説明

電動車両の差動制限制御装置

【課題】前後軸間、左右輪間の差動制限を行う際、車両振動や駆動力変化を抑制する電動車両の差動制限制御装置を提供する。
【解決手段】車輪間の実回転数差及び目標回転数差を演算し、実回転数差を目標回転数差に追従させる補正トルクを演算し、補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、補正トルクの絶対値の上限値を最大差動制限トルクで制限したリミット出力を演算し、総駆動トルクから配分された目標駆動トルクの一方にリミッタ出力を加算すると共に、他方からリミッタ出力を減算し、当該トルクとなるように、電動モータを制御して、差動制限を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の前後軸間、左右輪間の差動を制限する差動制限制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前後軸の駆動力を制御する技術として、例えば、特許文献1に示す技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3826247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、(特に、段落0076〜0096、図6〜図8等参照)、前輪又は後輪のいずれかがスリップしている場合には、スリップしている方の車輪の要求トルクを減少させる補正を行っている。しかしながら、前後軸間の差動を制限する差動制限自体は行っていない。前後軸を独立して電動モータで駆動する電動車両に、特許文献1に示す技術を適用して、前後軸間の差動制限を行うことを考えると、電子制御LSD(Limited Slip Differential Gear)を用いたイニシャルトルクによる前後軸間の差動制限制御と同等の効果を得るためには、トルク補正ゲインを高くし、制御応答性を高める必要がある。これにより制御応答性は高まるが、トルク補正量が大きくなるため、制御量が振動的になり、車両振動や駆動力変化が発生するという問題がある。
【0005】
このような問題は、左右輪を独立して電動モータで駆動する電動車両でも同様であり、左右輪間の差動を制限する際に、トルク補正ゲインを高くし、制御応答性を高めると、トルク補正量が大きくなるため、制御量が振動的になり、車両振動や駆動力変化が発生してしまう。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、前後軸間、左右輪間の差動制限を行う際、車両振動や駆動力変化を抑制する電動車両の差動制限制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する第1の発明に係る電動車両の差動制限制御装置は、
第1車輪を駆動する動力源として、少なくとも電動モータを有し、
第2車輪を駆動する動力源として、少なくとも他の電動モータを有し、
前記電動モータと前記他の電動モータとを制御して、前記第1車輪と前記第2車輪との間の差動制限を行う差動制限制御装置を備え、
前記差動制限制御装置は、
運転者の加速要求に応じて、車両の総駆動トルクを演算し、
車両状態及び運転者の操作状態に応じて、前記総駆動トルクを前記第1車輪への目標第1車輪駆動トルクと前記第2車輪への目標第2車輪駆動トルクに各々配分し、
前記第1車輪の実回転数と前記第2車輪の実回転数から、前記第1車輪と前記第2車輪との間の実回転数差を演算し、
前記車両の車速及び操舵角に基づいて、前記第1車輪と前記第2車輪との間の目標回転数差を演算し、
前記実回転数差を前記目標回転数差に追従させる補正トルクを演算し、
運転者の操作状態に基づいて、前記補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、
前記補正トルクの絶対値の上限値を前記最大差動制限トルクで制限したリミッタ出力を演算し、
前記目標第1車輪駆動トルク及び前記目標第2車輪駆動トルクのうち、一方に前記リミッタ出力を加算すると共に、他方から前記リミッタ出力を減算して、制限第1車輪駆動トルク及び制限第2車輪駆動トルクを演算し、
前記制限第1車輪駆動トルクとなるように、前記電動モータを制御すると共に、前記制限第2車輪駆動トルクとなるように、前記他の電動モータを制御して、差動制限を行うことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決する第2の発明に係る電動車両の差動制限制御装置は、
前軸を駆動する動力源として、少なくとも電動モータを有し、
後軸を駆動する動力源として、少なくとも他の電動モータを有し、
前記電動モータと前記他の電動モータとを制御して、前記前軸と前記後軸との間の差動制限を行う差動制限制御装置を備え、
前記差動制限制御装置は、
運転者の加速要求に応じて、車両の総駆動トルクを演算し、
車両状態及び運転者の操作状態に応じて、前記総駆動トルクを前記前軸への目標前軸駆動トルクと前記後軸への目標後軸駆動トルクに各々配分し、
前記前軸の実回転数と前記後軸の実回転数から、前記前軸と前記後軸との間の実回転数差である実前後軸間回転数差を演算し、
前記車両の車速及び操舵角に基づいて、前記前軸と前記後軸との間の目標回転数差を演算し、
前記実前後軸間回転数差を前記目標回転数差に追従させる補正トルクを演算し、
運転者の操作状態に基づいて、前記補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、
前記補正トルクの絶対値の上限値を前記最大差動制限トルクで制限したリミッタ出力を演算し、
前記目標前軸駆動トルク及び前記目標後軸駆動トルクのうち、回転数の遅い軸の方に前記リミッタ出力を加算すると共に、回転数の速い軸の方から前記リミッタ出力を減算して、制限前軸駆動トルク及び制限後軸駆動トルクを演算し、
前記制限前軸駆動トルクとなるように、前記電動モータを制御すると共に、前記制限後軸駆動トルクとなるように、前記他の電動モータを制御して、差動制限を行うことを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する第3の発明に係る電動車両の差動制限制御装置は、
右輪を駆動する動力源として、少なくとも電動モータを有し、
左輪を駆動する動力源として、少なくとも他の電動モータを有し、
前記電動モータと前記他の電動モータとを制御して、前記右輪と前記左輪との間の差動制限を行う差動制限制御装置を備え、
前記差動制限制御装置は、
運転者の加速要求に応じて、車両の総駆動トルクを演算し、
車両状態及び運転者の操作状態に応じて、前記総駆動トルクを前記右輪への目標右輪駆動トルクと前記左輪への目標左輪駆動トルクに各々配分し、
前記右輪の実回転数と前記左輪の実回転数から、前記右輪と前記左輪との間の実回転数差である実左右輪回転数差を演算し、
前記車両の車速及び操舵角に基づいて、前記右輪と前記左輪との間の目標回転数差を演算し、
前記実左右輪回転数差を前記目標回転数差に追従させる補正トルクを演算し、
運転者の操作状態に基づいて、前記補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、
前記補正トルクの絶対値の上限値を前記最大差動制限トルクで制限したリミッタ出力を演算し、
前記目標右輪駆動トルクに前記リミッタ出力を加算して、制限右輪駆動トルクを演算すると共に、前記目標左輪駆動トルクから前記リミッタ出力を減算して、制限左輪駆動トルクを演算し、
前記制限右輪駆動トルクとなるように、前記電動モータを制御すると共に、前記制限左輪駆動トルクとなるように、前記他の電動モータを制御して、差動制限を行うことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第4の発明に係る電動車両の差動制限制御装置は、
上記第1から第3の発明のいずれか1つに記載の電動車両の差動制限制御装置において、
前記差動制限制御装置は、
前記最大差動制限トルクを、運転者の加速要求の増加に応じて、当該最大差動制限トルクが増加する第1のマップを用いて演算し、
前記最大差動制限トルクを補正する補正係数を、前記操舵角の絶対値の増加に応じて、当該補正係数が1から0へ減少する第2のマップを用いて演算し、
前記最大差動制限トルクと前記補正係数とを積算して、前記補正トルクを制限するトルク差上限値を演算し、
前記補正トルクの絶対値の上限値を前記トルク差上限値で制限して、前記リミッタ出力を演算する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハイゲインの追従制御を行って、目標回転数差に対する補正トルクを算出しても、算出した補正トルクの上限を制限し、制限した補正トルクに基づくモータトルクを用いて、電動モータを制御するので、モータトルクの応答性、目標値への収斂性が向上する。その結果、電子制御LSDを用いたイニシャルトルクによる差動制限制御と同等の効果が得られ、安定性の向上やトラクション性能の向上を図ることができる。又、目標回転数差を0とする場合にも、電子制御LSDと同様の効果が得られるため、直進安定性が向上する。
【0012】
又、本発明によれば、車速及び操舵角から演算した目標回転数差を用いるので、目標車体姿勢から実車体姿勢がずれた分だけ差動制限トルク差作用し、スムーズな旋回と優れた安定性を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る電動車両の差動制限制御装置の実施形態の一例を説明する概略構成図である。
【図2】図1に示した電動車両の差動制限制御装置を説明するブロック図である。
【図3】本発明に係る電動車両の差動制限制御装置で用いるマップであり、(a)は駆動トルクに対する最大差動制限トルクを演算するものであり、(b)は操舵角に対する補正係数を演算するものである。
【図4】本発明に係る電動車両の差動制限制御装置の実施形態の他の一例を説明する概略構成図である。
【図5】図4に示した電動車両の差動制限制御装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜図5を参照して、本発明に係る電動車両の差動制限制御装置の実施形態のいくつかを説明する。
【0015】
なお、本発明に係る電動車両の差動制限制御装置は、複数の動力源を有し、動力源として、少なくとも電動モータを用いる電動車両に適用するものである。「少なくとも」とは、動力源として、電動モータを含んでいれば良いとの意味であり、例えば、電動モータと内燃機関(エンジン)とを組み合わせて、動力源として用いても良いが、あくまでも、差動制限の際の制御対象は電動モータとなる。又、「複数の動力源」とは、後述する実施例1(図1参照)に示すように、複数の動力源(複数の電動モータ)の各々により、前後軸を独立して駆動する構成でも良いし、後述する実施例2(図4参照)に示すように、複数の動力源(複数の電動モータ)の各々により、左右輪を独立して駆動する構成でもよい。
【0016】
(実施例1)
図1は、本実施例の電動車両の差動制限制御装置を説明する概略構成図である。又、図2は、図1に示した差動制限制御装置を説明するブロック図であり、図3は、本発明の差動制限制御装置で用いるマップである。
【0017】
図1に示す電動車両10は、前左輪11と前右輪12とを駆動する前軸13と、デファレンシャル・ギア14を介して、前軸13と接続され、前軸13の動力源となる前軸モータ15(電動モータ)と、後左輪16と後右輪17とを駆動する後軸18と、デファレンシャル・ギア19を介して、後軸18と接続され、後軸18の動力源となる後軸モータ20(他の電動モータ)とを有する。なお、本実施例においては、前左輪11及び前右輪12、即ち、前軸13側が第1車輪となり、後左輪16及び後右輪17、即ち、後軸18側が第2車輪となる。
【0018】
そして、上記の前軸モータ15と後軸モータ20とを、差動制限制御装置21で制御することにより、後述する前後軸間の差動制限を行っている。ここで、デファレンシャル・ギア14は、前軸モータ15からの出力を左輪11及び右輪12に駆動力として伝達すると共に、左輪11と右輪12との回転数差を調整するものであり、デファレンシャル・ギア19は、後軸モータ20からの出力を左輪16及び右輪17に駆動力として伝達すると共に、左輪16と右輪17との回転数差を調整するものである。
【0019】
次に、図2、図3も参照して、差動制限制御装置21の機能及び制御を説明する。
【0020】
差動制限制御装置21は、総駆動トルク演算手段B1と、トルク配分演算手段B2と、前軸駆動トルク→前軸モータトルク変換手段B3と、前軸モータ制御手段B4と、目標回転数差演算手段B5と、実前軸回転数演算手段B6と、実後軸回転数演算手段B7と、目標回転数差追従制御手段B8と、トルク差上限値演算手段B9と、リミッタB10と、後軸駆動トルク→後軸モータトルク変換手段B11と、後軸モータ制御手段B12とを有する。
【0021】
なお、センサ群A1は、例えば、車速を検出する車速センサ、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ、ステアリングの操舵角を検出する操舵角センサ、各輪の車輪速から実回転数を検出する車輪速センサ、前後加速度を検出する前後加速度センサ(共に図示省略)等であり、検出されたセンサ値を用いて、後述する演算が行われる。
【0022】
総駆動トルク演算手段B1では、運転者の加速要求に応じて、総駆動トルクを演算している。具体的には、車速センサ、アクセル開度センサで検出された車速、アクセル開度に基づき、下記式に示すように、車速、アクセル開度を変数とする関数F1により総駆動トルクを求めている。
総駆動トルク=F1(車速、アクセル開度)
【0023】
トルク配分演算手段B2では、総駆動トルク演算手段B1で演算された総駆動トルクを、車両状態や運転者の操作状態に応じて、前軸13、後軸18各々に、目標駆動トルクとして配分している。前軸13へ配分する目標前軸駆動トルクは、車両状態や運転者の操作状態を変数とする関数F2又はF3により求めても良いし(例えば、下記式(1)、(2))、車両の荷重配分比(固定値)に応じて求めても良い(下記式(3))。
目標前軸駆動トルク=総駆動トルク×F2(アクセル開度又は駆動トルク) …(1)
目標前軸駆動トルク=総駆動トルク×F3(前後加速度) …(2)
目標前軸駆動トルク=総駆動トルク×荷重配分比(固定値) …(3)
【0024】
そして、後軸18へ配分する目標後軸駆動トルクは、上記式(1)〜(3)のいずれかを用いて求めた目標前軸駆動トルクを用いて、以下の式により求めている。
目標後軸駆動トルク=総駆動トルク−目標前軸駆動トルク
【0025】
そして、後述するように、配分された目標前軸駆動トルク及び目標後軸駆動トルクに対して、補正トルクが求められるが、この補正トルクがトルク差上限値により制限されることになり、これにより差動制限を行うことになる。
【0026】
目標回転数差演算手段B5では、車両状態や運転者の操作状態に応じて、目標回転数差を演算している。具体的には、車速センサ、操舵角センサで検出された車速、操舵角に基づき、下記式に示すように、車速、操舵角を変数とする関数F4により目標回転数差を求める。
目標回転数差=F4(車速、操舵角)
なお、直進状態のとき、目標回転数差は、0となる。
【0027】
実前軸回転数演算手段B6、実後軸回転数演算手段B7では、各輪の車輪速センサを用いて、以下の式から、前軸13及び後軸18の実回転数を求めている。
実前軸回転数=(前右輪回転数+前左輪回転数)÷2
実後軸回転数=(後右輪回転数+後左輪回転数)÷2
【0028】
なお、実前軸回転数演算手段B6、実後軸回転数演算手段B7において、前軸モータ15、後軸モータ20で検出されたモータ回転数を用いて、実前軸回転数、実後軸回転数を求めるようにしても良い。
実前軸回転数=前軸モータ回転数×係数
実後軸回転数=後軸モータ回転数×係数
【0029】
そして、演算器C1において、実前軸回転数演算手段B6で求めた実前軸回転数から、実後軸回転数演算手段B7で求めた実後軸回転数を減算することで、実前後軸間回転数差を求めている。
実前後軸間回転数差=実前軸回転数−実後軸回転数
【0030】
目標回転数差追従制御手段B8では、実前後軸間回転数差を目標回転数差へ追従制御させるための補正トルクを演算している。具体的には、目標回転数差演算手段B5で求めた目標回転数差と、実前軸回転数演算手段B6、実後軸回転数演算手段B7及び演算器C1で求めた実前後軸間回転数差との偏差に基づき、下記式に示すように、PID制御により、目標前軸駆動トルク及び目標後軸駆動トルクを補正する補正トルクを求めている。
補正トルク=PID(目標回転数差−実前後軸間回転数差)
上記補正トルクが、後述するトルク差上限値演算手段B9で求められたトルク差上限値により制限されることになる。
なお、補正トルクは、PID制御に限らず、他の制御方法、例えば、H∞制御、ファジィ制御等により求めるようにしても良い。但し、本実施例では、どのような制御を用いた場合でも、応答性を高くするため、そのゲインを高く設定している。
【0031】
トルク差上限値演算手段B9では、車両状態や運転者の操作状態に基づいて、目標回転数差追従制御手段B8で算出された補正トルクに対する上限値(トルク差上限値)を演算している。具体的には、図3(a)、(b)に示すマップを用いて、トルク差上限値が演算される。
【0032】
図3(a)に示すマップ1(第1のマップ)は、運転者の加速要求となる総駆動トルクに基づいて、補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算するマップであり、総駆動トルクの増加に比例して、最大差動制限トルクを増加させている。後述の図3(b)のマップ2に示すように、操舵角の絶対値が0のとき、この最大差動制限トルクに対する補正係数は1である。そして、図3(a)に示すマップ1は、操舵角の絶対値が0のときのものであり、補正トルクを制限する最大値となる。
【0033】
なお、総駆動トルクに代えて、運転者の加速要求となるアクセル開度に基づいて、最大差動制限トルクを演算してもよく、その場合のマップも、アクセル開度の増加に比例して、最大差動制限トルクを増加させている。アクセル開度は、アクセル開度センサを用いて検出する。
【0034】
図3(b)に示すマップ2(第2のマップ)は、操舵角センサで検出した操舵角に基づいて、マップ1で演算した最大差動制限トルクを補正する補正係数を演算するマップであり、操舵角の絶対値の増加に反比例して、補正係数を1から0へ減少させており、操舵角の絶対値が所定の値より大きい場合は、補正係数を0としている。
【0035】
そして、トルク差上限値演算手段B9では、下記式に示すように、マップ1で演算した最大差動制限トルクにマップ2で演算した補正係数を積算することで、トルク差上限値を求めている。
トルク差上限値=(MAP1の最大差動制限トルク)×(MAP2の補正係数)
【0036】
リミッタB10では、目標回転数差追従制御手段B8から入力された補正トルクの絶対値を、トルク差上限値演算手段B9で演算されたトルク差上限値以下に制限し、出力している。具体的には、以下の式を用いて、補正トルクの絶対値の上限をトルク差上限値で制限したリミッタ出力を演算している。
リミッタ出力L=max{(−トルク差上限値)、min(トルク差上限値、補正トルク)}
【0037】
演算器C2では、リミッタB10で制限したリミッタ出力Lに係数Aを積算し、補正値[A×L]を出力する。なお、係数Aは、例えば、「0.5」であり、目標回転数差追従制御手段B8で算出された補正トルクと、本差動制限制御によるトルク差(具体的には、後述する演算器C3で算出された制限前軸駆動トルクと演算器C4で算出された制限後軸駆動トルクとの差)とを等しくするものである。
【0038】
演算器C2から出力された補正値[A×L]は、トルク配分演算手段B2で演算された目標前軸駆動トルク及び目標後軸駆動トルクを補正するものであり、これを、回転数の速い軸の方の目標駆動トルクから減算し、回転数の遅い軸の方の目標駆動トルクに加算することにより、各軸の目標駆動トルクを補正している。なお、本実施例では、前軸13の回転数を速い方とし、後軸18の回転数を遅い方として、以降の説明を行う。
【0039】
演算器C3では、トルク配分演算手段B2で演算された目標前軸駆動トルクから、演算器C2から出力された補正値[A×L]を減算することで、最終的な前軸駆動トルク(制限前軸駆動トルク)を出力しており、一方、演算器C4では、トルク配分演算手段B2で演算された目標後軸駆動トルクに、演算器C2から出力された補正値[A×L]を加算することで、最終的な後軸駆動トルク(制限後軸駆動トルク)を出力している。
【0040】
前軸駆動トルク→前軸モータトルク変換手段B3では、以下の式を用いて、演算器C3から出力された制限前軸駆動トルクを、前軸モータ15の前軸モータトルクに変換している。この式での係数は、前軸13の減速比に応じたものであり、例えば、係数=(1/減速比)である。
前軸モータトルク=制限前軸駆動トルク×係数
【0041】
同様に、後軸駆動トルク→後軸モータトルク変換手段B11では、以下の式を用いて、演算器C4から出力された制限後軸駆動トルクを、後軸モータ20の後軸モータトルクに変換している。この式での係数は、後軸18の減速比に応じたものであり、例えば、係数=(1/減速比)である。
後軸モータトルク=制限後軸駆動トルク×係数
【0042】
前軸モータ制御手段B4では、上記前軸モータトルクを出力するように、前軸モータ15を制御しており、後軸モータ制御手段B12では、上記後軸モータトルクとなるように、後軸モータ20を制御しており、このようにして、前軸モータ15及び後軸モータ20を制御することにより、差動制限を行うことになる。
【0043】
ここで、図1〜図3を参照して、差動制限制御装置21における差動制限の制御手順の概略を説明する。
【0044】
運転者の加速要求(車速、アクセル開度)に応じて、総駆動トルクを演算し、車両状態や運転者の操作状態に応じて、前軸13、後軸18各々に配分する目標前軸駆動トルク、目標後軸駆動トルクを求める(図2の総駆動トルク演算手段B1、トルク配分演算手段B2参照)。
【0045】
前軸13及び後軸18の実回転数又は前軸モータ15のモータ回転数及び後軸モータ20のモータ回転数を用いて、実前後軸間回転数差を演算する(図2の前軸実回転数演算手段B6、後軸実回転数演算手段B7及び演算器C1参照)。
【0046】
車両状態(車速)や運転者の操作状態(操舵角)に基づき、目標回転数差を演算する(図2の目標回転数差演算手段B5参照)。
【0047】
目標回転数差に対する実前後軸間回転数差の偏差を用いて、実前後軸間回転数差を目標回転数差へ追従制御させるための補正トルクを演算する(図2の目標回転数差追従制御手段B8参照)。例えば、PID制御により補正トルクを求めればよい。
【0048】
運転者の操作状態(総駆動トルク(又はアクセル開度)、操舵角)に基づいて、補正トルクに対するトルク差上限値を演算する(図2のトルク差上限値演算手段B9及び図3(a)、(b)のマップ1、2参照)。このとき、総駆動トルク又はアクセル開度に基づいて、補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、操舵角に基づいて、最大差動制限トルクを補正する補正係数を演算し、最大差動制限トルクに補正係数を積算することで、トルク差上限値を求めている。
【0049】
補正トルクの絶対値をトルク差上限値以下に制限するリミッタ処理を行う(図2のリミッタB10参照)。
【0050】
リミッタ処理されたリミッタ出力Lに係数Aを積算して、補正値[A×L]を出力し、トルク配分演算手段B2で演算された目標前軸駆動トルクから補正値[A×L]を減算して、最終的な前軸駆動トルク(制限前軸駆動トルク)として出力すると共に、トルク配分演算手段B2で演算された目標後軸駆動トルクに補正値[A×L]を加算して、最終的な後軸駆動トルク(制限後軸駆動トルク)を出力する(図2の演算器C2、C3、C4参照)。
【0051】
制限前軸駆動トルクを前軸モータ15で出力する前軸モータトルクに変換する(図2の前軸駆動トルク→前軸モータトルク変換手段B3参照)と共に、制限後軸駆動トルクを後軸モータ20で出力する後軸モータトルクに変換する(図2の後軸駆動トルク→後軸モータトルク変換手段B11参照)。
【0052】
変換した前軸モータトルク及び後軸モータトルクを各々出力するように、前軸モータ15及び後軸モータ20を制御して、差動制限を行う(図2の前軸モータ制御手段B4、後軸モータ制御手段B12参照)。
【0053】
上述した制御により、ハイゲインの追従制御を行って、目標回転数差に対する補正トルクを算出しても、算出した補正トルクの上限を制限し、制限した補正トルクに基づくモータトルクを用いて、前軸モータ15及び後軸モータ20を制御するので、モータトルクの応答性、目標値への収斂性が向上する。その結果、電子制御LSDを用いたイニシャルトルクによる差動制限制御と同等の効果が得られ、安定性の向上やトラクション性能の向上を図ることができる。又、目標回転数差を0とする場合にも、電子制御LSDと同様の効果が得られるため、直進安定性が向上する。
【0054】
又、上述した制御により、制限された補正トルク(リミッタ出力L)に係数Aを積算した補正値[A×L]を、目標前軸駆動トルク及び目標後軸駆動トルクの一方(回転数の遅い方)へ加算し、他方(回転数の速い方)から減算するので、差動制限制御が介入しても、総駆動トルクは変化せず、スムーズな加減速を実現することができる。
【0055】
又、上述した制御では、車速及び操舵角から演算した目標回転数差を用いるので、目標車体姿勢から実車体姿勢がずれた分だけ差動制限トルクが作用し、スムーズな旋回と優れた安定性を両立することができる。
【0056】
(実施例2)
図4は、本実施例の電動車両の差動制限制御装置を説明する概略構成図である。又、図5は、図4に示した差動制限制御装置を説明するブロック図である。
【0057】
図1に示す電動車両30は、前左輪31と、前右輪32と、前左輪31を独立して駆動する動力源となる前左輪モータ33と、前右輪32を独立して駆動する動力源となる前右輪モータ34と、後左輪35と、後右輪36と、後左輪35を独立して駆動する動力源となる後左輪モータ37と、後右輪36を独立して駆動する動力源となる後右輪モータ38とを有する。つまり、四輪が独立して電動モータで駆動される構成である。
【0058】
そして、後右輪モータ38(電動モータ)及び後左輪モータ37(他の電動モータ)は、差動制限制御装置39により制御される。差動制限制御装置39の制御対象は、前左輪モータ33及び前右輪モータ34のみでも、後左輪モータ37及び後右輪モータ38のみでも、前左輪モータ33、前右輪モータ34、後左輪モータ37及び後右輪モータ38全てでも構わないが、本実施例では、説明を簡単にするため、制御対象を後左輪モータ37及び後右輪モータ38のみとして説明を行う。つまり、本実施例においては、後右輪36が第1車輪となり、後左輪35が第2車輪となる。
【0059】
次に、図5も参照して、差動制限制御装置39の機能及び制御を説明する。
【0060】
差動制限制御装置39は、総駆動トルク演算手段B21と、トルク配分演算手段B22と、後右輪駆動トルク→後右輪モータトルク変換手段B23と、後右輪モータ制御手段B24と、目標回転数差演算手段B25と、実後右輪回転数検出手段B26と、実後左輪回転数検出手段B27と、目標回転数差追従制御手段B28と、トルク差上限値演算手段B29と、リミッタB30と、後左輪駆動トルク→後左輪モータトルク変換手段B31と、後左輪モータ制御手段B32とを有する。
【0061】
なお、センサ群A21は、例えば、車速を検出する車速センサ、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ、ステアリングの操舵角を検出する操舵角センサ、各輪の車輪速から実回転数を検出する車輪速センサ、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ、車両の横加速度を検出する横加速度センサ(共に図示省略)等であり、検出されたセンサ値を用いて、後述する演算が行われる。
【0062】
総駆動トルク演算手段B21では、運転者の加速要求に応じて、総駆動トルクを演算している。具体的には、車速センサ、アクセル開度センサで検出された車速、アクセル開度に基づき、下記式に示すように、車速、アクセル開度を変数とする関数F1により総駆動トルクを求めている。
総駆動トルク=F1(車速、アクセル開度)
【0063】
トルク配分演算手段B22では、総駆動トルク演算手段B21で演算された総駆動トルクを、車両状態や運転者の操作状態に応じて、後左輪35、後右輪36各々に、目標駆動トルクとして配分している。後右輪36へ配分する目標後右輪駆動トルクは、目標ヨーレートとヨーレートセンサで検出された実ヨーレートとの偏差に基づき、PID制御により求めても良いし(下記式(4))、車両の荷重配分比(固定値)に応じて求めても良いし(下記式(5))、横加速度センサで検出された横加速度に基づき、横加速度を変数とする関数F4により求めても良い(下記式(6))。
目標後右輪駆動トルク=総駆動トルク×PID(目標ヨーレート−実ヨーレート)
…(4)
目標後右輪駆動トルク=総駆動トルク×荷重配分比(固定値) …(5)
目標後右輪駆動トルク=総駆動トルク×F5(横加速度) …(6)
【0064】
そして、後左輪35へ配分する目標後左輪駆動トルクは、上記式(4)〜(6)のいずれかを用いて求めた目標後右輪駆動トルクを用いて、以下の式により求めている。
目標後左輪駆動トルク=総駆動トルク−目標後右輪駆動トルク
【0065】
そして、後述するように、配分された目標後右輪駆動トルク及び目標後左輪駆動トルクに対して、補正トルクが求められるが、この補正トルクがトルク差上限値により制限されることになり、これにより差動制限を行うことになる。
【0066】
目標回転数差演算手段B25では、車両状態や運転者の操作状態に応じて、目標回転数差を演算している。具体的には、車速センサ、操舵角センサで検出された車速、操舵角に基づき、下記式に示すように、車速、操舵角を変数とする関数F4により目標回転数差を求める。
目標回転数差=F4(車速、操舵角)
なお、直進状態のとき、目標回転数差は、0となる。
【0067】
実後右輪回転数検出手段B26では、後右輪36の車輪速センサから実後右輪回転数を検出しており、実後左輪回転数検出手段B27では、後左輪35の車輪速センサから実後左輪回転数を検出しており、演算器C21において、下記式に示すように、検出した実後右輪回転数から検出した実後左輪回転数を減算することにより、後右輪36と後左輪35との回転数差である実左右輪回転数差を求めている。
実左右輪回転数差=実後右輪回転数−実後左輪回転数
又、後左輪モータ37及び後右輪モータ38で検出された後左輪実モータ回転数及び後右輪実モータ回転数に基づき、下記式に示すように、実左右輪回転数差を求めるようにしてもよい。
実左右輪回転数差=(後右輪実モータ回転数−後左輪実モータ回転数)×係数
【0068】
目標回転数差追従制御手段B28では、実左右輪回転数差を目標回転数差へ追従制御させるための補正トルクを演算している。具体的には、目標回転数差演算手段B25で求めた目標回転数差と、実後右輪回転数検出手段B26、実後左輪回転数検出手段B27及び演算器C21で求めた実左右輪回転数差との偏差に基づき、下記式に示すように、PID制御により補正トルクを求める。
補正トルク=PID(目標回転数差−実左右輪回転数差)
なお、補正トルクは、PID制御に限らず、他の制御方法、例えば、H∞制御、ファジィ制御等により求めるようにしても良い。但し、本実施例では、どのような制御を用いた場合でも、応答性を高くするため、そのゲインを高く設定している。
【0069】
トルク差上限値演算手段B29では、車両状態や運転者の操作状態に基づいて、目標回転数差追従制御手段B28で算出された補正トルクに対する上限値(トルク差上限値)を演算している。具体的には、図3(a)、(b)に示すマップを用いて、トルク差上限値が演算される。なお、本実施例で用いるマップは、厳密には、図3(a)、(b)に示すマップとは値が異なるが、形状は同様のものであるので、本実施例では、一例として、図3(a)、(b)を用いて、以降の説明を行う。
【0070】
図3(a)に示すマップ1(第1のマップ)は、運転者の加速要求となる総駆動トルクに基づいて、補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算するマップであり、総駆動トルクの増加に比例して、最大差動制限トルクを増加させている。後述の図3(b)のマップ2に示すように、操舵角の絶対値が0のとき、この最大差動制限トルクに対する補正係数は1である。そして、図3(a)に示すマップ1は、操舵角の絶対値が0のときのものであり、補正トルクを制限する最大値となる。
【0071】
なお、総駆動トルクに代えて、運転者の加速要求となるアクセル開度に基づいて、最大差動制限トルクを演算してもよく、その場合のマップも、アクセル開度の増加に比例して、最大差動制限トルクを増加させている。アクセル開度は、アクセル開度センサを用いて検出する。
【0072】
図3(b)に示すマップ2(第2のマップ)は、操舵角センサで検出した操舵角に基づいて、マップ1で演算した最大差動制限トルクを補正する補正係数を演算するマップであり、操舵角の絶対値の増加に反比例して、補正係数を1から0へ減少させており、操舵角の絶対値が所定の値より大きい場合は、補正係数を0としている。
【0073】
そして、トルク差上限値演算手段B29では、下記式に示すように、マップ1で演算した最大差動制限トルクにマップ2で演算した補正係数を積算することで、トルク差上限値を求めている。
トルク差上限値=(MAP1の最大差動制限トルク)×(MAP2の補正係数)
【0074】
リミッタB30では、目標回転数差追従制御手段B28から入力された補正トルクの絶対値を、トルク差上限値演算手段B29で演算されたトルク差上限値以下に制限し、出力している。具体的には、以下の式を用いて、補正トルクの絶対値の上限をトルク差上限値で制限したリミッタ出力を演算している。
リミッタ出力=max{(−トルク差上限値)、min(トルク差上限値、補正トルク)}
【0075】
演算器C22では、リミッタB30で制限したリミッタ出力Lに係数Aを積算し、補正値[A×L]を出力する。なお、係数Aは、例えば、「0.5」であり、目標回転数差追従制御手段B28で算出された補正トルクと、本差動制限制御によるトルク差(具体的には、後述する演算器C23で算出された制限後右輪駆動トルクと演算器C24で算出された制限後左輪駆動トルクとの差)とを等しくするものである。
【0076】
演算器C23では、トルク配分演算手段B22で演算された目標後右輪駆動トルクに、演算器C22から出力された補正値[A×L]を加算することで、最終的な後右輪駆動トルク(制限後右輪駆動トルク)を出力しており、一方、演算器C24では、トルク配分演算手段B22で演算された目標後左輪駆動トルクから、演算器C22から出力された補正値[A×L]を減算することで、最終的な後左輪駆動トルク(制限後左輪駆動トルク)を出力している。
【0077】
後右輪駆動トルク→後右輪モータトルク変換手段B23では、以下の式を用いて、演算器C23から出力された制限後右輪駆動トルクを、後右輪モータ38の後右輪モータトルクに変換している。この式での係数は、後右輪36の減速比に応じたものであり、例えば、係数=(1/減速比)である。
後右輪モータトルク=制限後右輪駆動トルク×係数
【0078】
同様に、後左輪駆動トルク→後左輪モータトルク変換手段B31では、以下の式を用いて、演算器C24から出力された制限後左輪駆動トルクを、後左輪モータ37の後左輪モータトルクに変換している。この式での係数は、後左輪35の減速比に応じたものであり、例えば、係数=(1/減速比)である。
後左輪モータトルク=制限後左輪駆動トルク×係数
【0079】
後右輪モータ制御手段B24では、上記後右輪モータトルクを出力するように、後右輪モータ38を制御しており、後左輪モータ制御手段B32では、上記後左輪モータトルクとなるように、後左輪モータ37を制御しており、このようにして、後右輪モータ38及び後左輪モータ37を制御することにより、差動制限を行うことになる。
【0080】
ここで、図3〜図5を参照して、差動制限制御装置39における差動制限の制御手順の概略を説明する。
【0081】
運転者の加速要求(車速、アクセル開度)に応じて、総駆動トルクを演算し、車両状態や運転者の操作状態に応じて、後左輪35、後右輪36各々に配分する目標後左輪駆動トルク、目標後右輪駆動トルクを求める(図5の総駆動トルク演算手段B21、トルク配分演算手段B22参照)。
【0082】
後左輪35及び後右輪36の実回転数又は後左輪モータ37のモータ回転数及び後右輪モータ38のモータ回転数を用いて、実左右輪回転数差を演算する(図5の後右輪実回転数検出手段B26、後左輪実回転数検出手段B27及び演算器C21参照)。
【0083】
車両状態(車速)や運転者の操作状態(操舵角)に基づき、目標回転数差を演算する(図5の目標回転数差演算手段B25参照)。
【0084】
目標回転数差に対する実左右輪回転数差の偏差を用いて、実左右輪回転数差を目標回転数差へ追従制御させるための補正トルクを演算する(図5の目標回転数差追従制御手段B28参照)。例えば、PID制御により補正トルクを求めればよい。
【0085】
運転者の操作状態(総駆動トルク(又はアクセル開度)、操舵角)に基づいて、補正トルクに対するトルク差上限値を演算する(図5のトルク差上限値演算手段B29及び図3(a)、(b)のマップ1、2参照)。このとき、総駆動トルク又はアクセル開度に基づいて、補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、操舵角に基づいて、最大差動制限トルクを補正する補正係数を演算し、最大差動制限トルクに補正係数を積算することで、トルク差上限値を求めている。
【0086】
補正トルクの絶対値をトルク差上限値以下に制限するリミッタ処理を行う(図5のリミッタB30参照)。
【0087】
リミッタ処理されたリミッタ出力Lに係数Aを積算して、補正値[A×L]を出力し、トルク配分演算手段B22で演算された目標後右輪駆動トルクに補正値[A×L]を加算して、最終的な後右輪駆動トルク(制限後右輪駆動トルク)として出力すると共に、トルク配分演算手段B22で演算された目標後左輪駆動トルクから補正値[A×L]を減算して、最終的な後左輪駆動トルク(制限後左輪駆動トルク)を出力する(図5の演算器C22、C23、C24参照)。
【0088】
制限後右輪駆動トルクを後右輪モータ38で出力する後右輪モータトルクに変換する(図5の後右輪前軸駆動トルク→後右輪モータトルク変換手段B23参照)と共に、制限後左輪駆動トルクを後左輪モータ37で出力する後左輪モータトルクに変換する(図5の後左輪駆動トルク→後左輪モータトルク変換手段B31参照)。
【0089】
変換した後右輪モータトルク及び後左輪モータトルクを各々出力するように、後右輪モータ38及び後左輪モータ37を制御して、差動制限を行う(図5の後右輪モータ制御手段B24、後左輪モータ制御手段B32参照)。
【0090】
上述した制御により、ハイゲインの追従制御を行って、目標回転数差に対する補正トルクを算出しても、算出した補正トルクの上限を制限し、制限した補正トルクに基づくモータトルクを用いて、後右輪モータ38及び後左輪モータ37を制御するので、モータトルクの応答性、目標値への収斂性が向上する。その結果、電子制御LSDを用いたイニシャルトルクによる差動制限制御と同等の効果が得られ、安定性の向上やトラクション性能の向上を図ることができる。又、目標回転数差を0とする場合にも、電子制御LSDと同様の効果が得られるため、直進安定性が向上する。
【0091】
又、上述した制御では、車速及び操舵角から演算した目標回転数差を用いるので、目標車体姿勢から実車体姿勢がずれた分だけ差動制限トルクが作用し、スムーズな旋回と優れた安定性を両立することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、電動車両において、前後軸間、左右輪間の差動制限を行う際に好適なものである。
【符号の説明】
【0093】
11、31 前左輪
12、32 前右輪
13 前軸
14 デファレンシャル・ギア
15、20、33、34、37、38 電動モータ
16、35 後左輪
17、36 後右輪
18 後軸
19 デファレンシャル・ギア
21、39 差動制限制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車輪を駆動する動力源として、少なくとも電動モータを有し、
第2車輪を駆動する動力源として、少なくとも他の電動モータを有し、
前記電動モータと前記他の電動モータとを制御して、前記第1車輪と前記第2車輪との間の差動制限を行う差動制限制御装置を備え、
前記差動制限制御装置は、
運転者の加速要求に応じて、車両の総駆動トルクを演算し、
車両状態及び運転者の操作状態に応じて、前記総駆動トルクを前記第1車輪への目標第1車輪駆動トルクと前記第2車輪への目標第2車輪駆動トルクに各々配分し、
前記第1車輪の実回転数と前記第2車輪の実回転数から、前記第1車輪と前記第2車輪との間の実回転数差を演算し、
前記車両の車速及び操舵角に基づいて、前記第1車輪と前記第2車輪との間の目標回転数差を演算し、
前記実回転数差を前記目標回転数差に追従させる補正トルクを演算し、
運転者の操作状態に基づいて、前記補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、
前記補正トルクの絶対値の上限値を前記最大差動制限トルクで制限したリミッタ出力を演算し、
前記目標第1車輪駆動トルク及び前記目標第2車輪駆動トルクのうち、一方に前記リミッタ出力を加算すると共に、他方から前記リミッタ出力を減算して、制限第1車輪駆動トルク及び制限第2車輪駆動トルクを演算し、
前記制限第1車輪駆動トルクとなるように、前記電動モータを制御すると共に、前記制限第2車輪駆動トルクとなるように、前記他の電動モータを制御して、差動制限を行うことを特徴とする電動車両の差動制限制御装置。
【請求項2】
前軸を駆動する動力源として、少なくとも電動モータを有し、
後軸を駆動する動力源として、少なくとも他の電動モータを有し、
前記電動モータと前記他の電動モータとを制御して、前記前軸と前記後軸との間の差動制限を行う差動制限制御装置を備え、
前記差動制限制御装置は、
運転者の加速要求に応じて、車両の総駆動トルクを演算し、
車両状態及び運転者の操作状態に応じて、前記総駆動トルクを前記前軸への目標前軸駆動トルクと前記後軸への目標後軸駆動トルクに各々配分し、
前記前軸の実回転数と前記後軸の実回転数から、前記前軸と前記後軸との間の実回転数差である実前後軸間回転数差を演算し、
前記車両の車速及び操舵角に基づいて、前記前軸と前記後軸との間の目標回転数差を演算し、
前記実前後軸間回転数差を前記目標回転数差に追従させる補正トルクを演算し、
運転者の操作状態に基づいて、前記補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、
前記補正トルクの絶対値の上限値を前記最大差動制限トルクで制限したリミッタ出力を演算し、
前記目標前軸駆動トルク及び前記目標後軸駆動トルクのうち、回転数の遅い軸の方に前記リミッタ出力を加算すると共に、回転数の速い軸の方から前記リミッタ出力を減算して、制限前軸駆動トルク及び制限後軸駆動トルクを演算し、
前記制限前軸駆動トルクとなるように、前記電動モータを制御すると共に、前記制限後軸駆動トルクとなるように、前記他の電動モータを制御して、差動制限を行うことを特徴とする電動車両の差動制限制御装置。
【請求項3】
右輪を駆動する動力源として、少なくとも電動モータを有し、
左輪を駆動する動力源として、少なくとも他の電動モータを有し、
前記電動モータと前記他の電動モータとを制御して、前記右輪と前記左輪との間の差動制限を行う差動制限制御装置を備え、
前記差動制限制御装置は、
運転者の加速要求に応じて、車両の総駆動トルクを演算し、
車両状態及び運転者の操作状態に応じて、前記総駆動トルクを前記右輪への目標右輪駆動トルクと前記左輪への目標左輪駆動トルクに各々配分し、
前記右輪の実回転数と前記左輪の実回転数から、前記右輪と前記左輪との間の実回転数差である実左右輪回転数差を演算し、
前記車両の車速及び操舵角に基づいて、前記右輪と前記左輪との間の目標回転数差を演算し、
前記実左右輪回転数差を前記目標回転数差に追従させる補正トルクを演算し、
運転者の操作状態に基づいて、前記補正トルクの最大値を制限する最大差動制限トルクを演算し、
前記補正トルクの絶対値の上限値を前記最大差動制限トルクで制限したリミッタ出力を演算し、
前記目標右輪駆動トルクに前記リミッタ出力を加算して、制限右輪駆動トルクを演算すると共に、前記目標左輪駆動トルクから前記リミッタ出力を減算して、制限左輪駆動トルクを演算し、
前記制限右輪駆動トルクとなるように、前記電動モータを制御すると共に、前記制限左輪駆動トルクとなるように、前記他の電動モータを制御して、差動制限を行うことを特徴とする電動車両の差動制限制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の電動車両の差動制限制御装置において、
前記差動制限制御装置は、
前記最大差動制限トルクを、運転者の加速要求の増加に応じて、当該最大差動制限トルクが増加する第1のマップを用いて演算し、
前記最大差動制限トルクを補正する補正係数を、前記操舵角の絶対値の増加に応じて、当該補正係数が1から0へ減少する第2のマップを用いて演算し、
前記最大差動制限トルクと前記補正係数とを積算して、前記補正トルクを制限するトルク差上限値を演算し、
前記補正トルクの絶対値の上限値を前記トルク差上限値で制限して、前記リミッタ出力を演算することを特徴とする電動車両の差動制限制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−130629(P2011−130629A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288993(P2009−288993)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】