説明

電気掃除機のモータ用玉軸受

【課題】 焼き付き寿命を向上させると共にトルクを低減し、消費電力が少なく、しかも優れた耐久性を有する電気掃除機の実現を図る。
【解決手段】 玉5をセラミック製とし、保持器11を合成樹脂製とする。又、グリースは、増ちょう剤にウレア系化合物を、基油に合成油を、それぞれ使用する。更に、外輪軌道3の断面の曲率半径を、玉5の外径の54〜56%に、内輪軌道1の断面の曲率半径を、同じく52.5〜56%に規制する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明に係る電気掃除機のモータ用玉軸受は、電気掃除機のモータを構成し使用時に高速で回転する回転軸を、このモータのハウジングに回転自在に支持する為の回転支持部に組み込んだ状態で使用する。特に本発明は、回転トルクの低減により、消費電力の低減を図ると同時に、電気掃除機の小型化、高性能化を図る為、上記回転軸の回転速度を高くした場合にも、十分な耐久性を確保すべく発明したものである。
【0002】
【従来の技術】各種回転機械の軸受部等、各種回転部分を支持する為の玉軸受として、例えば図1に示す様な玉軸受が広く使用されている。この玉軸受は、外周面に内輪軌道1を有する内輪2と内周面に外輪軌道3を有する外輪4とを同心に配置し、上記内輪軌道1と外輪軌道3との間に、複数個の玉5、5を転動自在に設けて成る。図示の例の場合、上記内輪軌道1と外輪軌道3とは、共に深溝型としている。又、上記複数個の玉5、5は、保持器6に設けたポケット7、7内に、転動自在に保持している。
【0003】上記図1に示した玉軸受を構成する保持器6は、波形プレス保持器と呼ばれるもので、それぞれが金属板材をプレス成形する事により造られる、波形で円環状に形成された1対の素子8、8を組み合わせて成る。これら両素子8、8は、それぞれの円周方向複数個所に、上記各ポケット7、7を構成する為の、略半円筒状の凹部9、9を形成している。そして、この1対の素子8、8同士をこれら各凹部9、9から外れた部分で突き合わせ、これら各部分を複数のリベット10により結合固定して、円環状で円周方向複数個所にポケット7、7を有する保持器6としている。上記各凹部9、9の内面中間部は、上記各玉5、5の転動面の曲率半径よりも僅かに大きな曲率半径を有する、断面円弧状の球状凹面としている。この為、1対の素子8、8を突き合わせると、上記凹部9、9が組み合わされてポケット7、7を構成する。
【0004】又、図2に示した、冠型保持器と呼ばれる保持器11は、合成樹脂等により造られた円環状の主部12の円周方向複数個所に、玉5、5(図1)を転動自在に保持するポケット7、7を設けている。この様な冠型の保持器11の場合、上記各ポケット7、7は、上記主部12に互いに間隔をあけて配置された1対の弾性片13、13の片側面と、上記主部12の軸方向(図2の左右方向)片面(図2の右面)でこの1対の弾性片13、13の間部分に設けられた球面状の凹面部14、14とから構成される。これら弾性片13、13の片側面と凹面部14、14との曲率半径は、上記玉5の転動面の曲率半径よりも僅かに大きい。
【0005】何れの保持器6、11を使用する場合でも、電気掃除機のモータ用玉軸受の如く、外部から潤滑剤の供給を行なえない玉軸受の場合には、前記内輪2の外周面と外輪4の内周面との間に存在する空間部分にグリースを充填して、これら内輪2と外輪4との相対回転が円滑に行なわれる様にする。そして、玉軸受に振動や騒音が生じない様にすると共に、焼き付き等の故障を防止する。この為に、上記玉軸受では、上記外輪4の両端部内周面にそれぞれの外周縁を係止した、円輪状のシール板やシールド板等の密封板15、15(図1には省略。後述する図3参照。)により、上記空間部分の両端開口を塞ぎ、この空間部分から潤滑剤が漏洩したり、或はこの空間部分内に塵芥等の異物が進入するのを防止する。又、これら内輪2及び外輪4や玉5、5、更には保持器6、11の表面には、金属製部材の防錆や寿命の延長等を考慮して、潤滑油を薄く塗布している。
【0006】又、前記内輪軌道1及び外輪軌道3の断面形状の曲率半径は、前記各玉5、5の転動面の曲率半径よりも僅かに大きくしている。本発明の対象となる、電気掃除機のモータ用玉軸受の場合に従来は、上記内輪軌道1の断面形状の曲率半径を、上記各玉5、5の外径の51〜52%とし、上記外輪軌道3の断面形状の曲率半径を、上記各玉5、5の外径の54〜56%としていた。この様に、内輪軌道1の断面形状の曲率半径を、同じく外輪軌道3の曲率半径よりも小さくしているのは、内輪軌道1の円周方向に関する形状が凸円弧であり、同じく外輪軌道3の形状が凹円弧である事に係る。即ち、この形状の相違に拘らず、上記各玉5、5の転動面と上記内輪軌道1及び外輪軌道3との接触面積に差が生じない様にする為である。又、これら各玉5、5、上記内輪2及び外輪4を、SUJ2の如き高炭素クロム軸受鋼等の硬質金属により造り、上記保持器6を、SPCCの如き冷間圧延鋼板及び帯鋼等の金属板により造っていた。
【0007】ところで、近年、電気掃除機は、高性能化、小型・軽量化や多機能化が進み、この結果、電気掃除機に組み込まれるモータに要求される回転速度は、従来の30000 〜40000 r.p.m.から45000 〜60000 r.p.m.程度にまで高まっている。これらにより、上記モータの回転支持部に組み込まれている玉軸受の温度は、電気掃除機の運転時に70〜100℃程度まで上昇する様になっている。
【0008】内部に封入したグリースにより各部の潤滑を行なう玉軸受の場合には、このグリースが、遠心力や転動体の運動(自転及び公転)によって、内輪軌道1及び外輪軌道3に移動し、これら両軌道1、3と各玉5、5の転動面との当接部の潤滑を行なっている。ところが、玉軸受を上述した様な高速回転で使用すると、玉5、5の滑りや油膜切れ、グリースの劣化及びそれに伴う潤滑不良により、上記玉軸受が異常発熱し、更には焼き付き等の故障を発生し易くなる。
【0009】これに対して、特開平7−332374号公報には、電気掃除機のモータ用玉軸受と同様に高速回転で使用される紡機用スピンドル支持装置を構成する玉軸受の耐久性向上を図る為の発明が記載されている。図3は、上記公報に記載された玉軸受を示している。この玉軸受は、前述の図1に示した玉軸受と同様に、内周面に外輪軌道3を有する外輪4と、外周面に内輪軌道1を有する内輪2と、これら外輪軌道3と内輪軌道1との間に転動自在に設けた複数個の玉5と、これら複数個の玉5を転動自在に保持する、合成樹脂製で冠型の保持器11とを備える。
【0010】又、上記外輪4の両端部内周面に、シールド板と呼ばれる円輪状の密封板15、15の外周縁を係止し、これら両密封板15、15の内周縁を、上記内輪2の外周面に近接させている。そして、これら両密封板15、15同士の間で上記各玉5、5を設けた空間内に、潤滑の為のグリースを封入している。更に、これら各玉5、5をセラミック製とすると共に、転動面に低揮発性潤滑油を付着させている。上記公報に記載された玉軸受は、この様な構成を採用する事により、初期潤滑不良に伴う耐久性の劣化を防止するとしている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】上述の様に、特開平7−332374号公報に記載されて従来から知られている玉軸受の場合には、特に回転トルクの低減を意図していない。この為、高速での運転時に於ける発熱を十分に抑える事ができない。この様な玉軸受を、ロータやステータ部分での発熱によっても温度上昇する、電気掃除機のモータの回転支持部に組み込んだ場合には、グリースの劣化防止を十分に図る事が難しい。又、回転トルクの低減を図れない事から、消費電力を低減する事もできない。本発明は、この様な事情に鑑みて、回転トルクの低減により、消費電力の低減を図ると同時に、電気掃除機の小型化、高性能化を図る為、この電気掃除機のモータの回転軸の回転速度を高くした場合にも、十分な耐久性を確保できる玉軸受を実現すべく、発明したものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の電気掃除機のモータ用玉軸受は、前述の従来から知られている玉軸受と同様に、内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数個の玉と、これら複数個の玉を転動自在に保持する保持器とを備える。そして、上記外輪軌道と内輪軌道との間の空間内に潤滑の為のグリースを封入した状態で、電気掃除機のモータの回転軸の支持部分に組み込まれる。特に、本発明の電気掃除機のモータ用玉軸受に於いては、上記複数個の玉をセラミック製とすると共に、上記外輪軌道の断面形状の曲率半径を、上記各玉の外径の54%〜56%に、上記内輪軌道の断面形状の曲率半径を同じく52.5%〜56%に、それぞれ規制している。更に、好ましくは、グリースは増ちょう剤にウレア系化合物を、基油に合成油を、それぞれ用いたものとし、保持器を合成樹脂製の冠型保持器とする。
【0013】
【作用】上述の様に構成する本発明の玉軸受の場合には、複数個の玉としてセラミックス製のものを使用している為、従来一般的に使用されていた、軸受鋼製の玉を使用した玉軸受に比べて、玉の転動面と外輪軌道及び内輪軌道との接触部に作用する転がり摩擦の低減を図れる。即ち、セラミック製の玉と軸受鋼等の硬質金属製の外輪及び内輪とを当接させる為、異種材料同士の接触状態となり、同種金属同士の接触状態に比べて、当接部での摩擦抵抗が低減する。同時に、セラミック製の玉は、軸受鋼製の玉に比べて弾性変形量が少ないので、当接部に存在するヘルツの接触楕円が小さくなり、この面からも、上記摩擦抵抗の低減を図れる。更には、金属に比べて比重が小さく、慣性質量が小さいセラミック製の玉は、それ自体の転がり抵抗も小さいので、この面からも、玉軸受の回転トルクの低減を図れる。
【0014】上記ヘルツの接触楕円は、内輪軌道の断面形状の曲率半径を、従来構造の場合(玉の外径の51〜52%程度)よりも大きく、52.5%以上とした事でも小さくなる。そして、上記接触楕円が小さくなる事に伴い、差動すべり等の減少による回転トルク低減も図れる。尚、上記内輪軌道の断面形状の曲率半径を玉の外径の56%以上にすると、上記接触楕円部分での最大ヘルツ接触圧力が過大になり、上記内輪軌道の転がり疲れ寿命を低下させて、音響や剥離寿命の面で不利である。尚、外輪軌道の断面形状の曲率半径は、従来構造の場合と同様に、玉の外径の54%〜56%とする。
【0015】上述の様に本発明の玉軸受は、外輪と内輪との相対回転時に、外輪軌道及び内輪軌道と玉の転動面との間に作用する摩擦を低減させて、玉軸受の内部での発熱を抑える事ができる。この結果、電気掃除機の運転時に於ける玉軸受内部の温度上昇を抑え、内部に封入したグリースの劣化を抑制して、玉軸受の耐久性向上を図れる。
【0016】特に、グリースを、増ちょう剤にウレア系化合物を、基油に合成油を、それぞれ用いたものとし、保持器を合成樹脂製の冠型保持器とした場合には、耐久性向上と低トルク化とを一層図れる。即ち、グリースを上記のものにする事により、このグリースの耐熱性を向上させて、このグリースの劣化を防止し、玉軸受全体の耐久性向上を図れる。
【0017】又、合成樹脂製の冠形保持器を使用する事で、従来の鋼板製の保持器を使用した場合に比べて、各玉の転動面と保持器のポケットの内面との当接部の滑り摩擦を低減し、玉軸受全体としての回転トルク並びに発熱量のより一層の低減に寄与できる。更に、従来の鋼板製の保持器のポケットの内面と上記各玉の転動面との摩擦により生じる、摩耗鉄粉の触媒作用によるグリースの劣化もなく、玉軸受の焼き付き寿命の延長を図れる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態に就いて説明するが、本発明の玉軸受の特徴は、複数個の玉をセラミック製とし、外輪軌道及び内輪軌道の断面形状の曲率半径を規制すると共に、グリース及び保持器の材質を工夫した点にある。玉軸受の構成部品の形状に就いては、例えば前述の図3に示した従来構造の如く、従来から知られている玉軸受と同様であるから、図示並びに説明は省略する。又、内輪軌道1の断面形状の曲率半径を規制した事に就いては、前述した通りであるから、重複する説明を省略し、以下、玉5、保持器11並びにグリースの材質を中心に説明する。
【0019】先ず、上記各玉5を構成するセラミックの種類は特に限定しないが、例えば、窒化珪素(Si34 )、ジルコニア(ZrO2 炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al23 )等が、好適に使用できる。又、セラミック製転動体の成形法に関しても、特に限定せず、常圧、加圧、HIP等、何れの成形法によるものでも利用可能である。特に、窒化珪素を加圧若しくはHIP成形法により造った玉5が、好ましく利用できる。
【0020】又、冠型の保持器11を構成する合成樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、フェノール樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等が使用可能であり、好ましくは、補強剤としてガラス繊維を適量添加する。
【0021】又、グリースを構成する基油と増ちょう剤とのうち、増ちょう剤は、ジウレア、ポリウレアの少なくとも1種を5〜30重量%含有するものが好ましい。又、基油は、40℃での動粘度が20〜150mm2/s のもので、且つ、玉軸受の高温耐久性を考慮した場合、合成油が好ましい。この場合に使用可能な合成油としては、エステル油、エーテル油、合成炭化水素油、シリコーン油、フッ素油等が挙げられるが、価格等を考慮した場合、エステル油、エーテル油、合成炭化水素油等が好ましい。又、これらエステル油、エーテル油、合成炭化水素油は、それぞれ単独で使用する他、これらを混合して使用する事もできる。
【0022】又、上記エステル油の種類は特に限定しないが、二塩基酸と分岐アルコールとの反応により得られるジエステル油、芳香族系三塩基酸と分岐アルコールとの反応により得られる芳香族エステル油、多価アルコールと一塩基酸との反応により得られるヒンダードエステル油が、好適に用いられる。特に、耐熱性を考慮した場合には、芳香族エステル油、ヒンダードエステル油の中から選択されるものを、単独又は混合して用いるのが好ましい。
【0023】又、上記ジエステル油としては、ジオクチルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジブチルセバケート(DBS)、ジオクチルセバケート(DOS)、メチル・アセチルリシノレート(MAR−N)等が挙げられる。又、上記芳香族エステル油としては、トリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等が挙げられる。又、上記ヒンダードエステル油としては、次に示す多価アルコールと一塩基酸を適宜反応させて得られるものが挙げられる。多価アルコールに反応させる一塩基酸は単独でも良いが、複数用いても良い。更に、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルである、コンプレックスエステルとして用いても良い。
【0024】上記多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスリトール(PE)、ジペンタエリスリトール(DPE)、ネオペンチルグリコール(NPG)、2−メチル−プロピル−1、3プロパンジオール(MPPD)等が挙げられる。又、上記一塩基酸としては、主にC4 〜C18の一価脂肪酸が使用できる。具体的には、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、牛脂脂肪酸、スレアリン酸、カプロレイン酸、ウンデシレン酸、リンデル酸、ツズ酸、フィゼテリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペテロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アスクレピン酸、バクセン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、サビニン酸、リシノール酸等がある。
【0025】又、前記合成炭化水素油としては、ポリα−オレフィン油、α−オレフィンとエチレンとのコオリゴマー合成油等が挙げられる。又、前記エーテル油としては、ジフェニル、トリフェニル、テトラフェニルのC12〜C20の(ジ)アルキル鎖が誘導された、フェニルエーテル油が使用可能である。特に、高温・高速耐久性を考慮した場合には、(ジ)アルキルポリフェニルエーテル油が好ましい。
【0026】基油は、前述した通り、40℃での動粘度が20〜150mm2/s の範囲のものを用いるが、特に、40〜100mm2/s の範囲のものが好ましい。40℃での動粘度が20mm2/s 未満の場合には、高速回転時の成膜性が不十分となり、玉5の転動面と内輪軌道1及び外輪軌道3との間に十分な油膜が形成されなくなって、これら転動面、内輪軌道1、外輪軌道3の転がり疲れ寿命の確保が不十分となる。反対に、40℃での動粘度が150mm2/s を越えると、玉軸受の回転トルクが大きくなり、モータの消費電力が多くなる為、好ましくない。
【0027】又、グリース中の増ちょう剤は、次の一般式(1)で示されるジウレア、ポリウレアを使用する事ができる。
【化1】


上記(1)式中、R2 は、炭素数が6〜15である芳香族系炭化水素基を、R1 及びR3 は、炭素数が6〜12である芳香族系炭化水素基、シクロヘキシル基、炭素数が7〜12であるシクロヘキシル誘導体基或は炭素数が8〜20であるアルキル基の何れかを表している。
【0028】ジウレアとして、より具体的には、下記の(2)式又は(3)式で表される化合物を、又、ポリウレアとして、より具体的には、これら(2)式又は(3)式で表される化合物の構造が三量化又は四量化した化合物等を、それぞれ挙げる事ができる。
【化2】


【0029】この様なジウレア或はポリウレアを使用する、ウレア系増ちょう剤は、これらジウレア又はポリウレアをそれぞれ単独で、若しくは混合して、グリース中に5〜30重量%、好ましくは10〜30重量%含有させる。増ちょう剤の含有率が5重量%未満の場合には、ちょう度が大きくなり過ぎ、得られるグリースが軟化して玉軸受から漏れ易くなり、比較的早期に玉軸受内部のグリース量が不足する為、玉軸受の耐久性を十分に確保できない。従って、グリース中への増ちょう剤の含有率を、5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上とした。反対に、増ちょう剤の含有率が30%を越えると、ちょう度が低くなり過ぎて、使用開始初期に於ける音響特性が悪化し、しかも玉軸受の回転トルクが大きくなる。尚、ジウレアとポリウレアとを混合して使用する場合、これらの混合割合は特に制限しない。
【0030】尚、グリースは、前述した基油と、上述した増ちょう剤とを含んで成るが、その好ましい特性を損なわない限り、これら基油及び増ちょう剤以外に、防錆剤、酸化防止剤、金属不活性剤、極圧剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤等を、添加剤として、単独又は2種以上組み合わせて添加する事ができる。これらの添加剤としては、何れも従来から広く知られているものを使用できる。例えば、他種の増ちょう剤として、リチウム以外の金属塩から成る金属石けん、ベントンやシリカゲル等を使用できる。又、酸化防止剤として、アミン系、フェノール系、イオウ系、ジチオリン酸亜鉛等を使用できる。又、油性剤として、脂肪酸植物油等を使用できる。又、防錆剤として、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、ソルビタンエステル等を使用できる。又、金属不活性剤として、ベンゾトリアゾールや亜硝酸ソーダ等を使用できる。更に、粘度指数向上剤として、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等を使用できる。これらの添加剤は、単独又は2種以上組み合わせて、上記増ちょう剤及び基油に添加する事ができる。
【0031】
【実施例】次に、本発明の効果を確認する為、本発明者が行なった実験に就いて説明する。尚、本発明を実施する場合、以下の実施例に限定されるものではない。実験には、次の表1中に実施例1〜8として示した、本発明に属する8種類の実施例と、同じく表2中に比較例1〜4として示した、本発明からは外れる4種類の比較例との、合計12種類の試料に就いて、後述する軸受寿命試験と軸受トルク試験とを行なった。尚、表1、2は、上記12種類の試料中、グリースの組性及び性状のみを示している。即ち、ウレア又はリチウムと基油とを合わせて950gとし、これに添加剤として酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤を合計で50g加え、総量が1000gのグリースとした。この様にして得られたグリースの40℃での粘度(動粘度)を、表1、2に併記した。尚、本発明の特徴である、内輪軌道及び外輪軌道の断面形状の曲率半径の玉の外径に対する割合(以下、「溝R」とする。)等に就いては、後述する。
【0032】
【表1】


【表2】


【0033】実施例1〜8に使用した玉軸受の条件は、それぞれ次の通りである。
■ 実施例1 : 内輪軌道の溝R=52.5%、外輪軌道の溝R=54%、保持器=合成樹脂製冠型保持器、玉=セラミック(窒化珪素)製■ 実施例2 : 内輪軌道の溝R=52.5%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=合成樹脂製冠型保持器、玉=セラミック(窒化珪素)製■ 実施例3 : 内輪軌道の溝R=56%、外輪軌道の溝R=54%、保持器=合成樹脂製冠型保持器、玉=セラミック(窒化珪素)製■ 実施例4〜8(何れも同じ) : 内輪軌道の溝R=56%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=合成樹脂製冠型保持器、玉=セラミック(窒化珪素)製
【0034】又、比較例1〜4に使用した玉軸受の条件は、それぞれ次の通りである。
■ 比較例1 : 内輪軌道の溝R=51%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=合成樹脂製冠型保持器、玉=セラミック(窒化珪素)製■ 比較例2 : 内輪軌道の溝R=51%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=鋼製波形保持器、玉=セラミック(窒化珪素)製■ 比較例3 : 内輪軌道の溝R=51%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=鋼製波形保持器、玉=軸受鋼(SUJ2)製■ 比較例4 : 内輪軌道の溝R=51%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=合成樹脂製冠型保持器、玉=軸受鋼(SUJ2)製
【0035】上述の■〜■に記載し、前記表1、2に記載したグリースと組み合わせた12種類の試料のそれぞれに就いて、次述する軸受寿命試験と、後述する軸受トルク試験とを行なった。
(1)軸受寿命試験上記■〜■の試料となる玉軸受として、内径が8mm、外径が22mm、幅が7mmのものを使用した。この玉軸受に、石油ベンジンにより2回の回転洗浄を施した後、室温で放置して乾燥させ、完全脱脂した。この様にして用意した玉軸受内に、前述の表1、2に示したグリースを、注射器を用いて0.16gずつ封入し、非接触の金属シールド(Z形)で密封した。
【0036】実施例1〜8と比較例1〜4との合計12種類の試料をそれぞれ2個ずつ、合計24個用意し、図4〜5に示す様な試験機16に装着した。即ち、この試験機16を構成するハウジング17の内周面と回転軸18の外周面との間に、それぞれが試料である玉軸受19、19を装着し、予圧ばね20により予圧を付与した。そして、上記ハウジング17と回転軸18との間に、5kgf のアキシアル荷重を付与した状態で、この回転軸18を、50000r.p.m. で回転させた。この条件で、上記各玉軸受19、19の外輪4、4の温度が、90℃を、通常使用条件での許容最高温度に設定し、寿命試験を行なった。そして、上記外輪4、4の温度が設定値より20℃上昇した(110℃に達した)時を、当該玉軸受19、19の焼き付き寿命と判定した。
【0037】この様な条件で行なった実験の結果を、前記表1、2中に焼き付き寿命として示した。これら表1、2中、◎印は、2000時間以上焼き付きがなかった事を、○印は、1000〜2000時間の間に焼き付きが発生した事を、△印は、500〜1000時間の間に焼き付きが発生した事を、×印は、500時間未満で焼き付きが発生した事を、それぞれ表している。軸受寿命試験は、○印以上、即ち、焼き付き寿命が1000時間以上の場合を合格とした。
【0038】(2)軸受トルク試験前記■〜■の試料となる玉軸受として、内径が8mm、外径が22mm、幅が7mmのものを使用した。この玉軸受に、石油ベンジンにより2回の回転洗浄を施した後、室温で放置して乾燥させ、完全脱脂した。この様にして用意した玉軸受内に、前述の表1、2に示したグリースを、注射器を用いて0.16gずつ封入し、非接触のゴムシールド(V形)で密封した。
【0039】実施例1〜8と比較例1〜4との合計12種類の試料をそれぞれ2個ずつ、合計24個用意し、図4〜5に示す様な試験機16に装着した。即ち、この試験機16を構成するハウジング17の内周面と回転軸18の外周面との間に、それぞれが試料である玉軸受19、19を装着し、予圧ばね20により予圧を付与した。そして、上記ハウジング17と回転軸18との間に、5kgf のアキシアル荷重を付与した状態で、この回転軸18を、44000r.p.m. で回転させた。そして、上記玉軸受19、19の回転トルク(回転抵抗)に伴って上記ハウジング17に加わるトルクを、ロードセル21により測定し、当該玉軸受19、19のトルク値とした。従って、ロードセル21により測定するトルクは、上記玉軸受19、19の2個分になる。
【0040】この様な条件で行なった実験の結果を、前記表1、2中に動トルクとして示した。これら表1、2中、×印は、前述の比較例3、即ち、内輪軌道の溝R=51%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=鋼製波形保持器、玉=軸受鋼(SUJ2)製である玉軸受のトルクを100%(基準値)とした場合に、当該玉軸受のトルクが95%以上である事を表している。これに対して、△印は、当該玉軸受のトルクが基準値の80%以上、95%未満である事を、○印は基準値の70%以上、80%未満である事を、◎印は基準値の70%未満である事を、それぞれ表している。軸受トルク試験は、○印以上、即ち、玉軸受のトルクが基準値の80%未満の場合を合格とした。
【0041】更に、基油の動粘度の適正範囲を確認する為、次の(a)(b)の様な試験も行なった。
(a) 内輪軌道の溝R=52.5%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=合成樹脂製冠型保持器、玉=セラミック(窒化珪素)製である玉軸受に、増ちょう剤にウレアを、基油にエステル油で40℃での動粘度が165mm2/sのものを使用したグリースを封入した場合、焼き付き寿命が2000時間以上で、トルクは上記基準値の80%〜95%未満であった。
(b) 内輪軌道の溝R=53%、外輪軌道の溝R=56%、保持器=合成樹脂製冠型保持器、玉=セラミック(窒化珪素)製を使用し、増ちょう剤にウレアを、基油にエステル油で40℃での動粘度が10mm2/s のものを使用したグリースを封入した場合、焼き付き寿命が500時間〜1000時間未満で、トルクは上記基準値の70%未満であった。
【0042】
【発明の効果】本発明の電気掃除機のモータ用玉軸受は、以上に述べた通り構成され作用するので、小型・軽量且つ高性能で、しかも優れた耐久性を有する電気掃除機の実現に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の対象となる玉軸受の1例を示す部分切断斜視図。
【図2】玉軸受に組み込む保持器の別例を示す斜視図。
【図3】従来から知られている玉軸受の別例を示す半部断面図。
【図4】トルク試験兼用グリース寿命試験器の断面図。
【図5】図4の右方から見た図。
【符号の説明】
1 内輪軌道
2 内輪
3 外輪軌道
4 外輪
5 玉
6 保持器
7 ポケット
8 素子
9 凹部
10 リベット
11 保持器
12 主部
13 弾性片
14 凹面部
15 密封板
16 試験機
17 ハウジング
18 回転軸
19 玉軸受
20 予圧ばね
21 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数個の玉と、これら複数個の玉を転動自在に保持する保持器とを備え、上記外輪軌道と内輪軌道との間の空間内に潤滑の為のグリースを封入した状態で、電気掃除機のモータの回転軸の支持部分に組み込まれる電気掃除機のモータ用玉軸受に於いて、上記複数個の玉をセラミック製とすると共に、上記外輪軌道の断面形状の曲率半径を、上記各玉の外径の54%〜56%に、上記内輪軌道の断面形状の曲率半径を同じく52.5%〜56%に、それぞれ規制した事を特徴とする電気掃除機のモータ用玉軸受。
【請求項2】 グリースは増ちょう剤にウレア系化合物を、基油に合成油を、それぞれ用いたものであり、保持器は合成樹脂製の冠型保持器である、請求項1に記載した電気掃除機のモータ用玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−120700(P2000−120700A)
【公開日】平成12年4月25日(2000.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−295342
【出願日】平成10年10月16日(1998.10.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】