説明

電動アクチュエータ

【課題】加工工数を削減すると共に、組立作業性を向上させて低コスト化を図った電動アクチュエータを提供する。
【解決手段】ボールねじ機構8が、ハウジング2に対し一対の支持軸受19、19を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝18aが形成されたナット18と、これに多数のボール17を介して内挿され、駆動軸7と同軸状に一体化されて外周に螺旋状のねじ溝16aが形成され、ハウジング2に対し回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸16で構成された電動アクチュエータにおいて、ナット18の外周がストレートな円筒形状に形成され、外周面18bに大平歯車5と一対の支持軸受19、19が止め輪22で位置決めされると共に、支持軸受19が、駆動軸7からのスラスト荷重と大平歯車5からのラジアル荷重を負荷できる同一仕様の転がり軸受で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般産業用の電動機、自動車等の駆動部に使用されるボールねじ機構を備えた電動アクチュエータ、詳しくは、自動車のトランスミッションやパーキングブレーキ等で、電動モータからの回転入力をボールねじ機構を介して駆動軸の直線運動に変換する電動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種駆動部に使用される電動アクチュエータにおいて、電動モータの回転運動を軸方向の直線運動に変換する機構として、台形ねじあるいはラックアンドピニオン等の歯車機構が一般的に使用されている。これらの変換機構は、滑り接触部を伴うため動力損失が大きく、電動モータの大型化や消費電力の増大を余儀なくされている。そのため、より効率的なアクチュエータとしてボールねじ機構が採用されるようになってきた。
【0003】
従来の電動アクチュエータとしては、例えば、ハウジングに支持された電動モータにより、ボールねじを構成するボールねじ軸を回転駆動自在とし、このボールねじ軸を回転駆動することによってナットに結合された出力部材を軸方向に変位可能としている。ボールねじ機構は、摩擦が非常に低く、出力部材側に作用するスラスト荷重によって簡単にボールねじ軸が回転してしまうので、電動モータが停止時に出力部材を位置保持する必要がある。
【0004】
そこで、例えば、電動モータにブレーキ手段を設けたり、あるいは伝達手段としてウオームギアのような低効率なものを設けることがなされているが、その代表的なものとして、図4に示すような電動アクチュエータが知られている。この電動アクチュエータ50は、回転運動を直線運動に変換するボールねじ51を備えたアクチュエータ本体52と、電動モータ53の回転運動をアクチュエータ本体52に伝達する歯車減速機構54と、歯車減速機構54を構成する第1歯車55に係合してアクチュエータ本体52を位置保持する位置保持機構56とを備えている。
【0005】
ボールねじ51は、外周面に螺旋状のねじ溝57aが形成され、出力軸としてのねじ軸57と、このねじ軸57に外嵌され、内周面に螺旋状のねじ溝58aが形成されたナット58と、対向する両ねじ溝57a、58aによって形成された転動路に転動自在に収容された多数のボール59とを備えている。
【0006】
アクチュエータ本体52は、ハウジング60の内周に、ナット58が一対の玉軸受61、62を介して回転自在に支持されると共に、ねじ軸57が、ハウジング60に対して相対回転不能で、かつ軸方向に移動自在に支持されている。そして、ナット58が歯車減速機構54を介して回転駆動されることにより、ねじ軸57が直線運動に変換される。
【0007】
歯車減速機構54は、電動モータ53のモータ軸53aに固定された小径の平歯車からなる第1歯車55と、この第1歯車55に噛合し、ナット58の外周に一体に形成された大径の平歯車からなる第2歯車63とから構成されている。
【0008】
位置保持機構56は、第1歯車55に対して係脱自在に設けられているロック部材としてのシャフト64と、このシャフト64を第1歯車55に対して係脱する方向に駆動する駆動手段としてのソレノイド65とを備えている。シャフト64は棒状をなし、ソレノイド65によって直線駆動され、その先端部が受部66に係脱するようになっている。このように、ソレノイド65を制御することにより、シャフト64が第1歯車55に係合して回転が阻止されるので、振動荷重が作用した場合においても、係合面が滑ることなく安定してアクチュエータ本体52のねじ軸57を位置保持することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−156416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
こうした従来の電動アクチュエータ50では、ナット58の外周に一体に形成された第2歯車63を介してナット58が回転し、電動モータ53の回転運動がアクチュエータ本体52に伝達されている。このアクチュエータ本体52は、ハウジング60の内周に、ナット58が一対の玉軸受61、62を介して回転自在に支持されると共に、ねじ軸57が、ハウジング60に対して相対回転不能で、かつ軸方向に移動自在に支持されている。このように、ナット58が回転駆動されることにより、ねじ軸57が直線運動に変換され、ねじ軸57の先端部に設けられた連結部に相手部材を結合して所望の仕事が行われる。
【0011】
然しながら、第2歯車63をナット58の外周に一体に形成するとなると、素材の歩留まりが悪くなると共に、第2歯車63をはじめ、ねじ溝58aや玉軸受61、62が嵌合される外周面の加工が難しくなり、加工工数が嵩んで製造コストが高騰する問題があった。そのため、図5に示すように、第2歯車63’とナット58’とを別体構造にし、第2歯車63’をキー67を介してナット58’に固定する方法が考えられる。
【0012】
この場合、一対の玉軸受61、62には、電動モータ側からの入力によるギア荷重(ラジアル荷重)と、ねじ軸57の連結側から入力されるスラスト荷重が負荷されるが、このスラスト荷重を負荷するために、ナット58’の外周面が段付形状になると共に、この段付形状に伴い、一対の玉軸受61、62のサイズ等の仕様が異なる構造となる。すなわち、ナット58’の外周面が段付形状になると2段の円筒研削が必要となり、加工工数が掛かる。さらに、一対の玉軸受61、62のうち主としてスラスト荷重を受ける玉軸受62側のみ、軸受位置の変動を抑えるために、第2歯車63’の側面に受け部68が必要となる。これにより、第2歯車63’が左右非対称形となり、組立時に方向を間違わないように確認作業が必要で、組立作業性が低下する恐れがある。
【0013】
本発明は、こうした従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、加工工数を削減すると共に、組立作業性を向上させて低コスト化を図った電動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、円筒状のハウジングと、このハウジングに取り付けられた電動モータと、この電動モータの回転力をモータ軸を介して伝達する減速機構と、この減速機構を介して前記電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、このボールねじ機構が、前記ハウジングに装着された一対の支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、このナットに多数のボールを介して内挿され、前記駆動軸と同軸状に一体化されて外周に前記ナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、前記ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、前記減速機構が前記モータ軸に固定された小歯車と、この小歯車に噛合され、前記ナットの外周に設けられた大歯車とで構成された電動アクチュエータにおいて、前記ナットの外周がストレートな円筒形状に形成され、この外周に前記大歯車と、この両側に前記一対の支持軸受が前記大平歯車を挟持した状態で位置決め固定されている。
【0015】
このように、電動モータの回転力を伝達する減速機構と、この減速機構を介して電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、ボールねじ機構が、ハウジングに装着された一対の支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、このナットに多数のボールを介して内挿され、駆動軸と同軸状に一体化されて外周にナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、減速機構がモータ軸に固定された小歯車と、この小歯車に噛合され、ナットの外周に設けられた大歯車とで構成された電動アクチュエータにおいて、ナットの外周がストレートな円筒形状に形成され、この外周に大歯車と、この両側に一対の支持軸受が大歯車を挟持した状態で位置決め固定されているので、ナットの外周面のセンタレス研削が可能となり、加工工数を削減することができると共に、組立作業性を向上させて低コスト化を図った電動アクチュエータを提供することができる。
【0016】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記一対の支持軸受が、前記駆動軸からのスラスト荷重および前記大歯車を介して負荷されるラジアル荷重の両方を負荷することができる同一仕様の転がり軸受で構成されていれば、組立時に誤組み防止のための確認作業を簡便化することができ、組立作業性を向上させることができる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明のように、前記支持軸受が両端部にシールが装着された密封型の深溝玉軸受で構成されていれば、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から摩耗粉等が軸受内部に侵入するのを防止し、廉価で耐久性の高い支持軸受を提供することができる。
【0018】
また、請求項4に記載の発明のように、前記大歯車が左右対称形状に形成され、前記ナットの外周にキーを介して固定されていれば、組立時に誤組み防止のための確認作業を簡便化することができ、組立作業性を一層向上させることができる。
【0019】
また、請求項5に記載の発明のように、前記ナットの端部に止め輪が装着され、この止め輪によって前記支持軸受が軸方向に固定されていれば、駆動軸からスラスト荷重が負荷されても支持軸受と大歯車の軸方向の位置ズレを防止することができる。
【0020】
また、請求項6に記載の発明のように、前記ナットの端部を径方向外方に塑性変形させ、前記支持軸受の内輪の端面を押え付けた状態で加締部が形成されていれば、この加締部によって支持軸受がナットに対して軸方向にガタなく固定することができる。
【0021】
また、請求項7に記載の発明のように、前記加締部が前記支持軸受の内輪の端面に密着した状態で周方向複数箇所等配に形成されていても良いし、また、請求項8に記載の発明のように、前記加締部が前記支持軸受の内輪の端面に密着した状態で全周に形成されていても良い。
【0022】
また、請求項9に記載の発明のように、前記ナットが肌焼き鋼からなり、前記加締部を除き真空浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されると共に、前記加締部が防炭処理により浸炭焼き入れせずに20〜30HRCの素材硬度に維持し、硬化させた前記ナットの他の部位よりも硬度を相対的に低下させていれば、加締加工によって加締部に微小クラックの発生等、耐久性に影響する要因を排除することができ、信頼性・耐久性を向上させることができる。
【0023】
また、請求項10に記載の発明のように、前記ナットが真空浸炭焼き入れにより硬化され、前記加締部が高周波焼なましにより硬度を低下するようにすれば、焼なまし処理は、ナットの外径側の処理となるので、一般的な高周波焼入れによる熱処理が可能となり、熱処理作業が容易となって低コスト化を図ることができる。
【0024】
また、請求項11に記載の発明のように、前記駆動軸が前記ハウジングに装着されたブッシュにより摺動可能に支持されると共に、このブッシュが浸炭焼入可能な金属粉からなる焼結合金で構成されていれば、耐摩耗性を向上させ、長期間に亘って駆動軸の安定した案内支持を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る電動アクチュエータは、円筒状のハウジングと、このハウジングに取り付けられた電動モータと、この電動モータの回転力をモータ軸を介して伝達する減速機構と、この減速機構を介して前記電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、このボールねじ機構が、前記ハウジングに装着された一対の支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、このナットに多数のボールを介して内挿され、前記駆動軸と同軸状に一体化されて外周に前記ナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、前記ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、前記減速機構が前記モータ軸に固定された小歯車と、この小歯車に噛合され、前記ナットの外周に設けられた大歯車とで構成された電動アクチュエータにおいて、前記ナットの外周がストレートな円筒形状に形成され、この外周に前記大歯車と、この両側に前記一対の支持軸受が前記大歯車を挟持した状態で位置決め固定されているので、ナットの外周面のセンタレス研削が可能となり、加工工数を削減することができると共に、組立作業性を向上させて低コスト化を図った電動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る電動アクチュエータの一実施形態を示す。
【図2】図1のアクチュエータ本体を示す縦断面図である。
【図3】図2の変形例を示す縦断面図である。
【図4】従来の電動アクチュエータを示す縦断面図である。
【図5】図4のアクチュエータ本体の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
円筒状のハウジングと、このハウジングに取り付けられた電動モータと、この電動モータの回転力をモータ軸を介して伝達する減速機構と、この減速機構を介して前記電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、このボールねじ機構が、前記ハウジングに装着された一対の支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、このナットに多数のボールを介して内挿され、前記駆動軸と同軸状に一体化されて外周に前記ナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、前記ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、前記減速機構が前記モータ軸に固定された小平歯車と、この小平歯車に噛合され、前記ナットの外周に設けられた大平歯車とで構成された電動アクチュエータにおいて、前記ナットの外周がストレートな円筒形状に形成され、この外周に前記大平歯車と、この両側に前記一対の支持軸受が前記大平歯車を挟持した状態で、前記ナットの両端部に装着された止め輪によって位置決め固定されると共に、当該一対の支持軸受が、前記駆動軸からのスラスト荷重および前記大平歯車を介して負荷されるラジアル荷重の両方を負荷することができる同一仕様の転がり軸受で構成されている。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電動アクチュエータの一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1のアクチュエータ本体を示す縦断面図、図3は、図2の変形例を示す縦断面図である。
【0029】
この電動アクチュエータ1は、図1に示すように、円筒状のハウジング2と、このハウジング2に取り付けられた電動モータ3と、この電動モータ3の回転力をモータ軸3aを介して伝達する一対の平歯車4、5からなる減速機構6と、この減速機構6を介して電動モータ3の回転運動を駆動軸7の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構8と、このボールねじ機構8を備えたアクチュエータ本体9と、減速機構6を構成する平歯車4に係合してアクチュエータ本体9を位置保持する位置保持機構10とを備えている。
【0030】
ハウジング2は、第1のハウジング2aと、その端面に衝合された第2のハウジング2bとからなり、固定ボルト(図示せず)によって一体に固定されている。第1のハウジング2aには電動モータ3が取り付けられている。
【0031】
位置保持機構10は、小平歯車4に対して係脱自在に設けられているロック部材としてのシャフト11と、このシャフト11を小平歯車4に対して係脱する方向に駆動する駆動手段としてのソレノイド12とを備えている。シャフト11は棒状をなし、ソレノイド12によって直線駆動され、その先端部が受け部13に係脱するようになっている。
【0032】
電動モータ3のモータ軸3aの端部に小平歯車4が圧入により相対回転不能に取り付けられ、第2のハウジング2bに装着された転がり軸受14によって回転自在に支持されている。大平歯車5は、後述するボールねじ機構8を構成するナット18の外径に固定され、小平歯車4に噛合している。
【0033】
駆動軸7は、ボールねじ機構8を構成するねじ軸16と一体に構成され、駆動軸7の一端部(図中右端部)に、例えば、電動パーキングブレーキ機構のワイヤー(図示せず)に連結するための孔7aが形成され、駆動軸7は、第1のハウジング2aに装着されたブッシュ15により摺動可能に支持されている。
【0034】
なお、ブッシュ15は焼結合金からなり、その金属粉として浸炭焼入が可能な材質、例えば、C(炭素)が0.13wt%、Ni(ニッケル)が0.21wt%、Cr(クロム)が1.1wt%、Cu(銅)が0.04wt%、Mn(マンガン)が0.76wt%、Mo(モリブデン)が0.19wt%、Si(シリコン)が0.20wt%、残りがFe(鉄)等からなるSCM415を例示することができる。これにより、耐摩耗性を向上させ、長期間に亘って駆動軸7の安定した案内支持を行うことができる。
【0035】
ボールねじ機構8は、図2に拡大して示すように、ねじ軸16と、このねじ軸17にボール17を介して外挿されたナット18とを備えている。ねじ軸16は、外周に螺旋状のねじ溝16aが形成され、軸方向移動自在に、かつ回転不可に支承されている。一方、ナット18は、ねじ軸16に外装されると共に、内周にねじ軸16のねじ溝16aに対応する螺旋状のねじ溝18aが形成され、これらねじ溝16a、18aとの間に多数のボール17が転動自在に収容されている。そして、ナット18は、ハウジング(図示せず)に対して、一対の支持軸受19、19を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されている。20は、ナット18のねじ溝18aを連結して循環部材を構成する駒部材で、この駒部材20によって多数のボール17が無限循環することができる。
【0036】
各ねじ溝16a、18aの断面形状は、サーキュラアーク形状であってもゴシックアーク形状であっても良いが、ここではボール17との接触角が大きくとれ、アキシアルすきまが小さく設定できるゴシックアーク形状に形成されている。これにより、軸方向荷重に対する剛性が高くなり、かつ振動の発生を抑制することができる。
【0037】
ナット18はSCM415やSCM420等の肌焼き鋼からなり、真空浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。これにより、熱処理後のスケール除去のためのバフ加工等を省略することができ、低コスト化を図ることができる。一方、ねじ軸16はS55C等の中炭素鋼あるいはSCM415やSCM420等の肌焼き鋼からなり、高周波焼入れ、あるいは浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0038】
ここで、ナット18の外周面18bに、減速機構6を構成する大平歯車5がキー21を介して固定されると共に、この大平歯車5の両側に一対の支持軸受19、19が所定のシメシロを介して圧入されている。そして、一対の支持軸受19、19が大平歯車5を挟持した状態で、ナット18の両端部に装着された止め輪22、22によって位置決め固定されている。これにより、駆動軸7からスラスト荷重が負荷されても支持軸受19、19と大平歯車5の軸方向の位置ズレを防止することができる。
【0039】
また、一対の支持軸受19、19は、内輪19aと、この内輪19aに転動体(ボール)19bを介して外挿された外輪19cとからなる深溝玉軸受で構成されている。そして、外輪19cの両端部にシールド板23、23が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から摩耗粉等が軸受内部に侵入するのを防止している。また、前述した駆動軸7からスラスト荷重および大平歯車5を介して負荷されるラジアル荷重の両方を負荷することができるように、同一仕様の密封型の転がり軸受で構成されている。これにより、廉価で耐久性の高い支持軸受19を提供することができると共に、ナット18の外周面18bは、段付き形状にすることなくストレートな円筒形状にすることができ、センタレス研削が可能となり、加工工数を削減することができる。なお、ここで、同一仕様の転がり軸受とは、軸受の内径、外径、幅寸法をはじめ、転動体サイズ、個数および軸受内部すきま等が同一なものを言う。
【0040】
また、一対の支持軸受19、19が同一仕様の転がり軸受で構成されると共に、大平歯車5が側面に、従来のように軸受位置の変動を抑えるための受け部が必要とせず左右対称形状にできるため、組立時に誤組み防止のための確認作業を簡便化することができ、組立作業性を向上させて低コスト化を図った電動アクチュエータを提供することができる。
【0041】
図3に、図2の変形例を示す。この実施形態は、前述したボールねじ機構8と、基本的にはナットの構成が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
このボールねじ機構24は、ねじ軸16と、このねじ軸17にボール17を介して外挿されたナット25とを備えている。このナット25は、ハウジング(図示せず)に対して、一対の転がり軸受19、19を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されている。
【0043】
ナット25の外周面25aには一対の支持軸受19、19が所定のシメシロを介して圧入されている。そして、ナット25の端部を径方向外方に塑性変形させ、支持軸受19の内輪19aの端面を押え付けた状態で加締部26が形成されている。この加締部26によって支持軸受19がナット25に対して軸方向にガタなく固定されている。ナット25はSCM415やSCM420等の肌焼き鋼からなり、加締部26を除き真空浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。加締部26は防炭処理により浸炭焼き入れせずに20〜30HRCの素材硬度程度に維持し、硬化させたナット25の他の部位よりも硬度を相対的に低下させている。これにより、加締加工によって加締部26に微小クラックの発生等、耐久性に影響する要因を排除することができ、信頼性・耐久性を向上させることができる。なお、この加締部26は、図示しない加締治具により、支持軸受19の内輪19aの端面に密着した状態で周方向3箇所等配に形成されているが、周方向3箇所に限らず、4箇所以上であっても良いし、また、全周を径方向外方に塑性変形させて加締ても良い。
【0044】
防炭処理は、例えば、浸炭焼き入れ時に、図示しない防炭剤によりナット25の端部を外周に亙って被覆することにより、浸炭を防止して硬度低下領域を形成する。もっとも、防炭処理は、加締部26のみを部分的に覆うようにしてもよい。なお、ナット25を真空浸炭焼き入れにより硬化し、加締部26を高周波焼なましにより硬度が低下させるようにしてもよい。真空浸炭焼き入れの場合、浸炭ガスが侵入するために防炭処理による硬度低下ができず、加締めることが不可能となる。そこで、真空浸炭の場合、真空浸炭焼き入れ後に、加締部26に対応する部分を高周波焼なましすることにより、硬度を20〜30HRCまで低下させる。この場合の焼なまし処理は、ナット25の外径側の処理となるので、一般的な高周波焼入れによる熱処理が可能となり、熱処理作業が容易となって低コスト化を図ることができる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る電動アクチュエータは、一般産業用の電動機、自動車等の駆動部に使用され、電動モータからの回転入力をボールねじ機構を介して駆動軸の直線運動に変換するボールねじ機構を備えた電動アクチュエータに適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 電動アクチュエータ
2 ハウジング
2a 第1のハウジング
2b 第2のハウジング
3 電動モータ
3a モータ軸
4 小平歯車
5 大平歯車
6 減速機構
7 駆動軸
7a 孔
8、24 ボールねじ機構
9 アクチュエータ本体
10 位置保持機構
11 シャフト
12 ソレノイド
13 受け部
14 転がり軸受
15 ブッシュ
16 ねじ軸
16a、18a ねじ溝
17 ボール
18、25 ナット
18b、25a ナットの外周面
19 支持軸受
19a 内輪
19b 転動体
19c 外輪
20 駒部材
21 キー
22 止め輪
23 シールド板
26 加締部
50 電動アクチュエータ
51 ボールねじ
52 アクチュエータ本体
53 電動モータ
53a モータ軸
54 歯車減速機構
55 第1歯車
56 位置保持機構
57 ねじ軸
57a、58a ねじ溝
58、58’ ナット
59 ボール
60 ハウジング
61、62 玉軸受
63、63’ 第2歯車
64 シャフト
65 ソレノイド
66 受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のハウジングと、
このハウジングに取り付けられた電動モータと、
この電動モータの回転力をモータ軸を介して伝達する減速機構と、
この減速機構を介して前記電動モータの回転運動を駆動軸の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構とを備え、
このボールねじ機構が、前記ハウジングに装着された一対の支持軸受を介して回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持され、内周に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、
このナットに多数のボールを介して内挿され、前記駆動軸と同軸状に一体化されて外周に前記ナットのねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝が形成され、前記ハウジングに対して回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されたねじ軸とで構成されると共に、
前記減速機構が前記モータ軸に固定された小歯車と、この小歯車に噛合され、前記ナットの外周に設けられた大歯車とで構成された電動アクチュエータにおいて、
前記ナットの外周がストレートな円筒形状に形成され、この外周に前記大歯車と、この両側に前記一対の支持軸受が前記大歯車を挟持した状態で位置決め固定されていることを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記一対の支持軸受が、前記駆動軸からのスラスト荷重および前記大歯車を介して負荷されるラジアル荷重の両方を負荷することができる同一仕様の転がり軸受で構成されている請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記支持軸受が両端部にシールが装着された密封型の深溝玉軸受で構成されている請求項2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記大歯車が左右対称形状に形成され、前記ナットの外周にキーを介して固定されている請求項1または2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記ナットの端部に止め輪が装着され、この止め輪によって前記支持軸受が軸方向に固定されている請求項1乃至4いずれかに記載の電動アクチュエータ。
【請求項6】
前記ナットの端部を径方向外方に塑性変形させた加締部によって前記支持軸受が前記ナットに対して軸方向に固定されている請求項1乃至4いずれかに記載の電動アクチュエータ。
【請求項7】
前記加締部が前記支持軸受の内輪の端面に密着した状態で周方向複数箇所等配に形成されている請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【請求項8】
前記加締部が前記支持軸受の内輪の端面に密着した状態で全周に形成されている請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【請求項9】
前記ナットが肌焼き鋼からなり、前記加締部を除き真空浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されると共に、前記加締部が防炭処理により浸炭焼き入れせずに20〜30HRCの素材硬度に維持し、硬化させた前記ナットの他の部位よりも硬度を相対的に低下させている請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【請求項10】
前記ナットが真空浸炭焼き入れにより硬化され、前記加締部が高周波焼なましにより硬度を低下するようにされている請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【請求項11】
前記駆動軸が前記ハウジングに装着されたブッシュにより摺動可能に支持されると共に、このブッシュが浸炭焼入可能な金属粉からなる焼結合金で構成されている請求項1に記載の電動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−39765(P2012−39765A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177852(P2010−177852)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】