説明

電気化学リアクター

【課題】電気化学セルを安定した状態で導電性接続部材に接合した接合構造を有する電気化学リアクターを提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される電気化学リアクター(20)は、固体電解質を備える電気化学セル(10)と導電性接続部材(24)との接合が、該セルと該接続部材との直接的な接触を回避して該セルと該接続部材との間に配置された導電性接合材(30)を介して行われており、その接合材は、ガラスマトリックスと導電性粒子とを有し、ここで該ガラスマトリックスは酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 5〜15質量%;
NaO及び/又はKO 15〜25質量%;
CaO及び/又はMgO 1〜5質量%;
から実質的に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、排ガス浄化装置等に用いられる酸素ガス分離エレメント、等のいわゆる電気化学反応を利用した電気化学リアクター(電気化学反応装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン等のイオンを伝導させる能力を有する固体電解質と、該電解質を挟んでその両側にそれぞれ配置されるアノード及びカソードとから構成される電気化学セルを構成要素として備える電気化学反応装置、即ち電気化学リアクターが種々の産業分野で利用されている。例えば、電気化学セルのアノード側に供給される燃料ガスの化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池の一形態である固体酸化物形燃料電池(SOFCと呼ばれる。)や、通電された電気化学セルに供給された排ガス中のNOxやSOxを電気エネルギーによる酸化還元反応によって分解除去する排ガス浄化装置が、電気化学リアクターの典型例として挙げられる。
【0003】
一般的に、電気化学リアクターは、電気化学反応を行うユニット(基本構造体)である電気化学セルを複数備えており、それらはセル相互及び/又は他の接続部材(例えばSOFCにおけるインターコネクト)に接合され、セル集積構造体(例えばSOFCにおけるスタック)を構成している。
このようなセル集積構造体を有する電気化学リアクターにおける技術上の課題の一つとして、該リアクターを使用する(作動させる)環境下において、所望する性能を維持しつつ安定的にセル集積構造を維持することができる接合構造を備えることが挙げられる。例えば、SOFCのスタックを構築する場合、複数のセル(SOFCを構成する単位)をインターコネクトと呼ばれる導電性接続部材に接合することが行われている。例えば、特許文献1〜6には、SOFCを構成する部材間を接合(シール)する材料として種々のガラスシール材が記載されている。
【0004】
近年、SOFCの電池性能を向上させるべく固体電解質の薄層化を目的として、燃料極として機能する多孔質基材の表面に固体電解質が薄膜状に形成されてなる所謂アノード支持形SOFCの開発が進められている。このタイプのSOFCでは、アノードとして例えばNiOとYSZとの混合物(サーメット)が用いられる。かかる混合物は使用時に還元処理されてNiとYSZになるため、Niの導電性を活かしながら熱膨張差を固体電解質(YSZ)と近似させることができる。他方、カソードとしては例えばLaCoO、LaMnO等のペロブスカイト構造の酸化物が用いられる。そしてSOFCの実用化が進むにつれて、耐久性や信頼性の向上のために、セル自体やセルを複数備えて成るスタックにおけるガスリーク(ガス漏れ)を少なくする要求が増大している。ガスリークは燃料ガスの利用効率低下や局部的な熱分布ムラの原因となるため好ましくない。従って、セルとセルとの間、或いはセルと何らかの接続部材(例えばインターコネクト)との接合部における高い気密性を実現するシール接合を形成し得る組成の接合材(シール材)が求められている。
特に最近は、安価な汎用材料を使用して運転コストを低下させ得るという観点から、SOFCの作動温度の低温化(例えば800℃以下)が求められている。例えば、600〜800℃程度といった従来よりも低温度域を運転温度とするSOFCが望まれており、そのことを実現するべく、より一層の固体電解質の薄層(薄膜)化が求められている。例えば、特許文献7〜9ならびに非特許文献3〜4には、薄層固体電解質を備える小型のチューブ形状SOFCが記載されている。また、非特許文献1〜2には、薄層固体電解質を備える平板形状SOFCが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−154525号公報
【特許文献2】特開2004−39573号公報
【特許文献3】特表2008−527680号公報
【特許文献4】特表2008−529256号公報
【特許文献5】特開2006−56769号公報
【特許文献6】特開2009−199970号公報
【特許文献7】特開2004−335277号公報
【特許文献8】特開2009−205933号公報
【特許文献9】特開2010−3669号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature、Vol.431、pp.170−173(2004)
【非特許文献2】Electrochem.Solid−Sate Lett.、Vol.5(11)、pp.A242−A244(2002)
【非特許文献3】Science、Vol.325、pp.852−855(2009)
【非特許文献4】JOURNAL OF POWER SOURCES、Vol.183、pp.544−550(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、SOFCその他の電気化学リアクターを構成する電気化学セルに含まれる固体電解質の薄層化は、該セル自体の物理的(機械的)強度の低下を伴う。そのため、そのような薄層タイプの固体電解質を備える電気化学セルをインターコネクト等の他の接続部材に物理的に安定して接合するのに適する接合材ならびに接合構造が求められている。また、そのような接合材を用いて好適な機械的強度を維持した接合構造(特にコストパフォーマンスに優れるシンプルな接合構造)が形成された電気化学リアクター(電気化学モジュール)が求められている。
【0008】
そこで本発明は、電気化学リアクター(特にはSOFC)に関する上記従来の課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、固体電解質を備える電気化学セルを確実に安定した状態で接続部材(例えば上記インターコネクト)に接合した接合構造を有する電気化学リアクターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく本発明により、アノードと、カソードと、該アノードと該カソードとの間に配置された固体電解質とからなる一又は複数の電気化学セルと、該電気化学セルと導電可能に接合される少なくとも一つの導電性接続部材(典型的にはSUS(ステンレス鋼)等の金属製の接続部材)と、を備える電気化学リアクターが提供される。
ここで「電気化学セル」は、電気化学反応を行う構成ユニットのことであり、アノードとカソードと固体電解質とを備える構造物である。
また、ここで「電気化学リアクター」は、かかる電気化学セルを構成要素として一つ又は複数備える反応装置をいう。例えば、固体電解質形燃料電池(SOFC)や排ガス浄化システム、酸素センサー等は、ここでいう電気化学リアクターに包含される典型例である。
【0010】
ここで開示される電気化学リアクターでは、上記セルと上記接続部材との接合が該セルと該接続部材との直接的な接触(即ち互いの部材が直に接触していること)を回避して該セルと該接続部材との間に配置された導電性接合材を介して行われている。ここで上記導電性接合材は、ガラスマトリックスと導電性粒子とを有する。
好ましい一態様では、上記ガラスマトリックスは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 5〜15質量%;
NaO及び/又はKO 15〜25質量%;
CaO及び/又はMgO 1〜5質量%;
から実質的に構成されている。
【0011】
かかる構成の電気化学リアクターは、上記電気化学セルと導電性接続部材(典型的にはSUS等の金属製の接続部材)との導電(集電)可能な接合が、上記構成の導電性接合材を介在させて行われている。このことによって、相互に組成が異なる部材である電気化学セルと導電性接続部材との直接的な接合を回避し、該セルと接続部材との間の熱膨張率(熱膨張係数)の相違等に起因する両部材のうちの何れかの部材の破壊や接合不良(シール不良)を防止することができる。
即ち、かかる構成の電気化学リアクターでは、上記構成のガラスマトリックスと導電性粒子(導電性成分)とから構成される導電性接合材が上記電気化学セルと導電性接続部材との間に介在することによって、電気化学セルと導電性接続部材との間の熱膨張差を緩衝し、該熱膨張差によって生じる応力により電気化学セル及び/又は導電性接続部材が破損したり、或いは該セルが該接続部材から剥離することを防止することができる。
従って、本発明によると、機械的強度が比較的低い薄型の電気化学セルを装備する場合であっても、該薄型電気化学セルを物理的に安定した状態で導電性接続部材に導電性接合材を介在させて接合した構造を備える電気化学リアクターを提供することができる。
【0012】
ここで開示される電気化学リアクターの好適な一態様では、上記導電性接合材のガラスマトリックスは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜70質量%;
Al 10〜15質量%;
NaO及び/又はKO 15〜25質量%;
CaO 1〜5質量%;
MgO 0〜3質量%;
から実質的に構成されている。
このような構成のガラスマトリックスを備える接合材は、より緩衝作用に優れる接合構造を実現することができる。
【0013】
また、ここで開示される電気化学リアクターの好適な他の一態様では、上記導電性接合材のガラスマトリックスの熱膨張係数が8×10−6/K〜14×10−6/Kの範囲にある。
かかる態様の電気化学リアクターでは、上記範囲の熱膨張係数(典型的には、一般的な示差膨張方式の熱機械分析(TMA)に基づく室温(例えば25℃)〜ガラスの軟化点以下の温度(例えば500℃)の間の平均値をいう。以下同じ。)に近似する熱膨張係数を有する電気化学セル(又は導電性接続部材)の破損を防止しつつより好適に接合することができる。
【0014】
また、ここで開示される電気化学リアクターの好適な他の一態様では、上記導電性接合材のガラスマトリックスの軟化点が600℃〜800℃の範囲内にある。
かかる態様の電気化学リアクターでは、上記温度範囲において使用する場合に導電性接合材が好適な緩衝作用を発揮し得る。従って、本発明によると、例えば600〜800℃付近を作動(運転)温度域とする電気化学リアクター(固体電解質形燃料電池等)であって、薄型の電気化学セルを高い接合(シール)強度で安定的に保持した電気化学リアクターを提供することができる。
【0015】
また、ここで開示される電気化学リアクターの好適な他の一態様では、上記導電性粒子が銀(Ag)又は銀主体の合金(即ち銀含有率が全体の50at%以上である合金)から構成されている。
このような金属粒子を含むことにより、接合部において高い導電性を実現することができる。また、銀粒子は比較的融点が低いため、ガラスマトリックスとの一体性に優れる強度の高い接合部を形成することができる。
【0016】
また、ここで開示される電気化学リアクターの好適な他の一態様では、上記電気化学セルは、アノードと固体電解質とカソードとからなる積層構造体がチューブ状(環状)に成形されており、上記接続部材は、該チューブ状セルの一端が挿入される接続口が形成されている。そして該接続部材の接続口に上記チューブ状セルの一端が挿入されるとともに、該チューブ状セルの一端と該接続部材の接続口部分との間に上記導電性接合材が配置されて該セルと該接続部材との直接的な接触を回避して該接合材を介して該セルと該接続部材との接合が行われている。
かかる構成の電気化学リアクターでは、アノードと固体電解質とカソードとからなるチューブ形状のセルを構造的に安定した状態で上記導電性接合材の接続口に接合することができる。
【0017】
上記態様において特に好ましいものは、上記接続部材には上記接続口が複数形成されており、該接続口のそれぞれに前記チューブ状セルの一端が挿入されるとともに該チューブ状セルの一端と該接続部材の接続口部分との間に上記導電性接合材が配置されて該セルと該接続部材との直接的な接触を回避して該接合材を介して該セルと該接続部材との接合が行われることにより、複数のチューブ状セルが集積して配置されている。
本発明によると、特にアノードと固体電解質とカソードとからなる環状積層構造体であるチューブ状セル(特に薄い環状のセル)が集積した形態、即ちバンドル状に環状セルが集積した形態のリアクターを好適に提供することができる。
【0018】
ここで開示される電気化学リアクターの好適な一形態は、固体電解質形燃料電池(以下、「SOFC」と略称する場合がある。)である。
即ち、本発明によって提供される電気化学リアクターの好適な一態様では、上記電気化学セルは固体電解質形燃料電池を構成するセル(以下、単に「セル」と略称する場合がある。)であり、上記導電性接続部材は該固体電解質形燃料電池を構成するセルと導電可能に接続されるインターコネクトである。
本発明によると、上記導電性接合材を介在させることにより、比較的薄型の電気化学セル(SOFC)であっても、高い接合(シール)強度で安定的にインターコネクトに導電可能に保持することができる。このため、本発明によると、セルとインターコネクトとの間に信頼性の高いシール構造(接合構造)を備えた電気化学リアクター(ここでは燃料電池、典型的には燃料電池セルが集積したスタック或いは該スタックを更に集積して構築されるモジュール)を提供することができる。
【0019】
また、本発明は、他の側面として、アノードと、カソードと、該アノードと該カソードとの間に配置された固体電解質とからなる一又は複数の電気化学セルと、該電気化学セルと導電可能に接合される少なくとも一つの導電性接続部材とを備える電気化学リアクターを製造する方法を提供する。
ここで開示される電気化学リアクター製造方法は、電気化学リアクターを構成する上記電気化学セルと導電性接続部材(典型的には金属製の接続部材、例えばインターコネクト)とを、相互に直接的に接触させることなく、ここで開示される何れかの導電性接合材により接合することを特徴とする。即ち、ここで開示されるいずれかの導電性接合材を用意し、該用意した接合材を電気化学セルと導電性接続部材との接合部位に配置し、該配置した部分から該導電材が流出しない温度域で該配置した導電性接続部材を焼成することによって、電気化学セルと上記接続部材との接続部分において該接合材からなる接合部を形成することを包含する。
かかる構成の製造方法により、上述したような効果を奏する電気化学リアクターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電気化学セルの一実施形態であるチューブ状セル(SOFC)の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】チューブ状セルを複数個備えたSOFCスタックの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図3】図2に示すSOFCスタックを構成するセルとインターコネクトとの接合状態を説明するための断面図である。
【図4】図2に示すSOFCスタックを複数個集積させて構築されたSOFCモジュールの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図5】図4に示すSOFCモジュールにガスマニホールドを装着した形態を模式的に示す斜視図である。
【図6】図2に示すSOFCスタックを複数個集積させて構築されたSOFCモジュールの他の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図7】ガスリーク試験(酸化還元試験)の実施に用いた装置構成の要部を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、導電性接合材を構成するガラスの組成)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば電気化学セル自体の構築方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0022】
本発明により提供される電気化学リアクターは、電気化学セルが備える固体電解質の機能を利用する電気化学反応器であればよい。即ち、外部から電気化学セルに電力を加えることによって該セルが作動して酸化物イオン(O2−:酸素イオンともいう。)その他のイオン伝導を利用する形態のリアクターが挙げられる。この種のリアクターとして酸素センサーや二酸化炭素センサー等のガスセンサー、酸素分離膜エレメント(酸素ポンプ)等が挙げられる。また、固体電解質のイオン伝導を利用して電力を発生させる形態のリアクターもここでいう電気化学リアクターの典型例である。この種の電気化学リアクターとしてSOFCが挙げられる。SOFCは、本発明により提供される電気化学リアクターの好例である。
【0023】
ここで開示される電気化学リアクターは、アノードと、カソードと、該アノードと該カソードとの間に配置された固体電解質とからなる一又は複数の電気化学セルと、該電気化学セルと導電可能に接合される少なくとも一つの導電性接続部材とを備えるとともに、該セル(電気化学セルを複数備える場合はそのうちの少なくとも一つのセル)が本発明に係る導電性接合材を介在させて導電可能に上記導電性接続部材に接合されていることで特徴付けられる電気化学リアクターであり、他の構成要素は種々の用途に応じて任意に備えることができる。例えば、電気化学リアクターがSOFCである場合、セルの組成(具体的にはアノード、カソード及び/又は固体電解質の組成)や形状、或いは導電性接続部材(例えばインターコネクト)の材質や形状は適宜決定することができる。
例えば導電性接続部材としては、SOFCにおけるインターコネクトや各種ガスセンサーや排ガス処理装置において電気化学セルに接続され得る各種の集電体や配管が好適例として挙げられる。
【0024】
ここで開示される上記の導電性接合材は、本発明に係る電気化学リアクターを構成する電気化学セルと導電性接続部材(例えばSOFCの金属製インターコネクト)との間に配置され、両部材を互いに接触させることなく導電可能に接合するための材料である。かかる接合材料の介在によって、互いに組成の異なる電気化学セルと導電性接続部材(例えばペロブスカイト型複合酸化物等のセラミック製セルと、SUS等の金属製インターコネクト)との熱膨張差に起因する応力発生による両部材間の剥離やセルの破損を防止することができる。
かかる緩衝効果を発揮し得る限りにおいて、該導電性接合材を構成する成分に特に制限はないが、その主体たる成分として、ガラスマトリックスを構成するガラスと、該ガラスマトリックスに分散した状態で配置される導電性粒子とを含む。以下、かかる導電性接合材の構成要素について詳細に説明する。
【0025】
ここで開示される導電性接合材のガラスマトリックスを構成する主体は酸化ケイ素(SiO)である。即ち、SiOは接合部のガラス層(ガラスマトリックス)の骨格を構成する主成分である。接合部を形成するガラスマトリックス全体のうち酸化物換算の質量比で60〜75質量%程度がSiOで構成されるものが適当であり、60〜70質量%程度がSiOで構成されるものが特に好ましい。また、SiO含有率が上記範囲よりも高すぎると融点(軟化点)が高くなりすぎてしまい好ましくない。一方、SiO含有率が上記範囲よりも低すぎる或いは含まれないと、耐水性や耐化学性が低下する虞がある。
【0026】
ここで開示される導電性接合材のガラスマトリックスを構成する成分としての酸化アルミニウム(Al)は、ガラスの流動性を制御して付着安定性に関与する成分として好ましく、接合部を形成するガラスマトリックス全体のうち酸化物換算の質量比で5〜15質量%程度が適当であり、10〜15質量%程度が好適である。Al含有率が上記範囲よりも低すぎると付着安定性が低下する虞がある。一方、Al含有率が上記範囲よりも高すぎると耐化学性が低下する虞がある。
【0027】
ここで開示される導電性接合材のガラスマトリックスを構成するアルカリ成分としての酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カリウム(KO)は、ガラスマトリックスの熱膨張係数(熱膨張率)を高める成分である。接合部を形成するガラスマトリックス全体のうち酸化物換算の質量比でNaO及び/又はKOの含有率は15〜25質量%程度が適当である。これらアルカリ成分の含有率が上記範囲よりも低すぎると膨張係数が低くなりすぎる虞がある。一方、これらアルカリ成分の含有率が高すぎると熱膨張係数が過剰に高くなるため好ましくない。ガラスマトリックスの安定性(例えば耐化学性)を向上させる目的にはナトリウム成分とカリウム成分の両方を含むことが好ましく、その場合、例えばKO含有率が5〜15質量%であり、NaO含有率が5〜15質量%(但し合計でガラスマトリックス全体の15〜25質量%)であることが好ましい。
【0028】
ここで開示される導電性接合材は、接合部を形成するガラスマトリックス全体のうち酸化物換算の質量比で5質量%以下(典型的には1〜5質量%)でアルカリ土類金属酸化物であるMgO及び/又はCaOを含む。これら成分を含有することにより、電気化学セルの作動温度域(使用温度域)において好適な熱膨張係数を有するガラスマトリックスを形成することができる。例えば、セル(SOFC)を一方の接合対象とし、インターコネクト等の金属製接続部材をもう一方の接合対象とするような場合、CaOを含有率1〜5質量%(好ましくは2〜4質量%)で含有し、且つ、MgOは含まないか或いは含む場合にはその含有率が3質量%以下であることが特に好ましい。
【0029】
ここで開示される導電性接合材は、ガラス構成成分(即ち非晶質であるガラスマトリックスを構成するガラス組成物)として、酸化物換算の質量比で、SiO:60〜75質量%、Al:5〜15質量%、NaO及び/又はKO:15〜25質量%、CaO及び/又はMgO:1〜5質量%から実質的に構成される酸化物ガラス組成物である。このような組成のガラス組成物を採用することにより、緩衝作用があり、シール性能に優れるガラスマトリックスからなる接合部を形成することができる。
特に、酸化物換算の質量比でSiO:60〜70質量%、Al:10〜15質量%、NaO及び/又はKO:15〜25質量%、CaO:2〜5質量%、MgO:0〜3質量%から実質的に構成される酸化物ガラス組成物であることが特に好ましい。
このような組成のガラスマトリックスは、例えば600〜800℃の範囲にガラス軟化点を有し、該温度域を使用温度域とする電気化学セル(例えばSOFC)と導電性接続部材(例えばSUSのような金属製の接続部材)とを接合する(シールする)材料として好適である。電気化学セル(電気化学リアクター)の使用温度域にガラス軟化点を有することにより、接合部においてシール性能(密着性)と緩衝性能(応力緩和によるセル破損防止)とを高い次元で両立させることができる。
【0030】
また、ここで開示される導電性接合材のガラスマトリックスを構成する成分(ガラス組成物は、上記のSiO、Al、NaO及び/又はKO、CaO及び/又はMgOのみであってもよいが、本発明の目的を実現し得る限りにおいて、これら主酸化物成分以外の副次的成分を種々の目的に応じて添加してもよい。かかる副次的成分の例示として、B、ZnO、LiO、Bi、SrO、SnO、SnO、CuO、CuO、TiO、ZrO、La等が挙げられる。これら成分を含有させるとガラスマトリックス自体がそれだけ多成分系で構成されるため ガラスの安定性(例えば耐化学性)を向上させることができる。例えばこれら副次的なガラス構成要素をガラスマトリックス全体のうち酸化物換算の質量比で10質量%以下(典型的には5質量%以下、例えば3質量%以下)の含有率で含み得る。即ち、ここで開示されるガラマトリックスを構成するガラス組成物(ガラス粉末)に関して「実質的に構成される」とは、上記主酸化物成分のみからなるものと、該主酸化物成分以外の副次的成分を酸化物換算の質量比でガラス全体の10質量%以下(好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下)の含有率で含むものとを包含する用語である。
【0031】
ここで開示される導電性接合材は、上記のガラス構成成分の他、導電性粉末(導電性粒子)を含む。導電性粒子としては、種々の金属材やカーボン材(カーボンブラック、カーボンナノチューブ等)が挙げられる。導電率の高い金属粒子の使用が好適である。例えば、銅(Cu)、銀(Ag),金(Au)あるいはこれら金属を主体とする合金(即ちこれら金属の含有率が50at%以上の合金)からなる高導電性金属粒子が好適に用いられる。特に、銀又は銀主体の合金が好ましい。本発明の目的を実現し得る限りにおいて、種々の形状・サイズのものを使用することができるが、使用する導電性粉末粒子の粒径はガラスマトリックス中で良好に分散し得るサイズであり、例えば、光散乱法(典型的にはレーザー回折・散乱法)に基づく平均粒径(或いは電子顕微鏡観察に基づく平均粒径でもよい。以下同じ。)が5μm以下(例えば1μm〜5μm)程度の金属粉末(特に銀又は銀主体の合金粉末)が適当である。或いは、平均粒径が1μm以下(例えば0.01μm〜1μm)である微粒子からなる金属粉末(特に銀又は銀主体の合金粉末)も好適に使用することができる。
【0032】
上記のような成分を含む導電性接合材の製造方法に関して特に制限はなく、例えば従来の導体ペーストを製造する場合と同様に製造することができる。
典型的には、ガラス組成物を構成する各種酸化物成分を得るための化合物(例えば各成分を含有する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、又は各種の鉱物原料)及び必要に応じてそれ以外の添加物を所定の配合比で乾式又は湿式のボールミル等の混合機に投入し、適当な時間(例えば1時間〜数十時間)混合する。このようにして得られた混和物(粉末)は、乾燥後、耐火性の坩堝に入れ、適当な高温(典型的には1000℃〜1500℃)条件下で加熱・溶融させ、そして急冷することによって目的の組成のガラス組成物を得ることができる。
【0033】
次に、得られたガラス(ガラス質中間体)を適当な大きさ(粒径)となるまで粉砕し、ガラス粉末を作製する。かかる粉砕処理後に分級処理を実施し、所望の平均粒径及び粒度分布のガラス粉末を得ることが好ましい。後に添加される導電性粒子(導電性粉末)と均一に混合し易く、また扱い易い粒径である限りにおいて特に制限はないが、例えばレーザー回折・散乱法に基づく平均粒径が0.1μm〜10μmである粉末が適当である。
粉砕により得られたガラス粉末(ガラスマトリックスを構成する粉末)に対して、予め用意しておいた導電性粉末(導電性粒子)を混合する。本発明の目的を実現する限りにおいて特に限定されないが、ガラス粉末と導電性粉末との合計量を100質量%として導電性粉末(導電性粒子)の含有率が40〜80質量%(ガラス粉末の含有率が20〜60質量%)程度であることが適当であり、導電性粉末(導電性粒子)の含有率が50〜70質量%(ガラス粉末の含有率が30〜50質量%)程度であることが好ましい。
【0034】
また、ここで開示される導電性接合材は、従来のこの種の接合材と同様、典型的にはペースト状に調製されて接合対象の接続部分(被接合部分)に塗布することができる。
例えば、上記導電性粉末及びガラス粉末と共に、適当なバインダーや溶媒を混合してペースト状に調製することができる。なお、ペーストに用いられるバインダー、溶媒及び他の成分(例えば分散剤)は、特に限定されるものではなく、ペースト製造において従来公知のものから適宜選択して用いることができる。
例えば、バインダーの好適例としてセルロース又はその誘導体が挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、及びこれらの塩が挙げられる。バインダーは、ペースト全体の5〜20質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0035】
また、ペースト中に含まれ得る溶媒としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、又は他の有機溶剤が挙げられる。好適例としてエチレングリコール及びジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ターピネオール等の高沸点有機溶媒又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。ペーストにおける溶媒の含有率は、特に限定されないが、ペースト全体の1〜10質量%程度が好ましい。
【0036】
ここで開示される導電性接合材は、従来のこの種の接合材と同様に用いることができる。具体的には、接合対象である電気化学セル(例えばSOFC)と少なくとも一つの導電性接続部材(例えば金属製のインターコネクト)とを接合する場合において、それら部材の少なくとも一方の被接合部分に接合材を付与(塗布)する。そして両部材が相互に直接的に接触しないようにして両部材を該導電材の付与(塗布)物を介して接続する。そして、かかる塗布物を適当な温度(典型的には60〜100℃、例えば80℃±10℃)で乾燥させる。次いで、好ましくは電気化学セルの使用温度域と同等又はそれよりも高い温度域であってガラスが流出しない温度域(典型的には600〜1000℃、好ましくは700〜900℃、例えば800±50℃程度)で焼成する。このことにより、導電材が付与された電気化学セルと導電性接続部材とをこれらが相互に直接的に接触することなく該導電性接合材を介して接合することができる。また、該接合(連結)部分においてガス流通を遮断する(すなわちガスリークが無い)接合部(シール部)を形成することができる。また、かかる導電性接合材からなる接合部が上記電気化学セルと導電性接続部材との間に介在することによって、電気化学セルと導電性接続部材との間の熱膨張差を緩衝し、該熱膨張差によって生じる応力により電気化学セル及び/又は導電性接続部材が破損したり、或いは該セルが該接続部材から剥離することを防止することができる。
【0037】
例えば、セル(SOFC)と金属製のインターコネクトとの間に生じ得る隙間が塞がれるように上記接合材を付与してSOFCとインターコネクトとを接合することができ、形成された接合部においてリークすることなく所定のガス(例えば燃料ガス)をセルに供給することができる。また、かかる導電性接合材からなる接合部がセルの使用温度域において柔軟性を示すことにより、セルとインターコネクトとの間の熱膨張差を緩衝し、セルの破損や剥離を防止しつつ接合部における気密性を維持することができる。
【0038】
ここで開示される導電性接合材は、種々の構造の電気化学リアクター、特にSOFC(例えば、従来公知の平板型(Planar)、チューブ状(Tubular)、あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰したフラットチューブ(Flat tubular)型等のセル(SOFC)を備えるもの)に対して好ましく適用することができ、形状又はサイズに特に限定されない。
次に、ここで開示される導電性接合材を好ましく適用して構築される電気化学リアクターの一典型例としてチューブ状のセルを備えるSOFCの一形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明により提供される電気化学リアクターをかかる形態のものに限定することを意図したものではない。
【0039】
図1に本実施形態に係るチューブ(円筒)型セル(SOFC)10を模式的に示す。この図に示すように、本実施形態に係るチューブ状セル10は、中空部11を囲う円筒(チューブ)形状に形成されたアノード(燃料極)12と、該アノード12の外表面に形成された固体電解質14と、該固体電解質14の外表面に形成されたカソード(空気極)16とからなる三層構造に形成されている。図示されるように、かかるチューブ状セル10の両端のうち、一方の端部13Aはアノード13Aが露出している(即ち固体電解質とカソードの積層構造部分を有しない。)アノード側端部13Aを構成しており、他方の端部は上記三層構造を有するとともに端面が固体電解質14によって覆われることによりアノード12が端面に露出していない(従って該端部においてアノード12と他の導電性部材との短絡が防止される。)カソード側端部13Bを構成している。
このような構成により、中空部11に燃料ガス(水素、一酸化炭素、メタンその他の炭化水素ガス等)を供給し且つセル外側に酸素ガスや空気等の酸素含有ガスを供給することにより、SOFCとして機能させることができる。
なお、特に限定するものではないが、後述するスタック20(図2)を構成する場合、例えば円筒形状のアノード12の厚み(即ちチューブ壁厚み)は、0.1mm〜0.5mm程度が良好なアノード電極性能を得るという観点から好適である。また、この場合のチューブ状セル10の直径は、0.5mm〜3mm程度が強度保持の観点から好ましい。
また、チューブ状セル10の長さ(長軸方向の長さ)は特に限定されないが、強度保持と集電効果の観点から1cm〜3cm程度が好ましい。また、アノード12の気孔率については、高速ガス拡散や還元反応の促進のために30%以上(例えば30〜50%程度)であることが好ましい。
【0040】
一方、アノード12の外表面に形成される固体電解質14は、緻密な酸化物イオン伝導体により形成されている。特に限定するものではないが、例えば1μm〜50μm程度が電気的に低抵抗な固体電解質膜を形成し得るという観点から好適である。かかる厚みが1μm〜20μmであると更に電気的に低抵抗となるため好ましい。
また、固体電解質14上に多孔質膜状に形成されるカソード16の厚みは、5μm〜50μm程度が十分な触媒活性点を得るという観点から好適である。かかる厚みが5μmよりも薄すぎると触媒活性点が不足気味になるため好ましくなく、かかる厚みが50μmよりも厚すぎるとガス拡散抵抗が増大する虞があるため好ましくない。
【0041】
次に、上記SOFCその他の電気化学セルを構成するのに好ましい電極(アノード及びカソード)形成材料ならびに固体電解質形成材料について説明する。
アノードを形成するための材料としては、従来からこの種の電気化学セルのアノードを構成するのに適する材料であれば特に限定されるものではないが、好ましい材料として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)その他の白金族元素、コバルト(Co)、La(ランタン)、Sr(ストロンチウム)、Ti(チタン)等からなる金属及び/又はこれら金属元素のうちの1種類以上から構成される金属酸化物であって触媒として機能し得るものが挙げられる。具体例として、Ni、Co若しくはRuその他の白金族元素からなる金属若しくは金属酸化物が挙げられる。これらのうち、Niは他の金属に比べて安価であり且つ水素等の燃料ガスとの反応性が十分に大きいことから特に好適な金属種である。
或いは、これら金属若しくは金属酸化物の元素や酸化物を混合した複合物を用いることもできる。例えば、上記のようなアノード形成材料となる金属若しくは金属酸化物と後述する固体電解質形成材料との複合材料を用いてアノードを形成することができる。例えば、Ni或いはRuと後述する安定化ジルコニアとのサーメットが好適例として挙げられる。特に限定するものではないが、例えば上記アノード形成材料と後述する固体電解質形成材料との混合比(アノード形成材料:固体電解質形成材料)が、質量比で90:10〜40:60程度が適当である。このような混合比範囲とすることにより、十分な電極(アノード)活性とアノードと固定電解質層との熱膨張係数の整合とを高いレベルで両立させることができる。かかる混合比(質量比)の範囲が80:20〜45:55程度であることがより好ましい。
【0042】
固体電解質を形成するための材料としては、高い酸化物イオン伝導性を有する化合物を使用することが好ましく、例えば、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、ガドリニウム(Gd)、サマリウム(Sm)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)のうちから選択される2種類以上の元素を含む酸化物であることが好ましい。例えば、イットリア(Y)、カルシア(CaO)、スカンジア(Sc)、マグネシア(MgO)、イッテルビア(Yb)、エルビア(Er)等の物質(安定化剤)で安定化されたジルコニア(ZrO)、或いはイットリア(Y)、ガドリニア(Gd)、サマリア(Sm)等をドープしたセリア(CeO)が、好適例として挙げられる。なお、安定化ジルコニアは、1種又は2種以上の安定化剤により安定化されていることが好ましい。
例えば、全体を100mol%として5〜10mol%の割合でイットリアを添加したイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、或いは5〜10mol%の割合でガドリニアを添加したガドリニアドープセリア(GDC)等が好適例として挙げられる。かかる安定化剤やドープ剤の含有割合が5mol%よりも低すぎると、アノードの酸素イオン導電率が低下するので好ましくない。逆にこれらの含有割合が10mol%よりも高すぎると、隣接するアノードの酸化物イオン伝導性(イオン伝導率)が低下するため好ましくない。
【0043】
一方、カソードの材料としては、酸素のイオン化に活性の高い材料が好ましく、特に、銀(Ag)、ランタン(La)、サマリウム(Sm)若しくは他のランタノイド元素、ストロンチウム(Sr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)の元素及びこれらの酸化物の1種類以上から構成される材料が好適である。例えば、遷移金属ペロブスカイト型酸化物、遷移金属ペロブスカイト型酸化物と固体電解質形成材料との複合物を好適に用いることができる。例えば、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)系やランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)系のペロブスカイト型酸化物が挙げられる。より具体的には、遷移金属ペロブスカイト型酸化物として、LaSrMnO3ーδ、LaCaMnO3ーδ、LaMgMnO3ーδ、LaSrCoO3ーδ、LaCaCoO3ーδ、LaSrFeO3ーδ、LaSrCoFeO3ーδ、LaSrNiO3ーδ、SmSrCoO3ーδ等が挙げられる。なお、上記化学式中におけるδは電荷中性条件を満たすように定まる値である。即ち上記列挙した各化学式中における酸素原子数は、ペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類および置換割合その他の条件により変動するため正確に表示することは困難である。このため、電荷中性条件を満たすように定まる値として、1を超えない正の数δ(0<δ<1)を採用して酸素原子の数を3−δと表示するのが妥当であるが以下では便宜的に3と表示することもある。但し、この種の化合物を示す化学式において該酸素原子の数を便宜的に3として表示しても、異なる化合物を表しているわけではない。
【0044】
また、これら遷移金属ペロブスカイト型酸化物と上記ジルコニア等の固体電解質形成材料とのコンポジット(複合材料)が好適例として挙げられる。該コンポジットを採用する場合は、カソードに必要な特性である電子伝導性及び酸化物イオン伝導性のうち、酸化物イオン伝導性の向上が図られるため、カソードで生じた酸化物イオンが固体電解質へ移行し易くなり、カソードの電極活性が向上するため好ましい。特に限定するものではないが、例えば上記遷移金属ペロブスカイト型酸化物と固体電解質形成材料との混合比(ペロブスカイト型酸化物:固体電解質形成材料)が、質量比で90:10〜60:40程度が適当である。このような混合比範囲とすることにより、十分な電極(カソード)活性ならびにカソードと固定電解質層との熱膨張係数の整合とを高いレベルで両立させることができる。かかる混合比(質量比)の範囲が90:10〜70:30程度であることがより好ましい。
【0045】
また、図1に示すようなチューブ(円筒)型セル10において、カソード側端部13Bにおけるカソード16の膜厚を厚くして集電効果を高めてもよい。このようなカソード膜厚部分(図示せず)の形成は、例えば上記カソード形成材料を用いて部分的に肉厚にカソード16を形成することで実現することができる。或いは、カソード側端部13Bにおけるカソード16の表面に金(Au)、銀(Ag)、或いは白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)その他の白金族元素からなる金属材料或いは該金属材料と上記いずれかのカソード形成材料との複合材料を付与して別途カソード集電部(図示せず)を設けてもよい。
【0046】
次に、上記のような各種材料から本実施形態に係るチューブ状セル10を製造する方法の好適例を説明する。
先ず、アノード形成工程として、所定のアノード形成材料(例えば上述したアノード形成材料となる金属若しくは金属酸化物と後述する固体電解質形成材料との複合材料)を適当なバインダーならびに溶媒(典型的には水)と混合し、押出成形法等の成形法によって所定形状(ここではチューブ形状)に成形し、乾燥若しくは仮焼する。
例えば、上述したいずれかのアノード形成材料である金属若しくは金属酸化物の粉末と、固体電解質形成材料となる酸化物粉末との混合粉末材料に、適当なバインダーを加えて水で混練し、得られた塑性混合材料(ペースト材料)を押出成形により、所定の管径、管長さ、管厚みのチューブ形状に成形する。なお、上記バインダーとしてはセルロース系高分子化合物(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース)を好適に用いることができる。バインダーの添加量は特に限定されないが、上記混合粉末材料100質量部に対して1〜30質量部の添加が好ましく、3〜20質量部の添加がより好ましい。また、必要に応じて炭素粉末等の気孔形成材(造孔材)を加えてもよい。
得られた成形体は常温で乾燥するか、必要に応じて1000℃以下(典型的には600〜1000℃程度)まで仮焼してもよい。かかる工程により、水銀圧入法に基づく気孔率が10%以上(典型的には30〜50%程度)であるチューブ成形体を得ることができる。
【0047】
次いで、得られたチューブ成形体の一方の端部の外表面(即ちアノード側端部13Aを形成する部位)と両端にある開口部をマスキングするとともに、非マスキング部分である外表面に、固体電解質形成材料を適当なバインダーならびに溶媒(典型的には有機溶媒)を混合して調製したスラリーをコートした後、典型的には1200〜1600℃で上記チューブ成形体(即ちアノード構造体)とその表面の固体電解質を同時焼成する。
例えば、かかる固体電解質付きアノード構造体を作製する工程では、上記得られたチューブ成形体の表面に固体電解質形成材料を含むスラリーを付着させた後、乾燥、焼成する。ここで使用するスラリーは、従来のこの種の固体電解質膜を形成するために調製されたものと同様、固体電解質形成材料からなる粉末材料に、適当なバインダーと有機溶媒を加えて混合することにより調製する。バインダーとしてはビニル系高分子化合物(例えばポリビニルアルコール)であることが好ましく、必要に応じて分散材等を添加することができる。また、有機溶媒としては、低級アルコール(メタノール、エタノール等)、アセトン、トルエン、ターピネオール等を用いることができる。なお、アノード12上に形成する固体電解質14の膜厚(コート厚)は、使用するスラリーの固形分濃度を調整し、アノード構造体(チューブ成形体)表面への固体電解質形成材料付着量を調整することにより制御することができる。
【0048】
上記スラリーをアノード構造体(チューブ成形体)表面に付着させる方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用すればよい。例えば、チューブ成形体の両端の開口部を樹脂系接着剤等により封止しておき、且つ、アノード側端部13Aをマスキングした後、この管を、スラリー中に浸漬してディップコーティングする方法が好適な一例として挙げられる。なお、ディップコーティング方法に代えて、例えばハケ塗り法、スプレー法等の従来公知の付着方法を採用してもよい。なお、カソード側端部13Bの端面においてもスラリーをコートして該端面においてアノードが露出することを防ぐことが好ましい。
スラリーを付着させた後、適当な手段により乾燥させ、次いでチューブ成形体を所定温度で焼成することにより、固体電解質層付きアノード構造体が形成される。ここで焼成温度は、多孔質構造であるアノード12とその表面に緻密な固体電解質層が形成されればよく、特に限定されないが、典型的には1200〜1600℃程度の温度で焼成することができる。
【0049】
次いで、得られた固体電解質付きアノード構造体の外表面にカソードを形成する。具体的には、かかるカソード形成工程は、上述したようなカソード形成材料を含むスラリーを上記固体電解質を形成する場合に用いた固体電解質形成用スラリーと同様に調製し、上記固体電解質付きアノード構造体の表面に付着させる。乾燥後、所定温度で焼成することにより、固体電解質14の表面に所定の厚さのカソード16が形成された目的のチューブ状セル10が作製される。なお、焼成温度は特に限定されるものではないが、典型的には、800〜1200℃程度の温度で焼成することができる。
【0050】
以上の工程により、図1に示すようなチューブ状電気化学セル(ここではSOFC)を製造することができる。なお、上述の実施形態では、アノード側端部13Aは、上記マスキングにより形成されているが、マスキングに代えて、例えば得られたチューブ状セルからカソード16と固体電解質14の一部を機械加工処理(例えば研削処理や研磨処理)して面出しを行うことによりアノード側端部13Aを形成してもよい。或いは同様の機械加工処理によって寸法調整を行ってもよい。そのような、セル10の形成後の後処理工程は従来技術の範疇であり、本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0051】
次に、上述したチューブ状セル10を使用して本発明により提供される電気化学リアクターの好適例を図面を参照しつつ説明する。図2は、上記チューブ状セル10を使用して構築される電気化学リアクターの一形態であるSOFCスタック(「バンドル」ともいう。以下同じ。)20の構造を模式的に示す斜視図である。
この図に示すように、本実施形態に係るSOFCスタック20は、一対のインターコネクト(集電部材)24,26間にセル10が互いに同方向に複数本(ここでは5本)配列されてなるスタック(バンドル)である。ここでインターコネクト24,26はセル10間を物理的に接合且つ電気的に接続すると同時に、酸化性のガス(典型的には空気)と還元性のガス(典型的には水素やメタン等の燃料ガス)とを分離するセパレータとしての役割も担っている。
具体的には、図2に示すように、一方のインターコネクト(アノード側インターコネクト)24に等間隔に設けられたアノード接続口24Aの各々に、各セル10のアノード側端部13Aが挿入されて接合(接続)され、且つ、他方のインターコネクト(カソード側インターコネクト)26に等間隔に設けられたカソード接続口26Aの各々に、各セル10のカソード側端部13Bが挿入されて接合(接続)されている。
【0052】
アノード側インターコネクト24のアノード接続口24A近傍の部分断面図である図3に示すように、上記インターコネクト24,26と各セル10との接合(接続)は、ここで開示される導電性接合材を介して行われる。即ち、図3に示すように、アノード接続口24Aに挿入されるセル10のアノード側端部13Aと該アノード接続口24Aの内壁との間には導電性接合材30が配置されており、該導電性接合材30を介在させた物理的接合ならびに電気的な接続が実現されている。同時にセル10のアノード側端部13Aと該アノード接続口24Aの内壁との間の隙間が導電性接合材30によりシール(封止)される。なお、図3はアノード側の接合形態を示しているがカソード側も同様の接合形態であるため重複した図示や説明は省略する。
なお、インターコネクト24,26を構成する材料は、SOFCを作動させる温度条件下において十分な導電性を有するものであればよく、種々の金属材料又はセラミック材料であり得る。本発明によって奏される効果を考えると、種々の金属材料からなるインターコネクト24,26を好適に使用することができる。例えば、銀、ニッケル、鉄、ステンレス(各種のSUS)等の鋼材、或いはこれら金属を含む合金等を好適に用いることができる。
【0053】
このような接合形態により、セル10とインターコネクト24との直接的な接触が回避され、セル10と導電性接続部材であるインターコネクト24,26との間の熱膨張差を緩衝し、該熱膨張差によって生じる応力によりセル10が破損したり或いはセル10がインターコネクト24,26から剥離することを防止することができる。また、セル10がインターコネクト24,26から剥離することを防止することができる。また、本実施形態における変更例として、例えばアノード側端部13Aや、カソード側端部13Bに予め導電性成分として適当な金属粒子(例えば銀粒子)を含む材料(典型的にはペースト状に調製された材料)を塗布しておくことによって、導体膜層を形成しておくことにより、より接触抵抗を低減できるという効果を得ることができる。なお、アノード側端部(アノード露出部分)13Aであって、インターコネクト24のアノード接続口24Aよりも外部に露出している部分には、ここで開示される導電性接合材、或いは他の導電性若しくは絶縁性のシール材、例えば市販のシール用ガラスペーストを適用(コーティング)することにより、当該部分を介しての中空部11からセル外部への(或いはその逆方向)のガスリークを防止することができる。
【0054】
セル10のサイズや数量によって変動するため特に限定されるものではないが、例えば上述したようなサイズ(即ちチューブ直径:0.5mm〜3mm)のチューブ状セル10を用いる場合、幅が0.5cm〜3cm程度であり、厚みが1mm〜5mm程度のSUSその他の金属製インターコネクトを好適に使用することができる。
一例を挙げれば、図2に示すように等間隔にアノード接続口24A及びカソード接続口26Aがそれぞれ5つずつ設けられ、幅が1.6cmで厚みが2.5mmである一対のインターコネクト24,26に、チューブ直径が1.9mmで長軸方向の長さが2.4cmのチューブ状セル10を5本接合したSOFCスタック20では、得られる電極面積はインターコネクト24,26を含めた一スタックあたり約6cmとなり、一つのSOFCスタック20で大凡3〜6Wの出力を得ることができる。
【0055】
次に、複数個の上記SOFCスタック(バンドル)20を相互に接続して集積させた高次構造のSOFCスタック(かかるスタックの集積体はモジュールとも呼ばれる。以下、本明細書においても「SOFCモジュール」という。)の一例を図面を参照しつつ説明する。図4は、かかる高次構造スタックであるSOFCモジュール50を模式的に示す斜視図である。
図4に示すように、本実施形態に係るSOFCモジュール50は、上記SOFCスタック(バンドル)20の幾つか(ここではをを電気的に直列接続して集積化したものである。即ち、図4に示すように、隣接する二つのSOFCスタック(バンドル)20において一方のアノード側インターコネクト24と他方のカソード側インターコネクト26とが電気的に接続されるように複数個のSOFCスタック(バンドル)20がカソード及びアノードの向きが交互に入れ替わるようにして積み重ねられて構築される。このとき、かかる直列に連なるSOFCスタック20において発生した電流が該直列接続構造のSOFCスタック群を一方向に流れるようにするため(即ち隣接するインターコネクト24,26間での短絡を防止するため)、図示されるように導電性シール材(例えば金属粒子等の導電性成分を含む導電性ガラスシール材)56と、非導電性即ち絶縁性シール材(例えば絶縁性のガラスを主体とする絶縁性ガラスシール材)58をそれぞれ必要とされる部位に供給し、該交互に積み重ねられたSOFCスタック(バンドル)20を接合する。このように構築することにより、図4に示す例では、図中の最下部のSOFCスタック20Bの図面左側のカソード側インターコネクト26がモジュール50全体のカソード集電体として機能し、逆に図中の最上部のSOFCスタック20Aの図面左側のアノード側インターコネクト24がモジュール50全体のアノード集電体として機能するSOFCモジュール(スタック)が得られる。
【0056】
図5に示すように、典型的には、各インターコネクタ24,26のアノード接続口24A又はカソード接続口26Aを介して各セル10の中空部11に燃料ガスを供給又は排出させるマニホールド(送ガス用配管)52,54がSOFCモジュール50の両方のインターコネクタ24,26集積部分の端部を嵌め込むような状態で取り付けられている。例えば、図5中の向かって左側のマニホールド52に外部から適当な燃料ガス(水素ガス等)を供給し、該マニホールド52から各インターコネクタ24,26のアノード接続口24Aを介して各セル10の中空部11に燃料ガスを供給する。各セル10の中空部11に供給された燃料ガスは図5中の向かって右側のマニホールド54から排出される。かかるマニホールド52,54自体の材質や構造は、従来のこの種のSOFCスタック(モジュール)に設けられているものと同様なものでよく、本発明を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。なお、本実施形態に係るSOFCモジュール50では、図示されるように、各セル10のカソード16が外表面に露出しており、大気(即ち酸素を含む空気)を直接利用可能なため、酸素含有ガス(空気)側のマニホールドは不要である。このため、かかるマニホールドを設置しない分だけ装置のコンパクト化を図ることができる。
マニホールド52,54とインターコネクト24,26との接合は、上記導電性シール材又は絶縁性シール材で接合してもよいが、ここで開示される上述の導電性接合材を用いてもよい。例えば、ここで開示される何れかの構成の導電性接合材を使用し、マニホールド52,54と各インターコネクト24,26との接合を両部材の直接的接触を回避して該導電性接合材を介して行うことにより、該マニホールド52,54とインターコネクト24,26との間の熱膨張差を緩衝し、該熱膨張差によって生じる応力により該マニホールド52,54からインターコネクト24,26が剥離して空隙が生じるのを防止することができる。
【0057】
以上、本発明の電気化学リアクターの好適な一実施形態であるSOFCスタック(モジュール)50を図面を参照しつつ説明したが、この形態に限られず、種々の形態のSOFCその他の電気化学リアクターを提供することができる。
SOFCモジュールの他の好適な一例として、例えば図6に示すような直列的にSOFCスタック(バンドル)20を接続する形態のSOFCモジュール70が挙げられる。
図示されるように、本実施形態に係るSOFCモジュール70は、燃料ガス供給用マニホールド72と燃料ガス排出用マニホールド74との間に、中間接続用マニホールド78を介して、同じ方向にSOFCスタック(バンドル)20を直列に接続する構造である。
本実施形態において、例えば燃料ガス供給用マニホールド72又は燃料ガス排出用マニホールド74と隣接するSOFCスタック(バンドル)20のインターコネクト24,26との接合は絶縁性シール材(例えば絶縁性のガラスを主体とする絶縁性ガラスシール材)を介して行い、中間接続用マニホールド78と隣接するSOFCスタック(バンドル)20のインターコネクト24,26との接合は導電性シール材(例えば金属粒子等の導電性成分を含む導電性ガラスシール材)を介して行うことができる。
マニホールド52,54とインターコネクトとの接合は、上記導電性シール材又は絶縁性シール材で接合してもよいが、ここで開示される上述の導電性接合材を用いてもよい。例えば、ここで開示される何れかの構成の導電性接合材を使用し、マニホールド52,54と各インターコネクト24,26との接合を両部材の直接的接触を回避して該導電性接合材を介して行うことにより、該マニホールド52,54とインターコネクト24,26との間の熱膨張差を緩衝し、該熱膨張差によって生じる応力により該マニホールド52,54からインターコネクト24,26が剥離して空隙が生じるのを防止することができる。
【0058】
以上、本発明によって提供される電気化学リアクターの好適例の幾つかを図面を参照しつつ説明したが、これら電気化学リアクター(ここではSOFC)の作動条件(温度、燃料ガスの種類や電気化学セルに対して供給するガス流速、等)は、目的に応じて異なり得るため、特に限定されない。本発明により提供される種々の形態の電気化学リアクターは、従来の電気化学リアクターと同様に使用することができる。
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0059】
<セル(SOFC)の製造>
以下の手順に従って、図1に示す形状のチューブ状セル10を製造した。
即ち、酸化ニッケル粉末(和光純薬工業株式会社製品、平均粒径:約3μm)及び8mol%イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末(東ソー株式会社製品、平均粒径:約1μm)に、一般的なバインダー(ここではニトロセルロースを使用した。)及び水を加えて混練して粘土状にした後、この混練物(アノード形成材料)を押出成形することによりチューブ状成形体を得た。このチューブ状成形体のチューブ直径及び管壁の厚みは、それぞれ、2.4mm及び0.5mmであった。そして押し出されたチューブ状成形体を長さ2.4cmとなるようにカットした(以下、かかる2.4cm長さにカットされた後のものをチューブ状成形体という。)。
【0060】
こうして得られたチューブ状成形体の一端の開口面を酢酸ビニル樹脂で封止した後、この成形体を上記YSZ粉末及びバインダー(ここではポリビニルアルコールを用いた。)と溶媒(ここではターピネオールを用いた。)とを含むスラリー中に浸漬し、当該成形体の外表面にスラリー(固体電解質形成材料)をディップコーティングした。この際、上記封止した開口面とは反対の開口面に近傍する部位(開口面から長軸方向に3mmの範囲)には上記スラリーに浸漬させず、アノード露出面とした。かかる浸漬処理後、成形体を80〜100℃で乾燥させ、次いで1350℃で2時間、大気中で焼成した。これにより、外表面に固体電解質(YSZ)層が形成されたチューブ形状の固体電解質層付きアノード構造体が得られた。
次いで、上記固体電解質形成プロセスと同様に、10mol%の含有割合でGdをドープしたCeO(GDC)粉末(阿南化成株式会社製品、平均粒径:約1μm)及び上記と同じバインダーと溶媒とを含むスラリー中に上記固体電解質層付きアノード構造体を浸漬し、固体電解質層上にスラリー(中間層形成材料)をディップコーティングした。80〜100℃で乾燥後、1200℃で1時間焼成し、上記GDCからなる中間層(固体電解質層の一部)を形成した。
【0061】
次に、カソード形成材料として、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物粉末(第一稀元素化学工業株式会社製品、平均粒径:約1μm)と上記GDC粉末を含み、一般的なバインダー(ここではポリビニルアルコールを用いた。)、及び溶媒(ここではターピネオールを用いた。)を添加して混練した。次いで、この混練物(ペースト状のカソード形成材料)を上記固体電解質膜(具体的には中間膜)上に塗布した。100℃で乾燥後、1000℃の温度で1時間、大気中で焼成した。このようにして、図1に示されるような、チューブ直径及び管壁の厚みがそれぞれ1.9mm及び0.4mmであるチューブ状セルが得られた。
【0062】
<インターコネクトの製造>
図3に示す形状のSOFCスタック(バンドル)20に備えられるインターコネクト24,26をステンレス綱材(SUS430)から製造した。即ち、ステンレス綱材(SUS430)を図示する形状に削りだしすることによって、上記製造したセルの端部を接続し得る接続口が設けられたインターコネクトを製造した。
【0063】
<ペースト状導電性接合材の作製>
平均粒径が約1〜10μmであるSiO粉末、Al粉末、NaCO粉末、KCO粉末、MgCO粉末、CaCO粉末を、酸化物換算で以下の表1の各サンプル欄(計6種類)に示す比率(質量%)となるように混合し、計6種類のガラス原料粉末を調製した。次いで、調製したガラス原料粉末を1000〜1500℃の温度域(例えば1400℃)で溶融し、急冷してガラスを形成した。その後、ガラスを粉砕し、平均粒径が1μm〜5μm(ここでは約2μm)である表1に示すサンプル1〜6に対応する計6種類の組成のガラス粉末を作製した。
【0064】
一方、導電性成分として 平均粒径が1μm〜5μm(ここでは約2μm)であるAg粉末を用意した。そして、上記調製したガラス粉末と当該Ag粉末を混合した。具体的には、これら粉末成分全体を100質量%として銀粉末を50〜80質量%、ガラス粉末を20〜50質量%となるように混合した。本実施例では、Ag粉末が70質量%、ガラス粉末30質量%となるように混合した。この混合粉末にバインダーと溶媒とを混合し、ペースト状の導電性接合材を作製した。具体的には、ペースト全体の10質量%となる量のエチルセルロースと、ペースト全体の5質量%となる量のエチルセルロースを、上記混合粉末に添加し、混合することにより、表1に示すサンプル1〜6に対応する計6種類のペースト状導電性接合材を作製した。
【0065】
【表1】

【0066】
<接合処理>
表1に示すサンプル1〜6に対応する計6種類の導電性接合材をそれぞれ用いてセルとインターコネクトとの接合処理を行った。具体的には、上述したように、インターコネクトに設けられたアノード接続口(或いはカソード接続口)の周囲に上記いずれかのペースト状導電性接合材を塗布する及び/又はセルのアノード側端部(或いはカソード側端部)の外表面に上記いずれかのペースト状導電性接合材を塗布した。そして、800℃で1時間、大気中で熱処理することにより、上記接合材からなる導電性接合部を介在させてインターコネクトとセルとの直接的な接触を回避しつつ接合し、SOFCスタック(バンドル)を作製した。
【0067】
ここで、サンプル1〜6のペースト状接合材を使用して得られる接合部96の熱膨張係数(ただし、示差膨張方式の熱機械分析(TMA)に基づく室温(25℃)〜500℃の間の平均値))を測定した。結果を表1の該当欄に示す。表1に示されるように、サンプル1〜4については、いずれも8×10−6/K〜14×10−6/Kの範囲内(より具体的には9×10−6/K〜13×10−6/K)であった。これに対してサンプル5の熱膨張係数は16×10−6/Kを上回り、サンプル6の熱膨張係数は7×10−6/Kを下回った。なお、ここで使用したセルの熱膨張係数は概ね10〜11×10−6/Kであった。また、ここで使用したSUS製のインターコネクトの同条件での熱膨張係数は約12×10−6/Kであった。
また、上記TMAに基づいて測定された各接合材から得られる導電性接合部の軟化点(℃)を表1中の該当欄に示す。表1に示されるように、サンプル1〜4については、軟化点はいずれも600〜800℃の範囲内であった。これに対してサンプル5の軟化点は500℃を下回り、サンプル6の軟化点は800℃を上回った。
【0068】
<ガスリーク試験(1)>
次に、上記の計6種類(サンプル1〜6)の接合材を用いてセルとインターコネクトとが接合された図2に示す形状のSOFCスタック(バンドル)10を供試体として、上記形成した接合部からのガスリークの有無を確認するガスリーク試験を行った。
本試験例では、先ず、急速起動試験(熱サイクル)を行い、その試験後にガスリークの有無を調べた。具体的には、300℃→650℃(起動時間3分)、そして650℃→300℃(停止時間10分)のサイクルを100回繰り返した。
かかる熱サイクルの終了後、供試体であるSOFCスタック(バンドル)の一方のインターコネクタの上記接合部が形成されていない開口部をエポキシ樹脂で封止した。そして他方のインターコネクタの上記接合部が形成されていない開口部からセルの中空部に空気を大気よりも0.2MPa程度加圧した条件で供給し、その状態で供試体を水中に沈め、水中でバブル発生の有無を目視で調べた。
その結果、表1に示すように、サンプル1〜4の導電性接合材を用いて形成した接合部からはガス(空気)のリークは全く観察されなかった。他方、サンプル5〜6の導電性接合材を用いて形成した接合部については、接合部からのバブル発生、即ちガス(空気)のリークが認められた。さらに、サンプル5〜6の導電性接合材を用いて形成した接合部では、亀裂の発生も確認された。
【0069】
<ガスリーク試験(2)>
また、上記ガスリーク試験とは異なる条件により、上記サンプル1〜6の導電性接合材を用いて構築した供試体についてガスリーク試験を行った。
具体的には、上記の計6種類(サンプル1〜6)の接合材を用いてセルとインターコネクトとが接合された図2に示す形状のSOFCスタック(バンドル)10を供試体として使用し、上述の図5に示すような各セル10の中空部11に燃料ガスを供給又は排出させるマニホールド52,54が接続されたSOFCモジュール50を構築した。さらに、両マニホールド52,54間に配置されたSOFCモジュール50を外気から完全に遮断するようにして当該SOFCモジュール50を包囲するチャンバー(空気室)90を取り付けた(図7参照)。
即ち、本試験例では、図7に示す装置構成において、600℃の温度条件下、上記チャンバー90のガス供給口(ガス供給流路)98から500mL/分の流量でチャンバー90内(即ちSOFCスタック(バンドル)を構成する各セルのカソード面)に空気を供給した。供給された空気はガス排出口(ガス排出流路)99から排出された。同時に、一方のマニホールド52のガス供給口(ガス供給流路)58からマニホールド52内(即ちSOFCスタック(バンドル)を構成する各セルのアノード面で構成される上記中空部)に100mL/分の流量で水素ガスを供給した。供給された水素ガスは各セルの中空部を通過して他方のマニホールド54のガス排出口(ガス排出流路)59から排出された。
そして、空気及び水素ガスの供給開始から6時間経過した時点で、アノード(燃料極)側のアウトガス(即ち上記ガス排出口59から排出された水素ガス)中に含まれる空気成分(典型的には窒素)を図示しない市販のマイクロGC(ガスクロマトグラフ)で測定し、ガスリークの有無を確認した。
その結果、上記ガスリーク試験(1)の結果と同様、サンプル1〜4の導電性接合材を用いて形成した接合部からはガス(空気)のリークは全く観察されない一方、サンプル5〜6の導電性接合材を用いて形成した接合部については、接合部からのガス(空気)のリークが認められた。
【0070】
上述の試験例からも明らかなように、本発明によると、ここで開示される導電性接合材を用いて、SOFCその他の電気化学セルと導電性接続部材(例えば金属製のインターコネクト)との間を良好に接合し、電気的に良好な接合部を形成することができる。このため、機械的強度及び気密性に優れた接合部を有するSOFCその他の電気化学リアクターを提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
10 セル(SOFC)
11 中空部
12 アノード
13A アノード側端部
13B カソード側端部
14 固体電解質
16 カソード
20,20A,20B SOFCスタック(バンドル)
24 インターコネクト(アノード側)
24A アノード接続口
26 インターコネクト(カソード側)
26A カソード接続口
30 導電性接合材
50,70 SOFCスタック(モジュール)
52,54,72,74,78 マニホールド
56 導電性シール材
58 絶縁性シール材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、該アノードと該カソードとの間に配置された固体電解質とからなる一又は複数の電気化学セルと、該電気化学セルと導電可能に接合される少なくとも一つの導電性接続部材と、を備える電気化学リアクターであって、
前記セルと前記接続部材との接合は、該セルと該接続部材との直接的な接触を回避して該セルと該接続部材との間に配置された導電性接合材を介して行われており、
前記導電性接合材は、ガラスマトリックスと導電性粒子とを有しており、
ここで前記ガラスマトリックスは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 5〜15質量%;
NaO及び/又はKO 15〜25質量%;
CaO及び/又はMgO 1〜5質量%;
から実質的に構成されていることを特徴とする、電気化学リアクター。
【請求項2】
前記ガラスマトリックスは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜70質量%;
Al 10〜15質量%;
NaO及び/又はKO 15〜25質量%;
CaO 1〜5質量%;
MgO 0〜3質量%;
から実質的に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学リアクター。
【請求項3】
前記導電性接合材のガラスマトリックスの熱膨張係数が8×10−6/K〜14×10−6/Kの範囲にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気化学リアクター。
【請求項4】
前記導電性接合材のガラスマトリックスの軟化点が600℃〜800℃の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の電気化学リアクター。
【請求項5】
前記導電性粒子は、銀又は銀主体の合金から構成されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の電気化学リアクター。
【請求項6】
前記セルは、前記アノードと固体電解質とカソードとからなる積層構造体がチューブ状に成形されており、
前記接続部材は、前記チューブ状セルの一端が挿入される接続口が形成されており、
該接続部材の接続口に前記チューブ状セルの一端が挿入されるとともに、該チューブ状セルの一端と該接続部材の接続口部分との間に前記導電性接合材が配置されて該セルと該接続部材との直接的な接触を回避して該接合材を介して該セルと該接続部材との接合が行われていることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の電気化学リアクター。
【請求項7】
前記接続部材には前記接続口が複数形成されており、
該接続口のそれぞれに前記チューブ状セルの一端が挿入されるとともに該チューブ状セルの一端と該接続部材の接続口部分との間に前記導電性接合材が配置されて該セルと該接続部材との直接的な接触を回避して該接合材を介して該セルと該接続部材との接合が行われることにより、複数のチューブ状セルが集積して配置されていることを特徴とする、請求項6に記載の電気化学リアクター。
【請求項8】
前記電気化学セルは、固体電解質形燃料電池を構成するセルであり、
前記導電性接続部材は前記固体電解質形燃料電池を構成するセルと導電可能に接続されるインターコネクトである、請求項1〜7の何れか一項に記載の電気化学リアクター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−30442(P2013−30442A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167682(P2011−167682)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】