説明

電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造

【課題】 都市ごみ焼却炉等から排出される焼却残渣(焼却灰、飛灰)を溶融処理する際に用いられる電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造に於て、炉底耐火物の長寿命化を図り、安定操業が行える様にする。
【解決手段】 導電性を有する集電板2と、集電板2の上に積層された下層耐火材3と、下層耐火材3の上に積層された上層耐火材4とから成り、前記上層耐火材4をC−SiC系の耐火物に依り形成すると共に、下層耐火材3を上層耐火材4より熱伝導率の小さいC−SiC系の耐火物に依り形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば都市ごみ焼却炉等から排出される焼却残渣(焼却灰、飛灰)を溶融処理する際に用いられる電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の炉底電極構造としては、例えば特許文献1に記載されて図2や図3に示したものが知られている。
【0003】
前者の炉底電極構造50は、図2に示す如く、Al23−SiC系やMgO−Cr23系の耐火物から成る非導電性耐火材51と、これを貫通して設けられた金属製のピンや丸棒等の導電体52とを備えている。
【0004】
後者の炉底電極構造60は、図3に示す如く、導電性を有する集電板61と、この上に積層されてMgO−C系の耐火物に依り形成された下層耐火材62と、この上に積層されてAl23−SiC系やMgO−Cr23系の耐火物に依り形成された上層耐火材63と、これに貫通して設けられた鉄柱や棒や板等から成る導電材64とを備えている。
【0005】
つまり、従来にあっては、溶融スラグや溶融メタル等の溶融物(溶湯)Aに対して耐食性があるAl23−SiC系やAl23−Cr23系やMgO−Cr23系の耐火物が炉底耐火物として多用されていた。
【0006】
然しながら、これらの耐火物は、熱膨張率が大きく、浮き上がりを防止する為に灰溶融炉の昇温・降温速度を非常に緩やかにして耐火物の熱膨張を均一にしたり、複雑な耐火物構造にしたりする必要があった。
【0007】
又、昇温・降温(立上げ下げ)を繰返す事に依り耐火物の目地へ溶融物Aが差し込んで耐火物が浮き上がる事もあった。
【0008】
更に、灰溶融炉の炉底には、プラズマの上部電極の対極となる炉底電極を設置する必要があるが、前述の耐火物には導電性がない為に、導電性があるカーボン柱や鉄柱や棒や板等を炉底耐火物に埋め込む必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3504979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、炉底電極と炉底耐火物とは、熱膨張率等の物性が異なる為にこれらの間には隙間が生じて、図2及び図3の矢印で示す如く、この隙間に溶融物Aが差し込んで炉底電極やこれの絶縁部が損傷する問題があった。
【0011】
本発明は、叙上の問題点に鑑み、これを解消する為に創案されたもので、その課題とする処は、炉底耐火物の長寿命化を図り、安定操業が行える様にした電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造は、基本的には、導電性を有する集電板と、集電板の上に積層された下層耐火材と、下層耐火材の上に積層された上層耐火材とから成り、前記上層耐火材を溶融物に対する耐用性が高いC−SiC系の耐火材に依り形成すると共に、下層耐火材を熱伝導率の小さくしたC−SiC系の耐火材に依り形成した事に特徴が存する。
【0013】
上層耐火材をC−SiC系の耐火物に依り形成すると共に、下層耐火材を上層耐火材より熱伝導率の小さいC−SiC系の耐火物に依り形成し、所謂上層耐火材と下層耐火材の両方を電気導電性を有するC−SiC系耐火物に依り形成したので、これら炉底耐火物自体を炉底電極とする事ができる。この為、別物性の電極を設置する必要がなく、別設置の電極と耐火物の隙間に溶融物が差し込む様な事がない。
【0014】
上層耐火材は、C−SiC系の耐火物に依り形成すると共に、下層耐火材は、上層耐火材より熱伝導率の小さいC−SiC系の耐火物に依り形成したので、炉底耐火物の全厚を薄くする事ができると共に、炉底耐火物の底面の冷却を空冷構造とする事ができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に依れば、次の様な優れた効果を奏する事ができる。
(1) 集電板、下層耐火材、上層耐火材とで構成し、とりわけ上層耐火材をC−SiC系の耐火物に依り形成すると共に、下層耐火材を上層耐火材より熱伝導率の低いC−SiC系の耐火物に依り形成したので、炉底耐火物の長寿命化を図る事ができると共に、安定操業を行なう事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造を示す概要図。
【図2】従来の電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造を示す概要図。
【図3】従来の他の電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明の電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造を示す概要図である。
【0019】
炉底電極構造1は、集電板2、下層耐火材3、上層耐火材4とからその主要部が構成されて居り、電気式プラズマ灰溶融炉10に適用される。
【0020】
電気式プラズマ灰溶融炉10は、溶融物Aを収容する炉体11と、これの上部に設けられて直流電源の陰極に接続された上部電極12と、炉体11の底部に設けられて直流電源の陽極に接続された炉底電極1とから成っている。
【0021】
集電板2は、導電性を有する金属製の板材に形成されて居り、端子5を介して直流電源の陽極に接続されている。
【0022】
下層耐火材3は、集電板2の上に積層されたもので、C−SiC系の耐火物に依り形成されている。つまり、Al23−SiC系耐火物と比べて溶融メタルに対する耐食性が高く、電気導電性を有し、熱膨張率が小さく、熱伝導率を調整できるC−SiC系の耐火物に依り形成されている。
【0023】
上層耐火材4は、下層耐火材3の上に積層されたもので、下層耐火材3と同様のC−SiC系の耐火物に依り形成されている。
【0024】
而して、下層耐火材3と上層耐火材4は、下層耐火材3が上層耐火材4より熱伝導率の小さいC−SiC系の耐火物に依り形成されている。
【0025】
集電板2の下部には、空冷ボックス6が設けられて居り、これと炉体11の側壁13との間には、絶縁物7が介設されている。
【0026】
次に、この様な構成に基づいてその作用を述解する。
【0027】
上部電極12と炉底電極1とに直流電流を印加すると、これらの間にアークBが発生して炉体11に収容した被溶融物が溶融されて溶融スラグや溶融メタル等の溶融物(溶湯)Aになる。
【0028】
C−SiC系の耐火物を電気式プラズマ灰溶融炉1の炉底耐火物に使用すると、C−SiC系の耐火物は、電気導電性を有するので、炉底耐火物自体を炉底電極とする事ができる。
【0029】
つまり、上層耐火材4をC−SiC系の耐火物に依り形成すると共に、下層耐火材2を上層耐火材4より熱伝導率の小さいC−SiC系の耐火物に依り形成し、所謂上層耐火材4と下層耐火材3の両方を電気導電性を有するC−SiC系耐火物に依り形成したので、これら炉底耐火物自体を炉底電極とする事ができる。
【0030】
C−SiC系の耐火物は、熱伝導率を調整できるので、炉底耐火物の下層に熱伝導率が低いC−SiC系の耐火物を配する事で、炉底耐火物の全厚を薄くする事ができてコストメリットが大きいと共に、炉底耐火物の底面の冷却を空冷構造とする事ができて安全性を高める事ができる。
【0031】
つまり、C−SiC系の耐火物(C含有量大)は、一般に熱伝導率が高く、20〜30W/mK程度である。炉底電極としてC−SiC系の耐火物を使用する場合は、一般的には、炉底面の冷却が必要となるが、炉底面を水冷すると、万が一の脱湯(炉内の溶湯が鉄皮外に漏れる事)の際に、水蒸気爆発の可能性があって使用できない。一方、集電板との間に断熱耐火物を設ける場合は、一般の断熱耐火物では電気導電性がないので、炉底電極として使用できない。
【0032】
ところが、C−SiC系の耐火物は、Cの持つ特性を利用して、耐火物の熱伝導率を調整する事ができる。従って、炉底耐火物の全層にC−SiC系の耐火物を使用し、且つ下層に断熱を持たせたC−SiC系の耐火物を設置する事で、炉底耐火物の全層の厚さを薄く構成できると共に、炉底耐火物の底面は、空冷程度の冷却で良い構成(空冷ボックス6)にする事ができる。その結果、炉底耐火物の厚さ及び重量を軽減できる事に依るコストメリットを出す事ができると共に、安全性を向上する事ができる。
【0033】
C−SiC系の耐火物は、熱膨張率が小さいので、炉底耐火物の目地を小さくでき、溶湯の差し込みが少なくなる。
【0034】
C−SiC系の耐火物は、熱膨張率が小さいので、下層に熱伝導率の小さい耐火物を配する事で、浮き上がり防止構造が簡便で済むと共に、灰溶融炉の昇温・降温速度を比較的速くできる。
【0035】
C−SiC系の耐火物は、電気導電性を有するので、炉底耐火物自体が電極になり、別物性の電極を設置する必要がない。この為、別設置の電極と耐火物の隙間に溶融物が差し込む事がない。
【0036】
C−SiC系の耐火物は、下表に示す如く、Al23−SiC系耐火物と比べて溶融メタルに対する耐食性が高いので、長期間の溶融炉操業が可能となる。
【0037】
【表1】

【符号の説明】
【0038】
1…炉底電極構造、2…集電板、3…下層耐火材、4…上層耐火材、5…端子、6…空冷ボックス、7…絶縁物、10…電気式プラズマ灰溶融炉、11…炉体、12…上部電極、13…側壁、50…炉底電極構造、51…非導電性耐火材、52…導電体、60…炉底電極構造、61…集電板、62…下層耐火材、63…上層耐火材、64…導電材、A…溶融物、B…アーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する集電板と、集電板の上に積層された下層耐火材と、下層耐火材の上に積層された上層耐火材とから成り、前記上層耐火材をC−SiC系の耐火物に依り形成すると共に、下層耐火材を上層耐火材より熱伝導率の小さいC−SiC系の耐火物に依り形成した事を特徴とする電気式プラズマ灰溶融炉の炉底電極構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−159930(P2010−159930A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3015(P2009−3015)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】