが可能である。
【0017】
図8に本発明の更に他の実施形態における電力変換装置を示す。図8には受熱部材4と、受熱部材4上におけるヒートパイプの配置を示している。図8に示していない部分の構成は、第1の実施形態と同様である。図8に示すように、本実施形態では端部のパイプをすべてL字形状のパイプとすることにより、受熱部材4全体に亘って、よりコンパクトにパイプを埋め込むことができるので、装置を小型化することが可能である。
【0018】
図9に本発明の更に他の実施形態における電力変換装置を、図10に本実施形態の電力変換装置における受熱部材4におけるヒートパイプの配置を示す。図9,図10において、ヒートパイプ24には、ヒートパイプに埋め込まれた受熱部241から受熱部材の外側に立ち上げた短いヒートパイプの放熱部242を設けた。
【0019】
ヒートパイプ24の両端に放熱部242を設けることによる通風抵抗の増加を避けるため、受熱部材4の端部においてヒートパイプ24と隣接するヒートパイプは、L字型ヒートパイプ2としている。本実施形態によれば、寒冷地において周囲温度が0℃以下の場合でも、短い放熱部を持つヒートパイプは放熱量が少ないので凍結せずにヒートパイプとして機能するため、寒冷地でもパワー半導体の温度が上昇しすぎることなく、安定した起動が実現される。さらに、本実施形態によれば、受熱部材4の全体に亘ってヒートパイプを埋め込むことができ、また、通風抵抗を抑えながらも、放熱フィン3と接触する多数のヒートパイプを分散して配置することができるので、大幅にパワー半導体素子の冷却性能が向上し、装置を小型化することが可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 U字型ヒートパイプ
2 L字型ヒートパイプ
3 フィン
4 受熱部材
5 パワー半導体モジュール
6 フィルタコンデンサ
7 IGBT駆動回路
8,9,10,11 ケース
12 カバー
13 支持部材
14 空気取入口
15 空気排出口
16 均熱パイプ
24 短い放熱部を有するヒートパイプ
101,201,241 受熱部
102,202,242 放熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパワー半導体素子,受熱部材,複数のヒートパイプおよび複数の放熱フィンを有する電力変換装置において、
前記複数のパワー半導体素子は、前記受熱部材の一方の側に取付けられ、
前記複数のヒートパイプは、前記受熱部材の他方の側に取付けられ、
前記複数のヒートパイプは、形状の異なる2種類以上のヒートパイプから成り、
前記複数のヒートパイプの少なくとも一部は、前記受熱部から前記受熱部材の外側に立ち上げられた放熱部を持ち、
前記複数の放熱フィンは、前記複数のヒートパイプの放熱部に設けられ、
前記ヒートパイプの放熱部を千鳥配列状に配置したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記複数のヒートパイプの1種類は、前記受熱部の両側から前記受熱部材の外側に立ち上げられた放熱部を持つU字型ヒートパイプであり、前記複数のヒートパイプの他の1種類は前記受熱部の片側のみから前記受熱部材の外側に立ち上げられた放熱部を持つL字型ヒートパイプであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記受熱部材の他方の側に取付けられ、受熱部から前記受熱部材の外側に立ち上げられた放熱部を持たない均熱パイプを有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記複数のパワー半導体素子を取付ける絶縁基板と前記複数の絶縁基板を取付ける放熱板とを備え、
前記絶縁基板の片側の面に前記パワー半導体素子を搭載し、
前記絶縁基板の反対側の面を前記放熱板に接続し、
前記放熱板を前記受熱部材に接続し、
前記複数のパワー半導体素子が前記ヒートパイプの長手方向に密になるように配置し、
前記複数のパワー半導体素子を前記ヒートパイプと直角方向には疎になるように配置し、
密に配置したパワー半導体素子の受熱部材上の位置と前記ヒートパイプの受熱部材上の位置とが概略重なりあうように前記複数のパワー半導体素子および前記ヒートパイプを配置したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記複数のヒートパイプの少なくとも1種類は、他のヒートパイプの放熱部よりも短い放熱部を持つことを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−50166(P2011−50166A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196215(P2009−196215)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】