説明

電気自動車の制御装置

【課題】モータと変速機を備えた電気自動車において、クラッチを不要にして構成を簡易にすると共に、重量やコストの増加を抑制するようにした電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】少なくとも運転者に操作されるアクセルペダルの開度に応じて車両に搭載されるモータの出力を制御するモータ出力制御手段と、変速指示がなされたとき、複数個の変速段ギヤを切り替える噛み合い式クラッチを有する変速機と、車両を制動可能な機械的なブレーキの動作を制御するブレーキ制御手段とを備えた電気自動車の制御装置において、モータ出力制御手段は、モータを回生させている間に変速指示がなされたとき(S10,S12,S18)、噛み合い式クラッチが複数個の変速段ギヤを切り替える前にモータの出力を零あるいはその近傍からなる所定値に制御すると共に(S22)、ブレーキ制御手段にブレーキを作動させる(S20)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電気自動車の制御装置に関し、より具体的にはクラッチが除去された変速機を備えた電気自動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるモータをアクセル開度に応じて算出されるトルク指令値に基づいて制御すると共に、クラッチを介して変速機に接続し、クラッチが操作されたとき、モータのフリクション分だけトルク指令値を減少し、モータの回転数を低下させてからクラッチの接続が行われるようにした電気自動車の制御装置は知られており、その例としては下記の特許文献1記載の技術を挙げることができる。
【0003】
特許文献1記載の技術にあっては、さらに、モータが車速に対して規定された回転数以上で駆動されていた場合、トルク指令値が所定値以下となるように制御してクラッチの接続が行われるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−227610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術にあっては、上記のように構成することで、モータの出力トルクと回転数が高い状態でのクラッチの接続を回避することでクラッチとモータの保護を図っているが、モータと変速機を接続するクラッチを備えているため、構成が複雑となると共に、重量やコストが増加する不都合がある。
【0006】
この発明の目的は上記した課題を解決し、モータと変速機を備えた電気自動車において、モータと変速機を接続するクラッチを不要にして構成を簡易にすると共に、重量やコストの増加を抑制するようにした電気自動車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、車両に搭載されるモータと、少なくとも運転者に操作されるアクセルペダルの開度に応じて前記モータの出力を制御するモータ出力制御手段と、変速指示がなされたとき、前記モータに接続される入力軸と駆動輪に接続される出力軸の間に配置される複数個の変速段ギヤを切り替える噛み合い式クラッチを有する変速機と、前記車両を制動可能な機械的なブレーキと、前記機械的なブレーキの動作を制御するブレーキ制御手段とを備えた電気自動車の制御装置において、前記モータ出力制御手段は、前記モータを回生させている間に前記変速指示がなされたとき、前記噛み合い式クラッチが前記複数個の変速段ギヤを切り替える前に前記モータの出力を零あるいはその近傍からなる所定値に制御すると共に、前記ブレーキ制御手段に前記ブレーキを作動させる如く構成した。
【0008】
請求項2に係る電気自動車の制御装置にあっては、前記モータ出力制御手段は、前記回生によって生じる制動力と同程度のトルクが生じるように前記ブレーキ制御手段に前記ブレーキを作動させる如く構成した。
【発明の効果】
【0009】
請求項1にあっては、運転者に操作されるアクセルペダルの開度に応じて車両に搭載されるモータの出力を制御するモータ出力制御手段と、変速指示がなされたとき、モータに接続される入力軸と駆動輪に接続される出力軸の間に配置される複数個の変速段ギヤを切り替える噛み合い式クラッチを有する変速機と車両を制動可能な機械的なブレーキの動作を制御するブレーキ制御手段とを備えた電気自動車の制御装置において、モータ出力制御手段は、モータを回生させている間に変速指示がなされたとき、噛み合い式クラッチが複数個の変速段ギヤを切り替える前にモータの出力を零あるいはその近傍からなる所定値に制御すると共に、ブレーキ制御手段にブレーキを作動させる如く構成したので、変速指示に応じてモータの出力を零あるいはその近傍からなる所定値に制御することでクラッチを不要にすることができ、よって構成を簡易にできると共に、重量やコストの増加を抑制することができる。
【0010】
さらに、モータを回生させている間、ブレーキ制御手段にブレーキを作動させる如く構成したので、変速中に回生による制動力が減少しても、その減少を機械的なブレーキによる制動力で補うことができ、よって運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0011】
即ち、モータの出力を零あるいはその近傍の所定値に制御することは、回生時にジェネレータとして機能させて負のトルクを生じさせることで車両に作用させていた制動力を消滅させることになるため、運転者に違和感を与える恐れがあるが、その減少を機械的なブレーキによる制動力で補うことで運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0012】
請求項2に係る電気自動車の制御装置にあっては、回生によって生じる制動力と同程度のトルクが生じるようにブレーキ制御手段にブレーキを作動させる如く構成したので、上記した効果に加え、回生による制動力の減少を機械的なブレーキによる制動力で一層完全に補うことができ、よって運転者に違和感を与えるのを一層良く防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施例に係る電気自動車の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す変速機のスケルトン図である。
【図3】図1に示す変速機のスケルトン図である。
【図4】図1のMOT/ECUの制御値の算出動作を機能的に示すブロック図である。
【図5】図4の電圧指令値の算出処理を説明する説明図である。
【図6】図4の出力電圧監視部の動作をより詳細に示すブロック図である。
【図7】図1に示す電気自動車の制御装置の動作を説明するフロー・チャートである。
【図8】図7の処理を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る車両の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、この発明の実施例に係る電気自動車の制御装置を全体的に示す概略図、図2と図3は図1に示す変速機のスケルトン図である。
【0016】
図1において符号10は電気自動車(以下「車両」という)10を模式的に示し、車両10にはモータ(電動機。図で「MOT」と示す)12が搭載される。モータ12は具体的にはDCブラシレスモータからなり、後述するようにU,V,Wの3相電流を通電されて動作する。
【0017】
モータ12は駆動軸14を介して手動変速機に類似する変速機(図で「MT」と示す)16に接続される。変速機16はモータ12の出力を変速し、駆動輪(車輪)20に伝達する。
【0018】
モータ12は通電されるとき、回転して駆動輪20を駆動して車両10を走行させる。一方、モータ12は通電されないときは空転すると共に、駆動輪20から駆動されるとき、駆動軸14の回転によって生じた運動エネルギを電気エネルギに変換して出力する回生機能を有する発電機(ジェネレータ)として機能する。
【0019】
モータ12は、パワードライブユニット(PDU)22を介してバッテリ(BATT)24に接続される。PDU22はインバータを備え、バッテリ24から供給(放電)される直流(電力)を交流に変換してモータ12に供給すると共に、モータ12の回生動作によって発電された交流を直流に変換してバッテリ24に供給する。
【0020】
図2に示す如く、変速機16はモータ12に(駆動軸14を介して)接続される入力軸16aと、駆動輪20に接続される出力軸16bと、その間に配置される複数個の変速段ギヤ16cと、モータなどからなるシフトアクチュエータ16dと、シフトアクチュエータ16dに接続される複数個の噛み合い式クラッチ16eとを備える。
【0021】
変速段ギヤ16cは具体的には1速、2速、3速ギヤ16c1,16c2,16c3からなる。入力軸16aにはそのうちのドライブ側の1速、2速、3速ドライブギヤ16c1a,16c2a,16c3aが相対回転自在に配置される一方、出力軸16bには、それらに噛合するドリブン側の1速、2速、3速ドリブンギヤ16c1b,16c2b,16c3bが相対回転不能に固定される。
【0022】
出力軸16bにはファイナルドライブギヤ16b1が固定される。ファイナルドライブギヤ16b1はファイナルドリブンギヤなどのギヤ群とディファレンシャル機構(全て図示せず)を介して駆動輪20に接続される。
【0023】
複数個の噛み合い式クラッチ16eは変速段ギヤ16cの間に配置される第1、第2の噛み合い式クラッチ16e1,16e2からなり、それぞれ入力軸16aに相対回転不能かつ軸方向に移動自在にスプライン結合されたスリーブドグクラッチと、その両側において1速、2速、3速ドライブギヤ16c1a,16c2a,16c3aに設けられたドグクラッチと、回転を同期させるシンクロ機構を有する。
【0024】
スリーブドグクラッチはシフトアクチュエータ16dに取り付けられ、シフトアクチュエータ16dが通電されて入力軸16aの軸方向に駆動されるとき、それに伴って図示の中立位置から移動して対応するギヤ16cを入力軸16aに固定する。尚、第1の噛み合い式クラッチ16e1は1速ドライブギヤ16c1aに対してのみ移動可能に構成される。
【0025】
変速段の確立について説明すると、シフトアクチュエータ16dを介して第1の噛み合い式クラッチ16e1を図2で右に移動させると、1速ドライブギヤ16c1aが入力軸16aに係合し、モータ12から入力軸16aに入力された回転駆動力(入力トルク)は1速ドライブギヤ16c1aを回転させる。
【0026】
図3に示す如く、1速ドライブギヤ16c1aの回転はそれに噛合する1速ドリブンギヤ16c1bに伝えられて出力軸16bを回転させることで1速(変速段)が確立される。出力軸16bの回転はファイナルドライブギヤ16b1からファイナルドリブンギヤとディファレンシャル機構などに伝えられ、さらには駆動輪20に伝えられて車両10を1速で前進走行させる。
【0027】
また、その状態でモータ12の回転方向を反転させると、モータ12の回転は1速ドライブギヤ16c1aと1速ドリブンギヤ16c1bに伝えられて出力軸16bを逆方向に回転させることで後進1速(変速段)が確立される。
【0028】
第2の噛み合い式クラッチ16e2を図2で右に移動させて2速ドライブギヤ16c2aを入力軸16aに係合すると、同様に入力軸16aの回転駆動力は2速ドライブギヤ16c2aと2速ドリブンギヤ16c2bを介して出力軸16bを回転させることで2速(変速段)が確立される。
【0029】
第2の噛み合い式クラッチ16e2を図2で左に移動させて3速ドライブギヤ16c3aを入力軸16aに係合すると、入力軸16aの回転駆動力は3速ドライブギヤ16c3aと3速ドリブンギヤ16c3bを介して出力軸16bを回転させることで3速(変速段)が確立される。
【0030】
このように、この実施例において変速機16はAMT(Automated Manual Transmission)、即ち、自動化されたマニュアルトランスミッション(手動変速機)として構成される。
【0031】
図1の説明に戻ると、車両10の運転席にはシフト(レンジセレクト)レバー30が配置される。シフトレバー30は運転者の手動操作によって図示のようなシフトパターン30aを移動(選択)自在に構成される。シフトパターン30aはP,R,N,Dからなるメインレンジ30a1と、Dレンジから分岐された+/−からなるサブレンジ30a2を備える。
【0032】
サブレンジ30a2の+は現在の変速段からのシフトアップを、−は現在の変速段からのシフトダウンを示す。サブレンジ30a2は運転者がメインレンジ30a1においてDレンジを選択しているときのみ使用可能に構成される。運転者がシフトレバー30をサブレンジ30a2の+に位置させたときはシフトアップ(変速)指示、−に位置させたときはシフトダウン(変速)指示がなされたことを意味する。
【0033】
尚、運転者によってDレンジが選択されている場合、サブレンジ30a2でのシフトレバー操作による変速指示に応じた変速の他に、車速とアクセル開度からシフトマップを検索して1速から3速の間で自動的に変速される。
【0034】
シフトレバー30の付近にはシフトレバーポジションセンサ32が配置され、運転者によって選択されたメインレンジあるいはサブレンジでのシフトレバー30の位置を示す出力を生じる。
【0035】
また、変速機16のケース底面のATF(Automatic Transmission Fluid。作動油)のリザーバには油温センサ34が設けられ、油温TATF(ATFの温度)を示す出力を生じる。
【0036】
駆動輪20の付近にはディスクブレーキなどの機械的な(モータ12の回生動作によるブレーキではない)ブレーキ36が設けられると共に、ブレーキ36にはブレーキユニット40が接続される。さらに車両10の運転席には運転者の操作自在にブレーキペダル42が設けられる。
【0037】
ブレーキユニット40は油圧ブースタと電動サーボを備え、動作するとき、ブレーキペダル42による運転者の操作と独立にブレーキ36を作動させて車両10を制動する。ブレーキペダル42の付近にはブレーキ開度センサ44が設けられ、ブレーキ開度、即ち、運転者によるブレーキペダル42の踏み込み量に応じた出力を生じる。
【0038】
同様に車両10の運転席には運転者の操作自在にアクセルペダル46が設けられると共に、その付近にはアクセル開度センサ48が設けられ、アクセル開度、即ち、運転者によるアクセルペダル46の踏み込み量に応じた出力を生じる。駆動輪20のドライブ軸の付近には車速センサ50が設けられ、車両10の走行速度(車速)を示す信号を出力する。
【0039】
ブレーキ開度センサ44とアクセル開度センサ48の出力はMOT/ECU52に送られると共に、シフトレバーポジションセンサ32と油温センサ34と車速センサ50の出力はAMT/ECU54に送られる。
【0040】
さらに、ブレーキユニット40の動作を制御するBRK/ECU56も設けられる。BRK/ECU56は必要に応じてブレーキ指示(動作指示)を送り、ブレーキユニット40を動作させる。
【0041】
MOT/ECU52とAMT/ECU54とBRK/ECU56はそれぞれ、CPU,ROM,RAMなどを有するマイクロコンピュータを備える。これらECU52,54,56は信号線60によって接続され、相互に通信して情報を取得可能なように構成される。
【0042】
さらにMOT/ECU52にはモータ12に配置されたレゾルバなどを介して回転子(ROT)の位相と回転数についての情報が送られると共に、PDU22に配置された電圧・電流センサなどから通電電流(と通電電圧)を示す情報が送られる。
【0043】
MOT/ECU52はそれらセンサ出力に基づき、即ち、少なくとも運転者に操作されるアクセルペダル46の開度に応じて所望のトルクが生じるように制御値を算出してモータ12の出力を制御する。
【0044】
図4はMOT/ECU52の制御値の算出動作を機能的に示すブロック図である。
【0045】
以下説明すると、モータ12のいずれか2相(例えばU相とW相)の電流は3相/2軸変換部52aによってd−q軸上の実相電流id,iqに変換され、電流制御演算部52bに入力される。ここでdqは公知のモータのベクトル制御におけるdq変換のことである。
【0046】
電流制御演算部52bはアクセル開度から算出されるモータトルク指令と検出されたモータ12の回転数とバッテリ24の入出力電圧とに基づいて目標とする電流指令値Id,Iqを求めると共に、前記した実相電流id,iqとの電流偏差Δid,Δiqを算出し、PI制御則を用いて下記の式1,2に従って電圧指令値VD,VQを算出する。
【0047】
VD=Kp×Δid+Ki×(∫Δid・dt)+C1 ・・・式1
VQ=Kp×Δiq+Ki×(∫Δiq・dt)+C2 ・・・式2
上記でKp:比例ゲイン、Ki:積分ゲイン、C1,C2:d,q軸間の干渉成分を除去するためのフィードフォワード項である。
【0048】
図5は図4の電圧指令値の算出処理を説明する説明図である。図5を参照してこの電圧指令値VD,VQの算出を敷衍すると、所望の動作点上の電圧指令値VD,VQは、次のように算出される。
【0049】
即ち、モータ12の電気角速度ωで表わされる逆起電力ωkeから求められるa点(ωke,0)に、モータ12の各相の抵抗分Rと電流指令値Id,Iqのd軸成分Idとから求められるd軸成分R×Idを加算してb点(ωke+R×Id,0)を算出する。
【0050】
次いでモータ12の電気角速度ωとd軸方向のインダクタンス成分Ldと電流指令値Id,Iqのd軸成分Idとで求められるq軸成分(ω×Ld×Id)を加算し、c点(ωke+R×Id,ω×Ld×Id)を算出する。
【0051】
次いでモータ12の各相の抵抗成分Rと電流指令値Id,Iqのq軸成分Iqとから求められるq軸成分R×Iqを加算してd点(ωke+R×Id,ω×Ld×Id+R×Iq)を算出する。
【0052】
次いでモータ12の電気角速度ωとq軸方向のインダクタンス成分Lqと電流指令値Id,Iqのq軸成分Iqとで求められるq軸成分(ω×Lq×Iq)を加算する。これにより、所望の動作点であるe点(ωke+R×Id−ω×Lq×Iq,ω×Ld×Id+R×Iq)を求めることができる。
【0053】
このようにして電圧指令値を算出することができる。算出された電圧指令値VD,VQは出力電圧監視部52cに入力され。そこでモータ過回転などの不都合が生じないように出力電圧が監視される。
【0054】
図6は出力電圧監視部52cの動作をより詳細に示すブロック図である。
【0055】
以下説明すると、出力電圧監視部52cにおいて電流制御演算部52bで算出された電圧指令値VD,VQは制御系異常判定部52c1に入力され、そこで算出値が印加電圧リミットを超えるか否か判定される。
【0056】
また算出値は位相検出部52c2に入力され、そこで位相が検出され、算出値の前回値の位相を初期位相φ_initとして出力する。尚、制御系異常判定部52c1で印加電圧リミットを超えると判定されるとき、算出値の今回値の位相を初期位相φ_initとして出力する。
【0057】
位相制御部52c3は、モータ12にトルクを発生させない電圧指令値VD,VQの位相をゼロトルク位相φ_comとして予め記憶してするゼロトルク位相記憶部52c4を備え、そこから出力されるゼロトルク位相φ_comに近づくように例えばPI制御則を用いて出力変化分Δφを算出する。
【0058】
位相減算部52c5は位相検出部52c2から出力される初期φ_initから出力変化分の積算値∫Δφを減算して現在位相φ_nowを算出して位相制御部52c3に入力する。このように、位相制御部52c3などではゼロトルク位相と現在位相の差が所定値以下となるまで、上記の処理が繰り返される。
【0059】
位相制御部52c3の出力φ+Δφは出力電圧算出部52c6に送られ、そこで以下の式に従って電圧指令値が最終的に算出され、出力電圧切り替え部52cから出力される。
VD=VP×cos(φ+Δφ) ・・・式3
VQ=VP×sin(φ+Δφ) ・・・式4
上記でVP:振幅である。
【0060】
図4の説明に戻ると、出力電圧監視部52cの出力は2軸/3相変換部52dに送られ、そこでU,V,W相電圧からなる3相電圧指令値に変換され、PDU22に出力される。
【0061】
次いで図1に戻ってAMT/ECU54の動作を説明すると、AMT/ECU54はシフトレバーポジションセンサ32などのセンサ出力とMOT/ECU52に通信して得たアクセル開度などの情報に基づき、シフト指示を決定してシフトアクチュエータ16dを動作させる。
【0062】
即ち、AMT/ECU54は、後述するようにシフトマップ検索による変速指示がなされたとき、あるいは運転者からシフトレバー30を通じて変速指示がなされたとき、シフトアクチュエータ16dを動作させて噛み合い式クラッチ16eを入力軸16aに沿って移動させ、3個の変速段ギヤ16cを例えば1速から2速、3速から2速へなどと切り替える。
【0063】
上記を前提としてこの実施例に係る電気自動車の動作を説明する。
【0064】
図7はその動作を示すフロー・チャートである。尚、図示のプログラムはAMT/ECU54によって実行される。
【0065】
以下説明すると、S(ステップ)10においてシフトマップ検索による変速指示がなされたか、即ち、Dレンジが選択されている場合、図示しない変速制御部において車速とアクセル開度からシフトマップを検索した結果、変速指示がなされているか否か判断する。
【0066】
S10で否定されるときはS12に進み、運転者変速指示、即ち、サブレンジ30a2でのシフトレバー操作によって運転者から変速指示がなされたか否か判断し、否定されるときはS14に進み、現在の変速段(速度)を維持し、以降の処理をスキップする。
【0067】
他方、S12で肯定されるときはS16に進み、変速可か否か判断する。この判断は具体的には、アクセル開度から算出される必要モータトルクが変速先の変速段で要求されるモータ最大トルク未満であり、必要モータ回転数が変速先の変速段で要求されるモータ最高回転数未満か否か判断することで行う。
【0068】
S16で否定されるときはS14に進む一方、肯定されるときはS18に進み、回生ブレーキ中か否か判断する。これはMOT/ECU52に通信し、MOT/ECU52においてモータ12を回生、即ち、モータ12への通電を停止し、発電機として使用して車両10の走行を制動(減速)させているか否か判断する。
【0069】
尚、S10で肯定されるとき、換言すればシフトマップ検索による変速指示がなされたとき、あるいは運転者によって変速指示がなされたときはS18に進み、上記した処理が行われる。
【0070】
次いでS20に進み、メカブレーキを作動する。即ち、BRK/ECU56に通信し、BRK/ECU56にブレーキ36を作動させる(車両10を制動する)。
【0071】
この場合、AMT/ECU54は、モータ12の回生によって生じる制動力と同程度の制動力(負のトルク)が生じるようにBRK/ECU56にブレーキ36を作動させる。
【0072】
上記は変速前と変速中とで運転者のブレーキ操作が一定とした場合である。従って、もし変速中に(一瞬であるにせよ)変速前に対して運転者のブレーキ操作が相違した場合、AMT/ECU54は、モータ12の回生によって生じる制動力と同程度の制動力(負のトルク)からブレーキペダル操作による制動力を加減算した差に相当する制動力が生じるようにBRK/ECU56にブレーキ36を作動させることとする。
【0073】
次いでS22に進み、MOTゼロトルク制御を実行する。この制御は、MOT/ECU52に通信し、前記した出力電圧監視部52cの位相制御部52c3においてゼロトルク位相と現在位相の差が所定値以下となるように電圧指令値VD,VQを算出して出力させることで行われる。
【0074】
尚、S22の処理においては、モータ12の回転子と入力軸16aのフリクショントルクを所定値に加算し、その和以下となるように制御しても良い。
【0075】
図8はその処理を示す説明図である。尚、同図においてd,q軸の向きを図5と相違させて示す。図示の如く、位相が90度相違する直交領域にあるときはモータ12のトルクTqは下部左欄の末尾の式によって0[Nm]に制御される。
【0076】
一方、車速の増加に伴って弱め界磁領域にあるときは、Idが0[A](実効値)を超えるが、下部右欄の末尾の式に示す如く、Iqが0であることから、トルクTqは結果的に0[Nm]に制御される。
【0077】
図7フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS24に進み、ドグクラッチを開放する。即ち、シフトアクチュエータ16dを動作させて噛み合い式クラッチ16eのスリーブドグクラッチを中立位置に戻す。
【0078】
次いでS26に進み、モータ変速後回転数合わせを実行する。これは噛み合い式クラッチ16eの損傷を回避するためであり、モータイナーシャと差回転が同期回転数以上のときに行われる。
【0079】
次いでS28に進み、所望の変速段ギヤにドグクラッチを係合、即ち、シフトアクチュエータ16dを動作させて噛み合い式クラッチ16eのスリーブドグクラッチを変速先の変速段ギヤのドグクラッチに係合させる。
【0080】
次いでS30に進んで変速の完了を確認し、変速の完了が確認されたらS32に進み、MOT回生再開、即ち、MOT/ECU52に通信してモータ12の回生動作を再開させる。
【0081】
次いでS34に進み、BRK/ECU56に通信してメカブレーキを開放する。即ち、ブレーキ36の作動を停止させる。
【0082】
一方、S18で否定されるときはブレーキ36を作動させることなく、S36からS44まで、上記したS22からS30と同様の処理を行って処理を終了する。
【0083】
上記したS20とS22の処理により、モータ12を回生させている間にモータ12の出力を零あるいはその近傍の所定値に制御することで減少する回生による制動力を機械的なブレーキ36による制動力で補うことができ、運転者に違和感を与えるのを防止できる。
【0084】
このS20とS22の処理は、S18で肯定される場合、AMT/ECU54からの通信によってBRK/ECU56とMOT/ECU52が行うものであれば、換言すれば、MOT/ECU52は、モータ12を回生させている間に変速指示がなされたとき(S10,S12)、噛み合い式クラッチ16eが複数個の変速段ギヤ16cを切り替える前に(S24からS28)、モータ12の出力を零あるいはその近傍からなる所定値に制御すると共に、BRK/ECU56にブレーキ36を作動させることに相当する。
【0085】
尚、実施例ではブレーキ36を作動させてからモータ12の出力を所定値に制御しているが、逆にしても良い。
【0086】
上記した如く、この実施例にあっては、車両10に搭載されるモータ(電動機)12と、少なくとも運転者に操作されるアクセルペダル46の開度に応じて前記モータの出力を制御するモータ出力制御手段(MOT/ECU52)と、変速指示がなされたとき、前記モータに接続される入力軸16aと駆動輪20に接続される出力軸16bの間に配置される複数個の変速段ギヤ16cを切り替える噛み合い式クラッチ16eを有する変速機16と、前記車両10を制動可能な機械的なブレーキ36と、前記機械的なブレーキの動作を制御するブレーキ制御手段(BRK/ECU56)とを備えた電気自動車10の制御装置において、前記モータ出力制御手段は、前記モータ12を回生させている間に前記変速指示がなされたとき(S10,S12)、前記噛み合い式クラッチ16eが前記複数個の変速段ギヤを切り替える前に(S24からS28)、前記モータの出力を零あるいはその近傍からなる所定値に制御する(S22)と共に、前記ブレーキ制御手段に前記ブレーキを作動させる(S20)如く構成したので、変速指示に応じてモータ12の出力を零あるいはその近傍からなる所定値に制御することでモータ12と変速機16の間のクラッチを不要にすることができ、よって構成を簡易にできると共に、重量やコストの増加を抑制することができる。
【0087】
さらに、モータ12を回生させている間、ブレーキ制御手段(MOT/ECU52)にブレーキ36を作動させる如く構成したので、変速中に回生による制動力が減少しても、その減少を機械的なブレーキ36による制動力で補うことができ、よって運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0088】
即ち、モータ12の出力を零あるいはその近傍の所定値に制御することは、回生時にジェネレータとして機能させて負のトルクを生じさせることで車両10に作用させていた制動力を消滅させることになるため、運転者に違和感を与える恐れがあるが、その減少を機械的なブレーキ36による制動力で補うことで運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0089】
また、前記モータ出力制御手段(MOT/ECU52)は、前記回生によって生じる制動力と同程度のトルクが生じるように前記ブレーキ制御手段(MOT/ECU52)に前記ブレーキを作動させる(S20)如く構成したので、上記した効果に加え、回生による制動力の減少を機械的なブレーキ36による制動力で一層完全に補うことができ、よって運転者に違和感を与えるのを一層良く防止することができる。
【0090】
尚、上記において変速機の例として平行軸方式の変速機を示したが、この発明はそれに限定されるものではなく、その他の形式の変速機であっても良い。
【符号の説明】
【0091】
10 車両(電気自動車)、12 モータ(電動機)、16 変速機、16a 入力軸、16b 出力軸、16c 変速段ギヤ、16d シフトアクチュエータ(アクチュエータ)、16e 噛み合い式クラッチ、20 駆動輪、22 PDU、24 バッテリ(BATT)、30 シフトレバー、30a,30b,30c シフトパターン、30a2 サブレンジ、32 シフトレバーポジションセンサ、34 油温センサ、46 アクセルペダル、48 アクセル開度センサ、50 車速センサ、52 MOT/ECU(モータ出力制御手段)、54 AMT/ECU、56 BRK/ECU(ブレーキ制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるモータと、少なくとも運転者に操作されるアクセルペダルの開度に応じて前記モータの出力を制御するモータ出力制御手段と、変速指示がなされたとき、前記モータに接続される入力軸と駆動輪に接続される出力軸の間に配置される複数個の変速段ギヤを切り替える噛み合い式クラッチを有する変速機と、前記車両を制動可能な機械的なブレーキと、前記機械的なブレーキの動作を制御するブレーキ制御手段とを備えた電気自動車の制御装置において、前記モータ出力制御手段は、前記モータを回生させている間に前記変速指示がなされたとき、前記噛み合い式クラッチが前記複数個の変速段ギヤを切り替える前に前記モータの出力を零あるいはその近傍からなる所定値に制御すると共に、前記ブレーキ制御手段に前記ブレーキを作動させることを特徴とする電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記モータ出力制御手段は、前記回生によって生じる制動力と同程度のトルクが生じるように前記ブレーキ制御手段に前記ブレーキを作動させることを特徴とする請求項1記載の電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−157200(P2012−157200A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15573(P2011−15573)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】