説明

電極用バインダー

【課題】電池の耐久性を向上しうるバインダーの提供。
【解決手段】電極用バインダーは、シクロヘキシル(メタ)アクリレートとこのシクロヘキシル(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマーとを共重合して得られるポリマーを基材とする。好ましくは、この電極用バインダーでは、上記ポリマーの形成に使用したモノマー全質量に対する上記シクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率は、5.0質量%以上70.0質量%以下である。好ましくは、この電極用バインダーでは、上記ポリマーは粒子状を呈している。このポリマーは、コアとこのコアの外側に位置するシェルとを備えている。このシェルは、このコアとは異なる組成を有している。このシェルのガラス転移温度は、−60℃以上65℃以下である。このコアのガラス転移温度は、−60℃以上65℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用バインダーに関する。詳細には、本発明は、二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタの電極の形成に用いられるバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話等の電源として、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池が多用されている。近年では、この二次電池は電気自動車用の大型電源としても注目されている。
【0003】
二次電池では、活物質を含む電極組成物が集電体に塗布され、これが乾燥されることにより、電極が構成される。
【0004】
電極組成物には、活物質の集電体への密着が考慮され、ポリマーからなるバインダーが配合されている。このバインダーに関する検討例が、特開2000−195521公報、特開2002−110169公報及び特開2006−107958公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−195521公報
【特許文献2】特開2002−110169公報
【特許文献3】特開2006−107958公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のバインダーは、プロピレンカーボネート等のような電解液に漬かると電解液を吸収して膨潤することがある。この膨潤は、活物質の集電体からの剥がれを誘発する。この剥がれは、電池容量の低下を招来する。バインダーの膨潤は、電池性能を低下させるという問題がある。電気二重層キャパシタ及びリチウムイオンキャパシタにおいても、同様の問題がある。
【0007】
本発明の目的は、電池の耐久性を向上しうるバインダーの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電極用バインダーは、シクロヘキシル(メタ)アクリレートとこのシクロヘキシル(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマーとを共重合して得られるポリマーを基材とする。
【0009】
好ましくは、この電極用バインダーでは、上記ポリマーの形成に使用したモノマー全質量に対する上記シクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率は5.0質量%以上70.0質量%以下である。
【0010】
好ましくは、この電極用バインダーでは、上記ポリマーは粒子状を呈している。このポリマーは、コアとこのコアの外側に位置するシェルとを備えている。このシェルは、このコアとは異なる組成を有している。このシェルのガラス転移温度は、−60℃以上65℃以下である。このコアのガラス転移温度は、−60℃以上65℃以下である。
【0011】
本発明に係る電極組成物は、上記いずれかのバインダーと、活物質と、分散媒とを含んでいる。
【0012】
本発明に係る電極は、上記電極組成物を集電体に塗布し乾燥して得られるものである。
【0013】
本発明に係る他の電極用バインダーは、(メタ)アクリル系モノマーと、この(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤とを共重合して得られるポリマーを基材とする。
【0014】
好ましくは、この電極用バインダーでは、上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤は不飽和有機シラン及び/又はN−メチロールアクリルアミドである。
【0015】
好ましくは、この電極用バインダーでは、上記ポリマーは粒子状を呈している。このポリマーは、コアとこのコアの外側に位置するシェルとを備えている。このシェルは、このコアとは異なる組成を有している。このシェルのガラス転移温度は、−60℃以上65℃以下である。このコアのガラス転移温度は、−60℃以上65℃以下である。
【0016】
本発明に係る他の電極組成物は、上記いずれかのバインダーと、活物質と、分散媒とを含んでいる。
【0017】
本発明に係る電極は、上記電極組成物を集電体に塗布し乾燥して得られるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るバインダーでは、電解液の吸収が抑えられている。このバインダーでは、電解液の吸収による体積の増加、つまり、膨潤が抑制されている。このため、このバインダーが用いられた電極においては、活物質の集電体からの剥がれが防止される。本発明によれば、優れた電池性能が効果的に維持されうる。このバインダーは、電池の耐久性向上に寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る電極を有する二次電池が模式的に示された断面図である。
【図2】図2は、図1の電極の一部を構成するバインダーが示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0021】
本発明の一実施形態に係る電極は、二次電池の正極又は負極として用いることができる。この電極は、キャパシタの電極としても用いることができる。この電極は、電極組成物を集電体に塗布し、これを乾燥することにより得られる。
【0022】
集電体は、金属の薄片からなる。この集電体としては、銅箔、アルミ箔等のような金属箔が例示される。電極が正極として用いられる場合、この集電体としては、アルミ箔が好ましい。この電極が負極として用いられる場合、この集電体としては、銅箔が好ましい。
【0023】
電極組成物は、活物質及び樹脂組成物を含んでいる。電極が二次電池の正極として用いられる場合、この活物質としては、オリビン酸鉄、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物及びリチウムマンガンニッケル複合酸化物が例示される。この電極が二次電池の負極として用いられる場合、この活物質としては、天然黒鉛、アモルファスカーボン、グラファイト、グラファイト化メソフェーズ小球体、ピッチ系炭素繊維等の炭素材料、ポリアセン、PIC(Pesudo Isotropic Carbon)、FMC(Fine Mosaic Carbon)、不定形炭素、PPP(Poly(p−phenylene))の700℃焼成品、メソフェーズ小球体の700℃焼成品、ポリフルフリルアルコールの焼成品、ポリシロキサンの炭化物及び炭素鋼中にミクロ分散させたSi/Li合金が例示される。この電極がキャパシタの電極として用いられる場合、この活物質としては比表面積の大きい炭素材料が例示される。この活物質は、電極の仕様等が考慮され、適宜選定される。
【0024】
樹脂組成物は、バインダー及び分散媒を含んでいる。バインダーは、ポリマーからなる。このポリマーは、複数のモノマーを共重合することにより得られる。
【0025】
樹脂組成物は、分散媒として水を含むことができる。この場合、バインダーは水に分散している。この樹脂組成物は、この分散媒として、水に替えて上記ポリマーの良溶媒を含むこともできる。この場合、バインダーはこの分散媒に溶解して存在する。このような分散媒としては、有機溶剤が例示される。この有機溶剤としては、トルエン、酢酸エチル及びメチルエチルケトン(MEK)が例示される。環境に対する影響の観点から、この分散媒としては水が好ましい。この樹脂組成物は、水を分散媒とした乳濁液(エマルジョン)とされるのが好ましい。
【0026】
前述したように、バインダーは複数のモノマーを共重合することにより得られる、ポリマーを基材とする。より詳細には、このバインダーは、シクロヘキシル(メタ)アクリレートとこのシクロヘキシル(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマー(以下、他のモノマー)とを共重合して得られるポリマーからなる。
【0027】
バインダーは、例えば、
(1)シクロヘキシル(メタ)アクリレートと他のモノマーとを含む混合物を準備する工程と、
(2)この混合物を重合する工程と
を含む製造方法により得られる。
【0028】
上記準備工程では、蒸留水と、シクロヘキシル(メタ)アクリレートと、他のモノマーとが計量され、これらが所定の容器に投入される。蒸留水、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及び他のモノマーは、十分に攪拌され、混合される。これにより、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及び他のモノマーを含む混合物が準備される。この混合物には、他のモノマーとして1種類のモノマーが配合されてもよいし、種類の異なる複数のモノマーが配合されてもよい。この他のモノマーは、バインダーの使用される電極の仕様等に応じて適宜決められる。
【0029】
この電極では、他のモノマーとしては、ブタジエン、ブテン、イソブテン、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、(メタ)アクリルアミド、スチレン、メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、グリシジル基を有するモノマー、ジシクロペンタジエン骨格を有する(メタ)アクリレート、トリシクロデカン骨格を有する(メタ)アクリレート、ケト基を有するモノマー、1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマー及び不飽和有機シランが例示される。
【0030】
上記(メタ)アクリレートには、アクリレート及びメタクリレートが含まれる。この(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、単環式アルキルエステル、アルコキシエステル、アルキルフェノキシエステル、ジアルキルフェノキシエステル、アルキルカルボニルオキシエステル及び[R−CO−(OR)x−Ry(R及びR=アルキル基、x及びy=整数)]で示されるアルキルアルコキシエステルが例示される。より詳細には、この(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ベヘニル、ドコシル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、アリルメタクリルエステル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが例示される。
【0031】
上記(メタ)アクリルアミドとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド及びN−エチル−N−フェニルアクリルアミドが例示される。
【0032】
上記グリシジル基を含有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸グリシジル、ジグリシジルフマレート、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシル、3,4−エポキシビニルシクロヘキサン及び(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジルが例示される。
【0033】
上記ジシクロペンタジエン骨格を有する(メタ)アクリレートとしては、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート及びジシクロペンタニルメタクリレートが例示される。
【0034】
上記ケト基を有するモノマーとしては、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、4−ビニルアセトアセトアニリド及びアセトアセチルアリルアミドが例示される。
【0035】
上記1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマーに含まれるアミノ基としては、ヒドラジン型のアミノ基が好ましく、特にヒドラジド、セミカルバジド又はカルボヒドラジド構造を有するアミノ基が好ましい。この1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマーとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、メタキシレンジアミン、ノルボルナンジアミン及び1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンが例示される。ヒドラジン型のアミノ基を2個以上有するモノマーとしては、ヒドラジン及びその塩;カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のポリカルボン酸ヒドラジド類;4,4’−エチレンジセミカルバジド、4,4’−ヘキサメチレンジセミカルバジド等のポリイソシアネートとヒドラジンとの反応物及びポリアクリル酸ヒドラジド等のポリマー型ヒドラジドが例示される。
【0036】
上記不飽和有機シランとしては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルアセトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。具体的には、この不飽和有機シランとしては、信越化学工業株式会社製の商品名「KA1003」、「KBM1003」、「KBE1003」、「KBC1003」、「KBM1063」、「KBM1103」、「KBM1203」、「KBM1303」、「KBM1403」、「KBM503」、「KBE503」、「KBM502」、「KBE502」、「KBM5103」、「KBM5102」及び「KBM5403」が例示される。さらに、この不飽和有機シランとしては、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6075」、「Z−6172」、「Z−6300」、「Z−6519」、「Z−6550」、「Z−6625」、「Z−6030」、「Z−6033」、「Z−6036」、「Z−6530」及び「Z−6806」が例示される。
【0037】
前述のようにして準備された混合物に含まれるモノマーは、重合工程において、重合される。この重合により、バインダーを含む樹脂組成物が得られる。重合方法としては、温度調節が容易であるという観点から、乳化重合及び懸濁重合が例示される。ハンドリングの観点から、この重合方法としては、乳化重合が好ましい。なお、重合温度、反応時間、攪拌速度等は、バインダーの仕様等が考慮されて適宜決められる。この樹脂組成物は、回分式に製造されてもよいし、連続式に製造されてもよい。
【0038】
この製造方法では、上記混合物は、45℃以上95℃以下の温度下で、重合開始剤を用いて重合されるのが好ましい。これにより、バインダーが均一に分散した樹脂組成物が得られうる。この製造方法によれば、樹脂組成物は懸濁液又は乳濁液として得られうる。
【0039】
上記重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル及びその塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系重合開始剤、過酸化水素、水溶性無機過酸化物、水溶性還元剤及び水溶性無機過酸化物の複合体並びに水溶性還元剤及び有機過酸化物の複合体が例示される。
【0040】
上記水溶性無機過酸化物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムが例示される。
【0041】
上記水溶性還元剤は、通常、ラジカル酸化還元重合触媒として用いられる。この還元剤は水に可溶しうる。この還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、二酸化チオ尿素、スルフィン酸、エリソルビン酸、L−アスコルビン酸とそのナトリウム塩、L−アスコルビン酸とそのカリウム塩、L−アスコルビン酸とそのカルシウム塩、エチレンジアミン四酢酸とそのナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸とそのカリウム塩、エチレンジアミン四酢酸と重金属(例えば、鉄、銅、クロム等)との錯化合物、エチレンジアミン四酢酸の塩と重金属(例えば、鉄、銅、クロム等)との錯化合物及び還元糖が例示される。
【0042】
上記水溶性有機過酸化物としては、クメンヒドロペルオキシド、p−サイメンヒドロペルオキシド、t−ブチルイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、デカリンヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、イソプロピルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類が例示される。
【0043】
上記混合物が、連鎖移動剤をさらに含んでもよい。この連鎖移動剤は、この混合物の重合により得られる共重合体の分子量を調整しうる。この連鎖移動剤としては、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、炭素数1から4のアルコール類、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2−メチル−5−t−ブチルチオフェノール、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマー、2−メルカプトエタノール及びメタリルスルホン酸ナトリウムが例示される。
【0044】
この製造方法では、上記重合方法として、乳化重合が選定される場合、乳化剤が用いられる。この乳化剤の使用により、乳化液が形成される。この乳化剤は、上記混合物に含まれる、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のモノマーを水に分散させうる。この乳化剤は、界面活性剤である。この製造方法では、重合反応に影響しない界面活性剤であれば、乳化剤として特に制限されない。この乳化剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が例示される。この乳化剤は、上記混合物の準備工程で添加されてもよいし、上記重合工程で添加されてもよい。
【0045】
上記アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル、ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル等の硫酸エステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。この硫酸エステルの塩類としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸エステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100、アルキル鎖の炭素数は6から22)のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。このアニオン性界面活性剤としては、さらに、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、高級アルコールリン酸エステル等のリン酸エステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。このリン酸エステルの塩類としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルリン酸モノエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルリン酸ジエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸モノエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸ジエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸モノエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100、アルキル鎖の炭素数は6から22)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ジエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100、アルキル鎖の炭素数は6から22)のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。このアニオン性界面活性剤としては、さらに、アルキルスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸、α−スルホン化脂肪酸、α−スルホン化脂肪酸エステル等のスルホン酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。このアニオン性界面活性剤としては、さらに、ドデシルベンゼンスルホン酸及び脂肪酸のアルカリ金属塩が例示される。このアニオン性界面活性剤は、単独で用いられてもよく、複数のアニオン性界面活性剤が組み合わされて使用されてもよい。
【0046】
上記ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン鎖をその分子内に有し、界面活性能を有するポリオキシエチレン鎖含有化合物が例示される。このノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルグリセリンホウ酸エステル、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのエチレンオキシドの付加物及び脂肪酸アミドエチレンオキシド付加物が例示される。このノニオン性界面活性剤としては、前述のポリオキシエチレン鎖が、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとが共重合され得られるポリアルキレンオキシド鎖とされた化合物が用いられてもよい。この場合、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとが共重合され得られる共重合体が、ブロック共重合体とされてもよいし、ランダム共重合体とされてもよい。このノニオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリンエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトールの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル及びアルカノールアミン類の脂肪酸アミドが例示される。このノニオン性界面活性剤は、単独で使用されてもよいし、複数のノニオン性界面活性剤が組み合わされて使用されてもよい。
【0047】
上記乳化剤として、重合性乳化剤が用いられてもよい。この重合性乳化剤としては、ビニルスルホン酸ナトリウム、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸のナトリウム塩及びアンモニウム塩、ポリエチレンオキシドノニルプロペニルエーテルサルフェートのナトリウム塩及びアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びその硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びその硫酸エステル塩並びにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル及びその硫酸アンモニウム塩が例示される。このような重合性乳化剤としては、乳化重合に使用できるものであればよく、アニオン型反応性乳化剤及びノニオン型反応性乳化剤が例示される。このアニオン型反応性乳化剤としては、第一工業製薬株式会社製の商品名「アクアロン」のグレード「HS−10」、「BC−10」、「KH−10」及びその商品名「ニューフロンティア A−229E」;株式会社ADEKA製の商品名「アデカリアソープ」のグレード「SE−3N」、「SE−5N」、「SE−10N」、「SE−20N」及び「SE−30N」;日本乳化剤株式界社製の商品名「Antox」のグレード「MS−60」、「MS−2N」、「RA−1120」及び「RA−2614」;三洋化成工業株式会社製の商品名「エレミノール」のグレード「JS−2」及び「RS−30」及び花王株式会社製の商品名「ラテムル」のグレード「S−120A」、「S−180A」及び「S−180」が例示される。上記ノニオン型反応性乳化剤としては、第一工業製薬株式会社製の商品名「アクアロン」のグレード「RN−20」、「RN−30」、「RN−50」及びその商品名「ニューフロンティア N−177E」;株式会社ADEKA製の商品名「アデカリアソープ」のグレード「NE−10」、「NE−20」、「NE−30」及び「NE−40」;日本乳化剤株式界社製の商品名「RMA−564」、「RMA−568」及び「RMA−1114」及び新中村化学工業株式会社製の商品名「NKエステル」のグレード「M−20G」、「M−40G」、「M−90G」及び「M−230G」が例示される。この乳化剤は、単独で使用されてもよく、複数の乳化剤が組み合わされて使用されてもよい。
【0048】
この電極では、前述の混合物は、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及び他のモノマー以外に、有機シランをさらに含むことができる。この有機シランとしては、アミノシラン、ウレイドシラン、エポキシシラン、スルフィドシラン、メルカプトシラン、ケチミノシラン、アルキルシラン、アルコキシシラン、フェニルシラン、フロロシラン又はイソシアネート基を有するシランが例示される。具体的には、この有機シランとしては、信越化学工業株式会社製の商品名「KBM303」、「KBM403」、「KBE402」、「KBM602」、「KBM603」、「KBE603」、「KBM903」、「KBE903」、「KBM573」、「KBM703」、「KBM803」、「KBE9007」、「KBM5103」及び「X−12−817H」が例示される。さらに、この有機シランとしては、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6011」、「Z−6020」、「Z−6023」、「Z−6026」、「Z−6032」、「Z−6050」、「Z−6094」、「Z−6610」、「Z−6883」、「AZ−720」、「Z−6675」、「Z−6676」、「Z−6040」、「Z−6041」、「Z−6042」、「Z−6044」、「Z−6043」、「Z−6920」、「Z−6940」、「Z−6948」、「Z−6062」、「Z−6911」、「Z−6860」、「DC−5700」、「Z−6806」、「ACS−8」、「Z−2306」、「Z−6013」、「Z−6187」、「Z−6210」、「Z−6258」、「Z−6265」、「Z−6275」、「Z−6288」、「Z−6321」、「Z−6329」、「Z−6341」、「Z−6366」、「Z−6383」、「Z−6582」、「Z−6586」、「Z−6721」、「Z−6697」、「Z−6830」、「Z−6047」、「Z−6800」、「Z−6333」、「Z−1211」、「Z−1219」、「Z−1224」及び「Z−6079」が例示される。この有機シランは、混合物の重合工程で添加されてもよいし、この重合工程の後に添加されてもよい。
【0049】
この電極では、前述の樹脂組成物は、必要に応じて、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、エポキシエマルジョン、界面活性剤、中和剤、可塑剤、架橋剤、防腐剤、ぬれ剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、凍結防止剤等の添加剤を含みうる。この添加剤は単独で使用されてもよいし、複数の添加剤が組み合わされて使用されてもよい。この製造方法では、これら添加剤のそれぞれは、前述の混合物の重合工程で添加されてもよいし、この重合工程の後に添加されてもよい。
【0050】
このようにして製造された樹脂組成物と、前述の活物質とを含むものが、本発明の電極組成物である。この電極組成物は、バインダーと、活物質と、分散媒とを含んでいる。前述したように、この電極組成物を集電体に塗布し、これを乾燥することにより、電極が得られる。
【0051】
電極組成物は、スラリー又はペースト状である。
【0052】
この電極組成物の集電体への塗布方法は、特に制限されない。この塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法及びハケ塗りが例示される。
【0053】
この電極組成物の集電体への塗布量は、特に制限されない。塗布後の乾燥により、0.005mm以上5mm以下の厚みを有する塗膜が得られるように、この電極組成物が集電体に塗布されるのが好ましい。
【0054】
乾燥方法は、特に制限されない。この乾燥方法としては、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、及び(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥が例示される。
【0055】
この電極組成物は、集電体への塗工性の観点から、前述の活物質及びバインダー以外に、粘性調整剤のような添加剤も含むことができる。この粘性調整剤としては、アセチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体、カゼイン、アラビアゴム、トラガカントゴム、デンプン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウムのようなポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリルアミド共重合体、メタクリル酸−アクリレート共重合体、ポリスチレンスルホン酸及びポリスチレンスルホン酸とアクリル酸エステルの共重合体が例示される。より詳細には、この粘性調整剤としては、東洋化学株式会社製の商品名「トヨゾールRL1001」のようなメタクリル酸含量が70%以下の水溶性(メタ)アクリル酸エステル共重合物及びヘンケルジャパン株式会社製の商品名「KA10」のようなアルカリ増粘タイプの調整剤並びに株式会社ADEKA製の商品名「アデカノールUH438」のような会合タイプが例示される。
【0056】
図1(a)に示されているのは、リチウムイオン二次電池2である。この電池2は、一対の電極4、電解液6及びセパレータ8を備えている。各電極4は、集電体10と、この集電体10に積層された塗膜12とから構成されている。この電池2においては、右側の電極4aが負極であり、左側の電極4bが正極である。
【0057】
電解液6は、電解質を溶媒に溶解させたものである。この電池2においては、電解質はリチウム塩である。このリチウム塩としては、LiClO、LiBF、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCS0、Li(CFSON、Li(CFSO、LiBPh及び低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどが例示される。溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステルが例示される。これら溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上が混合されて用いられてもよい。
【0058】
セパレータ8は、両電極4の間に配置される。換言すれば、セパレータ8は正極4b及と負極4aとの間に挟まれている。このセパレータ8は、左右の電極4の接触に伴う短絡を防止している。このセパレータ8としては通常、フィルム状の微多孔膜が用いられる。セパレータ8は、無数の微小な孔14を有している。リチウムイオンは、この孔14を通じて左右の電極4の間を泳動しうる。セパレータ8の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース及びセルロース誘導体が例示される。
【0059】
この電池2においては、負極4aの塗膜12が前述の電極組成物を用いて形成されている。
【0060】
図1(b)に示されているように、バインダー18は粒子状を呈している。バインダー18は、活物質16と活物質16との間に介在している。バインダー18は、活物質16と集電体10との間に介在している。バインダー18は、活物質16を集電体10へ密着させうる。なお、このバインダー18が粒子状を呈していなくてもよい。
【0061】
図2に示されているのは、バインダー18の断面図である。図2中、符号Cで示されているのがバインダー18の中心である。符号Sで示されているのが、バインダー18の表面である。このバインダー18は、コア20及びシェル22を備えている。バインダー18の中心Cを含む部分がコア20であり、バインダー18の表面Sを含む部分がシェル22である。シェル22は、コア20の外側に位置している。なお、このバインダー18が、単一の組成を有するポリマーから構成されてもよい。このバインダー18のシェル22が、複数の層から構成されてもよい。
【0062】
バインダー18は、シクロヘキシル(メタ)アクリレートとこのシクロヘキシル(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマーとを共重合して得られるポリマーからなる。換言すれば、このバインダー18を構成するポリマーは、シクロヘキシル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を有している。このバインダー18の電解液6に浸漬した場合における膨潤は、シクロヘキシル(メタ)アクリレートを含まないバインダーのそれに比して、小さく抑えられている。バインダー18の膨潤が抑えられているので、集電体10からの活物質16の剥がれが効果的に防止されている。活物質16の集電体10への密着状態が維持されるので、優れた電池性能が長期にわたり保持される。このバインダー18は、電池2の耐久性向上に寄与しうる。この観点から、この混合物に含まれるモノマー全質量に対するシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率は、5.0質量%以上が好ましく、5.8質量%以上がより好ましく、29.3質量%以上がさらに好ましく、42質量%以上が特に好ましい。シクロ(メタ)アクリレートの質量の比率が過大になると、塗膜12にひび割れが生じ、電極4を得ることができなくなってしまう。この観点から、この質量の比率は70,0質量%以下が好ましく、65.5質量%以下がより好ましく、58.3質量%以下がさらに好ましく、57.8質量%以下が特に好ましい。なお、このバインダー18が複数の混合物を用いて形成された場合においては、これら混合物に含まれるモノマー全質量と、それぞれの混合物に含まれるシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の総和とに基づいて、この質量の比率は算出される。例えば、2種類の混合物(混合物a及び混合物b)でバインダー18が構成された場合においては、混合物aに含まれるモノマー全質量と混合物bに含まれるモノマー全質量との総和と、混合物aに含まれるシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量と混合物bに含まれるシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量との総和とに基づいて、このシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率が算出される。
【0063】
バインダー18は、前述の重合工程で得られたポリマーからなる粒子である。前述したように、このバインダー18は、コア20及びシェル22を備えている。このバインダー18は、この重合工程において、二種類の混合液を用い、一の混合液による重合が終了した後に他の混合液による重合がなされて形成される。このようにしてこのバインダー18が形成されているので、このバインダー18のシェル22はコア20とは異なる組成を有している。このバインダー18が、他の混合液を一の混合液に滴下混合しつつ重合がなされて形成されてもよい。この場合、このバインダー18は、その中心から表面までがポリマー組成の異なる多数の層で構成される。このバインダー18においても、そのシェル22がコア20とは異なる組成を有している。なお、このバインダー18が単一の混合液を用いて形成された場合においては、このバインダー18はその中心から表面に至るまでの各部分が同等の組成を有するポリマーからなる。多様な特性の付与が容易との観点から、このバインダー18としては、2種類以上の混合液を用いて形成されたもの、換言すれば、シェル22がコア20とは異なる組成を有するように構成されたものが好ましい。
【0064】
シクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率が小さくなると、バインダー18に柔軟性が付与される。柔軟なバインダー18は、電極4の変形に対する塗膜12の追従性に寄与しうる。これに対して、シクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率が大きくなると、バインダー18の膨潤が抑えられる。膨潤が抑えられたバインダー18は、電池2の耐久性に寄与しうる。このような観点から、シクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率が小さい混合液aで重合がなされた後に、シクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率が大きい混合液bで重合がなされることにより、バインダー18が形成されてもよい。この混合液bを混合液aに滴下混合しつつ重合がなされることにより、バインダー18が形成されてもよい。この場合、この混合液aにおけるシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率は46.6質量%以下が好ましく、この混合液bにおけるシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率は68.6質量%以上が好ましい。なお、シェル22が複数の混合物を用いて形成された場合においては、これら混合物に含まれるモノマー全質量と、それぞれの混合物に含まれるシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の総和とに基づいて、この濃度は算出される。例えば、2種類の混合物(混合物b及び混合物b)でシェル22が構成された場合においては、混合物bに含まれるモノマー全質量と混合物bに含まれるモノマー全質量との総和と、混合物bに含まれるシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量と混合物bに含まれるシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量との総和とに基づいて、このシクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率が算出される。
【0065】
この電極4では、バインダー18を構成するポリマーのガラス転移温度は、−60℃以上65℃以下が好ましい。このガラス転移温度が−60℃以上に設定されることにより、電解液6に浸漬した場合における膨潤が効果的に抑制される。このガラス転移温度が65℃以下に設定されることにより、活物質16の集電体10への密着性が維持されうる。なお、このバインダー18が複数の層から構成される場合においては、コア20のガラス転移温度が−60℃以上65℃以下とされ、シェル22のガラス転移温度が−60℃以上65℃以下とされるのが好ましい。
【0066】
上記ガラス転移温度は、下記式(1)を用いて計算される。このガラス転移温度は、平均ガラス転移温度とも称される。この式(1)は、n種類のモノマーを重合して得られるポリマー(共重合体)のガラス転移温度Tgの計算式を表している。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・・W/Tg (1)
上記式(1)中、Tg、Tg、・・・及びTgは、n種類のモノマーそれぞれのガラス転移温度を表している。W、W、・・・Wは、n種類のモノマーそれぞれの質量の混合物全質量に対する比(質量分率とも称される)を表している。本明細書では、これらモノマーのガラス転移温度は、文献(三菱レーヨン社、アクリルエステルカタログ、1997年度版及び北岡協三、新高分子文庫7、塗料用合成樹脂入門、高分子刊行会、168−169、1997年)に記載の数値が採用される。これらモノマーのガラス転移温度として、例えば、メチルアクリレート(MMAとも称される)が100℃、アクリロニトリル(ANとも称される)が100℃、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHAとも称される)が−70℃、シクロヘキシル(メタ)アクリレート(CHMAとも称される)が83℃そしてメタクリル酸(MAAとも称される)が130℃である。
【0067】
前述したように、電極組成物は活物質16及びバインダー18を含む。バインダー18が活物質16を集電体10に効果的に密着しうるという観点から、この電極組成物に含まれる100質量部の活物質16に対するバインダー18の配合量は、固形分換算で、0.2質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。バインダー18が電池性能を阻害しないという観点から、この配合量は10質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0068】
本発明の他の実施形態に係るバインダーは、(メタ)アクリル系モノマーと、この(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤(以下、単に架橋剤)とを共重合して得られるポリマーからなる。このバインダーも、前述のバインダーと同様、複数のモノマーを共重合することにより得られるポリマーを基材とする。このバインダーは、準備工程で準備される混合物に含まれるモノマーの構成以外は、前述のバインダーと同様にして製造される。このバインダーの製造方法は、
(1)(メタ)アクリル系モノマーと、架橋剤とを含む混合物を準備する工程と、
(2)この混合物を重合する工程と
を含んでいる。
【0069】
混合物に含まれる(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン骨格を有する(メタ)アクリレート及びトリシクロデカン骨格を有する(メタ)アクリレートが例示される。なお、この混合物には、(メタ)アクリル系モノマーとして1種類のモノマーが配合されてもよいし、種類の異なる複数のモノマーが配合されてもよい。
【0070】
上記(メタ)アクリレートには、アクリレート及びメタクリレートが含まれる。この(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、単環式アルキルエステル、アルコキシエステル、アルキルフェノキシエステル、ジアルキルフェノキシエステル、アルキルカルボニルオキシエステル及び[R−CO−(OR)x−Ry(R及びR=アルキル基、x及びy=整数)]で示されるアルキルアルコキシエステルが例示される。より詳細には、この(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ベヘニル、ドコシル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、アリルメタクリルエステル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートが例示される。
【0071】
上記ジシクロペンタジエン骨格を有する(メタ)アクリレートとしては、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート及びジシクロペンタニルメタクリレートが例示される。
【0072】
架橋剤としては、(メタ)アクリルアミド、グリシジル基を有するモノマー、ケト基を有するモノマー、ジアリルフタレート及び1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマー及び不飽和有機シランが例示される。なお、この混合物には、1種類の架橋剤が用いられてもよいし、複数種類の架橋剤が併用されてもよい。
【0073】
上記(メタ)アクリルアミドとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド及びN−エチル−N−フェニルアクリルアミドが例示される。
【0074】
上記グリシジル基を含有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸グリシジル、ジグリシジルフマレート、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシル、3,4−エポキシビニルシクロヘキサン及び(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジルが例示される。
【0075】
上記ケト基を有するモノマーとしては、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、4−ビニルアセトアセトアニリド及びアセトアセチルアリルアミドが例示される。
【0076】
上記1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマーに含まれるアミノ基としては、ヒドラジン型のアミノ基が好ましく、特にヒドラジド、セミカルバジド又はカルボヒドラジド構造を有するアミノ基が好ましい。この1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマーとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、メタキシレンジアミン、ノルボルナンジアミン及び1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンが例示される。ヒドラジン型のアミノ基を2個以上有するモノマーとしては、ヒドラジン及びその塩;カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のポリカルボン酸ヒドラジド類;4,4’−エチレンジセミカルバジド、4,4’−ヘキサメチレンジセミカルバジド等のポリイソシアネートとヒドラジンとの反応物及びポリアクリル酸ヒドラジド等のポリマー型ヒドラジドが例示される。
【0077】
上記不飽和有機シランとしては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルアセトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。具体的には、この不飽和有機シランとしては、信越化学工業株式会社製の商品名「KA1003」、「KBM1003」、「KBE1003」、「KBC1003」、「KBM1063」、「KBM1103」、「KBM1203」、「KBM1303」、「KBM1403」、「KBM503」、「KBE503」、「KBM502」、「KBE502」、「KBM5103」、「KBM5102」及び「KBM5403」が例示される。さらに、この不飽和有機シランとしては、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6075」、「Z−6172」、「Z−6300」、「Z−6519」、「Z−6550」、「Z−6625」、「Z−6030」、「Z−6033」、「Z−6036」、「Z−6530」及び「Z−6806」が例示される。なお、不飽和有機シランはシランカップリング剤とも称される。
【0078】
この電極では、前述の混合物は(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマー(以下、他のモノマー)をさらに含むことができる。この他のモノマーとしては、ブタジエン、ブテン、イソブテン、マレイン酸、イタコン酸、スチレン、メチルスチレン及び(メタ)アクリロニトリルが例示される。なお、この場合、この混合物には、この他のモノマーとして1種類のモノマーが配合されてもよいし、種類の異なる複数のモノマーが配合されてもよい。
【0079】
重合により得られた、バインダーを含む樹脂組成物と、前述の活物質とを含むものが、本発明の他の実施形態に係る電極組成物である。この電極組成物を集電体に塗布しこれを乾燥することにより、電極が得られる。この電極は、図1に示された二次電池の電極として使用することができる。
【0080】
図示されていないが、バインダーは粒子状を呈している。バインダーは、活物質と活物質との間に介在している。バインダーは、活物質と集電体との間に介在している。バインダーは、活物質を集電体へ密着させうる。なお、このバインダーが粒子状を呈していなくてもよい。
【0081】
前述したように、バインダーは(メタ)アクリル系モノマーと、この(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤とを共重合して得られるポリマーからなる。換言すれば、このバインダーを構成するポリマーは、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤に由来する構造単位を有している。このバインダーの電解液に浸漬した場合における膨潤は、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤を含まないバインダーのそれに比して、小さく抑えられている。バインダーの膨潤が抑えられているので、集電体からの活物質の剥がれが効果的に防止されている。活物質が集電体に密着しているので、優れた電池性能が長期にわたり保持される。このバインダーは、電池の耐久性向上に寄与しうる。特に、この(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤として、(メタ)アクリルアミド及び/又は不飽和有機シランが選定された場合において、バインダーの膨潤が効果的に抑制される。
【0082】
この電極においては、(メタ)アクリルアミドとしては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドが好ましい。このN−メチロール(メタ)アクリルアミドが(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤として用いられる場合においては、混合物に含まれるモノマー全質量に対するN−メチロール(メタ)アクリルアミドの質量の比率は、バインダーが電池の耐久性向上に寄与しうるという観点から、0.5質量%以上が好ましい。N−メチロール(メタ)アクリルアミドの質量の比率が過大になると、塗膜にひび割れが生じ、電極を得ることができなくなってしまう。この観点から、この質量の比率は4.0質量%以下が好ましい。
【0083】
不飽和有機シランとしては、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製の商品名「KBM502」又は東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6033」)及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製の商品名「KBM503」又は東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6030」)が好ましい。γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤として用いられる場合においては、混合物に含まれるモノマー全質量に対するγ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランの質量の比率は、バインダーが電池の耐久性向上に寄与しうるという観点から、0.5質量%以上が好ましい。γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランの質量の比率が過大になると、塗膜にひび割れが生じ、電極を得ることができなくなってしまう。この観点から、この質量の比率は4.0質量%以下が好ましい。γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤として用いられる場合においては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの質量の比率は、バインダーが電池の耐久性向上に寄与しうるという観点から、0.5質量%以上が好ましい。γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの質量の比率が過大になると、塗膜にひび割れが生じ、電極を得ることができなくなってしまう。この観点から、この質量の比率は4.0質量%以下が好ましい。
【0084】
本明細書において、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤の質量の比率は、バインダーが複数の混合物を用いて形成された場合においては、これら混合物に含まれるモノマー全質量と、それぞれの混合物に含まれる(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤の質量の総和とに基づいて、算出される。例えば、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤としてN−メチロール(メタ)アクリルアミドを用い、2種類の混合物(混合物a及び混合物b)でバインダーを構成した場合においては、混合物aに含まれるモノマーの全質量と混合物bに含まれるモノマー全質量との総和と、混合物aに含まれるN−メチロール(メタ)アクリルアミドの質量と混合物bに含まれるN−メチロール(メタ)アクリルアミドの質量との総和とに基づいて、このN−メチロール(メタ)アクリルアミドの質量の比率が算出される。(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤として不飽和有機シランを用いた場合も同様にして、この不飽和有機シランの質量の比率が算出される。
【0085】
バインダーは、前述の重合工程で得られたポリマーからなる粒子である。この重合工程において、バインダーが単一の混合液を用いて形成された場合においては、このバインダーはその中心から表面に至るまでの各部分が同等の組成を有するポリマーからなる。このバインダーが、二種類の混合液を用い、一の混合液による重合が終了した後に他の混合液による重合がなされて形成された場合においては、このバインダーはコア及びシェルからなる2層構造を有し、そのシェルがコアとは異なる組成を有している。さらにこの二種類の混合液が用いられる場合において、このバインダーが他の混合液を一の混合液に滴下混合しつつ重合がなされて形成された場合においては、このバインダーは、その中心から表面までがポリマーの組成の異なる多数の層で構成され、そのシェルがコアとは異なる組成を有している。多様な特性の付与が容易との観点から、このバインダーとしては、2種類以上の混合液を用いて形成されたもの、換言すれば、シェルがコアとは異なる組成を有するように構成されたものが好ましい。
【0086】
この電極では、バインダーを構成するポリマーのガラス転移温度は、−60℃以上65℃以下が好ましい。このガラス転移温度が−60℃以上に設定されることにより、電解液に浸漬した場合における膨潤が効果的に抑制される。このガラス転移温度が65℃以下に設定されることにより、活物質の集電体への密着性が維持されうる。なお、このバインダーが複数の層から構成する場合においては、コアのガラス転移温度が−60℃以上65℃以下とされ、シェルのガラス転移温度が−60℃以上65℃以下とされるのが好ましい。
【0087】
前述したように、電極組成物は活物質及びバインダーを含む。バインダーが活物質を集電体に効果的に密着しうるという観点から、この電極組成物に含まれる活物質100質量部に対するバインダーの配合量は、固形分換算で、0.2質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。バインダーが電池性能を阻害しないという観点から、この配合量は10質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0089】
[実験A−シクロヘキシルメタクリレートの配合効果に関する検討]
[実施例1]
一の容器において、35質量部の蒸留水に、2.2質量部の乳化剤(第一工業製薬株式会社製の商品名「アクアロンHS−10」)を溶解させ、溶解液を得た。この溶解液に、58.3質量部のシクロヘキシルメタクリレート(CHMAとも称される)、40質量部の2−エチルヘキシルアクリレート(2EHAとも称される)及び1.7質量部のメタクリル酸(MAAとも称される)を配合後、十分に攪拌し、CHMA、2EHA及びMAAを含んだ混合物の乳化液を調整した。反応器において、130質量部の蒸留水に0.5質量部の上記「アクアロンHS−10」を溶解させ、混合液を得た後、この容器内を窒素で置換した。この反応器内の混合液を加温し、80℃に調整した。上記一の容器とは別の容器において、20質量部の蒸留水に0.5質量部の重合触媒としての過硫酸カリウム(KPSとも称される)を溶解させ、水溶液を得た。反応器内の混合液を攪拌しつつ、この混合液に上記一の容器の乳化液及び上記別の容器の水溶液を3時間かけて添加した。添加終了後も、加温状態を保持しつつ3時間攪拌し続けた。このようにして、実施例1のバインダーをその固形分率で35.6質量%含む、樹脂組成物を得た。
【0090】
[電極組成物の製造]
実施例1のバインダーを含む樹脂組成物に、活物質としての天然黒鉛及び粘性調整剤としてのカルボキシルメチルセルロース(CMCとも称される)を配合し、電極組成物を得た。固形分換算で、天然黒鉛100質量部に対するバインダーの配合量が2質量部、そして、CMCが2質量部となるように調整した。天然黒鉛は、日本黒鉛工業社製の商品名「球状天然黒鉛(平均粒径:24μm、比表面積:4.6m/g)」である。CMCは、ダイセル化学工業社製の商品名「ダイセル2200」である。
【0091】
[電極Aの作製]
厚さ25μmの銅箔に電極組成物を塗布した。乾燥後、圧延及びスリット加工を施し、電極Aを得た。
【0092】
[実施例2及び比較例1]
混合物の配合を下記表1の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1のバインダーを得た。各バインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。表1中、MMAはメチルアクリレートを、BMAはブチルメタクリレートを表している。
【0093】
[実施例3]
21質量部の蒸留水に、1.5質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させ、溶解液を得た。この溶解液に、3.7質量部のCHMA、13.5質量部のMMA、46.5質量部の2EHA及び1.3質量部のMAAを配合後、十分に攪拌し、CHMA、MMA、2EHA及びMAAを含む混合物aの乳化液(1)を調整した。この乳化液(1)とは別に、9質量部の蒸留水に、0.7質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させ、別の溶解液を得た。この溶解液に、2.1質量部のCHMA、19.7質量部のMMA、12.5質量部の2EHA及び0.7質量部のMAAを配合後、十分に攪拌し、CHMA、MMA、2EHA及びMAAを含む混合物bの乳化液(2)を調整した。実施例1と同等の混合液を反応器内で加温し、80℃に調整した後、実施例1と同等のKPSが溶解した水溶液とともに、まずは乳化液(1)を2時間かけて添加し、その後乳化液(2)を1時間かけて添加した。添加終了後も、加温状態を保持しつつ3時間攪拌し続けた。このようにして、実施例3のバインダーをその固形分率で36.3質量%含む、樹脂組成物を得た。このバインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。
【0094】
[実施例4−5及び比較例2−3]
混合物a及び混合物bそれぞれの配合を下記表2の通りとした他は実施例3と同様にして、実施例4−5及び比較例2−3のバインダーを得た。各バインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。
【0095】
[実施例6]
21質量部の蒸留水に、1.5質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させ、溶解液を得た。この溶解液に、19.3質量部のCHMA、44.4質量部の2EHA及び1.3質量部のMAAを配合後、十分に攪拌し、CHMA、2EHA及びMAAを含む混合物aの乳化液(1)を調整した。この乳化液(1)とは別に、9質量部の蒸留水に、0.7質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させ、別の溶解液を得た。この溶解液に、27.5質量部のCHMA、6.8質量部の2EHA及び0.7質量部のMAAを配合後、十分に攪拌し、CHMA、2EHA及びMAAを含む混合物bの乳化液(2)を調整した。実施例1と同等の混合液を反応器内で加温し、80℃に調整した後、実施例1と同等のKPSが溶解した水溶液とともに、乳化液(1)の添加を開始するとともに、この乳化液(1)に乳化液(2)を滴下した。このようにして、乳化液(1)及び(2)を混合しつつ、3時間かけて添加した。添加終了後も、加温状態を保持しつつ3時間攪拌し続けた。このようにして、実施例6のバインダーをその固形分率で36.2質量%含む、樹脂組成物を得た。このバインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。
【0096】
[密着性試験1]
作製した電極について、JIS−K−5600−5−6に準拠した碁盤目試験に基づいて密着性に関する評価を行った。100個のマス目のうち残存しているマスの数を計数し、「A」、「B」及び「C」の3段階に格付けした。その結果が、下記の表1及び表2に示されている。
A:90マス以上
B:80マス以上90マス未満
C:80マス未満
【0097】
[密着性試験2]
作製した電極を電解液(プロピレンカーボネートにLiPFを溶解させた溶液(LiPF濃度:1mol/L))に浸漬した。60℃で1週間静置後、剥離していない部分の面積(残存面積)を計測した。電極全体の面積に対する残存面積の比率を算出し、「S」、「A」、「B」及び「C」の4段階に格付けした。その結果が、下記の表1及び表2に示されている。
S:80%以上
A:60%以上80%未満
B:40%以上60%未満
C:40%未満
【0098】
[膨潤試験]
作製した電極組成物を用いて2mm厚の塗膜を作製し、この塗膜から2cm×2cmの試験片をサンプリングした。この試験片の質量W0を測定した後、この試験片をプロピレンカーボネートに浸漬した。室温で1週間静置後、この試験片の質量W1を測定し、下記数式に基づいて膨潤率を算出した。この算出結果が、下記の表1及び表2に示されている。なお、表中、「NG」は塗膜を形成することができなかった場合を表している。
(膨潤率)=((W1−W0)/W0)×100
【0099】
[充放電サイクル試験]
作製した電極を作用極とした。電極面積は4cmとした。この作用極に対して十分に大きな電気化学容量を有するリチウム金属を対極とした。この対極と同等のリチウム金属を参照電極とした。このようにして、単極セルを作製した。この単極セルを、十分な大きさを有する容器に収容し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1対1(容量比)で混合したものにLiPFを溶解させた溶液(LiPF濃度:1mol/L))を注入し、試験電池を得た。この試験電池を60℃の温度条件下で0.1Cの定電流で0.01Vになるまでリチウムイオンを挿入した。挿入後、0.1Cの定電流で1Vになるまでリチウムイオンを放出させた。この充放電を10回繰り返し、1回目の放電容量(mAh)に対する10回目の放電容量(mAh)の比率(保持率)を算出し、「A」、「B」及び「C」の3段階に格付けした。その結果が、下記の表1及び表2に示されている。
A:70%以上
B:50%以上70%未満
C:50%未満
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
表1及び表2に示されるように、実施例のバインダーは、比較例のバインダーに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0103】
[実験B−シランカップリング剤及びN−メチロール(メタ)アクリルアミドの配合効果に関する検討]
[実施例7]
一の容器において、35質量部の蒸留水に、2.2質量部の乳化剤(第一工業製薬株式会社製の商品名「アクアロンHS−10」)を溶解させ、溶解液を得た。この溶解液に、38.5質量部のMMA、10質量部のBMA、48.6質量部の2EHA、2質量部のMAA及び0.9質量部のシランカップリング剤(東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6033」)を配合後、十分に攪拌し、MMA、BMA、2EHA、MAA及びシランカップリング剤を含んだ混合物の乳化液を調整した。反応器において、130質量部の蒸留水に0.5質量部の上記「アクアロンHS−10」を溶解させ、混合液を得た後、この容器内を窒素で置換した。この反応器内の混合液を加温し、80℃に調整した。上記一の容器とは別の容器において、20質量部の蒸留水に0.5質量部の重合触媒としての過硫酸カリウム(KPSとも称される)を溶解させ、水溶液を得た。反応器内の混合液を攪拌しつつ、この混合液に上記一の容器の乳化液及び上記別の容器の水溶液を3時間かけて添加した。添加終了後も、加温状態を保持しつつ3時間攪拌し続けた。このようにして、実施例7のバインダーをその固形分率で35.6質量%含む、樹脂組成物を得た。このバインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。この電極を用いて、前述の実験Aと同様にして、密着性試験1、密着性試験2、膨潤試験及び放電サイクル試験を行った。その結果が、下記の表3に示されている。
【0104】
[実施例8−12]
混合物の配合を下記表3の通りとした他は実施例7と同様にして、実施例8−12のバインダーを得た。各バインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。この電極を用いて、前述の実験Aと同様にして、密着性試験1、密着性試験2、膨潤試験及び放電サイクル試験を行った。その結果が、下記の表3に示されている。表1中、Z−6030は東レ・ダウコーニング株式会社製のシランカップリング剤の商品名、GMAはグリシジルメタクリレート、DAAmはダイアセトンアクリルアミド、AAEMは2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、ADHはアジピン酸ジヒドラジドを表している。
【0105】
[実施例13]
21質量部の蒸留水に、1.5質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させ、溶解液を得た。この溶解液に、10質量部のMMA、10質量部のBMA、43.4質量部の2EHA、1.2質量部のMAA及び0.4質量部のZ−6033を配合後、十分に攪拌し、MMA、BMA、2EHA、MAA及びシランカップリング剤を含む混合物aの乳化液(1)を調整した。この乳化液(1)とは別に、9質量部の蒸留水に、0.7質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させ、別の溶解液を得た。この溶解液に、21.4質量部のMMA、12.7質量部の2EHA、0.8質量部のMAA及び0.1質量部のZ−6033を配合後、十分に攪拌し、MMA、2EHA、MAA及びシランカップリング剤を含む混合物bの乳化液(2)を調整した。実施例1と同等の混合液を反応器内で加温し、80℃に調整した後、実施例1と同等のKPSが溶解した水溶液とともに、まずは乳化液(1)を2時間かけて添加し、その後乳化液(2)を1時間かけて添加した。添加終了後も、加温状態を保持しつつ3時間攪拌し続けた。このようにして、実施例13のバインダーをその固形分率で36.3質量%含む、樹脂組成物を得た。このバインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。この電極を用いて、前述の実験Aと同様にして、密着性試験1、密着性試験2、膨潤試験及び放電サイクル試験を行った。その結果が、下記の表4に示されている。
【0106】
[実施例14−17]
混合物a及び混合物bそれぞれの配合を下記表4の通りとした他は実施例13と同様にして、実施例14−17のバインダーを得た。各バインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。この電極を用いて、前述の実験Aと同様にして、密着性試験1、密着性試験2、膨潤試験及び放電サイクル試験を行った。その結果が、下記の表4に示されている。表中、「St」はスチレンを表しており、「BD」はブタジエンを表している。
【0107】
[実施例18]
21質量部の蒸留水に、1.5質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させ、溶解液を得た。この溶解液に、2質量部のMMA、55.5質量部の2EHA、30質量部のブチルアクリレート(BAとも称される)、1.8質量部のMAA及び0.7質量部のN−メチロールアクリルアミド(N−MAMとも称される)を配合後、十分に攪拌し、MMA、2EHA、BA、MAA及びN−MAMを含む混合物aの乳化液(1)を調整した。この乳化液(1)とは別に、9質量部の蒸留水に、0.7質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させ、別の溶解液を得た。この溶解液に、8.1質量部のMMA、1.6質量部のBA、0.2質量部のMAA及び0.1質量部のN−MAMを配合後、十分に攪拌し、MMA、BA、MAA及びN−MAMを含む混合物bの乳化液(2)を調整した。実施例1と同等の混合液を反応器内で加温し、80℃に調整した後、実施例1と同等のKPSが溶解した水溶液とともに、まずは乳化液(1)を2時間かけて添加し、その後乳化液(2)を1時間かけて添加した。添加終了後も、加温状態を保持しつつ3時間攪拌し続けた。このようにして、実施例18のバインダーをその固形分率で36.3質量%含む、樹脂組成物を得た。このバインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。この電極を用いて、前述の実験Aと同様にして、密着性試験1、密着性試験2、膨潤試験及び放電サイクル試験を行った。その結果が、下記の表5に示されている。
【0108】
[実施例19−23]
混合物a及び混合物bそれぞれの配合を下記表5の通りとした他は実施例18と同様にして、実施例19−23のバインダーを得た。各バインダーについて、実施例1のバインダーの場合と同様にして、電極組成物を製造し、この電極組成物を用いて電極を作製した。この電極を用いて、前述の実験Aと同様にして、密着性試験1、密着性試験2、膨潤試験及び放電サイクル試験を行った。その結果が、下記の表5に示されている。
【0109】
【表3】

【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
表3、表4及び表5に示されるように、実施例のバインダーは、比較例のバインダーに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上説明されたバインダーは、種々の電池の電極に適用されうる。
【符号の説明】
【0114】
2・・・電池
4、4a、4b・・・電極
6・・・電解液
8・・・セパレータ
10・・・集電体
12・・・塗膜
16・・・活物質
18・・・バインダー
20・・・コア
22・・・シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキシル(メタ)アクリレートとこのシクロヘキシル(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマーとを共重合して得られるポリマーを基材とする電極用バインダー。
【請求項2】
上記ポリマーの形成に使用したモノマー全質量に対する上記シクロヘキシル(メタ)アクリレートの質量の比率が、5.0質量%以上70.0質量%以下である請求項1に記載の電極用バインダー。
【請求項3】
上記ポリマーが、粒子状を呈しており、
このポリマーが、コアとこのコアの外側に位置するシェルとを備えており、
このシェルが、このコアとは異なる組成を有しており、
このシェルのガラス転移温度が、−60℃以上65℃以下であり、
このコアのガラス転移温度が、−60℃以上65℃以下である請求項1又は2に記載の電極用バインダー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のバインダーと、活物質と、分散媒とを含んでいる電極組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の電極組成物を集電体に塗布し乾燥して得られる電極。
【請求項6】
(メタ)アクリル系モノマーと、この(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤とを共重合して得られるポリマーを基材とする電極用バインダー。
【請求項7】
上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な架橋剤が、不飽和有機シラン及び/又はN−メチロールアクリルアミドである請求項6に記載の電極用バインダー。
【請求項8】
上記ポリマーが、粒子状を呈しており、
このポリマーが、コアとこのコアの外側に位置するシェルとを備えており、
このシェルが、このコアとは異なる組成を有しており、
このシェルのガラス転移温度が、−60℃以上65℃以下であり、
このコアのガラス転移温度が、−60℃以上65℃以下である請求項6又は7に記載の電極用バインダー。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載のバインダーと、活物質と、分散媒とを含んでいる電極組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の電極組成物を集電体に塗布し乾燥して得られる電極。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−104406(P2012−104406A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252716(P2010−252716)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(397078262)東洋化学株式会社 (3)
【Fターム(参考)】