説明

電気接点用のペロブスカイトまたはスピネルの表面被膜を形成するストリップ製品

【課題】本発明は、高温および腐食性環境の中で用いる電気接点の製造用に用いるストリップ製品に関する。
【解決手段】ストリップ製品は、ステンレス鋼などの金属基材、および次に少なくとも一つの金属層および一つの反応層を含む被膜からなる。被覆ストリップ製品は、好ましくは被覆により異なる層を備えて、その後被膜を酸化して、ペロブスカイトおよび/またはスピネル構造を含む導電性表面層を達成することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、高温および腐食性環境の中で用いる電気接点の製造用に用いるストリップ製品に関する。ストリップ製品は、ステンレス鋼などの金属基材、および次に少なくとも一つの金属層および一つの反応層を含む被膜からなる。被覆ストリップ製品は、各種層を蒸着し、その後被膜を酸化してペロブスカイトおよび/またはスピネル構造を含む導電面層を達成することにより製造される。
【背景技術】
【0002】
電気接点は、多種多様な環境下で用いられる。いくつかの因子は、電気接点に影響を及ぼすことが可能である。大きく電気接点に影響を及ぼすことが可能である因子の一つの例には、腐食性環境がある。接触材料が、例えば酸化により腐食される場合、接触抵抗は、通常、マイナスの影響を受ける。腐食生成物は、例えば電気絶縁性酸化物または他の絶縁性化合物のように、接点の表面導電率を下げる。これは、次には、電気接点がその一部をなす構成要素のより低い効率をもたらす。
【0003】
電気接点の材料に影響を及ぼす因子の別の例には、温度がある。接点は不十分な機械強度を苦にすることが可能であるか、または高温のせいで一緒に結合してしまうことさえ可能である。また、磨耗は電気接点の特性に影響を及ぼすことが可能である。さらに、電気装置中の各種要素間の熱膨張差は、特に接点が熱サイクルにさらされる場合、接点材料とその隣接要素間の熱応力を引き起こすことが可能である。
【0004】
当然、腐食性環境と組み合わさった高温は、接点材料の表面導電率へのなお一層の悪影響を及ぼすことができる。
【0005】
電気接点材料が高腐食性および高温を経験することが可能である場合の例には、点火プラグ、電極、廃棄物、石炭または泥炭焚きボイラー中、融解炉中、車両中(特にエンジンの近く)、または産業環境中が挙げられる。
【0006】
高温、および腐食性環境中で用いられる電気接点の別の例には、燃料電池、特に固体酸化物燃料電池(SOFC)用のインターコネクトがある。燃料電池中で用いられるインターコネクト材料は、燃料側と酸素/空気側間の隔離板、ならびに燃料電池のカレント・コレクタの両方として機能することが好ましい。インターコネクト材料が良好な隔離板であるため、材料は材料を通してのガス拡散を避けるために高密度でなければならないし、良好なカレント・コレクタであるため、インターコネクト材料は導電性である必要があると共に、その表面上に絶縁性酸化物スケールを形成することは好ましくない。
【0007】
インターコネクトは、例えば、グラファイト、セラミックスまたは金属、多くの場合ステンレス鋼から作製することができる。例えば、フェライト・クロム鋼はSOFC中のインターコネクト材料として用いられ、以下の二つの論文はその例である:
【0008】
【非特許文献1】“Evaluation of Ferrite Stainless Steels as Interconnects in SOFC Stacks”by P.B.Friehling and S.Linderoth in the Proceedings Fifth European Solid Oxide Fuel Cell Forum,Lucerne,Switzerland,edited by J.Huijsmans(2002)p.855
【非特許文献2】“Development of Ferritic Fe−Cr Alloy for SOFC Separator”by T.Uehara,T.Ohno & A.Toji in the Proceedings Fifth European Solid Oxide Fuel Cell Forum,Lucerne,Switzerland,edited by J.Huijsmans(2002)p.281。
【0009】
SOFC用途において、インターコネクト材料の熱膨張は、燃料電池スタック中のアノード、電解質およびカソードとして用いられる電気活性セラミック材料の熱膨張から大きく外れてはならない。フェライト・クロム鋼は、フェライト鋼の熱膨張係数(TEC)が燃料電池中で用いられる電気活性セラミック材料のTECsに近くあるので、この用途に対して高度に適する材料である。
【0010】
燃料電池中でインターコネクトとして用いられる電気接点材料は、運転の間酸化にさらされる。特にSOFCの場合に、この酸化は燃料電池効率および燃料電池の寿命に対して有害であることが可能である。例えば、インターコネクト材料の表面上に形成される酸化物スケールは、厚く成長することが可能であり、熱サイクルのせいではげて取れるか、またはひび割れることさえ可能である。従って、酸化物スケールはインターコネクト材料に対する良好な接着性を有することが好ましい。さらに、形成される酸化物スケールは、また、良好な導電性を有すると共に、より厚い酸化物スケールが内部抵抗の増加をもたらすので厚くなりすぎないように成長することが好ましい。形成される酸化物スケールは、また、SOFC中で燃料として用いられるガスに対して化学的に耐性があることが好ましい、すなわち、オキシ水酸化クロムなどの揮発性金属含有化学種は全く形成されないことが好ましい。オキシ水酸化クロムなどの揮発性化合物は、SOFCスタック中の電気活性セラミック材料を汚染し、これは、次には燃料電池の効率の低下をもたらす。さらに、インターコネクトがステンレス鋼から作製される場合に、その表面での鋼中心から形成される酸化クロムスケールへのクロムの拡散のせいで、燃料電池寿命の間の鋼のクロム減耗に対する危険性がある。
【0011】
SOFC中のインターコネクトとして商業用フェライト・クロム鋼を用いる一つの不利点は、それらが、通常、SOFCの作動温度で、それぞれAl23およびSiO2を形成する微量のアルミニウムおよび/またはシリコンと合金化されることである。これらの酸化物は両方とも絶縁性であり、電池の電気抵抗を増大させ、これは、次に、燃料電池効率の低下をもたらす。
【0012】
SOFC用インターコネクト材料としてフェライト鋼を用いる場合に生じる問題点に対する一つの解決策は、絶縁性酸化物層の形成を避けるために極めて低い量のSiおよびAlを有するフェライト鋼の使用である。これらの鋼は、通常、また、マンガンおよびLaなどの希土類金属と合金化される。これは、例えば、鋼が(重量で)0.2〜1.0%のMn、0.01〜0.4%のLa、0.2%未満のAl、および0.2%未満のSiと合金化される米国特許出願第2003/0059335号明細書においてなされている。別の例は、鋼が(重量で)1.0%未満のMn、1.0%未満のSi、1.0%未満のAl、および0.5%未満のY、および/または0.2%未満の希土類金属(REM)と合金化されるEP第1298228A2号明細書中にある。
【0013】
米国特許出願第6054231号明細書において、オーステナイトステンレス鋼として定義される超合金、ニッケルおよびクロム合金、ニッケル系合金またはコバルト系合金は、最初にMn、MgまたはZnのいずれかにより、次に、Cu、Fe、Ni、Ag、Au、Pt、Pd、IrまたはRh群からの追加金属の25〜125μmの厚い層により被覆される。Ni、AgまたはAuなどの高価な金属の厚い第2層の被覆は、超合金などの既に比較的高価な基材を保護する費用生産的なやり方ではない。
【0014】
米国特許第2004/0058205号明細書には、酸化される場合に高度に導電性の表面を形成する電気接点として用いられる金属合金が記載されている。これらの合金は鋼などの基材上に塗布することができる。導電性表面は、Tiなどの一つの金属のNbまたはTaなどの別の金属によるドーピングにより達成される。さらに、米国特許第2004/0058205号明細書による合金は、1段階において表面上に塗布され、その後酸化される。
【0015】
引用された先行技術のどれもが、費用有効なやり方で、且つ導電性表面の品質を制御する高い可能性を有して製造される、腐食性環境中および/または高温で用いられる満足の行く電気接点材料を提供することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、電気接点において用いようとする、低表面抵抗を有し、耐食性であるストリップ材料を提供することは主要な目的である。
【0017】
別の目的は、電気接点において用いようとする、長い耐用年数にわたる運転の間その特性を保持する材料を提供することである。
【0018】
さらなる目的は、腐食性環境中で電気接点として用いようとする、高温でさえも良好な機械強度を有する材料を提供することである。
【0019】
別の目的は、電気接点用の費用有効材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
金属材料、好ましくはステンレス鋼、さらに好ましくはフェライト・クロム鋼のストリップ基材は、少なくとも一つの金属材料層および少なくとも一つの反応層を含む被膜を備える。これに関連して、反応層は、酸化される時に第1層の金属材料によりスピネルおよび/またはペロブスカイト構造を形成する少なくとも一つの元素または化合物からなる層を意味すると考えられる。
【0021】
ストリップ基材は、高密度および付着性被膜をもたらすあらゆる方法により被膜を備えることが可能である。被覆方法には、連続ロールツーロール法におけるPVDなどの蒸着を挙げることが可能である。従って、電気接点は、穴抜き、または打抜き加工などのあらゆる従来型の成形法により被覆ストリップから形成される。被覆ストリップからなる電気接点は、電気接点が一部をなす電気構成要素を組み立てる前に酸化することが可能であるか、または運転中に酸化することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本明細書において、用語「備える」および「備えた」は、それぞれ、有意の行為および有意の行為の結果を意味すると考えられる。従って、これに関連して、層を備えた表面は、活動行為の結果であるように意図されている。
【0023】
ペロブスカイトおよび/またはスピネル構造は、電気接点として用いられる金属基材上の「伝統的な」酸化物の代わりに表面上に形成することができる。ペロブスカイトおよび/またはスピネル構造の目的は、低接触抵抗を持つ表面を有するために高導電率を有する表面を達成することである。被覆ストリップ材料は、ステンレス鋼などの金属基材、好ましくは15〜30重量%のクロム含量を有するフェライト・クロム鋼を備えることにより製造される。ストリップ材料基材は、その後、少なくとも二つの個別層からなる被膜を備える。一つの層は、Al、Cr、Co、Mo、Ni、Ta、W、Zrに基づく金属層、またはこれらの元素、好ましくはCr、Co、Ni、Moのいずれか一つに基づく合金、またはこれら元素のいずれか一つに基づく合金である。これに関連して、「に基づく」は、元素/合金が組成物の主要成分を構成する、好ましくは組成物の少なくとも50重量%を構成することを意味する。他の層は、酸化される場合に金属層の元素/複数の元素を有するペロブスカイトおよび/またはスピネル構造を形成する少なくとも一つの元素または化合物からなる反応層である。被膜の正確な組成は、指定の特性、例えば酸化物成長速度を達成するために、特別注文作製することができる。
【0024】
一つが金属層であり、他が反応層である二つの個別層を含む被膜を有する表面を備えるための一つの理由は、接触材料の一段と簡略化された製造が達成されることである。しかし、二つの個別層を有する被膜を備えることによるための主要理由は、ペロブスカイト/スピネルにおける各種元素の量を制御すること、すなわち、望ましい結果を達成するために望ましい組成を仕組むことがより容易であることである。さらに、基材に対する被膜の優れた接着性を達成することができ、それによって、接触材料の特性を改善し、従って効率を改善し、対象とする用途における耐用年数を長くする。
【0025】
反応層は金属材料層のいずれかの側上に位置付けることが可能である;すなわち、基材および金属層の間に挟むか、または第1蒸着金属層の上に位置付けることが可能である。
【0026】
一つの好ましい実施形態により、金属材料は本質的に純粋CrまたはCr系合金からなる。このケースにおいて、被膜が酸化される場合に、式中Mが反応層からの前述の元素/化合物のいずれかである、MCrO3および/またはMCr24の式を有する化合物が形成される。反応層は、周期系の2Aまたは3A族からの元素、REMまたは遷移金属を含有することが可能である。この好ましい実施形態において、反応層の元素Mは、好ましくは、以下の元素:La、Y、Ce、Bi、Sr、Ba、Ca、Mg、Mn、Co、Ni、Feまたはそれらの混合物、さらに好ましくはLa、Y、Sr、Mn、Ni、Coおよび、またはそれらの混合物のいずれかからなる。この実施形態の一つの特定例は、Crの一つの層であり、他の層はCoである。
【0027】
反応層は、別の好ましい実施形態によって金属基材の表面の予備酸化により得られる。金属基材がステンレス鋼である場合に、酸化クロムが形成される。その後、NiまたはCo層がこの実施形態により形成された酸化物上に堆積する。
【0028】
被膜は、また、さらなる層を含むことが可能である。例えば、被膜は、第1金属層、その後反応層および最終的に別の金属層を含むことが可能である。この実施形態は、さらに、電気接点表面の良好な導電性を確保する。しかし、経済的な理由のせいで、被膜は10を超える個別層を含まず、好ましくは5以下の個別層を含む。
【0029】
各種層の厚さは、通常20μm未満、好ましくは10μm未満、さらに好ましくは5μm未満、最も好ましくは1μm未満である。厚さは、好ましくは、電気接点の使用目的の要求事項に適合される。一つの実施形態により、反応層の厚さは、金属層のそれよりも小さい。これは、反応層が酸化するとそれら自身が非導電性酸化物を形成する元素または化合物を含む場合に特に重要である。この場合に、本質的に全体の反応層/複数の層が、運転中の接点の導電率がマイナスの影響を受けないように、少なくとも電気接点の運転中、金属層中に反応するか、および/または拡散することを可能とすることは重要である。
【0030】
ストリップ基材の厚さは、5mm以下、好ましくは2mm未満、最も好ましくは1mm未満であることが可能である。ストリップの幅は1200mm以下、好ましくは少なくとも100mmであることが可能である。当然、厚さは、電気接点の最終用途の要求事項に適合されなければならない。本開示により被覆ストリップを製造する一つの利点は、小さい電気接点および大きい電気接点、両方とも、例えば打抜き加工または穴抜きにより、ストリップから形成することができることである。これは製造法を一層費用有効性とする。しかし、一部のケースにおいて、基材の他の形態も適用可能であるであろう。基材が有利に棒形態にある一つの実施例は、電気化学セル中の支持棒の用途にある。基材は、また、電気接点の使用目的がそのように要求する場合、ワイヤーまたは管の形態をとることが可能である。
【0031】
被覆ストリップは、バッチ式工程または連続工程において製造することが可能である。しかし、経済的な理由により、ストリップは、連続ロールツーロール法において、少なくとも100m、好ましくは少なくとも1km、最も好ましくは少なくとも5kmの長さで製造することが可能である。被膜は、金属層および反応層により被覆することにより、基材上に備えることが可能である。しかし、代替実施形態により、被膜は、また、少なくとも50nmの酸化物厚さに基材を予備酸化し、その後追加層を被覆することにより備えることも可能である。被膜は、その後、さらに酸化されて、スピネルおよび/またはペロブスカイトを達成する。被膜を基材上に備えるこの代替実施形態は、基材が、表面上に形成される酸化物がクロム系酸化物であるようなフェライト・クロム鋼である場合に、特に適用可能である。
【0032】
被覆は、基底材料、すなわち基材、または基底被覆層に対する良好な接着性を有する薄くて高密度の被膜を生成するあらゆる被覆法により行うことが可能である。当然、ストリップの表面は、例えば、油残留物および/または基材の自然酸化物層を除去するために、被覆前に適切なやり方で洗浄されなければならない。一つの好ましい実施形態により、被覆は、連続ロールツーロール法においてPVD技術、好ましくは、反応性であるか、または必要ならばプラズマ活性化さえ可能であるであろう電子ビーム蒸発法の使用により行われる。
【0033】
さらに、ストリップは片側または両側上の被膜を伴って備えることが可能である。被膜がストリップの両表面上に備える場合に、ストリップの各側面上の異なる層の組成は同じであることが可能であるが、しかし、また、電気接点が運転される用途に応じて異なることが可能である。ストリップは同時に両側面上に、または一時に片側面上に被覆することが可能である。
【0034】
任意に、被覆ストリップは中間均質化段階にさらされて、個別層を混合し、均質被膜を達成する。均質化は、真空、または水素または水素ガスと窒素、アルゴンまたはヘリウムなどの不活性ガスの混合物などの還元性雰囲気であることができるであろう適切な雰囲気下でのあらゆる従来型の熱処理により達成することができる。
【0035】
被覆ストリップは、その後、室温を超える温度、好ましくは100℃を超え、さらに好ましくは300℃を超える温度で酸化され、その結果、ペロブスカイトおよび/またはスピネル構造がストリップ表面上に形成される。当然、被膜厚さは、被膜がスピネルおよび/またはペロブスカイト形成のため酸化される場合に増大する。酸化は、例えば、被膜が均質化される場合の層の厚さ、および酸化の時間および温度に応じて、被膜の全体酸化または被膜の部分酸化をもたらすことが可能である。いずれのケースにおいても被膜の異なる層は、これが中間均質化段階によってなされない場合、相互中に少なくとも部分的に反応するか、および/または拡散することを可能とされる。酸化は、直接被覆後に、すなわち、最終用途形状形成後、電気接点形成の前、すなわち、被覆ストリップからの電気接点の製造の前に、または、電化製品、例えば燃料電池が組み立てられた後に、すなわち運転中に、行うことが可能である。
【0036】
ストリップ表面上のペロブスカイトおよび/またはスピネル構造を達成する目的は、形成されるペロブスカイトおよび/またはスピネルが、金属層元素の従来型の酸化物に較べて一段と低い抵抗値を有することである。これは、次に、電気接点のより低い接触抵抗、従って、また、電気接点が一部をなす構成要素の一層高い効率をもたらす。例えば、800℃でのCr23の抵抗値は約7800Ω・cmであり、一方で、例えばLa0.85Sr0.15CrO3の抵抗値は数桁低い、すなわち約0.01Ω・cmである。
【0037】
また、スピネルおよびペロブスカイトなどの3元酸化物を含有するクロムの場合に、これらの酸化物が、高温で純粋Cr23よりも一段と揮発性が低いことは信じられる。
【0038】
さらに、ステンレス鋼などの基材の表面上にペロブスカイトおよび/またはスピネル構造を備えることにより、電気接点は良好な機械強度を有すると共に、例えば、全体的にペロブスカイトおよび/またはスピネル系のセラミックスから作製される電気接点よりも、製造するにはより安価である。
【0039】
また、基材がステンレス鋼である場合に、基材のクロム減耗は、金属層が基材のクロムよりもずっと前に酸化するので抑制され、このことは金属層がCrまたはCr系合金である場合に特に断言される。従って、基材の腐食抵抗は運転中減じることはない。
【0040】
さらに、一つの任意の実施形態により、基材からのMnおよび/またはREMは、被膜中に拡散することが可能である。これは、一部のケースにおいて、表面上のペロブスカイトまたはスピネル構造の形成をさらに促進することが可能である。基材のMnおよび/またはREMの小含量でさえ、最終構造の形成に影響を及ぼすことが可能である。基材中のMn含量は、好ましくは0.1〜5重量%であり、REMの含量は、好ましくは0.01〜3重量%であり、基材中のCr含量は、好ましくは15〜30重量%である。当然、Mnおよび/またはREMの必要含量は、被膜の厚さに応じて決まる。より厚い被膜は、より高いMnおよび/またはREM含量を必要とする。例えば、被膜が2μm未満である場合、0.1〜1重量%Mn含量が望ましい結果を達成するために十分なものである。
【0041】
一部のケースにおいて、導電性の電気接点の一つの表面を有し、一方で他が非導電性、すなわち絶縁性であることが好ましいケースは、適用可能であるであろう。これらのケースにおいて、前述のような被膜は一つの表面上に塗布することが可能であり、Al23またはSiO2などの電気絶縁材料は、他表面に塗布することが可能である。これは、導電性被膜と同様に行うことが可能である。一つの実施例により、一つの金属層および一つの反応層を含む被膜がストリップの一つの表面に備わり、例えばAlなどの酸化される時に絶縁層を形成する金属がストリップの他表面に塗布される。被覆ストリップは、その後酸化され、一つの導電性表面および一つの絶縁性表面をもたらす。
【0042】
上述のものに対する代替として、他の方法、例えば、被膜の各種成分の共蒸発によるか、または電気化学法により、被膜を塗布することが可能であるであろう。
【実施例】
【0043】
被覆ストリップの実施例は今説明される。これらは限定するものとしてではなく、単に例証的性質のものとして見られるべきものである。
【0044】
実施例1
ステンレス鋼基材に、金属層および反応層からなる被膜を被覆する。金属層はCrまたはCr系合金である。このケースにおける反応層は、酸化物がスピネル構造を受け入れることが好ましい場合、Ni、Co、Mnおよび/またはFeなどの遷移金属を含む。ペロブスカイト構造が望まれる場合、反応層は、周期系2Aまたは3A族からの元素、またはREMを含有する。好ましくは、反応層はBa、Sr、Ca、Y、Laおよび/またはCeを含有する。スピネルおよびペロブスカイト両方の構造を含む混合構造の場合、反応層は、周期系2Aまたは3A族からの元素、またはREMならびに遷移金属を含有することが可能である。あるいは、Mnおよび/またはREMは基材から拡散することができる。
【0045】
被膜は任意に均質化され、その後表面上に望ましい構造を形成するように酸化される。これは、ストリップ基材の極めて低い表面抵抗をもたらす。また、酸化中に形成されるCr酸化物MCrO3および/またはMCr24は、高温で純粋Cr23よりも低揮発性である。これは、高温でさえ腐食性環境中で接点材料として、例えば、固体酸化物燃料電池中のインターコネクトとして用いるために高度に適する被覆ストリップをもたらす。
【0046】
実施例2
フェライト・クロムステンレス鋼の0.2mm厚さストリップ基材を被覆した。被膜をMがLaとMnの混合物であるCrM層を達成するために均質化した。被膜中のCr濃度は約35〜55重量%であり、一方、Mn濃度は約30〜60重量%であり、La濃度は3〜4重量%である。
【0047】
表面をグロー放電発光分光法(GDOES)により分析した。この技術を用いて、表面層の化学組成を表面からの距離の関数として検討することは可能である。本方法は、濃度の小さな差に対して極めて敏感であり、数ナノメートルの深さ分解能を有する。1.5μm厚さCrM表面合金層のGDOES分析結果を図1に示す。
【0048】
実施例3
組成式、重量で最大0.050%C、最大0.25%Si、最大0.35%Mn、21〜23%Cr、最大0.40%Ni、0.80〜1.2%Mo、最大0.01%Al、0.60〜0.90%Nb、V、TiおよびZrの小添加量、および自然発生不純物を有するフェライト・クロム鋼の二つの試料を製造した。試料の一つを0.1μm厚さのコバルト層および0.3μm厚さのクロム層により被覆した。試料を分析前に850℃で168時間にわたり空気中で酸化した。試料を、入射角0.5°による斜入射X線回折法(GIXRD)により分析した。図2を参照すること。GIXRDが表面感受性回折法であり、酸化鋼上の上層結晶相のみが分析されることは、指摘されるべきである。斜入射X線により達せられない上層下に存在するあらゆる結晶相は、回折図形中には見られない。スピネル対各試料の酸化物スケール上層中に形成されるクロム酸化物の量を、2シータ=36.7°でのピークから底までのCr23(エスコライト(Eskolaite))反射強度(3)を測定し、それを2シータが略45°でのスピネル反射強度(4)で割ることにより比較した。非被覆酸化試料に対するエスコライト/スピネルの比率は9.9であり、一方、被覆試料に対して比率は1.0であった。これは、形成される表面酸化物スケール中のスピネル構造の10倍増として解釈することができるであろう。図2において、回折図形(1)は850℃で168時間にわたり空気中で酸化された非被覆試料であり、および回折図形(2)は850℃で168時間にわたり空気中で酸化された被覆試料である。
【0049】
実施例4
組成式、重量で最大0.050%C、最大0.25%Si、最大0.35%Mn、21〜23%Cr、最大0.40%Ni、0.80〜1.2%Mo、最大0.01%Al、0.60〜0.90%Nb、V、TiおよびZrの小添加量、および自然発生不純物を有するフェライト・クロム鋼の三つの試料を製造した。二つの試料を空気中で予備酸化して、100nm厚さの酸化物スケールを得た。予備酸化した試料を、その後金属層により被覆した、試料2上の金属層は300nm厚さのNi層であり、試料3上は300nm厚さのCo層であった。すべての三つの試料を、次に、分析前に850℃で168時間にわたりさらに酸化した。試料を、入射角0.5°による斜入射X線回折法(GIXRD)により分析した。図3を参照すること。GIXRDが表面感受性回折法であり、酸化鋼上の上層結晶相のみが分析されることは、指摘されるべきである。斜入射X線により達せられない上層下に存在するあらゆる結晶相は、回折図形中には見られない。スピネル対各試料の酸化物スケール上層中に形成されるクロム酸化物の量を、2シータ=36.7°でのピークから底までのCr23(エスコライト)反射強度(4)を測定し、それを2シータが略45°でのスピネルMCr24の反射強度(5)で割ることにより比較した。非被覆酸化試料に対するCr23/MCr24の比率は9.9であり、一方、Ni層を有する予備酸化試料に対して比率は1.26、Co層を有する予備酸化試料に対しての比率は0.98であった。これは、形成される酸化物スケール中のスピネル構造のそれぞれ8.5、10倍増を示す。本明細書において注目する興味ある点は、ニッケル層がスケール中により多くのスピネル酸化物を形成するだけでなく、NiOもまた試料が酸化された時に形成される(6)ということである。図3において、回折図形(1)は850℃で168時間にわたり空気中で酸化された非被覆試料であり、回折図形(2)は850℃で168時間にわたり空気中で酸化されたNi層試料を有する予備酸化された試料であり、および回折図形(3)は850℃で168時間にわたり空気中で酸化されたCo層試料を有する予備酸化された試料である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】1.5μm厚さのCrM被膜のGDOES分析。
【図2】被膜ありおよびなしでの酸化試料のGIXRD回折図形。
【図3】金属層ありおよびなしでの予備酸化試料のGIXRD回折図形。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材が、
金属または金属合金に基づく少なくとも一つの金属層、及び
酸化される時に金属または金属合金によりスピネルおよび/またはペロブスカイト構造を形成する少なくとも一つの元素または化合物を含有する少なくとも一つの反応層、
を含む被膜を備えることを特徴とする金属基材からなる電気接点として用いるストリップ製品。
【請求項2】
前記金属層が、Al、Cr、Co、Mo、Ni、Ta、W、Zrからなる群から選択される金属、または前記元素のいずれかに基づく金属合金に基づくことを特徴とする、請求項1に記載のストリップ製品。
【請求項3】
前記層の各々が20μm厚さ未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のストリップ製品。
【請求項4】
前記金属層が、前記反応層に加えて、同じ金属または金属合金に基づく少なくとも二つの個別の金属層を含むことを特徴とする先行する請求項のいずれか1に記載のストリップ製品。
【請求項5】
前記金属基材が、0.1〜5重量%量のMnおよび/または0.01〜3重量%量のREMを含むことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載のストリップ製品。
【請求項6】
前記金属層がCrまたはCr系合金であり、前記反応層が少なくとも一つの遷移金属、周期系の2Aまたは3A族からの元素、および/または希土類金属/複数の金属を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のストリップ製品。
【請求項7】
前記反応層が、前記金属層の金属または金属合金以外の金属または金属合金からなることを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載のストリップ製品。
【請求項8】
前記金属基材がコバルト層およびクロム層により被覆されることを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載のストリップ製品。
【請求項9】
前記反応層が下地の予備酸化により得られる酸化物であり、前記金属層がNi層またはCo層であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のストリップ製品。
【請求項10】
前記金属基材がステンレス鋼であることを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載のストリップ製品。
【請求項11】
前記金属基材が、酸化後、接触面上の金属酸化物のスピネルおよび/またはペロブスカイト構造を有することを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載のストリップ製品から製造される電気接点。
【請求項12】
前記金属酸化物が、Al、Cr、Co、Ni、Mo、Ta、Wおよび/またはZrからなる群から選択される少なくとも一つの金属を含むことを特徴とする請求項11に記載の電気接点。
【請求項13】
金属基材が、以下の段階:
(i)前記金属基材上に、少なくとも一つの金属層、及び
酸化される時に金属または金属合金によりスピネルおよび/またはペロブスカイト構造を形成する元素および/または化合物を含有する少なくとも一つの反応層、を備え、
(ii)異なる層が互いに反応するか、または互いの中に拡散を可能とすること、
(iii)製品を酸化ことにより、ペロブスカイトおよび/またはスピネルが製品表面上に形成されること、
を含むことを特徴とする、被膜および金属基材からなる電気接点材料として用いるストリップ製品を製造する方法。
【請求項14】
前記金属層が、Al、Cr、Co、Ni、Mo、Ta、W、Zrまたは前記元素のいずれかに基づく合金からなる群から選択される金属または金属合金に基づくことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
Mnおよび/またはREMが金属基材から被膜中に拡散することを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記金属層が被覆により前記金属基材上に提供されることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記反応層が被覆により前記金属基材上に提供されることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
酸化される時に、金属または金属合金によりスピネルおよび/またはペロブスカイト構造を形成する化合物が酸化物であることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記酸化物が、下地の予備酸化によりストリップ表面上に少なくとも50nmの厚さまで提供されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
点火プラグ、電極、廃棄物、石炭または泥炭焚きボイラー、融解炉、車両中でのまたは産業環境中での請求項11に定義される電気接点の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−522037(P2008−522037A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544303(P2007−544303)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【国際出願番号】PCT/SE2005/001747
【国際公開番号】WO2006/059942
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】