説明

電気自動車のリヤサスペンション構造

【課題】インホイールモータを搭載した電気自動車における、発進時や加速時のモータ駆動力による車体姿勢の変化を抑制し、車両の操縦安定性を向上させるとともに、モータのトルク変動に伴う車体への振動入力の伝達を抑制し、車体振動を低減させる。
【解決手段】インホイールモータに締結された後輪1のハブキャリア1aに、アッパトレーリングリンク5とロアトレーリングリンク6の後端をそれぞれ枢着し、両トレーリングリンクの前端を車体取付ブラケット13を介して車体に枢支するとともに、車体取付ブラケット13を車体取付部14との間に防振手段であるゴム15を装着して車体に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インホイールモータを搭載した電気自動車のリヤサスペンションのリンク構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関自動車のリヤサスペンションとして、図5に示されるように、アッパトレーリングリンク100及びロアトレーリングリンク101と、アッパアーム102と、一対のロアアーム103、104との5本のリンクで後輪105を車体にブッシュを介して上下揺動可能に支持した構成のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−72115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関自動車では、駆動トルクによる前向きの力は車軸中心部に働くため、サスペンションの前後に配置されたリンクにより構成される瞬間中心廻りモーメントは小さい。これに対してインホイールモータを搭載した車両では、駆動トルクの反力を車体側で支持しないため、直接タイヤ接地面に前向きの力として働く。
そのため、サスペンションの前後に配置されたリンクにより構成される瞬間中心廻りモーメントは極めて大きく、発進時や加速時のスクォット(尻下がり)が大きくなるなど車体の挙動が違和感のある不安定なものになりやすいという問題がある。
【0005】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、インホイールモータを搭載した電気自動車における、発進時や加速時のモータ駆動力による車体姿勢の変化を抑制し、車両の操縦安定性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため本発明は、インホイールモータを搭載した電気自動車のリヤサスペンション構造において、前記インホイールモータに締結された車輪のハブキャリアに、アッパトレーリングリンクとロアトレーリングリンクの後端がそれぞれ枢着され、両トレーリングリンクの前端が車体取付ブラケットを介して車体に枢支されているとともに、前記車体取付ブラケットと車体との間に防振手段が設けられた構成を有することを特徴とする。
【0007】
本発明のリヤサスペンション構造は、上下2本のトレーリングリンクを配置してインホイールモータが搭載された後輪を支持することで、加速度を発生する後輪の前向きの力と加速に伴って後輪に作用する上向きの力の合力によるサスペンションの上下移動を抑制するようにしたものである。
すなわち、図1に示されるように、インホイールモータが搭載された後輪タイヤに駆動トルクが発生すると、タイヤ接地点に前向きの力F1と、車体重心に作用する慣性力により後輪タイヤに作用する圧縮力の反力F2により合力Fが車体に作用し、この合力Fにより、アッパトレーリングリンクとロアトレーリングリンクの延長線上の交点O廻りにモーメントが発生する。
このモーメントの大きさは、合力Fと腕の長さeの積であり、反時計回りの場合に車体後部が沈む現象が現われ、後輪タイヤに対するアッパトレーリングリンクとロアトレーリングリンクの配置を適正にすることで、両リンクが構成する瞬間中心廻りの前記合力による回転モーメントが抑制され、車体の挙動を違和感のないものにすることができる。
【0008】
一方、前記図1に示される如く、インホイールモータに起因して発生するトルク変動ΔTに伴って、アッパトレーリングリンク及びロアトレーリングリンクに軸力Fa及びFbが作用し、この軸力が両リンクを介して車体に伝達され、車体振動を生じさせる。
そこで、本発明のサスペンション構造では、この軸力の伝達を抑えるために、両リンクの端部が枢着された車体取付ブラケットと車体との間に防振手段を設け、モータのトルク変動や突起乗り越し時路面入力などによる車体振動への影響を緩和させるようにしている。
前記防振手段としては、例えば車体取付ブラケットと車体との間にゴムなどの弾性部材、その他振動吸収機能を有する部材を装着するなどして構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のサスペンション構造における駆動トルクに伴う車輪の上下動抑制機能と、トルク変動による車体への振動伝達を説明するための図である。
【図2】本発明のサスペンション構造の一実施形態の部材構成を示す概略斜視図である。
【図3】同じく車輪側から見た概略斜視図である。
【図4】上下のリンクが枢着される車体取付ブラケットの外観図とこれを車体に取付けた状態の断面図である。
【図5】従来の内燃機関自動車のリヤサスペンションの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好適な一実施形態を、図面を参照して説明する。なお、本実施形態のサスペンション構造は左右の後輪について対称の構成であり、以下、一側の後輪を支持する態様を示して説明する。
【0011】
図1及び図2に示されるように、本形態のサスペンション構造は、アッパアーム2と、ロアアーム3と、トーコントロールアーム4と、上下に並置されたアッパトレーリングリンク5及びロアトレーリングリンク6とで、インホイールモータが搭載された後輪1を車体に上下揺動可能に支持した構成のものである。図中、符番7はロアアーム3と車体との間に設置された緩衝装置、8は車体側部材であるサブフレームである。
【0012】
後輪1は、インホイールモータ(図示を省略)を装備し、その固定子部にハブキャリア1aが一体に締結され、このハブキャリア1aに前記各アーム及びリンクが枢着してある。
【0013】
アッパアーム2、ロアアーム3及びトーコントロールアーム4は、車両横方向に向けて配置され、各々外側端部がゴムブッシュ9によりハブキャリア1aに枢着され、内側端部がゴムブッシュ10により車体に枢支されている。
【0014】
アッパトレーリングリンク5は、その後端部がゴムブッシュ11によりハブキャリア1aに枢着されて水平方向に対して僅かに下方傾斜して車両前方に向けて配置され、ロアトレーリングリンク6は、その後端部がゴムブッシュ11によりハブキャリア1aに枢着されて水平方向に対して僅かに上方傾斜して車両前方に向けて配置されている。両リンクの前端部は、それぞれゴムブッシュ12を介して、車体に固定された車体取付ブラケット13に枢支されている。
【0015】
また、車体取付ブラケット13は、図4に示されるように、前記両リンクに作用する軸力が車体に伝達されて車体が振動することを防止するため、車体取付部14と当該ブラケットとの間に適宜な厚みの弾性材であるゴム15を挟んで、ボルト16により車体に締結されている。
【0016】
本形態のサスペンション構造はこのように構成されているので、上下に配置された2本のトレーリングリンク5、6により、インホイールモータが駆動した際に加速度を発生する後輪の前向きの力と加速に伴って後輪1に作用する上向きの力の合力によるサスペンションの上下移動を抑制し、発進時や加速時の車輪の変位を抑え、車体の挙動を違和感のないものにすることができる。
また、車体取付ブラケット13と車体との間に弾性材であるゴム15が装着してあるので、両リンクに作用するトルク変動に伴う軸力変動(振動入力)の車体への伝達が抑制され、前記軸力の伝達に起因する車体の振動を効果的に防止することが可能である。
【0017】
なお、図示したサスペンション構造及びこれを構成する部材の態様は本発明の形態の一例を示すものであり、本発明は図示した形態に限定されない。
【符号の説明】
【0018】
1 後輪、1a ハブキャリア、2 アッパアーム、3 ロアアーム、4 トーコントロールアーム、5 アッパトレーリングリンク、6 ロアトレーリングリンク、7 緩衝装置、8 サブフレーム、9 ゴムブッシュ、10 ゴムブッシュ、11 ゴムブッシュ、12 ゴムブッシュ、13 車体取付ブラケット、14 車体取付部、15 ゴム、16 ボルト





【特許請求の範囲】
【請求項1】
インホイールモータを搭載した電気自動車のリヤサスペンション構造において、
前記インホイールモータに締結された車輪のハブキャリアに、アッパトレーリングリンクとロアトレーリングリンクの後端がそれぞれ枢着され、両トレーリングリンクの前端が車体取付ブラケットを介して車体に枢支されているとともに、前記車体取付ブラケットと車体との間に防振手段が設けられた構成を有することを特徴とする電気自動車のリヤサスペンション構造。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−201343(P2012−201343A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70791(P2011−70791)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(511073571)株式会社SIM−Drive (8)
【Fターム(参考)】