説明

電動アシスト自転車

【課題】クランク角度に適したアシスト比で電動アシスト制御を実施する電動アシスト自転車を提供する。
【解決手段】補助動力を踏力に並列に付加して走行可能な電動アシスト自転車は、踏力を検出し、ホール素子出力パルス数をカウントし、車速Vを検出する(300、302、304)。踏力変化から踏み込みを検出すると、検出時のクランク角度を開始角度θsに設定し(308)、開始角度θsからの最大踏力角度θm0及び終了角度θe0を決定し(310)、車速V及びクランク角度θの関数としてのアシスト比パターンArを決定する(312)。開始角度θsからのパルスカウント数で実際のクランク角度θを検出し(314)、検出されたクランク角度に対応するアシスト比を決定された前記アシスト比パターンから求め、該アシスト比と検出された踏力とから補助動力を演算し、該補助動力を出力するように電動手段を制御する(316)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシスト比を変更することができる電動アシスト自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動アシスト自転車のアシスト比(踏力に対する電動モータの出力の比率)は、車速に応じて、法定範囲内で、燃費やアシスト感等を考慮して設定されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、電動アシスト自転車において、そのアシスト比を、低中車速域で略一定値となり、高車速域で漸減し、超高車速域では略0か又は低中車速域のアシスト比よりも小さな略一定値となるように電動モータによる駆動力を制御するコントローラを備える技術が開示されている。
【0004】
上記技術は、特許文献1の図7(A)、(B)、(C)に参照されるように、車速域毎にアシスト比を変更するものである。図7では、駆動力FM及び踏力FLの時間的変化が示されており、この変化の1周期分の波がペダルクランク半回転分に相当している。ペダルクランクの半回転当たりの同一車速内でのアシスト比(F/F)は一定に維持されていることが図より理解できる。
【0005】
しかし、上記従来技術では、クランク角度に関係なく、アシスト比が一定であるので、急な出だしにより車体を発進させた場合などでは、補助動力が大きくなり過ぎる一方、最も補助動力を必要とする最大踏力時のクランク角度では、補助動力が必要分よりも小さくなる傾向がある。
【特許文献1】特開平6−107266号(特許第2623419号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事実に鑑みなされたもので、クランク角度に適したアシスト比で電動アシスト制御を実施することができる電動アシスト自転車を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、踏力によるペダルクランクの回転で走行する電動アシスト自転車であって、補助動力を発生するための電動手段と、前記補助動力を踏力に並列に付加するための合力手段と、踏力を検出するための踏力検出手段と、前記ペダルクランクの車体に対する角度であるクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、少なくともクランク角度の関数としてのアシスト比パターンを決定するアシスト比決定手段と、検出されたクランク角度に対応するアシスト比を決定された前記アシスト比パターンから求め、該アシスト比と検出された踏力とから補助動力を演算し、該補助動力を出力するように前記電動手段を制御する、制御手段と、を備えて構成したものである。
【0008】
本発明によれば、少なくともクランク角度の関数としてのアシスト比パターンから、検出されたクランク角度に対応するアシスト比を求め、該アシスト比と検出された踏力とから補助動力を演算し、該補助動力を踏力に付加することにより電動アシスト制御を行うようにしたので、クランク角度に適した適切な補助動力を達成することができる。
【0009】
好ましくは、前記アシスト比決定手段により決定されるアシスト比パターンは、前記クランク角度と前記電動アシスト自転車の車速との関数である。
【0010】
ペダル半回転サイクルにおいて、踏み込みが開始されたときのクランク角度を踏み込み開始角度、踏力が最大となるクランク角度を最大踏力角度、及び、踏み込みが終了したときのクランク角度を踏み込み終了角度と定義したとき、前記アシスト比決定手段により決定されるアシスト比パターンは、前記開始角度から前記終了角度まで定義されている。
【0011】
好ましくは、前記アシスト比決定手段により決定されるアシスト比パターンでは、クランク角度が前記開始角度から前記最大踏力角度まで変化するときアシスト比が漸増され、前記最大踏力角度でアシスト比が最大となり、クランク角度が該最大踏力角度から前記終了角度まで変化するときアシスト比が漸減される。従って、急な出だしにより車体を発進させた場合等においてクランク角度が小さいうちは補助動力を比較的小さく抑えることができる。更には、最も補助動力を必要とする最大踏力時のクランク角度では、補助動力を比較的大きくすることができる。
【0012】
前記アシスト比決定手段の一態様では、前記踏み込み開始角度が検出されたとき、最大踏力角度及び前記踏み込み終了角度を典型的な固定値として各々有するアシスト比パターンを決定する。
【0013】
前記アシスト比決定手段の別の態様では、前記踏力検出手段により検出された踏力及び前記クランク角度検出手段により検出されたクランク角度に基づいて、クランク角度の関数としての踏力パターンを監視する、踏力パターン監視手段を更に備え、前記アシスト比決定手段は、前記踏力パターン監視手段により監視された踏力パターンに基づいて前記アシスト比パターンを決定する。従って、本態様によれば、個々人の差や路面状況等に応じて変動する踏力パターンに適したアシスト比で走行することができる。
【0014】
本態様では、一例として、前記踏力パターン監視手段は、前記踏力パターンを特徴付けるパラメータとして少なくとも該踏力パターンの最大踏力角度及び踏み込み終了角度を抽出することにより前記踏力パターンを監視し、前記アシスト比決定手段は、前記踏力パターンの前記特徴パラメータを有するアシスト比パターンを決定する。前記特徴パラメータには、前記踏力パターンの最大踏力値が含まれていてもよい。
【0015】
好ましくは、前記踏力パターン監視手段は、前記特徴パラメータとして、過去の複数の踏力パターンの最大踏力角度及び踏み込み終了角度の各平均演算値を求めてもよい。前記過去の複数の踏力パターンは、前記電動アシスト自転車が走行中に順次検出される直前の複数の踏力パターン、又は、一定の学習期間内に検出された複数の踏力パターンのうちいずれであってもよい。
【0016】
前記アシスト比決定手段の更に別の態様では、複数のアシスト比パターンを記憶した記憶手段と、前記踏力検出手段により検出された踏力及び前記クランク角度検出手段により検出されたクランク角度に基づいて、クランク角度の関数としての踏力パターンを監視する、踏力パターン監視手段と、を更に備え、前記アシスト比決定手段は、前記踏力パターン監視手段により監視された踏力パターンに対応するアシスト比パターンを前記記憶手段から検索して決定する。従って、本態様によっても、個々人の差や路面状況等に応じて変動する踏力パターンに適したアシスト比で走行することができる。
【0017】
前記クランク角度検出手段の一態様は、スプロケットに同軸に固定されたディスクと、前記ディスクの一方の板面側に円周等分に配置された複数の永久磁石と、 前記ディスクの前記一方の板面側に隣接して前記車体に対して固定された磁場検出手段と、前記磁場検出手段からの磁場パルス信号をカウントするカウント手段と、を備え、前記踏力検出手段により踏み込み開始が検出されたときから前記カウント手段によりカウントされた磁場パルス信号のカウント値に基づいて前記クランク角度を検出する。なお、磁場パルス信号のカウント値から車速も検出することができる。
【0018】
好ましくは、前記ディスクは、外側周囲に複数の歯を有するギアとして構成され、前記ディスクのギアと、前記電動手段の出力ギアと、を噛み合わせることによって、前記合力手段を構成する。
【0019】
より好ましくは、前記ペダルクランクが連結されたドライブシャフトの車体前進方向に対応する一方向の回転のみを前記スプロケットに伝達するように前記ドライブシャフトと前記スプロケットとを連結する一方向クラッチを更に備え、 前記一方向クラッチは、前複数の駒が形成された駒部と、前記複数の駒と各々係合する複数の歯が形成された歯部と、を備え、前記駒部及び前記歯部のいずれか一方は、前記ディスクの板面に形成されている。
【0020】
更に好ましくは、前記駒部及び前記歯部のうち前記ディスクに形成されていない他方は、前記ドライブシャフトに相対回転できず且つ軸方向に摺動可能に取り付けられ、前記ドライブシャフトが前記一方向に回転したとき、前記駒部及び前記歯部の間の相対回転を係止させるように前記駒及び前記歯が係合すると共に、前記駒部及び前記歯部のうち他方は、弾性手段の弾性力に抗して踏力に対応した軸方向距離で前記駒部及び前記歯部のうち一方から離れ、前記ドライブシャフトが前記一方向とは反対方向に回転したとき、前記駒部及び前記歯部の間の相対回転を可能とするように前記歯及び駒による係止が解除され、前記弾性手段の弾性力により前記軸方向距離が減少し、前記踏力検出手段は、前記弾性手段の弾性歪みを検出することによって前記踏力を求める。この態様では、前記ディスクは、踏力検出手段を構成する一方向クラッチの必須構成部品、合力手段、並びに、ペダル検出手段を一体化した構成部品として機能している。これにより、電動アシスト自転車において部品点数の削減、軸方向の省スペース化を図ることができる。更に、前記ディスクのギアは、ギア比の調整により合力時の減速ギアとしても、更には、ペダル検出手段を兼ねた車速の検出手段としても機能することができる。
【実施例】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。
【0022】
図1には、電動アシスト自転車1の概略が示されている。同図に示すように、この電動アシスト自転車1の主要な骨格部分は、通常の自転車と同様に、金属管製の車体フレーム3から構成され、該車体フレーム3には、前輪20、後輪22、ハンドル16、及びサドル18などが周知の態様で取り付けられている。
【0023】
また、車体フレーム3の中央下部には、ドライブシャフト4が回転自在に軸支され、その左右両端部には、ペダルクランク6L、6Rを介してペダル8L、8Rが各々取り付けられている。このドライブシャフト4には、車体の前進方向に相当するR方向の回転のみを伝達するための一方向クラッチ(後述する図3の99)を介して、スプロケット2が同軸に取り付けられている。このスプロケット2と、後輪22の中央部に設けられた後輪動力機構10との間には無端回動のチェーン12が張設されている。
【0024】
電動アシスト自転車1には、補助電動力を発生する電動アシストユニット11が取り付けられている。発生した補助電動力は、後述する合力機構を用いて駆動輪22に伝達される。
【0025】
電動アシストユニット11に収容された電動アシスト自転車1の制御系の概略が図2に示されている。電動アシスト自転車1の制御系は、該自転車全体の電子的処理を一括して制御する1個のマイクロコンピュータ14と、PWM制御可能な電動モーター37と、マイクロコンピュータ14に直接接続され、その制御信号の電力を増幅する増幅回路15と、を備える。増幅回路15には、電動モーター37に電源供給するバッテリー17(ユニット11の外部)が接続されている。また、電動アシストユニット11には、モーターの回転速度を減速するための減速ギア等が収容されている。
【0026】
マイクロコンピュータ14には、車体フレームに対してペダルクランク6R(6L)がなすクランク角度を検出するための磁場パルス信号、踏力を演算するための磁場信号1、2、3が入力される。これらの入力信号を発生する手段については後述する。なお、電動アシストのモード(例えばノーマルモード、ターボモード、エコモード等)を指定するための信号も入力されてもよい。マイクロコンピュータ14は、これらの入力信号から走行速度、クランク角度及び踏力を演算し、所定のアルゴリズムに基づいてアシスト比(補助動力/踏力)を決定する電子的処理を行う。次に、マイクロコンピュータ14は、決定されたアシスト比に対応する補助動力を発生させるよう電動モーター37を指令するため、該補助動力に応じたPWM指令を順次出力する。
【0027】
以下、本発明の実施例に係る電動アシスト自転車の踏力検出機構、合力機構、並びに、クランク角度及び車速の検出機構について各々説明する。
(踏力検出機構)
マイクロコンピュータ14に入力される磁場信号1、2、3を出力する踏力検出機構を図3乃至図7を用いて説明する。この踏力検出機構は、踏力に応じた一方向クラッチ99の変形によって変化する磁場を検出する。
【0028】
図3に示すように、一方向クラッチ99は、駒部100及び歯部112を備える。
【0029】
駒部100は、図4(a)に示すように、ドライブ軸4を受け入れるための駒部ボア106が中央部に形成された略円盤形状を有し、その周方向に沿って等角度毎に3つの剛性のラチェット駒102が、歯部112と相対する第2の係合面110側に配置されている。駒部100は、ラチェット駒102を各々収容するため、図4(b)に示すように、周方向に沿って3つの凹部170が形成される。かくして、ラチェット駒102は、凹部170にその回転軸部が収容された状態で回動し、この回動に応じてラチェット駒102は、第2の係合面110に対する角度を変える。
【0030】
再び図4(b)を参照すると、駒部100には、各々の凹部170に隣接して、バネ棒104を収容可能な直線溝171が夫々形成されており、3つの直線溝171の両端部は、駒部100の外周エッジまで延在している。図4(c)に示すように、バネ棒104は、一方の端部Aが略垂直に折り曲げられ、他方の端部Bがコ字状に曲げられている。バネ棒104を駒部100の直線溝171内に取り付ける場合、図4(b)に示すように、バネ棒104を直線溝内を摺動させながら、コ字状のB部が駒部100をクリップ状に挟み止めさせるようにするだけで、バネ棒104を駒部100に容易に装着することができる。しかし、このままだと、B部から引っ張る力によりバネ棒104が抜け落ちる可能性があるので、垂直に折れ曲がったA部が駒部の側壁と係合することにより、バネ棒の脱落を防止している。従って、本実施形態のバネ棒104は、取り付けの容易さ及び抜け防止を両立している。
【0031】
バネ棒104を駒部100の直線溝171に取り付けた場合、ラチェット駒102は、外力が作用していないとき、その長さ方向が第2の係合面110に対して所定の角度をなす(図5の平衡方向160)ように立ち上がる。図5に示すように、ラチェット駒102が平衡方向160から上昇方向a又は下降方向bに偏倚するとき、バネ棒104は、その偏倚を平衡方向160に戻すようにラチェット駒102に僅かな弾性力を及ぼす。
【0032】
駒部ボア106の内壁には、軸方向5に延びる第1の回転防止用溝108が4個所に形成されている。駒部ボア106の内壁と摺接するドライブシャフト4の外壁部分にも、第1の回転防止用溝108と対面するように軸方向5に延びる第2の回転防止用溝140が4個所に形成されている。図6(a)に示すように、第1の回転防止用溝108及びこれに対面する第2の回転防止用溝140は、軸方向に沿って延びる円柱溝を形成し、各々の円柱溝の中には、これを埋めるように多数の鋼球150が収容される。これによって、駒部100は、軸方向5に沿って摩擦抵抗最小で移動できると共に、ドライブシャフト4に対する相対回転が防止される。これは、一種のボールスプラインであるが、他の形式のボールスプライン、例えば無端回動のボールスプラインなどを、このような摺動可能な回転防止手段として適用することができる。
【0033】
また、駒部100のドライブシャフト4への取り付け方法として、図6(a)のボールスプライン以外の手段を用いることも可能である。例えば、図6(b)に示すように、軸方向に延びる突起部140aをドライブシャフト4に設け、該突起部140aを収容する第3の回転防止用溝108aを駒部100に形成する、いわゆるキースプライン形式も回転防止手段として適用可能である。なお、図6(b)において、突起部140aを駒部100側に、第3の回転防止用溝108aをドライブシャフト4側に設けてもよい。更に、図6(c)に示すように、軸方向に延びる第4の回転防止用溝108b及びこれに対面する第5の回転防止用溝140bを駒部100及びドライブシャフト4に夫々設け、これらの溝が形成する直方体状の溝の中にキープレートを収容する、いわゆるキー溝形式も回転防止手段として適用可能である。
【0034】
図3に示されるように、皿バネ137が、駒部100と、ドライブシャフト4に固定された支持ディスク151との間に介在されている。皿バネ137の両端部は、各々、駒部100の裏面と支持ディスク151とに当接している。従って、皿バネ137は、駒部100の軸方向内側への摺動に対して弾性力で対抗する。
【0035】
一方、歯部112は、図7に示されるように、動力伝達ギア200の表面である第1の係合面121上に形成されている。第1の係合面121には、ラチェット駒102と係合するための複数のラチェット歯114が形成されている。ラチェット歯114は、図5に示されるように、歯部の周方向に沿って互い違いに周期的に形成された、第1の係合面121に対してより急な斜面118と、より緩やかな斜面116と、から構成される。歯部112は、その第1の係合面121を駒部100の第2の係合面110に対面させ、ラチェット駒102とラチェット歯112とを係合させた状態(図5)で、ドライブシャフト4に摺接可能に軸支される。即ち、ドライブシャフト4は、ラチェット駒102とラチェット歯112との係合部分を介してのみ歯部112と作動的に連結される。
【0036】
図3に示されるように、歯部112を備える動力伝達ギア200は、固定ピン206を用いてスプロケット2と同軸に固定され、更に、ドライブシャフト4の先端にはペダル軸が取り付けられる。かくして、車体前進方向のペダル踏力による回転のみをスプロケット2に伝達するようにドライブシャフト4とスプロケット2とを連結するラチェットギア99が完成する。
【0037】
更に、ラチェットギア99の駒部100には、ドライブシャフト4及び駒部100と同心に、リング状に形成された永久磁石161が取り付けられている。リング状の永久磁石161は、好ましくは、リングの一方の表面がN極、反対側の表面がS極となるように構成され、永久磁石161のリング軸方向とラチェットギア99の軸方向とが整列するように配列される。
【0038】
また、磁場を検出するための複数(本実施例では3個)のホール素子162が、ドライブシャフト4の軸線に対して垂直な平面内で、3箇所の所定位置に各々配置されている。好ましくは、ホール素子が配置される3箇所の所定位置は、該軸線を中心として径方向に略等距離で周方向に略等角度毎の位置である。更に、ホール素子162が配置される所定位置は、リング状永久磁石161に近接した車体フレームの固定位置に相当する。これらのホール素子162は、マイクロコンピュータ14(図2)に接続される。3個のホール素子162から各々出力された磁場検出信号1、2、3は、上述したように、マイクロコンピュータ14(図2)に入力される。
【0039】
代替実施例として、リング状永久磁石161の代わりに、鉄等の磁性体からなるリング部材163を用いることができる。この場合、磁石164を駒部100が相対的に移動するところの所定位置、例えば、ホール素子162に近接した位置に固定する。なお、リング部材163の材料は、磁石164の磁場を変化させることができる任意の材料、例えば反磁性体から作ることもできる。
【0040】
次に、本踏力検出機構の作用を説明する。
【0041】
搭乗者がペダル8R、8L(図1)にペダル踏力を与え、ドライブシャフト4を車体前進方向に回転させると、この回転力は、ドライブシャフト4に対し回転不可能且つ摺動可能に軸支された駒部100に伝達される。このとき、図5に示すように、ラチェット駒102は、駒部100からペダル踏力に対応する力Fdを与えられるので、その先端部は歯部112のラチェット歯のより急な斜面118に当接し、この力をラチェット歯に伝達しようとする。ラチェット歯部112は、スプロケット2に連結されているので、ラチェット駒102の先端部は、駆動のための負荷による力Fpをより急な斜面118から受ける。その両端部から互いに反対向きの力Fp及びFdを与えられたラチェット駒102は、a方向に回転して立ち上がる。このとき駒部100は、ラチェット駒102の立ち上がりによって軸方向内側に移動し、駒部100と支持ディスク151との間に介在する皿バネ137を押し込む。皿バネ137は、これに対抗して弾性力Frを駒部100に作用する。この力Frと、駒部100を軸方向に移動させるペダル踏力を反映した力とは短時間で釣り合う。かくして、駒部100の軸方向位置はペダル踏力を反映する物理量となる。
【0042】
リング状永久磁石を使用した実施例の場合、駒部100の軸方向位置に応じて、ホール素子162により検出される磁場強度は異なっている。即ち、ペダル踏力が増大すると、駒部100は軸方向内側に摺動し、永久磁石161がホール素子162に接近するため、ホール素子により検出される磁場強度は増大する。逆に、ペダル踏力が減少すると、駒部100は軸方向外側に摺動し、永久磁石161がホール素子162から遠ざかるため、ホール素子により検出される磁場強度は減少する。
【0043】
マイクロコンピュータ14は、3個のホール素子162により検出された磁場検出信号を平均演算(単なる加算演算を含む)して平均磁場強度を求める。マイクロコンピュータ14は、磁場強度とペダル踏力を反映する永久磁石161の軸方向位置との間の関数関係を表すルックアップテーブルをメモリに格納しており、該テーブルを参照することにより演算した平均磁場強度からペダル踏力Tを求める。
【0044】
このようにマイクロコンピュータ14は、複数箇所の軸方向の磁場を平均化しているため、SN比を改善することができるだけでなく、駒部100の振れに起因する磁場強度のばらつきを相殺することにより、より正確にペダル踏力Tを求めることができる。
【0045】
なお、磁性体又は反磁性体のリング部材163を使用した代替実施例の場合、リング部材163の軸方向位置に応じて、磁性体又は反磁性体の影響の変化により磁石164の磁場分布は変化する。従って、代替実施例においても、検出された磁場強度に基づいて、上述のようにペダル踏力Tを求めることができる。
【0046】
上記した踏力検出機構には以下のような優れた効果がある。
(1) 皿バネ137は、ドライブシャフト4に対して相対的に回転しない駒部100と支持ディスク151とに当接しているため、皿バネ137もドライブシャフト4、駒部100及び支持ディスク151と共に、回転する。よって、皿バネ137と駒部100との間には摩擦が生じず、回転抵抗も発生しない。
(2) 一方向クラッチと踏力検出機構とを一つの機構で実現したので、部品点数の削減化が図られ、小型、軽量化及び低コストを達成できる。
(3) 踏力を検出する部分を、磁力発生ユニットに対して皿バネに近接して磁場検出センサーを設けたので、皿バネの磨耗や回転抵抗などが発生せず、トルク検出装置の精度を向上させると共に耐久性を向上させることができる。
(4) 上記項目(2)及び(3)に示したように踏力検出機構の小型、軽量化及び簡素化をより高いレベルで達成したので、通常の自転車であっても踏力検出機構を取り付ける可能性が更に広がった。
(5) 上記項目(2)及び(3)で示した理由により、従来機構に比べて、非接触式の磁場強度による踏力検出機構を用いたので、制御の応答性のよいアシストフィーリングを実現できる。
(6) 上記項目(2)及び(3)で示した理由により、従来機構(コイルバネ使用)に比べ、ペダルに無駄な動き(センサーが感知するまで)が無くなり、ペダルを踏み込んだときのフィーリングは、従来機構は踏み込み時に弾力感があったのに対し、上記例では、通常の自転車のフィーリングと同様になった。
(合力機構)
電動アシスト自転車1の合力機構を、図3及び図7を用いて説明する。
【0047】
図3には、上述されたように固定ピン206を用いてスプロケット2に同軸に固定された動力伝達ギア200が示されている。動力伝達ギア200は、図7に示すように、外周部に複数の歯204が形成されている。
【0048】
動力伝達ギア200の歯204は、図3に示されるように、電動アシストユニット11の補助動力出力シャフト222の先端に設けられたギア220と嵌合する。従って、電動アシストユニット11から出力された補助動力は、シャフト222、ギア220を介して動力伝達ギア200に伝達され、該動力伝達ギア200からスプロケット2、チェーン12を介して駆動輪に伝達される。かくして、踏力と補助動力との合力が達成される。動力伝達ギア200の歯204の数は、ギア220の歯数よりも多いので、動力伝達ギア200は、減速ギアとしても機能する。
(クランク角度及び車速の検出機構)
電動アシスト自転車1のクランク角度検出機構を、図3、図7乃至図8を用いて説明する。
【0049】
図7に示すように、動力伝達ギア200の一方の板面側には、12個の永久磁石202が円周12等分に配置されている。これらの永久磁石202は、一方の磁極(N極又はS極)を当該板面の表面に出し、他方の磁極を該表面と反対側に向け、両磁極を結ぶ方向が、ドライブシャフト4の軸方向に整列するように配置されている。板面の表面に出ている磁極は、全て同一に揃えるのが好ましいが、隣接する磁石202の磁極が互い違いになるように配置することもできる。
【0050】
図3を参照すると、磁石202が配置された動力伝達ギア200の板面に隣接して、車体フレームに対して固定された位置にホール素子210が配置されている。このホール素子210のドライブシャフト4からの径方向距離は、永久磁石202のドライブシャフト4からの径方向距離と実質的に同一に設定されている。動力伝達ギア200は、ペダルの回転と共に回転し、一方、ホール素子210は車体に対して静止しているので、ペダルクランク回転によって、ホール素子210の検出範囲に永久磁石202の磁場が次々横切っていく。従って、ホール素子210は、ペダルクランク回転数に応じたパルス数の検出信号を出力する。この磁場パルス信号は、マイクロコンピュータ14(図2)へと入力される。
【0051】
動力伝達ギア200は、ペダルクランク及びスプロケット2と一緒に回転するため、動力伝達ギア200の回転速度は、車速及びクランク角速度を反映している。かくして、マイクロコンピュータ14は、単位時間当たりの磁場パルス信号のカウント数から、車速と、クランク角度の増加分とを演算することができる。
【0052】
ここで、図8を参照して、磁場パルス信号のカウント数から、車体に対する(絶対的な)クランク角度を求める方法を説明する。図8に示されるように、典型的に、「開始角度」のクランク角度でペダル8R(8L)への踏み込みが開始される。従って、上記した踏力検出機構により検出された踏力が所定の閾値を越えたとき、クランク角度は、踏み込み「開始角度」であるとみなすことができる。当該踏み込み開始角度を検出した時点からホール素子210の磁場パルス信号をカウントし、該カウント値(クランク角度の増加分)から、現在のペダルクランク6R(6L)が位置する車体に対するクランク角度を求めることができる。また、検出した踏力が所定の閾値より小さくなったとき及び/又は検出したクランク角度が所定角度を超えたとき、クランク角度が踏み込み終了角度を超えたとみなして、クランク角度の増加分をリセットして上記した踏み込み開始の検出を再度実行する。また、検出した踏力が所定の閾値より小さくなった状態が所定時間以上継続したときには、例えば坂道を下っている場合等のように踏み込みがなされていない状況とみなして、クランク角度の増加分をリセットして上記した踏み込み開始の検出を再度実行する。
【0053】
以上のように、動力伝達ギア200は、踏力検出手段を構成する一方向クラッチ99の歯部112、合力機構、合力時の減速ギア、車速の検出機構、並びに、ペダル検出機構を一体化した手段として機能している。これにより、電動アシスト自転車1において部品点数の削減、軸方向の省スペース化を図ることができる。
(本発明の実施例の作用)
図8に示すように、踏み込み開始角度で右側ペダルクランク6Rのペダル8Rに対する踏み込みが開始され、クランク角度θが増大するにつれ、踏力が漸次大きくなり、踏力最大角度で踏力が最大となり、それから次第に踏力が減少し、踏み込み終了角度で踏力が実質的に0となり、右側ペダルクランク6Rにおけるペダル半回転サイクルが完了する。終了角度から更にクランク角度が一定角度増大すると、左側ペダルクランク6Lのペダル8Lに対する踏み込みが開始され、同様に、左側ペダルクランク6Lにおけるペダル半回転サイクルが実行される。
【0054】
図9には、クランク角度の関数として変化する踏力及び補助動力のグラフが示されている。図9において、θs(k)、θm(k)及びθe(k)は、各々、k番目のペダル半回転サイクル(サイクル番号k=1,2,3,...)における踏み込み開始角度、踏力最大角度及び踏み込み終了角度である。例えばk=1におけるペダル半回転サイクルが、右側ペダルクランク6Rに関するものであるとすると、k=2のペダル半回転サイクルは、左側ペダルクランク6Lに関するものとなり、以下同様に左右の半サイクルが交互に現われる。
【0055】
なお、θs(k)、θm(k)及びθe(k)は、サイクル数kが大きくなるにつれて、グラフ上では増大していくが、以下、単に「クランク角度」と称した場合には、θs(k)=0にリセットされるものとする。即ち、後述される踏力最大角度及び踏み込み終了角度は、各々、開始角度を0としたときのクランク角度である。
【0056】
図9に示されるように、踏力F(θ、k)は、クランク角度θs(k)から漸次増大し、θm(k)で最大となり、そこから漸次減少しθe(k)で実質0となる。fm(θ、k)は、ペダル半回転サイクルにおいて車速一定としたときのアシスト比が当該サイクルでクランク角度に依らず一定である場合(従来技術)の補助動力の変化を示している。図9では、斜線部分がアシスト比一定の場合に付加されるこの補助動力を示している。踏力F(θ、k)の変化に応じてfm(θ、k)も増減していることが理解できる。
【0057】
これに対して、F(θ、k)は、本発明の実施例に係るクランク角度に依存するアシスト比制御に基づく補助動力を示している。ここで、本実施例に係るアシスト比制御を用いた電動アシスト自転車1の電動アシスト処理の流れを図10乃至図13のフローチャートを用いて説明する。
【0058】
図10に示されるように、上述した踏力検出機構により踏力FLの検出処理が実行され(ステップ300)、ホール素子210の出力パルス数のカウント処理が実行される(ステップ302)。ステップ302及び304では、マイクロコンピュータ14は、実際に踏み込みが行われている状況か又は踏力が検出されない状況(例えば坂道を下っている状況等))かに関わりなく、ホール素子162及びホール素子210からの出力信号を絶えず監視している。ステップ302で出力パルス数がカウントされる場合にはパルスのカウント数から車速Vが検出される(ステップ304)。なお、これらのステップ300、302、304は、マイクロコンピュータ14によって、次のステップに移行した後も、常時、実行される。
【0059】
次に、検出した踏力FLの変化により踏み込みが検出されたか否かを判定する(ステップ306)。例えば、検出した踏力FLが所定の閾値を超えたとき、踏み込み開始と判定する。踏み込みが検出された場合(ステップ306肯定判定)、踏み込み検出時のクランク角度を開始角度θsに設定し(ステップ308)、開始角度θsからの最大踏力角度θm0及び終了角度θe0を決定する。一実施例では、最大踏力角度θm0及び終了角度θe0は、予め経験的に求められている典型的な固定値とすることができる。
【0060】
次に、車速V及びクランク角度θの関数としてのアシスト比パターンAr(θ、V)を決定する(ステップ312)。ステップ310で最大踏力角度θm0及び終了角度θe0を常に固定値として決定する場合は、アシスト比パターンArも車速Vの速度域毎に常に同一の変化パターンを使用することができる。このアシスト比パターンArによれば、例えば、クランク角度が開始角度θsから最大踏力角度θm0まで変化するときアシスト比を漸増させ、最大踏力角度θm0で最大のアシスト比を達成し、クランク角度が該最大踏力角度θm0から終了角度θe0まで変化するとき、アシスト比を漸減させる。
【0061】
アシスト比パターンArが決定されると、実際に開始角度θsからのパルスカウント数でリアルタイムにクランク角度θを検出し(ステップ314)、ステップ312で決定されたアシスト比パターンArの検出クランク角度θにおけるアシスト比を実現するように電動モータが制御される。即ち、アシスト比パターンAr、クランク角度θ、車速V及び踏力FLに基づいて決定された補助動力FMで電動アシスト制御が実行される(ステップ316)。踏み込み終了角度θe0以降では、再びステップ306に戻って踏み込み検出から同様の制御が繰り返される。
【0062】
ステップ316で制御される補助動力が、図9に補助動力F(θ、k)として示されている。同図に示されるように、補助動力F(θ、k)は、クランク角度が開始角度θsから最大踏力角度θm0まで所定角度まで変化するとき、同一車速のペダル半サイクル内で同一のアシスト比を達成する従来技術の補助動力f(θ,k)よりも小さくなるように制御される。クランク角度が最大踏力角度θm0まで所定角度範囲以内に接近するとき、補助動力F(θ、k)は、補助動力f(θ,k)よりも大きくなり、最大踏力角度θm0で両者の差が最大となるように制御される。クランク角度が最大踏力角度θm0以降で該角度から所定角度範囲以内までのうちも、補助動力F(θ、k)は、補助動力f(θ,k)よりも大きくなるように制御される。クランク角度が最大踏力角度θm0から所定角度範囲以内を超えたとき、再び、補助動力F(θ、k)は、補助動力f(θ,k)よりも小さくなるように制御される。その結果、踏力FL(θ、k)及び補助動力F(θ、k)の合力は、図9では、S(θ、k)のように表され、従来技術による合力(斜線部の輪郭線)に比べて、やや尖った形態となる。
【0063】
従って、本発明の実施例に係るクランク角度に応じたアシスト比の変更制御によれば、急な出だしにより車体を発進させた場合等においてクランク角度が小さいうちは補助動力を比較的小さく抑えることができる。更には、最も補助動力を必要とする最大踏力時のクランク角度では、補助動力を比較的大きくすることができる。
【0064】
図10のステップ310では、最大踏力角度θm0及び終了角度θe0を常に固定値として決定していたが、実際には、個々人の踏力パターンの差や、路面状況等に応じて、常に一定であるとは限らない。この点を考慮して、最大踏力角度θm0及び終了角度θe0を状況に応じて変更する方法を図11を用いて説明する。なお、図11の制御は、図10のステップ310で呼び出されるサブルーチンとして実施される。
【0065】
図11に示されるように、図10のステップ300で検出された踏力FL及びステップ302でカウントされたホール素子出力パルスのカウント値が本サブルーチンプログラムに引き渡される(ステップ330、ステップ332)。次に、踏力FLの変化パターンの特徴パラメータが、ペダル半回転サイクル毎に抽出される(ステップ334)。この特徴パラメータとして、例えば、ペダル半回転サイクルkの各々において最大踏力角度θm(k)及び踏み込み終了角度θe(k)が抽出される。これらの抽出方法としては、踏み込み終了角度θeに関しては、踏み込み開始角度θsが検出されてから一定以上のクランク角度が増加し、かつ、踏力FLが所定の閾値以下になり始めたときのクランク角度として抽出することができる。また、最大踏力角度θm(k)に関しては、クランク角度が踏み込み開始角度θsから踏み込み終了角度θeまでの間で最大踏力FLmax(k)を周知の極大値検索アルゴリズム等で検索し、該最大踏力を与えたクランク角度を最大踏力角度θm(k)として抽出する。
【0066】
次に、ステップ334で抽出されたデータのうち直前の過去n個のデータを平均演算する(ステップ336)。例えば、現在のペダル半回転サイクル番号をpとすると、過去n個の最大踏力角度のデータはθm(p−n)、θm(p−n+1),..θm(p−1)となり、これらのデータから次式の通り平均最大踏力角度Avθmを演算する。
【0067】
Avθm=(θm(p−n)+θm(p−n+1)+..θm(p−1))/n
また、過去n個の踏み込み終了角度のデータθe(p−n)、θe(p−n+1),..θe(p−1)から次式の通り平均最大踏力角度Avθeを演算する。
【0068】
Avθe=(θe(p−n)+θe(p−n+1)+..θe(p−1))/n
更に、過去n個の最大踏力のデータFLmax(p−n)、FLmax(p−n+1),..FLmax(p−1)から次式の通り踏み込み平均最大踏力AvFLmaxを求めることもできる。
【0069】
AvFLmax=(FLmax(p−n)+..FLmax(p−1))/n
ステップ336で平均値が演算されると、本サブルーチンをリターンして、図10のステップ310に戻る。このとき、ステップ336で求められたAvθm及びAvθeを各々最大踏力角度θm0及び終了角度θe0に代入し、ステップ312に移行する。このように本サブルーチンでは、最大踏力角度θm0及び終了角度θe0を過去n個分のデータを平均することによって求めているので、個々人の差や路面状況等に応じて変動する踏力パターンに適用したパラメータを設定することができる。なお、ステップ336では、過去n個のデータに基づいて平均演算を行ったが、例えば、指定した一定学習期間の走行中に取得したn個のデータに基づいてAvθm及びAvθeを求め、学習期間終了後は、それらの平均値をステップ310で固定値として用いることもできる。なお、n=1であってもよい。
【0070】
次に、ステップ336で求められたAvθm及びAvθeを使用してアシスト比パターンArを決定する、図10のステップ312の方法について図12を参照して説明する。なお、図12の制御は、図10のステップ312で呼び出されるサブルーチンとして実施される。
【0071】
図12に示されるように、車速V、平均最大踏力角度Avθm及び平均終了角度Avθeが本サブルーチンに引き渡される(ステップ350、352)。なお、平均最大踏力AvFLmaxも引き渡されてもよい。次に、車速Vにおける典型的なアシスト比パターンArが、平均最大踏力角度Avθm及び平均終了角度Avθeに基づいて変更される。例えば、マイクロコンピュータ14のメモリには、車速V及びクランク角度θの関数としての典型的なアシスト比パターンArが記憶されている。この典型的なアシスト比パターンArは、例えば、θm/(θe−θm)=1(θs=0と仮定)となるように、即ち、最大踏力角度を中心として対称的な変化パターンとして記憶されている。しかし、実際には、ステップ352で引き渡されたデータを用いた比Avθm/(Avθe−Avθm)が必ずしも1になるとは限らない。そこで、比Avθm/(Avθe−Avθm)に応じて、典型的なアシスト比パターンArを変更する。例えば、θs≦クランク角度θ≦Avθmのときは、典型的なパターンArをそのまま用い、Avθm<クランク角度θ≦Avθmのときは、典型的なアシスト比パターンArをX方向(図8のクランク角度軸の方向)にAvθm/(Avθe−Avθm)の比で伸縮させる。このようにして、θs≦クランク角度θ≦Avθeの全定義域で画定されたアシスト比パターンArを得ることができる。更に、ステップ352で引き渡された平均最大踏力AvFLmaxに応じて、典型的なアシスト比パターンArの最大アシスト比を変更することもできる。例えば、平均最大踏力AvFLmaxをその大きさで複数の段階に分類し、各々の段階でゲインを対応付けておく。そして、引き渡されたAvFLmaxに対応するゲインで典型的なパターンArをY方向(図8の力軸の方向)に増減させる。
【0072】
ステップ354でアシスト比が演算されると、本サブルーチンをリターンして、図10のステップ312に戻り、演算されたアシスト比で電動アシスト制御が実行される。従って、個々人の差や路面状況等に応じて変動する踏力パターンに適したアシスト比で走行することができる。
【0073】
次に、図12とは別の方法でアシスト比パターンArを決定する方法について図13を参照して説明する。なお、図13に示す制御も、図10のステップ312で呼び出されるサブルーチンとして実施される。
【0074】
図13に示されるように、車速V、平均最大踏力角度Avθm及び平均終了角度Avθeが本サブルーチンに引き渡される(ステップ360、362)。このとき、平均最大踏力AvFLmaxも引き渡されてもよい。
【0075】
次に、平均最大踏力角度Avθm及び平均終了角度Avθe(又は、これらの加えてAvFLmax)に適した、車速Vにおける複数のアシスト比パターンArのうちいずれかが選択される(ステップ364)。本実施例では、マイクロコンピュータ14は、メモリ内に複数のアシスト比パターンを記憶しており、これらのパターンの各々は、例えば様々な路面状況の各々に応じて経験的に適していると判断された典型的なパターンである。更に、メモリ内には、各典型的なパターンに対応付けられた特徴パラメータ値が記憶されている。特徴パラメータ値は、例えば、最大踏力角度θm/(終了角度θe−最大踏力角度θm)の比、及び、最大踏力FLmax/ペダル半回転サイクル分のクランク角度θeなどが挙げられる。従って、ステップ364では、ステップ362で引き渡されたAvθm、Avθe及び/又はAvFLmaxに基づいて特徴パラメータ値を計算し、計算された特徴パラメータに最も近い特徴パラメータに対応するアシスト比パターンをメモリから検索することによって、現在の走行状態に最も適したアシスト比パターンを選択することができる。なお、選択したアシスト比パターンのクランク角度定義域が、ステップ362で引き渡された平均踏力FLのクランク角度定義域と異なる場合には、図12のステップ354で実施されたような定義域を合致させる処理が実施されてもよい。
【0076】
ステップ364でアシスト比パターンが選択されると、本サブルーチンをリターンして、図10のステップ312に戻り、選択されたアシスト比パターンで電動アシスト制御が実行される。従って、本実施例においても、個々人の差や路面状況等に応じて変動する踏力パターンに適したアシスト比パターンで走行することができる。
【0077】
なお、ステップ364におけるアシスト比パターンの選択処理では、マイクロコンピュータ14に入力されたモード信号(例えばノーマルモード、ターボモード、エコモード等)に応じて複数のアシスト比パターンから一つを選択する工程を加えてもよい。なお、モード信号によるアシスト比パターンの選択は、ステップ364から独立に実施されてもよく、図12のステップ354で用いられる典型的なアシスト比パターンも、モード信号により選択されるようにすることができる。
【0078】
以上が本発明の実施例であるが、本発明は、上記例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において任意好適に変更可能である。
【0079】
例えば、一方向クラッチ99の駒部100及び歯部112のいずれか一方を動力伝達ギア200に形成し、他方をドライブシャフトに取り付けるかは、任意好適に変更可能である。例えば駒部100を動力伝達ギア200側に形成し、歯部112をドライブシャフト4に摺動可能且つ回転不可能に取り付け、歯部112によって皿バネ137を押し込めるようにしてもよい。
【0080】
更に、一方向クラッチ99の変形に対抗して配置される弾性体も任意好適に種類及びその形状を変更可能である。皿バネ以外に例えばコイルスプリング、ゴム等の弾性体などを用いることもできる。また、磁場を検出する手段として、ホール素子を例にしたが、磁場を検出できれば、これに限定されるものではない。
【0081】
また、クランク検出手段及び踏力検出手段に関して、その磁場検出手段の位置、磁石の形状及びその取り付け位置、並びに、磁性体又は反磁性体の形状及びその取り付け位置も、磁場パルス信号や、一方向クラッチの変形によりもたらされる磁場の変化を検出することができる限り、任意好適に変更可能である。また、磁場検出手段、磁石及び磁性体又は反磁性体の数に関しても、上記例に限定されるものではなく、任意好適に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、本発明の実施例に係る電動アシスト自転車の概略図である。
【図2】図2は、図1に示す電動アシスト自転車の制御系を示す概略図である。
【図3】図3は、図1に示す電動アシスト自転車で使用される、本発明の実施例に係るトルク検出機構を組み込んだ一方向クラッチの側面図である。
【図4】図4は、一方向クラッチの駒部及び該駒部で使用されるバネ棒の構成を示す図であって、(a)は、バネ棒が取り付けられた状態の駒部の斜視図、(b)は、バネ棒を取り外した状態の駒部の斜視図、(c)は、バネ棒の側面図である。
【図5】図5は、図1に示す電動アシスト自転車の踏力検出の原理を説明するため一方向クラッチ(ラチェットギア)の歯及び駒の嵌合状態を示す図である。
【図6】図6は、ドライブシャフトに対する駒部の相対回転を防止する回転防止手段の例を示す図であり、(a)はボールスプライン、(b)はスプラインキー、(c)はキー溝の概略構成を示す上面図である。
【図7】図7は、本発明の実施例に係る合力機構で用いられる動力伝達ギアの正面図及び側面図である。
【図8】図8は、本発明の実施例に係る電動アシスト自転車のクランク角度が、踏み込み開始角度、最大踏力角度、及び、踏み込み終了角度にある状態を示す説明図である。
【図9】図9は、本発明の実施例に係る電動アシスト自転車における、踏力、本実施例で適用される補助動力、前記踏力と前記補助動力との合力、アシスト比が1:1のときの補助動力の時間的変化を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の実施例に係る電動アシスト自転車のクランク角度に応じたアシスト比変更の制御の流れを示すメインフローチャートである。
【図11】図11は、図10に示すアシスト比変更の制御において、最大踏力角度及び終了角度の決定の流れを示すサブルーチンフローチャートである。
【図12】図12は、図10に示すアシスト比変更の制御において、一例としてのアシスト比の決定の流れを示すサブルーチンフローチャートである。
【図13】図13は、図10に示すアシスト比変更の制御において、別の例としてのアシスト比の決定の流れを示すサブルーチンフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
1 電動アシスト自転車
2 スプロケット
3 フレーム
4 ドライブシャフト
11 電動アシストユニット
12 チェーン
14 マイクロコンピュータ
15 増幅回路
17 バッテリー
22 駆動輪(後輪)
37 電動モーター
37a 電動モーターの出力軸
99 一方向クラッチ
100 駒部
102 ラチェット駒
108 第1の回転防止用溝
112 歯部
114 ラチェット歯
137 皿バネ
140 第2の回転防止用溝
150 鋼球
151 支持ディスク
161 リング状の永久磁石
162 ホール素子
163 (磁性体又は反磁性体でできた)リング部材
164 永久磁石
200 補助動力伝達ギア
202 クランク角度検出用の永久磁石
204 動力伝達ギアの歯部
206 固定ピン
210 クランク角度検出用のホール素子
220 ギア
222 補助動力の出力シャフト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏力によるペダルクランクの回転で走行する電動アシスト自転車であって、
補助動力を発生するための電動手段と、
前記補助動力を踏力に並列に付加するための合力手段と、
踏力を検出するための踏力検出手段と、
前記ペダルクランクの車体に対する角度であるクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、
少なくともクランク角度の関数としてのアシスト比パターンを決定するアシスト比決定手段と、
検出されたクランク角度に対応するアシスト比を決定された前記アシスト比パターンから求め、該アシスト比と検出された踏力とから補助動力を演算し、該補助動力を出力するように前記電動手段を制御する、制御手段と、
を備える、電動アシスト自転車。
【請求項2】
前記アシスト比決定手段により決定されるアシスト比パターンは、前記クランク角度と前記電動アシスト自転車の車速との関数である、請求項1に記載の電動アシスト自転車。
【請求項3】
ペダル半回転サイクルにおいて、踏み込みが開始されたときのクランク角度を踏み込み開始角度、踏力が最大となるクランク角度を最大踏力角度、及び、踏み込みが終了したときのクランク角度を踏み込み終了角度と定義したとき、
前記アシスト比決定手段により決定されるアシスト比パターンは、前記開始角度から前記終了角度まで定義されている、請求項1又は2に記載の電動アシスト自転車。
【請求項4】
前記アシスト比決定手段により決定されるアシスト比パターンでは、クランク角度が前記開始角度から前記最大踏力角度まで変化するときアシスト比が漸増され、前記最大踏力角度でアシスト比が最大となり、クランク角度が該最大踏力角度から前記終了角度まで変化するときアシスト比が漸減される、請求項3に記載の電動アシスト自転車。
【請求項5】
前記アシスト比決定手段は、前記踏み込み開始角度が検出されたとき、最大踏力角度及び前記踏み込み終了角度を典型的な固定値として各々有するアシスト比パターンを決定する、請求項3又は4に記載の電動アシスト自転車。
【請求項6】
前記踏力検出手段により検出された踏力及び前記クランク角度検出手段により検出されたクランク角度に基づいて、クランク角度の関数としての踏力パターンを監視する、踏力パターン監視手段を更に備え、
前記アシスト比決定手段は、前記踏力パターン監視手段により監視された踏力パターンに基づいて前記アシスト比パターンを決定する、請求項3又は4に記載の電動アシスト自転車。
【請求項7】
前記踏力パターン監視手段は、前記踏力パターンを特徴付けるパラメータとして少なくとも該踏力パターンの最大踏力角度及び踏み込み終了角度を抽出することにより前記踏力パターンを監視し、
前記アシスト比決定手段は、前記踏力パターンの前記特徴パラメータを有するアシスト比パターンを決定する、請求項6に記載の電動アシスト自転車。
【請求項8】
前記踏力パターン監視手段は、前記特徴パラメータとして、過去の複数の踏力パターンの最大踏力角度及び踏み込み終了角度の各平均演算値を求める、請求項7に記載の電動アシスト自転車。
【請求項9】
前記過去の複数の踏力パターンは、前記電動アシスト自転車が走行中に順次検出される直前の複数の踏力パターン、又は、一定の学習期間内に検出された複数の踏力パターンのうちいずれかである、請求項8に記載の電動アシスト自転車。
【請求項10】
前記特徴パラメータには、前記踏力パターンの最大踏力値が含まれている、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の電動アシスト自転車。
【請求項11】
複数のアシスト比パターンを記憶した記憶手段と、
前記踏力検出手段により検出された踏力及び前記クランク角度検出手段により検出されたクランク角度に基づいて、クランク角度の関数としての踏力パターンを監視する、踏力パターン監視手段と、を更に備え、
前記アシスト比決定手段は、前記踏力パターン監視手段により監視された踏力パターンに対応するアシスト比パターンを前記記憶手段から検索して決定する、請求項3又は4に記載の電動アシスト自転車。
【請求項12】
前記クランク角度検出手段は、
スプロケットに同軸に固定されたディスクと、
前記ディスクの一方の板面側に円周等分に配置された複数の永久磁石と、
前記ディスクの前記一方の板面側に隣接して前記車体に対して固定された磁場検出手段と、
前記磁場検出手段からの磁場パルス信号をカウントするカウント手段と、
を備え、
前記踏力検出手段により踏み込み開始が検出されたときから前記カウント手段によりカウントされた磁場パルス信号のカウント値に基づいて前記クランク角度を検出する、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の電動アシスト自転車。
【請求項13】
前記ディスクは、外側周囲に複数の歯を有するギアとして構成され、
前記ディスクのギアと、前記電動手段の出力ギアと、を噛み合わせることによって、前記合力手段を構成する、請求項12に記載の電動アシスト自転車。
【請求項14】
前記ペダルクランクが連結されたドライブシャフトの車体前進方向に対応する一方向の回転のみを前記スプロケットに伝達するように前記ドライブシャフトと前記スプロケットとを連結する一方向クラッチを更に備え、
前記一方向クラッチは、
前複数の駒が形成された駒部と、
前記複数の駒と各々係合する複数の歯が形成された歯部と、
を備え、
前記駒部及び前記歯部のいずれか一方は、前記ディスクの板面に形成されている、請求項12又は13に記載の電動アシスト自転車。
【請求項15】
前記駒部及び前記歯部のうち前記ディスクに形成されていない他方は、前記ドライブシャフトに相対回転できず且つ軸方向に摺動可能に取り付けられ、
前記ドライブシャフトが前記一方向に回転したとき、前記駒部及び前記歯部の間の相対回転を係止させるように前記駒及び前記歯が係合すると共に、前記駒部及び前記歯部のうち他方は、弾性手段の弾性力に抗して踏力に対応した軸方向距離で前記駒部及び前記歯部のうち一方から離れ、
前記ドライブシャフトが前記一方向とは反対方向に回転したとき、前記駒部及び前記歯部の間の相対回転を可能とするように前記歯及び駒による係止が解除され、前記弾性手段の弾性力により前記軸方向距離が減少し、
前記踏力検出手段は、前記弾性手段の弾性歪みを検出することによって前記踏力を求める、請求項14に記載の電動アシスト自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−254592(P2008−254592A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99247(P2007−99247)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】