説明

電動ブレーキ

【課題】電動モータの使用個数を減らせる電動ブレーキを提供する。
【解決手段】車輪と共に回転する複数の回転ブレーキディスク6と、この回転ブレーキディスク6に向けて変位可能かつ回転不能に支持される非回転ブレーキディスク9と、1枚の非回転ブレーキディスク9に対峙する複数のピストン1〜4と、このピストン1〜4に回転可能に連結されるボールスクリュ15と、このボールスクリュ15の回転によりピストン1を非回転ブレーキディスク9に対して進退させるボールスクリュ・ナット機構と、ボールスクリュ15を回転駆動する電動モータ11と、この電動モータ11の回転を複数のボールスクリュ15に伝達するモータ回転伝達機構10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の制動部材を電動モータで駆動する電動ブレーキの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機に搭載される油圧源を縮小、廃止するために、車輪を制動するブレーキを油圧ブレーキから電動ブレーキにかえる傾向がある。
【0003】
特許文献1には、電動モータの回転運動をピストンの往復運動に変換して制動力を発生させる電動ブレーキが開示されている。
【特許文献1】特開2005−069398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の電動ブレーキにあっては、複数のピストンを駆動する場合、ピストンと同数の電動モータを備えるため、電動モータの使用個数が多くなり、製品の信頼性を高めることが難しく、製品のコストアップを招くという問題点があった。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、電動モータの使用個数を減らせる電動ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電動ブレーキにおいて、車輪と共に回転する回転ブレーキディスクと、この回転ブレーキディスクに向けて変位可能かつ回転不能に支持される非回転ブレーキディスクと、非回転ブレーキディスクに対峙する複数のピストンと、この各ピストンに回転可能に連結されるボールスクリュと、この各ボールスクリュの回転により各ピストンを非回転ブレーキディスクに対して進退させるボールスクリュ・ナット機構と、ボールスクリュを回転駆動する電動モータと、この電動モータの回転を複数のボールスクリュに伝達するモータ回転伝達機構とを備えたことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、従来の電動ブレーキに対して電動モータの使用個数を削減するとともに、電動モータのドライバ、ケーブル類の数量を削減する。これにより、製品の信頼性を高められるとともに、製品のコストダウンがはかれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0009】
図1に示す航空機用電動ブレーキは、車輪のホイールの内側に設けられる多板ディスク式のものである。
【0010】
この電動ブレーキは、車輪と共に回転する円盤状の回転ブレーキディスク6と、機体シャフト(車軸)に取り付けられる円盤状の非回転ブレーキディスク9と、非回転ブレーキディスク9に対峙するピストン1〜4と、ピストン1〜4を非回転ブレーキディスク9に対して進退させるように駆動する電動モータ11、12とを備える。
【0011】
4枚の非回転ブレーキディスク9の間に3枚の回転ブレーキディスク6が挟まれるように配置されている。非回転ブレーキディスク9は図示しない機体シャフトに対してトルクチューブ8等を介して車軸方向に変位可能に支持される。回転ブレーキディスク6は図示しないホイールと一体回転するものであり、ホイールに対して車軸方向に変位可能に支持される。
【0012】
4つのピストン1〜4は車輪の回転周方向について均等な間隔を持って配置される。各ピストン1〜4の押圧力によって非回転ブレーキディスク9と回転ブレーキディスク6が互いに押し付けられると、この摺動部分で摩擦力が発生し、制動トルクが得られるように構成されている。なお、ピストン1〜4は必ずしも車輪の回転周方向について均等な間隔を持って配置しなくても良い。
【0013】
ハウジング7には2つの電動モータ11、12と、4つのピストン1〜4と、1つの電動モータ11の回転を2つのボールスクリュ15に伝達する2つのモータ回転伝達機構10とを備える。
【0014】
なお、ピストン1〜4、電動モータ11、12、回転ブレーキディスク6、各非回転ブレーキディスク9の個数はこれに限らず、任意に設定される。
【0015】
ピストン1〜4はハウジング7に摺動可能に支持される。ピストン1〜4の基端部から突出したボールスクリュ15が設けられ、ピストン1〜4には各ボールスクリュ15に多数のボールを介して螺合するボールナットが設けられ、これらによってボールスクリュ・ナット機構が介装される。このボールスクリュ・ナット機構はボールスクリュ15の回転をピストン1〜4の直線運動に変換し、ピストン1〜4を非回転ブレーキディスク9に対して進退させるように構成されている。
【0016】
モータ回転伝達機構10は1つの電動モータ11の回転を2つのボールスクリュ15に伝達するように構成される。
【0017】
電動モータ11、12のモータシャフト13にはドライブギヤ14が連結され、ボールスクリュ15の基端部にはドリブンギヤ16が連結され、モータ回転伝達機構10は1つのドライブギヤ14の回転を差動機構21、22を介して2つのドリブンギヤ16に伝達する。
【0018】
各差動機構21、22は、ドリブンギヤ16と噛み合う中継ギヤ23を備え、2つの中継ギヤ23の間にディファレンシャルギヤ24を備える。ディファレンシャルギヤ24は各中継ギヤ23を両者の回転差を許容しつつ回転駆動するものである。
【0019】
ドライブギヤ14がディファレンシャルギヤ24のケース外周に形成されたギヤに噛み合い、電動モータ11、12の回転がドライブギヤ14を介してディファレンシャルギヤ24のケースに伝えられる。
【0020】
ディファレンシャルギヤ24は、例えば、そのケース内に各中継ギヤ23と同軸上に設けられる対のサイドギヤを備えるとともに、各サイドギヤに対してそれぞれ直交する方向に回転するよう噛合う複数のピニオンを備え、各サイドギヤ(各ボールスクリュ15)の回転トルクが等しい場合にピニオンが自転することなくケースと各サイドギヤが同期して回転する一方、各サイドギヤの回転トルクが異なる場合にピニオンが自転して各サイドギヤが回転差を持って回転するように構成されている。
【0021】
航空機の上位のブレーキコントローラからのピストン押付力指令信号に応じて図示しないピストン押付コントローラは電動モータ11、12の駆動電流を制御する。電動モータ11、12が正方向に回転することにより、各ピストン1〜4が非回転ブレーキディスク9に当接して各非回転ブレーキディスク9を各回転ブレーキディスク6に押付け、制動トルクが得られる一方、駆動電流により電動モータ11、12が戻し方向に回転することにより、各ピストン1〜4が非回転ブレーキディスク9から離れ、各非回転ブレーキディスク9を各回転ブレーキディスク6に押付けることがなくなり、制動が解除される。
【0022】
各部品の加工公差や組立公差によりピストン1、2の相対位置に誤差Xがある場合、図1に示すように、ピストン1が非回転ブレーキディスク9に接触すると、差動機構21が各中継ギヤ23に回転差を持たせ、ピストン1がストロークせず、ピストン2だけがストロークし、誤差Xが0になる。ピストン2が非回転ブレーキディスク9に接触すると、電動モータ11で発生したトルクの半分のトルクが各ドリブンギヤ16に伝達され、ピストン1、2の押付力が均等になる。同様にしてピストン3、4の押付力も均等になる。
【0023】
以上のように、車輪と共に回転する複数の回転ブレーキディスク6と、この回転ブレーキディスク6に向けて変位可能かつ回転不能に支持される非回転ブレーキディスク9と、非回転ブレーキディスク9に対峙する複数のピストン1〜4と、このピストン1〜4に回転可能に連結されるボールスクリュ15と、このボールスクリュ15の回転によりピストン1を非回転ブレーキディスク9に対して進退させるボールスクリュ・ナット機構と、ボールスクリュ15を回転駆動する電動モータ11と、この電動モータ11の回転を複数のボールスクリュ15に伝達するモータ回転伝達機構10とを備えたため、従来装置に比べて電動モータの使用個数を半減するとともに、電動モータのドライバ、ケーブル類の数量を削減する。これにより、製品の信頼性を高められるとともに、製品のコストダウンがはかれる。
【0024】
モータ回転伝達機構10として、複数のボールスクリュ15に連結されるドリブンギヤ16と、電動モータ11、12によって回転駆動されるドライブギヤ14と、1つのドライブギヤ14の回転を2つのドリブンギヤ16に対して両者の回転差を許容しつつ伝達する差動機構21とを備えたため、各部品の加工公差や組立公差に起因するピストン1〜4のストローク差を解消し、ピストン1〜4の押付力を均等にして大きい制動トルクが得られる。
【0025】
差動機構21として、各ドリブンギヤ16に噛み合う中継ギヤ23と、各中継ギヤ23を両者の回転差を許容しつつ回転駆動するディファレンシャルギヤ24とを備えたため、ディファレンシャルギヤ24の作動によりピストン1〜4の押付力を均等にすることができる。
【0026】
また、差動機構21として、各中継ギヤ23を両者の回転差を許容しつつ回転駆動するトルクリミッタ機構を備えても良い。
【0027】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の電動ブレーキは、航空機用の車輪を制動するものに限らず、他の車両等に設けられるものにも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態を示す電動ブレーキの構成図。
【符号の説明】
【0030】
1〜4 ピストン
6 回転ブレーキディスク
9 非回転ブレーキディスク
10 モータ回転伝達機構
11、12 電動モータ
14 ドライブギヤ
15 ボールスクリュ
16 ドリブンギヤ
21 差動機構
23 中継ギヤ
24 ディファレンシャルギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転する回転ブレーキディスクと、
この回転ブレーキディスクに向けて変位可能かつ回転不能に支持される非回転ブレーキディスクと、
この非回転ブレーキディスクに対峙する複数のピストンと、
この各ピストンに回転可能に連結されるボールスクリュと、
この各ボールスクリュの回転により前記各ピストンを前記非回転ブレーキディスクに対して進退させるボールスクリュ・ナット機構と、
前記ボールスクリュを回転駆動する電動モータと、
この電動モータの回転を複数の前記ボールスクリュに伝達するモータ回転伝達機構とを備えたことを特徴とする電動ブレーキ。
【請求項2】
前記モータ回転伝達機構として、
複数の前記ボールスクリュに連結されるドリブンギヤと、
前記電動モータによって回転駆動されるドライブギヤと、
1つの前記ドライブギヤの回転を2つの前記ドリブンギヤに対して両者の回転差を許容しつつ伝達する差動機構とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ。
【請求項3】
前記差動機構として、
前記ドリブンギヤに噛み合う中継ギヤと、
前記各中継ギヤを両者の回転差を許容しつつ回転駆動するディファレンシャルギヤとを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の電動ブレーキ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−223914(P2008−223914A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64030(P2007−64030)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、経済産業省、航空機用先進システム基盤技術開発電子制御小型アクチュエータの技術開発(その4)委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】