説明

電気自動車の変速制御方法および変速制御装置

【課題】 目標変速段の摩擦板と外輪とを係合させるときの回転数差による変速ショックと異音発生を防止し、かつ目標変速段の摩擦板と外輪との接触完了の後、ローラクラッチの係合が円滑に行えるようにする。
【解決手段】 モータ軸に連結された変速機入力軸と各変速段のギヤ列との間に2ウェイ型のローラクラッチを介在させた変速機を備える電気自動車に適用する。変速切換アクチュエータを動作させ、現変速段の摩擦板と外輪との接触を解除する。走行用の電動モータをトルク制御で回転させて、現変速段のローラクラッチの係合を解除する。目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数をシンクロ動作させる。変速切換アクチュエータを動作させ、目標変速段の摩擦板と外輪とを接触させる。回転数制御により電動モータを制御しながら目標変速段のローラクラッチの係合を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの回転を変速して車輪へ伝達する電気自動車の変速制御方法および変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球資源枯渇の問題へ取込むため、電気自動車に大きな期待が寄せられている。電気自動車の駆動装置として、電動モータ、変速機、および差動装置(デファレンシャル)を介し駆動輪に動力を伝達する車両用モータ駆動装置がある。変速機の変速段の切換には、例えば2ウェイ型のローラクラッチ(以下、「クラッチ」と称する場合がある)が用いられる。
【0003】
この車両用モータ駆動装置を使用すると、走行条件に応じて変速機の変速比を切り換えることにより、駆動および回生時において、効率の高い回転数およびトルク領域で電動モータを使用することが可能となる。また、適切な変速比とすることで、高速走行時の変速機の回転部材の回転速度が下がり、変速機の動力損失が低減して車両のエネルギ効率を向上させることができる。このような車両用モータ駆動装置として、例えば特許文献1や特許文献2に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−57030号公報
【特許文献2】特開平8−168110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車両用モータ駆動装置においては、変速段を切り換える変速指令が出たときに、まず、シフト機構を作動させることにより現変速段のシフト位置から目標変速段のシフト位置へのシフトリングの移動を開始し、次に、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するよう電動モータの出力トルクを変化させ、その後、入力軸の回転数が目標変速段の変速比に対応する目標回転数に変化するよう電動モータをトルク制御で加速または減速させるようにしている。ここで、入力軸の回転数を目標変速段の変速比に対応する目標回転数に変化させるシンクロ動作が完了した後、シフトリングを目標変速段のシフト位置に到達させ、目標変速段の2ウェイローラクラッチを係合させる。
【0006】
しかしながら、この特許文献1に記載された変速制御方法では、電動モータの出力トルクを予め設定された目標トルクに制御するトルク制御でシンクロ動作を行なっているので、次のような問題がある。すなわち、変速段を切り換えるときの車速は毎回異なるので、シンクロ動作の目標回転数も毎回異なる。そのため、トルク制御の目標トルクを目標回転数によらず一定としたのでは、現在の回転数と目標回転数の差が大きいときにシンクロ動作に要する時間が長くなってしまうという問題がある。また、トルク制御の目標トルクを車速毎に設定するのは煩雑である。
【0007】
また、特許文献2では、速やかで円滑な変速制御方法として、変速開始時の車速に基づいて目標トルクを算出し、変速に要すると見込まれる所定時間が経過するまでの間、電動モータの出力トルクを目標トルクに制御することによってシンクロ動作を行なう方法が開示されている。しかしながら、この方法では、目標トルクが変速開始時の車速のみに基づいて定まるので、変速中に車速が変化するとき(例えば登坂時や降坂時)に、シンクロ動作が十分でない状態で目標変速段のクラッチが係合してしまい、大きな変速ショックが生じる恐れがある。
【0008】
上記のように、目標変速段への切換完了時に、変速機の出力側のシャフトである第2シャフトの回転数と、ローラクラッチの入力側輪である外輪の回転数に大きな回転数差があると、大きな変速ショックと異音が生じる。そこで、本出願人は、変速ショックを低減するための変速制御方法を提案した。これは、変速時の車速と選択された目標変速段の変速比に基き、目標電動モータ回転数を算出して、目標電動モータ回転数に応じて電動モータの出力を制御する方法である。なお、この明細書で言う「回転数」とは、単位時間当たりの回転数であり、回転速度と同義である。
【0009】
変速制御方法としては、トルク制御と回転数制御の二つのフィードバック制御を切換える制御法である。しかし、上記提案例では、変速段の摩擦板と外輪間の接触動作完了後、トルク制御によってローラクラッチの係合をさせるため、係合ショックと異音が生じ易くなる。また、ローラクラッチ係合時に、クラッチの内輪と外輪間の回転数差を監視していないため、クラッチの外輪と内輪の回転数差が大きい状態でクラッチを係合させた場合、クラッチが破損する恐れがある。なお、ローラクラッチの内輪について「クラッチ内輪」または単に「内輪」と称する場合があり、ローラクラッチの外輪についても同様である。
【0010】
上記提案例の課題を整理すると、次の課題がある。
(1)変速段の摩擦板と外輪間の接触動作完了後、トルク制御により、ローラクラッチを係合させる。したがって、トルク指令により、ローラが加速しながら急に楔状空間の狭まり部分に入ることになる。そのため、係合ショックと異音が生じ易くなる。
(2)電動モータシンクロ時、現変速段のローラクラッチ係合が解除されたかどうかのチェックを行っていないため、もしローラクラッチが解除されていない場合、シンクロ動作が完了できない。
(3)目標変速段の摩擦板と外輪間の接触動作を行う間に、クラッチの外輪と内輪の回転数差をチェックしていない。そのため、もしクラッチの外輪と内輪の回転数差が大きい状態でクラッチを係合させた場合、クラッチに無理な負荷が係る恐れがある。
(4)シフトアップ変速切換時は、現変速段のローラクラッチを解除するために、回転数制御で解除動作が行われている。この場合のトルク指令値は負であるため、歯車のバックラッシュに起因する異音の発生が懸念される。
【0011】
この発明の目的は、目標変速段の摩擦板と外輪との接触完了の後、ローラクラッチのローラによる係合を行わせるときに、ローラが加速しながら急に楔状空間に進入して係合係合ショックと異音が生じることが防止でき、かつ目標変速段の摩擦板と外輪とを係合させるときの回転数差による変速ショックと異音発生が防止できる電気自動車の変速制御方法および変速制御装置を提供することである。
この発明の他の目的は、電動モータのシンクロ動作時に、ローラクラッチの係合が解除されていない場合に、シンクロ動作が完了できるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、目標変速段において、ローラクラッチの外輪と内輪の回転数差が大きい状態でクラッチを係合させることによる無理な負荷の発生を回避することである。
この発明のさらに他の目的は、シフトアップ変速切換時に、歯車のバックラッシュに起因する異音が発生することを回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の電気自動車の変速制御方法は、制御対象となる電気自動車が、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、
前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に位置させることで切断状態となり、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となる構成であり、
前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータによるシフト部材の進退によって切り換える機構である、
電気自動車における変速制御方法において、
アクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成する第1ステップと、
前記変速指令に応答して前記変速切換アクチュエータを動作させ、現変速段の摩擦板と外輪との接触を解除する第2ステップと、
前記電動モータをトルク制御で回転させて、現変速段のローラクラッチのローラによる係合を解除する第3ステップと、
目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数が同期するシンクロ動作を行うように、前記電動モータの回転数を回転数制御により加速または減速させる第4ステップと、
前記変速切換アクチュエータを動作させ、目標変速段の摩擦板と外輪とを接触させる第5ステップと、
回転数制御により前記電動モータを制御しながら目標変速段のローラクラッチのローラによる係合を行わせる第6ステップと、
前記電動モータの制御を回転数制御からトルク制御に切り換え、この切換時に、トルク補間制御を行う第7ステップ、
とを含む。
なお、第1ステップの「定められた規則」は、任意に定められていれば良い。また、第3ステップのトルク制御は、例えば指令値をゼロトルクとするが、他のトルク値を用いても良い。
【0013】
この方法によると、第5ステップにおける目標変速段の摩擦板と外輪との接触の完了の後、第6ステップにおいてローラクラッチのローラによる係合を行わせるときに、回転数制御により電動モータを制御しながら係合させる。そのため、ローラを楔状空間の係合側へ緩やかに進入させることができて、係合ショックと異音が生じ難くなる。すなわち、目標変速段の摩擦板と外輪との接触の完了後に、前記提案例のようにトルク指令によりローラクラッチのローラによる係合を行わせようとすると、ローラが加速しながら急に楔状空間の係合側へ進入することになる。そのため係合ショックと異音が生じ易くなるが、回転数制御によると上記のような楔状空間へのローラの急な進入が防止できる。
また、第5ステップにおける目標変速段の摩擦板と外輪との接触の前に、第4ステップにおいて、目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数が同期するように、電動モータの回転数を回転数制御により加速または減速させてシンクロ動作させる。そのため、ローラクラッチにおける、内輪および保持器と共に回転する摩擦板と、外輪との回転数差による変速ショックと、異音の発生が防止できる。
なお、第3ステップにおいて、電動モータをトルク制御で回転させるが、トルクの目標値をゼロとすれば、ギヤのバックラッシュに起因する音や、ローラクラッチとギヤ間の摩擦音が低減できる。
【0014】
この発明において、前記第4ステップにおける前記電動モータのシンクロ動作時に、現変速段(目標変速段に切り換わる前の変速段)のローラクラッチの係合非係合を判断し、係合が解除されていないと判断した場合に、前記シフト部材を現変速段側へ移動させても良い。
電動モータのシンクロ動作時に、ローラクラッチのローラによる係合(以下、「ローラクラッチの係合」、「ローラクラッチ係合」、「クラッチの係合」または「クラッチ係合」と称する場合がある)が解除されていない場合、そのままではシンクロ動作が完了できない。これにつき、上記のように、シフト部材を現変速段側へ移動させることで、再度、現変速段側のローラクラッチの係合を解除させ、シンクロ動作を完了することができる。
【0015】
上記の係合が解除されていない場合に行う現変速段側への前記シフト部材の移動中に、ローラクラッチの外輪と内輪の回転数差を計測し、回転数差が一定回転数未満となった場合のみ、現変速段のローラクラッチのローラによる係合を解除させるようにしても良い。
上記のように現変速段側へのシフト部材の移動を行う場合、移動中に、現変速段のローラクラッチの係合が解除される恐れがある。例えば、急勾配の降坂路等の場合に係合解除が生じる恐れが大きい。クラッチ係合が解除され、クラッチ外輪と内輪間の回転数差が大きい状態で、現変速段側の摩擦板と外輪を接触させると、現変速段のローラクラッチに無理な荷重が作用する可能性がある。クラッチの内外輪の回転数差を計測して、回転数差が一定回転数未満となった場合のみ、現変速段のローラクラッチの係合を解除させることで、ローラクラッチの無理な荷重の発生を防ぐことができる。
【0016】
この発明において、第3ステップで、シフトアップの変速切換動作において、現変速段のローラクラッチが駆動側方向と非駆動側方向とのどちら側で係合しているかを、電動モータの駆動トルクから判断し、ローラクラッチが非駆動側方向で係合している場合は、ローラクラッチが駆動側方向で係合するように電動モータを制御するようにしても良い。
駆動側方向で係合している状態から係合を解除させることで、確実な係合解除を行うことができる。
【0017】
この発明において、前記変速切換アクチュエータの制御を行う変速ECUと、前記電動モータの制御を行うインバータ装置とを用い、シフトアップの変速切換動作において、第4ステップにおけるシンクロ動作からローラクラッチの係合までの間の回転数制御によるモータ制御において、モータ出力が負トルクの場合、前記インバータ装置でモータ出力トルクの正負を切り換えるようにしても良い。
インバータ装置によると負トルクの発生が容易に行える。
【0018】
この発明の第4ステップにおいて、前記電動モータのシンクロ動作完了時間と前記シフト部材が目標変速段のシフト準備位置(SP2nまたはSP1n)に到達する時間を比較し、シンクロ動作完了時間の方が遅い場合は、前記シフト部材を目標変速段のシフト準備位置で停止させるようにしても良い。
これにより、シンクロ動作未完了で摩擦板がクラッチ外輪に接して無理な負荷を与えることが回避される。
【0019】
この発明の第4ステップにおいて、前記電動モータのシンクロ動作完了時間と前記シフト部材が目標変速段のシフト準備位置(SP2nまたはSP1n)に到達する時間を比較し、シンクロ動作完了時間の方が早い場合は、前記シフト部材を目標変速段のシフト完了位置まで移動させても良い。
これにより、迅速に変速が行える。
【0020】
この発明の第3ステップにおけるシフトダウンの変速切換動作において、前記シフト部材が現変速段の摩擦板と外輪が接触する位置(SP2t)へ到達した時に、前記シフト部材を一旦停止させ、その時点の前記電動モータのトルクの値が、定められた値より大きい場合、前記電動モータのトルクの目標値をゼロにして、ローラクラッチの係合を解除させても良い。
【0021】
この発明の第6ステップにおいて、目標変速段の摩擦板と外輪間の接触動作完了後、さらに回転数制御を継続させて、目標変速段のローラクラッチを係合させても良い。これにより、係合時のショックと係合時の異音を低減することができる。
【0022】
この発明の第5ステップにおいて、目標変速段のローラクラッチの破損を防ぐため、ローラクラッチの外輪と内輪の回転数差を計測して、目標変速段の摩擦板と外輪間の接触動作を行っても良い。これにより、クラッチに無理な荷重が作用することが回避できる
【0023】
この発明の第7ステップにおいて、目標変速段のローラクラッチの係合後、回転数制御からトルク制御へ切り換える瞬間に、回転数制御時の入力トルクとアクセル開度に基づくトルク制御時の入力トルクとに大きな差があった場合、前記電動モータの入力トルクの不連続を解消するように補間しても良い。これにより、ドライブシャフトの捩れ振動が大きくなる欠点が解消できる。
【0024】
この発明の電気自動車の変速制御方法は、車両の前輪もしくは後輪の一方、または両方を駆動する電気自動車に適用しても良く、またエンジンにより車両の前輪または後輪の一方を駆動し、前記電動モータで他の車輪を駆動するハイブリッド電気自動車に適用しても良い。
【0025】
この発明において、前記電動モータが車両用埋込永久磁石同期モータであり、自動変速時以外は、前記電動モータの制御はトルク制御とし、変速時にトルク制御と回転数制御を切り換えるようにしても良い。走行用の電動モータの制御は、基本的にはトルク制御が種々の面で優れていて一般的であるが、変速時にトルク制御と回転数制御を切り換えることで、滑らかで確実な変速が行える。
この場合に、PWMデューティVu,Vv,Vwの生成時に、前記電動モータのロータの回転角は計算式から求められる予測値を用いても良い。予測値を用いると、電動モータの転流位相の遅れを防ぐことができる。
上記のように自動変速時以外は、前記電動モータの制御はトルク制御とし、変速時にトルク制御と回転数制御を切り換える場合に、前記電動モータの制御方式はベクトル制御で、トルク制御と回転数制御との二つのフィードバック制御を切り換えるようにしても良い。このベクトル制御でかつ上記二つのフィードバック制御を採用することで、精度良く、効率的に電動モータの制御が行える。
【0026】
この発明の電気自動車の変速制御装置は、制御対象となる電気自動車が、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、
前記各ローラクラッチは、内輪と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に保持させることで切断状態となり、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となる構成であり、
前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータによるシフト部材の進退によって切り換える機構である、
電気自動車における変速制御装置であって、
アクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成する変速指令生成手段81と、
前記変速指令に応答して現変速段の摩擦板と外輪との接触が解除するように前記変速切換アクチュエータを動作させる現変速段接触解除制御手段82と、
現変速段の摩擦板と外輪との接触が解除された後に、現変速段のローラクラッチのローラによる係合が解除されるまで前記電動モータをトルク制御で回転させる変速時トルク指令手段83と、
現変速段のローラクラッチの係合が解除した後に、目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数が同期するシンクロ動作を行うように、前記電動モータの回転数を回転数制御により加速または減速させる同期制御手段84と、
前記外輪と内輪の回転数の同期状態で、目標変速段の摩擦板を外輪と接触させるように前記変速切換アクチュエータを動作させる目標変速段接触制御手段85と、
目標変速段の摩擦板が外輪と接触した状態で、目標変速段のローラクラッチのローラによる係合が行われるまで回転数制御により前記電動モータを制御する目標変速段回転数制御手段86と、
目標変速段のローラクラッチが係合した後、前記電動モータの制御を回転数制御からトルク制御に切り換え、この切換時に、トルク補間制御を行うトルク補間制御手段87とを含む。
【0027】
この構成によると、この発明方法につき説明したのと同様に、目標変速段接触制御手段85による、目標変速段の摩擦板と外輪との接触の完了の後、目標変速段回転数制御手段86によってローラクラッチのローラによる係合を行わせるときに、回転数制御により電動モータを制御しながら係合させる。そのため、ローラを楔状空間の係合側へ緩やかに進入させることができて、係合ショックと異音が生じ難くなる。すなわち、目標変速段の摩擦板と外輪との接触の完了後に、トルク指令によりローラクラッチのローラによる係合を行わせようとすると、ローラが加速しながら急に楔状空間の係合側へ進入することになる。そのため係合ショックと異音が生じ易くなるが、回転数制御によると上記のような楔状空間へのローラの急な進入が防止できる。
また、目標変速段接触制御手段85の制御による目標変速段の摩擦板と外輪との接触の前に、同期制御手段84によって、目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数が同期するように、電動モータの回転数を回転数制御により加速または減速させてシンクロ動作させる。そのため、ローラクラッチにおける、内輪および保持器と共に回転する摩擦板と、外輪との回転数差による変速ショックと、異音の発生が防止できる。
【0028】
この発明の電気自動車の変速制御装置において、前記同期制御手段84は、前記電動モータのシンクロ動作時に、現変速段のローラクラッチの係合非係合を判断し、係合が解除されていないと判断した場合に、前記シフト部材を現変速段側へ移動させるようにしても良い。
この場合に、前記同期制御手段84は、現変速段側への前記シフト部材の移動中に、ローラクラッチの外輪と内輪の回転数差を計測し、回転数差が一定回転数未満となった場合のみ、現変速段のローラクラッチのローラによる係合を解除させるようにしても良い。
【0029】
前記変速時トルク指令手段83は、シフトアップの変速切換動作において、現変速段のローラクラッチが駆動側方向と非駆動側方向とのどちら側で係合しているかを、前記電動モータの駆動トルクから判断し、ローラクラッチが非駆動側方向で係合している場合は、ローラクラッチが駆動側方向で係合するように前記電動モータを制御するものであっても良い。
【0030】
この発明の電気自動車の変速制御装置において、前記電動モータを制御するインバータ装置62が、トルク指令によってベクトル制御およびフィードバック制御によるトルク制御を行うトルク制御部74と、速度指令によってベクトル制御およびフィードバック制御による回転数制御を行う速度制御部73とを有し、前記同期制御手段84および目標変速段回転数制御手段86による回転数制御は、前記同期制御手段84および目標変速段回転数制御手段86から前記インバータ装置62の前記速度制御部73に回転数の指令を与え、前記速度制御部73に回転数制御を行わせるようにしても良い。
【発明の効果】
【0031】
この発明の電気自動車の変速制御方法は、制御対象となる電気自動車が、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に位置させることで切断状態となり、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となる構成であり、前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータによるシフト部材の進退によって切り換える機構である、電気自動車における変速制御方法において、アクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成する第1ステップと、前記変速指令に応答して前記変速切換アクチュエータを動作させ、現変速段の摩擦板と外輪との接触を解除する第2ステップと、前記電動モータをトルク制御で回転させて、現変速段のローラクラッチのローラによる係合を解除する第3ステップと、目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数が同期するシンクロ動作を行うように、前記電動モータの回転数を回転数制御により加速または減速させる第4ステップと、前記変速切換アクチュエータを動作させ、目標変速段の摩擦板と外輪とを接触させる第5ステップと、回転数制御により前記電動モータを制御しながら目標変速段のローラクラッチのローラによる係合を行わせる第6ステップと、前記電動モータの制御を回転数制御からトルク制御に切り換え、この切換時に、トルク補間制御を行う第7ステップ、とを含むため、目標変速段の摩擦板と外輪との接触完了の後、ローラクラッチのローラによる係合を行わせるときに、ローラが加速しながら急に楔状空間に進入して係合係合ショックと異音が生じることが防止でき、かつ目標変速段の摩擦板と外輪とを係合させるときの回転数差による変速ショックと異音発生が防止できる。
【0032】
この発明の電気自動車の変速制御装置は、制御対象となる電気自動車が、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に保持させることで切断状態となり、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となる構成であり、前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータによるシフト部材の進退によって切り換える機構である、電気自動車における変速制御装置であって、アクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成する変速指令生成手段と、 前記変速指令に応答して現変速段の摩擦板と外輪との接触が解除するように前記変速切換アクチュエータを動作させる現変速段接触解除制御手段と、現変速段の摩擦板と外輪との接触が解除された後に、現変速段のローラクラッチのローラによる係合が解除されるまで前記電動モータをトルク制御で回転させる変速時トルク指令手段と、現変速段のローラクラッチの係合が解除した後に、目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数が同期するシンクロ動作を行うように、前記電動モータの回転数を回転数制御により加速または減速させる同期制御手段と、前記外輪と内輪の回転数の同期状態で、目標変速段の摩擦板を外輪と接触させるように前記変速切換アクチュエータを動作させる目標変速段接触制御手段と、目標変速段の摩擦板が外輪と接触した状態で、目標変速段のローラクラッチのローラによる係合が行われるまで回転数制御により前記電動モータを制御する目標変速段回転数制御手段と、目標変速段のローラクラッチが係合した後、前記電動モータの制御を回転数制御からトルク制御に切り換え、この切換時に、トルク補間制御を行うトルク補間制御手段、とを含むため、目標変速段の摩擦板と外輪との接触完了の後、ローラクラッチのローラによる係合を行わせるときに、ローラが加速しながら急に楔状空間に進入して係合ショックと異音が生じることが防止でき、かつ目標変速段の摩擦板と外輪とを係合させるときの回転数差による変速ショックと異音発生が防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の一実施形態に係る変速制御方法を適用する電気自動車の概略図である。
【図2】同実施形態に係る変速制御方法を適用するハイブリッド車の概略である。
【図3】図1,図2に示す車両の車両用モータ駆動装置の断面図である。
【図4】同車両用モータ駆動装置の変速比切換機構の断面図である。
【図5】同車両用モータ駆動装置を制御する変速制御システムの概略ブロック図である。
【図6】同車両用モータ駆動装置のインバータ装置の構成図である。
【図7】同車両用モータ駆動装置の自動変速制御方法の概要を示すフローチャート図である。
【図8】同車両用モータ駆動装置のインバータ制御装置のブロック図である。
【図9】同車両用モータ駆動装置の自動シフトアップ変速の前半を示すフローチャート図である。
【図10】同自動シフトアップ変速の後半を示すフローチャート図である。
【図11】同自動シフトアップ変速の切換概念図である。
【図12】同車両用モータ駆動装置の自動シフトダウン変速の前半を示すフローチャート図である。
【図13】同自動シフトダウン変速の後半を示すフローチャート図である。
【図14】同自動シフトダウン変速の切換概念図である。
【図15】同電気自動車における車両用モータ駆動装置の変速制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【図16】図4の一部の拡大断面図である。
【図17】図4のXVII-XVII 線に沿った断面図である。
【図18】図4のXVIII-XVIII 線に沿った断面図である。
【図19】図4のXIX-XIX 線に沿った断面図である。
【図20】同車両用モータ駆動装置のシフト機構を示す断面図である。
【図21】図4の変速比切換機構におけるローラクラッチ等の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、この発明の実施形態にかかる電気自動車の変速制御方法および変速制御装置を説明する。図1は、左右一対の前輪1を車両用モータ駆動装置Aで駆動される駆動輪とし、左右一対の後輪2を従動輪とした電気自動車EVを示す。
【0035】
図2は、左右一対の前輪1をエンジンEによって駆動される主駆動輪とし、左右一対の後輪2を車両用モータ駆動装置Aで駆動される補助駆動輪としたハイブリッド自動車HVを示す。ハイブリッド自動車HVには、エンジンEの回転を変速するトランスミッションTMと、トランスミッションTMから出力された回転を左右の前輪1に分配するディファレンシャルDとが設けられている。この実施形態の変速制御方法および変速制御装置は、図1,図2の車両用モータ駆動装置Aに適用される。
【0036】
図3に示すように、車両用モータ駆動装置Aは、走行用の電動モータ3と、電動モータ3の出力軸4の回転を変速して出力する変速機5と、その変速機5から出力された回転を図1に示す電気自動車EVの左右一対の前輪1に分配し、または、図2に示すハイブリッド車の左右一対の後輪2に分配するディファレンシャル6とを有する。
【0037】
変速機5は、変速段数が2段であって、図3に示すように、互いに変速比が異なる複数(この例では2列)の変速段のギヤ列LA,LBと、電動モータ3の出力軸であるモータ軸4に連結された入力軸7と前記各変速段のギヤ列LA,LBにそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチ16A,16Bと、これら各ローラクラッチ16A,16Bの断続の切換を行う変速比切換機構40とを有する。
【0038】
変速機5および変速比切換機構40については、ここでは変速制御方法および変速制御装置の理解に必要な範囲で簡単に説明し、変速制御方法および変速制御装置の説明の後に、詳細に説明する。
【0039】
変速機5は、モータ軸4の回転が入力される入力軸7と、入力軸7に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸8と、上記各ギヤ列LA,LBとを有する平行軸常時噛合型変速機である。1速ギヤ列LAの入力ギヤ9Aおよび2速ギヤ列LBの入力ギヤ9Bが入力軸に一体に設けられ、1速ギヤ列LAの出力ギヤ10Aおよび2速ギヤ列LBの出力ギヤ10Bが出力軸8の外周に回転自在に設置されている。これら各出力ギヤ10A,10Bと出力軸8の間に、前記ローラクラッチ16A,16Bが介在させてある。
【0040】
各ローラクラッチ16A,16Bは、図17に示す2速のローラクラッチ16Bの例で説明するように、外周面が多角形状とされた内輪18Bの外周の平面状の各カム面19と外輪23Bの内周の円筒面間に設けられた各楔状空間Sにローラ20が介在する。楔状空間Sは、円周方向の両側が狭まり、円周方向の中央が広がり部分となる。各ローラクラッチ16A,16Bは、各ローラ20が楔状空間Sの狭まり部分に係合することで接続状態となり、保持器21Bにより各ローラ20を楔状空間Sの広がり部分に位置させることで切断状態となる構成である。
【0041】
外輪23A,23Bは、外周部が前記出力ギヤ10A,10Bとされている。内輪18A,18Bは、スプライン等により出力軸8に対して相対回転不能に設けられる。円滑な相対回転、つまり空転を可能とするため、外輪23A,23Bを構成する出力ギヤ10A,10Bと内輪18A,18Bとの間には、ローラクラッチ16A,16B以外に軸受15(図3,図4)が設けられる。
【0042】
変速比切換機構40は、図4に示すように、ローラクラッチ16A,16Bの保持器21A,21Bに連結されて回転する環状の摩擦板35A,35Bの外輪23A,23Bへの接触と離間とを変速切換アクチュエータ47による、シフト部材であるシフトフォーク45の進退によって切り換える機構である。シフト機構41は、変速比切換機構40のうちの、摩擦板35A,35Bを動作させる機構部分であり、変速切換アクチュエータ47とシフトフォーク45により構成される。
【0043】
変速切換アクチュエータ47は、シフト用の電動モータであり、その出力軸47aの回転を、送りねじ機構48によりシフトロッド46の直動運動に変換し、シフトロッド46に取り付けたシフトフォーク45を軸方向に移動させる。シフトフォーク45の移動により、シフトスリーブ43およびシフトリング34が移動する。シフトリング34が摩擦板35A,35Bを、クラッチ外輪23A,23B(出力ギヤ10A,10B)の側面に押し付ける。これにより、カム面付きの内輪18A,18Bと外輪23A,23Bとが相対回転する場合に、摩擦板35A,35Bと外輪23A,23Bとの間に摩擦力(トルク)が作用し、保持器21A,21Bを介してローラ20を楔状空間Sの狭まり部分に押し込むことができる。
【0044】
なお、保持器21A,21Bは内輪18A,18Bに対して回転自在であるが、スイッチばね22A,22B(図16,図18)により、内輪18A,18Bのカム面19(図17)の中央、つまり楔状空間Sの広がり部分である中立位置とポケット21aの円周方向中央とが一致するように付勢される。摩擦板35A,35Bは、上記スイッチばね22A,22Bにより、保持器21A,21Bと共に回転可能なように連結されている。
【0045】
図5は、車両用モータ駆動装置Aを制御する制御システムを示すブロック図である。この制御システムは、統合ECU60、変速ECU61、およびインバータ装置62を有する。統合ECU60、変速ECU61、およびインバータ装置62の3者間の信号転送はCAN通信(コントローラー・エリア・ネットワーク)で行われる。
統合ECU60は、車載全ての電子制御装置間の協調制御を行う電子制御装置であり、図示しない車両用ブレーキ装置やステアリング装置と協調して指示を出す。統合ECU60はアクセルペダル63に接続されており、アクセルペダル63からの信号に基づいて算出されるアクセル開度の信号であるアクセル信号を変速ECU61に出力する。
【0046】
変速ECU61は、車速の検出信号と、ECU60から出力されたアクセル信号を受け取り、自動変速の制御を行う電子制御装置であり、各種入力信号に基づいて変速判断を行ない、変速機5の変速切換アクチュエータ47とインバータ装置62に指令を出す。変速ECU61には、運転者により操作される変速操作部64(例えば、自動変速モードと手動変速モードを切り換えるタクトスイッチや、手動変速モードにおいて変速段を手動で切り換えるためのシフトレバー)から変速操作の状態を示す信号が入力される。変速ECU61には、車速センサ65から現在の車両の速度を示す信号が入力される。また、変速ECU61は、変速切換アクチュエータ47のシフト位置センサ68からシフト位置を検出し、インバータ装置62から電動モータ3の回転数を取得する機能を有する。変速ECU61は、運転席の液晶表示装置や表示ランプ等の表示部67に、車速、走行用の電動モータ回転数、トルク指令値等を表示させる手段(図示せず)を備えている。
【0047】
変速ECU61には、自動変速モードと手動変速モードの変速モードがプログラムされており、自動変速モードと手動変速モードは、運転者による変速操作部64の操作によって切り換えられる。
この実施形態の変速制御方法および変速制御装置は、変速ECU61による自動変速モードにおける制御に係る。変速ECU61は、図15に示す各種の機能達成手段(81〜87)を有しているが、これらの手段については後に説明する。
【0048】
図5において、インバータ装置62は、バッテリ69から直流電力が供給されて、電動モータ3に交流のモータ駆動電力を供給するとともに、その供給電力を変速ECU61からの信号に基づいて制御する。インバータ装置62には、電動モータ3に設けられた回転検出装置であるレゾルバ66から、電動モータ3の回転数を示す信号が入力される。
【0049】
インバータ装置62は、図6に示すように、IGBTモジュールからなるインバータ71と、このインバータ71を制御するインバータ制御回路72とで構成される。インバータ71は、U,V,W相の上側アームスイッチング素子Up,Vp,Wpと、U,V,W相の下側アームスイッチング素子Un,Vn,Wnとの接続点に電動モータ3の各相(U,V,W相)の端子を接続したものである。インバータ71には、3相180度通電型(正弦波通電)の交流電力を出力するように、インバータ制御回路72から各スイッチング素子Up,Vp,Wp,Un,Vn,Wnに開閉指令が与えられる。
【0050】
電動モータ3は、3相の正弦波通電により、転流を行っている。電動モータ3は、IPMモータ(埋込永久磁石同期モータ)である。IPM電動モータ3の駆動のためには大電流が必要であり、インバータ71内の前記各スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )が使用されている。
【0051】
図8はインバータ制御回路72の構成を主に示すブロック図である。このインバータ制御回路72は、トルク制御と回転数制御とに切り換えて制御可能としてあり、トルク制御と回転数制御とも、フィードバック制御で、かつベクトル制御である。変速時はトルク制御と回転数制御とを行い、変速時以外のときはトルク制御を行う。
【0052】
同図のインバータ制御回路72の構成を、トルク制御方法の概要と共に説明する。
電流指令部101には、トルク制御時は、アクセル信号から変速ECU61のトルク指令部110で生成されたトルク指令が入力される。なお、図8おける変速ECU61のトルク指令部110および速度指令部106は、変速ECU61の構成要素のうち、トルク指令および速度指令を出力する手段を総称して示している。
電流指令部101は、このトルク指令と、レゾルバ66で検出された電動モータ回転数とから、定められた規則に従って電流指令値を作り出す。具体的には、トルク指令と電動モータ回転数に応じて、変速ECU61またはインバータ制御回路72に設けられた最大トルク制御テーブル(図示せず)を参照し、相応なトルク指令値を算出する。算出されたトルク指令値に基づき、電動モータ3の相電流(Ia)と電流位相角(β)の指令値を生成する。これら相電流Iaと電流位相角βの指令値に基づき、d軸電流(界磁成分)O_Idと、q軸電流(トルク成分)O_Iqに分けて電流のベクトル制御およびフィードバック制御を行う。
【0053】
電流PI制御部102は、電流指令部101から出力されたd軸電流O_Id、q軸電流O_Iqの値と、モータ電流および回転子角度から3相/2相変換部104で計算された2相電流Id,Iqとから、PI制御による電圧値による制御量Vd,Vqを算出する。前記3相/2相変換部104では、電流センサ105で検出される電動モータのu相電流(Iu)とw相電流(Iw)の検出値から、次式、Iv=−(Iu+Iw)、で求められるv相電流(Iv)を算出し、Iu,Iv,1wの3相電流からId,Iqの2相電流に変換する。この変換に使われる電動モータ3の回転子角度は、レゾルバ66から取得する。
【0054】
2相/3相変換部103は、入力された2相の制御量Vd,Vqに基づき、3相のPWMデューティVu,Vv,Vwに変換する。変換に使われるモータ回転子の回転角は、計算時間、信号転送等の遅れに影響されないように、予測計算部111の計算で、Θ+ΔΘ(ΔΘ=Θ−OId_Θ)式から求められる予測値を使用している。
ここで、Θ:現回転子の回転角度(電気角)
OId_Θ:前サンプル時間での回転角度(電気角)
である。
【0055】
電力変換部62aは、PWMデューティVu,Vv,Vwに従ってインバータ71(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))をPWM制御し、電動モータ3を駆動する。
【0056】
同図のインバータ制御回路72による回転数制御を説明する。
速度指令部106は、インバータ制御回路72に対して速度指令を与える手段であり、変速ECU61に設けられている。速度指令部106は、変速時の車速と選択された目標変速段の変速比に基づき、電動モータ3の目標回転数を算出する。算出した目標回転数は、速度指令としてインバータ装置62のインバータ制御回路72に指示される。
【0057】
また、電動モータ3の回転子角度をレゾルバ66から取得し、実際の電動モータ3の回転数を速度計算部108で算出する。速度指令部106の速度指令と、速度計算部108で算出した実際の電動モータ回転数の差分を比較部109で求め、その差分に対つき、制御部107でPID制御(比例積分微分制御)、あるいはPI制御(比例積分制御)を行い、制御量をトルク指令として、電流指令部101に入力する。回転数制御時、この速度計算部108の速度指令に基づくトルク指令が、トルク指令部110からのトルク指令に代えて電流指令部101に入力される。
回転数制御では、電動モータ3の目標回転数は1msec間隔で計算され、変速中に車速が急に変化しても、変速の目標回転数は車速の変化を追及できる特徴をもつ。それによって、変速ショックを低減することができる。
【0058】
図7は、2ウェイローラクラッチ16A,16Bを備えた2段の自動変速制御方法の概要を示すフローチャートである。この制御方法では第1ステップS1から第7ステップS7の動作を順次行う。
第1ステップS1では、変速ECU61(図5)により、アクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成し、この変速指令を出す。アクセル信号は、アクセルペダル63の開度の信号であり、アクセルペダル63から統合ECU60に入力され、統合ECU60から変速ECU61に与えられる。車速は、車速センサ65から変速ECU61に入力される。
第2ステップS2では、前記変速指令であるアクチュエータ駆動指令により変速切換アクチュエータ47を駆動してシフトフォーク45を動作させ、現変速段の摩擦板35A,35Bとローラクラッチ16A,16Bの外輪23A,23Bとの接触を解除する。
第3ステップS3では、走行用の電動モータ3をゼロトルク制御で回転させて、現変速段のローラクラッチ16A,16Bのローラ20の係合を解除する。
【0059】
第4ステップS4では、目標変速段のローラクラッチ16A,16Bの外輪23A,23Bと内輪18A,18Bの回転数が同期するように、つまりシンクロ動作するように、電動モータ3の回転数を回転数制御により加速または減速させる。この回転数制御によりシンクロ動作させる制御は、変速ECU61によりインバータ装置62のインバータ制御回路72を用いて行う。
第5ステップS5では、変速ECU61により変速切換アクチュエータ47を駆動させてシフトフォーク45を動作させ、目標変速段の摩擦板35A,35Bとローラクラッチ16A,16Bの外輪23A,23Bとを接触させる。
第6ステップS6では、回転数制御により電動モータ3を制御しながらローラクラッチ16A,16Bのローラ20を係合させる。この制御は、変速ECU61によりインバータ装置62のインバータ制御回路72を用いて行う。
第7ステップS7では、電動モータ3の制御を回転数制御からトルク制御に切り換える。この切換時に、トルク補間制御を行う。このトルク補間制御は、回転数制御時の入力トルクとアクセル開度に基づくトルク制御時の入力トルクとに大きな差があった場合、ドライブシャフトの捩れ振動が大きくなる欠点を解消するために、電動モータ3の入力トルクの不連続を解消するように、電動モータ3の駆動トルクを補間して滑らかに入力する。
【0060】
図9,図10は、自動シフトアップ変速のフローチャート図であり、図11は自動シフトアップ変速の切換概念図(変速切換アクチュエータのシフト位置、電動モータの回転数制御とトルク制御の切換および変速機の回転数の時間変化を示す図)である。
図11において、符号(1) で示す図の部分は、シフトフォーク45(シフトロッド46)のシフト位置を示す。符号(2) で示す図の部分は、トルク制御方法と回転数制御方法の切換を示す。符号(3) で示す図の部分は、入力回転数(Ngi )と目標回転数(Ngo )を示す。
ただし、 Ngi:入力回転数(クラッチ外輪に対応)、
Ngo:出力回転数(クラッチ内輪に対応)、
r2 :2速減速比、
である。
入力回転数は電動モータ3の回転数で、出力回転数は車速とディファレンシャル6(図3)での減速比から換算する。
なお、本実施形態では、便宜上、外輪の回転数としてNgi を、内輪の回転数としてNgo ×r2(2速のローラクラッチ16Bの内輪18Bの場合)またはNgo ×r1(1速のローラクラッチ16Aの内輪18Aの場合で、r1は1速減速比)を用いる。
【0061】
シフトアップ変速切換の制御に関して具体的に説明する。次に述べる第1〜第7の各ステップは、図7と共に概要を説明したステップS1〜S7である。
第1ステップ:時間(時刻)t0に変速指令が出され、シフトアップ変速を開始する(図9のステップQ1)。
第2ステップ:変速切換アクチュエータ47の位置制御によりシフトフォーク45は1速のシフト位置SP1fからSP1tへ移動する(Q2)。この間、トルク制御を、変速切換の前より継続して、電動モータ3を制御する。そのため、現変速段のローラクラッチ16Aの係合は解除されず、駆動輪にトルクは伝達される。位置SP1tへ到達した直後、現変速段の摩擦板35Aと外輪23A間の接触は解除される(Q3)。
【0062】
第3ステップ:時間t1にシフトフォーク45が位置SP1tへ到達し、変速切換アクチュエータ47を一旦停止させる(Q4)。現変速段のローラクラッチ16Aが確実に駆動側方向(正方向)に係合していることを確認するため、電動モータのトルクTを判定する(Q5)。下記(1) 、(2) で判断条件を説明する。
【0063】
(1) T >T1の場合、ローラ20が駆動側方向(正方向)で確実に係合しているため、即時に現変速段のローラクラッチ16Aの係合を解除することができる。二つの解除方法が使用できる。方法1:トルク制御によりトルクをゼロとする制御方法、方法2:回転数制御により負トルクを入力する制御方法。(T1:トルク閾値)
方法1:トルク制御により、電動モータ3のトルクTの目標値をゼロにして(Q6)、Δt1に渡って電動モータ3を制御する(Q7)。そうすると、電動モータ3が惰性で速度が落ちるため、現変速段のローラクラッチ16Aの外輪23Aと内輪18Aの回転数差が生じる。生じた回転数差により、ローラクラッチ16Aが正方向係合位置からニュートラル位置に戻される。ニュートラル位置に戻された直後に現変速段のローラクラッチ16Aの係合が解除される。
方法1の特徴:ローラクラッチ16Aを解除する際、歯車のバックラッシュに起因する音や、ローラクラッチ16Aと出力ギヤ10A間の摩擦音を低減できる。一方、変速時間が増加する欠点もある(Δt1の時間を設けたため)。(図9に示す方法)
方法2:第4ステップのシンクロ動作時に、電動モータのトルクを負とすることで、シンクロ開始直後にローラクラッチ16Aの係合は解除される。
方法2の特徴:変速時間を低減できる一方、出力ギヤ10Aのバックラッシュに起因する音や摩擦音が増加する欠点がある。
【0064】
(2) T ≦T1の場合、ローラ20が駆動側方向(正方向)に係合していない。駆動側方向に係合させる制御を行う。まず、トルク制御により、T =T1にして(Q9)、Δt2の間にローラ20を正方向に係合させる(Q10)。次に、現変速段のローラクラッチ16Aの係合を解除する動作を行う。解除方法は(1) の二つの方法と同様で、例えば、方法2を採用する。
【0065】
第4ステップ:電動モータ3を回転数制御によりシンクロ動作を行う(Q11)。(シンクロ動作:入力回転数を目標回転数に近づける動作)。目標回転数はNgo ×r2+ΔN3とする。
(+ΔN3)の理由:シンクロ終了時に、クラッチ内輪回転数はNgo ×r2、クラッチ外輪回転数(目標回転数)はNgo ×r2+ΔN3、ただし、ΔN3>0 となるべきで、ΔN3はローラクラッチ16Bの内輪18Bと外輪23Bの回転数差として用いられる。ΔN3>0 により、目標変速段のローラクラッチ16Bは駆動側方向(正方向)で係合できる。ΔN3≦0 では、ローラクラッチ16Bは非駆動側方向(負方向)で係合する。
時間t2に変速切換アクチュエータ47を動作させ、シンクロ動作を開始する(Q11)。この際、電動モータ3の制御を回転数制御に切り換える。インバータ装置62は電動モータ出力トルクの正負を設定できる特徴を持つ。そのため、シンクロ開始直後にローラクラッチ16Aの係合は解除される(第3ステップの方法2のクラッチ解除方法である)。現変速段のクラッチ係合が確実に解除されたかどうかの判断を、シンクロ動作がΔt3経た後に行う(Q12,Q13)。判断条件は下記の分岐(1) と(2) になる。
【0066】
分岐(1) Ngi ≧Ngo ×r1−ΔN1 (ΔN1:回転数の閾値):
現変速段のローラクラッチ16Aの係合は解除されていない。変速切換アクチュエータ47を位置SP1tに戻し、再びローラクラッチ16Aの係合の解除を行う(Q28〜Q33,Q2)。
即時に、変速切換アクチュエータ47を停止し(Q28)、電動モータ3の制御をトルク制御に切り換え(Q29)、ゼロトルクとする(T =0 )。変速切換アクチュエータ47を位置SP1tまで引戻す(Q30)。しかし、変速切換アクチュエータ47が位置SP1tまで移動する間に、ローラクラッチ16Aの係合は解除される恐れがある(急勾配の降坂路)。クラッチ係合が解除され、クラッチ外輪と内輪間の回転数差が大きく生じた状態で、現変速段の摩擦板35Aと外輪23A間を接触させるとローラクラッチ16A自体に無理な負荷が作用して破損する可能性がある。ローラクラッチ16Aの無理な負荷を防ぐため、SP<SP1tの間に、ローラクラッチ16Aの外輪23Aと内輪18Aの回転数をチェックしながら、変速切換アクチュエータ47の引戻し動作を行う(Q31)。
【0067】
|Ngi −Ngo ×r1|<ΔN2且つSP≧SP1tの場合(Q31,Q32)、変速切換アクチュエータ47を停止させ(Q33)、第2ステップにジャンプし(Q2)、再びローラクラッチ16Aを解除する。
|Ngi −Ngo ×r1|≧ΔN2の場合は、即時に変速切換アクチュエータ47を停止させ(Q27)、制御システムの変速制御をリセットする。(ΔN2:現変速段係合のためのクラッチ外輪と内輪の許容回転数差)
【0068】
分岐(2) Ngi <Ngo ×r1−ΔN1:
現変速段のローラクラッチ16Aの係合は確実に解除されたと判断して、シンクロ動作を継続する(Q13〜Q14)。電動モータ3のシンクロ動作完了時間(t3)と変速切換アクチュエータのシフト位置SP2nへの到達時間(t4)の順序により、制御は、分岐[1] ,[2] に分けられる(Q14)。
【0069】
分岐[1] :t3≧t4
変速切換アクチュエータ47がシフト位置SP2nに達するまでの移動は、電動モータ3のシンクロ動作以前に完了。目標変速段のローラクラッチ16Bに無理な負荷が作用しないようにするため、ローラクラッチ16Bの外輪23Bと内輪18Bの回転数差をチェックする(Q34)。
(Ngo ×r2+ΔN3)−ΔN4<Ngi ≦Ngo ×r2+ΔN3の条件が、
YESの場合は第5ステップのQ17にジャンプ。
NOの場合は、変速切換アクチュエータ47を停止させ、下記の分岐<1> ,<2> により、二つの動作に分けられる。(ΔN4:目標変速段のクラッチ係合のための許容回転数差)
【0070】
分岐<1> Ngi ≦(Ngo×r2+ΔN3) −ΔN4:電動モータ3の制御をトルク制御へ切り換え、T =0 にして、制御システムの変速制御をリセットする(Q37)。(許容回転数差を逸脱するとき)
分岐<2> (Ngo×r2+ΔN3) −ΔN4<Ngi ≦Ngo ×r2+ΔN3を満足するまで、シンクロ動作を継続する。シンクロ動作終了直後に、第5ステップのQ39にジャンプ。
【0071】
分岐[2] :t3<t4
電動モータ3のシンクロ動作が、変速切換アクチュエータ47がシフト位置SP2nまで移動するより前に完了した場合、下記の動作を行う。
Ngi >Ngo ×r2+ΔN3の条件が、
YES:Q14にジャンプ。
NO:Q16で下記の判断を行う。
分岐<1> (Ngo×r2+ΔN3) −ΔN4<Ngi ≦Ngo ×r2+ΔN3の場合、Q17。
分岐<2> Ngi ≦(Ngo×r2+ΔN3)−ΔN4の場合、電動モータ3の制御をトルク制御へ切り換え、T =0 にして、変速切換アクチュエータ47を停止させる。最後に、制御システムの変速制御をリセットする(Q26)。(許容回転数差を逸脱するとき)
【0072】
第5ステップ:電動モータ3のシンクロ動作終了後、変速切換アクチュエータ47のシフト位置がSP2f(時間t5)に到達するまで回転数制御を継続する。位置SP2fに到達直後、変速切換アクチュエータを停止させる(Q18)。これにより、目標変速段の摩擦板35Bと外輪23B間の接触動作完了。
【0073】
第6ステップ:さらに回転数制御を継続することにより、目標変速段のローラクラッチ16Bを係合させる動作を行う。回転数制御に使われるトルクの上限値を設定する(T =T2,Q19)。Δt4の間に、ローラクラッチ16Bを係合させる(Q20)。トルク上限値を設定する理由は、係合ショックと係合音を低減するためである。
【0074】
第7ステップ:電動モータ3の駆動トルクを徐々に出力する動作を行う。電動モータ3の制御をトルク制御に切り換える(Q22)。t7時のアクセル開度の信号を記録しているが(T =T3,Q21)、T3は電動モータ3の駆動トルクとして使わない。その代わりに、Δt5に渡り、T =T2+(T3 −T2) /Δt5の式に従って、電動モータ3の駆動トルクを補間して出力する(Q24)。
補間制御を使うことによって、回転数制御からトルク制御へ切り換える瞬間に、トルクに大きな差があった場合、ドライブシャフトの捩れ振動が大きくなる欠点を解消できる。補間終了後、リアルタイムでアクセル信号を電動モータへ出力する(T =T4)。
【0075】
図12,図13は、自動シフトダウン変速のフローチャート図であり、図14は自動シフトダウン変速の切換概念図(変速切換アクチュエータのシフト位置、電動モータの回転数制御とトルク制御の切換および変速機の回転数の時間変化を示す図)である。
図14において、符号(1) で示す図の部分は、シフトフォーク45(シフトロッド46)のシフト位置を示す。符号(2) で示す図の部分は、トルク制御方法と回転数制御方法の切換を示す。符号(3) で示す図の部分は、入力回転数(Ngi )と目標回転数(Ngo )を示す。
ただし、Ngi :入力回転数(クラッチ外輪に対応)、
Ngo :出力回転数(クラッチ内輪に対応)、
r1 :1速減速比、
である。
入力回転数は電動モータ3の回転数で、出力回転数は車速とディファレンシャル6(図3)での減速比から換算する。
【0076】
シフトダウン変速切換の制御に関して具体的に説明する。次に述べる第1〜第7の各ステップは、図7と共に概要を前述したステップS1〜S7である。
第1ステップ:時間t0に変速指令が出され、シフトダウン変速を開始する(図12のステップR1)。
第2ステップ:変速切換アクチュエータ47の位置制御によりシフトフォーク45は2速のシフト位置SP2fからSP2tへ移動する(R2)。この間、変速切換前のトルク制御を維持し、電動モータ3を制御する。そのため、現変速段のローラクラッチ16Bの係合は解除されず、駆動輪にトルクは伝達される。位置SP2tへ到達した直後、現変速段の摩擦板35Bと外輪23B間の接触は解除される(R3)。
第3ステップ:時間t1にシフトフォーク45が位置SP2tへ到達し、変速切換アクチュエータ47を一旦停止させる(R4)。現変速段のローラクラッチ16Bが確実に係合されていることを確認するため、電動モータのトルクTの判断を行う(R5)。下記(1) 、(2) で判断条件を説明する。
【0077】
(1) T >0 の場合、ローラ20が駆動側方向(正方向)に係合しており、即時に現変速段のローラクラッチ16Bの係合を解除することができる。解除方法はトルク制御によりトルクをゼロとする手法を用いる。トルク制御により、電動モータ3のトルクTの目標値をゼロにして(R6)、Δt1に渡って電動モータ3を制御する(R7)。そうすると、電動モータ3が惰性で速度が落ちるため、現変速段のローラクラッチ16Bの外輪23Bと内輪18Bの回転数差が生じる。生じた回転数差によりローラクラッチ16Bが正方向係合位置からニュートラル位置まで戻される。ニュートラル位置に戻された直後に現変速段のローラクラッチ16Bの係合が解除される。この後、変速切換アクチュエータ47の位置についてSP2tからSP1f方向への押出運転を開始する(R8)。
【0078】
(2) T =0 の場合、ローラ20は駆動側方向(正方向)に確実に係合していない。このため、ステップR8へ進み、第4ステップのシンクロ動作により、電動モータのトルクを正に設定することで、シンクロ開始直後にローラクラッチ16Bの係合は解除される。この解除方法は、上記の解除法のΔt1の時間を必要としないため、変速時間の短縮ができる。(図12に示す方法)
【0079】
第4ステップ:電動モータ3を回転数制御によりシンクロ動作を行う(R9)。(シンクロ動作:入力回転数を目標回転数に近づける動作)。目標回転数はNgo ×r1+ΔN3とする。
(+ΔN3)の理由:シンクロ終了時に、クラッチ内輪回転数はNgo ×r1、クラッチ外輪回転数(目標回転数)はNgo ×r1+ΔN3、ただし、ΔN3>0 となるべきで、ΔN3はローラクラッチ16Aの内輪18Aと外輪23Aの回転数差として用いられる。ΔN3>0 により、目標変速段のローラクラッチ16Aは駆動側方向(正方向)で係合する。ΔN3≦0 では、ローラクラッチ16Aは非駆動側方向(負方向)で係合する。
【0080】
時間t2で変速切換アクチュエータ47を動作させ、シンクロ動作を開始する(R9)。この際、電動モータ3の制御を回転数制御に切り換える。インバータ装置62は電動モータ出力トルクの正負を設定できる特性を持つ。そのため、シンクロ開始直後にローラクラッチ16Bの係合が解除される(第3ステップの(2) に示す解除方法)。現変速段のローラクラッチ16Bの係合が確実に解除されたかどうかの判断を、シンクロ動作がΔt2経た後に行うことにする(R10,R11)。判断条件は下記の分岐(1) と(2) になる。
【0081】
R11の判断で分岐(1) の場合、Ngi ≦Ngo ×r2+ΔN1(ΔN1:回転数の閾値):
現変速段のローラクラッチ16Bの係合は解除されてない可能性がある。変速切換アクチュエータ47を位置SP2tに戻し、再びローラクラッチ16Bの係合を解除する(R26〜R31)。
即時に、変速切換アクチュエータ47を停止させ(R26)、電動モータ3の制御をトルク制御に切り換えて(R27)、ゼロトルクとする(T =0 )。変速切換アクチュエータ47を位置SP2tまで引戻す(R28)。しかし、変速切換アクチュエータ47が位置SP2tまで移動する間に、ローラクラッチ16Bの係合は解除される恐れがある(急勾配の降坂路)。クラッチ係合が解除され、クラッチ外輪と内輪間の回転数差が大きくなる場合、現変速段の摩擦板35Bと外輪23Bが接触した瞬間、ローラクラッチ16Bが素早く係合するため、ローラクラッチ16Bに無理な荷重が作用する可能性がある。この無理な荷重を防ぐため、SP>SP2tの間に、ローラクラッチ16Bの外輪23Bと内輪18Bの回転数をチェックしながら、変速切換アクチュエータ47を引戻す動作を行う(R29)。
【0082】
|Ngi −Ngo ×r2|<ΔN2且つSP≦SP2tの場合(R29,R30)、変速切換アクチュエータ47を停止させ(R31)、第2ステップにジャンプ(R2)、再びローラクラッチ16Bの解除動作を行う。
|Ngi −Ngo ×r2|≧ΔN2の場合は、即時に変速切換アクチュエータ47を停止させ(R25)、制御システムの変速制御をリセットする。(ΔN2:現変速段係合ためのクラッチ外輪と内輪の許容回転数差)
【0083】
R11の判断で分岐(2) の場合、Ngi >Ngo ×r2+ΔN1:
現変速段のローラクラッチ16Bの係合は、確実に解除された。シンクロ動作を継続する(R11〜R12)。電動モータ3のシンクロ動作完了時間(t3)と変速切換アクチュエータ47のシフト位置SP1nへの到達時間(t4)の順序により、制御は分岐[1] ,[2] に分けられる(R12)。
分岐[1] :t3≧t4
変速切換アクチュエータ47のシフト位置SP1nまでの移動は、電動モータ3のシンクロ動作以前に完了。目標変速段のローラクラッチ16Aに無理な荷重が作用しないように、ローラクラッチ16Aの外輪23Aと内輪18Aの回転数差をチェックする(R32)。
Ngo ×r1+ΔN3≦Ngi <(Ngo ×r1+ΔN3) +ΔN4の条件が、
YESの場合は、第5ステップのR15にジャンプ。
NOの場合は、変速切換アクチュエータ47を停止させ、下記の分岐<1> ,<2> により、二つの動作に分けられる。(ΔN4:目標変速段のクラッチ係合のための許容回転数差)
分岐<1> Ngi >(Ngo×r1+ΔN3) +ΔN4:電動モータ3の制御をトルク制御へ切り換え、T =0 にして、制御システムの変速制御をリセットする(R35)。(許容回転数差を逸脱するとき)
分岐<2> Ngo ×r1+ΔN3<Ngi ≦(Ngo×r1+ΔN3) +ΔN4を満足するまで、シンクロ動作を継続する。シンクロ動作が終了直後に、第5ステップのR37にジャンプ。
【0084】
分岐[2] :t3<t4
電動モータ3のシンクロ動作は、変速切換アクチュエータ47がシフト位置SP1nまで移動するより前に完了。下記の動作を行う。
Ngi <Ngo ×r1+ΔN3の条件が、
YES:R12にジャンプ。
NO:R14で下記の判断を行う。
分岐<1> Ngo ×r1+ΔN3≦Ngi <(Ngo×r1+ΔN3) +ΔN4の場合、R15。
分岐<2> Ngi ≧(Ngo×r1+ΔN3) +ΔN4の場合、電動モータ3の制御をトルク制御へ切り換え、T =0 にして、変速切換アクチュエータ47を停止させる。最後に、制御システムの変速制御をリセットする(R24)。(許容回転数差を逸脱するとき)
【0085】
第5ステップ:電動モータ3のシンクロ動作終了後、変速切換アクチュエータ47のシフト位置がSP1f(時間t5)に到達するまで回転数制御を継続する。位置SP1fに到達直後、アクチュエータを停止させる(R16)。これにより、目標変速段の摩擦板35Aと外輪23A間の接触動作が完了。
【0086】
第6ステップ:さらに回転数制御を継続することにより、目標変速段のローラクラッチ16Aを係合させる動作を行う。回転数制御に使われるトルクの上限値を設定する(T =T2,R17)。Δt4の間に、ローラクラッチ16Aを係合させる(R18)。トルク上限値を設定する理由は、係合ショックと異音を低減させるためである。
【0087】
第7ステップ:電動モータ3の駆動トルクを徐々に出力する動作を行う。電動モータ3の制御をトルク制御に切り換える(R20)。t7時のアクセル開度の信号を記録しているが(T =T3,R19)、T3は電動モータ3の駆動トルクとして使わない。その代わりに、Δt5に渡り、T =T2+(T3 −T2) /Δt5の式に従って、電動モータ3の駆動トルクを補間しながら、出力する(R22)。
補間制御を使うことによって、回転数制御からトルク制御へ切り換える瞬間に、トルクに大きな差があった場合、ドライブシャフトの捩れ振動が大きくなる欠点を解消できる。補間終了後、リアルタイムでアクセル信号を電動モータへ出力する(T =T4)。
【0088】
次に、電気自動車の変速制御装置につき、図15のブロック図を参照して説明する。制御対象となる電気自動車は、上記実施形態の変速制御方法を適用する、図1〜図6と共に前述の電気自動車である。
この電気自動車の変速制御装置は、上記実施形態の変速制御方法を実施する装置であって、上記変速ECU61に、変速指令生成手段81、現変速段接触解除制御手段82、変速時トルク指令手段83、同期制御手段84、目標変速段接触制御手段85、目標変速段回転数制御手段86、およびトルク補間制御手段87を設けたものである。なお、変速ECU61は、自動変速時以外の電動モータ3の制御はトルク制御として、トルク指令をインバータ制御回路72へ出力し、変速時にトルク制御と回転数制御を切り換える。
【0089】
変速指令生成手段81は、図7の上記第1ステップS1の制御を行う手段であり、統合ECU60から与えられる上記アクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成する。
現変速段接触解除手段82は、上記第2ステップS2の制御を行う手段であり、変速指令生成手段81で生成された変速指令に応答して、現変速段の摩擦板35A,35Bとクラッチ外輪23A,23B(出力ギヤ10A,10B)との接触が解除するように、変速切換アクチュエータ47を動作させる。
【0090】
変速時トルク指令手段83は、上記第3ステップS3の制御を行う手段であり、現変速段の摩擦板35A,35Bと外輪23A,23Bとの接触が解除された後に、現変速段のローラクラッチ16A,16Bのローラ20による係合が解除されるまで、走行用の電動モータ3をトルク制御で回転させる手段であり、インバータ装置62のインバータ制御回路72にトルク指令を与える。
【0091】
同期制御手段84は、上記第4ステップS4の制御を行う手段であり、現変速段のローラクラッチ16A,16Bのローラ20の係合が解除した後に、目標変速段のローラクラッチ16A,16Bの外輪23A,23Bと内輪18A,18Bの回転数が同期するように、電動モータ3の回転数を回転数制御により加速または減速させてシンクロ動作させる。この回転数制御は、インバータ制御回路72へ回転速度の速度指令を与えることで行う。
【0092】
目標変速段接触手段85は、上記第5ステップS5の制御を行う手段であり、ローラクラッチ16A,16Bの外輪23A,23Bと内輪16A,16Bの回転数の同期状態で、目標変速段の摩擦板35A,35Bを外輪23A,23Bと接触させるように、前記変速切換アクチュエータ47を動作させる。
【0093】
目標変速段回転数制御手段86は、上記第6ステップS6の制御を行う手段であり、目標変速段の摩擦板35A,35Bが外輪23A,23Bと接触した状態で、目標変速段のローラクラッチ16A,16Bのローラ20による係合が行われるまで回転数制御により電動モータ3を制御する。この回転数制御によるモータ制御は、インバータ制御回路72へ回転速度の速度指令を与えることで行う。
【0094】
トルク補間制御手段87は、目標変速段のローラクラッチ16A,16Bのローラ20が係合した後、電動モータ3の制御を回転数制御からトルク制御に切り換え、この切換時に、トルク補間制御を行う。このトルク補間制御は、トルク補間制御手段87で補間の演算を行うと共に、その演算結果のトルク指令をインバータ制御回路72に与えることで行う。
【0095】
上記変速指令生成手段81、現変速段接触解除制御手段82、変速時トルク指令手段83、同期制御手段84、目標変速段接触制御手段85、目標変速段回転数制御手段86、およびトルク補間制御手段87は、より具体的には、それぞれ、図9〜図11、および図12〜図14と共に前述した第1〜第7の各ステップの処理を行う機能を持つ。
【0096】
なお、図15において、インバータ制御回路72は、速度制御部73と、トルク制御部74と、PWM制御部75に分けて説明している。
トルク制御部74は、インバータ制御回路72のうち、トルク制御により電動モータ3の制御の機能を果たす部分であり、図8の電流指令部101、電流PI制御部102、2相/3相変換部103、3相/2相変換部104、速度計算部108、および予測計算部111を含む。
速度制御部73は、インバータ制御回路72のうち、速度制御により電動モータ3の制御の機能を果たす部分であって、比較部109と、制御部107とを有し、トルク制御部74の電流指令部101へトルク指令を与え、その後の制御をトルク制御部74で行わせる。
【0097】
この構成の変速制御装置によると、上記実施形態の変速制御方法につき前述したのと同様に、ステップS6の制御を行う目標変速段回転数制御手段86を有するため、目標変速段の摩擦板35A,35Bと外輪23A,23Bとの接触完了の後、ローラクラッチ16,16Bのローラ20による係合を行わせるときに、ローラ20が加速しながら急に楔状空間Sに進入して係合ショックや異音を生じることが防止できる。また、ステップS4の制御を行う同期制御手段84の機能により、目標変速段の摩擦板35A,35Bと外輪23A,23Bとを係合させるときの回転数差による変速ショックと異音発生が防止できる。
【0098】
この変速制御装置は、前述のように、より具体的には図9〜図11、および図12〜図14と共に前述した第1〜第7の各ステップの処理を行う機能を持つものであり、これら図9〜図14と共に前述した各作用,効果が得られる。
【0099】
この実施形態の電気自動車の変速制御方法および変速制御装置の特徴を纏めて示すと、次のとおりである。
(1) IPM電動モータ3の制御方式はベクトル制御である。さらに、トルク制御と回転数制御の二つのフィードバック制御を切り換える制御法とする。
(2) IPM電動モータ3の転流位相の遅延を防ぐために、PWMデューティVu,Vv,Vwの生成時、ロータの回転角は計算式から求められる予測値を用いる。
(3) IPM電動モータ3の回転数制御は、PIDフィードバック制御とし、さらに、回転数制御の制御量はトルク指令として、トルク制御にて電動モータ3を制御する。
(4) 自動変速時以外のIPM電動モータ3の制御はトルク制御とし、変速時、トルク制御と回転数制御を切り換える。
(5) 係合ショックと異音を低減するために、目標変速段の摩擦板35A,35Bと外輪23A,23B間の接触動作完了後、さらに回転数制御を継続させて、目標変速段のローラクラッチ16A,16Bを係合させる。
(6) 電動モータ3のシンクロ時、現変速段のローラクラッチ16,16Bの係合が確実に解除されたかどうかチェックする。解除されていないと判断された場合、シフトフォーク45を現変速段側へ移動させる。しかし、シフトフォーク移動の間に、クラッチ係合は解除される恐れがある(急勾配の降坂路等)。クラッチ係合が解除され、クラッチ外輪23A,23Bと内輪18A,18B間の回転数差が大きい状態で、現変速段側の摩擦板35A,35Bと外輪23A,23Bを接触させると、現変速段のローラクラッチ16A,16Bに無理な負荷が作用する可能性がある。これを防ぐために、ローラクラッチ16A,16Bの内外輪の回転数差を計測して、ローラクラッチ16A,16Bの係合非係合を判断する。
(7) 目標変速段のローラクラッチ16A,16Bへ係合後、回転数制御からトルク制御へ切り換える瞬間に、回転数制御時の入力トルクとアクセル開度に基づくトルク制御時の入力トルクとに大きな差があった場合、ドライブシャフトの捩れ振動が大きくなる欠点を解消する。この解消方法として、電動モータ3の入力トルクの不連続を解消するように電動モータ3の駆動トルクを補間して滑らかに入力する。
(8) シフトアップの変速切換動作において、現変速段のローラクラッチ16A,16Bが確実に駆動側方向に係合しているかどうかの判断を、電動モータ3の駆動トルクから判断する。判断結果に応じて、ローラクラッチ16A,16Bが確実に駆動側方向に係合するように、電動モータ3を制御する。
(9)シフトアップの変速切換動作において、シンクロ動作からクラッチ係合までの間、回転数制御によって電動モータ3を制御する際、モータ出力が負トルクの場合、インバータ装置62側でモータ出力トルクの正負を切り換える。
【0100】
図3,4のモータ駆動装置の詳細を、図16〜図21と共に説明する。
図3において、モータ軸4は、入力軸7と同軸上に直列に配置されており、ハウジング11に固定された電動モータ3のステータ12で回転駆動される。入力軸7は、ハウジング11内に組込まれた対向一対の軸受13により回転可能に支持され、入力軸7の軸端はスプライン嵌合によってモータ軸4に接続されている。出力軸8は、ハウジング11内に組込まれた対向一対の軸受14により回転可能に支持されている。
【0101】
1速入力ギヤ9Aと2速入力ギヤ9Bは軸方向に間隔をおいて配置され、入力軸7を中心として入力軸7と一体に回転するように入力軸7に固定されている。1速出力ギヤ10Aと2速出力ギヤ10Bも軸方向に間隔をおいて配置されている。
【0102】
図4に示すように、1速出力ギヤ10Aは、出力軸8を貫通させる環状に形成され、軸受15を介して出力軸8で支持されており、出力軸8を中心として出力軸8に対して回転可能となっている。同様に、2速出力ギヤ10Bも、軸受15を介して出力軸8で回転可能に支持されている。
【0103】
1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aは互いに噛合しており、その噛合によって1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bも噛合しており、その噛合によって2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bの減速比は、1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aの減速比よりも小さい。
【0104】
1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間には、1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間でトルクの伝達と遮断の切換を行なう1速の2ウェイローラクラッチ16Aが組込まれている。また、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間には、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間でトルクの伝達と遮断の切換を行なう2速の2ウェイローラクラッチ16Bが組込まれている。
【0105】
1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、左右対称の同一構成なので、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを以下に説明し、1速の2ウェイローラクラッチ16Aについては、2速の2ウェイローラクラッチ16Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0106】
図16〜図18に示すように、2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、2速出力ギヤ10Bの内周に設けられた円筒面17と、出力軸8の外周に回り止めした環状の2速カム部材18Bに形成されたカム面19と、カム面19と円筒面17の間に組み込まれたローラ20と、ローラ20を保持する2速保持器21Bと、2速スイッチばね22Bとからなる。カム面19は、円筒面17との間で周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭くなる楔状空間Sを形成するような面であり、例えば、図17に示すように円筒面17と対向する平坦面である。
【0107】
図4、図21に示すように、2速保持器21Bは、ローラ20を収容する複数のポケット21aが周方向に間隔をおいて形成された円筒部24と、円筒部24の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部25とを有する。内向きフランジ部25の径方向内端は、2速カム部材18Bの外周で周方向にスライド可能に支持され、この周方向のスライドによって、2速保持器21Bは、カム面19と円筒面17の間にローラ20を係合させる係合位置とローラ20の係合を解除する中立位置との間で出力軸8に対して相対回転可能となっている。また、2速保持器21Bの内向きフランジ部25は軸方向両側への移動が規制され、これにより2速保持器21Bが軸方向に非可動とされている。
【0108】
図17に示すように、各カム面19は、回転中心を含む仮想平面に対して対称に形成され、これにより、各カム面19と円筒面17の間に配置されたローラ20は、正転方向と逆転方向の両方向で係合可能となっている。すなわち、電動モータ3が発生するトルクにより車両を前進させるときは、2速保持器21Bを出力軸8に対して正転方向に相対回転させることにより、2速保持器21Bに保持されたローラ20を、カム面19と円筒面17の間の正転方向側の空間狭まり部分に係合させ、そのローラ20を介して2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間で正転方向のトルクを伝達することが可能となっており、一方、電動モータ3が発生するトルクにより車両を後退させるときは、2速保持器21Bを出力軸8に対して逆転方向に相対回転させることにより、2速保持器21Bに保持されたローラ20を、カム面19と円筒面17の間の逆転方向側の空間狭まり部分に係合させ、そのローラ20を介して2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間で逆転方向のトルクを伝達することが可能となっている。
【0109】
図18、図21に示すように、2速スイッチばね22Bは、鋼線をC形に巻いたC形環状部26と、C形環状部26の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部27,27とからなる。C形環状部26は、2速カム部材18Bの軸方向端面に形成された円形のスイッチばね収容凹部28に嵌め込まれ、一対の延出部27,27は、2速カム部材18Bの軸方向端面に形成された径方向溝29に挿入されている。
【0110】
径方向溝29は、スイッチばね収容凹部28の内周縁から径方向外方に延びて2速カム部材18Bの外周に至るように形成されている。2速スイッチばね22Bの延出部27は、径方向溝29の径方向外端から突出しており、その延出部27の径方向溝29からの突出部分が、2速保持器21Bの円筒部24の軸方向端部に形成された切欠き30に挿入されている。径方向溝29と切欠き30は同じ幅に形成されている。
【0111】
延出部27,27は、径方向溝29の周方向で対向する内面と、切欠き30の周方向で対向する内面にそれぞれ接触しており、その接触面に作用する周方向の力によって2速保持器21Bを中立位置に弾性保持している。
【0112】
すなわち、2速保持器21Bを出力軸8に対して相対回転させて、図18に示す中立位置から周方向に移動させると、径方向溝29に対する切欠き30の位置が周方向にずれるので、一対の延出部27,27の間隔が狭まる方向にC形環状部26が弾性変形し、その弾性復元力によって2速スイッチばね22Bの一対の延出部27,27が径方向溝29の内面と切欠き30の内面を押圧し、その押圧によって2速保持器21Bを中立位置に戻す方向の力が作用するようになっている。
【0113】
図4に示すように、1速カム部材18Aと2速カム部材18Bの出力軸8に対する回り止めは、スプライン嵌合によって行なわれている。1速カム部材18Aのカム面19と2速カム部材18Bのカム面19は同数かつ同位相となっている。また、1速カム部材18Aと2速カム部材18Bは、出力軸8の外周に嵌合した一対の止め輪31によって軸方向に非可動となっている。1速カム部材18Aと2速カム部材18Bの間には間座32が組み込まれている。
【0114】
1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、変速用伝達機構33により選択的に係合することができるようになっている。
【0115】
図16に示すように、変速用伝達機構33は、1速出力ギヤ10A(断面でない部分は図示せず。図20においても同様)と2速出力ギヤ10Bの間に軸方向に移動可能に設けられたシフトリング34と、1速出力ギヤ10Aとシフトリング34の間に組み込まれた1速摩擦板35Aと、2速出力ギヤ10Bとシフトリング34の間に組み込まれた2速摩擦板35Bとを有する。
【0116】
ここで、1速摩擦板35Aと2速摩擦板35Bは、左右対称の同一構成なので、2速摩擦板35Bを以下に説明し、1速摩擦板35Aについては、2速摩擦板35Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0117】
2速摩擦板35Bには、2速保持器21Bの切欠き30に係合する突片36が設けられ、この突片36と切欠き30の係合によって、2速摩擦板35Bが2速保持器21Bに回り止めされている。2速保持器21Bの切欠き30は、2速摩擦板35Bの突片36を軸方向にスライド可能に収容しており、このスライドによって、2速摩擦板35Bは、2速保持器21Bに回り止めされた状態のまま、2速出力ギヤ10Bの側面に接触する位置と離間する位置との間で、2速保持器21Bに対して軸方向に移動可能となっている。
【0118】
2速摩擦板35Bの突片36の先端に凹部37が形成されて、間座32の外周には、凹部37に係合する凸部38が形成されている。そして、凹部37と凸部38は、2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面から離間した位置にある状態では、凹部37と凸部38が係合することで、間座32を介して2速摩擦板35Bを出力軸8に回り止めし、このとき、2速摩擦板35Bに回り止めされた2速保持器21Bが中立位置に保持されるようになっている。また、2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面に接触する位置にある状態では、凹部37と凸部38の係合が解除することで、2速摩擦板35Bの回り止めが解除されるようになっている。
【0119】
2速摩擦板35Bと2速カム部材18Bの間には、軸方向に圧縮された状態で2速離間ばね39Bが組み込まれており、この2速離間ばね39Bの弾性復元力によって2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面から離間する方向に付勢されている。
【0120】
2速離間ばね39Bは、間座32の外周に沿って巻回されたコイルスプリングであり、その一端が2速ワッシャ90Bを介して2速摩擦板35Bの突片36に係合し、他端が2速カム部材18Bの軸方向端面で支持されている。2速ワッシャ90Bは、2速カム部材18Bの軸方向端面の径方向溝29を覆うように環状に形成されている。
【0121】
シフトリング34は、1速摩擦板35Aを押圧して1速出力ギヤ10Aの側面に接触させる1速シフト位置SP1fと、2速摩擦板35Bを押圧して2速出力ギヤ10Bの側面に接触させる2速シフト位置SP2fとの間で軸方向に移動可能に支持されている。また、シフトリング34を1速シフト位置SP1fと2速シフト位置SP2fの間で軸方向に移動させるシフト機構41が設けられている。シフト機構41は、前述のように変速比切換機構40の一部を構成する。
【0122】
図19、図20に示すように、シフト機構41は、シフトリング34を転がり軸受42を介して回転可能に支持するシフトスリーブ43と、そのシフトスリーブ43の外周に設けられた環状溝44に係合する二股状のシフトフォーク45と、シフトフォーク45が固定されたシフトロッド46と、シフトモータである変速切換アクチュエータ47と、変速切換アクチュエータ47の回転をシフトロッド46の直線運動に変換する運動変換機構48(送りねじ機構等)とからなる。
【0123】
図20に示すように、シフトロッド46は、出力軸8に対して間隔をおいて平行に配置され、ハウジング11内に組み込まれた一対の滑り軸受49で軸方向にスライド可能に支持されている。シフトリング34とシフトスリーブ43の間に組み込まれた転がり軸受42は、シフトリング34とシフトスリーブ43のいずれに対しても軸方向に非可動となるように組み付けられている。
【0124】
このシフト機構41は、変速切換アクチュエータ47の回転が運動変換機構48により直線運動に変換されてシフトフォーク45に伝達し、そのシフトフォーク45の直線運動が転がり軸受42を介してシフトリング34に伝達することにより、シフトリング34を軸方向に移動させる。
【0125】
図16に示すように、シフトフォーク45と環状溝44の間の両側の軸方向隙間には、軸方向に圧縮可能な予圧ばね50が組み込まれている。これにより、シフトリング34で1速摩擦板35Aを押圧して1速出力ギヤ10Aの側面に接触させるときに、シフトスリーブ43に対するシフトフォーク45の軸方向の相対位置を調節することによって予圧ばね50のばね力を調節し、1速摩擦板35Aと1速出力ギヤ10Aの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。また、シフトリング34で2速摩擦板35Bを押圧して2速出力ギヤ10Bの側面に接触させるときも、2速摩擦板35Bと2速出力ギヤ10Bの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。
【0126】
図3に示すように、出力軸8には、出力軸8の回転をディファレンシャル6に伝達するディファレンシャル駆動ギヤ51が固定されている。
【0127】
ディファレンシャル6は、一対の軸受52で回転可能に支持されたデフケース53と、デフケース53の回転中心と同軸にデフケース53に固定され、ディファレンシャル駆動ギヤ51に噛合するリングギヤ54と、デフケース53の回転中心と直角な方向にデフケース53に固定されたピニオン軸55と、ピニオン軸55に回転可能に支持された一対のピニオン56と、その一対のピニオン56に噛合する左右一対のサイドギヤ57とからなる。左側のサイドギヤ57には、左側の車輪に接続されたアクスル58の軸端部が接続され、右側のサイドギヤ57には、右側の車輪に接続されたアクスル58の軸端部が接続されている。出力軸8が回転するとき、出力軸8の回転はディファレンシャル駆動ギヤ51を介してデフケース53に伝達され、そのデフケース53の回転がピニオン56とサイドギヤ57を介して左右の車輪に分配される。
【0128】
以下に、車両用モータ駆動装置Aの動作例を説明する。
まず、図16に示すように、1速摩擦板35Aが1速出力ギヤ10Aの側面から離間し、かつ、2速摩擦板35Bも2速出力ギヤ10Bの側面から離間した状態では、1速保持器21Aは1速スイッチばね22Aの弾性力により中立位置に保持され、2速保持器21Bも2速スイッチばね22Bの弾性力により中立位置に保持されるので、1速の2ウェイローラクラッチ16Aはローラ20の係合が解除された状態となり、2速の2ウェイローラクラッチ16Bもローラ20の係合が解除された状態となる。
【0129】
この状態では、図3に示す電動モータ3の駆動により入力軸7が回転しても、1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bによって回転の伝達が遮断されるので、1速出力ギヤ10Aおよび2速出力ギヤ10Bは空転し、入力軸7の回転は出力軸8に伝達されない。
【0130】
次に、シフト機構41を作動させて、図16に示すシフトリング34を1速出力ギヤ10Aに向けて移動させると、1速摩擦板35Aが1速出力ギヤ10Aの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって1速摩擦板35Aが出力軸8に対して相対回転し、この1速摩擦板35Aに回り止めされた1速保持器21Aが1速スイッチばね22Aの弾性力に抗して中立位置から係合位置に移動するので、1速保持器21Aに保持されたローラ20が、円筒面17とカム面19の間の楔状空間Sの狭まり部分に押し込まれて係合した状態となる。
【0131】
この状態では、1速出力ギヤ10Aの回転は、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを介して出力軸8に伝達され、出力軸8の回転が、ディファレンシャル6を介してアクスル58に伝達される。その結果、図1に示す電気自動車EVにおいては、駆動輪としての前輪1が回転駆動され、図2に示すハイブリッド車HVにおいては補助駆動輪としての後輪2が回転駆動される。
【0132】
次に、シフト機構41の作動により、シフトリング34を1速シフト位置から2速シフト位置に向かって軸方向移動させると、1速摩擦板35Aと1速出力ギヤ10Aの接触面間の摩擦力が小さくなるので、1速スイッチばね22Aの弾性力により1速保持器21Aが係合位置から中立位置に移動し、この1速保持器21Aの移動によって1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合が解除される。
【0133】
シフトリング34が2速シフト位置に到達すると、2速摩擦板35Bがシフトリング34で押圧されて2速出力ギヤ10Bの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって2速摩擦板35Bが出力軸8に対して相対回転し、2速摩擦板35Bに回り止めされた2速保持器21Bが2速スイッチばね22Bの弾性力に抗して中立位置から係合位置に移動するので、2速保持器21Bに保持されたローラ20が、円筒面17とカム面19の間の楔状空間Sの狭まり部分に押し込まれて係合した状態となる。
【0134】
この状態では、2速出力ギヤ10Bの回転は、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを介して出力軸8に伝達され、出力軸8の回転がディファレンシャル6を介してアクスル58に伝達される。
【0135】
同様に、シフトリング34を2速シフト位置から1速シフト位置に軸方向移動させることにより、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除して、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを係合させることができる。
【0136】
ところで、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを係合解除するときに、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを介してトルクが伝達していると、そのトルクがローラ20を円筒面17とカム面19の間の楔状空間Sの狭まり部分に押し込むように作用し、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合解除が妨げられる。そのため、シフト機構41の作動により、シフトリング34が1速シフト位置SP1fから2速シフト位置SP2fに向かって軸方向移動を開始したときに、1速摩擦板35Aが、1速出力ギヤ10Aの側面から既に離間しているにもかかわらず、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合が解除されない可能性がある。
【0137】
このため、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを確実に係合解除するためには、シフト機構41の作動により、1速摩擦板35Aを1速出力ギヤ10Aの側面から離間させるだけでなく、電動モータ3の出力を制御して、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクを変化させる必要がある。2速の2ウェイローラクラッチ16Bを係合解除するときも同様である。
【0138】
そこで、上記制御システムでは、図15に示す変速制御装置により、電動モータ3と変速切換アクチュエータ47を制御し、この制御により1速の2ウェイローラクラッチ16Aまたは2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除するときの動作の信頼性を確保している。
【符号の説明】
【0139】
1…前輪
2…後輪
3…電動モータ
4…モータ軸
5…変速機
6…ディファレンシャル
7…入力軸
8…出力軸
9A,9B入力ギヤ
10A,10B…出力ギヤ
16A,16B…ローラクラッチ
17…円筒面
18A,18B…内輪
19…カム面
20…ローラ21A,21B…保持器
22A,22B…スイッチばね
23A,23B…外輪
34…シフトリング
35A,35B…摩擦板
39A,39B…離間ばね
40…変速比切換機構
41…シフト機構
45…シフトフォーク(シフト部材)
47…変速切換アクチュエータ
60…統合ECU
61…変速ECU
62…インバータ装置
71…インバータ
72…インバータ制御回路
81…変速指令生成手段
82…現変速段接触解除制御手段
83…変速時トルク指令手段
84…同期制御手段
85…目標変速段接触制御手段
86…目標変速段回転数制御手段
87…トルク補間制御手段
A…車両用モータ駆動装置
EV…電気自動車
HV…ハイブリッド自動車
LA,LB…ギヤ列
SP1f…1速シフト位置
SP2f…2速シフト位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象となる電気自動車が、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、
前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に位置させることで切断状態となり、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となる構成であり、
前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータによるシフト部材の進退によって切り換える機構である、
電気自動車における変速制御方法において、
アクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成する第1ステップと、
前記変速指令に応答して前記変速切換アクチュエータを動作させ、現変速段の摩擦板と外輪との接触を解除する第2ステップと、
前記電動モータをトルク制御で回転させて、現変速段のローラクラッチのローラによる係合を解除する第3ステップと、
目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数が同期するシンクロ動作を行うように、前記電動モータの回転数を回転数制御により加速または減速させる第4ステップと、
前記変速切換アクチュエータを動作させ、目標変速段の摩擦板と外輪とを接触させる第5ステップと、
回転数制御により前記電動モータを制御しながら目標変速段のローラクラッチのローラによる係合を行わせる第6ステップと、
前記電動モータの制御を回転数制御からトルク制御に切り換え、この切換時に、トルク補間制御を行う第7ステップ、
とを含む電気自動車の変速制御方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第4ステップにおける前記電動モータのシンクロ動作時に、現変速段のローラクラッチの係合非係合を判断し、係合が解除されていないと判断した場合に、前記シフト部材を現変速段側へ移動させる電気自動車の変速制御方法。
【請求項3】
請求項2において、現変速段側への前記シフト部材の移動中に、ローラクラッチの入力軸と出力軸の回転数を計測して、外輪と内輪の回転数差に換算し、回転数差が一定回転数未満となった場合のみ、現変速段のローラクラッチのローラによる係合を解除させる電気自動車の変速制御方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項の第3ステップにおける、シフトアップの変速切換動作において、現変速段のローラクラッチが駆動側方向と非駆動側方向とのどちら側で係合しているかを、前記電動モータの駆動トルクから判断し、ローラクラッチが非駆動側方向で係合している場合は、ローラクラッチが駆動側方向で係合するように前記電動モータを制御する電気自動車の変速制御方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項の前記変速切換アクチュエータの制御を行う変速ECUと、前記電動モータの制御を行うインバータ装置とを用い、シフトアップの変速切換動作において、第4ステップにおけるシンクロ動作からローラクラッチの係合までの間の回転数制御によるモータ制御において、モータ出力が負トルクの場合、前記インバータ装置でモータ出力トルクの正負を切り換える電気自動車の変速制御方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項の第4ステップにおいて、前記電動モータのシンクロ動作完了時間と前記シフト部材が目標変速段のシフト準備位置に到達する時間を比較し、シンクロ動作完了時間の方が遅い場合は、前記シフト部材を目標変速段のシフト準備位置で停止させる電気自動車の変速制御方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、第4ステップにおいて、前記電動モータのシンクロ動作完了時間と前記シフト部材が目標変速段のシフト準備位置に到達する時間を比較し、シンクロ動作完了時間の方が早い場合は、前記シフト部材を目標変速段のシフト完了位置まで移動させる電気自動車の変速制御方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、第3ステップにおいて、シフトダウンの変速切換動作において、前記シフト部材が現変速段の摩擦板と外輪が接触する位置へ到達した時に、前記シフト部材を一旦停止させ、その時点の前記電動モータのトルクの値が、定められた値より大きい場合、前記電動モータのトルクの目標値をゼロにして、ローラクラッチの係合を解除する電気自動車の変速制御方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、第6ステップにおいて目標変速段の摩擦板と外輪間の接触動作完了後、さらに回転数制御を継続させて、目標変速段のローラクラッチを係合させる電気自動車の変速制御方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、第5ステップにおいて、目標変速段のローラクラッチの破損を防ぐため、ローラクラッチの外輪と内輪の回転数差を計測して、目標変速段の摩擦板と外輪間の接触動作を行う電気自動車の変速制御方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、第7ステップにおいて、目標変速段のローラクラッチの係合後、回転数制御からトルク制御へ切り換える瞬間に、回転数制御時の入力トルクとアクセル開度に基づくトルク制御時の入力トルクとに大きな差があった場合、前記電動モータの入力トルクの不連続を解消するように補間する電気自動車の変速制御方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、車両の前輪もしくは後輪の一方、または両方を駆動する電気自動車に適用する電気自動車の変速制御方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、エンジンにより車両の前輪または後輪の一方を駆動し、前記電動モータで他の車輪を駆動するハイブリッド電気自動車に適用する電気自動車の変速制御方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記電動モータが車両用埋込永久磁石同期モータであり、自動変速時以外は、前記電動モータの制御はトルク制御とし、変速時にトルク制御と回転数制御を切り換える電気自動車の変速制御方法。
【請求項15】
請求項14において、前記電動モータの転流位相の遅れを防ぐために、PWMデューティVu,Vv,Vwの生成時に、前記電動モータのロータの回転角は計算式から求められる予測値を用いる電気自動車の変速制御方法。
【請求項16】
請求項14または請求項15において、前記電動モータの制御方式はベクトル制御で、トルク制御と回転数制御との二つのフィードバック制御を切り換える電気自動車の変速制御方法。
【請求項17】
制御対象となる電気自動車が、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、
前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に保持させることで切断状態となり、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となる構成であり、
前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータによるシフト部材の進退によって切り換える機構である、
電気自動車における変速制御装置であって、
アクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成する変速指令生成手段と、
前記変速指令に応答して現変速段の摩擦板と外輪との接触が解除するように前記変速切換アクチュエータを動作させる現変速段接触解除制御手段と、
現変速段の摩擦板と外輪との接触が解除された後に、現変速段のローラクラッチのローラによる係合が解除されるまで前記電動モータをトルク制御で回転させる変速時トルク指令手段と、
現変速段のローラクラッチの係合が解除した後に、目標変速段のローラクラッチの外輪と内輪の回転数が同期するシンクロ動作を行うように、前記電動モータの回転数を回転数制御により加速または減速させる同期制御手段と、
前記外輪と内輪の回転数の同期状態で、目標変速段の摩擦板を外輪と接触させるように前記変速切換アクチュエータを動作させる目標変速段接触制御手段と、
目標変速段の摩擦板が外輪と接触した状態で、目標変速段のローラクラッチのローラによる係合が行われるまで回転数制御により前記電動モータを制御する目標変速段回転数制御手段と、
目標変速段のローラクラッチが係合した後、前記電動モータの制御を回転数制御からトルク制御に切り換え、この切換時に、トルク補間制御を行うトルク補間制御手段、
とを含む電気自動車の変速制御装置。
【請求項18】
請求項17において、前記同期制御手段は、前記電動モータのシンクロ動作時に、現変速段のローラクラッチの係合非係合を判断し、係合が解除されていないと判断した場合に、前記シフト部材を現変速段側へ移動させる電気自動車の変速制御装置。
【請求項19】
請求項17において、前記同期制御手段は、現変速段側への前記シフト部材の移動中に、ローラクラッチの入力軸と出力軸の回転数を計測して、外輪と内輪の回転数差に換算し、回転数差が一定回転数未満となった場合のみ、現変速段のローラクラッチのローラによる係合を解除させる電気自動車の変速制御装置。
【請求項20】
請求項17ないし請求項19のいずれか1項の前記変速時トルク指令手段は、シフトアップの変速切換動作において、現変速段のローラクラッチが駆動側方向と非駆動側方向とのどちら側で係合しているかを、前記電動モータの駆動トルクから判断し、ローラクラッチが非駆動側方向で係合している場合は、ローラクラッチが駆動側方向で係合するように前記電動モータを制御する電気自動車の変速制御装置。
【請求項21】
請求項17ないし請求項20のいずれか1項において、前記電動モータを制御するインバータ装置が、トルク指令によってベクトル制御およびフィードバック制御によるトルク制御を行うトルク制御部と、速度指令によってベクトル制御およびフィードバック制御による回転数制御を行う速度制御部とを有し、前記同期制御手段および目標変速段回転数制御手段による回転数制御は、前記同期制御手段および目標変速段回転数制御手段から前記インバータ装置の前記速度制御部に回転数の指令を与え、前記速度制御部に回転数制御を行わせる電気自動車の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−102675(P2013−102675A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−229127(P2012−229127)
【出願日】平成24年10月16日(2012.10.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】