説明

電気自動車の制御装置

【課題】バッテリの長寿命化と充電効率の改善を好適に実現可能な電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の電気自動車(1)は、バッテリ(11)の充電電力で力行駆動する電動機(4)を搭載し、下り勾配を走行する際に電動機を回生駆動させてバッテリに充電を行う。その制御装置は、走行路面の勾配情報を取得する手段(17)と、バッテリ(11)の充電量を検出する手段(15)と、勾配継続距離を走行した際にバッテリの充電量が上限充電量となるように、下り勾配を走行中の電動機(4)の回生量を設定する制御手段(26)とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリに蓄えられた電力で力行駆動することにより走行用の動力源として機能する電動機を搭載し、前記電動機を下り勾配の走行時に回生駆動させることによりバッテリの充電を行う電気自動車の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりを受けて、従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関に加えて、バッテリの充電電力で駆動可能な電動機を動力源として備えるハイブリッド電気自動車や、内燃機関の代わりにこのような電動機を動力源として走行するEV自動車が注目されている。この種の車両では、例えば下り勾配走行時に次第に加速しようとする車両の運動エネルギーを、電動機の回生駆動により電気エネルギーに変換し、バッテリの充電量の回復を図る。これにより、ハイブリッド電気自動車では内燃機関の燃料消費量の削減により燃費性能が改善され、EV自動車では走行可能距離が延ばすことができる。
【0003】
このようにハイブリッド電気自動車やEV自動車などの電気自動車において燃費性能や走行可能距離を改善するためには、走行状態に応じていかにバッテリの充電効率を向上させるかが重要である。例えば特許文献1では、車両に搭載されたナビゲーション装置においてGPS通信衛星からGPS信号を受信することにより、走行路面の勾配情報を取得し、走行路面の勾配変化に応じた電動機の駆動制御を行うことによって、バッテリへの充電効率の向上を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−217203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動機の回生駆動時に流れるバッテリの充電電流が大きくなると、バッテリの劣化が促進され、内部抵抗が増大する。すると、充電時に発生する熱損失が増加し、結果的に充電効率が悪化してしまうという問題点がある。上記特許文献1における電動機の回生制御では、バッテリの充電電流値を考慮することなく、バッテリを早期に満充電にすることを優先して回生が行われている。そのため、走行条件によっては、バッテリの充電電流値が必要以上に大きい値となる場合があり、バッテリの劣化、更には結果的にバッテリの充電効率が十分に改善することができないという問題点がある。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、バッテリの充電効率の改善と長寿命化とを好適に実現可能な電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電気自動車の制御装置は上記課題を解決するために、バッテリに蓄えられた電力で力行駆動することにより走行用の動力源として機能する電動機を搭載し、前記電動機を下り勾配の走行時に回生駆動させることによりバッテリの充電を行う電気自動車の制御装置であって、前記下り勾配の平均勾配及び勾配継続距離を含む勾配情報を取得する勾配情報取得手段と、前記バッテリの充電量を検出するバッテリ充電量検出手段と、前記電気自動車が前記下り勾配の最下地点に達した際に、前記バッテリの充電量が上限充電量となるように、前記勾配情報に基づき前記電動機の回生量を設定する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、電気自動車が下り勾配の最下地点に達した際に、バッテリの充電量が上限充電量となるように、勾配情報に基づいて電動機の回生駆動が制御される。これにより、例えば下り勾配の走行途中にバッテリが満充電になることを回避しながらも、バッテリを満充電になるように充電量を確保しつつ、バッテリの充電電流を小さく抑えることができる。その結果、充電時に生じる損失を軽減することによって充電効率を改善すると共に、バッテリの長寿命化を図ることができる。
【0009】
好ましくは、前記制御手段は、前記勾配継続距離が長くなるに従い、前記電動機の回生量が少なくなるように設定するとよい。この態様によれば、勾配継続距離が長い場合に、下り勾配の途中でバッテリの充電量が上限充電量に達してしまうことがないようにバッテリへの充電電流を小さく抑えることができる。一方、勾配継続距離が短い場合には、下り勾配の最下地点までにバッテリの充電量が上限充電量に達するように、バッテリへの充電電流を大きくする(電動機の回生量を大きくする)ことでバッテリの充電効率を向上させることもできる。
【0010】
また、前記制御手段は、前記検出されたバッテリの充電量が少なくなるに従い、前記電動機の回生量が多くなるように設定するとよい。この態様によれば、バッテリの充電量が少ない場合、電動機を回生駆動することによって得られた回生エネルギーを充電する余裕がバッテリに多く残っているため、電動機の回生量を増加させて、バッテリの充電効率を向上することができる。
【0011】
また、前記電気自動車の走行速度を検出する走行速度検出手段を更に備え、前記制御手段は、前記検出された走行速度が低くなるに従い、前記電動機の回生量が少なくなるように設定するとよい。この場合、走行速度が低くなるにつれて回生量が小さく設定されるので、低速時(発進時や停車時など)における車両の安全性を良好に確保できる。即ち、電動機の回生時に生じる回生制動トルクを少なく抑えることによって、ブレーキペダルの踏み込み動作などのドライバーの運転操作によって車両を精度よく制御可能とし、低速走行時の安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気自動車が下り勾配の最下地点に達した際に、バッテリの充電量が上限充電量となるように、勾配情報に基づいて電動機の回生駆動が制御される。これにより、例えば下り勾配の走行途中にバッテリが満充電になるような場合を回避しながらも、バッテリが満充電になるような充電量を確保しつつ、バッテリへの充電電流を小さく抑えることができる。これにより、充電時に生じる損失を軽減することによって充電効率の改善を図ると共に、バッテリの長寿命化にも貢献できる。一方、例えば下り勾配の走行完了時にバッテリが満充電になるように、バッテリの充電電流を多く設定し、充電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るハイブリッド電気自動車の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】本発明に係るハイブリッド電気自動車の制御内容を示すフローチャート図である。
【図3】図2のステップS106からS109で行われる場合分けに応じて選択されるマップの内容を示すグラフ図である。
【図4】勾配継続距離が長い下り勾配を走行中のハイブリッド電気自動車における回生量、充電量の推移を示すグラフ図である。
【図5】勾配継続距離が短い下り勾配を走行中のハイブリッド電気自動車における回生量、充電量の推移を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。本実施例では電気自動車の一例として、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で下り勾配を有する走行路面を走行するハイブリッド電気自動車1を挙げて説明するが、内燃機関の代わりに電動機を動力源として走行するEV自動車にも同様に適用可能である。
【0015】
まず、図1を参照して、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成について説明する。ここに図1は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【0016】
ハイブリッド電気自動車1はパラレル式ハイブリッド電気自動車であり、ディーゼルエンジン2(以下、「エンジン2」と称する)の出力軸にクラッチ3の入力軸が連結されており、クラッチ3の出力軸にモータ4の回転軸を介して変速機5の入力軸が連結されている。変速機5の出力軸には、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9が接続されている。
【0017】
エンジン2は、ハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能する内燃機関である。エンジン2はディーゼルエンジンであり、例えば燃焼室において空気を高温圧縮し燃料を噴射することで、自然発火を利用した燃焼による爆発力によって生じるピストンの往復運動を出力軸の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0018】
クラッチ3は、エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸との間に設けられており、これらの機械的な接続状態を切り替え可能に構成された動力伝達機構である。クラッチ3が接続されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸に機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方に接続されることとなる。一方、クラッチ3が切断されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断されるため、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続されることとなる。
【0019】
モータ4は、力行時にはバッテリ11に蓄えられた電力を用いて力行駆動することによりハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能すると共に、回生時にはバッテリ11を充電するための電力を発電する発電機として機能する電動機である。
【0020】
変速機5は、エンジン2及びモータ4から出力される動力を変換し、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9に伝達する変速機である。尚、変速機5の変速比は、段階的に可変であってもよいし、連続的に可変であってもよい。
【0021】
バッテリ11は、モータ4を力行するための電力供給源として機能する、充電可能な蓄電池である。バッテリ11には直流電力が蓄えられており、当該直流電力はインバータ10によって交流変換された後、モータ4に供給される。一方、モータ4の回生時に発電された電力は、インバータ10によって直流変換された後、バッテリ11に供給されることによって充電される。
【0022】
クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方と接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にはエンジン2の出力トルクとモータ4の出力トルクの双方が変速機5を介して伝達される。即ち、駆動輪9を駆動させるためのトルクの一部はエンジン2から供給されると共に、残りはモータ4から供給される。また、走行中にバッテリ11の充電量が少なくなった場合には、エンジン2の出力トルクの一部を用いて駆動輪9を駆動しつつ、エンジン2の出力トルクの残りを用いてモータ4を回生駆動させることにより、バッテリ11を充電することもできる。一方、ハイブリッド電気自動車1の制動時には、モータ4を回生駆動することによって発電機として機能させ、バッテリ11を充電することもできる。
【0023】
クラッチが切断されている場合(即ち、接続状態にない場合)には、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断され、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にエンジン2の出力トルクは伝達されず、モータ4の出力トルクのみが伝達される。即ち、ハイブリッド電気自動車1の走行は、専ら、バッテリ11に蓄えられた電力を用いてモータ4を駆動することによって行われる。一方、ハイブリッド電気自動車1の制動時には、モータ4を回生駆動することによって発電機として機能させ、バッテリ11を充電することができる。
【0024】
バッテリ充電量検出手段15は、例えばバッテリ11に印加される電流及び電圧をモニタするバッテリ電流センサやバッテリ電圧センサからなり、バッテリ11の充電量(以下、適宜「SOC」と称する)を検出可能な検出手段である。また、車速センサ16はハイブリッド電気自動車1の走行速度を検出するためのセンサたる走行速度検出手段である。また、ナビゲーション装置17は、ハイブリッド電気自動車の位置情報及び走行路面の勾配情報(平均勾配及び勾配継続距離などを含む情報)をGPS通信衛星から受信するための勾配情報取得手段である。アクセルペダル18は、ドライバーが踏み込むことによってエンジン2又はモータ4の出力値を制御可能に構成されている。
【0025】
車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29、並びにバッテリ充電量検出手段15、車速センサ16、ナビゲーション装置17及びアクセルペダル18などから取得した各種情報に基づいて、ハイブリッド電気自動車1の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットである。具体的には、車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29に制御信号を送受信することによって、エンジン2、クラッチ3、モータ4及び変速機5をはじめとするハイブリッド電気自動車1を構成する各部位の動作状態を制御する。
【0026】
エンジンECU27は、エンジン2の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたエンジン2から出力すべきトルクを出力可能なようにエンジン2における燃料の噴射量や噴射タイミングなどを制御する。
【0027】
インバータECU28は、インバータ10の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたモータ4から出力すべきトルクを出力可能なようにインバータ10を制御することにより、モータ4を力行又は回生駆動するように制御する。
【0028】
バッテリECU29は、バッテリ充電量検出手段15からの情報を、車両ECU26を介して取得することにより、バッテリ11の充電量を求め、当該求めたSOCを車両ECU26に送信する。
【0029】
上述の車両ECU26、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29は、それぞれCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成される電子制御ユニットであり、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する各種制御を実行することが可能に構成されている。これらの各種の制御の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではない。
【0030】
続いて、以上のように構成されたハイブリッド電気自動車1の具体的な動作について説明する。図2は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の制御内容を示すフローチャート図である。
【0031】
まず車両ECU26は、走行速度V、バッテリ11のSOC、アクセルペダル18の踏み込み量F,下り勾配情報(平均勾配、勾配継続距離L)などの本制御に必要な各種情報を取得する(ステップS101)。ここで、走行速度Vは速度センサ16から検出し、SOCはバッテリ充電量検出手段15から検出し、アクセルペダル18の踏み込み量Fはアクセルペダル18から検出し、下り勾配情報(即ち、平均勾配及び勾配継続距離)はナビゲーション装置17で取得したGPS信号と道路情報から取得する。
【0032】
車両ECU26は、ステップ101にて取得したアクセルペダル18の踏み込み量Fから、ドライバーがアクセルペダル18をOFFにしているか否かを判定する(ステップS102)。アクセルペダル18がONである場合(ステップS102:NO)、ドライバーは車両を加速させる意思を有していると想定されるため、以下に説明するモータ4の回生駆動を行う必要がないとして、処理を終了する(END)。
【0033】
一方、アクセルペダル18がOFFである場合(ステップS102:YES)、車両ECU26は車速センサ16から取得した走行速度Vが予め規定された所定走行速度V1より大きいか否かを判定する(ステップS103)。そして、その判定結果に応じて、車両ECU26は充電量検出手段15から取得したSOCがそれぞれ所定充電量SOC1又はSOC2より大きいか否かを判定する(ステップS104、S105)。後に図3を参照して説明するように、モータ4の回生量は、走行速度V、バッテリ11の充電量SOCの大小に対応して用意された4種類のマップに基づいて設定される。ステップS103、S104及びS105では、走行速度V、バッテリ11の充電量SOCの大小によってこれら4種類のマップがそれぞれ選択されるように場合分けがなされる。
【0034】
まず、走行速度VがV1より大きく、且つ、SOCがSOC1より大きい場合には(ステップS103:YES&ステップS104:YES)、高速・高SOC対応マップ(図3(a)を参照)に基づいて、モータ4の回生量が設定される(ステップS106)。また、走行速度VがV1より大きく、且つ、SOCがSOC1以下である場合には(ステップS103:YES&ステップS104:NO)、高速・低SOC対応マップ(図3(b)を参照)に基づいて、モータ4の回生量が設定される(ステップS107)。また、走行速度VがV1以下であり、且つ、SOCがSOC2より大きい場合には(ステップS103:NO&ステップS105:YES)、低速・高SOC対応マップ(図3(c)を参照)に基づいて、モータ4の回生量が設定される(ステップS108)。また、走行速度VがV1以下であり、且つ、SOCがSOC2以下である場合には(ステップS103:NO&ステップS105:NO)、低速・低SOC対応マップ(図3(d)を参照)に基づいて、モータ4の回生量が設定される(ステップS109)。
【0035】
車両ECU26は、このように走行条件に応じてモータ4の回生量を設定した後(ステップS110)、モータ4を設定した回生量で回生駆動するように制御する(ステップS111)。
【0036】
ここで図3を参照して、図2のステップS106からS109で行われる場合分けに応じて選択されるマップの具体的な内容について説明する。図3は、図2のステップS106からS109で行われる場合分けに応じて選択されるマップの内容を示すグラフ図である。図3では横軸に走行路面が有する下り勾配の平均勾配、縦軸に勾配継続距離を示しており、モータ4の回生量が等しくなるポイントを実線で表示している。
【0037】
図3(a)は、ステップS106において読み込まれる高速・高SOC対応マップを示している。モータ4の回生量は走行路面の平均勾配が大きくなるに従い(下り勾配がきつくなるに従い)大きくなるように設定されている。平均勾配が大きい場合、下り勾配における車両の加速度は次第に大きくなると想定されるため、回生量を大きく設定することによって回生制動トルクを駆動輪9に伝達して減速しつつ、回生エネルギーをバッテリ11に回収することができる。
【0038】
ここでモータ4の回生量は、勾配継続距離が長くなるに従って少なくなるように設定されている。従来技術では、勾配継続距離が長い場合に回生量(即ち、充電電流値)が大きく設定されていると、下り勾配の走行途中でバッテリ11の充電量が上限充電量に達してしまい、それ以上充電することができなくなってしまう場合がある。図3(a)のマップでは、下り勾配の最下地点に達した際にバッテリ11の充電量が上限充電量となるように、勾配継続距離が長い場合にはモータ4の回生量を小さく設定することによって、バッテリ11の充電電流値が不必要に大きくなることがないように抑制されている。これにより、バッテリ11に十分な電力を充電しつつ、充電電流値を小さく抑えることができ、充電時に生じる損失を抑制することによってバッテリ11への充電効率を向上させると共に、バッテリ11の長寿命化を図ることができる。
【0039】
次に図3(b)は、ステップS107において読み込まれる高速・低SOC対応マップを示している。図3(b)におけるモータ4の回生量の増減傾向に関しては、基本的には図3(a)の場合と同様である。但し、図3(b)では、SOCが高い図3(a)に比べて、モータ4の回生量が多くなるように設定されている。これは、バッテリ11の充電量が少ない場合、モータ4を回生駆動することによって得られた回生エネルギーを充電する余裕が多く残っているため、モータ4の回生量を増加させてバッテリ11の充電効率を向上させているためである。
【0040】
次に図3(c)は、ステップS108において読み込まれる低速・高SOC対応マップを示している。図3(c)におけるモータ4の回生量の増減傾向に関しては、基本的には図3(a)及び図3(b)の場合と同様である。但し、図3(c)では、走行速度Vが高い図3(a)に比べて、モータ4の回生量が少なくなるように設定されている。この場合、走行速度Vが小さくなるにつれてモータ4の回生量が小さく設定されるので、低速時(発進時や停車時など)における車両の安全性を良好に確保できる。即ち、モータ4の回生時に生じる回生制動トルクを少なく抑えることによって、ブレーキペダル(図不示)の踏み込み動作などのドライバーの運転操作によって車両を精度のよく制御可能とし、安全性を確保することができる。
【0041】
次に図3(d)は、ステップS108において読み込まれる低速・高SOC対応マップを示している。図3(d)におけるモータ4の回生量の増減傾向に関しては、基本的には図3(a)及び図3(c)の場合と同様である。但し、図3(d)では、SOCが高い図3(c)に比べて、モータ4の回生量が多くなるように設定されている。これは、バッテリ11の充電量が少ない場合、モータ4を回生駆動することによって得られた回生エネルギーを充電する余裕が大きいため、モータ4の回生量を増加させてバッテリ11の充電効率を向上させているためである。
【0042】
続いて図4及び図5を参照して、本発明に係るハイブリッド電気自動車の下り勾配走行時における回生量、充電量の推移について説明する。図4は勾配継続距離が長い下り勾配を走行中のハイブリッド電気自動車における回生量(発電電流)、バッテリ11の充電量(SOC)の推移を示すグラフ図であり、図5は勾配継続距離が短い下り勾配を走行中のハイブリッド電気自動車における回生量(発電電流)、バッテリ11の充電量(SOC)の推移を示すグラフ図である。
【0043】
まず図4(a)に示すように、車両の走行路面が、距離R1からR2にかけて長い下り勾配を有している場合を想定する。この場合、モータ4の回生量(充電電流)は図4(b)に実線で示すように、下り勾配が開始する距離R1からK1の値に維持される。これにより、図4(c)に示すように、バッテリ11の充電量SOCは車両が下り勾配を走行している間、継続的に増加し、下り勾配が終了した時点でバッテリ11のSOCが上限充電量に達するように制御される。
【0044】
一方、グラフ中に示した一点鎖線は、同様の走行条件下で特許文献1などの従来技術に係る電気自動車の下り勾配走行時における回生量(発電電流)、バッテリ11の充電量(SOC)の推移を示している。従来のモータ4の回生制御では、下り勾配の開始と同時に回生量を大きく設定することによって早期にバッテリの充電量を回復することに重点が置かれている。そのため、バッテリ11のSOCは、下り勾配が終了しない段階で上限充電量に到達してしまい、その後の回生ができなくなってしまう。この場合、バッテリ11には一時的に大きな充電電流が流れてしまうため、バッテリ11の充電効率が悪化すると共に、バッテリの劣化が進行してしまうという問題がある。
【0045】
本発明では、下り勾配が終了した際(下り勾配の最下地点に達した際)にバッテリ11の充電量が上限充電量となるようにモータ4の回生量を設定するので、バッテリ11の充電電流値が不必要に大きくなることがない。つまり、走行路面の勾配情報に基づいてモータ4の回生量が設定されるので、バッテリ11に十分な量を充電しつつ、充電電流値を小さく抑えることができる。これにより、充電時に生じる損失を抑制することによってバッテリ11への充電効率を向上させると共に、バッテリ11の長寿命化を図ることができる。
【0046】
続いて、図5(a)に示すように、車両の走行路面が、距離R3からR4にかけて短い下り勾配を有している場合を想定する。この場合、モータ4の回生量は図5(b)に示すように、下り勾配が開始する距離R3からK2の値に維持される。これにより、図5(c)に示すように、バッテリ11の充電量SOCは車両が下り勾配を走行している間、継続的に増加し、下り勾配が終了した時点(下り勾配の最下地点)でバッテリ11のSOCが上限充電量に達するように制御される。
【0047】
一方、グラフ中に一点鎖線で示すように、従来のモータ4の回生制御において設定される回生量では、下り勾配の走行中にバッテリ11の充電量を上限充電量に到達させることができない。一方、本発明では下り勾配が終了した時点でバッテリ11のSOCが上限充電量に達するように、従来の場合に比べて回生量を大きく設定することによって、バッテリの充電効率を向上させることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施例によれば、ハイブリッド電気自動車1が下り勾配の最下地点に達した際に、バッテリ11の充電量が上限充電量となるようにモータ4の回生駆動が制御される。これにより、例えば下り勾配の走行途中にバッテリ11が満充電になるような場合を回避しながらも、バッテリ11が満充電になるような充電量を確保しつつ、バッテリ11への充電電流を小さく抑えることができる。これにより、充電時に生じる損失を軽減することによって充電効率の改善を図ると共に、バッテリ11の長寿命化にも貢献できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、バッテリに蓄えられた電力で力行駆動することにより走行用の動力源として機能する電動機を搭載し、前記電動機を下り勾配の走行時に回生駆動させることによりバッテリの充電を行う電気自動車の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 ハイブリッド電気自動車
2 エンジン
3 クラッチ
4 モータ
5 変速機
9 駆動輪
11 バッテリ
15 充電量検出手段
16 車速センサ
17 ナビゲーション装置
18 アクセルペダル
26 車両ECU
27 エンジンECU
28 インバータECU
29 バッテリECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリに蓄えられた電力で力行駆動することにより走行用の動力源として機能する電動機を搭載し、前記電動機を下り勾配走行時に回生駆動させることによりバッテリの充電を行う電気自動車の制御装置であって、
前記下り勾配の平均勾配及び勾配継続距離を含む勾配情報を取得する勾配情報取得手段と、
前記バッテリの充電量を検出するバッテリ充電量検出手段と、
前記電気自動車が前記下り勾配の最下地点に達した際に、前記バッテリの充電量が上限充電量となるように、前記勾配情報に基づき前記電動機の回生量を設定する制御手段と
を備えたことを特徴とする電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記勾配継続距離が長くなるに従い、前記電動機の回生量が少なくなるように設定することを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記検出されたバッテリの充電量が少なくなるに従い、前記電動機の回生量が多くなるように設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気自動車の制御装置。
【請求項4】
前記電気自動車の走行速度を検出する走行速度検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記検出された走行速度が低くなるに従い、前記電動機の回生量が少なくなるように設定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電気自動車の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−130213(P2012−130213A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281614(P2010−281614)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】