説明

電気接点

【課題】潤滑性を有し摩擦係数が小さく、半田付着及び転移し難く、安定した接触抵抗を得られ、相手物が電気接点上を摺動するような構造の電気接点を提供する。
【解決手段】少なくとも表面が錫を含有する半田である物体と接触する電気接点10において、該電気接点10の表面に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる潤滑メッキ層28と、潤滑メッキ層28上に形成されるAuメッキ層からなる厚さが微粒子の直径を超えない貴金属メッキ層32とを施し、電気接点10の周囲に略U字形状のスリット20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、少なくとも表面に錫が含有する半田である物体と接触する電気接点に関するもので、特に前記電気接点が接触時に摺動し、かつ、半田付着及び転移し難い構造の電気接点に関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくとも表面に錫が含有する半田である物体と接触する電気接点では、他の硬質接触子との接触のように摺動による摩擦や磨耗で、接点が減ることなく、むしろ電気接点に接触した錫を含有する半田が、電気接点に付着や転移することで電気接点側に錫を含有する半田が転移してしまうことになり、この付着や転移した錫を含有する半田は、表面が酸化して酸化錫を形成し、不導体化してしまう。接触を繰り返すことは、さらにこの上に新たな錫を含有する半田が付着や転移することになり、年輪状の酸化膜の層が出来上がってしまい、ますます接触抵抗を不安定にすることにつながる。
ここでいう付着とは、相手物の半田(PbSn)若しくは半田の酸化物(SnO2)が電気接点に付いた状態をいい、転移とは、付着した相手物の半田が電気接点と金属間結合した状態をいう。
特許文献1(特開2000−67972)として、相手物と電気接点とが接触した際に、相手物が電気接点上を摺動する構造のものが開示され、特許文献2(特開平6−308575号)として、潤滑性がよい表面処理が開示され、さらに、特許文献3(特開2001−123292)として、接触抵抗が低く、かつ潤滑性及び耐磨耗性が良好な表面処理が開示されている。
ここでいう摺動とは、相手物が電気接点と接触し、相手物を電気接点に押圧した際に、電気接点上を相手物が移動(ズレる)すること(即ち、最初の接触位置と押圧後の接触位置が違う)をいう。
【特許文献1】特開2000−67972の要約によると、本発明は、複数の電気接点と複数の電気接触子とを一度に電気的に接続するようにした電気コネクタを提供することを目的とし、第1のコネクタプレート部と第2のコネクタプレート部とを着脱自在に突き合わせて、第1のコネクタプレート部の片面側の複数の電気接点と第2のコネクタプレート部の片面側の複数の電気接触子とを電気的に接続するようにした電気コネクタにおいて、電気接触子を第2のコネクタプレート部の基板上に設けると共に、電気接触子の周囲の基板にはスリット状の切り込み部を設けて、電気接触子部分に弾性を持たせた電気コネクタにあり、これによって、簡単な構造でコネクタ全体のコンパクト化ができると共に、電気接点側の高さ不整などによる接触不良が防止でき、所望のインピーダンス特性も容易に確保することができるものが開示されている。ちなみに、請求項1には、第1のコネクタプレート部と第2のコネクタプレート部とを着脱自在に突き合わせて、前記第1のコネクタプレート部の片面側の複数の電気接点と前記第2のコネクタプレート部の片面側の複数の電気接触子とを電気的に接続するようにした電気コネクタにおいて、前記電気接触子を第2のコネクタプレート部の基板上に設けると共に、当該電気接触子の周囲の基板にはスリット状の切り込み部を設けて当該電気接触子部分に弾性を持たせたことを特徴とする電気コネクタ。請求項2には、前記電気接触子と反対側の基板側に弾性体層を設けたことを特徴とする請求項1記載の電気コネクタ。請求項3には、前記電気接触子をプリント配線パターン成形法によって基板上に設けることを特徴とする請求項1又は2記載の電気コネクタ。請求項4には、前記電気接触子と反対側の基板上に前記電気接触子と導通した金属導体部を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の電気コネクタが開示されている。
【特許文献2】特開平6−308575号の要約によると、潤滑剤を用いる必要なく、長期に渡って良好な潤滑性を有し、小さなトルクで良好な摺動動作を行うことができると共に、摺動時の騒音を可及的に減少させることができるカメラの摺動部材を得ることを目的に、摺動部材の他の部材と接触摺動する部分を金属マトリックス中に低摩擦係数粒子が共析分散した複合めっき皮膜で被覆する構造のものが開示され、効果として、初期駆動トルクが小さくなり、駆動源のモータを小型化したり、バッテリー消費量を少なくすることができることが開示されている。ちなみに、特許請求の範囲には、カメラの各種機構部を構成する摺動部材において、該部材の少なくとも他の部材と接触摺動する部分を金属マトリックス中に低摩擦係数粒子が共析分散した複合めっき皮膜で被覆したことを特徴とするカメラの摺動部材が開示されている。
【特許文献3】特開2001−123292の要約によると、接触抵抗が低く、かつ潤滑性及び耐磨耗性が良好な表面処理構造を有し、接点、摺動、嵌合又は装飾のいずれの用途にも好適に使用することができる接点、摺動、嵌合、装飾部材及びその製造方法を提供することを目的とし、基材の表面にメッキ層を形成した表面処理構造であって、潤滑性を有する微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる潤滑メッキ層と、この潤滑メッキ層上に形成される貴金属メッキ層とから構成し、ここで、前記潤滑メッキ層の下に金属のメッキ層からなる拡散防止メッキ層を形成すること、乃至前記潤滑メッキ層と前記貴金属メッキ層との間に、貴金属のストライクメッキ層からなる接合層を形成する構造のものが開示されている。ちなみに、特許請求の範囲の請求項1には、基材の表面にメッキ層を形成した表面処理構造であって、潤滑性を有する微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる潤滑メッキ層と、この潤滑メッキ層上に形成される貴金属メッキ層とから構成したことを特徴とする表面処理構造。請求項2には、前記潤滑メッキ層の下に金属のメッキ層からなる拡散防止メッキ層を形成したことを特徴とする請求項1に記載の表面処理構造。請求項3には、前記潤滑メッキ層と前記貴金属メッキ層との間に、貴金属のストライクメッキ層からなる接合層を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理構造。請求項4には、基材と、この基材上に形成され、潤滑性を有する微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる潤滑メッキ層と、この潤滑メッキ層上に形成される貴金属メッキ層とから構成したことを特徴とする接点、摺動、嵌合、装飾部材。請求項5には、前記基材と前記潤滑メッキ層との間に、金属のメッキ層からなる拡散防止メッキ層を形成したことを特徴とする請求項4に記載の接点、摺動、嵌合、装飾部材。請求項6には、前記潤滑メッキ層と前記貴金属メッキ層との間に、貴金属のストライクメッキ層からなる接合層を形成したことを特徴とする請求項4又は5に記載の接点、摺動、嵌合、装飾部材。請求項7には、下記の(1)及び(2)の工程を有することを特徴とする接点、摺動、嵌合、装飾部材の製造方法。(1)基材の表面に、潤滑性を有する微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる潤滑メッキ層を形成する工程。(2)潤滑メッキ層の表面に貴金属メッキ層を形成する工程。請求項8には、前記(1)の工程において、前記基材の表面に、金属メッキ層からなる拡散防止メッキ層を形成した後に、前記潤滑性を有する微粒子を含有する金属メッキ層からなる潤滑メッキ層を形成することを特徴とする請求項7に記載の接点、摺動、嵌合、装飾部材の製造方法。請求項9には、前記(1)の工程と(2)の工程の間に、前記潤滑メッキ層の表面に貴金属のストライクメッキ層からなる接合層を形成する工程を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の接点、摺動、嵌合、装飾部材の製造方法が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のような構造では、確かに、相手物が電気接点上を摺動するものの、摩擦係数が大きく、半田付着及び転移し易く、接触抵抗が不安定になってしまう。
特許文献2と特許文献3は表面処理に関するもので、貴金属同士の接触を意図するもので、接触する相手物が錫を含有する半田を意図したものはなく、半田付着及び転移の防止を意図していない。
特許文献2の表面処理では、確かに、潤滑性を有し摩擦係数が小さいものの、ニッケルが酸化してしまい、接触抵抗が不安定で接点には不向きである。また、相手物が電気接点上を摺動するような構造の示唆もない。更に、半田付着及び転移の防止については、全く推測できない。
特許文献3は、特許文献2を改良したもので、半田付着及び転移し難く、安定した接触抵抗を得られるような表面処理を提供したものであるが、相手物が電気接点上を摺動するような構造の示唆もない。特許文献3の明細書中に、摺動という記載があるが、これは図6のようなコンタクトピンのスリーブとプランジャー間との摺動を意味するものであって、プランジャー先端と該先端が接触する接触版とが本願のように摺動するものではない。
【0004】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、潤滑性を有し摩擦係数が小さく、半田付着及び転移し難く、安定した接触抵抗を得られ、相手物が電気接点上を摺動するような構造の電気接点を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本目的は、少なくとも表面が錫を含有する半田である物体と接触する電気接点10において、該電気接点10の表面に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる潤滑メッキ層28と、該潤滑メッキ層28上に形成されるAuメッキ層からなる厚さが前記微粒子の直径を超えない貴金属メッキ層32とを施し、前記電気接点10の周囲に略U字形状のスリット20を設けることにより達成できる。
【0006】
前記電気接点10の母材12と前記潤滑メッキ層28との間に、金属のメッキ層からなる拡散防止メッキ層26を形成する。
また、前記潤滑メッキ層28と前記貴金属メッキ層32との間に、貴金属のストライクメッキ層30からなる接合層を形成する。
前記電気接点10の表面に、突起状の凸部13を設ける。
前記凸部13を、山並み状にする。
さらに、前記貴金属メッキ層32には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の微粒子を露出させ易くするためにCo(コバルト)を含有しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
以上の説明から明らかなように、本発明の電気接点10によると、次のような優れた顕著な効果が得られる。
(1)少なくとも表面が錫を含有する半田である物体と接触する電気接点10において、該電気接点10の表面に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる潤滑メッキ層28と、該潤滑メッキ層28上に形成されるAuメッキ層からなる厚さが前記微粒子の直径を超えない貴金属メッキ層32とを施し、前記電気接点10の周囲に略U字形状のスリット20を設けているので、相手物が電気接点10上を摺動するため堆積物をワィッピングすることが可能になり、前記電気接点10上に施した表面処理層18が潤滑性を有し、また摩擦係数が小さく、半田付着防止及び転移し難いため、更に相乗効果として堆積物のワィッピングを向上させることで、安定した接触抵抗を得ることができる。
(2)前記電気接点10の母材12と前記潤滑メッキ層28との間に、金属のメッキ層からなる拡散防止メッキ層26を形成しているので、貴金属メッキ層32の拡散を防止できる。
(3)前記潤滑メッキ層28と前記貴金属メッキ層32との間に、貴金属のストライクメッキ層30からなる接合層を形成しているので、貴金属メッキ層32の密着性を向上させることができる。
(4)前記電気接点10の表面に、突起状の凸部13を設けているので、相手物が電気接点10上を摺動する際のワィッピング機能を向上させることができる。
(5)前記凸部13を、山並み状にしているので、さらに相手物が電気接点10上を摺動する際のワィッピング機能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1から図3に基づいて、本発明の電気接点について説明する。図1は電気接点の配列を示したもので、図2は一つの電気接点を断面した断面図である。図3は表面処理層の説明図である。
本発明の電気接点10は、少なくとも表面に錫を含有する半田である物体と接触するものである。
前記電気接点10は、図2のように少なくとも、カバーレイとポリイミド(PI)と該ポリイミド上に相手物との接点部分12である銅(Cu)とを有する所謂銅貼り積層板22と前記接点部分12の表面に施される表面処理層18とを備えている。
【0009】
前記電気接点10の周囲には、図1のように略U字形状をしたスリット20が設けられている。該スリット20は、少なくとも表面に錫を含有する半田である物体と接触する際に、相手物体が押圧されると相手物体が前記電気接点10の表面を摺動する作用を持たせるものである。このような作用を持たせることで、摺動した際の前記電気接点10の表面の堆積物のワィッピング効果を目的としている。なぜなら、電気接点10の表面に堆積物があると安定した接触抵抗が得られないからである。前記スリット20の大きさや形状は、前記電気接点10間のピッチ(間隔)やこのような作用を考慮して適宜設計されている。
【0010】
前記接触部分12の形状は、電気接点10の表面から突出するように、突起状の凸部13を設けることが望ましい。凸部13を設けることで、堆積物のワィッピング機能を向上させられる。前記凸部13の形状としては、このような機能を持たせることが出来れば如何なるものでもよいが、本実施例では、図2のように、更に電気接点10上を摺動する際のワィッピング機能を向上させるために、前記凸部13を山並み状にしている。摺動方向に、山並み状にすることで、相手物が前記電気接点10に押圧された際に、山並み状をした凸部13が相手物にくい込み確実な接続(接触)が得られると同時に、摺動の際のワィッピング効果(堆積物を掻き落し易くなる)が増加する。
【0011】
以下、図3に基づいて、本発明の電気接点10の母材12(接点部分)に施す表面処理について説明する。前記表面処理としては、潤滑メッキ層28と貴金属メッキ層32を施すだけでもよいが、貴金属メッキ層32の拡散を防止することや密着性を向上させることを考慮して、本実施例では、4つのメッキを施している。即ち、前記電気接点10の母材12の表面に、金属のメッキ層からなる拡散防止メッキ層26を形成し、その上に潤滑性を有する微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる前記潤滑メッキ層28を施し、その上に貴金属のストライクメッキ層30からなる接合層を施し、更にその上に貴金属メッキ層32を施している。
以下でそれぞれの表面処理について説明する。
【0012】
前記電気接点10の母材12は、上述のように銅(Cu)又はその合金で形成されている。
【0013】
まず、拡散防止メッキ層26について説明する。
拡散防止メッキ層26を形成する金属メッキ層は、前記電気接点の母材12を形成する材質が、貴金属メッキ層32又はストライクメッキ層30からなる接合層側へ拡散するのを防ぐこと、及び潤滑メッキ層28の前記電気接点10の母材12への密着性を向上させるために、使用する前記母材12の材質と貴金属の種類に応じ、所定の厚みだけ形成するものであり、Ni、Cu、Zn等の金属又はそれらの合金など従来公知の金属又はその合金により形成すればよく、なかでもNi、Ni−P(リン)合金、Ni−B(ホウ素)合金等を好適に用いることができる。更に、後述する潤滑メッキ層28を形成する金属マトリックスの金属の材質と同一の材質を使用するのが好ましい。
【0014】
また、拡散防止メッキ層26のメッキ方法は、使用する金属の材質に応じ、電気メッキ、無電解メッキ等公知の方法ですることができが、Ni、Ni−P(リン)合金、Ni−B(ホウ素)合金を用いる場合には、厚みを均等にすることが容易な無電解メッキを用いることが好ましい。
【0015】
拡散防止メッキ層26の所定の厚みは、使用する前記電気接点10の母材12の材質及び貴金属の種類により異なり、例えば、前記母材12にCu合金、貴金属メッキ層32にAuを使用する場合には、拡散防止メッキ層26の厚みは、0.5〜10μmに形成すればよく、なかでも1〜5μmとするのが好ましく、更に2〜3μmとするのは特に好ましい。
【0016】
次に、潤滑メッキ層28について説明する。
前記潤滑メッキ層26に含有される潤滑性を有する微粒子は、摩擦係数が小さくかつ絶縁体若しくは電気抵抗の大きい材料、又は摩擦係数が適宜小さくかつ硬度が大き材料が好ましく、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等、又はC(グラファイト)若しくはBN(チッ化ホウ素)、SiC(炭化珪素)等を用いて形成するのが好ましく、なかでも、PTFEを用いるのが特に好ましい。
【0017】
また、前記微粒子の粒径は、0.01〜20μmのものを用いることができ、なかでも0.1〜10μmのものが好ましく、更に0.2〜1.0μmのものが特に好ましい。
前記潤滑メッキ層28に用いる金属は、Ni、Cu、Zn等の金属又はそれらの合金など従来公知の金属又はその合金により形成すればよく、なかでもNi、Ni−P(リン)合金、Ni−B(ホウ素)合金等を好適に用いることができる。
【0018】
前記潤滑メッキ層28の厚みは、0.01〜20μmに形成するのが好ましく、なかでも0.1〜5μm、特に0.2〜1.0μmに形成するのが好ましくい。
また、潤滑メッキ層28のメッキ方法は、使用する金属の材質に応じ、電気メッキ、無電解メッキ等公知のですることができが、Ni、Ni−P合金、Ni−B合金を用いる場合には、厚みを均等にすることが容易な無電解メッキを用いるのが好ましい。
【0019】
次に、ストライクメッキ層30について説明する。
貴金属のストライクメッキ層30からなる接合層は、前記潤滑メッキ層28上に前記貴金属メッキ層32を形成する前に、置換反応防止と、表面活性化を促し、前記潤滑メッキ層28と前記貴金属メッキ層32との密着強度を向上させるために形成する層であって、貴金属をストライクメッキ30することにより形成してある。
ここで、貴金属は前記の周知の貴金属又はその合金のほか、電気抵抗、化学的安定性等が貴金属に近似する金属又はその合金を用いることができ、特にAuを好適に用いることができ、更に、この場合、純度の高いAuを用いるのが好ましい。
【0020】
貴金属の前記ストライクメッキ30による接合層の厚みは、該ストライクメッキ30と前記貴金属メッキ32を施した後に、前記潤滑メッキ層28の微粒子が幾分突出するように設計され、本実施例では0.01〜0.5μmに形成すればよく、なかでも0.01〜0.1μm、特に0.01〜0.03μmに形成するのが好ましい。
【0021】
また、貴金属の前記ストライクメッキ30による接合層は、電気メッキ、又は無電解による置換メッキ若しくは触媒メッキ等の公知のメッキ方法によって形成することができる。ここで、電気メッキによって前記ストライクメッキ30を行う場合には、通電時の電流密度を通常の電気メッキよりも大きく、例えば5A/dm2 程度に設定するのが好ましい。
【0022】
最後に、前記貴金属メッキ層32について説明する。
前記貴金属メッキ層32を形成する貴金属は、貴金属の前記ストライクメッキ30による接合層を形成する貴金属と同様に、貴金属は周知の貴金属又はその合金のほか、電気抵抗、化学的安定性等が貴金属に近似する金属又はその合金を用いることができ、特にAuを好適に用いることができる。ここで、Auメッキ層の硬さは、若干量のCo(コバルト)等を含有させることによって向上させることができる。例えば、純度の高いAuにより形成したAuメッキ層の硬さは、通常、ビッカース硬度で40〜50程度であるが、0.1〜0.3質量%程度のCoをAuメッキ層に含有させることによってビッカース硬度を150〜200に向上させることができる。
【0023】
前記貴金属メッキ層32の厚みは、前記ストライクメッキ30と前記貴金属メッキ32を施した後に、前記潤滑メッキ層28の微粒子が幾分突出するように設計され、本実施例では0.01〜1.0μmに形成すればよく、なかでも0.05〜1.0μm、特に0.1〜1.0μmに形成するのが好ましい。
また、前記貴金属メッキ層32は、電気メッキ、又は無電解による置換メッキ若しくは触媒メッキ等の公知のメッキ方法によって形成することができる。
【0024】
このような構成を有する表面処理層18によれば、図3に示すように、潤滑性を有する微粒子が絶縁体又は電気抵抗が大きい部材により形成してあるので、電気メッキにより前記貴金属メッキ層32乃至前記ストライクメッキ30による接合層を形成する場合には、微粒子上には、貴金属が析出しないか、若しくは析出しにくく、微粒子が前記貴金属メッキ層32乃至前記ストライクメッキ30による接合層に混在し、更には微粒子の一部が前記貴金属メッキ層32の表面に露出した状態の表面処理構造が形成される。
また、前記貴金属メッキ層32乃至前記ストライクメッキ30による接合層を無電解メッキにより形成する場合であっても、置換メッキにおいては、前記貴金属メッキ層32乃至前記ストライクメッキ30による接合層と微粒子との電位差により、触媒メッキにおいては、微粒子近傍では触媒反応が起こりにくいことにより、微粒子上には、貴金属が析出しないか、若しくは析出しにくく、微粒子が前記貴金属メッキ層32乃至前記ストライクメッキ30による接合層に混在し、更には微粒子の一部が前記貴金属メッキ層32の表面に露出した状態の表面処理構造が形成される。
【0025】
また、本発明に係る表面処理構造は、前記電気接点10の母材12の表面に、前記拡散防止メッキ層26を形成し、この拡散防止メッキ層26上に、潤滑性を有する微粒子を含有する前記潤滑メッキ層28を形成し、この潤滑メッキ層28上に、前記ストライクメッキ30による接合層を形成することなく、前記貴金属メッキ層32を形成した表面処理構造として構成することもでき、又、前記電気接点10の母材12の表面に、前記拡散防止メッキ層26を形成することなく、潤滑性を有する微粒子を含有する前記潤滑メッキ層28を形成し、この潤滑メッキ層28上に、前記貴金属メッキ層32を形成した表面処理構造として構成することもでき、更に、前記電気接点10の母材12の表面に、潤滑性を有する微粒子を含有する前記潤滑メッキ層28を形成し、この潤滑メッキ28上に、前記ストライクメッキ30による接合層を形成し、この前記ストライクメッキ30による接合層上に、前記貴金属メッキ層32を形成した表面処理構造とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の活用例としては、少なくとも表面に錫が含有する半田である物体と接触する電気接点に活用され、特にワィッピング機能を有する電気接点に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】電気接点の配列を示した平面図である。
【図2】一つの電気接点を断面した断面図である。
【図3】表面処理層の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
10 電気接点
12 母材(接点部分)
13 凸部
14 カバーレイ
16 ポリイミド
18 表面処理層
20 スリット
22 積層基板
24 スルーホール
26 拡散防止メッキ層
28 潤滑メッキ層
30 ストライクメッキ層
32 貴金属メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が錫を含有する半田である物体と接触する電気接点において、
該電気接点の表面に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の微粒子を含有する金属マトリックスのメッキ層からなる潤滑メッキ層と、該潤滑メッキ層上に形成されるAuメッキ層からなる厚さが前記微粒子の直径を超えない貴金属メッキ層とを施し、前記電気接点の周囲に略U字形状のスリットを設けることを特徴とする電気接点。
【請求項2】
前記電気接点の母材と前記潤滑メッキ層との間に、金属のメッキ層からなる拡散防止メッキ層を形成することを特徴とする請求項1記載の電気接点。
【請求項3】
前記潤滑メッキ層と前記貴金属メッキ層との間に、貴金属のストライクメッキ層からなる接合層を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の電気接点。
【請求項4】
前記電気接点の表面に、突起状の凸部を設けることを特徴とする請求項1、2又は3記載の電気接点。
【請求項5】
前記凸部を、山並み状にすることを特徴とする請求項1〜4記載のうちいずれか1項記載の電気接点。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−286574(P2006−286574A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108723(P2005−108723)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000208835)第一電子工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】