説明

電動車の車体構造

【課題】 後面衝突時、スペアタイヤと車両駆動用のバッテリとの干渉を回避し、バッテリの破損を防止することができる電動車の車体構造を提供すること。
【解決手段】 後部座席後方でフロアパネル8上に配置された車両駆動用の強電バッテリ1と、前記強電バッテリ1の後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でスペアタイヤ固定ブラケット4を介してフロアパネル8に固定されたスペアタイヤ2と、を備え、前記フロアパネル8と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2は、前記スペアタイヤ2と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1に対し車両前方側にオフセットしている手段とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両後部位置に、車両駆動用のバッテリと、斜め後ろ下がりの傾斜状態で固定されたスペアタイヤと、が車両前後方向に配列された電動車の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両後面衝突時にリアディファレンシャル装置を守るとともに、スペアタイヤ搭載スペースの前後方向長さを短くするためにスペアタイヤをリアディファレンシャル装置の上方にオーバーラップさせて斜め後ろ下がりの傾斜状態でリアフロアパネルに配置したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−316050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、駆動用のバッテリを搭載する電動車両に、上記従来技術を適用すると、電動車両においては、フロアパネル上で後部座席後方部にバッテリが配置されるため、車両の後面衝突時に傾斜状態に配置されているスペアタイヤが高電圧のバッテリに向かって衝突してしまうおそれがある、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、後面衝突時、スペアタイヤと車両駆動用のバッテリとの干渉を回避し、バッテリの破損を防止することができる電動車の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、後部座席後方でフロアパネル上に配置された車両駆動用のバッテリと、
前記バッテリの後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でブラケットを介してフロアパネルに固定されたスペアタイヤと、を備え、
前記フロアパネルと前記ブラケット間の固定位置は、前記スペアタイヤと前記ブラケット間の固定位置に対し車両前方側にオフセットしていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明の電動車の車体構造にあっては、フロアパネルとブラケット間の固定位置が、スペアタイヤとブラケット間の固定位置に対し車両前方側にオフセットした設定とされる。
すなわち、前記オフセット設定により、例えば、フロアパネルとブラケット間の固定位置と、スペアタイヤとブラケット間の固定位置と、が同じ位置である場合に比べ、(オフセット量)×sinθ(θはフロアパネルの傾斜角)だけ高い位置となる。
したがって、例えば、フロアパネルの傾斜角θが決まっている場合には、オフセット量の設定により、後面衝突時の衝撃力入力位置より、ブラケットを介してフロアパネルへ入力される衝撃力入力位置を、車両上方位置に設定することができる。
そして、後面衝突時には、リヤパネルの変形によりスペアタイヤに接触する位置が、スペアタイヤへの衝撃力入力位置となり、フロアパネルとブラケット間の固定位置が、フロアパネルへの衝撃力入力位置(=反力受け位置)になり、2つの衝撃力入力位置は、モーメントスパンを持つことになる。
このため、スペアタイヤへ衝撃力が入力され、ブラケットを介してフロアパネルにて反力が受けられると、フロアパネルとブラケット間の固定位置を中心とし、フロアパネルの傾斜角を増す方向にスペアタイヤが回転する方向のモーメントが発生し、ブラケットのパネル固定位置の前方側のフロアパネルを変形させながら、スペアタイヤが傾斜角を増す回転動作をする。
このスペアタイヤの回転動作により、スペアタイヤの前端縁移動軌跡は、後面衝突前の位置からそのまま上方に移動してゆく軌跡を示し、スペアタイヤの前方位置に配置されている車両駆動用のバッテリとの干渉を回避することができる。
この結果、後面衝突時、スペアタイヤと車両駆動用のバッテリとの干渉を回避し、バッテリの破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の電動車の車体構造を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の車体構造が適用されたハイブリッド4輪駆動車(電動車の一例)を示す車両後部断面図、図2はスペアタイヤ固定部を示す図1のA部の詳細断面図、図3はスペアタイヤパンに固定されたスペアタイヤ固定ブラケットを示す斜視図である。
【0009】
実施例1における後部車体構造は、図1に示すように、強電バッテリ1(車両駆動用のバッテリ)と、スペアタイヤ2と、スペアタイヤ固定ボルト3と、スペアタイヤ固定ブラケット4(ブラケット)と、スペアタイヤパン5と、リヤサスペンションメンバ6と、リヤモータ7(後輪を駆動するモータ)と、フロアパネル8と、クロスメンバ9と、リヤパネル10と、を備えている。
【0010】
前記強電バッテリ1は、図1に示すように、後部座席後方でクロスメンバ9により補強されたフロアパネル8上に配置されている。この強電バッテリ1は、後輪を駆動するリヤモータ7を駆動し、該リヤモータ7の上方位置に配置されている。
【0011】
前記リヤモータ7は、モータフレーム11に弾性支持されている。そして、リヤモータ7の車両後部位置には、リヤサスペンションメンバ6が車幅方向に延設されている。
すなわち、前記強電バッテリ1と前記リヤモータ7とは、フロアパネル8を挟んだ上下の位置関係にて配置されている。
【0012】
前記スペアタイヤ2は、図1に示すように、前記強電バッテリ1の後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でフロアパネル8と一体に形成したスペアタイヤパン5に対し、スペアタイヤ固定ボルト3及びスペアタイヤ固定ブラケット4を介して固定されている。
前記スペアタイヤ固定ボルト3は、図2に示すように、スペアタイヤ2のロードホイールのアクスル穴位置に係止するボルト頭3aと、該ボルト頭3aから下方に延び、雄ネジが切られたボルト本体3bと、から構成される。
前記スペアタイヤ固定ブラケット4は、前記スペアタイヤパン5に対し溶接により固定されると共に、前記ボルト本体3bの雄ネジと螺合する。
前記スペアタイヤパン5は、図1に示すように、その後端部がリヤパネル10に溶接されている。
【0013】
以下、実施例1の特徴的構成であるスペアタイヤ固定ブラケット4の構成について説明する。
前記スペアタイヤ固定ブラケット4は、1枚のプレート材から打ち抜き加工や折り曲げ加工等を施して形成されたもので、図3に示すように、パネル固定要素4aと、タイヤ固定要素4bと、スペアタイヤ固定用ボルト穴4cと、切り欠き部4d(脆弱部)と、を有して構成されている。
【0014】
前記パネル固定要素4aは、スペアタイヤ中心軸位置より車両前方側の左右位置で前記フロアパネル8のスペアタイヤパン5に固定された一対のパネル固定部4a1,4a1と、前記一対のパネル固定部4a1,4a1から上方に向かって徐々に対向間隔を狭くするように立ち上げられた一対の立ち上げ部4a2,4a2と、前記一対の立ち上げ部4a2,4a2を左右方向に連結する連結部4a3と、を有する。
前記タイヤ固定要素4bは、前記連結部4a3をそのまま車両後方側に延設する第1延設部4b1と、前記一対の立ち上げ部4a2,4a2の上部位置のみをそのまま車両後方側に延設した第2延設部4b2,4b2と、を有する。
前記スペアタイヤ固定用ボルト穴4cは、前記タイヤ固定要素4bのうち第1延設部4b1のほぼ中央位置に貫通して形成され、内面に雌ネジが切ってある。
前記切り欠き部4dは、前記タイヤ固定要素4bのうち第2延設部4b2,4b2と、前記パネル固定要素4aの立ち上げ部4a2,4a2と、が交わる角隅部に半円切り欠き形状で一対形成されている。
【0015】
前記スペアタイヤ固定ブラケット4は、図2に示すように、前記スペアタイヤ2と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1を、前記スペアタイヤ固定ブラケット4に形成したスペアタイヤ固定用ボルト穴4cの位置とし、前記フロアパネル8(=スペアタイヤパン5)と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2を、前記スペアタイヤ固定ブラケット4に形成したパネル固定部4a1,4a1の位置としている。
すなわち、前記フロアパネル8(=スペアタイヤパン5)と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2は、前記スペアタイヤ2と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1に対し車両前方側にオフセット量Lだけオフセットしている。
【0016】
そして、後面衝突時における前記スペアタイヤ2への衝撃力入力位置P3と、前記固定位置P1と前記固定位置P2との関係は、図2に示すように、前記固定位置P1と前記固定位置P2を衝撃力入力位置P3より車両上方位置、もしくは、前記固定位置P1を衝撃力入力位置P3より車両上方位置に設定している。
つまり、図2に示すように、固定位置P2の下から上までで固定位置P1よりも低い範囲の位置に衝撃力入力位置P3を設定している。
【0017】
次に、作用を説明する。
車両の後面衝突時の衝撃からリヤディファレンシャル装置を守れると共に、リヤオーバーハングを極力短くする従来技術をハイブリッド4輪駆動車に適用すると、車両レイアウトとしては、図4に示すように、リヤディファレンシャル装置の代わりにリヤディファレンシャル装置よりも大型のリヤモータを設置し、かつ、後部座席裏のリヤフロアに強電バッテリを設置したレイアウトとなる。
【0018】
しかしながら、図4に示す車両後部レイアウトの場合、後面衝突時におけるスペアタイヤへの衝撃力入力位置P3と、スペアタイヤパンとスペアタイヤ固定ブラケット間の固定位置P2との関係が、固定位置P2より衝撃力入力位置P3の方が少し高い位置であるのに加え、強電バッテリとスペアタイヤとの間に十分な隙間が確保できない構成となる。
このため、後面衝突時にスペアタイヤへ衝撃力が入力されると、スペアタイヤのロードホイール→スペアタイヤ固定ボルト→スペアタイヤ固定ブラケット→ブラケット固定位置という力の伝達ルートと、スペアタイヤパンの車両後方側→ブラケット固定位置という力の伝達ルートと、が合わさり、ブラケット固定位置からさらにスペアタイヤパンの車両前方方側へ力が伝達されることになり、スペアタイヤはスペアタイヤパンの波変形を伴って車両前方に移動する。
このスペアタイヤの車両前方移動により、直ちに強電バッテリとスペアタイヤとの短い隙間が無くなってしまい、図5に示すように、スペアタイヤの前方部分が強電バッテリと干渉し、強電バッテリを破損してしまうおそれがある。
【0019】
これに対し、実施例1のハイブリッド4輪駆動車の車体構造では、後面衝突時、スペアタイヤ2と車両駆動用の強電バッテリ1との干渉を回避し、強電バッテリ1の破損を防止することができるようにした。
【0020】
すなわち、後面衝突に対するスペアタイヤの移動を許容しつつも、スペアタイヤの直線的な移動に代え、後面衝突時にスペアタイヤが傾斜角を増す方向の回転動作となるように動作規制すると強電バッテリとの干渉を防止できる点に着目し、フロアパネル8(=スペアタイヤパン5)とスペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2を、スペアタイヤ2とスペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1に対し車両前方側にオフセットする構成を採用した。
【0021】
前記オフセット設定により、例えば、図4に示すように、フロアパネルとブラケット間の固定位置と、スペアタイヤとブラケット間の固定位置と、が同じ位置である場合に比べ、(オフセット量L)×sinθ(θはフロアパネルの傾斜角)だけ高い位置となる。
したがって、例えば、フロアパネル8(=スペアタイヤパン5)の傾斜角θが決まっている場合には、オフセット量Lの設定により、後面衝突時の衝撃力入力位置P3より、スペアタイヤ固定ブラケット4を介してスペアタイヤパン5へ入力される衝撃力入力位置P2を、車両上方位置に設定することができる(図2)。
そして、後面衝突時には、リヤパネル10の変形によりスペアタイヤ2に接触する位置が、スペアタイヤ2への衝撃力入力位置P3となり、スペアタイヤパン5とスペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2が、スペアタイヤパン5への衝撃力入力位置(=反力受け位置)になり、2つの衝撃力入力位置P2,P3は、スペアタイヤ2をスペアタイヤパン5の傾斜角θを増す方向に回転させるモーメントスパンを持つことになる。
このため、スペアタイヤ2へ衝撃力が入力され、スペアタイヤ固定ブラケット4を介してスペアタイヤパン5にて反力が受けられると、スペアタイヤパン5とスペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2を中心とし、スペアタイヤパン5の傾斜角θを増す方向にスペアタイヤ2が回転する方向のモーメントが発生し、スペアタイヤ固定ブラケット4のパネル固定位置の前方側のスペアタイヤパン5を変形させながら、スペアタイヤ2が傾斜角θを増す回転動作をする。
このスペアタイヤ2の回転動作により、スペアタイヤ2の前端縁移動軌跡は、後面衝突前の位置からそのまま上方に移動してゆく軌跡を示し、スペアタイヤ2の前方位置に配置されている強電バッテリ1との干渉を回避することができる。
【0022】
この結果、後面衝突時、スペアタイヤ2と車両駆動用の強電バッテリ1との干渉を回避し、強電バッテリ1の破損を防止することができる。
以下、実施例1のハイブリッド4輪駆動車の車体構造における後面衝突時のバッテリ干渉防止作用を、図6〜図9に示す作用説明図に基づき説明する。
【0023】
[後面衝突時のバッテリ干渉防止作用]
実施例1のハイブリッド4輪駆動車の車体構造では、後面衝突時、ブラケット脆弱部の変形による衝突状態1と、ブラケット脆弱部の変形によりモーメントスパンを十分に確保した上で、スペアタイヤ2の移動を回転動作に規制する衝突状態2と、によりバッテリ干渉防止作用がなされる。
【0024】
まず、衝突状態1では、後面衝突時にスペアタイヤ2へ衝撃力Fが入力されると、スペアタイヤ2のロードホイール→スペアタイヤ固定ボルト3→スペアタイヤ固定ブラケット4→ブラケット固定位置P2というルートで力が伝達されるが、この力の伝達ルート上にスペアタイヤ固定ブラケット4が存在し、スペアタイヤ固定ブラケット4には脆弱部としての切り欠き部4dを有する。
このため、この切り欠き部4dの周辺に応力が集中すると共に、固定位置P1と衝撃力入力位置P3とのモーメントスパンにより、スペアタイヤ固定ブラケット4のタイヤ固定要素4bが、図7に示すように、下方に折れ曲がり変形する。
そして、このタイヤ固定要素4bの折れ曲がり変形に伴って、図6に示すように、スペアタイヤ2が傾斜角θを増す方向に回転動作をし、スペアタイヤ2の後端位置が下方に移動することで、スペアタイヤ固定ブラケット4のスペアタイヤパン5に対する固定位置P2と、衝撃力入力位置P3と、のモーメントスパンが後面衝突前に比べて拡大する。
【0025】
そして、スペアタイヤ固定ブラケット4のタイヤ固定要素4bが下方への折れ曲がり変形限界に達すると、固定位置P2と衝撃力入力位置P3とのモーメントスパンの拡大に伴って、スペアタイヤパン5とスペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2を中心とし、スペアタイヤパン5の傾斜角θを増す方向にスペアタイヤ2が回転する方向の大きなモーメントが発生する。
このため、図8及び図9に示すように、スペアタイヤ固定ブラケット4のパネル固定位置の前方側のスペアタイヤパン5を変形させながら、スペアタイヤ2が傾斜角θを増す回転動作をする。
このスペアタイヤ2の回転動作により、スペアタイヤ2の前端縁移動軌跡は、後面衝突前の位置からそのまま上方に移動してゆく軌跡、もしくは、強電バッテリ1との間隔を少し増しながら移動してゆく軌跡を示し、スペアタイヤ2の前方位置に配置されている強電バッテリ1との干渉を回避することができる。
【0026】
このように、実施例1のハイブリッド4輪駆動車の車体構造においては、ブラケット脆弱部を利用してスペアタイヤ2を傾斜角θを増す方向に少し回転させるプレ動作(衝突状態1)を経過し、その後、大きなモーメントによりスペアタイヤ2を傾斜角θを増す方向に回転させる本動作(衝突状態2)に移行するようにしたため、後面衝突時、スペアタイヤ2の移動が傾斜角θを増す方向の回転動作となるように確実に規制され、スペアタイヤ2と車両駆動用の強電バッテリ1との干渉回避の確実性を大幅に高めることができる。
【0027】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド4輪駆動車の車体構造にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0028】
(1) 後部座席後方でフロアパネル8上に配置された車両駆動用の強電バッテリ1と、前記強電バッテリ1の後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でスペアタイヤ固定ブラケット4を介してフロアパネル8に固定されたスペアタイヤ2と、を備え、前記フロアパネル8と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2は、前記スペアタイヤ2と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1に対し車両前方側にオフセットしているため、後面衝突時、スペアタイヤ2と車両駆動用の強電バッテリ1との干渉を回避し、強電バッテリ1の破損を防止することができる。
【0029】
(2) 後輪を駆動するリヤモータ7と、前記リヤモータ7を駆動し、前記リヤモータ7の上方位置に配置された車両駆動用の強電バッテリ1と、前記強電バッテリ1の後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でスペアタイヤ固定ブラケットを介してフロアパネルに固定されたスペアタイヤ2と、を備え、前記フロアパネル8と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2は、前記スペアタイヤ2と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1に対し車両前方側にオフセットしているため、大型のリヤモータ7を装備しながらもスペアタイヤ2を配置するスペースを確保することができると共に、後面衝突時、スペアタイヤ2と車両駆動用の強電バッテリ1との干渉を回避し、強電バッテリ1の破損を防止することができる。
【0030】
(3) 前記スペアタイヤ固定ブラケット4は、車両前後方向に対し前方側で前記フロアパネル8に固定したため、ブラケット固定位置の変更のみで、フロアパネル8とスペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2を、スペアタイヤ2とスペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1に対し車両前方側にオフセットすることができる。
【0031】
(4) 前記スペアタイヤ固定ブラケット4は、前記スペアタイヤ2と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1の車両前方側に切り欠き部4d(脆弱部)を有するため、後面衝突時、プレ動作から本動作への移行により、スペアタイヤ2の移動が傾斜角θを増す方向の回転動作となるように確実に規制され、スペアタイヤ2と車両駆動用の強電バッテリ1との干渉回避の確実性を大幅に高めることができる。
【0032】
(5) 前記スペアタイヤ固定ブラケット4は、前記スペアタイヤ2と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1を、前記スペアタイヤ固定ブラケット4に形成したスペアタイヤ固定用ボルト穴4cの位置とし、前記フロアパネル8と前記スペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P2を、前記スペアタイヤ固定ブラケット4に形成したパネル固定部4a1,4a1の位置としたため、スペアタイヤ固定ブラケット4の形状を設定する時点で、所望の位置に固定位置P1,P2を精度良く設定することができる。
【0033】
(6) 前記スペアタイヤ固定ブラケット4は、スペアタイヤ中心軸位置より車両前方側の左右位置で前記フロアパネル8のスペアタイヤパン5に固定された一対のパネル固定部4a1,4a1と、前記一対のパネル固定部4a1,4a1から上方に向かって立ち上げられた一対の立ち上げ部4a2,4a2と、前記一対の立ち上げ部4a2,4a2を左右方向に連結する連結部4a3と、を有するパネル固定要素4aと、前記連結部4a3をそのまま車両後方側に延設する第1延設部4b1と、前記一対の立ち上げ部4a2,4a2の上部位置のみをそのまま車両後方側に延設した第2延設部4b2,4b2と、を有するタイヤ固定要素4bと、前記タイヤ固定要素4bのうち第1延設部4b1に形成したスペアタイヤ固定用ボルト穴4cと、前記タイヤ固定要素4bのうち第2延設部4b2,4b2と、前記パネル固定要素4aの立ち上げ部4a2,4a2と、が交わる角隅部に一対形成された切り欠き部4dと、を有するため、パネル固定要素4aと、タイヤ固定要素4bと、スペアタイヤ固定用ボルト穴4cと、切り欠き部4dと、を備えたブラケット部材を、コスト・スペース・重量的に有利な1部品にて構成することができる。
【0034】
以上、本発明の電動車の車体構造を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0035】
実施例1では、スペアタイヤ固定ブラケット4は、スペアタイヤ2とスペアタイヤ固定ブラケット4間の固定位置P1の車両前方側に切り欠き部4dによる脆弱部を有する例を示したが、脆弱部としては、切り欠き部4d以外に、例えば、板厚を薄くする等に寄っても良いし、さらに、2つの固定位置のオフセット設定だけで、脆弱部を有さないブラケットであっても良い。要するに、フロアパネルとブラケット間の固定位置を、スペアタイヤ2とブラケット間の固定位置に対し車両前方側にオフセットした構成を備えていれば、具体的な構成は、実施例1には限られることはない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
実施例1では、電動車としてハイブリッド4輪駆動車への適用例を示したが、ハイブリッド2輪駆動車や電気自動車や燃料電池車等へも適用できる。要するに、後部座席後方でフロアパネル上に配置された車両駆動用のバッテリと、バッテリの後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でブラケットを介してフロアパネルに固定されたスペアタイヤと、を備えた電動車であれば適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1の車体構造が適用されたハイブリッド4輪駆動車(電動車の一例)を示す車両後部断面図である。
【図2】実施例1の車体構造においてスペアタイヤ固定部を示す図1のA部の詳細断面図である。
【図3】実施例1の車体構造においてスペアタイヤパンに固定されたスペアタイヤ固定ブラケットを示す斜視図である。
【図4】従来の車体構造をそのままハイブリッド4輪駆動車に適用した場合を示す車両後部断面図である。
【図5】図4に示す車体構造での後面衝突時のスペアタイヤと強電バッテリとの干渉作用を示す作用説明図である。
【図6】実施例1のハイブリッド4輪駆動車の車体構造における後面衝突初期をあらわす衝突状態1でのバッテリ干渉防止作用を示す作用説明図である。
【図7】実施例1の車体構造においてスペアタイヤ固定部を示す図6のB部の詳細断面図である。
【図8】実施例1のハイブリッド4輪駆動車の車体構造における後面衝突中期〜後期をあらわす衝突状態2でのバッテリ干渉防止作用を示す作用説明図である。
【図9】実施例1の車体構造においてスペアタイヤ固定部を示す図8のC部の詳細断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 強電バッテリ(車両駆動用のバッテリ)
2 スペアタイヤ
3 スペアタイヤ固定ボルト
4 スペアタイヤ固定ブラケット(ブラケット)
5 スペアタイヤパン
6 リヤサスペンションメンバ
7 リヤモータ(後輪を駆動するモータ)
8 フロアパネル
9 クロスメンバ
10 リヤパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後部座席後方でフロアパネル上に配置された車両駆動用のバッテリと、
前記バッテリの後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でブラケットを介してフロアパネルに固定されたスペアタイヤと、を備え、
前記フロアパネルと前記ブラケット間の固定位置は、前記スペアタイヤと前記ブラケット間の固定位置に対し車両前方側にオフセットしていることを特徴とする電動車の車体構造。
【請求項2】
後輪を駆動するモータと、
前記モータを駆動し、前記モータの上方位置に配置された車両駆動用のバッテリと、
前記バッテリの後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でブラケットを介してフロアパネルに固定されたスペアタイヤと、を備え、
前記フロアパネルと前記ブラケット間の固定位置は、前記スペアタイヤと前記ブラケット間の固定位置に対し車両前方側にオフセットしていることを特徴とする電動車の車体構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動車の車体構造において、
前記ブラケットは、車両前後方向に対し前方側で前記フロアパネルに固定したことを特徴とする電動車の車体構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載された電動車の車体構造において、
前記ブラケットは、前記スペアタイヤと前記ブラケット間の固定位置の車両前方側に脆弱部を有することを特徴とする電動車の車体構造。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載された電動車の車体構造において、
前記ブラケットは、前記スペアタイヤと前記ブラケット間の固定位置を、前記ブラケットに形成したスペアタイヤ固定用ボルト穴の位置とし、前記フロアパネルと前記ブラケット間の固定位置を、前記ブラケットに形成したパネル固定部の位置としたことを特徴とする電動車の車体構造。
【請求項6】
請求項5に記載された電動車の車体構造において、
前記ブラケットは、
スペアタイヤ中心軸位置より車両前方側の左右位置で前記フロアパネルのスペアタイヤパンに固定された一対のパネル固定部と、前記一対のパネル固定部から上方に向かって立ち上げられた一対の立ち上げ部と、前記一対の立ち上げ部を左右方向に連結する連結部と、を有するパネル固定要素と、
前記連結部をそのまま車両後方側に延設する第1延設部と、前記一対の立ち上げ部の上部位置のみをそのまま車両後方側に延設した第2延設部と、を有するタイヤ固定要素と、
前記タイヤ固定要素のうち第1延設部に形成したスペアタイヤ固定用ボルト穴と、
前記タイヤ固定要素のうち第2延設部と、前記パネル固定要素の立ち上げ部と、が交わる角隅部に形成された一対の切り欠き部と、
を有することを特徴とする電動車の車体構造。
【請求項7】
後部座席後方でフロアパネル上に配置された車両駆動用のバッテリと、
前記バッテリの後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でブラケットを介してフロアパネルに固定されたスペアタイヤと、
を備えた電動車の車体構造において、
前記フロアパネルと前記ブラケットとの固定位置を、前記スペアタイヤと前記ブラケットとの固定位置に対し車両前方側にオフセットした位置に設定し、
後面衝突時に前記スペアタイヤが傾斜角を増す方向の回転動作となるよう構成したことを特徴とする電動車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−276605(P2007−276605A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104791(P2006−104791)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】