説明

電気絶縁性樹脂組成物、プリプレグ、積層板及び多層プリント配線板

【課題】誘電率が低く、樹脂流れを最適化して、多層プリント配線板の作製に好適な電気絶縁性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂と、有機粒子を含有する電気絶縁性樹脂組成物において、有機粒子に架橋性モノマー(A)の重合体もしくは共重合体、及び/または、架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)の共重合体からなり、表面がマスキングされた粒子を用いることにより、低誘電率化と樹脂流れの過度の低下を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性樹脂組成物に関し、特に、電子機器等に用いられる多層プリント配線板の製造に好適な樹脂組成物、この組成物を含むプリプレグ、積層板及びそれらを用いた多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器を用いた情報処理の高速化を図るため、多層プリント配線板などの絶縁層に用いられる電気絶縁性樹脂組成物は低誘電率化が要望されており、このため、樹脂組成物中に、無機粒子あるいは有機粒子を含有させることが提案されている(特許文献1〜2)。
【特許文献1】特公昭57−18353号
【特許文献2】特開平5−163383号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、多層プリント配線板とする場合には、内層回路を成形し、これの両面をプリプレグを介して金属箔を加熱加圧成形して一体化させることが行われるが、過度の樹脂流れがあると、成形時の板厚精度が低下するとともに、かすれが生じるため、樹脂流れの少ないプリプレグを使用することが望まれる。
【0004】
一方、樹脂流れが少なすぎると、接着性が不十分になるという問題がある。また、上記のような多層プリント配線板とする場合には、プリプレグの樹脂流れが少ないと、回路と回路の間の凹部への樹脂の浸入が不十分になるという問題もあり、この現象は、プリプレグに含浸する樹脂量が低下する程顕著になる。
【0005】
従って、樹脂組成物としては、上記のような無機粒子あるいは有機粒子を用いることにより、誘電率を低下させるとともに、樹脂流れの最適化を考慮する必要があるが、有機粒子を用いた場合、樹脂流れが低下しすぎることが明らかとなった。また、プリプレグを積層成形する際に樹脂が流れにくい場合には、従来の材料を用いて積層成形するときとは全く異なる積層条件を用いなければならず、生産性に影響を及ぼすという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、誘電率が低く、樹脂流れを最適化して、多層プリント配線板の作製に好適な電気絶縁性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱硬化性樹脂と、有機粒子を含有する電気絶縁性樹脂組成物であって、前記有機粒子に、架橋性モノマー(A)の重合体もしくは共重合体、及び/または、架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)の共重合体からなり、前記粒子の表面がマスキングされている粒子を用いることにより、誘電率の低下と樹脂流れの両立を図ったものである。
【0008】
そして、上記発明において、マスキングとして、単官能性モノマー(C)、シラン系カップリング剤、ラジカル重合体及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることを好ましい態様とするものである。
【0009】
また、上記態様において、有機粒子を構成する架橋性モノマー(A)としては、重合性二重結合を二個以上有する多官能性モノマー、特に、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート及びテトラエチレングリコールジメタクリレート及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであることを好ましい態様とするものである。
【0010】
さらに、有機粒子が前記架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)の共重合体からなる場合、単官能性モノマー(B)が、モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体、ジオレフィン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであることを好ましい態様とするものである。
【0011】
また、有機粒子の好適な粒径として、0.1〜30μmであることや、有機粒子が中空粒子であることをさらに好ましい態様とするものである。
【0012】
そして、本発明では、前記有機粒子を用いることにより、熱硬化性樹脂として、不飽和基を有する樹脂、特にポリフェニレンエーテル樹脂を用いても、ポリフェニレンエーテル樹脂の硬化を妨げることのない樹脂組成物とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記有機粒子を樹脂組成物中に含有することにより、低い誘電率を得ながら、有機粒子と樹脂マトリックスとの反応性を低下し、樹脂流れの低下を抑制できる。
【0014】
そして、マスキングに特定の単官能性モノマー(C)、シラン系カップリング剤、ラジカル重合体及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることにより、熱硬化性樹脂との反応性を更に低減することができる。
【0015】
また、有機粒子の架橋性モノマー(A)として、上記重合性二重結合を二個以上有する多官能性モノマーや、単官能性モノマー(B)との共重合体を用いることにより、誘電率を更に低減することができる。
【0016】
さらに、前記有機粒子として小粒径のものを用いることにより、板厚の薄い場合にも、表面性を低下させることなく、また中空のものを用いることで低い誘電率を得ることができる。
【0017】
またさらに、上記有機粒子とともに樹脂組成物中に含有する熱硬化性樹脂として、不飽和基を有する樹脂、特にポリフェニレンエーテル樹脂を用いることにより、樹脂マトリクス自体の誘電率を低下できるとともに、樹脂流れの低下も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を具体的に説明する。
【0019】
本発明の有機粒子としては、架橋性モノマー(A)の重合体もしくは共重合体、及び/または、架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)の共重合体を用いる。このような有機粒子を用いることにより、熱硬化性樹脂とともに樹脂組成物とした場合にでも、誘電率の低下を図ることができる。
【0020】
本発明の架橋性モノマー(A)としては、有機粒子の形態を有するものであれば特に制限されないが、重合性二重結合を二個以上有する多官能性モノマーを好適な架橋性モノマーとして挙げることができ、その中でも、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、2種以上の架橋性モノマーからなる共重合体であってもよい。
【0021】
また、本発明の有機粒子は、架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)との共重合体からなる粒子を用いることもでき、上記架橋性モノマー(A)の重合体もしくは共重合体との混合物であってもよい。
【0022】
上記単官能性モノマー(B)としては、モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体、ジオレフィン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを用いることが好ましい。なお、前記共重合体には、さらに他のモノマー成分を含む多元の共重合体とすることもできる。
【0023】
モノビニル芳香族単量体としては、モノビニル芳香族炭化水素、ビニルビフェニル、ビニルナフタレンを挙げることができる。モノビニル芳香族炭化水素の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等があげられる。更に、低級アルキル基で置換されていてもよいビニルビフェニル、低級アルキル基で置換されていてもよいビニルナフタレンとしては、ビニルビフェニル、メチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されているビニルビフェニル、ビニルナフタレン、メチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されているビニルナフタレン等を例示できる。これらモノビニル芳香族単量体は、単独であるいは2種類以上併用することができる。
【0024】
また、上記アクリル系単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルエキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸γ−ヒドロキシブチル、アクリル酸δ−ヒドロキシブチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸γ−アミノプロピル、アクリル酸γ−N,N−ジエチルアミノプロピル等が挙げられる。
【0025】
上記ビニルエステル系単量体の具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0026】
上記ビニルエーテル系単量体の具体例としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルn−ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0027】
上記モノオレフィン系単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1等が挙げられる。
【0028】
上記ハロゲン化オレフィン系単量体としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデンをあげることができる。
【0029】
さらに、ジオレフィン類である、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等も単官能性単量体に含めることができる。
【0030】
そして、上記架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)との好適な組合わせとしては、単官能性モノマー(B)として、スチレン単独、アクリル酸エステル単独、メタクリル酸エステル単独、スチレンとアクリル酸エステル、スチレンとメタクリル酸エステル、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステル、スチレンとアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルと、架橋性モノマー(A)としてジビニルベンゼンの組合わせが挙げられる。
【0031】
上記架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)との共重合体からなる有機粒子を用いる場合、その組成比は、重量比で10:90〜90:10、好ましくは30:70〜90:10である。
【0032】
本発明の有機粒子の粒径は、作製するプリプレグの厚みに応じて適宜選択することができ、例えば、0.1〜30μmの粒子を用いることができる。このような粒径の有機粒子を用いることにより、薄い板厚とした場合でも、厚み変動の少ない積層板とすることができる。
【0033】
なお、上記粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所SALD−2100)により測定したものである。
【0034】
また、本発明は、上記のような組成からなる有機粒子の中でも、中空粒子を用いることが好ましい。粒子を中空にすることにより、誘電率をさらに低減することができる。
【0035】
上記中空粒子の中空率としては、(rp/rh)3×100によって算出され、(式中、rhは中空粒子の外径の1/2であり、rpは中空粒子の内径の1/2である)、体積率で50%以上が好ましく、60〜70%がより好ましい。このような中空率は、走査型電子顕微鏡により測定することができる。
【0036】
上記のような有機粒子を用いることにより熱硬化性樹脂単独の場合と比べ、誘電率を低減することはできるが、この粒子を含有する樹脂組成物を用いてプリプレグを作製し、積層板とし、それに所定の内層回路を形成する場合や、さらにその内層回路と外層部の間にプリプレグを挿入して多層プリント配線板とする場合に、裁断によって生じた裁断面の微細な凹凸部への樹脂流れが不足し、樹脂の浸入が不十分になりやすいことが確認された。また、樹脂流れの低下は、プリプレグに含浸する樹脂成分が50重量%以下と少ない時に顕著となるため、配線板の薄層化が要求される場合に障害となる。
【0037】
上記理由は明らかではないが、従来誘電率低減のために利用されていた無機粒子では、無機粒子と樹脂マトリックスとの結着性が劣るため、むしろ表面に有機成分を有することが好ましく、例えば、有機表面処理剤などによる処理が行われているのに対し、本発明の有機粒子では、逆に架橋性モノマーの未反応分の不飽和基や、重合体あるいは共重合体の末端にある不飽和基などの反応性を有する部分が粒子表面に存在することにより、それらが樹脂マトリックスと反応してしまう結果、熱硬化性樹脂自体が持つ高い樹脂流れ性を妨げ、樹脂流れの低下をもたらすと考えられた。
【0038】
特に、樹脂マトリックス自体の誘電率を下げるため、熱硬化性樹脂として末端官能基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂などを用いた場合、本来熱硬化性樹脂を硬化すべく導入したイソシアネート基などが上記の不飽和基と反応してしまい、さらに樹脂流れが低下しやすい傾向が見られた。
【0039】
このため本発明では、上記有機粒子と樹脂マトリックスとの反応性を低下させるため、有機粒子の表面をマスキングすることにより、低い誘電率を確保しつつ、樹脂流れを最適化したものである。従って、本発明のマスキングは、上記不飽和基などの反応性部分と樹脂成分との関与を抑制し、樹脂流れの過度の低下を抑える機能を有することを意味するものであり、粒子表面のそのような反応性部分の一部がマスキングされていれば良い。
【0040】
上記粒子のマスキングの好適な例としては、有機粒子表面の反応性部分をマスクできるものであれば特に制限されず用いることができ、好適な例としては、単官能性モノマー(C)、シラン系カップリング剤、ラジカル重合体及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0041】
上記単官能性モノマー(C)としては、有機粒子が架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)の共重合体からなる場合の、単官能性モノマー(B)と類似のモノマーを使用することができる。このような架橋性モノマー(A)と共重合体を形成しうる高い反応性をもつモノマーを利用することにより効果的に有機粒子表面のマスキングが可能になる。具体的には、上記で詳述したモノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体、及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを用いることが好ましく、より好ましい単官能性モノマー(C)としては、スチレンモノマー、アクリルモノマー、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル及びこれらの誘導体を挙げることができる。前記誘導体としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルをフッ素化したトリフルオロエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0042】
前記シラン系カップリング剤としては、ビニルシラン、エポキシシラン、スチリルシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、クロロプロピルシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、イソシアネートシラン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、より好ましくはメタクリロキシシラン及びその誘導体を挙げることができ、前記メタクリロキシシランの具体例としては、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0043】
また、本発明では上記のようなモノマーだけでなく、ラジカル重合体などによるマスキングも好適に用いることができる。前記ラジカル重合体としては、スチレン系重合体、特にスチレン系共重合体を用いることが好ましく、例えばスチレン−マレイン酸共重合体などが好適なものとして挙げられる。
【0044】
上記のような表面がマスキングされた有機粒子としては、例えば、中央理化学工業株式会社製のAR−U0270(ジビニルベンゼン重合体からなる中空度60%の粒子の表面をスチレンモノマーで処理したもの、処理量:55重量%、平均粒径:5.3μm)、AR−U0354(ジビニルベンゼン重合体からなる中空度60%の粒子の表面をスチレン−マレイン酸共重合体で処理したもの、処理量:15重量%、平均粒径:5.7μm)、AR−U0355(ジビニルベンゼン重合体からなる中空度60%の表面を3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで処理したもの、処理量:15重量%、平均粒径:6.0μm)、AR−U0368(ジビニルベンゼン重合体からなる中空度60%の粒子の表面を2,2,2−トリフルオロエチルアクリレートで処理したもの、処理量:15重量%、平均粒径:6.1μm)、AR−U0369(ジビニルベンゼン重合体からなる中空度60%の粒子の表面を2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートで処理したもの、処理量:15重量%、平均粒径:6.1μm)を挙げることができる。
【0045】
なお、上述したように本発明の有機粒子は、架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)の共重合体であってもよいが、この種の共重合体においても表面に架橋性モノマー(A)の未反応分や、各モノマーの末端基が存在するため、同様に樹脂流れは低下しすぎることとなる。従って、共重合体成分として粒子中に単官能性モノマー(B)が含まれていても、樹脂成分との反応性の低下にはそれほど寄与せず、表面をマスキングする必要がある。
【0046】
本発明の上記マスキングの量は、使用する熱硬化性樹脂と有機粒子との反応性により適宜選択されるが、好ましくは、有機粒子100重量部に対して、10重量部以上、好ましくは、15重量部以上、より好ましくは、30重量部以上である。一方、マスキングの量は多すぎても効果に差がないため、90重量部以下、好ましくは、70重量部以下、より好ましくは、60重量部以下である。
【0047】
次に本発明の熱硬化性樹脂について説明する。
【0048】
本発明の熱硬化性樹脂は、従来からプリプレグに用いられている熱硬化性樹脂を制限なく利用することができ、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの他、誘電率が低く、耐熱性、寸法安定性、加工性なども良好な熱硬化タイプのポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂などが好ましく用いることができる。なお、熱硬化性樹脂は、1種もしくは2種以上の混合物を使用することができる。
【0049】
本発明では、上記の熱硬化性樹脂の中でも、ポリフェニレンエーテル樹脂を用いることが好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂を使用した場合よりも樹脂単体の誘電率が低く、本発明の有機粒子と組み合わせることにより、さらに誘電率の低下を図ることができ、高速伝送に特に優れた樹脂組成物とすることができる。
【0050】
さらに、上記ポリフェニレンエーテル樹脂の中でも、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を分子構造内に有し、かつ、この分子末端に下記一般式(2)で示されるエテニルベンジル構造を少なくとも1つ以上の不飽和基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
【化1】

(上記一般式(1)(2)中、R1〜R5は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、R6は炭素数1〜10の炭化水素基、nは1〜200の整数を表す)
【0052】
上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂の分子量としては、数平均分子量は1000〜5000の範囲であることが好ましい。この範囲の変性ポリフェニレンエーテル樹脂であると、耐熱性と成形性とをさらに高く得ることができるからである。数平均分子量が1000未満であると、十分な耐熱性を得ることが難しくなるおそれがあり、逆に数平均分子量が5000を超えると、溶融粘度が高くなり、成形性を向上させることができないおそれがある。なお、分子量は分子切断反応を利用することにより、容易に上記の範囲に調整することができる。
【0053】
また、ポリフェニレンエーテル樹脂と架橋型硬化剤を併用すると、樹脂組成物の流動性と相溶性の改善に加えて、得られる樹脂組成物の誘電性をより改善することができる。このような架橋型硬化剤としては、ポリフェニレンエーテル樹脂との相溶性が良好なものを好ましく用いることができ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニルなどの多官能ビニル化合物;フェノールとビニルベンジルクロライドの反応で合成されるビニルベンジルエーテル系化合物;スチレンモノマー、フェノールとアリルクロライドの反応で合成されるアリルエーテル系化合物;トリアルケニルイソシアヌレート、特に相溶性が良好なトリアルケニルイソシアヌレートを用いるのが好ましい。これらの中でもトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)を用いるのがより好ましく、これらは、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンなどの開始剤とともに使用することが好ましい。そして、この種の架橋型硬化剤を使用すると、有機粒子の表面に残存する不飽和基と反応しやすいが、本発明では、粒子表面をマスキングしているため、有機粒子との反応が抑制され、過度の樹脂流れの低下を抑制することができる。
【0054】
本発明の電気絶縁性樹脂組成物を用いてプリント配線板用のプリプレグや積層板を形成する場合、樹脂組成物中の全体積に対する有機粒子の配合量が多いほど低誘電率が得られるが、積層板の耐熱性及び樹脂組成物の密着性などを考慮すると、その配合量は20体積%以上、40体積%以下とすることが好ましい。
【0055】
なお、本発明の目的を達成する上で、特に好ましい実施形態としては、熱硬化性樹脂に上記の変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用い、この樹脂中にスチレンモノマー、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン−マレイン酸共重合体及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種でマスキングした、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニルもしくはこれらの誘導体からなる重合体あるいは共重合体、またはジビニルベンゼン、ジビニルビフェニルもしくはこれらの誘導体とアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルもしくはこれらの誘導体との共重合体からなる有機粒子を20体積%以上、40体積%以下配合した樹脂組成物が挙げられる。
【0056】
本発明の電気絶縁性樹脂組成物を用いてプリプレグを作製する場合、必要に応じて、難燃助剤・増粘剤等の役割を果たす添加剤(フィラー)を用いることもできる。この添加剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ粉末、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水和物の粉末、タルク、クレー等の粘土鉱物の粉末といった無機フィラーを用いることができる。添加剤は、1種のみを用いることができるほか、2種以上を混合して用いることもできる。添加剤の配合量も適宜に設定することができる。
【0057】
なお、他の特性を考慮して、通常プリプレグに使用される樹脂成分を添加することも可能である。
【0058】
そして、熱硬化性樹脂及び有機粒子のほか、硬化剤、硬化促進剤及び添加剤を溶剤に投入し、これをミキサーやブレンダー等で均一に混合することによって、樹脂組成物をワニスとして調製することができる。
【0059】
溶剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)、メトキシプロパノール(MP)等を用いることができる。溶剤は、1種のみを用いることができるほか、2種以上を混合して用いることもできる。
【0060】
そして、上記のようにワニスとして調製された樹脂組成物を織布又は不織布に含浸させる。このとき樹脂含有率はプリプレグ全量に対して40重量%以上、80重量%以下に設定することができ、特に本発明は50重量%以下の樹脂充填量とした時の樹脂流れの低下を改善できる。その後、例えば80〜200℃の温度で10秒〜2時間加熱して乾燥し、溶剤を除去すると共に半硬化のBステージ状態にすることによって、本発明に係るプリプレグを得ることができる。
【0061】
ここで、織布としてはガラスクロスを用いるのが好ましい。ガラスクロスはその他の織布よりも高い剛性を有するので、プリプレグの剛性をさらに高めることができるものである。
【0062】
一方、不織布としてはガラス不織布(ガラスペーパー)又は有機繊維を用いるのが好ましい。ガラス不織布及び有機繊維はその他の不織布よりも高い剛性を有するので、プリプレグの剛性をさらに高めることができるものである。なお、有機繊維としては、特に限定されるものではないが、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリル繊維等を用いることができる。
【0063】
本発明に係る積層板は、上記のようにして得られるプリプレグを用い、これに金属箔、例えば銅、アルミなどを配設し、加圧成形することにより作成することができる。例えば、温度150〜250℃、圧力1〜10MPaで、60〜240分、加熱・加圧成形することができる。
【0064】
そして、本発明では、上記積層板を用い、その両面にサブトラクティブ法などにより、回路形成を施せば、所望のプリント配線板を作製することができる。さらに、このプリント配線板に導体パターンを形成し、それを内層回路として、両側を本発明のプリプレグで挟み、その外側の外層金属箔と接合することにより、多層プリント配線板を作製することができる。そして、この多層プリント配線板の加圧成形において、本発明では樹脂流れを最適化した樹脂組成物を用いているため、有機粒子を含有していても、裁断面へ樹脂を良好に浸入させることができるため、特異な成形条件とする必要がない。例えば、温度170〜220℃、圧力0.5〜5.0MPaで、60〜200分、加熱・加圧成形することにより、十分な接着力を有する多層プリント配線板とすることができる。
【0065】
このように、本発明の電気絶縁性樹脂組成物は、プリプレグ、積層板、あるいは樹脂付き銅箔、さらには接着フィルムなどの部材に用いることができ、低い誘電率で、成形条件に過度の変更を望まない場合に好適に用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。
【0067】
[熱硬化性樹脂の作製]
ポリフェニレンエーテル樹脂(日本ジーイープラスチックス株式会社製:商品名「ノリルPX9701」、数平均分子量14000)を36重量部、フェノール種として2,6−ジメチルフェノールを1.54重量部、開始剤としてt−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(日本油脂株式会社製:商品名「パーブチルI」)を1.06重量部、ナフテン酸コバルトを0.0015重量部それぞれ配合し、これに溶剤であるトルエンを90重量部加えて80℃にて1時間混合し、分散・溶解させて、反応させることによってポリフェニレンエーテル樹脂の分子量を低減する処理を行った。そして多量のメタノールで再沈殿させ、不純物を除去して、減圧下80℃/3時間で乾燥して溶剤を完全に除去した。この処理後に得られたポリフェニレンエーテル樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)にて測定したところ、約2400であった。
【0068】
次に、上記のようにして得たポリフェニレンエーテル樹脂の分子末端に存在するフェノール基をエテニルベンジル化することによって、目的物である不飽和基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を製造した。
【0069】
温度調節器、撹拌装置、冷却設備及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、(ポリフェニレンエーテル樹脂の低分子量化1)で得たポリフェニレンエーテル樹脂を200重量部、クロロメチルスチレン14.51重量部、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド0.818重量部、トルエン400重量部を仕込み、撹拌溶解し、液温を75℃にし、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム11重量部/水11重量部)を20分間で滴下し、さらに75℃で4時間撹拌を続けた。次に、10%塩酸水溶液でフラスコ内容物を中和した後、多量のメタノールを追加し、エテニルベンジル化した変性ポリフェニレンエーテル樹脂を再沈殿後、ろ過した。ろ過物をメタノール80と水20の比率の混合液で3回洗浄した後、減圧下80℃/3時間処理することで、溶剤や水分を除去したエテニルベンジル化した変性ポリフェニレンエーテル樹脂を取り出した。
【0070】
生成物の特性は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)、液体クロマトグラフィー(LC分析)、赤外線吸収スペクトル(IR)、1H核磁気共鳴スペクトル(NMR)により確認した。すなわち、GPCより生成物の数平均分子量が2700であること、またLC分析より未反応のクロロメチルスチレンが存在しないこと、またIRよりフェノール性水酸基が存在しないこと、さらにNMRより5〜6ppm付近にエテニルベンジル基を示すシグナルが存在することから、生成物が、分子末端のフェノール基がエテニルベンジル化された変性ポリフェニレンエーテル樹脂であることを確認した。
【0071】
[プリプレグ及び積層板の作製]
熱硬化性樹脂として、上記で作製した変性ポリフェノール樹脂70重量部を、溶剤であるトルエン100重量部に加えて80℃にて30分混合、撹拌して溶解した。得られたポリフェニレンエーテル樹脂溶液に、有機粒子11.1重量部、TAIC(日本化成株式会社製)30重量部、難燃剤として臭素化有機化合物であるデカブロモジフェニルエタン(アルベマール浅野株式会社製:商品名SAYTEX8010、Br含有量82重量%)20重量部及び開始剤としてα,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(日本油脂株式会社製:商品名「パーブチルP」)2重量部を配合、溶解してワニスを得た。
【0072】
なお、有機粒子には以下のものを用いた。
・AR−U0270(実施例1):中央理化学工業社製、ジビニルベンゼン重合体からなる中空度60%の粒子の表面をスチレンモノマーでマスキングしたもの、処理量:55重量%、平均粒径:5.3μm
・AR−U0354(実施例2):中央理化学工業社製、ジビニルベンゼン重合体からなる中空度60%の粒子の表面をスチレン−マレイン酸共重合体でマスキングしたもの、処理量:15重量%、平均粒径:5.7μm
・AR−U0355(実施例3):中央理化学工業社製、ジビニルベンゼン重合体からなり、中空度60%の粒子の表面を3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランでマスキングしたもの、処理量:15重量%、平均粒径:6.0μm
・AR−U0252(比較例2):中央理化学工業社製、ジビニルベンゼン重合体からなる中空度60%の粒子、マスキング処理なし、平均粒径:5.3μm
・AR−U0256(比較例3):中央理化学工業社製、ジビニルベンゼン重合体からなる中空度50%の粒子、マスキング処理なし、平均粒径:8.9μm
【0073】
次に、上記で作製した各ワニスをNEタイプのガラスクロス(日東紡績株式会社製:商品名「NEA2116」)に含浸させた後、温度120℃、3分間の条件で加熱乾燥し、溶剤を除去して樹脂含有量48質量%のプリプレグを得た。
【0074】
このようにして作製したプリプレグをJIS C 6521に基づき、樹脂流れを測定した。
【0075】
次に、上記とは別に同様にして作製したプリプレグ5枚を積層し、その両側に厚さ18μmの銅箔(ST箔)を重ねて、180℃、30kg/cm2、180分間の成形条件で加熱加圧し、プリント配線板用の両面銅張積層板を得た。得られた両面銅張積層板を86mm×86mmにカットして、JIS C 6481に基づき、誘電率を測定した。
【0076】
これらの測定結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示すように、本発明に係る実施例1〜3の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂が変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなり、マスキングされた有機粒子を含有しているため、低誘電率であるとともに、樹脂の流れ性が最適化されていることが分かる。
【0079】
これに対して、有機粒子を含んでいない比較例1は、樹脂の流れ性は高いが、誘電率も高く、高速処理用のプリント配線板として不適であることが分かる。また、有機粒子を含んでいるが、表面がマスキングされていない粒子を含有する樹脂組成物を用いた比較例2〜3は、誘電率は低いが、樹脂単独の場合と比べ、樹脂流れの低下が大きく、同一条件では加圧成形が困難であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、有機粒子を含有する電気絶縁性樹脂組成物であって、前記有機粒子は、架橋性モノマー(A)の重合体もしくは共重合体、及び/または、架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)の共重合体からなり、前記粒子の表面がマスキングされていることを特徴とする電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項2】
前記粒子表面が、単官能性モノマー(C)、シラン系カップリング剤、ラジカル重合体及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種でマスキングされていることを特徴とする請求項1記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項3】
前記単官能性モノマー(C)が、モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項4】
前記シラン系カップリング剤が、ビニルシラン、エポキシシラン、スチリルシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、クロロプロピルシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、イソシアネートシラン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ラジカル重合体が、スチレン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を共重合体成分とするスチレン系共重合体である請求項2記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン系共重合体が、スチレン−マレイン酸共重合体またはその誘導体からなることを特徴とする請求項5記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項7】
前記架橋性モノマー(A)が、重合性二重結合を二個以上有する多官能性モノマーからなることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項8】
前記重合性二重結合を二個以上有する多官能性モノマーが、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7に記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項9】
前記架橋性モノマー(A)と単官能性モノマー(B)の共重合体からなる有機粒子において、単官能性モノマー(B)が、モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体、ジオレフィン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項10】
前記有機粒子の粒径が、0.1〜30μmであることを特徴とする請求項1〜9いずれかに記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項11】
前記有機粒子が中空粒子であることを特徴とする請求項1〜10いずれかに記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂が、不飽和基を有することを特徴とする請求項1〜11いずれかに記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項13】
前記不飽和基を有する熱硬化性樹脂が、ポリフェニレンエーテル樹脂またはその誘導体からなることを特徴とする請求項12に記載の電気絶縁性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の電気絶縁性樹脂組成物を基材に含浸、乾燥してなるプリプレグ。
【請求項15】
請求項14記載のプリプレグからなるプリント配線板用積層板。
【請求項16】
請求項14または15記載のプリプレグまたは積層板を用いた多層プリント配線板。

【公開番号】特開2006−8750(P2006−8750A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184111(P2004−184111)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】