説明

電動車いす用水素ボンベユニット

【課題】水素ボンベからの水素の放出を効率的に行いつつ、ボンベケース内への異物の浸入を防止する。
【解決手段】電動車いすの下部に走行用の駆動電源としての燃料電池23が設けられ、その燃料電池23に水素ボンベ26から水素燃料を供給して発電する燃料電池システム22と、水素ボンベ26を縦向きに着脱可能に収納するボンベケース27を備える。このボンベケース27は、上面の開口部に開閉可能な蓋31を有し、上部にボンベケース27内の空気を排出する排気口29が設けられ、下部に燃料電池23を収納する電池ボックス24とを結ぶ通路28が形成される。ボンベケース27の蓋31で閉じることで、ボンベケース27内に雨や埃などの異物の浸入が防止される。また、燃料電池23により温められた空気は、通路28を通ってボンベケース27内に移動し排気口29から排出される。このため、ボンベケース27内で空気が滞留することなく、水素ボンベ26との熱交換がスムーズに行われ、水素ボンベ26が温められて放出水素量が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車いすの下部に走行用の駆動電源としての燃料電池を設け、その燃料電池に水素ボンベから水素燃料を供給して発電する燃料電池システムと、水素ボンベを着脱可能に収納するボンベケースとを備えた電動車いす用水素ボンベユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
身体障害者用の電動車いすや高齢者用の電動カートなどについて、走行用の駆動電源として燃料電池を有する燃料電池システムを備えたものが知られている。この燃料電池は、水素を燃料として、これを大気中の酸素と化学反応させて電気エネルギーを発生させる仕組みとなっている。
【0003】
この燃料電池システムでの発電に際して、燃料電池に供給される水素燃料は水素ボンベから供給される。この水素ボンベは水素を吸蔵または放出可能な水素吸蔵合金を内蔵するため重く、電動車いすを使用する身体障害者や高齢者にとって交換作業は身体に負担を強いるものとなりやすい。
【0004】
このため、水素ボンベを楽に、安全に取り付け、交換することができる電動車いすが提案されている。この電動車いすは、背もたれ部の背面側に設けたボンベケース(ボンベ保持部材)に、水素ボンベ(燃料ボンベ)を着脱可能に設け、座面部の下部に設けた燃料電池に水素ボンベから水素燃料を供給することにより発電する燃料電池システムを備えている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−45301号公報
【0005】
このボンベケースは上面に開口部が設けられており、その開口部から水素ボンベを縦向きに出し入れして収納することができる。このため、使用者は立った状態に近い姿勢で水素ボンベの着脱作業を容易に行うことができ、楽に、安全に、水素ボンベの装着、交換を行うことができる(特許文献1 図1参照)。
【0006】
また、ボンベケースの下部に座面部下の燃料電池の周囲の空気を、そのボンベケース内に導く通路が形成されている。燃料電池により温められた空気は通路を通り、ボンベケース内の水素ボンベに移動し、その熱で水素ボンベを温めるとともに、排気口として開口部から排気される。ここで、水素ボンベの水素吸蔵合金は水素放出に伴って温度が低下し、水素ボンベの内圧が低下する。このため、水素ボンベを温めることで内圧の低下が抑えられ、放出水素量が確保される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の電動車いすでは、ボンベケースの上面には、水素ボンベを出し入れするための開口部が設けられている。このため、開口部からボンベケースに雨、埃や異物が混入し易い。ボンベケースに異物等が混入すると、水素ボンベをボンベケースに収納する際、水素ボンベと、燃料電池に水素燃料を送る管路との接続が確実に行われず、可燃性の水素が漏れるおそれがあり危険である。
【0008】
また、開口部から射し込む直射日光により水素ボンベが熱せられ、高温となり内圧が異常上昇し、水素ボンベの安全弁が作動して水素を放出するおそれがあった。
【0009】
そこで、この発明は、水素ボンベからの水素の放出を効率的に行いつつ、ボンベケース内への異物の浸入を防止すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明の電動車いす用水素ボンベユニットは、電動車いすの下部に走行用の駆動電源としての燃料電池を設け、その燃料電池に水素ボンベから水素燃料を供給することにより発電する燃料電池システムと、前記水素ボンベを着脱可能に収納するボンベケースを備え、前記ボンベケースは上面に開口部が設けられ、その開口部から前記水素ボンベを縦向きに出し入れ可能であり、前記ボンベケースの内部と前記燃料電池の周囲の空間とを結ぶ通路をそのボンベケースの下部に形成した電動車いす用水素ボンベユニットにおいて、前記ボンベケースは、その上部に内部の空気を排出する排気口を有し、前記開口部に蓋を開閉可能に設けたものとしたのである。
【0011】
このようにすると、従来の特許文献1に記載のボンベケースでは開口していた上面が蓋により閉じられるので、ボンベケース内に雨や埃などの異物の浸入を防止することができる。
【0012】
また、燃料電池により温められた周囲の空気は、通路を通ってボンベケース内に移動し、水素ボンベとの間で熱交換しながら上方に移動する。移動した空気は、ボンベケースの上部の排気口から排出されるので、ボンベケース内で滞留することなく、熱交換がスムーズに行われて、水素ボンベが温められ、放出水素量が確保される。
【0013】
また、前記排気口に排気ファンを設け、前記排気ファンの運転により、前記ボンベケース内の空気を排出させることもできる。これにより、このボンベケース内の空気を強制的に排気することができ、この強制排気に伴って、燃料電池により温められた空気を通路を介してボンベケース内に効果的に導くことができる。
【0014】
燃料電池から排出される温められた空気を、より効果的にボンベケース内に導くために、前記通路内に送風ファンを設け、前記送風ファンの運転により、前記燃料電池の周囲の空気を前記ボンベケースの内部に送るようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明の電動車いす用水素ボンベユニットは、そのボンベケースの上面の開口部に蓋を開閉可能に設けたので、その開口部を蓋で閉じることで、ボンベケース内に雨や埃などの異物の浸入を防止することができる。
【0016】
また、ボンベケース内に移動した温められた空気は、ボンベケース内で滞留することなく排気口から排出されるので、水素ボンベとの間で熱交換がスムーズに行われ、水素ボンベが効果的に温められ、放出水素量が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の電動車いすの第1実施形態を図1〜図2に基づいて説明する。
この電動車いすは、図1に示すように、小型の車いす型電動車両本体11(以下、車両本体11と略す。)と、この車両本体11に設けられた燃料電池システム22とを備える。
【0018】
車両本体11は、一対の前輪12と一対の後輪13とを回転可能に設けたベース14を有している。一対の前輪12、12はそれぞれ旋回するように設けられ、一対の後輪13、13は電動の駆動輪となり、それぞれ駆動モータ(図示省略)を内蔵している。
【0019】
ベース14の上部の左右には、着座シート15を支える一対のシートフレーム16が固定され、また、ベース14の前端部には、使用者が足を載せるフットレスト17が設けられている。
【0020】
一対のシートフレーム16、16の後方側には背もたれ18が設けられ、背もたれ18の上部には手押し用グリップ19が設けられている。一対のシートフレーム16の上部にはそれぞれアームレスト20が取り付けられ、右側のアームレスト20の前方には、一対の後輪13、13の駆動を制御して、電動車いすの発進、停止、操舵を行うジョイスティック型のコントローラ21が配置されている。
【0021】
ベース14には燃料電池23を収納する箱状の電池ボックス24が設けられ、着座シート15の下部に配置されている。電池ボックス24内の燃料電池23は、一対の後輪13の駆動モータの駆動電源とされる。この燃料電池23に接続する管路25を介して水素ボンベ26から水素燃料が供給され、燃料電池システム22を構成する。なお、電池ボックス24は、その内部の空気が滞留する程度に仕切られていればよく、必ずしも密閉されていることを要しない。
【0022】
水素ボンベ26は、水素を吸蔵、放出する水素吸蔵合金を内蔵する円筒状の気密構造を有し、ボンベケース27に着脱可能に収納される。ボンベケース27は、矩形の箱状に形成され、背もたれ18の後方のベース14に設けられている。このボンベケース27の上面に開口部が設けられ、その開口部から水素ボンベ26が縦向きに出し入れ可能となっている。
【0023】
ボンベケース27の開口部には、図2(a)に示すように、蓋31が開閉可能に設けられている。蓋31を閉じることで、ボンベケース27の開口部が塞がれ、ボンベケース27内への雨、埃や異物の浸入が防止される。また、蓋31を開くことで、開口部から水素ボンベ26の装着、または交換を行うことができる。
【0024】
ボンベケース27の下部には、電池ボックス24とそのボンベケース27とを結ぶ通路28が形成されている。この通路28により、ボンベケース27の内部と燃料電池23の周囲の空間とが結ばれ、燃料電池23の周囲の空気aをボンベケース27の内部に導くことができる。
【0025】
ボンベケース27の上部には、図2(b)に示すように、その内部の空気を排出する排気口29が複数形成され、排気口29はボンベケース27の上部の両側面および後背面にそれぞれ形成され、後背面の排気口29が車両本体11に対して左右方向に複数並んで形成されている。
【0026】
ボンベケース27内には、縦向きの水素ボンベ26を前記左右方向に4本並んで収納することができる(図2(b)参照)。このボンベケース27に収納可能な水素ボンベ26の本数は、4本に限られず、電動車いすの仕様、燃料電池の性能により適宜設定され、例えば、1本から3本のいずれかに設定することができる。
【0027】
ボンベケース27内の下端部には、燃料電池23と接続する管路25の端部が配置され、ボンベケース27に収納された水素ボンベ26が管路25の端部に接続し、水素ボンベユニットが構成される(図2(a)参照)。
【0028】
この水素ボンベユニットにおいて、発電によって温められた燃料電池23の周囲の空気aは、上方に移動しようとするため、図2(a)に示すように、通路28を通ってボンベケース27と水素ボンベ26との間の空間に移動する。
【0029】
移動した空気aは、水素ボンベ26との間で熱交換するとともに、上方に移動する。このとき、ボンベケース27の蓋31は閉じているので、ボンベケース27の排気口29から排出される。この熱交換によって、水素ボンベ26が温められ、水素燃料の放出が効果的に行われる。
【0030】
この水素ボンベユニットの構造は、水素ボンベ26による水素燃料の放出に影響がない範囲で適宜変更することができる。一例として、この発明の第2実施形態を図3(a)、(b)に示す。なお、以下においては、前述の第1実施形態との相違点を中心に述べ、同一に考えられる構成に同符号を用いる。
【0031】
この実施形態に係る電動車いす用水素ボンベユニットは、図3(a)に示すように、ボンベケース27の各排気口29の外側に排気ファン30を設けたものである。この各排気ファン30の運転によって、ボンベケース27内の空気が強制的に排気される。
【0032】
この強制排気に伴って電池ボックス24内の空気a(燃料電池23の周囲の空気)が通路28を通ってボンベケース27と水素ボンベ26との間の空間に引き込まれ、水素ボンベ26に接触する空気量が増加する。
【0033】
水素ボンベ26に対する接触空気量が増加すると、水素ボンベ26と空気aとの熱交換量が増大し、水素ボンベ26がより効果的に温められ、水素が安定して供給される。
【0034】
次に、この発明の第3実施形態を図4(a)、(b)に示す。
この実施形態に係る電動車いす用水素ボンベユニットは、ボンベケース27と電池ボックス24とを結ぶ通路28に送風ファン32を設けたものである。この送風ファン32の運転により、電池ボックス24内の空気(燃料電池23の周囲の空気)を、通路28を介してボンベケース27と水素ボンベ26との間の空間に強制的に送ることができる。これにより、前述の第2実施形態の場合と同様、水素ボンベ26に接触する空気量を増やすことができる。その結果、水素ボンベ26がより効果的に温められ、水素燃料が安定して供給される。
【0035】
なお、この送風ファン32は、図示しないが、各排気口29の外側にそれぞれ排気ファン30を設けたボンベケース27に設けることもできる。この場合、さらに多くの空気を水素ボンベ26に接触させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態の電動車いすを示す側面図
【図2】(a)同上の水素ボンベユニットを示す断面図、(b)同上のボンベケースを示す斜視図
【図3】(a)第2実施形態の水素ボンベユニットを示す断面図、(b)同上のボンベケースを示す斜視図
【図4】(a)第3実施形態の水素ボンベユニットを示す断面図、(b)同上のボンベケースを示す斜視図
【符号の説明】
【0037】
11 車両本体
12 前輪
13 後輪
14 ベース
15 着座シート
16 シートフレーム
17 フットレスト
18 背もたれ
19 手押し用グリップ
20 アームレスト
21 コントローラ
22 燃料電池システム
23 燃料電池
24 電池ボックス
25 管路
26 水素ボンベ
27 ボンベケース
28 通路
29 排気口
30 排気ファン
31 蓋
32 送風ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車いすの下部に走行用の駆動電源としての燃料電池を設け、その燃料電池に水素ボンベから水素燃料を供給することにより発電する燃料電池システムと、前記水素ボンベを着脱可能に収納するボンベケースを備え、前記ボンベケースは上面に開口部が設けられ、その開口部から前記水素ボンベを縦向きに出し入れ可能であり、前記ボンベケースの内部と前記燃料電池の周囲の空間とを結ぶ通路をそのボンベケースの下部に形成した電動車いす用水素ボンベユニットにおいて、
前記ボンベケースは、その上部に内部の空気を排出する排気口を有し、前記開口部に蓋を開閉可能に設けたことを特徴とする電動車いす用水素ボンベユニット。
【請求項2】
前記排気口に排気ファンを設け、前記排気ファンの運転により、前記ボンベケース内の空気を排出させることを特徴とする請求項1に記載の電動車いす用水素ボンベユニット。
【請求項3】
前記通路内に送風ファンを設け、前記送風ファンの運転により、前記燃料電池の周囲の空気を前記ボンベケースの内部に送ることを特徴とする請求項1または2に記載の電動車いす用水素ボンベユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−286252(P2009−286252A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140653(P2008−140653)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】