電動倍力機構を備えたブレーキ制御装置
【課題】電動倍力機構を備えたブレーキ装置において、ブレーキをかけ続けても、モータやインバータを過熱させることのないこと。
【構成】車輪に制動力を発生させるホイルシリンダとマスタシリンダとの間の連通をオンオフ制御する保持弁を備えて、ブレーキをかけ続けてホイルシリンダ内の昇圧状態が続く場合、前記保持弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を低減するブレーキ制御装置。
【構成】車輪に制動力を発生させるホイルシリンダとマスタシリンダとの間の連通をオンオフ制御する保持弁を備えて、ブレーキをかけ続けてホイルシリンダ内の昇圧状態が続く場合、前記保持弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を低減するブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動倍力機構を備えたブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの電動化等への対応として、エンジン負圧を利用しない電動倍力装置が開発されている。例えば、特許文献1は、マスタシリンダ内に液圧を発生させるピストンを分割し、一方を電動モータで駆動し他方をブレーキペダルに直結する構造を有し、運転者のブレーキペダル操作をセンサで検出し、それに応じて電動モータを駆動しマスタシリンダを倍力している。
【特許文献1】特開2006−281992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に示す技術では、ブレーキをかけ続ける間、モータを連続作動させる必要がある。そのため、強い制動力をかけ続ける場合、モータやインバータが過熱してしまう問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の問題を課題として、本発明のブレーキ制御装置は、車輪に制動力を発生させるホイルシリンダと、前記ホイルシリンダと油圧回路を介して接続されるものであって、ドライバのブレーキ操作により作動して前記ホイルシリンダ内に液圧をかけるマスタシリンダと、前記ドライバのブレーキ操作量に応じて前記マスタシリンダの作動を補助する電動モータを備えた電動倍力機構と、インバータ回路を制御することにより前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持する保持機構を備えて、ブレーキをかけ続けてホイルシリンダ内の昇圧状態が続く場合、上記保持機構を駆動し、前記ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持して、前記電動モータへの通電量を低減することを特徴とするものである。
【0005】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記特徴に加えて、前記保持機構は、前記油圧回路上に設けられ、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダ間の連通をオンオフ制御する保持弁であって、前記保持機構を駆動するとは、前記保持弁を閉作動することを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持弁はソレノイドに通電しない時に流路を開くソレノイドバルブであることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持弁と前記ホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記保持弁と並列に、前記マスタシリンダからの液圧は連通させる弁であって、前記ホイルシリンダからの液圧は遮断するチェック弁を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持弁とホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記液圧センサの出力に基づいて、前記保持弁の閉故障を検知することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持弁とホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記液圧センサの出力に基づいて、前記保持弁の開故障を検知することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、ドライバのブレーキ操作中に前記電動倍力機構が前記マスタシリンダを昇圧できない異常が発生した際には、前記保持弁を閉じて前記ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持するようにロックして制動力低下を抑制することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、前記保持弁をオンオフ制御する駆動回路とは、共通の制御ユニットに属していることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記制御ユニットは、制御モード選択部を備えて、前記制御モード選択部は、目標マスタシリンダ液圧又はモータ温度又はインバータ温度が所定値より大きい場合、前記保持弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を倍力作動時より低減する制御を設定することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記電動倍力機構はブレーキペダルの操作により進退する第一の入力部材と、モータにより進退する第二の入力部材と、第一と第二の入力部材によって加圧されるマスタシリンダと、ブレーキの操作量に応じてモータを駆動しブレーキ踏力を倍力することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持機構は、前記油圧回路上に設けられるものであって、ポンプと、マスタシリンダからゲートアウト弁と流入弁を介してホイルシリンダに接続する第1ブレーキ回路と、前記ポンプの吐出側から、前記第1ブレーキ回路における前記ゲートアウト弁の下流側であって前記流入弁の上流側に接続する第2ブレーキ回路と、前記第1ブレーキ回路における前記流入弁の下流側から流出弁を介してリザーバに接続する第3ブレーキ回路と、を備えて、前記保持機構を駆動するとは、前記ゲートアウト弁を閉作動することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記ゲートアウト弁は、ソレノイドに通電しない時に流路を開くソレノイドバルブであることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、前記ゲートアウト弁をオンオフ制御する駆動回路とは、共通の制御ユニットに属していることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記制御ユニットは、制御モード選択部を備えて、前記制御モード選択部は、目標マスタシリンダ液圧又はモータ温度又はインバータ温度が所定値より大きい場合、前記ゲートアウト弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を倍力作動時より低減する制御を設定することを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記電動倍力機構はブレーキペダルの操作により進退する第一の入力部材と、モータにより進退する第二の入力部材と、第一と第二の入力部材によって加圧されるマスタシリンダと、ブレーキの操作量に応じてモータを駆動しブレーキ踏力を倍力することを特徴とするものである。
【0019】
さらに、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持機構とは、前記電動モータの回転軸をロックするモータラッチ機構であって、前記保持機構を駆動するとは、前記モータラッチ機構を作動させて前記回転軸をロックすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明を適用することにより、電動倍力機構を備えたブレーキ装置において、長時間の強いブレーキをかけ続けても、制動力を低下させることなく、モータやインバータの過熱を抑えることができる。
【0021】
また、保持弁やチェック弁の作動に異常が発生した場合や電動倍力装置にモータの断線等の故障が発生した場合に、フェールセーフを確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、一実施形態である電動倍力装置と液圧保持機構について、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1に係る電動倍力装置1、液圧保持機構2およびホイルシリンダ11a〜dを含むブレーキ装置のシステム全体を示す説明図である。ここで、FL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪である。図1に示すように、電動倍力装置1は、第1の加減圧手段としてのブレーキペダル100で操作されるインプットロッド7と、第2の加減圧手段としてのマスタシリンダ圧制御装置3とマスタシリンダ圧制御機構4と、ストロークセンサ8と、マスタシリンダ9と、液圧センサ48、49と、リザーバタンク10とを備えている。ここで、第2の加減圧手段には、マスタシリンダ9を構成する第1ピストン40が含まれる。電動倍力装置で倍力されたマスタシリンダ圧は、液圧保持機構2とブレーキ配管101、102を介して、各ホイルシリンダ11a〜11dに供給され、車輪に制動力を発生させる。
【0024】
マスタシリンダ圧制御装置3は、演算処理回路であり、ストロークセンサ8の信号、ハイブリッドシステム制御装置12からの制御指令等に基づいて、マスタシリンダ圧制御機構4を構成するモータ20の制御を行う演算処理回路を含む。マスタシリンダ圧制御機構4は、マスタシリンダ圧制御装置3の制御指令に基づいて、第1ピストン40を押圧するものであり、回転トルクを発生するモータ20と、モータ20の回転トルクを増幅する減速装置21と、回転動力を直線動力に変換する回転−直動変換装置25とを備えてなる。マスタシリンダ圧制御装置3は、ハイブリッドシステム制御装置12や他のシステムの制御装置と信号線13で双方向の通信を行っており、制御指令、車両状態量、故障情報、また、車両に搭載された電子制御装置ECU(図示しない。)の作動状態等が入力される。信号線13は、CANなどの車内ネットワークまたはシリアル通信を用いて構成されるものであり、これらに特に限定されるものではない。
【0025】
インプットロッド7は、ブレーキペダル100に連結され、その片端が第1液室42に挿入されている。このような構成を採ることにより、運転者のブレーキ操作によってもマスタシリンダ圧を上昇させることができるため、万一、モータ20が停止する事故が発生した場合にも、所定のブレーキ力が確保される。また、マスタシリンダ圧に応じた力は、インプットロッド7を介してブレーキペダル100に作用し、ブレーキペダル反力として運転者に伝達される。そのため、バネ等のブレーキペダル反力を生成する装置が不要となるので、電動倍力装置1は小型・軽量化されて、車両への搭載性が向上する。
【0026】
ストロークセンサ8は、運転者のブレーキ意図を検出するセンサであり、インプットロッド7の変位量を検出するストロークセンサである。ストロークセンサ8としては、ストロークセンサを複数個組み合わせた構成のものが望ましい。これにより、一つのセンサからの信号が途絶える事故が発生した場合にも、残りのセンサによって運転者のブレーキ要求が検出されるので、フェールセーフが確保される。また、ストロークセンサ8としては、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサや、ストロークセンサと踏力センサを組み合わせた構成のものでもよい。
【0027】
マスタシリンダ9は、第1ピストン40によって加圧される第1液室42と、第2ピストン41によって加圧される第2液室43の二つの加圧室を有するタンデム式のものであり、第1ピストン40の推進によって各加圧室で加圧された作動液が、ブレーキ配管101、102と保持弁44、45を介してホイルシリンダ11a〜dに供給される。液圧センサ48、49は、液圧保持機構2とホイルシリンダ11a〜d間の油路に設置されており、マスタシリンダで発生した油圧を検出するセンサである。なお、この油圧を、以下、「マスタシリンダ圧」といい、特に保持弁2の下流側の圧力をいう場合には、「保持弁下流液圧」という。
【0028】
マスタシリンダ圧制御装置3は、液圧センサ48、49が検出したセンサ値を用いてフィードバック制御することにより、マスタシリンダ圧を制御する。また、液圧センサ48、49は、液圧保持機構2の故障検出のためにも利用される。リザーバタンク10は、図示しない隔壁によって仕切られた少なくとも二つの液室を有し、それぞれの液室はマスタシリンダ9の各加圧室と連通可能に接続されている。リザーバタンク10にはブレーキ液が補充され、必要に応じてマスタシリンダの各液室にブレーキ液を供給する。
【0029】
液圧保持機構2は、マスタシリンダから出力される油圧を保持する保持弁44、45を有する。保持弁44、45は、図示しないソレノイドに通電しない時に保持弁を開き、マスタシリンダ9とホイルシリンダ11a〜dが連通する。また、ソレノイドに通電し保持弁を閉じると、マスタシリンダによって加圧されたホイルシリンダ圧を保持することができる。保持弁44、45は、保持弁44、45と並列に置かれたチェック弁46、47を有し、マスタシリンダ側から作動液をホイルシリンダ側へ供給するが、その逆方向には連通しないように構成されているので、保持弁44、45の閉弁時に、保持機能を発揮しつつ、マスタシリンダ側の液量をホイルシリンダ側へ供給することができる。なお、保持弁を動作させるソレノイドへの通電を制御するための駆動回路は、上記モータ20を制御する駆動回路と、一つの制御ユニットにまとめてもよいし、別体としてもよい。
【0030】
ホイルシリンダ11a〜dは、図示しないシリンダ、ピストン、パッド等から構成されており、マスタシリンダ9から供給された作動液によってピストンが推進され、ピストンに連結されたパッドがディスクロータ110a〜dに押圧されるものである。ディスクロータ110a〜dは、図示しない車輪とともに回転し、そのため、ディスクロータ110a〜dに作用したブレーキトルクは、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0031】
次に、マスタシリンダ圧制御機構4の構成と動作について説明する。前記したとおり、マスタシリンダ圧制御機構4は、モータ20と、減速装置21と、回転−直動変換装置25とを備え。モータ20は、マスタシリンダ圧制御装置3の制御指令に基づいて供給される電力によって動作し、所望の回転トルクを発生する。モータ20としては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等が適当であるが、制御性、静粛性、耐久性の点においては、DCブラシレスモータが望ましい。また、モータ20には、図示しない位置センサが備わっており、この信号がマスタシリンダ圧制御装置3に入力される。これにより、マスタシリンダ圧制御装置3は、位置センサの信号に基づいてモータ20の回転角を算出し、その結果に基づいてDCブラシレスモータを制御することができる。また、上記した位置センサの信号により、回転−直動変換装置25の推進量、すなわち第1ピストン40の変位量を算出することができる。
【0032】
減速装置21は、モータ20の回転トルクをその減速比分だけ増幅させるものである。減速の方式としては、歯車減速、プーリ減速等が適当であるが、図1に示す実施例1では、駆動側プーリ22と、従動側プーリ23と、ベルト24とを備えてなるプーリを用いた減速方式を採用している。また、モータ20の回転トルクが十分に大きく、減速装置によるトルクの増幅が必要でない場合には、減速装置21を備えずにモータ20と回転−直動変換装置25とを直結することができる。これにより、減速装置21の介在に起因して発生する、信頼性、静粛性、搭載性等に係る諸問題を回避することができる。
【0033】
回転−直動変換装置25は、モータ20の回転動力を直動動力に変換して第1ピストン40を押圧する。この変換の機構としては、ラックピニオン、ボールネジ等が適当であるが、実施例1では、ボールネジを用いた方式を採っている。図1に示すように、ボールネジナット26の外側には従動側プーリ23が嵌合されており、その回転によるボールネジナット26の回転によりボールネジ軸27が直動運動し、この推力によって可動部材28を介して第1ピストン40が押圧される。可動部材28には、固定部との間に設けられた戻しバネ29が接続されるので、ボールネジ軸27の推力と逆方向の力が可動部材28を介してボールネジ軸27に作用する。これにより、ブレーキ操作中、すなわち第1ピストン40が押圧されマスタシリンダ圧が発生している状態において、モータ20が停止しボールネジ軸27の戻し制御が不能となった場合にも、戻しバネ29の反力によってボールネジ軸27が初期位置に戻されてマスタシリンダ圧が概ね零付近まで低下するので、ブレーキ力の引きずりに起因して車両挙動が不安定になることが回避される。
【0034】
図2は、マスタシリンダ圧制御装置3のマイクロコンピュータ37、ストロークセンサ8、液圧センサ48、49等の各種センサ、およびモータ20、保持弁44、45とこれらの駆動回路38を含む実施例1のシステムのブロック図である。マイクロコンピュータ37は、図2には明示していないが、例えば、CPU、ROM、RAMと入出力装置を有する。マイクロコンピュータ37には、図2に示すように、ブレーキペダル100のストローク量を検出するストロークセンサ8、第1系統のブレーキ配管に接続されている液圧センサ48、第2系統のブレーキ配管に接続されている液圧センサ49、モータの回転角度を検出するレゾルバ30、モータの駆動電流値を検出する電流センサ31、ソレノイドの駆動電流を検出する電流センサ32、33、モータ温度センサ34、インバータ温度センサ35、車輪速センサ36a〜dからの信号が入力されている。マイクロコンピュータ37は、図示しないROMに、図3、4、5に示す制御ソフトを記憶し、ここに示された制御系により、各種センサ情報に応じて駆動回路38に指令を出して、モータと保持弁44、45を駆動する。上記のようにして、マスタシリンダ液圧を制御し、各輪に制動力を発生させるのであるが、詳細は後記する。
【0035】
図3は、マイクロコンピュータ37に記憶されている制御系の伝達要素と信号の流れを示すブロック図である。まず、ストロークセンサ8で検出したペダルストローク量に基づき、目標減速度演算部60において目標減速度を演算する。次に、目標液圧演算部61において、前記目標減速度に基づいて目標マスタシリンダ液圧を演算する。マスタシリンダ液圧制御部62では、目標マスタシリンダ液圧と実マスタシリンダ液圧の偏差に基づき、マスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置を算出する。
【0036】
制御モード選択部63は、目標マスタシリンダ液圧に基づいて、制御モードを倍力制御モードまたは過熱防止制御モードに決定する。スイッチは、倍力制御モードの時にマスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置を選択し、過熱防止制御モードの時には後述する過熱防止制御に基づく目標モータ位置を選択する。なお、制御モード選択部63の作動の詳細は、図4において後述する。
【0037】
制御モード選択部63は、モータやインバータが連続作動して過熱する場合を除いて、倍力制御モードを選択する。倍力制御モード中は、モータ位置制御部65が、マスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置とレゾルバで検出した実モータ位置の偏差に基づいてモータを駆動し、マスタシリンダに倍力を発生させる。これにより、運転者のブレーキペダル操作に応じた倍力制御が実現される。
【0038】
一方、モータやインバータが連続作動して過熱する場合には、制御モード選択部が過熱防止制御モードを選択する。過熱防止制御目標値演算部64は、制御モード選択部で決定された制御フラグと目標マスタシリンダ液圧に基づいて、過熱防止制御に基づく目標モータ位置と保持弁開閉指令をそれぞれ演算する。次に、モータ位置制御部65は、過熱防止制御に基づく目標モータ位置とレゾルバで検出した実モータ位置の偏差に基づいてモータを駆動し、マスタシリンダに倍力を発生させる。また、保持弁制御部66は、保持弁開閉指令に従い、保持弁制御部が保持弁の開閉制御をする。なお、過熱防止制御目標値演算部64の作動の詳細は、図5において後述する。
【0039】
図4は、制御モード選択部63の作動のフローチャートを示す。まず、ステップS10において、過熱防止制御モードか否かを判断し、Yesの場合はS50へ、Noの場合にはS20へと進む。S20では、強いブレーキをかけ続けている否か、すなわち、モータやインバータが連続作動して過熱するか否かの判定をする。Noの場合は、S30において、制御モードを倍力制御モードに設定する。Yesの場合には、S40において、モータの連続駆動によるモータやインバータの過熱を抑えるために、過熱防止制御モードを選択する。S20の判定は、モータ駆動中に目標マスタシリンダ圧が所定値以上を所定時間継続しているか否かで判断する。その他、モータ温度センサ34やインバータ温度センサ35が高温に達した場合や、ストロークセンサ8が所定値以上を所定時間継続した場合に、過熱防止制御モードを選択するようにしてもよい。また、過熱防止制御の判断条件に、車両の速度を入れてもよく、連続してブレーキをかけ続けるシーンが多い停車中(車速=0)の時だけ、過熱防止制御を作動するようにしてもよい。
【0040】
S10でYesの場合、すなわち、すでに過熱防止制御モードだった場合は、S50に進み、目標マスタシリンダ圧の変化量またはストロークの変化量を検出し、その変化量が増加(踏み増し方向に変化)した場合に、ブレーキの踏み増しがあると判定をする。踏み増しをしたと判定した場合には、S80において、過熱防止制御モードを継続しつつ、踏み増し制御フラグを立てる。
【0041】
S50で踏み増しをしていないと判定した場合には、S60に進む。S60では、目標マスタシリンダ圧の変化量またはストロークの変化量を検出し、その変化量が減少(ブレーキを緩める方に変化)したか否かで、ブレーキを緩めたかどうかの判定をする。S60において、Yesの場合は、S70において、過熱防止制御解除フラグを立てる。他方、S60においてNoの場合には、S40において過熱防止制御モードを選択する。なお、S50、S60における判定は、上記の目標マスタシリンダ圧の変化量またはストロークの変化量以外にも、モータ温度センサ34やインバータ温度センサ35、車輪速センサ36a〜dに基づいて判断してもよい。
【0042】
図5は、過熱防止制御目標値演算部64の作動のフローチャートを示す。S90において、踏み増し制御フラグが立っているか否かを判定し、Noの場合はS100へと進む。S100においては、過熱防止制御解除フラグが立っているか否かを判断し、Noの場合はS110とS120の過熱防止制御に進む。S110においては、保持弁44、45に閉指令を出力し、その後のS120において、モータ位置指令を下げる、すなわちモータを初期位置に近づける。こうして、マスタシリンダで加圧されたホイルシリンダ圧を低下させることなく、モータの駆動電流を抑制することができるので、モータやインバータの過熱を防止することができる。ただし、モータの駆動電流を抑制する方法は、S120に限定されるわけではなく、例えば、モータ駆動電流指令を絞るようにしてもよい。他には、保持弁上流に圧力センサを設置し保持弁を閉じた状態でマスタシリンダの液圧制御ができるようにした上で、過熱防止制御時にマスタシリンダ圧の指令値を下げることでモータの駆動電流を抑制するようにしてもよい。
【0043】
S90においては、踏み増し制御フラグが立っていると判定した場合、すなわちYesの判定の場合は、S160で踏み増し制御を行う。踏み増し制御では、保持弁44、45を閉じたまま、踏み増しで増加した目標マスタシリンダ圧に基づいて、目標モータ位置を算出する。保持弁44、45を閉じたままモータを駆動するため、マスタシリンダで倍力された油圧は、チェック弁46、47を介し、ホイルシリンダ側に供給される。なお、保持弁を開けて踏み増し制御をしてもよい。液圧保持中は、モータの発熱を抑えるためにモータの駆動電流を下げているため、マスタシリンダ側の圧力は保持弁44、45の下流の圧力に比べて低圧になっている。そこで、突然保持弁を開くと保持されていた高圧ホイルシリンダ圧が、マスタシリンダ側へ逆流し大きなキックバックを発生する可能性がある。そのため、保持弁を開けて踏み増し制御をする場合は、モータを駆動してマスタシリンダ圧を増加してから、保持弁を開けるようにすることが望ましい。そのように保持弁を開くことにより、ペダルへのキックバックを抑制することができる。
【0044】
次に、S170において、強いブレーキをかけ続けているかどうか、すなわちモータやインバータが連続作動し過熱してしまうかどうかの判定をする。Yesの場合は、S180において踏み増し制御フラグを解除する。その結果、次のサイクルにおいて、S90とS100がNoの判定となり、S110とS120において、過熱防止制御を行う。これに対し、S170においてNoの判定の場合には、踏み増し制御フラグを解除することなく、S160における踏み増し制御を継続する。S170の判断については、S20の判断と同じ内容なので、ここでは説明を省略する。
【0045】
S90における踏み増し制御フラグが立っているか否かの判定において、Noの判定の場合はS100に進む。S100においては、過熱防止制御解除フラグが立っているか否かの判定をし、Yesの判定の場合、S130、S140、S150の処理を順次して、過熱防止制御を解除する。ここでは、保持弁を開く際の上記したキックバックを避けるために、S130では、保持されている保持弁下流の高圧の液圧値を検出し、それに保持弁上流が対抗できるように目標モータ位置を設定し、S140では、モータ位置制御の終了後、保持弁44、45に開指令を出して保持弁を開く。そして、S150において、制御モードを倍力制御モードに設定し、マスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置に対して制御をする。こうして、保持弁を開いた時に大きなキックバックが発生しないようにして過熱防止制御を解除する。ペダルに与える上記のキックバックを抑える方法には、キックバックが少なくなるように、保持弁44、45を少しずつ開くなどの方法もあり、本実施例のS130〜150の上記方法に限定されるものではない。
【0046】
図6は、実施例1において、倍力制御から過熱防止制御を適用する際の関連のデータの変化を示す。車両が一定速で走行中に運転者がt1でブレーキペダルの操作を開始し、車両停止(車速0)後もブレーキを踏み続け、t3でブレーキを更に踏み増し、t5でブレーキペダルを離すシーンにおける各部の変化が示されている。
【0047】
t1〜t2秒の処理について説明する。まず、図3に示す制御系において、ペダルのストローク量から目標マスタシリンダ液圧を算出し、制御モード選択部は、図4に示すS20において、この目標マスタシリンダ液圧から強いブレーキをかけ続けていないと判断し、倍力制御モードを設定する。図3に示す制御系では、倍力制御モードに従い、マスタシリンダ液圧制御部62で算出された、マスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置を指令値として、モータ位置制御部65がモータの電流指令値を出力してモータを制御する。こうして、図6に示すとおり、ドライバのペダル操作(ストロークセンサの検出値)に応じた保持弁下流液圧(制動力)を発生させることができる。
【0048】
t2秒において、制御モード選択部63は、図4に示すS20において、強いブレーキをかけ続けているか否か、すなわちモータやインバータが過熱するか否かを判定し、Yesの場合には、S40に進んで、過熱防止制御モードを設定する。それに伴い、過熱防止制御目標値演算部では、図5に示すS90とS100において共にNoの判断となり、S110とS120の過熱防止制御が開始される。過熱防止制御目標値演算部は、S110において、保持弁44、45に閉指令を出力してホイルシリンダ圧を保持した上で、S120において、目標モータ位置を下げてモータの駆動電流を抑制する。これらの目標値と指令に従って、図3に示したモータ位置制御部65と保持弁制御部66は、それぞれモータと保持弁を制御する。こうして、t2〜t3秒では、保持弁下流液圧を保持、すなわち制動力を保持しつつ、モータの駆動電流を抑えることができる。
【0049】
t3秒において、運転者がブレーキペダルを踏み増す。制御モード選択部は、図4に示すS10においてYesの判断をし、S50に進む。S50では、目標ホイルシリンダ圧の変化量より運転者の踏み増しを検出すると、Yesの判定をしてS80に進み、踏み増し制御フラグを立てる。このフラグによって、過熱防止制御目標値演算部においては、図5に示すS90でYesの判定となり、S160に進んで、踏み増し制御が行われる。S160では、保持弁44、45に閉指令を出力したまま、踏み増しで増加した目標マスタシリンダ液圧に基づいて目標モータ位置を算出する。算出した目標値と指令に従って、図3に示したモータ位置制御部65と保持弁制御部66は、モータと保持弁をそれぞれ制御する。その結果、液圧がチェック弁46、47を介して保持弁44、45の下流に供給され、図6に示すように、運転者の踏み増し意図のとおりに保持弁下流液圧(制動力)を発生させることができる。
【0050】
t4秒において、過熱防止制御目標値演算部が、図5に示すS170において、強いブレーキをかけ続けているか否かでYesの判断をし、S180に進んで、踏み増し制御フラグを解除する。それに伴い、次のサイクルで、S90とS100において共にNoの判定となり、再びS110とS120の過熱防止制御が行われる。こうして、t4〜t5では、ホイルシリンダ液圧を維持しつつ、モータの駆動電流を抑制することができる。
【0051】
t5秒では、運転者がブレーキを踏むのを止める。制御モード選択部では、図4に示すS60において、目標マスタシリンダ圧の変化量よりブレーキを解除したことを検出し、S70に進んで、過熱防止制御解除フラグを立てる。このフラグにより、図5に示すS100の判定がYesとなり、S130〜S150の過熱防止制御解除に進む。S130においては、液圧センサ48、49で検出した保持弁下流の実マスタシリンダ液圧値に基づき目標モータ位置を設定する。モータ位置制御終了後、S140において保持弁44、45に開指令を出力する。S150において、制御モードを倍力制御モードに設定する。こうして、上記目標モータ位置と指令に従って、図3に示したモータ位置制御部65と保持弁制御部66は、モータと保持弁44、45をそれぞれ制御する。S130〜S150の上記の操作により、保持弁下流の液圧によるブレーキペダルへの大きなキックバックを発生させることなく、過熱防止制御を解除することができる。
【0052】
以上説明したとおり、図1に示した実施例1の電動倍力装置において、ブレーキをかけ続ける場合においても、ホイルシリンダ液圧を低下させることなく、モータやインバータの過熱を抑制することができる。
【0053】
しかし、保持弁44、45やチェック弁46、47が故障した場合には、制動力の低下等の問題が起こる。そこで、図1に示すように、保持弁とホイルシリンダの間に液圧センサを設置し、この液圧センサの検出出力に基づいて、保持弁とチェック弁の故障を検出し、処置を施すことにより、ブレーキシステムのフェールセーフを確保する。
【0054】
図7は、実施例1において、保持弁またはチェック弁の開故障を診断する際の関連するデータの変化を示す。図7を用いて、保持弁44、45又はチェック弁46、47のいずれかの弁が開故障した場合の検出方法とその後の処置について、以下、説明する。
【0055】
図5に示したS110とS120の過熱防止制御では、各保持弁を閉じて目標モータ位置を下げることにより、保持弁下流の液圧を保持しつつ、モータの駆動電流を抑えることができる。しかし、保持弁又はチェック弁が開故障した場合は、図7において破線で示すように過熱防止制御モードに入ってからも、保持弁下流の液圧が低下する。そこで、過熱防止制御中に保持弁下流の液圧の減少量が所定値以上を所定時間継続した場合には、保持弁又はチェック弁の開故障と判断する。異常を検出した後は、異常が検出された側の過熱防止制御を禁止して倍力制御モードに切り替える。なお、異常の判定は、上記の基準に限定されるものではなく、液圧センサの情報に基づいて判断する他の方法でもよい。
【0056】
図8は、実施例1において、保持弁の閉故障を診断する際の関連するデータの変化を示す。保持弁44、45が閉故障した場合、チェック弁46、47を介してマスタシリンダ9からホイルシリンダ11a〜dへ油圧を供給することができるが、一度加圧されたホイルシリンダ圧は抜くことができない。そこで、図8に示すように、目標マスタシリンダ圧と実マスタシリンダ圧(保持弁下流液圧)の偏差が所定範囲を超える状態を所定時間継続した場合、異常と判定する。この異常の検出後は、マスタシリンダ圧制御を停止し、従来のメカニカルな製品と同等のモータ位置制御をする。なお、異常の判定は、上記に限定されるものではなく、保持弁下流液圧の変化量をウォッチして故障を検出する等の他の手段としてもよい。
【0057】
図9は、実施例1において、チェック弁の閉故障を診断する際の関連するデータの変化を示す。チェック弁46、47のいずれかの弁が閉故障した場合、チェック弁を介してマスタシリンダ9からホイルシリンダ11a〜dへ油圧が供給できなくなる。しかし、チェック弁閉故障時に、保持弁44、45を開けばマスタシリンダ9から保持弁44、45を介してホイルシリンダ11a〜dへ油圧を供給することができるので、通常のブレーキの作動には影響がない。しかし、過熱防止制御モードの踏み増し制御では、保持弁44、45を閉じたままモータ20を駆動し、チェック弁46、47を介してホイルシリンダ圧を増加させるため、チェック弁46、47が閉故障になると、図9において破線で示すように、故障側の保持弁下流の液圧が増加しない。そこで、過熱防止制御モードの踏み増し制御中に、保持弁下流液圧の増加量が、所定値以下の場合に異常と判断する。この異常の検出後は、異常が検出された側の過熱防止制御を禁止し、倍力制御モードに切り替える。なお、異常の判定方法は、上記に限定されるものではなく、液圧センサの情報に基づいて検出する他の方法でもよい。以上のとおり、保持弁44、45又はチェック弁46、47の故障した場合、図7〜図9に示した検出方法とその後の処置により、電動倍力装置のフェールセーフが確保される。
【0058】
図10は、実施例1において、電動倍力装置の故障が発生した場合に行なう保持弁による制動力低下抑制制御の際の関連するデータの変化を示す。ブレーキ中に、電動倍力装置1に故障が発生した場合(例、モータ失陥)、マスタシリンダを倍力することができなくなる。そのため、保持弁下流液圧(制動力)は踏力相当の程度にまで低下し、制動距離が伸びてしまう。そこで、図10に示すように、ブレーキ中に保持弁下流液圧の低下を検出して電動倍力装置の故障を判定すると、その直後に保持弁44、45を閉じる。これにより、ブレーキ中の急激な制動力の低下を防ぐことが可能となる。なお、電動倍力装置の故障を検出する方法は、故障部位によって変わる。例えば、モータの断線が発生した場合は、モータ位置制御の偏差が所定値以上になったこと、または電流制御偏差が所定値以上になったことにより検出することができるし、モータ電源が断線した場合は、モータ電源電圧が所定値以下になったことを検出することで故障を検出することができる。
【実施例2】
【0059】
図11は、実施例2に係る電動倍力装置1、ホイルシリンダ圧制御装置5、ホイルシリンダ圧制御機構6およびホイルシリンダ11a〜dを含むブレーキ装置のシステム全体を示す説明図である。実施例2では、実施例1の液圧保持機構2がホイルシリンダ圧制御機構6に置き換わり、ホイルシリンダ圧制御装置5が追加された構成において、実施例1と異なるものである。電動倍力装置1については、実施例1と同じであるので、その説明を省略する。
【0060】
次に、ホイルシリンダ圧制御機構6の構成と動作について、図11を参照して説明する。ホイルシリンダ圧制御機構6は、マスタシリンダ9で加圧された作動液の各ホイルシリンダ11a〜dへの供給を制御するゲートアウト弁50a、50bと、マスタシリンダ9で加圧された作動液のポンプ54a、54bへの供給を制御するゲートイン弁51a、51bと、マスタシリンダ9またはポンプ54a、54bから各ホイルシリンダ11a〜dへの作動液の供給を制御する流入弁52a〜dと、ホイルシリンダ11a〜dを減圧制御する流出弁53a〜dと、マスタシリンダ9で生成された作動圧を昇圧するポンプ54a、54bと、ポンプ54a、54bを駆動するポンプモータ55と、マスタシリンダ圧を検出する液圧センサ48、49とを備えてなる。
【0061】
なお、ホイルシリンダ圧制御機構6としては、アンチロックブレーキ制御用の液圧制御ユニット、車両挙動安定化制御用の液圧制御ユニット等が適当である。また、ホイルシリンダ圧制御機構6は、第1液室42から作動液の供給を受け、FL輪とRR輪のブレーキ力を制御する第1のブレーキ系統と、第2液室43から作動液の供給を受け、FR輪とRL輪のブレーキ力を制御する第2のブレーキ系統の二系統から構成されている。このような構成の採用により、一方のブレーキ系統が失陥した場合にも、他方の正常なブレーキ系統により、対角2輪分のブレーキ力が確保されるので、車両の挙動を安定に保つことができる。
【0062】
図11において、ゲートアウト弁50a、50bは、マスタシリンダ9と流入弁52a〜dとの間に備えられており、マスタシリンダ9で加圧された作動液をホイルシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。ゲートイン弁51a、51bは、マスタシリンダ9とポンプ54a、54bとの間に備えられており、マスタシリンダ9の作動液をポンプ54a、54bにより昇圧してホイルシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。
【0063】
流入弁52a〜dは、ホイルシリンダ11a〜dの上流に備えられており、マスタシリンダ9またはポンプ54a、54bで加圧された作動液をホイルシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。流出弁53a〜dは、ホイルシリンダ11a〜dの下流に備えられており、ホイルシリンダ圧を減圧する際に開弁される。
【0064】
なお、ゲートアウト弁50a、50bと、ゲートイン弁51a、51bと、流入弁52a〜dと、流出弁53a〜dは、ソレノイドへの通電によって弁の開閉が行われる電磁式のものであり、ホイルシリンダ圧制御装置5が行う電流制御によって、各弁の開閉量が個々に調節される。また、ゲートアウト弁50a、50bと、ゲートイン弁51a、51bと、流入弁52a〜dと、流出弁53a〜dは、常開弁、常閉弁のいずれであっても構わないが、実施例2では、ゲートアウト弁50a、50bと流入弁52a〜dが常開弁、ゲートイン弁51a、51bと流出弁53a〜dが常閉弁である。このような構成を採ることにより、それぞれの弁への電力供給が停止した場合にも、ゲートイン弁と流出弁が閉じ、ゲートアウト弁と流入弁が開いて、マスタシリンダ9で加圧された作動液がすべてのホイルシリンダ11a〜dに到達するため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0065】
ポンプ54a、54bは、例えば、車両挙動安定化制御、自動ブレーキ等を行うために、マスタシリンダ9の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタシリンダ圧を昇圧させてホイルシリンダ11a〜dに供給する。なお、ポンプ54a、54bとしては、プランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等が適当であるが、静粛性の点においては、ギヤポンプが望ましい。また、ポンプモータ55は、ホイルシリンダ圧制御装置5の制御指令に基づいて供給される電力によって動作されて、ポンプモータに連結されたポンプ54a、54bを駆動する。なお、ポンプモータ55としては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等が適当であるが、制御性、静粛性、耐久性の点においては、DCブラシレスモータが望ましい。
【0066】
液圧センサ48は第1のブレーキ配管101の下流に、液圧センサ49は第2のブレーキ配管102の下流に備えられており、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサである。なお、液圧センサ48、49の個数と設置位置については、制御性、フェールセーフ等を考慮して、図11に示す設置位置と個数に限定されるものではない。
【0067】
図12は実施例2のシステム構成を示す。実施例2では、マスタシリンダ圧制御装置3のマイクロコンピュータ37が指令を与える駆動回路に保持弁が接続されていないこと、マイクロコンピュータ37に対して車輪速センサからの入力がないことを除いて、図2に示した実施例1のシステム構成と同じであるので、説明を省略する。
【0068】
ホイルシリンダ圧制御装置5のマイクロコンピュータ75は、上記したマスタシリンダ圧制御装置3のマイクロコンピュータ37と同様の構成を有する。ホイルシリンダ圧制御装置5のマイクロコンピュータ75と上記のマイクロコンピュータ37との間ではCAN等の双方向通信が行なわれ、制御指令、車両状態量、故障情報、作動状態等を共有している。マイクロコンピュータ75には、各車輪に設置された車輪速センサ36a〜dから各車輪の速度を示す信号と、ヨーレートセンサ71により検出された車両のヨーレートの情報と、ハンドルに設置された舵角センサ72により検出された操舵角を示す信号と、前後加速度センサ73により検出された車両の前後方向加速度を示す信号と、横加速度センサ74により検出された車両の横方向の加速度を示す信号が入力される。
【0069】
図12に示していないが、マイクロコンピュータ75には、上記の各種のセンサにより検出された各輪の車輪速、ヨーレート、ハンドルの操舵角、前後加速度、横加速度の情報に基づき、車両のスピン、ドリフトアウト、車輪のロックを検出し、それらを抑制するように対象となる車輪の目標制動力を演算する車両運動制御部が記憶されている。さらに、演算された目標制動力に基づき、マイクロコンピュータ75は、モータ55とゲートアウト弁50a〜b、ゲートイン弁51a〜b、流入弁52a〜d、流出弁53a〜dを制御し、各輪に制動力を発生させ車両を安定化させるアクチュエータ制御部が記憶されている。なお、図11のマスタシリンダ圧制御装置3とホイルシリンダ圧制御装置5は、図12のシステム構成図において別々のユニットとして構成されているが、制御性や搭載性等の観点から一つのユニットとして構成してもよい。
【0070】
実施例2は、実施例1における保持弁44、45に替えて、ホイルシリンダ圧制御装置内のゲートアウト弁50a、50bを用いることにより、実施例1において説明したモータ過熱防止制御を適用可能としている。それゆえ、実施例2における制御ブロック図、制御モード選択部、過熱防止制御目標値演算部とその制御フローと適用結果は、図3〜6についての説明と基本的に同じであるので、ここでは省略する。
【0071】
以上により、図11に示した実施例2の電動倍力装置により、ブレーキをかけ続ける場合においても、ホイルシリンダ液圧を低下させることなく、モータやインバータの過熱を抑制することができる。
【0072】
また、実施例2は、図7〜9に示した保持弁44、45の故障検出方法およびその後の処置を、ゲートアウト弁50a、50bの故障時にも適用することができるので、電動倍力装置のフェールセーフが確保される。さらに、実施例2は、保持弁44、45の役割をゲートアウト弁50a、50bにより代替することで、実施例1について説明した図10のブレーキ装置故障時の制動力低下抑制制御も適用することができる。
【実施例3】
【0073】
図13は、実施例3に係る電動倍力装置1、モータラッチ機構71、およびホイルシリンダ11a〜dを含むブレーキ装置のシステム全体を示す説明図である。実施例3では、実施例1における液圧保持機構2とその機能が、モータラッチ機構71に代替されたものであり、その他では同じ構成であるので、電動倍力装置1の説明は省略する。
【0074】
図14は、実施例3に係るモータラッチ機構71の一例を示す。モータラッチ機構71は、モータの回転トルクを伝えるロータ20Aに固定された爪車72と、この爪車に係合する係合爪73を有する揺動アーム74と、ソレノイド75により摺動されるプランジャに支持されたロッド76とを備えて、このロッド76が揺動アーム74に連結される構成とされている。
【0075】
爪車72には、マスタシリンダ圧の減圧時におけるロータの回転方向(図14におけるL方向)の前側に垂直な歯面が形成され、反対に、マスタシリンダ圧の増圧時におけるロータの回転方向(図14におけるR方向)の前側に傾斜面が形成された歯形となっている。係合爪73は、図14に示すように、ばね77により反時計方向に付勢され、ピン78により揺動範囲が規制されている。また、揺動アーム74は、ストッパ79により揺動範囲が規制されている。
【0076】
モータラッチ機構71は、マスタシリンダ圧が増圧された状態でその圧力を保持する機構であり、ソレノイド75を駆動してモータ20のロータ20Aに固定された爪車72に、揺動アーム74に支持された係合爪73を押し当てると爪車72の回転角は保持されるので、モータ20の電流を遮断しても、発生している制動力は保持されたままとなる。すなわち、モータラッチ機構により、外部からのエネルギー供給なしにマスタシリンダ圧を保持することができる。また、マスタシリンダ圧が保持されている状態で、ソレノイド75を解除して爪車72から係合爪73を離すことによって、保持されたマスタシリンダ圧は減圧され、制動力が解除される。
【0077】
実施例3は、実施例1における保持弁44、45の役割を、モータラッチ機構により代替させたことにより、図3〜5に示したモータ過熱防止制御を適用可能である。なお、実施例3の制御ブロック図、制御モード選択部、過熱防止制御目標値演算部およびその制御結果については、実施例1と基本的に同じであるので、その説明を省略する。
【0078】
以上のとおり、実施例3の電動倍力装置において、ブレーキをかけ続ける場合においても、ホイルシリンダ液圧を低下させることなく、モータやインバータの過熱を抑制することができる。
【0079】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、実施例1から3に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施例の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1に係るブレーキ装置のシステム全体を示す説明図。
【図2】実施例1に係るブレーキ装置のシステムのブロック図。
【図3】ブレーキ装置のマイクロコンピュータ37に記憶されている制御系の伝達要素と信号の流れを示すブロック図。
【図4】実施例1に係るモード選択部63の作動のフローチャート。
【図5】実施例1に係る過熱防止制御目標値演算部64の作動のフローチャート。
【図6】実施例1において倍力制御から過熱防止制御を適用する際の関連のデータの変化を示す図。
【図7】実施例1において保持弁またはチェック弁の開故障を診断する際の関連するデータの変化を示す図。
【図8】実施例1において保持弁の閉故障を診断する際の関連するデータの変化を示す図。
【図9】実施例1においてチェック弁の閉故障を診断する際の関連するデータの変化を示す図。
【図10】実施例1において、電動倍力装置の故障が発生した場合に行なう保持弁による制動力低下抑制制御の際の関連するデータの変化を示す図。
【図11】実施例2のブレーキ装置のシステム全体を示す説明図。
【図12】実施例2のブレーキ装置のシステムのブロック図。
【図13】実施例3のブレーキ装置のシステム全体を示す説明図。
【図14】実施例3に係るモータラッチ機構の一例を示す図。
【符号の説明】
【0081】
1…電動倍力装置、2…液圧保持機構、3…マスタシリンダ圧制御装置、
4…マスタシリンダ圧制御機構、5…ホイルシリンダ圧制御装置、
6…ホイルシリンダ圧制御機構、7…インプットロッド
8…ストロークセンサ、9…マスタシリンダ、10…リザーバ、
11a〜d…ホイルシリンダ、12…ハイブリッドシステム制御装置、13…信号線、
20…モータ、20A…ロータ、21…減速装置、22…駆動側プーリ、
23…従動側プーリ、24…ベルト、25…回転−直動変換装置、
26…ボールネジナット、27…ボールネジ軸、28…可動部材、29…戻しバネ、
30…レゾルバ、31…(モータ駆動)電流センサ、
32、33…(保持弁ソレノイド駆動)電流センサ、34…モータ温度センサ、
35…インバータ温度センサ、36a〜d…車輪速センサ、37…マイクロコンピュータ、
38…駆動回路、40…第1ピストン、41…第2ピストン、
42…第1液室、43…第2液室、44、45…保持弁、
46、47…チェック弁、48、49…液圧センサ、
50a〜b…ゲートアウト弁、51a〜b…ゲートイン弁、
52a〜d…流入弁、53a〜d…流出弁、54a、54b…ポンプ、55…ポンプモータ、
60…目標減速度演算部、61…目標液圧演算部、62…マスタシリンダ液圧制御部、
63…制御モード選択部、64…過熱防止制御目標値演算部、65…モータ位置制御部、66…保持弁制御部、71…モータラッチ機構、72…爪車、73…係合爪、74…揺動アーム、75…ソレノイド、76…ロッド、77…ばね、78…ピン、79…ストッパ、100…ブレーキペダル、101…第1系統の油圧配管、
102…第2系統の油圧配管、110a〜d…ディスクロータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動倍力機構を備えたブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの電動化等への対応として、エンジン負圧を利用しない電動倍力装置が開発されている。例えば、特許文献1は、マスタシリンダ内に液圧を発生させるピストンを分割し、一方を電動モータで駆動し他方をブレーキペダルに直結する構造を有し、運転者のブレーキペダル操作をセンサで検出し、それに応じて電動モータを駆動しマスタシリンダを倍力している。
【特許文献1】特開2006−281992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に示す技術では、ブレーキをかけ続ける間、モータを連続作動させる必要がある。そのため、強い制動力をかけ続ける場合、モータやインバータが過熱してしまう問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の問題を課題として、本発明のブレーキ制御装置は、車輪に制動力を発生させるホイルシリンダと、前記ホイルシリンダと油圧回路を介して接続されるものであって、ドライバのブレーキ操作により作動して前記ホイルシリンダ内に液圧をかけるマスタシリンダと、前記ドライバのブレーキ操作量に応じて前記マスタシリンダの作動を補助する電動モータを備えた電動倍力機構と、インバータ回路を制御することにより前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持する保持機構を備えて、ブレーキをかけ続けてホイルシリンダ内の昇圧状態が続く場合、上記保持機構を駆動し、前記ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持して、前記電動モータへの通電量を低減することを特徴とするものである。
【0005】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記特徴に加えて、前記保持機構は、前記油圧回路上に設けられ、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダ間の連通をオンオフ制御する保持弁であって、前記保持機構を駆動するとは、前記保持弁を閉作動することを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持弁はソレノイドに通電しない時に流路を開くソレノイドバルブであることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持弁と前記ホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記保持弁と並列に、前記マスタシリンダからの液圧は連通させる弁であって、前記ホイルシリンダからの液圧は遮断するチェック弁を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持弁とホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記液圧センサの出力に基づいて、前記保持弁の閉故障を検知することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持弁とホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記液圧センサの出力に基づいて、前記保持弁の開故障を検知することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、ドライバのブレーキ操作中に前記電動倍力機構が前記マスタシリンダを昇圧できない異常が発生した際には、前記保持弁を閉じて前記ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持するようにロックして制動力低下を抑制することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、前記保持弁をオンオフ制御する駆動回路とは、共通の制御ユニットに属していることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記制御ユニットは、制御モード選択部を備えて、前記制御モード選択部は、目標マスタシリンダ液圧又はモータ温度又はインバータ温度が所定値より大きい場合、前記保持弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を倍力作動時より低減する制御を設定することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記電動倍力機構はブレーキペダルの操作により進退する第一の入力部材と、モータにより進退する第二の入力部材と、第一と第二の入力部材によって加圧されるマスタシリンダと、ブレーキの操作量に応じてモータを駆動しブレーキ踏力を倍力することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持機構は、前記油圧回路上に設けられるものであって、ポンプと、マスタシリンダからゲートアウト弁と流入弁を介してホイルシリンダに接続する第1ブレーキ回路と、前記ポンプの吐出側から、前記第1ブレーキ回路における前記ゲートアウト弁の下流側であって前記流入弁の上流側に接続する第2ブレーキ回路と、前記第1ブレーキ回路における前記流入弁の下流側から流出弁を介してリザーバに接続する第3ブレーキ回路と、を備えて、前記保持機構を駆動するとは、前記ゲートアウト弁を閉作動することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記ゲートアウト弁は、ソレノイドに通電しない時に流路を開くソレノイドバルブであることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、前記ゲートアウト弁をオンオフ制御する駆動回路とは、共通の制御ユニットに属していることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記制御ユニットは、制御モード選択部を備えて、前記制御モード選択部は、目標マスタシリンダ液圧又はモータ温度又はインバータ温度が所定値より大きい場合、前記ゲートアウト弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を倍力作動時より低減する制御を設定することを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記電動倍力機構はブレーキペダルの操作により進退する第一の入力部材と、モータにより進退する第二の入力部材と、第一と第二の入力部材によって加圧されるマスタシリンダと、ブレーキの操作量に応じてモータを駆動しブレーキ踏力を倍力することを特徴とするものである。
【0019】
さらに、本発明のブレーキ制御装置は、上記の特徴に加えて、前記保持機構とは、前記電動モータの回転軸をロックするモータラッチ機構であって、前記保持機構を駆動するとは、前記モータラッチ機構を作動させて前記回転軸をロックすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明を適用することにより、電動倍力機構を備えたブレーキ装置において、長時間の強いブレーキをかけ続けても、制動力を低下させることなく、モータやインバータの過熱を抑えることができる。
【0021】
また、保持弁やチェック弁の作動に異常が発生した場合や電動倍力装置にモータの断線等の故障が発生した場合に、フェールセーフを確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、一実施形態である電動倍力装置と液圧保持機構について、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1に係る電動倍力装置1、液圧保持機構2およびホイルシリンダ11a〜dを含むブレーキ装置のシステム全体を示す説明図である。ここで、FL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪である。図1に示すように、電動倍力装置1は、第1の加減圧手段としてのブレーキペダル100で操作されるインプットロッド7と、第2の加減圧手段としてのマスタシリンダ圧制御装置3とマスタシリンダ圧制御機構4と、ストロークセンサ8と、マスタシリンダ9と、液圧センサ48、49と、リザーバタンク10とを備えている。ここで、第2の加減圧手段には、マスタシリンダ9を構成する第1ピストン40が含まれる。電動倍力装置で倍力されたマスタシリンダ圧は、液圧保持機構2とブレーキ配管101、102を介して、各ホイルシリンダ11a〜11dに供給され、車輪に制動力を発生させる。
【0024】
マスタシリンダ圧制御装置3は、演算処理回路であり、ストロークセンサ8の信号、ハイブリッドシステム制御装置12からの制御指令等に基づいて、マスタシリンダ圧制御機構4を構成するモータ20の制御を行う演算処理回路を含む。マスタシリンダ圧制御機構4は、マスタシリンダ圧制御装置3の制御指令に基づいて、第1ピストン40を押圧するものであり、回転トルクを発生するモータ20と、モータ20の回転トルクを増幅する減速装置21と、回転動力を直線動力に変換する回転−直動変換装置25とを備えてなる。マスタシリンダ圧制御装置3は、ハイブリッドシステム制御装置12や他のシステムの制御装置と信号線13で双方向の通信を行っており、制御指令、車両状態量、故障情報、また、車両に搭載された電子制御装置ECU(図示しない。)の作動状態等が入力される。信号線13は、CANなどの車内ネットワークまたはシリアル通信を用いて構成されるものであり、これらに特に限定されるものではない。
【0025】
インプットロッド7は、ブレーキペダル100に連結され、その片端が第1液室42に挿入されている。このような構成を採ることにより、運転者のブレーキ操作によってもマスタシリンダ圧を上昇させることができるため、万一、モータ20が停止する事故が発生した場合にも、所定のブレーキ力が確保される。また、マスタシリンダ圧に応じた力は、インプットロッド7を介してブレーキペダル100に作用し、ブレーキペダル反力として運転者に伝達される。そのため、バネ等のブレーキペダル反力を生成する装置が不要となるので、電動倍力装置1は小型・軽量化されて、車両への搭載性が向上する。
【0026】
ストロークセンサ8は、運転者のブレーキ意図を検出するセンサであり、インプットロッド7の変位量を検出するストロークセンサである。ストロークセンサ8としては、ストロークセンサを複数個組み合わせた構成のものが望ましい。これにより、一つのセンサからの信号が途絶える事故が発生した場合にも、残りのセンサによって運転者のブレーキ要求が検出されるので、フェールセーフが確保される。また、ストロークセンサ8としては、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサや、ストロークセンサと踏力センサを組み合わせた構成のものでもよい。
【0027】
マスタシリンダ9は、第1ピストン40によって加圧される第1液室42と、第2ピストン41によって加圧される第2液室43の二つの加圧室を有するタンデム式のものであり、第1ピストン40の推進によって各加圧室で加圧された作動液が、ブレーキ配管101、102と保持弁44、45を介してホイルシリンダ11a〜dに供給される。液圧センサ48、49は、液圧保持機構2とホイルシリンダ11a〜d間の油路に設置されており、マスタシリンダで発生した油圧を検出するセンサである。なお、この油圧を、以下、「マスタシリンダ圧」といい、特に保持弁2の下流側の圧力をいう場合には、「保持弁下流液圧」という。
【0028】
マスタシリンダ圧制御装置3は、液圧センサ48、49が検出したセンサ値を用いてフィードバック制御することにより、マスタシリンダ圧を制御する。また、液圧センサ48、49は、液圧保持機構2の故障検出のためにも利用される。リザーバタンク10は、図示しない隔壁によって仕切られた少なくとも二つの液室を有し、それぞれの液室はマスタシリンダ9の各加圧室と連通可能に接続されている。リザーバタンク10にはブレーキ液が補充され、必要に応じてマスタシリンダの各液室にブレーキ液を供給する。
【0029】
液圧保持機構2は、マスタシリンダから出力される油圧を保持する保持弁44、45を有する。保持弁44、45は、図示しないソレノイドに通電しない時に保持弁を開き、マスタシリンダ9とホイルシリンダ11a〜dが連通する。また、ソレノイドに通電し保持弁を閉じると、マスタシリンダによって加圧されたホイルシリンダ圧を保持することができる。保持弁44、45は、保持弁44、45と並列に置かれたチェック弁46、47を有し、マスタシリンダ側から作動液をホイルシリンダ側へ供給するが、その逆方向には連通しないように構成されているので、保持弁44、45の閉弁時に、保持機能を発揮しつつ、マスタシリンダ側の液量をホイルシリンダ側へ供給することができる。なお、保持弁を動作させるソレノイドへの通電を制御するための駆動回路は、上記モータ20を制御する駆動回路と、一つの制御ユニットにまとめてもよいし、別体としてもよい。
【0030】
ホイルシリンダ11a〜dは、図示しないシリンダ、ピストン、パッド等から構成されており、マスタシリンダ9から供給された作動液によってピストンが推進され、ピストンに連結されたパッドがディスクロータ110a〜dに押圧されるものである。ディスクロータ110a〜dは、図示しない車輪とともに回転し、そのため、ディスクロータ110a〜dに作用したブレーキトルクは、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0031】
次に、マスタシリンダ圧制御機構4の構成と動作について説明する。前記したとおり、マスタシリンダ圧制御機構4は、モータ20と、減速装置21と、回転−直動変換装置25とを備え。モータ20は、マスタシリンダ圧制御装置3の制御指令に基づいて供給される電力によって動作し、所望の回転トルクを発生する。モータ20としては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等が適当であるが、制御性、静粛性、耐久性の点においては、DCブラシレスモータが望ましい。また、モータ20には、図示しない位置センサが備わっており、この信号がマスタシリンダ圧制御装置3に入力される。これにより、マスタシリンダ圧制御装置3は、位置センサの信号に基づいてモータ20の回転角を算出し、その結果に基づいてDCブラシレスモータを制御することができる。また、上記した位置センサの信号により、回転−直動変換装置25の推進量、すなわち第1ピストン40の変位量を算出することができる。
【0032】
減速装置21は、モータ20の回転トルクをその減速比分だけ増幅させるものである。減速の方式としては、歯車減速、プーリ減速等が適当であるが、図1に示す実施例1では、駆動側プーリ22と、従動側プーリ23と、ベルト24とを備えてなるプーリを用いた減速方式を採用している。また、モータ20の回転トルクが十分に大きく、減速装置によるトルクの増幅が必要でない場合には、減速装置21を備えずにモータ20と回転−直動変換装置25とを直結することができる。これにより、減速装置21の介在に起因して発生する、信頼性、静粛性、搭載性等に係る諸問題を回避することができる。
【0033】
回転−直動変換装置25は、モータ20の回転動力を直動動力に変換して第1ピストン40を押圧する。この変換の機構としては、ラックピニオン、ボールネジ等が適当であるが、実施例1では、ボールネジを用いた方式を採っている。図1に示すように、ボールネジナット26の外側には従動側プーリ23が嵌合されており、その回転によるボールネジナット26の回転によりボールネジ軸27が直動運動し、この推力によって可動部材28を介して第1ピストン40が押圧される。可動部材28には、固定部との間に設けられた戻しバネ29が接続されるので、ボールネジ軸27の推力と逆方向の力が可動部材28を介してボールネジ軸27に作用する。これにより、ブレーキ操作中、すなわち第1ピストン40が押圧されマスタシリンダ圧が発生している状態において、モータ20が停止しボールネジ軸27の戻し制御が不能となった場合にも、戻しバネ29の反力によってボールネジ軸27が初期位置に戻されてマスタシリンダ圧が概ね零付近まで低下するので、ブレーキ力の引きずりに起因して車両挙動が不安定になることが回避される。
【0034】
図2は、マスタシリンダ圧制御装置3のマイクロコンピュータ37、ストロークセンサ8、液圧センサ48、49等の各種センサ、およびモータ20、保持弁44、45とこれらの駆動回路38を含む実施例1のシステムのブロック図である。マイクロコンピュータ37は、図2には明示していないが、例えば、CPU、ROM、RAMと入出力装置を有する。マイクロコンピュータ37には、図2に示すように、ブレーキペダル100のストローク量を検出するストロークセンサ8、第1系統のブレーキ配管に接続されている液圧センサ48、第2系統のブレーキ配管に接続されている液圧センサ49、モータの回転角度を検出するレゾルバ30、モータの駆動電流値を検出する電流センサ31、ソレノイドの駆動電流を検出する電流センサ32、33、モータ温度センサ34、インバータ温度センサ35、車輪速センサ36a〜dからの信号が入力されている。マイクロコンピュータ37は、図示しないROMに、図3、4、5に示す制御ソフトを記憶し、ここに示された制御系により、各種センサ情報に応じて駆動回路38に指令を出して、モータと保持弁44、45を駆動する。上記のようにして、マスタシリンダ液圧を制御し、各輪に制動力を発生させるのであるが、詳細は後記する。
【0035】
図3は、マイクロコンピュータ37に記憶されている制御系の伝達要素と信号の流れを示すブロック図である。まず、ストロークセンサ8で検出したペダルストローク量に基づき、目標減速度演算部60において目標減速度を演算する。次に、目標液圧演算部61において、前記目標減速度に基づいて目標マスタシリンダ液圧を演算する。マスタシリンダ液圧制御部62では、目標マスタシリンダ液圧と実マスタシリンダ液圧の偏差に基づき、マスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置を算出する。
【0036】
制御モード選択部63は、目標マスタシリンダ液圧に基づいて、制御モードを倍力制御モードまたは過熱防止制御モードに決定する。スイッチは、倍力制御モードの時にマスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置を選択し、過熱防止制御モードの時には後述する過熱防止制御に基づく目標モータ位置を選択する。なお、制御モード選択部63の作動の詳細は、図4において後述する。
【0037】
制御モード選択部63は、モータやインバータが連続作動して過熱する場合を除いて、倍力制御モードを選択する。倍力制御モード中は、モータ位置制御部65が、マスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置とレゾルバで検出した実モータ位置の偏差に基づいてモータを駆動し、マスタシリンダに倍力を発生させる。これにより、運転者のブレーキペダル操作に応じた倍力制御が実現される。
【0038】
一方、モータやインバータが連続作動して過熱する場合には、制御モード選択部が過熱防止制御モードを選択する。過熱防止制御目標値演算部64は、制御モード選択部で決定された制御フラグと目標マスタシリンダ液圧に基づいて、過熱防止制御に基づく目標モータ位置と保持弁開閉指令をそれぞれ演算する。次に、モータ位置制御部65は、過熱防止制御に基づく目標モータ位置とレゾルバで検出した実モータ位置の偏差に基づいてモータを駆動し、マスタシリンダに倍力を発生させる。また、保持弁制御部66は、保持弁開閉指令に従い、保持弁制御部が保持弁の開閉制御をする。なお、過熱防止制御目標値演算部64の作動の詳細は、図5において後述する。
【0039】
図4は、制御モード選択部63の作動のフローチャートを示す。まず、ステップS10において、過熱防止制御モードか否かを判断し、Yesの場合はS50へ、Noの場合にはS20へと進む。S20では、強いブレーキをかけ続けている否か、すなわち、モータやインバータが連続作動して過熱するか否かの判定をする。Noの場合は、S30において、制御モードを倍力制御モードに設定する。Yesの場合には、S40において、モータの連続駆動によるモータやインバータの過熱を抑えるために、過熱防止制御モードを選択する。S20の判定は、モータ駆動中に目標マスタシリンダ圧が所定値以上を所定時間継続しているか否かで判断する。その他、モータ温度センサ34やインバータ温度センサ35が高温に達した場合や、ストロークセンサ8が所定値以上を所定時間継続した場合に、過熱防止制御モードを選択するようにしてもよい。また、過熱防止制御の判断条件に、車両の速度を入れてもよく、連続してブレーキをかけ続けるシーンが多い停車中(車速=0)の時だけ、過熱防止制御を作動するようにしてもよい。
【0040】
S10でYesの場合、すなわち、すでに過熱防止制御モードだった場合は、S50に進み、目標マスタシリンダ圧の変化量またはストロークの変化量を検出し、その変化量が増加(踏み増し方向に変化)した場合に、ブレーキの踏み増しがあると判定をする。踏み増しをしたと判定した場合には、S80において、過熱防止制御モードを継続しつつ、踏み増し制御フラグを立てる。
【0041】
S50で踏み増しをしていないと判定した場合には、S60に進む。S60では、目標マスタシリンダ圧の変化量またはストロークの変化量を検出し、その変化量が減少(ブレーキを緩める方に変化)したか否かで、ブレーキを緩めたかどうかの判定をする。S60において、Yesの場合は、S70において、過熱防止制御解除フラグを立てる。他方、S60においてNoの場合には、S40において過熱防止制御モードを選択する。なお、S50、S60における判定は、上記の目標マスタシリンダ圧の変化量またはストロークの変化量以外にも、モータ温度センサ34やインバータ温度センサ35、車輪速センサ36a〜dに基づいて判断してもよい。
【0042】
図5は、過熱防止制御目標値演算部64の作動のフローチャートを示す。S90において、踏み増し制御フラグが立っているか否かを判定し、Noの場合はS100へと進む。S100においては、過熱防止制御解除フラグが立っているか否かを判断し、Noの場合はS110とS120の過熱防止制御に進む。S110においては、保持弁44、45に閉指令を出力し、その後のS120において、モータ位置指令を下げる、すなわちモータを初期位置に近づける。こうして、マスタシリンダで加圧されたホイルシリンダ圧を低下させることなく、モータの駆動電流を抑制することができるので、モータやインバータの過熱を防止することができる。ただし、モータの駆動電流を抑制する方法は、S120に限定されるわけではなく、例えば、モータ駆動電流指令を絞るようにしてもよい。他には、保持弁上流に圧力センサを設置し保持弁を閉じた状態でマスタシリンダの液圧制御ができるようにした上で、過熱防止制御時にマスタシリンダ圧の指令値を下げることでモータの駆動電流を抑制するようにしてもよい。
【0043】
S90においては、踏み増し制御フラグが立っていると判定した場合、すなわちYesの判定の場合は、S160で踏み増し制御を行う。踏み増し制御では、保持弁44、45を閉じたまま、踏み増しで増加した目標マスタシリンダ圧に基づいて、目標モータ位置を算出する。保持弁44、45を閉じたままモータを駆動するため、マスタシリンダで倍力された油圧は、チェック弁46、47を介し、ホイルシリンダ側に供給される。なお、保持弁を開けて踏み増し制御をしてもよい。液圧保持中は、モータの発熱を抑えるためにモータの駆動電流を下げているため、マスタシリンダ側の圧力は保持弁44、45の下流の圧力に比べて低圧になっている。そこで、突然保持弁を開くと保持されていた高圧ホイルシリンダ圧が、マスタシリンダ側へ逆流し大きなキックバックを発生する可能性がある。そのため、保持弁を開けて踏み増し制御をする場合は、モータを駆動してマスタシリンダ圧を増加してから、保持弁を開けるようにすることが望ましい。そのように保持弁を開くことにより、ペダルへのキックバックを抑制することができる。
【0044】
次に、S170において、強いブレーキをかけ続けているかどうか、すなわちモータやインバータが連続作動し過熱してしまうかどうかの判定をする。Yesの場合は、S180において踏み増し制御フラグを解除する。その結果、次のサイクルにおいて、S90とS100がNoの判定となり、S110とS120において、過熱防止制御を行う。これに対し、S170においてNoの判定の場合には、踏み増し制御フラグを解除することなく、S160における踏み増し制御を継続する。S170の判断については、S20の判断と同じ内容なので、ここでは説明を省略する。
【0045】
S90における踏み増し制御フラグが立っているか否かの判定において、Noの判定の場合はS100に進む。S100においては、過熱防止制御解除フラグが立っているか否かの判定をし、Yesの判定の場合、S130、S140、S150の処理を順次して、過熱防止制御を解除する。ここでは、保持弁を開く際の上記したキックバックを避けるために、S130では、保持されている保持弁下流の高圧の液圧値を検出し、それに保持弁上流が対抗できるように目標モータ位置を設定し、S140では、モータ位置制御の終了後、保持弁44、45に開指令を出して保持弁を開く。そして、S150において、制御モードを倍力制御モードに設定し、マスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置に対して制御をする。こうして、保持弁を開いた時に大きなキックバックが発生しないようにして過熱防止制御を解除する。ペダルに与える上記のキックバックを抑える方法には、キックバックが少なくなるように、保持弁44、45を少しずつ開くなどの方法もあり、本実施例のS130〜150の上記方法に限定されるものではない。
【0046】
図6は、実施例1において、倍力制御から過熱防止制御を適用する際の関連のデータの変化を示す。車両が一定速で走行中に運転者がt1でブレーキペダルの操作を開始し、車両停止(車速0)後もブレーキを踏み続け、t3でブレーキを更に踏み増し、t5でブレーキペダルを離すシーンにおける各部の変化が示されている。
【0047】
t1〜t2秒の処理について説明する。まず、図3に示す制御系において、ペダルのストローク量から目標マスタシリンダ液圧を算出し、制御モード選択部は、図4に示すS20において、この目標マスタシリンダ液圧から強いブレーキをかけ続けていないと判断し、倍力制御モードを設定する。図3に示す制御系では、倍力制御モードに従い、マスタシリンダ液圧制御部62で算出された、マスタシリンダ液圧制御に基づく目標モータ位置を指令値として、モータ位置制御部65がモータの電流指令値を出力してモータを制御する。こうして、図6に示すとおり、ドライバのペダル操作(ストロークセンサの検出値)に応じた保持弁下流液圧(制動力)を発生させることができる。
【0048】
t2秒において、制御モード選択部63は、図4に示すS20において、強いブレーキをかけ続けているか否か、すなわちモータやインバータが過熱するか否かを判定し、Yesの場合には、S40に進んで、過熱防止制御モードを設定する。それに伴い、過熱防止制御目標値演算部では、図5に示すS90とS100において共にNoの判断となり、S110とS120の過熱防止制御が開始される。過熱防止制御目標値演算部は、S110において、保持弁44、45に閉指令を出力してホイルシリンダ圧を保持した上で、S120において、目標モータ位置を下げてモータの駆動電流を抑制する。これらの目標値と指令に従って、図3に示したモータ位置制御部65と保持弁制御部66は、それぞれモータと保持弁を制御する。こうして、t2〜t3秒では、保持弁下流液圧を保持、すなわち制動力を保持しつつ、モータの駆動電流を抑えることができる。
【0049】
t3秒において、運転者がブレーキペダルを踏み増す。制御モード選択部は、図4に示すS10においてYesの判断をし、S50に進む。S50では、目標ホイルシリンダ圧の変化量より運転者の踏み増しを検出すると、Yesの判定をしてS80に進み、踏み増し制御フラグを立てる。このフラグによって、過熱防止制御目標値演算部においては、図5に示すS90でYesの判定となり、S160に進んで、踏み増し制御が行われる。S160では、保持弁44、45に閉指令を出力したまま、踏み増しで増加した目標マスタシリンダ液圧に基づいて目標モータ位置を算出する。算出した目標値と指令に従って、図3に示したモータ位置制御部65と保持弁制御部66は、モータと保持弁をそれぞれ制御する。その結果、液圧がチェック弁46、47を介して保持弁44、45の下流に供給され、図6に示すように、運転者の踏み増し意図のとおりに保持弁下流液圧(制動力)を発生させることができる。
【0050】
t4秒において、過熱防止制御目標値演算部が、図5に示すS170において、強いブレーキをかけ続けているか否かでYesの判断をし、S180に進んで、踏み増し制御フラグを解除する。それに伴い、次のサイクルで、S90とS100において共にNoの判定となり、再びS110とS120の過熱防止制御が行われる。こうして、t4〜t5では、ホイルシリンダ液圧を維持しつつ、モータの駆動電流を抑制することができる。
【0051】
t5秒では、運転者がブレーキを踏むのを止める。制御モード選択部では、図4に示すS60において、目標マスタシリンダ圧の変化量よりブレーキを解除したことを検出し、S70に進んで、過熱防止制御解除フラグを立てる。このフラグにより、図5に示すS100の判定がYesとなり、S130〜S150の過熱防止制御解除に進む。S130においては、液圧センサ48、49で検出した保持弁下流の実マスタシリンダ液圧値に基づき目標モータ位置を設定する。モータ位置制御終了後、S140において保持弁44、45に開指令を出力する。S150において、制御モードを倍力制御モードに設定する。こうして、上記目標モータ位置と指令に従って、図3に示したモータ位置制御部65と保持弁制御部66は、モータと保持弁44、45をそれぞれ制御する。S130〜S150の上記の操作により、保持弁下流の液圧によるブレーキペダルへの大きなキックバックを発生させることなく、過熱防止制御を解除することができる。
【0052】
以上説明したとおり、図1に示した実施例1の電動倍力装置において、ブレーキをかけ続ける場合においても、ホイルシリンダ液圧を低下させることなく、モータやインバータの過熱を抑制することができる。
【0053】
しかし、保持弁44、45やチェック弁46、47が故障した場合には、制動力の低下等の問題が起こる。そこで、図1に示すように、保持弁とホイルシリンダの間に液圧センサを設置し、この液圧センサの検出出力に基づいて、保持弁とチェック弁の故障を検出し、処置を施すことにより、ブレーキシステムのフェールセーフを確保する。
【0054】
図7は、実施例1において、保持弁またはチェック弁の開故障を診断する際の関連するデータの変化を示す。図7を用いて、保持弁44、45又はチェック弁46、47のいずれかの弁が開故障した場合の検出方法とその後の処置について、以下、説明する。
【0055】
図5に示したS110とS120の過熱防止制御では、各保持弁を閉じて目標モータ位置を下げることにより、保持弁下流の液圧を保持しつつ、モータの駆動電流を抑えることができる。しかし、保持弁又はチェック弁が開故障した場合は、図7において破線で示すように過熱防止制御モードに入ってからも、保持弁下流の液圧が低下する。そこで、過熱防止制御中に保持弁下流の液圧の減少量が所定値以上を所定時間継続した場合には、保持弁又はチェック弁の開故障と判断する。異常を検出した後は、異常が検出された側の過熱防止制御を禁止して倍力制御モードに切り替える。なお、異常の判定は、上記の基準に限定されるものではなく、液圧センサの情報に基づいて判断する他の方法でもよい。
【0056】
図8は、実施例1において、保持弁の閉故障を診断する際の関連するデータの変化を示す。保持弁44、45が閉故障した場合、チェック弁46、47を介してマスタシリンダ9からホイルシリンダ11a〜dへ油圧を供給することができるが、一度加圧されたホイルシリンダ圧は抜くことができない。そこで、図8に示すように、目標マスタシリンダ圧と実マスタシリンダ圧(保持弁下流液圧)の偏差が所定範囲を超える状態を所定時間継続した場合、異常と判定する。この異常の検出後は、マスタシリンダ圧制御を停止し、従来のメカニカルな製品と同等のモータ位置制御をする。なお、異常の判定は、上記に限定されるものではなく、保持弁下流液圧の変化量をウォッチして故障を検出する等の他の手段としてもよい。
【0057】
図9は、実施例1において、チェック弁の閉故障を診断する際の関連するデータの変化を示す。チェック弁46、47のいずれかの弁が閉故障した場合、チェック弁を介してマスタシリンダ9からホイルシリンダ11a〜dへ油圧が供給できなくなる。しかし、チェック弁閉故障時に、保持弁44、45を開けばマスタシリンダ9から保持弁44、45を介してホイルシリンダ11a〜dへ油圧を供給することができるので、通常のブレーキの作動には影響がない。しかし、過熱防止制御モードの踏み増し制御では、保持弁44、45を閉じたままモータ20を駆動し、チェック弁46、47を介してホイルシリンダ圧を増加させるため、チェック弁46、47が閉故障になると、図9において破線で示すように、故障側の保持弁下流の液圧が増加しない。そこで、過熱防止制御モードの踏み増し制御中に、保持弁下流液圧の増加量が、所定値以下の場合に異常と判断する。この異常の検出後は、異常が検出された側の過熱防止制御を禁止し、倍力制御モードに切り替える。なお、異常の判定方法は、上記に限定されるものではなく、液圧センサの情報に基づいて検出する他の方法でもよい。以上のとおり、保持弁44、45又はチェック弁46、47の故障した場合、図7〜図9に示した検出方法とその後の処置により、電動倍力装置のフェールセーフが確保される。
【0058】
図10は、実施例1において、電動倍力装置の故障が発生した場合に行なう保持弁による制動力低下抑制制御の際の関連するデータの変化を示す。ブレーキ中に、電動倍力装置1に故障が発生した場合(例、モータ失陥)、マスタシリンダを倍力することができなくなる。そのため、保持弁下流液圧(制動力)は踏力相当の程度にまで低下し、制動距離が伸びてしまう。そこで、図10に示すように、ブレーキ中に保持弁下流液圧の低下を検出して電動倍力装置の故障を判定すると、その直後に保持弁44、45を閉じる。これにより、ブレーキ中の急激な制動力の低下を防ぐことが可能となる。なお、電動倍力装置の故障を検出する方法は、故障部位によって変わる。例えば、モータの断線が発生した場合は、モータ位置制御の偏差が所定値以上になったこと、または電流制御偏差が所定値以上になったことにより検出することができるし、モータ電源が断線した場合は、モータ電源電圧が所定値以下になったことを検出することで故障を検出することができる。
【実施例2】
【0059】
図11は、実施例2に係る電動倍力装置1、ホイルシリンダ圧制御装置5、ホイルシリンダ圧制御機構6およびホイルシリンダ11a〜dを含むブレーキ装置のシステム全体を示す説明図である。実施例2では、実施例1の液圧保持機構2がホイルシリンダ圧制御機構6に置き換わり、ホイルシリンダ圧制御装置5が追加された構成において、実施例1と異なるものである。電動倍力装置1については、実施例1と同じであるので、その説明を省略する。
【0060】
次に、ホイルシリンダ圧制御機構6の構成と動作について、図11を参照して説明する。ホイルシリンダ圧制御機構6は、マスタシリンダ9で加圧された作動液の各ホイルシリンダ11a〜dへの供給を制御するゲートアウト弁50a、50bと、マスタシリンダ9で加圧された作動液のポンプ54a、54bへの供給を制御するゲートイン弁51a、51bと、マスタシリンダ9またはポンプ54a、54bから各ホイルシリンダ11a〜dへの作動液の供給を制御する流入弁52a〜dと、ホイルシリンダ11a〜dを減圧制御する流出弁53a〜dと、マスタシリンダ9で生成された作動圧を昇圧するポンプ54a、54bと、ポンプ54a、54bを駆動するポンプモータ55と、マスタシリンダ圧を検出する液圧センサ48、49とを備えてなる。
【0061】
なお、ホイルシリンダ圧制御機構6としては、アンチロックブレーキ制御用の液圧制御ユニット、車両挙動安定化制御用の液圧制御ユニット等が適当である。また、ホイルシリンダ圧制御機構6は、第1液室42から作動液の供給を受け、FL輪とRR輪のブレーキ力を制御する第1のブレーキ系統と、第2液室43から作動液の供給を受け、FR輪とRL輪のブレーキ力を制御する第2のブレーキ系統の二系統から構成されている。このような構成の採用により、一方のブレーキ系統が失陥した場合にも、他方の正常なブレーキ系統により、対角2輪分のブレーキ力が確保されるので、車両の挙動を安定に保つことができる。
【0062】
図11において、ゲートアウト弁50a、50bは、マスタシリンダ9と流入弁52a〜dとの間に備えられており、マスタシリンダ9で加圧された作動液をホイルシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。ゲートイン弁51a、51bは、マスタシリンダ9とポンプ54a、54bとの間に備えられており、マスタシリンダ9の作動液をポンプ54a、54bにより昇圧してホイルシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。
【0063】
流入弁52a〜dは、ホイルシリンダ11a〜dの上流に備えられており、マスタシリンダ9またはポンプ54a、54bで加圧された作動液をホイルシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。流出弁53a〜dは、ホイルシリンダ11a〜dの下流に備えられており、ホイルシリンダ圧を減圧する際に開弁される。
【0064】
なお、ゲートアウト弁50a、50bと、ゲートイン弁51a、51bと、流入弁52a〜dと、流出弁53a〜dは、ソレノイドへの通電によって弁の開閉が行われる電磁式のものであり、ホイルシリンダ圧制御装置5が行う電流制御によって、各弁の開閉量が個々に調節される。また、ゲートアウト弁50a、50bと、ゲートイン弁51a、51bと、流入弁52a〜dと、流出弁53a〜dは、常開弁、常閉弁のいずれであっても構わないが、実施例2では、ゲートアウト弁50a、50bと流入弁52a〜dが常開弁、ゲートイン弁51a、51bと流出弁53a〜dが常閉弁である。このような構成を採ることにより、それぞれの弁への電力供給が停止した場合にも、ゲートイン弁と流出弁が閉じ、ゲートアウト弁と流入弁が開いて、マスタシリンダ9で加圧された作動液がすべてのホイルシリンダ11a〜dに到達するため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0065】
ポンプ54a、54bは、例えば、車両挙動安定化制御、自動ブレーキ等を行うために、マスタシリンダ9の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタシリンダ圧を昇圧させてホイルシリンダ11a〜dに供給する。なお、ポンプ54a、54bとしては、プランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等が適当であるが、静粛性の点においては、ギヤポンプが望ましい。また、ポンプモータ55は、ホイルシリンダ圧制御装置5の制御指令に基づいて供給される電力によって動作されて、ポンプモータに連結されたポンプ54a、54bを駆動する。なお、ポンプモータ55としては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等が適当であるが、制御性、静粛性、耐久性の点においては、DCブラシレスモータが望ましい。
【0066】
液圧センサ48は第1のブレーキ配管101の下流に、液圧センサ49は第2のブレーキ配管102の下流に備えられており、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサである。なお、液圧センサ48、49の個数と設置位置については、制御性、フェールセーフ等を考慮して、図11に示す設置位置と個数に限定されるものではない。
【0067】
図12は実施例2のシステム構成を示す。実施例2では、マスタシリンダ圧制御装置3のマイクロコンピュータ37が指令を与える駆動回路に保持弁が接続されていないこと、マイクロコンピュータ37に対して車輪速センサからの入力がないことを除いて、図2に示した実施例1のシステム構成と同じであるので、説明を省略する。
【0068】
ホイルシリンダ圧制御装置5のマイクロコンピュータ75は、上記したマスタシリンダ圧制御装置3のマイクロコンピュータ37と同様の構成を有する。ホイルシリンダ圧制御装置5のマイクロコンピュータ75と上記のマイクロコンピュータ37との間ではCAN等の双方向通信が行なわれ、制御指令、車両状態量、故障情報、作動状態等を共有している。マイクロコンピュータ75には、各車輪に設置された車輪速センサ36a〜dから各車輪の速度を示す信号と、ヨーレートセンサ71により検出された車両のヨーレートの情報と、ハンドルに設置された舵角センサ72により検出された操舵角を示す信号と、前後加速度センサ73により検出された車両の前後方向加速度を示す信号と、横加速度センサ74により検出された車両の横方向の加速度を示す信号が入力される。
【0069】
図12に示していないが、マイクロコンピュータ75には、上記の各種のセンサにより検出された各輪の車輪速、ヨーレート、ハンドルの操舵角、前後加速度、横加速度の情報に基づき、車両のスピン、ドリフトアウト、車輪のロックを検出し、それらを抑制するように対象となる車輪の目標制動力を演算する車両運動制御部が記憶されている。さらに、演算された目標制動力に基づき、マイクロコンピュータ75は、モータ55とゲートアウト弁50a〜b、ゲートイン弁51a〜b、流入弁52a〜d、流出弁53a〜dを制御し、各輪に制動力を発生させ車両を安定化させるアクチュエータ制御部が記憶されている。なお、図11のマスタシリンダ圧制御装置3とホイルシリンダ圧制御装置5は、図12のシステム構成図において別々のユニットとして構成されているが、制御性や搭載性等の観点から一つのユニットとして構成してもよい。
【0070】
実施例2は、実施例1における保持弁44、45に替えて、ホイルシリンダ圧制御装置内のゲートアウト弁50a、50bを用いることにより、実施例1において説明したモータ過熱防止制御を適用可能としている。それゆえ、実施例2における制御ブロック図、制御モード選択部、過熱防止制御目標値演算部とその制御フローと適用結果は、図3〜6についての説明と基本的に同じであるので、ここでは省略する。
【0071】
以上により、図11に示した実施例2の電動倍力装置により、ブレーキをかけ続ける場合においても、ホイルシリンダ液圧を低下させることなく、モータやインバータの過熱を抑制することができる。
【0072】
また、実施例2は、図7〜9に示した保持弁44、45の故障検出方法およびその後の処置を、ゲートアウト弁50a、50bの故障時にも適用することができるので、電動倍力装置のフェールセーフが確保される。さらに、実施例2は、保持弁44、45の役割をゲートアウト弁50a、50bにより代替することで、実施例1について説明した図10のブレーキ装置故障時の制動力低下抑制制御も適用することができる。
【実施例3】
【0073】
図13は、実施例3に係る電動倍力装置1、モータラッチ機構71、およびホイルシリンダ11a〜dを含むブレーキ装置のシステム全体を示す説明図である。実施例3では、実施例1における液圧保持機構2とその機能が、モータラッチ機構71に代替されたものであり、その他では同じ構成であるので、電動倍力装置1の説明は省略する。
【0074】
図14は、実施例3に係るモータラッチ機構71の一例を示す。モータラッチ機構71は、モータの回転トルクを伝えるロータ20Aに固定された爪車72と、この爪車に係合する係合爪73を有する揺動アーム74と、ソレノイド75により摺動されるプランジャに支持されたロッド76とを備えて、このロッド76が揺動アーム74に連結される構成とされている。
【0075】
爪車72には、マスタシリンダ圧の減圧時におけるロータの回転方向(図14におけるL方向)の前側に垂直な歯面が形成され、反対に、マスタシリンダ圧の増圧時におけるロータの回転方向(図14におけるR方向)の前側に傾斜面が形成された歯形となっている。係合爪73は、図14に示すように、ばね77により反時計方向に付勢され、ピン78により揺動範囲が規制されている。また、揺動アーム74は、ストッパ79により揺動範囲が規制されている。
【0076】
モータラッチ機構71は、マスタシリンダ圧が増圧された状態でその圧力を保持する機構であり、ソレノイド75を駆動してモータ20のロータ20Aに固定された爪車72に、揺動アーム74に支持された係合爪73を押し当てると爪車72の回転角は保持されるので、モータ20の電流を遮断しても、発生している制動力は保持されたままとなる。すなわち、モータラッチ機構により、外部からのエネルギー供給なしにマスタシリンダ圧を保持することができる。また、マスタシリンダ圧が保持されている状態で、ソレノイド75を解除して爪車72から係合爪73を離すことによって、保持されたマスタシリンダ圧は減圧され、制動力が解除される。
【0077】
実施例3は、実施例1における保持弁44、45の役割を、モータラッチ機構により代替させたことにより、図3〜5に示したモータ過熱防止制御を適用可能である。なお、実施例3の制御ブロック図、制御モード選択部、過熱防止制御目標値演算部およびその制御結果については、実施例1と基本的に同じであるので、その説明を省略する。
【0078】
以上のとおり、実施例3の電動倍力装置において、ブレーキをかけ続ける場合においても、ホイルシリンダ液圧を低下させることなく、モータやインバータの過熱を抑制することができる。
【0079】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、実施例1から3に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施例の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1に係るブレーキ装置のシステム全体を示す説明図。
【図2】実施例1に係るブレーキ装置のシステムのブロック図。
【図3】ブレーキ装置のマイクロコンピュータ37に記憶されている制御系の伝達要素と信号の流れを示すブロック図。
【図4】実施例1に係るモード選択部63の作動のフローチャート。
【図5】実施例1に係る過熱防止制御目標値演算部64の作動のフローチャート。
【図6】実施例1において倍力制御から過熱防止制御を適用する際の関連のデータの変化を示す図。
【図7】実施例1において保持弁またはチェック弁の開故障を診断する際の関連するデータの変化を示す図。
【図8】実施例1において保持弁の閉故障を診断する際の関連するデータの変化を示す図。
【図9】実施例1においてチェック弁の閉故障を診断する際の関連するデータの変化を示す図。
【図10】実施例1において、電動倍力装置の故障が発生した場合に行なう保持弁による制動力低下抑制制御の際の関連するデータの変化を示す図。
【図11】実施例2のブレーキ装置のシステム全体を示す説明図。
【図12】実施例2のブレーキ装置のシステムのブロック図。
【図13】実施例3のブレーキ装置のシステム全体を示す説明図。
【図14】実施例3に係るモータラッチ機構の一例を示す図。
【符号の説明】
【0081】
1…電動倍力装置、2…液圧保持機構、3…マスタシリンダ圧制御装置、
4…マスタシリンダ圧制御機構、5…ホイルシリンダ圧制御装置、
6…ホイルシリンダ圧制御機構、7…インプットロッド
8…ストロークセンサ、9…マスタシリンダ、10…リザーバ、
11a〜d…ホイルシリンダ、12…ハイブリッドシステム制御装置、13…信号線、
20…モータ、20A…ロータ、21…減速装置、22…駆動側プーリ、
23…従動側プーリ、24…ベルト、25…回転−直動変換装置、
26…ボールネジナット、27…ボールネジ軸、28…可動部材、29…戻しバネ、
30…レゾルバ、31…(モータ駆動)電流センサ、
32、33…(保持弁ソレノイド駆動)電流センサ、34…モータ温度センサ、
35…インバータ温度センサ、36a〜d…車輪速センサ、37…マイクロコンピュータ、
38…駆動回路、40…第1ピストン、41…第2ピストン、
42…第1液室、43…第2液室、44、45…保持弁、
46、47…チェック弁、48、49…液圧センサ、
50a〜b…ゲートアウト弁、51a〜b…ゲートイン弁、
52a〜d…流入弁、53a〜d…流出弁、54a、54b…ポンプ、55…ポンプモータ、
60…目標減速度演算部、61…目標液圧演算部、62…マスタシリンダ液圧制御部、
63…制御モード選択部、64…過熱防止制御目標値演算部、65…モータ位置制御部、66…保持弁制御部、71…モータラッチ機構、72…爪車、73…係合爪、74…揺動アーム、75…ソレノイド、76…ロッド、77…ばね、78…ピン、79…ストッパ、100…ブレーキペダル、101…第1系統の油圧配管、
102…第2系統の油圧配管、110a〜d…ディスクロータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に制動力を発生させるホイルシリンダと、
前記ホイルシリンダと油圧回路を介して接続されるものであって、ドライバのブレーキ操作により作動して前記ホイルシリンダ内に液圧をかけるマスタシリンダと、
前記ドライバのブレーキ操作量に応じて前記マスタシリンダの作動を補助する電動モータを備えた電動倍力機構と、
インバータ回路を制御することにより前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持する保持機構を備えて、
ブレーキをかけ続けてホイルシリンダ内の昇圧状態が続く場合、上記保持機構を駆動し、前記ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持して、前記電動モータへの通電量を低減することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたブレーキ制御装置において、
前記保持機構は、前記油圧回路上に設けられ、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダ間の連通をオンオフ制御する保持弁であって、
前記保持機構を駆動するとは、前記保持弁を閉作動することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたブレーキ制御装置において、前記保持弁は、ソレノイドに通電しない時に流路を開くソレノイドバルブであることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたブレーキ制御装置において、前記保持弁と前記ホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記保持弁と並列に、前記マスタシリンダからの液圧は連通させる弁であって、前記ホイルシリンダからの液圧は遮断するチェック弁を設けたことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載されたブレーキ制御装置において、前記保持弁とホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記液圧センサの出力に基づいて、前記保持弁の閉故障を検知することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載されたブレーキ制御装置において、前記保持弁とホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記液圧センサの出力に基づいて、前記保持弁の開故障を検知することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項7】
請求項3に記載されたブレーキ制御装置において、ドライバのブレーキ操作中に前記電動倍力機構が前記マスタシリンダを昇圧できない異常が発生した際には、前記保持弁を閉じて前記ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持するようにロックして制動力低下を抑制することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項8】
請求項2に記載されたブレーキ制御装置において、前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、前記保持弁をオンオフ制御する駆動回路とは、共通の制御ユニットに属していることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載されたブレーキ制御装置において、前記制御ユニットは、制御モード選択部を備えて、
前記制御モード選択部は、目標マスタシリンダ液圧又はモータ温度又はインバータ温度が所定値より大きい場合、前記保持弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を倍力作動時より低減する制御を設定することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載されたブレーキ制御装置において、前記電動倍力機構はブレーキペダルの操作により進退する第一の入力部材と、モータにより進退する第二の入力部材と、第一と第二の入力部材によって加圧されるマスタシリンダと、ブレーキの操作量に応じてモータを駆動しブレーキ踏力を倍力することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載されたブレーキ制御装置において、
前記保持機構は、
前記油圧回路上に設けられるものであって、
ポンプと、
マスタシリンダからゲートアウト弁と流入弁を介してホイルシリンダに接続する第1ブレーキ回路と、
前記ポンプの吐出側から、前記第1ブレーキ回路における前記ゲートアウト弁の下流側であって前記流入弁の上流側に接続する第2ブレーキ回路と、
前記第1ブレーキ回路における前記流入弁の下流側から流出弁を介してリザーバに接続する第3ブレーキ回路と、を備えて、
前記保持機構を駆動するとは、前記ゲートアウト弁を閉作動することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載されたブレーキ制御装置において、前記ゲートアウト弁は、ソレノイドに通電しない時に流路を開くソレノイドバルブであることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載されたブレーキ制御装置において、前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、前記ゲートアウト弁をオンオフ制御する駆動回路とは、共通の制御ユニットに属していることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項14】
請求項13に記載されたブレーキ制御装置において、前記制御ユニットは、制御モード選択部を備えて、
前記制御モード選択部は、目標マスタシリンダ液圧又はモータ温度又はインバータ温度が所定値より大きい場合、前記ゲートアウト弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を倍力作動時より低減する制御を設定することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項15】
請求項11に記載されたブレーキ制御装置において、前記電動倍力機構はブレーキペダルの操作により進退する第一の入力部材と、モータにより進退する第二の入力部材と、第一と第二の入力部材によって加圧されるマスタシリンダと、ブレーキの操作量に応じてモータを駆動しブレーキ踏力を倍力することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項16】
請求項1に記載されたブレーキ制御装置において、
前記保持機構とは、前記電動モータの回転軸をロックするモータラッチ機構であって、
前記保持機構を駆動するとは、前記モータラッチ機構を作動させて前記回転軸をロックすることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項1】
車輪に制動力を発生させるホイルシリンダと、
前記ホイルシリンダと油圧回路を介して接続されるものであって、ドライバのブレーキ操作により作動して前記ホイルシリンダ内に液圧をかけるマスタシリンダと、
前記ドライバのブレーキ操作量に応じて前記マスタシリンダの作動を補助する電動モータを備えた電動倍力機構と、
インバータ回路を制御することにより前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持する保持機構を備えて、
ブレーキをかけ続けてホイルシリンダ内の昇圧状態が続く場合、上記保持機構を駆動し、前記ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持して、前記電動モータへの通電量を低減することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたブレーキ制御装置において、
前記保持機構は、前記油圧回路上に設けられ、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダ間の連通をオンオフ制御する保持弁であって、
前記保持機構を駆動するとは、前記保持弁を閉作動することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたブレーキ制御装置において、前記保持弁は、ソレノイドに通電しない時に流路を開くソレノイドバルブであることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたブレーキ制御装置において、前記保持弁と前記ホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記保持弁と並列に、前記マスタシリンダからの液圧は連通させる弁であって、前記ホイルシリンダからの液圧は遮断するチェック弁を設けたことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載されたブレーキ制御装置において、前記保持弁とホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記液圧センサの出力に基づいて、前記保持弁の閉故障を検知することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載されたブレーキ制御装置において、前記保持弁とホイルシリンダとの間に液圧センサを設け、前記液圧センサの出力に基づいて、前記保持弁の開故障を検知することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項7】
請求項3に記載されたブレーキ制御装置において、ドライバのブレーキ操作中に前記電動倍力機構が前記マスタシリンダを昇圧できない異常が発生した際には、前記保持弁を閉じて前記ホイルシリンダ内に発生している圧力を保持するようにロックして制動力低下を抑制することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項8】
請求項2に記載されたブレーキ制御装置において、前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、前記保持弁をオンオフ制御する駆動回路とは、共通の制御ユニットに属していることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載されたブレーキ制御装置において、前記制御ユニットは、制御モード選択部を備えて、
前記制御モード選択部は、目標マスタシリンダ液圧又はモータ温度又はインバータ温度が所定値より大きい場合、前記保持弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を倍力作動時より低減する制御を設定することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載されたブレーキ制御装置において、前記電動倍力機構はブレーキペダルの操作により進退する第一の入力部材と、モータにより進退する第二の入力部材と、第一と第二の入力部材によって加圧されるマスタシリンダと、ブレーキの操作量に応じてモータを駆動しブレーキ踏力を倍力することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載されたブレーキ制御装置において、
前記保持機構は、
前記油圧回路上に設けられるものであって、
ポンプと、
マスタシリンダからゲートアウト弁と流入弁を介してホイルシリンダに接続する第1ブレーキ回路と、
前記ポンプの吐出側から、前記第1ブレーキ回路における前記ゲートアウト弁の下流側であって前記流入弁の上流側に接続する第2ブレーキ回路と、
前記第1ブレーキ回路における前記流入弁の下流側から流出弁を介してリザーバに接続する第3ブレーキ回路と、を備えて、
前記保持機構を駆動するとは、前記ゲートアウト弁を閉作動することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載されたブレーキ制御装置において、前記ゲートアウト弁は、ソレノイドに通電しない時に流路を開くソレノイドバルブであることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載されたブレーキ制御装置において、前記電動モータの通電量を調整する制御装置と、前記ゲートアウト弁をオンオフ制御する駆動回路とは、共通の制御ユニットに属していることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項14】
請求項13に記載されたブレーキ制御装置において、前記制御ユニットは、制御モード選択部を備えて、
前記制御モード選択部は、目標マスタシリンダ液圧又はモータ温度又はインバータ温度が所定値より大きい場合、前記ゲートアウト弁を閉作動すると共に、前記電動モータへの通電量を倍力作動時より低減する制御を設定することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項15】
請求項11に記載されたブレーキ制御装置において、前記電動倍力機構はブレーキペダルの操作により進退する第一の入力部材と、モータにより進退する第二の入力部材と、第一と第二の入力部材によって加圧されるマスタシリンダと、ブレーキの操作量に応じてモータを駆動しブレーキ踏力を倍力することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項16】
請求項1に記載されたブレーキ制御装置において、
前記保持機構とは、前記電動モータの回転軸をロックするモータラッチ機構であって、
前記保持機構を駆動するとは、前記モータラッチ機構を作動させて前記回転軸をロックすることを特徴とするブレーキ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−40122(P2009−40122A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204689(P2007−204689)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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