説明

電子制御スロットル装置

【課題】 電子式制御システムに異常や故障を生じた場合に機械的にスロットルを開閉させる電子制御スロットル装置について、リンプホーム機構をよりシンプルな構造としてコストの低減,装置の軽量化を実現し、高い信頼性を確保する。
【解決手段】 アクチュエータレバー14上で軸支され係合位置でスロットル軸レバー16に係合してアクチュエータレバー14の回転をスロットル軸レバー16に伝達し連動させるフック部材14Aを設け、リンプホーム機構の作動により、先ずリンプホームレバー32の回転でフック部材14Aを回転させることでアクチュエータレバー14とスロットル軸レバー16との連動を解除するように分離手段が働き、次にリンプホームレバー32の回転によりスロットル軸レバー16を回転させることで、補助アクチュエータ25のピストンロッド28のストロークに応じてスロットル3を開閉動作させるように操作手段が働くものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子式制御システムによって開閉動作させる車両用エンジンの吸気系に設置されるスロットルにおいて、電子式制御システムにスロットルの開閉動作を不可能とする異常や故障が発生したとき、車両の停止または暴走を防止し安全を確保するリンプホーム機構を備えた電子制御スロットル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの制御を高精度に行うため、スロットルを運転者のアクセル操作により機械的に開閉動作させる代わりに、電子式制御システムを用いて電子的に開閉動作させる技術は広く知られており、この制御システムはスロットルを目標開度位置に開閉動作させるアクチュエータ、アクセル操作量とスロットル位置とに基いてアクチュエータに所要の駆動信号を送るコントロールユニットを含んでいる。
【0003】
ここで、前記の制御システムに異常や故障を生じたとき、車両が走行不能となったり暴走したりする事態を避けるため、アクチュエータにステッピングモータを用いたものについて一つの励磁巻線に異常を生じたとき正常なもう一つの励磁巻線を使用してスロットルを一定の小開度に保持させること(特許文献1参照)、コントロールユニットについてスロットルの開度信号記憶部に異常を生じたときアクセル操作量に応じた代替開度信号を算出してアクチュエータに出力すること、或いはコントロールユニットやアクチュエータに異常を生じたとき補助コントロールユニットを用いてアクチュエータを作動させること(特許文献2参照)、が提案されている。
【0004】
しかしながら、前者はステッピングモータの二つの励磁巻線の一方に異常を生じたときという極めて特異な場合における対策手段であり、しかも一定の低速走行に固定されるため事故を回避できない事態を生じるという心配がある。これに対して、後者は電子制御による開閉動作を継続して任意速度で走行を継続できる利点を有しているが、このものはコントロールユニットに異常を生じたとき或いはアクチュエータに生じた異常が電子制御可能な程度という著しく限定され場合での対応手段である。従って、スロットルの電子制御による開閉動作を不能とするコントロールユニットの異常やアクチュエータの故障のいずれを生じたときもこれらに対応できるものではない。更に、例えばアクチュエータの軸受けや減速歯車などの機械要素部分が破損したときスロットルが破損発生時の開度位置に固定され、開度位置によっては車両を暴走させる心配があるが、前記提案のものでは対応不可能である。
【0005】
この問題に対し本願出願人は、電子式制御システムに異常や故障を発生したときに補助アクチュエータを作動させることでアクチュエータとスロットル軸との連動を切り離すとともにスロットルを全開と設定最大開度との間で機械的に開閉動作させるリンプホーム機構を備えた電子制御スロットル装置を提案した(特願2004−65031号)。
【0006】
この電子制御スロットル装置は、リンプホーム機構が作動することにより分離手段でアクチュエータとスロットル軸との連動を切り離し、次いでこのアクチュエータとは別の動力源(例えば流体圧シリンダ)である補助アクチュエータを用いた操作手段でスロットルを所定範囲内で開閉動作するようにして、少なくとも車両を退避場所まで安全に走行できるようにしたものである。ところが、この装置はリンプホーム機構においてスロットル軸レバーとアクチュエータレバーとの連動を解除するためにスロットル軸レバーを軸線方向に移動させる機構を採用しているが、構成がやや複雑で部品点数が多いため重量が嵩みやすく製造コストも高いものとなりやすかった。
【0007】
また、この装置を含む従来の装置において、スロットルを開放側から閉鎖側に作動させるのはスロットルボディ内に配置されたリターンスプリングの付勢力によるものであるが、スロットル軸の軸受け異常等によりスロットル軸の回転に戻り不良が発生した場合に、アクチュエータおよび補助アクチュエータによるスロットル開度制御が不可能となってしまうことから、暴走防止のためにエンジンを停止させざるを得なくなって車両はその場で立ち往生することになる。
【特許文献1】特開平6−213012号公報
【特許文献2】特開平6−137206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、電子式制御システムに異常や故障を生じてスロットルを電子的に開閉動作することができなくなった場合にリンプホーム機構で機械的にスロットルを開閉動作させる電子制御スロットル装置について、リンプホーム機構をよりシンプルな構造としてコストの低減および装置の軽量化を実現しながら、様々な状況に対応可能な信頼性の高いものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、コントロールユニットが出力するアクセル操作量に応じた指令により作動するアクチュエータ、スロットル軸上で回転自由なアクチュエータレバー、スロットル軸上に固定され一体回転可能なスロットル軸レバーを含み、アクチュエータの回転をアクチュエータレバー、スロットル軸レバーを経てスロットル軸に伝達しスロットルを開閉動作させる電子式開閉手段と、直動出力軸を備えた補助アクチュエータを有し、アクチュエータレバーとスロットル軸レバーとの連動を解除する分離手段、およびスロットルを機械的に開閉動作させる操作手段を有するリンプホーム機構と、を備えた電子制御スロットル装置において、その分離手段をアクチュエータレバー上で軸支され係合位置でスロットル軸レバーに係合しアクチュエータレバーの回転をスロットル軸レバーに伝達して連動させるフック部材を有したものとし、その操作手段を補助アクチュエータの直動出力軸の動作に連動して回転するリンプホームレバーを有したものとする。そして、コントロールユニットおよびアクチュエータを含む電子式制御システムに異常や故障を生じたとき、リンプホーム機構が補助アクチュエータを作動させることにより、先ず補助アクチュエータの作動前期段階でリンプホームレバーを回転させてフック部材に当接させ、これを回転させることでアクチュエータレバーとスロットル軸レバーとの連動を解除するとともにリターンスプリングによってスロットルを閉弁位置とするように分離手段が働き、次に補助アクチュエータの作動後期段階でリンプホームレバーを回転させてスロットル軸レバーに当接させ、これを回転させることで直動出力軸のストロークに応じてスロットルを開閉動作させるように操作手段が働くものとした。
【0010】
このような構成とすることで、コントロールユニットおよびアクチュエータを含む電子式制御システムに異常や故障を生じたときに作動するリンプホーム機構を、補助アクチュエータでリンプホームレバーを回転させるだけのシンプルな動作で、アクチュエータレバーとスロットル軸レバーとの連動の解除およびスロットルの開閉動作を実現させることができ、その分離手段はスロットル軸レバーに係合するとともにリンプホームレバーで押されて係合が外されるフック部材をアクチュエータレバー上に配置するという極めて簡単な構成で実現することができるため、全体として部品数が少なく軽量化および製造コストの低廉化が容易となるとともに、故障の少ない信頼性の高いものとすることができる。
【0011】
また、このリンプホームレバーを、そのフック部材への当接部およびスロットル軸レバーへの当接部がその側端部とされ、且つフック部材への当接部がスロットル軸レバーへの当接部よりも補助アクチュエータの作動による回転方向に突出した湾曲形状とされており、補助アクチュエータの作動開始によりスロットル軸レバーに当接するよりも先にフック部材に当接するとともにアクチュエータレバーの回転によるフック部材の位置変化に対応してスロットル軸レバーとの係合を外すものとする。これにより、補助アクチュエータでリンプホームレバーを回転させるだけで総てのスロットル開度位置に対応してアクチュエータレバーとスロットル軸レバーとの連動を解除させてスロットルを一端閉弁方向に戻し、更にリンプホームレバーを回転させることによりスロットル軸レバーの開閉を確実に実施することができる。
【0012】
更に、上述したフック部材およびスロットル軸レバーのリンプホームレバーが当接する部分を、フック部材先端面上に突設したピン状凸部およびスロットル軸レバー先端面上に突設したピン状凸部とすれば、スロットル軸レバーとアクチュエータレバーとをスロットル軸上で重ねて配置してもリンプホームレバー側端部をこれらに当接させて各々回転させやすいものとなるため、構成をコンパクトにしながらその分離手段および操作手段を円滑に作動させることができる。
【0013】
更にまた、上述した電子制御スロットル装置において補助アクチュエータの作動後期段階で機械的に開閉動作させるスロットルの最大開弁位置を、全開とアイドリング開度との間で可調節とすれば、車両の走行を設定した最大速度以下で適宜調節しながら安全に継続させることができる。
【0014】
加えて、上述した電子制御スロットル装置において補助アクチュエータを作動流体の送入量・排出量が可調節とされている流体圧シリンダとし、そのピストンの動きに対応する直動出力軸のストロークに応じてリンプホームレバーを揺動させて、スロットルを閉弁位置と設定最大開弁位置との間で任意に開閉動作させるものとすれば、比較的コンパクトな補助アクチュエータでもスロットルの開閉動作を確実に実行することができることから、装置を全体としてコンパクトなものとすることができる。
【0015】
更に加えて、上述した電子制御スロットル装置においてスロットル軸レバーのフック部材係合部を、フック部材が係合した状態でスロットル軸レバーが所定幅で揺動可能なあそびを有する係合切り欠きとし、コントロールユニットがスロットルに閉弁方向への動作不良が発生した場合にアクチュエータでスロットルを強制的に閉弁させるものとされ、強制的に閉弁させた際のエンジン回転数とスロットルの全閉位置におけるエンジン回転数との差からスロットル軸の戻り不良の発生をコントロールユニットが検知するものとすれば、スロットル軸のリターンスプリングが作用しても閉弁方向に戻らないスロットル軸の戻り不良を、スロットル軸レバーのフック係合部に設けた遊びによるエンジン回転数増加分から容易に判断することができる。
【0016】
そして、このコントロールユニットがスロットル軸の戻り不良を検知することで、エンジン回転数を所定レベル以下に下げるように制御するものとすれば、例えばエンジンの点火時期を所定量遅角させる等して通常のアイドリング回転数までエンジン回転数を下げることができ、スロットル軸の不具合によるエンジンの暴走を有効に回避して、車両を停止させることなく安全に走行させることができる。
【発明の効果】
【0017】
補助アクチュエータで動作するリンプホームレバーの動作でフック部材を回転させてアクチュエータレバーとスロットル軸レバーとの連動を解除するとともに、スロットル軸レバーを回転させてスロットルを開閉操作するものとした本発明によると、リンプホーム機構をよりシンプルな構造としてコストの低減および装置の軽量化を実現するとともに、様々な状況に対応可能なものとして電子制御スロットル装置の信頼性を高めることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本実施の形態の概要を示すものであり、吸気路2を遮断してスロットルボディ1に回転可能に支持したスロットル軸4の一方の端部にスロットル戻しレバー5が取付けられ、ねじりコイルばねからなるリターンスプリング6がこのスロットル戻しレバー5に係合してスロットル3を閉じる方向の回転力をスロットル軸4に付勢している。また、スロットル軸4の軸端にはスロットル位置センサ7が設けられている。
【0019】
スロットルボディ1またはエンジン周辺の適宜箇所に設けた図示しない取付台にアクチュエータ8が設置されている。アクチュエータ8は直流モータであって、アクセルペダル9の踏込み量を検知するアクセル位置センサ10が検出したアクセル操作量、およびスロットル位置センサ7が検出したスロットル位置に基いてコントロールユニット11が出力する駆動信号により、スロットル3を目標開度位置に開閉動作させるものであり、これらはよく知られた電子制御システムを構成している。
【0020】
アクチュエータ8の回転は、減速歯車12を経て原動レバー13とアクチュエータレバー14とに両端をそれぞれ回転自由に結合したリンク部材15を介してアクチュエータレバー14に伝えられる。アクチュエータレバー14は、リング状の軸受け21を介してスロットル軸4に周方向回転自由に取付けられており、これに重ねてスロットル軸レバー16がスロットル軸4と一体に取付けられている。
【0021】
図2は図1における電子制御スロットル装置の右側面部分図を示すものであり、アクチュエータレバー14の外面側端部寄りにはフック部材14Aが支持軸14aを中心に所定範囲で回転可能に取付けられ、そのフック14bがスロットル軸レバー16側端部に設けられた係合切り欠き16aに係合し、アクチュエータレバー14上でスロットル軸レバー16を回転不能に係止してこれらが連動するようになっている。また、フック部材14Aは、ばね14cでフック14bをスロットル軸レバー16の中心に向けて付勢しているが、フック14bの反対側の突起14dがアクチュエータレバー14に突設したストッパ14eに当接して回転が所定角度で停止するようになっている。また、係合切り欠き16aはフック14bが係合した状態でスロットル軸レバー16がスロットル軸4を中心に所定範囲で揺動可能とするあそび(余裕分)をその幅方向に有している。
【0022】
フック部材14Aがスロットル軸レバー16に係合した状態でアクチュエータ8が作動してアクチュエータレバー14が回転することで、スロットル軸レバー16を連動させてスロットル3に開き方向の動作を行わせる。また、リターンスプリング6によりスロットル軸4と一体にスロットル軸レバー16を回転させ、スロットル3に閉じ方向の動作を行わせるとともにアクチュエータ8を初期位置に戻すようになっている。
【0023】
以上によりスロットル3の電子的な開閉動作が行われるものであり、アクチュエータ8、コントロールユニット11、アクチュエータレバー14およびスロットル軸レバー16が電子式開閉手段を構成している。
【0024】
次に、リンプホーム機構について説明すると、図2を参照して、補助アクチュエータ25は、流体圧シリンダであって圧縮空気タンク36から配管34で圧縮空気を内部に導入し、図示しないピストンから延出したピストンロッド28の先端がリンプホームレバー32の中間部分に結合しており、コントロールユニット11が配管34に配置された遮断弁35を開閉操作することでその作動が制御されるようになっている。
【0025】
リンプホームレバー32は短冊状の平板部材からなり、ピストンロッド28の連結する中央部とその先端部との中間位置の側端部がスロットル軸レバー16に当接する部分であり、先端部にフック部材14Aに当接する部分がある。即ち、このフック部材14Aに当接する部分は、補助アクチュエータ25の作動による回転方向へ突出する湾曲形状を呈し、作動開始後にスロットル軸レバー16に当接する部分よりも先にフック部材14Aに当接するようになっている。また、この湾曲形状によりアクチュエータレバー14の回転によるフック部材14Aの位置変化に対応して、いかなる角度位置でもこれに当接してスロットル軸レバー16との係合を外せるようになっている。尚、リンプホームレバー32におけるピストンロッド28との連結部について、例えば連結孔をピストンロッドの延長線上の異なる位置に複数穿設して連結部位置を変更可能としたりピストンロッド自体の長さをねじ部材等を介装することで変更可能としたりして、ピストンロッド28の最大突出時におけるリンプホームレバー32の傾斜角度を変更できるようにすることで、リンプホーム機構作動時のスロットル最大開度位置を所定範囲で調整することができる。
【0026】
そして、フック部材14A外面先端側にはフック14bの基端部付近においてピン状の係止突部である係止ピン14fが垂直に突設されており、スロットル軸レバー16の外面先端側にも円柱状の係止ピン16cが垂直に突設されている。このことにより、この係止ピン14f,16cにより、スロットル軸レバー16とアクチュエータレバー14とをスロットル軸4上で重ねて配置してコンパクトなものとしても、リンプホームレバー32により異なるタイミングでフック部材14Aとスロットル軸レバー16とをそれぞれ確実に回転させることができる。
【0027】
前述の補助アクチュエータ25、リンプホームレバー32、フック部材14Aは、アクチュエータレバー14とスロットル軸レバー16との連動を解除する分離手段を構成している。また、前述の補助アクチュエータ25、リンプホームレバー32、スロットル軸レバー16は、スロットル3を機械的に開閉動作させる操作手段を構成し、これらの分離手段、操作手段はスロットル3を電子的な開閉動作から機械的な開閉動作に切換えるリンプホーム機構を構成する。
【0028】
以下に、本実施の形態の作用について図面を用いて説明する。電子式制御システムが正常なときは、図3(A)のスロットル3の全閉状態からコントロールユニット11が出力する駆動信号により駆動されるアクチュエータ8の回転を、減速歯車12、原動レバー13、リンク部材15を経てアクチュエータレバー14に伝達し、フック部材14Aで係合したスロットル軸レバー16をアクチュエータレバー14と一体に回転させスロットル3に開き方向の動作を行わせ、図3(B)の中間開度を経て、図3(C)の全開開度となる。尚、フック部材14Aのスロットル軸レバー16への係合は、ばね14cにより付勢されて容易に外れないとともに反対側の突起14dがアクチュエータレバー14のストッパ14eに掛かってフック14bが所定深さで停止している。
【0029】
一方、コントロールユニット11がスロットル3の閉鎖指令を出力すると、前述と逆の動作を行う(図3(C)―(B)―(A))。このとき、アクチュエータレバー14に設けられたフック部材14Aのフック14bは、スロットル軸レバー16の係合切り欠き16aにおける当接部Xから離れる方向に回転するが、スロットル軸レバー16にはリターンスプリング6によって常にスロットル3を閉鎖方向に付勢しているため、フック部材14Aとスロットル軸レバー16との当接部Xは離れることなく常に押し付けられた状態となって係合状態を維持しており、スロットル軸レバー16がアクチュエータレバー14を押してアクチュエータ8を初期位置(図3(A))に戻す。
【0030】
電子式制御システムに異常または故障が生じてスロットル3が開閉不能となったり一定開度位置に固定されたりしたとき、これらをコントロールユニット11が検知して機械的な開閉動作を実施するリンプホーム機構を作動させる。即ち、補助アクチュエータ25を起動させることでリンプホーム機構が作動し、動力源の切換えおよびその後のスロットル3の開閉動作が行われてリンプホーム機能を発揮する。尚、この切換えはコントロールユニット11による自動制御に限らず、異常発生の報知を受けた運転者の手動で行われるようにしてもよい。
【0031】
斯かるリンプホーム機能は、車両が暴走するのを防ぐとともに、修理工場に移動したり人員や貨物を目的地まで運送したりするために車両を安全に走行可能とすることを目的として、エンジンの最低限の動力性能を発揮させながらそれを運転者が制御できるようにするものである。
【0032】
ところで、電子制御システムを備えたスロットル装置に生じる作動系の故障原因は、大別してモータ制御系の作動不良によるものと、スロットルの戻り不良によるものとの二つが挙げられるので、これらに対応する場合の本実施の形態の作用について以下に個別に詳述する。
【0033】
先ず、モータ制御系に故障が発生し、運転者が車両を走行させようとした場合について図4を用いて説明する。コントロールユニット11がスロットル装置に故障が発生したと判定したが、運転者はアクセルペダルを踏み込んで車両を走行させようとしている場合、コントロールユニット11はアクセル位置センサ10からの出力信号を検知することで遮断弁35を開弁して圧縮空気を補助アクチュエータ25に送出させる(図4(A))。
【0034】
これにより、補助アクチュエータ25はピストンロッド28を押し出してリンプホームレバー32を回転させ、その先端部がアクチュエータレバー14上のフック部材14Aに突設されたピン14fを押して、そのフック14bをスロットル軸レバー16の係合切り欠き16aから外し、これによりスロットル軸レバー16はリターンスプリング6で閉弁方向に回転して、その係止ピン16cはリンプホームレバー32中間位置に当接する(図4(B))。
【0035】
そして、更にピストンロッド28が突出しリンプホームレバー32を回転させることで、係止ピン16cを押してスロットル軸レバー16を連動させスロットル3を所定開度まで開弁させる(図4(C))。尚、図5(A)はスロットル3が全閉位置でモータ制系に故障が発生した場合、図5(B)はスロットル3が中間開度でモータ制御系に故障が発生した場合、図5(C)はスロットル3が全開状態でモータ制御系に故障が発生した場合の操作状態をそれぞれ示しており、リンプホームレバー32の先端側形状がアクチュエータ8の作動する範囲内のいかなるスロットル開度位置で停止した場合においても、フック部材14Aに突設した係止ピン14fを蹴飛ばしてアクチュエータレバー14とスロットル軸レバー16との連動を解除することができる形状であることがわかる。
【0036】
これに対し、モータ制御系に故障が発生し運転者は車両を減速または停止させようとしたときスロットル3が全閉状態である場合は、コントロールユニット11がスロットル装置に故障が発生したと判定した時点で運転者がアクセルペダルを踏み込んでおらず、更にスロットル位置センサ7からの出力信号によりスロットル3が全閉状態であるとコントロールユニット11が判定することでリンプホーム機構は作動しない。
【0037】
一方、モータ制御系に故障が発生し運転者は車両を減速または停止させようとしたときスロットル3が全閉状態ではない場合は、コントロールユニット11がスロットル装置に故障が発生したと判定し、且つ運転者がアクセルペダルを踏み込んでないとともにスロットル開度センサ7からの出力信号によりスロットル3が全閉状態ではないと判定することで、コントロールユニット11は遮断弁35を開弁させて補助アクチュエータ25を作動させ、リンプホームレバー32を回転させてフック部材14Aを外し、その後直ちにリンプホーム機構の作動を停止してスロットル3を全閉状態とする。図6(A)はスロットル3が中間開度のときモータ制御系に故障が発生した場合、図6(B)はスロットル3が全開のときモータ制御系に故障が発生した場合に、この操作を実行した状態を示す。
【0038】
次に、モータ制御系は正常に機能しているがスロットル軸4の作動系に戻り不良を伴う異常を生じた場合について説明する。コントロールユニット11からの指令でアクチュエータ8がスロットル3の閉鎖方向に回転したにもかかわらず、スロットル軸受けの摩耗等を原因としてスロットル軸4が円滑に回転しない状態となって、リターンスプリング6の付勢力のみではスロットル3が閉鎖方向に回転しなくなった場合、アクチュエータ8の作動によるスロットル軸レバー16の回転で、スロットル軸レバー16の係合切り欠き16a内におけるフック部材14Aのフック14bが当接部Xから離れてその対向位置にある当接部Yに接触し、強制的なアクチュエータレバー14の回転でスロットル3を閉鎖方向に動かす(図7(A))。
【0039】
このとき、フック部材14Aのフック14bの幅とスロットル軸レバー16の係合切り欠き16cの幅との間には、フック14bが係合切り欠き16cに係合した状態でスロットル軸レバー16を所定幅で揺動可能とするあそびzがあり、スロットル3を全閉にする指令をアクチュエータ8に出力しても通常よりあそびz分だけ全閉とならない(図7(B))。従って、スロットル位置センサ7からの出力信号はあそびz分だけスロットル3が開いたものとなっているので、コントロールユニット11はスロットル装置に故障が発生していると判定することができる。
【0040】
そこで、コントロールユニット11は、モータ制御系の故障時(図6(A),(B))と同様にリンプホーム機構を一旦作動させた後に直ちにこれを解除するが、その後も上述した理由によりスロットル開度センサ7の出力信号はリンプホーム機構作動前と同じ値となるため、モータ制御系の故障ではなくスロットル軸4の戻り不良が発生していると判定することができる。
【0041】
斯かるスロットル軸4の戻り不良が発生した場合においては車両が暴走することを回避するため、あそびzは可能な限り狭くする必要があるところ、これを例えば3度前後に小さく抑えておけば、例えスロットル3が全開状態から3度開いた状態となってもコントロールユニット11がスロットル軸4の戻り不良の存在を認識していることから、例えばエンジンの点火時期を遅角させて通常のアイドリング時付近までエンジン回転数を抑えるなどして車両の暴走を回避することがでるため、エンジンを停止させることなくリンプホーム状態で走行させることができる。
【0042】
上述したようにリンプホーム機構をよりシンプルな構造とした本実施の形態の電子制御スロットル装置により、コストの低減および装置の軽量化を実現しながら、スロットル軸の戻り不良を含む様々な状況に対応可能なものとしてリンプホーム機能を充分に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態の概要を示す縦断面図。
【図2】図1における右側面部分図。
【図3】(A),(B),(C)は、図1の実施の形態においてスロットルが電子制御されているときの右側面部分図。
【図4】(A),(B),(C)は、図1の実施の形態においてスロットルが機械的に開閉動作されているときの右側面部分図。
【図5】(A)はスロットルが全閉状態でリンプホーム機構が作動した場合を示す説明図、(B)はスロットルが中間開度でリンプホーム機構が作動した場合を示す説明図、(C)はスロットルが全開状態でリンプホーム機構が作動した場合を示す説明図。
【図6】(A)はスロットルが中間開度でフック部材を外した後リンプホーム機構を解除した場合を示す説明図、(C)はスロットルが全開状態でフック部材を外した後リンプホーム機構を解除した場合を示す説明図。
【図7】(A),(B)はスロットルに戻り不良がある場合に強制的にスロットルを閉弁させる場合を示す説明図。
【符号の説明】
【0044】
3 スロットル、 4 スロットル軸、 8 アクチュエータ、 9 アクセルペダル、 10 アクセル位置センサ、 11 コントロールユニット、 14 アクチュエータレバー、 14A フック部材、 14f,16c 係止ピン、 16 スロットル軸レバー、 25 補助アクチュエータ、 32 リンプホームレバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントロールユニットが出力するアクセル操作量に応じた指令により作動するアクチュエータ、スロットル軸上で回転自由なアクチュエータレバー、前記スロットル軸に固定され一体回転可能なスロットル軸レバーを含み、前記アクチュエータの回転を前記アクチュエータレバー、スロットル軸レバーを経て前記スロットル軸に伝達しスロットルを開閉動作させる電子式開閉手段と、補助アクチュエータを有して前記アクチュエータレバーとスロットル軸レバーとの連動を解除する分離手段、および前記スロットルを機械的に開閉動作させる操作手段を含むリンプホーム機構とを備えた電子制御スロットル装置において、
前記分離手段は前記アクチュエータレバー上で軸支され係合位置で前記スロットル軸レバーに係合し前記アクチュエータレバーの回転を前記スロットル軸レバーに伝達して連動させるフック部材を有し、前記操作手段は前記補助アクチュエータの動作に連動して揺動するリンプホームレバーを有しており、
前記コントロールユニットおよびアクチュエータを含む電子式制御システムに異常や故障を生じたとき、前記リンプホーム機構が前記補助アクチュエータを作動させることにより、先ず前記補助アクチュエータの作動前期段階で前記リンプホームレバーを回転させて前記フック部材に当接させこれを回転させることで前記アクチュエータレバーとスロットル軸レバーとの連動を解除するとともにリターンスプリングによって前記スロットルを閉弁位置とするように前記分離手段が働き、次に前記補助アクチュエータの作動後期段階で前記リンプホームレバーを回転させて前記スロットル軸レバーに当接させこれを回転させることで前記直動出力軸のストロークに応じて前記スロットルを開閉動作させるように操作手段が働く、
ことを特徴とする電子制御スロットル装置。
【請求項2】
前記リンプホームレバーは、側端部位フック部材への当接部およびスロットル軸レバーへの当接部が設けられ、且つ前記フック部材への当接部が前記スロットル軸レバーへの当接部よりも前記補助アクチュエータの作動による回転方向に突出した湾曲形状とされており、前記補助アクチュエータの作動により前記スロットル軸レバーに当接するよりも先に前記フック部材に当接するとともに前記アクチュエータレバーの回転による前記フック部材の位置変化に対応して前記スロットル軸レバーとの連動を解除させるものとされている、請求項1に記載した電子制御スロットル装置。
【請求項3】
前記フック部材およびスロットル軸レバーのリンプホームレバーが当接する部分が、前記フック部材先端面上に突設したピン状凸部および前記スロットル軸レバー先端面上に突設したピン状凸部である請求項1または2に記載した電子制御スロットル装置。
【請求項4】
前記補助アクチュエータの作動後期段階で機械的に開閉動作させるスロットルの最大開弁位置が、全開位置とアイドリング開度位置との間で可調節であることを特徴とする請求項1,2または3に記載した電子制御スロットル装置。
【請求項5】
前記補助アクチュエータが、作動流体の送入量・排出量を可調節とされている流体圧シリンダであって、該流体圧シリンダに送入されたピストンの動きに対応する直動出力軸のストロークに応じて前記リンプホームレバーを揺動させ、前記スロットルを閉弁位置と設定最大開弁位置との間で任意に開閉動作させる請求項1,2,3または4に記載した電子制御スロットル装置。
【請求項6】
前記スロットル軸レバーのフック部材係合部は前記フック部材が係合した状態で前記スロットル軸レバーを所定幅で揺動可能なあそびを有する係合切り欠きとされ、前記コントロールユニットに前記スロットルに閉弁方向への動作不良が発生した場合に前記アクチュエータでスロットルを強制的に閉弁させるものとされており、前記コントロールユニットが強制的に前記スロットルを閉弁させた際のエンジン回転数と前記スロットルの全閉位置におけるエンジン回転数との差から前記スロットル軸の戻り不良の発生を検知する、請求項1,2,3,4または5に記載した電子制御スロットル装置。
【請求項7】
前記コントロールユニットが、前記スロットル軸の戻り不良を検知することでエンジン回転数を所定レベル以下に下げるように制御する、請求項6に記載した電子制御スロットル装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−57485(P2006−57485A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238179(P2004−238179)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】