説明

電動ステアリング装置

【課題】運転者にとって期待される安定した修正操舵の実施を可能とする電動ステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵トルクTに基づいて制御装置200Aにより制御されて操舵補助力を発生する電動機11を備えた電動パワーステアリング装置において、操向ハンドルに設けられて、運転者の操作により電気信号を出力する操作スイッチ2aL,2aRと、操作スイッチ2aL,2aRからの電気信号に応じて電動機11を駆動する電流を付加する付加電流値波形を演算して出力する付加電流演算部300Aと、を備えている。付加電流演算部300Aは、操作スイッチ2aL,2aRの運転者によるオン状態の時間の長短に関わらず、1回の操作に応じて、車両の走行状態情報に応じた所定の付加電流値IAdの電流波形を生成して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機(転舵モータ)により転舵機構を駆動する又は転舵機構に操舵補助力を付与する電動ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、電動機が操舵トルクの大きさに応じた操舵補助力を発生し、この操舵補助力をステアリング系に伝達して、運転者が操舵する操舵力を軽減するものである。操舵トルクと車速によって定まるベース電流(アシストトルク)を、ステアリング系のイナーシャ(慣性)で補償したり、ダンピング補正したりし、この補償及び補正された電流を目標電流として電動機を制御する技術が開示されている(特許文献1,2参照)。
なお、特許文献2の慣性補償電流値決定手段には、トルクセンサ出力のみが入力されており車速信号が入力されていない。
【0003】
特許文献3には、転舵輪を転舵する操向ハンドルに設けたグリップを回転させると、操舵角及び車速から算出された規範レートとなるヨーレートを調整する車両状態量制御装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献4には、クローラを走行装置として用いた、例えば、コンバイン等の作業機の走行方向を制御する操作装置として、ステアリングホイール形状の操向操作具を左右に回動操作することにより、左右サイドクラッチの一方の継脱、及び左右ブレーキの内のサイドクラッチを切った側のブレーキを掛けて、左右方向に制動旋回するものが記載され、更に、左右サイドクラッチの継脱を操向操作具に設けた方向修正をするスイッチによっても行えるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−59855号公報(図2)
【特許文献2】特開2000−177615号公報(図2)
【特許文献3】特開平10−295151号公報(図2)
【特許文献4】特開2008−174006号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3,4のように操向ハンドル又は操向操作具に設けられたグリップの回転角又はスイッチを操作して旋回運動を調整する技術では、グリップの回転角又はスイッチを操作している時間の長さによって旋回量が変化してしまう。
例えば、4輪車両においてほぼ直進走行をしている場合に、路面の状態の変化に対し、運転者が周期的にほぼ一定の左右方向への修正操舵を行う場合に、前記した運転者のグリップの回転角又はスイッチの操作によって行うと、グリップの回転角の調整や操作時間の調整が必要であり、進路の修正がやりづらいという課題があった。
【0007】
本発明は、前記した従来の課題を解決するものであり、運転者にとって期待される安定した修正操舵の実施を可能とする電動ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、運転者が操舵するステアリングホイールと、転舵輪を転舵する転舵モータと、ステアリングホイールに設けられ、運転者の操作により電気信号を出力する操作部と、ステアリングホイールの操舵と操作部から出力される電気信号のいずれか一方もしくは両方に基づき転舵モータを制御する制御部と、を備え、制御部は、ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操舵により前記操作部から出力される前記電気信号を無効とすることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、制御部は、ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値を超えたとき、運転者による前記操作部から出力される前記電気信号を無効とするので、ステアリングホイールが左方向又は右方向に大きい操舵角で操作されている状態において、運転者の意図する転舵の方向に対してステアリングホイールに設けられた操作部を操作する方向が逆になり、運転者が操作部の操作がしづらくなるのを防止することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、運転者が操舵するステアリングホイールと、転舵輪を転舵する転舵モータと、ステアリングホイールに設けられ、運転者の操作により電気信号を出力する操作部と、ステアリングホイールの操舵と操作部から出力される電気信号のいずれか一方もしくは両方に基づき転舵モータを制御する制御部と、を備え、ステアリングホイールに複数の操作部が設けられ、制御部は、ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操作により複数の操作部のうちの少なくとも一つから出力される電気信号を無効とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の発明の構成に加え、更に、操作部として、ステアリングホイールの中立位置方向を対称軸にして、ステアリングホイールの周方向位置に、左右対称に左側操作部と右側操作部とが設けられており、制御部は、ステアリングホイールの右操舵時に、操舵角が右方向に所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操作により右側操作部から出力される電気信号を無効とし、ステアリングホイールの左操舵時に、操舵角が左方向に所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操作により左側操作部から出力される電気信号を無効とすることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の発明の構成に加え、更に、制御部は、操舵角の所定の第1の閾値と、所定の第1の閾値より値の大きい左方向及び右方向の操舵角の所定の第2の閾値とを、予め記憶し、ステアリングホイールの操舵時に操舵角が左右方向に所定の第1の閾値以下のときは、左側操作部及び右側操作部のいずれから出力される前記電気信号をも有効とし、ステアリングホイールの右操舵時に、操舵角が右方向に所定の第1の閾値を超え、かつ、所定の第2の閾値以内のとき、運転者の操作により運転者の操作により右側操作部から出力される電気信号を無効とし、ステアリングホイールの左操舵時に、操舵角が左方向に所定の第1の閾値を超え、かつ、所定の第2の閾値以内のとき、運転者の操作により左側操作部から出力される前記電気信号を無効とし、ステアリングホイールの操舵時に操舵角が左右方向に所定の第2の閾値を超えたときは、左側操作部及び右側操作部のいずれから出力される電気信号をも無効とすることを特徴とする。
【0013】
請求項2,3,4に記載の発明によれば、制御部は、ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操作により複数の操作部のうちの少なくとも一つから出力される電気信号を無効とする。このとき、ステアリングホイールが左方向又は右方向に大きい操舵角で操作されている状態において、運転者の意図する転舵の方向に対してステアリングホイールに設けられた操作部を操作する方向が逆になり、運転者が操作部の操作がしづらくなる操作部に対してのみ、その操作部から出力される電気信号を無効とする。
従って、ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値を超えたときでも、運転者が操作部の操作がしやすい左側操作部又は左側操作部により車両の走行状態情報に応じた所定の付加電流値波形を生成して出力することができ、転舵モータによる所定量の操舵の修正が容易に可能となる。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明の構成に加え、更に、制御部は、車速に応じてステアリングホイールの操舵角の左方向及び右方向の所定の第1の閾値を可変とすることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、制御部は、車速に応じてステアリングホイールの操舵角の左方向及び右方向の所定の第1の閾値を可変とするので、例えば、車速が大きいほど所定の第1の閾値を小さく設定することによって、車速が大きくなるほど大きな旋回半径での旋回運動中に操作部の操作による転舵角の変化量を許容することなる。それにより、高速旋回走行時の操作部を用いた修正操舵の操作による横方向加速度の変化による乗り心地の悪さを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転者にとって期待される安定した修正操舵の実施を可能とする電動ステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態である電動パワーステアリング装置の構成図である。
【図2】図1における操向ハンドルに設けられた操作スイッチの説明図である。
【図3】第1の実施形態における制御装置の機能ブロック構成図である。
【図4】(a)は、ベース信号演算部がベーステーブルを用いてベース目標電流値の設定をする方法の説明図、(b)は、ダンパ補正信号演算部がダンパテーブルを用いてダンパ補正電流値の設定をする方法の説明図である。
【図5】図3における付加電流演算部における付加電流値波形の説明図であり、(a)は、出力される付加電流値の時間変化の推移の説明図、(b)は、操向ハンドルに設けられた操作スイッチのオン状態の時間長さが出力される付加電流値電流波形に影響を与えないことの説明図である。
【図6】図3におけるゲイン設定部で、車速VSに応じた付加電流値波形の波高を設定するゲインKの説明図である。
【図7】実車両の走行時における操向ハンドルの操舵角の頻度分布の説明図である。
【図8】操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲Rθの設定方法の説明図であり、(a)は、操舵角θが所定の範囲Rθ内の状態の説明図、(b)は、操舵角θが所定の範囲Rθ外の状態の説明図である。
【図9】低速での走行時における操舵角及び操舵力の時間推移の説明図であり、(a)は、計測コースの説明図、(b)は、(a)に示した計測コースを走行時の操舵角及び操舵力の時間推移の説明図である。
【図10】高速での走行時における操舵角及び操舵力の時間推移の説明図であり、(a)は、計測コースの説明図、(b)は、(a)に示した計測コースを走行時の操舵角及び操舵力の時間推移の説明図である。
【図11】図3における付加電流演算部における付加電流値波形の生成及び出力制御の流れを示すフローチャートである。
【図12】図11の続きのフローチャートである。
【図13】第2の実施形態における制御装置の機能ブロック構成図である。
【図14】図13における付加電流演算部における付加電流値波形の生成の説明図であり、(a)は、基準の付加電流矩形波の時間幅を車速VSに応じて変化させて設定する説明図、(b)は、基準の付加電流矩形波の時間幅の車速VSに応じた変化の説明図である。
【図15】図13におけるゲイン設定部で、車速VSに応じた付加電流値波形の波高を設定するゲインの説明図である。
【図16】図13における出力波形整形部で、基準の付加電流値の電流波形である矩形パルス波形に一時遅れ処理を行うために用いる立ち上がり用時定数τ1と、立ち下がり用時定数τ2の車速VSに応じた設定の説明図である。
【図17】図13における付加電流演算部における付加電流値波形の説明図であり、(a)は、出力される付加電流値の時間変化の推移の説明図、(b)は、操向ハンドルに設けられた操作スイッチのオン状態の時間長さが出力される付加電流値波形に影響を与えないことの説明図である。
【図18】図13における付加電流演算部における付加電流値波形の生成及び出力制御の流れを示すフローチャートである。
【図19】図18の続きのフローチャートである。
【図20】操作スイッチの操作を有効とする操舵角θの範囲Rθ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値を車速に応じた設定とする説明図である。
【図21】図1における操向ハンドルに設けられた操作スイッチの変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
《第1の実施形態》
本発明の第1の実施形態である電動パワーステアリング装置を、図1から図3を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態である電動パワーステアリング装置の構成図であり、図2は、図1における操向ハンドルに設けられた操作スイッチの説明図である。図3は、第1の実施形態における制御装置の機能ブロック構成図である。
【0019】
(電動パワーステアリング装置の全体構成)
図1において、電動パワーステアリング装置(電動ステアリング装置)100は、操向ハンドル(ステアリングホイール)2が設けられたメインステアリングシャフト3と、シャフト1と、ピニオン軸5とが、2つのユニバーサルジョイント(自在継手)4,4によって連結されている。また、ピニオン軸5の下端部に設けられたピニオンギア7は、車幅方向に往復運動可能なラック軸8のラック歯8aに噛合し、ラック軸8の両端には、タイロッド9,9を介して左右の転舵輪である前輪(転舵輪)10F,10Fの図示しないナックルアームが連結されている。この構成により、電動パワーステアリング装置100は、操向ハンドル2の操舵(操舵入力)時に車両の進行方向を変えることができる。
ここで、ラック軸8、ラック歯8a、タイロッド9,9、ナックルアームは転舵機構を構成する。
【0020】
なお、ピニオン軸5は、その下部、中間部、上部を軸受6a,6b,6cを介してステアリングギアボックス20に支持されている。
【0021】
また、電動パワーステアリング装置100は、操向ハンドル2による操舵力を軽減するための操舵補助力を供給する電動機(転舵モータ)11を備えており、この電動機11の出力軸に設けられたウォームギア12が、ピニオン軸5に設けられたウォームホイールギア13に噛合している。すなわち、ウォームギア12とウォームホイールギア13とで減速機構が構成されている。
ここで、シャフト1と、操向ハンドル2と、電動機11の回転子と、電動機11に連結されているウォームギア12及びウォームホイールギア13と、ピニオン軸5とラック軸8とラック歯8aとタイロッド9,9等により、ステアリング系が構成される。
電動機11は、複数の界磁コイルを備えた固定子(図示せず)とこの固定子の内部で回動する回転子(図示せず)からなる3相ブラシレスモータである。
【0022】
また、電動パワーステアリング装置100は、制御装置(制御部)200、電動機11を駆動するインバータ60、レゾルバ50、ピニオン軸5に加えられるピニオントルク、つまり、操舵トルクTを検出する操舵トルクセンサ(トルクセンサ)30と、操舵トルクセンサ30の出力を増幅する差動増幅回路40と、車速センサ(車速検出手段)35とを備えている。
ちなみに、操向ハンドル2の操作角(操舵角)を検出する操舵角センサ52を更に備え、検出した操舵角θを示す信号を制御装置200に入力して、制御装置200においてそれを用いても良い。本実施形態では、操舵角θを用いた構成で説明する。
なお、操向ハンドル2の操舵角θは、中立位置より左側方向は−(マイナス)符号であり、中立位置より右側方向は+(プラス)符号とする。
【0023】
なお、図1において制御装置200と代表的に表示しているが、( )内に表示の制御装置200Aは、第1の実施形態における制御装置に、制御装置200Bは、第2の実施形態における制御装置に対応している。
【0024】
インバータ60は、例えば、3相のFETブリッジ回路のような複数のスイッチング素子を備え、制御装置200からのDUTY(図3中では、「DUTYu」,「DUTYv」,「DUTYw」と表示)信号を用いて、矩形波電圧を生成し、電動機11を駆動するものである。また、インバータ60は、例えば、ホール素子等の電流センサSIu,SIv,SIw(図3参照)を用いて3相の実電流値I(図3中では、「Iu」,「Iv」,「Iw」と表示)を検出して制御装置200に入力する機能を有している。ちなみに、図3では、電流センサSIu,SIv,SIwを分かり易いようにインバータ60の外部に表示してある。
【0025】
レゾルバ50は、電動機11の回転子の回転角θを検出し、それに対応する角度信号を出力するものであり、例えば、周方向に等間隔の複数の凹凸部を設けた磁性回転体に磁気抵抗変化を検出する検出回路を近接させた可変リラクタンス型のレゾルバである。
操舵角センサ52で検出された操向ハンドル2の操作角を示す信号は制御装置200に入力され、前輪10F,10Fの転舵角δに換算される。
【0026】
図1に戻って、操舵トルクセンサ30は、ピニオン軸5に加えられるピニオントルク、つまり、操舵トルクTを検出するものであり、例えば、ピニオン軸5の軸方向2箇所に逆方向の異方性となるように磁性膜が被着され、各磁性膜の表面に検出コイルがピニオン軸5に離間して挿入されている。差動増幅回路40は、検出コイルがインダクタンス変化として検出した2つの磁歪膜の透磁率変化の差分を増幅し、操舵トルクTを示す信号を制御装置200に入力する。
【0027】
車速センサ35は、車両の車速VS(走行状態情報)を単位時間あたりのパルス数として検出するものであり、車速VSを示す信号を出力する。
【0028】
図1、図2に示すように操向ハンドル2の上面側には、操向ハンドル2が中立状態において略左右方向にリング状の被把手部にまで延びるスポークの左右両側近傍には、上下方向にスライドする操作スイッチ(操作部)2aL,2aRが設けられている。操作スイッチ2aL,2aRからのスイッチ信号(電気信号)は、制御装置200の後記するスイッチ操作判定部290A(図3参照)に入力される。
そして、図2に示すように操作スイッチ2aL,2aRは、上下に運転者が指でスライド可能なスライド式のスイッチであり、操作力が加わっていない場合は、内蔵されたスプリングにより中立点Aに復帰するように構成されている。
図2に示すように操作スイッチ2aL,2aRは、操向ハンドル2が直進方向、つまり、中立位置方向を対称軸Dとして左右対称位置に操向ハンドル2の周方向に沿って設けられている。そして、対称軸Dに対して直角な水平軸Lに対し操作スイッチ2aL,2aRのそれぞれの中立点Aがなす角度αdegを、例えば、後記する操作スイッチ有効判定部295(図3参照)における操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲Rθの設定、つまり、操舵角θが左方向又は右方向に所定の第1の閾値以内か否かの判定値の設定の際に考慮する。ちなみに、有効な操舵角θの範囲Rθは、操舵角θの絶対値で設定され、左右に同一の操舵角θの範囲である。
ここで、操作スイッチ2aLが特許請求の範囲に記載の「左側操作部」に対応し、操作スイッチ2aRが特許請求の範囲に記載の「右側操作部」に対応する。また、「有効な操舵角θの範囲Rθ」が、特許請求の範囲に記載の「ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値」に対応する。
【0029】
操作スイッチ2aLが中立点Aから所定量以上の距離上側にスライドするか、もしくは、操作スイッチ2aRが中立点Aから所定量以上の距離下側にスライドすると、操作スイッチ2aL、もしくは、操作スイッチ2aRは、オン(ON)状態となり、右方向に所定量の操舵をするための付加電流値IAd(図3参照)の電流波形(付加電流値波形)を発生させる。このオン(ON)状態の信号を、「右方向修正舵信号」と以下では称する。
また、操作スイッチ2aLが中立点Aから所定量以上の距離下側にスライドするか、もしくは、操作スイッチ2aRが中立点Aから所定量以上の距離上側にスライドすると、操作スイッチ2aL、もしくは、操作スイッチ2aRは、オン(ON)状態となり、左方向に所定量の操舵をするための付加電流値IAdの電流波形を発生させる。このオン(ON)状態の信号を、「左方向修正舵信号」と以下では称する。
ちなみに、操作スイッチ2aL,2aRが、中立点Aにある場合は、操作スイッチ2aL,2aRはオフ(OFF)状態である。
【0030】
なお、操作スイッチ2aL,2aRが、左右いずれの方向に所定量の操舵をするための付加電流値IAdの電流波形を発生させる信号を出力しているかは、操作スイッチ2aL,2aRから出力信号がプラス、マイナスの極性を持つように操作スイッチ2aL,2aRの回路構成をすれば容易にスイッチ操作判定部290Aにおいて判定可能である。
本実施形態では、操作スイッチ2aL,2aRを備えているが、いずれか一方のみを備えるものでも良い。
【0031】
《制御装置》
次に、図3を参照しながら、適宜、図1、図4から図6を参照して、第1の実施形態における制御装置200Aの構成と機能について説明する。図4の(a)は、ベース信号演算部がベーステーブルを用いてベース目標電流値の設定をする方法の説明図、(b)は、ダンパ補正信号演算部がダンパテーブルを用いてダンパ補正電流値の設定をする方法の説明図である。
制御装置200Aは、CPU(Central Processing Unit),ROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory )等を備えるマイクロコンピュータ、インタフェース回路及びROMに格納されたプログラムからなり、図3の機能ブロック構成図に記載される機能を実現する。
【0032】
図3の制御装置200Aは、ベース信号演算部220、イナーシャ補償信号演算部210、ダンパ補正信号演算部225、q軸PI制御部240、d軸PI制御部245、2軸3相変換部260、PWM変換部262、3相2軸変換部265、励磁電流生成部275、付加電流演算部(付加電流演算手段)300A等を有する。
【0033】
(ベース信号演算部220)
ベース信号演算部220は、差動増幅回路40(図1参照)からの操舵トルクTを示す信号と、車速センサ35(図1参照)からの車速VSを示す信号に基づいて、電動機11(図1参照)の出力する操舵補助力の基準となる目標値であるベース目標電流値Iを生成する。このベース目標電流値Iの生成は、予め実験測定等によって設定されたベーステーブル220aを、操舵トルクTと車速VSとで参照することによって行われる。
【0034】
図4の(a)に、ベーステーブル220aに格納されているベース目標電流値Iの関数を示す。図4では、操舵トルクTの値が正の場合の例で示してあるが、操舵トルクTが負の場合は、ベース目標電流値Iの値は負になり、不感帯N1の幅も負側に設定される。右側への転舵操作の操舵トルクTを正(+)、左側への転舵操作の操舵トルクTを負(−)としたとき、以下の説明では、左右の操舵トルクTによる違いは、±の符号のみであるので、代表して+側(右側)の説明を行い、左側(−側)については、適宜省略する。
ちなみに、不感帯上限トルク、不感帯下限トルクも±符号の違いであるので、不感帯下限トルクの説明も適宜省略する。
ちなみに、操舵角θについても中立状態から左側を負値とし、右側を正値として以下では示してある。
【0035】
図4の(a)に即して操舵トルクTが正値の場合を例に説明すると、ベース信号演算部220は、ベーステーブル220aを用い、操舵トルクTの正値が小さいときはベース目標電流値Iがゼロに設定される正値側の不感帯N1が設けられ、操舵トルクTの値がこの不感帯N1の正値の上限値(不感帯上限トルク)以上になると、ベース目標電流値IがゲインG1で直線的に増加する特性を備えている。また、ベース信号演算部220は、所定の操舵トルク値で出力はゲインG2で増加し、更に操舵トルク値が増加すると出力が所定の正の飽和値に達する特性を備えている。
ここで、正値側の不感帯N1及び負値側の不感帯N1を合わせて、以後、単に、「不感帯N1」と称する。
【0036】
また、一般に車両は、走行速度に応じて路面の負荷(路面反力)が異なるため、車速VSにより不感帯上限トルクの値、ゲインG1,G2、ベース目標電流値|I|の飽和値が調整される。車速ゼロの据え切り操作時が最も負荷が重く中低速では比較的負荷が軽くなる。このため、ベース信号演算部220は、車速VSが大きく高速になるに従ってゲイン(G1,G2)及び飽和値の絶対値を低く、かつ、不感帯上限トルクを大きく設定して、マニュアルステアリング領域を大きくとって路面情報を運転者に与える。
すなわち、車速VSの増大に応じてしっかりとした操舵トルクTの手応え感が付与される。このとき、マニュアルステアリング領域においてもイナーシャ補償がなされることが必要である。
【0037】
(ダンパ補正信号演算部225)
図3に戻り、ダンパ補正信号演算部225は、ステアリング系が備える粘性を補償するため、又車両が高速走行時に収斂性が低下する際にこれを補正するステアリングダンパ機能を有するために設けられるものであり、ダンパ補正信号演算部225のダンパテーブル225aを用いて、電動機11の回転角速度ωを参照して演算される。図4の(b)は、ダンパテーブル225aに格納されているダンパ補正電流値Iの関数を示す。図4の(b)は、電動機11の回転角速度ωの値が正の場合で示してあるが、回転角速度ωの値が負の場合は、ダンパ補正電流値Iの値は負になる。先ず、図4の(b)に即して回転角速度ωの値が正の場合を例に説明すると、電動機11の回転角速度ωが増加するほどダンパ補正電流値Iが直線的に増加し、所定の回転角速度ωでダンパ補正電流値が急激に増加し車速VSに応じた所定の正の飽和値となる特性を備えている。
【0038】
同様に、回転角速度ωの値が負の場合は、電動機11の回転角速度ωが負値方向に増加するほどダンパ補正電流値Iが直線的に負値方向に増加し、所定の回転角速度ωでダンパ補正電流値Iが負値方向に急激に増加し車速VSに応じた所定の負の飽和値となる特性を備えている。
また、車速VSの値が高いほど、ゲイン、飽和値の絶対値の両方を大きくして電動機11の回転角速度、すなわち、操舵角速度に応じて電動機11の出力する操舵補助力を、減算器251でベース目標電流値Iからダンパ補正電流値Iを減算することで減衰させている。
【0039】
言い換えれば、切り増し時には、操向ハンドル2の回転速度が高くなるに従って、電動機11への切り増し方向の操舵補助力電流の値を小さくして操向ハンドル2の操舵感を重く切りづらくし、操向ハンドル2の戻し時には電動機11へ戻し操作に対する反力方向の電流を大きくして戻りづらくしている。このステアリングダンパ効果により、操向ハンドル2の収斂性を向上させ、車両の旋回運動特性を安定化させることができる。
【0040】
(減算器251)
再び図3に戻り、減算器251は、ベース信号演算部220のベース目標電流値Iからダンパ補正信号演算部225のダンパ補正電流値Iを減算し、その結果を加算器250に入力する。
【0041】
(イナーシャ補償信号演算部210)
イナーシャ補償信号演算部210は、ステアリング系の慣性による影響を補償するものであり、イナーシャ補償信号演算部210のイナーシャテーブル210aを用いて操舵トルクTを参照して、前記したイナーシャ補償電流値Iを演算する。
【0042】
イナーシャ補償信号演算部210は、電動機11の回転子の慣性による応答性の低下をも補償している。言い換えれば、電動機11は正回転から逆回転に、又は、逆回転から正回転に回転方向を切り替える際、慣性によってその状態を持続させようとするので直ぐには回転方向が切り替わらない。そこで、イナーシャ補償信号演算部210は、電動機11の回転方向の切り替わりが操向ハンドル2の回転方向が切り替わるタイミングに一致するように制御している。このようにして、イナーシャ補償信号演算部210は、ステアリング系の慣性や粘性による操舵の応答遅れを改善してすっきりした操舵感を付与している。また、FF(Front engine Front wheel drive)やFR(Front engine Rear wheel drive)車、RV(Recreation Vehicle)やセダン等の車両特性や車速、路面などの車両状態によって異なる操舵特性に対して、実用上十分な特性が付与される。
【0043】
(加算器250、加算器252、減算器253、q軸PI制御部240)
加算器250は、減算器251からの入力とイナーシャ補償信号演算部210のイナーシャ補償電流値Iとを加算するものである。加算器250の出力信号であるq軸目標電流値ITG1は、電動機11の出力トルクを規定するq軸電流の目標信号であり、加算器252に入力される。
加算器252には、付加電流演算部300Aからの後記する付加電流値IAdが入力され、前記したq軸目標電流値ITG1に付加電流値IAdを加算演算した結果であるq軸目標電流値Iqを、減算器253に入力する。その結果、q軸目標電流値ITG1は、加算器252によって所定の電流波形を有した付加電流値IAdが加算されて、q軸目標電流値Iqとして減算器253に入力される。
減算器253には、3相2軸変換部265からq軸実電流値Iqが入力され、前記したq軸目標電流値Iqからq軸実電流値Iqを減算した結果を、q軸PI制御部240に制御信号である偏差値ΔIqとして入力する。
【0044】
q軸PI制御部240は、偏差値ΔIqが減少するように、P(比例)制御及びI(積分)制御のフィードバック制御を行い、q軸目標信号であるq軸目標電圧値Vqを得て、2軸3相変換部260に入力する。
【0045】
(励磁電流生成部275、減算器254、d軸PI制御部245)
励磁電流生成部275は、電動機11のd軸目標電流値Idの目標信号として「0」を生成するが、必要に応じd軸目標電流値Idとq軸目標電流値Iqとを略等しくすることにより、弱め界磁制御を行うことができる。
減算器254には、3相2軸変換部265からd軸実電流値Idが入力され、前記したd軸目標電流値Idからd軸実電流値Idを減算した結果を、d軸PI制御部245に制御信号である偏差値ΔIdとして入力する。
d軸PI制御部245は、偏差値ΔIdが減少するように、P(比例)制御及びI(積分)制御のPIフィードバック制御を行い、d軸目標信号であるd軸目標電圧値Vdを得て、2軸3相変換部260に入力する。
【0046】
(2軸3相変換部260、PWM変換部262)
2軸3相変換部260は、回転角θを用いてd軸目標電圧値Vd及びq軸目標電圧値Vqの2軸信号を3相信号Uu,Uv,Uwに変換する。PWM変換部262は、3相信号Uu,Uv,Uwの大きさに比例したパルス幅のON/OFF信号[PWM(Pulse Width Modulation)信号]であるDUTY信号(図3中では「DUTYu」,「DUTYv」,「DUTYw」と表示)を生成する。
なお、2軸3相変換部260及びPWM変換部262には、レゾルバ50から電動機11の回転角θを示す信号が入力され、回転子の回転角θに応じた演算や制御がなされる。
【0047】
(3相2軸変換部265)
3相2軸変換部265は、インバータ60の電流センサSIu,SIv,SIwが検出する、電動機11の3相の実電流値Iu,Iv,Iwを、回転角θを用いてd−q座標系のd軸実電流値Id、q軸実電流値Iqに変換し、d軸実電流値Idを減算器254に入力し、q軸実電流値Iqを減算器253に入力する。
ちなみに、q軸実電流値Iqは電動機11の発生トルクに比例し、d軸実電流値Idは励磁電流に比例する。
【0048】
(回転角速度演算部270)
回転角速度演算部270は、入力された回転角θを時間微分して回転角速度ωを算出し、ダンパ補正信号演算部225に入力する。
【0049】
《付加電流演算部300A、加算器252》
次に、図3、図5、及び図6を参照しながら本実施形態における特徴的な構成である付加電流演算部300Aについて説明する。
図5は、図3における付加電流演算部における付加電流値波形の生成の説明図であり、(a)は、出力される付加電流値の時間変化の推移の説明図、(b)は、操向ハンドルに設けられた操作スイッチのオン状態の時間長さが出力される付加電流値波形に影響を与えないことの説明図である。図5においては、付加電流値IAdが正の場合の電流波形を例示しており、付加電流値IAdが負の場合の電流波形は、時間軸に対して下側に線対称に反転した波形となる。図6は、図3におけるゲイン設定部で、車速VSに応じた付加電流値の波高を設定するゲインKの説明図である。
【0050】
図3に示すように、付加電流演算部300Aは、スイッチ操作判定部290A、基準波形設定部291A、ゲイン設定部292A、操作スイッチ有効判定部295、出力波形演算部297A、付加電流出力制御部298、出力波形監視部299を含んで構成され、付加電流出力制御部298から出力される付加電流値IAdが加算器252に入力される。そして、加算器252において前記したように加算器250から出力されたq軸目標電流値ITG1と付加電流値IAdとが加算され、減算器253にq軸目標電流値Iqとして出力される。
以下に、詳細に付加電流演算部300Aの構成と機能を説明する。
【0051】
ちなみに、付加電流演算部300Aでの制御処理は、一定の処理周期、例えば、10msecの周期で、前記したベース信号演算部220、イナーシャ補償信号演算部210、ダンパ補正信号演算部225、q軸PI制御部240、d軸PI制御部245、2軸3相変換部260、PWM変換部262、3相2軸変換部265、励磁電流生成部275等と同様にCPUにおいて実行されるものである。
【0052】
(スイッチ操作判定部290A)
スイッチ操作判定部290Aには、操作スイッチ2aL,2aRからのスイッチ信号が入力されるとともに、操作スイッチ有効判定部295からの判定結果の信号が入力される。そして、操作スイッチ有効判定部295からの判定結果の信号が有効を示すときに、操作スイッチ2aL,2aRからの前記した右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号が入力された場合、基準波形設定部291Aに基準波形出力信号を入力するとともに、出力波形演算部297Aに右方向修正舵信号に対してはプラス(+)信号を入力し、左方向修正舵信号に対してマイナス(−)信号を入力する。
【0053】
なお、スイッチ操作判定部290Aは、操作スイッチ2aL,2aRからのスイッチ信号を受付けてから所定の閾値時間tthに達した場合には、操作スイッチ2aL,2aRからの新たなスイッチ信号の入力を受け付ける。この詳細な機能については、図12のフローチャートの説明の中で詳細に説明する。
【0054】
(基準波形設定部291A)
基準波形設定部291Aは、スイッチ操作判定部290Aから基準波形出力信号が入力されたとき、図5の(a)に示す基準電流パルス波形X0を出力波形演算部297Aに入力する。基準電流パルス波形X0は、予め実験的に設定された基準電流パルス波高がH0の電流波形であり、そのデータはROMに予め格納されており、それを読み出して用いる。
【0055】
(ゲイン設定部292A)
ゲイン設定部292Aは、予めROMに格納された図6に示すようなゲイン特性データを参照して、車速VSに応じたゲインKの値を取得して、出力波形演算部297Aに入力する。
ゲイン特性データは、図6に示すように車速VSが遅いときは1.0以上のゲインKの値となるが、車速VSが速くなると徐々にゲインKの低下度合いが急になりほぼ直線的に低下し、所定の車速VS以上でほぼ飽和したゲインKの値となる特性を示す。
このゲイン特性データは、電動パワーステアリング装置100に用いられる電動機11の電流−出力特性と、車両の転舵時の車速VSに応じた転舵負荷、及び、車速に応じた1つの付加電流値IAdの電流波形により前輪10F,10F(図1参照)を転舵させる転舵角目標変化量の設定に依存して予め設定されるものである。
【0056】
先ず、1つの付加電流値IAdの電流波形による転舵角δの目標変化量は、車速VSが遅いときは大きく、速いときは、小さくなるように設定する。例えば、約100km/h以上では転舵角δの目標変化量を約1deg程度とし、約40km/h以下では転舵角δの目標変化量を約3deg程度とし、40〜100km/hの間では直線的に内挿した転舵角δの目標変化量となるように設定する。以下では、「転舵角δの目標変化量」を「転舵角目標変化量」と称する。
その上で、前記転舵角目標変化量になるように実車による試験又はシミュレーション試験で電動機11の電流−出力特性、前輪10F,10Fの路面との転舵負荷を考慮してゲイン特性データは設定される。
【0057】
(操作スイッチ有効判定部295)
操作スイッチ有効判定部295は、操舵角センサ52(図1参照)からの操舵角θを示す信号の入力を受けて、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲Rθ内か否かを判定し、その結果をスイッチ操作判定部290Aに入力する。
操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲Rθは、運転者が操作スイッチ2aL,2aRの操作がしやすい範囲であり、概ね−30deg≦θ≦+30deg程度である。
【0058】
(出力波形演算部297A)
出力波形演算部297Aは、基準波形設定部291Aから基準電流パルス波形X0(図5の(a)参照)が入力されたのを受けて、基準電流パルス波形X0にスイッチ操作判定部290Aから入力されたプラスマイナス(±)信号に応じたプラスマイナス(±)符号を乗じるとともに、ゲイン設定部292Aから入力されたゲインKを乗じて、付加電流値IAdの電流波形を生成して、付加電流出力制御部298に入力する。
図6に示すようにゲインKの値が車速VSの値に応じて変化することで、車速VSの値が小さいほどゲインKの値が大きくなり符号X1Aで示すような付加電流値IAdの電流波形となり、車速VSの値が大きいほどゲインKの値が小さくなり符号X1Bで示すような付加電流値IAdの電流波形となる。
ちなみに、符号X0で示す付加電流値IAdの電流波形は、ゲインK=1.0の場合であり、符号X1Bで示す付加電流値IAdの電流波形は、ゲインK<1.0の場合であり、符号X1Aで示す付加電流値IAdの電流波形は、ゲインK>1.0の場合である。
【0059】
付加電流値IAdの電流波形は、図5の(a)に示したように矩形波でなくなだらかに立ち上がり、なだらかに立ち下がる波形としたのは、運転者が操作スイッチ2aL,2ARを操作したときに急激に電動機11の動作が開始して急激に停止すると、操向ハンドル2の動きも急激な動き、例えば、路面から急激なキックバックを受けたときのようなものとなり、運転者が修正操舵を行う動きとは極めて異なる動作となるので、運転者が無意識に前方を見ながら行う修正操舵の操作と同じ動きとするためである。
なお、制御系(制御装置200)・機械系の伝達遅れや目標とする転舵角変化量が小さいことから付加電流値IAdの電流波形は矩形波でも良い。
【0060】
図5の(a)において時間t1は、運転者が操作スイッチ2aL,2aRのいずれか一方を操作してオン状態になったタイミングを示し、時間t4は時間t1で立ち上がりを開始した付加電流値IAdの電流波形が0(ゼロ)にまで立下がったタイミングを示す。
ちなみに、時間t1は、後記する図11のフローチャートにおけるステップS04のタイマtスタートのタイミングに対応する。そして、後記する時間t3は図12のフローチャートにおけるステップS13の閾値時間tthに対応する。
なお、車速VSの値に応じた付加電流値IAdの電流波形は、基準電流パルス波形X0にプラスマイナス(±)符号とゲインKとを乗じたものであり、時間t1〜t4までの範囲の所定の時間長さの付加電流値IAdの電流波形である。そして図5の(a)に示した時間t3(=tth)は、スイッチ操作判定部290Aが操作スイッチ2aL,2aRからのスイッチ信号を受付けてから所定の閾値時間tthに達した場合には、操作スイッチ2aL,2aRからの新たなスイッチ信号の入力を受け付ける時間である。例えば、時間t3(tth)は、付加電流値IAdの電流波形が、例えば、(H0×K)/eの値になったときの時間であり、この時間t3は、ゲインKの値によらず一意に決まる。
H0は基準電流パルス波高を示し、eは自然対数の底の値である。
【0061】
そして、図5の(a)の時間軸に対応させて、図5の(b)に示した横棒は、操作スイッチ2aL,2aRのオン状態が時間t1から開始されてオン状態が終わる時間(操作時間)がt2A,t2B,t2Cと異なっても、付加電流値IAdの電流波形は、時間t1〜t4の1つの付加電流値IAdの電流波形のみしかスイッチ操作判定部290Aが発生させないことを説明するためのものである。
【0062】
(付加電流出力制御部298)
付加電流出力制御部298は、出力波形演算部297Aからの付加電流値IAdの電流波形の入力を受けて、一時的に電流波形データを保持し、一定の時間ステップ、例えば、10msecの時間ステップで一時保持された電流波形から付加電流値IAdをサンプリングし、付加電流値IAdの電流波形に応じた時間ステップごとの付加電流値IAdを加算器252に出力する。
付加電流出力制御部298は、スイッチ操作判定部290Aから制御信号Scが入力されたときは、現在出力中の付加電流値IAdを0(ゼロ)として出力を中止し、一時的に保持していた電流波形データをクリアする。
【0063】
(出力波形監視部299)
出力波形監視部299は、出力波形演算部297Aにおいて図5に示したように付加電流値IAdの電流波形を生成された場合に、付加電流値IAdの出力電流が出力開始されてから波高(H0×K)に達して立ち下がり始め、その波高が(H0×K)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290Aに入力するものである。本実施形態では、前記したように閾値時間tthは固定値であり、出力波形演算部297Aからの付加電流値IAdの電流波形のデータを取得することなく、スイッチ操作判定部290Aが固定値である閾値時間tthの値を有している構成でも良い。
【0064】
ここで、閾値時間tthの設定の考え方は、付加電流値IAdの電流波形の出力が立ち下がりの状態になり、所定の修正操舵がほぼ完了しているとみなせる波高にまで減衰しているとみなせる観点と、現在出力中の付加電流値IAdを0(ゼロ)として出力を中止しても運転者に違和感をそれ程与えない観点から設定するものであり、(H0×K)/eの値を下回ったタイミングに限定されるものではない。
【0065】
(操舵角頻度、操作スイッチの操作しやすさ及び修正操舵力)
次に、図7から図10を参照しながら適宜図1を参照して、操舵角頻度、操作スイッチ2aL,2aR(図1参照)の操作しやすさ及び修正操舵力について説明する。
図7は、実車両の走行時における操向ハンドルの操舵角の頻度分布の説明図である。図7において、縦軸は操舵角θの所定の幅をとった棒グラフで左右360degまでの範囲で表示し、全体の頻度を100%として横軸で相対頻度をパーセント表示したものである。テストコースでの街路走行や高速路走行を含む所定の走行パターンモデルを設定して実車の走行試験をし、操向ハンドル2(図1参照)の操舵角θの発生頻度を取得したところ、図7に示すように操舵角θの中立近傍(図7中「0近傍」と表示)の所定範囲、概ね、−15〜+15deg程度の範囲の操舵角θの発生頻度が圧倒的に高く、それ以上の右操舵角や左操舵角の発生頻度は格段に小さいことが分かった。
【0066】
そこで、本実施形態では、図7、図8及び表1、表2を参照しながら、操舵角θが左右へ、前記した図7の操舵角θの中立近傍の所定範囲に対して余裕を取って操舵角θの中立位置を中心にしたその近傍のより大きな範囲として設定した所定の範囲Rθ内にある場合に、例えば、−30〜+30deg程度の範囲内にある場合に、操作スイッチ有効判定部295及びスイッチ操作判定部290Aが操作スイッチ2aL,2aRの操作による修正操舵を有効とする後記する第1の方法又は第2の方法について、以下に詳細に説明する。そして、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効と判定されたときに付加電流値IAdを出力させることとしている。
【0067】
この操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲Rθを設定する一例としての±30degの値は、例えば、前記した水平軸L(図2参照)に対し操作スイッチ2aL,2aRのそれぞれの中立点Aがなす角度αdegを、参考して設定することが望ましい。図8は、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲Rθの設定方法の説明図であり、(a)は、操舵角θが所定の範囲Rθ内の状態の説明図、(b)は、操舵角θが所定の範囲Rθ外の状態の説明図である。図8では、操向ハンドル2を右に操作した場合を例に、操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な操舵角θの範囲Rθの設定の考え方を説明する。
【0068】
図8の(a)に示すように|θ|≦αdegの場合、操作スイッチ2aRの中立点Aは、最大でも車体横方向D位置であるか、又はそれより上側にある。そのため、操作スイッチ2aRの上側(逆時計回り方向)へのスライド方向は、運転者に対して左側への修正操舵の操作と明確に認識されやすく、又、操作スイッチ2aRを下側へのスライド方向(時計回り方向)も、運転者に対して右側への修正操舵の操作と直感的に明確に認識されやすい。
ちなみに、操作スイッチ2aLの中立点Aは、最大でも車体横方向D位置に対して上側に2αdegの位置であるか、又はそれより下側にある。そのため、操作スイッチ2aLを上側へのスライド方向(時計回り方向)は、運転者に対して右側への修正操舵の操作とまだ十分に直感的に明確に認識され、又、操作スイッチ2aLを下側へのスライド方向(逆時計回り方向)も、運転者に対して左側への修正操舵の操作とまだ十分に直感的に明確に認識されやすい。
【0069】
これに対し、図8の(b)に示すように|θ|>αdegの場合、操作スイッチ2aRの中立点Aは、最大でも車体横方向D位置より下側にある。そのため、操作スイッチ2aRの上側へのスライド方向(逆時計回り方向)は運転者に対して右側方向を示すため左側への修正操舵の操作と直感的に認識されにくく、又、操作スイッチ2aRの下側へのスライド方向(時計回り方向)も、運転者に対して左側方向を示すため右側への修正操舵の操作とまだ十分に直感的に認識されにくくなる。
しかし、操作スイッチ2aRではなく操作スイッチ2aLについてみれば、操作スイッチ2aLの中立点Aは、有効な操舵角θの範囲Rθの最大で車体横方向D位置に対して上側に2αdeg以上の位置であるが、車体前方方向Dより左側にある。従って、操作スイッチ2aLの上側へのスライド方向(時計回り方向)は、運転者に対して右側への修正操舵の操作と直感的に明確に認識されやすく、又、操作スイッチ2aLの下側へのスライド方向(逆時計回り方向)も、運転者に対して左側への修正操舵の操作と直感的に明確に認識されやすい。
【0070】
そこで、後記する図11のフローチャートのステップS03,S04,S07における操作スイッチ有効判定部295及びスイッチ操作判定部290Aの両方の機能の組み合わせによる操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効か否かを判定して、付加電流値IAdを出力させるか、出力させないかの制御の方法としては、次の2つの方法が考えられ、いずれの方法を選んでも良い。
第1の方法は、表1に示すように操舵角θが、所定の範囲Rθ外で、つまり、所定の第1の閾値を超えて、操作スイッチ有効判定部295からスイッチ操作判定部290Aに有効範囲Rθ外を示す信号が入っている場合に、スイッチ操作判定部290Aが操作スイッチ2aL,2aRのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aL,2aRいずれのオン状態の検出に対しても誤操作(操作の意思がない)とみなして付加電流値IAdを出力させないものである。そして、第1の方法において、操舵角θが、所定の範囲Rθ内の場合は、操作スイッチ有効判定部295からスイッチ操作判定部290Aに有効範囲Rθ内を示す信号が入っているときに、かつ、スイッチ操作判定部290Aが操作スイッチ2aL,2aRのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aL,2aRいずれのオン状態の検出に対しても運転者の操作の意思があるとみなして付加電流値IAdを出力させる。
表1において、○は、当該操作スイッチ2aL,2aRの有効を意味し、×は、当該操作スイッチ2aL,2aRの無効を意味する。
【表1】

【0071】
第2の方法は、表2に示すように操舵角θが、所定の範囲Rθ外で、つまり、所定の第1の閾値を超えて、例えば、右に操舵角θが+αdeg<θ≦+90degの範囲(ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第2の閾値)では、操作スイッチ有効判定部295からスイッチ操作判定部290Aに有効範囲Rθ外を示す信号が入っているときに、かつ、操作スイッチ2aRのオン状態を検出したときには、操作スイッチ2aRのオン状態の検出に対応した付加電流値IAdを出力させない、つまり操作スイッチ2aRの操作を無効とする。そのとき、スイッチ操作判定部290Aが、操作スイッチ2aLのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aLのオン状態の検出に対応した付加電流値IAdを出力させる。つまり操作スイッチ2aLの操作を有効とする。
逆に、操舵角θが、所定の範囲Rθ外で、例えば、左に操舵角θが−90deg≦θ<−αdegの範囲では、操作スイッチ有効判定部295からスイッチ操作判定部290Aに有効範囲Rθ外を示す信号が入っているときに、かつ、スイッチ操作判定部290Aが、操作スイッチ2aLのオン状態を検出したときには、操作スイッチ2aLのオン状態の検出に対応した付加電流値IAdを出力させない、つまり操作スイッチ2aLの操作を無効とする。そのとき、スイッチ操作判定部290Aが、操作スイッチ2aRのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aRのオン状態の検出に対応した付加電流値IAdを出力させる。つまり操作スイッチ2aRの操作を無効とする。
表2において、○は、当該操作スイッチ2aL,2aRの有効を意味し、×は、当該操作スイッチ2aL,2aRの無効を意味する。
【表2】

【0072】
ちなみに、第2の方法において、操舵角θが、所定の範囲Rθ内の場合は、操作スイッチ有効判定部295からスイッチ操作判定部290Aに有効範囲Rθ内を示す信号が入っている場合に、かつ、スイッチ操作判定部290Aが操作スイッチ2aL,2aRのオン状態を検出したときは、操作スイッチ2aL,2aRいずれのオン状態の検出に対しても運転者の操作の意思があるとみなして付加電流値IAdを出力させる、つまり有効とする。また、操舵角θが、θ<−90deg及び+90deg<θの場合は、操作スイッチ2aL,2aRいずれのオン状態の検出に対しても運転者の操作の意思があるとせず付加電流値IAdを出力させない。つまり操作スイッチ2aL,2aRのオン状態の検出を無効とする。
なお、所定の範囲Rθを設定する前記した所定の第1の閾値、所定の第1の閾値より大きな値の所定の第2の閾値は、操作スイッチ有効判定部295に予め記憶されている。
【0073】
更に、前記した第1、第2の方法において、操作スイッチ有効判定部295が操作スイッチ2aL及び/又は2aRの操作を無効と判定する操舵角θの場合は、無効と判定された当該の操作スイッチ2aL及び/又は操作スイッチ2aRに対して、スライドしないようにロックをしたり、操作時にその操作が無効とされたことを示す警報音を発生させたり、操作スイッチ2aL,に内蔵又はその近傍に設けられた発光表示部の色を変更(例えば、緑から赤に発光色を変更)したり、発光表示部の表示輝度を変更(例えば、輝度を高くする)したり、インストルメントパネルの表示部にその旨の表示をしたりして、運転者に操作スイッチ2aL及び/又は操作スイッチ2aRの無効を認知させるようにしても良い。
【0074】
図9は、低速での走行時における操舵角及び操舵力の時間推移の説明図であり、(a)は、計測コースの説明図、(b)は、(a)に示した計測コースを走行時の操舵角及び操舵力の時間推移の説明図である。
図9の(a)は、当該図9の(a)に示すようにBで示したコーナー部で右折し、その後直線コースを走行し、Cで示したコーナー部で左折する走行の場合の図である。この走行に対し、図9の(b)に実線で操舵角θ(単位deg)の時間推移を示し、破線で運転者が加える操舵力(単位Nm)の時間推移を示す。図9の(b)から分かるようにコーナーB,C間の直線コースにおいて運転者は、ほぼ5秒の周期で左右に修正操舵を行っておりそのときの操舵力はほぼ左右それぞれに概ね1〜2Nm程度(図9中では「1Nm程度」と表示)である。
【0075】
図10は、高速での走行時における操舵角及び操舵力の時間推移の説明図であり、(a)は、計測コースの説明図、(b)は、(a)に示した計測コースを走行時の操舵角及び操舵力の時間推移の説明図である。
図10の(a)に示すように直線コースを走行した後、Dで示した緩やかなコーナー部を左旋回し、その後直進走行する場合である。この走行に対し、図10の(b)に実線で操舵角θ(単位:deg)の時間推移を示し、破線で運転者が加える操舵力(単位Nm)の時間推移を示す。図10の(b)から分かるようにコーナーDに入る前の直線コースにおいて運転者は、ほぼ5秒の周期で左右に修正操舵を行っておりそのときの操舵力は概ね1〜2Nm程度(図10中では「1Nm程度」と表示)である。また、高速道路での緩やかなコーナー部での使用操舵角範囲は、通常、概ね−15〜+15degの範囲であり、旋回中の修正操舵の時間は、直進時の左右に約5秒程度に対しより短い略半分程度の秒数の時間であり、修正操舵における操舵力は、概ね1Nm程度と小さいことが分かる。
【0076】
そこで、本実施形態では、前記した閾値時間tthを、例えば、約2秒と設定し、低速、例えば、約40km/hでは、修正操舵における前輪10F,10F(図1参照)の転舵角目標変化量として、例えば、約2degを実現できる付加電流値IAdの電流波形とし、高速、例えば、約100km/hでは、修正操舵における前輪10F,10Fの転舵角目標変化量として、低速時より小さい値、例えば、約0.5degを実現できる付加電流値IAdの電流波形とするように図5の(a)の基準電流パルス波形X0及び図6のゲインKを設定する。
また、車両の車格にも依存するが、図9、図10においてテストした車両の場合には、低速で約2Nm、高速でも約1Nm程度の修正操舵の操舵力が確保できるような付加電流値IAdの電流波形とすることが望ましい。
【0077】
(付加電流演算部300Aにおける付加電流の生成及び出力制御)
次に、図11、図12を参照しながら適宜図3、図5を参照して、付加電流演算部300Aにおける付加電流値IAdの出力制御について説明する。図11、図12は、図3における付加電流演算部300Aにおける付加電流値波形の生成及び出力制御の流れを示すフローチャートである。
先ず、ステップS01では、スイッチ操作判定部290A(図3参照)は、IFLAG=0にリセットする。ここで、IFLAGは、スイッチ操作判定部290Aが操作スイッチ2aL,2aR(図3参照)のいずれかのオン状態を検出して付加電流値IAdを出力させてから、操作スイッチ2aL,2aRのいずれかの次のオン状態を検出したとき、付加電流値IAdを出力させて良い状態か否かを判別するためのフラグであり、IFLAG=0のとき付加電流値IAdを出力させて良い状態であり、IFLAG=1のとき付加電流値IAdを出力させてはいけない状態を示す。
【0078】
ステップS02では、スイッチ操作判定部290Aは、少なくとも操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信したか否かをチェックする(「操作スイッチがOFFからONになったか?」)。右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信した場合(Yes)は、ステップS03へ進み、そうでない場合(No)はステップS02へ戻る。
ステップS03では、スイッチ操作判定部290Aは、操作スイッチ2aL,2aRを有効とする操舵角θの範囲Rθ内か否かをチェックする。具体的には、スイッチ操作判定部290Aが、操作スイッチ有効判定部295(図3参照)から現在の操舵角θが操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な範囲Rθ内にあることを示す信号を受信しているか否かで判定する。操作スイッチ2aL,2aRを有効とする操舵角θの範囲内の場合(Yes)は、ステップS04へ進み、そうでない場合(No)は、ステップS02へ戻る。
【0079】
ステップS04では、スイッチ操作判定部290Aは、タイマtをスタートさせ、基準波形設定部291Aに基準波形出力信号を入力する。ステップS05では、スイッチ操作判定部290Aからの基準波形出力信号を受けて、基準波形設定部291A(図3参照)が基準電流パルス波形X0(図5参照)を出力波形演算部297A(図3参照)へ出力する。ちなみに、基準波形設定部291Aは、スイッチ操作判定部290Aからの基準波形出力信号を受けていない場合は、出力波形演算部297Aへ0(ゼロ)信号を出力する。
【0080】
ステップS06では、ゲイン設定部292A(図3参照)は、図6に示したゲイン特性データを参照して、車速VSに応じたゲインKを設定して出力波形演算部297Aへ出力する。
スッテップS07では、スイッチ操作判定部290Aは、操作された操作スイッチ2aL,2aRの示す操作方向は左右のいずれかを判定する。右の操作方向、つまり、右方向修正舵信号の場合(右)は、ステップS08へ進み、符号+を設定して出力波形演算部297Aへ出力する。左の操作方向、つまり、左方向修正舵信号の場合(左)は、ステップS09へ進み、スイッチ操作判定部290Aは、符号−を設定して出力波形演算部297A(図3参照)へ出力する。ステップS08,S09の後、ステップS10へ進む。
ステップS10では、出力波形演算部297Aは、ステップS05において基準波形設定部291Aから入力された基準電流パルス波形X0に、操作方向に対応する符号と、ステップS06においてゲイン設定部292Aから入力されたゲインKとを乗じて、付加電流値IAdの電流波形を生成して、付加電流出力制御部298へ出力する(「付加電流値IAdの電流波形の生成」)。ちなみに、基準波形設定部291Aから出力波形演算部297Aに0(ゼロ)信号が入力されている場合は、出力波形演算部297Aは、0に操作方向に対応する符号と、ゲイン設定部292Aから入力されたゲインKとを乗じて、0(ゼロ)信号を付加電流出力制御部298(図3参照)へ出力する。
【0081】
ステップS11では、付加電流出力制御部298は、ステップS10において生成された付加電流値IAdの電流波形を一時保持して付加電流値IAdの電流波形に従って時間ステップ毎に付加電流値IAdを加算器252(図3参照)に出力する。ステップS11の後、結合子(A)に従って、図12のステップS12へ進む。
ステップS12では、加算器252が、q軸目標電流値ITG1に付加電流値IAdを加算して、q軸目標電流値Iqとして減算器253(図3参照)に出力する。その後、通常の電動パワーステアリング装置100の制御部と同様にq軸実電流値Iq、d軸実電流値Idのフィードバック制御により、電動機11(図3参照)が駆動される。
【0082】
ちなみに、付加電流出力制御部298が付加電流値IAdの電流波形に応じた時間ステップ毎に付加電流値IAdを出力した後は0(ゼロ)信号を加算器252に出力し、付加電流出力制御部298が出力波形演算部297Aから0(ゼロ)信号を入力されている場合も0(ゼロ)信号を加算器252に出力する。
つまり、加算器252は、操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じた右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号に対応して電動機11を所定量だけ回転させ転舵角目標変化量を実現する。
【0083】
ステップS13では、スイッチ操作判定部290Aは、ステップS04でスターとさせたタイマtが出力波形監視部299から入力された閾値時間tthに達したか否かをチェックする。タイマtが閾値時間tthに達した場合(Yes)は、ステップS14へ進み、IFLAG=0とし、ステップS16へ進む。タイマtが閾値時間tthに達していない場合(No)は、ステップS15へ進み、IFLAG=1とし、ステップS16へ進む。
【0084】
ステップS16では、スイッチ操作判定部290Aは、少なくとも操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信したか否かをチェックする(「操作スイッチがOFFからONになったか?」)。右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信した場合(Yes)は、ステップS17へ進み、そうでない場合(No)はステップS20へ進む。
ステップS17では、IFLAG=0か否かをチェックする。IFLAG=0の場合(Yes)は、ステップS18へ進む。IFLAG≠0の場合(No)は、結合子(C)に従って、図11のステップS11へ戻る、つまり、スイッチ操作判定部290Aは、ステップS16において操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから受信した右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受付けない(無視する)。
【0085】
ステップS18では、スイッチ操作判定部290Aは、タイマtをリセットし、ステップS19において、現在、付加電流出力制御部298において出力中の付加電流値IAdも出力を0(ゼロ)にリセットさせる。そして、付加電流出力制御部298は、ステップS11において一時保持していた付加電流値IAdの電流波形をクリアする。その後、結合子(B)に従って、図11のステップS03に戻る。
これにより、付加電流出力制御部298は、出力中の付加電流値IAdの電流波形の立ち下がり部分を最後まで加算器252へ出力することなく強制的に0(ゼロ)にして打ち切られる。しかし、閾値時間tthを経過しており、付加電流値IAdの絶対値は波高(Ho×K)/e以下まで低下しており、操向ハンドル2に与える動きの違和感は軽微であり、それよりも次の修正操舵の操作を操作スイッチ2aL,2aRから受付けることが可能となり、運転者の要求操作に迅速に応えることが可能となる。
【0086】
ステップS16においてNoでステップS20へ進むと、スイッチ操作判定部290Aは、タイマtがt4(図5参照)に達したか否か否かをチェックする。タイマtがt4に達した場合(Yes)は、ステップS21へ進み、タイマtをリセットして一連の右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号による付加電流値IAdの電流波形生成と出力制御を終了し、ステップS01に戻る。
ステップS20においてタイマtがt4に達していない場合(No)は、結合子(C)に従って、図11のステップS11へ戻る。
【0087】
本実施形態によれば、操向ハンドル2(図1参照)の操作スイッチ2aL,2aRいずれかの1回のオン状態への操作により、オン状態の時間的長さに関係なく、車速VSに応じた所定の修正操舵を操向ハンドル2の回動操作(操舵入力)によらず行うことができる。操向ハンドル2による修正操舵の場合には、1Nm程度の操舵力を必要としていたものが操作スイッチ2aL,2aRの操作に置き換わり、運転者の操舵時の負担が軽減される。
【0088】
操作スイッチ2aL,2aRのオン状態の保持時間は、運転者の運動神経や時間感覚、操向ハンドル2の操舵角θに伴う操舵反力等によって影響を受ける。また、スライド式の操作スイッチ2aL,2aRであるので、操作スイッチ2aL,2aRを操作中に路面からのキックバックにより操作スイッチ2aL,2aRのオン状態の保持時間に長短の変化を生じる場合もある。
従って、操作スイッチ2aL,2aRのオン状態の保持時間に応じて修正操舵の量を設定することは、運転者が期待した修正操舵とならず違和感を与えたり、逆修正操舵を必要としたりする可能性があるので、本実施形態のように、1回のオン状態の検出で所定の修正操舵を行う方が運転者に操作スイッチ2aL,2aRの操作を安心して使用できる。
【0089】
また、操作スイッチ2aL,2aRの操作を受付ける操舵角θの有効範囲Rθを、例えば、−30deg≦θ≦+30degと設定しているので、操作スイッチ2aL,2aRをスライド操作しにくい操舵角θの状態で、操作スイッチ2aL,2aRを運転者が何らかの原因で誤操作しても、図11のフローチャートのステップS03において修正舵信号として受付けないので、運転者に誤操作による違和感を与えることがない。
【0090】
また、1回の修正舵信号による付加電流値IAdの電流波形を生成して、その付加電流値IAdの電流波形に基づく付加電流値IAdを時間ステップで出力中に、タイマtが閾値時間tth以上になるまでは、次の修正操舵の信号を受付けないので、運転者に予想外の修正操舵が発生することが防止できる。
このようなことは、操作スイッチ2aL,2aRを、例えば、左方向の修正操舵の操作をしている最中に操向ハンドル2に更に左方向に回動させるような外乱が入り操作スイッチ2aL,2aRが右方向の修正操舵の信号を発生させる場合に生じる。
【0091】
《第1の実施形態の第1の変形例》
第1の実施形態では、出力波形監視部299は、出力波形演算部297Aにおいて図5に示したように付加電流値IAdの電流波形を生成された場合に、付加電流値IAdの出力電流が出力開始されてから波高(H0×K)に達して立ち下がり始め、その波高が(H0×K)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290Aに入力するものとしたがそれに限定されるものではない。
出力波形監視部299は、図12のステップS13において、出力波形演算部297Aが生成した付加電流値IAdの電流波形に基づいて、破線で示した矢印のように付加電流出力制御部298から出力される時間ステップごとの付加電流値IAdの値を監視し、付加電流値IAdの値が最大波高値(H0×K)を過ぎてから(H0×K)/eの値を下回った場合(Yes)となり、ステップS14でIFLAG=0とし、(H0×K)/eの値をまだ下回らない場合(No)にステップS15でIFLAG=1とし、スイッチ操作判定部290AにフラグIFLAGの値を出力するようにしても良い。
【0092】
《第1の実施形態の第2の変形例》
第1の実施形態では、図11のステップS03〜S10において、操作スイッチ有効判定部295における操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効と判定する機能、及びスイッチ操作判定部290Aの機能との組み合わせによる付加電流値IAdを出力させるか、出力させないかの制御の方法として、段落[0070]に前記した第1の方法を前提として説明した。
しかし、それに限定されるものではなく、段落[0071],[0072]に前記した第2の方法を用いても良い。その場合は、ステップS03においてNoの場合は、操作スイッチ有効判定部295は、更に、操舵角θが、例えば、左右に90deg以内かどうかを判定する。左右に90deg以内の場合は、操作スイッチ有効判定部295は、左操舵のときは、操作スイッチ2aLからのオン信号を無効にするフラグ信号を、右操舵のときは、操作スイッチ2aRからのオン信号を無効にするフラグ信号を、スイッチ操作判定部290Aに入力し、ステップS04へ進む。
操舵角θが、例えば、左右に90degを超えている場合は、ステップS02に戻るようにする。
【0093】
更に、図11のステップS07を、「スイッチ操作判定部290Aは、操作スイッチ有効判定部295から操作スイッチ2aL,2aRのいずれかに対するオン信号を無効にするフラグ信号を受けているかどうかを確認し、操作スイッチ2aL,2aRで前記フラグ信号を受けているものに対して、オン信号を無効とした上で、無効でないオン信号に対して操作された操作スイッチ2aL,2aRの内の示す操作方向は左右のいずれかを判定する。」と読み替える。右の操作方向、つまり、右方向修正舵信号の場合(右)は、ステップS08へ進み、符号+を設定して出力波形演算部297Aへ出力する。左の操作方向、つまり、左方向修正舵信号の場合(左)は、ステップS09へ進み、スイッチ操作判定部290Aは、符号−を設定して出力波形演算部297A(図3参照)へ出力する。
これにより、操舵角θが、所定の範囲Rθ外で、例えば、左右に操舵角θが−90deg≦θ≦+90degの範囲でも操作スイッチ2aL,2aRのスライド方向が修正舵の方向と直感的に一致する側の操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRに対しては、付加電流値IAdを出力させることができるので、操舵角θのより広範囲において運転者が意図した方向の確実な修正操舵を、操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRで行える。
【0094】
《第2の実施形態》
次に、図13から図19を参照しながら、適宜図1を参照して本発明の第2の実施形態に係る電動パワーステアリング装置100について説明する。
図13は、第2の実施形態における制御装置の機能ブロック構成図である。
第2の実施形態における制御装置200Bが第1の実施形態における制御装置200Aと異なる点は、付加電流演算部300Aが付加電流演算部(付加電流演算手段)300Bに置き換わる点である。第1の実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0095】
《付加電流演算部300B、加算器252》
図13に示すように、付加電流演算部300Bは、スイッチ操作判定部290B、基準波形設定部291B、ゲイン設定部(操舵状態検出手段)292B、乗算部293、操作スイッチ有効判定部295、時定数設定部296、出力波形演算部297B、付加電流出力制御部298、出力波形監視部299を含んで構成され、付加電流出力制御部298から出力される付加電流値IAdが加算器252に入力される。そして、加算器252において前記したように加算器250から出力されたq軸目標電流値ITG1と付加電流値IAdとが加算され、減算器253にq軸目標電流値Iqとして出力される。
以下に、詳細に付加電流演算部300Bの構成と機能を説明する。
なお、付加電流演算部300Bでの制御処理は、一定の処理周期、例えば、10msecの周期で、前記したベース信号演算部220、イナーシャ補償信号演算部210、ダンパ補正信号演算部225、q軸PI制御部240、d軸PI制御部245、2軸3相変換部260、PWM変換部262、3相2軸変換部265、励磁電流生成部275等と同様に付加電流演算部300BでCPUにおいて実行されるものである。
【0096】
(スイッチ操作判定部290B)
スイッチ操作判定部290Bには、操作スイッチ2aL,2aRからのスイッチ信号が入力されるとともに、操作スイッチ有効判定部295からの判定結果の信号が入力される。そして、操作スイッチ有効判定部295からの判定結果の信号が有効を示すときに、操作スイッチ2aL,2aRからの前記した右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号が入力された場合、基準波形設定部291Bに基準波形出力信号を入力するとともに、乗算部293とゲイン設定部292Bとに右方向修正舵信号に対してはプラス(+)信号を入力し、左方向修正舵信号に対してマイナス(−)信号を入力する。
【0097】
また、スイッチ操作判定部290Bは、出力波形監視部299からの後記する所定の閾値時間tthの入力を受け、付加電流値IAdの電流波形を後記するタイマt=0で出力開始してから所定の閾値時間tthに達した場合には、スイッチ操作判定部290Bは操作スイッチ2aL,2aRからの新たなオフ状態からオン状態へのスイッチ信号の入力を受け付ける。そして、所定の閾値時間tth後に、まだ付加電流出力制御部298から付加電流値IAdが出力されている場合に、操作スイッチ2aL,2aRからの新たなスイッチ信号の入力を受け付けたときは、スイッチ操作判定部290Bは、付加電流出力制御部298に制御信号Scを出力して一旦、前の付加電流値IAdの出力を中止して付加電流値IAdを0(ゼロ)とする。
【0098】
(基準波形設定部291B)
次に、図14を参照して基準波形設定部291Bについて説明する。図14は、図13における付加電流演算部における付加電流値波形の生成の説明図であり、(a)は、基準の付加電流矩形波の時間幅を車速VSに応じて変化させて設定する説明図、(b)は、基準の付加電流矩形波の時間幅の車速VSに応じた変化の説明図である。
基準波形設定部291Bは、スイッチ操作判定部290Bから基準波形出力信号を入力されたとき、図14の(b)に示すように基準の付加電流値の電流波形の時間幅Tw(通電期間)を車速VSに応じて設定して、図14の(a)に示す基準の付加電流値の電流波形を矩形パルス波形で生成する。ここで、矩形パルス波形を有した基準の付加電流値の電流波形を「基準の付加電流矩形波」とも称する。この基準の付加電流矩形波の波高値H0及び車速VSに応じた時間幅Twのデータは、予め実験的に設定されたものであり、ROMに予め格納されており、それを読み出して用いる。
基準波形設定部291Bで生成された基準の付加電流矩形波は、乗算部293に入力される。
ちなみに、基準の付加電流矩形波の時間幅Twは、図14の(b)に示すように、車速VSがV1、例えば、約40km/h以下では一定値であり、車速VSがV2未満まで増加するにつれて、例えば、直線的に低減し、車速VSがV2、例えば、約100km/h以上では、所定の飽和値の一定値に固定される。
【0099】
(ゲイン設定部292B)
次に、図15を参照してゲイン設定部292Bについて説明する。図15は、図13におけるゲイン設定部で、車速VSに応じた付加電流値波形の波高を設定するゲインの説明図である。
ゲイン設定部292Bは、予めROMに格納された図15に示すようなゲイン特性データを参照して、車速VSに応じたゲインKの値を取得して、乗算部293に入力する。
ゲイン特性データは、図15に示すように符号Y0で示す基準ゲイン曲線Y0と、符号Y1で示す切り増し修正舵ゲイン曲線Y1、符号Y2で示す戻し修正舵ゲイン曲線Y2を有している。基準ゲイン曲線Y0、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1及び戻し修正舵ゲイン曲線Y2は、それぞれ車速VSが遅いときは1.0以上のゲインKの値となるが、車速VSが速くなると徐々にゲインKの低下度合いが急になりほぼ直線的に低下し、所定の車速VS以上でほぼ飽和したゲインKの値となる特性を示す。
【0100】
そして、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1は、車速VSが前記したV1の値を超えると基準ゲイン曲線Y0に対し上側に徐々に離れて、基準ゲイン曲線Y0のゲインKと切り増し修正舵ゲイン曲線Y1のゲインKとの差分が増大し、車速VSが前記したV2の値以上で一定の差となる。
これに対し、戻し修正舵ゲイン曲線Y2は、車速VSが前記したV1の値を超えると基準ゲイン曲線Y0に対し下側に徐々に離れて、基準ゲイン曲線Y0のゲインKと戻し修正舵ゲイン曲線Y1のゲインKとの差分が増大し、車速VSが前記したV2の値以上で一定の差となる。
【0101】
そして、ゲイン設定部292Bは、車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値以内の範囲では、基準ゲイン曲線Y0を用いて設定した車速VSに応じたゲインKを乗算部293に入力する。ちなみに、前記した車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置を中心にした左右の所定の操舵角θの第3の閾値以内の範囲は、前記した操舵角θの中立位置を中心に設定された所定の範囲Rθよりも小さい範囲である。
車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値を左右に超えた範囲では、操舵角θの符号とスイッチ操作判定部290Bから入力される修正操舵の方向を示す符号が同じか異なるかを判定して、その結果で切り増し修正舵ゲイン曲線Y1又は戻し修正舵ゲイン曲線Y2を使い分ける。
【0102】
つまり、速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値を左右に超えた範囲では、操舵角θの符号とスイッチ操作判定部290Bから入力される修正操舵の方向を示す符号が同じ場合は、切り増し修正操舵を意味し、符号が異なる場合は、戻し修正操舵を意味する。
切り増し修正操舵と判定された場合は、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1を用いて設定した車速VSに応じたゲインKを乗算部293に入力する。
戻し修正操舵と判定された場合は、戻し修正舵ゲイン曲線Y2を用いて設定した車速VSに応じたゲインKを乗算部293に入力する。
ちなみに、前記した中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値は、車速VSが小さいときは中立位置を中心にして左右に広く、車速VSが大きくなればそれに応じて狭くするように設定されている。
【0103】
このように、基準ゲイン曲線Y0、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1、戻し修正舵ゲイン曲線Y2を使い分けるのは、セルフアライニングトルクが車速VSに応じて変化し、操舵角θが中立位置から左右に所定の操舵角θの第3の閾値を超えた状態で、操作スイッチ2aL,2aRを用いて修正操舵を行うとき、切り増し側と戻し側では同じ転舵角δの目標変化量を得量としても電動機11出力すべき操舵補助力に差が生じるので、それを補正して安定に転舵角δの目標変化量を得るためである。
【0104】
このゲイン特性データは、電動パワーステアリング装置100に用いられる電動機11の電流−出力特性と、車両の転舵時の車速VSに応じた転舵負荷、及び、車速に応じた1つの付加電流値IAdの電流波形の基準波形設定部291Bにおける基準の付加電流矩形波の時間幅Twとの組み合わせを考慮した上で、前輪10F,10F(図1参照)を転舵させる転舵角目標変化量の設定に依存して予め設定されるものである。
【0105】
先ず、1つの付加電流値IAdの電流波形による転舵角目標変化量は、車速VSが遅いときは大きく、速いときは、小さくなるように設定する。例えば、約100km/h以上では転舵角目標変化量を0.5degとし、約40km/h以下では転舵角目標変化量を3degとし、40〜100km/hの間では直線的に内挿した転舵角目標変化量となるように設定する。その上で、前記転舵角目標変化量になるように実車による試験又はシミュレーション試験で電動機11の電流−出力特性、前輪10F,10Fの路面との転舵負荷を考慮して前記した図14の基準の付加電流矩形波の時間幅Tw、図15のゲイン特性データは設定される。
【0106】
(乗算部293)
乗算部293は、基準波形設定部291Bから入力された基準の付加電流矩形波に、ゲイン設定部292Bから入力されたゲインKを乗じて、出力波形演算部297Bに矩形の付加電流値波形を入力する。
【0107】
(時定数設定部296)
次に、図16を参照して時定数設定部296について説明する。図16は、図13における出力波形整形部で、基準の付加電流値の電流波形である矩形パルス波形に一時遅れ処理を行うために用いる立ち上がり用時定数τ1と、立ち下がり用時定数τ2の車速VSに応じた設定の説明図である。
時定数設定部296は、乗算部293から出力波形演算部297Bに入力された矩形の付加電流値波形の立ち上がりと立ち下がりを出力波形演算部297Bにおいてなだらかな立ち上がりと立ち下がりを有する付加電流IAdの電流波形に整形させる(一時遅れ処理させる)ための所定の時定数τ1,τ2を設定する。この時定数τ1,τ2の車速VSの値に応じた特性データは、予めROMにマップとして格納されている。
時定数τ1は立ち上がりの一次遅れ処理用のものであり、時定数τ2は立ち下がりの一次遅れ処理用のものである。以下では、時定数τ1を「立ち上がり用時定数τ1」、時定数τ2を「立ち下がり用時定数τ2」ともいう。
図16に示すように、時定数τ2の値は時定数τ1の値よりも大きく設定されるが、更に、車速VSに応じて、車速VSがV1、例えば、約40km/h以下では所定の一定値であり、車速VSがV1を超えてV2未満まで、例えば、約100km/h未満までは車速VSが増加するにつれて同じ減少率で低減させ、車速VSがV2以上では、所定の一定値とする。
【0108】
このように時定数τ1,τ2の値を車速VSに応じて変化させるのは、操作スイッチ2aL,2aRの操作による修正操舵の応答性として、車速VSが速いほどより速い応答性が求められるためである。これは、前記した図9の(b)、図10の(b)における操舵力の時間推移における修正操舵の時間的幅からも、高車速ではより速い修正操舵の応答性が求められていることが分かる。
【0109】
(出力波形演算部297B)
次に、図17を参照して出力波形演算部297Bについて説明する。図17は、図13における付加電流演算部300Bにおける付加電流値波形の説明図であり、(a)は、出力される付加電流値の時間変化の推移の説明図、(b)は、操向ハンドルに設けられた操作スイッチのオン状態の時間長さが出力される付加電流値波形に影響を与えないことの説明図である。
出力波形演算部297Bは、乗算部293から矩形の付加電流値波形が入力されたのを受けて、時定数設定部296から入力された立ち上がりの一次遅れ処理用の時定数τ1と立ち下がりの一次遅れ処理用の時定数τ2を用いて、一次遅れの値上り、立ち下がりの整形処理をした付加電流値IAdの電流波形を生成して、付加電流出力制御部298に入力する。
【0110】
図17の(a)に示すように付加電流値IAdの電流波形の時間幅Tw(図14参照)及びゲインK(図15参照)の値が車速VSの値に応じて変化することで、車速VSの値が小さいほど電流波形の時間幅Twが大きくなるとともにゲインKの値が大きくなり符号X2Cで示すような付加電流値IAdの電流波形となり、車速VSの値が大きいほど付加電流値IAdの電流波形の時間幅Tw及びゲインKの値が小さくなり符号X2A,X2Bで示すような付加電流値IAdの電流波形となる。
ちなみに、符号X2Aで示す付加電流値IAdの電流波形は、ゲインK=1.0の場合であり、符号X2Bで示す付加電流値IAdの電流波形は、ゲインK<1.0の場合であり、符号X2Cで示す付加電流値IAdの電流波形は、ゲインK>1.0の場合である。
【0111】
付加電流値IAdの電流波形は、図17の(a)に示したように矩形波でなくなだらかに立ち上がり、なだらかに立ち下がる波形としたのは、第1の実施形態と同じ目的である。
なお、付加電流値IAdの電流波形は、時間幅と波高が車速VSの値に応じて変化させることで、より柔軟に前記した転舵角目標変化量が実現し易くなる。
【0112】
図17の(a)において時間t1は、運転者が操作スイッチ2aL,2aRのいずれか一方を操作してオン状態になったタイミングを示し、時間t4A,t4B,t4Cは時間t1で立ち上がりを開始した付加電流値IAdの電流波形が0(ゼロ)にまで立下がったタイミングを示す。
ちなみに、時間t1は、後記する図18のフローチャートにおけるステップS34のタイマtスタートのタイミングに対応する。そして、後記する時間t3(図17の(a)では、時間t3A,t3B,t3Cで表示)は図19のフローチャートにおけるステップS45の閾値時間tthに対応する。
なお、車速VSの値に応じた付加電流値IAdの電流波形は、図14の(a)に示した基準の付加電流矩形波にプラスマイナス(±)符号とゲインKとを乗じ、更に、立ち上がり一次遅れ処理用の時定数τ1と立ち下がり一次遅れ処理用の時定数τで一次遅れの整形処理されたものであり、時間t1〜t4(図17の(a)では、時間t4A,t4B,t4Cで表示)までの範囲の所定の時間長さの付加電流値IAdの電流波形である。そして図17の(a)に示した時間t3(図17の(a)では、時間t3A,t3B,t3Cで表示)は、実際に出力される付加電流値IAdの電流波形が、例えば、(H0×K)/eの値になったときの時間であり、本実施形態ではこの時間t3(tth)は、一定値ではない。
ちなみに、H0は基準の付加電流矩形波の波高を示し、eは自然対数の底の値である。
【0113】
そして、図17の(a)の時間軸に対応させて、図17の(b)に示した横棒は、操作スイッチ2aL,2aRのオン状態が時間t1から開始されてオン状態が終わる時間がt2A,t2B,t2Cと異なっても、付加電流値IAdの電流波形は、時間t1〜t4(図17の(a)では、時間t4A,t4B,t4Cで表示)の1つの付加電流値IAdの電流波形のみしかスイッチ操作判定部290Bが発生させないことを説明するためのものである。
【0114】
(付加電流出力制御部298)
付加電流出力制御部298は、出力波形演算部297Bからの付加電流値IAdの電流波形の入力を受けて、一時的に電流波形データを保持し、加算器252に電流波形に応じた付加電流値IAdを、時系列的に一定の周期で、つまり時間ステップで、例えば、10msecの周期で加算器252に出力する。
付加電流出力制御部298は、スイッチ操作判定部290Bから前記した制御信号Scが入力されたときは、現在出力中の付加電流値IAdを0(ゼロ)として出力を中止し、一時的に保持していた電流波形データをクリアする。
【0115】
(出力波形監視部299)
出力波形監視部299は、出力波形演算部297Bにおいて図17の(a)に示したように付加電流値IAdの電流波形が生成された場合に、付加電流値IAdの出力電流が出力開始されてから波高(H0×K)に達して立ち下がり始め、その波高が(H0×K)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290Bに入力するものである。本実施形態では、前記したように閾値時間tthは固定値ではない。
【0116】
ここで、閾値時間tthの設定の考え方は、付加電流値IAdの電流波形の出力が立ち下がりの状態になり、所定の修正操舵がほぼ完了しているとみなせる波高にまで減衰しているとみなせる観点と、現在出力中の付加電流値IAdを0(ゼロ)として出力を中止しても運転者に違和感をそれ程与えない観点から設定するものであり、(H0×K)/eの値を下回ったタイミングに限定されるものではない。
【0117】
(付加電流演算部300Bにおける付加電流の生成及び出力制御)
次に、図18、図19を参照しながら適宜図13を参照して、付加電流演算部300Bにおける付加電流値IAdの出力制御について説明する。図18、図19は、図13における付加電流演算部における付加電流値波形の生成及び出力制御の流れを示すフローチャートである。
本実施形態における図18、図19のフローチャートにおけるステップS31,S32,S33,S34,S36,S37,S38,S43〜S53は、第1の実施形態における図11、図12のフローチャートにおけるステップS01,S02,S03,S04,S07,S08,S09,S11〜S21に対応し、スイッチ操作判定部290Aはスイッチ操作判定部290Bに読み替える。
【0118】
先ず、ステップS31では、スイッチ操作判定部290B(図13参照)は、IFLAG=0にリセットする。
ステップS32では、スイッチ操作判定部290Bは、少なくとも操作スイッチ2aL,2aRのいずれかから右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信したか否かをチェックする(「操作スイッチがOFFからONになったか?」)。右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号を受信した場合(Yes)は、ステップS33へ進み、そうでない場合(No)はステップS32へ戻る。
ステップS33では、スイッチ操作判定部290Bは、操作スイッチ2aL,2aRを有効とする操舵角θの範囲Rθ内か否かをチェックする。具体的には、スイッチ操作判定部290Bが、操作スイッチ有効判定部295(図13参照)から現在の操舵角θが操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効な範囲Rθ内にあることを示す信号を受信しているか否かで判定する。操作スイッチ2aL,2aRを有効とする操舵角θの範囲Rθ内の場合(Yes)は、ステップS34へ進みそうでない場合(No)は、ステップS32へ戻る。
【0119】
ステップS34では、スイッチ操作判定部290Bは、タイマtをスタートさせ、基準波形設定部291Bに基準波形出力信号を入力する。ステップS35では、スイッチ操作判定部290Bからの基準波形出力信号を受けて、基準波形設定部291B(図13参照)が車速VSに応じた時間幅Twの基準の付加電流矩形波(図14の(a)参照)を生成して乗算部293(図13参照)へ出力する。ちなみに、基準波形設定部291Bは、スイッチ操作判定部290Bからの基準波形出力信号を受けていない場合は、乗算部293へ0(ゼロ)信号を出力する。
【0120】
スッテップS36では、スイッチ操作判定部290Bは、操作された操作スイッチ2aL,2aRの示す操作方向は左右のいずれかを判定する。スイッチ操作判定部290Bは、右の操作方向、つまり、右方向修正舵信号の場合(右)は、ステップS37へ進み、符号+を設定して乗算部293へ出力する。左の操作方向、つまり、左方向修正舵信号の場合(左)は、ステップS38へ進み、符号−を設定して乗算部293へ出力する。ステップS37,S38の後、ステップS39へ進む。
ステップS39では、ゲイン設定部292B(図13参照)は、車速VS、操舵角θ及びステップS37又はステップS38で設定された符号±に基づいて、図15に示したゲイン特性データを参照して、車速VSに応じたゲインKを設定して乗算部293へ出力する。
【0121】
ステップS40では、時定数設定部296(図13参照)が、図16に示す車速VSに応じて立ち上がり用時定数τ1、立ち下がり用時定数τ2を設定して出力波形演算部297Bに出力する。
ステップS41では、乗算部293は、ステップS35において基準波形設定部291Bから入力された基準の付加電流矩形波に、操作方向に対応する符号と、ステップS39においてゲイン設定部292Bから入力されたゲインKとを乗じて、出力波形演算部297Bに出力する。その後、結合子(D)に従って、図19のステップS42へ進む。
ちなみに、乗算部293は、基準波形設定部291Bから0(ゼロ)信号が入力されている場合は、0に操作方向に対応する符号と、ゲイン設定部292Bから入力されたゲインKとを乗じて、0(ゼロ)信号を出力波形演算部297B(図13参照)へ出力する。
【0122】
ステップS42では、出力波形演算部297Bが、ステップS41において操作方向に対応する符号とゲインKとが乗ぜられた基準の付加電流矩形波に対して、立ち上がり用時定数τ1及び立ち下がり用時定数τ2で一次遅れ処理により整形された付加電流値IAdの電流波形を生成して、付加電流出力制御部298に出力する(「時定数τ1,τ2により付加電流値IAdの電流波形を生成して出力」)。
付加電流出力制御部298は、ステップS43において生成された付加電流値IAdの電流波形を一時保持して付加電流値IAdの電流波形に従って時間ステップ毎に付加電流値IAdを加算器252(図13参照)に出力する。
ステップS44では、加算器252が、q軸目標電流値ITG1に付加電流値IAdを加算して、q軸目標電流値Iqとして減算器253(図13参照)に出力する。その後、通常の電動パワーステアリング装置100の制御部と同様にq軸実電流値Iq、d軸実電流値Idのフィードバック制御により、電動機11(図13参照)が駆動される。
【0123】
ちなみに、付加電流出力制御部298が付加電流値IAdの電流波形に応じた時間ステップ毎に付加電流値IAdを出力した後は0(ゼロ)信号を加算器252に出力し、付加電流出力制御部298が出力波形演算部297Bから0(ゼロ)信号を入力されている場合も0(ゼロ)信号を加算器252に出力する。
つまり、加算器252は、操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じた右方向修正舵信号又は左方向修正舵信号に対応して電動機11を所定量だけ回転させ転舵角目標変化量を実現する。
【0124】
ステップS43以降は、前記したように第1の実施形態の図12のフローチャートのステップS11〜S21と同じ内容であり、スイッチ操作判定部290Aをスイッチ操作判定部290Bに読み替え、重複する説明を省略する。但し、ステップS51の後、結合子(E)に従って、図18のステップS33へ戻る。
【0125】
また、第2の実施形態では、図18及び図19のステップS33〜S43において、操作スイッチ有効判定部295における操作スイッチ2aL,2aRの操作が有効と判定する機能、及びスイッチ操作判定部290Bの機能との組み合わせによる付加電流値IAdを出力させるか、出力させないかの制御の方法として、段落[0070]に前記した第1の方法を前提として説明した。
しかし、それに限定されるものではなく、段落[0071],[0072]に前記した第2の方法を用いても良い。その場合は、ステップS33においてNoのときは、操作スイッチ有効判定部295は、更に、操舵角θが、例えば、左右に90deg以内かどうかを判定する。左右に90deg以内の場合は、操作スイッチ有効判定部295は、左操舵のときは、操作スイッチ2aLからのオン信号を無効にするフラグ信号を、右操舵のときは、操作スイッチ2aRからのオン信号を無効にするフラグ信号を、スイッチ操作判定部290Bに入力し、ステップS34へ進む。
操舵角θが、例えば、左右に90degを超えている場合は、ステップS32に戻るようにする。
【0126】
更に、図18のステップS36を、「スイッチ操作判定部290Bは、操作スイッチ有効判定部295から操作スイッチ2aL,2aRのいずれかに対するオン信号を無効にするフラグ信号を受けているかどうかを確認し、操作スイッチ2aL,2aRで前記フラグ信号を受けているものに対して、オン信号を無効とした上で、無効でないオン信号に対して操作された操作スイッチ2aL,2aRの内の示す操作方向は左右のいずれかを判定する。」と読み替える。スイッチ操作判定部290Bは、右の操作方向、つまり、右方向修正舵信号の場合(右)は、ステップS37へ進み、符号+を設定して乗算部293へ出力する。左の操作方向、つまり、左方向修正舵信号の場合(左)は、ステップS38へ進み、符号−を設定して乗算部293へ出力する。
これにより、操舵角θが、所定の範囲Rθ外で、例えば、左右に操舵角θが−90deg≦θ≦+90degの範囲でも操作スイッチ2aL,2aRのスライド方向が修正操舵の方向と直感的に一致する側の操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRに対しては、付加電流値IAdを出力させることができるので、操舵角θのより広範囲において運転者が意図した方向の確実な修正操舵を、操作スイッチ2aL又は操作スイッチ2aRで行える。
【0127】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同じ作用効果に加え次の作用効果がある。
本実施形態では、第1の実施形態のように付加電流値IAdの電流波形の波高をゲインKで車速VSに応じて変化させるだけでなく、付加電流値IAdの電流波形の時間幅Twも変化させている。従って、低車速の状態でより大きな転舵角目標変化量を設定する場合に、付加電流値IAdの電流波形の設定生成の自由度が増え、設定が容易になる。
また、高速走行時に素早い修正操舵を操作スイッチ2aL,2aRで行えるように容易に設定できる。
【0128】
更に、図15に示したようにゲイン特性曲線として、基準ゲイン曲線Y0、切り増し修正舵ゲイン曲線Y1及び戻し修正舵ゲイン曲線Y2の3種を用意し、車速VSに応じて決められる操舵角θの中立位置からの左右の所定の操舵角θの第3の閾値以内の範囲では基準ゲイン曲線Y0でゲインKを設定し、操舵角θの第3の閾値より外では、操作スイッチ2aL,2aRの操作方向が切り増し修正操舵の場合は切り増し修正舵ゲイン曲線Y1でゲインKを設定し、戻し修正操舵の操作の場合は戻し修正舵ゲイン曲線Y2でゲインKを設定するので、前輪10F,10Fのセルフアライメントによる操舵力の変化を考慮した運転者が期待する所定の修正操舵が切り増し方向、戻し方向に対して同等に実現可能となる。
【0129】
《第2の実施形態の第1の変形例》
第2の実施形態では、出力波形監視部299は、出力波形演算部297Bにおいて図17に示したように付加電流値IAdの電流波形を生成された場合に、付加電流値IAdの出力電流が出力開始されてから波高(H0×K)に達して立ち下がり始め、その波高が(H0×K)/eの値を下回ったタイミングである閾値時間tthを算出し、その閾値時間tthをスイッチ操作判定部290Bに入力するものとしたがそれに限定されるものではない。
出力波形監視部299は、図19のステップS45において、図13に破線で示した矢印のように出力波形演算部297Bが生成した付加電流値IAdの電流波形に基づいて、付加電流出力制御部298から出力される時間ステップごとの付加電流値IAdの値を監視し、付加電流値IAdの値が最大波高値(H0×K)を過ぎてから(H0×K)/eの値を下回った場合(Yes)となり、ステップS46でIFLAG=0とし、(H0×K)/eの値をまだ下回らない場合(No)にステップS47でIFLAG=1とし、スイッチ操作判定部290BにフラグIFLAGの値を出力するようにしても良い。
【0130】
《第2の実施形態の第2の変形例》
第2の実施形態では、ゲイン設定部292BにおいてゲインKを設定して乗算部293に出力するものとしたが、ゲイン設定部292Bをなくして、基準波形設定部291Bで付加電流値IAdの電流波形の時間幅Twのみを車速VSに応じて変化させ、転舵角目標変化量を設定するようにしても良い。
【0131】
《第2の実施形態の第3の変形例》
更に、第2の実施形態では、ゲイン設定部292Bは、車速VSに応じてゲインKを設定することとしたがそれに限定されるものではない。
付加電流演算部300Bは、横加速度(走行状態情報)を検出する横加速度センサから横加速度を示す信号をゲイン設定部292Bに入力されるように構成されていても良い。その場合、ゲイン設定部292Bは、横加速度の絶対値が所定の閾値未満では1.0で、所定の閾値以上になると横加速度の絶対値が大きくなるほどその値を減少させるように予め設定された第2のゲインK2を設定し、ゲインKとゲインK2の積を補正されたゲインKとして乗算部293に出力するようにしても良い。
このようにすることにより、高速で、例えば、操舵角θが−15〜+15degで旋回走行中に、操作スイッチ2aL,2aRを操作しても、修正操舵の量を小さくでき、運転者に違和感を与えなくて済む。
これは、運転者は高速での旋回中は操向ハンドル2を比較的強く握り路面からの反力に対して車体の旋回走行を安定させるようにするのが通常であり、そのような場合に操作スイッチ2aL,2aRでの修正操舵の量が大きいと違和感を与えやすいためである。
【0132】
《操作スイッチの操作を有効とする操舵角θの範囲Rθ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値を車速に応じて設定する変形例》
前記した第1、第2の実施の形態及びそれらの変形例においては、操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効とする操舵角θの範囲Rθ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値については、固定値としてきたがそれに限定されない。操作スイッチ有効判定部295が、図3、図13に点線で示すように車速VSを示す信号を取得する。図20は、操作スイッチの操作を有効とする操舵角θの範囲Rθ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値を車速に応じた設定とする説明図である。車速VSに応じて可変に設定する。ちなみに、操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効とする操舵角θの範囲Rθ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値は、図20に示すように、車速VSがV1、例えば、約40km/h以下では一定値であり、車速VSがV2未満まで増加するにつれて低減し、車速VSがV2、例えば、約100km/h以上では、所定の飽和値の一定値にそれぞれ固定される。
この図20に示すようなデータは、予め操作スイッチ有効判定部295に記憶されている。
【0133】
このように操作スイッチ2aL,2aRの操作を有効とする操舵角θの範囲Rθ(所定の第1の閾値)と、所定の第2の閾値とを車速VSに応じて車速VSが大きくなるほど低減することにより、車速VSが大きくなるほど大きな旋回半径での旋回運動中に操作スイッチ2aL,2aRの操作による転舵角の所定の変化量を許容することなる。それにより、高速旋回走行時の操作スイッチ2aL,2aRを用いた修正操舵の操作による横方向加速度の変化による乗り心地の悪さを防止することができる。
【0134】
《操作スイッチの変形例》
前記した第1、第2の実施の形態及びそれらの変形例においては、操向ハンドル2に設けられた操作スイッチ2aL,2aRは、スライド操作方式のものとしたが、それに限定されるものではなく、例えば、操作スイッチ2aL,2aRのそれぞれ上側、下側を押下することシーソー式に傾いて出力信号を出し、押下されていない状態では、内蔵されたスプリング等の弾性力により中立位置に復帰するように構成されているものでも良い。
また、図21は、図1における操向ハンドル2に設けられた操作スイッチ2aL,2aRの変形例の説明図であるが、図21に示すように操作スイッチ2aLは、左方向の修正操舵用のスイッチ、操作スイッチ2aRは、右方向の修正操舵用のスイッチとしても良い。このような一方向のみの修正操舵用の操作スイッチ2aL,2aRは、図21の(a)に示すような押しボタンスイッチ方式、図21の(b)に示すようなスライドスイッチ方式でも良い。
なお、有効な操舵角θの範囲Rθを設定する際に考慮する角度αdegを図2と同様に定義してある。
【0135】
《第1、第2の実施の形態及びそれらの変形例の他の操舵装置への適用》
第1、第2の実施形態及びその変形例では、車両の操舵装置として前輪10F,10Fを操向ハンドル2で操舵するときに電動機11の操舵補助力で操舵力を軽減する電動パワーステアリング装置100において説明し、前輪10F,10Fの修正操舵を操作スイッチ2aL,2aRを用いて行うものとしたがそれに限定されるものではない。
【0136】
(ステアバイワイヤ方式の操舵装置への適用)
第1、第2の実施形態及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bは操向ハンドル2がラック軸8を直接動かすように機械的に接続されていないステアバイワイヤ方式の操舵装置にも適用できる。
操向ハンドル2の操舵角θに基づいてラック軸8を左右に駆動する第1の電動機(転舵モータ)を制御するとともに、操向ハンドル2に操舵反力を付与するための第2の電動機(操舵反力モータ)を制御する制御装置において、前記第1の電動機の駆動をする目標電流値に第1の実施形態、第2の実施形態、及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bから出力される付加電流IAdの電流波形を操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じて加算するようにして容易に実現でき、同じ作用効果を得ることができる。
【0137】
(舵角比可変装置を有した操舵装置への適用)
操向ハンドル2の操舵角θが増減されて前輪10F,10Fに伝達されるようにする舵角比可変装置を有した操舵装置に対しても、第1の実施形態、第2の実施形態、及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bから出力される付加電流IAdの電流波形を操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じて加算するようにして容易に実現でき、同じ作用効果を得ることができる。
【0138】
(後輪操舵装置への適用)
第1、第2の実施形態及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bは操向ハンドル2の操作に伴って後輪を転舵する後輪操舵装置の制御装置にも適用できる。
その場合、後輪操舵装置の制御装置において操向ハンドル2の操作に伴って後輪の目標転舵角を設定する目標後輪転舵電流値に第1の実施形態、第2の実施形態、及びその変形例における付加電流演算部300A又は付加電流演算部300Bから出力される付加電流IAdの電流波形を操作スイッチ2aL,2aRの操作に応じて加算するようにして容易に実現でき、同じ作用効果を得ることができる。
なおその場合、後輪の転舵角目標変化量は、前輪に対するよりも小さく設定する。
【符号の説明】
【0139】
2 操向ハンドル(ステアリングホイール)
2aL 操作スイッチ(操作部、左側操作部)
2aR 操作スイッチ(操作部、右側操作部)
10F 前輪(転舵輪)
11 電動機(転舵モータ)
30 操舵トルクセンサ(トルクセンサ)
35 車速センサ(車速検出手段)
50 レゾルバ
52 操舵角センサ
60 インバータ
100 電動パワーステアリング装置(電動ステアリング装置)
200,200A,200B 制御装置(制御部)
250 加算器
290A,290B スイッチ操作判定部
291A,291B 基準波形設定部
292A ゲイン設定部
292B ゲイン設定部
293 乗算部
295 操作スイッチ有効判定部
296 時定数設定部
297A,297B 出力波形演算部
298 付加電流出力制御部
299 出力波形監視部
300A,300B 付加電流演算部(付加電流演算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操舵するステアリングホイールと、転舵輪を転舵する転舵モータと、前記ステアリングホイールに設けられ、運転者の操作により電気信号を出力する操作部と、前記ステアリングホイールの操舵と前記操作部から出力される前記電気信号のいずれか一方もしくは両方に基づき前記転舵モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操舵により前記操作部から出力される前記電気信号を無効とすることを特徴とする電動ステアリング装置。
【請求項2】
運転者が操舵するステアリングホイールと、転舵輪を転舵する転舵モータと、前記ステアリングホイールに設けられ、運転者の操作により電気信号を出力する操作部と、前記ステアリングホイールの操舵と前記操作部から出力される前記電気信号のいずれか一方もしくは両方に基づき前記転舵モータを制御する制御部と、を備え、
前記ステアリングホイールに複数の前記操作部が設けられ、
前記制御部は、ステアリングホイールの操舵角が左方向又は右方向に所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操作により前記複数の前記操作部のうちの少なくとも一つから出力される前記電気信号を無効とすることを特徴とする電動ステアリング装置。
【請求項3】
前記操作部として、前記ステアリングホイールの中立位置方向を対称軸にして、前記ステアリングホイールの周方向位置に、左右対称に左側操作部と右側操作部とが設けられており、
前記制御部は、
前記ステアリングホイールの右操舵時に、操舵角が右方向に前記所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操作により前記右側操作部から出力される前記電気信号を無効とし、
前記ステアリングホイールの左操舵時に、操舵角が左方向に前記所定の第1の閾値を超えたとき、運転者の操作により前記左側操作部から出力される前記電気信号を無効とすることを特徴とする請求項2に記載の電動ステアリング装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記操舵角の前記所定の第1の閾値と、該所定の第1の閾値より値の大きい左方向及び右方向の操舵角の所定の第2の閾値とを、予め記憶し、
前記ステアリングホイールの操舵時に操舵角が左右方向に前記所定の第1の閾値以下のときは、前記左側操作部及び右側操作部のいずれから出力される前記電気信号をも有効とし、
前記ステアリングホイールの右操舵時に、操舵角が右方向に前記所定の第1の閾値を超え、かつ、前記所定の第2の閾値以内のとき、運転者の操作により運転者の操作により前記右側操作部から出力される前記電気信号を無効とし、
前記ステアリングホイールの左操舵時に、操舵角が左方向に前記所定の第1の閾値を超え、かつ、前記所定の第2の閾値以内のとき、運転者の操作により前記左側操作部から出力される前記電気信号を無効とし、
前記ステアリングホイールの操舵時に操舵角が左右方向に前記所定の第2の閾値を超えたときは、前記左側操作部及び右側操作部のいずれから出力される前記電気信号をも無効とすることを特徴とする請求項3に記載の電動ステアリング装置。
【請求項5】
前記制御部は、車速に応じて少なくとも前記所定の第1の閾値を可変とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電動ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−131472(P2012−131472A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115258(P2011−115258)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【分割の表示】特願2011−114302(P2011−114302)の分割
【原出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】