説明

電動機

【課題】ケースと固定子の軸方向の相対変位を抑制する電動機を提供する。
【解決手段】本発明は、回転軸2を備えた回転子3と、前記回転軸のまわりに前記回転子と対向するように配置された固定子4と、前記回転子と前記固定子とを内装し、内面に前記固定子を固定するケース5とを備えた電動機において、軸方向に前記回転子と対向する前記ケースの内面5eと、軸方向に前記回転子と対向する前記固定子のフランジ面12bとにまたがって配置される押さえ部材18を設けたことを特徴とする電動機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、低速高トルクを発揮する電動機として、回転軸方向に固定子と回転子とが対向して配置される軸方向空隙型電動機がある(特許文献1参照)。この軸方向空隙型電動機は、コイルが巻回される固定子と、このコイルに回転軸方向に対向して配置され、複数対の永久磁石が周方向に配置される回転子とからなる。そして、コイルに電流を流して回転磁界を発生させ、これに伴い固定子と回転子との間の磁気的な吸引力および反発力によって、回転子を回転させるものである。
【0003】
このような軸方向空隙型電動機の固定子を構成するヨークは、樹脂モールドにより、コイルが巻回されるティースと一体成形され、その外周面がハウジングに嵌合される。
【特許文献1】特開平7−264832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固定子には回転子の永久磁石の磁力に基づく吸引力が作用するため、回転子側に引っ張られ、この引張力に抗するため固定子をハウジングにボルトを用いて固定する必要がある。このため、電動機の大型化や重量の増加を招くことになり、また、固定子をボルト止めすることにより、固定子に圧縮応力が生じて磁気回路の抵抗となり、電動機の出力の低下を引き起こすおそれがある。
【0005】
本発明は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、電動機の大型化を招くことなく、引張力に抗して固定子を効率的に支持するすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転軸を備えた回転子と、前記回転軸のまわりに前記回転子と対向するように配置された固定子と、前記回転子と前記固定子とを内装し、内面に前記固定子を固定するケースとを備えた電動機において、軸方向に前記回転子と対向する前記ケースの内面と、軸方向に前記回転子と対向する前記固定子のフランジ面とにまたがって配置される押さえ部材を設けたことを特徴とする電動機である。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、軸方向に前記回転子と対向するケースの内面と、軸方向に回転子と対向する固定子の内面とに渡って配置される押さえ部材を設け、回転子の磁力による前記固定子の回転子側への変位を抑制するので、電動機の大型化を招くことなく、かつ電動機の出力の低下を招くことなく、固定子を確実にケースに保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は、本発明の軸方向空隙型電動機1の断面図である。
【0009】
軸方向空隙型電動機1は、不図示の被回転部材に接続する回転軸2と、回転軸2を回転する回転子3と、回転軸2と軸方向に所定の空隙をもって対向するように設けられた一対の固定子4とからなり、これらをケース5内に収納して構成される。
【0010】
回転軸2は、ケース5の円筒形の支持壁5a、5bに支持された軸受6、7を介して回転自由にケース5に支持される。回転軸2の一端は、ケース5から突出し、不図示の被回転部材に結合する。回転軸2の他端に臨んで支持壁5aの内側に回転軸2の回転速度を検出するセンサ8が設置される。
【0011】
回転子3は、円盤状に形成され、回転軸2の外周面に固定され、ケース5内の軸方向略中央に配置される。回転子3には、不図示の永久磁石が周方向に等間隔に配置され、この永久磁石に対面するように固定子4のティース11が配置される。
【0012】
固定子4は、ケース5に固定されるコア13と、コア13に配置された複数のコイル10とから形成される。コア13は、絶縁材を介してコイル10が巻回される複数のティース11と、このティース11をケース5に固定する環状のヨーク12とからなり、回転子3に軸方向両側から臨んで配置される。
【0013】
コア13の各ティース11は、ヨーク12から回転子3に向かって突出し、回転子3と軸方向に所定の隙間を持って対峙する。
【0014】
図2を参照すると、各ティース11は、周方向に所定間隔で配置され、各ティース11には、コイル10が不図示の絶縁材を介して巻回される。コイル10がティース11に巻回された状態でモールド樹脂によりコア13とコイル10とが一体的に成形される。モールド成形後、ケース5の内面に形成された軸方向に開口する環状溝15、16に環状のヨーク12の外内周面を嵌合させる。なお、コア13を周方向に分割することも可能である。
【0015】
回転子3と固定子4とを内装するケース5は、有底円筒形状の本体部5cと本体部5cの開口部を閉止する蓋部5dとから構成される。蓋部5dには、回転軸2が貫通する貫通孔14が形成される。本体部5cの底面と蓋部5dの内周面には、ヨーク12が嵌合する環状溝15、16が形成される。
【0016】
このような電動機1において、固定子4は、回転子3に対峙するように両側に配置されるため、回転子3に備えられた永久磁石の磁力が増大すると、固定子4に回転子3に向けた引き抜き力が作用する。
【0017】
この引き抜き力に抗して固定子4をケース5に保持するために、本発明では、軸方向に回転子3と対向するヨーク12の外周フランジ面12bとケース5の内面5eとにまたがるように、押さえ板18を設ける。図3を参照すると、この押さえ板18の一端は、ピン19によりケース5に片持ち支持され、他端は、ヨーク12の外周フランジ面12bに当接して配置される。ピン19は、ケース5に形成された軸方向の穴部20に挿入される。
【0018】
図3に示すように、押さえ板18は、ケース5にピン19を介して支持され、ヨーク12の外周フランジ面12bにのみ接触する。このような構成とすることで、ヨーク12が回転子3側に回転子3の磁力により引っ張られた時に、その引張力Fにより生じるモーメントMがピン19に曲げ力を作用させ、ピン19がケース5から抜け出ない。なお、押さえ板18は、図4に示すように、ヨーク12の外周フランジ面12bとケース5の内面5eにそれぞれ接するようにも形成可能である。
【0019】
押さえ板18は、隣接するティース11の回転軸2の中心を通る中心線C1、C2のなす角の二等分線Lが中心を通るように配置される。押さえ板18の配置は、周方向に均等に配置され、また磁力の大きさに応じて押さえ板18の数、大きさ等を設定する。また、押さえ板18の位置は、ヨーク12の外周側とケース5との間に限らず、ヨーク12の内周側とケース5とに渡って配置し、あるいは双方に配置することも可能である。また、コア13を周方向に分割して形成する場合には、押さえ板18は隣接するコア13間の境界面を押さえるように配置すれば、押さえ板18の数を低減することができる。
【0020】
なお、押さえ板18をケース5に支持するピン19を、図5に示すように、ヨーク12とケース5との嵌合面17を軸方向から見て含むように配置することも可能である。具体的にはヨーク12の外周面12aとケース5の環状溝16のそれぞれに略半円状の凹部12c、5fを設ける。これら凹部12c、5fは対面して円形断面の穴部20を軸方向に構成する。この穴部20にピン19を挿入する。
【0021】
さらに押さえ板18を外周面12aまたは内周面と同心のリング状に形成して、ヨーク12の内周フランジ面または外周フランジ面12bの少なくとも一方を全体的に抑えるように形成してもよい。
【0022】
次に作用を説明する。
【0023】
本発明の軸方向空隙型電動機は、例えば、ケース5を固定し、回転子3に固定される回転軸2を被回転部材に接続した状態で固定子4のコイル10に通電される。固定子4のコイル10に通電されると、回転磁界が発生し、これに伴い固定子4と回転子3との間の磁気的な吸引力および反発力によって、回転子3が所定方向に回転する。この回転により回転軸2も回転する。
【0024】
回転子3に備えられた永久磁石の磁力は、回転子3に対峙した固定子4に対して回転子3側への引き抜き力を及ぼす。このため、本発明では、この引張力Fに抗するために、固定子4のヨーク12とケース5の境界部にまたがって配置される押さえ板18を設けた。
【0025】
押さえ板18は、回転子3と軸方向に対向する、ケース5の内面5eと固定子4の外周フランジ面12bまたは内周フランジ面とにまたがって設けられるので、電動機1の大型化や重量の増加を抑制しつつ、固定子4が回転子3側へ変位することを確実に防止することができる。
【0026】
押さえ板18は、軸方向に沿って設けられたピン19によりケース5に支持され、ピン19がケース5に支持される位置と永久磁石の磁力による引張力Fが押さえ板18に作用する位置とが径方向にオフセットされて配置される。このため、引張力Fがピン19に対してモーメントMとして作用することになり、このモーメントMは、ピン19に曲げ力を作用させ、結果としてピン19がケース5から抜け出すことを阻止する。このような構成により、ピン19が挿入されるケース5の穴部20の寸法公差は、大きく設定することができる。
【0027】
穴部20は、ヨーク12の外周面12aとケース5の環状溝15、16との嵌合面17を含むように形成することが好ましい。この場合にはケース5に対するヨーク12の回転軸2回りの相対変位を阻止する効果も得られる。
【0028】
押さえ板18は、隣接するティース11の軸心を通る中心線C1、C2がなす角の二等分線Lを中心とするように配置されるので、ヨーク12を支持することに伴って生じる圧縮応力が磁気回路から比較的遠い位置に生じるため、電動機1の出力低下を抑制することができる。
【0029】
押さえ板18を周方向に等間隔で配置することで、押さえ板18が小型化でき、ヨーク12に作用する圧縮応力を分散することができる。したがって、電動機1の大型化や重量の増加の抑制に関してさらに好ましい効果が得られる。さらに、コア13が分割して形成される場合には、隣接するコア13間に渡って押さえ板18を配置することで、押さえ板18の数を削減して、電動機1の重量の増加を抑制することができる。
【0030】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の軸方向空隙型電動機1の構成を説明する断面図である。
【図2】図1の断面A−Aの断面図である。
【図3】図2の断面B−Bの断面図である。
【図4】図2の断面B−Bの他の断面図である。
【図5】図2の断面B−Bの他の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 軸方向空隙型電動機
2 回転軸
3 回転子
4 固定子
5 ケース
5c 本体部
5d 蓋部
5e 内面
10 コイル
11 ティース
12 ヨーク
12a 外周面
12b 内面
13 コア
15 環状溝
16 環状溝
17 嵌合面
18 押さえ板
19 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を備えた回転子と、
前記回転軸のまわりに前記回転子と対向するように配置された固定子と、
前記回転子と前記固定子とを内装し、内面に前記固定子を固定するケースとを備えた電動機において、
軸方向に前記回転子と対向する前記ケースの内面と、軸方向に前記回転子と対向する前記固定子の周囲のフランジ面とにまたがって配置される押さえ部材を設け、
前記押さえ部材によって前記固定子の前記回転子方向への移動を阻止するようにしたことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記押さえ部材は、その一端が前記ケースの内面に結合されるとともに、その他端が前記固定子のフランジ面に当接することを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記固定子は、前記ケースに支持されるコアと、このコアに巻回されるコイルとを備え、
前記押さえ部材は、前記コアと前記ケースとにまたがって配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の電動機。
【請求項4】
前記押さえ部材の一端は、軸方向に前記押さえ部材を貫通するピンを介して前記ケースに支持されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の電動機。
【請求項5】
前記コアは、周方向に分割して形成され、
前記押さえ部材は、隣接する分割コアの境界面に接するように配置されることを特徴とする請求項4に記載の電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−136056(P2009−136056A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308566(P2007−308566)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】